説明

誘電体薄膜、薄膜誘電体素子およびその製造方法

【課題】 比誘電率が高く、リーク電流が小さく、物理特性および電気特性の安定した誘電体薄膜を提供すること、および高容量かつ信頼性の高い薄膜コンデンサなどの薄膜誘電体素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 組成式が(BaSr(1−x)TiO(0.5<x≦1.0、0.96<a≦1.00)で表される酸化物、例えば、チタン酸バリウムストロンチウムを含有し、厚みが500nm以下である誘電体薄膜および、該誘電体薄膜を導電性電極上に形成した後に酸化性ガス雰囲気下でアニールする工程を含む薄膜誘電体素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体薄膜、薄膜誘電体素子およびその製造方法に係り、特に、高い誘電率を有し、リーク電流を低くすることができる誘電体薄膜、薄膜誘電体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の分野では、電子回路の高密度化・高集積化に伴い、各種電子回路に必須の回路素子であるコンデンサなどの一層の小型・薄層化および大容量化が望まれている。
【0003】
コンデンサを小型・薄層化および大容量化するために、比誘電率の高い誘電体材料が用いられており、このような誘電体材料として、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO:BT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO:ST)、チタン酸バリウムストロンチウム(BaSrTiO:BST)などのペロブスカイト型酸化物が挙げられる。
【0004】
なかでも、チタン酸バリウム(BT)、チタン酸ストロンチウム(ST)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)は、比誘電率が高く、長寿命であり、特性的に優れている。特に、チタン酸バリウム(BT)とチタン酸ストロンチウム(ST)との全率固溶体であるチタン酸バリウムストロンチウム(BST)は、BTとSTとの比率を変化させることによりキュリー温度を調整することができ、室温でも高誘電率の常誘電体とすることが可能である。
【0005】
また、このようなコンデンサにおいて、たとえば各種電子回路に必須の回路素子として使用されるコンデンサ素子は、薄膜素子とする必要がある。したがって、コンデンサ素子の誘電体層として使用されるBT、STおよびBSTについても薄膜化し、誘電体薄膜とする必要がある。このように上記誘電体材料を誘電体薄膜としたときには、誘電率が高く、かつ、リーク電流を小さくすることが望まれる。
【0006】
しかし、このような誘電体薄膜においては、高誘電率と低リーク電流という特性を両立することは一般に困難とされている。この問題を解決するために、BSTに添加物をドーピングする方法が行われており、たとえば特許文献1では、BSTにエルビウム(Er)をドーピングしたEr添加BSTが提案されている。しかし、この文献記載の発明のように、BT、STまたはBSTなどの誘電体を500nm程度以下と薄膜化した場合においては、添加物であるErを均一に添加することは難しく、添加物の分布ばらつきが生じるため、安定な特性を得ることが困難である。
【0007】
また、特許文献2には、(Ba,Sr)TiO の化学式で表されるペロブスカイト型の酸化物であり、1.00<y≦1.20の組成を有する誘電体薄膜が開示されており、高誘電率化と低リーク電流化が図られている。この文献の実施例では、誘電体薄膜を構成するBSTの組成を、バリウムとストロンチウムとの比が等量である(Ba0.5,Sr0.5TiO とし、yの値を1.00<y≦1.20としている。しかし、BSTの組成を上記組成範囲とした場合には、高誘電率と低リーク電流の両立に関しては、未だ十分であるとは言い難く、特に、誘電体薄膜をさらに薄膜化した場合(たとえば100nm以下とした場合)においては、比誘電率および低リーク電流特性のいずれも十分であるとは言えない。
【0008】
【特許文献1】特開平8−198669号公報
【特許文献2】特開平7−17713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、比誘電率が高く、リーク電流が小さく、物理特性および電気特性の安定した誘電体薄膜を提供することである。また、本発明は、このような誘電体薄膜を用い、高容量かつ信頼性の高い薄膜コンデンサなどの薄膜誘電体素子および、その製造方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者等は、組成式が(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物を含有する誘電体薄膜において、組成比を限定することにより、前記酸化物以外の添加物を用いることなく、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る誘電体薄膜は、
組成式が(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物、例えば、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)を含有する誘電体薄膜であって、
組成比を示す記号x,aが、
0.5<x≦1.0、
0.96<a≦1.00であり、
厚みが500nm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明は、(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物を含有する誘電体薄膜において、誘電体薄膜の厚みを500nm以下とし、前記組成を、バリウムがストロンチウムより多い組成であり、Aサイトを構成する元素の量が、Bサイトを構成する元素の量と同じか、わずかに少ない組成とすることを特徴とする。前記組成をこのような組成範囲とすることにより、比誘電率が高く、リーク電流が小さく、物理特性および電気特性の安定した誘電体薄膜を得ることができる。
【0013】
また、本発明においては、前記組成以外の添加物を実質的に使用しないため、添加物使用時に起こりやすい添加物の分布のばらつき等の問題が実質的に起こらない。なお、本明細書において、(BaSr(1−x)TiO(0.5<x≦1.0、0.96<a≦1.00)は、厳密な化学量論的組成に限定するものではなく、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0014】
本発明に係る誘電体薄膜は、好ましくは、比誘電率が450以上、印加電界強度100kV/cmのときのリーク電流密度が1×10−6A/cm以下である。
【0015】
本発明に係る誘電体薄膜は、好ましくは、前記組成比を示す記号aが、0.96<a<1.00であり、さらに好ましくは0.98≦a<1.00である。
【0016】
本発明に係る薄膜誘電体素子は、
基板上に、下部電極、誘電体薄膜および上部電極が順次形成してあり、
前記誘電体薄膜が、上述した本発明に係る誘電体薄膜であることを特徴とする。
【0017】
あるいは、本発明の薄膜誘電体素子は、
基板上に、誘電体薄膜と内部電極薄膜とが交互に複数積層してあり、
前記誘電体薄膜が、上述した本発明に係る誘電体薄膜であることを特徴とする。
【0018】
薄膜誘電体素子の具体例としては、特に限定はされないが、たとえば、薄膜コンデンサ、積層薄膜コンデンサ、無機EL素子およびDRAM用キャパシタなどが挙げられる。また、本発明の薄膜誘電体素子は、直接半導体基板上へ形成し、基板上に実装された薄膜誘電体素子としてもよい。
【0019】
本発明の薄膜誘電体素子は、単層の素子または多層の素子とすることが可能である。単層の素子は、基板上に、下部電極、誘電体薄膜および上部電極を順次形成することによって構成される。一方、多層の素子は、基板上に、下部電極を形成し、その下部電極上に、誘電体薄膜と内部電極薄膜とを交互に複数積層し、その上に上部電極を形成することによって構成される。
【0020】
本発明の薄膜誘電体素子の製造方法は、
上述した本発明の誘電体薄膜を導電性電極上に、スパッタリング法により形成する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
ここで、導電性電極とは、前記下部電極または前記内部電極薄膜を意味する。本発明の薄膜誘電体素子の製造方法においては、前記誘電体薄膜の形成をスパッタリング法によって行うため、組成制御が良好であり、かつ広面積の基板上に速い速度で、物理特性および電気特性の安定した誘電体薄膜を形成することができる。
【0022】
本発明に係る薄膜誘電体素子の製造方法は、好ましくは、
前記スパッタリング法を、アルゴンガスと酸素ガスを混合した酸化性ガス雰囲気中で行い、
前記酸化性ガス中の酸素ガスの比率が、0体積%より多く、50体積%以下である。
【0023】
本発明においては、前記スパッタリング法を酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましく、このようにすることにより、酸化物、例えばBSTの結晶構造からの酸素欠損の発生を有効に防止することができる。
【0024】
本発明に係る薄膜誘電体素子の製造方法は、好ましくは、前記誘電体薄膜を酸化性ガス雰囲気下でアニールする工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、組成式が(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物において、組成比を限定し、厚みを500nm以下とすることで、比誘電率が高く、リーク電流が小さく、物理特性および電気特性の安定した誘電体薄膜および薄膜誘電体素子を提供することができる。
【0026】
さらに、本発明の薄膜誘電体素子の製造方法によると、本発明の誘電体薄膜の形成をスパッタリング法によって行うため、高容量かつ信頼性の高い薄膜コンデンサなどの薄膜誘電体素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る薄膜誘電体素子の断面図、
図2は本発明の実施例に係る薄膜誘電体素子の断面図、
図3は組成式(BaSr(1−x)TiOにおけるaの値と比誘電率との関係を示すグラフ、
図4は組成式(BaSr(1−x)TiOにおけるaの値とリーク電流密度との関係を示すグラフである。
【0028】
本実施形態では、本発明の誘電体薄膜を単層で形成する薄膜誘電体素子1を例示して説明する。
【0029】
薄膜誘電体素子1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る薄膜誘電体素子1は、基板2上に、絶縁膜3、下部電極4、誘電体薄膜5および上部電極6が順次形成されることにより、構成されている。
【0030】
基板2は、下部電極や誘電体薄膜および上部電極を支持する基板であり、化学的安定性が高く応力発生が少ないものであれば良く、セラミック、ガラス、シリコンなどで構成される。本実施形態では、基板2は、シリコン単結晶基板で構成される。
【0031】
絶縁膜3は、シリコン酸化膜(SiO)であり、シリコン単結晶基板を熱酸化処理することにより形成される。
【0032】
下部電極4を形成する材料は、導電性を有する材料であれば、格別限定されるものではなく、たとえば、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの金属またはそれらの合金や、また、ガリウム砒素(GaAs)、ガリウム燐(GaP)、インジウム燐(InP)、炭化シリコン(SiC)などの導電性半導体や、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、酸化インジウム(In)、二酸化イリジウム(IrO)、二酸化ルテニウム(RuO)、三酸化レニウム(ReO)、LSCO(La0.5Sr0.5CoO)などの金属酸化物導電体が使用できる。下部電極4の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10〜1000nm、さらに好ましくは50〜800nm程度である。
【0033】
基板2と下部電極4との密着性を確保するために、基板2上に形成された絶縁膜3と下部電極4との間にバッファ層を設けても良い。バッファ層としては、たとえば、TiO/Si、TiO/SiO/Si、TaN/Siなどが挙げられる。なお、「/Si」は基板側を意味する。密着層を形成する方法としては、物理気相成長法(PVD法)、化学気相成長法(CVD法)などの蒸着法により行うことができ、蒸着物質に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
上部電極6としては、前記下部電極4と同様の材質で構成することができる。また、その厚みも同様とすればよい。
【0035】
誘電体薄膜5は、(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物、例えば、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)を含有する。BSTはバリウムとストロンチウムが、ペロブスカイト構造のAサイトを占有しあい、0≦x≦1.0の全ての組成で固溶体を形成する全率固溶体である。
【0036】
上記式中の組成比を示す記号xは、0.5<x≦1.0であり、好ましくは0.6≦x≦0.9、さらに好ましくは0.65≦x≦0.85である。すなわち、本発明においては、上記組成式中におけるバリウムの比率をストロンチウムの比率より多い組成とする。ここで、xが小さすぎると、チタン酸ストロンチウムの性質に近くなり、比誘電率が低下する傾向にある。
【0037】
上記式中の組成比を示す記号aは、0.96<a≦1.00であり、好ましくは0.96<a<1.00であり、さらに好ましくは0.98≦a<1.00である。aが大きすぎるとリーク電流密度が大きくなる傾向にあり、小さすぎると比誘電率が低くなる傾向にある。
【0038】
誘電体薄膜5の厚みは、500nm以下であり、好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。誘電体薄膜5の厚みが厚すぎると素子の小型化が困難となる傾向にある。また、厚みの下限は、特に限定されないが、最低限のグレインサイズの確保と基板の平滑性や膜厚の面内均一性を考慮すると、通常40nm程度である。
【0039】
本発明の特徴点としては、(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物、例えば、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)を含有する誘電体薄膜において、誘電体薄膜の厚みを500nm以下とし、組成式(BaSr(1−x)TiOの記号x、aを上記範囲とする点にある。すなわち、本発明は、上記組成を、バリウムがストロンチウムより多い組成であり、Aサイトを構成する元素の量が、Bサイトを構成する元素の量と同じか、わずかに少ない組成とすることを特徴とする。このようにすることにより、比誘電率が高く、リーク電流が小さく、物理特性および電気特性の安定した誘電体薄膜を得ることができる。
【0040】
誘電体薄膜5の比誘電率は450以上であることが好ましく、さらに好ましくは480以上であり、印加電界強度100kV/cmのときのリーク電流密度が1×10−6A/cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.5×10−7A/cm以下である。本実施形態においては、誘電体薄膜5として本発明の誘電体薄膜を使用するため、高誘電率および低リーク電流を達成できる。
【0041】
本実施形態の薄膜誘電体素子1は、熱酸化処理を行ったシリコン単結晶基板の上に下部電極、誘電体薄膜、上部電極をスパッタリング法により順次形成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0042】
薄膜誘電体素子1の製造方法
まず、基板2として、シリコン単結晶基板を用い、シリコン単結晶基板を熱酸化処理し、シリコン単結晶基板表面に絶縁膜3(シリコン酸化膜:SiO)を形成する。熱酸化処理の方法としては、特に限定はされないが、シリコン単結晶基板を高温下、酸素ガスや亜酸化窒素ガスなどの酸化性ガス雰囲気で行うドライ酸化や、スチーム雰囲気中で行うウェット酸化などが挙げられる。
【0043】
次に、熱酸化処理によりシリコン酸化膜を形成したシリコン単結晶基板上に、下部電極4を形成し、下部電極を形成した積層体を作製する。本実施形態においては、下部電極4を構成する材料として、上述した導電性を有する材料が使用できる。また、下部電極4を形成する方法として、スパッタリング法で行うことが好ましく、具体的には、上述した導電性を有する材料をターゲットとして、スパッタリングすることにより形成する。
【0044】
次に、下部電極を形成した積層体の下部電極4の上に、誘電体薄膜5を形成し、誘電体薄膜を形成した積層体を作製する。本実施形態においては、誘電体薄膜5を形成する方法として、BSTを、スパッタリング法により成膜することにより形成する。
【0045】
スパッタリング法は、下部電極を形成した積層体を加熱し、好ましくは酸化性ガス雰囲気中、減圧下で、(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物、例えば、BSTをターゲットとし、スパッタリングすることによって行う。
【0046】
誘電体薄膜5の下部電極4上への形成を、本実施形態では、スパッタリング法により行っているため、広面積の基板上に速い速度で、組成制御性に優れたペロブスカイト型構造の(BaSr(1−x)TiOの誘電体薄膜を成長させることができる。
【0047】
スパッタリング法により成膜する際の基板加熱温度は、400〜800℃であることが好ましく、さらに好ましくは450〜750℃である。加熱温度が低すぎると、形成される誘電体薄膜の緻密性や均一性が低下する傾向にあり、高すぎると、結晶成長が不均一に起こる傾向にある。
【0048】
成膜速度は、1〜10nm/分であることが好ましく、さらに好ましくは2〜8nm/分である。成膜速度は、入力電力および成膜圧力などによって制御可能であり、成膜速度が速すぎると、リーク電流密度が大きくなる傾向にあり、遅すぎると、製造時間が長くなり、生産効率が低下する傾向にある。
【0049】
なお、その他のスパッタリング法により成膜する際の条件としては、成膜圧力が0.1〜10Paであることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜5Pa、入力電力が0.5〜5W/cmであることが好ましく、さらに好ましくは1.0〜5W/cmである。
【0050】
また、スパッタリングは、酸化性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、酸化性ガスは、アルゴンガスと酸素ガスを混合したガスであることが好ましい。酸化性ガスにおいては、酸素ガスの比率が、0体積%より多く、50体積%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10体積%以上、35体積%以下である。このように酸化性ガス雰囲気中でスパッタリングを行うと、酸化物、例えば、BSTの成長が酸化雰囲気中で起こるため、前記酸化物の結晶構造からの酸素欠損を有効に防止することができる。
【0051】
前記酸化物を含有する誘電体薄膜5をスパッタリング法により形成する際に、使用するBSTターゲットとしては、あらかじめ所望の組成とした(BaSr(1−x)TiOターゲットまたは、BaTiOターゲットとSrTiOターゲットとに成分を分離したターゲットを使用することができる。BaTiOターゲットとSrTiOターゲットとに成分を分離したターゲットを使用する際には、両ターゲットを同時にスパッタリングすることが好ましく、両ターゲットの比率も、所望の組成となるように調整することが好ましい。
【0052】
本実施形態においては、スパッタリング法により誘電体薄膜5を形成した後に、誘電体薄膜を形成した積層体を酸化性ガス雰囲気下でアニールすることが好ましい。アニール処理を行うことにより、スパッタリング法により形成した誘電体薄膜中の酸化物、例えば、BSTが粒子成長し、基板面方向に結晶化が進むため、比誘電率の向上を図ることができる。また、本実施形態においては、アニール処理を行う際には、酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、このように酸化性雰囲気下でアニール処理を行うことにより、前記酸化物の結晶構造からの酸素欠損を有効に防ぐことができる。
【0053】
アニール温度は、スパッタリングを行った温度より高い温度であれば良く、特に限定されないが、好ましくは600〜1000℃であり、さらに好ましくは800〜1000℃である。また、アニールを行う際の温度保持時間は、好ましくは10〜120分、さらに好ましくは30〜60分である。
【0054】
次に、誘電体薄膜を形成した積層体の誘電体薄膜5の上に上部電極層を形成する。本実施形態においては、上部電極6は、下部電極と同様に、上述した金属または合金、導電性半導体、金属酸化物導電体をターゲットとして、スパッタリングすることにより形成することが好ましい。本実施形態においては、図1に示すように、上部電極6を誘電体薄膜5の上面全体に形成する。
このようにして、本実施形態の薄膜誘電体素子1は製造される。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0056】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る薄膜誘電体素子として、図1に示す薄膜誘電体素子1を例示したが、本発明に係る薄膜誘電体素子は上記の形態に限定されず、上述した誘電体薄膜を有するものであれば何でも良い。なお、上述した薄膜誘電体素子としては、具体的には、薄膜コンデンサなどが例示される。
【0057】
また、上述した実施形態では、上部電極6は、図1のように誘電体薄膜5の上面全体に形成してあるが、図2に示すように誘電体薄膜5aの上面のうち一部に形成しても良い。なお、図2のように誘電体薄膜5aの上面にパターン状に上部電極を形成する方法としては、たとえば、遮蔽マスクを使用する方法が挙げられる。遮蔽マスクを使用する方法としては、移動可能なメタルマスクを使用し、パターン化する方法や、エッチングレジストによりマスクを形成し、エッチングによってパターン化する方法などが使用できる。
【0058】
また、上述した実施形態では、誘電体薄膜を単層で形成する薄膜誘電体素子を例示したが、誘電体薄膜と内部電極薄膜とを交互に複数積層し、多層構造とすることも可能である。多層構造を有する薄膜誘電体素子は、基板上に、下部電極を形成し、その下部電極上に、誘電体薄膜と内部電極薄膜とを交互に複数積層し、その上に上部電極を形成することによって構成される。なお、内部電極薄膜としては、上述した上部電極および下部電極と同様の材質で構成することができ、また、その厚みも同様とすればよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、薄膜誘電体素子単体について例示したが、集積型半導体回路に必要な薄膜誘電体素子として直接半導体基板上へ形成し、基板上に実装された誘電体素子とすることも可能である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0061】
まず、基板として、シリコン単結晶基板を準備し、シリコン単結晶基板を熱酸化処理し、シリコン単結晶基板表面にシリコン酸化膜(SiO)を形成した。
【0062】
次に、熱酸化処理を行ったシリコン単結晶基板上に、白金下部電極を形成した。白金下部電極は、白金(Pt)をターゲットとしてスパッタリング法により形成した。形成した白金下部電極の厚みを、SEM観測により計測したところ、200nmであった。
【0063】
次に、上記にて下部電極を形成した積層体の下部電極上に、ターゲットとしてBSTターゲットを用い、スパッタリングすることにより誘電体薄膜を形成した。スパッタリングする際のBSTターゲットの組成は、 組成式(BaSr(1−x)TiOにお
いて、式中のxおよびaを表1に示す組成となるように調整した。スパッタリングの条件としては、加熱温度を550℃、入力電力を1.3〜1.8W/cm、雰囲気を容積比でAr:O=9:1または3:1、成膜圧力を0.3〜4.0Pa、成膜時間を20〜30分とした。各試料の誘電体薄膜の厚みを、SEM観測により計測した。各試料の膜厚を表1に示す。また、成膜した誘電体薄膜の組成比は、蛍光X線分析により分析した。
【0064】
次に、上記にて誘電体薄膜を形成した積層体についてアニール処理を行った。アニール条件は、酸素気流下、保持温度900℃、温度保持時間30分とした。
【0065】
最後に、上記にてアニール処理を行った積層体の誘電体薄膜上に、白金上部電極を形成することにより、図2に示す薄膜コンデンサの試料1〜9を得た。なお、白金上部電極の形成は、白金(Pt)をターゲットとし、スパッタリング法により行い、パターンの形成は、メタルマスクを使用する方法により行った。形成した白金下部電極の厚みを、SEM観測により計測したところ、200nmであった。また、各コンデンサ試料は、10×10mmの範囲に複数の上部電極を作製して、複数の薄膜コンデンサ試料とし、各試料について比誘電率およびリーク電流密度の測定を行い、その測定結果の平均値を求めることにより評価を行った。
【0066】
薄膜コンデンサ試料について比誘電率およびリーク電流密度の測定を行った。比誘電率(単位なし)は、薄膜コンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4194A)を用いて、室温(25℃)、測定周波数1kHz(AC1Vrms)の条件で測定された静電容量と、薄膜コンデンサ試料の電極面積および膜厚から算出した。リーク電流密度(単位はA/cm)は、印加電界強度100kV/cmの条件で測定を行った。表1に各試料の比誘電率およびリーク電流密度の測定結果を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、組成式(BaSr(1−x)TiOにおいて、xの値が0.71〜0.73である試料1〜5においては、aの値が増加するにしたがって比誘電率が大きくなることが確認された。これは、試料1〜5について、aの値と比誘電率との関係をグラフ化した図3からも明らかである。また、a=0.96である比較例の試料1は、比誘電率が300未満と低い値となった。この結果より、比誘電率を高くするためには、a>0.96であることが望ましいということが確認できた。
【0069】
また、リーク電流密度については、aの値が1.00以下である試料1〜4は、2.0×10−7A/cm以下と低い値となった。一方、aの値が1.03である比較例の試料5はリーク電流密度が4.5×10−6A/cmと大きな値となり、試料3のリーク電流密度の約100倍であった。この結果よりリーク電流密度を低く抑えるためには、a≦1.00であることが望ましいということが確認できた。
【0070】
試料1〜5についての比誘電率およびリーク電流密度の測定結果より、組成式(BaSr(1−x)TiOにおいて、xの値が0.5<x≦1.0であるバリウムがストロンチウムより多い組成において、aの値は、0.96<a≦1.00であることが望ましく、好ましくは0.96<a<1.00であることが確認できた。
【0071】
また、x≦0.5とした比較例の試料6,7は、それぞれa=1.00、a=1.07となっており、本発明の実施例の試料2〜4と比較して、比誘電率が低い値となり、さらにリーク電流密度が高い値となった。すなわち、本発明の範囲外であるx≦0.5とした場合においては、aの値に関係なく、高い比誘電率と低リーク電流密度の両立を図ることがきなかった。さらに、x=1.0としてあるが、a=0.96とした比較例の試料8は、本発明の実施例の試料2〜4と比較して、比誘電率が低い値となった。一方で、x=1.0として、a=0.98とした実施例の試料9は、本発明の実施例の試料2〜4と同様に、比誘電率が高い値となった。すなわち、本発明の範囲内であるx=1.0とした場合においては、aの値が0.96<aとした場合においてのみ、高い比誘電率と低リーク電流密度の両立を図ることができた。この結果より、高誘電率かつ低リーク電流密度を達成するためには、xを0.5<x≦1.0として、且つ、0.96<a≦1.00、つまりBSTの組成を、バリウムがストロンチウムより多い組成とすることが望ましいということが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る薄膜誘電体素子の断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係る薄膜誘電体素子の断面図である。
【図3】図3は組成式(BaSr(1−x)TiOにおけるaの値と比誘電率との関係を示すグラフである。
【図4】図4は組成式(BaSr(1−x)TiOにおけるaの値とリーク電流密度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1… 薄膜誘電体素子
2… 基板
3… 絶縁膜
4… 下部電極
5… 誘電体薄膜
6… 上部電極
1a… 薄膜誘電体素子
2a… シリコン基板
3a… シリコン酸化膜
4a… 白金下部電極
5a… 誘電体薄膜
6a… 白金上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式が(BaSr(1−x)TiOで表される酸化物を含有する誘電体薄膜であって、
組成比を示す記号x,aが、
0.5<x≦1.0、
0.96<a≦1.00であり、
厚みが500nm以下であることを特徴とする誘電体薄膜。
【請求項2】
比誘電率が450以上、印加電界強度100kV/cmのときのリーク電流密度が1×10−6A/cm以下である請求項1に記載の誘電体薄膜。
【請求項3】
前記組成比を示す記号aが、0.96<a<1.00である請求項1または2に記載の誘電体薄膜。
【請求項4】
基板上に、下部電極、誘電体薄膜および上部電極が順次形成してある薄膜誘電体素子であって、
前記誘電体薄膜が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体薄膜であることを特徴とする薄膜誘電体素子。
【請求項5】
基板上に、誘電体薄膜と内部電極薄膜とが交互に複数積層してある薄膜誘電体素子であって、
前記誘電体薄膜が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体薄膜であることを特徴とする薄膜誘電体素子。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載の誘電体薄膜を導電性電極上に形成した後に、前記誘電体薄膜を酸化性ガス雰囲気下でアニールすることを特徴とする薄膜誘電体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−140136(P2006−140136A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278530(P2005−278530)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】