説明

車両およびその制御方法

【課題】制動要求操作に際して運転者が覚えがちな違和感を抑制しつつ、運転者により要求される制動力を良好に確保する。
【解決手段】ハイブリッド自動車20では、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれたときに、モータ50による回生制動力BFrとマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcとの和が要求制動力BF*に不足する場合には、モータ50による回生制動力と操作制動力BFpmcと操作制動力BFpmcとポンプ115,125による加圧圧力(増圧分)に基づく制動力である補填制動力BFppとで要求制動力BF*がまかなわれるようにモータ50とHBS100のブレーキアクチュエータ102が制御される(ステップS170〜S190)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両およびその制御方法に関し、特に動力を出力可能な内燃機関と、車軸に対して少なくとも回生制動力を出力可能な電動機とを備えた車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用制動装置として、内燃機関により発生される負圧により運転者の踏力を増幅するブースタと、ブースタにより増幅された運転者の踏力に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、油圧発生源としての電動ポンプと、マスタシリンダとポンプとを油圧源として各車輪に制動力を付与するホイルシリンダとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この車両用制動装置では、内燃機関により発生される負圧が所定圧以下になるとポンプのモータが駆動され、ポンプを油圧源としてホイルシリンダを増圧することにより、内燃機関の駆動状態が変化しても運転者のペダル踏力に対して安定した制動力を得られるようにしている。なお、ハイブリッド車両に適用される回生協調制御可能なブレーキ装置としては、アキュムレータや電動ポンプを含む液圧発生装置により発生される液圧を調圧弁によりブレーキ操作力に応じた値に調圧して出力すると共に、補助液圧室に供給された液圧でマスタシリンダを作動させ、マスタシリンダと調圧弁との出力液圧をホイールシリンダに供給して車両の車輪に制動力を付与するものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−224119号公報
【特許文献2】特開2004−182035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、動力出力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両では、走行中に内燃機関を停止させることが可能であるが、このようなハイブリッド車両に上述のような内燃機関からの負圧を用いたブースタを含む制動装置を適用した場合、内燃機関が停止されているときには内燃機関からの負圧を利用できなくなる。このため、ハイブリッド車両において内燃機関の停止中に内燃機関の運転中と同様の制動力を得るためには、運転者はより強い踏力でブレーキペダルを踏み込まなければならず、それにより制動要求操作に際して違和感を覚えてしまうまうおそれがある。
【0004】
そこで、本発明による車両およびその制御方法は、制動要求操作に際して運転者が覚えがちな違和感を抑制することを目的の一つとする。また、本発明の車両およびその制御方法は、運転者により要求される制動力を良好に確保することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両およびその制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採っている。
【0006】
本発明による車両は、
動力を出力可能な内燃機関と、
車軸に対して少なくとも回生制動力を出力可能な電動機と、
前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
作動流体を加圧可能な加圧手段を有し、運転者による制動要求操作と前記内燃機関により発生される負圧とに応じて発生された作動流体の圧力である操作圧力と前記加圧手段の加圧により発生される作動流体の圧力である加圧圧力とを用いて制動力を出力可能な流体圧式制動手段と、
前記制動要求操作がなされたときに運転者により要求されている要求制動力を設定する要求制動力設定手段と、
前記制動要求操作がなされたときに、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が前記設定された要求制動力に不足しない場合には、当該回生制動力と当該操作制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する一方、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が前記設定された要求制動力に不足する場合には、当該回生制動力と当該操作制動力と前記加圧圧力に基づく制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する制動制御手段と、
を備えるものである。
【0007】
この車両では、運転者により制動要求操作がなされたときに、電動機による回生制動力と操作圧力に基づく操作制動力との和が設定された要求制動力に不足しない場合には、当該回生制動力と当該操作制動力とで設定された要求制動力がまかなわれるように電動機と流体圧式制動手段とが制御される一方、電動機による回生制動力と操作圧力に基づく操作制動力との和が設定された要求制動力に不足する場合には、当該回生制動力と当該操作制動力と加圧圧力に基づく制動力とで設定された要求制動力がまかなわれるように電動機と流体圧式制動手段とが制御される。すなわち、運転者による制動要求操作と内燃機関により発生される負圧とに応じて操作圧力を発生させる場合、内燃機関が停止されて上記負圧が得られなくなったり、何らかの理由により上記負圧が減少したりすると、制動要求操作が負圧未低下時と同様のものであれば操作圧力が低下することになる。従って、このような負圧の不足に起因して電動機による回生制動力と操作圧力に基づく操作制動力との和が要求制動力に不足するときには、加圧手段による加圧圧力に基づく制動力を利用することにより、運転者による制動要求操作が負圧未低下時と同様のものであっても本来運転者により要求されている制動力を良好に得ることができる。これにより、この車両では、負圧低下時の制動要求操作に際して運転者が覚えがちな違和感を抑制しつつ、要求される制動力を良好に確保することが可能となる。
【0008】
また、本発明による車両は、前記制動要求操作に応じて発生された前記操作圧力を検出する操作圧力検出手段と、前記内燃機関により発生される負圧を検出する負圧検出手段と、前記制動要求操作がなされたときに前記電動機の回生により得ることができる回生制動力を設定する回生制動力設定手段とを更に備えてもよく、前記要求制動力設定手段は、前記検出された操作圧力と前記検出された負圧とに基づいて前記要求制動力を設定するものであり、前記制動制御手段は、前記設定された要求制動力から前記設定された回生制動力と前記検出された操作圧力に基づく操作制動力とを減じた値に基づいて前記加圧手段を制御するものであってもよい。これにより、上記負圧が変化しても運転者の要求に応じて要求制動力をより正確に設定すると共に、加圧手段をより適正に制御して設定された要求制動力を得ることが可能となる。
【0009】
この場合、前記回生制動力設定手段は、前記電動機の回転数と前記蓄電手段の充電状態とに基づいて前記制動要求操作がなされたときに前記電動機の回生により得ることができる回生制動力を設定するものであってもよい。これにより、制動要求操作がなされたときに電動機の回生により得ることができる回生制動力をより適正に設定して電動機による回生制動力を良好に活用することが可能となるので、加圧手段による作動流体の加圧に要するエネルギを抑えることができる。また、蓄電手段の充電状態によっては電動機の回生が制限されることもあるが、このように蓄電手段の充電状態によって電動機の回生により得ることができる回生制動力が低下しても、本発明による車両では、加圧圧力に基づく制動力を利用して要求された制動力を良好に得ることが可能となる。
【0010】
更に、前記流体圧式制動手段は、運転者による制動要求操作と前記内燃機関により発生される負圧とに応じて前記操作圧力を発生させる操作圧力発生手段を有してもよく、前記加圧手段は当該操作圧力発生手段からの作動流体を可能なものであってもよい。
【0011】
また、前記内燃機関は第1の車軸に動力を出力可能であると共に、前記電動機は前記第1の車軸とは異なる第2の車軸に動力を入出力可能であってもよい。そして、本発明による車両は、前記内燃機関の出力軸と前記第1の車軸との接続および該接続の解除を実行する接続断接手段を更に備えてもよく、所定条件が成立しているときに、前記接続断接手段により前記内燃機関の出力軸と前記第1の車軸との接続が解除されると共に前記内燃機関の運転が停止されてもよい。このように、内燃機関を適宜停止させて電動機による回生制動を利用すれば、車両のエネルギ効率を向上させることが可能となる。そして、本発明によれば、内燃機関が停止されて上記負圧が不足したときに運転者の制動要求操作が負圧未低下時と同様のものであっても要求されている制動力を良好に得ることができるので、エネルギ効率を向上させつつ、車両制動時における操作性や安全性を向上させることが可能となる。
【0012】
本発明による車両の制御方法は、動力を出力可能な内燃機関と、車軸に対して少なくとも回生制動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、作動流体を加圧可能な加圧手段を有し、運転者による制動要求操作と前記内燃機関により発生される負圧とに応じて発生された作動流体の圧力である操作圧力と前記加圧手段の加圧により発生される作動流体の圧力である加圧圧力とを用いて制動力を出力可能な流体圧式制動手段とを備えた車両の制御方法であって、
前記制動要求操作がなされたときに、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が運転者による要求制動力に不足しない場合には、当該回生制動力と当該操作制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する一方、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が運転者による要求制動力に不足する場合には、当該回生制動力と当該操作制動力と前記加圧圧力に基づく制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御するものである。
【0013】
この方法のように、内燃機関から流体圧式制動手段への負圧の不足に起因して電動機による回生制動力と操作圧力に基づく操作制動力との和が要求制動力に不足するときには、加圧手段による加圧圧力に基づく制動力を利用することにより、運転者による制動要求操作が負圧未低下時と同様のものであっても本来運転者により要求されている制動力を良好に得ることができる。これにより、この方法によれば、負圧低下時の制動要求操作に際して運転者が覚えがちな違和感を抑制しつつ、要求される制動力を良好に確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン22からの動力をトルクコンバータ30や前後進切換機構35、ベルト式の無断変速機(以下「CVT」という)40、ギヤ機構61、デファレンシャルギヤ62を介して前輪65a,65bに出力する前輪駆動系21と、モータ50からの動力をギヤ機構63、デファレンシャルギヤ64および後軸66を介して後輪65c,65dに出力する後輪駆動系51と、前輪65a,65bおよび後輪65c,65dに制動力を付与するための電子制御式油圧ブレーキユニット(以下「HBS」という)100と、ハイブリッド自動車20の全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油といった炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されており、その出力軸であるクランクシャフト23はトルクコンバータ30に接続されている。また、クランクシャフト23には、ギヤ列25を介してスタータモータ26が接続されると共に、ベルト27等を介してオルタネータ28や機械式オイルポンプ29が接続されている。そして、エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下「エンジンECU」という)24により運転制御され、エンジンECU24は、クランクシャフト23に取り付けられたクランクポジションセンサ23aからのクランクポジション信号といったエンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号に基づいて燃料噴射量や点火時期,吸入空気量等の制御を行う。また、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に従ってエンジン22を運転制御すると共に、エンジン22の運転状態に関するデータを必要に応じてハイブリッドECU70に出力する。
【0017】
トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、エンジン22のクランクシャフト23に接続されたタービンランナ31と前後進切換機構35を介してCVT40のインプットシャフト41に接続されたポンプインペラ32とロックアップクラッチ33とを有している。ロックアップクラッチ33は、後述するCVT用電子制御ユニット(以下「CVTECU」という)46により駆動制御される油圧回路47からの油圧により作動し、必要に応じてトルクコンバータ30のタービンランナ31とポンプインペラ32とをロックアップする。
【0018】
前後進切換機構35は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構とブレーキB1とクラッチC1とから構成されている。遊星歯車機構は、外歯歯車のサンギヤ36と、このサンギヤ36と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ37と、サンギヤ36と噛合する複数の第1ピニオンギヤ38aと、それぞれ対応する第1ピニオンギヤ38aと噛合すると共にリングギヤ37と噛合する複数の第2ピニオンギヤ38bと、複数の第1ピニオンギヤ38aおよび複数の第2ピニオンギヤ38bを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを含む。そして、サンギヤ36にはトルクコンバータ30の出力軸34が、キャリア39にはCVT40のインプットシャフト41がそれぞれ連結されている。また、遊星歯車機構のリングギヤ37は、ブレーキB1を介して図示しないケースに固定可能であり、当該ブレーキB1をオン/オフすることにより、リングギヤ37を自由に回転させたり、その回転を禁止したりすることができる。更に、遊星歯車機構のサンギヤ36とキャリア39とは、クラッチC1を介して互いに連結されており、クラッチC1をオン/オフすることにより、サンギヤ36とキャリア39とを連結したり切り離したりすることができる。このような前後進切換機構35によれば、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオンすることによりトルクコンバータ30の出力軸34の回転をそのままCVT40のインプットシャフト41に伝達してハイブリッド自動車20を前進させることができる。また、ブレーキB1をオンすると共にクラッチC1をオフすることによりトルクコンバータ30の出力軸34の回転を逆方向に変換してCVT40のインプットシャフト41に伝達すればハイブリッド自動車20を後進させることができる。更に、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオフすることによりトルクコンバータ30の出力軸34とCVT40のインプットシャフト41とを切り離すこともできる。
【0019】
CVT40は、インプットシャフト41に接続された溝幅を変更可能なプライマリプーリ43と、同様に溝幅を変更可能であって駆動軸としてのアウトプットシャフト42に接続されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の溝に巻き掛けられたベルト45とを含む。プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の溝幅は、CVTECU46により駆動制御される油圧回路47からの油圧により変更され得るものであり、これにより、インプットシャフト41に入力した動力を無段階に変速してアウトプットシャフト42に出力することが可能となる。また、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の溝幅の変更は、上述のように変速比を変更する場合だけではなく、CVT40の伝達トルク容量を調節するためのベルト45の狭圧力を制御する際にも行なわれる。油圧回路47は、モータ60aにより駆動される電動オイルポンプ60とエンジン22により駆動される機械式オイルポンプ29とから供給される作動油の油圧や油量を調整してプライマリプーリ43やセカンダリプーリ44、トルクコンバータ30(ロックアップクラッチ33)、ブレーキB1、クラッチC1等に供給可能なものである。そして、CVTECU46には、インプットシャフト41に取り付けられた回転数センサ48からのインプットシャフト41の回転数Ninやアウトプットシャフト42に取り付けられた回転数センサ49からのアウトプットシャフト42の回転数Nout等が入力され、CVTECU46は、これらの情報に基づいて油圧回路47への駆動信号を生成、出力する。更に、CVTECU46は、前後進切換機構35のブレーキB1およびクラッチC1のオン/オフ制御やトルクコンバータ30のロックアップ制御をも実行する。更に、CVTECU46は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に従ってCVT40の変速比を制御すると共に必要に応じてインプットシャフト41の回転数Ninやアウトプットシャフト42の回転数NoutといったCVT40の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0020】
モータ50は、発電機として機能すると共に電動機としても機能し得る同期発電電動機であり、インバータ52を介してエンジン22により駆動されるオルタネータ28や、当該オルタネータ28からの電力ラインに出力端子が接続された高圧バッテリ(例えば定格電圧42Vの二次電池)55に接続されている。これにより、モータ50は、オルタネータ28や高圧バッテリ55からの電力により駆動されたり、回生を行って発電した電力により高圧バッテリ55を充電したりすることができる。また、モータ50は、モータ用電子制御ユニット(以下「モータECU」という)53によって駆動制御される。モータECU53には、モータ50を駆動制御するために必要な信号、例えばモータ50の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ50aからの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータ50への相電流値等が入力されており、モータECU53は、これらの信号等に基づいてインバータ52のスイッチング素子へのスイッチング信号を生成、出力する。また、モータECU53は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に従ってインバータ52へのスイッチング制御信号を出力することによりモータ50を駆動制御すると共にモータ50の運転状態に関するデータを必要に応じてハイブリッドECU70に出力する。なお、高圧バッテリ55には、電圧を変換するDC/DCコンバータ56を介して低圧バッテリ57が接続されており、高圧バッテリ55側からの電力が電圧変換されて低圧バッテリ57側へ供給されるようになっている。低圧バッテリ57は、上述の電動オイルポンプ60を始めとする各種補機類の電源として用いられる。そして、高圧バッテリ55と低圧バッテリ57とは、バッテリ用電子制御ユニット(以下「バッテリECU」という)58により管理されている。このバッテリECU58は、バッテリ55,57の出力端子(図示せず)に取り付けられた図示しない電圧センサからの端子間電圧や電流センサからの充放電電流、温度センサからの電池温度などに基づいて残容量SOCや入出力制限等を算出する。更に、バッテリECU58は、ハイブリッドECU70等と通信しており、必要に応じて残容量SOC等のデータをハイブリッドECU70等に出力する。
【0021】
続いて、ハイブリッド自動車20に備えられたHBS100について説明する。HBS100は、マスタシリンダ101やブレーキアクチュエータ102、前輪65a,65bや後輪65c,65dに設けられたホイールシリンダ109a〜109d等を含み、基本的に、ブレーキペダル85に作用する運転者の踏力に応じてマスタシリンダ101により発生された操作圧力としてのマスタシリンダ圧Pmcをブレーキアクチュエータ102を介して前輪65a,65bおよび後輪65c,65dのホイールシリンダ109a〜109dに供給することにより、前輪65a,65bおよび後輪65c,65dにマスタシリンダ圧Pmcに基づく制動力を付与するものである。また、実施例では、マスタシリンダ101に対して、エンジン22により発生される負圧を用いて運転者による制動要求操作をアシストするブレーキブースタ103が設けられている。図1に示すように、ブレーキブースタ103は、配管および逆止弁104を介してエンジン22の吸気マニフォールド22aと接続された、いわゆる真空式倍力装置として構成されており、外気による圧力とエンジン22の吸気負圧との差圧により図示しないダイヤフラムに作用する力によって運転者がブレーキペダル85に加えた踏力を増幅する。この結果、マスタシリンダ101においては、運転者による踏力とブレーキブースタ103からの負圧によるアシスト力とを受ける図示されないピストンによりブレーキオイルが加圧され、それにより運転者による踏力とエンジンからの負圧に応じたマスタシリンダ圧Pmcが発生されることになる。
【0022】
ブレーキアクチュエータ102は、上述の低圧バッテリ57を電源として作動し、マスタシリンダ101により発生されるマスタシリンダ圧Pmcを調圧してホイールシリンダ109a〜109bに供給すると共に、運転者によるブレーキペダル85の踏み込みに拘わらず、前輪65a,65bや後輪65c,65dに制動力が付与されるようにホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧を調整可能なものである。図2は、ブレーキアクチュエータ102の構成を示す系統図である。同図に示すように、ブレーキアクチュエータ102は、いわゆるクロス(X)配管型のアクチュエータとして構成されており、右側の前輪65aおよび左側の後輪65dのための第1系統110と左側の前輪65bおよび右側の後輪65cのための第2系統120とから構成されている。すなわち、実施例のハイブリッド自動車20では、前輪65a,65bを駆動するためのエンジン22が車両前部に配置される関係上、重量バランスが前寄りとなることから、第1系統110と第2系統120との何れかが失陥しても、前輪65,65bの何れかに制動力を付与し得るようにクロス配管型のブレーキアクチュエータ102が採用されている。更に、実施例では、前輪65aまたは65bのホイールシリンダ109a,109bにおける油圧(ホイールシリンダ圧)と後輪65cまたは65dのホイールシリンダ109a,109bにおける油圧(ホイールシリンダ圧)とが同一であるときに、前輪65aまたは65bに付与される制動力が後輪65cまたは65dに付与される制動力よりも大きくなるように、ホイールシリンダ109a〜109dからの油圧により摩擦制動力に発生するディスクブレーキやドラムブレーキといった摩擦ブレーキユニットのロータ外径やパッドの摩擦係数といった諸元が定められている。
【0023】
第1系統110は、供給油路L10を介してマスタシリンダ101に接続されたマスタシリンダカットソレノイドバルブ(以下「MCカットソレノイドバルブ」という)111と、供給油路L11を介してそれぞれMCカットソレノイドバルブ111に接続されると共に加減圧油路L12aまたはL12dを介して右側の前輪65aのホイールシリンダ109aまたは左側の後輪65dのホイールシリンダ109dに接続された保持ソレノイドバルブ112a,112dと、同様に加減圧油路L12aまたはL12dを介して右側の前輪65aのホイールシリンダ109aまたは左側の後輪65dのホイールシリンダ109dに接続された減圧ソレノイドバルブ113a,113dと、減圧油路L13を介して減圧ソレノイドバルブ113a,113dと接続されると共に油路L14を介して供給油路L10と接続されたリザーバ114と、その吸入口が油路L15を介してリザーバ114と接続されると共にその吐出口が逆止弁116を有する油路L16を介して供給油路L11と接続されたポンプ115とを含む。同様に、第2系統120は、供給油路L20を介してマスタシリンダ101に接続されたMCカットソレノイドバルブ121と、供給油路L21を介してそれぞれMCカットソレノイドバルブ121に接続されると共に加減圧油路L22bまたはL22cを介して左側の前輪65bのホイールシリンダ109bまたは右側の後輪65cのホイールシリンダ109cに接続された保持ソレノイドバルブ122b,122cと、同様に加減圧油路L22bまたはL22cを介して左側の前輪65bのホイールシリンダ109bまたは右側の後輪65cのホイールシリンダ109cに接続された減圧ソレノイドバルブ123b,123cと、減圧油路L23を介して減圧ソレノイドバルブ123b,123cと接続されると共に油路L24を介して供給油路L20と接続されたリザーバ124と、その吸入口が油路L25を介してリザーバ124と接続されると共にその吐出口が逆止弁126を有する油路L26を介して供給油路L21と接続されたポンプ125とを含む。
【0024】
第1系統110のMCカットソレノイドバルブ111、保持ソレノイドバルブ112a,112d、減圧ソレノイドバルブ113a,113d、リザーバ114、ポンプ115、逆止弁116と、第2系統120のMCカットソレノイドバルブ121、保持ソレノイドバルブ122b,122c、減圧ソレノイドバルブ123b,123c、リザーバ124、ポンプ125、逆止弁126とは、対応するもの同士それぞれ同一のものとされている。MCカットソレノイドバルブ111,121は、何れも非通電時(オフ時)に全開しており、ソレノイドに供給される電流を制御することにより開度調整可能なリニアソレノイドバルブである。保持ソレノイドバルブ112a,112d,122b,122cは、通電時(オン時)に閉成される常開型ソレノイドバルブであり、オンされて閉成しているときにホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧(ホイールシリンダ圧)が供給油路L11,L21における油圧よりも高ければブレーキオイルを供給油路L11,L21側に戻すように作動する逆止弁を有している。また、減圧ソレノイドバルブ113a,113d,123b,123cは、通電時(オン時)に開成される常閉型ソレノイドバルブである。更に、第1系統110のポンプ115と第2系統120のポンプ125とは、それぞれ図示しない駆動用のモータ(例えばデューティ制御されるブラシレスDCモータ)を有しており、それぞれ対応するリザーバ114または124内のブレーキオイルを吸入・加圧して油路L16またはL26へと供給する。
【0025】
上述のように構成されるブレーキアクチュエータ102の動作について説明すると、MCカットソレノイドバルブ111,121、保持ソレノイドバルブ112a,112d,122b,122cおよび減圧ソレノイドバルブ113a,113d,123b,123cのすべてがオフされている状態(図2の状態)で運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれると、マスタシリンダ101によって運転者による踏力とエンジン22からの負圧Pnとに応じたマスタシリンダ圧Pmcが発生され、これによりブレーキオイルが供給油路L10,L20、MCカットソレノイドバルブ111,121、供給油路L11,L21、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、加減圧油路L12a〜L22cを介してホイールシリンダ109a〜109dに供給されるので、マスタシリンダ圧Pmcに基づく制動力を前輪65a,65bや後輪65c,65dに付与することが可能となる。また、この状態でブレーキペダル85の踏み込みが解除されれば、ホイールシリンダ109a〜109d内のブレーキオイルは、加減圧油路L12a〜L22c、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、供給油路L11,L21、MCカットソレノイドバルブ111,121、供給油路L10,L20を介してマスタシリンダ101のリザーバ106へと戻され、これに応じてホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧が減少して前輪65a,65bや後輪65c,65dに付与されていた制動力が解除される。更に、前輪65a,65bや後輪65c,65dに制動力が付与されているときに、保持ソレノイドバルブ112a〜122cをオンして閉成させれば、ホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧を保持することができる。また、減圧ソレノイドバルブ113a〜123cをオンして開成させれば、ホイールシリンダ109a〜109d内のブレーキオイルを加減圧油路L12a〜L22c、減圧ソレノイドバルブ113a〜123c、減圧油路L13,L23を介してリザーバ114,124へと導きホイールシリンダ109a〜109dにおけるホイールシリンダ圧を減少させることができる。これにより、ブレーキアクチュエータ102によれば、運転者がブレーキペダル85を踏み込んだときに前輪65a,65bや後輪65c,65dの何れかがロックしてスリップするのを防止するアンチロックブレーキ(ABS)制御を実行することが可能となる。
【0026】
加えて、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれたときに、MCカットソレノイドバルブ111,121の開度を小さくすると共にポンプ115,125を作動させれば、マスタシリンダ101からのブレーキオイルがリザーバ114,124へと導かれるようになり、ホイールシリンダ109a〜109dには、油路L16,L26、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、加減圧油路L12a〜L22cを介して、マスタシリンダ101からリザーバ114,124へと導かれたブレーキオイルがポンプ115,125により増圧されて供給されることになる。すなわち、MCカットソレノイドバルブ111,121を開度調整しながらポンプ115,125を作動させれば、いわゆるブレーキアシストが実行され、マスタシリンダ圧Pmcとポンプ115,125の加圧により発生される圧力(ポンプ115,125による増圧分)との和に基づく制動力を得ることが可能となる。また、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれていないときであっても、MCカットソレノイドバルブ111,121の開度を調整しながらポンプ115,125を作動させれば、マスタシリンダ101のリザーバ106からブレーキアクチュエータ102のリザーバ114,124へと吸引されたブレーキオイルをポンプ115,125により加圧してホイールシリンダ109a〜109dへと供給することができる。この際、更に保持ソレノイドバルブ112a〜122cや減圧ソレノイドバルブ113a〜123cを個別にオン/オフ制御すれば、ホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧を個別かつ自在に調節することが可能となる。これにより、ブレーキアクチュエータ102によれば、運転者がアクセルペダル83を踏み込んだときに駆動輪としての前輪65a,65bや後輪65c,65dの何れかが空転してスリップするのを防止するトラクションコントロール(TRC)や、ハイブリッド自動車20の旋回中等に前輪65a,65bや後輪65c,65dが横滑りするのを防止する姿勢安定化制御(VSC)等をも実行することが可能となる。
【0027】
そして、上述のブレーキアクチュエータ102、すなわちMCカットソレノイドバルブ111,121、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、減圧ソレノイドバルブ113a〜123c、ポンプ115および125のモータ等は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下「ブレーキECU」という)105によって駆動制御される。ブレーキECU105には、マスタシリンダ101により発生されたマスタシリンダ圧Pmcを検出するマスタシリンダ圧センサ101aからのマスタシリンダ圧Pmc、ブレーキブースタ103内の圧力を検出する圧力センサ103aからの負圧(エンジン22により発生される負圧)Pn、主にブレーキアクチュエータ102の欠陥時に用いられるブレーキペダル85に設けられた踏力検出スイッチ86からの信号、更に前輪65a,65bや後輪65c,65dに設けられた図示しない車輪速センサからの車輪速や図示しない操舵角センサからの操舵角等が入力される。また、ブレーキECU105は、ハイブリッドECU70やモータECU53、バッテリECU58と通信しており、上述のマスタシリンダ圧Pmcや負圧Pnといったデータ、高圧バッテリ55の残容量SOC、モータ50の回転数Nm、ハイブリッドECU70からの制御信号等に基づいてブレーキアクチュエータ102を駆動制御してブレーキアシスト、ABS制御、TRC、VSC等を実行すると共に必要に応じてブレーキアクチュエータ102等の作動状態に関するデータ等をハイブリッドECU70やモータECU53、バッテリECU58等に出力する。
【0028】
一方、ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポート等とを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、踏力検出スイッチ86からの信号、車速センサ87からの車速V等が入力ポートを介して入力されている。そして、ハイブリッドECU70は、これらの信号等に基づいて各種制御信号等を生成し、上述のように、エンジンECU24やCVTECU46、モータECU53、バッテリECU58、ブレーキECU105等と、通信により各種制御信号やデータのやり取りを行う。また、ハイブリッドECU70からは、クランクシャフト23に連結されたスタータモータ26やオルタネータ28への駆動信号、電動オイルポンプ60のモータ60aへの制御信号等が出力ポートを介して出力される。
【0029】
上述のように構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者のアクセルペダル83の操作に応じてエンジン22からの動力を前輪65a,65bに出力して走行するか、あるいはモータ50からの動力を後輪65c,65dに出力して走行し、必要に応じてエンジン22とモータ50との双方から動力を出力して4輪駆動により走行する。4輪駆動により走行する場合の例としては、アクセルペダル83が大きく踏み込まれた急加速時や前輪65a,65bや後輪65c,65dの何れかがスリップしたとき等が挙げられる。また、実施例のハイブリッド自動車20では、例えば車速Vが所定車速以上であるときにアクセルペダル83の踏み込みが解除されてアクセルオフに基づく減速要求がなされると、ブレーキB1がオフされると共にクラッチC1がオフされてエンジン22とCVT40との接続が解除されると共にエンジン22が停止され、モータ50が回生制御される。これにより、モータ50の回生により後輪65c,65dに制動力を付与してハイブリッド自動車20を減速させると共にモータ50によって回生される電力により高圧バッテリ55を充電することが可能となり、それによりハイブリッド自動車20におけるエネルギ効率を向上させることができる。
【0030】
次に、上述のように構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれた制動時の動作について説明する。図3は、実施例のブレーキECU105により実行される制動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれている最中に所定時間毎(例えば、数msec毎)に実行される。
【0031】
図3の制動制御ルーチンの開始に際して、ブレーキECU105の図示しないCPUは、まず、マスタシリンダ圧センサ101aからのマスタシリンダ圧Pmc、圧力センサ103aからの負圧Pn、モータ50の回生により得ることができる回生制動力BFrといった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。この場合、モータ50の回生により得ることができる回生制動力BFrは、モータ50の回転数Nmと高圧バッテリ55の残容量SOCとに基づいて求められたものをハイブリッドECU70から通信により入力するものとした。実施例では、モータ50の定格回生トルク等に基づいて高圧バッテリ55の残容量SOCごとに図4に例示するようなモータ50の回転数Nmと回生制動力BFrとの関係が予め定められて回生制動力導出用マップとしてハイブリッドECU70のROM74に記憶されており、ハイブリッドECU70は、所定時間毎にバッテリECU58からの残容量SOCに対応した回生制動力導出用マップからモータ50の回転数Nmに対応した回生制動力BFrを導出している。従って、ステップS100にて入力される回生制動力BFrは、基本的に入力時直前のサンプリング値に基づく値となる。
【0032】
ステップS100のデータ入力処理の後、入力したマスタシリンダ圧Pmcと負圧Pnとに基づいて運転者によりブレーキペダル85に加えられたペダル踏力Fpdを計算する(ステップS110)。実施例では、マスタシリンダ圧Pmcおよび負圧Pnとペダル踏力Fpdとの関係が予め定められてペダル踏力設定用マップとしてブレーキECU105の図示しないROMに記憶されており、ペダル踏力Fpdとしては、与えられたマスタシリンダ圧Pmcと負圧Pnとに対応するものが当該マップから導出・設定される。図5にペダル踏力設定用マップの一例を示す。次いで、計算したペダル踏力Fpdに基づいて運転者により要求されている要求制動力BF*を設定する(ステップS120)。実施例では、運転者によるペダル踏力Fpdと要求制動力BF*との関係が予め定められて要求制動力設定用マップとしてブレーキECU105のROMに記憶されており、要求制動力BF*としては、与えられたペダル踏力Fpdに対応するものが当該マップから導出・設定される。図6に要求制動力設定用マップの一例を示す。このように、実施例では、エンジン22からブレーキブースタ103に供給される負圧Pnの値によってブレーキブースタ103におけるサーボ比が変化することを考慮し、マスタシリンダ圧Pmcおよび負圧Pnに基づいて運転者によるペダル踏力Fpdを求めた上で、ペダル踏力Fpdに応じた要求制動力BF*を設定している。これにより、エンジン22からブレーキブースタ103に供給される負圧Pnの値が変化しても運転者の要求に応じて要求制動力BF*をより正確に設定することが可能となる。
【0033】
続いて、ステップS100にて入力したマスタシリンダ圧Pmcにブレーキロータの外径、タイヤ径、ホイールシリンダのシリンダ断面積、ブレーキパッドの摩擦係数といったブレーキ諸元から定まる定数Kspecを乗じる計算によりマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcを設定する(ステップS130)。そして、ステップS120にて設定した要求制動力BF*がステップS130にて設定した操作制動力BFpmc以下であるか否かを判定する(ステップS140)。要求制動力BF*が操作制動力BFpmc以下である場合には、運転者により要求されている制動力の操作制動力BFpmcでまかなうことが可能である。従って、要求制動力BF*が操作制動力BFpmc以下であれば、モータ50の回生により得るべき目標回生制動力BFr*を値0に設定した上で、設定した目標回生制動力BFr*をモータECU53に送信し(ステップS200)、本ルーチンを一旦終了させる。この場合、マスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcをそのまま前輪65a,65bや後輪65c,65dに作用させるので、MCカットソレノイドバルブ111,121はオフされたまま全開状態に保たれる。
【0034】
一方、要求制動力BF*が操作制動力BFpmcを上回っている場合には、運転者により要求されている制動力をマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcのみによりまかなうことができない。このため、ステップS140にて要求制動力BF*が操作制動力BFpmcを上回っていると判断された場合には、ステップS120にて設定した要求制動力BF*からステップS130にて設定した操作制動力BFpmcを減じた値をモータ50の回生により得るべき目標回生制動力BFr*として設定した上で、設定した目標回生制動力BFr*をモータECU53に送信する(ステップS150)。ただし、モータ50の回生により得ることができる回生制動力は、モータ50の回転数Nm(車速V)や高圧バッテリ55の残容量SOC等に応じて変化するものであり、ステップS150にて送信した目標回生制動力BFr*が必ずしもモータ50から出力されるとは限らず、場合によっては、当該目標回生制動力BFr*が得られずに運転者により要求されている制動力を満たすことができなくなるおそれもある。このため、ステップS150の処理を実行したならば、ステップS100にて入力した回生制動力BFrとステップS130にて設定した操作制動力BFpmcとの和からステップS120にて設定した要求制動力BF*を減じた値が所定の閾値α以上であるか否かを判定する(ステップS160)。ここで用いられる閾値αは、制動時の回生制動力の変動を考慮して実験、解析を経て定められ、例えば値0に近い正の値とされる。そして、ステップS160にて肯定判断がなされた場合には、モータ50により目標回生制動力BFr*が出力されてマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcとモータ50による回生制動力とで要求制動力BF*をまかなうことができるとみなし、本ルーチンを一旦終了させる。なお、目標回生制動力BF*を受信したモータECU53は、目標回生制動力BF*が得られるようにインバータ52のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。また、この場合も、マスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcをそのまま前輪65a,65bや後輪65c,65dに作用させるので、MCカットソレノイドバルブ111,121はオフされたまま全開状態に保たれる。
【0035】
これに対して、ステップS160にて否定判断がなされた場合には、実際にモータ50により出力される回生制動力が目標回生制動力BFr*よりも小さくなり、運転者により要求されている要求制動力BF*を得られなくなってしまうおそれがある。このため、ステップS160にて否定判断がなされた場合には、不足するおそれのある制動力をマスタシリンダ101からのブレーキオイルをポンプ115,125により増圧させることにより補填すべく、ステップS120にて設定された要求制動力BF*からステップS100にて入力した回生制動力BFrとステップS130にて設定された操作制動力BFpmcとを減じた値をポンプ115,125の加圧により発生する加圧圧力(ポンプ115,125による増圧分)に基づく補填制動力BFppとして設定する(ステップS170)。補填制動力BFppを設定したならば、設定した補填制動力BFppに基づいてポンプ115のモータに対する指令値(指令デューティ比)dp1およびポンプ125のモータに対する指令値dp2と、MCカットソレノイドバルブ111の開度を変化させるための指令値(指令デューティ比)dv1およびMCカットソレノイドバルブ121の開度を変化させるための指令値(指令デューティ比)dv2とを設定する(ステップS180)。実施例では、補填制動力BFppすなわちポンプ115,125による増圧分と指令値dp1,dp2,dv1およびdv2との関係が予め定められて図示しない指令値設定用マップとしてブレーキECU105のROMに記憶されており、指令値dp1,dp2,dv1およびdv2としては、与えられた補填制動力BFppに対応するものが当該マップから導出・設定される。そして、指令値dp1,dp2に基づいてポンプ115,125のモータを駆動制御すると共に指令値dv1,dv2に基づいてMCカットソレノイドバルブ111,121のソレノイドを駆動制御し(ステップS190)、本ルーチンを一旦終了させる。これにより、前輪65a,65bや後輪65c,65dには、ホイールシリンダ109a〜109dからマスタシリンダ圧Pmcとポンプ115,125による加圧圧力(増圧分)に基づく制動力、すなわち操作制動力BFpmcと補填制動力BFppとの和に相当する制動力がモータ50による回生制動力に加えて付与されることになる。
【0036】
以上説明したように、実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれたときに、モータ50による回生制動力BFrとマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcとの和が要求制動力BF*に不足しない場合には、モータ50による回生制動力と操作制動力BFpmcとで要求制動力BF*がまかなわれるようにモータ50とHBS100のブレーキアクチュエータ102とが制御される。また、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれたときに、モータ50による回生制動力BFrとマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcとの和が要求制動力BF*に不足する(おそれがある)場合には、モータ50による回生制動力と操作制動力BFpmcとポンプ115,125による加圧圧力(増圧分)に基づく制動力である補填制動力BFppとで要求制動力BF*がまかなわれるようにモータ50とHBS100のブレーキアクチュエータ102が制御される(ステップS170〜S190)。すなわち、ブレーキブースタ103が設けられているマスタシリンダ101により、運転者のペダル踏力Fpd(制動要求操作)とエンジン22により発生される負圧Pnとに応じてマスタシリンダ圧Pmcを発生させるHBS100においては、エンジン22が停止されて負圧Pnが得られなくなったり、何らかの理由により負圧Pnが減少したりすると(値として大きくなったりすると)、運転者によるペダル踏力Fpdが負圧未低下時と同様のものであればマスタシリンダ圧Pmcが低下することになる。従って、このような負圧Pnの不足に起因してモータ50による回生制動力とマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcとの和が要求制動力BF*に不足するときには、ポンプ115,125による加圧圧力(増圧分)に基づく補填制動力BFppをも利用すれば、運転者によるペダル踏力Fpdが負圧未低下時と同様のものであっても本来運転者により要求されている要求制動力BF*を良好に得ることができる。これにより、実施例のハイブリッド自動車20では、負圧低下時の制動要求操作に際して運転者が覚えがちな違和感を抑制しつつ要求制動力BF*を良好に確保することが可能となる。
【0037】
また、上述のように、マスタシリンダ圧センサ101aにより検出されるマスタシリンダ圧Pmcと圧力センサ103aにより検出される負圧Pnとに基づいて要求制動力BF*を設定すれば(ステップS110,S120)、エンジン22からブレーキブースタ103に供給される負圧Pnが変化しても運転者により本来要求されている要求制動力BF*をより正確に設定することができる。更に、設定した要求制動力BF*からマスタシリンダ圧Pmcに基づく操作制動力BFpmcとモータ50による得ることができる回生制動力BFr(前回値)とを減じて補填制動力BFppを求めれば、求めた補填制動力BFppに基づいてポンプ115,125やMCカットソレノイドバルブ111,121をより適正に駆動制御して設定された要求制動力BF*を良好に得ることが可能となる。
【0038】
そして、実施例のハイブリッド自動車20のように、ハイブリッドECU70側でモータ50の回転数Nmと高圧バッテリ55の充電状態を示す残容量SOCとに基づいてモータ50の回生により得ることができる回生制動力BFrを設定すれば、ブレーキペダル85が踏み込まれたときにモータ50をより適正に回生制御して回生制動力を良好に活用することが可能となるので、ポンプ115,125を駆動するモータの消費電力を抑制することができる。また、実施例のハイブリッド自動車20では、高圧バッテリ55の残容量SOCによってはモータ50の回生が制限されることもあるが、このように高圧バッテリ55の充電状態に応じてモータ50の回生により得られる回生制動力が低下しても、ハイブリッド自動車20では、ポンプ115,125による補填制動力BFppを利用して要求制動力BF*を良好に得ることが可能となる。
【0039】
更に、実施例のハイブリッド自動車20では、例えば車速Vが所定車速以上であるときにアクセルペダル83の踏み込みが解除されてアクセルオフに基づく減速要求がなされると、エンジン22とCVT40との接続が解除されると共にエンジン22が停止され、モータ50が回生制御されるが、このように、エンジン22を適宜停止させてモータ50による回生制動を利用すれば、ハイブリッド自動車20におけるエネルギ効率を向上させることが可能となる。そして、上述のように、ハイブリッド自動車20では、エンジン22が停止されて負圧Pnが不足したときに運転者のペダル踏力Fpdが負圧未低下時と同様のものであっても要求制動力BF*を良好に得ることができるので、エネルギ効率を向上させつつ、制動時における操作性や安全性を向上させることが可能となる。
【0040】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【0041】
すなわち、実施例のHBS100のブレーキアクチュエータ102は、アキュムレータ等の蓄圧装置を含むものであってもよく、ブレーキアクチュエータ102のポンプ115および125は、それぞれ個別の駆動源をもつものに限られず、駆動源として単一のモータを共用するものであってもよい。また、上記実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン22の動力を駆動軸としてのアウトプットシャフト42を介して前輪65a,65bに出力するものであるが、エンジン22の動力は後軸66を介して後輪65c,65dに出力されてもよい。更に、エンジン22の動力を前輪65a,65bや後輪65c,65dに出力する代わりに発電機に接続し、当該発電機により発電された電力あるいは当該発電機により発電されてバッテリに充電された電力によりモータ50を駆動してもよい。すなわち、本発明は、いわゆるシリーズ方式のハイブリッド車両にも適用することができる。また、実施例のハイブリッド自動車20は、後軸66を介してモータ50の動力を後輪65c,65dに出力するものであるが、モータ50の動力は前輪65a,65bに出力されもよい。更に、変速機としてベルト式のCVT40の代わりに、トロイダル式のCVTや有段変速機を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、自動車産業において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド自動車20に備えられたHBS100のブレーキアクチュエータ102を示す系統図である。
【図3】実施例のブレーキECU105により実行される制動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】回生制動力導出用マップの一例を示す説明図である。
【図5】ペダル踏力設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】要求制動力設定用マップの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
20 ハイブリッド自動車、21 前輪駆動系、22 エンジン、22a 吸気マニフォールド、23 クランクシャフト、23a クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、25 ギヤ列、26 スタータモータ、27 ベルト、28 オルタネータ、29 機械式オイルポンプ、30 トルクコンバータ、31 タービンランナ、32 ポンプインペラ、33 ロックアップクラッチ、34 出力軸、35 前後進切換機構、36 サンギヤ、37 リングギヤ、38a 第1ピニオンギヤ、38b 第2ピニオンギヤ、39 キャリア、40 CVT、41 インプットシャフト、42 アウトプットシャフト、43 プライマリプーリ、44 セカンダリプーリ、45 ベルト、46 CVT用電子制御ユニット(CVTECU)、47 油圧回路、48,49 回転数センサ、50 モータ、50a 回転位置検出センサ、51 後輪駆動、52 インバータ、53 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、55 高圧バッテリ、56 DC/DCコンバータ、57 低圧バッテリ、58 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、60 電動オイルポンプ、60a モータ、61,63 ギヤ機構、62,64 デファレンシャルギヤ、65a,65b 前輪、65c,65d 後輪、66 後軸、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 踏力検出スイッチ、87 車速センサ、100 電子制御式油圧ブレーキユニット(HBS)、101 マスタシリンダ、101a マスタシリンダ圧センサ、102 ブレーキアクチュエータ、103 ブレーキブースタ、103a 圧力センサ、104 逆止弁、105 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、106 リザーバ、109a,109b,109c,109d ホイールシリンダ、110 第1系統、111,121 MCカットソレノイドバルブ、112a,112d,122b,122c 保持ソレノイドバルブ、113a,113d,123b,123c 減圧ソレノイドバルブ、114,124 リザーバ、115,125 ポンプ、116,126 逆止弁、120 第2系統、150 モータ、B1 ブレーキ、C1 クラッチ、L10,L11,L20,L21 供給油路、L12a,L12d,L22b,L22c 加減圧油路、L13,L23 減圧油路、L14,L15,L16,L24,L25,L26 油路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を出力可能な内燃機関と、
車軸に対して少なくとも回生制動力を出力可能な電動機と、
前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
作動流体を加圧可能な加圧手段を有し、運転者による制動要求操作と前記内燃機関により発生される負圧とに応じて発生された作動流体の圧力である操作圧力と前記加圧手段の加圧により発生される作動流体の圧力である加圧圧力とを用いて制動力を出力可能な流体圧式制動手段と、
前記制動要求操作がなされたときに運転者により要求されている要求制動力を設定する要求制動力設定手段と、
前記制動要求操作がなされたときに、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が前記設定された要求制動力以上となる場合には、当該回生制動力と当該操作制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する一方、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が前記設定された要求制動力未満となる場合には、当該回生制動力と当該操作制動力と前記加圧圧力に基づく制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する制動制御手段と、
前記制動要求操作がなされたときに、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が前記設定された要求制動力に不足しない場合には、当該回生制動力と当該操作制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する一方、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が前記設定された要求制動力に不足する場合には、当該回生制動力と当該操作制動力と前記加圧圧力に基づく制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する制動制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記操作圧力を検出する操作圧力検出手段と、
前記内燃機関により発生される負圧を検出する負圧検出手段と、
前記制動要求操作がなされたときに前記電動機の回生により得ることができる回生制動力を設定する回生制動力設定手段とを更に備え、
前記要求制動力設定手段は、前記検出された操作圧力と前記検出された負圧とに基づいて前記要求制動力を設定し、前記制動制御手段は、前記設定された要求制動力から前記設定された回生制動力と前記検出された操作圧力に基づく操作制動力とを減じた値に基づいて前記加圧手段を制御する車両。
【請求項3】
前記回生制動力設定手段は、前記電動機の回転数と前記蓄電手段の充電状態とに基づいて前記制動要求操作がなされたときに前記電動機の回生により得ることができる回生制動力を設定する請求項2に記載の車両。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の車両において、
前記流体圧式制動手段は、運転者による制動要求操作と前記内燃機関により発生される負圧とに応じて前記操作圧力を発生させる操作圧力発生手段を有し、前記加圧手段は当該操作圧力発生手段からの作動流体を加圧可能である車両。
【請求項5】
前記内燃機関は第1の車軸に動力を出力可能であり、前記電動機は前記第1の車軸とは異なる第2の車軸に動力を入出力可能である請求項1から4の何れかに記載の車両。
【請求項6】
請求項5に記載の車両において、
前記内燃機関の出力軸と前記第1の車軸との接続および該接続の解除を実行する接続断接手段を更に備え、
所定条件が成立しているときに、前記接続断接手段により前記内燃機関の出力軸と前記第1の車軸との接続が解除されると共に前記内燃機関の運転が停止される車両。
【請求項7】
動力を出力可能な内燃機関と、車軸に対して少なくとも回生制動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、作動流体を加圧可能な加圧手段を有し、運転者による制動要求操作と前記内燃機関により発生される負圧とに応じて発生された作動流体の圧力である操作圧力と前記加圧手段の加圧により発生される作動流体の圧力である加圧圧力とを用いて制動力を出力可能な流体圧式制動手段とを備えた車両の制御方法であって、
前記制動要求操作がなされたときに、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が運転者による要求制動力に不足しない場合には、当該回生制動力と当該操作制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する一方、前記電動機による回生制動力と前記操作圧力に基づく操作制動力との和が運転者による要求制動力に不足する場合には、当該回生制動力と当該操作制動力と前記加圧圧力に基づく制動力とで前記設定された要求制動力がまかなわれるように前記電動機と前記流体圧式制動手段とを制御する車両の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−308005(P2007−308005A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138762(P2006−138762)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】