説明

窒化物半導体自立基板及びその製造方法、並びにレーザーダイオード

【課題】高い歩留でレーザーダイオードを製作することが可能な窒化物半導体自立基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ハイドライド気相成長法または有機金属気相成長法による窒化物半導体自立基板の製造方法であって、前記成長用基板上の前記窒化物半導体層が成長する領域における原料ガスを含むガスのガス流速を1m/s以上に、かつ、前記窒化物半導体層を形成するための原料ガスを含むガスを吹き出すガス吹出口から前記窒化物半導体層が成長する領域までの距離を50cm以上に設定することで、ガス流れが均一となり、これにより、膜厚分布が大幅に改善し、基板表面W1での転位密度が4×10/cm以下で、基板表面W1の面内における基板表面W1に沿った結晶軸の向きaのバラツキの範囲が、±0.2°以下の窒化物半導体自立基板Wが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色、緑色、紫外の発光ダイオードおよびレーザーダイオード、あるいは、電子デバイスなどの作製に用いられる窒化物半導体自立基板及びその製造方法、並びに、この窒化物半導体自立基板を用いて作製されるレーザーダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)等に代表される窒化物半導体は、紫外から緑色までの領域をカバーする発光デバイス材料として、また、高温動作、高出力動作の電子デバイス材料として注目されている。
【0003】
従来、窒化物半導体以外の半導体においては、ほとんどの場合、当該半導体と同種の単結晶からなる自立基板を準備し、その上に各種の結晶成長法によりデバイス構造を形成することで、様々なデバイスを実現・実用化してきた。
【0004】
一方、窒化物半導体においては、GaNやAlNなどの窒化物半導体からなる単結晶の自立基板を得るのが技術的に困難であったため、サファイアやSiC等の異種基板を使わざるを得なかった。この場合、異種基板上への窒化物半導体の成長層中には高密度の欠陥(転位)が発生し、これがデバイス特性の向上を妨げる大きな要因となっていた。代表的な例で言うと、半導体レーザー(レーザーダイオード)の寿命は結晶中の転位密度に強く依存するため、上述の異種基板上への結晶成長により形成した素子においては、実用的な素子寿命を得ることは不可能であった。
【0005】
しかしながら、近年、各種の手法によりGaNやAlNよりなる低欠陥密度の単結晶の自立基板が供給されるようになり、ようやく窒化物半導体を用いた半導体レーザーが実用化されるに至った。
【0006】
窒化物半導体単結晶の自立基板の製造方法としては、様々な方法が提案されている。代表的なものとしては、種基板上にハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy Method:HVPE法)によりGaNを厚く成長し、成長中あるいは成長後に種基板を除去する方法、溶融Na中にGa金属を含ませた上で、窒素で全体を加圧することで、種結晶上にGaNを析出させるNaフラックス法、アンモニア中にGaやGaNを溶解させ、高温・高圧下で種結晶上にGaNを析出させる安熱合成法などが知られている。
【0007】
この中でも、HVPE法に基づく幾つかの方法が現時点では最も成功を収めており、既にこれらの方法による大面積(2インチ径)のGaN自立基板が市販されている。代表的なものとしては、サファイア基板上のGaN薄膜表面にTiを蒸着し、これを熱処理することでボイド構造を形成し、その上にHVPE法によりGaNを厚く成長し、上記のボイド部分よりサファイア基板を剥離する方法(Void-Assisted Separation Method:VAS
法、非特許文献1参照)、或いは、部分的に表面を絶縁体マスクで覆ったGaAs基板上にHVPE法によりGaNを厚く成長し、その後GaAs基板を除去する方法(Dislocation Elimination by the Epi-growth with Inverted-Pyramidal Pits Method:DEEP
法、非特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yuichi Oshima et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.42(2003), pp.L1-L3.
【非特許文献2】Kensaku Motoki et al., Journal of Crystal Growth, Vol. 305 (2007), pp.377-383.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の窒化物半導体自立基板を用いてレーザーを作製した場合、窒化物半導体レーザーの歩留は10%以下と非常に悪かった。従来のGaAs系のレーザーでは50%以上の歩留が容易に得られることを考えると、現状の窒化物半導体自立基板には、なんらかの問題がある。
【0010】
本発明の目的は、例えば高い歩留でレーザーダイオードを製作することが可能な窒化物半導体自立基板及びその製造方法、並びに当該自立基板を用いた高歩留のレーザーダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る窒化物半導体自立基板の一態様は、基板表面での転位密度が4×10/cm以下の窒化物半導体自立基板であり、前記基板表面の面内各点の前記基板表面に沿った結晶軸の向きが面内でバラツキを有し、当該基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキが±0.2°以下の範囲である窒化物半導体自立基板である。
【0012】
上記窒化物半導体自立基板において、窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面はC面、M面、A面、あるいは、これらの中間の高指数面であるのが好ましい。なお、ここで、高指数面とは、指数面を(hklm)で表した場合(ただし、h、k、l、mはいずれも整数)に、h、k、l及びmのいずれかの絶対値が2以上である面をいう。高指数面の例としては、例えば、(11−22)面や(12−32)面などが挙げられる。
また、上記の窒化物半導体自立基板の表面は、C面、M面、A面あるいは、これらの中間の高指数面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であっても良い。自立基板の表面を、正確な結晶面から微小角度で傾けた面(微傾斜面)とすることにより、基板の表面上に成長する結晶層の平坦性を向上することができるためである。
【0013】
また、上記窒化物半導体自立基板において、窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体であっても良く、閃亜鉛鉱構造の場合には、窒化物半導体自立基板の表面は、(001)面、(111)A面、(111)B面あるいは、これらの面の間の高指数面(例えば、(113)A面や(114)B面)であるのが好ましく、または、これらの面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であるのが好ましい。
【0014】
また、基板表面の面内各点の基板表面に沿った結晶軸の向きの面内でのバラツキが±0.2°以下である上記窒化物半導体自立基板において、更に、基板表面の面内各点の基板
表面の垂線に沿った結晶軸の向きの面内でのバラツキについても、±0.2°以下の範囲
であることが好ましい。
更に、上記窒化物半導体自立基板において、前記窒化物半導体自立基板は、アズグロウンの状態での膜厚分布が±2%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るレーザーダイオードの一態様は、上記窒化物半導体自立基板上に、レーザーダイオード構造のエピタキシャル層が積層形成されているレーザーダイオードである。結晶軸の向きが揃った上記窒化物半導体自立基板を用いることにより、高い歩留でレーザーダイオードが得られる。
【0016】
本発明に係る窒化物半導体自立基板の製造方法の一態様は、ハイドライド気相成長法または有機金属気相成長法により、成長用基板上に窒化物半導体自立基板となる窒化物半導体層を成長して窒化物半導体自立基板を製造する方法であって、前記成長用基板上の前記窒化物半導体層が成長する領域における原料ガスを含むガスのガス流速を1m/s以上に、かつ、前記窒化物半導体層を形成するための原料ガスを含むガスを吹き出すガス吹出口から前記窒化物半導体層が成長する領域までの距離を50cm以上に設定して、転位密度が4×10/cm以下の前記窒化物半導体層を成長する窒化物半導体自立基板の製造方法である。
【0017】
また、上記窒化物半導体自立基板の製造方法において、前記窒化物半導体層の面内の成長速度分布を±2%以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、窒化物半導体自立基板の基板表面に沿った方向及び基板表面の垂線に沿った方向の両方向で基板表面の面内各点の結晶軸の向きが従来よりも揃っているため、この窒化物半導体自立基板を用いて作製したレーザーダイオードでは、大幅な歩留の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】窒化物半導体自立基板の結晶軸の向きのバラツキを説明する斜視図である。
【図2】本発明に係る窒化物半導体自立基板の製造方法の一実施形態及び一実施例で用いたHVPE装置の概略的な縦断面図である。
【図3】本発明の一実施例に係るGaN自立基板の製造方法を示す工程図である。
【図4】GaN自立基板の転位密度と、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキとの関係を示すグラフである。
【図5】GaN自立基板の転位密度と、基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きのバラツキとの関係を示すグラフである。
【図6】GaN自立基板上にレーザー構造のエピタキシャル層を形成したレーザーダイオードの一実施例を示す断面図である。
【図7】図2のHVPE装置を用いたGaN成長において、ガス吹出口と基板との距離と、ガス流速と、基板面内の膜厚分布との関係を示すグラフである。
【図8】図2のHVPE装置を用いたGaN成長において、ガス吹出口と基板との距離と、ガス流速と、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体自立基板及びその製造方法、並びにレーザーダイオードを説明する。
【0021】
(窒化物半導体自立基板の結晶軸のバラツキとその問題点)
本発明者が、上述した従来方法で製作した窒化物半導体自立基板を詳細に調査した結果、これらの自立基板には、基板表面に沿った結晶軸の向き(基板表面に概ね平行な結晶軸の向き)のバラツキ、または基板表面の垂線に沿った結晶軸の向き(基板表面に概ね垂直な結晶軸の向き)のバラツキの少なくとも一方が、基板面内において、デバイス特性の向上などにおいて問題となると考えられる程度のバラツキを持っていることが判明した。なお、基板表面とは、基板の主面である成長面のことを指し、基板面内とは、基板の成長面における面内のことを指す。
【0022】
図1に、窒化物半導体自立基板の結晶軸の向きのバラツキの典型的な一例を示す。図1において、窒化物半導体自立基板Wの基板表面W1に沿った、基板表面W1に概ね平行な
特定の結晶軸の向きをa、基板表面W1の垂線(法線)nに沿った、基板表面W1に概ね垂直な特定の結晶軸の向きをbとしている。図1には、便宜上、基板表面W1の中心の点Oと、点Oを通って点Oにおける基板表面W1に平行な結晶軸の向きaに沿った直線L上の点P及び点Qと、の3点での結晶軸の向きのバラツキを示している。
【0023】
中心の点Oから離れた点Pでは、基板表面W1に平行な方向の結晶軸の向きaは、点Oにおける基板表面W1に平行な方向の結晶軸の向きaより反時計方向に角度α(反時計方向の角度を正とすると、角度+α)ずれている。また、点Pとは反対側にある、中心の点Oから離れた点Qでは、基板表面W1に平行な方向の結晶軸の向きaは、点Oにおける基板表面W1に平行な方向の結晶軸の向きaより時計方向に角度α(時計方向なので、角度−α)ずれている。
基板表面W1に平行な方向の結晶軸の向きaのバラツキは、例えば、基板表面W1のある線上の各点における接線が基板表面W1に平行な方向の結晶軸の向き(ベクトル)aであるような線(流線のようなもの)を考えた場合、この線が直線とはならず、湾曲した曲線となるような結晶軸のバラツキを持つ。
【0024】
また、図示例では、中心の点Oにおける基板表面W1に垂直な方向の結晶軸の向きbは、基板表面W1の垂線nにほぼ一致し、点Pでは、基板表面W1に垂直な方向の結晶軸の向きbは、基板表面W1の垂線nより時計方向に角度β(時計方向の角度を負とすると、角度−β)ずれている。また、点Qでは、基板表面W1に垂直な方向の結晶軸の向きbは、基板表面W1の垂線nより反時計方向に角度β(反時計方向なので、角度+β)ずれている。
【0025】
従来の方法で製作した窒化物半導体自立基板は、図1に示すように、基板の面内において面内各点の結晶軸の向きが一様に揃っておらず、基板表面に沿った結晶軸の向きa、或いは基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きbの少なくとも一方に、ある程度(±0.5°
程度)以上のバラツキがあった。この結晶軸の向きのバラツキが、デバイス作製にあたっての歩留の低下や、デバイス特性の向上を妨げていると考えられる。
【0026】
例えば、レーザーダイオード製作時には、レーザー発振に必須な共振器の反射面をレーザーダイオードチップ両端の劈開面で形成する。従来のGaAs系やInP系のレーザーダイオードにおいては、結晶面である劈開面は極めて精度の良い平行を保っており、実際に理想的な共振器として動作することが確認されている。しかしながら、窒化物半導体のレーザーダイオードの製作に、上述のような結晶軸の向きa、bが揃っていない自立基板を用いた場合には、レーザーチップ両端の劈開面が平行である保障は無く、劈開面の平行度にバラツキが生じる。このことが、従来のGaAs系などの半導体のレーザーダイオードの歩留と比較して、窒化物半導体のレーザーダイオードの歩留が非常に低い原因であると考えられる。
【0027】
(本実施形態の窒化物半導体自立基板の構造)
そこで、本実施形態に係る窒化物半導体自立基板は、基板表面での転位密度が4×10/cm以下であり、基板表面の面内各点の基板表面に沿った結晶軸の向きが面内でバラツキを有し、当該基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキが±0.2°以下の範囲で
ある窒化物半導体自立基板を実現した。このように、窒化物半導体自立基板の結晶軸の向きの分布(バラツキ)を規定することにより、レーザーダイオードの歩留の向上やデバイス特性の向上を実現できることが判った。
【0028】
以下に詳述するが、本発明者は、基板面内での成長条件を均一化する新たな成長方法を採用することにより、基板表面の面内における前記基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキを±0.2°以下の範囲にできることを見出した。基板面内での成長条件を均一化す
る新たな成長方法により、アズグロウンの状態での窒化物半導体層の膜厚分布を±2%以下にでき、基板表面に沿った結晶軸の向きが従来よりも揃った窒化物半導体自立基板が得られる。
また、成長初期に形成される核の密度を低くする一般的な方法を用いて、基板表面での転位密度を4×10/cm以下とすることができる。基板表面での転位密度を4×10/cm以下とすることで、基板表面の面内各点の基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きの面内でのバラツキを±0.2°程度以下の低い値に抑えられることが判った。
ここで、「自立基板」とは、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板をいう。このような強度を有するためには、自立基板の厚さを200μm以上とするのが好ましい。また、素子形成後の劈開の容易性等を考慮して、自立基板の厚さをlmm以下とするのが好ましい。自立基板が厚すぎると劈開が困難となり、劈開面に凹凸が生じる。この結果、たとえば半導体レーザ等に適用した場合、反射のロスによるデバイス特性の劣化が問題となる。
自立基板の直径は、2インチ以上とするのが好ましい。自立基板の直径は、製造時に用いる下地基板(成長用基板)の直径に依存し、下地基板として例えば直径6インチのサファイア基板を用いることで直径6インチの自立基板を得ることができる。
【0029】
(転位密度(欠陥密度)と結晶軸の向きのバラツキとの関係)
窒化物半導体自立基板の製作において、欠陥密度の低い基板を得るための一般的な方法として、自立基板となる窒化物半導体層を下地となる基板上に成長する最初期において、下地基板上に最初に発生する結晶核の密度を低くし、それぞれの核を大きく成長させて融合するという方法が採られる。これは、結晶欠陥が核と核の融合部分に発生し易いことから、この融合部分を減らすことで結晶欠陥の発生を抑制するという考えに基づくものである。
初期の核密度を減らす方法としては、下地基板の表面を開口部を有する絶縁体マスクで覆い、絶縁体マスクの開口部の密度を低くして核密度を減らす方法や、絶縁体マスクを用いない場合には、成長初期の基板表面での原料の過飽和度を低くすることで原料の基板表面への付着係数を下げて、初期に形成される核の密度を小さくする方法がある。
【0030】
この核密度を減らして欠陥密度の低い基板を得る方法の問題点としては、成長の最初期に発生する結晶核は、図1に示すように、基板表面に沿う結晶軸の向きが必ずしも相互に揃っているわけではないということが挙げられる。このため、上述のように低密度の核をもとにして自立基板を製作した場合、得られる低欠陥密度の自立基板は、各結晶核毎に基板表面に沿う結晶軸の向きが相互にずれたマクロサイズの結晶の集合体となる。
例えば、3インチ径で表面がC面であるGaN自立基板の場合には、基板表面の転位密度が5×10/cm程度以上であれば、基板表面に沿う結晶軸の向きのバラツキが、±0.2°以下の範囲となるが、上記の一般的方法に従って基板表面の転位密度を4×1
/cm以下とした低欠陥密度の基板の場合には、基板表面に沿う結晶軸の向きのバラツキは±0.5°以上に悪化してしまう(後述の実施例の図4参照)。
【0031】
一方、成長初期の核密度を低下させると、最終的に得られる自立基板の表面に垂直な方向の結晶軸の向きのバラツキは少なくなる。窒化物半導体自立基板を成長する際には、成長の進行に伴い徐々に転位密度が減少する。このため、最終的に得られる自立基板では、表面側と裏面側の転位密度が異なることになる。転位密度が異なるということは、基板の表面側と裏面側に存在する原子の個数が異なるということであり、この原子の個数の違いにより基板表面に沿う結晶面が反る。この自立基板の反りによって、基板表面に概ね垂直な特定の結晶軸の向きbのバラツキを発生させるのである(図1参照)。
成長初期の核密度が低いと、上述の様に核相互の融合により発生する転位が少ないので、基板の表面側と裏面側での転位密度の差が少なく、このため表面に概ね垂直な方向の結晶軸の向きのバラツキが少なくなるのである。
具体的な数値を挙げると、例えば、3インチ径のGaN自立基板において、基板表面の転位密度が5×10/cm程度以上の場合には、基板表面に概ね垂直な結晶軸の向きのバラツキが±0.5°以上であるのに対して、基板表面の転位密度が4×10/cm
以下の場合には、基板表面に概ね垂直な結晶軸の向きのバラツキは±0.2°以下の低
い値に抑えられる(後述の実施例の図5参照)。
【0032】
以上をまとめると、窒化物半導体自立基板においては、初期の核密度を増やすと高転位となり、この場合には基板表面に沿った基板表面に概ね平行な方向の結晶軸の向きのバラツキが少なくなるが、基板表面の垂線に沿った基板表面に概ね垂直な方向の結晶軸のバラツキは大きくなる。一方、初期の核密度を減らすと低転位となり、基板表面に概ね平行な方向の結晶軸の向きのバラツキが大きくなり、基板表面に概ね垂直な方向の結晶軸の向きのバラツキは小さくなる。初期の核密度を増加または減少させても、基板面内における基板表面に概ね平行な方向および概ね垂直な方向の両方向でそれぞれ結晶軸の向きが揃った窒化物半導体自立基板を得るのは、困難なのが現状である。
【0033】
(結晶軸のバラツキの低減方法)
そこで、本発明者は、上述の窒化物半導体自立基板の結晶軸の向きのバラツキを改善すべく鋭意検討を行った。その結果、成長初期に形成される核の密度を低くする方法を用いて、基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きのバラツキを低く抑えると共に、基板面内での成長条件を均一化する新たな成長方法を用いて、成長初期の核の基板表面に沿う結晶軸の向きのバラツキを抑えることで、基板表面に沿う方向および基板表面の垂線に沿う方向の両方向でそれぞれ結晶軸の向きが揃った窒化物半導体自立基板を製作できることを見出した。
【0034】
以下に具体的に説明するが、自立基板の成長最初期の基板面内での成長条件のバラツキ(不均一)が、成長初期の結晶核の方位ずれの原因となっており、これが最終的な窒化物半導体自立基板の基板表面に沿う結晶軸の向きのバラツキの原因となっている。そこで、基板面内での成長条件のバラツキの少ない、新たな成長方法を導入した。
【0035】
(基板表面に沿う結晶軸の向きのバラツキと成長条件)
窒化物半導体自立基板、例えば、GaN自立基板の成長の最初期は、上述のVAS法においてはTi上へのGaNの成長であり、またDEEP法においてはGaAs上のGaNの成長であり、いずれも異種材料の基板上の成長となっている。材料が異なる場合、それぞれの材料を構成する原子間の距離がもともと異なるため、これらの異種材料が接合する際には、接合を形成するために必要なエネルギーが最小となるように、それぞれの材料が接合面内で結晶軸の方位をずらしたかたちで接合する場合があることが知られている。代表的な例としては、サファイアC面上のC面GaN層の成長が挙げられ、この場合には、成長層であるGaN層がサファイアとの接合面でサファイアに対して30°回転して成長する。
【0036】
今回、上述のGaAsやTiの下地の上に、GaN層を成長する場合について詳細に調べた結果、サファイア上のGaN層の場合ほど大きくはないが、1°以下の小さな結晶軸の回転が発生することが判った。また、この小さな結晶軸の回転角は、成長初期の結晶成長条件によって変化することが明らかとなった。回転角を決定するメカニズムは明らかではないが、成長初期の条件が異なると、下地となるTi表面やGaAs表面の原子の再配列の状況が成長条件の影響を受けて変化し、これが回転角の違いを生じさせるものと推測される。
【0037】
基板面内で成長条件が異なると、成長初期に基板面内のそれぞれの場所で結晶方位のずれた核が発生する。
自立基板の転位密度が大きい場合、すなわち成長初期の核密度が大きい場合(典型的には4×10/cmよりも大きい場合)には、隣り合う核が小さいうちに融合する。核が小さいということは、核を回転・変形させるためのエネルギーも少ないので、核同士の融合の際にそれぞれの核が所定の方向に容易に回転・変形し、それぞれの核の結晶方位が揃う。このために、連続膜となった段階での基板表面に沿った方向の結晶軸のバラツキが小さくなる。
従来から広く用いられているMOVPE法(有機金属気相成長法)でサファイア基板上に形成したGaN層について、結晶軸のバラツキに関する報告が無いのは、得られるGaN層の転位密度が1×10/cm〜1×1010/cmと大きく、上記のように小さな核が融合する際に容易に結晶方位が揃ってしまうため、結晶軸のバラツキが無視できるほど小さくなるからである。
【0038】
一方、成長初期の核密度が少なく低転位(典型的には4×10/cm以下)の自立基板の場合には、核密度が少ないため、結晶方位のずれた核が大きく育った後に融合する。大きな核を回転させるには大きなエネルギーが必要となるため、そのような回転は生じ難く、基板表面に沿った結晶軸の向きにバラツキがある自立基板が形成されるのである。
【0039】
窒化物半導体自立基板を上述のVAS法やDEEP法などで製作する場合、いずれの方法でも、厚いGaN層を高速(例えば、50μm/hr以上の成長速度)で成長させるためにHVPE法(ハイドライド気相成長法)を用いている。一般的にデバイス構造のエピタキシャル成長に用いられているMOVPE法と比較すると、HVPE法は膜厚分布の均一性が劣っている。具体的には、MOVPE法での典型的な膜厚分布は3インチ基板で±2%程度なのに対して、HVPE法での典型的な膜厚分布は±数10%程度である。このような膜厚均一性の悪いHVPE法を用いて、窒化物半導体自立基板を成長するということは、言い換えれば、基板表面の場所ごとに異なった条件で成長しているということになり、結果として基板表面に沿った結晶軸方位のバラツキを生じてしまう。
【0040】
(窒化物半導体自立基板の製造方法)
以上の理由から、HVPE法での膜厚均一性を改善することが、窒化物半導体自立基板の基板表面に沿った結晶軸方位のバラツキを抑制するために有効であると考え、本発明者はHVPE法の膜厚均一性を改善する方策を種々検討した。その過程で、原料ガスの吹出口と基板との距離を50cm以上とし、かつ、結晶成長領域のガス流速を1m/s以上とすることにより、膜厚分布を劇的に改善できることを見出した。
【0041】
図2には、本実施形態で用いたHVPE装置の概略的な縦断面図を示す。このHVPE装置は、図示のように、石英製で両端が閉じた筒体状の反応管10が水平に配置された横型反応炉を備えている。反応管10の一端側の側壁を貫通して、反応管10内にNHガスを含むガスを導入するNHガス導入管14と、反応管10内にHClガスを含むガスを導入するHClガス導入管15とが水平に設けられている。NHガス導入管14には、反応管10の上流側にある供給ラインより、NHガスがキャリアガスN、Hと共に供給され、また、HClガス導入管15には、反応管10の上流側にある供給ラインより、HClガスがキャリアガスN、Hと共に供給される。
【0042】
HClガス導入管15は、Gaを収容する容器16に接続されている。容器16内では、HClガス導入管15から導入されたHClガスと、容器16内のGa融液17とが反応してGaClガスが生成される。生成されたGaClガスを含むガスは、容器16に接続されたGaClガス導出管18から導出される。GaClガス導出管18は、NHガス導入管14の出口14a側と平行に配設され、且つGaClガス導出管18の出口(GaClガス吹出口)18aとNHガス導入管14の出口(NHガス吹出口)14aの鉛直線上の位置は一致している。
【0043】
GaClガス導出管18の出口18a及びNHガス導入管14の出口14aに対向させて、GaN層を成長させる出発基板(下地基板)となる成長用基板5を保持する基板ホルダ11が設けられている。成長用基板5はその表面(成長面)を垂直にして基板ホルダ11に保持され、NHガス導入管14の出口14a及びGaClガス導出管18の出口18aより吹き出されたガスが成長用基板5の表面に吹き付けられる。基板ホルダ11は、NHガス導入管14とは反対側の反応管10の端部の側壁を貫通して水平に設けられた支持軸12によって支持されている。支持軸12はその軸回りに回転可能に構成されており、支持軸12の回転により、基板ホルダ11上に設置される成長用基板5はその中心軸回りに回転できるようになっている。また、支持軸12は、水平方向に移動可能であり、基板ホルダ11上に設置される成長用基板5と、GaClガス導出管18の出口18a及びNHガス導入管14の出口14aとの距離dを変更できるようになっている。距離dは、5〜100cmの範囲で変更可能である。支持軸12が貫通する反応管10端部の側壁には排気管19が設けられ、反応管10内のガスが排気管19から排気される。排気管19には、真空ポンプなどを備えた排気系(図示省略)が接続されている。
【0044】
反応管10の外周部には、原料部ヒータ20と、成長部ヒータ21が設けられている。原料部ヒータ20は容器16及びその周辺部の外周に設けられ、成長部ヒータ21は、基板ホルダ11及びその周辺部の外周に設けられている。支持軸12には、成長用基板5の温度を測定するための熱電対13が設けられている。
【0045】
NHガス導入管14の出口14aから吹き出されたNHガスと、GaClガス導出管18の出口18aから吹き出されたGaClガスとは、混合しながら基板ホルダ11上に設置される成長用基板5へと流れ、成長用基板5の表面でNHガスとGaClガスとが反応してGaN結晶が成長する。
【0046】
従来のHVPE法では、原料ガスの吹出口14a,18aと成長用基板5との距離dが10cm程度と短かったため、III族原料ガスとV族原料ガスの混合が不均一な原料ガス
が成長用基板5表面に到達し、これがGaN層の膜厚不均一の一因となっていた。また、従来のHVPE法では、GaN層が成長する領域である成長用基板5上の原料ガスのガス流速が数cm/s程度と遅かったため、装置内部の治具等の段差や成長生成付着物などの
影響でガス流が乱れ、このことも膜厚分布が大きい一因となっていた。
基板面内における成長条件の均一化による改善の効果は、具体的な数値で言うと、原料ガス吹出口14a,18aと成長用基板5との距離dが10cm、ガス流速が5cm/sとした従来の成長方法の場合には、3インチ径の成長用基板5面内で膜厚分布が±40%なのに対して、原料ガス吹出口14a,18aと成長用基板5との距離dを50cm、ガス流速を1m/sとした実施形態の成長方法の場合には、膜厚分布が±2%と大幅に改善した(後述の実施例の図7参照)。
【0047】
なお、本明細書で述べるガス流速とは、成長時に用いる総ガス量と等量の窒素ガスを室温で流し、図2の6インチサイズの基板ホルダ11の端部のR点で風速計を用いて測定した値を、成長温度での体積膨張率を考慮して補正した値である。すなわち、室温(300K)のガス流速が0.3m/sであれば、成長温度、例えば、1060℃=1333Kの
ガス流速は、1333/300=4.44倍である1.33m/sと考える。
【0048】
この成長条件の均一化を図った新規な成長方法をVAS法によるGaN自立基板の製作に適用したところ、2〜6インチ径の円形の自立基板において、従来の成長方法では、転位密度が4×10/cm以下の場合、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキが±0.5°以上であったのを、実施形態の成長方法では、±0.2°以下に改善することに成功した(後述の実施例の図8参照)。更に、これらのGaN基板においては基板表面の垂
線に沿った結晶軸の向きのバラツキも±0.2°以下であり、基板表面に概ね平行な方向
、概ね垂直な方向の双方で結晶軸の向きが従来より揃ったGaN自立基板が得られた。
また、これら結晶軸の向きの揃ったGaN自立基板を用い、GaN自立基板上にレーザーダイオード構造のエピタキシャル層を積層形成してレーザーダイオードを作製したところ、50%以上という高い歩留が得られた。
【0049】
本発明は、ウルツ鉱構造のC面のGaN自立基板だけではなく、M面、A面、あるいはこれらの面の間の高指数面((11−22)面、(12−32)面など)や、これらの面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面を表面に持つGaN自立基板に対しても有効であった。更には、立方晶系である閃亜鉛鉱構造のGaN自立基板に対しても同様に有効であった。即ち、(001)面、(111)A面、(111)B面、あるいはこれらの面の間の高指数面((113)A面、(114)B面)や、これらの面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面を表面に持つ閃亜鉛鉱構造のGaN自立基板にも、ウルツ鉱構造のGaN自立基板と同様に有効であった。また、本発明は、GaN自立基板に限らず、AlN、InN、AlGaN、InAlGaN、BAlN、BInAlGaNなどの窒化物半導体自立基板にも有効である。
【0050】
本発明は、基板面内の成長条件の均一化が図れれば、どのような成長装置を用いて窒化物半導体自立基板を製作してもよい。図2のHVPE装置は成長用基板5を垂直に支持する構造であったが、成長用基板5を水平に支持する構造の横型のHVPE装置を用いたり、または、原料ガスを垂直方向に流す縦型のHVPE装置を用いたり、或いはMOVPE装置を用いて窒化物半導体自立基板を製作しても勿論よい。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0052】
(第1の実施例)
第1の実施例では、VAS法を用いてGaN自立基板を製造した。第1の実施例のGaN自立基板の製造工程を図3に示す。
【0053】
まず、サファイア基板1上にMOCVD法でGaN薄膜を成長し、このGaN薄膜上に金属膜としてTi膜を蒸着法で形成し、その後に熱処理を行なった。この熱処理により、サファイア基板1上のGaN薄膜を多数のボイド4を有するボイド形成GaN層2とし、Ti膜を網目状のTiN膜3とした成長用基板(出発基板)5を形成した(図3(a))。
次に、この成長用基板5上に、HVPE法でGaN厚膜6を300μm以上の厚さに成長した(図3(b))。このGaN厚膜6の成長には、上記の図2に示すHVPE装置を用いた。GaN厚膜6の成長後に、反応炉から基板を取り出し、TiN膜3を境界として機械的にGaN厚膜6を剥離して、GaN基板7を得た(図3(c))。
【0054】
図2のHVPE装置を用いた実施例(比較例を含む)において、GaN厚膜6の成長時に原料部ヒータ20の温度は800〜950℃の範囲に保持し、成長部ヒータ21は1000〜1200℃の範囲に保持した。また、熱電対13によって基板ホルダ11の裏面で基板温度を測定し、成長用基板5の温度は1050〜1100℃の範囲とした。更に、反応管内10の圧力は1〜200kPa、HCl流量は1sccm〜10slm、NH流量は1sccm〜20slm、H流量は1slm〜100slm、N流量は1slm〜100slmとした。
【0055】
比較例として、図2のHVPE装置において、ガス吹出口14a、18aと成長用基板5との距離dを10cm、ガス流速を5cm/sに設定して、ウルツ鉱構造のC面GaN
自立基板を作製した。比較例では、成長初期のGaCl流量およびNH流量を変化させ、成長用基板5表面での原料ガスの過飽和度を変える事で初期の核密度を制御して、転位密度の異なる種々のGaN自立基板を作製した。
【0056】
図4に、得られたGaN自立基板の転位密度と、基板表面に沿った結晶軸の向きの基板面内のバラツキとの関係を示す。また、図5に、得られたGaN自立基板の転位密度と、基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きの基板面内のバラツキとの関係を示す。
転位密度が約5×10/cmより大きい場合には、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキは±0.2°以下であり(図4)、基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きのバ
ラツキは±0.5°以上であった(図5)。また、転位密度が4×10/cm以下の
場合には、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキは±0.5°以上であり(図4)、
基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きのバラツキは±0.2°以下であった(図5)。
【0057】
これら比較例のGaN自立基板を用いて、それぞれ図6に示す青紫色のレーザーダイオードを作製した。即ち、GaN自立基板30上に、MOPVE法により、n型GaN層31、n型AlGaN層32、n型GaN光ガイド層33、InGaN/GaN構造の3重量子井戸層34、p型AlGaN層35、p型GaN光ガイド層36、p型AlGaN/GaN超格子層37、p型GaN層38を順次、積層形成した。
比較例のそれぞれのGaN自立基板を用いて作製したレーザーダイオードの歩留はいずれも約7%程度であった。これは、上述したように基板表面に概ね平行あるいは概ね垂直な方向の結晶軸のバラツキが大きいために、へき開面で形成する共振器の平行度が悪いためである。
【0058】
次に、実施例および比較例として、図2のHVPE装置において、ガス吹出口14a,18aと成長用基板5との距離dを5〜100cmの間で変更すると共に、結晶成長領域のガス流速を1〜350cm/secの範囲で変更して、転位密度が4×10/cmである3インチ径のウルツ鉱構造のC面GaN基板を製作した。作製したC面GaN基板は、基板表面の面内で均一な転位密度となっていた。ここで、転位密度の値は、基板面内における平均転位密度の値である。
図7に、ガス吹出口と基板との距離dと、ガス流速と、基板面内の膜厚分布との関係を示す。また、図8に、ガス吹出口と基板との距離dと、ガス流速と、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキとの関係を示す。
【0059】
図7に見られるように、ガス吹出口と基板との距離dが10cm、ガス流速が5cm/sの比較例の自立基板では、膜厚分布が±40%程度であるが、距離dを50cmに広げ、更に、ガス流速を1m/sec以上とした実施例の自立基板では、膜厚分布を±2%以下とすることができた。
また、図8に示すように、ガス吹出口と基板との距離dが10cm、ガス流速が5cm/sの比較例の自立基板では、基板表面に沿う結晶軸のバラツキが±0.5°であるのに
対して、ガス吹出口と基板との距離dを50cmに広げ、更に、ガス流速を1m/sec以上とした実施例の自立基板では、±0.2°以下のバラツキとなっている。
【0060】
以上、図7,図8から、原料吹出口から基板までの距離dを広げ、更に、ガス流速を上げることで膜厚分布が改善すると共に、基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキが減少することが分かる。これは、先にも述べた通り、膜厚分布を小さくするということは、基板表面の各点での成長条件を均一化するということであり、その結果として成長初期に形成される複数の核の方位が同一の方向に従来よりも揃った結果と考えられる。
なお、実施例として、原料吹出口と基板間の距離dを50cmとし、ガス流速を1m/secとして製作した、転位密度4×10/cmの3インチGaN基板では、基板表面に対して概ね平行、概ね垂直の両方向の結晶軸の向きが、基板全面にわたって共に±0
.2°以下のバラツキとなっていた。
【0061】
同様にして、原料吹出口と基板との距離dを50cm〜100cmとし、ガス流速を1m/sec〜10m/secの範囲で変えて、2〜6インチ径で転位密度が4×10/cmから2×10/cmの表面がC面のGaN自立基板、およびC面からA軸方向、M軸方向、あるいはその中間の方向に5°以下で微傾斜した表面のGaN自立基板を形成した。これらいずれのGaN自立基板においても、基板表面に対して概ね平行、概ね垂直の両方向の結晶軸の向きが、基板全面にわたって共に±0.2°以下のバラツキとする
ことに成功した。更に、原料吹出口から基板までの距離dを100cmとし、ガス流速を350cm/sとした場合には、基板表面に対して概ね平行、概ね垂直の両方向の結晶軸の向きのバラツキを、基板全面にわたって共に±0.02°以下とすることができた。
これら結晶軸の向きが従来よりも揃った実施例のGaN基板を用いて、上述した比較例と同様に図6に示す青紫色のレーザーダイオードを作製したところ、その歩留は60%程度あり、比較例の7%程度の歩留と比較して大幅に改善した。
このように、本実施例によれば、基板表面に沿った結晶軸の向きの基板面内におけるバラツキの最大絶対値を0.02°以上0.2°以下の範囲に制御すると共に、基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きの基板面内におけるバラツキの最大絶対値を0.02°以上0.2°以下の範囲に制御することができた。
【0062】
(第2の実施例)
第1の実施例において、面方位を異にするサファイア基板1から作製された種々の成長用基板5を用いて、ウルツ鉱構造のGaN自立基板を作製した。得られたGaN自立基板は、2〜6インチ径で転位密度が4×10/cmから2×10/cmであり、その表面がC面、M面、A面、およびこれらの中間の高指数面、あるいはこれらの面から5°以下で微傾斜した面である。第1の実施例と同様に、ガス吹出口と基板との距離dが50cm以上でガス流速が1m/s以上の場合に、基板表面に対して概ね平行、概ね垂直の両方向の結晶軸の向きのバラツキが基板面内で共に±0.2°以下となった。また、これ
らの自立基板上にレーザーダイオード構造を成長させた素子の歩留は、第1の実施例と同様に60%程度と比較例の7%と比較して大幅に改善した。
【0063】
(第3の実施例)
第1の実施例において、サファイア基板を用いた成長用基板に代えて、面方位を異にする種々のGaAs基板を用いて、閃亜鉛構造のGaN自立基板を作製した。この第3の実施例では、VAS法ではなく、GaAs基板上に直接GaN層を成長し、GaN層成長後にGaAs基板をエッチングすることにより、GaN自立基板を得た。
得られた閃亜鉛鉱構造のGaN自立基板は、2〜6インチ径で転位密度が4×10/cmから2×10/cmであり、その表面が(001)面、(111)A面、(111)B面、およびこれらの面の間の高指数面を持つ基板と、これらの結晶面から5°以下の範囲で微傾斜した基板であった。この場合にも、実施例1と同様にガス流速が1m/s以上の場合に、基板表面に対して概ね平行、概ね垂直の両方向の結晶軸の向きの基板面内でのバラツキを共に±0.2°以下とすることに成功した。これらの自立基板上に図6
に示すレーザー構造を成長したところ、その歩留は第1の実施例と同様に60%程度と、比較例の7%と比べて大幅に改善した。なお、閃亜鉛鉱構造のGaN基板上に成長したレーザは、先のウルツ鉱構造のものとは異なり、青色〜緑色で発振した。これは、閃亜鉛鉱構造のGaNの方がウルツ鉱構造のGaNよりもバンドギャップが小さいため、より長波長で発光するためである。
【0064】
(その他の実施例)
第1〜第3の実施例と同様に自立基板を試作したが、GaN自立基板ではなく、AlN、InN、AlGaN、InAlGaN、BAlN、BInAlGaNからなる窒化物半
導体自立基板を作製した。これらいずれの自立基板も、第1〜第3の実施例と同様な優れた結果が得られた。
【0065】
第1〜第3の実施例と同様に自立基板を試作したが、自立基板となるGaN層の成長方法にMOVPE法を用いて行ったところ、第1〜第3の実施例と同様な優れた結果が得られた。
【0066】
第1〜第3の実施例と同様に自立基板を試作したが、自立基板となるGaN層の成長方法に、分子線エピタキシ法(MBE法)、Naフラックを用いた液相成長法、安熱合成法を用いた。これらの成長方法は、HVPE法やMOVPE法のようにガスを流す成長ではないが、やはり成長速度の基板面内の分布を±2%以下とすることで、これらいずれの成長方法の場合にも、第1〜第3の実施例と同様な優れた結果が得られた。
【0067】
なお、窒化物半導体自立基板の用途によっては、成長が困難な特異な面を表面とする基板が要求される場合がある。この場合、比較的成長が容易なC面などを表面として厚い自立基板を成長し、これを斜めに或いは垂直に切ることで、そのような特異な表面を持つ自立基板が得られる。従来法で製作した自立基板では、上述したように、少なくともC面などと直交する1方向の結晶軸が顕著に曲がっているため、このような特異な表面の基板を切り出したとしても、その結晶軸も曲がってしまう。
ところが、本発明による結晶軸の方向の揃った自立基板を用いれば、このような特異な表面を持つ自立基板も、結晶軸が揃ったかたちで製作可能である。
【符号の説明】
【0068】
W 基板
W1 基板表面
a 基板表面に沿った結晶軸の向き
b 基板表面の垂線に沿った結晶軸の向き
d 距離
n 垂線(法線)
1 サファイア基板
2 ボイド形成GaN層
3 TiN膜
4 ボイド
5 成長用基板
6 GaN厚膜
7 GaN自立基板
10 反応管
11 基板ホルダ
12 支持軸
13 熱電対
14 NHガス導入管
15 HClガス導入管
16 容器
17 Ga融液
18 GaClガス導出管18
19 排気管
20 原料部ヒータ
21 成長部ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面での転位密度が4×10/cm以下の窒化物半導体自立基板であり、前記基板表面の面内各点の前記基板表面に沿った結晶軸の向きが面内でバラツキを有し、当該基板表面に沿った結晶軸の向きのバラツキが±0.2°以下の範囲であることを特徴とす
る窒化物半導体自立基板。
【請求項2】
前記基板表面の面内各点の前記基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きが面内でバラツキを有し、当該基板表面の垂線に沿った結晶軸の向きのバラツキが±0.2°以下の範囲で
あることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項3】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がC面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項4】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がC面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項5】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がM面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項6】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がM面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項7】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がA面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項8】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がA面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項9】
前記窒化物半導体自立基板はウルツ鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面がC面、M面、A面のいずれか2つの面の間の高指数面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項10】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(001)面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項11】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(001)面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項12】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(111)A面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項13】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(111)A面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項14】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(111)B面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項15】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(111)B面から5°以下の範囲で傾いた微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項16】
前記窒化物半導体自立基板は閃亜鉛鉱構造の窒化物半導体からなり、前記基板表面が(001)面、(111)A面、(111)B面のいずれか2つの面の間の高指数面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項17】
前記窒化物半導体自立基板は、アズグロウンの状態での膜厚分布が±2%以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体自立基板。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の窒化物半導体自立基板上に、レーザーダイオード構造のエピタキシャル層が積層形成されていることを特徴とするレーザーダイオード。
【請求項19】
ハイドライド気相成長法または有機金属気相成長法により、成長用基板上に窒化物半導体自立基板となる窒化物半導体層を成長して窒化物半導体自立基板を製造する方法であって、
前記成長用基板上の前記窒化物半導体層が成長する領域における原料ガスを含むガスのガス流速を1m/s以上に、かつ、前記窒化物半導体層を形成するための原料ガスを含むガスを吹き出すガス吹出口から前記窒化物半導体層が成長する領域までの距離を50cm以上に設定して、
転位密度が4×10/cm以下の前記窒化物半導体層を成長することを特徴とする窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項20】
前記窒化物半導体層の面内の成長速度分布を±2%以下とすることを特徴とする請求項19に記載の窒化物半導体自立基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−254508(P2010−254508A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105029(P2009−105029)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】