説明

半導体装置

【課題】製造プロセスの追加やトランジスタ動作の不安定さを招くことなく、発振用インバータを用いて構成された発振回路を搭載する半導体装置を提供する。
【解決手段】本発明の半導体装置において、複数のMOSトランジスタはノーマリーオフ型のもので、製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長において所定の閾値を有し、最小寸法に比較してゲート長が大きくなるにつれて閾値の絶対値が小さくなる特性を有する。本発明の半導体装置は、最小寸法以上の範囲で、相対的に長いゲート長を有する第1のMOSトランジスタからなる第1の発振用インバータと、相対的に短いゲート長を有する第2のMOSトランジスタからなる第2の発振用インバータと、第1および第2の発振用インバータに電源電圧を供給する電源配線と、電源電圧に応じて、第1および第2の発振用インバータの一方を動作可能とする選択回路とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振用インバータを用いて構成された発振回路を搭載する半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時計には、例えば水晶振動子や発振用インバータなどを用いて構成され、約32KHzの低周波で発振する発振回路が採用されている。この発振回路が、グランド電位から電源電位の範囲の電源電圧で動作する場合、電源電位をグランド電位から徐々に上昇させていった時に、電源電位が、ある一定の電位に到達した時点で、発振用インバータが発振を開始する発振開始電圧がある。
【0003】
発振用インバータが、PMOS(P型MOSトランジスタ)とNMOS(N型MOSトランジスタ)とによって構成される場合、上記発振回路の発振開始電圧は、これらPMOSの閾値電圧Vtp+NMOSの閾値電圧Vtn+α(αは、その他の要素)の電圧となることが知られている。すなわち、上記発振回路の発振開始電圧は、発振用インバータを構成する2つのMOSトランジスタの閾値電圧Vtの約2倍の電圧となる。
【0004】
つまり、発振用インバータを用いて構成された発振回路の発振開始電圧は、その発振用インバータを構成する2つのMOSトランジスタの閾値電圧Vtを下げると下がり、逆に、閾値電圧Vtを上げると発振開始電圧も上がるという関係がある。
【0005】
ここで、本発明に関連する先行技術文献として、下記特許文献1、2などがある。
【0006】
特許文献1は、本発明と同様に、発振用インバータを用いて構成された発振回路に関するものである。同文献には、閾値電圧が異なるMOSトランジスタによって構成される(以下、単に「閾値電圧が異なる」と表記)2つの発振用インバータのうちから1つを選択的に使用することが開示されている。特許文献1では、それぞれの発振用インバータを構成するトランジスタ形成時の不純物の打ち込み濃度を変えることにより、各々の発振用インバータごとに閾値電圧が異なるように制御される。
【0007】
以下、特許文献1に開示の発振回路を搭載する半導体装置について説明する。
【0008】
図4は、従来の半導体装置の構成を表す一実施形態の回路図である。同図に示す半導体装置40は、電源電圧に応じて、選択信号SELにより、閾値電圧の異なる2つの発振用インバータを択一的に切り替えて使用する発振回路の一部を表したものである。半導体装置40は、第1および第2の発振用インバータ42,44と、選択回路46とによって構成されている。
【0009】
なお、図4に示す発振回路40には、特許文献1の図1に示されているように、例えば水晶振動子X’tal、フィードバック回路を構成する高抵抗Rf、位相補償用のコンデンサCD,CGなどが含まれている。しかし、ここでは、閾値電圧の異なる2つの発振用インバータ42,44を切り替えて使用することに焦点を当てて説明するために、発振回路に必要となる構成要素は、当然備えられているものとして省略してある。
【0010】
第1の発振用インバータ42は、直列に接続されたPMOS50とNMOS52とによって構成され、第2の発振用インバータ44は、直列に接続されたPMOS54とNMOS56とによって構成されている。この例では、前述の通り、トランジスタ形成時の不純物の打ち込み濃度を変えることにより、第1の発振用インバータ42(を構成するPMOS50およびNMOS52)の閾値電圧の方が、第2の発振用インバータ44(を構成するPMOS54およびNMOS56)の閾値電圧よりも小さくなるように設定されている。
【0011】
続いて、選択回路46は、電源電圧に応じて、選択信号SELにより、第1および第2の発振用インバータ42,44の一方を択一的に選択し、選択された駆動用インバータを動作状態とする。選択回路46は、インバータ58と、第1の発振用インバータ42に対応するPMOS60およびNMOS62と、第2の発振用インバータ44に対応するPMOS64およびNMOS66とによって構成されている。
【0012】
なお、MOSトランジスタの閾値電圧が変更されているのは、第1および第2の発振用インバータ42,44を構成するPMOS50,54およびNMOS52,56だけである。これ以外の、選択回路46を構成するインバータ58、PMOS60,64、NMOS62,66を含む他の回路は、半導体装置40における通常の閾値電圧となるように設計されている。
【0013】
発振回路40では、選択信号SELがローレベルの時、インバータ58の出力信号がハイレベルとなる。これにより、PMOS60およびNMOS62がオンとなり、第1の発振用インバータ42がアクティブ状態(動作状態)となる。一方、PMOS64およびNMOS66はオフとなり、第2の発振用インバータ44は非アクティブ状態(非動作状態)となる。
【0014】
この場合、入力端子INから入力される信号は、閾値電圧の小さい第1の発振用インバータ44により反転出力され(発振信号)、出力端子OUTから半導体装置40の内部回路(図示省略)へ供給される。
【0015】
これに対し、選択信号SELがハイレベルの時は、インバータ58の出力信号がローレベルとなる。これにより、PMOS60およびNMOS62がオフ、PMOS64およびNMOS66がオンとなり、上記の状態とは逆の状態になる。すなわち、第2の発振用インバータ44がアクティブ状態となり、第1の発振用インバータ42が非アクティブ状態となる。
【0016】
この場合、入力端子INから入力される信号は、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータ44により反転出力され(発振信号)、出力信号OUTから半導体装置40の内部回路へ供給される。
【0017】
従って、例えば電源投入時などのように、電源電位が徐々に上昇する期間は、選択信号SELをローレベルとし、閾値電圧の小さい第1の発振用インバータ42を選択することによって、発振回路が発振を開始する発振開始電圧を下げることができる。言い換えると、電源投入時に、閾値電圧の小さい第1の発振用インバータ42を使用することによって、発振回路を素早く発振開始させることができる。
【0018】
これに対し、例えば電源を投入して所定時間が経過した後などのように、電源電位が所定の高電位で安定している期間は、選択信号SELをハイレベルとすることによって、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータ44を選択する。これにより、電源電位が安定した後は、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータ44を使用することによって、発振回路の消費電力を大幅に削減することができる。
【0019】
また、特許文献2は、発振回路に関するものではないが、同文献には、短チャネル効果により、FET(接合型電界効果型トランジスタ)の閾値電圧が、ゲート長の短い領域では著しく低下するという特性を利用することが開示されている。
【0020】
【特許文献1】特開2001−308642号公報
【特許文献2】特開平5−95277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記特許文献1の技術では、各々の発振用インバータの閾値電圧の制御を、不純物の打ち込み濃度を変えることによって行うため、不純物の打ち込みの際に、各々専用のレチクルが必要となる。従って、その分だけコストが増大するという問題があった。
【0022】
また、特許文献2の技術を利用して各々の発振用インバータの閾値電圧の制御を行う場合、短チャネル領域を使用することになる。このため、トランジスタのI−V(電流−電圧)特性が不安定になるという問題があった。
【0023】
ここで、特許文献2のように、閾値電圧とゲート長との関係により、閾値電圧の調整用のイオン注入工程追加等のプロセスの複雑化を招くことなく、閾値電圧の異なるトランジスタを利用するという技術は従来から知られていた。
【0024】
しかし、それらは、製造プロセスが許容する最小寸法(特許文献2の図2に開示された特性の場合は3μm程度であると思われる)以上のゲート長であれば一定の閾値を維持するが、それよりもゲート長が短くなると、閾値電圧が低下する特性(短チャネル効果)を示す製造プロセスを利用するものであった。この場合、最小寸法以上のゲート長を有するトランジスタだけが、実用に耐える特性を持つことが保証される。
【0025】
これに対し、閾値電圧を低下させるために、最小寸法未満にまでゲート長を短くしたトランジスタは、利用を想定していないものである。従って、例えばリーク電流(ゲート電圧によって制御できない電流)等において、実用には耐えない特性のものになっていた。つまり、特許文献2の提案する技術は、実用性の保証されないものであった。
【0026】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、製造プロセスの追加やトランジスタ動作の不安定さを招くことなく、閾値電圧が異なる複数の発振用インバータを用いて構成された発振回路を搭載する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、本発明は、同一の製造プロセスを用いて半導体基板上に形成された複数のMOSトランジスタを含む半導体装置であって、
前記複数のMOSトランジスタはノーマリーオフ型であり、前記製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長において所定の閾値を有し、前記最小寸法に比較してゲート長が大きくなるにつれて閾値の絶対値が小さくなる特性を有し、
前記複数のMOSトランジスタが、前記最小寸法以上の範囲で、相対的に長いゲート長を有する第1のMOSトランジスタと相対的に短いゲート長を有する第2のMOSトランジスタとを含み、
前記半導体装置が、
前記第1のMOSトランジスタからなる第1の発振用インバータと、前記第2のMOSトランジスタからなる第2の発振用インバータと、
前記第1および第2の発振用インバータに電源電圧を供給する電源配線と、
前記電源電圧に応じて、前記第1および第2の発振用インバータの一方を動作可能とする選択回路とを有することを特徴とする半導体装置を提供するものである。
【0028】
ここで、前記複数のMOSトランジスタが、前記製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長を有する第3のMOSトランジスタをさらに含み、
前記半導体装置が、前記発振用インバータおよび選択回路に加えて、前記第3のMOSトランジスタからなる第2の回路を含むことが好ましい。
【0029】
また、前記第2の回路が、前記第1および第2の発振用インバータの一方を動作させることによって生成した発振信号が入力されるバッファ回路であることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、製造プロセスの追加やトランジスタ動作の不安定さを招くことなく、閾値電圧が異なる複数の発振用インバータを用いて構成された発振回路を搭載する半導体装置を提供することができる。これにより、素早い発振開始と消費電力の削減とを両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の半導体装置を詳細に説明する。
【0032】
近年の極微細な半導体製造プロセスでは、許容される、すなわち、実用に耐える特性を持つことが保証される範囲内で設定される最小寸法以上のゲート長において、トランジスタが一定の閾値電圧を維持する特性を得ることが困難になってきている。また、上記短チャネル効果の補正も行われている。短チャネル効果の補正を行うことによって、最小寸法からゲート長を大きく(長く)するに従って、トランジスタの閾値電圧の絶対値が次第に小さくなる特性を持つようになる。
【0033】
この場合、半導体装置内の通常のロジック回路で利用されるトランジスタについては、その最小寸法に等しいゲート長のトランジスタのみの利用を許すことが行われている。言い換えると、最小寸法よりも大きいゲート長のトランジスタは通常使用されていない。
【0034】
本発明は、このような半導体製造プロセスを利用することを前提とするものである。この場合、最小寸法よりも大きなゲート寸法を有するトランジスタは、閾値電圧がそのゲート長によって変化する(従って、それぞれのトランジスタの閾値電圧を把握して設計することが必要になる)ものの、例えば特許文献2とは違い、他の特性において利用不可能になることはない。
【0035】
すなわち、本発明のように、「最小寸法に比較してゲート長が大きくなるにつれて閾値電圧の絶対値が小さくなる特性」を有する製造プロセスを利用し、かつ、「最小寸法に比較して長い範囲」でゲート長を異ならせることによって、初めて、製造プロセスの複雑化を招くことなく、閾値電圧の異なるトランジスタを用いた発振回路を含む半導体装置を形成する、実用的な技術を得ることができる。
【0036】
以下、従来技術との対比が容易な具体例を挙げて説明する。
【0037】
図1は、本発明の半導体装置の構成を表す一実施形態の回路図である。同図に示す半導体装置10は、電源電圧(電源電位)に応じて、選択信号SELにより、閾値電圧の異なる2つの発振用インバータを択一的に切り替えて使用する発振回路の一部を表したものである。半導体装置10は、第1および第2の発振用インバータ12,14と、選択回路16と、バッファ回路18とによって構成されている。
【0038】
なお、図1に示す発振回路10には、特許文献1の図1に示されているように、例えば水晶振動子、フィードバック回路を構成する高抵抗、位相補償用のコンデンサなどが含まれている。しかし、ここでは、閾値電圧の異なる2つの発振用インバータ12,14を切り替えて使用することに焦点を当てて説明するために、発振回路に必要となる構成要素は、当然備えられているものとして省略してある。
【0039】
半導体装置10は、上記の第1および第2の発振用インバータ12,14、選択回路16、バッファ回路18などの回路を構成する、同一の製造プロセスを用いて半導体基板上に形成された複数のMOSトランジスタを含んでいる。
【0040】
第1の発振用インバータ12は、最小ゲート寸法以上の範囲で、第2の発振用インバータ14と比べて、相対的にゲート長の長いもの、すなわち、その閾値電圧が相対的に小さい第1のMOSトランジスタからなるものである。本実施形態の場合、第1の発振用インバータ12は、直列に接続されたPMOS20とNMOS22とによって構成されている。
【0041】
一方、第2の発振用インバータ14は、同じく最小ゲート寸法以上の範囲で、第1の発振用インバータ12と比べて、相対的にゲート長の短いもの、すなわち、その閾値電圧が相対的に大きい第2のMOSトランジスタからなるものである。本実施形態の場合、第2の発振用インバータ14は、直列に接続されたPMOS24とNMOS26とによって構成されている。
【0042】
入力端子INから入力される信号が、第1の発振用インバータ12のPMOS20とNMOS22のゲート、および、第2の発振用インバータ14のPMOS24とNMOS26のゲートに入力されている。また、PMOS20とNMOS22の接続点から第1の発振用インバータ12の出力信号、および、PMOS24とNMOS26の接続点から第2の発振用インバータ14の出力信号(発振信号)がバッファ18に入力されている。
【0043】
ここで、第1の発振用インバータ12のPMOS20およびNMOS22、ならびに、第2の発振用インバータ14のPMOS24およびNMOS26は、ノーマリーオフ型のMOSトランジスタである。これらのMOSトランジスタは、製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長では一定の閾値電圧を有し、最小寸法と比べてゲート長が大きくなるにつれて、閾値電圧の絶対値が次第に小さくなる特性を有する。
【0044】
図2および図3は、それぞれPMOSおよびNMOSの特性を表すグラフである。これらのグラフは、製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長(本実施形態の場合は0.15μm)を有するMOSトランジスタの閾値電圧の絶対値|Vth0|を基準として、ゲート長Lを順に大きくした場合の、閾値電圧の絶対値|Vth|の相対的な変化ΔVth(=|Vth|−|Vth0|)を表したものである。なお、MOSトランジスタのゲート幅はともに5μmである。
【0045】
これらのグラフから、MOSトランジスタの閾値電圧Vthの絶対値は、最小寸法に等しいゲート長の場合を最大として、そのゲート長Lを大きくするに従って次第に小さくなることが分かる。従って、MOSトランジスタのゲート長Lを、最小寸法以上の範囲で変化させることによって、その閾値電圧Vthを所定の範囲内で変化させることができる。
【0046】
続いて、選択回路16は、電源電圧に応じて、選択信号SELにより、第1および第2の発振用インバータ12,14の一方を択一的に選択し、選択された駆動用インバータを動作状態とする。選択回路16は、インバータ28と、第1の発振用インバータ12に対応するPMOS30およびNMOS32と、第2の発振用インバータ14に対応するPMOS34およびNMOS36とによって構成されている。
【0047】
PMOS30は、第1の発振用インバータ12において、電源用配線とPMOS20のソースとの間に接続され、NMOS32は、NMOS22のソースとグランド用配線との間に接続されている。一方、PMOS34は、第2の発振用インバータ14において、電源用配線とPMOS24のソースとの間に接続され、NMOS36は、NMOS26のソースとグランド用配線との間に接続されている。
【0048】
なお、本発明では、電源用配線とグランド用配線を併せて電源配線と表現する。第1および第2の発振用インバータ12,14は、電源配線を介して(本実施形態の場合、さらに選択回路のMOSトランジスタを介して)電源電圧が供給される。
【0049】
また、選択信号SELは、インバータ28、NMOS36およびPMOS30のゲートに入力されている。インバータ28の出力信号(選択信号SELの反転信号)は、PMOS34およびNMOS32のゲートに入力されている。
【0050】
本実施形態の場合、電源電圧が相対的に低い場合、選択信号SELがローレベルとされ、閾値電圧の小さい第1の発振用インバータ12が動作状態とされる。この場合、第1の発振用インバータ12が、PMOS30およびNMOS32を介して電源用配線とグランド用配線との間に直列に接続されるので、入力端子INから入力される信号は、第1の発振用インバータ12によって反転され、発振信号として出力される。
【0051】
逆に、電源電圧が相対的に高い場合、選択信号SELがハイレベルとされ、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータ14が動作状態とされる。この場合、第2の発振用インバータ14が、PMOS34およびNMOS36を介して電源用配線とグランド用配線との間に直列に接続されるので、入力端子INから入力される信号は、第2の発振用インバータ14によって反転され、同じく発振信号として出力される。
【0052】
最後に、バッファ回路18は、選択された第1または第2の発振用インバータ12,14の出力信号(発振信号)を波形整形し、バッファ出力する。バッファ回路18の出力信号は、出力端子OUTから半導体装置10の内部回路(図示省略)に供給される。
【0053】
第1、第2の発振用インバータ12、14および選択回路16以外の他の回路(本発明の第2の回路)は、半導体装置10の製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長を有するもの、すなわち、その絶対値が最も大きい閾値電圧を有する第3のMOSトランジスタからなるものである。バッファ回路18は、半導体装置10に必須の構成要素ではなく、上記第2の回路の一例として示したものである。従って、バッファ回路18の代わりに、別の回路が設けられていても良い。
【0054】
半導体装置10の動作は、バッファ回路18を除いて、特許文献1と同様である。すなわち、選択信号SELにより、第1および第2の発振用インバータのうちの一方が択一的に動作状態とされ、選択された発振用インバータにより、入力端子INから入力される信号が反転出力される。そして、バッファ回路18より、選択された発振用インバータの発振信号がバッファ出力され、半導体装置10の内部回路に供給される。
【0055】
特許文献1と同様に、例えば電源投入時などのように、電源電位が徐々に上昇する期間は、選択信号SELをローレベルとし、閾値電圧の小さい第1の発振用インバータ12を選択することによって、発振回路が発振を開始する発振開始電圧を下げることができる。言い換えると、電源投入時に、閾値電圧の小さい第1の発振用インバータ12を使用することによって、発振回路を素早く発振開始させることができる。
【0056】
一方、電源を投入して所定時間が経過した後などのように、電源電位が所定の高電位で安定している期間は、選択信号SELをハイレベルとすることによって、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータ14を選択する。これにより、電源電位が安定した後は、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータ14を使用することによって、発振回路の消費電力を大幅に削減することができる。
【0057】
このように、閾値電圧が異なる2つの発振用インバータから、電源電圧に応じていずれかを選択することにより、素早い発振開始と消費電力の削減とを両立することができる。もしくは、例えば、1つの半導体装置で、異なる電源電圧の製品に対応することも可能となる。
【0058】
また、半導体装置10は、同一の製造プロセスを用いて半導体基板上に複数のMOSトランジスタを形成する時に、第1および第2の発振用インバータのMOSトランジスタのゲート長を変えることでその閾値電圧を制御するので、特許文献1のように製造プロセスの追加は不要である。また、特許文献2のように短チャネル効果も使用していないので、トランジスタ動作の不安定さを招くこともないという利点がある。
【0059】
例えば、下記表1は、時計などで用いられる、発振周波数が32KHzの発振用インバータのトランジスタサイズの一例を示したものである。表1では、第1の発振用インバータ12を構成するPMOS20およびNMOS22のゲート長が、第2の発振用インバータ14を構成するPMOS24およびNMOS26のゲート長の3倍に設定されている。この場合、第1の発振用インバータ12が選択された場合と第2の発振用インバータ14が選択された場合の発振開始電圧に約80mVの差ができる。
【0060】
本実施形態において、第2のインバータを構成するトランジスタのゲート長は、最小寸法に等しくすることも含めて、最小寸法以上の範囲で、発振用インバータとして要求される特性が得られるように適切に設定すればよい。表1に示した例では、閾値電圧の大きい第2の発振用インバータを構成するPMOS24およびNMOS26のゲート長も、最小寸法(0.15μm)に比較して長くした。また、表1に示した例では、ゲート長の増大による駆動能力の低下を補うために、第1の発振用インバータ12を構成するPMOS20およびNMOS22のゲート幅を、第2の発振用インバータ14を構成するPMOS24およびNMOS26のゲート幅の3倍とした。しかし、ゲート幅の比をゲート長の比と同一にすることは必須ではない。
【0061】
表1に示されたように、本実施形態では、閾値電圧が小さい第1の発振用インバータ12を電源配線に接続するためのPMOS30およびNMOS32についても、閾値電圧が大きい第2の発振用インバータ14を電源配線に接続するためのPMOS34およびNMOS36に比較して、相対的にゲート長の長いものを使用している。これにより、PMOS30およびNMOS32の閾値電圧を小さくし、電源電圧が低いときにも第1の発振用インバータ12に対して動作に十分な電源電流を供給することを可能にしている。具体的には、表1の例では、第1の発振用インバータ12を電源線に接続するPMOS30およびNMOS32のゲート長およびゲート幅を、第1の発振用インバータ12を構成するPMOS20およびNMOS22のゲート長およびゲート幅と同一に、第2の発振用インバータ14を電源線に接続するPMOS34およびNMOS36のゲート長およびゲート幅を、第2の発振用インバータ14を構成するPMOS24およびNMOS26のゲート長およびゲート幅と同一にした。しかし、本実施形態において、第1および第2の発振用インバータを電源線に接続するトランジスタのゲート長、ゲート幅を、対応する発振用インバータを構成するトランジスタのゲート長、ゲート幅と同一にすることは必須ではない。
【0062】
なお、選択回路16を構成するインバータ28についても、電源電圧が低いときの動作を確実に行うため、ゲート長の長い、すなわち、閾値電圧が低いトランジスタが構成することができる。具体的には例えば、第1の発振用インバータ12を構成するトランジスタと同一のゲート長とすることができる。
【0063】
【表1】

【0064】
なお、上記実施形態では、1ビットの選択信号SELを用いて、第1および第2の発振用インバータ12,14を択一的に切り替える構成を挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、複数ビットの選択信号を用いて、3つ以上の発振用インバータを択一的に切り替える構成としても良い。また、選択回路の具体的な構成も実施形態に限定されず、同様の機能を果たすものはいずれも採用可能である。
【0065】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明の半導体装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【0066】
上記実施形態においては、製造プロセスが許容する最小寸法以上の範囲でゲート長を異ならせることによって閾値電圧を異ならせたトランジスタで構成したインバータを、発振用インバータとして利用した例を示した。しかし、ゲート長を異ならせることによって閾値電圧を異ならせたトランジスタ、もしくは、そのようなトランジスタで構成したインバータは、半導体集積回路を構成するさまざまな回路において利用することが可能である。発振回路に限られず、様々な回路を含む半導体集積回路において、製造プロセスが許容する最小寸法以上の範囲でゲート長を異ならせることによって閾値電圧を異ならせたトランジスタを利用することにより、製造プロセスの追加や動作の不安定さを招くことなく、電源電圧が低いときに求められる素早い動作開始等の特性と、電源電圧が高いときに求められる低消費電力等の特性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の半導体装置の構成を表す一実施形態の概略図である。
【図2】図1に示す半導体装置で用いられる発振用インバータのPMOSの特性を表すグラフである。
【図3】図1に示す半導体装置で用いられる発振用インバータのNMOSの特性を表すグラフである。
【図4】従来の半導体装置の構成を表す一例の概略図である。
【符号の説明】
【0068】
半導体装置10,40
12,14,42,44 発振用インバータ
16,46 選択回路
18 バッファ回路
20,24,30,34,50,54,60,64 PMOS
22,26,32,36,52,56,62,66 NMOS
28,58 インバータ
SEL 選択信号
IN 入力端子
OUT 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の製造プロセスを用いて半導体基板上に形成された複数のMOSトランジスタを含む半導体装置であって、
前記複数のMOSトランジスタはノーマリーオフ型であり、前記製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長において所定の閾値を有し、前記最小寸法に比較してゲート長が大きくなるにつれて閾値の絶対値が小さくなる特性を有し、
前記複数のMOSトランジスタが、前記最小寸法以上の範囲で、相対的に長いゲート長を有する第1のMOSトランジスタと相対的に短いゲート長を有する第2のMOSトランジスタとを含み、
前記半導体装置が、
前記第1のMOSトランジスタからなる第1の発振用インバータと、前記第2のMOSトランジスタからなる第2の発振用インバータと、
前記第1および第2の発振用インバータに電源電圧を供給する電源配線と、
前記電源電圧に応じて、前記第1および第2の発振用インバータの一方を動作可能とする選択回路とを有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記複数のMOSトランジスタが、前記製造プロセスが許容する最小寸法に等しいゲート長を有する第3のMOSトランジスタをさらに含み、
前記半導体装置が、前記発振用インバータおよび選択回路に加えて、前記第3のMOSトランジスタからなる第2の回路を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2の回路が、前記第1および第2の発振用インバータの一方を動作させることによって生成した発振信号が入力されるバッファ回路であることを特徴とする請求項2記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−311992(P2007−311992A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137677(P2006−137677)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(501285133)川崎マイクロエレクトロニクス株式会社 (449)
【Fターム(参考)】