説明

機能性酸化物構造体、及び機能性酸化物構造体の製造方法

【課題】正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の、(001)単一配向の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体を提供する。
【解決手段】機能性酸化物構造体1は、基板10上に、膜厚が500nm以上の正方晶系の結晶系を有する機能性酸化物膜30が成膜されたものであって、機能性酸化物膜30が、(001)単一配向の結晶配向性を有することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体素子等の機能性酸化物構造体及び機能性酸化物構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子デバイスの小型化や高密度集積化のニーズに伴って、電子デバイスを薄膜の積層構造とすることにより薄型化を図る試みがなされている。例えば、圧電素子や焦電素子、非線形光学素子などのデバイスにおいても、そのデバイスの各種機能を発現する機能性酸化物膜を備えた構造体が用いられている。このようなデバイスにおいて、最適なデバイス特性及び再現性を実現するためには、機能性酸化物膜は単一配向膜であることが好ましいとされている。
【0003】
特に、圧電素子や焦電素子等の強誘電体素子では、機能性酸化物膜の各ドメインの分極軸を揃え、電界印加方向と一致させることが肝要であり、結晶粒の配向化等が試みられている。例えば、代表的な圧電体であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等において、正方晶領域では、(001)単一配向(c軸配向)である場合に、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の電界誘起圧電歪による圧電性能が最大限に発揮される。
【0004】
PZT膜(正方晶)は、通常キュリー温度以上の温度にて成膜され、その後キュリー温度を経て自然冷却されて得られるため、成膜時には立方晶系の結晶構造であるが、冷却過程において相転移して正方晶系の結晶構造となる。かかるPZT膜における各ドメインの配向方向は、キュリー温度を通過する際の応力により大きく影響を受けることから、(001)単一配向のPZT膜を得るための応力制御が試みられている。
【0005】
本発明者らは、基板及び下部電極として、PZTのa軸長と格子定数がほぼ同じであるSrTiO及びSrRuOを用い、格子歪みによる応力によりPZT膜の(001)単一配向化を試みている(非特許文献1)。非特許文献1には、膜厚110nm以下では(001)単一配向化を達成できたが、200nm以上では(100)配向のドメインが確認されている。これは、膜厚が厚くなると格子歪みによる応力が充分に及ばないため、(100)配向のドメインが混在する割合が高くなったものと考えられる。
【0006】
また、本発明者らは、PZTより熱膨張係数の大きなMgO基板上に、膜厚2μmのPZT膜を成膜し、PZTバルクセラミクスとほぼ同様の電気特性が得られることを確認している(非特許文献2)。非特許文献2には、得られたPZT膜は、(001)優先配向であり、キュリー温度の測定の際に大きな熱応力が存在することが記載されている(Fig.3,Fig.9)。
【非特許文献1】H. Funakubo et al, Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No.26, p.4761-4763, 2003.
【非特許文献2】Y. Sakashita et al, J. of Appl. Phys., Vol. 69(12), 15, p.8352-8357, 1991.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2では、(001)優先配向のPZT膜は得られているが、その(001)配向率は90%程度であり、単一配向膜は得られていない。(001)配向に基づく圧電性能を最大限に得るためには、単一配向膜であることが好ましい。かかる課題は、PZT膜と同様に正方晶の結晶系を有する圧電体膜や非線形光学膜等の種々の機能性酸化物膜に共通して存在する課題である。例えば、非線形光学膜をはじめとする光学応用においては、90°ドメイン構造は、光の散乱を引き起こし、非線形光学効果を低下させる一因となるため、できるだけ単一配向膜であることが好ましい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の、(001)単一配向の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体を提供することを目的とするものである。
【0009】
また、本発明は、正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の、(001)単一配向の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体を製造することが可能な、機能性酸化物構造体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の機能性酸化物構造体は、基板上に、膜厚が500nm以上の正方晶系の結晶系を有する機能性酸化物膜が成膜された機能性酸化物構造体において、前記機能性酸化物膜が、(001)単一配向の結晶配向性を有することを特徴とするものである。
本明細書において、「機能性酸化物膜が、(001)単一配向の結晶配向性を有する」とは、機能性酸化物膜のθ/2θX線回折測定(XRD)において、下記式(i)で表される(00l)面のLotgerling配向度Fが99%以上である事を意味する。ここで(00l)面とは、(001)や(002)等の等価な面の総称とする。
F(%)=(P−P0)/(1−P0)×100・・・(i)
式(i)中、Pは、配向面からの反射強度の合計と全反射強度の合計の比である。(001)配向の場合、Pは、(00l)面からの反射強度I(00l)の合計ΣI(00l)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(00l)/ΣI(hkl)})である。例えば、ペロブスカイト結晶において(001)配向の場合、P=I(001)/[I(001)+I(100)+I(101)+I(110)+I(111)]である。
P0は、完全にランダムな配向をしている試料のPである。
完全にランダムな配向をしている場合(P=P0)にはF=0%であり、完全に配向をしている場合(P=1)にはF=100%である。
【0011】
本発明の機能性酸化物構造体において、前記機能性酸化物膜としては、鉛含有ペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)もの、又は、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のペロブスカイト型酸化物を含むものであることが好ましい。鉛含有ペロブスカイト型酸化物としては、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物が挙げられる。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、O:酸素原子。a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【0012】
また、前記機能性酸化物膜はエピタキシャル膜であることが好ましい。
本発明の機能性酸化物構造体は、下記式(1)及び/又は(2)を満足することが好ましい。
αsub―αfilm(℃−1)>1.0×10−5 ・・・(1)
(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))>2.2×10−3 ・・・(2)
(式(1)、(2)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数、Tgは前記機能性酸化物膜の成膜温度、Tcは相転移温度である。)
【0013】
また、本発明の機能性酸化物構造体は、下記式(3)を満足することが好ましい。かかる基板としては、フッ化カルシウム等の蛍石型の結晶構造を有するフッ化物又は酸化物を主成分とするものが挙げられる。
αsub(℃−1)>15.0×10−6 ・・・(3)
(式(3)中、αsubは前記基板の熱膨張係数)
本明細書において、「主成分」は、含量95モル%以上の成分と定義する。
【0014】
本発明の機能性酸化物構造体は、前記機能性酸化物膜が強誘電体膜であり、該強誘電体膜に対して膜厚方向に電界を印加する電極を備えた強誘電体素子であることが好ましい。
【0015】
本発明の第1の機能性酸化物構造体の製造方法は、基板上に、所定の温度にて結晶構造が相転移する機能性酸化物膜であって、前記所定の温度以下の温度において正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体の製造方法において、前記機能性酸化物の熱膨張係数に応じて下記式(1)を満足する前記基板を用意し、該基板上に前記機能性酸化物膜を前記所定の温度以上の温度で成膜することを特徴とするものである。
αsub―αfilm(℃−1)>1.0×10−5 ・・・(1)
(式(1)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数である。)
【0016】
本発明の第2の機能性酸化物構造体の製造方法は、基板上に、所定の温度にて結晶構造が相転移する機能性酸化物膜であって、前記所定の温度以下の温度において正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体の製造方法において、前記機能性酸化物の熱膨張係数に応じて下記式(2)を満足する前記基板を用意し、該基板上に前記機能性酸化物膜を前記所定の温度以上の温度で成膜することを特徴とするものである。
(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))>2.2×10−3 ・・・(2)
(式(2)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数、Tgは前記機能性酸化物膜の成膜温度、Tcは前記機能性酸化物膜の相転移温度である。)
【0017】
本発明の第3の機能性酸化物構造体の製造方法は、基板上に、所定の温度にて結晶構造が相転移する機能性酸化物膜であって、前記所定の温度以下の温度において正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体の製造方法において、前記機能性酸化物の熱膨張係数に応じて下記式(3)を満足する前記基板を用意し、該基板上に前記機能性酸化物膜を前記所定の温度以上の温度で成膜することを特徴とするものである。
αsub(℃−1)>15.0×10−6 ・・・(3)
(式(3)中、αsubは前記基板の熱膨張係数)
【0018】
上記本発明の、第1〜第3の機能性酸化物構造体の製造方法において、前記基板は、フッ化カルシウム等の蛍石型の結晶構造を有するフッ化物又は酸化物を主成分とするものであることが好ましい。
【0019】
上記本発明の第1〜第3の機能性酸化物構造体の製造方法は、前記機能性酸化物膜が、鉛含有ペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)場合に好ましく適用することができ、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)場合、及び、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のペロブスカイト型酸化物を含む場合に、より好ましく適用することができる。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、O:酸素原子。a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の機能性酸化物構造体は、基板上に、膜厚が500nm以上の、正方晶系の結晶系を有する(001)単一配向の機能性酸化物膜を備えたものである。かかる構成では、膜厚が500nm以上の正方晶系の機能性酸化物膜が(001)単一配向であるため、(001)配向に基づく機能性酸化物膜の機能を最大限に発揮させることができる。従って、デバイス特性上、500nm以上の膜厚を有する正方晶系の機能性酸化物膜を有することが好ましい圧電素子や焦電素子等の強誘電素子や非線形光学素子等の機能性酸化物構造体において、(001)配向に基づく素子特性を最適化することができる。
【0021】
また、本発明の機能性酸化物構造体の製造方法は、膜厚500nm以上の正方晶系の機能性酸化物膜を成膜する際に、基板と機能性酸化物膜との熱圧縮応力及び熱膨張係数差を最適化することにより、(001)単一配向の機能性酸化物膜を成膜可能であることを初めて見出したものである。本発明の機能性酸化物構造体の製造方法によれば、デバイス特性上、500nm以上の膜厚を有する正方晶系の機能性酸化物膜を備えていることが好ましい圧電素子や焦電素子等の強誘電素子や非線形光学素子等のデバイスにおいて、機能性酸化物膜を(001)単一配向とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
「圧電素子(強誘電体素子,機能性酸化物構造体)」
図1を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子(強誘電体素子,機能性酸化物構造体)の構造について説明する。図1は圧電素子の厚み方向の断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0023】
図1に示されるように、圧電素子(強誘電体素子,機能性酸化物構造体)1は、基板10上に、下部電極20と、膜厚500nm以上の正方晶構造を有する圧電体膜(機能性酸化物膜)30と、上部電極40とが順次積層されたものであり、圧電体膜30に対して、下部電極20と上部電極40とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。圧電体膜30と各電極との間には、バッファー層50等の各種機能層を備えていてもよい。
【0024】
圧電体膜30は、図示されるような連続膜でもよいし、パターニングされていてもよい。圧電体膜30が連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部からなるパターンで形成されている場合は、個々の凸部の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0025】
圧電素子1において、下部電極20の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
上部電極40の主成分としては特に制限なく、下部電極20で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0026】
下部電極20と上部電極40の厚みは特に制限なく、例えば200nm程度である。圧電体膜30の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。
【0027】
圧電素子1において、圧電体膜30は(001)単一配向の結晶配向性を有している。「背景技術」の項において述べたように、正方晶系の結晶構造を有する圧電体膜30は、正方晶領域においては(001)単一配向(c軸配向)である場合に、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の電界誘起圧電歪による圧電性能が最大限に発揮される。
【0028】
圧電素子1において、圧電体膜30としては、膜厚500nm以上の正方晶構造を有するものであれば特に制限されず、圧電特性の良好なものであることが好ましい。圧電体膜30は、相転位温度(キュリー温度)Tcにおいて相転移するものであり、Tc以上の温度では自発分極が消失した常誘電体となっている。
【0029】
圧電体膜30としては、例えば、下記一般式(P)で表される1種又は複数種の鉛含有ペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)もの、又は、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のペロブスカイト型酸化物を含むものが挙げられる。ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜は、電圧無印加時において自発分極性を有する強誘電体膜である。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子。
a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
式(P)中、AサイトのPb以外の元素としては、La等のランタニド元素やBa等が挙げられる。
【0030】
圧電素子1では、成膜後の降温過程において圧電体膜30にかかる熱圧縮応力εthermalにより、圧電体膜30が(001)単一配向となる。熱圧縮応力εthermalは、基板10の熱膨張係数αsubと、その上に成膜される圧電体膜30の熱膨張係数αfilmが、(αsub―αfilm)>0である場合に生じるものである。
【0031】
従って、基板10としては、成膜後の降温過程において圧電体膜30に、(001)単一配向となりうる熱圧縮応力εthermalを与えられる熱膨張係数αsubを有するものであれば特に制限されない。基板10に要求される熱膨張係数αsubは、成膜される圧電体膜30の熱膨張係数αfilm、及び、成膜温度Tgに応じて適宜選択される。
【0032】
例えば、圧電体膜30が上記のようなペロブスカイト型酸化物膜である場合、良好な結晶性を有し、圧電特性の良好な膜を得るためには、圧電体膜30は、圧電体膜30のキュリー温度(相転移温度)Tc以上の温度Tgで成膜されることが好ましい。Tc以上の温度Tgで圧電体膜30を成膜する場合、成膜後の降温過程においてキュリー温度Tcを通過することになるが、相転位時に熱圧縮応力εthermalが存在していると、熱圧縮応力εthermalを吸収する向き、すなわち、結晶軸が、基板10の表面と垂直方向に長く、平行方向に短くなる(001)面配向となりやすくなる。
【0033】
相転移温度Tcまでに圧電体膜30にかかる熱圧縮応力εthermalは、(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))で表すことができる。本発明者らは、圧電体膜30が(001)単一配向となりうる熱圧縮応力εthermal及び(αsub―αfilm)の値について検討を行った(後記実施例を参照)。その結果、下記式(1)及び/又は(2)を満足する基板10を用いることにより、(001)単一配向の圧電体膜30が得られることを見出した。
【0034】
αsub―αfilm(℃−1)>1.0×10−5 ・・・(1)
(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))>2.2×10−3 ・・・(2)
(式(1)、(2)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数、Tgは前記機能性酸化物膜の成膜温度、Tcは前記機能性酸化物膜の相転移温度である。)
【0035】
上記した種々の圧電体膜30の熱膨張係数αfilmの値を考慮すると、αsubは、下記式(3)を満足しているものであれば、上記式(1)又は(2)を満足するものとすることができる。かかる基板10としては、蛍石型の結晶構造を有するフッ化物又は酸化物を主成分とするものが挙げられる。蛍石型の結晶構造を有するフッ化物又は酸化物としてはフッ化カルシウム(CaF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化バリウム(BaF)、酸化セリウム(CeO)等が挙げられ、αsubが18.9×10−6−1と大きいフッ化カルシウムが特に好ましい。フッ化カルシウムは光学窓材等の光学材料として幅広く利用されている結晶であり、大型で良質な単結晶を安価に得られる点においても好ましい材料である。
αsub(℃−1)>15.0×10−6 ・・・(3)
(式(3)中、αsubは前記基板の熱膨張係数)
例えば、成膜する膜がPb(Zr0.40Ti0.60)Oの組成を有するPZT膜である場合、熱膨張係数αsubは5.4×10−6であるので、フッ化カルシウム基板を用いればαsub―αfilm=1.35×10−5となる。
【0036】
一方、Tc以下の温度Tgで圧電体膜30を成膜する場合等の、降温時に相転位して正方晶となるものではなく、成膜時から正方晶の結晶構造を有する場合においては、上記式(1)及び/又は(3)を満足する基板10を用いることにより、(001)単一配向の膜を得ることが可能である。
基板10の配向性は特に制限されないが、圧電体膜30は、より単結晶に近い結晶構造となるエピタキシャル膜であることが好ましいため、圧電体膜30がエピタキシャル成長可能な結晶配向性を有していることが好ましい。
以下に、Tc以上の温度Tgで圧電体膜30を成膜する場合の、圧電素子1の製造方法の一例及び、製造過程における圧電体膜30のドメインの結晶系及び配向状態等について、図2を参照して説明する。図2は圧電素子1の製造工程図(基板の厚み方向の断面図)であり、図2においては、バッファ層50は省略してある。
【0037】
まず、圧電膜30の熱膨張係数αfilmに応じて、上記式(1)及び/又は(2)を満足する基板10を用意し(図2(a))、その上に、下部電極20を成膜する。
【0038】
次いで、相転移温度Tc以上の温度Tgで圧電体膜30を成膜する(図2(b))。成膜直後の圧電体膜30は、成膜時は相転移温度Tc以上であるので、正方晶以外の結晶系となっている。例えば、ペロブスカイト型酸化物等の強誘電体や、強磁性体等である場合は、Tcはキュリー温度であり、Tc以上では主に立方晶系の結晶系となり、自発分極や自発磁化が消失して常誘電体や常磁性体となっている。図2(b)〜(d)には、各段階における圧電体膜30のドメイン30D及び圧電体膜30にかかる熱圧縮応力εthermalを、Tc以上の温度における結晶系が立方晶系である場合を例に模式的に示してある。上述した鉛含有ペロブスカイト型酸化物は強誘電性を有するものであり、「背景技術」の項目で述べたように、良好な結晶性を有するペロブスカイト型酸化物膜とするためには、500℃以上のキュリー温度以上の温度にて成膜されることが好ましい。成膜温度Tgは、Tc以上の温度であれば、成膜する圧電体膜30の種類及び組成に応じて、好適な温度とすればよい。
【0039】
圧電体膜30の成膜方法は特に制限されず、スパッタ法やパルスレーザデポジション法(PLD法)、MOCVD法等の気相法や、ゾルゲル法等の液相法等が挙げられる。
【0040】
成膜後、圧電体膜30は、相転移温度Tc(キュリー温度)を経て常温まで自然冷却されて得られるため、成膜時には、例えば立方晶系の結晶構造であるが、冷却過程においてキュリー点で相転移して正方晶系の結晶構造となる。この冷却過程において、本発明では、基板10と圧電体膜30の熱膨張係数の差(αsub―αfilm)が1.0×10−5超と大きいため、基板10の収縮率の方が圧電体膜30の収縮率より格段に大きくなり、圧電体膜30の温度TがTc<T<Tgの範囲においては圧電体膜30には、膜厚と垂直な方向に大きな熱圧縮応力εthermalによる熱歪みが生じる(図2(c))。
【0041】
圧電体膜30は、相転移温度Tc以下の常温では正方晶系の結晶系であるので、相転移温度Tcにおいて結晶系が正方晶系に相転移する。Tc近傍において熱圧縮応力εthermalが圧電体膜30にかかっていない場合は、基板10と圧電体膜30との格子ミスフィットによる格子歪みにより影響を受けるものの、膜厚が500nm以上である場合にはその影響力は小さく、配向を制御するほどの影響力は得られない。
【0042】
一方、圧電体膜30の温度TがTcとなる相転移時に、熱圧縮応力εthermalが存在していると、熱圧縮応力εthermalを吸収する向き、すなわち、結晶軸が、基板10の表面と垂直方向に長く、平行方向に短くなる(001)面配向となりやすくなる。このとき、圧電体膜30が(001)単一配向となるに充分な熱圧縮応力εthermalを生じることができない場合は、(100)配向のドメインが混在したものとなるが、充分な熱圧縮応力εthermalを生じることができる場合、すなわち上記式(1)及び/又は(2)を満足する場合には、(001)単一配向の圧電体膜30を得ることができる(図2(d))。
以上のようにして、圧電素子1は製造することができる。
【0043】
圧電素子(強誘電体素子,機能性酸化物構造体)1は、基板10上に、膜厚が500nm以上の、正方晶系の結晶系を有する(001)単一配向の圧電体膜(強誘電体膜,機能性酸化物膜)30を備えたものである。かかる構成では、膜厚が500nm以上の正方晶系の圧電体膜30が(001)単一配向であるため、(001)配向に基づく圧電体膜30の機能を最大限に発揮させることができる。従って、デバイス特性上、500nm以上の膜厚を有する正方晶系の圧電体膜30を有することが好ましい圧電素子1において、(001)配向に基づく素子特性を最適化することができる。
【0044】
また、圧電素子(強誘電体素子,機能性酸化物構造体)1の製造方法は、膜厚500nm以上の正方晶系の圧電体膜(強誘電体膜,機能性酸化物膜)30を成膜する際に、基板10と圧電体膜30との熱圧縮応力及び熱膨張係数差を最適化することにより、(001)単一配向の圧電体膜30を成膜可能であることを初めて見出したものである。圧電素子1の製造方法によれば、デバイス特性上、500nm以上の膜厚を有する正方晶系の圧電体膜30を備えていることが好ましい圧電素子1において、圧電体膜30を(001)単一配向とすることができる。
【0045】
これまでに、膜厚500nm以上の膜厚を有する正方晶系の機能性酸化物膜において、(001)単一配向膜が得られた報告はなく、基板10上に、膜厚が500nm以上の正方晶系の結晶系を有する、(001)単一配向の機能性酸化物膜30を備えた機能性酸化物構造体1自体が新規である。
【0046】
(設計変更)
本発明は、素子特性上、機能性酸化物膜が、膜厚が500nm以上であることが好ましい、圧電素子、焦電素子等の強誘電体素子や非線形光学素子等に好ましく適用することができる。上記実施形態では、機能性酸化物膜が圧電体膜である場合について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、正方晶系の結晶構造を有する、膜厚500nm以上の機能性酸化物膜である場合に適用可能である。かかる機能性酸化物膜としては、圧電体膜の他、非線形光学膜等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
基板として、表面が(100)面であるフッ化カルシウム(CaF)単結晶基板を用意し、その上に30nm厚の(100)LaNiOバッファ層、150nm厚の(100)SrRuO下部電極をスパッタ法により順次エピタキシャル成長させて成膜した。成膜温度は、それぞれ350℃(LaNiOバッファ層)、550℃(SrRuO下部電極)とした。
【0048】
成膜温度Tgを600℃とし、下部電極上に、MOCVD法によりPb(Zr0.40Ti0.60)Oエピタキシャル膜を成膜し、成膜後自然炉冷して膜厚3.6μmのPb(Zr0.40Ti0.60)O膜とした。
【0049】
(比較例1)
基板として、表面が(100)面であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO)基板(熱膨張係数αsub=11.1×10−6)を用意し、その上に実施例1と同様にして150nm厚の(100)SrRuO下部電極をスパッタ法によりエピタキシャル成長させて成膜し、その上に、実施例1と同様にして膜厚3.6μmのPb(Zr0.40Ti0.60)O膜を成膜した。
【0050】
(比較例2)
基板を、表面が(100)面であるタンタル酸カリウム(KTaO)基板(αsub=6.7×10−6)とした以外は比較例1と同様にして、膜厚3.6μmのPb(Zr0.40Ti0.60)O膜を成膜した。
【0051】
(実施例1及び比較例1,2の評価)
実施例1及び比較例1,2で得られたPZT膜について、X線回折(XRD)測定を実施した。得られた膜のXRDパターンを図3に示す。
図3に示されるように、いずれの膜も(001)優先配向の膜であり、実施例1では(100)配向のピークは観測されず、比較例1及び2の膜では(100)配向のピークが観測された。
【0052】
図3に示されるXRDピークより(001)配向率を、(002)及び(200)ピーク強度より計算した結果、フッ化カルシウム基板を用いた実施例1では100%,チタン酸ストロンチウム基板を用いた比較例1では約60%,タンタル酸カリウム基板を用いた比較例2では約40%であった。
【0053】
(実施例2)
表1に示される4種類の基板を用意し、各基板上に実施例1と同様にして150nm厚の(100)SrRuOをスパッタ法によりエピタキシャル成長させて成膜し、その上に更に実施例1と同様にして膜厚3.6μmのPb(Zr0.40Ti0.60)O膜を成膜した。Si基板のみ、基板と下部電極との間にバッファ層(膜厚20nm)として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)膜,酸化セリウム(CeO)膜を順次成膜した。また、フッ化カルシウム基板,チタン酸ストロンチウム基板,タンタル酸カリウム基板については、実施例1及び比較例1と同様のものを用いた。
【0054】
上記で得られたPZT膜について、X線回折(XRD)測定を実施した。その結果、いずれの膜も(001)優先であることが確認された。次いで、4軸高分解能XRD(PANalytical X’Part MRD)により、XRD逆格子マッピング(XRD−RSM)を測定し、各PZT膜中の(001)配向率を見積もった。その結果を、基板の熱膨張係数αsub、基板とPZT膜との熱膨張係数差(αsub−αfilm(℃−1))、及び熱応力εthermal(=(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))と併せて表1に示す。この方法では、(001)配向率は、下記式(j)で表される配向率V(c)とした。
V(c)(%)=V(00l)/(V(l00)+V(00l))×100・・・(j)
式(i)中、V(c)は、膜中における(00l)面配向のドメインの体積V(00l)の合計と全ドメインの体積に対する比であるが、ここでは、(00l)面及び(l00)面のピークしか観測されなかったため、全ドメインの体積は(00l)面及び(l00)面のドメインの体積の合計となっている。
【0055】
表1に示されるように、フッ化カルシウム基板,チタン酸ストロンチウム基板,タンタル酸カリウム基板については、本方法においても、実施例1及び比較例1で得られた値とほぼ同様の(001)配向率の値が得られていることが確認された。
【0056】
また、表1より、PZT膜よりも熱膨張係数が大きく、熱膨張係数差が大きいほど(001)配向率が高くなることが確認された。PZT膜よりも熱膨張係数が小さいSi基板を用いた場合は、PZT膜に対して、圧縮応力とは逆の引っ張り応力を生じることになる。従って、より(100)配向となりやすくする傾向となる。表1の結果からも、かかる傾向が確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例3)
基板として、表面が(100)面であるフッ化カルシウム(CaF)単結晶基板を用意し、その上に30nm厚の(100)LaNiOバッファ層、150nm厚の(100)SrRuO下部電極をスパッタ法により順次エピタキシャル成長させて成膜した。成膜温度は、それぞれ350℃(LaNiOバッファ層)、550℃(SrRuO下部電極)とした。
【0059】
成膜温度Tgを800℃とし、下部電極上に、スパッタ法により(Ba0.50Sr0.50)TiOエピタキシャル膜(熱膨張係数αfilm=10.0×10−6)を成膜し、成膜後自然炉冷して膜厚500nmの(Ba0.50Sr0.50)TiO膜とした。
【0060】
(比較例3)
基板として、表面が(100)面である、酸化マグネシウム(MgO)基板(αsub=13.5×10−6),チタン酸ストロンチウム(SrTiO)基板(αsub=11.1×10−6),アルミナ(Al)基板(αsub=8.0×10−6),シリコン(Si)基板(αsub=4.3×10−6)の4種類の基板を用意し、その上に、成膜温度600℃にて150nm厚のPt下部電極をスパッタ法によりエピタキシャル成長させて成膜し、その上に、実施例3と同様にして膜厚500nmの(Ba0.50Sr0.50)TiO膜を成膜した。
【0061】
(実施例3及び比較例3の評価)
実施例3及び比較例3で得られた(Ba0.50Sr0.50)TiO膜について、X線回折(XRD)測定を実施した。得られた膜のXRDパターンを図4に示す。
図4に示されるように、実施例3では(100)配向のピークは観測されず、(001)配向率は100%であった。一方、比較例3では、いずれの基板においても(001)配向のピークは観測されず、ほぼ(100)単一配向膜であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の機能性酸化物構造体は、アクチュエータ,超音波発信子,各種センサ(圧力,加速度,ジャイロ,超音波)等の圧電素子や赤外線センサ等の焦電素子、及び強誘電体メモリ等の強誘電体素子、そして、非線形光学素子や電気光学素子等の光学素子等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る実施形態の圧電素子の構成を示す断面図
【図2】(a)〜(d)は本発明の機能性酸化物構造体の製造工程を示す概略図
【図3】実施例1及び比較例1,2で得られたPZT膜のXRDパターン
【図4】実施例3及び比較例3で得られたPZT膜のXRDパターン
【符号の説明】
【0064】
1 機能性酸化物構造体、強誘電体素子(圧電素子)
10 基板
30 機能性酸化物膜(強誘電体膜,圧電体膜)
20、40 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、膜厚が500nm以上の正方晶系の結晶系を有する機能性酸化物膜が成膜された機能性酸化物構造体において、
前記機能性酸化物膜が、(001)単一配向の結晶配向性を有することを特徴とする機能性酸化物構造体。
【請求項2】
前記機能性酸化物膜が、鉛含有ペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)ことを特徴とする請求項1に記載の機能性酸化物構造体。
【請求項3】
前記機能性酸化物膜が、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)ことを特徴とする請求項2に記載の機能性酸化物構造体。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子。
a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【請求項4】
前記機能性酸化物膜が、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の機能性酸化物構造体。
【請求項5】
前記機能性酸化物膜がエピタキシャル膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の機能性酸化物構造体。
【請求項6】
下記式(1)を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性酸化物構造体。
αsub―αfilm(℃−1)>1.0×10−5 ・・・(1)
(式(1)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数である。)
【請求項7】
下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性酸化物構造体。
(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))>2.2×10−3 ・・・(2)
(式(2)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数、Tgは前記機能性酸化物膜の成膜温度、Tcは相転移温度である。)
【請求項8】
下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性酸化物構造体。
αsub(℃−1)>15.0×10−6 ・・・(3)
(式(3)中、αsubは前記基板の熱膨張係数)
【請求項9】
前記基板が、蛍石構造を有するフッ化物又は酸化物を主成分とするものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の機能性酸化物構造体。
【請求項10】
前記基板が、フッ化カルシウムを主成分とするものであることを特徴とする請求項9に記載の機能性酸化物構造体。
【請求項11】
前記機能性酸化物膜が強誘電体膜であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の機能性酸化物構造体。
【請求項12】
前記機能性酸化物膜に対して膜厚方向に電界を印加する電極とを備えた強誘電体素子であることを特徴とする請求項11に記載の機能性酸化物構造体。
【請求項13】
基板上に、
所定の温度にて結晶構造が相転移する機能性酸化物膜であって、前記所定の温度以下の温度において正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体の製造方法において、
前記機能性酸化物の熱膨張係数に応じて下記式(1)を満足する前記基板を用意し、
該基板上に前記機能性酸化物膜を前記所定の温度以上の温度で成膜することを特徴とする機能性酸化物構造体の製造方法。
αsub―αfilm(℃−1)>1.0×10−5 ・・・(1)
(式(1)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数である。)
【請求項14】
基板上に、
所定の温度にて結晶構造が相転移する機能性酸化物膜であって、前記所定の温度以下の温度において正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体の製造方法において、
前記機能性酸化物の熱膨張係数に応じて下記式(2)を満足する前記基板を用意し、
該基板上に前記機能性酸化物膜を前記所定の温度以上の温度で成膜することを特徴とする機能性酸化物構造体の製造方法。
(αsub―αfilm(℃−1))×(Tg−Tc(℃))>2.2×10−3 ・・・(2)
(式(2)中、αsubは前記基板の熱膨張係数、αfilmは前記機能性酸化物膜の熱膨張係数、Tgは前記機能性酸化物膜の成膜温度、Tcは相転移温度である。)
【請求項15】
基板上に、
所定の温度にて結晶構造が相転移する機能性酸化物膜であって、前記所定の温度以下の温度において正方晶系の結晶構造を有する膜厚500nm以上の機能性酸化物膜を備えた機能性酸化物構造体の製造方法において、
前記機能性酸化物の熱膨張係数に応じて下記式(3)を満足する前記基板を用意し、
該基板上に前記機能性酸化物膜を前記所定の温度以上の温度で成膜することを特徴とする機能性酸化物構造体の製造方法。
αsub(℃−1)>15.0×10−6 ・・・(3)
(式(3)中、αsubは前記基板の熱膨張係数)
【請求項16】
前記基板が、蛍石型の結晶構造を有するフッ化物又は酸化物を主成分とするものであることを特徴とする請求項13〜15に記載の機能性酸化物構造体の製造方法。
【請求項17】
前記基板が、フッ化カルシウムを主成分とするものであることを特徴とする請求項16に記載の機能性酸化物構造体の製造方法。
【請求項18】
前記機能性酸化物膜が、鉛含有ペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)ことを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の機能性酸化物構造体の製造方法。
【請求項19】
前記機能性酸化物膜が、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)ことを特徴とする請求項18に記載の機能性酸化物構造体の製造方法。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子。
a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【請求項20】
前記機能性酸化物膜が、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の機能性酸化物構造体の製造方法。
【請求項21】
前記機能性酸化物膜がエピタキシャル膜であることを特徴とする請求項13〜20のいずれかに記載の機能性酸化物構造体の製造方法。
【請求項22】
前記機能性酸化物膜が圧電体膜であることを特徴とする請求項13〜21のいずれかに記載の機能性酸化物構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−208985(P2009−208985A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52318(P2008−52318)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月4日 社団法人 応用物理学会発行の「2007年(平成19年)秋季 第68回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】