説明

PLL回路

【課題】PLL回路において、アナログ回路のデジタル化によって生じる量子化雑音を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】基準信号REFと分周後の信号DIVとの位相及び周波数を比較してデジタル値に変換するデジタル位相周波数比較器(DPFD)101と、デジタル位相周波数比較器101の出力から高周波雑音成分を除去するデジタルループフィルタ(DLF)102と、デジタルループフィルタ102の出力のデジタル値をアナログ値に変換するデジタルアナログ変換器(DAC)105と、デジタルアナログ変換器105の出力から高周波雑音成分を除去するアナログフィルタ(AnF)106と、アナログフィルタ106の出力に基づいて周波数が制御される電圧制御発振器(VCO)103と、電圧制御発振器103の出力を分周し、分周後の信号DIVを出力する分周器(DIV)104とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL(Phase Locked Loop)回路に関し、特にPLL回路のデジタル化において問題となる雑音の抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や無線LANに使用されるRF−ICは依然として高い成長が期待されている。現在、RF−ICの開発は、実装面積や消費電力削減のため、BB−IC(ベースバンドIC)との1チップ化が進んでいる。このため、BB−ICで用いる微細CMOSプロセスでのRF−IC開発が必要となっている。アナログ回路が多いRF−ICは、素子バラツキが大きくなる微細CMOSプロセスを用いると、電流・面積が増加する傾向がある。つまり、微細化すると、素子ばらつき、ゲート容量増加の影響でアナログ回路の消費電流の増加、面積増加が問題となる。1つの対策として、アナログ回路をデジタル回路に置き換える事が考えられる。
【0003】
なお、このようなPLL回路に関する技術としては、例えば、非特許文献1〜3に記載される技術などが挙げられる。非特許文献1は、フラクショナルPLLに位相変調を重畳する技術に関するものである。非特許文献2は、シグマデルタ(ΣΔ)雑音除去の技術に関するものである。非特許文献3は、ADPLL(All Digital Phase Locked Loop)の技術に関するものである。
【非特許文献1】ティ・エイ・ディ・リリィ(T.A.D.Riley)、「ア・シンプリファイド・コンティヌアス・フェイズ・モデュレイタ・テクニック(A Simplified Continuous Phase Modulator Technique)」、アイトリプルイー・トランザクションズ・オン・サーキット・アンド・システムズ2・アナログ・アンド・デジタル・シグナル・プロセッシング(IEEE TRANSACTIONS ON CIRCUIT AND SYSTEMS II:ANALOG AND DIGITAL SIGNAL PROCESSING)、第41巻、第5号、1994年5月
【非特許文献2】スコット・イー・メニンガ(Scott E.Meninger)、ミッチェル・エイチ・ペロット(Michael H.Perrott)、「ア・1メガヘルツ・バンドウィヅス・3.6ギガヘルツ・0.18ミクロン・シーモス・フラクショナル・エヌ・シンセサイザ・ユーティライジング・ア・ハイブリッド・ピーエフディ/ダック・ストラクチャ・フォー・リデュースト・ブロードバンド・フェイズ・ノイズ(A 1−MHz Bandwidth 3.6−GHz 0.18−μm CMOS Fractional−N Synthesizer Utilizing a Hybrid PFD/DAC Structure for Reduced Broadband Phase Noise)、」、アイトリプルイー・ジャーナル・オブ・ソリッドステート・サーキッツ(IEEE Journal of Solid−State Circuits)、第41巻、第4号、2006年4月
【非特許文献3】ロバード・ボグダン・スタスキー(Robert Bogdan Staszewski)、他、「オール・デジタル・ピーエルエル・アンド・トランスミッタ・フォー・モバイル・フォン(All−Digital PLL and Transmitter for Mobile Phones)」、アイトリプルイー・ジャーナル・オブ・ソリッドステート・サーキッツ(IEEE Journal of Solid−State Circuits)、第40巻、第12号、2005年12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記のようなPLL回路の技術について、本発明者が検討した結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0005】
図12に、一般的なチャージポンプ型PLL回路(CP−PLL)の構成を示す。
【0006】
図12に示すCP−PLLは、位相周波数比較器(PFD;Phase Frequency Detector)1201、チャージポンプ(CP;Charge Pump)1202、アナログループフィルタ(ALF;Analog Loop Filter)1203、電圧制御発振器(VCO;Voltage Controlled Oscillator)1204、分周器(DIV;Divider)1205で構成される。
【0007】
図12に示すCP−PLLでは、VCO1204の出力をDIV1205で分周し、PFD1201で分周後の信号DIVと基準信号REF(Reference)の位相を比較する。比較結果、すなわちPFD1201の出力は位相差に応じた幅を持つパルス状の信号であり、この信号でCP1202のスイッチを切り替えてALF1203に流れる電流を調整する。ALF1203では電流パルス信号の高周波成分を取り除き、電圧に変換している。VCO1204の制御部分には、位相差に応じたALF1203の出力電圧が入力され、VCO1204の発振周波数を制御する。分周後の信号DIVの周波数と基準信号REFの周波数が一致するまで帰還がかかるため、PLL出力(output)には基準周波数REFの分周比倍の周波数を持つクロックが得られる。PLL出力の周波数の制御はDIV1205の分周比を変えることで行う。分周比は整数値しか取れないが、フラクショナル方式を用いると小数点以下が可能となる。フラクショナル方式では、ある周期でDIV1205の分周比を切り替えることで、周期で時間平均した後の分周比が分数値となる。
【0008】
図13に、本発明の前提として検討したオールデジタル型PLL回路(AD−PLL)の構成例を示す。
【0009】
図13に示すAD−PLLは、前記CP−PLLに対して、PFDやALFをデジタル化したオールデジタル(All Digital)のPLLである。図13に示すAD−PLLは、デジタル位相周波数比較器(DPFD;Digital PFD)1301、デジタルループフィルタ(DLF;Digital Loop Filter)1302、デジタル制御発振器(DCO;Digital Controlled Oscillator)1303、分周器(DIV)1304で構成される。
【0010】
図13に示すAD−PLLにおいて、DPFD1301では、分周後の信号DIVと基準信号REFの位相差が直接デジタルに変換される。DLF1302で不要成分を除去してDCO1303を制御する。前記CP−PLLに比べ、AD−PLLはプロセス微細化により面積が小さくなる利点がある。特に、ループフィルタとしてデジタルループフィルタ(DLF)を用いることで大幅な面積削減が可能となる。周波数の切り替えはDIV1304の分周比を変えるか、位相比較後にデジタル信号を入力することで実現している。ただし、位相差を離散的に制御するため量子化雑音が発生し、出力の位相雑音特性を劣化させる。DCO1303の前段にシグマデルタ(ΣΔ)変調器を挿入することで、ΣΔ変調器のノイズシェーピング効果により、発振周波数近傍の雑音特性を抑圧することもできる。
【0011】
PLL回路は、IC内部で安定したクロックを供給しており、その性能は発振周波数範囲、位相雑音、消費電流、及び面積等で決まる。特にフラクショナル方式のPLLに位相変調を重畳する送信システム(例えば非特許文献1)の場合は、すべてにおいて高い性能が要求される。
【0012】
フラクショナル方式を用いて分数分周を行った場合、周波数安定状態(定常状態)においても分周比が変化しており、PFDもしくはDPFDの出力に位相差が現れる。図14に、定常状態におけるPFD・DPFDの出力波形を示す。図14において、REFはPFD・DPFDに入力する基準信号、DIVはPFD・DPFDに入力する分周後の信号、OUTはPFD・DPFDの出力を示す。図14に示すように、PFD・DPFDの出力OUTには、周期的な位相差が現れる。この位相差は雑音となってPLL出力に現れる。
【0013】
ALFを用いた従来のCP−PLL回路では、DIVの制御部から予測される位相差をCP電流に加えることで、周波数安定状態における雑音を除去している(例えば非特許文献2)。ただし、CPやALFはバラツキに弱く、雑音を除くことが難しい。図15に、CPを用いた雑音抑制回路(キャンセル回路)を、図16及び図17にバラツキによるCP出力変動の概念図を示す。図15に示すように、”PFD UP”(または”PFD DOWN”)と同じ信号を”DAC DOWN”(または”DAC UP”)に入力することにより、すなわちCPに引き込まれる電流と同じ電流をCPから引き抜くことにより、雑音をキャンセルする。しかし、回路を構成する素子特性のバラツキにより、遅延が生じたり、電流値が変動したりする。そのため、”PFD UP”と”DAC DOWN”の間に遅延が生じた場合、図16に示すように、LPF出力電圧(out)が変動する。また、”DAC DOWN”(または”DAC UP”)の電圧値に誤差が生じた場合、図17に示すように、LPF出力電圧(out)が変動する。
【0014】
また、DLFを用いたAD−PLLでは、量子化雑音や動作クロックが位相雑音として出力に現れる。図18(a),(b)に、量子化雑音による位相雑音特性の劣化の概念図を示す。図18(a)はAD−PLLの構成の一部を示し、図18(b)は雑音電力(Noise Power)とオフセット周波数(Offset Frequency)との関係を示す。図18(b)において、点線で示した曲線はDCO雑音(Natural DCO noise)を示している。また、実線で示した曲線はDCO雑音と量子化雑音を合わせた雑音(Natural DCO noise + Quantization noise)を示している。なお、X軸のオフセット周波数の原点は、発振周波数に相当する。また、図18(b)の実線で示した雑音特性には、DLF1302に入力されるクロック(Clock)によるスプリアス雑音(図18(b)の”DLF Clock”)が現れている。
【0015】
図19(a),(b)に、ΣΔ変調器によるノイズシェーピングと位相雑音特性の劣化の概念図を示す。図19(a)はAD−PLLの構成の一部を示し、図19(b)は雑音電力(Noise Power)とオフセット周波数(Offset Frequency)との関係を示す。図19(b)において、点線で示した曲線はDCO雑音(Natural DCO noise)を示している。また、実線で示した曲線はDCO雑音と量子化雑音を合わせた雑音(Natural DCO noise + Quantization noise)を示している。なお、X軸のオフセット周波数の原点は、発振周波数に相当する。図19(a),(b)に示すように、DCO1303の前段にΣΔ変調器1901を用いることにより、ノイズシェーピング効果により、発振周波数近傍の雑音特性が抑制される。しかし、遠方の雑音特性が劣化して(オフセット周波数の高い方の雑音が増加して)隣接チャネルへの妨害波となってしまう。
【0016】
そこで、本発明の1つの目的は、PLL回路において、アナログ回路のデジタル化によって生じる量子化雑音を抑制することができる技術を提供することにある。
【0017】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される実施例のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0019】
すなわち、代表的な実施例によるPLL回路は、基準信号とフィードバック信号との位相及び周波数を比較してデジタル値に変換するデジタル位相周波数比較器と、前記デジタル位相周波数比較器の出力から高周波雑音成分を除去するデジタルループフィルタと、前記デジタルループフィルタの出力のデジタル値をアナログ値に変換するデジタルアナログ変換器と、前記デジタルアナログ変換器の出力から高周波雑音成分を除去するアナログフィルタと、前記アナログフィルタの出力に基づいて周波数が制御される発振器と、前記発振器の出力を分周し、前記フィードバック信号を出力する分周器と、を有するものである。
【発明の効果】
【0020】
代表的な実施例によれば、PLL回路のデジタル化によって生じる量子化雑音を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、特にことわらない限り、端子名を表す記号は同時に配線名、信号名も兼ね、電源の場合はその電圧値も兼ねるものとする。
【0022】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0023】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1によるPLL(Phase−Locked Loop)回路の構成例を示すブロック図、図2は本実施の形態1のPLL回路において、デジタル位相周波数比較器(DPFD)101の構成例を示す回路図、図3はDPFDに含まれる位相差デジタル変換器(TDC)202の構成例を示す回路図、図4はシグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107の構成例を示す回路図、図5はアナログフィルタ(AnF)106の構成例を示す回路図である。
【0024】
まず、図1により、本実施の形態1によるPLL回路の構成の一例を説明する。本実施の形態1のPLL回路は、例えば半導体集積回路とされ、周知の半導体製造技術によって1個の半導体チップ上に形成されている。
【0025】
図1のPLL回路は、例えば、デジタル位相周波数比較器(DPFD)101、デジタルループフィルタ(DLF)102、電圧制御発振器(VCO)103、分周器(DIV)104、デジタルアナログ変換器(DAC)105、アナログフィルタ(AnF)106、シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107、シグマデルタ変調器(ΣΔ)108、積分器(Σ)109、加減算器110などから構成されている。
【0026】
デジタル位相周波数比較器(DPFD)101には、基準信号REF(例えば26MHz)、分周器(DIV)104の出力(分周後の信号DIV、例えば26MHz)が入力している。加減算器110の加算入力にはデジタル位相周波数比較器(DPFD)101の出力が入力し、減算入力には積分器(Σ)109の出力が入力している。デジタルループフィルタ(DLF)102には、加減算器110の出力、分周器(DIV)104の出力(例えば26MHz)が入力している。シグマデルタ変調器(ΣΔ)108には、デジタルループフィルタ(DLF)102の出力、分周器(DIV)104の出力(例えば1000MHz)が入力している。デジタルアナログ変換器(DAC)105には、シグマデルタ変調器(ΣΔ)108の出力が入力している。アナログフィルタ(AnF)106には、デジタルアナログ変換器(DAC)105の出力が入力している。電圧制御発振器(VCO)103には、アナログフィルタ(AnF)106の出力が入力している。分周器(DIV)104には、電圧制御発振器(VCO)103の出力(例えば4000MHz)、シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107の出力(Data)が入力している。シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107には、制御信号(Divide Rate Control Word(Digital Signal))、分周器(DIV)104の出力(例えば26MHz)が入力している。積分器(Σ)109には、シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107の出力(Noise)、分周器(DIV)104の出力(例えば26MHz)が入力している。
【0027】
デジタル位相周波数比較器(DPFD)101は、基準信号REFと分周後の信号DIV(フィードバック信号)との位相及び周波数を比較してデジタル値に変換する。デジタルループフィルタ(DLF)102は、デジタル位相周波数比較器101の出力から高周波雑音成分を除去する。デジタルアナログ変換器(DAC)105は、デジタルループフィルタ102の出力のデジタル値をアナログ値に変換する。アナログフィルタ(AnF)106は、デジタルアナログ変換器105の出力から高周波雑音成分を除去する。発振器としての電圧制御発振器(VCO)103は、アナログフィルタ106の出力に基づいて周波数が制御される。分周器(DIV)104は、電圧制御発振器(VCO)103の出力を分周し、分周後の信号DIV(フィードバック信号)を出力する。
【0028】
シグマデルタ変調器(ΣΔ)108は、そのノイズシェーピング効果によって、デジタルループフィルタ102の出力の量子化雑音を変形させる。シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107及び積分器(Σ)109は、デジタル位相周波数比較器101の出力からデジタル雑音成分を除去する。なお、本実施の形態1によるPLL回路はフラクショナル方式のPLL回路である。
【0029】
次に、本実施の形態1によるPLL回路の動作を説明する。VCO103の出力をDIV104で分周し、基準信号REFと分周後の信号DIVの位相・周波数をDPFD101で比較する。DIV104の分周比は、シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107を介して外部デジタル信号で制御されている。位相比較後に加減算器110において、シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)107及び積分器(Σ)109からのフラクショナル方式の雑音を減算し、DLF102に入力してフィルタリングする。DLF102の出力は、シグマデルタ変調器(ΣΔ)108でノイズシェーピング効果を受け、デジタルアナログ変換器(DAC)105を通り、アナログフィルタ(AnF)106で電圧に変換され、VCO103を制御する。ΣΔdiv107からの雑音成分(Noise)は、周波数から位相に変換する必要があり、積分器(Σ)109で一度積分されてからDPFD101の出力に対して減算を行う。
【0030】
DIV104の出力には、VCO103を4分周した1000MHz出力と26MHz出力(基準信号REFの周波数と同じ)がある。
【0031】
DPFD101には、位相差をデジタル変換する位相差デジタル変換器(TDC;Time to Digital Control)が用いられる。DPFD101の構成例を図2に示す。また、DPFD101に含まれるTDC202の構成例を図3に示す。
【0032】
図2に示すように、DPFD101は、PFD201、TDC202、エンコーダ(Encoder)203、EX−ORゲート204、フリップフロップ205などから構成される。また、PFD201は、フリップフロップ206,207、ANDゲート208などから構成される。また、図3に示すように、TDC202は、複数の遅延ゲート301、複数のフリップフロップ302、インバータゲート303などから構成される。
【0033】
図4に、DIV104を制御するΣΔ(シグマデルタ)変調器(ΣΔdiv)107の構成例を示す。図4に示すように、ΣΔdiv107は、ノイズエレメントブロック(Noise Element Block)401、3次ΣΔ変調器(The 3rd order ΣΔ Modulator)402などから構成される。外部から入力される制御信号(Divide Rate Control Word)は、分数部分(Fractional Word)と整数部分(Integer Word)があり、分数部分を3次ΣΔ変調器402に入力し、出力部で整数部分を足し合わせてData出力としている。また、ΣΔ出力から分数部分を差し引いた値がNoise成分となる。なお、シグマデルタ変調器(ΣΔ)108の構成は、3次ΣΔ変調器402の回路とほぼ同じである。
【0034】
図5に、アナログフィルタ(AnF)106の構成例を示す。図5に示すように、AnF106は、抵抗501、コンデンサ502などから構成される。この回路によりDAC105の出力から高周波成分が除去される。
【0035】
なお、DLF102後段のΣΔ108に入力されるクロックは、DIV104から供給される以外に、別の分周器を用いてVCO103の出力から生成することも可能である。
【0036】
本実施の形態1のPLL回路は、以上のような構成により以下の効果を奏する。
【0037】
図6に、アナログフィルタ(AnF)を用いた場合の位相雑音特性の概念図を示す。図6は雑音電力(Noise Power)とオフセット周波数(Offset Frequency)との関係を示す。図6において、点線で示した曲線はAnF106が無い場合の雑音(without AnF)を示している。また、実線で示した曲線は本実施の形態1のようにAnF106が有る場合の雑音(with AnF)を示している。なお、X軸のオフセット周波数の原点は、発振周波数に相当する。また、図6の実線・破線で示した雑音特性には、DIV104から出力されDLF102に入力されるクロックによるスプリアス雑音が現れている。図6に示すように、AnF106により、オフセット周波数の高い方の雑音が低減している。図6からも分かるように、DLF102及びΣΔ変調器108を用いた場合の量子化雑音は、ΣΔ変調器108の後段にアナログフィルタ(AnF)106を挿入することで抑制できる。また、挿入するアナログフィルタは、ΣΔ変調器108のノイズシェーピング効果によって発生した雑音を除けば良く、比較的高いカットオフ周波数(数十MHz〜)でよい。このため、ALF(カットオフ数kHzのアナログフィルタ)に比べて小面積となり、CP−PLLより小さな面積で実装可能となる。
【0038】
ΣΔdiv107からの雑音成分を電流に変換することなく処理しているため、CP−PLL回路より正確に定常状態の雑音を除去することができる。フラクショナル方式における分周比の制御はデジタル値であり、定常状態で発生する雑音は簡単に計算できる。このため、本実施の形態1のようにDPFD101とDLF102を用いたPLL回路であれば、非特許文献2のように雑音を電流値に変換することなく、DPFD101の出力に対して減算できる。このため、バラツキに対して正確に雑音を除去できる。
【0039】
また、DLF102を用いているため、ALFに比べてプロセス微細化による面積縮小効果が大きい。さらに、DAC105や積分回路(Σ109等)もプロセスの微細化により小面積化が可能である。したがって、プロセスの微細化に伴い、従来のCP−PLLよりも小さな面積で実装可能となる。
【0040】
またDIV104、VCO103及びΣΔdiv107は従来の回路構成で実現でき、変調方法も変更する必要がない。このため、CP−PLLからの変更箇所が、DCOを用いるADPLLに比べ、少なくて済む。
【0041】
(実施の形態2)
図7は本発明の実施の形態2によるPLL(Phase−Locked Loop)回路の構成例を示すブロック図である。
【0042】
本実施の形態2のPLL回路は、前記実施の形態1のPLL回路と比較して、フラクショナル方式の雑音除去方式は同じであるが、DLF102の後段の構成が異なる。本実施の形態2では、DLF102の出力の上位ビット側を用いて発振器(DCO&VCO)701を制御する。発振器701内のDCO(Digital Controlled Oscillator)部でデジタル制御による周波数の粗調整を行い、発振器701内のVCO(Voltage Controlled Oscillator)部でアナログ制御による周波数の微調整を行う。すなわち、DLF102出力の上位側ビット(1ビットでも複数ビットでもよい)を発振器701のデジタル制御端子に入力し、DLF102出力の下位側ビット(1ビットでも複数ビットでもよい)をシグマデルタ変調器108に入力し、アナログフィルタ106の出力を発振器701のアナログ制御端子に入力する。
【0043】
図8に、発振器701の構成例を示す。図8はハイブリッドLC発振器による構成例である。図8に示すように、DCO部は複数の単位容量(unit Cap)801などから構成される。デジタル制御端子(Digital Control)の入力信号に従い複数の単位容量801をスイッチで切り替えて全体の容量値を制御する。VCO部はダイオード802、トランジスタ803、コイル804、電流源805などで構成される。アナログ制御端子(Analog Control)の入力電圧と、複数の単位容量801の容量値により発振器701の発振周波数(図8のout)が制御される。
【0044】
したがって、本実施の形態2のPLL回路によれば、DAC105に入力されるビット数が減少するため、前記実施の形態1のPLL回路に比べ、ΣΔ108及びDAC105を小さくすることができる。これにより電流・面積の削減が可能となる。また、DLF102の上位側ビット数を増やすことにより、発振周波数の範囲を拡大することが可能になる。
【0045】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、前記実施の形態1〜2によるPLL回路の応用例を説明する。
【0046】
図9は、欧州デジタルセルラシステムGSM用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【0047】
図9のBRIGHTは、受信にダイレクトコンバージョン方式、送信にオフセットPLL方式を採用する。ローカル発振器と周波数シンセサイザ901に前記実施の形態1,2のPLL回路を採用する事が考えられる。
【0048】
図10は、欧州デジタルセルラシステムEDGE用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【0049】
図10のBRIGHTは、受信にダイレクトコンバージョン方式、送信にポーラループ方式を採用している。ローカル発振器と周波数シンセサイザ1001に前記実施の形態1,2のPLL回路を採用する事が考えられる。
【0050】
図11は、欧州デジタルセルラシステムEDGE/WCDMA用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【0051】
図11のBRIGHTは、EDGE/WCDMAともに受信はダイレクトコンバージョン方式を採用する。WCDMAの送信はダイレクトコンバージョン方式を採用し、EDGEの送信はPLLを直接変調する位相変調パスと振幅変調パスからなるポーラモジュレーション方式を採用する。EDGE/WCDMAの受信、WCDMAの送信用のローカル発振器1101として前記実施の形態1,2のPLL回路を採用する。また、EDGEの送信の位相変調用として前記実施の形態1,2のPLL回路を採用する。
【0052】
また、無線LAN用のRF−ICやその他PLL周波数シンセサイザ全般に前記実施の形態1,2のPLL回路を適用することが可能である。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態1〜3をそれぞれ適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、携帯電話機、無線LAN用のRF−ICやその他PLL周波数シンセサイザに全般的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1によるPLL(Phase−Locked Loop)回路の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1によるPLL回路において、デジタル位相周波数比較器(DPFD)の構成例を示す回路図である。
【図3】本発明の実施の形態1によるPLL回路において、DPFDに含まれる位相差デジタル変換器(TDC)の構成例を示す回路図である。
【図4】本発明の実施の形態1によるPLL回路において、シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)の構成例を示す回路図である。
【図5】本発明の実施の形態1によるPLL回路において、アナログフィルタ(AnF)の構成例を示す回路図である。
【図6】本発明の実施の形態1によるPLL回路において、アナログフィルタ(AnF)を用いた場合の位相雑音特性の概念図を示す。
【図7】本発明の実施の形態2によるPLL(Phase−Locked Loop)回路の構成例を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態2によるPLL回路において、発振器の構成例を示す回路図である。
【図9】本発明の実施の形態3において、欧州デジタルセルラシステムGSM用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態3において、欧州デジタルセルラシステムEDGE用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態3において、欧州デジタルセルラシステムEDGE/WCDMA用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【図12】一般的なチャージポンプ型PLL回路(CP−PLL)の構成例を示すブロック図である。
【図13】本発明の前提として検討したオールデジタル型PLL回路(AD−PLL)の構成例を示すブロック図である。
【図14】本発明の前提として検討したフラクショナル方式のPLL回路において、定常状態におけるPFD・DPFDの出力波形を示す図である。
【図15】本発明の前提として検討したフラクショナル方式のPLL回路において、CPでのキャンセル回路の構成例を示す図である。
【図16】図15のキャンセル回路において、遅延によるLPF出力電圧の変動を示す図である。
【図17】図15のキャンセル回路において、DAC出力誤差によるLPF出力電圧の変動を示す図である。
【図18】(a),(b)は、本発明の前提として検討したフラクショナル方式のPLL回路において、量子化雑音による位相雑音特性の劣化の概念を示す図である。
【図19】(a),(b)は、本発明の前提として検討したフラクショナル方式のPLL回路において、ΣΔ変調器によるノイズシェーピングと位相雑音特性の劣化の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
101,1301 デジタル位相周波数比較器(DPFD)
102,1302 デジタルループフィルタ(DLF)
103,1204 電圧制御発振器(VCO)
104,1205,1304 分周器(DIV)
105 デジタルアナログ変換器(DAC)
106 アナログフィルタ(AnF)
107 シグマデルタ変調器(ΣΔdiv)
108,1901 シグマデルタ変調器(ΣΔ)
109 積分器(Σ)
110 加減算器
201,1201 位相周波数比較器(PFD)
202 位相差デジタル変換器(TDC)
203 エンコーダ(Encoder)
204 EX−ORゲート
205,206,207,302 フリップフロップ
208 ANDゲート
301 遅延ゲート
303 インバータゲート
401 ノイズエレメントブロック
402 3次ΣΔ変調器
501 抵抗
502 コンデンサ
701 発振器
801 複数の単位容量
802 ダイオード
803 トランジスタ
804 コイル
805 電流源
901 周波数シンセサイザ
1001 周波数シンセサイザ
1101 ローカル発振器
1202 チャージポンプ(CP)
1203 アナログループフィルタ(ALF)
1303 デジタル制御発振器(DCO)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号とフィードバック信号との位相及び周波数を比較してデジタル値に変換するデジタル位相周波数比較器と、
前記デジタル位相周波数比較器の出力から高周波雑音成分を除去するデジタルループフィルタと、
前記デジタルループフィルタの出力のデジタル値をアナログ値に変換するデジタルアナログ変換器と、
前記デジタルアナログ変換器の出力から高周波雑音成分を除去するアナログフィルタと、
前記アナログフィルタの出力に基づいて周波数が制御される発振器と、
前記発振器の出力を分周し、前記フィードバック信号を出力する分周器と、を有することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
請求項1記載のPLL回路において、
前記デジタルループフィルタの出力から量子化雑音を除去するシグマデルタ変調器をさらに有することを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
請求項1記載のPLL回路において、
前記デジタル位相周波数比較器の出力からデジタル雑音成分を除去するシグマデルタ変調器をさらに有することを特徴とするPLL回路。
【請求項4】
請求項1記載のPLL回路において、
前記発振器はデジタル制御端子とアナログ制御端子とを有し、
前記デジタルループフィルタの出力の上位ビットが前記発振器の前記デジタル制御端子に入力し、前記デジタルループフィルタの出力の下位ビットが前記デジタルアナログ変換器側に入力し、前記アナログフィルタの出力が前記発振器の前記アナログ制御端子に入力し、
前記デジタル制御端子と前記アナログ制御端子の入力値に基づいて前記発振器の周波数が制御されることを特徴とするPLL回路。
【請求項5】
請求項1記載のPLL回路において、
前記PLL回路はフラクショナル方式のPLL回路であることを特徴とするPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−98704(P2010−98704A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276906(P2008−276906)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(503153953)エポック・マイクロエレクトロニクス・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】