説明

電界効果トランジスタ、半導体基板及び電界効果トランジスタの製造方法

【課題】高いチャネル移動度を有する電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】ゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層に接する第1半導体結晶層と、第1半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第2半導体結晶層とを有し、前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層および前記第2半導体結晶層が、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層、第2半導体結晶層の順に配置されており、前記第1半導体結晶層がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、前記第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、前記第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい電界効果トランジスタを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタ、半導体基板及び電界効果トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体をチャネル層に用いるMISFET(金属・絶縁体・半導体電界効果トランジスタ)は、高周波動作および大電力動作に適したスイッチングデバイスとして期待されている。しかし、半導体と絶縁体の界面にエネルギー準位が形成されるとキャリアの移動度を低下させるという問題がある。半導体と絶縁体の界面に形成されるエネルギー準位(本明細書中では「界面準位」という)の低減には、化合物半導体の表面を硫化物で処理することが有効であると非特許文献1に記載されている。
非特許文献1 S.Arabasz,et al.著,Vac.80巻(2006年)、888ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、界面準位をさらに低減することが望ましい。また、界面準位が存在しても当該界面準位の影響を低く抑える方策を施すことで、電界効果トランジスタの性能を高めることが望まれる。本発明の目的は、界面準位の影響を低く抑えて、高いチャネル移動度を有する電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、ゲート絶縁層と、ゲート絶縁層に接する第1半導体結晶層と、第1半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第2半導体結晶層とを有し、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層および第2半導体結晶層が、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層、第2半導体結晶層の順に配置されており、第1半導体結晶層がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい電界効果トランジスタを提供する。
【0005】
第2半導体結晶層としてInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2>y1)が挙げられる。第1半導体結晶層中のAs原子濃度は、例えば1%以下である。電界効果トランジスタは、第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第3半導体結晶層をさらに有することが好ましい。第3半導体結晶層は第1半導体結晶層と第2半導体結晶層との間に配置されており、第3半導体結晶層は、例えばAlx3Inx4Ga1−x3−x4Asy31−y3(0<x3<1、0≦x4<1、0<x3+x4<1、0≦y3≦1)であり、第3半導体結晶層の電子親和力Ea3が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい。
【0006】
電界効果トランジスタは、ゲート絶縁層に接するゲート電極をさらに有してもよく、ゲート電極、ゲート絶縁層および第1半導体結晶層が、ゲート電極、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層の順に配置されており、ゲート絶縁層と第1半導体結晶層とが以下の数1の関係を満足することが好ましい。
(数1)
(ε・d)/(ε・d)>V/δ
ただし、dおよびεはゲート電極と第2半導体結晶層とに挟まれたゲート下領域におけるゲート絶縁層の厚さおよび比誘電率を示し、dおよびεはゲート下領域における第1半導体結晶層の厚さおよび比誘電率を示し、Vは前記電界効果トランジスタの閾値電圧以上の前記ゲート電極への印加電圧を示し、δ=Ea2−Ea1である。
【0007】
さらに、電界効果トランジスタは、第2半導体結晶層の少なくとも一部にP型の伝導型を示す不純物が含まれていることが好ましい。第2半導体結晶層は、例えば、第1半導体結晶層に接し、P型の伝導型を示す不純物を含む結晶層であってよい。また、第2半導体結晶層は、例えば、第1半導体層に接し、かつ、不純物を含まないノンドープ層と、ノンドープ層に接し、かつ、P型の伝導型を示す不純物を含むドープ層とを有してもよい。また、前記ドープ層は、P型の伝導型を示す不純物の濃度が互いに異なる複数の層から構成されていてもよい。当該ノンドープ層の厚みは、一例として20nm以下である。
【0008】
電界効果トランジスタは、電子親和力Ea4が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい第4半導体結晶層をさらに有することが好ましく、ゲート絶縁層、第2半導体結晶層および第4半導体結晶層が、ゲート絶縁層、第2半導体結晶層、第4半導体結晶層の順に配置されており、第4半導体結晶層が第2半導体結晶層と格子整合または擬格子整合することが好ましく、第4半導体結晶層の電子親和力Ea4が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さいことが好ましく、また第4半導体結晶層はP型の伝導型を示す不純物を含んでいることが好ましい。
【0009】
また、電界効果トランジスタは、ゲート絶縁層に接するゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極とをさらに有してもよく、ゲート電極、ゲート絶縁層および第1半導体結晶層が、ゲート電極、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層の順に第1方向に配置され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極が、ソース電極、ゲート電極、ドレイン電極の順に、第1方向に垂直な第2方向に配置され、ゲート電極に第1方向において隣接するゲート下領域に第1半導体結晶層が形成され、ソース電極とゲート下領域との間、または第1方向においてソース電極に隣接するソース下領域とゲート下領域との間に第1半導体結晶層が形成されておらず、ドレイン電極とゲート下領域との間、または第1方向においてドレイン電極に隣接するドレイン下領域とゲート下領域との間に第1半導体結晶層が形成されていないことが好ましい。
【0010】
電界効果トランジスタは、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層および第2半導体結晶層を含む積層構造体を支持するベース基板をさらに有することが好ましく、ベース基板は、例えば単結晶GaAsからなる基板、単結晶InPからなる基板、単結晶Siからなる基板およびSOI(シリコン・オン・シンシュレータ)基板からなる群から選択された一の基板である。
【0011】
電界効果トランジスタは、ゲート絶縁層に接するゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極とをさらに有することが好ましく、ゲート電極、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層および第2半導体結晶層が、ゲート電極、ゲート絶縁層、第1半導体結晶層、第2半導体結晶層の順に第1方向に配置され、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極が、ソース電極、ゲート電極、ドレイン電極の順に、第1方向に垂直な第2方向に配置され、第1方向においてゲート電極に隣接するゲート下領域に、第1半導体結晶層および第2半導体結晶層が形成され、第1方向においてソース電極に隣接するソース下領域、および、第1方向においてドレイン電極に隣接するドレイン下領域に、第2半導体結晶層が形成され、ソース下領域とゲート下領域との間の第2半導体結晶層、およびドレイン下領域とゲート下領域との間の第2半導体結晶層に、キャリアを生成する不純物原子がドーピングされ、ソース電極またはソース下領域とゲート下領域との間の第1半導体結晶層、およびドレイン電極またはドレイン下領域とゲート下領域との間の第1半導体結晶層に、キャリアを生成する不純物原子がドーピングされていないものであってもよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、ベース基板と、ベース基板に接する第2半導体結晶層と、第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第1半導体結晶層とを備え、第1半導体結晶層がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい半導体基板を提供する。ベース基板は、第1半導体結晶層および第2半導体結晶層を含む積層構造体を支持する。
【0013】
第2半導体結晶層は、例えばInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2>y1)である。第1半導体結晶層中のAs原子濃度は、1%以下である。半導体基板は、第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第3半導体結晶層をさらに有することが好ましく、第3半導体結晶層が第1半導体結晶層と第2半導体結晶層との間に配置されており、第3半導体結晶層としてAlx3Inx4Ga1−x3−x4Asy31−y3(0<x3<1、0≦x4<1、0<x3+x4<1、0≦y3≦1)が挙げられ、第3半導体結晶層の電子親和力Ea3が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さいことが好ましい。
【0014】
また、半導体基板は、第2半導体結晶層の少なくとも一部にP型の伝導型を示す不純物が含まれていることが好ましい。第2半導体結晶層は、例えば、第1半導体結晶層に接し、P型の伝導型を示す不純物を含む結晶層であってよい。また、第2半導体結晶層は、例えば、第1半導体層に接し、かつ、不純物を含まないノンドープ層と、ノンドープ層に接し、かつ、P型の伝導型を示す不純物を含むドープ層とを有してもよい。また、前記ドープ層は、P型の伝導型を示す不純物の濃度が互いに異なる複数の層から構成されていてもよい。当該ノンドープ層の厚みは、一例として20nm以下である。
【0015】
半導体基板は、電子親和力Ea4が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい第4半導体結晶層をさらに有することが好ましく、第1半導体結晶層、第2半導体結晶層および第4半導体結晶層が、第1半導体結晶層、第2半導体結晶層、第4半導体結晶層の順に配置されており、第4半導体結晶層が第2半導体結晶層と格子整合または擬格子整合することが好ましく、第4半導体結晶層の電子親和力Ea4が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さいことが好ましく、また第4半導体結晶層はP型の伝導型を示す不純物を含んでいることが好ましい。
【0016】
半導体基板におけるベース基板として単結晶GaAsからなる基板、単結晶InPからなる基板、単結晶Siからなる基板およびSOI(シリコン・オン・シンシュレータ)基板からなる群から選択された一の基板が挙げられる。
【0017】
本発明の第3の態様においては、ベース基板の上に第2半導体結晶層をエピタキシャル成長させる段階と、第2半導体結晶層の上に第1半導体結晶層をエピタキシャル成長させる段階とを有し、第2半導体結晶層をエピタキシャル成長させる段階において、第2半導体結晶層をInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1)として成長させ、第1半導体結晶層をエピタキシャル成長させる段階において、第1半導体結晶層をInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1、y1≠y2)とし、第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合させて成長させ、第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さく第1半導体結晶層および第2半導体結晶層を成長させる半導体基板の製造方法を提供する。
【0018】
第3の態様においては、半導体基板における第1半導体結晶層に接して絶縁層を形成する段階と、絶縁層に接して、電界効果トランジスタのゲート電極になる導電層を形成する段階とを有する電界効果トランジスタの製造方法を提供する。絶縁層が還元材料を含む雰囲気におけるALD法またはMOCVD法により形成されることが好ましい。
【0019】
電界効果トランジスタの製造方法は、絶縁層を形成する段階の前に、ゲート電極が形成される領域を覆うマスクを、第1半導体結晶層の上に形成する段階と、マスクで覆われた領域以外の第1半導体結晶層を、マスクを遮蔽膜に用いたエッチングにより除去する段階と、第2半導体結晶層の第1半導体結晶層が除去された領域に、マスクを遮蔽膜に用いたイオン注入により、不純物原子をドーピングする段階と、を有してもよい。
【0020】
本発明の第4の態様においては、第1半導体結晶層と、第1半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第2半導体結晶層とを有し、第1半導体結晶層がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい半導体基板における第1半導体結晶層に接して絶縁層を形成する段階と、絶縁層に接して、電界効果トランジスタのゲート電極になる導電層を形成する段階とを有する電界効果トランジスタの製造方法が提供される。当該絶縁層は、例えば、還元材料を含む雰囲気におけるALD法またはMOCVD法により形成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電界効果トランジスタ100の断面例を示す。
【図2】電界効果トランジスタ100の製造例における製造途中での断面例を示す。
【図3】電界効果トランジスタ100の製造例における製造途中での断面例を示す。
【図4】電界効果トランジスタ100の製造例における製造途中での断面例を示す。
【図5】電界効果トランジスタ200の断面例を示す。
【図6】電界効果トランジスタ300の断面例を示す。
【図7】電界効果トランジスタ400の断面例を示す。
【図8】電界効果トランジスタ500の断面図を示す。
【図9】電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【図10】電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【図11】電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【図12】電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【図13】電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【図14】電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【図15】電界効果トランジスタ500のチャネル移動度対表面電子濃度の実験データを、比較例の電界効果トランジスタと対比して示したグラフである。
【図16】電界効果トランジスタ600の断面図を示す。
【図17】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図18】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図19】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図20】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図21】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図22】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図23】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図24】電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。
【図25】電界効果トランジスタ600のゲート電極端部における断面を電子顕微鏡観察した写真を示す。
【図26】電界効果トランジスタ600のゲート電極中央部における断面を電子顕微鏡観察した写真を示す。
【図27】電界効果トランジスタ600のドレイン電圧対ドレイン電流特性(Vd−Id特性)を示す。
【図28】電界効果トランジスタ600のゲート電圧対ドレイン電流特性(Vg−Id特性)を相互コンダクタンスとともに示す。
【図29】電界効果トランジスタ600のチャネル移動度対表面電子濃度の実験データを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明の実施形態である電界効果トランジスタ100の断面例を示す。電界効果トランジスタ100は、ベース基板102、第2半導体結晶層104、第1半導体結晶層106、第2N型領域108、第1N型領域110、ゲート絶縁層112、ソース電極114、ドレイン電極116およびゲート電極118を有する。
【0023】
ベース基板102が、ゲート絶縁層112、第1半導体結晶層106および第2半導体結晶層104を含む積層構造体を支持する。ベース基板102は、例えば、単結晶GaAsからなる基板、単結晶InPからなる基板、単結晶Siからなる基板およびSOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板である。
【0024】
ベース基板102として単結晶Siからなる基板を用いる場合には、低コストのシリコンウェハを用いることで電界効果トランジスタ100のコストを低減することができる。また、単結晶Siは熱伝導性が良いので、単結晶Siからなるベース基板102は、電界効果トランジスタ100が発生する熱を効率的に排出することができる。SOI基板は熱伝導性が良く、かつ、浮遊容量が小さい。したがって、ベース基板102としてSOI基板を用いる場合には、電界効果トランジスタ100が発生する熱を効率的に排出することができるとともに、電界効果トランジスタ100の浮遊容量を低減することで、電界効果トランジスタ100の動作速度を高めることもできる。
【0025】
第2半導体結晶層104は第1半導体結晶層106に格子整合または擬格子整合し、第1半導体結晶層106はゲート絶縁層112に接する。第2半導体結晶層104は、例えばInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)である。第1半導体結晶層106は、例えばInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)である。第1半導体結晶層106の電子親和力Ea1は、第2半導体結晶層104の電子親和力Ea2より小さい。
【0026】
具体的には、第1半導体結晶層106がInPである場合には、第2半導体結晶層104は、例えばInGaAsである。第1半導体結晶層106がInGaPである場合には、第2半導体結晶層104は、例えばInGaAsである。第1半導体結晶層106がInGaPである場合には、第2半導体結晶層104は、例えばInPである。
【0027】
第2半導体結晶層104と第1半導体結晶層106との接合面にはヘテロ界面が形成され、当該へテロ界面近傍に電子雲が形成される。当該電子雲は、電界効果トランジスタ100のチャネルとして機能する。ゲート絶縁層112と第1半導体結晶層106との界面には結晶欠陥に起因するキャリアのトラップセンタが多く形成される。電子雲は、ゲート絶縁層112および第1半導体結晶層106の界面から、第1半導体結晶層106の厚みに相当する距離だけ離れて形成される。その結果、電界効果トランジスタ100のチャネルを移動するキャリアがトラップセンタにより散乱される確率が低くなるので、電界効果トランジスタ100のキャリア移動度を大きくすることができる。
【0028】
第2半導体結晶層104は、Inx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2>y1)であることが好ましい。すなわち第1半導体結晶層106は、第2半導体結晶層104に比べて、Pに対するAsの割合が小さいことが好ましい。本発明者らの実験検討によれば、Asの酸化物が、キャリアである電子のトラップセンタとして機能している。ゲート絶縁層112に接する第1半導体結晶層106におけるAsの割合を低減することで、トラップセンタが減少する。その結果、散乱されるキャリアの割合が減少するので、キャリア移動度を大きくすることができる。
【0029】
第1半導体結晶層106のAsの割合を小さくする場合、X線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy)を用いた測定において、第1半導体結晶層106中のAs原子濃度が測定限度以下となるレベルまでAsの割合を少なくすることが好ましい。一般的にX線光電子分光法による測定では原子の検出限度は1%程度である。例えば、第1半導体結晶層106におけるAsの割合は、1%以下であることが好ましい。
【0030】
第2半導体結晶層104は、少なくとも一部にP型の伝導型を示す不純物を含むことが好ましい。第2半導体結晶層104の少なくとも一部にP型の伝導型を示す不純物が含まれていると、電子の一部がアクセプタに捕獲されることによって第2半導体結晶層104における負の空間電荷が増加する。その結果、第2半導体結晶層104のポテンシャルが高くなり、第2半導体結晶層104と第1半導体結晶層106との界面近傍に形成される電子雲が第2半導体結晶層104内部に広がることを抑制することができるので、当該界面における電子雲の密度を高め、ゲート電極によるチャネル電子の制御性を高めることができる。
【0031】
第2半導体結晶層104は、第1半導体結晶層106に接し、かつ、P型の伝導型を示す不純物を含まないノンドープ層と、当該ノンドープ層に接し、かつ、P型の伝導型を示す不純物を含むドープ層とを有してもよい。また、前記ドープ層は、P型の伝導型を示す不純物の濃度が互いに異なる複数の層から構成されていてもよい。例えば、ノンドープ層は、第2半導体結晶層104および第1半導体結晶層106の界面から予め定められた距離内の領域に形成されている層である。第2半導体結晶層104が上記のノンドープ層およびドープ層を有することにより、当該界面付近においては、キャリアがP型の伝導型を示す不純物によって拡散されないので、移動度の低下を防ぐことができる。ノンドープ層の厚みは、例えば20nm以下であり、好ましくは10nm以下である。
【0032】
電界効果トランジスタ100は、第2半導体結晶層104とベース基板102との間に、第1半導体結晶層106の電子親和力と同等の大きさの電子親和力を有する第4の半導体結晶層を有してもよい。電界効果トランジスタ100が当該第4の半導体結晶層を有することにより、第2半導体結晶層104および第1半導体結晶層106の界面近傍の電子雲のベース基板側への広がりを抑えることができるので、電子雲の密度を高め、ゲート電極によるチャネル電子の制御性を高めることができる。
【0033】
第2N型領域108は、第2半導体結晶層104に形成されたN型領域である。第1N型領域110は、第1半導体結晶層106に形成されたN型領域である。N型領域の形成方法として、Si原子等のN型不純物をイオン注入した後、アニールによる活性化によって形成する方法が挙げられる。N型領域は、ソース電極114およびドレイン電極116のそれぞれの下に形成される。ソース電極114の下の第2N型領域108および第1N型領域110は、電界効果トランジスタのソースとして機能する。ドレイン電極116の下の第2N型領域108および第1N型領域110は、電界効果トランジスタのドレインとして機能する。
【0034】
ゲート絶縁層112は、第1半導体結晶層106とゲート電極118とを直流電気的に分離する。ゲート絶縁層112は、例えば酸化アルミニウム(Al)層である。酸化アルミニウム層の製造方法としてALD(Atomic layer deposition)法が挙げられる。ソース電極114およびドレイン電極116は、第1N型領域110の上に接して形成される。ゲート電極118は、ゲート絶縁層112に接して形成される。ソース電極114、ドレイン電極116およびゲート電極118は、例えばTiおよびAuの金属積層膜である。
【0035】
ゲート電極118、ゲート絶縁層112、第1半導体結晶層106および第2半導体結晶層104は、ゲート電極118、ゲート絶縁層112、第1半導体結晶層106、第2半導体結晶層104の順に配置されている。ゲート絶縁層112および第1半導体結晶層106は、数1の関係を満足する特性を有することが好ましい。
【0036】
(数1)
(ε・d)/(ε・d)>V/δ
ただし、dおよびεはゲート電極118と第1半導体結晶層106とに挟まれたゲート下領域におけるゲート絶縁層112の厚さおよび比誘電率を示し、dおよびεはゲート下領域における第1半導体結晶層106の厚さおよび比誘電率を示し、Vは電界効果トランジスタ100の閾値電圧以上のゲート電極118への印加電圧を示し、δ=Ea2−Ea1である。Vが電界効果トランジスタ100の閾値電圧以上であって、電界効果トランジスタ100のソース電極114とドレイン電極116との間をキャリアが移動する状態において数1のような関係を満たすことで、第1半導体結晶層106に接する第2半導体結晶層104内に高移動度チャネル電子を誘起することができる。数1の関係は、以下のとおりに導くことができる。
【0037】
ゲート絶縁層112の容量Cは、
=ε/d ・・・(式1)
で表される。したがって、ゲート絶縁層112と第1半導体結晶層106との界面に誘起される電荷Qは、
=V×C=V×ε/d ・・・(式2)
で表される。
【0038】
これに対して、ゲート絶縁層112および第1半導体結晶層106の合成容量は、
=ε・ε/(dε+dε) ・・・(式3)
で表される。したがって、第1半導体結晶層106と第2半導体結晶層104との界面に誘起される電荷Qは、
=(V+δ)×C=(V+δ)×ε・ε/(dε+dε)・・・(式4)
で表される。
【0039】
ここで、
>Q ・・・(式5)
となる場合に、第2半導体結晶層104内に高移動度チャネル電子が生成される。そこで、式5に式2および式4を代入すると、
(V+δ)×ε・ε/(dε+dε)>V×ε/d・・・(式6)
となる。式6を整理すると、数1に示した(ε・d)/(ε・d)>V/δが得られる。すなわち、数1の関係が満たされる場合に、第1半導体結晶層106に接する第2半導体結晶層104内に高移動度チャネル電子を誘起することができる。
【0040】
以上のように、電界効果トランジスタ100においては、ゲート絶縁層112と第2半導体結晶層104との間に第1半導体結晶層106が形成されているので、第2半導体結晶層104と第1半導体結晶層106との界面は、ゲート絶縁層112と第2半導体結晶層104との界面から、第1半導体結晶層106の厚みに相当する距離だけ離れている。したがって、ゲート絶縁層112および第1半導体結晶層106の界面にトラップセンタが存在しても、キャリアが散乱される確率が低減されるので、キャリア移動度を大きくすることができる。さらに、第2半導体結晶層104をP型にすることでキャリア密度を高め、ゲート電極によるチャネル電子の制御性を高めることにより、短チャネル効果を抑制することができる。
【0041】
図2から図4は、電界効果トランジスタ100の製造方法の一例における製造途中での断面例を示す。図2に示すように、ベース基板102の上に第2半導体結晶層104および第1半導体結晶層106が順次積層される。第2半導体結晶層104および第1半導体結晶層106の形成方法は、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いたエピタキシャル成長またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法である。
【0042】
図3に示すように、第2半導体結晶層104に第2N型領域108を形成し、第1半導体結晶層106に第1N型領域110を形成し、さらにゲート絶縁層112を形成する。第2N型領域108および第1N型領域110の形成方法は、N型の不純物原子をイオン状態にして注入するイオン注入法である。当該N型の不純物原子は、例えばSi原子である。イオンを注入する場合には、図示しない犠牲層を第1N型領域110の上に形成しておくことが好ましい。イオン注入の後にアニールすることが好ましい。
【0043】
犠牲層を形成した場合には、当該犠牲層を除去した後にゲート絶縁層112を形成する。ゲート絶縁層112の形成方法として、ALD法を例示できる。ゲート絶縁層112は、還元材料を含む雰囲気におけるALD法またはMOCVD法により形成されることが好ましい。還元材料は、例えば水素(H)、トリメチルアルミニウム(Al(CH)である。
【0044】
図4に示すように、第1N型領域110上のゲート絶縁層112をエッチングにより除去し、ソース電極114およびドレイン電極116を形成する。ソース電極114およびドレイン電極116をTiおよびAuの金属積層膜で形成する場合、例えば、蒸着法またはスパッタリング法による薄膜形成とリフトオフ法とを組み合わせたパターニング法を用いる。最後にゲート絶縁層112の上にゲート電極118を形成する。ゲート電極118をTiおよびAuの金属積層膜で形成する場合、ソース電極114およびドレイン電極116と同様の方法で形成してよい。
【0045】
なお、ベース基板102として単結晶GaAs基板、単結晶InP基板等の単結晶化合物半導体基板を用いる場合には、ベース基板102を再利用することができる。例えば、ベース基板102と第2半導体結晶層104との間に剥離層を設けて、当該剥離層の上にゲート絶縁層112、第1半導体結晶層106および第2半導体結晶層104を含む積層構造体を形成する。剥離層をエッチング等で除去することにより、剥離層を境に積層構造体がベース基板102から剥離される。剥離された積層構造体を用いて電子素子を作製するとともに、剥離後のベース基板102を新たな積層構造体のベース基板として再利用してもよい。剥離された積層構造体は、単結晶Siからなる基板、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板、ガラス基板、セラミックス基板、またはプラスティック基板などに接着することができる。これら基板に接着された積層構造体に電子素子が形成される。
【0046】
上記実施形態では電界効果トランジスタ100を説明したが、半導体基板の構成を把握することもできる。すなわち、ベース基板102と、ベース基板102に接する第2半導体結晶層104と、第2半導体結晶層104に格子整合または擬格子整合する第1半導体結晶層106とを有し、第1半導体結晶層106がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、第2半導体結晶層104がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、第1半導体結晶層106の電子親和力Ea1が第2半導体結晶層104の電子親和力Ea2より小さい半導体基板が開示される。また、半導体基板の製造方法も開示される。
【0047】
図5は、本発明の実施形態である電界効果トランジスタ200の断面例を示す。電界効果トランジスタ200は、第3半導体結晶層202を有する点を除き電界効果トランジスタ100と同様の構成を有する。そこで、相違する構成について以下に説明する。
【0048】
第3半導体結晶層202は、第1半導体結晶層106と第2半導体結晶層104との間に配置されている。第3半導体結晶層202は、第2半導体結晶層104に格子整合または擬格子整合する。第3半導体結晶層202は、例えばAlx3Inx4Ga1−x3−x4Asy31−y3(0<x3<1、0≦x4<1、0<x3+x4<1、0≦y3≦1)である。第3半導体結晶層202の電子親和力Ea3は、第2半導体結晶層104の電子親和力Ea2より小さい。
【0049】
具体的には、第1半導体結晶層106がInPである場合には、例えば、第3半導体結晶層202はAlInAsであり、第2半導体結晶層104はInGaAsである。また第1半導体結晶層106がInGaPである場合には、例えば、第3半導体結晶層202はAlGaAsであり、第2半導体結晶層104はInGaAsである。さらに第1半導体結晶層106がInGaPである場合には、例えば、第3半導体結晶層202はAlGaAsPであり、第2半導体結晶層104はInPである。なお、第1半導体結晶層106と第2N型領域108との間に第3半導体結晶層202のN型層である第3N型領域204が形成される。
【0050】
第1半導体結晶層106と第2半導体結晶層104との接合部においては、第1半導体結晶層106と第2半導体結晶層104のそれぞれの構成成分が異常拡散することにより、結晶構造が乱れる場合がある。電界効果トランジスタ200が第3半導体結晶層202を有することにより、当該結晶構造の乱れを抑制することができる。具体的には、電界効果トランジスタ200が、アルミニウム(Al)を含有する第3半導体結晶層202を有する場合には、Alが異常拡散を抑制することにより結晶構造の乱れが抑制されると考えられる。その結果、電界効果トランジスタ200のキャリア移動度を大きくすることができる。なお、電界効果トランジスタ200の構成は半導体基板の構成としても把握できる。
【0051】
図6は、本発明の実施形態である電界効果トランジスタ300の断面例を示す。電界効果トランジスタ300は、第4半導体結晶層302を有する点を除き電界効果トランジスタ200と同様の構成を有する。そこで、相違する構成について以下に説明する。
【0052】
第4半導体結晶層302は、P型の伝導型を有し、ゲート絶縁層112、第2半導体結晶層104および第4半導体結晶層302が、ゲート絶縁層112、第2半導体結晶層104、第4半導体結晶層302の順に配置されている。第4半導体結晶層302は、第2半導体結晶層104と格子整合または擬格子整合する。第4半導体結晶層302の電子親和力Ea4は、第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい。
【0053】
第4半導体結晶層302を有することで、第2半導体結晶層104をP型にした場合と同様の効果が得られる場合がある。すなわち、第4半導体結晶層302は、第3半導体結晶層202と第1半導体結晶層106との界面近傍に形成される電子雲が第2半導体結晶層104内部で広がることを抑制する。その結果、当該界面における電子雲の密度がさらに高まり、ゲート電極によるチャネル電子の制御性が高まる。電界効果トランジスタ300の構成は半導体基板の構成としても把握できる。
【0054】
図7は、本発明の実施形態である電界効果トランジスタ400の断面例を示す。電界効果トランジスタ400は、リセス部402を有する点を除き電界効果トランジスタ300と同様の構成を有する。よって相違する構成について以下に説明する。
【0055】
ゲート電極118、ゲート絶縁層112および第1半導体結晶層106がこの順に配置されている方向を第1方向とし、ソース電極114、ゲート電極118およびドレイン電極116がこの順に配置されている方向を第2方向とする。第1方向と第2方向は実質的に垂直に交わる関係にある。第1方向においてゲート電極118に隣接する領域であるゲート下領域には、第1半導体結晶層106が形成されている。第1半導体結晶層106が形成されていることにより、キャリア移動度を大きくする効果が得られる場合がある。
【0056】
一方、ゲート下領域とソース電極114との間には第1半導体結晶層106および第3半導体結晶層202が形成されておらず、ゲート下領域とドレイン電極116との間には第1半導体結晶層106および第3半導体結晶層202が形成されていない。すなわち、ゲート下領域とソース電極114との間、および、ゲート下領域とドレイン電極116との間には、第1半導体結晶層106および第3半導体結晶層202が形成されていないリセス部402が形成されている。
【0057】
リセス部402があることで、ゲート絶縁層112と第1半導体結晶層106との界面あるいは第1半導体結晶層106と第3半導体結晶層202との界面へのキャリアの注入が抑制され、キャリアは第3半導体結晶層202と第2半導体結晶層104との界面近傍に注入される。その結果、電界効果トランジスタ400のオン特性が良好になる。
【0058】
なお、第1方向においてソース電極114に隣接するソース下領域に第1半導体結晶層106および第3半導体結晶層202が形成されてもよく、第1方向においてドレイン電極116に隣接するドレイン下領域に第1半導体結晶層106および第3半導体結晶層202が形成されてもよい。この場合には、ゲート下領域とソース下領域との間、および、ゲート下領域とドレイン下領域との間に、第1半導体結晶層106および第3半導体結晶層202が形成されないリセス部が形成される。
【0059】
(実施例1)
図8は、本発明の実施例である電界効果トランジスタ500の断面図を示す。図9から図14は、電界効果トランジスタ500の製造途中における断面図を示す。
【0060】
図9に示すように、P型のInP基板502を用意し、InP基板502の(001)面上に、P型のInGaAs層504およびI型のInP層506をエピタキシャル成長させた。InGaAs層504の組成をIn0.53Ga0.47Asとし、P型不純物の濃度を3×1016cm−3とした。さらにInP層506の上に、VB族原子の抜けを抑制するための犠牲保護層508を形成した。犠牲保護層508として厚さ6nmのAlを形成した。
【0061】
図10に示すように、マスク510を形成し、Si原子をイオン注入した。イオン注入の注入エネルギーを30keVとし、注入量を2×1014cm−2とした。
【0062】
図11に示すように、RTA(Rapid thermal anneal)法を用いて注入したSiを活性化した。これによりInGaAs層504のN型層512およびInP層506のN型層514が形成された。RTAの条件は600℃、10秒とした。
【0063】
図12に示すように、犠牲保護層508を剥離し、表面をクリーニングした。犠牲保護層508の剥離および表面クリーニングとして、緩衝フッ酸(BHF)によるエッチング、希フッ酸(DHF)および水酸化アンモニウム(NHOH)によるエッチングを行った。
【0064】
図13に示すように、Al層516およびTaN層518を形成した。Al層516は、ALD法により13nmの厚さで形成した。TaN層518はイオンビームスパッタ法により30nmの厚さで形成した。
【0065】
図14に示すように、ソースおよびドレインのコンタクトホールを形成し、当該コンタクトホールにソース電極520およびドレイン電極522を形成した。コンタクトホールの形成は、まずSFをエッチングガスとして用いた反応性イオンエッチングによりTaN層518をドライエッチングし、続いてBHFをエッチング液としたウェットエッチングによりAl層516をエッチングした。マスク形成の後、TiおよびAuの積層膜を蒸着法により形成し、マスクを剥離するリフトオフ法によりソース電極520およびドレイン電極522を形成した。
【0066】
さらにマスク形成の後、TiおよびAuの積層膜を蒸着法により形成し、マスクを剥離するリフトオフ法によりゲート電極524を形成し、SFをエッチングガスとして用いた反応性イオンエッチングによりTaN層518をドライエッチングして、ゲート電極524の形成および電極間分離を行った。これにより図8に示す電界効果トランジスタ500を製造した。
【0067】
比較例として、InP層506を有しない電界効果トランジスタを製造した。この場合のInGaAs層の厚さは、InGaAs層504の厚さにInP層506の厚さを加えた厚さと同じにした。
【0068】
図15は、電界効果トランジスタ500のチャネル移動度対表面電子濃度の実験データを、比較例の電界効果トランジスタと対比して示したグラフである。電界効果トランジスタ500は「InP(4nm)/InGaAs」で参照される丸印のデータであり、「InGaAs」で参照される四角印の比較例と比べてチャネル移動度が大きくなっているのがわかる。つまり第1半導体結晶層106に対応するInP層506を有することで電界効果トランジスタ500のチャネル移動度が大きくなることが示された。
【0069】
(実施例2)
図16は、本発明の他の実施例である電界効果トランジスタ600の断面図を示す。電界効果トランジスタ600は、電界効果トランジスタ500におけるInP層506のN型層514を有しない。
【0070】
図17から図24は、電界効果トランジスタ600の製造途中における断面図を示す。実施例1と同様に、図17に示すように、P型のInP基板502上に、P型のInGaAs層504およびI型のInP層506をエピタキシャル成長させ、InP層506の上に犠牲保護層508を形成した。各層の組成、不純物濃度、厚さ等は実施例1と同じである。さらに犠牲保護層508上にマスク510を形成した。マスク510は、フォトレジスト膜であり、ゲート電極524が形成される領域を覆うように形成した。
【0071】
図18に示すように、マスク510を遮蔽膜にして、犠牲保護層508およびInP層506をエッチングにより除去した。続いて図19に示すように、マスク510をそのまま遮蔽膜に用い、犠牲保護層508およびInP層506が除去された領域のInGaAs層504にSi原子をイオン注入した。イオン注入の注入エネルギーおよび注入量は、実施例1と同じ30keVおよび2×1014cm−2とした。
【0072】
図20に示すように、アッシングによりマスク510を除去した。このアッシングにより酸化物602が形成された。酸化物602をエッチングして除去した後、図21に示すように、犠牲保護層508と同様な犠牲保護層604を形成した。その後、RTA法を用いて注入したSiを活性化した。これによりInGaAs層504にN型層512が形成された。RTAの条件は、実施例1と同じ600℃、10秒とした。
【0073】
図22に示すように、犠牲保護層508および犠牲保護層604を、実施例1と同様に剥離し、表面をクリーニングし、図23に示すように、Al層516およびTaN層518を、実施例1と同様に形成した。続いて図24に示すように、ソースおよびドレインのコンタクトホールを形成し、当該コンタクトホールにソース電極520およびドレイン電極522を、実施例1と同様に形成した。
【0074】
さらに実施例1と同様に、マスク形成の後、TiおよびAuの積層膜を蒸着法により形成し、マスクを剥離するリフトオフ法によりゲート電極524を形成し、SFをエッチングガスとして用いた反応性イオンエッチングによりTaN層518をドライエッチングして、ゲート電極524の形成および電極間分離を行った。これにより図16に示す電界効果トランジスタ600を製造した。
【0075】
実施例2の電界効果トランジスタ600は上記のような製造過程を経るので、InP層506のN型層514が形成されない。実施例1の電界効果トランジスタ500では、ソース−ドレイン間の電圧が、InGaAs層504のN型層512とInP層506のN型層514の両方にかかる。一方、本実施例2の電界効果トランジスタ600では、InGaAs層504のN型層512だけにソース−ドレイン間の電圧がかかる。
【0076】
実施例1の電界効果トランジスタ500と実施例2の電界効果トランジスタ600は、何れもInGaAs層504とInP層506との界面に2次元電子ガスが形成されることを期待して設計したが、ゲート絶縁層であるAl層516とInP層506との界面にも2次元電子ガスが形成される可能性がある。本実施例2の電界効果トランジスタ600では、InP層506にN型層が形成されないので、仮にAl層516とInP層506との界面にも2次元電子ガスが形成されたとしても、これがチャネルとして機能する割合は低い。よって、キャリアトラップによる散乱の影響が少ない界面(InGaAs層504とInP層506との界面)に形成された2次元電子ガスを支配的なチャネルとして機能させ、電界効果トランジスタ600の性能を向上できた。
【0077】
図25は、電界効果トランジスタ600のゲート電極端部における断面を電子顕微鏡観察した写真を示す。図26は、電界効果トランジスタ600のゲート電極中央部における断面を電子顕微鏡観察した写真を示す。ゲート電極端部において、InP層506が除去できていることが確認できた。
【0078】
図27は、電界効果トランジスタ600のドレイン電圧対ドレイン電流特性(Vd−Id特性)を示す。電界効果トランジスタ600のチャネル長が1μmの場合の結果である。図27において、ゲート電圧を0Vから+1.6Vまで、0.2V刻みで変化させた場合を示した。Vd−Id特性より、ゲート電圧によるドレイン電流の制御性が良好であることがわかった。
【0079】
図28は、電界効果トランジスタ600のゲート電圧対ドレイン電流特性(Vg−Id特性)を相互コンダクタンスとともに示す。電界効果トランジスタ600のチャネル長が6μmの場合である。ドレイン電圧は50mVとした。ゲート電圧によるドレイン電流のスイッチング特性が良好であることがわかった。相互コンダクタンスのピーク値は約13mS/mmを示した。
【0080】
図29は、電界効果トランジスタ600のチャネル移動度対表面電子濃度の実験データを示したグラフである。チャネル移動度は、ピーク値で約5600(cm/Vs)の高い値を示した。図15に示す電界効果トランジスタ500のチャネル移動度に比較して、極めて大きな改善が見られた。
【0081】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0082】
100 電界効果トランジスタ、102 ベース基板、104 第2半導体結晶層、106 第1半導体結晶層、108 第2N型領域、110 第1N型領域、112 ゲート絶縁層、114 ソース電極、116 ドレイン電極、118 ゲート電極、200 電界効果トランジスタ、202 第3半導体結晶層、204 第3N型領域、300 電界効果トランジスタ、302 第4半導体結晶層、400 電界効果トランジスタ、402 リセス部、500 電界効果トランジスタ、502 InP基板、504 InGaAs層、506 InP層、508 犠牲保護層、510 マスク、512 N型層、514 N型層、516 Al層、518 TaN層、520 ソース電極、522 ドレイン電極、524 ゲート電極、600 電界効果トランジスタ、602 酸化物、604 犠牲保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層に接する第1半導体結晶層と、前記第1半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第2半導体結晶層とを有し、
前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層および前記第2半導体結晶層が、前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層、前記第2半導体結晶層の順に配置されており、
前記第1半導体結晶層がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、
前記第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、
前記第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい
電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2>y1)である
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記第1半導体結晶層中のAs原子濃度が1%以下である
請求項2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第3半導体結晶層をさらに有し、
前記第3半導体結晶層が前記第1半導体結晶層と前記第2半導体結晶層との間に配置されており、
前記第3半導体結晶層がAlx3Inx4Ga1−x3−x4Asy31−y3(0<x3<1、0≦x4<1、0<x3+x4<1、0≦y3≦1)であり、
前記第3半導体結晶層の電子親和力Ea3が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記ゲート絶縁層に接するゲート電極をさらに有し、
前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層および前記第1半導体結晶層が、前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層の順に配置されており、
前記ゲート絶縁層と前記第1半導体結晶層とが数1の関係を満足する請求項1から請求項4の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
(数1)
(ε・d)/(ε・d)>V/δ
ただし、dおよびεは前記ゲート電極と前記第2半導体結晶層とに挟まれたゲート下領域における前記ゲート絶縁層の厚さおよび比誘電率を示し、dおよびεは前記ゲート下領域における前記第1半導体結晶層の厚さおよび比誘電率を示し、Vは前記電界効果トランジスタの閾値電圧以上の前記ゲート電極への印加電圧を示し、δ=Ea2−Ea1である。
【請求項6】
前記第2半導体結晶層の少なくとも一部にP型の伝導型を示す不純物が含まれている
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記第2半導体結晶層は、
前記第1半導体結晶層に接し、かつ、前記不純物を含まないノンドープ層と、
前記ノンドープ層に接し、かつ、前記不純物を含むドープ層と
を有する請求項6に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
P型の伝導型を有する第4半導体結晶層をさらに有し、
前記ゲート絶縁層、前記第2半導体結晶層および前記第4半導体結晶層が、前記ゲート絶縁層、前記第2半導体結晶層、前記第4半導体結晶層の順に配置されており、
前記第4半導体結晶層が前記第2半導体結晶層と格子整合または擬格子整合しており、
前記第4半導体結晶層の電子親和力Ea4が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
前記ゲート絶縁層に接するゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極とをさらに有し、
前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層および前記第1半導体結晶層が、前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層の順に第1方向に配置され、
前記ゲート電極、前記ソース電極および前記ドレイン電極が、前記ソース電極、前記ゲート電極、前記ドレイン電極の順に、前記第1方向に垂直な第2方向に配置され、
前記ゲート電極と前記第1方向において隣接するゲート下領域に前記第1半導体結晶層が形成され、
前記ソース電極と前記ゲート下領域との間、または前記第1方向において前記ソース電極に隣接するソース下領域と前記ゲート下領域との間に前記第1半導体結晶層が形成されておらず、
前記ドレイン電極と前記ゲート下領域との間、または前記第1方向において前記ドレイン電極に隣接するドレイン下領域と前記ゲート下領域との間に前記第1半導体結晶層が形成されていない
請求項1から請求項8の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項10】
前記ゲート絶縁層に接するゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極とをさらに有し、
前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層および前記第2半導体結晶層が、前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層、前記第2半導体結晶層の順に第1方向に配置され、
前記ゲート電極、前記ソース電極および前記ドレイン電極が、前記ソース電極、前記ゲート電極、前記ドレイン電極の順に、前記第1方向に垂直な第2方向に配置され、
前記第1方向において前記ゲート電極に隣接するゲート下領域に、前記第1半導体結晶層および前記第2半導体結晶層が形成され、
前記第1方向において前記ソース電極に隣接するソース下領域、および、前記第1方向において前記ドレイン電極に隣接するドレイン下領域に、前記第2半導体結晶層が形成され、
前記ソース下領域と前記ゲート下領域との間の前記第2半導体結晶層、および前記ドレイン下領域と前記ゲート下領域との間の前記第2半導体結晶層に、キャリアを生成する不純物原子がドーピングされ、
前記ソース電極または前記ソース下領域と前記ゲート下領域との間の前記第1半導体結晶層、および前記ドレイン電極または前記ドレイン下領域と前記ゲート下領域との間の前記第1半導体結晶層に、前記キャリアを生成する前記不純物原子がドーピングされていない、
請求項1から請求項8の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項11】
前記ゲート絶縁層、前記第1半導体結晶層および前記第2半導体結晶層を含む積層構造体を支持するベース基板をさらに有し、
前記ベース基板が、単結晶GaAsからなる基板、単結晶InPからなる基板、単結晶Siからなる基板およびSOI(シリコン・オン・シンシュレータ)基板からなる群から選択された一の基板である
請求項1から請求項10の何れか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項12】
ベース基板と、前記ベース基板の上方に設けられた第2半導体結晶層と、前記第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第1半導体結晶層とを備え、
前記第1半導体結晶層がInx1Ga1−x1Asy11−y1(0<x1≦1、0≦y1≦1)であり、
前記第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2≠y1)であり、
前記第1半導体結晶層の電子親和力Ea1が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい
半導体基板。
【請求項13】
前記第2半導体結晶層がInx2Ga1−x2Asy21−y2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、y2>y1)である
請求項12に記載の半導体基板。
【請求項14】
前記第1半導体結晶層中のAs原子濃度が1%以下である
請求項13に記載の半導体基板。
【請求項15】
前記第2半導体結晶層に格子整合または擬格子整合する第3半導体結晶層をさらに有し、
前記第3半導体結晶層が前記第1半導体結晶層と前記第2半導体結晶層との間に配置されており、
前記第3半導体結晶層がAlx3Inx4Ga1−x3−x4Asy31−y3(0<x3<1、0≦x4<1、0<x3+x4<1、0≦y3≦1)であり、
前記第3半導体結晶層の電子親和力Ea3が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい
請求項12から請求項14の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項16】
P型の伝導型を有する第4半導体結晶層をさらに有し、
前記第1半導体結晶層、前記第2半導体結晶層および前記第4半導体結晶層が、前記第1半導体結晶層、前記第2半導体結晶層、前記第4半導体結晶層の順に配置されており、
前記第4半導体結晶層が前記第2半導体結晶層と格子整合または擬格子整合しており、
前記第4半導体結晶層の電子親和力Ea4が前記第2半導体結晶層の電子親和力Ea2より小さい
請求項12から請求項15の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項17】
前記ベース基板が、単結晶GaAsからなる基板、単結晶InPからなる基板、単結晶Siからなる基板およびSOI(シリコン・オン・シンシュレータ)基板からなる群から選択された一の基板である
請求項12から請求項16の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項18】
請求項12から請求項17の何れか一項に記載の半導体基板における前記第1半導体結晶層に接して絶縁層を形成する段階と、
前記絶縁層に接して、電界効果トランジスタのゲート電極になる導電層を形成する段階とを有し、
前記絶縁層を形成する段階の前に、
前記ゲート電極が形成される領域を覆うマスクを、前記第1半導体結晶層の上方に形成する段階と、
前記マスクで覆われた領域以外の前記第1半導体結晶層を、前記マスクを遮蔽膜に用いたエッチングにより除去する段階と、
前記第2半導体結晶層の前記第1半導体結晶層が除去された領域に、前記マスクを遮蔽膜に用いたイオン注入により、不純物原子をドーピングする段階と、
を有する電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項19】
前記絶縁層が、還元材料を含む雰囲気におけるALD法またはMOCVD法により形成される
請求項18に記載の電界効果トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−77516(P2011−77516A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198538(P2010−198538)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、「ITイノベーションプログラム/ナノテク・部材イノベーションプログラムナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造ナノ電子デバイス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】