説明

車両のコースティング走行制御装置

【課題】コーストダウンシフト時にロックアップが解除され難くしてロックアップ時間を延長し、燃費改善効果の低下を回避する。
【解決手段】CurGPでの変速機入力回転数Nt(CurGP)と、検出した変速機入力回転数Ntとの間の偏差ΔNtが所定値ΔNs以上になるt2に、強制的にフューエルリカバーを行うと同時に、ロックアップ解除回転数Noffをフューエルリカバー回転数Nrecと同じ値まで低下させ、これらの制御を変速終了判定時t4に終了させる。強制フューエルリカバーにより入力側回転数Ne,Ntの低下が抑制され、これによってもNe,Ntが低下前のNoffまで低下することがあっても(t3)、Noffの低下でロックアップの解除は防止され、燃費改善効果の低下を回避可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータを介しエンジンからの回転を入力される有段式自動変速機を搭載した車両のコースティング(惰性)走行中における制御に関し、
特に、当該走行中におけるトルクコンバータのロックアップ時間を延長して燃費改善効果を高め得るようにした車両のコースティング走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両にあっては、エンジンを無負荷状態にしたコースティング走行中、トルクコンバータを、入出力要素間が直結されたロックアップ状態にすると共に、
エンジンへの燃料供給を中止するフューエルカットを行うことにより、燃費の改善を図ることが多く行われている。
【0003】
ところで、コースティング走行中はエンジンが無負荷状態であるが故に、自動変速機の入力側回転数は徐々に低下する。
それにもかかわらず上記したトルクコンバータのロックアップおよびエンジンのフューエルカットを継続すると、トルクコンバータのトルク変動吸収機能が得られないため、振動やエンジンストール(エンスト)が生じたり、フューエルカット終了時にエンジンを再運転させ得なくなる。
【0004】
従って通常は、コースティング走行中、変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下するときトルクコンバータのロックアップを解除し、また、変速機入力側回転数がフューエルリカバー回転数まで低下するときフューエルカットを終了してエンジンへの燃料供給を再開するフューエルリカバーを行う。
【0005】
しかし、フューエルリカバーによりエンジンを燃料供給の再開により再運転させるとき、エンジントルクの急な立ち上がることになるため、
このときトルクコンバータがロックアップ状態のままだと、急上昇したエンジントルクがロックアップ状態のトルクコンバータおよび自動変速機の伝動系を経てそのまま駆動車輪に達し、大きなフューエルリカバーショックを発生させる。
【0006】
そこで従来、特許文献1に記載のように、フューエルリカバー回転数をロックアップ解除回転数よりも低く設定し、
コースティング走行のため低下中の変速機入力側回転数が、ロックアップ解除回転数まで低下してトルクコンバータのロックアップが解除された後に、
変速機入力側回転数がフューエルリカバー回転数まで低下してエンジンのフューエルリカバーが行われるようにした技術が提案されている。
【0007】
かかる車両のコースティング走行制御装置によれば、エンジンのフューエルリカバーが行われるとき、トルクコンバータが既にロックアップの解除により、入出力要素間の直結を解かれたコンバータ状態にされていて、トルク変動吸収機能を果たし得るため、
上記したフューエルリカバーショックに関する問題を解決することができる。
【特許文献1】特開2005−075066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載のコースティング走行制御技術は、コースティング走行中におけるトルクコンバータのロックアップ時間を延長することについて言及しておらず、
当該ロックアップ時間の延長による燃費の向上について、なお改善の余地があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑み、コースティング走行中におけるロックアップ時間の延長を実現して、燃費の更なる改善を果たした車両のコースティング走行制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明による車両のコースティング走行制御装置は、請求項1に記載のごとく以下の構成とする。
先ず前提となる車両を説明するに、これは、
トルクコンバータを介しエンジンからの回転を入力される有段式自動変速機を搭載した車両であって、
エンジンを無負荷状態にしたコースティング走行中、トルクコンバータを、入出力要素間が直結されたロックアップ状態にすると共に、エンジンへの燃料供給を中止するフューエルカットを行い、
変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下するときトルクコンバータのロックアップを解除し、変速機入力側回転数が該ロックアップ解除回転数よりも低いフューエルリカバー回転数まで低下するとき上記フューエルカットを終了してエンジンへの燃料供給を再開するフューエルリカバーを行うようにしたものである。
【0011】
本発明のコースティング走行制御装置は、かかる車両に対し、以下のコースティング時強制フューエルリカバー手段およびコースティング時ロックアップ解除回転数低下手段を設ける。
前者のコースティング時強制フューエルリカバー手段は、上記のコースティング走行中、変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下するよりも前に、フューエルリカバーを行わせる。
また後者のコースティング時ロックアップ解除回転数低下手段は、前者のコースティング時強制フューエルリカバー手段によるフューエルリカバー時に前記のロックアップ解除回転数を低下させる。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明の構成によれば、
コースティング走行中、変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下するよりも前に、強制フューエルリカバーを行わせるため、
この強制フューエルリカバーにより変速機入力側回転数が上昇されて、ロックアップ解除回転数まで低下する虞を緩和することができ、これによるロックアップ時間の延長で燃費を向上させることができる。
【0013】
ところで、上記フューエルリカバーの指令から実際にエンジンの再運転で変速機入力側回転数が上昇するまでには、燃料供給再開遅れや点火遅れによる所定の応答遅れが不可避で、この応答遅れ中に変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下する虞を禁じ得ない。
【0014】
しかし本発明の構成によれば、上記のコースティング時強制フューエルリカバー時にロックアップ解除回転数を低下させるため、
上記応答遅れ中における変速機入力側回転数の低下によっても、この変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下する虞を確実に緩和することができ、これにより、ロックアップ時間の延長で燃費を向上させ得るという上記の作用効果を確実なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例になるコースティング走行制御装置を具えた車両のパワートレーン、およびその制御系を示し、
1はエンジン、2は有段式自動変速機、3はトルクコンバータである。
【0016】
エンジン1は、トルクコンバータ3を介して自動変速機3の入力軸に結合し、自動変速機3の出力軸を駆動車輪に結合する。
エンジン1は、エンジンコントローラ4から図示せざる燃料噴射量指令や点火時期指令を受けて燃料噴射量や点火時期を制御されることにより通常運転を行うほか、
燃料噴射を中止するフューエルカット指令や燃料噴射を再開するフューエルリカバー指令を図示のごとくエンジンコントローラ4から受けてフューエルカット制御されるものとする。
かかるフューエルカット制御のためエンジンコントローラ4には、エンジン回転数Neを入力する。
【0017】
自動変速機2は、変速機コントローラ5から図示のごとく変速指令を受けて、現在の変速段(CurGP)から運転状態に符合した目標変速段(NxtGP)への自動変速を行う。
トルクコンバータ3は、入力要素であるポンプインペラおよび出力要素であるタービンランナを適宜直結(ロックアップ)可能なものとし、
該トルクコンバータ3のロックアップ制御も、変速機コントローラ5が図示するロックアップ指令によって、これを遂行するものとする。
【0018】
エンジンコントローラ4および変速機コントローラ5間で通信を可能とし、
変速機コントローラ5からエンジンコントローラ4へは、現在の変速段(CurGP)に係わる信号と、目標変速段(NxtGP)に係わる信号と、自動変速機2の入力回転数(トルクコンバータ3のタービン回転数)Ntに係わる信号と、トルクコンバータ3がロックアップ状態であることを示す信号であるロックアップフラグとを入力する。
逆にエンジンコントローラ4から変速機コントローラ5へは、トルクコンバータ3のロックアップを禁止する信号であるロックアップ禁止フラグを入力する。
【0019】
ここで本実施例においてエンジンコントローラ4および変速機コントローラ5は、基本的には、
エンジン1を無負荷状態(アクセルペダルを踏み込まないで釈放状態にした状態)にしたコースティング(惰性)走行中、トルクコンバータ3を入出力要素間が直結されたロックアップ状態にすると共に、
エンジン1への燃料供給を中止するフューエルカットを行うものとする。
これにより、トルクコンバータ3のロックアップ時間を長くし、エンジン1のフューエルカットと相まって燃費を改善することができる。
【0020】
ところで、コースティング走行中はエンジン1が無負荷状態であるため、自動変速機2の入力側回転数(エンジン回転数Neや変速機入力回転数Nt)は徐々に低下する。
それにもかかわらず上記したトルクコンバータ3のロックアップおよびエンジン1のフューエルカットを継続すると、トルクコンバータ3のトルク変動吸収機能が得られないため、振動やエンジンストール(エンスト)が生じたり、フューエルカット終了時(フューエルリカバー時)にエンジン1を再運転させ得なくなる。
【0021】
そこで本実施例において、エンジンコントローラ4および変速機コントローラ5は、
コースティング走行中、変速機入力回転数Ntがロックアップ解除回転数Noffまで低下するときトルクコンバータ3のロックアップを解除し、
変速機入力回転数Ntがフューエルリカバー回転数Nrecまで低下するときエンジン1のフューエルカットを終了してフューエルリカバーを行うものとする。
【0022】
なお本実施例においては、かかるトルクコンバータ3のロックアップ解除、および、エンジン1のフューエルリカバーに際し、フューエルリカバーショックを緩和するため、ロックアップ解除回転数Noffよりもフューエルリカバー回転数Nrecを低く設定する。
これによりエンジンコントローラ4および変速機コントローラ5が、先ずトルクコンバータ3のロックアップ解除を行い、かかるロックアップ解除状態のもとで(トルクコンバータ3をコンバータ状態にした後に)、エンジン1のフューエルリカバーを行わせるようになす。
かかる順次制御によれば、エンジン1のフューエルリカバーショックを、コンバータ状態のトルクコンバータ3により吸収して緩和することができる。
【0023】
ところで、上記のコースティング走行が自動変速機2がダウンシフトを伴うものである場合、そして、自動変速機2が当該ダウンシフトを変速摩擦要素(変速を司るクラッチやブレーキなど)の掛け替えにより、つまり締結状態の摩擦要素を解放すると共に解放状態の摩擦要素を締結することにより遂行し(前者の摩擦要素を解放側要素、後者の摩擦要素を締結側要素と言う)、また締結側要素の締結容量(作動油圧)を制御の容易さなどの理由から一定の時間変化勾配で上昇させようとすると、以下の問題がある。
【0024】
図4につき説明するに、この図は、アクセルペダルを釈放してアクセル開度APOを0/8にしたコースティング走行中、自動変速機2が現在の変速段CurGP(第4速)から目標変速段NxtGP(第3速)へのコーストダウンシフトを、図示する解放側要素締結容量Toffの低下および締結側要素締結容量Tonの上昇により行って、変速機入力回転数Ntと変速機出力回転数Noとの比で表される実効ギヤ比λ(=Nt/No)を図示のごとくに時系列変化させる場合の動作タイムチャートである。
【0025】
かかるコーストダウンシフトに際し、締結側要素締結容量Tonを制御の容易さなどの理由から一定の時間変化勾配θ2で上昇させる場合、
コースティング走行故に低下している変速機入力側回転数(エンジン回転数Neや変速機入力回転数Nt)を図示のようにロックアップ解除回転数Noffに到達する前に上昇に転じさせて、トルクコンバータ3のロックアップ時間の延長により燃費を改善させるためには、
締結側要素締結容量Tonの時間変化勾配θ2を図4に例示するごとく急にして、コーストダウンシフトを速やかに進行させる必要がある。
【0026】
しかし、締結側要素締結容量Tonの急な時間変化勾配θ2によるコーストダウンシフトの速やかな進行は、車両減速度Gの時系列変化から明らかなように、
トルクフェーズおよびイナーシャフェーズ中に車両減速度Gの絶対値を急増させ、変速終了時に車両減速度Gの絶対値を急低下させることから、大きなショックが発生して変速品質を低下させるという問題を生ずる。
かかる変速品質の低下は避けなければならないことから、この変速品質が問題とならない程度まで締結側要素締結容量Tonの時間変化勾配は図4のθ2から、例えば図3のθ1へと緩やかにする必要がある。
【0027】
本実施例は、かかる緩やかな締結側要素締結容量Tonの時間変化勾配θ1によっても、トルクコンバータ3がロックアップを解除されることがないようにしてロックアップ時間の延長を実現し、これにより燃費を改善させることができるようにしたもので、
このため、図1のエンジンコントローラ4および変速機コントローラ5は、図2の制御プログラムを実行して、図3の動作タイムチャートに示すようなコースティング走行制御を遂行するものとする。
【0028】
なお図3も、図4と同様に、アクセル開度APOを0/8にしたコースティング走行中、自動変速機2が現在の変速段CurGP(第4速)から目標変速段NxtGP(第3速)へのコーストダウンシフトを、解放側要素締結容量Toffの低下および締結側要素締結容量Tonの上昇により行って、実効ギヤ比λ(=Nt/No)を図示のごとくに時系列変化させる場合の動作タイムチャートである。
ただし、かかるコーストダウンシフトに際し、車両減速度Gが図4の場合よりも緩やかに変化してショックの小さな良好な変速品質となるよう、締結側要素締結容量Tonを図4の場合よりも緩やかな一定の時間変化勾配θ1で上昇させるものとする。
【0029】
図2の制御プログラムはコースティング走行中に実行されるもので、
ステップS1においては、車速VSPがダウンシフト判定車速以下になったか否かにより、自動変速機2にダウンシフトの変速指令を供給すべきか否かをチェックする。
車速VSPがダウンシフト判定車速以下になるまでは制御を元に戻して、ステップS1の判定を継続しつつ、車速VSPがダウンシフト判定車速以下になるまで待機する。
【0030】
ステップS1で車速VSPがダウンシフト判定車速以下になったと判定する図3の瞬時t1に、制御をステップS2に進めて自動変速機2にダウンシフト指令を発し、自動変速機2のコーストダウンシフトを開始させる。
このコーストダウンシフトは、図3に示すごとく解放側要素締結容量Toffを低下させると共に、締結側要素締結容量Tonを前記した緩やかな時間変化勾配θ1で上昇させて、自動変速機2を現在の変速段(CurGP=第4速)から目標変速段(NxtGP=第3速)へ変速させるものである。
【0031】
次のステップS3においては、現在の変速段(CurGP=第4速)に係わるギヤ比λ(CurGP)を変速機出力回転数Noで除算して、現在の変速段(CurGP=第4速)が維持された場合における変速機入力回転数Nt(CurGP)={λ(CurGP)/No}を演算し、
更に、このNt(CurGP)と、検出した変速機入力回転数Ntとの間における入力回転数偏差ΔNt{=Nt(CurGP)−Nt}を演算する。
【0032】
その後ステップS4において、入力回転数偏差ΔNtが、後で詳述する所定値ΔNs以上になったか否かを判定し、
ΔNt<ΔNsである間は制御をステップS3へ戻すことにより、ΔNt≧ΔNsとなるまでステップS4での判定を継続しつつ待機する。
ステップS4でΔNt≧ΔNsになったと判定する図3の瞬時t2に、制御をステップS5およびステップS6に進める。
【0033】
ステップS5においては、図3の瞬時t2まで行っていたコースティング走行用の全気筒フューエルカットを中断して、エンジン1を強制的にフューエルリカバーし、
ステップS6においては、ロックアップ解除回転数Noffを図3の瞬時t2に示すようにフューエルリカバー回転数Nrecと同じ値まで低下させる。
従ってステップS5は、本発明におけるコースティング時強制フューエルリカバー手段に相当し、
またステップS6は、コースティング時ロックアップ解除回転数低下手段に相当する。
【0034】
なお、ステップS4で入力回転数偏差ΔNtが所定値ΔNs以上であると判定する図3の瞬時t2に、ステップS5での強制的フューエルリカバーを実行することとした理由は、
コーストダウンシフト中に自動変速機2の伝動系(自動変速機2の変速摩擦要素や、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ)がフューエルリカバーショックの少なくとも一部を吸収して緩和し得るスリップ可能状態である時に当該強制的フューエルリカバーを行わせるためである。
従って上記の所定値ΔNsは、上記変速機伝動系の当該スリップ可能状態を判定可能な所定の値(例えば20〜50rpm)に定める。
ここでΔNs=20〜50rpmとする理由は、フューエルリカバーショックを緩和し、且つ、変速機入力回転数Ntがロックアップ解除回転数Noffまで低下しない範囲において、上記のスリップ可能状態を作るためである。
【0035】
ところで本実施例のように、入力回転数偏差ΔNtが所定値ΔNs以上である時をもって、変速機伝動系が上記スリップ可能状態であると判定する場合(ステップS4)、
当該判定を、正確に且つ確実に、しかも既存の信号を用いて安価に行うことができ、大いに有利である。
【0036】
本実施例においては更に、図2に示さなかったが、上記フューエルリカバーショックの緩和用にロックアップ油圧を図3のごとくに低下させてトルクコンバータ3をスリップロックアップ状態にする。
図3の瞬時t2にステップS5で上記のように行う強制的フューエルリカバーは、エンジントルクの発生により変速機入力トルクの絶対値を、同図の瞬時t2以降におけるごとくに低下させる。
【0037】
このため、フューエルリカバーショック緩和用に図3のごとく低下されているロックアップ油圧のもとでも、トルクコンバータ3の上記スリップロックアップによりエンジン回転数Neおよび変速機入力回転数Ntをそれぞれ、図3の瞬時t2以降におけるごとく上昇させることができる。
【0038】
従って、理論的にはステップS5による(図3の瞬時t2における)強制的フューエルリカバーのみにより、つまりステップS6による(図3の瞬時t2における)ロックアップ解除回転数Noffの低下を行わなくても、
変速機入力回転数Ntが、その後におけるコーストダウンシフトの進行により上昇されることとも相まって、変速機入力回転数Ntがロックアップ解除回転数Noffまで低下するようなことはなく、ロックアップ時間の延長による燃費改善効果を実現することができる。
【0039】
しかし実際は、ステップS5による(図3の瞬時t2における)強制的フューエルリカバーの指令から実際にエンジンが再運転されてエンジン回転数Neが上昇されるようになるまでには、また、自動変速機2がコーストダウンシフトの進行により変速機入力回転数Ntを上昇させるようになるまでには、
燃料供給再開遅れや点火遅れによる応答遅れ、および、低い変速機作動油温による変速遅れ分の応答遅れが不可避で、
この応答遅れ中にエンジン回転数Neおよび変速機入力回転数Ntが、図3の瞬時t2〜t3中に見られるように低下することがある。
【0040】
従って、ステップS6による(図3の瞬時t2における)ロックアップ解除回転数Noffの低下を行わなかった場合、つまりロックアップ解除回転数Noffが図3に二点鎖線で示すごとく不変である場合、
エンジン回転数Neおよび変速機入力回転数Ntが図3の瞬時t3に示すごとく、ロックアップ解除回転数Noffまで低下してロックアップが解除される虞を禁じ得ず、燃費向上効果が阻害されることがある。
【0041】
しかし本実施例によれば、ステップS5による(図3の瞬時t2における)強制的フューエルリカバー時に、ステップS6においてロックアップ解除回転数Noffを低下させるため、
上記応答遅れ中の瞬時t3におけるエンジン回転数Neおよび変速機入力回転数Ntの低下によっても、これらエンジン回転数Neおよび変速機入力回転数Ntがロックアップ解除回転数Noffまで低下してロックアップが解除される虞を確実に緩和することができる。
よって、ロックアップ時間の延長で燃費を向上させるという前記の作用効果を確実なものにすることができる。
【0042】
なお、ステップS6においてロックアップ解除回転数Noffを低下させる量は任意であり、この低下量に応じた効果が得られるが、
本実施例のようにロックアップ解除回転数Noffをフューエルリカバー回転数Nrecと同じ値まで低下させる場合、
ロックアップ時間の延長を最大にし得て、燃費向上効果の点で最も有利である。
【0043】
ところで本実施例によるロックアップ解除回転数Noffの低下では、ロックアップ解除回転数Noffがフューエルリカバー回転数Nrecと同じになり、両者間に前記したNoff> Nrecの関係が存在しなくなるが、
ロックアップ解除回転数Noffの低下が、フューエルリカバーの実行後であるため、ロックアップ解除回転数Noffの低下で、これがフューエルリカバー回転数Nrecと同じになっても、何ら支承はない。
【0044】
図2のステップS7においては、実効ギヤ比λが変速終了判定ギヤ比λed以上になった図3の瞬時t4であるか否かを判定する。
変速終了判定瞬時t4に至っていなければ、制御を元に戻してステップS2でのコーストダウンシフト、ステップS5での強制フューエルリカバー、およびステップS5でのロックアップ解除回転数低下制御を引き続き実行する。
【0045】
ステップS7でλ≧λedになった(変速終了判定瞬時t4に至った)と判定するとき、制御をステップS8およびステップS9に進める。
ステップS8においては、図3の瞬時t4以降に示すごとくロックアップ解除回転数Noffを元の値に戻す。
従ってステップS8も、本発明におけるコースティング時ロックアップ解除回転数低下手段に相当する。
【0046】
ステップS9においては、同じ変速終了判定瞬時t4に、エンジン気筒数の半分の気筒に対してフューエルカットを行う半気筒カットを開始させて、前記の強制フューエルリカバーを終了させる。
従ってステップS9も、本発明におけるコースティング時強制フューエルリカバー手段に相当する。
なお、上記のごとく変速終了判定瞬時t4にエンジン1のフューエルカットを再開できる理由は、変速中トルクコンバータ3がロックアップ状態に保たれていたためであり、
かかる変速終了と同時のフューエルカットにより燃費の改善効果が大きくなる。
【0047】
次のステップS10においては、ステップS9で図3の変速終了判定瞬時t4に開始された半気筒カットの実行時間を計測し、この半気筒カット実行時間が設定時間Δt以上になって図3の瞬時t5に至ったか否かをチェックする。
半気筒カット実行時間が設定時間Δtに満たず、図3の瞬時t5よりも前である間は、制御を元に戻して、ステップS9での半気筒カットを継続させる。
【0048】
ステップS10で半気筒カット実行時間が設定時間Δt以上になったと判定すると、つまり図3の瞬時t5に至った場合、
制御をステップS11に進めて、エンジン1の全気筒に対してフューエルカットを行う全気筒カットを開始させ、
以後は、ステップS1およびステップS2でコースト4→3ダウンシフトが開始されたと判定するまで、当該全気筒カットを継続的に実行する。
【0049】
上記したところから明らかなように本実施例においては、コースティング走行に起因して自動変速機2がコースト4→3ダウンシフトを行っているt2〜t4中のみ、コースティング時強制フューエルリカバーおよびロックアップ解除回転数Noffの低下を行い、
このように低下させたロックアップ解除回転数Noffを、該コースト4→3ダウンシフトの終了時t4に、元の値に復帰させるため、
図4につき前述した問題を生じないコースト4→3ダウンシフト時以外において、つまりコースティング時強制フューエルリカバーおよびロックアップ解除回転数Noffの低下が不要なときに、これら制御が無駄に行われる弊害を回避することができる。
【0050】
また本実施例においては、コースト4→3ダウンシフトの終了に呼応した強制的なフューエルリカバーの終了に際し、エンジン気筒数の半分に対しは燃料供給を継続して、残り半分の気筒のみをフューエルカットする半気筒カットを行うため、
強制的なフューエルリカバーの終了に伴うトルクの引き込みショックを緩和することができる。
【0051】
更に本実施例においては、上記の半気筒カットを所定時間Δtだけ行った後に全気筒カットに移行するため、
強制的なフューエルリカバーの終了に伴う全気筒カットへの移行時におけるトルクの引き込みショックをも緩和することができる。
【0052】
なお図示例では、コースティング走行に伴って自動変速機2がダウンシフト(図示例では4→3ダウンシフト)を行う場合に、上記のコースティング時強制フューエルリカバーおよびロックアップ解除回転数Noffの低下制御を行うこととしたが、
自動変速機2のダウンシフトを生じないコースティング走行時において、ロックアップ時間の延長が必要な場合も、
上記コースティング時強制フューエルリカバーおよびロックアップ解除回転数Noffの低下制御は同様に適用し得ることは言うまでもないし、
これによっても同様な作用効果が奏し得られること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例になるコースティング走行制御装置を具えた車両のパワートレーン、およびその制御系を示すブロック線図である。
【図2】図1におけるエンジンコントローラおよび変速機コントローラが実行するコースティング走行制御のプログラムを示すフローチャートである。
【図3】図2によるコースティング走行制御の動作タイムチャートである。
【図4】本発明のコースティング走行制御が必要な根拠を説明する、コーストダウンシフトの動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
2 有段式自動変速機
3 ロックアップ式トルクコンバータ
4 エンジンコントローラ
5 変速機コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータを介しエンジンからの回転を入力される有段式自動変速機を搭載した車両であって、
前記エンジンを無負荷状態にしたコースティング走行中、前記トルクコンバータを、入出力要素間が直結されたロックアップ状態にすると共に、エンジンへの燃料供給を中止するフューエルカットを行い、
変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下するとき前記トルクコンバータのロックアップを解除し、変速機入力側回転数が該ロックアップ解除回転数よりも低いフューエルリカバー回転数まで低下するとき前記フューエルカットを終了してエンジンへの燃料供給を再開するフューエルリカバーを行うようにした車両において、
前記コースティング走行中、変速機入力側回転数がロックアップ解除回転数まで低下するよりも前に、前記フューエルリカバーを行わせるコースティング時強制フューエルリカバー手段と、
該手段によるフューエルリカバー時に前記ロックアップ解除回転数を低下させるコースティング時ロックアップ解除回転数低下手段を設けたことを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のコースティング走行制御装置において、
前記コースティング時ロックアップ解除回転数低下手段は、前記ロックアップ解除回転数を前記フューエルリカバー回転数と同じ値まで低下させるものであることを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両のコースティング走行制御装置において、
前記コースティング時強制フューエルリカバー手段は、前記コースティング走行に起因して前記自動変速機がダウンシフトを行っている間に、前記フューエルリカバーを行い、
前記コースティング時ロックアップ解除回転数低下手段は、該ダウンシフトの終了時に、前記低下させたロックアップ解除回転数を元の値まで復帰させるものであることを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両のコースティング走行制御装置において、
前記コースティング時強制フューエルリカバー手段は、前記ダウンシフト中に自動変速機の伝動系がフューエルリカバーショックの少なくとも一部を吸収し得るスリップ可能状態である時に、前記フューエルリカバーを行うものであることを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両のコースティング走行制御装置において、
前記変速機伝動系のスリップ可能状態は、自動変速機の変速前変速比と変速機出力回転数とから求めた変速機入力回転数演算値と、変速機入力回転数実測値との間における入力回転数偏差が所定値以上になった状態であるか否かにより判定するものであることを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の車両のコースティング走行制御装置において、
前記コースティング時強制フューエルリカバー手段は、前記自動変速機のダウンシフト終了に呼応した前記フューエルリカバーの終了に際し、エンジン気筒数の半分に対しは燃料供給を継続して、残り半分の気筒のみをフューエルカットする半気筒カットを行うものであることを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両のコースティング走行制御装置において、
前記コースティング時強制フューエルリカバー手段は、前記半気筒カットを所定時間行った後に全気筒カットに移行するものであることを特徴とする車両のコースティング走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−78124(P2010−78124A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250591(P2008−250591)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】