説明

半導体装置の製造方法

【課題】Si系基板上に結晶性の良いSi系結晶またはGe系結晶をエピタキシャル成長させることのできる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法は、水素ガス雰囲気中において、圧力が第1の圧力であり、温度が第1の温度である条件下で、シリコン窒化物からなる部材を備えたSi系基板の前記部材に覆われていない領域の自然酸化膜および付着したシリコン窒化物を除去する工程と、水素ガス雰囲気中において、圧力を前記第1の圧力に保持したまま、温度を前記第1の温度から第2の温度に下げる工程と、水素ガス雰囲気中において、温度を前記第2の温度に保持したまま、圧力を前記第1の圧力から第2の圧力に下げる工程と、圧力を前記第2の圧力に下げた後、水素ガス、およびSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む前駆体ガス雰囲気中において、前記Si系基板の表面にSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む結晶をエピタキシャル成長させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造にSi系基板やSi系結晶層上にSiGe結晶等のSi系結晶をエピタキシャル成長させる技術が多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された技術は、p型トランジスタのチャネル領域を挟む位置に、Si結晶よりも格子定数の大きいSiGe結晶をエピタキシャル成長させることにより、チャネル領域に圧縮応力を発生させて歪ませるものである。これにより、チャネル領域中の電荷(正孔)の移動度を向上させ、p型トランジスタの動作速度を向上させることができる。
【0004】
また、SiGeベースのバイポーラトランジスタの製造方法において、Si基板上の自然酸化膜を水素ガス雰囲気で除去した後にSiGe結晶をエピタキシャル成長させる技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。この技術によれば、結晶性の良いSiGe結晶をSi基板上に成長させることができる。
【0005】
しかし、SiGe結晶を成長させる際に、Si基板上にマスク材等のシリコン窒化物からなる部材が比較的多く存在する場合、その部材から飛散したシリコン窒化物がSi基板のSiGe結晶の下地となる領域に付着して、結晶性の良いSiGe結晶の成長を妨げるおそれがある。
【特許文献1】特開2006−13428号
【特許文献2】特開2000−277529号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、Si系基板上に結晶性の良いSi系結晶またはGe系結晶をエピタキシャル成長させることのできる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、水素ガス雰囲気中において、圧力が第1の圧力であり、温度が第1の温度である条件下で、シリコン窒化物からなる部材を備えたSi系基板の前記部材に覆われていない領域の自然酸化膜および付着したシリコン窒化物を除去する工程と、水素ガス雰囲気中において、圧力を前記第1の圧力に保持したまま、温度を前記第1の温度から第2の温度に下げる工程と、水素ガス雰囲気中において、温度を前記第2の温度に保持したまま、圧力を前記第1の圧力から第2の圧力に下げる工程と、圧力を前記第2の圧力に下げた後、水素ガス、およびSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む前駆体ガス雰囲気中において、前記Si系基板の表面にSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む結晶をエピタキシャル成長させる工程と、を含む半導体装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Si系基板上に結晶性の良いSi系結晶またはGe系結晶をエピタキシャル成長させることのできる半導体装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔実施の形態〕
本発明の実施の形態は、Si系基板の表面の自然酸化物およびシリコン窒化物を除去するクリーニング工程と、Si基板上のクリーニングされた領域を下地としてSi系結晶をエピタキシャル成長させる結晶成長工程を有する、シリコン窒化物からなる部材を備えたSi系基板上にSi系結晶またはGe系結晶を成長させる方法を含む。
【0010】
ここで、Si系基板とは、Si基板等のSiを主成分とする結晶からなる基板である。本実施の形態におけるSi系基板は、Si系基板上にSi系結晶またはGe系結晶を成長させる時点において、その表面にシリコン窒化物からなる部材を比較的多く備える。このシリコン窒化物からなる部材とは、例えば、n型トランジスタとp型トランジスタのうち、一方のトランジスタの領域にSi系結晶またはGe系結晶を成長させる際に、他方のトランジスタをマスクする、SiN、SiCN等のシリコン窒化物からなるマスク材である。また、窒化物からなる部材は、Si系基板のSi系結晶またはGe系結晶を成長させる側の面上に位置するものに限られず、その反対側の面等に位置するものも含む。
【0011】
また、Si系結晶とは、Si結晶、SiGe、SiC、SiGeC結晶等のSiを主成分とする結晶であり、Ge系結晶とは、Ge結晶等のGeを主成分とする結晶である。
【0012】
クリーニング工程は、圧力が第1の圧力(100〜600Torr)、温度が第1の温度(800〜900℃)である条件下で、Si系基板を水素ガスの還元雰囲気に曝し、Si系基板の表面の自然酸化膜およびシリコン窒化物を除去する工程である。
【0013】
クリーニング工程後、水素ガス雰囲気中において、圧力を第1の圧力に維持したまま、温度を第1の温度から第1の温度よりも低い第2の温度に下げる工程と、水素ガス雰囲気中において、温度を第2の温度に維持したまま、圧力を第1の圧力から第1の圧力よりも低い第2の圧力に下げる工程とを経た後、結晶成長工程に進む。
【0014】
結晶成長工程は、圧力が第2の圧力であり、温度が第2の温度である条件下で、Si系基板を水素ガス、およびSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む前駆体ガス雰囲気に曝し、Si系基板の表面にSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む結晶(Si系結晶またはGe系結晶)をエピタキシャル成長させる工程である。
【0015】
Si系結晶(例えば、Si結晶、SiGe結晶、SiC結晶)またはGe系結晶(例えば、Ge結晶)を形成するために、次に挙げるソースガスを用いることができる。Siのソースガスとして、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリシラン(Si)、モノクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシラン(SiCl)等を用いることができる。また、Geのソースガスとして、モノゲルマン(GeH)、ジゲルマン(Ge)、トリゲルマン(Ge)等を用いることができる。また、Cソースガスとして、モノメチルシラン(SiHCH)、ジメチルシラン(SiH(CH))、トリメチルシラン(SiH(CH)、アセチレン(C)等を用いることができる。
【0016】
以下に、本実施の形態の具体例を示す。この具体例では、マスク材を備えたSi基板のゲート電極の両側の開口領域に、20原子%のGeを含む70nmの厚さのSiGe結晶を成長させ、さらにその上に5原子%のGeを含む20nmの厚さのSiGe結晶(以下、低濃度SiGe結晶と記す)を成長させる。なお、本実施の形態は以下の具体例に限定されるものではない。
【0017】
図1は、この具体例におけるSi基板の構成を模式的に示す断面図である。Si基板10の図中右側の領域においては、Si基板10のゲート絶縁膜11a、ゲート電極12a、キャップ膜13a、ゲート側壁14aの両側に、SiGe結晶を成長させる領域である開口領域15が設けられる。一方、素子分離領域16によりSi基板10の図中右側の領域と分離された図中左側の領域においては、Si基板10、ゲート絶縁膜11b、ゲート電極12b、キャップ膜13b、ゲート側壁14b上にマスク材17が設けられ、この領域でのSiGe結晶の成長は抑えられる。
【0018】
Si系基板としてのSi基板10は、主面が(100)である単結晶Si基板である。また、ゲート側壁14a、14bの表面層は、SiNからなる。また、マスク材17は、SiNからなる。また、素子分離領域16はSiOからなる。また、Si系基板10上のマスク材17を含むシリコン窒化物の被覆率は全体の約60%、素子分離領域16を含むシリコン酸化物の被覆率は全体の約25%である。
【0019】
図2(a)〜(c)は、具体例の工程順序を示すグラフである。図2(a)の折れ線は時間の経過に伴う温度条件の変化を表す。また、図2(b)の折れ線は時間の経過に伴う圧力条件の変化を表す。また、図2(c)の矢印線は水素(H)、塩化水素(HCl)、モノシラン、モノゲルマンの各ガスを流すタイミングを表す。
【0020】
ここで、図中のステップS3が上記のクリーニング工程に相当する。また、図中のステップS7〜S10が結晶成長工程に相当し、Siのソースガスとしてモノシラン、Geのソースガスとしてモノゲルマンが用いられる。
【0021】
まず、図1に示したSi基板10に1%に希釈された希弗酸で前処理を行い、Si表面の自然酸化膜を除去し、水素原子によって終端する。
【0022】
次に、100Torr以下の圧力雰囲気下で650℃に加熱された枚葉タイプの成膜チャンバー内にSi基板10を搬送した後、水素ガスを25slm流した状態で、圧力を第1の圧力(100〜600Torr)に制御する(ステップS1)。ここで、水素ガスは、Si基板10の開口領域15の内面の自然酸化膜およびシリコン窒化物の除去等を目的として用いられるガスである。なお、水素ガスの代わりに窒素ガスやアルゴンガス等を用いてもよい。
【0023】
なお、図2(b)には、一例として、成膜チャンバー内にSi基板10を搬送する際の圧力を80Torr、第1の圧力を150Torrとした場合の工程順序を示す。
【0024】
圧力が100Torr以下の減圧雰囲気下で成膜チャンバー内にSi基板10を搬送するのは、次の理由による。エピタキシャル成長装置の成膜チャンバーは、一般にロードロックチャンバーであり、大気を持ち込まないような構造となっている。また、Si基板をチャンバー内に搬送する際の雰囲気は、多くの場合不活性ガス、特に窒素ガスが用いられることが多い。このため、Si基板をチャンバー内に搬送する際の圧力が高すぎる場合には、雰囲気中の窒素がSi基板の表面に付着しやすくなる。そこで、十分に低い圧力である100Torr以下の減圧雰囲気下で、Si基板の搬送を行う。
【0025】
次に、チャンバー温度を第1の温度(800〜900℃)まで上げ(ステップS2)、Si基板10の開口領域15の内面の自然酸化膜、およびシリコン窒化物を除去するために60秒間保持する(ステップS3)。ステップS2、S3の間、チャンバー内の圧力は第1の圧力に保持される。なお、図2(a)には、一例として、第1の温度を850℃とした場合の工程順序を示す。
【0026】
次に、180秒間でチャンバー温度を第2の温度(550〜775℃)まで下げる。(ステップS4)、ステップS4の間、チャンバー内の圧力は第1の圧力に保持される。なお、図2(a)には、一例として、第2の温度を750℃とした場合の工程順序を示す。
【0027】
次に、チャンバー温度を第2の温度に保持したまま、水素流量を12slmに下げ、圧力を第2の圧力(5〜20Torr)に下げる(ステップS5)。なお、図2(a)には、一例として、第2の圧力を8Torrとした場合の工程順序を示す。
【0028】
なお、図2(b)のS4cで示されたステップは、従来一般的に用いられてきた工程において、本実施の形態のステップS4の代わりに行われるステップである(図2(a)の温度条件の変化はステップS4と同じ)。ステップS4cにおいては、降温開始と同時に圧力を下げ始め、温度が第2の温度になるまで第2の圧力に保持する。
【0029】
次に、チャンバー内の温度を安定させるために、温度を第2の温度、圧力を第2の圧力に設定したまま、60秒間保持する(ステップS6)。
【0030】
次に、塩化水素ガス、モノシランガス、モノゲルマンガスをそれぞれ120sccm、50sccm、50sccmの流量で流し、温度を第2の温度、圧力を第2の圧力に保持した状態で60秒間保持し、Si基板10の開口領域15内でのSiGe結晶のエピタキシャル成長を開始する(ステップS7)。なお、このSiGe結晶の成長速度は5nm/minである。
【0031】
次に、80秒間かけてモノゲルマンの流量を308sccmに上げ(ステップS8)、50秒間保持し、SiGe結晶を形成する(ステップS9)。
【0032】
次に、塩化水素の流量を160sccm、モノシランの流量を80sccm、モノゲルマンの流量を60sccmに下げ、低濃度SiGe層の成長を開始する(ステップS10)。
【0033】
次に、10秒間で塩化水素、モノシラン、モノゲルマンの供給を止め、温度を650℃付近まで上げつつ、圧力を80Torrまで上げ(ステップS11)、その後、チャンバーからSi基板10を取り出す。
【0034】
なお、SiGe結晶の代わりにSi結晶を成長させる場合は、例えば、上記の具体例において、結晶成長工程(ステップS7〜S10)におけるモノゲルマンの使用を省けばよい。また、Ge結晶を成長させる場合は、モノシランの使用を省けばよい。また、SiC結晶を成長させる場合は、モノゲルマンの代わりにモノメチルシランを用いればよい。
【0035】
図3(a)は、上記の具体例に基づいてSi基板上に形成したSiGe結晶のSTEM(scanning transmission electron microscope)写真である。また、図3(b)は、図3(a)の輪郭を描き出したものである。
【0036】
また、図4(a)は、比較例として用意したSi基板上のSiGe結晶のSTEM写真である。また、図4(b)は、図4(a)の輪郭を描き出したものである。ここで、SiGe結晶28および低濃度SiGe結晶29は、図2(b)のステップS4の圧力条件をステップS4cの圧力条件に変更して(その他の条件は同じ)形成した結晶である。
【0037】
Si基板20、ゲート絶縁膜21a、ゲート電極22a、キャップ膜23a、ゲート側壁24a、および素子分離領域26は、それぞれSi基板10、ゲート絶縁膜11a、ゲート電極12a、キャップ膜13a、ゲート側壁14a、および素子分離領域16に対応する。
【0038】
図3(a)のSiGe結晶18および低濃度SiGe結晶19は、Si基板10の開口領域15内に選択的に形成される。また、図4(a)のSiGe結晶28および低濃度SiGe結晶29は、Si基板20の開口領域15に対応する開口領域内に選択的に形成される。
【0039】
図3(a)、(b)および図4(a)、(b)から、本実施例のクリーニング工程および結晶成長工程を経て形成したSiGe結晶18および低濃度SiGe結晶19は、比較例のSiGe結晶28および低濃度SiGe結晶29と比較して凹凸が少なく、良い結晶性を有することが確認される。
【0040】
図5(a)、(b)は、それぞれSi基板10とSiGe結晶18との界面(Si基板10の開口領域15の底面)近傍に含まれる窒素、酸素の濃度を測定したSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)プロファイルである。図5(a)、(b)の縦軸は各元素の濃度(atoms/cm)を表し、横軸はSi基板10とSiGe結晶18との界面の深さを0としたSi基板10の表面に垂直な方向の深さ(nm)を表す。
【0041】
図6(a)、(b)は、それぞれSi基板20とSiGe結晶28との界面(Si基板20の開口領域の底面)近傍に含まれる窒素、酸素の濃度を測定したSIMSプロファイルである。図6(a)、(b)の縦軸は各元素の濃度(atoms/cm)を表し、横軸はSi基板20とSiGe結晶28との界面の深さを0としたSi基板10の表面に垂直な方向の深さ(nm)を表す。
【0042】
図5(a)に示される、Si基板10とSiGe結晶18との界面近傍の窒素濃度(atoms/cm)を横軸の深さに関して積分し、界面近傍の窒素濃度4.2×1011atoms/cmを得た。また、図6(a)に示される、Si基板20とSiGe結晶28との界面近傍の窒素濃度(atoms/cm)を横軸の深さに関して積分し、界面近傍の窒素濃度4.5×1013atoms/cmを得た。
【0043】
この結果より、Si基板10とSiGe結晶18との界面近傍の窒素濃度(atoms/cm)が、Si基板20とSiGe結晶28との界面近傍の窒素濃度(atoms/cm)よりも低く、本実施の形態のクリーニング工程によりSi基板10の開口領域15の内面のシリコン窒化物が効果的に除去され、かつクリーニング工程後のマスク材17等からのシリコン窒化物の飛散が効果的に抑えられていることが確認された。
【0044】
また、図6(b)に示される、Si基板20とSiGe結晶28との界面近傍の酸素濃度(atoms/cm)を横軸の深さに関して積分し、界面内の酸素濃度4.2×1012atoms/cmを得た。また、図5(b)からは、Si基板10とSiGe結晶18との界面近傍には酸素がほとんど含まれないことがわかる。
【0045】
この結果より、Si基板10とSiGe結晶18との界面内の酸素濃度(atoms/cm)が、Si基板20とSiGe結晶28との界面内の酸素濃度(atoms/cm)よりも低く、本実施の形態のクリーニング工程によりSi基板10の開口領域15の内面の自然酸化膜が効果的に除去されていることが確認された。
【0046】
なお、SiGe結晶18、28および低濃度SiGe結晶19、29を成長させる際の、Si系基板10、20上のシリコン窒化物の被覆率は全体の約60%、シリコン酸化物の被覆率は全体の約25%であるが、シリコン窒化物およびシリコン酸化物の被覆率がこれらと異なる場合であっても、同様の結果が得られる。
【0047】
また、本実施の形態を検証するために、図7に示すSi基板30を用意して、後述する2つの実験を行った。検証の結果は、図8(a)、(b)に示される。
【0048】
ここで、Si基板30は、開口領域31を有し、開口領域31以外の領域をシリコン窒化膜32に覆われている。SiGe結晶は、開口領域31内に選択的に形成される。なお、シリコン窒化膜32のSi基板30上の被覆率は95%である。
【0049】
図8(a)は、圧力が10Torr、温度が700℃、850℃の条件下で水素熱処理を行った後に開口領域31内にSiGe結晶を成長させた場合の、Si基板30とSiGe結晶との界面近傍の窒素濃度および酸素濃度の水素熱処理温度依存性を示すグラフである。
【0050】
図8(a)は、水素熱処理温度が700℃、850℃の場合の窒素濃度がそれぞれ3.6×1012、5.6×1013atoms/cmであり、水素熱処理温度が700℃、850℃の場合の酸素濃度がそれぞれ1.0×1012、4.0×1012atoms/cmであることを示している。これらの結果から、10Torr以下の減圧雰囲気下においては、いずれの温度条件においても、Si基板30とSiGe結晶との界面近傍に自然酸化膜およびシリコン窒化物が好ましくない量で残留することが確認された。
【0051】
この結果から、本実施の形態においてクリーニング工程を行った後、温度を第1の温度から十分に下げない状態で圧力を10Torr以下まで下げた場合、すなわち、図2(b)に示されたステップS4cを経た場合、クリーニング工程後にマスク材等からシリコン窒化物を多く飛散させてしまうことがわかる。一方、本実施の形態におけるステップS4を経れば、温度を第2の温度にまで下げた後に圧力を下げ始めるため、クリーニング工程後のマスク材等からのシリコン窒化物の飛散を効果的に抑えることができる。
【0052】
図8(b)は、Si基板30に本実施の形態の図2(a)〜(c)に示される結晶成長方法を適用した場合の、クリーニング工程における第1の圧力と、Si基板30とSiGe結晶との界面近傍の窒素濃度および酸素濃度との関係を示すグラフである。なお、クリーニング工程における第1の温度は850℃に設定した。
【0053】
図8(b)は、第1の圧力が5、10、40、100、300Torrの場合の窒素濃度がそれぞれ8×1013、3.6×1013、2.6×1012、5.5×1011、3.1×1011atoms/cmであり、600Torrの場合の窒素濃度が検出限界濃度の3.0×1011atoms/cm以下であることを示している。
【0054】
また、図8(b)は、第1の圧力が5、10Torrの場合の酸素濃度がそれぞれ6.0×1012、3.2×1012atoms/cmであり、40〜600Torrの場合の酸素濃度が検出限界濃度の3.0×1011atoms/cm以下であることを示している。
【0055】
これらの結果より、クリーニング工程において第1の圧力を100Torr以上に設定した場合に、Si基板30の開口領域31の内面の自然酸化膜およびシリコン窒化物が十分に除去されることが確認された。しかしながら、水素熱処理の圧力を600Torr以上に設定することは好ましくない。これは数Torr〜数十Torrの圧力雰囲気下において結晶膜の成長を行う減圧成膜装置においては、大気圧近傍およびそれ以上の圧力を安定して制御するのは困難であり、また、使用する水素ガスのリークが発生するおそれがあるためである。
【0056】
一般的に、Si基板上のシリコン窒化物の被覆率が大きいほど、水素熱処理時のマスク材からのシリコン窒化物の飛散量は多くなり、開口領域の内面に付着するシリコン窒化物が多くなるが、図8(b)の結果によれば、Si基板がシリコン窒化物に95%という高い被覆率で覆われている場合であっても、自然酸化膜およびシリコン窒化物が十分に除去されることがわかる。このため、本実施の形態の結晶成長方法は、さまざまな被覆率を有するシリコン窒化膜のパターンを備えた基板に対して有効な手法であるといえる。なお、当然、Si基板上のシリコン窒化物の被覆率が95%以外の値である場合であっても、本実施の形態の効果は同様に得られる。
【0057】
さらに、本実施の形態の検証のために、図9に示すSi基板40を用意し、Si基板40とSiGe結晶との界面近傍の酸素濃度と本実施の形態のクリーニング工程における圧力との関係を調べた。
【0058】
ここで、Si基板40は、開口領域41を有し、開口領域41以外の領域をシリコン酸化膜42に覆われている。SiGe結晶は、開口領域41内に選択的に形成される。
【0059】
図10は、Si基板40に本実施の形態の図2(a)〜(c)に示される結晶成長方法を適用した場合の、クリーニング工程における第1の圧力と、Si基板40とSiGe結晶との界面近傍の酸素濃度との関係を示すグラフである。なお、クリーニング工程における第1の温度は850℃に設定した。
【0060】
図10は、第1の圧力が10〜600Torrの場合の酸素濃度が検出限界濃度の5.0×1011atoms/cm以下であることを示している。
【0061】
この結果より、シリコン酸化膜に覆われたSi基板に対して本実施の形態の図2(a)〜(c)に示される結晶成長方法を適用した場合、第1の圧力の大きさにかかわらず、Si基板40の開口領域41の内面の自然酸化膜が十分に除去されることが確認された。さらに、第1の温度が850℃の場合に限らず、800〜900℃の範囲では同様の結果が得られた。
【0062】
以上の結果より、本実施の形態における第1の圧力を、100〜600Torrとすることにより、シリコン窒化膜およびシリコン酸化膜のいずれに覆われたSi基板においても、開口領域内の自然酸化膜およびシリコン窒化膜を効果的に除去できることが確認された。
【0063】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態によれば、Si系結晶またはGe系結晶をSi系基板上にエピタキシャル成長させる際に、Si系基板上にマスク材等のシリコン窒化物からなる部材が比較的多く存在する場合であっても、クリーニング工程においてSi基板のエピタキシャル成長の下地となる領域の自然酸化膜および付着したシリコン窒化物を効果的に除去し、さらに、クリーニング工程後にマスク材等からシリコン窒化物が飛散してSi基板のエピタキシャル成長の下地となる領域へ付着することを効果的に抑えることができる。これにより、Si基板上に結晶性の良いSi系結晶またはGe系結晶をエピタキシャル成長させることができる。
【0064】
〔他の実施の形態〕
本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、本実施の形態は、フィン型トランジスタのフィンの表面にSi系結晶をエピタキシャル成長させてフィンの厚さを増す場合等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態の具体例におけるSi基板の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態の具体例の工程順序を示すグラフである。
【図3】(a)、(b)は、本発明の本実施の形態の具体例に基づいてSi基板上に形成したSiGe結晶のSTEM写真およびその輪郭図である。
【図4】(a)、(b)は、比較例として用意したSi基板上のSiGe結晶のSTEM写真およびその輪郭図である。
【図5】(a)、(b)は、本実施の形態のSi基板とSiGe結晶との界面近傍に含まれる窒素、酸素の濃度を測定したSIMSプロファイルである。
【図6】(a)、(b)は、比較例としてのSi基板とSiGe結晶との界面近傍に含まれる窒素、酸素の濃度を測定したSIMSプロファイルである。
【図7】本実施の形態の検証ために用意したSi基板である。
【図8】(a)、(b)は、本実施の形態の検証のための図7のSi基板に対する実験結果を示すグラフである。
【図9】本実施の形態の検証ために用意したSi基板である。
【図10】本実施の形態の検証のための図9のSi基板に対する実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
10、20、30、40 Si基板、 15、31、41 開口領域、 16 素子分離領域、 17 マスク材、 18、28 SiGe結晶、 19、29 低濃度SiGe結晶、 32 シリコン窒化膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス雰囲気中において、圧力が第1の圧力であり、温度が第1の温度である条件下で、シリコン窒化物からなる部材を備えたSi系基板の前記部材に覆われていない領域の自然酸化膜および付着したシリコン窒化物を除去する工程と、
水素ガス雰囲気中において、圧力を前記第1の圧力に保持したまま、温度を前記第1の温度から第2の温度に下げる工程と、
水素ガス雰囲気中において、温度を前記第2の温度に保持したまま、圧力を前記第1の圧力から第2の圧力に下げる工程と、
圧力を前記第2の圧力に下げた後、水素ガス、およびSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む前駆体ガス雰囲気中において、前記Si系基板の表面にSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む結晶をエピタキシャル成長させる工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1の圧力は、100〜600Torrの範囲内の圧力である、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の温度は、800〜900℃の範囲内の温度である、
請求項1または2のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記Si系基板の表面にSiおよびGeのうちの少なくともいずれか1つを含む前記結晶をエピタキシャル成長させる工程は、圧力が第2の圧力であり、温度が第2の温度である条件下で行われる、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
100Torr以下の窒素ガス雰囲気中で、前記Si系基板をエピタキシャル成長装置内に搬送した後、前記Si系基板の前記部材に覆われていない領域の前記自然酸化膜および前記付着したシリコン窒化物を除去する工程を行う、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−103142(P2010−103142A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270618(P2008−270618)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】