説明

ベルト式無段変速機の油圧制御装置

【課題】 ベルト式無段変速機の変速油圧がかえって過大になり、フリクションロスの増加および燃費の悪化を招来することを回避する。
【解決手段】 ステップS1においてクルーズコントロール制御がONになっている場合(Yes)、ステップS2へ進み、目標変速油圧tPvに含まれる余裕油圧を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機における変速油圧を不必要に大きくすることを防止するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧により作動するベルト式無段変速機の油圧を制御する発明としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが知られている。
特許文献1に記載のVベルト式無段変速機は、Vベルトとプーリとの間にスリップが発生して動力伝達の低下を招くとともに、接触面に著しい損傷を発生することを防止するため、プーリ側圧制御油圧に所定の余裕油圧を加算するようにしたものである。余裕油圧によって、Vベルトの伝達トルクが急激に変動した場合、例えば運転者のアクセルペダル踏み増し操作が行われてエンジントルクが急激に増大しても、Vベルトがスリップすることを防止できる。
【特許文献1】特開平9−53695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来のようなベルト式無段変速機にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。つまり、プーリ側圧が余裕分だけ常に高い状態を維持するため、Vベルトの伝達トルクに急激な変動がないときには、プーリ側圧がかえって過大となり、Vベルトおよびプーリ間の接触面が発熱し、フリクションロスに因る効率低下や耐久性の低下を招く。
また、ベルト式無段変速機の変速時には、余裕油圧が加算された高めのプーリ側圧をライン圧としてセカンダリプーリに供給し、このライン圧を減圧してプライマリプーリに供給して、プーリ幅を変化させるところ、ライン圧が高ければセカンダリプーリの減圧分も大きくなり、当該減圧に要する時間も大きくなる。したがって、変速時のレスポンスが鈍くなって、例えばキックダウン等のアクセルペダル踏み込み時には、もたつき感を運転者に与えるという問題がある。
さらに、プーリ側圧が余裕分だけ常に高い状態を維持するため、油圧ポンプの負荷が大きくなって、燃費が悪化する。
【0004】
本発明は、上記の問題を鑑み、プーリ側圧に余裕分を必要以上に加算することを回避し、フリクションロスや、車両運転性能の低下や、燃費の悪化といった問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため本発明によるベルト式無段変速機の油圧制御装置は、請求項1に記載のごとく、
ベルト式無段変速機に設けられ、運転者が操作するアクセル操作子に基づきエンジン出力を制御中は、エンジン側プーリおよび車輪側プーリに掛け渡したベルトを挟持する該プーリの変速油圧を、ベルトがプーリとの間でスリップすることなくエンジン出力を伝達するために最低限必要な最低必要油圧に余裕油圧を含んだ値とするベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
車速を設定車速に保持する定速走行制御装置に基づき前記目標エンジントルクを制御中は、前記余裕油圧を低減するよう構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
かかる本発明の構成によれば、クルーズコントロールに代表される定速走行装置の作動中は実際の変速油圧を低減するため、油圧ポンプの負荷を低減して燃費を向上することができる。また、変速を指令してから変速が完了するまでの所要時間を短縮することができる。そして、ベルトおよびプーリ間の接触面におけるフリクションロスを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明になる無段変速機の油圧制御装置を具えたベルト式無段変速機搭載車のパワートレーンと、その制御系で、このパワートレーンをエンジン1とVベルト式無段変速機2とにより構成する。
エンジン1はガソリンエンジン等の内燃機関であるが、そのスロットルバルブ3を運転者が操作するアクセルペダル4とは機械的に連結させず、これから切り離してスロットルアクチュエータ5によりスロットルバルブ3の開度を電子制御するようになす。
【0008】
スロットルアクチュエータ5は、エンジンコントローラ6からの後述する目標スロットル開度tTVOに応動することでスロットルバルブ3の開度TVOを当該目標スロットル開度tTVOに一致させ、エンジン1の出力であるエンジントルクを、基本的にはアクセルペダル4踏み込み量APOに応じた値となるように制御するが、詳しくは後述するエンジントルク指令値の与え方次第でアクセルペダル操作以外の因子によっても制御可能とする。
【0009】
Vベルト式無段変速機2は周知の一般的なものとし、トルクコンバータ7を介してエンジン1の出力軸に駆動結合された入力側のプライマリプーリ8と、これに整列配置した出力側のセカンダリプーリ9と、これら両プーリ間に掛け渡したVベルト10とを具える。
そして、セカンダリプーリ9にディファレンシャルギヤ装置を含むファイナルドライブギヤ組11を介して左右駆動車輪12(図1では一方のみを示す)を駆動結合し、エンジン1からの動力をVベルト式無段変速機2およびファイナルドライブギヤ組11を経て左右駆動輪12に伝達することで車両を走行させ得るものとする。
【0010】
無段変速機2の変速動作は、プライマリプーリ8およびセカンダリプーリ9のそれぞれのV溝を形成するフランジのうち、一方の可動フランジを他方の固定フランジに対して相対的に接近させてV溝幅を狭めたり、逆に離間させてV溝幅を拡げることにより、両プーリ8,9に対するVベルト10の巻き掛け円弧径を変更させて行うようにし、
両プーリ8,9の可動フランジのストローク位置を、変速制御油圧回路13からのプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecにより決定する。
【0011】
変速制御油圧回路13は、エンジン駆動されるオイルポンプ14からの作動油を媒体として、変速機コントローラ15からの詳しくは後述する目標変速油圧tPvに一致した変速油圧を作りだし、これをそのまま上記のセカンダリプーリ圧Psecとしてセカンダリプーリ9に供給する。
変速制御油圧回路13は更に、図示しない変速制御弁を変速機コントローラ15からの変速比指令に応動させることにより、目標値tPvにされた変速油圧を元圧(ライン圧)として当該変速比指令に対応したプライマリプーリ圧Ppriを作りだし、これをプライマリプーリ8に供給する。
Vベルト式無段変速機2は、これらセカンダリプーリ圧Psecおよびプライマリプーリ圧PpriによるVベルト10の挟圧力の差により変速を生じ、上記の変速比指令を達成することができる。
【0012】
また、変速比を一定して走行中は、プライマリプーリ8がVベルトを挟圧する力(クランプ力)はプライマリプーリ圧Ppriに比例し、セカンダリプーリ9がVベルトを挟圧する力(クランプ力)はセカンダリプーリ圧Psecに比例する。したがって、両プーリ8,9のクランプ力の調整は、元圧である目標変速油圧tPvを制御することにより行う。
【0013】
なお変速機コントローラ15からの目標変速油圧tPvに関する信号は変速制御油圧回路13、オイルポンプ14にも供給され、オイルポンプ14からプーリ8、9に供給される油圧が目標変速油圧tPvに対応した必要最小限のものとなるような流量制御を行ってポンプ負荷を低減するのにも使われる。
【0014】
エンジンコントローラ6が前記の目標スロットル開度tTVOを求めたり、変速機コントローラ15が上記の目標変速油圧tPvを求めるに当たっては、詳しくは後述するが両コントローラ6,15間での通信により目標エンジントルクtTe、クルーズコントロールフラグFLAGc、目標変速油圧tPvを送受信しながら、またクルーズコントローラ16から定速走行用目標駆動力Tdcに関する情報と、クルーズコントロール制御の実行中に出力されるクルーズコントロールフラグFLAGcとを受けて、これら目標スロットル開度tTVOおよび目標変速油圧tPvを求めるものとする。
なおエンジンコントローラ6にはその他に、変速比演算部17で求めた変速機2の変速比(入出力回転数比)iに係わる情報と、アクセルペダル4の踏み込み量APOを検出するアクセルペダル踏み込み量センサ18からの信号と、車速VSPを検出する車速センサ19からの信号とを入力する。
車速センサ19からの信号は変速機コントローラ15およびクルーズコントローラ16にも入力する。
クルーズコントローラ16は、運転者により予め設定された設定車速と、実際の車速VSPとを比較し、実車速VSPが設定車速となるよう、定速走行用目標駆動力Tdcを算出する。
【0015】
運転者がアクセルペダル4を操作することにより車両が走行する通常の制御においては、アクセル開度APO等の入力情報に基づき、エンジン1の出力に関する目標エンジントルクtTeを求め、これを実現するための目標スロットル開度tTVOを求める。
また、Vベルト10を挟持するプーリ8,9の対向フランジ間隔を動作させるための目標変速油圧tPvを、Vベルト10がプーリ8,9との間でスリップすることなく目標エンジントルクtTeを伝達するために最低限必要な最低必要油圧に余裕油圧を含んだ値とする。なお、ここでいう最低必要油圧は、目標エンジントルクtTeに基づき決定する。
【0016】
これに対し、車両走行中に実際の車速VSPを設定車速に維持するクルーズコントローラ16を作動させるクルーズコントロール制御においては、エンジン1の出力になる定速走行用目標駆動力Tdcに関する情報に基づき目標エンジントルクtTeを求め、これを実現するための目標スロットル開度tTVOを求める。
【0017】
変速機コントローラ15は図2に示す制御プログラムを実行して上記した目標スロットル開度tTVOおよび目標変速油圧tPvを求めるものとする。
【0018】
図2の制御プログラムでは、まずステップS1において、クルーズコントロール制御がONになっているか否かを判定する。
クルーズコントロール制御がONになっていない場合(No)、この制御プログラムを終了し、ステップS1に戻って引き続きクルーズコントロール制御がONになっているか否かを監視する。
これに対し、クルーズコントロール制御がONになっている場合(Yes)、ステップS2へ進む。
ステップS2においては、目標変速油圧tPvに含まれる余裕油圧を低減する。具体的には例えば、通常の制御においてはVベルト10の目標エンジントルクtTeに応じた必要最低油圧に所定の安全率(例えば2.0)を乗算して目標変速油圧tPvとし、クルーズコントロール制御においては前記所定の安全率よりも低い安全率(例えば1.2)を乗算して目標変速油圧tPvとする。
また、低減幅をOとして、目標エンジントルクtTeに応じた必要最低油圧をそのまま目標変速油圧tPvとしてよい。
また、通常の制御においては必要最低油圧に所定の余裕油圧を加算したものを目標変速油圧tPvとし、クルーズコントロール制御においては当該余裕油圧に低減率を乗算したものを加算してもよい。
【0019】
次のステップS3においては、設定車速が実車速VSPよりも大きいか否かを判定する。設定車速が実車速VSPよりも大きくない場合(No)、定速走行用目標駆動力Tdcは原則0だから、本制御プログラムを終了し、引き続きステップS1へ戻る。
これに対し、設定車速が実車速VSPよりも大きい場合(Yes)、実車速VSPを設定車速まで高める必要があり、定速走行用目標駆動力Tdcが必要となるから、ステップS4へ進む。
【0020】
次のステップS4においては、実車速VSPを設定車速に戻すために定速走行用目標駆動力Tdcを求め、求めた定速走行用目標駆動力Tdcおよびその他の入力情報に基づき、エンジン1が出力する目標エンジントルクtTeを求め、目標エンジントルクtTeに基づき目標スロットル開度tTVOを新たに求める。
あるいは目標エンジントルクtTeを求める代わりに、設定車速と、ファイナルドライブギヤ組11の固定変速比と、Vベルト式無段変速機2の変速比iとに基づき、エンジン1が出力する目標エンジン回転数を求め、当該目標エンジン回転数に基づき目標スロットル開度tTVOを新たに求めるものであってもよい。
【0021】
次のステップS5においては、上記ステップS4にて新たに求めた目標スロットル開度tTVOと元の目標スロットル開度tTVOとの変化量ΔTVOを求める。そして、目標スロットル開度変化量ΔtTVOが所定の閾値A以上か否かを判断する。
目標スロットル開度変化量ΔtTVOが閾値A以上の場合(Yes)、目標スロットル開度tTVOの変化は大きいため、ステップS6へ進む。
ステップS6においては、上記ステップS2で余裕油圧を低減したこととの関係から、エンジントルクの時間上昇率をVベルト10のスリップが発生しない範囲にするため、目標スロットル開度tTVOの時間変化量を規制してスロットルアクチュエータ5を電子制御するよう設定する。
あるいは本実施例のほか、エンジン回転数の時間変化率をVベルト10のスリップが発生しない範囲にするため、目標スロットル開度tTVOの時間変化量を規制して、スロットルアクチュエータ5を電子制御するよう設定してもよい。
【0022】
なお、上記ステップS6においては、目標スロットル開度tTVOの時間変化量を規制するもののほか、所定の遅れ時間を設定し、当該遅れ時間の経過後に上記の新たに求めた目標スロットル開度tTVOとなるようスロットルアクチュエータ5を電子制御することを設定してもよい。
ステップS6の処理の後は、ステップS7へ進む。
【0023】
ステップS7においては、上記した設定のもとで、スロットルアクチュエータ5を制御して実際のスロットル開度TVOを目標スロットル開度tTVOにする。
ステップS7の処理の後は、本制御プログラムを終了し、引き続きステップS1に戻る。
【0024】
説明を上記ステップS5に戻すと、上記ステップS5においてスロットル開度変化量ΔTVOが閾値A未満であると判断した場合(No)、目標スロットル開度tTVOの変化は小さいため、上記ステップS6をスキップして、上記ステップS7へ進む。ステップS7においては、実際のスロットル開度TVOを速やかに目標スロットル開度tTVOにする。
ステップS7の処理の後は、本制御プログラムを終了し、引き続きステップS1に戻る。
【0025】
図3は、本実施例のベルト式無段変速機搭載車が走行中に、アクセルぺダル操作による通常の制御からクルーズコントロール制御に切り換わる際の動作タイムチャートである。
瞬時t1以前には、アクセルペダル4のアクセル開度APOに基づき目標スロットル開度tTVOを決定する通常の制御を実行している。
瞬時t1以前には、クルーズコントローラ16が作動しておらず、図3の最上段に示すクルーズコントロールフラグFLAGcはOFFである。したがって目標変速油圧tPvに余裕油圧を含んだ値とする通常の制御を実行する。通常の制御では、余裕油圧、例えば図3の第2上段に示す安全率、を充分にとるため2.0とする。
【0026】
瞬時t1で運転者が図示しないクルーズコントロールスイッチをONにすると、クルーズコントロール制御が開始され、クルーズコントロールフラグFLAGcはONに切り替わる。そうすると図3の第2上段に示す安全率を、通常の制御で用いる2.0から、クルーズコントロール制御で用いる1.2に低減する。続く瞬時t2では、余裕油圧を表す安全率の低減が完了する。
図3の略上段に示す車速VSPについては、瞬時t1における実車速が、そのまま設定車速となり、走行負荷が変化しない限り瞬時t1前後で車速VSPは不変である。
【0027】
図3の中段に示す目標エンジントルクtTeも、走行負荷が変化しない限り瞬時t1,t2前後で不変である。
図3の中段に示す目標変速油圧tPvについては、上記した余裕油圧の低減を受けて、瞬時t1から瞬時t2にかけて低下する。なお、目標変速油圧tPvについては、エンジン出力たる目標エンジントルクtTeに基づいて、ベルト10がプーリ8,9との間でスリップすることなく目標エンジントルクを伝達するために最低限必要な最低必要油圧に、余裕油圧たる上記の安全率を含んだものとする。
【0028】
上記の目標エンジントルクtTeも車速VSPも、瞬時t1,t2前後で不変であるため、図3の中段に示す目標スロットル開度も瞬時t1,t2前後で不変である。
【0029】
図3の下段に示す実際のエンジントルクは、上記した目標エンジントルクtTeに追従して、瞬時t1,t2前後で不変である。
図3の最下段に示す実際の変速油圧は、目標変速油圧tPvの変化を受けて、瞬時t1から瞬時t2にかけて低下する。
この結果、オイルポンプ14の負荷を低減して燃費を向上することができる。また、クルーズコントロール制御中に変速比を変化させる場合には、変速を指令してから変速が完了するまでの所要時間を短縮することができる。そして、ベルトおよびプーリ間の接触面におけるフリクションロスを防止することができる。
さらに、クルーズコントロール制御中は、車速が一定に維持され、エンジントルクの急変動がないことから、余裕油圧を低減してもVベルト10がスリップすることはない。
【0030】
瞬時t2以後は、上記したクルーズコントロールフラグFLAGcがONのままとなるため、
安全率も1.2のままとなる。
【0031】
クルーズコントロール制御によって、車速VSPは一定速を維持するが、走行負荷の変化、例えば登坂路に差しかかった、等により、図3上段に実線で示す実際の車速VSPが一点鎖線で示す設定車速を下回ったことを瞬時t3で検知すると、実際の車速を設定車速に戻すため、瞬時t3以後で目標エンジントルクtTeを実線に示すように増大させる(図2のステップS4以降)。これに伴い、目標変速油圧tPvも瞬時t3以後で増大する。
実際のエンジントルクを上記増大した目標エンジントルクtTeにするため、スロットル3を目標スロットル開度まで増大させる。この際、目標スロットル開度の時間変化率を所定範囲内に規制する(図2のステップS6)。具体的には、実線に示すように、一定勾配で徐々に増大させる。
あるいは、破線で示すように、瞬時t3から遅れ時間α経過した瞬時t4でスロットル3を目標スロットル開度まで増大させる。
【0032】
上記した目標スロットル開度の増大により、実際のエンジントルクの時間変化率は実線で示すように所定範囲内に規制されて、徐々に増大する。
あるいは、破線で示すように、瞬時t3から遅れ時間α経過した瞬時t4で立ち上がるよう増大する。
【0033】
上記した実エンジントルクの増大により、車速VSPは実線で示すように瞬時t3以後増大し、瞬時t4以後のある瞬時で設定車速に戻る。
あるいは、破線で示すように、瞬時t3から遅れ時間α経過した瞬時t4で立ち上がるよう増大し、瞬時t4以後のある瞬時で設定車速に戻る。
【0034】
実際の変速油圧は、目標変速油圧tPvの変化を受けて、瞬時t3で立ち上がるよう増大する。
【0035】
なお図には示さなかったが、運転者がクルーズコントローラ16に設けられたリジュームスイッチやセットスイッチなどの設定車速変更手段を作動させることにより、目標エンジントルクtTeを増大させる場合であっても同様である。
つまり、実際のエンジントルクを目標エンジントルクtTeまで増大するため、スロットル3を目標スロットル開度まで増大させる際、上述した瞬時t3〜t4と同様に、目標スロットル開度の時間変化率を所定範囲内に規制する(図2のステップS6)。具体的には、実線に示すように、一定勾配で徐々に増大させる。
あるいは、遅れ時間αを与えつつスロットル3を目標スロットル開度まで増大させる。
この結果、実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0036】
図3に示す動作タイムチャートでは、上述したようにアクセルペダル操作に基づく通常の制御から、クルーズコントロール制御に切り換わる際に安全率(余裕油圧)を低減させる場合を説明した。
この他にも本発明の油圧制御装置は、クルーズコントロール制御を解除して、アクセルペダル操作に基づく通常の制御に切り換わる際にも、ベルト10のスリップを防止するようエンジン1の出力を規制する。
【0037】
つまり、切り換え直前まで、変速油圧を低減していたため、切り換え直後にエンジントルクの増大を無制限としたのでは、エンジントルクが急増した場合にベルト10がエンジントルクのすべてを伝達することができなくなって、スリップが発生する。切り換えの際、目標変速油圧tPvを瞬時に増大させても、実際の変速油圧は、これに遅れて立ち上がるためである(図3の瞬時t3〜t4に示す目標変速油圧tPvと実際の変速油圧との関係と同様)。
そこで、切り換えの際にエンジントルクの時間変化率を所定範囲内に規制する。具体的には、目標エンジントルクtTeをアクセルペダル開度APOに応じて増大させる場合に、図3に示す動作タイムチャートの前述した瞬時t3,t4での制御と同様である。
【0038】
詳述すると、実際のエンジントルクを一気に目標エンジントルクtTeまで増大するのではなく、スロットル3を目標スロットル開度まで増大させる際、上述した瞬時t3〜t4と同様に、目標スロットル開度の時間変化率を所定範囲内に規制する。具体的には、実線に示すように、一定勾配で徐々に増大させる。
この結果、実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0039】
ところで、上記した本実施例によれば、車速VSPを設定車速に保持するクルーズコントロール制御によってエンジントルクを制御中は、余裕油圧となる安全率を低減するよう構成したことから、従来のように変速油圧が常に高くなることを回避し、オイルポンプ14の負荷を低減することができる。従って、燃費が向上するという効果が得られる。
また、変速油圧を低減することでVベルト10を挟持するプーリ8,9のクランプ力を低減することが可能となり、Vベルトおよびプーリ間の接触面が発熱することを抑制し、フリクションロスを低減して、耐久性を向上することができる。
さらにクルーズコントロール制御中にベルト式無段変速機2を変速する場合には、低減された低めの変速油圧をセカンダリプーリ圧Psecセカンダリプーリ9に供給し、当該低めの変速油圧をライン圧としてこのライン圧を減圧して変速比指令に対応したプライマリプーリ圧Ppriをプライマリプーリ8に供給する。このため、これらセカンダリプーリ圧Psecおよびプライマリプーリ圧Ppriの差圧をも低くすることが可能になる。したがって、変速時には上記ライン圧の減圧を機敏に実行することが可能となり、レスポンスが向上するという効果が得られる。
【0040】
また本実施例では、クルーズコントロール制御に基づき目標エンジントルクtTeを制御中は、図2のステップS6および図3に示すように実際のエンジントルクの時間変化率を所定範囲内に規制し、徐々に上昇させることから、
実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0041】
また本実施例では、クルーズコントロール制御に基づき目標エンジントルクtTeを制御中に、設定車速を加速するリジュームスイッチが作動する場合には、エンジントルクの時間変化率を所定範囲内に規制するものであってもよい。
この結果、実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0042】
また本実施例では、クルーズコントロール制御に基づき目標エンジントルクtTeを制御中に、目標エンジントルクtTeが増大するときは、図3に破線で示すように、遅れ時間αを与えつつ実際のエンジントルクを増大させるものであってもよい。
この結果、実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0043】
また本実施例では、クルーズコントロール制御に基づき目標エンジントルクtTeを制御中に、設定車速を加速するリジュームスイッチが作動する場合には、遅れ時間αを与えつつ実際のエンジントルクを増大させるものであってもよい。
この結果、実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0044】
また本実施例では、クルーズコントロール制御による目標エンジントルクの制御から、アクセルペダル操作による目標エンジントルクの制御に切り換わる際に、実際のエンジントルクの時間変化率を所定範囲内に規制するものである。
この結果、実際の変速油圧の立ち上がり変化率よりも急激にエンジントルクが増大することを回避して、ベルト10のスリップを防止することができる。
【0045】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨に逸脱しない範囲において種々変更が加えられうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例になるベルト式無段変速機の油圧制御装置を具えた車両のパワートレーンを、その制御系と共に示す変速制御システム図である。
【図2】同実施例における変速油圧の制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】同実施例における動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1 エンジン
2 Vベルト式無段変速機
3 スロットルバルブ
4 アクセルペダル
5 スロットルアクチュエータ
6 エンジンコントローラ
7 トルクコンバータ
8 プライマリプーリ
9 セカンダリプーリ
10 Vベルト
11 ファイナルドライブギヤ組
12 駆動車輪
13 変速制御油圧回路
14 オイルポンプ
15 変速機コントローラ
16 クルーズコントローラ
17 変速比演算部
18 アクセルペダル踏み込み量センサ
19 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト式無段変速機に設けられ、運転者が操作するアクセル操作子に基づきエンジン出力を制御中は、エンジン側プーリおよび車輪側プーリに掛け渡したベルトを挟持する該プーリの変速油圧を、ベルトがプーリとの間でスリップすることなくエンジン出力を伝達するために最低限必要な最低必要油圧に余裕油圧を含んだ値とするベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
車速を設定車速に保持する定速走行制御装置に基づき前記目標エンジントルクを制御中は、前記余裕油圧を低減するよう構成したことを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
前記定速走行制御装置に基づき目標エンジントルクを制御中は、エンジントルクの時間変化率またはエンジン回転数の時間変化率を所定範囲内に規制することを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
前記定速走行制御装置に基づき目標エンジントルクを制御中に、前記設定車速を加減する設定車速変更手段が作動する場合には、エンジントルクの時間変化率またはエンジン回転数の時間変化率を所定範囲内に規制することを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
前記定速走行制御装置に基づき目標エンジントルクを制御中に、目標エンジントルクが増大するときは、遅れ時間を与えつつ実エンジントルクを増大させることを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
前記定速走行制御装置に基づき目標エンジントルクを制御中に、前記設定車速を加減する設定車速変更手段が車速増加側に作動することにより目標エンジントルクが増大するときは、遅れ時間を与えつつ実エンジントルクを増大させることを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のベルト式無段変速機の油圧制御装置において、
前記定速走行制御装置に基づくエンジン出力の制御から、前記アクセル操作子に基づくエンジン出力の制御に切り換わる際に、
エンジントルクの時間変化率またはエンジン回転数の時間変化率を所定範囲内に規制することを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−71265(P2007−71265A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257420(P2005−257420)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】