磁気抵抗素子及び磁気メモリ
【課題】高い磁気抵抗比を有し、かつメモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を確保する。
【解決手段】磁気抵抗素子10は、NaCl構造を有し、かつ(001)面に配向する窒化物から構成される下地層23と、下地層23上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつL10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成される第1の磁性層14と、第1の磁性層14上に設けられた第1の非磁性層16と、第1の非磁性層16上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層17とを含む。
【解決手段】磁気抵抗素子10は、NaCl構造を有し、かつ(001)面に配向する窒化物から構成される下地層23と、下地層23上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつL10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成される第1の磁性層14と、第1の磁性層14上に設けられた第1の非磁性層16と、第1の非磁性層16上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層17とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに係り、例えば双方向に電流を供給することで情報を記録することが可能な磁気抵抗素子及びそれを用いた磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗(Magnetoresistive)効果は、磁気記憶装置であるハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)に応用され、現在、実用化されている。HDDに搭載される磁気ヘッドは、GMR(Giant Magnetoresistive)効果、或いはTMR(Tunneling Magnetoresistive)効果が応用され、これらは共に2つの磁性層の磁化方向が互いに角度をなすことによって起こる抵抗変化を利用して、磁気媒体からの磁場を検出する。
【0003】
近年、GMR素子或いはTMR素子を利用して磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)を実現すべく、様々な技術が提案されている。その一例として、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子の磁化状態により“1”、“0”情報を記録し、TMR効果による抵抗変化でこの情報を読み出す形式が挙げられる。この形式のMRAMにおいても、実用化に向けて数々の技術が提案されている。例えば、電流により発生する磁場を利用して、磁性層の磁化の向きを反転させる磁場書き込み方式がある。電流により発生する磁場は、当然、電流が大きければ大きな磁場を発生できるが、微細化が進むほど配線に流せる電流も制限される。配線と磁性層の距離を近づける、或いは発生する磁場を集中させるヨーク構造を利用すれば、電流により発生する磁場の効率が向上し、磁性層の磁化を反転させるために必要な電流値を低減することはできる。しかし、微細化により磁性層の磁化反転に必要な磁場が増大するため、低電流化と微細化との両立が非常に難しい。
【0004】
微細化により磁性層の磁化反転に必要な磁場が増大するのは、熱擾乱に打ち勝つだけの磁気エネルギーを必要とするためである。磁気エネルギーを大きくするには、磁気異方性エネルギー密度と磁性層の体積とのいずれかを大きくすればよいが、微細化により体積が減少してしまうので、形状磁気異方性エネルギー或いは結晶磁気異方性エネルギーを大きくする、すなわち、磁気異方性エネルギー密度を大きくするのが一般的である。しかし、上述したように磁性層の持つ磁気エネルギーの増大は反転磁場を増大させるため、低電流化と微細化とを両立するのは非常に困難である。
【0005】
近年、スピン偏極電流による磁化反転が理論的に予想され、実験でも確認されるようになり、スピン偏極電流を利用したMRAMが提案されている。この方式によれば、磁性層にスピン偏極電流を流すだけで磁性層の磁化反転を実現でき、磁性層の体積が小さければ注入するスピン偏極電子も少なくて済むため、微細化、低電流化を両立できると期待されている。さらに、電流により発生する磁場を利用しないため、磁場を増加させるヨーク構造も必要ではなく、セル面積を縮小できるという利点を持つ。しかし、当然のことながらスピン偏極電流における磁化反転方式においても、熱擾乱の問題は微細化にともなって顕在化する。
【0006】
上述したように、熱擾乱耐性を確保するためには、磁気異方性エネルギー密度を増加させる必要がある。これまで主に検討されている面内磁化型の構成では、形状磁気異方性を利用するのが一般的である。この場合、形状を利用して磁気異方性を確保しているため、反転電流は形状敏感になり、微細化に伴い反転電流ばらつきが増加することが問題になる。形状磁気異方性を利用して磁気異方性エネルギー密度を増加させるには、MTJ素子のアスペクト比を大きくする、磁性層の膜厚を増加する、磁性層の飽和磁化を増加することが考えられる。
【0007】
MTJ素子のアスペクト比の増大は、セル面積を増大させ、大容量化に適さない。磁性体の膜厚、飽和磁化の増加は、スピン偏極電流による磁化反転に必要な電流値を増加させる結果となり、好ましくない。面内磁化型の構成で形状磁気異方性ではなく、結晶磁気異方性を利用する場合、大きな結晶磁気異方性エネルギー密度を有する材料(例えば、ハードディスク媒体で用いられているようなCo−Cr合金材料)を用いた場合、結晶軸が面内に大きく分散してしまうため、MR(Magnetoresistive)が低下し、或いはインコヒーレントな歳差運動が誘発され、結果として反転電流が増加してしまう。
【0008】
これに対し、垂直磁化型の構成で結晶磁気異方性を利用する場合、面内磁化型で課題であった結晶軸の分散を抑制することができる。例えば、前述したCo−Cr合金材料の結晶構造は六方晶構造であり、c軸を容易軸とした一軸の結晶磁気異方性を有するため、結晶方位をc軸が膜面の垂直方向と平行になるように制御すればよい。面内磁化型の場合、c軸を膜面内で一軸に揃える必要があり、各結晶粒の膜面内の回転が結晶軸の回転となって一軸方向を分散させてしまう。垂直磁化型の場合、c軸は膜面に垂直方向にあるため、各結晶粒が膜面内に回転しても、c軸は垂直方向を保ったままで分散しない。同様に、正方晶構造でもc軸を垂直方向に制御することにより、垂直磁化型のMTJ構成を実現することが可能になる。正方晶構造の磁性材料は、例えば、L10型の結晶構造を有するFe−Pt規則合金、Fe−Pd規則合金、Co−Pt規則合金、Fe−Co−Pt規則合金、Fe−Ni−Pt規則合金、或いはFe−Ni−Pd規則合金等が挙げられる。結晶磁気異方性を利用して垂直磁化型のMTJ構成を実現する場合は、MTJ素子のアスペクト比が1で良いため、微細化にも適している。
【0009】
MRAMの大容量化には、高い磁気抵抗比が必要である。近年、高い磁気抵抗比を示すバリア材料として、MgOを用いたMTJ素子の報告が多数あり、高い磁気抵抗比を実現するにはMgOの(100)面が配向していることが重要とされている。MgOはNaCl型の結晶構造を持ち、その(100)面は、L10構造の(001)面と格子整合の観点から好ましい。このため、垂直磁化型のMTJ素子において、L10型の垂直磁化膜を磁性層として用いることは磁気抵抗比の観点から非常に有望と言える。
【0010】
ところが、L10構造を垂直磁化膜とするには、その結晶配向性を(001)面に配向させることが必要になるため、結晶配向性を制御するための下地層が必要である。スピン偏極電流による磁化反転方式の場合、バリア層に電流が流れるため、MTJ素子の抵抗を低く抑える必要があり、抵抗の高い下地層を使用することは好ましくない。また、高い磁気抵抗比を実現するためには、磁性層をL10構造へと規則化させるために必要な熱工程で生じる拡散の影響が顕著に現われる、磁気抵抗比を劣化させる元素を下地層の材料として使用することは好ましくない。
【0011】
以上のように、スピン偏極電流による磁化反転を垂直磁化型のMTJ素子で実現できれば、書き込み電流の低減とビット情報の熱擾乱耐性の確保、セル面積の縮小を同時に満たすことが可能になる。さらにMgOバリアと格子整合の観点から好ましいL10構造の磁性材料を用いたMTJ素子が形成できれば、高い磁気抵抗比を実現することができる。ところが、L10構造の磁性材料を用いてMTJ素子を形成し、高い磁気抵抗比を実現した報告例及び具体的な方法はこれまで提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高い磁気抵抗比を有し、かつメモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を保つことが可能な磁気抵抗素子及び磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の視点に係る磁気抵抗素子は、NaCl構造を有し、かつ(001)面に配向する窒化物から構成される第1の下地層と、前記第1の下地層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつL10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層上に設けられた第1の非磁性層と、前記第1の非磁性層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層とを具備する。
【0014】
本発明の第2の視点に係る磁気メモリは、上記第1の視点に係る磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子を挟むように設けられ、かつ前記磁気抵抗素子に対して通電を行う第1及び第2の電極とを含むメモリセルを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い磁気抵抗比を有し、かつメモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を保つことが可能な磁気抵抗素子及び磁気メモリを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0017】
[第1の実施形態]
[1]L10構造を有する強磁性合金の下地層の構成
L10の呼称は、“Strukturebereichi”表記によるものであり、この構造の代表的な系によりCuAu I型とも呼ばれる。図1に示すように、L10構造は、2成分以上の合金においてそれらの成分元素が面心立方格子の2つの面心点(サイト1)と、残りの面心点及び隅点(サイト2)を異なる確率で占有することによって形成される。サイト1とサイト2との数は等しく、この構造の化学量論組成は50at%であり、面心立方の固溶体を生成する様々な合金において、その対称組成付近でL10構造は出現する。
【0018】
構成元素が格子点上をこのような規則的な配列を取ることにより、基本格子の面心立方格子では等価であった(002)或いは(110)面は、それぞれサイト1のみとサイト2のみとからなる2種類の(001)或いは(110)面に区別され、構造の対称性は低下する。その結果、L10構造のX線や電子線の回折像では、面心立方格子では禁制である(001)或いは(110)面の超格子反射が面心立方格子の基本反射に加えて現れる。
【0019】
一般に、L10構造では、[001]方向の格子定数cと、[100]並びに[010]方向の格子定数aとは等しくない。従って、L10構造を有する強磁性合金は、そのc軸が磁化容易軸となる。膜面に対して垂直方向を磁化容易軸とする垂直磁化膜を形成するには、L10構造の結晶配向性を(001)面が配向するように制御する必要がある。
【0020】
例えば、L10構造を有するFePtの場合、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カード、43−1359によれば、(001)面の強度は、(111)面からの回折強度を100とすると、30である。L10構造を有するCoPtの場合、JCPDSカード、43−1358によれば、(001)面の強度は36である。これらは粉末の場合であるため、無配向な形態の強度比と考えると、(001)面が配向する場合は、少なくとも(001)面の強度がこれらの強度以上であればよい。実際には、膜面に対して垂直方向が容易軸であれば、(001)面が配向し、かつ規則化しているため、X線回折や電子線回折からは前述した超格子反射である(001)面からの回折が確認される。
【0021】
前述したように、L10構造を有する垂直磁化膜とするには、その結晶配向性を(001)面を配向させることが必要になるため、結晶配向性を制御するための下地層が必要であり、磁気媒体の分野ではいくつかの報告がなされている。例えば、非特許文献1(IEEE Trans. Magn., vol. 41, 2005, pp.3331-3333, T. Maeda)によれば、L10構造のFePtの下地層として、Pt20nm/Cr5nm/NiTa25nmが開示されている。なお、積層膜の記載において、“/”の左側が上層、右側が下層を表している。また、特許文献1(特開2001−189010号公報)には、NaCl構造を有する酸化物、窒化物、或いは炭化物が開示され、それらの格子定数が3.52乃至4.20Åと規定している。非特許文献2(J. Magn. Magn. Mater., 193 (1999) 85-88, T. Suzuki et al.)によれば、下地層としてCr70nm/MgO10nmが開示されている。
【0022】
スピン偏極電流による磁化反転方式を実現する積層構造には、抵抗の高い下地層や、規則化に必要な熱工程で生じる拡散によって、飽和磁化若しくは磁気異方性エネルギー密度等の磁気特性、又はバリア抵抗若しくはMR比等の電気特性を顕著に劣化させる元素を含む下地層を用いることは好ましくない。このような観点から、前述の公知文献の下地層を適用することは好ましくない。すなわち、非特許文献1では、磁気抵抗(MR)比を顕著に減少させるCrが用いられており、また、非特許文献2では、抵抗の高いMgOが10nmと厚く形成されている。特許文献1では、NaCl構造を有する材料が多数記載されているが、一般的に酸化物は抵抗が高く、また、窒化物や炭化物についてはNaCl構造を有する材料を(100)面に配向させる具体的な手段が開示されていない。
【0023】
また、後述するが、本実施形態によるNaCl構造を有する窒化物の格子定数は3.52Å乃至4.20Åの範囲になくてもよい。また、磁気抵抗素子としてもMgO単結晶基板上に形成した報告例がいくつか存在するが、MR比は室温で数%と低い。また、大容量のMRAMを考える上で、MgO単結晶基板を用いることは非常に困難である。
【0024】
[1−1]下地層の実施例
このような視点から、発明者らは、L10構造を有する磁性層を良好に形成するための下地層に関して鋭意研究を行った。図2は、本実施形態に係る下地層13及び強磁性合金14を含む積層構造を示す断面図である。
【0025】
図2に示した積層構成は、熱酸化膜付きSi基板11上に、下地層13との密着層12として膜厚5nm程度のTa、下地層13上にL10構造の強磁性合金14として膜厚10nm程度のFePtB、保護層18として膜厚2nm程度のMgOを順次形成した構成である。
【0026】
本発明の実施例1における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.5nm程度のMgO、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0027】
本発明の実施例2における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22はなし、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0028】
比較例1における下地層13は、非特許文献1の構成であり、膜厚20nm程度のNiTa、膜厚20nm程度のCr、膜厚5nm程度のPtを順次形成した構成である。すなわち、この比較例1は、下地層21としてNiTa、下地層22及び23としてCr、下地層24としてPtを順次形成した構成である。比較例2における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.3nm程度のMgO、下地層23はなし、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0029】
実施例1、2及び比較例1、2のL10構造の強磁性合金14を構成するFePtBは、いずれも400℃の基板加熱を行いながら形成する。実施例1、2及び比較例1、2の磁化曲線(MHループ)を振動試料型磁力計で測定した結果を図3乃至図6にそれぞれ示す。図3乃至図6において、横軸は印加磁場(kOe)、縦軸は磁気モーメント(emu/cm2)である。また、図3乃至図6に示したいずれのMHループにおいても、実線が膜面の垂直方向(perp.)に磁場を印加した、容易軸方向のMHループであり、破線が膜面の面内方向(in-plane)に磁場を印加した、困難軸方向のMHループである。
【0030】
比較例1以外は、下地層13の中に下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20が形成されているため、磁性材料であるCo40Fe40B20のMHループと、L10構造の強磁性合金14であるFePtBのMHループとが重なったMHループになっている。これらを考慮してMHループを考察すると、容易軸方向のMHループと困難軸方向のMHループにおいて、それぞれ磁場が0の磁気モーメントを比較すると、いずれの構成でも容易軸方向のMHループの磁場0での磁気モーメントの方が大きく、膜面の垂直方向が容易軸である垂直磁化膜と言える。困難軸方向のMHループをみると、実施例1のMHループが最もヒステリシスが小さく、実施例2、比較例2、比較例1の順でヒステリシスが顕著に現われる。困難軸方向のMHループにヒステリシスが現われる場合、容易軸が分散していることが1つの原因と考えられる。
【0031】
実施例1、2及び比較例1、2におけるそれぞれのX線回折プロファイルを図7に示す。図7において、横軸は回折角2θ(deg.)、縦軸は回折強度(intensity)(arb. unit)である。図7に示すように、いずれのプロファイルもL10構造を示す規則格子線である(001)面からの回折ピークが検出され、また、基本格子線である(002)面からの回折ピークが検出されている以外には、L10構造に起因する回折ピークは検出されていない。すなわち、いずれのサンプルも(001)面が配向している。
【0032】
(001)面のロッキングカーブを測定し、ロッキングカーブの半値全幅を解析すると、実施例1、2が4〜5度、比較例1、2が10度程度である。これらの結果から実施例1、2は、比較例1、2に比べて、結晶配向性が良好で、磁化容易軸の分散が小さいことが分かる。また、実施例1、2において41度付近に回折ピークが見られるが、L10構造を有する強磁性合金14を形成しない積層構造のX線回折プロファイルを予め測定した結果、これはTiN(200)の回折ピークであることが分かっている。TiN(200)の予想される回折角度は42度近傍であり、格子定数が大きくなったTiN(200)が形成されていると考えられる。
【0033】
実施例1、2及び比較例1、2の透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)像からも顕著な差が確認できる。実施例1は、比較例1、2と比べると、L10構造の強磁性合金14であるFePtBの粒成長が比較例1、2よりも進んでおり、FePtBの結晶粒が大きい。これは、図7に示したX線回折プロファイルで実施例1の回折強度が他よりも大きいことと整合している。比較例2では、下地層22のMgOが1層としては認められず、下地層13の上に形成されたL10構造の強磁性合金14であるFePtBの表面が粗く、平滑性が顕著に劣化している。つまり、薄い酸化物層の上に金属層を直接形成する場合には、平滑性が劣化することが分かる。
【0034】
実施例1、2は、窒化物層(下地層23はTiN)上にバッファー層としての金属層(下地層24はPt)を形成しており、また、比較例1は、下地層21〜23はすべて金属層である。比較例1は、前述したように実施例1に比べてL10構造の強磁性合金14であるFePtBの結晶粒が小さく、このためにFePtBを形成した状態で短い周期のうねりが見られる。平滑性の観点からは、短い周期のうねりもトンネルバリア層の薄膜化を困難にする。
【0035】
実施例1と実施例2とを比較すると、下地層21のCo40Fe40B20と下地層23のTiNとの間に下地層22のMgOを形成しない実施例2は、下地層21であるCo40Fe40B20がその形成後の熱工程により、凝集していることが分かった。これは、下地層23より上層を形成するにあたり、表面粗さ(ラフネス)を増加させ、平滑性を損なう要因となる。MRAMを実現するにあたり、規格化抵抗RAは数10Ωμm2まで低減する必要があり、つまり、トンネルバリア層の膜厚は1nm程度に薄膜化しなければならない。このため、トンネルバリア層を形成する前の平滑性は非常に重要となり、下地層22が形成された方が好ましい。だたし、実施例2の下地層13を用いる場合は、下地層21のCo40Fe40B20が凝集しないように、Co40Fe40B20形成後の熱工程を制御すればよい。
【0036】
また、実施例1及び比較例2において、下地層24のPtを設けない構成を比較した。実施例1において下地層24のPtがない場合は、容易軸方向のMHループにより、Ptが存在する場合(実施例1)に比べて、FePtBの保磁力が小さい。これは、Ptがない構成は、Ptが存在する場合に比べて、FePtBの規則化が進行していないことを示唆する結果であるが、前述したように困難軸方向のMHループとの比較から(001)面が配向したL10構造の強磁性合金は形成されている。
【0037】
一方、比較例2において下地層24のPtがない場合は、薄い酸化物(MgO)上に金属層であるFePtBを直接形成しているため、平滑性も悪く、また、(001)面の配向性も比較例2よりもさらに悪い。従って、薄いMgO(酸化物)上にFePtBを形成するよりも、TiN(窒化物)上にFePtBを形成した方が、平滑性、(001)面の配向性がよいことが分かる。
【0038】
以上から、下地層13にNaCl構造を有する窒化物を用いることによって、結晶性、(001)面の配向性、平滑性が良好なL10構造の強磁性合金14を形成することができる。さらに、窒化物の配向性、平滑性を制御するためには、下地層21としてCo40Fe40B20のようなアモルファス層或いは微結晶層、及び下地層22としてNaCl構造を有する酸化物層が下地層13内に形成されていることが好ましい。
【0039】
次に、発明者らは図8のようなMTJ構造で高いMR比を実現する下地層に関して鋭意研究を行った。図8示したMTJ構造は、熱酸化膜付きSi基板11上に、下地層13との密着層12として膜厚5nm程度のTa、下地層13上にL10構造の強磁性合金で構成される固定層14として膜厚10nm程度のFePtB、MR比を増加させる界面層15として膜厚2nm程度のCo40Fe40B20、トンネルバリア層16として膜厚2nm程度のMgO、記録層17として膜厚3nm程度のFePt、保護層18として膜厚1nm程度のMgOを順次形成した構成である。
【0040】
固定層14のFePtBは、400℃の基板加熱を行いながら形成する。また、記録層17のFePtは、膜厚1.5nm程度のFeと膜厚1.5nm程度のPtとを順次形成し、保護層18のMgOを形成した後、400℃、2時間の真空中アニールを行い、規則化させる。
【0041】
本発明の実施例3における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.5nm程度のMgO、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0042】
本発明の実施例4における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22はなし、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0043】
比較例3における下地層13は、非特許文献1の構成であり、膜厚20nm程度のNiTa、膜厚20nm程度のCr、膜厚5nm程度のPtを順次形成した構成である。すなわち、この比較例3は、下地層21としてNiTa、下地層22及び23としてCr、下地層24としてPtを順次形成した構成である。
【0044】
実施例3、4、及び比較例3はともに、アニール処理後に、電極19として膜厚7nm程度のRuを形成する。実施例3、4、及び比較例3のMHループを図9乃至図11にそれぞれ示す。図9乃至図11に示すように、いずれも明瞭な保磁力差型のループが確認できる。
【0045】
これらの規格化抵抗RA及びMR比を測定したところ、実施例3:RA=10kΩμm2、MR比=80%、実施例4:RA=10kΩμm2、MR比=80%、比較例3:RA=10kΩμm2、MR比=55%であった。比較例3が実施例3、4に比べてMR比が小さいのは、基板加熱及びアニールの熱工程により、CrがMgO界面まで拡散してきたためである。すなわち、Crの存在しない実施例3、4では、MR比の高いMTJ構造が実現できることが確認できる。
【0046】
さらに、比較例3は、短い周期でのうねりのために、固定層14のFePtBの平滑性が悪いことも起因している。実施例3、4は、比較例3に比べて、固定層14のFePtBを形成した状態でのラフネスが長周期なため、界面層15のCo40Fe40B20を形成した状態では平滑性が向上する。このために、実施例3、4は、高いMR比を実現できている。
【0047】
実施例3と実施例4とを比較すると、実施例4は下地層21であるCo40Fe40B20がその形成後の熱工程により凝集しているため、実施例3よりも固定層14の平滑性が劣化しているが、トンネルバリア層16のMgOも2nm程度と比較的厚いため、実施例3と同様のMR比が実現できている。しかし、この状態でトンネルバリア層16の膜厚を薄くすると、実施例3よりも実施例4の方が早くMR比が膜厚に対して減少する。
【0048】
以上から、比較例3の下地構成では、下地を構成するCrの拡散により、MR比が劣化するため、実施例3、4による下地層の方が高いMR比を実現できる。また、実施例3、4では、固定層14のFePtBの平滑性が向上するため、比較例3に比べて、高いMR比を実現できる。
【0049】
[1−2]下地層13の材料
下地層13のうち、下地層23としては、NaCl構造を有する窒化物が用いられる。NaCl構造を有する窒化物は、導電性を有し、かつ結晶性がよいため、下地層に使用する材料としては適している。
【0050】
下地層23としては、TiNの他に、ZrN、NbN、VN等が挙げられる。このような窒化物を下地層23として用いた場合でも、磁気特性及びMR比ともに上記各実施例と同様の結果を得ることができる。ZrN、NbN、VNは、TiNと同様に、NaCl構造を有する窒化物である。NaCl構造を有する窒化物は、例えば、TiNのように金属が1元素ではなく、Ti−Zr−N、Ti−Al−Nのように金属が2元素であってもよい。また、下地層23は、Ti、Zr、Nb、Vの窒化物の他に、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、Ce等の窒化物を用いてもよい。
【0051】
窒化物は、標準生成自由エネルギーが低い方が安定に窒化物として存在し得ると言える。NaCl構造を有する代表的な窒化物の500℃における標準生成自由エネルギーを低い順に並べると、ZrN、TiN、CeN、VN、CrNとなる(金属データブックp.90、日本金属学会編)。窒化物が安定に存在できないと、窒化物の形成時及び形成後の熱工程により、窒化物を構成する元素の一部が拡散する可能性がある。このため、本実施形態で用いる窒化物は、その標準生成エネルギーが低い方が好ましく、このような観点からZrN、TiN、CeNがより好ましい。
【0052】
また、代表的なL10構造であるFePt、FePd、CoPtのa軸の格子定数はそれぞれ、3.846Å、3.86Å、3.82Åである。前述したNaCl構造を有する窒化物ZrN、TiN、CeNの格子定数はそれぞれ、4.537Å、4.215Å、5.02Åであり、格子定数の観点からは、TiN、ZrN、CeNの順で好ましい。また、下地層23である窒化物の膜厚は、厚すぎると平滑性が悪くなり、薄すぎると窒化物として機能しないため、3乃至30nmの範囲にあることが好ましい。
【0053】
下地層13のうち、下地層21は、平滑性、及び下地層23のNaCl構造を有する酸化物、窒化物の結晶性及び配向性を向上させる目的でアモルファス層或いは微結晶層が用いられる。アモルファス構造(或いは微結晶構造)からなる下地層21としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素と、ホウ素(B)、ニオブ(Nb)、シリコン(Si)、タンタル(Ta)、及びジルコニウム(Zr)のうち1つ以上の元素とを含む金属が挙げられる。
【0054】
具体的には、上記実施例で用いたCo40Fe40B20の他に、Co80B20、Fe80Si10B10等のアモルファス層(或いは、微結晶層)が挙げられる。さらに、CoZrB、NiSiB、FeNiSiB、FeCoZrB等も好ましい材料と言える。これらのアモルファス層を下地層21として用いた場合でも、磁気特性及びMR比ともに上記各実施例と同様の結果を得ることができる。
【0055】
これらのアモルファス層(或いは、微結晶層)は、形成時には明瞭な結晶構造を示さないが、成膜後の熱工程によって部分的に結晶化が開始して、ある領域が明瞭な結晶構造を示しても構わない。つまり、最終的にデバイスとして機能している際には、結晶構造を示していても構わない。このように、下地層21としてアモルファス層を用いることで、このアモルファス層上に、NaCl構造を有する酸化物及び窒化物を形成した場合に、これら酸化物及び窒化物が(100)面が配向しやすくなる。
【0056】
さらに、下地層21であるアモルファス層の膜厚は、厚すぎると成膜に時間がかかり、生産性が低下する要因となり、また、薄すぎるとNaCl構造の材料の配向性を整える層として機能しないため、1乃至10nmの範囲にあることが好ましい。
【0057】
下地層13のうち、下地層24としては、正方晶構造或いは立方晶構造を有し、かつ、格子定数が2.7乃至3.0Å、或いは3.7乃至4.2Åの範囲にあり、かつ、(001)面に配向した金属を用いることが好ましい。下地層23としての窒化物上にL10構造の強磁性合金で構成される固定層14としての規則合金を直接形成するよりも、窒化物と規則合金との間に、バッファー層としての下地層24を設けることで、規則合金の配向性をより向上させることができる。
【0058】
具体的には、下地層24は、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び金(Au)のうち1つの元素、或いは1つの元素を主成分とする合金から構成されていることが好ましい。下地層24である金属層の膜厚は、厚すぎると平滑性が悪くなり、薄すぎるとL10構造を有する規則合金の配向性を整える層として十分に機能しないため、1乃至10nmの範囲にあることが好ましい。
【0059】
下地層13のうち、下地層22としては、この下地層22より上層の平滑性、結晶性、配向性を向上させる目的で、NaCl構造を有する酸化物が用いられる。NaCl構造を有する酸化物としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうち少なくとも1つ以上の元素を主成分とする材料が挙げられる。下地層22である酸化物の膜厚は、厚すぎると抵抗が高くなり、直列抵抗が付加されてトンネルバリア層で生じる磁気抵抗比を損なうことになるため、少なくともバリア層の抵抗よりも小さくする必要があり、1nmよりも薄いことが好ましい。
【0060】
[1−3]L10構造の強磁性合金14の材料
例えば、記録層と固定層とが非磁性層を介して積層されたシングルピン構造のMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子において、基板側に固定層がある場合、L10構造の強磁性合金14は固定層に相当し、基板側に記録層がある場合は、L10構造の強磁性合金14は記録層に相当する。
【0061】
この規則合金は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)のうち1つ以上の元素と、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及び金(Au)のうち1つ以上の元素とから構成される。例えば、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co50Pt50、Fe30Ni20Pt50、Co30Fe20Pt50、Co30Ni20Pt50、Fe40Cu10Pt50、Fe50Pt25Pd25、Fe50Pt45Au5が挙げられる。なお、これらの規則合金は、上記組成比に限定されない。
【0062】
さらに、これらの規則合金に、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、及び銀(Ag)のうち少なくとも1つ以上の元素が合計で20at%以下の濃度で含まれていても構わない。「at%」は、原子(数)パーセントを表している。なお、非磁性元素が20at%より多く含まれていると、L10構造の強磁性合金14の垂直磁気異方性が劣化してしまうため好ましくない。
【0063】
また、L10構造の強磁性合金14は、グラニュラー構造を有していてもよい。グラニュラー構造を有するL10構造の強磁性合金14としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)のうち少なくとも1つ以上の元素と、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)のうち少なくとも1つ以上の元素とを含む規則合金に、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のうち1つ以上の元素の酸化物或いは窒化物が20vol%以下の濃度で含まれて構成される。「vol%」は、体積パーセントを表している。なお、酸化物或いは窒化物が20vol%より多く含まれていると、L10構造の強磁性合金14の垂直磁気異方性が劣化してしまうため好ましくない。
【0064】
[2]磁気抵抗素子(MTJ素子)
前述した下地層13及び規則合金(固定層14)を用いて、メモリ等に使用されるMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子10を構成することができる。以下に、下地層13及び規則合金(固定層14)をMTJ素子に適用した実施形態について説明する。
【0065】
[2−1]シングルピン構造
図12は、第1の実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子10の概略図である。図12中の矢印は、磁化方向を示している。なお、シングルピン構造とは、記録層と固定層とが非磁性層を介して積層された構造である。
【0066】
図12に示すように、MTJ素子10は、磁性体からなる固定層(ピンド層ともいう)14と、磁性体からなる記録層(自由層ともいう)17と、固定層14と記録層17との間に挟まれた非磁性層16とを有する積層構造である。そして、固定層14及び記録層17が垂直磁気異方性を有し、固定層14及び記録層17の磁化方向が膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。また、固定層14は、磁化(或いは、スピン)の方向が固定されている。記録層17は、磁化方向が変化(反転)可能である。
【0067】
MTJ素子10において、固定層14として磁化反転電流の大きな磁性層を用い、記録層17として固定層14よりも反転電流の小さい磁性層を用いることによって、高性能なMTJ素子10を実現することができる。スピン偏極電流により磁化反転を起こす場合、その反転電流は飽和磁化、異方性磁界、体積に比例するため、これらを適切に調整して、記録層17と固定層14との反転電流に差をつけることができる。また、記録層17及び固定層14で垂直磁化を実現するには、5×105erg/cc以上の結晶磁気異方性エネルギー密度を有する材料が望ましい。
【0068】
MTJ素子10は、非磁性層16が絶縁体の場合はTMR(Tunneling Magnetoresistive)効果を有し、非磁性層16が金属の場合はGMR(Giant Magnetoresistive)効果を有する。ここで、非磁性層16が絶縁体の場合は酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlOx)等が用いられ、非磁性層16が金属の場合は金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金が用いられる。
【0069】
(動作)
MTJ素子10は、スピン注入型の磁気抵抗素子である。従って、MTJ素子10にデータを書き込む、或いはMTJ素子10からデータを読み出す場合、MTJ素子10は、膜面(或いは、積層面)に垂直な方向において、双方向に電流通電される。また、MTJ素子10は、2つの磁性層(記録層17及び固定層14)の磁化配列が平行(Parallel)配列、或いは反平行(Anti-Parallel)配列となる。これら磁化配列により変化するMTJ素子10の抵抗値に、“0”、“1”の情報を対応させることで、記憶素子として用いることができる。
【0070】
具体的には、固定層14側から電子(すなわち、固定層14から記録層17へ向かう電子)を供給した場合、固定層14の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子が記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が平行配列となる。この平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も小さくなり、この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0071】
一方、記録層17側から電子(すなわち、記録層17から固定層14へ向かう電子)を供給した場合、固定層14により反射されることで固定層14の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子が記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と反対方向に揃えられる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が反平行配列となる。この反平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も大きくなり、この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0072】
以下に、シングルピン構造のMTJ素子10の具体例について説明する。
【0073】
(a)具体例1−1
具体例1−1のMTJ素子10は、前述した実施例3の構成と同様である。図13は、具体例1−1のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例1−1のMTJ素子10は、固定層14及び記録層17がそれぞれ、L10構造を有し、かつ(001)面が配向した強磁性合金(規則合金)が用いられる。この規則合金には、項目[1−3]に示した材料が用いられる。以下に、具体例1−1のMTJ素子10の一例について説明する。
【0074】
図13に示すように、MTJ素子10は、熱酸化膜付きSi基板11上に、下地層13との密着層12として膜厚10nm程度のTa、下地層13上に固定層14として膜厚10nm程度のFePtB、MR比を増加させる界面層15として膜厚2nm程度のCo40Fe40B20、トンネルバリア層16として膜厚2nm程度のMgO、記録層17として膜厚3nm程度のFePt、保護層18として膜厚1nm程度のMgOを順次形成した構成である。ここで、密着層12のTaは、下部電極としても機能する。
【0075】
固定層14のFePtBは、400℃の基板加熱を行いながら形成する。また、記録層17のFePtは、膜厚1.5nm程度のFeと膜厚1.5nm程度のPtとを順次形成し、保護層18のMgOを形成した後、400℃、2時間の真空中アニールを行い、規則化させる。アニール処理後に上部電極19として膜厚5nm程度のRu、膜厚100nm程度のTaを順次形成する。下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.5nm程度のMgO、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0076】
このような具体例1−1では、トンネルバリア層16のMgOは(100)面が配向しているため、高いMR比を実現することができる。具体例1−1について、振動試料型磁力計で保磁力及び飽和磁化をそれぞれ測定したところ、固定層14は6kOe、850emu/cc、記録層17は700Oe、1000emu/ccであった。ただし、固定層14と界面層15とは交換結合しているため、これらは1つの磁性層として振る舞うので、上述した保磁力及び飽和磁化は、固定層14と界面層15とを1つの磁性層として見た場合の値である。MTJ素子10のMR比は80%であった。
【0077】
具体例1−1の構成は、トンネルバリア層16に対して固定層14が下側(基板側)、記録層17が上側に配置されている、いわゆるボトムピン(bottom pin)構造である。具体例1−1と同様の構成をトンネルバリア層16に対して、固定層14が上側、記録層17が下側(基板側)に配置された、いわゆるトップピン(top pin)構造としてもよい。すなわち、具体例1−1で固定層14の位置に膜厚2nm程度のFePtBを記録層17として、界面層15を膜厚1nm程度のCo40Fe40B20とする。界面層15のCo40Fe40B20を1nmに設定しているのは、膜厚2nmのFePtBに対して、膜厚2nmのCo40Fe40B20を形成して交換結合させた場合、垂直磁化を維持できなくなるためである。記録層17の位置には、固定層14としてFePtBを膜厚10nm程度形成すればよい。
【0078】
ボトムピン構造及びトップピン構造ともに、固定層14の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、マンガン(Mn)と、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、或いはイリジウム(Ir)との合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMn等を用いることができる。
【0079】
(b)具体例1−2
具体例1−2のMTJ素子10は、具体例1−1の記録層17が人工格子であること、それに伴い、保護層18がPdであること以外は具体例1−1と同様の構成である。
【0080】
人工格子としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素或いは1つの元素を含む合金と、クロム(Cr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、金(Au)、及び銅(Cu)のうち1つの元素或いは1つの元素を含む合金とが交互に積層された構造を用いることができる。例えば、Co/Pt、Co/Pd、CoCr/Pt、Co/Ru、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu等の人工格子が挙げられる。また、人工格子を形成する磁性材料にCu等の非磁性金属を添加することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。さらに、磁性層と非磁性層との膜厚比を調整することでも、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0081】
以下に、具体例1−2のMTJ素子10の一例について説明する。記録層17は、膜厚1.0nm程度のCo60Fe20B20、膜厚0.7nm程度のPdを順次形成した後、さらに、膜厚0.3nm程度のCo50Fe50と膜厚1nm程度のPdとを1周期として2周期積層した人工格子からなる。保護層18は、膜厚3nm程度のPdからなる。具体例1−2では、記録層17がL10構造の規則合金ではないため、400℃、2時間の真空中アニールは行っていない。
【0082】
このような具体例1−2によるMTJ素子10において、動試料型磁力計で保磁力及び飽和磁化をそれぞれ測定したところ、記録層17は300Oe、500emu/ccであった。MTJ素子10のMR比は60%であった。
【0083】
なお、トンネルバリア層16として、酸化アルミニウム(AlOx)を用いてもよい。さらに、固定層14の磁化方向を固定するために、この固定層14に隣接して反強磁性層を設けてもよい。
【0084】
(c)具体例1−3
具体例1−3のMTJ素子10は、記録層17がフェリ磁性体であること、保護層18がRuとTaとが順次形成された構成であること以外は具体例1−1と同様の構成である。
【0085】
記録層17としては、希土類金属と遷移金属との合金からなるフェリ磁性体が用いられる。具体的には、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、或いはガドリニウム(Gd)と、遷移金属のうち1つ以上の元素とを含むアモルファス合金が用いられる。このようなフェリ磁性体としては、例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。これらの合金は、組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0086】
以下に、具体例1−3のMTJ素子10の一例について説明する。記録層17は、膜厚1nm程度のCo40Fe40B20、膜厚5nm程度のTb24(Co80Fe20)76を順次形成した構成である。保護層18は、膜厚3nm程度のRu、膜厚5nm程度のTaを順次形成した構成である。具体例1−3では、記録層17がL10構造の規則合金ではないため、400℃、2時間の真空中アニールは行っていない。
【0087】
このような具体例1−3によるMTJ素子10において、振動試料型磁力計で保磁力及び飽和磁化をそれぞれ測定したところ、記録層17は2.0kOe、300emu/ccであった。ただし、記録層17のCo40Fe40B20とTb24(Co80Fe20)76とは交換結合しているため、これらは1つの磁性層として振る舞い、上述した保磁力及び飽和磁化は1つの磁性層として見た場合の値である。MTJ素子10のMR比は、80%であった。
【0088】
なお、トンネルバリア層16として、酸化アルミニウム(AlOx)を用いてもよい。さらに、固定層14の磁化方向を固定するために、この固定層14に隣接して反強磁性層を設けてもよい。
【0089】
その他、記録層17としては、不規則合金を用いてもよい。不規則合金は、コバルト(Co)を主成分とし、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素を含む合金から構成される。例えば、CoCr、CoPt、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrNb等が挙げられる。これらの合金は、非磁性元素の割合を増加させて磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0090】
[2−2]デュアルピン構造
図14は、第1の実施形態に係るデュアルピン構造のMTJ素子10の概略図である。なお、デュアルピン構造とは、記録層の両側にそれぞれ非磁性層を介して2つの固定層が配置された構造である。
【0091】
図14に示すように、MTJ素子10は、磁性体からなる記録層17と、磁性体からなる第1及び第2の固定層14、33と、記録層17及び第1の固定層14間に挟まれた非磁性層16と、記録層17及び第2の固定層33間に挟まれた非磁性層31とを有する積層構造である。そして、固定層14、33、及び記録層17の磁化方向が膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。ここで、第1及び第2の固定層14、33は、磁化が反対方向に向く反平行配列である。
【0092】
非磁性層16、31としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlOx)等の絶縁体や、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金が用いられる。
【0093】
ここで、デュアルピン構造のMTJ素子10では、非磁性層16を挟む2つの磁性層(記録層17及び固定層14)、及び非磁性層31を挟む2つの磁性層(記録層17及び固定層33)は、平行、或いは反平行配列を取る。しかし、MTJ素子10全体として見た場合、平行配列と反平行配列とが同時に存在するため、非磁性層16、31を介したMR比に差を設けておく必要がある。
【0094】
従って、非磁性層16をトンネルバリア層とし、非磁性層31を金属とした場合、トンネルバリア層16で生じるMR比の方が非磁性層31で生じるMR比に比べて大きくなる。従って、トンネルバリア層16を挟む2つの磁性層(記録層17及び固定層14)の磁化配列を、“0”、“1”の情報に対応させる。
【0095】
(動作)
デュアルピン構造のMTJ素子10の動作について説明する。MTJ素子10にデータを書き込む、或いはMTJ素子10からデータを読み出す場合、MTJ素子10は、膜面(或いは、積層面)に垂直な方向において、双方向に電流通電される。
【0096】
固定層14側から電子(すなわち、固定層14から記録層17へ向かう電子)を供給した場合、固定層14の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子と、固定層33により反射されることで固定層33の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が平行配列となる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が平行配列となる。この平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も小さくなり、この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0097】
一方、固定層33側から電子(すなわち、固定層33から記録層17へ向かう電子)を供給した場合、固定層33の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子と、固定層14により反射されることで固定層14の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と反対方向に揃えられる。この反平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も大きくなり、この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0098】
このように、MTJ素子10を、固定層14、33を記録層17の両側に配置したデュアルピン構造にすることで、スピン偏極電子の反射の効果をより利用できるため、シングルピン構造よりもさらに磁化反転電流を低減することができる。
【0099】
以下に、デュアルピン構造のMTJ素子10の具体例について説明する。
【0100】
(a)具体例2−1
図15は、具体例2−1のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−1のMTJ素子10は、記録層17の両側に設けられた固定層14、33はともに単層構造であり、L10構造からなる強磁性合金で構成される。以下に、具体例2−1のMTJ素子10の一例について説明する。
【0101】
基板11から記録層17までは具体例1−1と同様の構成である。記録層17を形成後、成膜装置内で大気暴露することなく、400℃、2時間の真空中アニールを行い、記録層17をL10構造へと規則化させる。このアニール処理後、スペーサー層31として膜厚5nm程度のAu、界面層32として膜厚2nm程度のFe、固定層33として膜厚10nm程度のFePt、電極19として膜厚5nm程度のRu、及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。
【0102】
固定層33の保磁力は固定層14の保磁力よりも大きく、この保磁力の差を利用して固定層14と固定層33との磁化配列を反平行に設定することが可能となる。すなわち、2回の着磁を行えばよい。まず、1回目の磁場印加により、固定層14の磁化と、記録層17及び固定層33の磁化とは、同じ方向に配列する。ここで、固定層14と界面層15とは交換結合しているため、一体化した固定層として振る舞う。固定層33と界面層32とについても同様である。
【0103】
その後、2回目の磁場印加は、1回目と逆向きに行う。この2回目の印加磁場は、一体化した固定層として振る舞う固定層14及び界面層15の保磁力よりも大きく、固定層33及び界面層32の保磁力よりも小さく設定する。これにより、固定層33の磁化方向に対して、記録層17及び固定層14の磁化は逆方向になる。このようにして、図15に示すような磁化配列を実現することができる。
【0104】
この構成では、スペーサー層31のAuを介した磁気抵抗の変化より、トンネルバリア層16のMgOを介した磁気抵抗の変化の方が大きく、MTJ素子10は、記録層17と固定層14との磁化配列、及び記録層17と固定層33との磁化配列によって、情報を記憶する。なお、記録層17とトンネルバリア層16との界面、及び記録層17とスペーサー層31との界面に、分極率の大きな磁性材料を界面層として設置しても構わない。また、スペーサー層31を、例えば、酸化マグネシウム(MgO)や酸化アルミニウム(AlOx)のような絶縁層にしても構わない。この場合、スペーサー層31の抵抗及びMR比をトンネルバリア層16よりも小さくすれば、動作上は問題ない。
【0105】
なお、固定層14、33の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、マンガン(Mn)と、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、或いはイリジウム(Ir)との合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMn等を用いることができる。
【0106】
また、固定層14を除いた各磁性層は、具体例1−1乃至1−3で述べたように、規則合金、人工格子、フェリ磁性体、不規則合金から適宜選択することができる。
【0107】
(b)具体例2−2
図16は、具体例2−2のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−2のMTJ素子10は、非磁性層16が金属からなるスペーサー層、非磁性層31が絶縁体からなるトンネルバリア層であり、GMR構造が下側(基板側)、TMR構造が上側の構成である。その他の構成は、具体例2−1と同様である。以下に、具体例2−2のMTJ素子10の一例について説明する。
【0108】
スペーサー層16である膜厚5nm程度のAu上に、記録層17として膜厚2nm程度のFePtB、及び膜厚1nm程度のCo40Fe40B20を順次形成する。FePtBは、基板温度400℃で形成する。さらに、記録層17上に、トンネルバリア層31として膜厚2nm程度のMgO、界面層32として膜厚2nm程度のFe、固定層33として膜厚12nm程度のFePt、電極19として膜厚5nm程度のRu及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。
【0109】
なお、固定層14、33の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。また、固定層14を除いた各磁性層は、具体例1−1乃至1−3で述べたように、規則合金、人工格子、フェリ磁性体、不規則合金から適宜選択することができる。
【0110】
(c)具体例2−3
図17は、具体例2−3のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−3のMTJ素子10は、非磁性層16及び31がともに絶縁体からなるトンネルバリア層であり、下側(基板側)及び上側がともにTMR構造である。非磁性層31が絶縁体であること以外は、具体例2−1と同様の構成である。以下に、具体例2−3のMTJ素子10の一例について説明する。
【0111】
基板11から記録層17までは具体例2−1と同様の構成である。記録層17を形成後、成膜装置内で大気暴露することなく、400℃、2時間の真空中アニールを行い、記録層17をL10構造へと規則化させる。このアニール処理後、トンネルバリア層31として膜厚1.0nm程度のMgO、界面層32として膜厚2nm程度のFe、固定層33として膜厚10nm程度のFePt、電極19として膜厚5nm程度のRu、及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。トンネルバリア層16は膜厚2nm程度のMgOであり、一方、トンネルバリア層31のMgOは膜厚が1nmであり、抵抗差は大きく、磁気抵抗比はトンネルバリア層16が支配的となる。
【0112】
なお、固定層14、33の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。また、固定層14を除いた各磁性層は、具体例1−1乃至1−3で述べたように、規則合金、人工格子、フェリ磁性体、不規則合金から適宜選択することができる。
【0113】
(d)具体例2−4
図18は、具体例2−4のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−4のMTJ素子10は、固定層33がSAF(Synthetic Anti-Ferromagnet)構造になっていること以外は具体例2−1と同様の構成であり、TMR構造が下側(基板側)、GMR構造が上側に配置される。SAF構造は、2つの磁性層が反強磁性的に交換結合した構造である。固定層33は、第1の磁性層33−1と、第2の磁性層33−3と、第1及び第2の磁性層33−1、33−3間に挟まれた非磁性層33−2とからなり、第1及び第2の磁性層33−1、33−3が反強磁性的に交換結合したSAF構造である。
【0114】
この場合、第1及び第2の磁性層33−1、33−3の磁化配列が反平行であるので、第1及び第2の磁性層33−1、33−3からの漏れ磁場を相殺し、結果として固定層33の漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層は、体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。非磁性層33−2の材料としては、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)のうち1つの元素或いは1つ以上の元素を含む合金が挙げられる。
【0115】
以下に、具体例2−4のMTJ素子10の一例について説明する。基板11から記録層17までは具体例1−1と同様の構成である。
【0116】
記録層17を形成後、成膜装置内で大気暴露することなく、400℃、2時間の真空中アニールを行い、記録層17をL10構造へと規則化させる。このアニール処理後、スペーサー層31として膜厚5nm程度のCu、界面層32として膜厚1nm程度のCo、固定層33は後述するSAF構造を形成し、電極19として膜厚5nm程度のRu及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。
【0117】
固定層33は、界面層32上に、第1の磁性層33−1として膜厚1nm程度のPtと膜厚0.3nm程度のCoとを1周期とした4周期の[Pt/Co]4人工格子、非磁性層33−2として膜厚0.9nm程度のRu、第2の磁性層33−3として膜厚0.3nm程度のCoと膜厚1nm程度のPtとを1周期とした5周期の[Co/Pt]5人工格子を順次形成した構成である。
【0118】
なお、第1及び第2の磁性層33−1、33−3がRE−TM合金のフェリ磁性体からなる場合も、反強磁性結合を実現することができる。この場合、非磁性層33−2は必ずしも用いなくてもよい。その一例を、図19及び図20を用いて説明する。
【0119】
RE−TM合金は、希土類金属(RE)の磁気モーメントと遷移金属(TM)の磁気モーメントとが反強磁性的に結合した状態にある。RE−TM合金を積層した場合、RE同士、TM同士が強磁性的に結合することが知られている。この場合、RE及びTMの磁気モーメントが互いに相殺するため、RE−TM合金としての磁気モーメントは、組成により調整することができる。
【0120】
例えば、図19に示すように、REの磁気モーメント41がTMの磁気モーメント42より大きいRE−TM合金層33−1の場合、残った磁気モーメント43はREの磁気モーメント41と同じ方向になる。このRE−TM合金層33−1上に、REの磁気モーメント44がTMの磁気モーメント45より大きいRE−TM合金層33−3を積層すると、REの磁気モーメント41、44同士、TMの磁気モーメント42、45同士がそれぞれ同じ向きになり、2つのRE−TM合金層33−1、33−3の磁気モーメント43、46は同じ方向を向き、平行な状態となる。
【0121】
これに対し、図20に示すように、REの磁気モーメント44がTMの磁気モーメント45より小さいRE−TM合金層33−3をRE−TM合金層33−1上に積層した場合、2つのRE−TM合金層33−1、33−3の磁気モーメント43、46は反平行な状態となる。
【0122】
例えば、Tb−Co合金は、Tbが22at%でTbの磁気モーメントとCoの磁気モーメントとの大きさが同じになり、磁気モーメントがほぼゼロであるいわゆる補償組成となる。膜厚10nm程度のTb25Co75と膜厚10nm程度のTb20Co80とを積層した場合、これらの磁気モーメントは反平行となる。
【0123】
このような形態を利用して、2つの磁性層33−1、33−3が反平行に結合した固定層33を作製することができる。例えば、固定層33を構成する第1の磁性層33−1は膜厚15nm程度のTb26(Fe71Co29)74からなり、第2の磁性層33−3は膜厚20nm程度のTb22(Fe71Co29)78からなる。ここで、Tb24(Fe71Co29)76が補償組成である。
【0124】
このような構成のMTJ素子10では、一方向に一度だけ着磁することで、図14に示した固定層14、33の磁化配列と同じ磁化配列を実現できる。すなわち、固定層33のTMの磁気モーメントはREの磁気モーメントより小さく、TMの磁気モーメントはREの磁気モーメントと反対方向を向くため、固定層33の磁化は着磁した方向と逆向きになる。
【0125】
また、第1及び第2の磁性層33−1、33−3がRE−TM合金からなる場合に、第1及び第2の磁性層33−1、33−3間に非磁性層33−2を設けて反強磁性結合を実現することも可能である。その一例を、図21及び図22を用いて説明する。
【0126】
図21に示す第1及び第2の磁性層33−1、33−3のTMの磁気モーメント42、45は、非磁性層33−2を介して交換結合すると考えられる。同様に、図22に示す第1及び第2の磁性層33−1、33−3のTMの磁気モーメント42、45は、非磁性層33−2を介して交換結合すると考えられる。
【0127】
例えば、図21に示すように、Coを反強磁性的に結合させる金属を非磁性層33−2として用いた場合は、RE−TM合金層33−1のREの磁気モーメント41をTMの磁気モーメント42より大きくし、一方、RE−TM合金層33−3のREの磁気モーメント44をTMの磁気モーメント45より大きくする。すなわち、非磁性層33−2が反強磁性結合に寄与する場合、TMの磁気モーメント42及びREの磁気モーメント41の大小関係と、TMの磁気モーメント45及びREの磁気モーメント44の大小関係とを同じに設定すれば、TMとREとの磁気モーメントが互いに相殺され、磁気モーメント43、46が反平行となる。なお、Coを反強磁性的に結合させる非磁性層33−2の材料としては、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、及びロジウム(Rh)のうち1つの元素或いは1つ以上の元素を含む合金が挙げられる。
【0128】
また、図22に示すように、Coを強磁性的に結合させる金属を非磁性層33−2として用いた場合は、RE−TM合金層33−1のREの磁気モーメント41をTMの磁気モーメント42より大きくし、RE−TM合金層33−3のREの磁気モーメント44をTMの磁気モーメント45より小さくする。すなわち、非磁性層33−2が強磁性結合に寄与する場合、TMの磁気モーメント42及びREの磁気モーメント41の大小関係と、TMの磁気モーメント45及びREの磁気モーメント44の大小関係とを逆に設定すれば、TMとREとの磁気モーメントが互いに相殺され、磁気モーメント43、46が反平行となる。なお、Coを強磁性的に結合させる非磁性層22−2の材料としては、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)のうち1つの以上の元素或いは1つ以上の元素を含む合金が挙げられる。
【0129】
この他、REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいRE−TM合金と、遷移金属を主成分とする金属或いは合金とを積層して固定層33を構成してもよい。
【0130】
以上詳述したように第1の実施形態では、下地層13のうち下地層23に、導電性を有しかつNaCl構造の窒化物を用いている。NaCl構造を有する窒化物は結晶性がよいため、下地層23より上に配置される規則合金(固定層14)の結晶性、(001)面の配向性、及び平滑性を向上させることができる。すなわち、規則合金14として、磁化方向が膜面に対し垂直方向を容易軸とする垂直磁化膜を形成することができる。
【0131】
また、下地層23に窒化物を用いることで、下地層13の抵抗を低く抑える事ができ、直列抵抗の付加による磁気抵抗比の減少を抑制することができる。また、下地層13上の規則合金(固定層14)の平滑性が向上するため、この規則合金上に形成されるMgOの平滑性も向上する。
【0132】
また、下地層13の最下層としてアモルファス構造或いは微結晶構造の金属からなる下地層21を用いているため、下地層22の酸化物及び下地層23の窒化物の結晶性及び配向性を向上させることができる。また、下地層21と下地層23との間にNaCl構造を有する酸化物からなる下地層22を設けているため、この下地層22上の窒化物の平滑性を向上させることができる。
【0133】
また、下地層23と規則合金(固定層14)との間に、正方晶構造或いは立方晶構造を有し、かつ、格子定数が2.7乃至3.0Å、3.7乃至4.2Åの範囲にあり、かつ、(001)面に配向した金属からなる下地層24を設けるようにしている。このように、下地層23としての窒化物上に規則合金を直接形成するよりも、窒化物と規則合金との間に、バッファー層としての下地層24を設けることで、規則合金の配向性をより向上させることができる。
【0134】
また、このような下地層13上にL10構造の規則合金を形成することで、この規則合金を(001)面に配向させることが可能となる。さらに、(001)面に配向する規則合金上にMgOを形成することで、(100)面に配向したMgO形成することができる。これにより、高い磁気抵抗比を実現することが可能となる。
【0135】
また、L10構造を有する強磁性合金14の規則化に必要な熱工程で生じる拡散によって、MTJ素子10の磁気特性及び電気特性を劣化させる元素を下地層13に用いていない。これにより、本実施形態の下地層13を用いた場合でも、MTJ素子10の磁気特性及び電気特性が劣化するのを防ぐことが可能となる。
【0136】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態で示したMTJ素子10を用いてMRAMを構成した場合の例について示している。
【0137】
図23は、本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す回路図である。MRAMは、マトリクス状に配列された複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ50を備えている。メモリセルアレイ50には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線対BL,/BLが配設されている。また、メモリセルアレイ50には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配設されている。
【0138】
ビット線BLとワード線WLとの交差部分には、メモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、MTJ素子10、及びNチャネルMOSトランジスタからなる選択トランジスタ51を備えている。MTJ素子10の一端は、ビット線BLに接続されている。MTJ素子10の他端は、選択トランジスタ51のドレイン端子に接続されている。選択トランジスタ51のゲート端子は、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタ51のソース端子は、ビット線/BLに接続されている。
【0139】
ワード線WLには、ロウデコーダ52が接続されている。ビット線対BL,/BLには、書き込み回路54及び読み出し回路55が接続されている。書き込み回路54及び読み出し回路55には、カラムデコーダ53が接続されている。各メモリセルMCは、ロウデコーダ52及びカラムデコーダ53により選択される。
【0140】
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。先ず、データ書き込みを行なうメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLが活性化される。これにより、選択トランジスタ51がターンオンする。
【0141】
ここで、MTJ素子10には、書き込みデータに応じて、双方向の書き込み電流Iwが供給される。具体的には、MTJ素子10に左から右へ書き込み電流Iwを供給する場合、書き込み回路54は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線/BLに接地電圧を印加する。また、MTJ素子10に右から左へ書き込み電流Iwを供給する場合、書き込み回路54は、ビット線/BLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加する。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”、或いはデータ“1”を書き込むことができる。
【0142】
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。まず、選択されたメモリセルMCの選択トランジスタ51がターンオンする。読み出し回路55は、MTJ素子10に、例えば右から左へ流れる読み出し電流Irを供給する。そして、読み出し回路55は、この読み出し電流Irに基づいて、MTJ素子10の抵抗値を検出する。このようにして、MTJ素子10に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0143】
次に、MRAMの構造について説明する。図24は、メモリセルMCを中心に示したMRAMの構成を示す断面図である。
【0144】
P型半導体基板61の表面領域には、素子分離絶縁層が設けられ、この素子分離絶縁層が設けられていない半導体基板61の表面領域が素子を形成する素子領域(active area)となる。素子分離絶縁層は、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により構成される。STIとしては、例えば酸化シリコンが用いられる。
【0145】
半導体基板61の素子領域には、離間したソース領域S及びドレイン領域Dが設けられている。このソース領域S及びドレイン領域Dはそれぞれ、半導体基板61内に高濃度のN+型不純物を導入して形成されたN+型拡散領域から構成される。ソース領域S及びドレイン領域D間で半導体基板61上には、ゲート絶縁膜51Aを介して、ゲート電極51Bが設けられている。ゲート電極51Bは、ワード線WLとして機能する。このようにして、半導体基板61には、選択トランジスタ51が設けられている。
【0146】
ソース領域S上には、コンタクト62を介して配線層63が設けられている。配線層63は、ビット線/BLとして機能する。
【0147】
ドレイン領域D上には、コンタクト64を介して引き出し線65が設けられている。引き出し線65上には、下部電極12及び上部電極19に挟まれたMTJ素子10が設けられている。上部電極19上には、配線層66が設けられている。配線層66は、ビット線BLとして機能する。また、半導体基板61と配線層66との間は、例えば酸化シリコンからなる層間絶縁層67で満たされている。
【0148】
以上詳述したように、第1の実施形態で示したMTJ素子10を用いてMRAMを構成することができる。なお、MTJ素子10は、スピン注入型の磁気メモリの他、磁壁移動型の磁気メモリにも使用することが可能である。
【0149】
また、第2の実施形態で示したMRAMは、様々な装置に適用することが可能である。MRAMのいくつかの適用例について以下に説明する。
【0150】
(適用例1)
図25は、デジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部を抽出して示している。このモデムは、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)100、アナログ−デジタル(A/D)コンバータ110、デジタル−アナログ(D/A)コンバータ120、送信ドライバ130、及び受信機増幅器140等を含んで構成されている。
【0151】
図25では、バンドパスフィルタを省略しており、その代わりに回線コードプログラム(DSPで実行される、コード化された加入者回線情報、伝送条件等(回線コード:QAM、CAP、RSK、FM、AM、PAM、DWMT等)に応じてモデムを選択、動作させるためのプログラム)を保持するための種々のタイプのオプションのメモリとして、本実施形態のMRAM170とEEPROM180とを示している。
【0152】
なお、本適用例では、回線コードプログラムを保持するためのメモリとしてMRAM170とEEPROM180との2種類のメモリを用いているが、EEPROM180をMRAMに置き換えてもよい。すなわち、2種類のメモリを用いず、MRAMのみを用いるように構成してもよい。
【0153】
(適用例2)
図26は、別の適用例として、携帯電話端末300を示している。通信機能を実現する通信部200は、送受信アンテナ201、アンテナ共用器202、受信部203、ベースバンド処理部204、音声コーデックとし用いられるDSP205、スピーカ(受話器)206、マイクロホン(送話器)207、送信部208、及び周波数シンセサイザ209等を備えている。
【0154】
また、この携帯電話端末300には、当該携帯電話端末の各部を制御する制御部220が設けられている。制御部220は、CPU221、ROM222、本実施形態のMRAM223、及びフラッシュメモリ224がバス225を介して接続されて形成されたマイクロコンピュータである。上記ROM222には、CPU221において実行されるプログラムや表示用のフォント等の必要となるデータが予め記憶されている。
【0155】
MRAM223は、主に作業領域として用いられるものであり、CPU221がプログラムの実行中において計算途中のデータ等を必要に応じて記憶したり、制御部220と各部との間でやり取りするデータを一時記憶したりする場合等に用いられる。また、フラッシュメモリ224は、携帯電話端末300の電源がオフされても、例えば直前の設定条件等を記憶しておき、次の電源オン時に同じ設定にするような使用方法をする場合に、それらの設定パラメータを記憶しておくものである。これによって、携帯電話端末300の電源がオフにされても、記憶されている設定パラメータを消失してしまうことがない。
【0156】
さらに、この携帯電話端末300には、オーディオ再生処理部211、外部出力端子212、LCDコントローラ213、表示用のLCD(液晶ディスプレイ)214、及び呼び出し音を発生するリンガ215等が設けられている。上記オーディオ再生処理部211は、携帯電話端末300に入力されたオーディオ情報(或いは、後述する外部メモリ240に記憶されたオーディオ情報)を再生する。再生されたオーディオ情報は、外部出力端子212を介してヘッドフォンや携帯型スピーカ等に伝えることにより、外部に取り出すことが可能である。このように、オーディオ再生処理部211を設けることにより、オーディオ情報の再生が可能となる。上記LCDコントローラ213は、例えば上記CPU221からの表示情報をバス225を介して受け取り、LCD214を制御するためのLCD制御情報に変換し、LCD214を駆動して表示を行わせる。
【0157】
携帯電話端末300には、インターフェース回路(I/F)231,233,235、外部メモリ240、外部メモリスロット232、キー操作部234、及び外部入出力端子236等が設けられている。上記外部メモリスロット232にはメモリカード等の外部メモリ240が挿入される。この外部メモリスロット232は、インターフェース回路(I/F)231を介してバス225に接続される。このように、携帯電話端末300にスロット232を設けることにより、帯電話端末300の内部の情報を外部メモリ240に書き込んだり、或いは外部メモリ240に記憶された情報(例えばオーディオ情報)を携帯電話端末300に入力したりすることが可能となる。
【0158】
上記キー操作部234は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続される。キー操作部234から入力されたキー入力情報は、例えばCPU221に伝えられる。上記外部入出力端子236は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続され、携帯電話端末300に外部から種々の情報を入力したり、或いは携帯電話端末300から外部へ情報を出力したりする際の端子として機能する。
【0159】
なお、本適用例では、ROM222、MRAM223、及びフラッシュメモリ224を用いているが、フラッシュメモリ224をMRAMに置き換えてもよいし、さらにROM222もMRAMに置き換えることも可能である。
【0160】
(適用例3)
図27乃至図31は、MRAMをスマートメディア等のメディアコンテンツを収納するカード(MRAMカード)に適用した例をそれぞれ示す。
【0161】
図27に示すように、MRAMカード本体400には、MRAMチップ401が内蔵されている。このカード本体400には、MRAMチップ401に対応する位置に開口部402が形成され、MRAMチップ401が露出されている。この開口部402にはシャッター403が設けられており、当該MRAMカードの携帯時にMRAMチップ401がシャッター403で保護されるようになっている。このシャッター403は、外部磁場を遮蔽する効果のある材料、例えばセラミックからなっている。データを転写する場合には、シャッター403を開放してMRAMチップ401を露出させて行なう。外部端子404は、MRAMカードに記憶されたコンテンツデータを外部に取り出すためのものである。
【0162】
図28及び図29は、上記MRAMカードにデータを転写するための、カード挿入型の転写装置500の上面図及び断面図を示している。
【0163】
データ転写装置500は、収納部500aを有している。この収納部500aには、第1のMRAMカード550が収納されている。収納部500aには、第1のMRAMカード550に電気的に接続された外部端子530が設けられており、この外部端子530を用いて第1のMRAMカード550のデータが書き換えられる。
【0164】
エンドユーザの使用する第2MRAMカード450を、矢印で示すように転写装置500の挿入部510より挿入し、ストッパ520で止まるまで押し込む。このストッパ520は、第1MRAM550と第2MRAMカード450を位置合わせするための部材としても働く。第2MRAMカード450が所定位置に配置されると、第1MRAMデータ書き換え制御部から外部端子530に制御信号が供給され、第1MRAM550に記憶されたデータが第2MRAMカード450に転写される。
【0165】
図30には、はめ込み型の転写装置を示す。この転写装置は、矢印で示すように、ストッパ520を目標に、第1MRAM550上に第2MRAMカード450をはめ込むように載置するタイプである。転写方法についてはカード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0166】
図31には、スライド型の転写装置を示す。この転写装置は、CD−ROMドライブやDVDドライブと同様に、転写装置500に受け皿スライド560が設けられており、この受け皿スライド560が矢印で示すように移動する。受け皿スライド560が破線の位置に移動したときに第2MRAMカード450を受け皿スライド560に載置し、第2MRAMカード450を転写装置500の内部へ搬送する。ストッパ520に第2MRAMカード450の先端部が当接するように搬送される点、及び転写方法についてはカード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0167】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】L10構造を説明する図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る下地層13及び強磁性合金14を含む積層構造を示す断面図。
【図3】実施例1に係るMHループを示す図。
【図4】実施例2に係るMHループを示す図。
【図5】比較例1に係るMHループを示す図。
【図6】比較例2に係るMHループを示す図。
【図7】実施例1、2及び比較例1、2におけるそれぞれのX線回折プロファイルを示す図。
【図8】第1の実施形態に係るMTJ構造を示す断面図。
【図9】実施例3に係るMHループを示す図。
【図10】実施例4に係るMHループを示す図。
【図11】比較例3に係るMHループを示す図。
【図12】第1の実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子10の概略図。
【図13】具体例1−1のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図14】第1の実施形態に係るデュアルピン構造のMTJ素子10の概略図。
【図15】具体例2−1のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図16】具体例2−2のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図17】具体例2−3のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図18】具体例2−4のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図19】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図20】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図21】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図22】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図23】本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す回路図。
【図24】メモリセルMCを中心に示したMRAMの構成を示す断面図。
【図25】MRAMの適用例1に係るデジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部を示すブロック図。
【図26】MRAMの適用例2に係る携帯電話端末300を示すブロック図。
【図27】MRAMの適用例3に係るMRAMカード400を示す上面図。
【図28】MRAMカードにデータを転写するための転写装置500を示す平面図。
【図29】MRAMカードにデータを転写するための転写装置500を示す断面図。
【図30】MRAMカードにデータを転写するための、はめ込み型の転写装置500を示す断面図。
【図31】MRAMカードにデータを転写するための、スライド型の転写装置500を示す断面図。
【符号の説明】
【0169】
10…MTJ素子、11…基板、12…密着層(下部電極)、13…下地層、14…強磁性合金(固定層)、15…界面層、16…トンネルバリア層、17…記録層、18…保護層、19…上部電極、21〜24…下地層、31…スペーサー層、32…界面層、33…固定層、33−1,33−3…磁性層、33−2…非磁性層、50…メモリセルアレイ、51…選択トランジスタ、51A…ゲート絶縁膜、51B…ゲート電極、52…ロウデコーダ、53…カラムデコーダ、54…書き込み回路、55…読み出し回路、61…半導体基板、62,64…コンタクト、63,66…配線層、65…引き出し線、67…層間絶縁層、MC…メモリセル、BL…ビット線、WL…ワード線、S…ソース領域、D…ドレイン領域、100…DSP、110…A/Dコンバータ、120…D/Aコンバータ、130…送信ドライバ、140…受信機増幅器、170…MRAM、180…EEPROM、200…通信部、201…送受信アンテナ、202…アンテナ共用器、203…受信部、204…ベースバンド処理部、205…DSP、206…スピーカ、207…マイクロホン、208…送信部、209…周波数シンセサイザ、211…オーディオ再生処理部、212…外部出力端子、213…LCDコントローラ、214…LCD、215…リンガ、220…制御部、221…CPU、222…ROM、223…MRAM、224…フラッシュメモリ、225…バス、231,233,235…インターフェース回路、232…外部メモリスロット、232…スロット、234…キー操作部、236…外部入出力端子、240…外部メモリ、300…携帯電話端末、400…MRAMカード本体、401…MRAMチップ、402…開口部、403…シャッター、404…外部端子、450…MRAMカード、500…転写装置、510…挿入部、520…ストッパ、530…外部端子、550…MRAM、560…受け皿スライド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに係り、例えば双方向に電流を供給することで情報を記録することが可能な磁気抵抗素子及びそれを用いた磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗(Magnetoresistive)効果は、磁気記憶装置であるハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)に応用され、現在、実用化されている。HDDに搭載される磁気ヘッドは、GMR(Giant Magnetoresistive)効果、或いはTMR(Tunneling Magnetoresistive)効果が応用され、これらは共に2つの磁性層の磁化方向が互いに角度をなすことによって起こる抵抗変化を利用して、磁気媒体からの磁場を検出する。
【0003】
近年、GMR素子或いはTMR素子を利用して磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)を実現すべく、様々な技術が提案されている。その一例として、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子の磁化状態により“1”、“0”情報を記録し、TMR効果による抵抗変化でこの情報を読み出す形式が挙げられる。この形式のMRAMにおいても、実用化に向けて数々の技術が提案されている。例えば、電流により発生する磁場を利用して、磁性層の磁化の向きを反転させる磁場書き込み方式がある。電流により発生する磁場は、当然、電流が大きければ大きな磁場を発生できるが、微細化が進むほど配線に流せる電流も制限される。配線と磁性層の距離を近づける、或いは発生する磁場を集中させるヨーク構造を利用すれば、電流により発生する磁場の効率が向上し、磁性層の磁化を反転させるために必要な電流値を低減することはできる。しかし、微細化により磁性層の磁化反転に必要な磁場が増大するため、低電流化と微細化との両立が非常に難しい。
【0004】
微細化により磁性層の磁化反転に必要な磁場が増大するのは、熱擾乱に打ち勝つだけの磁気エネルギーを必要とするためである。磁気エネルギーを大きくするには、磁気異方性エネルギー密度と磁性層の体積とのいずれかを大きくすればよいが、微細化により体積が減少してしまうので、形状磁気異方性エネルギー或いは結晶磁気異方性エネルギーを大きくする、すなわち、磁気異方性エネルギー密度を大きくするのが一般的である。しかし、上述したように磁性層の持つ磁気エネルギーの増大は反転磁場を増大させるため、低電流化と微細化とを両立するのは非常に困難である。
【0005】
近年、スピン偏極電流による磁化反転が理論的に予想され、実験でも確認されるようになり、スピン偏極電流を利用したMRAMが提案されている。この方式によれば、磁性層にスピン偏極電流を流すだけで磁性層の磁化反転を実現でき、磁性層の体積が小さければ注入するスピン偏極電子も少なくて済むため、微細化、低電流化を両立できると期待されている。さらに、電流により発生する磁場を利用しないため、磁場を増加させるヨーク構造も必要ではなく、セル面積を縮小できるという利点を持つ。しかし、当然のことながらスピン偏極電流における磁化反転方式においても、熱擾乱の問題は微細化にともなって顕在化する。
【0006】
上述したように、熱擾乱耐性を確保するためには、磁気異方性エネルギー密度を増加させる必要がある。これまで主に検討されている面内磁化型の構成では、形状磁気異方性を利用するのが一般的である。この場合、形状を利用して磁気異方性を確保しているため、反転電流は形状敏感になり、微細化に伴い反転電流ばらつきが増加することが問題になる。形状磁気異方性を利用して磁気異方性エネルギー密度を増加させるには、MTJ素子のアスペクト比を大きくする、磁性層の膜厚を増加する、磁性層の飽和磁化を増加することが考えられる。
【0007】
MTJ素子のアスペクト比の増大は、セル面積を増大させ、大容量化に適さない。磁性体の膜厚、飽和磁化の増加は、スピン偏極電流による磁化反転に必要な電流値を増加させる結果となり、好ましくない。面内磁化型の構成で形状磁気異方性ではなく、結晶磁気異方性を利用する場合、大きな結晶磁気異方性エネルギー密度を有する材料(例えば、ハードディスク媒体で用いられているようなCo−Cr合金材料)を用いた場合、結晶軸が面内に大きく分散してしまうため、MR(Magnetoresistive)が低下し、或いはインコヒーレントな歳差運動が誘発され、結果として反転電流が増加してしまう。
【0008】
これに対し、垂直磁化型の構成で結晶磁気異方性を利用する場合、面内磁化型で課題であった結晶軸の分散を抑制することができる。例えば、前述したCo−Cr合金材料の結晶構造は六方晶構造であり、c軸を容易軸とした一軸の結晶磁気異方性を有するため、結晶方位をc軸が膜面の垂直方向と平行になるように制御すればよい。面内磁化型の場合、c軸を膜面内で一軸に揃える必要があり、各結晶粒の膜面内の回転が結晶軸の回転となって一軸方向を分散させてしまう。垂直磁化型の場合、c軸は膜面に垂直方向にあるため、各結晶粒が膜面内に回転しても、c軸は垂直方向を保ったままで分散しない。同様に、正方晶構造でもc軸を垂直方向に制御することにより、垂直磁化型のMTJ構成を実現することが可能になる。正方晶構造の磁性材料は、例えば、L10型の結晶構造を有するFe−Pt規則合金、Fe−Pd規則合金、Co−Pt規則合金、Fe−Co−Pt規則合金、Fe−Ni−Pt規則合金、或いはFe−Ni−Pd規則合金等が挙げられる。結晶磁気異方性を利用して垂直磁化型のMTJ構成を実現する場合は、MTJ素子のアスペクト比が1で良いため、微細化にも適している。
【0009】
MRAMの大容量化には、高い磁気抵抗比が必要である。近年、高い磁気抵抗比を示すバリア材料として、MgOを用いたMTJ素子の報告が多数あり、高い磁気抵抗比を実現するにはMgOの(100)面が配向していることが重要とされている。MgOはNaCl型の結晶構造を持ち、その(100)面は、L10構造の(001)面と格子整合の観点から好ましい。このため、垂直磁化型のMTJ素子において、L10型の垂直磁化膜を磁性層として用いることは磁気抵抗比の観点から非常に有望と言える。
【0010】
ところが、L10構造を垂直磁化膜とするには、その結晶配向性を(001)面に配向させることが必要になるため、結晶配向性を制御するための下地層が必要である。スピン偏極電流による磁化反転方式の場合、バリア層に電流が流れるため、MTJ素子の抵抗を低く抑える必要があり、抵抗の高い下地層を使用することは好ましくない。また、高い磁気抵抗比を実現するためには、磁性層をL10構造へと規則化させるために必要な熱工程で生じる拡散の影響が顕著に現われる、磁気抵抗比を劣化させる元素を下地層の材料として使用することは好ましくない。
【0011】
以上のように、スピン偏極電流による磁化反転を垂直磁化型のMTJ素子で実現できれば、書き込み電流の低減とビット情報の熱擾乱耐性の確保、セル面積の縮小を同時に満たすことが可能になる。さらにMgOバリアと格子整合の観点から好ましいL10構造の磁性材料を用いたMTJ素子が形成できれば、高い磁気抵抗比を実現することができる。ところが、L10構造の磁性材料を用いてMTJ素子を形成し、高い磁気抵抗比を実現した報告例及び具体的な方法はこれまで提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高い磁気抵抗比を有し、かつメモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を保つことが可能な磁気抵抗素子及び磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の視点に係る磁気抵抗素子は、NaCl構造を有し、かつ(001)面に配向する窒化物から構成される第1の下地層と、前記第1の下地層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつL10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層上に設けられた第1の非磁性層と、前記第1の非磁性層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層とを具備する。
【0014】
本発明の第2の視点に係る磁気メモリは、上記第1の視点に係る磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子を挟むように設けられ、かつ前記磁気抵抗素子に対して通電を行う第1及び第2の電極とを含むメモリセルを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い磁気抵抗比を有し、かつメモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を保つことが可能な磁気抵抗素子及び磁気メモリを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0017】
[第1の実施形態]
[1]L10構造を有する強磁性合金の下地層の構成
L10の呼称は、“Strukturebereichi”表記によるものであり、この構造の代表的な系によりCuAu I型とも呼ばれる。図1に示すように、L10構造は、2成分以上の合金においてそれらの成分元素が面心立方格子の2つの面心点(サイト1)と、残りの面心点及び隅点(サイト2)を異なる確率で占有することによって形成される。サイト1とサイト2との数は等しく、この構造の化学量論組成は50at%であり、面心立方の固溶体を生成する様々な合金において、その対称組成付近でL10構造は出現する。
【0018】
構成元素が格子点上をこのような規則的な配列を取ることにより、基本格子の面心立方格子では等価であった(002)或いは(110)面は、それぞれサイト1のみとサイト2のみとからなる2種類の(001)或いは(110)面に区別され、構造の対称性は低下する。その結果、L10構造のX線や電子線の回折像では、面心立方格子では禁制である(001)或いは(110)面の超格子反射が面心立方格子の基本反射に加えて現れる。
【0019】
一般に、L10構造では、[001]方向の格子定数cと、[100]並びに[010]方向の格子定数aとは等しくない。従って、L10構造を有する強磁性合金は、そのc軸が磁化容易軸となる。膜面に対して垂直方向を磁化容易軸とする垂直磁化膜を形成するには、L10構造の結晶配向性を(001)面が配向するように制御する必要がある。
【0020】
例えば、L10構造を有するFePtの場合、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カード、43−1359によれば、(001)面の強度は、(111)面からの回折強度を100とすると、30である。L10構造を有するCoPtの場合、JCPDSカード、43−1358によれば、(001)面の強度は36である。これらは粉末の場合であるため、無配向な形態の強度比と考えると、(001)面が配向する場合は、少なくとも(001)面の強度がこれらの強度以上であればよい。実際には、膜面に対して垂直方向が容易軸であれば、(001)面が配向し、かつ規則化しているため、X線回折や電子線回折からは前述した超格子反射である(001)面からの回折が確認される。
【0021】
前述したように、L10構造を有する垂直磁化膜とするには、その結晶配向性を(001)面を配向させることが必要になるため、結晶配向性を制御するための下地層が必要であり、磁気媒体の分野ではいくつかの報告がなされている。例えば、非特許文献1(IEEE Trans. Magn., vol. 41, 2005, pp.3331-3333, T. Maeda)によれば、L10構造のFePtの下地層として、Pt20nm/Cr5nm/NiTa25nmが開示されている。なお、積層膜の記載において、“/”の左側が上層、右側が下層を表している。また、特許文献1(特開2001−189010号公報)には、NaCl構造を有する酸化物、窒化物、或いは炭化物が開示され、それらの格子定数が3.52乃至4.20Åと規定している。非特許文献2(J. Magn. Magn. Mater., 193 (1999) 85-88, T. Suzuki et al.)によれば、下地層としてCr70nm/MgO10nmが開示されている。
【0022】
スピン偏極電流による磁化反転方式を実現する積層構造には、抵抗の高い下地層や、規則化に必要な熱工程で生じる拡散によって、飽和磁化若しくは磁気異方性エネルギー密度等の磁気特性、又はバリア抵抗若しくはMR比等の電気特性を顕著に劣化させる元素を含む下地層を用いることは好ましくない。このような観点から、前述の公知文献の下地層を適用することは好ましくない。すなわち、非特許文献1では、磁気抵抗(MR)比を顕著に減少させるCrが用いられており、また、非特許文献2では、抵抗の高いMgOが10nmと厚く形成されている。特許文献1では、NaCl構造を有する材料が多数記載されているが、一般的に酸化物は抵抗が高く、また、窒化物や炭化物についてはNaCl構造を有する材料を(100)面に配向させる具体的な手段が開示されていない。
【0023】
また、後述するが、本実施形態によるNaCl構造を有する窒化物の格子定数は3.52Å乃至4.20Åの範囲になくてもよい。また、磁気抵抗素子としてもMgO単結晶基板上に形成した報告例がいくつか存在するが、MR比は室温で数%と低い。また、大容量のMRAMを考える上で、MgO単結晶基板を用いることは非常に困難である。
【0024】
[1−1]下地層の実施例
このような視点から、発明者らは、L10構造を有する磁性層を良好に形成するための下地層に関して鋭意研究を行った。図2は、本実施形態に係る下地層13及び強磁性合金14を含む積層構造を示す断面図である。
【0025】
図2に示した積層構成は、熱酸化膜付きSi基板11上に、下地層13との密着層12として膜厚5nm程度のTa、下地層13上にL10構造の強磁性合金14として膜厚10nm程度のFePtB、保護層18として膜厚2nm程度のMgOを順次形成した構成である。
【0026】
本発明の実施例1における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.5nm程度のMgO、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0027】
本発明の実施例2における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22はなし、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0028】
比較例1における下地層13は、非特許文献1の構成であり、膜厚20nm程度のNiTa、膜厚20nm程度のCr、膜厚5nm程度のPtを順次形成した構成である。すなわち、この比較例1は、下地層21としてNiTa、下地層22及び23としてCr、下地層24としてPtを順次形成した構成である。比較例2における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.3nm程度のMgO、下地層23はなし、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0029】
実施例1、2及び比較例1、2のL10構造の強磁性合金14を構成するFePtBは、いずれも400℃の基板加熱を行いながら形成する。実施例1、2及び比較例1、2の磁化曲線(MHループ)を振動試料型磁力計で測定した結果を図3乃至図6にそれぞれ示す。図3乃至図6において、横軸は印加磁場(kOe)、縦軸は磁気モーメント(emu/cm2)である。また、図3乃至図6に示したいずれのMHループにおいても、実線が膜面の垂直方向(perp.)に磁場を印加した、容易軸方向のMHループであり、破線が膜面の面内方向(in-plane)に磁場を印加した、困難軸方向のMHループである。
【0030】
比較例1以外は、下地層13の中に下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20が形成されているため、磁性材料であるCo40Fe40B20のMHループと、L10構造の強磁性合金14であるFePtBのMHループとが重なったMHループになっている。これらを考慮してMHループを考察すると、容易軸方向のMHループと困難軸方向のMHループにおいて、それぞれ磁場が0の磁気モーメントを比較すると、いずれの構成でも容易軸方向のMHループの磁場0での磁気モーメントの方が大きく、膜面の垂直方向が容易軸である垂直磁化膜と言える。困難軸方向のMHループをみると、実施例1のMHループが最もヒステリシスが小さく、実施例2、比較例2、比較例1の順でヒステリシスが顕著に現われる。困難軸方向のMHループにヒステリシスが現われる場合、容易軸が分散していることが1つの原因と考えられる。
【0031】
実施例1、2及び比較例1、2におけるそれぞれのX線回折プロファイルを図7に示す。図7において、横軸は回折角2θ(deg.)、縦軸は回折強度(intensity)(arb. unit)である。図7に示すように、いずれのプロファイルもL10構造を示す規則格子線である(001)面からの回折ピークが検出され、また、基本格子線である(002)面からの回折ピークが検出されている以外には、L10構造に起因する回折ピークは検出されていない。すなわち、いずれのサンプルも(001)面が配向している。
【0032】
(001)面のロッキングカーブを測定し、ロッキングカーブの半値全幅を解析すると、実施例1、2が4〜5度、比較例1、2が10度程度である。これらの結果から実施例1、2は、比較例1、2に比べて、結晶配向性が良好で、磁化容易軸の分散が小さいことが分かる。また、実施例1、2において41度付近に回折ピークが見られるが、L10構造を有する強磁性合金14を形成しない積層構造のX線回折プロファイルを予め測定した結果、これはTiN(200)の回折ピークであることが分かっている。TiN(200)の予想される回折角度は42度近傍であり、格子定数が大きくなったTiN(200)が形成されていると考えられる。
【0033】
実施例1、2及び比較例1、2の透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)像からも顕著な差が確認できる。実施例1は、比較例1、2と比べると、L10構造の強磁性合金14であるFePtBの粒成長が比較例1、2よりも進んでおり、FePtBの結晶粒が大きい。これは、図7に示したX線回折プロファイルで実施例1の回折強度が他よりも大きいことと整合している。比較例2では、下地層22のMgOが1層としては認められず、下地層13の上に形成されたL10構造の強磁性合金14であるFePtBの表面が粗く、平滑性が顕著に劣化している。つまり、薄い酸化物層の上に金属層を直接形成する場合には、平滑性が劣化することが分かる。
【0034】
実施例1、2は、窒化物層(下地層23はTiN)上にバッファー層としての金属層(下地層24はPt)を形成しており、また、比較例1は、下地層21〜23はすべて金属層である。比較例1は、前述したように実施例1に比べてL10構造の強磁性合金14であるFePtBの結晶粒が小さく、このためにFePtBを形成した状態で短い周期のうねりが見られる。平滑性の観点からは、短い周期のうねりもトンネルバリア層の薄膜化を困難にする。
【0035】
実施例1と実施例2とを比較すると、下地層21のCo40Fe40B20と下地層23のTiNとの間に下地層22のMgOを形成しない実施例2は、下地層21であるCo40Fe40B20がその形成後の熱工程により、凝集していることが分かった。これは、下地層23より上層を形成するにあたり、表面粗さ(ラフネス)を増加させ、平滑性を損なう要因となる。MRAMを実現するにあたり、規格化抵抗RAは数10Ωμm2まで低減する必要があり、つまり、トンネルバリア層の膜厚は1nm程度に薄膜化しなければならない。このため、トンネルバリア層を形成する前の平滑性は非常に重要となり、下地層22が形成された方が好ましい。だたし、実施例2の下地層13を用いる場合は、下地層21のCo40Fe40B20が凝集しないように、Co40Fe40B20形成後の熱工程を制御すればよい。
【0036】
また、実施例1及び比較例2において、下地層24のPtを設けない構成を比較した。実施例1において下地層24のPtがない場合は、容易軸方向のMHループにより、Ptが存在する場合(実施例1)に比べて、FePtBの保磁力が小さい。これは、Ptがない構成は、Ptが存在する場合に比べて、FePtBの規則化が進行していないことを示唆する結果であるが、前述したように困難軸方向のMHループとの比較から(001)面が配向したL10構造の強磁性合金は形成されている。
【0037】
一方、比較例2において下地層24のPtがない場合は、薄い酸化物(MgO)上に金属層であるFePtBを直接形成しているため、平滑性も悪く、また、(001)面の配向性も比較例2よりもさらに悪い。従って、薄いMgO(酸化物)上にFePtBを形成するよりも、TiN(窒化物)上にFePtBを形成した方が、平滑性、(001)面の配向性がよいことが分かる。
【0038】
以上から、下地層13にNaCl構造を有する窒化物を用いることによって、結晶性、(001)面の配向性、平滑性が良好なL10構造の強磁性合金14を形成することができる。さらに、窒化物の配向性、平滑性を制御するためには、下地層21としてCo40Fe40B20のようなアモルファス層或いは微結晶層、及び下地層22としてNaCl構造を有する酸化物層が下地層13内に形成されていることが好ましい。
【0039】
次に、発明者らは図8のようなMTJ構造で高いMR比を実現する下地層に関して鋭意研究を行った。図8示したMTJ構造は、熱酸化膜付きSi基板11上に、下地層13との密着層12として膜厚5nm程度のTa、下地層13上にL10構造の強磁性合金で構成される固定層14として膜厚10nm程度のFePtB、MR比を増加させる界面層15として膜厚2nm程度のCo40Fe40B20、トンネルバリア層16として膜厚2nm程度のMgO、記録層17として膜厚3nm程度のFePt、保護層18として膜厚1nm程度のMgOを順次形成した構成である。
【0040】
固定層14のFePtBは、400℃の基板加熱を行いながら形成する。また、記録層17のFePtは、膜厚1.5nm程度のFeと膜厚1.5nm程度のPtとを順次形成し、保護層18のMgOを形成した後、400℃、2時間の真空中アニールを行い、規則化させる。
【0041】
本発明の実施例3における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.5nm程度のMgO、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0042】
本発明の実施例4における下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22はなし、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0043】
比較例3における下地層13は、非特許文献1の構成であり、膜厚20nm程度のNiTa、膜厚20nm程度のCr、膜厚5nm程度のPtを順次形成した構成である。すなわち、この比較例3は、下地層21としてNiTa、下地層22及び23としてCr、下地層24としてPtを順次形成した構成である。
【0044】
実施例3、4、及び比較例3はともに、アニール処理後に、電極19として膜厚7nm程度のRuを形成する。実施例3、4、及び比較例3のMHループを図9乃至図11にそれぞれ示す。図9乃至図11に示すように、いずれも明瞭な保磁力差型のループが確認できる。
【0045】
これらの規格化抵抗RA及びMR比を測定したところ、実施例3:RA=10kΩμm2、MR比=80%、実施例4:RA=10kΩμm2、MR比=80%、比較例3:RA=10kΩμm2、MR比=55%であった。比較例3が実施例3、4に比べてMR比が小さいのは、基板加熱及びアニールの熱工程により、CrがMgO界面まで拡散してきたためである。すなわち、Crの存在しない実施例3、4では、MR比の高いMTJ構造が実現できることが確認できる。
【0046】
さらに、比較例3は、短い周期でのうねりのために、固定層14のFePtBの平滑性が悪いことも起因している。実施例3、4は、比較例3に比べて、固定層14のFePtBを形成した状態でのラフネスが長周期なため、界面層15のCo40Fe40B20を形成した状態では平滑性が向上する。このために、実施例3、4は、高いMR比を実現できている。
【0047】
実施例3と実施例4とを比較すると、実施例4は下地層21であるCo40Fe40B20がその形成後の熱工程により凝集しているため、実施例3よりも固定層14の平滑性が劣化しているが、トンネルバリア層16のMgOも2nm程度と比較的厚いため、実施例3と同様のMR比が実現できている。しかし、この状態でトンネルバリア層16の膜厚を薄くすると、実施例3よりも実施例4の方が早くMR比が膜厚に対して減少する。
【0048】
以上から、比較例3の下地構成では、下地を構成するCrの拡散により、MR比が劣化するため、実施例3、4による下地層の方が高いMR比を実現できる。また、実施例3、4では、固定層14のFePtBの平滑性が向上するため、比較例3に比べて、高いMR比を実現できる。
【0049】
[1−2]下地層13の材料
下地層13のうち、下地層23としては、NaCl構造を有する窒化物が用いられる。NaCl構造を有する窒化物は、導電性を有し、かつ結晶性がよいため、下地層に使用する材料としては適している。
【0050】
下地層23としては、TiNの他に、ZrN、NbN、VN等が挙げられる。このような窒化物を下地層23として用いた場合でも、磁気特性及びMR比ともに上記各実施例と同様の結果を得ることができる。ZrN、NbN、VNは、TiNと同様に、NaCl構造を有する窒化物である。NaCl構造を有する窒化物は、例えば、TiNのように金属が1元素ではなく、Ti−Zr−N、Ti−Al−Nのように金属が2元素であってもよい。また、下地層23は、Ti、Zr、Nb、Vの窒化物の他に、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、Ce等の窒化物を用いてもよい。
【0051】
窒化物は、標準生成自由エネルギーが低い方が安定に窒化物として存在し得ると言える。NaCl構造を有する代表的な窒化物の500℃における標準生成自由エネルギーを低い順に並べると、ZrN、TiN、CeN、VN、CrNとなる(金属データブックp.90、日本金属学会編)。窒化物が安定に存在できないと、窒化物の形成時及び形成後の熱工程により、窒化物を構成する元素の一部が拡散する可能性がある。このため、本実施形態で用いる窒化物は、その標準生成エネルギーが低い方が好ましく、このような観点からZrN、TiN、CeNがより好ましい。
【0052】
また、代表的なL10構造であるFePt、FePd、CoPtのa軸の格子定数はそれぞれ、3.846Å、3.86Å、3.82Åである。前述したNaCl構造を有する窒化物ZrN、TiN、CeNの格子定数はそれぞれ、4.537Å、4.215Å、5.02Åであり、格子定数の観点からは、TiN、ZrN、CeNの順で好ましい。また、下地層23である窒化物の膜厚は、厚すぎると平滑性が悪くなり、薄すぎると窒化物として機能しないため、3乃至30nmの範囲にあることが好ましい。
【0053】
下地層13のうち、下地層21は、平滑性、及び下地層23のNaCl構造を有する酸化物、窒化物の結晶性及び配向性を向上させる目的でアモルファス層或いは微結晶層が用いられる。アモルファス構造(或いは微結晶構造)からなる下地層21としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素と、ホウ素(B)、ニオブ(Nb)、シリコン(Si)、タンタル(Ta)、及びジルコニウム(Zr)のうち1つ以上の元素とを含む金属が挙げられる。
【0054】
具体的には、上記実施例で用いたCo40Fe40B20の他に、Co80B20、Fe80Si10B10等のアモルファス層(或いは、微結晶層)が挙げられる。さらに、CoZrB、NiSiB、FeNiSiB、FeCoZrB等も好ましい材料と言える。これらのアモルファス層を下地層21として用いた場合でも、磁気特性及びMR比ともに上記各実施例と同様の結果を得ることができる。
【0055】
これらのアモルファス層(或いは、微結晶層)は、形成時には明瞭な結晶構造を示さないが、成膜後の熱工程によって部分的に結晶化が開始して、ある領域が明瞭な結晶構造を示しても構わない。つまり、最終的にデバイスとして機能している際には、結晶構造を示していても構わない。このように、下地層21としてアモルファス層を用いることで、このアモルファス層上に、NaCl構造を有する酸化物及び窒化物を形成した場合に、これら酸化物及び窒化物が(100)面が配向しやすくなる。
【0056】
さらに、下地層21であるアモルファス層の膜厚は、厚すぎると成膜に時間がかかり、生産性が低下する要因となり、また、薄すぎるとNaCl構造の材料の配向性を整える層として機能しないため、1乃至10nmの範囲にあることが好ましい。
【0057】
下地層13のうち、下地層24としては、正方晶構造或いは立方晶構造を有し、かつ、格子定数が2.7乃至3.0Å、或いは3.7乃至4.2Åの範囲にあり、かつ、(001)面に配向した金属を用いることが好ましい。下地層23としての窒化物上にL10構造の強磁性合金で構成される固定層14としての規則合金を直接形成するよりも、窒化物と規則合金との間に、バッファー層としての下地層24を設けることで、規則合金の配向性をより向上させることができる。
【0058】
具体的には、下地層24は、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び金(Au)のうち1つの元素、或いは1つの元素を主成分とする合金から構成されていることが好ましい。下地層24である金属層の膜厚は、厚すぎると平滑性が悪くなり、薄すぎるとL10構造を有する規則合金の配向性を整える層として十分に機能しないため、1乃至10nmの範囲にあることが好ましい。
【0059】
下地層13のうち、下地層22としては、この下地層22より上層の平滑性、結晶性、配向性を向上させる目的で、NaCl構造を有する酸化物が用いられる。NaCl構造を有する酸化物としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうち少なくとも1つ以上の元素を主成分とする材料が挙げられる。下地層22である酸化物の膜厚は、厚すぎると抵抗が高くなり、直列抵抗が付加されてトンネルバリア層で生じる磁気抵抗比を損なうことになるため、少なくともバリア層の抵抗よりも小さくする必要があり、1nmよりも薄いことが好ましい。
【0060】
[1−3]L10構造の強磁性合金14の材料
例えば、記録層と固定層とが非磁性層を介して積層されたシングルピン構造のMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子において、基板側に固定層がある場合、L10構造の強磁性合金14は固定層に相当し、基板側に記録層がある場合は、L10構造の強磁性合金14は記録層に相当する。
【0061】
この規則合金は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)のうち1つ以上の元素と、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及び金(Au)のうち1つ以上の元素とから構成される。例えば、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co50Pt50、Fe30Ni20Pt50、Co30Fe20Pt50、Co30Ni20Pt50、Fe40Cu10Pt50、Fe50Pt25Pd25、Fe50Pt45Au5が挙げられる。なお、これらの規則合金は、上記組成比に限定されない。
【0062】
さらに、これらの規則合金に、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、及び銀(Ag)のうち少なくとも1つ以上の元素が合計で20at%以下の濃度で含まれていても構わない。「at%」は、原子(数)パーセントを表している。なお、非磁性元素が20at%より多く含まれていると、L10構造の強磁性合金14の垂直磁気異方性が劣化してしまうため好ましくない。
【0063】
また、L10構造の強磁性合金14は、グラニュラー構造を有していてもよい。グラニュラー構造を有するL10構造の強磁性合金14としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)のうち少なくとも1つ以上の元素と、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)のうち少なくとも1つ以上の元素とを含む規則合金に、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のうち1つ以上の元素の酸化物或いは窒化物が20vol%以下の濃度で含まれて構成される。「vol%」は、体積パーセントを表している。なお、酸化物或いは窒化物が20vol%より多く含まれていると、L10構造の強磁性合金14の垂直磁気異方性が劣化してしまうため好ましくない。
【0064】
[2]磁気抵抗素子(MTJ素子)
前述した下地層13及び規則合金(固定層14)を用いて、メモリ等に使用されるMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子10を構成することができる。以下に、下地層13及び規則合金(固定層14)をMTJ素子に適用した実施形態について説明する。
【0065】
[2−1]シングルピン構造
図12は、第1の実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子10の概略図である。図12中の矢印は、磁化方向を示している。なお、シングルピン構造とは、記録層と固定層とが非磁性層を介して積層された構造である。
【0066】
図12に示すように、MTJ素子10は、磁性体からなる固定層(ピンド層ともいう)14と、磁性体からなる記録層(自由層ともいう)17と、固定層14と記録層17との間に挟まれた非磁性層16とを有する積層構造である。そして、固定層14及び記録層17が垂直磁気異方性を有し、固定層14及び記録層17の磁化方向が膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。また、固定層14は、磁化(或いは、スピン)の方向が固定されている。記録層17は、磁化方向が変化(反転)可能である。
【0067】
MTJ素子10において、固定層14として磁化反転電流の大きな磁性層を用い、記録層17として固定層14よりも反転電流の小さい磁性層を用いることによって、高性能なMTJ素子10を実現することができる。スピン偏極電流により磁化反転を起こす場合、その反転電流は飽和磁化、異方性磁界、体積に比例するため、これらを適切に調整して、記録層17と固定層14との反転電流に差をつけることができる。また、記録層17及び固定層14で垂直磁化を実現するには、5×105erg/cc以上の結晶磁気異方性エネルギー密度を有する材料が望ましい。
【0068】
MTJ素子10は、非磁性層16が絶縁体の場合はTMR(Tunneling Magnetoresistive)効果を有し、非磁性層16が金属の場合はGMR(Giant Magnetoresistive)効果を有する。ここで、非磁性層16が絶縁体の場合は酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlOx)等が用いられ、非磁性層16が金属の場合は金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金が用いられる。
【0069】
(動作)
MTJ素子10は、スピン注入型の磁気抵抗素子である。従って、MTJ素子10にデータを書き込む、或いはMTJ素子10からデータを読み出す場合、MTJ素子10は、膜面(或いは、積層面)に垂直な方向において、双方向に電流通電される。また、MTJ素子10は、2つの磁性層(記録層17及び固定層14)の磁化配列が平行(Parallel)配列、或いは反平行(Anti-Parallel)配列となる。これら磁化配列により変化するMTJ素子10の抵抗値に、“0”、“1”の情報を対応させることで、記憶素子として用いることができる。
【0070】
具体的には、固定層14側から電子(すなわち、固定層14から記録層17へ向かう電子)を供給した場合、固定層14の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子が記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が平行配列となる。この平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も小さくなり、この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0071】
一方、記録層17側から電子(すなわち、記録層17から固定層14へ向かう電子)を供給した場合、固定層14により反射されることで固定層14の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子が記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と反対方向に揃えられる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が反平行配列となる。この反平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も大きくなり、この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0072】
以下に、シングルピン構造のMTJ素子10の具体例について説明する。
【0073】
(a)具体例1−1
具体例1−1のMTJ素子10は、前述した実施例3の構成と同様である。図13は、具体例1−1のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例1−1のMTJ素子10は、固定層14及び記録層17がそれぞれ、L10構造を有し、かつ(001)面が配向した強磁性合金(規則合金)が用いられる。この規則合金には、項目[1−3]に示した材料が用いられる。以下に、具体例1−1のMTJ素子10の一例について説明する。
【0074】
図13に示すように、MTJ素子10は、熱酸化膜付きSi基板11上に、下地層13との密着層12として膜厚10nm程度のTa、下地層13上に固定層14として膜厚10nm程度のFePtB、MR比を増加させる界面層15として膜厚2nm程度のCo40Fe40B20、トンネルバリア層16として膜厚2nm程度のMgO、記録層17として膜厚3nm程度のFePt、保護層18として膜厚1nm程度のMgOを順次形成した構成である。ここで、密着層12のTaは、下部電極としても機能する。
【0075】
固定層14のFePtBは、400℃の基板加熱を行いながら形成する。また、記録層17のFePtは、膜厚1.5nm程度のFeと膜厚1.5nm程度のPtとを順次形成し、保護層18のMgOを形成した後、400℃、2時間の真空中アニールを行い、規則化させる。アニール処理後に上部電極19として膜厚5nm程度のRu、膜厚100nm程度のTaを順次形成する。下地層13は、下地層21として膜厚3nm程度のCo40Fe40B20、下地層22として膜厚0.5nm程度のMgO、下地層23として膜厚20nm程度のTiN、下地層24として膜厚3nm程度のPtを順次形成した構成である。
【0076】
このような具体例1−1では、トンネルバリア層16のMgOは(100)面が配向しているため、高いMR比を実現することができる。具体例1−1について、振動試料型磁力計で保磁力及び飽和磁化をそれぞれ測定したところ、固定層14は6kOe、850emu/cc、記録層17は700Oe、1000emu/ccであった。ただし、固定層14と界面層15とは交換結合しているため、これらは1つの磁性層として振る舞うので、上述した保磁力及び飽和磁化は、固定層14と界面層15とを1つの磁性層として見た場合の値である。MTJ素子10のMR比は80%であった。
【0077】
具体例1−1の構成は、トンネルバリア層16に対して固定層14が下側(基板側)、記録層17が上側に配置されている、いわゆるボトムピン(bottom pin)構造である。具体例1−1と同様の構成をトンネルバリア層16に対して、固定層14が上側、記録層17が下側(基板側)に配置された、いわゆるトップピン(top pin)構造としてもよい。すなわち、具体例1−1で固定層14の位置に膜厚2nm程度のFePtBを記録層17として、界面層15を膜厚1nm程度のCo40Fe40B20とする。界面層15のCo40Fe40B20を1nmに設定しているのは、膜厚2nmのFePtBに対して、膜厚2nmのCo40Fe40B20を形成して交換結合させた場合、垂直磁化を維持できなくなるためである。記録層17の位置には、固定層14としてFePtBを膜厚10nm程度形成すればよい。
【0078】
ボトムピン構造及びトップピン構造ともに、固定層14の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、マンガン(Mn)と、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、或いはイリジウム(Ir)との合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMn等を用いることができる。
【0079】
(b)具体例1−2
具体例1−2のMTJ素子10は、具体例1−1の記録層17が人工格子であること、それに伴い、保護層18がPdであること以外は具体例1−1と同様の構成である。
【0080】
人工格子としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素或いは1つの元素を含む合金と、クロム(Cr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、金(Au)、及び銅(Cu)のうち1つの元素或いは1つの元素を含む合金とが交互に積層された構造を用いることができる。例えば、Co/Pt、Co/Pd、CoCr/Pt、Co/Ru、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu等の人工格子が挙げられる。また、人工格子を形成する磁性材料にCu等の非磁性金属を添加することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。さらに、磁性層と非磁性層との膜厚比を調整することでも、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0081】
以下に、具体例1−2のMTJ素子10の一例について説明する。記録層17は、膜厚1.0nm程度のCo60Fe20B20、膜厚0.7nm程度のPdを順次形成した後、さらに、膜厚0.3nm程度のCo50Fe50と膜厚1nm程度のPdとを1周期として2周期積層した人工格子からなる。保護層18は、膜厚3nm程度のPdからなる。具体例1−2では、記録層17がL10構造の規則合金ではないため、400℃、2時間の真空中アニールは行っていない。
【0082】
このような具体例1−2によるMTJ素子10において、動試料型磁力計で保磁力及び飽和磁化をそれぞれ測定したところ、記録層17は300Oe、500emu/ccであった。MTJ素子10のMR比は60%であった。
【0083】
なお、トンネルバリア層16として、酸化アルミニウム(AlOx)を用いてもよい。さらに、固定層14の磁化方向を固定するために、この固定層14に隣接して反強磁性層を設けてもよい。
【0084】
(c)具体例1−3
具体例1−3のMTJ素子10は、記録層17がフェリ磁性体であること、保護層18がRuとTaとが順次形成された構成であること以外は具体例1−1と同様の構成である。
【0085】
記録層17としては、希土類金属と遷移金属との合金からなるフェリ磁性体が用いられる。具体的には、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、或いはガドリニウム(Gd)と、遷移金属のうち1つ以上の元素とを含むアモルファス合金が用いられる。このようなフェリ磁性体としては、例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。これらの合金は、組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0086】
以下に、具体例1−3のMTJ素子10の一例について説明する。記録層17は、膜厚1nm程度のCo40Fe40B20、膜厚5nm程度のTb24(Co80Fe20)76を順次形成した構成である。保護層18は、膜厚3nm程度のRu、膜厚5nm程度のTaを順次形成した構成である。具体例1−3では、記録層17がL10構造の規則合金ではないため、400℃、2時間の真空中アニールは行っていない。
【0087】
このような具体例1−3によるMTJ素子10において、振動試料型磁力計で保磁力及び飽和磁化をそれぞれ測定したところ、記録層17は2.0kOe、300emu/ccであった。ただし、記録層17のCo40Fe40B20とTb24(Co80Fe20)76とは交換結合しているため、これらは1つの磁性層として振る舞い、上述した保磁力及び飽和磁化は1つの磁性層として見た場合の値である。MTJ素子10のMR比は、80%であった。
【0088】
なお、トンネルバリア層16として、酸化アルミニウム(AlOx)を用いてもよい。さらに、固定層14の磁化方向を固定するために、この固定層14に隣接して反強磁性層を設けてもよい。
【0089】
その他、記録層17としては、不規則合金を用いてもよい。不規則合金は、コバルト(Co)を主成分とし、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、及びニッケル(Ni)のうち1つ以上の元素を含む合金から構成される。例えば、CoCr、CoPt、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrNb等が挙げられる。これらの合金は、非磁性元素の割合を増加させて磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0090】
[2−2]デュアルピン構造
図14は、第1の実施形態に係るデュアルピン構造のMTJ素子10の概略図である。なお、デュアルピン構造とは、記録層の両側にそれぞれ非磁性層を介して2つの固定層が配置された構造である。
【0091】
図14に示すように、MTJ素子10は、磁性体からなる記録層17と、磁性体からなる第1及び第2の固定層14、33と、記録層17及び第1の固定層14間に挟まれた非磁性層16と、記録層17及び第2の固定層33間に挟まれた非磁性層31とを有する積層構造である。そして、固定層14、33、及び記録層17の磁化方向が膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。ここで、第1及び第2の固定層14、33は、磁化が反対方向に向く反平行配列である。
【0092】
非磁性層16、31としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlOx)等の絶縁体や、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金が用いられる。
【0093】
ここで、デュアルピン構造のMTJ素子10では、非磁性層16を挟む2つの磁性層(記録層17及び固定層14)、及び非磁性層31を挟む2つの磁性層(記録層17及び固定層33)は、平行、或いは反平行配列を取る。しかし、MTJ素子10全体として見た場合、平行配列と反平行配列とが同時に存在するため、非磁性層16、31を介したMR比に差を設けておく必要がある。
【0094】
従って、非磁性層16をトンネルバリア層とし、非磁性層31を金属とした場合、トンネルバリア層16で生じるMR比の方が非磁性層31で生じるMR比に比べて大きくなる。従って、トンネルバリア層16を挟む2つの磁性層(記録層17及び固定層14)の磁化配列を、“0”、“1”の情報に対応させる。
【0095】
(動作)
デュアルピン構造のMTJ素子10の動作について説明する。MTJ素子10にデータを書き込む、或いはMTJ素子10からデータを読み出す場合、MTJ素子10は、膜面(或いは、積層面)に垂直な方向において、双方向に電流通電される。
【0096】
固定層14側から電子(すなわち、固定層14から記録層17へ向かう電子)を供給した場合、固定層14の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子と、固定層33により反射されることで固定層33の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が平行配列となる。これにより、固定層14と記録層17との磁化方向が平行配列となる。この平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も小さくなり、この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0097】
一方、固定層33側から電子(すなわち、固定層33から記録層17へ向かう電子)を供給した場合、固定層33の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子と、固定層14により反射されることで固定層14の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが記録層17に注入される。この場合、記録層17の磁化方向は、固定層14の磁化方向と反対方向に揃えられる。この反平行配列のときはMTJ素子10の抵抗値は最も大きくなり、この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0098】
このように、MTJ素子10を、固定層14、33を記録層17の両側に配置したデュアルピン構造にすることで、スピン偏極電子の反射の効果をより利用できるため、シングルピン構造よりもさらに磁化反転電流を低減することができる。
【0099】
以下に、デュアルピン構造のMTJ素子10の具体例について説明する。
【0100】
(a)具体例2−1
図15は、具体例2−1のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−1のMTJ素子10は、記録層17の両側に設けられた固定層14、33はともに単層構造であり、L10構造からなる強磁性合金で構成される。以下に、具体例2−1のMTJ素子10の一例について説明する。
【0101】
基板11から記録層17までは具体例1−1と同様の構成である。記録層17を形成後、成膜装置内で大気暴露することなく、400℃、2時間の真空中アニールを行い、記録層17をL10構造へと規則化させる。このアニール処理後、スペーサー層31として膜厚5nm程度のAu、界面層32として膜厚2nm程度のFe、固定層33として膜厚10nm程度のFePt、電極19として膜厚5nm程度のRu、及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。
【0102】
固定層33の保磁力は固定層14の保磁力よりも大きく、この保磁力の差を利用して固定層14と固定層33との磁化配列を反平行に設定することが可能となる。すなわち、2回の着磁を行えばよい。まず、1回目の磁場印加により、固定層14の磁化と、記録層17及び固定層33の磁化とは、同じ方向に配列する。ここで、固定層14と界面層15とは交換結合しているため、一体化した固定層として振る舞う。固定層33と界面層32とについても同様である。
【0103】
その後、2回目の磁場印加は、1回目と逆向きに行う。この2回目の印加磁場は、一体化した固定層として振る舞う固定層14及び界面層15の保磁力よりも大きく、固定層33及び界面層32の保磁力よりも小さく設定する。これにより、固定層33の磁化方向に対して、記録層17及び固定層14の磁化は逆方向になる。このようにして、図15に示すような磁化配列を実現することができる。
【0104】
この構成では、スペーサー層31のAuを介した磁気抵抗の変化より、トンネルバリア層16のMgOを介した磁気抵抗の変化の方が大きく、MTJ素子10は、記録層17と固定層14との磁化配列、及び記録層17と固定層33との磁化配列によって、情報を記憶する。なお、記録層17とトンネルバリア層16との界面、及び記録層17とスペーサー層31との界面に、分極率の大きな磁性材料を界面層として設置しても構わない。また、スペーサー層31を、例えば、酸化マグネシウム(MgO)や酸化アルミニウム(AlOx)のような絶縁層にしても構わない。この場合、スペーサー層31の抵抗及びMR比をトンネルバリア層16よりも小さくすれば、動作上は問題ない。
【0105】
なお、固定層14、33の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、マンガン(Mn)と、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、或いはイリジウム(Ir)との合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMn等を用いることができる。
【0106】
また、固定層14を除いた各磁性層は、具体例1−1乃至1−3で述べたように、規則合金、人工格子、フェリ磁性体、不規則合金から適宜選択することができる。
【0107】
(b)具体例2−2
図16は、具体例2−2のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−2のMTJ素子10は、非磁性層16が金属からなるスペーサー層、非磁性層31が絶縁体からなるトンネルバリア層であり、GMR構造が下側(基板側)、TMR構造が上側の構成である。その他の構成は、具体例2−1と同様である。以下に、具体例2−2のMTJ素子10の一例について説明する。
【0108】
スペーサー層16である膜厚5nm程度のAu上に、記録層17として膜厚2nm程度のFePtB、及び膜厚1nm程度のCo40Fe40B20を順次形成する。FePtBは、基板温度400℃で形成する。さらに、記録層17上に、トンネルバリア層31として膜厚2nm程度のMgO、界面層32として膜厚2nm程度のFe、固定層33として膜厚12nm程度のFePt、電極19として膜厚5nm程度のRu及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。
【0109】
なお、固定層14、33の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。また、固定層14を除いた各磁性層は、具体例1−1乃至1−3で述べたように、規則合金、人工格子、フェリ磁性体、不規則合金から適宜選択することができる。
【0110】
(c)具体例2−3
図17は、具体例2−3のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−3のMTJ素子10は、非磁性層16及び31がともに絶縁体からなるトンネルバリア層であり、下側(基板側)及び上側がともにTMR構造である。非磁性層31が絶縁体であること以外は、具体例2−1と同様の構成である。以下に、具体例2−3のMTJ素子10の一例について説明する。
【0111】
基板11から記録層17までは具体例2−1と同様の構成である。記録層17を形成後、成膜装置内で大気暴露することなく、400℃、2時間の真空中アニールを行い、記録層17をL10構造へと規則化させる。このアニール処理後、トンネルバリア層31として膜厚1.0nm程度のMgO、界面層32として膜厚2nm程度のFe、固定層33として膜厚10nm程度のFePt、電極19として膜厚5nm程度のRu、及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。トンネルバリア層16は膜厚2nm程度のMgOであり、一方、トンネルバリア層31のMgOは膜厚が1nmであり、抵抗差は大きく、磁気抵抗比はトンネルバリア層16が支配的となる。
【0112】
なお、固定層14、33の磁化を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。また、固定層14を除いた各磁性層は、具体例1−1乃至1−3で述べたように、規則合金、人工格子、フェリ磁性体、不規則合金から適宜選択することができる。
【0113】
(d)具体例2−4
図18は、具体例2−4のMTJ素子10の構成を示す断面図である。具体例2−4のMTJ素子10は、固定層33がSAF(Synthetic Anti-Ferromagnet)構造になっていること以外は具体例2−1と同様の構成であり、TMR構造が下側(基板側)、GMR構造が上側に配置される。SAF構造は、2つの磁性層が反強磁性的に交換結合した構造である。固定層33は、第1の磁性層33−1と、第2の磁性層33−3と、第1及び第2の磁性層33−1、33−3間に挟まれた非磁性層33−2とからなり、第1及び第2の磁性層33−1、33−3が反強磁性的に交換結合したSAF構造である。
【0114】
この場合、第1及び第2の磁性層33−1、33−3の磁化配列が反平行であるので、第1及び第2の磁性層33−1、33−3からの漏れ磁場を相殺し、結果として固定層33の漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層は、体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。非磁性層33−2の材料としては、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)のうち1つの元素或いは1つ以上の元素を含む合金が挙げられる。
【0115】
以下に、具体例2−4のMTJ素子10の一例について説明する。基板11から記録層17までは具体例1−1と同様の構成である。
【0116】
記録層17を形成後、成膜装置内で大気暴露することなく、400℃、2時間の真空中アニールを行い、記録層17をL10構造へと規則化させる。このアニール処理後、スペーサー層31として膜厚5nm程度のCu、界面層32として膜厚1nm程度のCo、固定層33は後述するSAF構造を形成し、電極19として膜厚5nm程度のRu及び膜厚100nm程度のTaを順次形成する。
【0117】
固定層33は、界面層32上に、第1の磁性層33−1として膜厚1nm程度のPtと膜厚0.3nm程度のCoとを1周期とした4周期の[Pt/Co]4人工格子、非磁性層33−2として膜厚0.9nm程度のRu、第2の磁性層33−3として膜厚0.3nm程度のCoと膜厚1nm程度のPtとを1周期とした5周期の[Co/Pt]5人工格子を順次形成した構成である。
【0118】
なお、第1及び第2の磁性層33−1、33−3がRE−TM合金のフェリ磁性体からなる場合も、反強磁性結合を実現することができる。この場合、非磁性層33−2は必ずしも用いなくてもよい。その一例を、図19及び図20を用いて説明する。
【0119】
RE−TM合金は、希土類金属(RE)の磁気モーメントと遷移金属(TM)の磁気モーメントとが反強磁性的に結合した状態にある。RE−TM合金を積層した場合、RE同士、TM同士が強磁性的に結合することが知られている。この場合、RE及びTMの磁気モーメントが互いに相殺するため、RE−TM合金としての磁気モーメントは、組成により調整することができる。
【0120】
例えば、図19に示すように、REの磁気モーメント41がTMの磁気モーメント42より大きいRE−TM合金層33−1の場合、残った磁気モーメント43はREの磁気モーメント41と同じ方向になる。このRE−TM合金層33−1上に、REの磁気モーメント44がTMの磁気モーメント45より大きいRE−TM合金層33−3を積層すると、REの磁気モーメント41、44同士、TMの磁気モーメント42、45同士がそれぞれ同じ向きになり、2つのRE−TM合金層33−1、33−3の磁気モーメント43、46は同じ方向を向き、平行な状態となる。
【0121】
これに対し、図20に示すように、REの磁気モーメント44がTMの磁気モーメント45より小さいRE−TM合金層33−3をRE−TM合金層33−1上に積層した場合、2つのRE−TM合金層33−1、33−3の磁気モーメント43、46は反平行な状態となる。
【0122】
例えば、Tb−Co合金は、Tbが22at%でTbの磁気モーメントとCoの磁気モーメントとの大きさが同じになり、磁気モーメントがほぼゼロであるいわゆる補償組成となる。膜厚10nm程度のTb25Co75と膜厚10nm程度のTb20Co80とを積層した場合、これらの磁気モーメントは反平行となる。
【0123】
このような形態を利用して、2つの磁性層33−1、33−3が反平行に結合した固定層33を作製することができる。例えば、固定層33を構成する第1の磁性層33−1は膜厚15nm程度のTb26(Fe71Co29)74からなり、第2の磁性層33−3は膜厚20nm程度のTb22(Fe71Co29)78からなる。ここで、Tb24(Fe71Co29)76が補償組成である。
【0124】
このような構成のMTJ素子10では、一方向に一度だけ着磁することで、図14に示した固定層14、33の磁化配列と同じ磁化配列を実現できる。すなわち、固定層33のTMの磁気モーメントはREの磁気モーメントより小さく、TMの磁気モーメントはREの磁気モーメントと反対方向を向くため、固定層33の磁化は着磁した方向と逆向きになる。
【0125】
また、第1及び第2の磁性層33−1、33−3がRE−TM合金からなる場合に、第1及び第2の磁性層33−1、33−3間に非磁性層33−2を設けて反強磁性結合を実現することも可能である。その一例を、図21及び図22を用いて説明する。
【0126】
図21に示す第1及び第2の磁性層33−1、33−3のTMの磁気モーメント42、45は、非磁性層33−2を介して交換結合すると考えられる。同様に、図22に示す第1及び第2の磁性層33−1、33−3のTMの磁気モーメント42、45は、非磁性層33−2を介して交換結合すると考えられる。
【0127】
例えば、図21に示すように、Coを反強磁性的に結合させる金属を非磁性層33−2として用いた場合は、RE−TM合金層33−1のREの磁気モーメント41をTMの磁気モーメント42より大きくし、一方、RE−TM合金層33−3のREの磁気モーメント44をTMの磁気モーメント45より大きくする。すなわち、非磁性層33−2が反強磁性結合に寄与する場合、TMの磁気モーメント42及びREの磁気モーメント41の大小関係と、TMの磁気モーメント45及びREの磁気モーメント44の大小関係とを同じに設定すれば、TMとREとの磁気モーメントが互いに相殺され、磁気モーメント43、46が反平行となる。なお、Coを反強磁性的に結合させる非磁性層33−2の材料としては、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、及びロジウム(Rh)のうち1つの元素或いは1つ以上の元素を含む合金が挙げられる。
【0128】
また、図22に示すように、Coを強磁性的に結合させる金属を非磁性層33−2として用いた場合は、RE−TM合金層33−1のREの磁気モーメント41をTMの磁気モーメント42より大きくし、RE−TM合金層33−3のREの磁気モーメント44をTMの磁気モーメント45より小さくする。すなわち、非磁性層33−2が強磁性結合に寄与する場合、TMの磁気モーメント42及びREの磁気モーメント41の大小関係と、TMの磁気モーメント45及びREの磁気モーメント44の大小関係とを逆に設定すれば、TMとREとの磁気モーメントが互いに相殺され、磁気モーメント43、46が反平行となる。なお、Coを強磁性的に結合させる非磁性層22−2の材料としては、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)のうち1つの以上の元素或いは1つ以上の元素を含む合金が挙げられる。
【0129】
この他、REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいRE−TM合金と、遷移金属を主成分とする金属或いは合金とを積層して固定層33を構成してもよい。
【0130】
以上詳述したように第1の実施形態では、下地層13のうち下地層23に、導電性を有しかつNaCl構造の窒化物を用いている。NaCl構造を有する窒化物は結晶性がよいため、下地層23より上に配置される規則合金(固定層14)の結晶性、(001)面の配向性、及び平滑性を向上させることができる。すなわち、規則合金14として、磁化方向が膜面に対し垂直方向を容易軸とする垂直磁化膜を形成することができる。
【0131】
また、下地層23に窒化物を用いることで、下地層13の抵抗を低く抑える事ができ、直列抵抗の付加による磁気抵抗比の減少を抑制することができる。また、下地層13上の規則合金(固定層14)の平滑性が向上するため、この規則合金上に形成されるMgOの平滑性も向上する。
【0132】
また、下地層13の最下層としてアモルファス構造或いは微結晶構造の金属からなる下地層21を用いているため、下地層22の酸化物及び下地層23の窒化物の結晶性及び配向性を向上させることができる。また、下地層21と下地層23との間にNaCl構造を有する酸化物からなる下地層22を設けているため、この下地層22上の窒化物の平滑性を向上させることができる。
【0133】
また、下地層23と規則合金(固定層14)との間に、正方晶構造或いは立方晶構造を有し、かつ、格子定数が2.7乃至3.0Å、3.7乃至4.2Åの範囲にあり、かつ、(001)面に配向した金属からなる下地層24を設けるようにしている。このように、下地層23としての窒化物上に規則合金を直接形成するよりも、窒化物と規則合金との間に、バッファー層としての下地層24を設けることで、規則合金の配向性をより向上させることができる。
【0134】
また、このような下地層13上にL10構造の規則合金を形成することで、この規則合金を(001)面に配向させることが可能となる。さらに、(001)面に配向する規則合金上にMgOを形成することで、(100)面に配向したMgO形成することができる。これにより、高い磁気抵抗比を実現することが可能となる。
【0135】
また、L10構造を有する強磁性合金14の規則化に必要な熱工程で生じる拡散によって、MTJ素子10の磁気特性及び電気特性を劣化させる元素を下地層13に用いていない。これにより、本実施形態の下地層13を用いた場合でも、MTJ素子10の磁気特性及び電気特性が劣化するのを防ぐことが可能となる。
【0136】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態で示したMTJ素子10を用いてMRAMを構成した場合の例について示している。
【0137】
図23は、本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す回路図である。MRAMは、マトリクス状に配列された複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ50を備えている。メモリセルアレイ50には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線対BL,/BLが配設されている。また、メモリセルアレイ50には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配設されている。
【0138】
ビット線BLとワード線WLとの交差部分には、メモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、MTJ素子10、及びNチャネルMOSトランジスタからなる選択トランジスタ51を備えている。MTJ素子10の一端は、ビット線BLに接続されている。MTJ素子10の他端は、選択トランジスタ51のドレイン端子に接続されている。選択トランジスタ51のゲート端子は、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタ51のソース端子は、ビット線/BLに接続されている。
【0139】
ワード線WLには、ロウデコーダ52が接続されている。ビット線対BL,/BLには、書き込み回路54及び読み出し回路55が接続されている。書き込み回路54及び読み出し回路55には、カラムデコーダ53が接続されている。各メモリセルMCは、ロウデコーダ52及びカラムデコーダ53により選択される。
【0140】
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。先ず、データ書き込みを行なうメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLが活性化される。これにより、選択トランジスタ51がターンオンする。
【0141】
ここで、MTJ素子10には、書き込みデータに応じて、双方向の書き込み電流Iwが供給される。具体的には、MTJ素子10に左から右へ書き込み電流Iwを供給する場合、書き込み回路54は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線/BLに接地電圧を印加する。また、MTJ素子10に右から左へ書き込み電流Iwを供給する場合、書き込み回路54は、ビット線/BLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加する。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”、或いはデータ“1”を書き込むことができる。
【0142】
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。まず、選択されたメモリセルMCの選択トランジスタ51がターンオンする。読み出し回路55は、MTJ素子10に、例えば右から左へ流れる読み出し電流Irを供給する。そして、読み出し回路55は、この読み出し電流Irに基づいて、MTJ素子10の抵抗値を検出する。このようにして、MTJ素子10に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0143】
次に、MRAMの構造について説明する。図24は、メモリセルMCを中心に示したMRAMの構成を示す断面図である。
【0144】
P型半導体基板61の表面領域には、素子分離絶縁層が設けられ、この素子分離絶縁層が設けられていない半導体基板61の表面領域が素子を形成する素子領域(active area)となる。素子分離絶縁層は、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により構成される。STIとしては、例えば酸化シリコンが用いられる。
【0145】
半導体基板61の素子領域には、離間したソース領域S及びドレイン領域Dが設けられている。このソース領域S及びドレイン領域Dはそれぞれ、半導体基板61内に高濃度のN+型不純物を導入して形成されたN+型拡散領域から構成される。ソース領域S及びドレイン領域D間で半導体基板61上には、ゲート絶縁膜51Aを介して、ゲート電極51Bが設けられている。ゲート電極51Bは、ワード線WLとして機能する。このようにして、半導体基板61には、選択トランジスタ51が設けられている。
【0146】
ソース領域S上には、コンタクト62を介して配線層63が設けられている。配線層63は、ビット線/BLとして機能する。
【0147】
ドレイン領域D上には、コンタクト64を介して引き出し線65が設けられている。引き出し線65上には、下部電極12及び上部電極19に挟まれたMTJ素子10が設けられている。上部電極19上には、配線層66が設けられている。配線層66は、ビット線BLとして機能する。また、半導体基板61と配線層66との間は、例えば酸化シリコンからなる層間絶縁層67で満たされている。
【0148】
以上詳述したように、第1の実施形態で示したMTJ素子10を用いてMRAMを構成することができる。なお、MTJ素子10は、スピン注入型の磁気メモリの他、磁壁移動型の磁気メモリにも使用することが可能である。
【0149】
また、第2の実施形態で示したMRAMは、様々な装置に適用することが可能である。MRAMのいくつかの適用例について以下に説明する。
【0150】
(適用例1)
図25は、デジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部を抽出して示している。このモデムは、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)100、アナログ−デジタル(A/D)コンバータ110、デジタル−アナログ(D/A)コンバータ120、送信ドライバ130、及び受信機増幅器140等を含んで構成されている。
【0151】
図25では、バンドパスフィルタを省略しており、その代わりに回線コードプログラム(DSPで実行される、コード化された加入者回線情報、伝送条件等(回線コード:QAM、CAP、RSK、FM、AM、PAM、DWMT等)に応じてモデムを選択、動作させるためのプログラム)を保持するための種々のタイプのオプションのメモリとして、本実施形態のMRAM170とEEPROM180とを示している。
【0152】
なお、本適用例では、回線コードプログラムを保持するためのメモリとしてMRAM170とEEPROM180との2種類のメモリを用いているが、EEPROM180をMRAMに置き換えてもよい。すなわち、2種類のメモリを用いず、MRAMのみを用いるように構成してもよい。
【0153】
(適用例2)
図26は、別の適用例として、携帯電話端末300を示している。通信機能を実現する通信部200は、送受信アンテナ201、アンテナ共用器202、受信部203、ベースバンド処理部204、音声コーデックとし用いられるDSP205、スピーカ(受話器)206、マイクロホン(送話器)207、送信部208、及び周波数シンセサイザ209等を備えている。
【0154】
また、この携帯電話端末300には、当該携帯電話端末の各部を制御する制御部220が設けられている。制御部220は、CPU221、ROM222、本実施形態のMRAM223、及びフラッシュメモリ224がバス225を介して接続されて形成されたマイクロコンピュータである。上記ROM222には、CPU221において実行されるプログラムや表示用のフォント等の必要となるデータが予め記憶されている。
【0155】
MRAM223は、主に作業領域として用いられるものであり、CPU221がプログラムの実行中において計算途中のデータ等を必要に応じて記憶したり、制御部220と各部との間でやり取りするデータを一時記憶したりする場合等に用いられる。また、フラッシュメモリ224は、携帯電話端末300の電源がオフされても、例えば直前の設定条件等を記憶しておき、次の電源オン時に同じ設定にするような使用方法をする場合に、それらの設定パラメータを記憶しておくものである。これによって、携帯電話端末300の電源がオフにされても、記憶されている設定パラメータを消失してしまうことがない。
【0156】
さらに、この携帯電話端末300には、オーディオ再生処理部211、外部出力端子212、LCDコントローラ213、表示用のLCD(液晶ディスプレイ)214、及び呼び出し音を発生するリンガ215等が設けられている。上記オーディオ再生処理部211は、携帯電話端末300に入力されたオーディオ情報(或いは、後述する外部メモリ240に記憶されたオーディオ情報)を再生する。再生されたオーディオ情報は、外部出力端子212を介してヘッドフォンや携帯型スピーカ等に伝えることにより、外部に取り出すことが可能である。このように、オーディオ再生処理部211を設けることにより、オーディオ情報の再生が可能となる。上記LCDコントローラ213は、例えば上記CPU221からの表示情報をバス225を介して受け取り、LCD214を制御するためのLCD制御情報に変換し、LCD214を駆動して表示を行わせる。
【0157】
携帯電話端末300には、インターフェース回路(I/F)231,233,235、外部メモリ240、外部メモリスロット232、キー操作部234、及び外部入出力端子236等が設けられている。上記外部メモリスロット232にはメモリカード等の外部メモリ240が挿入される。この外部メモリスロット232は、インターフェース回路(I/F)231を介してバス225に接続される。このように、携帯電話端末300にスロット232を設けることにより、帯電話端末300の内部の情報を外部メモリ240に書き込んだり、或いは外部メモリ240に記憶された情報(例えばオーディオ情報)を携帯電話端末300に入力したりすることが可能となる。
【0158】
上記キー操作部234は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続される。キー操作部234から入力されたキー入力情報は、例えばCPU221に伝えられる。上記外部入出力端子236は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続され、携帯電話端末300に外部から種々の情報を入力したり、或いは携帯電話端末300から外部へ情報を出力したりする際の端子として機能する。
【0159】
なお、本適用例では、ROM222、MRAM223、及びフラッシュメモリ224を用いているが、フラッシュメモリ224をMRAMに置き換えてもよいし、さらにROM222もMRAMに置き換えることも可能である。
【0160】
(適用例3)
図27乃至図31は、MRAMをスマートメディア等のメディアコンテンツを収納するカード(MRAMカード)に適用した例をそれぞれ示す。
【0161】
図27に示すように、MRAMカード本体400には、MRAMチップ401が内蔵されている。このカード本体400には、MRAMチップ401に対応する位置に開口部402が形成され、MRAMチップ401が露出されている。この開口部402にはシャッター403が設けられており、当該MRAMカードの携帯時にMRAMチップ401がシャッター403で保護されるようになっている。このシャッター403は、外部磁場を遮蔽する効果のある材料、例えばセラミックからなっている。データを転写する場合には、シャッター403を開放してMRAMチップ401を露出させて行なう。外部端子404は、MRAMカードに記憶されたコンテンツデータを外部に取り出すためのものである。
【0162】
図28及び図29は、上記MRAMカードにデータを転写するための、カード挿入型の転写装置500の上面図及び断面図を示している。
【0163】
データ転写装置500は、収納部500aを有している。この収納部500aには、第1のMRAMカード550が収納されている。収納部500aには、第1のMRAMカード550に電気的に接続された外部端子530が設けられており、この外部端子530を用いて第1のMRAMカード550のデータが書き換えられる。
【0164】
エンドユーザの使用する第2MRAMカード450を、矢印で示すように転写装置500の挿入部510より挿入し、ストッパ520で止まるまで押し込む。このストッパ520は、第1MRAM550と第2MRAMカード450を位置合わせするための部材としても働く。第2MRAMカード450が所定位置に配置されると、第1MRAMデータ書き換え制御部から外部端子530に制御信号が供給され、第1MRAM550に記憶されたデータが第2MRAMカード450に転写される。
【0165】
図30には、はめ込み型の転写装置を示す。この転写装置は、矢印で示すように、ストッパ520を目標に、第1MRAM550上に第2MRAMカード450をはめ込むように載置するタイプである。転写方法についてはカード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0166】
図31には、スライド型の転写装置を示す。この転写装置は、CD−ROMドライブやDVDドライブと同様に、転写装置500に受け皿スライド560が設けられており、この受け皿スライド560が矢印で示すように移動する。受け皿スライド560が破線の位置に移動したときに第2MRAMカード450を受け皿スライド560に載置し、第2MRAMカード450を転写装置500の内部へ搬送する。ストッパ520に第2MRAMカード450の先端部が当接するように搬送される点、及び転写方法についてはカード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0167】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化できる。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】L10構造を説明する図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る下地層13及び強磁性合金14を含む積層構造を示す断面図。
【図3】実施例1に係るMHループを示す図。
【図4】実施例2に係るMHループを示す図。
【図5】比較例1に係るMHループを示す図。
【図6】比較例2に係るMHループを示す図。
【図7】実施例1、2及び比較例1、2におけるそれぞれのX線回折プロファイルを示す図。
【図8】第1の実施形態に係るMTJ構造を示す断面図。
【図9】実施例3に係るMHループを示す図。
【図10】実施例4に係るMHループを示す図。
【図11】比較例3に係るMHループを示す図。
【図12】第1の実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子10の概略図。
【図13】具体例1−1のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図14】第1の実施形態に係るデュアルピン構造のMTJ素子10の概略図。
【図15】具体例2−1のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図16】具体例2−2のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図17】具体例2−3のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図18】具体例2−4のMTJ素子10の構成を示す断面図。
【図19】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図20】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図21】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図22】固定層33の他の構成例を説明する図。
【図23】本発明の第2の実施形態に係るMRAMの構成を示す回路図。
【図24】メモリセルMCを中心に示したMRAMの構成を示す断面図。
【図25】MRAMの適用例1に係るデジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部を示すブロック図。
【図26】MRAMの適用例2に係る携帯電話端末300を示すブロック図。
【図27】MRAMの適用例3に係るMRAMカード400を示す上面図。
【図28】MRAMカードにデータを転写するための転写装置500を示す平面図。
【図29】MRAMカードにデータを転写するための転写装置500を示す断面図。
【図30】MRAMカードにデータを転写するための、はめ込み型の転写装置500を示す断面図。
【図31】MRAMカードにデータを転写するための、スライド型の転写装置500を示す断面図。
【符号の説明】
【0169】
10…MTJ素子、11…基板、12…密着層(下部電極)、13…下地層、14…強磁性合金(固定層)、15…界面層、16…トンネルバリア層、17…記録層、18…保護層、19…上部電極、21〜24…下地層、31…スペーサー層、32…界面層、33…固定層、33−1,33−3…磁性層、33−2…非磁性層、50…メモリセルアレイ、51…選択トランジスタ、51A…ゲート絶縁膜、51B…ゲート電極、52…ロウデコーダ、53…カラムデコーダ、54…書き込み回路、55…読み出し回路、61…半導体基板、62,64…コンタクト、63,66…配線層、65…引き出し線、67…層間絶縁層、MC…メモリセル、BL…ビット線、WL…ワード線、S…ソース領域、D…ドレイン領域、100…DSP、110…A/Dコンバータ、120…D/Aコンバータ、130…送信ドライバ、140…受信機増幅器、170…MRAM、180…EEPROM、200…通信部、201…送受信アンテナ、202…アンテナ共用器、203…受信部、204…ベースバンド処理部、205…DSP、206…スピーカ、207…マイクロホン、208…送信部、209…周波数シンセサイザ、211…オーディオ再生処理部、212…外部出力端子、213…LCDコントローラ、214…LCD、215…リンガ、220…制御部、221…CPU、222…ROM、223…MRAM、224…フラッシュメモリ、225…バス、231,233,235…インターフェース回路、232…外部メモリスロット、232…スロット、234…キー操作部、236…外部入出力端子、240…外部メモリ、300…携帯電話端末、400…MRAMカード本体、401…MRAMチップ、402…開口部、403…シャッター、404…外部端子、450…MRAMカード、500…転写装置、510…挿入部、520…ストッパ、530…外部端子、550…MRAM、560…受け皿スライド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaCl構造を有し、かつ(001)面に配向する窒化物から構成される第1の下地層と、
前記第1の下地層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつL10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成される第1の磁性層と、
前記第1の磁性層上に設けられた第1の非磁性層と、
前記第1の非磁性層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第1及び第2の磁性層の一方は、磁化方向が固定された固定層であり、
前記第1及び第2の磁性層の他方は、磁化方向が変化可能な記録層であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第1の下地層は、Ti、Zr、Nb、V、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、及びCeのうち1つ以上の元素を主成分とする窒化物から構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1の下地層の下に設けられ、かつアモルファス構造或いは微結晶構造を有する第2の下地層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記第2の下地層は、Fe、Co、及びNiのうち1つ以上の元素と、B、Nb、Si、Ta、及びZrのうち1つ以上の元素とを含む金属から構成されることを特徴とする請求項4に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記第1の下地層と前記第2の下地層との間に設けられ、かつNaCl構造を有する酸化物から構成される第3の下地層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第3の下地層は、Mg、Ca、V、Nb、Mn、Fe、Co、及びNiのうち1つ以上の元素を主成分とする酸化物から構成されることを特徴とする請求項6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第1の下地層と前記第1の磁性層との間に設けられ、かつ正方晶構造或いは立方晶構造を有し、かつ2.7乃至3.0Å或いは3.7乃至4.2Åの範囲の格子定数を有し、かつ(001)面に配向する金属から構成される第4の下地層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第4の下地層は、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、及びAuのうち少なくとも1つの元素からなる金属、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金から構成されることを特徴とする請求項8に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記第1の磁性層は、Fe、Co、Ni、及びCuのうち1つ以上の元素と、Pd、Pt、及びAuのうち1つ以上の元素と含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記第1の磁性層は、B、Zr、及びAgのうち1つ以上の元素を合計で20at%以下の濃度で含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記第1の磁性層は、Mg、Ca、B、Al、Si、Fe、Co、Ni、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWのうち1つ以上の元素を主成分とする酸化物或いは窒化物を20vol%以下の濃度で含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記第1の非磁性層は、酸化マグネシウムから構成されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項14】
前記第2の磁性層は、L10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成されることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項15】
前記第2の磁性層は、Fe、Co、Ni、及びCuのうち1つ以上の元素と、Pd、Pt、及びAuのうち1つ以上の元素と含むことを特徴とする請求項14に記載の磁気抵抗素子。
【請求項16】
前記第2の磁性層上に設けられた第2の非磁性層と、
前記第2の非磁性層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつ磁化方向が固定された第3の磁性層とをさらに具備し、
前記第1の磁性層は、磁化方向が固定され、
前記第2の磁性層は、磁化方向が変化可能であることを特徴とする請求項1、3乃至15のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項17】
前記第2の非磁性層は、Au、Ag、及びCuのうち少なくとも1つの元素からなる金属、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金から構成されることを特徴とする請求項16に記載の磁気抵抗素子。
【請求項18】
前記第2の非磁性層は、酸化マグネシウムから構成されることを特徴とする請求項16に記載の磁気抵抗素子。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子を挟むように設けられ、かつ前記磁気抵抗素子に対して通電を行う第1及び第2の電極とを含むメモリセルを具備することを特徴とする磁気メモリ。
【請求項20】
前記第1の電極に電気的に接続された第1の配線と、
前記第2の電極に電気的に接続された第2の配線と、
前記第1の配線及び前記第2の配線に電気的に接続され、かつ前記磁気抵抗素子に双方向に電流を供給する書き込み回路とをさらに具備することを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ。
【請求項21】
前記メモリセルは、前記第2の電極と前記書き込み回路との間に電気的に接続された選択トランジスタを含むことを特徴とする請求項20に記載の磁気メモリ。
【請求項1】
NaCl構造を有し、かつ(001)面に配向する窒化物から構成される第1の下地層と、
前記第1の下地層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつL10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成される第1の磁性層と、
前記第1の磁性層上に設けられた第1の非磁性層と、
前記第1の非磁性層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有する第2の磁性層と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第1及び第2の磁性層の一方は、磁化方向が固定された固定層であり、
前記第1及び第2の磁性層の他方は、磁化方向が変化可能な記録層であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第1の下地層は、Ti、Zr、Nb、V、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、及びCeのうち1つ以上の元素を主成分とする窒化物から構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1の下地層の下に設けられ、かつアモルファス構造或いは微結晶構造を有する第2の下地層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記第2の下地層は、Fe、Co、及びNiのうち1つ以上の元素と、B、Nb、Si、Ta、及びZrのうち1つ以上の元素とを含む金属から構成されることを特徴とする請求項4に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記第1の下地層と前記第2の下地層との間に設けられ、かつNaCl構造を有する酸化物から構成される第3の下地層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第3の下地層は、Mg、Ca、V、Nb、Mn、Fe、Co、及びNiのうち1つ以上の元素を主成分とする酸化物から構成されることを特徴とする請求項6に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第1の下地層と前記第1の磁性層との間に設けられ、かつ正方晶構造或いは立方晶構造を有し、かつ2.7乃至3.0Å或いは3.7乃至4.2Åの範囲の格子定数を有し、かつ(001)面に配向する金属から構成される第4の下地層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第4の下地層は、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、及びAuのうち少なくとも1つの元素からなる金属、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金から構成されることを特徴とする請求項8に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記第1の磁性層は、Fe、Co、Ni、及びCuのうち1つ以上の元素と、Pd、Pt、及びAuのうち1つ以上の元素と含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記第1の磁性層は、B、Zr、及びAgのうち1つ以上の元素を合計で20at%以下の濃度で含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記第1の磁性層は、Mg、Ca、B、Al、Si、Fe、Co、Ni、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWのうち1つ以上の元素を主成分とする酸化物或いは窒化物を20vol%以下の濃度で含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記第1の非磁性層は、酸化マグネシウムから構成されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項14】
前記第2の磁性層は、L10構造を有し、かつ(001)面に配向する強磁性合金から構成されることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項15】
前記第2の磁性層は、Fe、Co、Ni、及びCuのうち1つ以上の元素と、Pd、Pt、及びAuのうち1つ以上の元素と含むことを特徴とする請求項14に記載の磁気抵抗素子。
【請求項16】
前記第2の磁性層上に設けられた第2の非磁性層と、
前記第2の非磁性層上に設けられ、かつ膜面に垂直方向の磁気異方性を有し、かつ磁化方向が固定された第3の磁性層とをさらに具備し、
前記第1の磁性層は、磁化方向が固定され、
前記第2の磁性層は、磁化方向が変化可能であることを特徴とする請求項1、3乃至15のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項17】
前記第2の非磁性層は、Au、Ag、及びCuのうち少なくとも1つの元素からなる金属、或いはこれらのうち少なくとも1つの元素を主成分とする合金から構成されることを特徴とする請求項16に記載の磁気抵抗素子。
【請求項18】
前記第2の非磁性層は、酸化マグネシウムから構成されることを特徴とする請求項16に記載の磁気抵抗素子。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子を挟むように設けられ、かつ前記磁気抵抗素子に対して通電を行う第1及び第2の電極とを含むメモリセルを具備することを特徴とする磁気メモリ。
【請求項20】
前記第1の電極に電気的に接続された第1の配線と、
前記第2の電極に電気的に接続された第2の配線と、
前記第1の配線及び前記第2の配線に電気的に接続され、かつ前記磁気抵抗素子に双方向に電流を供給する書き込み回路とをさらに具備することを特徴とする請求項19に記載の磁気メモリ。
【請求項21】
前記メモリセルは、前記第2の電極と前記書き込み回路との間に電気的に接続された選択トランジスタを含むことを特徴とする請求項20に記載の磁気メモリ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2009−81314(P2009−81314A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250283(P2007−250283)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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