説明

表示装置の製造方法及び表示装置

【課題】半導体層の水素終端処理をする際に、銅が用いられたドレイン電極及びソース電極が基板上に露出する場合であっても、ドレイン電極及びソース電極の剥離が生じにくい表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の薄膜トランジスタが配列された基板を有する表示装置の製造方法において、薄膜トランジスタの半導体層上の一部に、単層もしくは複数の導電層を含むソース電極及びドレイン電極を形成する電極形成工程と、ソース電極及びドレイン電極が基板上に露出している状態で、半導体層に水素終端処理をする水素終端工程と、を含み、電極形成工程は、ネオンを含む不活性ガスを導入することにより基板上に銅を付着させる工程を含む、ことを特徴とする表示装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜トランジスタによって駆動するTFT基板を具備した表示装置の製造方法と、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TFT基板を具備した液晶パネルが大画面サイズの薄型テレビに適用されている。近年、動画質向上のために駆動周波数が高速化しており、これに伴い信号線の低抵抗化が必要となっている。また、信号線の形成プロセスにおいては、コストパフォーマンスの良い薄膜材料やプロセス薬液が求められている。
【0003】
従来、低抵抗なTFT基板の信号線を構成するために、抵抗率が約3μΩcmのアルミニウムを主たる導体材料とするMo/Al/Mo積層膜(ここで/は積層の界面を表し、/の右側が下層、/の左側が上層である。本明細書において、以下同様であるものとする。)が用いられてきてきた。この積層膜の信号線を更に低抵抗化するにはAl層を厚くすることになるが、Mo/Al/Mo積層膜の成膜処理に費やす時間が長くなるので生産性を悪化させることのほか、製造歩留り悪化の原因となるヒロック発生の頻度を高めてしまうなどの問題が発生する。材料費の点でも、アルミニウムの下層、上層にはそれぞれバリア膜、キャップ膜として高価なモリブデンを使用していることに加え、そのエッチング液の主成分である燐酸が肥料需要の高まりとともに高騰しつつあるなど、高コスト要因が並んでいる。
【0004】
アルミニウムを下回る低抵抗率を有し、かつ材料費がリーズナブルである信号線材料として銅がある。銅は、薄膜の抵抗率が約2μΩcmと低く、透明導電膜(一般的には、インジウムを主成分とする酸化物)と直接的に電気的コンタクトを取ることができるという特徴を有している。
【0005】
銅を信号線に用いる方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、Cu/Mo積層膜からなる信号線を適用する方法がある。この信号線の膜構造においてモリブデンは下地との付着力確保を担い、半導体層への銅の拡散バリアをも兼ねている。
【0006】
また、銅を信号線に用いる別の方法としては、銅、及び銅を主成分とする合金によって配線膜を構成する。非特許文献1には、TFT基板のソース・ドレイン電極を形成する方法として、半導体層のコンタクト層の表面を予備酸化し、その上にCuMn合金を成膜しアルゴン雰囲気で熱処理することによりCuMn合金/コンタクト層界面とCuMn合金表面にMnを酸化物として析出する方法が記載されている。これによって、密着性の確保と銅の拡散バリアと低抵抗率とを実現している。なお、非特許文献1ではCuMn合金を用いているが、他のCu合金を用いた場合でもCu合金/コンタクト層界面にCu合金の添加元素を酸化物として析出できるならば同様の効果が期待できる。
【0007】
上述の非特許文献1では、銅合金の下地が酸素を含有し、銅合金中の添加元素と下地中の酸素とが反応してその界面に添加元素の酸化物層を形成し、その酸化物層が密着層や銅のバリア層として機能する。但し、Cu合金はCuよりも抵抗率が高い。そこで、ソース・ドレイン電極の膜構造としてCu/CuMn合金のような積層構造を採用することにより、抵抗を低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−163901号公報
【特許文献2】特開2007−27259号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「大画面液晶配線を全て低抵抗Cu合金に残されたソース・ドレイン課題を解決」、東北大学工学研究科プレスリリース、2008年9月10日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、半導体層を水素終端処理する際に、Cuが用いられたドレイン電極とソース電極が基板上に露出していると、ドレイン電極およびソース電極が下地から剥離する場合がある。
【0011】
例えば、発明者らがCu/Cu合金の膜構造を採用して薄膜トランジスタ基板を作成しようとしたところ、ドレイン電極とソース電極とコンタクト層とを加工して薄膜トランジスタのチャネルを形成した後、チャネルである前記半導体層の表面を水素プラズマを用いて水素終端処理する工程において、Cu/Cu合金がコンタクト層やゲート絶縁膜から剥離してしまうという現象が生じた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、半導体層の水素終端処理をする際に、Cuが用いられたドレイン電極及びソース電極が基板上に露出する場合であっても、ドレイン電極及びソース電極の剥離が生じにくくなる表示装置の製造方法、および、表示装置を提供することを目的とする。上記した課題以外の課題は、本明細書において明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる表示装置の製造方法は、上記課題に鑑みて、複数の薄膜トランジスタが配列された基板を有する表示装置の製造方法において、前記薄膜トランジスタの半導体層上の一部に、単層もしくは複数の導電層を含むソース電極及びドレイン電極を形成する電極形成工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が前記基板上に露出している状態で、前記半導体層に水素終端処理をする水素終端工程と、を含み、前記電極形成工程は、ネオンを含む不活性ガスを導入することにより前記基板上に銅を付着させる工程を含む、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる表示装置の製造方法の一態様では、前記電極形成工程は、前記基板上に銅合金を蒸着する第1蒸着工程と、前記第1蒸着工程の後に、前記基板上に銅を蒸着する第2蒸着工程と、を含み、前記第1蒸着工程と前記第2蒸着工程の少なくとも一方では、ネオンを含む不活性ガスが導入される、ことを特徴としてよい。
【0015】
また、本発明にかかる表示装置の製造方法の一態様では、前記第1蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、銅を主成分として少なくとも1種類の添加元素を含有する銅合金とし、前記第2蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、前記銅合金よりも高純度となる銅とする、ことを特徴としてよい。
【0016】
また、本発明にかかる表示装置の製造方法の一態様では、前記第1蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、銅を主成分として、0.5原子%以上20原子%以下となる少なくとも1種類の添加元素を含有する銅合金であって、前記第2蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、99.5原子%以上の純度を有する銅である、ことを特徴としてよい。
【0017】
また、本発明にかかる表示装置は、上記課題に鑑みて、複数の薄膜トランジスタが配列された基板を有する表示装置であって、前記薄膜トランジスタは、半導体層と、当該半導体層上の一部に複数層もしくは単層の導電層が積層されて構成されるソース電極及びドレイン電極を有し、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、銅とネオンとを含有する少なくとも一層の導電層を有する、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる表示装置の一態様では、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、銅を主成分として少なくとも1種類の添加元素を有する銅合金を含有する第1の導電層と、前記第1の導電層の上側に、前記銅合金よりも高純度となる銅を含有する第2の導電層と、を有し、前記第1の導電層および前記第2の導電層の少なくとも一方は、ネオンを含有する、ことを特徴としてよい。
【0019】
また、本発明にかかる表示装置の一態様では、前記第2の導電層は、99原子%以上の銅と、0.01原子%以上1原子%以下のネオンを含有する、ことを特徴としてよい。
【0020】
また、本発明にかかる表示装置の一態様では、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、少なくとも1種類の添加元素を含む銅合金をスパッタリングターゲットとして、ネオンもしくはアルゴンを含む不活性ガスが導入されることにより蒸着される第1の導電層と、前記銅合金よりも高純度となる銅をスパッタリングターゲットとして、ネオンを含む不活性ガスが導入されることにより蒸着される第2の導電層と、を有する、ことを特徴としてよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体層の水素終端処理をする際に、Cuが用いられたソース電極およびドレイン電極が基板上に露出している場合であっても、剥離が生じにくい表示装置の製造方法および表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1にかかるインプレインスイッチング型液晶表示装置を概略的に示す図である。
【図2】実施形態1における液晶パネルが有するTFT基板の概略図である。
【図3】実施形態1における液晶パネルの概略断面図である。
【図4A】実施形態1における第1フォトリソグラフィ工程のTFT基板の様子を示す図である。
【図4B】実施形態1における第1フォトリソグラフィ工程のフロー図である。
【図5A】実施形態1における第2フォトリソグラフィ工程のTFT基板の様子を示す図である。
【図5B】実施形態1における第2フォトリソグラフィ工程のフロー図である。
【図6A】実施形態1における第3フォトリソグラフィ工程のTFT基板の様子を示す図である。
【図6B】実施形態1における第3フォトリソグラフィ工程のフロー図である。
【図7A】実施形態1における第4フォトリソグラフィ工程のTFT基板の様子を示す図である。
【図7B】実施形態1における第4フォトリソグラフィ工程のフロー図である。
【図8A】実施形態1における第5フォトリソグラフィ工程のTFT基板の様子を示す図である。
【図8B】実施形態1における第5フォトリソグラフィ工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。本発明は、下記で説明する実施形態における技術的思想を逸脱しない範囲内において適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0024】
[実施形態1]
図1は、本実施形態にかかるインプレインスイッチング型液晶表示装置700を概略的に示す図である。液晶表示装置700では、同図で示すように、上フレーム710及び下フレーム720に挟まれるように、液晶パネル800が保持されている。液晶パネル800の下側には、不図示のバックライトが配置される。液晶パネル800は、複数の薄膜トランジスタが配列されたTFT基板と、対向基板を有している。図2は、本実施形態における液晶パネル800が有するTFT基板800aの概略図である。同図で示すように、TFT基板800aには、複数の走査信号線802と、複数の映像信号線809が升目状に敷設される。走査信号線802及び映像信号線809は、駆動回路830,840から信号が供給される。また、これらの信号線による区画に対応して、液晶表示装置700の一画素として機能する画素領域810が形成される。
【0025】
図3は、本実施形態にかかるインプレインスイッチング型液晶パネル800の概略断面図である。同図で示すように、液晶パネル800は、TFT基板800aと、対向基板800bとを有しており、これらの間には液晶16が封止される。本実施形態における薄膜トランジスタは、半導体層が、第1半導体層6及び第2半導体層7によって構成され、ゲート電極2が、透明導電膜2aと配線層2bによって構成され、ドレイン電極9及びソース電極10が、第1の導電層9a,10aと、第2の導電層9b,10bと、酸化物層9c,10cとによって構成される。また、本実施形態では、ドレイン電極9が映像信号線809に接続されて、ゲート電極2は走査信号線802に接続される。ドレイン電極9と映像信号線809、及び、ゲート電極2と走査信号線802は、それぞれ同一の工程で形成されて同一の積層構造を有している。
【0026】
TFT基板800aの製造方法については、図4から図8までを用いて説明する。図4から図8までの各図において、図4A、図5A、図6A、図7A、図8Aは、各工程におけるTFT基板800aの概要図を示し、図4B、図5B、図6B、図7B、図8Bは各工程のフローを示す。
【0027】
図4から図8までは、各フォトリソグラフィ工程に対応して区分けしたもので、図4A、図5A、図6A、図7A、図8Aともフォトレジストを除去した段階を示している。以下の説明で、レジストパタン形成とは、フォトレジストの塗布からマスクを使用した選択露光を経てそれを現像しベークするまでの一連の工程を示すものとし、繰返しの説明は避ける。以下区分けした工程に従って説明する。
【0028】
図4Aは、第1フォトリソグラフィ工程におけるTFT基板800aの様子を示す図であり、図4Bは第1フォトリソグラフィ工程のフロー図である。図4Aで示すように、透明導電膜2aと配線層2bとによってゲート電極2が形成されるとともに、透明導電膜3aによって共通電極が形成され、配線層3bによって共通信号線が形成される。
【0029】
図4Bのフロー図では、まず、S101において、無アルカリガラスからなるガラス基板1上にインジウム錫酸化物からなる透明導電膜をスパッタリングにより成膜するとともに、配線層をスパッタリングにより成膜する。ここで、透明導電膜は、インジウム亜鉛酸化物、インジウム錫亜鉛酸化物であってもよい。膜厚は10nm〜150nmの程度であり、約20nm〜50nmが好適である。配線層については、アルミニウムを用いて成膜してもよいし、銅を用いて成膜してもよい。
【0030】
次に、ハーフ露光マスクを用いてレジストパタンを形成する(S102)。ここで、配線層2b(走査信号線802を含む)、配線層3b(共通信号線)を構成する部分には露光をせずレジストを厚く形成し、透明導電膜3a(共通電極)を形成する部分はハーフ露光としてレジストを薄く形成する。その後、レジストが形成されなかった部分(バイナリ露光部)の配線層を選択的にエッチング除去し(S103)、続いて透明導電膜を選択的にエッチング除去する(S104)。
【0031】
次に、ハーフ露光部のレジストをアッシングにより除去する(S105)。アッシングの後、ハーフ露光部の配線層を選択的にエッチング除去し(S106)、レジストを剥離する(S107)。
【0032】
以上の第1フォトリソグラフィ工程により、走査信号線802(ゲート電極2、走査信号線端子を含む)、共通信号線(共通信号線端子を含む)、共通(透明)電極が形成される。
【0033】
図5Aは、第2フォトリソグラフィ工程におけるTFT基板800aの様子を示す図であり、図5Bは第2フォトリソグラフィ工程のフロー図である。図5Aで示すように、第2リソグラフィ工程では、ゲート絶縁膜5と、第1半導体層6と、第2半導体層7とが形成される。
【0034】
図5Bのフロー図について説明をする。同図で示すように、まず、S201において、窒化ケイ素からなるゲート絶縁膜5と、非晶質ケイ素からなる第1半導体層6と、n+型非晶質ケイ素からなる第2半導体層7をプラズマ化学蒸着法で連続的に成膜する。第1半導体層6は、配線層2bから電界が印加されることにより、ソース電極10およびドレイン電極9間の電流を制御する半導体層であり、第2半導体層7は、ソース電極10およびドレイン電極9とそれぞれコンタクトする半導体層である。
【0035】
次に、バイナリ露光マスクによってレジストパタンを形成する(S202)。その後、第2半導体層7、第1半導体層6を選択的にエッチング除去する(S203)。そして、レジストを剥離すると、いわゆる島状パタンが形成される(S204)。ここで、第2半導体層7の表面を酸化処理する(S205)。酸化処理方法は、酸素プラズマ処理、オゾン水処理、過酸化水素水処理、温水処理、大気酸化処理のいずれか、またはその他の方法によってもよい。
【0036】
特に、図6Aは第3フォトリソグラフィ工程におけるTFT基板800aの様子を示す図であり、図6Bは、第3フォトリソグラフィ工程のフロー図である。第3リソグラフィ工程は、第2半導体層7上の一部に、ソース電極10及びドレイン電極9を形成する工程(電極形成工程)である。図6Aで示すように、本実施形態では、第1の導電層9aと第2の導電層9bとの2層を含んでドレイン電極9が形成され、第1の導電層10aと第2の導電層10bの2層を含んでソース電極10が形成される。また、第1の導電層9a,10aは、少なくとも1種類の添加元素を有して銅を主成分とする銅合金が含有されるように形成され、第2の導電層9b,10bには、当該銅合金よりも高純度となる銅が含有されるように形成される。
【0037】
図6Bに示される第3フォトリソグラフィ工程のS301では、まず、第1蒸着工程によって第1の導電層が成膜され、次に、第2蒸着工程によって、第2の導電層が成膜される。
【0038】
第1蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、銅を主成分として、0.5原子%以上20原子%以下となる少なくとも1種類の添加元素を含有する銅合金である。また、第2蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、99.5原子%以上の純度を有する銅である。この第1蒸着工程および第2蒸着工程によって、TFT基板800a上に銅が付着されることとなる。本実施形態では、具体的には、第1蒸着工程では、マンガンを4原子%含有し銅を主成分とする合金からなるスパッタリングターゲットを原料として、第1の導電層がTFT基板800a上に蒸着される。また、第2蒸着工程では、99.99%純度の銅からなるスパッタリングターゲットを原料として、第2の導電層がTFT基板800a上に蒸着される。そして特に、第1蒸着工程および第2蒸着工程は、同一のスパッタリング装置内において、ネオンガスをスパッタガスとして導入し、マグネトロンスパッタリングにより連続的になされる。以上のようにして、第1の導電層および第2の導電層によるCu/Cu合金膜がTFT基板800a上に形成される。また、ネオンガス圧を0.1Paから5Paとすることで、第2の導電層9b,10bは、99原子%以上の銅と0.01原子%から1原子%程度のネオンとを含有することとなる。スパッタガスにネオンガスを用いる場合には、後述する原理により、アルゴンガスを用いる場合よりも蒸着膜の引張応力を軽減でき、水素プラズマ処理での剥離が生じにくくなる。
【0039】
図7Bにて後述する水素プラズマ処理時におけるドレイン電極9、映像信号線809(映像信号線端子を含む)、及びソース電極10の剥離を防止するためには、第2の導電層9bのネオン含有量を増やした方がよいが、第2の導電層9bの抵抗率の上昇やスパッタ放電の安定性を考慮すると、ネオンガス圧を0.12Paから0.2Pa程度としネオン含有量を0.5から1原子%程度とするのが望ましい。
【0040】
また、本実施形態では、第1蒸着工程および第2蒸着工程の双方のスパッタガスにネオンガスを用いているが、第1蒸着工程および第2蒸着工程の少なくとも一方のスパッタガスにネオンを用いればよい。これにより、ソース電極10及びドレイン電極9に生じる引張応力が軽減され、水素プラズマ処理時における剥離が抑えられる。また、第1蒸着工程および第2蒸着工程の少なくとも一方において導入されるスパッタガスが、ネオンを含む不活性ガスであればよく、アルゴンとネオンとが混合された不活性ガスであってもよい。アルゴンとネオンとが混合された不活性ガスの場合にも、その混合の割合に応じて、水素プラズマ処理時における剥離が抑えられることとなる。また、第1の導電層9a,10aの膜厚は10nm〜100nmの程度であり、約20nm〜50nmが好適である。第2の導電層9b,10bの膜厚は100nm〜1000nmの程度であり、約200nm〜500nmが好適である。
【0041】
なお、第1の導電層9a,10aにおける銅合金の添加元素としては、本実施形態のマンガンのほか、アルミニウム、ベリリウム、カルシウム、ガリウム、マグネシウム、チタン、バナジウム、亜鉛から選ぶことが可能である。これらのうち、チャネル部12にエッチング残渣を残す心配が少ないという点ではマンガンとマグネシウムとが好適であり、図7Bにて後述する水素プラズマ処理時におけるドレイン電極9、映像信号線809(映像信号線端子を含む)、及びソース電極10の剥離をより確実に防止するためには、マンガンが最適である。添加元素は、一種類、または二種類以上であってもよい。
【0042】
図6Bに示される第3フォトリソグラフィ工程では、S302において、バイナリ露光マスクによるレジストパタンが形成される。その後、S303において、第2の導電層と第1の導電層とが選択的にエッチング除去される。そしてさらに、第2半導体層7が選択的にエッチング除去されて(S304)、レジストが剥離される(S305)。S301〜S305により、ドレイン電極9、映像信号線809(映像信号線端子を含む)、及びソース電極10が形成され、薄膜トランジスタのチャネル部12がTFT基板800a上に露出した状態となる。
【0043】
図7Aは、第4フォトリソグラフィ工程におけるTFT基板800aの様子を示す図であり、図7Bは第4フォトリソグラフィ工程のフロー図である。図7Aで示すように、第4リソグラフィ工程では、第1半導体層6のチャネル部12と、ドレイン電極9と、ソース電極10とを覆うように保護絶縁膜11が形成されて、さらに、スルーホール14が開口される。また、第2半導体層7と第1の導電層9a,10aの界面で、酸化物層9c,10cが形成される。
【0044】
図7Bに示される第4フォトリソグラフィ工程では、特にS401において、チャネル部12の第1半導体層6の表面の水素終端処理として、水素プラズマ処理が施される(水素終端工程)。本実施形態における水素プラズマ処理は、TFT基板800a上にソース電極10及びドレイン電極9が露出している状態でなされる。図6Bで前述したように、第3フォトリソグラフィ工程で、ネオンを含むスパッタガスを用いて、ドレイン電極9、映像信号線809(映像信号線端子を含む)、及びソース電極10を形成することにより、水素プラズマ処理によるこれらの剥離を抑えることができる。続いてS402において、窒化シリコンからなる保護絶縁膜11をプラズマ化学蒸着法で成膜する。また、S401における水素プラズマ処理や、S402における保護絶縁膜11成膜の温度は約230℃であり、この時、第2フォトリソグラフィ工程において予備酸化した第2半導体層7(S205)と、第1の導電層9aとの界面で、第1の導電層9aの添加元素の酸化反応が起こり、薄い酸化物が生成する。この酸化物層9c,10cは、第1の導電層9aと第2の導電層9bに含有される銅が、第2半導体層7と第1半導体層6に拡散するのを遮断するバリア層として、または、密着層として機能する。その後、バイナリ露光マスクによるレジストパタンを形成し(S403)、ソース電極10上の保護絶縁膜11にスルーホール14を開口する。また、同時に、映像信号線端子上の保護絶縁膜11にスルーホール(図示せず)を開口し、走査信号線端子上上の保護絶縁膜11とゲート絶縁膜5にスルーホール(図示せず)を開口する(S404)。そしてS405では、レジストを剥離する。
【0045】
図8Aは、第5フォトリソグラフィ工程におけるTFT基板800aの様子を示す図であり、図8Bは第5フォトリソグラフィ工程のフロー図である。図8Aで示すように、第5リソグラフィ工程では、スルーホール14を介してソース電極10と接続する画素電極15が形成される。
【0046】
図8Bの第5フォトリソグラフィ工程で示すように、まず、S501では、インジウム錫酸化物からなる透明導電膜がスパッタリングにより成膜される。次に、バイナリ露光マスクによるレジストパタンが形成される(S502)。その後、画素電極15、走査信号線端子(図示せず)、共通信号線端子(図示せず)、映像信号線端子(図示せず)のパタン部を除き透明導電膜が選択的にエッチング除去される(S503)。そして、レジストが剥離される(S504)。以上のような工程を含んで、TFT基板800aが形成される。
【0047】
なお、本実施形態では、ドレイン電極9及びソース電極10を、上述のような第1の導電層と第2の導電層との2層構造としているが、例えば、銅とモリブデンの2層構造(Cu/Mo)としてもよいし、銅の単層構造としてもよい。また、2層構造とする場合には、同一チャンバー内で連続成膜しても良いし、異なるスパッタリング装置を用いて別々に成膜して良い。また、ドレイン電極9及びソース電極10を3層以上の導電層で構成してもよい。なお、高純度となる銅による単層構造となる場合は、本実施形態の場合と比べて、下地との付着力が弱くなり、第2半導体層7に銅が拡散してトランジスタ特性が悪化しやすくなる。
【0048】
なお、ドレイン電極9及びソース電極10を銅とモリブデンの2層構造(Cu/Mo)とする場合には、下層のモリブデンは、下地との付着力確保を担い、第2半導体層7に銅が拡散するのを防ぐ拡散バリアも兼ねている。しかし、このCu/Moを加工するためには不安定な過酸化水素を酸化剤とするウェットエッチング液を使用しなければならない。そのパフォーマンスを維持するためには液組成をほぼ一定に保つ必要があり、そのためにはエッチング液の更新頻度を高める必要がある。これは、液の使用量増大に繋がり、延いては高コスト要因となってしまう。また、バリア膜に高価なモリブデンを使用する点も高コストの要因である。したがって、ドレイン電極9およびソース電極10を銅とモリブデンの2層構造とするよりも、本実施形態のような第1の導電層9a,10aと第2の導電層9b,10bの2層構造とするのが望ましい。これにより、高コストなモリブデンンを使用せずに、ウェットエッチング液の問題も回避することができるためである。
【0049】
なお、アルゴンガスをスパッタガスとして用いてスパッタしたCu/Mo膜の膜応力と、ネオンをスパッタガスとして用いてスパッタしたCu/Mo膜の膜応力とを比較した。それぞれのCu/Mo膜は、300nm/20nmの膜厚で作成した。ここで下層としてMo膜を採用すると、Mo膜が密着層として機能することにより、Cu層が高い応力となっても膜が剥離しにくく膜応力の測定をしやすいためである。その結果、アルゴンガスをスパッタガスとした場合は約150MPaの引張応力であるのに対し、ネオンガスの場合は約150MPaの圧縮応力(即ち、約−150MPaの引張応力)となった。さらに、これらのCu/Mo膜を水素プラズマ処理したところ、アルゴンガスをスパッタガスとした膜の応力は約700MPaの引張応力であるのに対し、ネオンガスの場合は約400MPaの引張応力であった。
【0050】
なお、アルゴンガスをスパッタガスとして用いてスパッタしたCu/Cu合金膜と、ネオンをスパッタガスとして用いてスパッタしたCu/Cu合金膜とを作成し、水素プラズマ処理による剥離の有無を調べた。それぞれのCu/Cu合金膜は300nm/20nmの膜厚で作成した。その結果、アルゴンガスをスパッタガスとした膜では剥離を生じたが、ネオンガスの場合には剥離を生じなかった。また、このネオンガスをスパッタガスとしたCu膜中のネオン元素を定量分析したところ、スパッタガス圧が0.12Paのときには約1原子%、5Paのときには約0.01原子%のネオンがCu膜中に取り込まれた。従って、スパッタガスをネオンとすることによりCu膜中にネオンが必然的に取り込まれる。そして、ネオンを含むCu膜が低引張応力の性質を示し、延いては水素プラズマ処理に対する剥離耐性が付与されたものと考えられる。このような効果は、スパッタガスをアルゴンとネオンとの混合ガスとした場合にも、その混合割合に応じて発現する。
【0051】
なお、アルゴンガスよりも分子量の低いネオンガスをスパッタガスとすることで、スパッタリングターゲットの表面から銅が弾き出される効率は落ちる。しかし、ネオンの原子量がアルゴンの原子量よりも低いことから、ターゲットの表面から弾き出された銅がTFT基板800a上に蒸着される間に散乱されにくくなり、高い運動量を有した状態で基板に付着させられると考えられる。そしてこのような原理により、スパッタガスにネオンガスを用いる場合のほうが、アルゴンガスを用いる場合よりも、成膜されたCu膜の低引張応力を示すようになるものと考えられる。また、仮に、上記の原理とは異なる原理によってネオンガスを導入して成膜したCu膜やCu合金膜が低引張応力を示すのであっても、本発明の範囲内となるものとする。
【0052】
なお、本実施形態では、第1リソグラフィ工程における配線層2b,3bに
は、アルミニウムを用いてもよいし、銅を用いてもよいとしている。この配線層2b,3bは、第3リソグラフィ工程におけるドレイン電極9とソース電極10と同様に、銅を主成分とする銅合金を含有する第1の導電層と、当該銅合金よりも高純度となる銅を含有する第2の導電層を含んで形成されるのがさらに好適である。具体的には、配線層2b,3bは、マンガンを4原子%含有し銅を主成分とする合金からなるスパッタリングターゲットを原料として第1の導電層を、99.99%純度の銅からなるスパッタリングターゲットを原料として第2の導電層を、マグネトロンスパッタリングにより連続成膜する。スパッタガスは、ネオンガスであってもよいし、アルゴンガスであってもよいし、アルゴンとネオンの混合ガスであってもよい。この第1の導電層の膜厚は10nm〜100nmの程度であり、約20nm〜50nmが好適である。第2の導電層の膜厚は100nm〜1000nmの程度であり、約200nm〜500nmが好適である。なお、第1の導電層を成膜するためのスパッタリングターゲットである銅合金の添加元素としては、マンガンのほか、アルミニウム、ベリリウム、カルシウム、ガリウム、マグネシウム、チタン、バナジウム、亜鉛から選ぶことが可能であるが、第3フォトリソグラフィ工程で形成する映像信号線、ソース電極、ドレイン電極の第1の導電層の材料と共通化することで材料調達が効率的になり好適である。そしてさらに、第2リソグラフィ工程のS201におけるゲート絶縁膜5の成膜温度は約300℃であり、この時、第1フォトリソグラフィ工程で形成した透明導電膜と第1の導電層との界面に金属酸化物層(この場合はマンガン酸化物層)が形成され、これが密着層として機能する。
【0053】
なお、本実施形態にかかる表示装置は、上述したようにインプレインスイッチング(In
Plane Switching)方式の液晶表示装置であるが、TN(Twisted Nematic)方式やVA(Vertical Alignment)方式などの他の方式の液晶表示装置であってもよい。また、本実施形態にかかる表示装置は、液晶表示装置であるが、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置などの他の表示装置であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ガラス基板、2 ゲート電極、2a,3a 透明導電膜、2b,3b 配線層、5 ゲート絶縁膜、6 第1半導体層、7 第2半導体層、9 ドレイン電極、10 ソース電極、9a,10a 第1の導電層、9b,10b 第2の導電層、9c,10c 酸化物層、11 保護絶縁膜、12 チャネル部、14 スルーホール、15 画素電極、16 液晶、17 ガラス基板、18 配向膜、19 ブラックマトリクス、21 平坦化膜、22 偏光板、23 カラーフィルタ、700 液晶表示装置、710 上フレーム、720 下フレーム、800 液晶パネル、800a TFT基板、800b 対向基板、802 走査信号線、809 映像信号線、810 画素領域、830,840 駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の薄膜トランジスタが配列された基板を有する表示装置の製造方法において、
前記薄膜トランジスタの半導体層上の一部に、単層もしくは複数の導電層を含むソース電極及びドレイン電極を形成する電極形成工程と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極が前記基板上に露出している状態で、前記半導体層に水素終端処理をする水素終端工程と、を含み、
前記電極形成工程は、ネオンを含む不活性ガスを導入することにより前記基板上に銅を付着させる工程を含む、
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された表示装置の製造方法において、
前記電極形成工程は、
前記基板上に銅合金を蒸着する第1蒸着工程と、
前記第1蒸着工程の後に、前記基板上に銅を蒸着する第2蒸着工程と、を含み、
前記第1蒸着工程と前記第2蒸着工程の少なくとも一方では、ネオンを含む不活性ガスが導入される、
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された表示装置の製造方法において、
前記第1蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、銅を主成分として少なくとも1種類の添加元素を含有する銅合金とし、
前記第2蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、前記銅合金よりも高純度となる銅とする、
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された表示装置の製造方法において、
前記第1蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、銅を主成分として、0.5原子%以上20原子%以下となる少なくとも1種類の添加元素を含有する銅合金であって、
前記第2蒸着工程におけるスパッタリングターゲットは、99.5原子%以上の純度を有する銅である、
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項5】
複数の薄膜トランジスタが配列された基板を有する表示装置であって、
前記薄膜トランジスタは、半導体層と、当該半導体層上の一部に複数層もしくは単層の導電層が積層されて構成されるソース電極及びドレイン電極を有し、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、銅とネオンとを含有する少なくとも一層の導電層を有する、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載された表示装置であって、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、銅を主成分として少なくとも1種類の添加元素を有する銅合金を含有する第1の導電層と、前記第1の導電層の上側に、前記銅合金よりも高純度となる銅を含有する第2の導電層と、を有し、
前記第1の導電層および前記第2の導電層の少なくとも一方は、ネオンを含有する、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項7】
請求項6に記載された表示装置であって、
前記第2の導電層は、99原子%以上の銅と、0.01原子%以上1原子%以下のネオンを含有する、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項8】
請求項5に記載された表示装置であって、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、
少なくとも1種類の添加元素を含む銅合金をスパッタリングターゲットとして、ネオンもしくはアルゴンを含む不活性ガスが導入されることにより蒸着される第1の導電層と、
前記銅合金よりも高純度となる銅をスパッタリングターゲットとして、ネオンを含む不活性ガスが導入されることにより蒸着される第2の導電層と、を有する、
ことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2011−150152(P2011−150152A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11665(P2010−11665)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】