説明

走行制御装置

【課題】地震の発生時において、車両により適切な走行を行わせることができる走行制御装置を提供する。
【解決手段】走行制御装置1は、周辺センサ32、周辺車認識部12、緊急地震速報システム受信機、走行制御計画生成部22を備え、走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機により受信した緊急地震速報に基づいて減速及び停止を行う走行計画を生成し、周辺センサ32により取得した車両周辺の障害物状況により、他車との追突及び衝突の危険性がある場合には、衝突及び追突を回避するための別の走行計画を生成する。このため、追突などの危険事象を回避しながら、地震発生時の安全を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走行制御装置に関し、特に、地震発生時における車両の走行計画を生成する走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震発生直後の小さな揺れ(P波)から次に起こる大きな揺れ(S波)を予測し報告する緊急地震速報等の地震速報を利用した防災システムが提案されている。例えば、特許文献1では、LPG貯蔵施設防災システムにおいて、地震のP波を受信して数秒後には制御系の電源を無停電電源に切替え、S波の到達時に無停電電源によって制御系の動作を確保するシステムが開示されている。
【特許文献1】特開2005−349063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、自動車の走行中に地震が発生した場合は、単に運転者の判断のみに基づいて個々の自動車が減速、レーンチェンジ、停止等の運転動作を行った場合、緊急時に適切な動作を行うことができない恐れがある。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、地震の発生時において、車両により適切な走行を行わせることができる走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、地震速報を受信する地震速報受信手段と、地震速報受信手段が受信した地震速報に対応して車両の走行計画を生成する走行計画生成手段と、を備えた走行制御装置である。
【0006】
この構成によれば、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に対応して車両の走行計画を生成するため、地震の発生時において、単に運転者の判断のみに基づいて個々の自動車が減速、レーンチェンジ、停止等の運転動作を行なう場合に比べて、車両により適切な走行を行わせることができる。
【0007】
この場合、車両の周囲の障害物を検出する障害物検出手段をさらに備え、走行計画生成手段は、障害物検出手段が検出した障害物に対応して車両の走行計画を生成することが好適である。
【0008】
この構成によれば、車両の周囲の障害物を検出する障害物検出手段をさらに備え、走行計画生成手段は、障害物検出手段が検出した障害物に対応して車両の走行計画を生成するため、障害物への追突等の危険を回避しながら地震発生時の安全を確保することができる。
【0009】
また、地震速報受信手段が受信した地震速報に基づいて車両の周囲の構造物の倒壊危険性を予測する周囲構造物倒壊予測手段をさらに備え、走行計画生成手段は、周囲構造物倒壊予測手段が予測した車両の周囲の構造物の倒壊危険性に対応して車両の走行計画を生成することが好適である。
【0010】
この構成によれば、走行計画生成手段は、周囲構造物倒壊予測手段が予測した車両の周囲の構造物の倒壊危険性に対応して車両の走行計画を生成するため、地震による構造物の倒壊に巻き込まれることを防ぎつつ地震発生時の安全を確保する走行計画を立てることができる。
【0011】
この場合、具体的には、周囲構造物倒壊予測手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に基づいて地震速報に係る地震によって倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを予測し、走行計画生成手段は、周囲構造物倒壊予測手段が予測した倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを、地震速報に係る地震の揺れが到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成することが好適である。
【0012】
この構成によれば、周囲構造物倒壊予測手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に基づいて地震速報に係る地震によって倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを予測し、走行計画生成手段は、周囲構造物倒壊予測手段が予測した倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを、地震速報に係る地震の揺れが到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成するため、地震の揺れの到達時には構造物の倒壊危険性があるエリアを脱して安全性を確保することができる。
【0013】
一方、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の揺れに対応して、車両の走行計画における車両の減速度を決定することが好適である。
【0014】
この構成によれば、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の揺れに対応して、車両の走行計画における車両の減速度を決定するため、地震の揺れに対応した減速度で車両を確実に減速及び停止させることができる。
【0015】
この場合、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の揺れに対応して車両のタイヤのグリップ状況を予測し、グリップ状況に基づいて車両の走行計画における車両の減速度を決定することが好適である。
【0016】
この構成によれば、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の揺れに対応して車両のタイヤのグリップ状況を予測し、グリップ状況に基づいて車両の走行計画における車両の減速度を決定するため、地震の揺れに伴うタイヤのグリップ低下に対応した減速度で車両を減速及び停止させることができる。
【0017】
また、この場合、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の横揺れの周波数が大きいほど車両の走行計画における車両の減速度を大きくすることが好適である。
【0018】
この構成によれば、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の横揺れの周波数が大きいほど車両の走行計画における車両の減速度を大きくするため、例えば、地震の横揺れの周波数が大きく追突等の危険を考慮しても短時間で停車しなくてはならない場合には、減速度を大きくして緊急停車を行うことができる。
【0019】
一方、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に含まれる津波の情報に基づき、津波の予想被害範囲を津波が到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成することが好適である。
【0020】
この構成によれば、走行計画生成手段は、地震速報受信手段が受信した地震速報に含まれる津波の情報に基づき、津波の予想被害範囲を津波が到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成するため、津波の被害を回避することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の走行制御装置によれば、地震の発生時において、車両により適切な走行を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る走行制御装置について添付図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係る走行制御装置1は、ECU(Electric Control Unit)等のマイクロコンピュータのハードウェアおよびソフトウェアを利用して構成され、自動運転制御車両Aに搭載されている。この走行制御装置1は、図1に示すように、周辺車認識部12、自車状態量推定部14、周辺車行動予測部16、車群全車行動予測修正部18、条件設定入力部20、走行制御計画生成部(走行計画生成手段、周囲構造物倒壊予測手段)22、評価部24、走行計画選定部26、送信部28、受信部30、周辺センサ(障害物検出手段)32、自車センサ34、運動制御部36、アクチュエータ38、緊急地震速報システム受信機(地震速報受信手段)40及びGPS装置42を備えている。
【0024】
周辺車認識部12は、ミリ波レーダ、画像センサ、レーザレーダ、超音波センサなどの周辺を監視する周辺センサ32と接続されている。この周辺車認識部12は、周辺センサ32からの検出値(例えば、周辺車両等の物体からの反射情報など)に基づいて、車両A(自車両ともいう)の周辺に存在する周辺車両C(ここでは、手動運転で通信機能を有さない非通信車両C)を認識し、自車両Aからの相対的な距離、角度、速度などの周辺車情報を算出する。
【0025】
自車状態量推定部14は、自車状態量を検出する自車センサ34と接続されている。自車センサ34は、例えばヨーレートセンサ、車速センサ、加速度センサ、操舵角センサ、白線検知センサなどである。あるいは、後述するGPS装置42からの情報を補助的に用いても良い。自車状態量推定部14は、自車センサ34からの検出値に基づいて、ソフトウェアに組み込まれた車両モデルから、その時点の車両Aの状態量推定値(ヨーレート、レーン内の横位置、横速度、道路線形に対するヨー角、自車位置など)を算出する。
【0026】
周辺車行動予測部16は、周辺車認識部12で算出した周辺車情報と、自車状態量推定部14で算出した車両Aの状態量推定値を取得する。そして、取得した情報から車両Aの位置情報履歴、周辺車両Cの相対位置情報履歴、相対速度などを算出し、更にこれらの情報から、周辺車両Cの位置情報履歴、現状状態(速度、加速度、道路線形に対するヨー角など)を推定する。これにより、周辺車両Cの位置関係や周辺車両Cの傾向(車間、車速、加減速、レーンチェンジ抵抗感などのドライバ嗜好)が推定できる。また、周辺車行動予測部16は、ナビゲーションシステムやインフラ設備等から、走行している道路情報(車線増減、合流、分岐、線形、カーブなど)を取得する。そして、周辺車両Cの位置情報履歴、現状状態と道路情報に基づいて、周辺車両Cの傾向から、予め生成されているドライバモデルに当てはめて、周辺車両Cの下位計画として今後(例えば、数百m程度)の行動(走行軌跡や速度パターンを含む)を仮予測する。
【0027】
受信部30は、2.4GHzなどの電波を利用した車車間通信により、他の自動運転車両Bで生成された車両Bの走行制御計画を取得する。
【0028】
車群全車行動予測修正部18は、制御計画選定部26から選定されたA車の走行制御計画を取得すると共に、受信部30からB車の走行制御計画、及び周辺車行動予測部16から車両Cの行動予測(走行制御計画)を取得する。そして、これらを時間軸上に重ね合わせることにより、不整合のある点(2台が重なる場合など)をなくすように、各車両の走行制御計画に対して修正を行う。
【0029】
条件設定入力部20は、ドライバが指定した目的地までの走行全体の条件の入力を受け付ける。例えば、目的地、希望旅行時間、燃費優先度合い、休憩計画などの指定を受け付ける。
【0030】
緊急地震速報システム受信機40は、地震発生直後の小さな揺れであるP波と次に起こる大きな揺れであるS波との伝播速度の違いを利用することによって、S波の到達時刻等を予測し報告する緊急地震速報を受信するためのものである。緊急地震速報システム受信機40は、緊急地震速報から、地震の揺れの予想到達時刻、揺れの到達地域、揺れ方向、振幅、周波数および津波の予想被害範囲に関する情報を取得する。
【0031】
GPS装置42は、衛星から発信された電波を受信し、その電波情報に基づいて現在位置を検出するものであり、車両の位置を検出する手段として機能する。この車両の位置を検出する手段としては、GPS装置42に代えてその他の装置を用いてもよい。例えば、路面に沿って一定間隔で埋設された磁気マーカを検出する磁気センサを用いてもよい。また、GPS装置42は、A車の周囲に存在する建物、道路及び橋梁等の構造物に関する情報を取得し、特に設計上の耐震震度あるいは築年数等の情報を取得する。
【0032】
走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機40が受信した緊急地震速報における地震の揺れの予想到達時刻、揺れの到達地域、揺れ方向、振幅及び周波数等の情報から、車線変更、減速、停車等のA車の走行計画を生成する。また、走行制御計画生成部22は、GPS装置42が取得した道路等の構造物の耐震震度に関する情報に対応して、地震速報に係る地震の震度により倒壊可能性がある構造物が存在するエリアを算出し、地震速報に係る地震の揺れが到達する時刻までに当該エリアを脱出することが可能な走行計画を生成する。さらに、走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機40が受信した緊急地震速報に含まれる津波の情報に基づき、当該津波の予想被害範囲を津波が到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成する。
【0033】
また、走行制御計画生成部22は、ドライバが指定した目的地までの数百km、数時間単位の走行全体の条件や、ナビ情報、インフラ情報などの走行環境条件などを考慮しながら、各インターチェンジICやサービスエリアパーキングエリアSAPA間の数十km、数十分単位の走行計画を動的に生成する。この走行計画は、旅行時間、走行計画方針(休憩頻度、燃費性、他車優先度合いなど)、車群編成などである。
【0034】
具体的には、走行制御計画生成部22は、目的地までのルート探索を行い、複数の候補ルートを選定する。そして、交通情報、希望旅行時間、走行計画方針を満たす最適ルートを選択する。そして、全体ルートを各ICやSAPA間という単位で区切り、その区間ごとの走行計画を決定する。また、必要に応じて走行計画として車群編成方針計画も決定する。車群編成方針計画は、例えば渋滞追従走行時に無駄発進停止を繰り返すことが減るように、複数の自動運転車両を車群として塊を編成し、まとめて発進停止を行うものである。
【0035】
さらに、走行制御計画生成部22は、上記のように生成した走行計画、周辺状況認識(周辺センサ32やインフラ監視情報などに基づく)などに基づいて、各時点から数百m、数十秒単位でイベント遷移計画を動的に生成する。このイベント遷移計画は、レーンチェンジ、上限速度変更、車間距離、合流、分流、隊列編成、隊列離脱などである。
【0036】
走行制御計画生成部22は、生成したイベント遷移計画を達成するように、道路情報に基づいて、各時点から数cm、数十ミリ秒単位で、目標となる走行軌跡及び速度パターンを含む走行計画を、数百mに亘って動的に生成する。
【0037】
なお、走行制御計画生成部22においては、車群全車行動予測修正部18から修正された車両B及び車両Aの走行計画、車両Cの行動予測が入力され、これを前提に走行計画が生成される。例えば、車両Aの後続車両が車両Bである場合に、車両Aの車線変更、制動動作及び停止動作により、車両Bに追突されないように走行計画が生成される。このとき、走行制御計画生成部22において、車群全車行動予測修正部18から車両Bの走行計画、イベント遷移計画をも取得し、これを前提に自車両Aの走行計画、イベント遷移計画を生成するようにしてもよい。
【0038】
評価部24は、車群全車行動予測修正部18から取得した周辺車両Cの行動予測及び自動運転車両Bの走行計画を加味し、仮生成された車両Aの複数の走行計画を、所定の指標(例えば、安全性、快適性、環境性(燃費性などに基づく)など)に基づいて、それぞれ評価する。安全性については、車間距離や操舵の急度合いなどから評価することができる。快適性は、最大横Gや平均横G、ヨーレートなどから評価することができる。環境性は、予想燃料消費量から燃費性を評価することができ、他車優先度から他車に対する優しさを評価することができる。なお、評価部24における評価により安全が確保されていないなど問題がある場合は、走行制御計画生成部22において問題部分を修正し、評価部24において再度評価し直す。問題部分を修正できない場合は、イベント遷移計画の見直しを要求し、走行計画を再生成する。
【0039】
評価部24での評価においては、各々の走行計画の信頼度を考慮する。例えば、自動運転車両Bが生成した走行計画と手動運転車両Cについて推測した走行計画とでは、その信頼度が異なるため、この信頼度を考慮して走行計画を評価する。具体的には、周辺車行動予測部16において予測することで取得される走行計画の信頼度を、受信部30で受信することで取得される自動運転車両Bの走行計画の信頼度よりも低くする。これにより、例えば、自動運転車両Bについては手動運転車両Cよりも車間を詰めることができる。
【0040】
走行計画選定部26は、評価部24で評価された評価結果に基づいて、複数の走行計画から評価の優れたものを実行する走行制御計画として選定する。例えば、安全重視であれば、安全性のより高いものを実行する走行制御計画として選定する。なお、上記した場合では、評価部24での評価において信頼度を考慮したが、走行計画選定部26での選定時に信頼度を考慮してもよい。すなわち、評価部24で出された評価点に信頼度を積算して修正し、修正後の評価点に基づいて選定してもよい。
【0041】
運動制御部36は、自車状態量の推定値を加味しながら、選定された走行計画(走行軌跡、速度パターンを含む)に基づいて、各時刻における位置と速度を忠実に再現できるように、アクチュエータ38に対する指示値を生成する。
【0042】
アクチュエータ38は、エンジン、ブレーキ等の加減速制御機構38a、電動パワーステアリング等の操舵制御機構38b及びサスペンション制御機構38c並びにそれらを制御するECUであり、運動制御部36からのスロットル開度指示値、ブレーキ圧指示値、ステアリングトルク指示値、サスペンション時定数指示値などを受けて、これらを駆動制御する。
【0043】
送信部28は、2.4GHzなどの電波を利用した車車間通信により、走行計画選定部26において選定した車両Aの走行計画を、他の自動運転車両Bに送信する。このとき、車両Aの走行計画をも併せて送信するようにしてもよい。
【0044】
次に、本実施形態の走行制御装置1の動作について説明する。
【0045】
(地震適応レーンチェンジ及び停止動作)
最初に、緊急地震速報の受信時に、自車両に、車線変更、減速及び停止を安全に行わせる動作について説明する。図2及び3は、地震速報受信時に車線変更、減速及び停止を行う基本処理手順を示すフローチャートである。
【0046】
本実施形態の走行制御装置1は、緊急地震速報システム受信機40によって緊急地震速報を受信した時点で、周辺センサ32により後続車両の有無を確認する(S101)。後続車両が存在しない場合は、走行制御計画生成部22は、停止するために強い減速を行う走行計画及びイベント遷移計画を生成する(S102)。評価部24及び走行計画選定部26によって走行計画が承認されると、アクチュエータ38の加減速制御機構38aは0.2〜0.4G程度、望ましくは0.3Gの強い減速を行う(S102)。この場合、送信部28は他車両に対し、強い減速を開始した時点で緊急停止信号を送信し始める。さらに、周辺センサ32により検出しつつ空いている路肩に入り、減速を継続した後に停止する(S103)。
【0047】
後続車両が存在する場合であっても、隣接する路肩が空いている場合は(S104)、0.2〜0.4G程度、望ましくは0.3Gの強い減速を行った後に停止する(S105)。
【0048】
後続車が存在し隣接路肩に空きがない場合は、隣接レーンが空いているか否か確認する(S106)。隣接レーンに後続車等が不在の場合は、以下の手順に従って当該隣接レーンにレーンチェンジをして強い減速及び停止を行う。
【0049】
走行制御計画生成部22は、車群全車行動予測修正部18による修正を受けつつレーンチェンジのための軌跡を仮生成する(S107)。地震予想到達時間内にレーンチェンジ完了が見込める場合、レーンチェンジ及び停止を行う(S108,S109)。予想震度が例えば震度4未満と大きくない場合であって(S110)、レーンチェンジ中の軌跡における直線区間内において地震が到達するのであれば(S111)、当該隣接レーンにレーンチェンジをして強い減速及び停止を行う(S112)。レーンチェンジ軌跡は、通常は、曲線区間(隣接レーンへ向けて操舵開始、舵角有り)→直線区間(進行方向を維持、舵角0)→曲線区間(進行方向を隣接レーンの車線方向に戻す、舵角有り)といった区間で構成されるが、震度が大きくない場合は、ヨーレートだけが無ければ、車線に対する横方向速度があっても車両は安定なため比較的安全であるからである。一方、予想震度が例えば震度4以上と大きい場合や(S110)、震度4未満であっても、レーンチェンジ中の軌跡における曲線区間内において地震が到達するのであれば(S111)、レーンチェンジを断念し、以降の処理を継続する。震度が大きい場合は、ヨーレートだけではなく車線に対する横方向速度があっても危険であるからである。
【0050】
図3に示すように、受信部30による車車間通信により、後続車からの緊急停止信号を受信していれば(S113)、0.2〜0.4G程度、望ましくは0.3Gの強い減速を行った後に停止する(S114)。また、受信部30による車車間通信により、隣接レーンを走行する後続車からの緊急停止信号を受信していれば(S115)、当該隣接レーンにレーンチェンジを行った後、0.2〜0.4G程度、望ましくは0.3Gの強い減速を行った後に停止する(S116)。あるいは、隣接レーンよりも遠方のレーンに路肩があれば(S117)、当該遠方レーンにレーンチェンジを行った後、空いている路肩に入り、減速を継続した後に停止する(S118)。
【0051】
S101〜S118のいずれの処理によっても停止することが不可能である場合は、以下の処理を行う。まず、ハザードランプを点滅させながら、後続車の追突を防止するだけの車間時間(1.2〜2秒程度)を維持しながら、後続車の減速を促すために1秒程度まで徐々に車間時間を短くしていく後続車間保持減速を行う(S119)。この場合には、強い減速が保証できないため、さらに先行車両が緊急停止を行うことを防止するために、緊急停止信号は送信しないが、後続車が十分な減速を行い、先行車両が強い減速を行うことができた場合には(S120)、緊急停止信号を送信する(S121)。
【0052】
上記処理においては、走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機40が受信した緊急地震速報に対応して車両の走行計画を生成するため、地震の発生時において、単に運転者の判断のみに基づいて個々の自動車が減速、レーンチェンジ、停止等の運転動作を行なう場合に比べて、車両により適切な走行を行わせることができる。
【0053】
特に、本実施形態の走行制御装置1では、走行制御計画生成部22は、周辺センサ32により取得した後方及び側方の車両周辺の障害物状況により、他車との追突及び衝突の危険性がある場合には、衝突及び追突を回避するための別の走行計画を生成する。また、走行制御計画生成部22は、車両挙動として不安定な状態となるレーンチェンジを伴う場合には、地震到達時刻にレーンチェンジが重なるか否かを推定し、重なる場合にはレーンチェンジを断念するか、あるいは車両挙動として最も不安定なヨーレイトがあるレーンチェンジ軌跡内の曲線区間が地震到達時刻と重ならないように走行計画を生成する。さらに、本実施形態の走行制御装置1は、送信部28及び受信部30を用いて車車間通信を行い、緊急停止信号を送受信することにより、後続車が存在する場合にも強い減速を行う。このため、追突などの危険事象を回避しながら、地震発生時の安全を確保することができる。
【0054】
(倒壊危険性予測自動運転)
以下、車両の周囲の構造物の倒壊危険性を予測し、当該倒壊危険性に対応して車両の走行計画を生成する動作について説明する。図4は、地震速報受信時に道路、橋梁及び建築物の倒壊危険性を予測して車両走行制御をおこなう処理手順を示すフローチャートである。なお、以下、説明する倒壊危険性予測自動運転の動作は、上記説明した基本的な地震適応レーンチェンジ及び停止動作に優先して行われるものとする。
【0055】
図4に示すように、緊急地震速報システム受信機40によって緊急地震速報を受信した時点で、走行制御計画生成部22は、速やかな減速時の停止位置を算出する(S201)。一方で、走行制御計画生成部22は、地震到達時まで加速を継続して通常に走行し、発生後に速やかに減速した場合の停止位置を算出する(S202)。走行制御計画生成部22は、以上のS201及びS202の手順により算出した停止位置を、車両存在可能範囲として設定する(S203)。また、走行制御計画生成部22は、車両存在可能範囲の中で、地震到達時に自車両の速度が0km/hである範囲を停止車両存在範囲として設定する(S204)。一方、走行制御計画生成部22は、車両存在可能範囲の中で、地震到達時に自車両の速度が0km/hでない範囲を走行車両存在範囲として設定する(S205)。
【0056】
走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機40により受信した緊急地震速報による地域ごとの震度に関する情報と、GPS装置42による地図情報から求めた構造物の耐震震度に関する情報とから、車両存在可能範囲内の道路、橋梁及び建築物等の構造物の倒壊危険性を求める(S206)。走行制御計画生成部22は、各構造物の倒壊危険性と当該倒壊により自車両が被ると予想されるダメージとの積を、車両存在可能範囲内における危険予想分布とする(S207)。走行制御計画生成部22は、停止車両存在範囲における危険予想分布の最小値を停止危険予想値αとする(S208)。
【0057】
走行制御計画生成部22は、減速車両存在範囲について、地震到達時の自車両の速度が1km/hの場合の減速までの危険予想値を、各構造物の倒壊危険性と当該倒壊により当該自車速において自車両が被ると予想されるダメージとの積を積分により算出する。走行制御計画生成部22は、同様の処理を1km/h刻みで最高速度まで行う。走行制御計画生成部22は、減速車両存在範囲について、上記のようにして求めた各積分値の最小値を減速危険予想値αとする(S209)。
【0058】
走行制御計画生成部22は、停止危険予想値αと減速危険予想値αとで小さい方を採用し、それに沿った速度により走行計画を生成する(S210,S211,S212)。倒壊危険性がレーンによって違いがある場合には、周辺の他車両を考慮しながらレーンチェンジを含む最も危険性が小さくなる走行計画を生成する(S213)。
【0059】
上記処理においては、走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機40が受信した緊急地震速報に基づいて地震によって倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを予測し、予測した倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを、地震速報に係る地震の揺れが到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成するため、地震の揺れの到達時には構造物の倒壊危険性があるエリアを脱して安全性を確保することができる。
【0060】
自車両が橋梁の上やトンネルの中にいる場合等の周辺の構造物の状況によって、速やかな減速や停止が危険性を高め、必ずしも最善ではない選択である場合もあり得る。そのため、上記処理では、予想震度と周辺構造物情報とから倒壊危険性を予測し、地震到達までの残りの時間から地震到達時の走行安全が保証される場合には、速やかな減速及び停止を行わない走行計画を生成する。これにより、上記処理では、地震による構造物倒壊の危険性も考慮に加えた最も安全な自動走行を実施することができる。
【0061】
(地震適応後続車間調整)
以下、緊急地震速報により予想される地震の揺れ方(周波数、振幅、縦横揺れ)に応じて走行計画、特に後続車間保持減速を行う走行計画を生成する動作について説明する。図5は、地震の揺れに対応して後続車両との車間調整を行う処理手順を示すフローチャートである。なお、以下、説明する地震の揺れに対応した動作は、上記説明した基本的な地震適応レーンチェンジ及び停止動作の補助として行われるものとする。
【0062】
まず、緊急地震速報システム受信機40によって緊急地震速報を受信した場合、走行制御計画生成部22は、当該予想される地震の揺れ方に対応して運動制御部36及びアクチュエータ38のサスペンション制御機構38cを駆動し、予想される縦揺れに対してのタイヤのグリップ低下の影響を最小化するために、サスペンションの設定を地震の周波数を消去する時定数となるように最適化する(S301)。
【0063】
また、走行制御計画生成部22は、地震の横揺れと車両の進行方向との関係から、地震の横揺れを、車両横方向揺れ成分と車両前後方向揺れ成分とに分割する(S302)。走行制御計画生成部22は、運動制御部36及びアクチュエータ38のサスペンション制御機構38cを駆動し、車両横方向揺れ成分に対してのロール影響を最小化するために、スタビライザーの設定を地震の周波数を消去する時定数となるように最適化する(S303)。
【0064】
走行制御計画生成部22は、地震の縦揺れの振幅と、地震の横揺れの車両横方向揺れ成分の振幅とのいずれかが5〜6cm以上と大きいときは、タイヤのグリップが確保されない場合があるため、即時に減速して停止することができるように、許容される後続車両との車間を短く設定する(S304,S307)。走行制御計画生成部22は、地震の縦揺れの振幅と、地震の横揺れの車両横方向揺れ成分の振幅とのいずれもが5〜6cm未満と小さいときは、次の処理に移る。なお、地震の横揺れの車両前後方向揺れ成分の振幅はタイヤのグリップに対する影響が少ないため、ある程度大きくとも良い。
【0065】
走行制御計画生成部22は、地震の縦揺れの周波数と、地震の横揺れの車両横方向揺れ成分の周波数とのいずれかが10Hz以上と高いときは、タイヤのグリップが確保されない場合があるため、即時に減速して停止することができるように、許容される後続車両との車間を短く設定する(S305,S307)。走行制御計画生成部22は、地震の縦揺れの周波数と、地震の横揺れの車両横方向揺れ成分の周波数とのいずれかもが10Hz未満と低いときは、タイヤのグリップが確保でき、ゆっくりと減速して停止しても支障がないため、後続車両との車間を長く設定する(S305,S307)。
【0066】
なお、地震の縦揺れ及び地震の横揺れの車両横方向揺れ成分の振幅及び周波数が小さく、長い車間を設定した場合でも、地震到達時にはタイヤグリップが得られない場合があるため、走行制御計画生成部22は、地震到達時には後続車両への車間時間を1秒と短めに維持しながら減速する走行計画を生成する。
【0067】
上記処理によれば、地震の揺れ方に応じて、タイヤグリップへの影響を考慮し、車間を長くして緩い減速を行っても安全な場合であるのか、追突の危険性を多少許容しても即時に停止できるように強い減速を行うべき状況であるのかを調整する。これにより、強い減速が必要なときにのみ、短い車間の後続車間保持減速を行うため、地震発生による事故危険性と追突危険性とを合わせて最小にすることができる走行計画を生成することができる。
【0068】
(津波適応自動運転)
以下、緊急地震速報により予想される津波に応じて走行計画を生成する動作について説明する。図6は、津波に対応して走行計画を設定する処理手順を示すフローチャートである。なお、以下、説明する津波適用自動運転の動作は、上記説明した基本的な地震適応レーンチェンジ及び停止動作に優先して行われるものとする。
【0069】
まず、走行制御計画生成部22は、上述の基本的な地震適応レーンチェンジ及び停止動作、倒壊危険性予測自動運転、及び地震適応後続車間調整により走行計画を生成する(S401)。走行制御計画生成部22は、緊急地震速報システム受信機40によって受信した緊急地震速報に含まれる津波予想被害範囲に自車両が存在しない場合には、以下の処理を実行しない(S402)。また、走行制御計画生成部22は、停止位置よりも前方の状況が、上述した倒壊危険性予測自動運転の処理により、倒壊危険性の高い範囲となっている場合には以下の処理を実行しない(S403)。
【0070】
走行制御計画生成部22は、津波到達予想時刻に津波被害がより小さくなる場所まで到達できる速度による速度パターンを生成する(S404)。走行制御計画生成部22は、予想震度が震度4以上と大きく、車両の制御を安定して行えない場合には、地震到達時刻にのみ一時停止させる速度パターンに修正する(S405,S406)。一方、走行制御計画生成部22は、予想震度が震度4未満と小さい場合には、地震到達時刻に震度に応じた速度まで減速させる速度パターンに修正する(S405,S407)。走行制御計画生成部22は、以上により算出した速度パターンにより、津波到達予想時刻に津波予想被害範囲外に到達できる場合には、当該速度パターンによって、減速および停止を行う走行計画を生成する(S408,S409)。
【0071】
地震に備えるためには減速し停止することが望ましいが、津波の予想被害範囲内であれば津波により大きな被害を受ける可能性がある。上記処理によれば、上述の基本的な地震適応レーンチェンジ及び停止動作、倒壊危険性予測自動運転、及び地震適応後続車間調整により走行計画を生成した上で、さらに津波の到達時刻に予想被害範囲内に自車両が存在する場合には、予想震度を確認して走行継続が可能であるか否か判断し、可能な場合には津波予想被害範囲外まで走行する。このため、地震による津波の被害を回避できる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。本実施形態では、走行制御装置が車両を自動制御する場合を中心に説明したが、本発明の走行制御装置はこれに限定されず、緊急地震速報受信時に、画像及び音声等でドライバに指示を与えることによりドライバの運転を支援する態様も本発明の範囲に含まれる。また、車両外の施設に本発明の走行制御装置を設置し、当該走行制御装置からの指令によって車両を外部から制御する態様も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施形態に係る車両走行制御装置の構成概要図である。
【図2】地震速報受信時に車線変更、減速及び停止を行う基本処理手順を示すフローチャートである。
【図3】地震速報受信時に車線変更、減速及び停止を行う基本処理手順を示すフローチャートである。
【図4】地震速報受信時に道路、橋梁及び建築物の倒壊危険性を予測して車両走行制御をおこなう処理手順を示すフローチャートである。
【図5】地震の揺れに対応して後続車両との車間調整を行う処理手順を示すフローチャートである。
【図6】津波に対応して走行計画を設定する処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
1…走行制御装置、12…周辺車認識部、14…自車状態量推定部、16…周辺車行動予測部、18…車群全車行動予測修正部、20…条件設定入力部、22…走行制御計画生成部、24…評価部、26…走行計画選定部、28…送信部、30…受信部、32…周辺センサ、34…自車センサ、36…運動制御部、38…アクチュエータ、38a…加減速制御機構、38b…操舵制御機構、38c…サスペンション制御機構、40…緊急地震速報システム受信機、42…GPS装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震速報を受信する地震速報受信手段と、
前記地震速報受信手段が受信した地震速報に対応して車両の走行計画を生成する走行計画生成手段と、
を備えた走行制御装置。
【請求項2】
前記車両の周囲の障害物を検出する障害物検出手段をさらに備え、
前記走行計画生成手段は、前記障害物検出手段が検出した障害物に対応して車両の走行計画を生成する、
請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記地震速報受信手段が受信した地震速報に基づいて前記車両の周囲の構造物の倒壊危険性を予測する周囲構造物倒壊予測手段をさらに備え、
前記走行計画生成手段は、前記周囲構造物倒壊予測手段が予測した前記車両の周囲の構造物の倒壊危険性に対応して車両の走行計画を生成する、
請求項1又は2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記周囲構造物倒壊予測手段は、前記地震速報受信手段が受信した地震速報に基づいて前記地震速報に係る地震によって倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを予測し、
前記走行計画生成手段は、前記周囲構造物倒壊予測手段が予測した倒壊危険性がある構造物が存在するエリアを、前記地震速報に係る地震の揺れが到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成する、
請求項3に記載の走行制御装置。
【請求項5】
前記走行計画生成手段は、前記地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の揺れに対応して、前記車両の走行計画における車両の減速度を決定する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の走行制御装置。
【請求項6】
前記走行計画生成手段は、前記地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の揺れに対応して前記車両のタイヤのグリップ状況を予測し、前記グリップ状況に基づいて前記車両の走行計画における車両の減速度を決定する、
請求項5に記載の走行制御装置。
【請求項7】
前記走行計画生成手段は、前記地震速報受信手段が受信した地震速報に係る地震の横揺れの周波数が大きいほど前記車両の走行計画における車両の減速度を大きくする、
請求項5又は6に記載の走行制御装置。
【請求項8】
前記走行計画生成手段は、前記地震速報受信手段が受信した地震速報に含まれる津波の情報に基づき、前記津波の予想被害範囲を前記津波が到達する時刻までに脱出することが可能な走行計画を生成する、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−146168(P2008−146168A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329792(P2006−329792)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】