車両の制御装置
【課題】変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカット制御の実施時間を長くする。
【解決手段】フューエルカット制御中のダウンシフト制御時(コーストダウン変速制御時)には、フューエルカット復帰回転数を下げて、通常制御時のフューエルカット復帰回転数Nnorよりも低い回転数Ndwnに設定する。このような設定により、コーストダウン変速制御中においてエンジン回転数NEが一時的に落ち込んでも、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能となり、燃費の向上を図ることができる。しかも、ダウンシフト変速線を高車速側に設定しなくて済むので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続することが可能になる。
【解決手段】フューエルカット制御中のダウンシフト制御時(コーストダウン変速制御時)には、フューエルカット復帰回転数を下げて、通常制御時のフューエルカット復帰回転数Nnorよりも低い回転数Ndwnに設定する。このような設定により、コーストダウン変速制御中においてエンジン回転数NEが一時的に落ち込んでも、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能となり、燃費の向上を図ることができる。しかも、ダウンシフト変速線を高車速側に設定しなくて済むので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続することが可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(内燃機関)及び自動変速機を搭載した車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルク及び回転数を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。
【0003】
車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチ及びブレーキ等の摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いてギヤ段を設定する遊星歯車式変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【0004】
遊星歯車式の自動変速機が搭載された車両においては、車速とアクセル開度(またはスロットル開度)に応じた最適なギヤ段を得るための変速線(ギヤ段の切り替えライン)を有する変速マップがECU(Electronic Control Unit)等に記憶されており、車速及びアクセル開度に基づいて変速マップを参照して目標ギヤ段を算出し、その目標ギヤ段に基づいて、摩擦係合要素であるクラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチなどを、所定の状態に係合または解放することによってギヤ段(変速比)を自動的に設定している。
【0005】
ベルト式無段変速機は、プーリ溝(V溝)を備えたプライマリプーリ(入力側プーリ)とセカンダリプーリ(出力側プーリ)とにベルトを巻き掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に、他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。
【0006】
このような自動変速機が搭載された車両においては、エンジンから自動変速機への動力伝達経路にトルクコンバータが配置されている。トルクコンバータは、例えば、エンジン出力軸(クランクシャフト)に連結されるポンプインペラと、自動変速機の入力軸に連結されるタービンランナと、これらポンプインペラとタービンランナとの間にワンウェイクラッチを介して設けられたステータとを備え、エンジン出力軸の回転に伴ってポンプインペラが回転し、そのポンプインペラから吐出された作動油によってタービンランナが回転駆動してエンジンの出力トルクを自動変速機の入力軸に伝達する方式の流体伝動装置である。
【0007】
トルクコンバータには、入力側(ポンプ側)と出力側(タービン側)とを直結するロックアップクラッチが設けられており、このロックアップクラッチを係合状態とすることにより、トルクコンバータの入力側と出力側とを直結状態にするロックアップ係合制御が実行されている。また、ロックアップクラッチを係合状態と解放状態との中間である半係合状態にするロックアップスリップ制御(以下、単に「スリップ制御」という場合もある)が実行されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0008】
ロックアップスリップ制御(フレックスロックアップ制御)は、所定のスリップ制御実行条件(例えば車速とアクセル開度とにより定められた条件)が成立したときに開始される。そして、トルクコンバータのポンプ回転数(エンジン回転数に相当)とタービン回転数との差回転に応じて、例えばこの差回転が一定になるように、ロックアップクラッチの係合力をフィードバック制御することによって、トルクコンバータの動力伝達状態を管理するようになっている。
【0009】
また、自動変速機が搭載された車両においては、フューエルカット制御が実施されている。フューエルカット制御は、燃料消費率(以下、燃費という)を向上させるためにエンジンへの燃料供給を停止する制御であって、車両減速時(コースト走行時)で、かつ、エンジン回転数がフューエルカット開始回転数以上であるときにエンジンへの燃料噴射を停止し、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数(フューエルカット停止のための燃料噴射復帰判定回転数)よりも低下したときにエンジンへの燃料噴射を再開する。なお、フューエルカット復帰回転数は、耐エンスト(耐エンジンストール)性を確保することが可能であり、エンジンの安定した回転を維持することが可能な回転数に設定されている。
【0010】
そして、このようなフューエルカット制御においては、車両減速時のフューエルカット中にロックアップクラッチをスリップ制御(減速ロックアップスリップ制御)することにより、エンジン回転数の低下を緩やかにし、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に低下するまでに要する時間を長くしている。また、フューエルカット制御を継続するために自動変速機のダウンシフト制御(コーストダウン変速制御)を行っている。
【0011】
なお、フューエルカット制御及びコーストダウン制御に関する技術として下記の特許文献3に記載のものがある。この特許文献3に記載の技術では、惰性走行時にダウンシフトを行う場合、フューエルカット禁止状態であるか、フューエルカット許可状態であるのかを判断し、フューエルカット禁止状態であるときには、内燃機関への燃料供給を一時的に再開し、トルク増大量をフューエルカット許可状態であるときよりも小さくすることによってショックの発生を防止している。
【特許文献1】特開2004−263875号公報
【特許文献2】特開2004−263733号公報
【特許文献3】特開2007−002803号公報
【特許文献4】特開2004−263646号公報
【特許文献5】特開2008−045446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記したフューエルカット制御を継続するためのコーストダウン変速制御では、車両運転状態のばらつき(油圧制御のばらつき等)や車両ハード上のばらつき等により、エンジン回転数が下降してフューエルカット制御が中止される場合がある。
【0013】
具体的には、コーストダウン変速によりエンジン回転数が上昇するが、このエンジン回転数が上昇を開始するまでに、上記した車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等により、エンジン回転数が低下してフューエルカット復帰回転数に達すると、フューエルカット制御が中止されてエンジンへの燃料噴射が再開されてしまう。そして、フューエルカット制御の中止により燃料噴射状態になると、エンジン回転数がタービン回転数よりも大きくなった時点でエンジンが被駆動状態でなくなるので、減速ロックアップスリップ制御が中止される。こうした状況になると、ダウンシフト後にエンジン回転数がフューエルカット開始回転数を超えてフューエルカット制御が再開されても、そのフューエルカット状態を長く維持することができなくなる。このことが燃費が悪化する要因となる場合がある。
【0014】
このような点を解消するため、現状では、上記した車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等を見越して、変速線(ダウンシフト変速線)を高車速側に設定しているが、変速線を高車速側に設定すると変速ショックが発生する場合がある。
【0015】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカット制御の実施時間をより長くすることが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、エンジンと自動変速機とが搭載された車両の制御装置において、車両減速時でかつエンジン回転数がフューエルカット復帰回転数以上であることを条件に前記エンジンへの燃料噴射を停止し、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数に低下したときに前記エンジンへの燃料噴射を再開するフューエルカット制御手段と、前記フューエルカット制御中に前記自動変速機のダウンシフトを実行するダウンシフト制御手段とを備え、前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時にはフューエルカット復帰回転数を下げることを特徴としている。
【0017】
本発明において、エンジンと自動変速機との間を直結するロックアップクラッチと、フューエルカット制御中にロックアップクラッチをスリップ制御する減速ロックアップスリップ制御手段とを備え、フューエルカット制御中にダウンシフト制御を実行するときに、フューエルカット復帰回転数を下げる側に変更して、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続するという構成を採用してもよい。
【0018】
本発明の課題解決原理について説明する。まず、フューエルカット制御中にダウンシフト制御を実施した際に、上記した車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等によってエンジン回転数が一時的に落ち込んでも、ダウンシフトが開始されると(イナーシャ相が開始されると)、エンジン回転数は必ず上昇するのでエンジンストールに至る可能性は低くなる。従って、フューエルカット復帰回転数を通常制御時の場合よりも低い側に設定しても耐エンスト性を確保することが可能になる。
【0019】
このような点を着目して、本発明では、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時には、フューエルカット復帰回転数を下げて、通常制御時のフューエルカット復帰回転数よりも低い回転数に設定する。このような設定によりフューエルカットを継続することが可能となって燃費の向上を図ることができる。しかも、変速線(ダウンシフト変速線)を高車速側に設定しなくて済むので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続することが可能になる。
【0020】
なお、ダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数(通常制御時に対して低い側に設定する復帰回転数)は、上記した車両運転状態ばらつき(油圧制御のばらつき等)や車両ハード上のばらつき等によるエンジン回転数の一時的な落ち込み量(例えば図10参照)、及び、その一時的な回転数落ち込みによりエンジンストールに至る可能性などを考慮して、実験・計算等により適合した値を設定する。
【0021】
次に、本発明の他の具体的な構成について説明する。
【0022】
まず、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点(ダウンシフト変速線)を高車速側に変更するという構成を挙げることができる。この構成によれば、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に達してフューエルカットが中止(燃料噴射再開)されても、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時においてフューエルカット制御を継続することが可能になるので、燃費の向上を図ることができる。
【0023】
また、他の具体的な構成として、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に対して余裕がある場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点を低車速側に変更するという構成を挙げることができる。この場合、今回のエンジン回転数とフューエルカット復帰回転数との差回転(余裕分:図12(a)参照)を算出し、その余裕分を考慮して、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時にダウンシフト変速点(ダウンシフト変速線)を低車速側に設定しておくことで、変速ショックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0024】
また、他の具体的な構成として、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時において、自動変速機の油圧式摩擦係合装置の解放側油圧の制御タイミングを遅延させるという構成を挙げることができる。このような遅延制御により、ダウンシフト制御時のエンジン回転数のアンダーシュート量(図13参照)を小さくすることができ、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に到達しないように制御することが可能になる。その結果として、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時においてフューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能になるので、燃費の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は本発明を適用する車両の一例を示す概略構成図である。
【0027】
この例の車両は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両であって、エンジン1、トルクコンバータ2を有する自動変速機3、及び、ECU100などを備えており、そのECU100により実行されるプログラムによって本発明の車両の制御装置が実現される。これらエンジン1、トルクコンバータ2、自動変速機3、及び、ECU100の各部について以下に説明する。
【0028】
−エンジン−
エンジン1は、例えば4気筒ガソリンエンジンであって、図2に示すように、各気筒を構成するシリンダブロック1a内に、上下方向に往復運動するピストン1bが設けられている。ピストン1bはコネクティングロッド17を介してクランクシャフト11に連結されており、ピストン1bの往復運動がコネクティングロッド17によってクランクシャフト11の回転へと変換される。クランクシャフト11はトルクコンバータ2の入力軸に接続される。
【0029】
クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数NE)は、エンジン回転数センサ201によって検出される。エンジン回転数センサ201は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト11が回転する際にシグナルロータ18の突起18aに対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
【0030】
エンジン1のシリンダブロック1aには、エンジン水温(冷却水温)を検出する水温センサ207が配置されている。エンジン1の燃焼室1cには点火プラグ15が配置されている。点火プラグ15の点火タイミングはイグナイタ16によって調整される。イグナイタ16はECU100によって制御される。
【0031】
エンジン1の燃焼室1cには吸気通路1dと排気通路1eとが接続されている。吸気通路1dと燃焼室1cとの間に吸気バルブ1fが設けられており、この吸気バルブ1fを開閉駆動することにより、吸気通路1dと燃焼室1cとが連通または遮断される。また、燃焼室1cと排気通路1eとの間に排気バルブ1gが設けられており、この排気バルブ1gを開閉駆動することにより、燃焼室1cと排気通路1eとが連通または遮断される。これら吸気バルブ1f及び排気バルブ1gの開閉駆動は、クランクシャフト11の回転が伝達される吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの各回転によって行われる。
【0032】
吸気通路1dには、熱線式のエアフロメータ(吸入空気量センサ)208、吸気温センサ209(エアフロメータ208に内蔵)、及び、エンジン1の吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ12が配置されている。スロットルバルブ12はスロットルモータ13によって駆動される。スロットルバルブ12は、運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ202によって検出される。また、スロットルモータ13はECU100によって駆動制御される。
【0033】
具体的には、エンジン回転数センサ201によって検出されるエンジン回転数NEと運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ202を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0034】
そして、吸気通路1dには燃料噴射用のインジェクタ(燃料噴射弁)14が配置されている。インジェクタ14には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路1dに燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室1cに導入される。燃焼室1cに導入された混合気(燃料+空気)は点火プラグ15にて点火されて燃焼・爆発する。この混合気の燃焼室1c内での燃焼・爆発によりピストン1bが往復運動してクランクシャフト11が回転する。以上のエンジン1の運転状態はECU100によって制御される。
【0035】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、図3に示すように、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。
【0036】
トルクコンバータ2には、入力側と出力側とを直結状態にするロックアップクラッチ25が設けられており、このロックアップクラッチ25を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ25を所定のスリップ状態で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。トルクコンバータ2と自動変速機3とは回転軸によって接続される。トルクコンバータ2のタービン回転数NTは、タービン回転数センサ203によって検出される。トルクコンバータ2のロックアップクラッチ25の係合または解放は、油圧制御回路300及びECU100によって制御される。
【0037】
−自動変速機−
自動変速機3は、図3に示すように、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置31、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置32、及び、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置33を備えた遊星歯車式の変速機である。自動変速機3の出力軸34から出力される動力は、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ及びドライブシャフト等を介して駆動輪に伝達される。
【0038】
自動変速機3の第1遊星歯車装置31のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸30に選択的に連結される。また、サンギヤS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジングに選択的に連結され、逆方向(入力軸30の回転と反対方向)の回転が阻止される。第1遊星歯車装置31のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジングに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。第1遊星歯車装置31のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置32のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジングに選択的に連結される。
【0039】
第2遊星歯車装置32のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置33のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸30に選択的に連結される。また、サ
ンギヤS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸30に選択的に連結され、その入力軸30に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。
【0040】
第2遊星歯車装置32のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置33のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸30に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジングに選択的に連結される。また、キャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3によって、常に逆方向の回転が阻止される。そして、第3遊星歯車装置33のキャリアCA3は出力軸34に一体的に連結されている。出力軸34の回転数は、出力軸回転数センサ204によって検出される。
【0041】
以上の自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の係合・解放状態を図4の作動表に示す。図4の作動表において「○」は「係合」を表し、「空欄」は「解放」を表している。また、「◎」は「エンジンブレーキ時の係合」を表し、「△」は「動力伝達に関係しない係合」を表している。
【0042】
図4に示すように、この例の自動変速機3において、前進ギヤ段の1速(1st)では、クラッチC1が係合され、ワンウェイクラッチF0,F3が作動する。前進ギヤ段の2速(2nd)では、クラッチC1及び第3ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1,F2が作動する。
【0043】
前進ギヤ段の3速(3rd)では、クラッチC1,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1が作動する。前進ギヤ段の4速(4th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0が作動する。
【0044】
前進ギヤ段の5速(5th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB1,B3が係合される。前進ギヤ段の6速(6th)では、クラッチC1,C2が係合されるとともに、ブレーキB1,B2,B3が係合される。また、後進ギヤ段(R)では、クラッチC3が係合されるとともに、ブレーキB4が係合され、ワンウェイクラッチF1が作動する。
【0045】
以上のように、この例の自動変速機3では、摩擦係合要素であるクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段(変速比)が設定される。これらクラッチC1〜C4及びブレーキB1〜B4の係合または解放は油圧制御回路300及びECU100によって制御される。
【0046】
−シフト操作装置−
一方、車両の運転席の近傍には図5に示すようなシフト装置5が配置されている。シフト装置5にはシフトレバー51が変位可能に設けられている。
【0047】
この例のシフト操作装置5には、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、及び、D(ドライブ)ポジションが設定されており、ドライバが所望のポジションへシフトレバー51を変位させることが可能となっている。これらPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション(下記のSポジションのアップシフト(+)位置及びダウンシフト位置(−)位置も含む)の各位置は、シフトポジションセンサ206(図6参照)によって検出される。シフトポジションセンサ206の出力信号はECU100に入力される。
【0048】
Pポジション及びNポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、Rポジション及びDポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0049】
シフトレバー51にてPポジションが選択されると、図4に示すように、自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の全てが解放されるとともに、パーキング機構(図示せず)によって出力軸34がロックされる。Nポジションが選択されると、自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の全てが解放される。
【0050】
Dポジションが選択されると、車両の運転状態などに応じて自動変速機3を自動的に変速する自動変速モードが設定され、自動変速機3の複数の前進ギヤ段(前進6速)が自動的に変速制御される。Rポジションが選択されると、自動変速機3は後進ギヤ段に切り替えられる。
【0051】
また、シフト操作装置5には、図5(b)に示すように、S(シーケンシャル)ポジション52が設けられており、シフトレバー51がSポジション52に操作されたときに、手動にて変速操作を行う手動変速モード(シーケンシャルモード)が設定される。この手動変速モードにおいてシフトレバー51がアップシフト(+)またはダウンシフト(−)に操作されると、自動変速機3の前進ギヤ段がアップまたはダウンされる。具体的には、アップシフト(+)への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・→6th)される。一方、ダウンシフト(−)への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→・・→1st)される。
【0052】
−ECU−
ECU100は、図6に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。
【0053】
ROM102には、車両の基本的な運転に関する制御の他、車両の走行状態に応じて自動変速機3のギヤ段を設定する変速制御を実行するためのプログラムを含む各種プログラムなどが記憶されている。この変速制御の具体的な内容については後述する。
【0054】
CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0055】
これらCPU101、ROM102、RAM103、及び、バックアップRAM104はバス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
【0056】
入力インターフェース105には、エンジン回転数センサ201、スロットル開度センサ202、タービン回転数センサ203、出力軸回転数センサ204、アクセルペダル4の開度を検出するアクセル開度センサ205、シフトポジションセンサ206、水温センサ207、エアフロメータ208、吸気温センサ209、及び、車両の前後方向及び左右方向の加速度を検出する加速度センサ210などが接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力される。
【0057】
出力インターフェース106には、スロットルバルブ12のスロットルモータ13、インジェクタ14、点火プラグ15のイグナイタ16、及び、油圧制御回路300などが接続されている。
【0058】
ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブ12の開度制御、点火時期制御(イグナイタ16の駆動制御)、燃料噴射量制御(
インジェクタ14の開閉制御)などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0059】
また、ECU100は、自動変速機3のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を油圧制御回路300に出力する。このソレノイド制御信号に基づいて、油圧制御回路300のリニアソレノイドバルブやON−OFFソレノイドバルブの励磁・非励磁などが制御され、所定の変速ギヤ段(1速〜6速)を構成するように、自動変速3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放される。
【0060】
さらに、ECU100は、油圧制御回路300にロックアップクラッチ制御信号(油圧指令信号)を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいて、油圧制御回路300のロックアップコントロールバルブ301などが制御されてトルクコンバータ2のロックアップクラッチ25が係合、半係合または解放される。
【0061】
次に、ECU100が実行する変速制御、ロックアップ制御、減速ロックアップスリップ制御、及び、減速時のダウンシフト制御(以下、コーストダウン変速制御ともいう)について以下に説明する。
【0062】
−変速制御−
まず、この例の変速制御に用いる変速マップについて図7を参照して説明する。
【0063】
図7に示す変速マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、適正なギヤ段(最適な燃費となるギヤ段)を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、ECU100のROM102内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(ギヤ段の切り替えライン)によって区画されている。
【0064】
なお、図7に示す変速マップにおいて、アップシフト変速線を実線で示し、ダウンシフト変速線を破線で示している。また、アップシフト及びダウンシフトの各切り替え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0065】
次に、変速制御の基本動作について説明する。
【0066】
ECU100は、出力軸回転数センサ204の出力信号に基づいて車速Vを算出するとともに、アクセル開度センサ205の出力信号からアクセル開度Accを算出し、それら車速V及びアクセル開度Accに基づいて図7の変速マップを参照して目標ギヤ段を算出し、その目標ギヤ段と現状ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
【0067】
その判定結果により、変速の必要がない場合(目標ギヤ段と現状ギヤ段とが同じで、ギヤ段が適切に設定されている場合)には、現状ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を油圧制御回路300に出力する。
【0068】
一方、目標ギヤ段と現状ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機3のギヤ段が「5速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図7に示す点Paから点Pbに変化した場合、ダウンシフト変速線[5→4]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギヤ段が「4速」となり、その4速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を油圧制御回路300に出力して、5速のギヤ段から4速のギヤ段への変速(5th→4thダウンシフト変速)を行う。
【0069】
−ロックアップクラッチの制御−
この例のロックアップクラッチ25の制御に用いるマップについて図8を参照して説明する。
【0070】
図8に示すロックアップ制御マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、ロックアップクラッチ25の係合領域(完全係合領域)、解放領域(トルクコンバータ作動領域)、及び、スリップ制御領域が設定されたマップであって、ECU100のROM102内に記憶されている。
【0071】
そして、ECU100は、出力軸回転数センサ204及びアクセル開度センサ205の各センサの出力信号から得られる車速V及びアクセル開度Accに基づいて、図8のマップを参照して、係合領域、解放領域、または、スリップ制御領域のいずれの領域に属するかを判定し、その判定された領域が係合領域または解放領域である場合、上記ロックアップコントロールバルブ301を制御し、ロックアップクラッチ25を係合(ロックアップオン)または解放(ロックアップオフ)のいずれかの状態とする制御を実行する。
【0072】
また、車両状態(車速V及びアクセル開度Acc)がスリップ制御領域にある場合、ECU100は、エンジン回転数センサ201及びタービン回転数センサ203の各出力信号から得られるエンジン回転数NE及びタービン回転数NTを用い、それらエンジン回転数NEとタービン回転数NTとの差回転(滑り量)nslp(nslp=NE−NT)が目標差回転(目標スリップ量)となるようにロックアップコントロールバルブ301を制御して、ロックアップクラッチ25の滑り量を制御する(スリップ制御)。
【0073】
なお、上記アクセル開度Accに替えてスロットル開度に応じたロックアップ制御マップ(車速とスロットル開度とに応じてロックアップクラッチ25を制御するためのマップ)によりロックアップクラッチ25の状態を切り替えるようにしてもよい。
【0074】
−フューエルカット制御−
ECU100は所定の条件が成立したときにフューエルカット制御を実行する。フューエルカット制御は、燃費を向上させるためにエンジン1への燃料供給を停止する制御であって、車両減速時(アクセルオフ)で、かつ、エンジン回転数NEがフューエルカット開始回転数以上であるときにエンジン1への燃料噴射を停止(インジェクタ14からの燃料噴射を停止)し、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(フューエルカット停止のための燃料噴射復帰判定回転数)よりも低下したときにエンジンへの燃料噴射を再開する制御である。なお、フューエルカット復帰回転数は、耐エンスト性を確保することが可能であり、エンジン1の安定した回転を維持することが可能な回転数に設定されている。また、フューエルカット開始回転数は、フューエルカット復帰回転数よりも所定量だけ高い回転数に設定されている。
【0075】
−減速ロックアップスリップ制御−
ECU100は、車両減速時(コースト走行時)のフューエルカット中に、ロックアップクラッチ25のスリップ制御(減速ロックアップスリップ制御)を実行する。具体的には、ECU100は、アクセル開度センサ205の出力信号から得られるアクセル開度Accが略零(Acc≒0)であり、減速走行する前進走行時において生じる駆動輪側からの逆入力をエンジン1側へ伝達するギヤ段、つまり、エンジンブレーキ作用が得られるギヤ段でロックアップクラッチ25のスリップ制御を実行する。このようなスリップ制御を実行すると、タービン回転速度NT及びエンジン回転速度NEが車両の減速に従って緩やかに減少するとともに、エンジン回転速度NEがタービン回転速度NT付近まで引き上げられるため、エンジン1に対する燃料供給量を抑制する制御状態(フューエルカット状態)がさらに長い期間維持されて燃費が向上する。
【0076】
−コーストダウン変速制御(1)−
次に、ECU100が実行するコーストダウン変速制御の一例について、図9のフローチャート及び図10のタイミングチャートを参照して説明する。図9の制御ルーチンはECU100において所定周期毎に繰り返して実行される。
【0077】
まず、ステップST101では、出力軸回転数センサ204、アクセル開度センサ205及びタービン回転数センサ203の各センサの出力信号などに基づいて、フューエルカット制御中で、かつ、減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)中であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST102に進む。ステップST101の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0078】
ステップST102では、自動変速機3のダウンシフト要求が発生しているか否かを判定する。具体的には、出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる車速V(アクセル開度Acc≒0)及び図7の変速マップに基づくダウンシフト要求(例えば5th→4thのダウンシフト要求)があるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(ダウンシフト要求有の場合)は、ダウンシフト制御(コーストダウン変速制御)を開始してステップST103に進む。ステップST102の判定結果が否定判定である場合(ダウンシフト要求がない場合)はリターンして、通常制御時のフューエルカット復帰回転数Nnorを用いてフューエルカット制御の継続または停止を判定する。
【0079】
ステップST103では、ダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数(F/C復帰回転数)Ndwnを設定する。このダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnは、図10に示すように、通常制御時のフューエルカット復帰回転数(F/C復帰回転数)Nnorよりも低い回転数である(Ndwn<Nnor)。
【0080】
次に、ステップST104において、エンジン回転数センサ201の出力信号から得られる現在のエンジン回転数NEが、ステップST103で設定したダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnよりも大きいか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(Ndwn<NE)は、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続する(ステップST105)。この後、自動変速機3の変速が終了した時点(ステップST106が肯定判定となった時点)で処理を終了してリターンする。
【0081】
一方、ステップST104の判定結果が否定判定である場合、つまり、現在のエンジン回転数NEがダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwn以下である場合(NE≦Ndwn)には、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を中止し(ステップST106)、エンジン1への燃料噴射を再開する。
【0082】
以上のように、この例の制御によれば、コーストダウン変速制御時に、フューエルカット復帰回転数を通常制御時(Nnor)に対して下げているので、図10に示すように、車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等によってエンジン回転数NEが一時的に落ち込んでも、エンジン回転数NEが、ダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnにまで低下しない状況のときには、フューエルカット制御(F/C制御)及び減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)を継続することが可能になる。これによって燃費の向上を図ることができる。しかも、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)を高車速側に設定しなくて済むので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続することが可能になる。
【0083】
なお、この例に用いるダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnは、車両運転状態のばらつき(油圧制御のばらつき等)や車両ハード上のばらつき等によるエンジン回転数NEの一時的な落ち込み量(図10参照)、及び、その一時的な回転数落ち込みによりエンジンストールに至る可能性などを考慮して、実験・計算等により適合した値を設定する。
【0084】
次に、ECU100が実行するコーストダウン変速制御の他の例(2)〜(5)について説明する。
【0085】
−コーストダウン変速制御(2)−
コーストダウン変速制御の他の例を図11のタイミングチャートを参照して説明する。
【0086】
この例では、コーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に達した場合(図11(a))、次回のコーストダウン変速制御時において、ダウンシフト変速点(図7の変速マップの車速V=0付近のダウンシフト変速線)を高車速側に設定し(図11(b))、ダウンシフト変速点を高車速側に設定することで、フューエルカット制御(F/C制御)及び減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)をダウンシフト制御中において継続できるようにした点に特徴があり、このような制御を実行することにより、フューエルカット時間を長くすることができ、燃費の向上を図ることができる。
【0087】
なお、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)の高車速側へのシフト量は、例えばエンジン回転数NEとフューエルカット復帰回転数との差回転を算出し、その差回転を考慮して、次回のコーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に達しないようなシフト量を設定する。
【0088】
ここで、この例の制御は上記した[コーストダウン変速制御(1)]にも適用できる。具体的には、図9のステップST104の判定結果が否定判定になった場合、つまり、現在のエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(ダウンシフト制御時の復帰回転数)Ndwn以下である場合(NE≦Ndwn)、次回のコーストダウン変速制御時に、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)を高車速側に設定する。このような設定により、次回のダウンシフト制御中においてフューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能になる。
【0089】
−コーストダウン変速制御(3)−
コーストダウン変速制御の他の例を図12のタイミングチャートを参照して説明する。
【0090】
この例では、コーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に対して余裕(下降代)がある場合(図12(a))、次回のコーストダウン変速制御時においてダウンシフト変速線を低車速側に設定する。具体的には、上記した余裕分(図12(a)参照)を考慮して、ダウンシフト変速線(図7の変速マップの車速V=0付近のダウンシフト変速線)を可能な限り低車速側に設定して(図12(b))、ダウンシフト変速点を低車速側に設定することで、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続する点に特徴がある。
【0091】
ここで、この例の制御は上記した[コーストダウン変速制御(1)]にも適用できる。具体的には、図9のステップST104の判定結果が肯定判定であり(つまり、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(ダウンシフト制御時の復帰回転数)Ndwnよりも大きい場合(Ndwn<NE)であり)、かつ、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Ndwnに対して余裕がある場合は、現在のエンジン回転数NEとフューエルカット復帰回転数Ndwnとの差回転(余裕分:図12(a)参照)を算出し、その余裕分を考慮して、次回のコーストダウン変速制御時に、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)を低車速側に設定する。このような設定により、コーストダウン変速制御時の変速ショックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0092】
−コーストダウン変速制御(4)−
コーストダウン変速制御の他の例を図13のタイミングチャートを参照して説明する。
【0093】
この例では、コーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に達した場合(図13の2点鎖線)、次回のコーストダウン変速制御時において、自動変速機3の摩擦係合要素(クラッチ・ブレーキ)の解放側油圧の制御タイミングを通常制御時の制御タイミング(図13の2点鎖線)に対して遅延させる。このような遅延制御により、エンジン回転数NEのアンダーシュート量が小さくなって、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に到達しなくなるので、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御の継続が可能になる。これによって燃費の向上を図ることができる。
【0094】
ここで、この例の制御は上記した[コーストダウン変速制御(1)]にも適用できる。具体的には、図9のステップST104の判定結果が否定判定になった場合、つまり、現在のエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(ダウンシフト制御時の復帰回転数)Ndwn以下である場合(NE≦Ndwn)、次回のコーストダウン変速制御時に、自動変速機3の摩擦係合要素(クラッチ・ブレーキ)の解放側油圧の制御タイミングを通常制御時に対して遅延させることで、次回のダウンシフト制御中においてフューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能になる。
【0095】
−コーストダウン変速制御(5)−
コーストダウン変速制御の他の例を図14のフローチャート及び図15のタイミングチャートを参照して説明する。図14の制御ルーチンはECU100において所定周期毎に繰り返して実行される。
【0096】
まず、ステップST201では、出力軸回転数センサ204、アクセル開度センサ205及びタービン回転数センサ203の各センサの出力信号などに基づいて、フューエルカット制御中で、かつ、減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)中であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST202に進む。ステップST201の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0097】
ステップST202では、自動変速機3のダウンシフト要求が発生しているか否かを判定する。具体的には、出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる車速V(アクセル開度Acc≒0)及び図7の変速マップに基づくダウンシフト要求(例えば5th→4thのダウンシフト要求)があるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(ダウンシフト要求有の場合)は、ダウンシフト制御(コーストダウン変速制御)を開始してステップST203に進む。ステップST202の判定結果が否定判定である場合(ダウンシフト要求がない場合)はリターンする。
【0098】
ステップST203では、エンジン回転数センサ201の出力信号から得られるエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor(通常制御時のフューエルカット復帰回転数)以下であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(NE≦Nnor)は、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を中断し、インジェクタ14からの燃料噴射を再開する(ステップST204)。
【0099】
さらに、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以下になった時点(図15に示すtsの時点)で、エンジン1のアウトプットトルクが最低の値(具体的には、フューエルカット状態と同等もしくはそれに近い値)となるように点火時期遅角制御を実行して(ステップST205)、エンジン回転数NEがタービン回転数NTよりも大きくならないようにする。つまり、点火時期遅角制御によるトルクダウンによってエンジン回転数NEをタービン回転数NT未満に保持してエンジン1の被駆動状態(減速ロックアップスリップ制御が可能な状態)を維持する。このようにしてエンジン1の被駆動状態を維持しておくと、図15に示すように、係合油圧によるタービン回転数NTの変化(上昇)に伴ってエンジン回転数NEが上昇する。
【0100】
次に、ステップST206において、現在のエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnorよりも大きくなった否かを判定し、その判定結果が肯定判定(Nnor<NE)となった時点(図15に示すteの時点)で、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を再開し(ステップST207)、エンジン1を通常制御状態に戻す。この後、自動変速機3の変速が終了した時点(ステップST208が肯定判定となった時点)で処理を終了してリターンする。
【0101】
一方、ステップST203の判定結果が否定判定である場合、つまり、コーストダウンシフト制御中において、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnorよりも高い状態(Nnor<NE)であるときには、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続し(ステップST209)、自動変速機3の変速が終了した時点(ステップST208が肯定判定となった時点)で処理を終了してリターンする。
【0102】
以上のように、この例の制御によれば、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以下であるときに、点火時期遅角制御を実行して燃料噴射によるトルク増加を可能な限り少なくしているので、フューエルカット時間を長くすることが可能になる。この点について以下に説明する。
【0103】
まず、フューエルカット制御中断時に点火時期遅角制御を実行しない場合、インジェクタ14からの燃料噴射により、エンジン回転数NEが直ぐに上昇し、そのエンジン回転数NEがタービン回転数NTをオーバシュートした時点でエンジン1が被駆動状態から駆動状態に変化するため、減速ロックアップスリップ制御を実施できなくなる。このため、エンジン回転数NEが上昇する過程で、エンジン回転数NEが上記したフューエルカット開始回転数に達してフューエルカット制御が再開されても、減速ロックアップスリップ制御を再開できず、フューエルカット時間を長く保つことができない。
【0104】
これに対し、この例の制御では、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以下となった時点で、点火時期遅角制御によりエンジン1のアウトプットトルクを最低の値(フューエルカット状態と同等もしくはそれに近い値)に制御して、燃料噴射中においてもエンジン1の被駆動状態を維持しているので、フューエルカット制御の再開と同時に減速ロックアップスリップ制御を再開することが可能になり、フューエルカット時間を長くすることができる。しかも、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以上になった時点でフューエルカット制御を再開しているので、燃料噴射状態での待機期間を短くすることができる。これによって燃費の向上を図ることができる。
【0105】
また、燃料噴射状態での待機中のトルクダウンを、応答性の速い点火時期遅角制御によって行っているので、例えば、ドライバのブレーキペダルの踏み込み量がダウンシフト開始時の最大踏み込み量よりも増加した場合には、通常のトルク制御に即座に移行する(トルクダウン制御を中止する)ことが可能であり、耐エンスト性を確保することができる。
【0106】
なお、図14のステップST204〜ステップST208の処理を実行している場合には、減速ロックアップスリップ制御のフィードバック制御や学習制御は中断しておく。
【0107】
この例において、エンジン1のトルクダウンを行う手段として、点火時期遅角以外のものを適用してもよい。例えば、吸気バルブ・排気バルブの開閉タイミングを変更することが可能な可変バルブタイミング(VVT:Variable Valve Timing)機構が搭載されたエンジンである場合、VVT制御量の変更によりエンジンのトルクダウンを行うようにしてもよい。
【0108】
−他の実施形態−
以上の例では、前進6段変速の自動変速機が搭載された車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段の遊星歯車式自動変速機が搭載された車両の制御にも適用可能である。
【0109】
以上の例では、クラッチ及びブレーキと遊星歯車装置とを用いて変速比を設定する遊星歯車式変速機が搭載された車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを有するベルト式無段変速機(CVT)が搭載された車両の制御にも適用可能である。
【0110】
以上の例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータが搭載された車両のロックアップクラッチ制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、フルードカップリング(ロックアップクラッチ付き)が搭載された車両の制御にも適用可能である。
【0111】
以上の例では、ポート噴射型ガソリンエンジンを搭載した車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、筒内直噴型ガソリンエンジンを搭載した車両の制御にも適用可能である。また、本発明は、ガソリンエンジンを搭載した車両の制御に限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両の制御にも適用可能である。
【0112】
さらに、本発明は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に限れられることなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両や、4輪駆動車の制御にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明を適用する車両の一部を示す概略構成図である。
【図2】図1の車両に適用されるエンジンの概略構成図である。
【図3】図1の車両に適用されるエンジン、トルクコンバータ、自動変速機の概略構成図及び制御系のブロック図を併記して示す図である。
【図4】図3に示す自動変速機の作動表である。
【図5】シフト操作装置の要部斜視図(a)及びシフト操作装置のシフトゲート(b)を併記して示す図である。
【図6】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図7】変速制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図8】ロックアップクラッチの制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図9】コーストダウン変速制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】コーストダウン変速制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図11】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【図12】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【図13】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【図14】コーストダウン変速制御の他の例を示すフローチャートである。
【図15】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
25 ロックアップクラッチ
3 自動変速機
100 ECU
201 エンジン回転数センサ
202 スロットル開度センサ
203 タービン回転数センサ
204 出力軸回転数センサ
205 アクセル開度センサ
206 シフトポジションセンサ
300 油圧制御回路
301 ロックアップコントロールバルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(内燃機関)及び自動変速機を搭載した車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルク及び回転数を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。
【0003】
車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチ及びブレーキ等の摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いてギヤ段を設定する遊星歯車式変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【0004】
遊星歯車式の自動変速機が搭載された車両においては、車速とアクセル開度(またはスロットル開度)に応じた最適なギヤ段を得るための変速線(ギヤ段の切り替えライン)を有する変速マップがECU(Electronic Control Unit)等に記憶されており、車速及びアクセル開度に基づいて変速マップを参照して目標ギヤ段を算出し、その目標ギヤ段に基づいて、摩擦係合要素であるクラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチなどを、所定の状態に係合または解放することによってギヤ段(変速比)を自動的に設定している。
【0005】
ベルト式無段変速機は、プーリ溝(V溝)を備えたプライマリプーリ(入力側プーリ)とセカンダリプーリ(出力側プーリ)とにベルトを巻き掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に、他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。
【0006】
このような自動変速機が搭載された車両においては、エンジンから自動変速機への動力伝達経路にトルクコンバータが配置されている。トルクコンバータは、例えば、エンジン出力軸(クランクシャフト)に連結されるポンプインペラと、自動変速機の入力軸に連結されるタービンランナと、これらポンプインペラとタービンランナとの間にワンウェイクラッチを介して設けられたステータとを備え、エンジン出力軸の回転に伴ってポンプインペラが回転し、そのポンプインペラから吐出された作動油によってタービンランナが回転駆動してエンジンの出力トルクを自動変速機の入力軸に伝達する方式の流体伝動装置である。
【0007】
トルクコンバータには、入力側(ポンプ側)と出力側(タービン側)とを直結するロックアップクラッチが設けられており、このロックアップクラッチを係合状態とすることにより、トルクコンバータの入力側と出力側とを直結状態にするロックアップ係合制御が実行されている。また、ロックアップクラッチを係合状態と解放状態との中間である半係合状態にするロックアップスリップ制御(以下、単に「スリップ制御」という場合もある)が実行されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0008】
ロックアップスリップ制御(フレックスロックアップ制御)は、所定のスリップ制御実行条件(例えば車速とアクセル開度とにより定められた条件)が成立したときに開始される。そして、トルクコンバータのポンプ回転数(エンジン回転数に相当)とタービン回転数との差回転に応じて、例えばこの差回転が一定になるように、ロックアップクラッチの係合力をフィードバック制御することによって、トルクコンバータの動力伝達状態を管理するようになっている。
【0009】
また、自動変速機が搭載された車両においては、フューエルカット制御が実施されている。フューエルカット制御は、燃料消費率(以下、燃費という)を向上させるためにエンジンへの燃料供給を停止する制御であって、車両減速時(コースト走行時)で、かつ、エンジン回転数がフューエルカット開始回転数以上であるときにエンジンへの燃料噴射を停止し、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数(フューエルカット停止のための燃料噴射復帰判定回転数)よりも低下したときにエンジンへの燃料噴射を再開する。なお、フューエルカット復帰回転数は、耐エンスト(耐エンジンストール)性を確保することが可能であり、エンジンの安定した回転を維持することが可能な回転数に設定されている。
【0010】
そして、このようなフューエルカット制御においては、車両減速時のフューエルカット中にロックアップクラッチをスリップ制御(減速ロックアップスリップ制御)することにより、エンジン回転数の低下を緩やかにし、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に低下するまでに要する時間を長くしている。また、フューエルカット制御を継続するために自動変速機のダウンシフト制御(コーストダウン変速制御)を行っている。
【0011】
なお、フューエルカット制御及びコーストダウン制御に関する技術として下記の特許文献3に記載のものがある。この特許文献3に記載の技術では、惰性走行時にダウンシフトを行う場合、フューエルカット禁止状態であるか、フューエルカット許可状態であるのかを判断し、フューエルカット禁止状態であるときには、内燃機関への燃料供給を一時的に再開し、トルク増大量をフューエルカット許可状態であるときよりも小さくすることによってショックの発生を防止している。
【特許文献1】特開2004−263875号公報
【特許文献2】特開2004−263733号公報
【特許文献3】特開2007−002803号公報
【特許文献4】特開2004−263646号公報
【特許文献5】特開2008−045446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記したフューエルカット制御を継続するためのコーストダウン変速制御では、車両運転状態のばらつき(油圧制御のばらつき等)や車両ハード上のばらつき等により、エンジン回転数が下降してフューエルカット制御が中止される場合がある。
【0013】
具体的には、コーストダウン変速によりエンジン回転数が上昇するが、このエンジン回転数が上昇を開始するまでに、上記した車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等により、エンジン回転数が低下してフューエルカット復帰回転数に達すると、フューエルカット制御が中止されてエンジンへの燃料噴射が再開されてしまう。そして、フューエルカット制御の中止により燃料噴射状態になると、エンジン回転数がタービン回転数よりも大きくなった時点でエンジンが被駆動状態でなくなるので、減速ロックアップスリップ制御が中止される。こうした状況になると、ダウンシフト後にエンジン回転数がフューエルカット開始回転数を超えてフューエルカット制御が再開されても、そのフューエルカット状態を長く維持することができなくなる。このことが燃費が悪化する要因となる場合がある。
【0014】
このような点を解消するため、現状では、上記した車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等を見越して、変速線(ダウンシフト変速線)を高車速側に設定しているが、変速線を高車速側に設定すると変速ショックが発生する場合がある。
【0015】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカット制御の実施時間をより長くすることが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、エンジンと自動変速機とが搭載された車両の制御装置において、車両減速時でかつエンジン回転数がフューエルカット復帰回転数以上であることを条件に前記エンジンへの燃料噴射を停止し、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数に低下したときに前記エンジンへの燃料噴射を再開するフューエルカット制御手段と、前記フューエルカット制御中に前記自動変速機のダウンシフトを実行するダウンシフト制御手段とを備え、前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時にはフューエルカット復帰回転数を下げることを特徴としている。
【0017】
本発明において、エンジンと自動変速機との間を直結するロックアップクラッチと、フューエルカット制御中にロックアップクラッチをスリップ制御する減速ロックアップスリップ制御手段とを備え、フューエルカット制御中にダウンシフト制御を実行するときに、フューエルカット復帰回転数を下げる側に変更して、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続するという構成を採用してもよい。
【0018】
本発明の課題解決原理について説明する。まず、フューエルカット制御中にダウンシフト制御を実施した際に、上記した車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等によってエンジン回転数が一時的に落ち込んでも、ダウンシフトが開始されると(イナーシャ相が開始されると)、エンジン回転数は必ず上昇するのでエンジンストールに至る可能性は低くなる。従って、フューエルカット復帰回転数を通常制御時の場合よりも低い側に設定しても耐エンスト性を確保することが可能になる。
【0019】
このような点を着目して、本発明では、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時には、フューエルカット復帰回転数を下げて、通常制御時のフューエルカット復帰回転数よりも低い回転数に設定する。このような設定によりフューエルカットを継続することが可能となって燃費の向上を図ることができる。しかも、変速線(ダウンシフト変速線)を高車速側に設定しなくて済むので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続することが可能になる。
【0020】
なお、ダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数(通常制御時に対して低い側に設定する復帰回転数)は、上記した車両運転状態ばらつき(油圧制御のばらつき等)や車両ハード上のばらつき等によるエンジン回転数の一時的な落ち込み量(例えば図10参照)、及び、その一時的な回転数落ち込みによりエンジンストールに至る可能性などを考慮して、実験・計算等により適合した値を設定する。
【0021】
次に、本発明の他の具体的な構成について説明する。
【0022】
まず、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点(ダウンシフト変速線)を高車速側に変更するという構成を挙げることができる。この構成によれば、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に達してフューエルカットが中止(燃料噴射再開)されても、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時においてフューエルカット制御を継続することが可能になるので、燃費の向上を図ることができる。
【0023】
また、他の具体的な構成として、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に対して余裕がある場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点を低車速側に変更するという構成を挙げることができる。この場合、今回のエンジン回転数とフューエルカット復帰回転数との差回転(余裕分:図12(a)参照)を算出し、その余裕分を考慮して、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時にダウンシフト変速点(ダウンシフト変速線)を低車速側に設定しておくことで、変速ショックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0024】
また、他の具体的な構成として、フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時において、自動変速機の油圧式摩擦係合装置の解放側油圧の制御タイミングを遅延させるという構成を挙げることができる。このような遅延制御により、ダウンシフト制御時のエンジン回転数のアンダーシュート量(図13参照)を小さくすることができ、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数に到達しないように制御することが可能になる。その結果として、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時においてフューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能になるので、燃費の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は本発明を適用する車両の一例を示す概略構成図である。
【0027】
この例の車両は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両であって、エンジン1、トルクコンバータ2を有する自動変速機3、及び、ECU100などを備えており、そのECU100により実行されるプログラムによって本発明の車両の制御装置が実現される。これらエンジン1、トルクコンバータ2、自動変速機3、及び、ECU100の各部について以下に説明する。
【0028】
−エンジン−
エンジン1は、例えば4気筒ガソリンエンジンであって、図2に示すように、各気筒を構成するシリンダブロック1a内に、上下方向に往復運動するピストン1bが設けられている。ピストン1bはコネクティングロッド17を介してクランクシャフト11に連結されており、ピストン1bの往復運動がコネクティングロッド17によってクランクシャフト11の回転へと変換される。クランクシャフト11はトルクコンバータ2の入力軸に接続される。
【0029】
クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数NE)は、エンジン回転数センサ201によって検出される。エンジン回転数センサ201は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト11が回転する際にシグナルロータ18の突起18aに対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
【0030】
エンジン1のシリンダブロック1aには、エンジン水温(冷却水温)を検出する水温センサ207が配置されている。エンジン1の燃焼室1cには点火プラグ15が配置されている。点火プラグ15の点火タイミングはイグナイタ16によって調整される。イグナイタ16はECU100によって制御される。
【0031】
エンジン1の燃焼室1cには吸気通路1dと排気通路1eとが接続されている。吸気通路1dと燃焼室1cとの間に吸気バルブ1fが設けられており、この吸気バルブ1fを開閉駆動することにより、吸気通路1dと燃焼室1cとが連通または遮断される。また、燃焼室1cと排気通路1eとの間に排気バルブ1gが設けられており、この排気バルブ1gを開閉駆動することにより、燃焼室1cと排気通路1eとが連通または遮断される。これら吸気バルブ1f及び排気バルブ1gの開閉駆動は、クランクシャフト11の回転が伝達される吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの各回転によって行われる。
【0032】
吸気通路1dには、熱線式のエアフロメータ(吸入空気量センサ)208、吸気温センサ209(エアフロメータ208に内蔵)、及び、エンジン1の吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ12が配置されている。スロットルバルブ12はスロットルモータ13によって駆動される。スロットルバルブ12は、運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ202によって検出される。また、スロットルモータ13はECU100によって駆動制御される。
【0033】
具体的には、エンジン回転数センサ201によって検出されるエンジン回転数NEと運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ202を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0034】
そして、吸気通路1dには燃料噴射用のインジェクタ(燃料噴射弁)14が配置されている。インジェクタ14には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路1dに燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室1cに導入される。燃焼室1cに導入された混合気(燃料+空気)は点火プラグ15にて点火されて燃焼・爆発する。この混合気の燃焼室1c内での燃焼・爆発によりピストン1bが往復運動してクランクシャフト11が回転する。以上のエンジン1の運転状態はECU100によって制御される。
【0035】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、図3に示すように、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。
【0036】
トルクコンバータ2には、入力側と出力側とを直結状態にするロックアップクラッチ25が設けられており、このロックアップクラッチ25を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ25を所定のスリップ状態で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。トルクコンバータ2と自動変速機3とは回転軸によって接続される。トルクコンバータ2のタービン回転数NTは、タービン回転数センサ203によって検出される。トルクコンバータ2のロックアップクラッチ25の係合または解放は、油圧制御回路300及びECU100によって制御される。
【0037】
−自動変速機−
自動変速機3は、図3に示すように、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置31、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置32、及び、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置33を備えた遊星歯車式の変速機である。自動変速機3の出力軸34から出力される動力は、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ及びドライブシャフト等を介して駆動輪に伝達される。
【0038】
自動変速機3の第1遊星歯車装置31のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸30に選択的に連結される。また、サンギヤS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジングに選択的に連結され、逆方向(入力軸30の回転と反対方向)の回転が阻止される。第1遊星歯車装置31のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジングに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。第1遊星歯車装置31のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置32のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジングに選択的に連結される。
【0039】
第2遊星歯車装置32のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置33のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸30に選択的に連結される。また、サ
ンギヤS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸30に選択的に連結され、その入力軸30に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。
【0040】
第2遊星歯車装置32のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置33のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸30に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジングに選択的に連結される。また、キャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3によって、常に逆方向の回転が阻止される。そして、第3遊星歯車装置33のキャリアCA3は出力軸34に一体的に連結されている。出力軸34の回転数は、出力軸回転数センサ204によって検出される。
【0041】
以上の自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の係合・解放状態を図4の作動表に示す。図4の作動表において「○」は「係合」を表し、「空欄」は「解放」を表している。また、「◎」は「エンジンブレーキ時の係合」を表し、「△」は「動力伝達に関係しない係合」を表している。
【0042】
図4に示すように、この例の自動変速機3において、前進ギヤ段の1速(1st)では、クラッチC1が係合され、ワンウェイクラッチF0,F3が作動する。前進ギヤ段の2速(2nd)では、クラッチC1及び第3ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1,F2が作動する。
【0043】
前進ギヤ段の3速(3rd)では、クラッチC1,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1が作動する。前進ギヤ段の4速(4th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0が作動する。
【0044】
前進ギヤ段の5速(5th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB1,B3が係合される。前進ギヤ段の6速(6th)では、クラッチC1,C2が係合されるとともに、ブレーキB1,B2,B3が係合される。また、後進ギヤ段(R)では、クラッチC3が係合されるとともに、ブレーキB4が係合され、ワンウェイクラッチF1が作動する。
【0045】
以上のように、この例の自動変速機3では、摩擦係合要素であるクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段(変速比)が設定される。これらクラッチC1〜C4及びブレーキB1〜B4の係合または解放は油圧制御回路300及びECU100によって制御される。
【0046】
−シフト操作装置−
一方、車両の運転席の近傍には図5に示すようなシフト装置5が配置されている。シフト装置5にはシフトレバー51が変位可能に設けられている。
【0047】
この例のシフト操作装置5には、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、及び、D(ドライブ)ポジションが設定されており、ドライバが所望のポジションへシフトレバー51を変位させることが可能となっている。これらPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション(下記のSポジションのアップシフト(+)位置及びダウンシフト位置(−)位置も含む)の各位置は、シフトポジションセンサ206(図6参照)によって検出される。シフトポジションセンサ206の出力信号はECU100に入力される。
【0048】
Pポジション及びNポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、Rポジション及びDポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0049】
シフトレバー51にてPポジションが選択されると、図4に示すように、自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の全てが解放されるとともに、パーキング機構(図示せず)によって出力軸34がロックされる。Nポジションが選択されると、自動変速機3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の全てが解放される。
【0050】
Dポジションが選択されると、車両の運転状態などに応じて自動変速機3を自動的に変速する自動変速モードが設定され、自動変速機3の複数の前進ギヤ段(前進6速)が自動的に変速制御される。Rポジションが選択されると、自動変速機3は後進ギヤ段に切り替えられる。
【0051】
また、シフト操作装置5には、図5(b)に示すように、S(シーケンシャル)ポジション52が設けられており、シフトレバー51がSポジション52に操作されたときに、手動にて変速操作を行う手動変速モード(シーケンシャルモード)が設定される。この手動変速モードにおいてシフトレバー51がアップシフト(+)またはダウンシフト(−)に操作されると、自動変速機3の前進ギヤ段がアップまたはダウンされる。具体的には、アップシフト(+)への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・→6th)される。一方、ダウンシフト(−)への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→・・→1st)される。
【0052】
−ECU−
ECU100は、図6に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。
【0053】
ROM102には、車両の基本的な運転に関する制御の他、車両の走行状態に応じて自動変速機3のギヤ段を設定する変速制御を実行するためのプログラムを含む各種プログラムなどが記憶されている。この変速制御の具体的な内容については後述する。
【0054】
CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0055】
これらCPU101、ROM102、RAM103、及び、バックアップRAM104はバス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
【0056】
入力インターフェース105には、エンジン回転数センサ201、スロットル開度センサ202、タービン回転数センサ203、出力軸回転数センサ204、アクセルペダル4の開度を検出するアクセル開度センサ205、シフトポジションセンサ206、水温センサ207、エアフロメータ208、吸気温センサ209、及び、車両の前後方向及び左右方向の加速度を検出する加速度センサ210などが接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力される。
【0057】
出力インターフェース106には、スロットルバルブ12のスロットルモータ13、インジェクタ14、点火プラグ15のイグナイタ16、及び、油圧制御回路300などが接続されている。
【0058】
ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブ12の開度制御、点火時期制御(イグナイタ16の駆動制御)、燃料噴射量制御(
インジェクタ14の開閉制御)などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
【0059】
また、ECU100は、自動変速機3のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を油圧制御回路300に出力する。このソレノイド制御信号に基づいて、油圧制御回路300のリニアソレノイドバルブやON−OFFソレノイドバルブの励磁・非励磁などが制御され、所定の変速ギヤ段(1速〜6速)を構成するように、自動変速3のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放される。
【0060】
さらに、ECU100は、油圧制御回路300にロックアップクラッチ制御信号(油圧指令信号)を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいて、油圧制御回路300のロックアップコントロールバルブ301などが制御されてトルクコンバータ2のロックアップクラッチ25が係合、半係合または解放される。
【0061】
次に、ECU100が実行する変速制御、ロックアップ制御、減速ロックアップスリップ制御、及び、減速時のダウンシフト制御(以下、コーストダウン変速制御ともいう)について以下に説明する。
【0062】
−変速制御−
まず、この例の変速制御に用いる変速マップについて図7を参照して説明する。
【0063】
図7に示す変速マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、適正なギヤ段(最適な燃費となるギヤ段)を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、ECU100のROM102内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(ギヤ段の切り替えライン)によって区画されている。
【0064】
なお、図7に示す変速マップにおいて、アップシフト変速線を実線で示し、ダウンシフト変速線を破線で示している。また、アップシフト及びダウンシフトの各切り替え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0065】
次に、変速制御の基本動作について説明する。
【0066】
ECU100は、出力軸回転数センサ204の出力信号に基づいて車速Vを算出するとともに、アクセル開度センサ205の出力信号からアクセル開度Accを算出し、それら車速V及びアクセル開度Accに基づいて図7の変速マップを参照して目標ギヤ段を算出し、その目標ギヤ段と現状ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
【0067】
その判定結果により、変速の必要がない場合(目標ギヤ段と現状ギヤ段とが同じで、ギヤ段が適切に設定されている場合)には、現状ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を油圧制御回路300に出力する。
【0068】
一方、目標ギヤ段と現状ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機3のギヤ段が「5速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図7に示す点Paから点Pbに変化した場合、ダウンシフト変速線[5→4]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギヤ段が「4速」となり、その4速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を油圧制御回路300に出力して、5速のギヤ段から4速のギヤ段への変速(5th→4thダウンシフト変速)を行う。
【0069】
−ロックアップクラッチの制御−
この例のロックアップクラッチ25の制御に用いるマップについて図8を参照して説明する。
【0070】
図8に示すロックアップ制御マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、ロックアップクラッチ25の係合領域(完全係合領域)、解放領域(トルクコンバータ作動領域)、及び、スリップ制御領域が設定されたマップであって、ECU100のROM102内に記憶されている。
【0071】
そして、ECU100は、出力軸回転数センサ204及びアクセル開度センサ205の各センサの出力信号から得られる車速V及びアクセル開度Accに基づいて、図8のマップを参照して、係合領域、解放領域、または、スリップ制御領域のいずれの領域に属するかを判定し、その判定された領域が係合領域または解放領域である場合、上記ロックアップコントロールバルブ301を制御し、ロックアップクラッチ25を係合(ロックアップオン)または解放(ロックアップオフ)のいずれかの状態とする制御を実行する。
【0072】
また、車両状態(車速V及びアクセル開度Acc)がスリップ制御領域にある場合、ECU100は、エンジン回転数センサ201及びタービン回転数センサ203の各出力信号から得られるエンジン回転数NE及びタービン回転数NTを用い、それらエンジン回転数NEとタービン回転数NTとの差回転(滑り量)nslp(nslp=NE−NT)が目標差回転(目標スリップ量)となるようにロックアップコントロールバルブ301を制御して、ロックアップクラッチ25の滑り量を制御する(スリップ制御)。
【0073】
なお、上記アクセル開度Accに替えてスロットル開度に応じたロックアップ制御マップ(車速とスロットル開度とに応じてロックアップクラッチ25を制御するためのマップ)によりロックアップクラッチ25の状態を切り替えるようにしてもよい。
【0074】
−フューエルカット制御−
ECU100は所定の条件が成立したときにフューエルカット制御を実行する。フューエルカット制御は、燃費を向上させるためにエンジン1への燃料供給を停止する制御であって、車両減速時(アクセルオフ)で、かつ、エンジン回転数NEがフューエルカット開始回転数以上であるときにエンジン1への燃料噴射を停止(インジェクタ14からの燃料噴射を停止)し、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(フューエルカット停止のための燃料噴射復帰判定回転数)よりも低下したときにエンジンへの燃料噴射を再開する制御である。なお、フューエルカット復帰回転数は、耐エンスト性を確保することが可能であり、エンジン1の安定した回転を維持することが可能な回転数に設定されている。また、フューエルカット開始回転数は、フューエルカット復帰回転数よりも所定量だけ高い回転数に設定されている。
【0075】
−減速ロックアップスリップ制御−
ECU100は、車両減速時(コースト走行時)のフューエルカット中に、ロックアップクラッチ25のスリップ制御(減速ロックアップスリップ制御)を実行する。具体的には、ECU100は、アクセル開度センサ205の出力信号から得られるアクセル開度Accが略零(Acc≒0)であり、減速走行する前進走行時において生じる駆動輪側からの逆入力をエンジン1側へ伝達するギヤ段、つまり、エンジンブレーキ作用が得られるギヤ段でロックアップクラッチ25のスリップ制御を実行する。このようなスリップ制御を実行すると、タービン回転速度NT及びエンジン回転速度NEが車両の減速に従って緩やかに減少するとともに、エンジン回転速度NEがタービン回転速度NT付近まで引き上げられるため、エンジン1に対する燃料供給量を抑制する制御状態(フューエルカット状態)がさらに長い期間維持されて燃費が向上する。
【0076】
−コーストダウン変速制御(1)−
次に、ECU100が実行するコーストダウン変速制御の一例について、図9のフローチャート及び図10のタイミングチャートを参照して説明する。図9の制御ルーチンはECU100において所定周期毎に繰り返して実行される。
【0077】
まず、ステップST101では、出力軸回転数センサ204、アクセル開度センサ205及びタービン回転数センサ203の各センサの出力信号などに基づいて、フューエルカット制御中で、かつ、減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)中であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST102に進む。ステップST101の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0078】
ステップST102では、自動変速機3のダウンシフト要求が発生しているか否かを判定する。具体的には、出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる車速V(アクセル開度Acc≒0)及び図7の変速マップに基づくダウンシフト要求(例えば5th→4thのダウンシフト要求)があるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(ダウンシフト要求有の場合)は、ダウンシフト制御(コーストダウン変速制御)を開始してステップST103に進む。ステップST102の判定結果が否定判定である場合(ダウンシフト要求がない場合)はリターンして、通常制御時のフューエルカット復帰回転数Nnorを用いてフューエルカット制御の継続または停止を判定する。
【0079】
ステップST103では、ダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数(F/C復帰回転数)Ndwnを設定する。このダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnは、図10に示すように、通常制御時のフューエルカット復帰回転数(F/C復帰回転数)Nnorよりも低い回転数である(Ndwn<Nnor)。
【0080】
次に、ステップST104において、エンジン回転数センサ201の出力信号から得られる現在のエンジン回転数NEが、ステップST103で設定したダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnよりも大きいか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(Ndwn<NE)は、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続する(ステップST105)。この後、自動変速機3の変速が終了した時点(ステップST106が肯定判定となった時点)で処理を終了してリターンする。
【0081】
一方、ステップST104の判定結果が否定判定である場合、つまり、現在のエンジン回転数NEがダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwn以下である場合(NE≦Ndwn)には、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を中止し(ステップST106)、エンジン1への燃料噴射を再開する。
【0082】
以上のように、この例の制御によれば、コーストダウン変速制御時に、フューエルカット復帰回転数を通常制御時(Nnor)に対して下げているので、図10に示すように、車両運転状態のばらつきや車両ハード上のばらつき等によってエンジン回転数NEが一時的に落ち込んでも、エンジン回転数NEが、ダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnにまで低下しない状況のときには、フューエルカット制御(F/C制御)及び減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)を継続することが可能になる。これによって燃費の向上を図ることができる。しかも、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)を高車速側に設定しなくて済むので、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続することが可能になる。
【0083】
なお、この例に用いるダウンシフト制御時のフューエルカット復帰回転数Ndwnは、車両運転状態のばらつき(油圧制御のばらつき等)や車両ハード上のばらつき等によるエンジン回転数NEの一時的な落ち込み量(図10参照)、及び、その一時的な回転数落ち込みによりエンジンストールに至る可能性などを考慮して、実験・計算等により適合した値を設定する。
【0084】
次に、ECU100が実行するコーストダウン変速制御の他の例(2)〜(5)について説明する。
【0085】
−コーストダウン変速制御(2)−
コーストダウン変速制御の他の例を図11のタイミングチャートを参照して説明する。
【0086】
この例では、コーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に達した場合(図11(a))、次回のコーストダウン変速制御時において、ダウンシフト変速点(図7の変速マップの車速V=0付近のダウンシフト変速線)を高車速側に設定し(図11(b))、ダウンシフト変速点を高車速側に設定することで、フューエルカット制御(F/C制御)及び減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)をダウンシフト制御中において継続できるようにした点に特徴があり、このような制御を実行することにより、フューエルカット時間を長くすることができ、燃費の向上を図ることができる。
【0087】
なお、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)の高車速側へのシフト量は、例えばエンジン回転数NEとフューエルカット復帰回転数との差回転を算出し、その差回転を考慮して、次回のコーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に達しないようなシフト量を設定する。
【0088】
ここで、この例の制御は上記した[コーストダウン変速制御(1)]にも適用できる。具体的には、図9のステップST104の判定結果が否定判定になった場合、つまり、現在のエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(ダウンシフト制御時の復帰回転数)Ndwn以下である場合(NE≦Ndwn)、次回のコーストダウン変速制御時に、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)を高車速側に設定する。このような設定により、次回のダウンシフト制御中においてフューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能になる。
【0089】
−コーストダウン変速制御(3)−
コーストダウン変速制御の他の例を図12のタイミングチャートを参照して説明する。
【0090】
この例では、コーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に対して余裕(下降代)がある場合(図12(a))、次回のコーストダウン変速制御時においてダウンシフト変速線を低車速側に設定する。具体的には、上記した余裕分(図12(a)参照)を考慮して、ダウンシフト変速線(図7の変速マップの車速V=0付近のダウンシフト変速線)を可能な限り低車速側に設定して(図12(b))、ダウンシフト変速点を低車速側に設定することで、変速ショックの発生を抑制しながら、フューエルカットを継続する点に特徴がある。
【0091】
ここで、この例の制御は上記した[コーストダウン変速制御(1)]にも適用できる。具体的には、図9のステップST104の判定結果が肯定判定であり(つまり、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(ダウンシフト制御時の復帰回転数)Ndwnよりも大きい場合(Ndwn<NE)であり)、かつ、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Ndwnに対して余裕がある場合は、現在のエンジン回転数NEとフューエルカット復帰回転数Ndwnとの差回転(余裕分:図12(a)参照)を算出し、その余裕分を考慮して、次回のコーストダウン変速制御時に、ダウンシフト変速線(ダウンシフト変速点)を低車速側に設定する。このような設定により、コーストダウン変速制御時の変速ショックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0092】
−コーストダウン変速制御(4)−
コーストダウン変速制御の他の例を図13のタイミングチャートを参照して説明する。
【0093】
この例では、コーストダウン変速制御時に、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に達した場合(図13の2点鎖線)、次回のコーストダウン変速制御時において、自動変速機3の摩擦係合要素(クラッチ・ブレーキ)の解放側油圧の制御タイミングを通常制御時の制御タイミング(図13の2点鎖線)に対して遅延させる。このような遅延制御により、エンジン回転数NEのアンダーシュート量が小さくなって、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数に到達しなくなるので、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御の継続が可能になる。これによって燃費の向上を図ることができる。
【0094】
ここで、この例の制御は上記した[コーストダウン変速制御(1)]にも適用できる。具体的には、図9のステップST104の判定結果が否定判定になった場合、つまり、現在のエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数(ダウンシフト制御時の復帰回転数)Ndwn以下である場合(NE≦Ndwn)、次回のコーストダウン変速制御時に、自動変速機3の摩擦係合要素(クラッチ・ブレーキ)の解放側油圧の制御タイミングを通常制御時に対して遅延させることで、次回のダウンシフト制御中においてフューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することが可能になる。
【0095】
−コーストダウン変速制御(5)−
コーストダウン変速制御の他の例を図14のフローチャート及び図15のタイミングチャートを参照して説明する。図14の制御ルーチンはECU100において所定周期毎に繰り返して実行される。
【0096】
まず、ステップST201では、出力軸回転数センサ204、アクセル開度センサ205及びタービン回転数センサ203の各センサの出力信号などに基づいて、フューエルカット制御中で、かつ、減速ロックアップスリップ制御(減速L/Uスリップ制御)中であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST202に進む。ステップST201の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
【0097】
ステップST202では、自動変速機3のダウンシフト要求が発生しているか否かを判定する。具体的には、出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる車速V(アクセル開度Acc≒0)及び図7の変速マップに基づくダウンシフト要求(例えば5th→4thのダウンシフト要求)があるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(ダウンシフト要求有の場合)は、ダウンシフト制御(コーストダウン変速制御)を開始してステップST203に進む。ステップST202の判定結果が否定判定である場合(ダウンシフト要求がない場合)はリターンする。
【0098】
ステップST203では、エンジン回転数センサ201の出力信号から得られるエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor(通常制御時のフューエルカット復帰回転数)以下であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(NE≦Nnor)は、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を中断し、インジェクタ14からの燃料噴射を再開する(ステップST204)。
【0099】
さらに、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以下になった時点(図15に示すtsの時点)で、エンジン1のアウトプットトルクが最低の値(具体的には、フューエルカット状態と同等もしくはそれに近い値)となるように点火時期遅角制御を実行して(ステップST205)、エンジン回転数NEがタービン回転数NTよりも大きくならないようにする。つまり、点火時期遅角制御によるトルクダウンによってエンジン回転数NEをタービン回転数NT未満に保持してエンジン1の被駆動状態(減速ロックアップスリップ制御が可能な状態)を維持する。このようにしてエンジン1の被駆動状態を維持しておくと、図15に示すように、係合油圧によるタービン回転数NTの変化(上昇)に伴ってエンジン回転数NEが上昇する。
【0100】
次に、ステップST206において、現在のエンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnorよりも大きくなった否かを判定し、その判定結果が肯定判定(Nnor<NE)となった時点(図15に示すteの時点)で、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を再開し(ステップST207)、エンジン1を通常制御状態に戻す。この後、自動変速機3の変速が終了した時点(ステップST208が肯定判定となった時点)で処理を終了してリターンする。
【0101】
一方、ステップST203の判定結果が否定判定である場合、つまり、コーストダウンシフト制御中において、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnorよりも高い状態(Nnor<NE)であるときには、フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続し(ステップST209)、自動変速機3の変速が終了した時点(ステップST208が肯定判定となった時点)で処理を終了してリターンする。
【0102】
以上のように、この例の制御によれば、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以下であるときに、点火時期遅角制御を実行して燃料噴射によるトルク増加を可能な限り少なくしているので、フューエルカット時間を長くすることが可能になる。この点について以下に説明する。
【0103】
まず、フューエルカット制御中断時に点火時期遅角制御を実行しない場合、インジェクタ14からの燃料噴射により、エンジン回転数NEが直ぐに上昇し、そのエンジン回転数NEがタービン回転数NTをオーバシュートした時点でエンジン1が被駆動状態から駆動状態に変化するため、減速ロックアップスリップ制御を実施できなくなる。このため、エンジン回転数NEが上昇する過程で、エンジン回転数NEが上記したフューエルカット開始回転数に達してフューエルカット制御が再開されても、減速ロックアップスリップ制御を再開できず、フューエルカット時間を長く保つことができない。
【0104】
これに対し、この例の制御では、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以下となった時点で、点火時期遅角制御によりエンジン1のアウトプットトルクを最低の値(フューエルカット状態と同等もしくはそれに近い値)に制御して、燃料噴射中においてもエンジン1の被駆動状態を維持しているので、フューエルカット制御の再開と同時に減速ロックアップスリップ制御を再開することが可能になり、フューエルカット時間を長くすることができる。しかも、エンジン回転数NEがフューエルカット復帰回転数Nnor以上になった時点でフューエルカット制御を再開しているので、燃料噴射状態での待機期間を短くすることができる。これによって燃費の向上を図ることができる。
【0105】
また、燃料噴射状態での待機中のトルクダウンを、応答性の速い点火時期遅角制御によって行っているので、例えば、ドライバのブレーキペダルの踏み込み量がダウンシフト開始時の最大踏み込み量よりも増加した場合には、通常のトルク制御に即座に移行する(トルクダウン制御を中止する)ことが可能であり、耐エンスト性を確保することができる。
【0106】
なお、図14のステップST204〜ステップST208の処理を実行している場合には、減速ロックアップスリップ制御のフィードバック制御や学習制御は中断しておく。
【0107】
この例において、エンジン1のトルクダウンを行う手段として、点火時期遅角以外のものを適用してもよい。例えば、吸気バルブ・排気バルブの開閉タイミングを変更することが可能な可変バルブタイミング(VVT:Variable Valve Timing)機構が搭載されたエンジンである場合、VVT制御量の変更によりエンジンのトルクダウンを行うようにしてもよい。
【0108】
−他の実施形態−
以上の例では、前進6段変速の自動変速機が搭載された車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段の遊星歯車式自動変速機が搭載された車両の制御にも適用可能である。
【0109】
以上の例では、クラッチ及びブレーキと遊星歯車装置とを用いて変速比を設定する遊星歯車式変速機が搭載された車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを有するベルト式無段変速機(CVT)が搭載された車両の制御にも適用可能である。
【0110】
以上の例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータが搭載された車両のロックアップクラッチ制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、フルードカップリング(ロックアップクラッチ付き)が搭載された車両の制御にも適用可能である。
【0111】
以上の例では、ポート噴射型ガソリンエンジンを搭載した車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、筒内直噴型ガソリンエンジンを搭載した車両の制御にも適用可能である。また、本発明は、ガソリンエンジンを搭載した車両の制御に限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両の制御にも適用可能である。
【0112】
さらに、本発明は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に限れられることなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両や、4輪駆動車の制御にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明を適用する車両の一部を示す概略構成図である。
【図2】図1の車両に適用されるエンジンの概略構成図である。
【図3】図1の車両に適用されるエンジン、トルクコンバータ、自動変速機の概略構成図及び制御系のブロック図を併記して示す図である。
【図4】図3に示す自動変速機の作動表である。
【図5】シフト操作装置の要部斜視図(a)及びシフト操作装置のシフトゲート(b)を併記して示す図である。
【図6】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図7】変速制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図8】ロックアップクラッチの制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図9】コーストダウン変速制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】コーストダウン変速制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図11】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【図12】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【図13】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【図14】コーストダウン変速制御の他の例を示すフローチャートである。
【図15】コーストダウン変速制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
25 ロックアップクラッチ
3 自動変速機
100 ECU
201 エンジン回転数センサ
202 スロットル開度センサ
203 タービン回転数センサ
204 出力軸回転数センサ
205 アクセル開度センサ
206 シフトポジションセンサ
300 油圧制御回路
301 ロックアップコントロールバルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと自動変速機とが搭載された車両の制御装置であって、
車両減速時でかつエンジン回転数がフューエルカット復帰回転数以上であることを条件に前記エンジンへの燃料噴射を停止し、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数に低下したときに前記エンジンへの燃料噴射を再開するフューエルカット制御手段と、前記フューエルカット制御中に前記自動変速機のダウンシフトを実行するダウンシフト制御手段とを備え、前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時にはフューエルカット復帰回転数を下げることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置において、
前記エンジンと自動変速機との間を直結するロックアップクラッチと、前記フューエルカット制御中に前記ロックアップクラッチをスリップ制御する減速ロックアップスリップ制御手段とを備え、前記フューエルカット制御中に前記ダウンシフト制御を実行するときに、前記フューエルカット復帰回転数を下げる側に変更して、前記フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点を高車速側に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数に対して余裕がある場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点を低車速側に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時において、前記自動変速機の油圧式摩擦係合装置の解放側油圧の制御タイミングを遅延させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項1】
エンジンと自動変速機とが搭載された車両の制御装置であって、
車両減速時でかつエンジン回転数がフューエルカット復帰回転数以上であることを条件に前記エンジンへの燃料噴射を停止し、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数に低下したときに前記エンジンへの燃料噴射を再開するフューエルカット制御手段と、前記フューエルカット制御中に前記自動変速機のダウンシフトを実行するダウンシフト制御手段とを備え、前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時にはフューエルカット復帰回転数を下げることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置において、
前記エンジンと自動変速機との間を直結するロックアップクラッチと、前記フューエルカット制御中に前記ロックアップクラッチをスリップ制御する減速ロックアップスリップ制御手段とを備え、前記フューエルカット制御中に前記ダウンシフト制御を実行するときに、前記フューエルカット復帰回転数を下げる側に変更して、前記フューエルカット制御及び減速ロックアップスリップ制御を継続することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点を高車速側に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数に対して余裕がある場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時の変速点を低車速側に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の車両の制御装置において、
前記フューエルカット制御中のダウンシフト制御時に、エンジン回転数が前記フューエルカット復帰回転数にまで低下した場合は、次回のフューエルカット制御中のダウンシフト制御時において、前記自動変速機の油圧式摩擦係合装置の解放側油圧の制御タイミングを遅延させることを特徴とする車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−125874(P2010−125874A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299329(P2008−299329)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]