説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度を低減する。
【解決手段】Si基板10上に接して形成されたAlNを主成分とする下地層12と、前記下地層12上に形成され、前記下地層12上に形成され、前記下地層12から圧縮応力を受ける第1バッファ層14と、前記第1バッファ層14上に形成された第2バッファ層16と、前記第2バッファ層16上に形成されたAlの組成比が0.1以下のGaN系半導体層18と、を具備し、前記第2バッファ層16における前記第1バッファ層14側の面の結晶軸長に対し前記第1バッファ層14と反対の面の結晶軸長が前記GaN系半導体層18に近く、前記第2バッファ層16の伝導帯底エネルギーが前記GaN系半導体層18より高い半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体基板およびその製造方法に関し、例えばSi基板上にAlN層が形成された半導体基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)系半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子、短波長で発光する発光ダイオードやレーザダイオードとして用いられている。これらの半導体装置のうち、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波帯域において増幅を行なうのに適した半導体装置として、高電子移動度トランジスタ(HEMT)等のFET、発光装置として、レーザダイオード(LD)および発光ダイオード(LED)などの開発が進められている。
【0003】
GaN系半導体層を成長する基板として一般にサファイア基板やSiC(炭化シリコン)基板等が用いられている。サファイア基板やSiC基板は高価なため、Si(シリコン)基板上にGaN系半導体層を成長する技術が開発されている。SiとGaとは反応し易いため、Si基板とGaN系半導体層との間にバリア層としてAlN(窒化アルミニウム)層が設けられる。AlN層上にGaN層を形成する際にAlN層とGaN層との間にAlGaNバッファ層を形成することにより、反りを低減できることが知られている(例えば、特許文献1)。また、Si基板とGaN系半導体層との間に超格子バッファを層設けることにより、反りが低減できることが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−277441号公報
【特許文献2】特開2003−59948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Si基板を用いた場合、SiC基板を用いた場合に比べ、GaN系半導体層やバッファ層に高濃度の電子トラップが形成されてしまう。電子トラップが形成されると、例えばHEMTにおいて、過渡応答が生じてしまう。
【0006】
本発明は、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Si基板上に接して形成されたAlNを主成分とする下地層と、前記下地層上に形成され、前記下地層から圧縮応力を受ける第1バッファ層と、前記第1バッファ層上に形成された第2バッファ層と、前記第2バッファ層上に形成されたAlの組成比が0.1以下のGaN系半導体層と、を具備し、前記第2バッファ層における前記第1バッファ層側の面の結晶軸長に対し前記第1バッファ層と反対の面の結晶軸長が前記GaN系半導体層に近く、前記第2バッファ層の伝導帯底エネルギーが前記GaN系半導体層より高いことを特徴とする半導体装置である。本発明によれば、第2バッファ層内で結晶軸長の差異が緩和されるため、GaN系半導体層内での結晶軸長の緩和のための内部応力を抑制できる。よって、応力ひずみによって生じるGaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度を低減することができる。
【0008】
上記構成において、前記第1バッファ層および前記第2バッファ層は、AlGaN、AlN/GaN超格子、またはAlGaN/AlGaN超格子である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2バッファ層のa軸長の平均値は前記第1バッファ層のa軸長の平均値より大きい構成とすることができる。この構成によれば、第2バッファ層内でa軸長を緩和させ、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度をより低減することができる。
【0010】
上記構成において、前記第1バッファ層のa軸長の平均値および前記第2バッファ層のa軸長の平均値は、前記第1バッファ層のa軸長の平均値をa1、前記第2バッファ層のa軸長の平均値をa2としたとき、0.3112nm≦a1、0.3189nm≧a2、かつ、a2≧a1+0.0070nmである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2バッファ層内の水素濃度は前記第1バッファ層内の水素濃度より高い構成とすることができる。この構成によれば、第2バッファ層内で結晶軸長を緩和させ、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度をより低減することができる。
【0012】
上記構成において、前記第1バッファ層内の水素濃度は1×1019cm−3以下であり、かつ前記第2バッファ層内の水素濃度は1×1019cm−3以上である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、Si基板上に接してAlNを主成分とする下地層を形成する工程と、前記下地層上に、前記下地層から圧縮応力を受ける第1バッファ層を形成する工程と、前記第1バッファ層上に第2バッファ層を形成する工程と、前記第2バッファ層上にAlの組成比が0.1以下のGaN系半導体層を形成する工程と、を含み、前記第2バッファ層における前記第1バッファ層側の面の結晶軸長に対し前記第1バッファ層と反対の面の結晶軸長が前記GaN系半導体層に近く、前記第2バッファ層の伝導帯底エネルギーが前記GaN系半導体層より高いことを特徴とする半導体装置の製造方法である。本発明によれば、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度を低減することができる。
【0014】
上記構成において、前記第2バッファ層の成長速度は、前記第1バッファ層より大きい構成とすることができる。この構成によれば、第2バッファ層内で結晶軸長を緩和させ、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度をより低減することができる。
【0015】
上記構成において、前記第1バッファ層の成長速度は0.02〜0.10nm/秒であり、前記第2バッファ層の成長速度は0.06〜0.20nm/秒である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第2バッファ層の成長温度は、前記第1バッファ層より低い構成とすることができる。この構成によれば、第2バッファ層内で結晶軸長を緩和させ、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度をより低減することができる。
【0017】
上記構成において、前記第1バッファ層の成長温度は1000℃以上1200℃未満であり、前記第2バッファ層の成長温度は前記第1バッファ層の成長温度より100℃〜200℃低い温度である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、GaN系半導体層内に形成される電子トラップ濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、比較例に係る半導体装置用基板の断面図である。
【図2】図2(a)から図2(c)は、基板からの距離に対するAl組成比x、a軸長および伝導帯底のエネルギーEcを示した図である。
【図3】図3は、実施例1に係る半導体装置用の基板の断面図である。
【図4】図4(a)から図4(c)は、基板からの距離に対するAl組成比x、a軸長および伝導帯底のエネルギーEcを示した図である。
【図5】図5(a)から図5(d)は、実施例2に係る半導体装置の製造工程の断面図(その1)である。
【図6】図6(a)および図6(b)は、実施例2に係る半導体装置の製造工程の断面図(その2)である。
【図7】図7は実施例1の変形例の基板からの距離に対するAl組成比xを示した図である。
【図8】図8(a)から図8(d)は、実施例3に係る半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【図9】図9は、第1バッファ層のa軸長の平均値と第2バッファのa軸長の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例について図面を参照し説明する。
【実施例1】
【0021】
まず、GaN系半導体層とバッファ層との間に高濃度の電子トラップが発生する原因について、比較例を用い説明する。図1は、比較例に係る半導体装置用基板の断面図である。Si基板10(111)面上に、下地層であるAlN層12、バッファ層であるAlGaN層14、GaN系半導体層としてGaN層18が順に形成されている。
【0022】
図2(a)から図2(c)は、基板からの距離に対するAl組成比x、a軸長および伝導帯底のエネルギーEcを示した図である。図2(a)から図2(c)のように、AlN層12はAl組成比が1.0である。AlGaN層14のAl組成比xは例えば0.5であり、AlGaN層14のa軸長はAlN層12とほぼ同じである。AlGaN層14の伝導帯底のエネルギーEcはAlN層12より低い。GaN層18のAl組成比xは0であり、GaN層18のa軸長はAlGaN層14より大きい。GaN層18の伝導帯底のエネルギーEcはAlGaN層14より小さい。
【0023】
比較例においては、Si基板10上にAlN層12が形成されることで、AlN層12とSi基板10との格子定数の差に起因し、基板表面が凹になるような引っ張り応力がAlN層12に働く。図2(b)のように、AlGaN層14をAlN層12とほぼ同じ格子定数(この場合、a軸長)になるような成長条件で成長する。本来のAlGaN層14のa軸長は、AlN層12より大きいため、AlN層のa軸長を引き継ぐ条件で成長したAlGaN層14には応力が発生する。これにより、AlGaN層14には表面側が凸になるような圧縮応力が働く。このように、図1の比較例に係るバッファ層構造は、Si基板10、AlN層12とは逆の応力をAlGaN層14に発生させることにより、応力のバランスを調整するものである。
【0024】
しかしながら、図1の構造では、図2(b)のように、AlGaN層14の上面のa軸長はAlN層12と同等である。このため、AlGaN層14上に形成されるGaN層18は、圧縮応力を有する状態で成長が開始される。GaN層18は、成長するに従い応力を結晶面のずれ(すなわち転位)によって緩和させながら成長する。このように、GaN層18は図2(b)の領域32のようにa軸長を緩和させながら成長する。このため、図2(c)のように、GaN層18のAlGaN層14との界面付近の領域32に転位に起因した電子トラップ30が形成される。
【0025】
特許文献2のように、バッファ層として超格子を用いた場合も超格子バッファ全体でみると、a軸長は、AlNとGaNのほぼ中間となる。よって、超格子バッファ上のGaN層には比較例と同様に電子トラップが生じてしまう。
【0026】
以上のように、比較例においては、応力バランスを調整するため設けたAlGaN層14により、GaN層18内に電子トラップ30が発生してしまう。
【0027】
図3は、実施例1に係る半導体装置用の基板の断面図である。実施例1においては、第1バッファ層である第1AlGaN層14とGaN層18との間に第2バッファ層である第2AlGaN層16を設けている。その他の構成は比較例1の図1と同じであり説明を省略する。
【0028】
図4(a)から図4(c)は、基板からの距離に対するAl組成比x、a軸長および伝導帯底のエネルギーEcを示した図である。図4(a)から図4(c)のように、第2AlGaN層16においてはAl組成比xを成長とともに第1AlGaN層から急激に低減させる。また、第2AlGaN層16において、a軸長を成長に従いGaN層18のa軸長に近づける。さらに、伝導帯底のエネルギーEcを成長とともに第1AlGaN層から急激に低減させる。
【0029】
以上のように、実施例1においては、第1AlGaN層14とGaN層18との間に、a軸長を緩和する第2AlGaN層16を設ける。つまり、図4(b)のように、第2AlGaN層16における第1AlGaN層14側の面のa軸長に対し第1AlGaN層14と反対の面のa軸長がGaN層18に近くなるようにする。これにより、GaN層18におけるa軸長の緩和は少なくてすむ。よって、領域32は小さくなる。図4(c)のように、領域32における電子トラップ30の濃度を減少させることができる。図4(b)のように、第2AlGaN層16において、a軸長を緩和させているため、図4(c)のように電子トラップ34が生じる。しかしながら、第2AlGaN層16の伝導帯底のエネルギーEcはGaN層18より高いため、電子トラップ34の影響は電子トラップ30より小さくなる。
【0030】
実施例1において、下地層としてAlN層12を例に説明したが、下地層は、AlNを主成分とする層であればよい。例えば、不純物程度に他の元素が含まれていてもよい。第1バッファ層として第1AlGaN層14を例に説明したが、第1バッファ層は、反りを緩和するため下地層から圧縮応力を受けるものであればよい。例えば、単層でなくとも多層でもよく、特許文献2のような超格子層でもよい。
【0031】
実施例1において、第2バッファ層として第2AlGaN層16を例に説明したが、第2バッファ層は、GaN層18(GaN系半導体層)に対し、高いEcを有し、結晶軸長(例えばa軸長)がGaN層18とほぼ整合されることを主目的とする。よって、第2バッファ層の第1バッファ層側の面の結晶軸長に対し第1バッファ層と反対の面の結晶軸長がGaN系半導体層に近いことが好ましい。また、第2バッファ層の伝導帯底のエネルギーEcがGaN系半導体層より高いことが好ましい。このため、図4(a)のように、第1バッファ層からGaN系半導体層に向かって組成がGaN系半導体層に近づく構造であることが好ましい。第2バッファ層中の結晶軸長を緩和させるためには、第2バッファ層の成長速度を第1バッファ層より速くすること、第2バッファ層の成長温度を第1バッファ層より低くすること、および第2バッファ層の不純物濃度を第1バッファ層の不純物濃度より高くすることの少なくとも1つを行なうことが好ましい。
【0032】
実施例1において、第2バッファ層においても格子緩和に起因して転位が集中し、図4(c)のように電子トラップ34が生じる。しかしながら、第2バッファ層の伝導帯底のエネルギーEcをGaN系半導体層より高くする。これにより、電子トラップ34に捕獲される電子を抑制することができる。なお、第2バッファ層の伝導帯底のエネルギーEcをGaN系半導体層より高くするためには、図4(a)のように、第2バッファ層がGaN系半導体層より高いエネルギーバンドを有するように材料を選択してもよい。または、第2バッファ層内にピエゾ電荷を生成させ、第2バッファ層の伝導帯底のエネルギーEcを大きくしてもよい。なお、第2バッファ層の膜厚は、生成される電子トラップの総量を低減させるため300nm以下が好ましい。
【0033】
実施例1において、GaN系半導体層としてGaN層18を例に説明した。GaN系半導体はGaNが含まれる窒化物半導体であり、例えば、GaN、InNとGaNとの混晶であるInGaN、AlNとGaNとの混晶であるAlGaN等である。ここでは、AlNを主成分とする下地層との結晶軸長が異なる場合の課題を解決しているため、Al組成比は10%以下であることが好ましい。より好ましくはAlGa1−xN(0≦x≦0.1)である。さらに、Al組成比は5%以下がより好ましく、AlGa1−xN(0≦x≦0.05)がより好ましい。
【実施例2】
【0034】
実施例2は、実施例1の具体例である。図5(a)から図6(b)は、実施例2に係る半導体装置の製造工程の断面図である。図5(a)を参照し、Si基板10を準備する。Si基板10の仕様は以下である。
面方位:(111)面
厚さ:625μm
【0035】
図5(b)のように、Si基板をMOCVD反応炉に導入する。Si基板10上にAlN層12を直接成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス:NH、TMA(トリメチルアルミニウム)
成長温度:1100℃
ドープ: アンドープ
膜厚: 300nm
【0036】
図5(c)のように、AlN層12上に第1AlGaN層14を成膜する。第1AlGaN層14の成長条件は以下である。
原料ガス:NH、TMA、TMG(トリメチルガリウム)
成長温度:1100℃
成長速度:0.05nm/秒
ドープ: アンドープ
Al組成比:0.5
膜厚: 300nm
以上の第1AlGaN層14のa軸長は、AlN層12と同じ0.311nmである。
【0037】
図5(d)のように、第1AlGaN層14上に第2AlGaN層16を成膜する。第2AlGaN層16の成長条件は以下である。
原料ガス:NH、TMA、TMG(トリメチルガリウム)
成長温度:1100℃
成長速度:0.10nm/秒
ドープ: アンドープ
Al組成比:0.5から0.1に徐々に変化させる。
膜厚: 100nm
以上により、第2AlGaN層16においては格子緩和が十分に生じ、最表面のa軸長は、0.318nmとなる
【0038】
図6(a)のように、第2AlGaN層16上にGaN層18を成膜する。第2AlGaN層16の成長条件は以下である。
原料ガス:NH、TMG
成長温度:1100℃
ドープ:アンドープ
膜厚: 1200nm
GaN層18のa軸長は0.3189nmであり、第2AlGaN層16の最表面のa軸長とほぼ等しい。このため、GaN層18はほとんど格子緩和することなく成長することができる。よって、GaN層18の第2AlGaN層16界面付近にはほとんど電子トラップは形成されない。
【0039】
次に、GaN層18上に電子供給層であるAlGaN層20を成長する。AlGaN層20の成長条件は以下である。
原料ガス:NH、SiH、TMA、TMG
ドープ:Siドープ
Al組成:0.25
膜厚: 25nm
上記各層の成長面は、(0002)面である。以上により、HEMT用の半導体基板が完成する。
【0040】
図6(b)のように、塩素系ガスを用いたRIE(反応性イオンエッチング)法を用い、AlGaN層20およびGaN層18の一部を除去し素子分離を行なう(不図示)。AlGaN層20に接するように基板側からTi/Alを真空蒸着する。700℃で5分間熱処理することによりAlGaN層20とTi/Alを合金化させ、ソース電極24およびドレイン電極26を形成する。AlGaN層20に接するように基板側からNi/Auを真空蒸着することによりゲート電極28を形成する。その後、保護膜形成等を行ない、実施例2に係るHEMTが完成する。
【0041】
上記実施例2の製造方法で作製したサンプルをサンプルC、第2AlGaN層16の成長速度を第1AlGaN層14の成長速度と同じ0.05nm/秒としたサンプルをサンプルB、第2AlGaN層16を設けないサンプルをサンプルA(比較例)とし、サンプルA〜Cを作製した。
【0042】
作製したサンプルA〜Cのバッファ層付近の電子トラップ濃度を光励起CV法を用い測定した。表1に結果を示す。サンプルAに対し、サンプルBは電子トラップ濃度が30%に低減している。さらにサンプルAに対しサンプルCは電子トラップ濃度が5%に低減している。サンプルBのように、第2AlGaN層16として、Al組成比を連続的に減少させ、成長速度は第1AlGaN層14と同じとしてもよいが、サンプルCのように成長速度を第1AlGaN層14より大きくすることが好ましい。
【表1】

【0043】
なお、第2AlGaN層16において成長速度を早くすると第1AlGaN層14に比べ、例えばHまたはC等の不純物濃度が高くなる。これにより、第2AlGaN層16の成長速度が第1AlGaN層14より速いことが確認できる。
【0044】
図7は実施例1の変形例の基板からの距離に対するAl組成比xを示した図である。図7のように、第2AlGaN層16のAl組成比xは段階的に変化させてもよい。また、第2AlGaN層16が格子緩和が生じる条件で成長されていれば、Al組成比は一定でもよい。例えば第2AlGaN層16のAl組成比をGaN層18に近い0.1とすることができる。
【0045】
また、第2バッファ層としてAlInN層を用いることができる。例えば、AlInN層のAl組成比が0.1のときa軸長は0.317nm、Al組成比が0.05のとき、a軸長は0.315nmであり、第2バッファ層として用いることができる。
【実施例3】
【0046】
実施例3は第2バッファ層として周期構造層を用いる例である。図8(a)から図8(d)は、実施例3に係る半導体装置の製造工程を示す断面図である。図8(a)を参照し、Si基板10準備する。Si基板10の仕様は以下である。
面方位:(111)面
比抵抗:6000Ωcm以上
厚さ:675μm
【0047】
Si基板をMOCVD反応炉に導入する。Si基板10上にAlN層12を直接成膜する。成膜条件は以下である。
原料ガス:NH、TMA
成長温度:1100℃
ドープ: アンドープ
膜厚: 200nm
【0048】
図8(b)のように、AlN層12上に第1バッファ層としてAlN/GaN周期構造層15を成膜する。第1AlGaN層14の成長条件は以下である。
原料ガス:NH、TMA、TMG
成長温度:1100℃
ドープ: アンドープ
成長速度:0.05nm/秒
AlN層:膜厚4nm
GaN層:膜厚16nm
周期 :20周期
膜厚: 400nm
周期構造層の表面のa軸長は、0.316nm程度である。
【0049】
図8(c)のように、周期構造層15上に第2AlGaN層16を成膜する。第2AlGaN層16の成長条件は以下である。
原料ガス:NH、TMA、TMG
成長温度:1100℃
成長速度:0.10nm/秒
ドープ: アンドープ
Al組成比:0.4から0.1に徐々に変化させる。
膜厚: 100nm
以上により、第2AlGaN層16においては格子緩和が十分に生じる。
【0050】
図8(d)のように、その後、実施例2の図6(a)および図6(b)と同じ工程を行ない、実施例3に係るHEMTが完成する。
【0051】
上記実施例3の製造方法で作製したサンプルをサンプルF、第2AlGaN層16の成長速度を周期構造層15の成長速度と同じ0.05nm/秒としたサンプルをサンプルE、第2AlGaN層16を設けないサンプルをサンプルD(比較例)とし、サンプルD〜Fを作製した。
【0052】
作製したサンプルD〜Fのバッファ層付近の電子トラップ濃度を光励起CV法を用い測定した。表2に結果を示す。サンプルDに対し、サンプルEは電子トラップ濃度が23%に低減している。さらにサンプルEに対しサンプルFは電子トラップ濃度が7%に低減しているサンプルEのように、第2AlGaN層16として、Al組成比を連続的に減少させ、成長速度は周期構造層15と同じとしてもよいが、サンプルFのように成長速度を周期構造層15より大きくすることが好ましい。
【表2】

【0053】
第1バッファ層としては、実施例2のように、Al組成比が一定の第1AlGaN層14を用いることができる。また、第1バッファ層内の組成は小さい範囲で傾斜していてもよい。例えば、第1AlGaN層14として、Al組成がAlN層12側で0.5、第2バッファ層側で0.4とし、一様または段階的に第1AlGaN層14内で組成が変化してもよい。第1AlGaN層14内のAlN層12側のAl組成比は第2バッファ層側より0.2以下の範囲で高くすることができる。さらに、0.1以下の範囲とすることが好ましい。第1AlGaN層14の膜厚は、実施例2の300nm以外にも例えば180nmとすることができる。
【0054】
第1バッファ層として、実施例3のように、超格子層を用いることができる。例えばAlN/GaN超格子を用いる場合、膜厚が4nmのAlN層と膜厚が8nmのGaNとを15周期形成することができる。この場合、平均Al組成比は0.33であり、第1バッファ層の膜厚は180nmである。例えばAlGaN/AlGaN超格子を用いた場合、膜厚が4nmのAl0.8Ga0.2N層と膜厚が12nmのAl0.4Ga0.6Nとを10周期形成することができる。この場合、平均Al組成比は0.5であり、第1バッファ層の膜厚は160nmである。
【0055】
第2バッファ層として、実施例2、3のように、一様にAl組成比が変化する第2AlGaN層16を用いることができる。また、図7のように、Al組成比は階段状に変化させることもできる。例えば、第2AlGaN層16を、Al組成比が0.3、膜厚が60nmの第1層と、Al組成比が0.1、膜厚が60nmの第2層と、から形成することもできる。また、第1バッファ層はAl組成比が一定でもよい。例えば、第2AlGaN層16として、Al組成比が0.1、膜厚が120nmとすることができる。このように、第2AlGaN層16のAl組成が一定でも、成膜条件等により、第2AlGaN層16内で格子緩和させることができる。この場合、Al組成比は小さいことが好ましい。例えば、Al組成比は0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。
【0056】
第2バッファ層として超格子を用いることができる。例えばAlN/GaN超格子を用いる場合、膜厚が2nmのAlN層と膜厚が18nmのGaNとを10周期形成することができる。この場合、平均Al組成比は0.10であり、第1バッファ層の膜厚は200nmである。第2バッファ層が超格子の場合でも、成膜条件等により、第2バッファ層内で格子緩和させることができる。この場合、Al組成比の平均値は小さいことが好ましい。例えば、Al組成比の平均値は0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。
【0057】
以上のように、第1バッファ層および第2バッファ層は、AlGaN、AlN/GaN超格子、またはAlGaN/AlGaN超格子とすることができる。
【0058】
第2バッファ層は格子緩和させる第2バッファ層のa軸長は、GaN系半導体層に向かって、大きく変化することが好ましい。例えば、第1バッファ層内のa軸長の変化に比べ、第2バッファ層内のa軸長の変化は大きいことが好ましい。
【0059】
第2バッファ層において、a軸長をGaN系半導体層(例えばGaN層18)とほぼ整合させるため、第2バッファ層において格子緩和させることになる。AlN層12に比べGaN層18はa軸長が大きい。よって、第2バッファ層のa軸長の平均値は第1バッファ層のa軸長の平均値より大きいことが好ましい。
【0060】
図9は、第1バッファ層のa軸長の平均値と第2バッファのa軸長の平均値を示す図である。AlNのa軸長は0.3112であり、GaNのa軸長は0.3189nmである。第2バッファ層のa軸長の平均値は第1バッファ層のa軸長より0.0070nm以上大きいことが好ましい。すなわち、第1バッファ層のa軸長の平均値および第2バッファ層のa軸長の平均値は、第1バッファ層のa軸長の平均値をa1、第2バッファ層のa軸長の平均値をa2としたとき、
0.3112nm≦a1、0.3189nm≧a2
かつ、a2≧a1+0.0070nm
であることが好ましい。図9において、上記範囲をクロスで示した。
【0061】
第2バッファ層中の結晶軸長を緩和させるためには、第2バッファ層の成長速度を第1バッファ層より大きくすることが好ましい。例えば、第1バッファ層の成長速度は0.02〜0.10nm/秒であり、第2バッファ層の成長速度は0.06〜0.20nm/秒であり、かつ第2バッファ層の成長速度は第1バッファの成長速度より大きくすることができる。第1バッファ層の成長速度は0.04〜0.08nm/秒であり、第2バッファ層の成長速度は0.08〜0.18nm/秒がより好ましい。
【0062】
第2バッファ層の成長速度を第1バッファ層より大きくすることにより、第2バッファ層内の水素濃度が第1バッファ層より高くなる。例えば、第1バッファ層内の水素濃度は1×1019cm−3以上であり、かつ第2バッファ層内の水素濃度は1×1019cm−3以下とすることができる。
【0063】
第2バッファ層中の結晶軸長を緩和させるためには、第2バッファ層の成長温度を第1バッファ層より低くすることが好ましい。例えば、第1バッファ層の成長温度は1000℃以上1200℃未満とすることができる。第2バッファ層の成長温度は第1バッファ層の成長温度より100℃〜200℃低い温度とすることができる。
【0064】
実施例1から実施例3は、半導体装置としてHEMTを例に説明したが、HEMT以外のFET等のトランジスタや、例えばレーザダイオードやフォトダイオードのような光半導体装置でもよい。
【0065】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
Si基板 10
AlN層 12
第1AlGaN層 14
周期構造層 15
第2AlGaN層 16
GaN層 18

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板上に接して形成されたAlNを主成分とする下地層と、
前記下地層上に形成され、前記下地層から圧縮応力を受ける第1バッファ層と、
前記第1バッファ層上に形成された第2バッファ層と、
前記第2バッファ層上に形成されたAlの組成比が0.1以下のGaN系半導体層と、
を具備し、
前記第2バッファ層における前記第1バッファ層側の面の結晶軸長に対し前記第1バッファ層と反対の面の結晶軸長が前記GaN系半導体層に近く、
前記第2バッファ層の伝導帯底エネルギーが前記GaN系半導体層より高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1バッファ層および前記第2バッファ層は、AlGaN、AlN/GaN超格子、またはAlGaN/AlGaN超格子であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2バッファ層のa軸長の平均値は前記第1バッファ層のa軸長の平均値より大きいことを特徴とする請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1バッファ層のa軸長の平均値および前記第2バッファ層のa軸長の平均値は、前記第1バッファ層のa軸長の平均値をa1、前記第2バッファ層のa軸長の平均値をa2としたとき、
0.3112nm≦a1、0.3189nm≧a2
かつ、a2≧a1+0.0070nm
であることを特徴とする請求項2記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2バッファ層内の水素濃度は前記第1バッファ層内の水素濃度より高いことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1バッファ層内の水素濃度は1×1019cm−3以下であり、かつ前記第2バッファ層内の水素濃度は1×1019cm−3以上であることを特徴とする請求項5記載の半導体装置。
【請求項7】
Si基板上に接してAlNを主成分とする下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、前記下地層から圧縮応力を受ける第1バッファ層を形成する工程と、
前記第1バッファ層上に第2バッファ層を形成する工程と、
前記第2バッファ層上にAlの組成比が0.1以下のGaN系半導体層を形成する工程と、
を含み、
前記第2バッファ層における前記第1バッファ層側の面の結晶軸長に対し前記第1バッファ層と反対の面の結晶軸長が前記GaN系半導体層に近く、
前記第2バッファ層の伝導帯底エネルギーが前記GaN系半導体層より高いことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2バッファ層の成長速度は、前記第1バッファ層より大きいことを特徴とする請求項7記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1バッファ層の成長速度は0.02〜0.10nm/秒であり、前記第2バッファ層の成長速度は0.06〜0.20nm/秒であることを特徴とする請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2バッファ層の成長温度は、前記第1バッファ層より低いことを特徴とする請求項7記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1バッファ層の成長温度は1000℃以上1200℃未満であり、前記第2バッファ層の成長温度は前記第1バッファ層の成長温度より100℃〜200℃低い温度であることを特徴とする請求項10記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−15306(P2012−15306A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150061(P2010−150061)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】