説明

磁気抵抗素子の製造方法

【課題】磁気特性の低下の抑制を図る。
【解決手段】磁気抵抗素子の製造方法は、磁化の方向が不変の固定層4、コバルトまたは鉄を含み、磁化の方向が可変の自由層6、および前記固定層と前記自由層との間に挟まれる非磁性層5で構成される積層体を形成し、前記積層体上に、ハードマスク11を形成し、前記ハードマスクをマスクとして塩素を含むガスで前記積層体をエッチングし、エッチングされた前記固定層および前記自由層の側面に、ボロンと窒素とを含む絶縁膜14を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体を用いた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access M
emory)は、不揮発性、高速動作、大容量、低消費電力を備えた不揮発性メモリとして期待されている。MRAMは、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistive)効果を利用するMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子を記憶素子として備え、このMTJ素子の磁化状態により情報を記憶する。
【0003】
従来型の配線電流による磁場でデータの書き込みを行うMRAMにおいては、MTJ素子サイズを縮小すると保持力が大きくなる。このため、書き込みに必要な電流が大きくなる傾向がある。したがって、従来型のMRAMでは、大容量化に向けたセルサイズの微細化と低電流化との両立は困難である。
【0004】
このような課題を克服する書き込み方式として、スピン角運動量移動(SMT:Spin Momentum Transfer)書き込み方式を用いたスピン注入型MRAMが提案されている。スピン注入型MRAMでは、情報の書き込みは、MTJ素子に直接電流を通電することで行われる。すなわち、この電流の向きで自由層(記録層)の磁化方向を変化させる。また、自由層を挟むように配置された2つの固定層を具備するMTJ素子では、スピントルクを増大させることができる。これにより、MTJ素子の臨界電流密度を低減することができる。
【0005】
MTJ素子の自由層としては、強磁性体が用いられる。具体的には、自由層として、コバルト(Co)、鉄(Fe)のうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられる。これらCoおよびFeは、強磁性体としての特性が高く、高性能なMTJ素子を形成することができる。
【0006】
ところで、MTJ素子のパターニング方法として、例えばアンモニア(NH)またはアミン類ガス等の含窒素化合物ガスを添加した一酸化炭素(CO)ガスを反応ガスとして用いるドライエッチング法がある。しかし、このCOガスは、蒸気圧が低いため、エッチング後のMTJ素子のテーパ角が低下してしまう(70°未満)。このため、COガスは、Gビット世代における高密度かつ微細なデバイスの加工には不向きである。
【0007】
そこで、高集積度のメモリを製造するために径が100nm以下の微細なMTJ素子をプラズマエッチングで加工する際、エッチングガスとして塩素(Cl)などのハロゲンガスが用いられる。しかし、磁性体膜として用いられているCoやFeは、MTJ素子側面が露出した際に、その側面に吸着・残留したClによって腐食が進みダメージ層が形成される。これにより、MTJ素子の信号量が低下するなどの問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−103224号公報
【特許文献2】特開2009−94104号公報
【特許文献3】特開2008−294420号公報
【特許文献4】特開2009−302550号公報
【特許文献5】特開2007−110121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気特性の低下の抑制を図る磁気抵抗素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態による磁気抵抗素子の製造方法は、磁化の方向が不変の固定層、コバルトまたは鉄を含み、磁化の方向が可変の自由層、および前記固定層と前記自由層との間に挟まれる非磁性層で構成される積層体を形成し、前記積層体上に、ハードマスクを形成し、前記ハードマスクをマスクとして塩素を含むガスで前記積層体をエッチングし、エッチングされた前記固定層および前記自由層の側面に、ボロンと窒素とを含む絶縁膜を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の構造を示す断面図。
【図2】本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造に用いられる製造装置を概略的に示す構成図。
【図3】本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造工程を示す断面図。
【図4】図3に続く、本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造工程を示す断面図。
【図5】図4に続く、本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造工程を示す断面図。
【図6】図5に続く、本実施形態に関連するMRAMにおけるMTJ素子の製造工程を示す断面図。
【図7】図5に続く、本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造工程を示す断面図。
【図8】本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子のVSM測定の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態を以下に図面を参照して説明する。図面において、同一部分には同一の参照符号を付す。
【0013】
<構造>
図1を用いて、本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の構造について説明する。図1は、本実施形態におけるMTJ素子の構造の断面図を示している。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るMRAMは、半導体基板1、層間膜2、MTJ素子10、および配線層16を備えている。
【0015】
半導体基板1上には、層間膜2が形成されている。この層間膜2には、図示せぬ配線層が形成されている。この配線層は、MTJ素子10の下部電極3に接続されている。層間膜2上には、MTJ素子10が形成されている。このMTJ素子10の周囲には、層間絶縁膜15が形成されている。また、MTJ素子10上には、配線層16が形成されている。この配線層16は、MTJ素子10の上部電極9に接続されている。層間膜2内の配線層および配線層16は、MTJ素子10に双方向に電流を供給するために用いられる。
【0016】
MTJ素子は、層間膜2上に順に形成された下部電極3、第1固定層(ピン層)4、第1トンネルバリア層(非磁性層)5、自由層(記録層)6、第2トンネルバリア層(非磁性層)7、第2固定層8、および上部電極9の積層体と、この積層体の側面を覆う、窒素とボロンとを含む絶縁膜14(以下、窒化ボロン(BN)膜14と称す)と、で構成されている。
【0017】
具体的には、MTJ素子10の積層体において、自由層6の下側に非磁性層5を介して第1固定層4が配置され、自由層6の上側に非磁性層7を介して第2固定層8が配置されている。すなわち、本実施形態におけるMTJ素子10は、いわゆるデュアルピン層構造(ダブルジャンクション構造)を有する磁気抵抗素子の構成例である。なお、本実施形態におけるMTJ素子10は、ダブルジャンクション構造に限らず、自由層、1つの固定層、およびこれらの間に形成される非磁性層で構成されるシングルジャンクション構造であってもよい。また、本実施形態におけるMTJ素子10の平面形状は、例えば円形である。しかし、これに限らず、その他、正方形、長方形、楕円形などであってもよい。
【0018】
第1固定層4および第2固定層8は、磁化(または、スピン)の方向が固定されている(不変である)。また、第1固定層4の磁化方向と第2固定層8の磁化方向とは、反平行(反対方向)に設定されている。
【0019】
自由層6の磁化方向は、変化(反転)可能である(可変である)。第1固定層4、第2固定層8、および自由層6における容易に磁化する方向は、膜面に垂直であってもよいし、膜面に平行であってもよい。すなわち、MTJ素子10は、垂直磁化膜を用いて構成されてもよいし、面内磁化膜を用いて構成されてもよい。
【0020】
第1固定層4、第2固定層8、および自由層6として、強磁性体が用いられる。具体的には、第1固定層4、第2固定層8としてそれぞれ、例えばコバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、マンガン(Mn)、ルテニウム(Ru)のうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられる。自由層6として、例えばコバルト(Co)、鉄(Fe)のうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられる。また、飽和磁化、または結晶磁気異方性などを調整する目的で、強磁性体にホウ素(B)、炭素(C)、あるいはシリコン(Si)などの元素を添加してもよい。
【0021】
なお、第1固定層4および第2固定層8には、シンセティックアンチフェロ(SAF:Synthetic Anti-Ferromagnet)構造が用いられてもよい。SAF構造とは、非磁性層を介して互いの磁化の方向が反平行である第1磁性層/非磁性層/第2磁性層からなる積層構造である。このSAF構造を用いることで、第1固定層4および第2固定層8の磁化固着力が増強され、外部磁場に対する耐性及び熱的な安定性を向上させることができる。
【0022】
下部電極3および上部電極9として、Pt、Ir、またはRuなどの導電体が用いられる。
【0023】
第1トンネルバリア層5として、酸化マグネシウム、または酸化アルミニウムなどの金属酸化物が用いられる。第2トンネルバリア層7として、銅(Cu)、金(Au)、または銀(Ag)などの常磁性金属が用いられる。第1トンネルバリア層5として金属酸化物を用いた場合、TMR効果を利用することができる。また、第2トンネルバリア層7として常磁性金属を用いた場合、GMR(Giant Magnetoresistive)効果を利用することが可能となる。MR比は、GMRに比べてTMRの方が十分大きい。したがって、データの読み出し時には、主にTMRのMR比が利用される。
【0024】
なお、MTJ素子10を構成する積層体は、積層順序が逆転していてもよい。この場合、第1トンネルバリア層5として常磁性金属が用いられ、第2トンネルバリア層7として金属酸化物が用いられる。
【0025】
また、第1トンネルバリア層5および第2トンネルバリア層7のそれぞれに、金属酸化物が用いられてもよい。この場合、第1トンネルバリア層5と第2トンネルバリア層7とは、異なる膜厚に設定される。これは、データ読み出し時に、MR比に差を持たせるためである。
【0026】
本実施形態におけるMTJ素子10の積層体の側面には、BN膜14が形成されている。このBN膜14は、積層体の周囲全面に形成され、積層体の側面を覆っている。なお、BN膜14の代わりに、さらにCを含むBCN膜が形成されてもよい。また、積層体が例えば直径100nm程度の円形である場合、BN膜14の膜厚は例えば50nm以下である。
【0027】
本実施形態におけるMTJ素子10は、スピン注入型の磁気抵抗素子である。したがって、MTJ素子10にデータを書き込む、またはMTJ素子10からデータを読み出す場合、MTJ素子10は、膜面(積層面)に垂直な方向において、双方向に電流が通電される。
【0028】
具体的には、MTJ素子10へのデータの書き込みは、以下のように行われる。
【0029】
第1固定層4側から電子(すなわち、第1固定層4から自由層6へ向かう電子)が供給される場合、第1固定層4の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子と、第2固定層8により反射されることで第2固定層8の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが自由層6に注入される。この場合、自由層6の磁化方向は、第1固定層4の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、第1固定層4の磁化方向と自由層6の磁化方向とが、平行配列となる。この平行配列のとき、MTJ素子10の抵抗値は最も小さくなる。この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0030】
一方、第2固定層8側から電子(すなわち、第2固定層8から自由層6へ向かう電子)が供給される場合、第2固定層8の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子と、第1固定層4により反射されることで第1固定層4の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが自由層6に注入される。この場合、自由層6の磁化方向は、第1固定層4の磁化方向と反対方向に揃えられる。これにより、第1固定層4の磁化方向と自由層6の磁化方向とが、反平行配列となる。この反平行配列のとき、MTJ素子10の抵抗値は最も大きくなる。この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0031】
また、データの読み出しは、以下のように行われる。
【0032】
MTJ素子10に、読み出し電流が供給される。この読み出し電流は、自由層6の磁化方向が反転しない値(書き込み電流よりも小さい値)に設定される。この時のMTJ素子10の抵抗値の変化を検出することにより、メモリ動作可能な半導体装置となる。
【0033】
<製造装置>
図2を用いて、本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造に用いられる製造装置について説明する。図2は、本実施形態におけるMTJ素子の製造に用いられる製造装置の概略的な構成図を示している。
【0034】
図2に示すように、本実施形態におけるMTJ素子の製造装置20は、基板導入チャンバー21、基板搬送チャンバー22、第1プラズマ処理チャンバー23、水素処理チャンバー24、および第2プラズマ処理チャンバー25を備えている。
【0035】
製造装置20において、基板搬送チャンバー22を中心として、基板導入チャンバー21、第1プラズマ処理チャンバー23、水素処理チャンバー24、および第2プラズマ処理チャンバー25がそれぞれ、真空バルブを介して設けられている。このため、製造装置20において、基板(ウェハ)は、各チャンバー間を真空中で搬送される。したがって、基板の表面は、大気等で汚染されることなく、清浄に保たれる。
【0036】
MTJ素子の製造において、まず、基板が基板導入チャンバー21に設置される。次に、製造装置20内に外気が混入しないように、所定の到達圧力に下がるまで基板導入チャンバー21内を充分排気した後、基板が基板搬送チャンバー22内に導入される。その後、成膜およびエッチング工程において、基板は第1プラズマ処理チャンバー23または第2プラズマ処理チャンバー25に搬送される。また、後述する塩素(Cl)除去工程において、基板は水素処理チャンバー24に搬送される。この水素処理チャンバー24は、マイクロ波によりプラズマ励起することにより水素ラジカルを供給することが可能である。
【0037】
なお、上記真空搬送システム(製造装置20)における真空度は、10−9Torr台であり、10−8Torrの前半の値でも許容できる。具体的には、基板搬送チャンバー22の到達真空度は、10−9Torrオーダーである。
【0038】
<製造方法>
図3乃至図7を用いて、本実施形態に係るMRAMにおけるMTJ素子の製造方法について説明する。図3乃至図7は、本実施形態におけるMTJ素子の製造工程の断面図を示している。
【0039】
まず、図3に示すように、ウェハ全面に、MTJ素子10となる積層体が形成される。具体的には、半導体基板1上に層間膜2が形成された後、層間膜2上に順に下部電極3、第1固定層4、第1トンネルバリア層5、自由層6、第2トンネルバリア層7、第2固定層8、および上部電極9の積層体が形成される。この積層体は、例えばスパッタリング法により形成される。
【0040】
次に、積層体上に、ハードマスクとなるシリコン酸化膜11が形成される。このシリコン酸化膜11は、例えばCVD法により形成される。その後、シリコン酸化膜11上に、フォトリソグラフィ法により加工すべきパターンの図示せぬフォトレジストが形成される。
【0041】
次に、図4に示すように、フォトレジストをマスクとして、シリコン酸化膜11が、例えばプラズマエッチング法によりパターニングされる。このプラズマエッチング法において、エッチングガスとしてCF、CHF、C、またはCなどを含むフロロカーボンガスが用いられる。
【0042】
次に、シリコン酸化膜11をハードマスクとして、MTJ素子10となる積層体が、例えばプラズマエッチング法によりパターニングされる。これにより、積層体の側面が露出される。このプラズマエッチングは、図2に示す第1プラズマ処理チャンバー23で行われる。
【0043】
具体的には、第1プラズマ処理チャンバー23に、ウェハが搬送され、エッチングガスとしてClが流量200SCCMで導入される。第1プラズマ処理チャンバー23内の圧力は、1Paに設定される。また、第1プラズマ処理チャンバー23に設置されている図示せぬ上部コイルに印加される電力を1000Wとし、さらにバイアス電力を400Wとする。上部コイルにはプラズマ励起のためにRF(高周波)が印加されており、そのRF周波数は13.56MHzである。一方、ウェハが載置された電極にはプラズマからイオンを引き込むためにRFが印加されており、そのRF周波数は2MHzである。
【0044】
なお、エッチングガスとして、Clに限らず、HClまたはBClなどのハロゲン化合物ガスを同様に用いてもよい。また、Cl、HCl、またはBClなどのガスに、Ar、He、またはXeなどの不活性ガス、あるいは微量のO、Nなどの酸化性、窒化性を含むガスを添加してもよい。また、これら不活性ガス、酸化性、窒化性を含むガスに限らず、目的とする加工形状を得るために様々なガスを添加してもよい。
【0045】
また、第1プラズマ処理チャンバー23内の圧力は1Paに限らず、0.5Paから3Paの範囲であればよく、特に1Paから2Paの範囲であればより望ましい。上部コイル電力は1000Wに限らず、200Wから4000Wの範囲であればよく、特に500Wから1500Wの範囲であればより望ましい。バイアス電力は400Wに限らず、300Wから600Wの範囲であればよく、特に300Wから400Wの範囲であればより望ましい。
【0046】
このようにして、MTJ素子10となる積層体が形成されたウェハが第1プラズマ処理チャンバー23内の電極に載置された後、プラズマ励起して2分間エッチングが行われ、積層体がパターニングされる。
【0047】
このとき、図5に示すように、パターニングされた積層体の全面に、エッチングガスとして用いられたCl12が残留する。すなわち、積層体の側面において、第1固定層4、第2固定層8、および自由層6に用いられているCoやFeにもCl12が吸着する。
【0048】
この側面に吸着したCl12は、例えばウェハをチャンバー間で移動させる際、大気中の水分(特にHイオン)と反応し、塩酸(HCl)を発生させる。HClは、第1固定層4、第2固定層8、および自由層6に用いられているCoやFeと反応する。これにより、図6に示すように、積層体の側面に、腐食物である塩化コバルト(CoCl)や塩化鉄(FeCl)といったダメージ層13が形成されてしまう。このダメージ層13は、膜厚が数nmから数10nmにわたって形成される。ダメージ層13によって、磁性層間(第1固定層4、第2固定層8、および自由層6間)で電流リークが発生する、自由層6の磁化特性が劣化する、または層間絶縁膜15の形成後に膜剥れが生じる、などのMTJ素子の動作に深刻な問題が発生する。
【0049】
この問題に対し、本実施形態では、積層体がパターニングされた後、以下の工程が行われる。
【0050】
まず、積層体の側面に付着したCl12が除去される。このCl12の除去は、図2に示す水素処理チャンバー24で行われる。
【0051】
具体的には、第1プラズマ処理チャンバー23から水素処理チャンバー24に、ウェハが搬送される。このとき、真空搬送システムにより搬送されるため、積層体の側面に付着したCl12は、大気に開放されない。すなわち、Cl12が大気中の水分と反応してHClに変化することを防ぐことができる。
【0052】
その後、水素処理チャンバー24に、水素(H)が流量500SCCMで導入される。水素処理チャンバー24内の圧力は、100Paに設定される。プラズマ励起のために1500Wでマイクロ波が印加され、その周波数は2.45GHzである。また、ウェハが載置されたプレートを250℃とする。これにより、マイクロ波によって励起されたリモートプラズマによる活性な水素が供給される。この水素プラズマ(水素ラジカル)によって、残留Cl12を除去し、低減することができる。このようなリモートプラズマによる処理が10分間行われる。
【0053】
なお、Cl12を除去するガスとして、Hに限らず、窒素(N)またはアルゴン(Ar)などの不活性ガスを同様に用いてもよい。
【0054】
また、水素処理チャンバー24内の圧力は100Paに限らず、10Paから200Paの範囲であればよく、特に50Paから100Paの範囲であればより望ましい。マイクロ波は、1500Wに限らず、500Wから3000Wの範囲であればよく、特に1000Wから2000Wの範囲であればより望ましい。
【0055】
次に、図7に示すように、Cl12が除去された積層体の全面に、BN膜14を形成する。このとき、少なくとも積層体における第1固定層4、第2固定層8、および自由層6の側面にBN膜14が形成されればよい。このBN膜14の形成は、図2に示す第1プラズマ処理チャンバー23で行われる。すなわち、BN膜14の形成は、積層体に対するプラズマエッチングと同様のチャンバーで行われる。
【0056】
具体的には、水素処理チャンバー24から第1プラズマ処理チャンバー23に、ウェハが搬送される。このとき、真空搬送システムにより搬送される。
【0057】
その後、第1プラズマ処理チャンバー23に、三塩化ボロン(BCl)およびNがそれぞれ、流量50SCCMで導入される。第1プラズマ処理チャンバー23内の圧力は、2Paに設定される。また、上部コイルに印加される電力を1000Wとし、さらにバイアス電力を100Wとした。これにより、BClガスおよびNガスがプラズマ化される。
【0058】
このとき、BN膜14の成膜速度は上面(シリコン酸化膜11の上面および層間膜2の上面)において60nm/min程度であり、側面(積層体の側面)において20nm/min程度であった。すなわち、2分30秒放電することにより、積層体の側面に50nm程度の膜厚を有するBN膜14を成膜することが可能である。
【0059】
なお、BN膜14を形成するガスとして、BClとNの混合ガスであればよく、その流量比は、BCl/N=95/5〜10/90であればよい。また、BClとNの混合ガスに、CHまたはCOなどのガスを添加してもよい。この場合、BN膜14の代わりに、BCN膜が形成される。
【0060】
また、第1プラズマ処理チャンバー23内の圧力は2Paに限らず、0.5Paから200Paの範囲であればよく、特に1Paから20Paの範囲であればより望ましい。上部コイル電力は1000Wに限らず、200Wから4000Wの範囲であればよく、特に500Wから2000Wの範囲であればより望ましい。バイアス電力は100Wに限らず、200W以下の範囲であればよく、特に5Wから100Wの範囲であればより望ましい。
【0061】
次に、BN膜14の側面に付着した微量Cl12を除去する工程を行ってもよい。このとき、第1プラズマ処理チャンバー23から水素処理チャンバー24にウェハが搬送され、上述したCl12の除去方法と同様の方法で行われる。
【0062】
次に、図1に示すように、上面のBN膜14およびシリコン酸化膜11が除去される。その後、層間膜2上で、MTJ素子10の周囲に、層間絶縁膜15が形成され、さらに、MTJ素子10上に配線層16が形成される。
【0063】
<VSM(Vibrating Sample Magnetometer)測定>
図8(a)は、図8(b)に示すMTJ素子のサンプルをVSM測定した印加磁束密度と磁化の関係を示している。ここで、エッチング後のサンプルは、エッチングされたトンネルバリア層の単位面積あたりで示した。また、MTJ素子において、記憶層としてCoFeBが用いられ、参照層としてPtなどの貴金属とNiやCoなどの磁性体との合金が用いられた。また、トンネルバリア層としてMgOが用いられた。
【0064】
エッチング前のサンプルの印加磁束密度と磁化の関係は実線A、Clガスでエッチング後に純水洗浄を行ったサンプルの磁束密度と磁化の関係は一点破線B、Clガスでエッチング後に本実施形態の工程を行ったサンプルの磁束密度と磁化の関係は破線Cで示されている。
【0065】
図示するように、飽和磁化の大きさは、磁束密度の変化に伴い一旦飽和した後、上昇(ジャンプ)する。この飽和磁化のジャンプは、記憶層の磁化方向が参照層の磁化方向と揃うことを示している。このジャンプの大きさは、MTJ素子を磁気抵抗デバイスとして用いたときの磁気−抵抗変化率の大きさとみなすことができる。すなわち、このジャンプが大きいほど、MTJ素子の磁気特性が良好であることを示している。ここでは、エッチング前後のサンプルにおけるジャンプ量の比較によって、エッチング時のダメージを推測している。
【0066】
エッチング前のサンプルにおける飽和磁化のジャンプ量は、d0である。これは、良好な磁気特性を有するMTJ素子のジャンプ量を示している。
【0067】
これに対し、Clガスでエッチング後に純水洗浄を行ったサンプルにおける飽和磁化のジャンプ量は、d1である。このジャンプ量d1は、エッチング前のサンプルにおける飽和磁化のジャンプ量d0に対して約3割まで減少した。これは、エッチングに用いたClが記憶層の側壁に吸着・残留し、水に溶解した際、ClイオンとなりCoFeBを腐食させてしまうためである。ここで、純水洗浄を行わなかった場合、腐食が連続的に進行し、よりジャンプ量は低下してしまう。
【0068】
一方、Clガスでエッチング後に本実施形態の工程を行ったサンプルにおける飽和磁化のジャンプ量は、d2である。このジャンプ量d2は、エッチング前のサンプルにおける飽和磁化のジャンプ量d0とほぼ同等である。すなわち、本実施形態の工程を行ったサンプルにおいて、エッチング後における記憶層の腐食に起因するダメージはほとんどないとみられる。これは、活性な水素によってほとんどのClの除去が行われ、さらにBN膜14によって大気中の水分の浸入を妨げたためだと推測される。
【0069】
<効果>
上記実施形態によれば、MTJ素子10となる積層体がClガスによりエッチングされた後、第1固定層4、第2固定層8、および自由層6(磁性体)の側面にBN膜14が形成される。このBN膜14は、大気中の水分(Hイオン)の浸入を妨げる。これにより、磁性体の側面に残留したCl12と磁性体を構成するCoやFeとの反応を防ぐことができる。したがって、磁性体の側面にCoClやFeClといった腐食物によるダメージ層13が形成されることを防ぎ、MTJ素子の磁気特性の低下を抑制することができる。
【0070】
ところで、BN膜14の代わりに、磁性体の側面に他の絶縁膜(例えば、SiN膜)を形成することで、上記効果を得ることが考えられる。しかし、例えばSiN膜を用いる場合、SiN膜自体を形成する材料ガスにHイオンが含まれている。このため、残留しているClとCoやFeとの反応が進み、腐食が生じてしまう。
【0071】
また、SiN膜は、BN膜14に比べて耐性が弱い。このため、後に形成される層間絶縁膜(例えば、SiO膜)15の材料ガスにHイオンが含まれており、このHイオンがSiN膜越しに侵入して腐食が生じてしまう。
【0072】
これに対し、BN膜14は耐性が強いため、上記問題は回避できる。また、BN膜14は緻密に形成されるため、その膜厚が小さくてもHイオンの侵入を防ぐことができる。すなわち、MTJ素子10の微細化を図ることができる。
【0073】
また、本実施形態では、積層体のClガスによるエッチング後、およびBN膜14の形成後、水素プラズマ(水素ラジカル)が供給される。これにより、表面に残留しているCl12を除去し、低減することができる。したがって、腐食の原因となるCl12を除去、低減することで、MTJ素子の磁気特性の低下をより抑制することができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、BN膜14の形成は、積層体に対するプラズマエッチングと同様の第1プラズマ処理チャンバー23で行われる。これは、BN膜14の形成と積層体に対するプラズマエッチングとが、同じガスによって行うことができるためである。すなわち、同じチャンバー内で連続してエッチング工程および成膜工程が行われるため、製造上のスループットを向上させることが可能である。
【0075】
また、この際、エッチング工程および成膜工程は、第1プラズマ処理チャンバー23ではなく、同様の機能を有する第2プラズマ処理チャンバー25で行われてもよい。すなわち、一方のチャンバーであるウェハに対してエッチング工程を行っている間、他方のチャンバーで別のウェハに対して成膜工程を行うことも可能であり、これによって、製造上のスループットを向上させることも可能である。
【0076】
その他、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0077】
4…第1固定層、5…第1トンネルバリア層(非磁性層)、6…自由層(記録層)、7…第2トンネルバリア層(非磁性層)、8…第2固定層、11…シリコン酸化膜、14…窒化ボロン膜、23…第1プラズマ処理チャンバー、24…水素処理チャンバー、25…第2プラズマ処理チャンバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、磁化の方向が不変の固定層、コバルトまたは鉄を含み、磁化の方向が可変の自由層、および前記固定層と前記自由層との間に挟まれる非磁性層で構成される積層体を形成し、
前記積層体上に、ハードマスクを形成し、
前記ハードマスクをマスクとして塩素を含むガスで前記積層体をエッチングし、
エッチングされた前記自由層の側面に、ボロンと窒素とを含む絶縁膜を形成する
ことを特徴とする磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁膜の形成は、三塩化ボロンガスおよび窒素ガスを供給することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項3】
前記固定層は、コバルトまたは鉄を含み、
前記絶縁膜は、前記固定層の側面にも形成される。
【請求項4】
前記積層体をエッチングした後、前記自由層の側面に付着した塩素を除去することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項5】
前記積層体のエッチングおよび前記絶縁膜の形成は第1チャンバーで行われ、前記自由層の側面に付着した塩素の除去は前記第1チャンバーと異なる第2チャンバーで行われ、
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間において、前記基板は真空搬送されることを特徴とする請求項4に記載の磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項6】
前記自由層の側面に付着した塩素の除去は、水素ガスを供給することにより行われることを特徴とする請求項4に記載の磁気抵抗素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−38815(P2012−38815A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175605(P2010−175605)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】