説明

表示デバイス用透明電極およびその作製方法

【課題】アルミニウム合金膜と透明導電膜からなる画素電極との間に通常設けられるバリアメタル層を省略しても、低い接触抵抗を維持しつつ、その分散を小さく抑えることができ、しかも、光透過特性にも優れた表示デバイス用透明電極を提供する。
【解決手段】窒素を含有する第1の透明導電膜61と、窒素を含有しない第2の透明導電膜62とからなる表示デバイス用透明電極であって、第1の透明導電膜はアルミニウム合金膜63に接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイス用透明電極およびその作製方法に関し、詳細には、透明電極を構成する透明導電膜がソース−ドレイン電極や反射電極などに用いられるアルミニウム合金膜と直接接触している表示デバイス用透明電極の改良技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイの開発が進展し、100インチを超える画面サイズの液晶パネルが製造されるようになった。30〜40インチ画面の液晶ディスプレイ搭載のTVも量産されており、製造コストの低減が強く望まれている。TVやパソコン用液晶ディスプレイは、1画素毎に1トランジスタを配置する構造を有するアクティブパネル型が、動作速度が速いため、主流となっている。
【0003】
図3は、従来のアクティブパネル型液晶表示デバイスの概略断面の一例を示すものである。図3において、TFT1(薄膜トランジスタ、Thin Film Transistor)が碁盤目状に配置されたTFTアレイ基板2と、TFTアレイ基板2に対向配置された対向基板3と、TFTアレイ基板2と対向基板3との間に配置された光変調層として機能する液晶層4から構成されている。TFTアレイ基板2は、ガラス等の絶縁性の基板上に配置されたTFT1、透明電極5、走査線及び信号線を含む配線部(不図示)、及び配線部間の絶縁膜(不図示)から構成される。対向基板3は、全面に形成された共通電極6と、透明電極5に対向する位置に配置されたカラーフィルタ7、TFTアレイ基板2上のTFT1や配線部に対向する位置に配置された遮光膜8等から構成される。TFTアレイ基板2及び対向基板3を構成する絶縁性基板の外面には、偏光板9が配置され、また対向基板3には液晶層4に含まれる液晶分子を所定の向きに配向するための配向膜10が配置されている。
【0004】
図3に示した液晶パネルにおいては、対向電極3と透明電極5の間の電圧差によって液晶層4に含まれる液晶分子の配向が制御され、TFTアレイ基板2と対向基板3との間の液晶層4を通過する光が変調される。これにより、カラーフィルタ7を透過する光量が制御され、コントラストのあるカラー画素が表示される。TFTアレイ基板2は、TFTアレイ外部に引き出されたTABテープ11を経由して、ドライバIC12と制御IC13によって駆動される。
【0005】
図4は、図3に示したTFT1付近の拡大断面図である。図4において、TFTアレイ基板2に、低抵抗n形半導体ポリシリコン(npoly−Si)からなるソース領域14及びドレイン領域15と、チャネル層16であるポリシリコン(poly−Si)が形成され、ゲート絶縁層17を介してゲート電極18が形成されている。ソース領域14及びドレイン領域15は、各々、ソース電極19及びドレイン電極20に接続され、ドレイン電極20は、ITO(Indium−Tin−Oxide)で形成される透明電極5に接続される。透明電極5は、Mo、Cr、Ti、W等の高融点金属で構成されたバリアメタル層21aを介してドレイン電極20に接続されている。また、透明電極5は、Mo等の高融点金属で構成されたバリアメタル層21bを介して反射電極22に接続されている。反射電極22を設けることにより、TFT1の直上の液晶分子の配向が促されるとともに、反射電極22による透過光の反射によって液晶画素の輝度が向上し、また、液晶ディスプレイの弱点であった狭い視野角が拡大されるという効果が得られる。
【0006】
ソース電極19−ドレイン電極20に電気的に接続されるソース−ドレイン配線や、透明電極5に電気的に接続される信号線(透明電極用信号線)は、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、純AlまたはAl−Ndなどのアルミニウム合金(以下、これらをまとめてアルミニウム系合金と呼ぶ。)の薄膜から形成されている。
【0007】
次に、液晶表示デバイスの動作原理について説明する。TFT1のゲート電極18に電圧(ゲート電圧)が印加されると、TFT1がオン状態となり、予めソース電極19及びドレイン電極20に印加されていた駆動電圧により、ソース電極19からチャンネル層16を経由してドレイン電極20に電流が流れ、この結果、透明電極5に電圧が印加され、図3に示した共通電極6との間に電位差を生じ、液晶層4に含まれる液晶分子が配向して光変調が生じる。
【0008】
図4において、透明電極5とドレイン電極20との間、および透明電極5と反射電極22との間に、それぞれ、Mo等の高融点金属で構成されたバリアメタル層21a、および21bを設ける理由は、ドレイン電極20および反射電極22を透明電極5と直接接続すると接触抵抗が上昇し、画面の表示品位が低下するからである。透明電極用配線材料として用いられるAlは非常に酸化され易いため、液晶パネルの成膜過程で生じる酸素や成膜時に添加する酸素などにより、Al系合金薄膜と透明電極との界面にAl酸化物の絶縁層が生成してしまう。また、透明電極材料として汎用されている透明導電膜のITO[インジウム(In)とスズ(Sn)との酸化物、Indium Tin Oxide]やIZO[インジウム(In)と亜鉛(Zn)との酸化物、Indium Zinc Oxide]は、導電性の金属酸化物であるが、上記のようにAl酸化物層が生成すると、電気的なオーミック接続を行うことができない。
【0009】
しかし、バリアメタル層を形成するためには、Al系合金配線形成用の成膜装置に加え、バリアメタル形成用の成膜装置が別途必要になる。具体的には、バリアメタル形成用の成膜チャンバーをそれぞれ余分に装備した成膜装置(代表的には、複数の成膜チャンバーがトランスファーチャンバーに接続されたクラスタツール)を用いなければならないため、製造コストの上昇や生産性の低下を招く。
【0010】
また、バリアメタル層として用いられる金属と、アルミニウム系合金とは、薬液を用いたウェットエッチングなどの加工工程での加工速度が異なるため、加工工程における横方向の加工寸法を制御することが極めて困難となる。したがって、バリア層の形成は、成膜上の観点だけでなく加工の観点でも工程の複雑化を招き、製造コストの上昇や生産性の低下をもたらす。
【0011】
そこで、本願出願人は、バリアメタル層の形成を省略し、アルミニウム系合金膜を透明電極と直接接続することが可能なダイレクトコンタクト技術を提案している(特許文献1〜特許文献3)。
【0012】
このうち特許文献1には、透明電極と直接接続することが可能な材料として、Au,Ag,Zn,Cu,Ni,Sr,Sm,Ge,Biよりなる群から選択される少なくとも1種の合金元素を合計で0.1〜6原子%含むアルミニウム合金薄膜が開示されている。
【0013】
特許文献2には、アルミニウム合金膜を透明電極と直接接続することが可能であり、薬品耐性、特にアルカリ性の現像液や剥離液に対して優れた耐性を有する材料として、合金成分として少なくともNiを0.1〜6原子%含有するアルミニウム合金膜(第1層)の上部に、窒素含有アルミニウム合金膜(第2層)が形成されたアルミニウム合金多層膜が開示されている。
【0014】
特許文献3には、アルミニウム合金膜を透明電極と直接接続することが可能な他の材料として、Au,Ag,Zn,Cu,Ni,Sr,Sm,Ge,Biよりなる群から選択される少なくとも1種の合金元素を合計で0.1〜6原子%含むアルミニウム合金膜と透明電極との界面に当該アルミニウム合金の酸化皮膜が形成されており、上記酸化皮膜の厚さおよび酸素含有量が適切に制御された材料が開示されている。
【0015】
一方、ダイレクトコンタクト技術に関するものではないが、特許文献4には、窒素を含む透明導電膜を備えた透明電極が開示されている。
【0016】
特許文献4は、画素電極形成後に不純物除去の目的で行なわれるH洗浄時における問題点(画素電極を構成するITOの金属成分が還元されて金属が表面に析出されるため、画素の透過率が低下する)の改善技術に関する。ここには、上記の問題を解決するため、窒素を含有する導電膜を表面に有する画素電極が開示されており、具体的には、窒素を含む透明導電膜(単層膜)からなる画素電極、および透明導電膜の上に窒素を含む透明導電膜を有する積層膜からなる画素電極が開示されている。
【特許文献1】特開2004−214606号公報
【特許文献2】特開2005−303003号公報
【特許文献3】特開2006−23388号公報
【特許文献4】特開2006−133769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者は、上記特許文献1〜3のダイレクトコンタクト関連技術の更なる特性改善を目指し、検討を重ねてきた。詳細には、上記の特許文献では、Al中の合金元素添加量を0.1〜6原子%に制御することによって接触抵抗の低減などを図っているが、実操業では、合金元素の添加量をできるだけ少なく(例えば、0.1〜2原子%程度に)しても上記の特性が得られ、高性能の表示デバイスを安定して再現性良く製造できる技術の提供が強く求められて居る。そのためには、(a)接触抵抗は、所望の低いレベルを維持しつつ、その分散(データのバラツキの程度)をできるだけ抑え、且つ、(b)可視光透過特性は劣化させない、ことが必要である。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム合金膜と透明電極との間に通常設けられるバリアメタル層を省略しても、低い接触抵抗を維持しつつ、その分散(バラツキ)を小さく抑えることができ、しかも、光透過特性にも優れた表示デバイス用透明電極、およびその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決することのできた本発明の表示デバイス用透明電極は、窒素を含有する第1の透明導電膜と、窒素を含有しない第2の透明導電膜とからなり、前記第1の透明導電膜はアルミニウム合金膜に接触しているところに要旨を有している。
【0020】
好ましい実施形態において、前記第1の透明導電膜中に含まれる窒素の比率は、1.5原子%以上5原子%以下である。
【0021】
好ましい実施形態において、前記第1の透明導電膜の厚さ(T1)は、1nm以上25nm以下の範囲内である。
【0022】
好ましい実施形態において、前記第1の透明導電膜の厚さ(T1)と、前記第2の透明導電膜の厚さ(T2)との比(T1/T2)は1以下である。
【0023】
好ましい実施形態において、前記アルミニウム合金膜は、合金成分として、Ni,Ag,Zn,Cu,およびGeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上6原子%以下の範囲で含有するものである。
【0024】
好ましい実施形態において、前記アルミニウム合金膜は、合金成分として、更に、La,Gd,Dy,Mg,Nd,Y,Fe,およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上2原子%以下の範囲で含有するものである。
【0025】
好ましい実施形態において、前記アルミニウム合金膜は、ソース−ドレイン電極または反射電極に用いられるものである。
【0026】
本発明の表示デバイスは、上記のいずれかに記載の透明電極を備えている。
【0027】
上記課題を解決することのできた本発明に係る表示デバイス用透明電極の作製方法は、アルミニウム合金膜に、窒素を含有する第1の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する第1の工程と、前記窒素を含有する第1の透明導電膜に、窒素を含有しない第2の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する第2の工程と、を包含し、前記第1の工程は、不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスを用い、前記混合ガスの流量F1に対する窒素ガスの流量F2の比(F2/F1)を0.05以上0.5以下の範囲内に制御して行なうことに要旨を有している。
【発明の効果】
【0028】
本発明は上記のように構成されているため、透明電極をアルミニウム合金膜と直接接触しても、分散(バラツキ)の少ない低い接触抵抗と、高い透過率とを備えた表示デバイス用透明電極が得られる。
【0029】
本発明による上記作用は、アルミニウム合金膜に含まれるNiなどの合金成分の添加量が6原子%以下の場合に発揮され、2原子%以下と特に少ない場合に顕著となる。
【0030】
従って、本発明の表示デバイス用透明電極を用いれば、高性能の表示デバイスを安定して再現性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明者は、前述した特許文献1〜特許文献3に開示されているダイレクトコンタクト技術(透明電極をアルミニウム合金膜と直接接続しても接触抵抗を低減することが可能な技術)において、アルミニウム中の合金元素添加量を低く(おおむね、2原子%程度以下)抑えても、高性能の表示デバイスを安定して再現性良く製造できる技術を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、アルミニウム中の合金元素添加量を少なくすると、接触抵抗の分散は大きくなることが判明した。この問題は、これまでのダイレクトコンタクト技術において、特に、認識されていなかったものである。そこで、本発明者は、主に、「接触抵抗の分散を小さくする」という観点に基づき、更に検討を重ねてきた。詳細には、表示デバイス用透明電極に要求される低い接触抵抗と高い透過率はそのまま維持することを前提として、接触抵抗の分散を小さく抑えることが可能な技術を、表示デバイス用透明電極の改良という観点から、検討を重ねてきた。その結果、表示デバイス用透明電極を、窒素を含有する第1の酸化物透明導電膜(Transparent Conductive Oxide;TCO)と、窒素を含有しない第2の透明導電膜とからなる積層薄膜とし、且つ、第1の透明導電膜がアルミニウム合金膜に接触するような積層薄膜の構成とすれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0032】
以下では、説明の便宜上、窒素を含有しない第2の透明導電膜を単に「窒素非含有透明導電膜」または「TCO」と呼び、これに対し、窒素を含有する第1の透明導電膜を単に「窒素含有透明導電膜」または「TCO:N」と呼ぶ場合がある。従来の代表的な表示デバイス用透明電極は、ITOやIZOなどのように、透明導電膜(TCO)のみから構成されている。
【0033】
本明細書において、「表示デバイス用透明電極」には、表示デバイスに用いられる透明電極(代表的には透明画素電極)自体のみならず、透明電極に電気的に接続される配線(信号線)も含まれる。以下では、説明の便宜上、「表示デバイス用透明電極」を、単に「透明電極」と呼ぶ場合がある。
【0034】
以下、図1を参照しながら、本発明に係る透明電極の実施形態を説明する。図1(b)は、本発明の透明電極が設けられたTFT基板の一部を模式的に示す概略断面図であり、図1(a)は、特許文献1〜特許文献3に開示された従来の透明電極が設けられたTFT基板の一部を模式的に示す概略断面図である。
【0035】
図1(b)に示すように、本発明の透明電極60は、窒素を含有する第1の透明導電膜(TCO:N)61と、窒素を含有しない第2の透明導電膜(TCO)62とからなり、第1の透明導電膜61は、アルミニウム合金膜63に直接接触している。このように本発明の透明電極60は、窒素を含有しない第2の透明導電膜(TCO)62とアルミニウム合金膜63との間に窒素を含有する第1の透明導電膜(TCO:N)61を有している点で、第1の透明導電膜(TCO:N)61を有しておらず、透明導電膜(TCO)64とアルミニウム合金膜63とが直接接触している従来の透明電極70と相違している。
【0036】
本発明のように、第2の透明導電膜(TCO)/第1の透明導電膜(TCO:N)/アルミニウム合金膜の積層構造とすることにより、透明電極をアルミニウム合金膜と直接接続しても、低い接触抵抗を維持したまま接触抵抗の分散を抑えることができ、しかも、高い透過率も確保できる理由(メカニズム)は、詳細には不明であるが、第1の透明導電膜(TCO:N)が所謂バリア層となって、第2の透明導電膜(TCO)からアルミニウム合金膜への酸素の移動が防止され、アルミニウム合金膜の酸化が防止される結果、第2の透明導電膜(TCO)の還元が有効に防止されるためと推察される。これに対し、従来のように、透明導電膜とアルミニウム合金膜とが直接に接触している場合には、透明導電膜に過剰に含まれる酸素によってアルミニウム合金膜表面に酸化膜が形成されるため、所望の特性を確保することができなかったと推察される。
【0037】
第1の透明導電膜(TCO:N)による上記バリア作用(酸素拡散防止作用など)は、特に、アルミニウム合金膜中に含まれる合金元素の量が約2原子%以下と、比較的少ない場合に、有効に発揮される。合金元素の量が約2原子%を超える場合には、合金元素自体が、第1の透明導電膜(TCO:N)と同様のバリア作用を発揮し得るため、接触抵抗の分散が大きくなるなどの問題は顕著に見られないためである。従って、アルミニウム合金膜中に含まれる合金元素の量が約2原子%を超える場合には、必ずしも、本発明の構成を採用する必要はないが、更なる特性改善を目指して、アルミニウム合金膜中に含まれる合金元素の量が約2〜6原子%の場合であっても、本発明の構成を採用しても良いことはいうまでもない。
【0038】
第1の透明導電膜(TCO:N)によるバリア作用は、第1の透明導電膜をアルミニウム合金膜と第2の透明導電膜(TCO)との間に介在させることによって得られるが、接触抵抗の分散を更に抑えることなどを目指して、(a)第1の透明導電膜中の窒素含有量を適切に制御したり、(b)第1の透明導電膜の厚さ(T1)や、第1の透明導電膜の厚さ(T1)と第2の透明導電膜の厚さ(T2)との比(T1/T2)を適切に制御することが有効である(詳細は後述する)。
【0039】
なお、前述した特許文献4にも、窒素を含む透明導電膜を備えた透明電極が開示されているが、以下の点で本発明の透明電極と相違している。
【0040】
まず、両者は、解決課題が相違する。特許文献4は、画素電極形成後に行なわれるシンタリング工程(半導体界面層の欠陥修復のためのHアニール工程)において、ITOなどの金属成分の還元による画素の透過率低下を防止する技術に関し、特に、ITO表層の還元防止を目的としており、本発明のように、アルミニウム合金膜を透明電極と直接接続するダイレクトコンタクト技術に関するものではない。特許文献4では、データ線やドレイン電極は、下部膜(Mo、Mo合金、Crなどのバリア層)と上部膜(AlやAl合金膜)とから構成されており、特許文献4には、本発明のように、バリアメタル層を省略してアルミニウム合金膜を透明電極と直接接続させるというダイレクトコンタクト技術の思想は全くない。
【0041】
更に、両者の構成も相違する。両者は、いずれも、窒素を含有する透明導電膜(TCO:N)を有している点で一致しているが、窒素含有透明導電膜(TCO:N)は、本発明では、窒素非含有透明導電膜(TCO)とアルミニウム合金膜との間に配置されているのに対し、特許文献4では、窒素非含有透明導電膜(TCO)の上に配置されており、配置箇所が相違している。特許文献4では、Hアニール工程におけるITOなどの金属の還元を防止するため、最表面に、窒素含有透明導電膜(TCO:N)を配置する必要があるのに対し、本発明では、バリアメタル層を省略してもバラツキが少ない低接触抵抗と高い透過率とを備えた透明電極を提供するため、窒素非含有透明導電膜(TCO)とアルミニウム合金膜との間に窒素含有透明導電膜(TCO:N)を配置しなければならない。また、特許文献4には、窒素含有透明導電膜(TCO:N)のみからなる透明電極も開示されているが、この場合には、接触抵抗率は良好であるが、透過率が著しく低下することを、実験により確認している(後記する実施例3の図8を参照)。
【0042】
本発明を特徴付ける「窒素を含有する第1の透明導電膜」における「窒素を含有する」とは、透明導電膜の一部または全部が窒化されていることを意味する。詳細には、第1の透明導電膜(TCO:N)61は、透明導電膜中に窒素を1.5原子%以上5原子%以下の範囲内で含有していることが好ましい。ここで、「窒素含有量」は、アルミニウム合金膜63と第1の透明導電膜(TCO:N)61との界面(窒素含有量が最も高くなる部分)における窒素濃度を意味する。後に詳しく説明するように、第1の透明導電膜61は、Arガスなどの不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いたスパッタリング法(反応性スパッタリング法)により、アルミニウム合金膜63上に蒸着して形成されるため、第1の透明導電膜61は、アルミニウム合金膜63側から第2の透明導電膜62に向かって、窒素含有量が段階的に減少する濃度勾配を有しており、アルミニウム合金膜63と第1の透明導電膜61との界面は窒素含有層があり、一方、第1の透明導電膜61と第2の透明導電膜62との界面から上層側は窒素含有層は実質的に0(ゼロ)となる。本発明者の実験によれば、上記のAl合金膜界面における窒素の最大濃度を、好ましくは、1.5原子%以上5原子%以下の範囲内に制御すれば、所望とする特性が有効に発揮されることが分かった。第1の透明導電膜中の窒素の含有量が1.5原子%未満では、接触抵抗の分散が大きくなる。接触抵抗の低減とバラツキの抑制という観点からすれば、窒素含有量は多い程良く、例えば、2原子%以上であることがより好ましい。その上限は、透過率やシート抵抗などを考慮し、5原子%とする。第1の透明導電膜中の窒素の含有量は4原子%以下であることがより好ましく、3原子%以下であることが更に好ましい。
【0043】
第1の透明導電膜中の窒素の含有量は、例えば、後記する実施例に示すように、混合ガスの流量比(具体的には、不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスの流量F1に対する窒素ガスの流量F2の比、F2/F1)を制御してスパッタリングすることによって調整することができる。なお、スパッタリング条件が同じであっても、透明導電膜の種類によって透明導電膜中に取り込まれる窒素の量は相違するため、実際には、透明導電膜の種類などに応じてスパッタリング条件を適宜適切に設定すれば良い。
【0044】
第1の透明導電膜61における窒素の含有量は、XPS(X−ray Photoelectron Spectrometer、X線光電子分光装置)を用いて確認することができる。
【0045】
第1の透明導電膜61(TCO:N)の厚さ(T1)は、1nm以上25nm以下の範囲内であることが好ましい。T1が1nm未満では、第1の透明導電膜61によるバリア作用が有効に発揮されず、所望の接触抵抗バラツキ低減効果が得られない。一方、T1が25nmを超えると、可視光透過率が低下するほか、第1の透明導電膜が剥離するなどの問題がある。接触抵抗と透過性とのバランスを勘案すると、T1は2nm以上15nm以下の範囲内であることが好ましく、5nm以上10nm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
また、第1の透明導電膜(TCO:N)61の厚さ(T1)と、第2の透明導電膜(TCO)62の厚さ(T2)との比(T1/T2)は1以下、すなわち、T1はT2よりも小さい(T1≦T2)ことが好ましい。前述したように、第1の透明導電膜(TCO:N)61は、主に、接触抵抗のバラツキ低減化作用を有しており、所望の接触抵抗特性を確保するためには有用であるが、その厚さが大きくなり過ぎると、透過性が低下するようになる。本発明者の実験結果によれば、上記の比(T1/T2)が1を超える(すなわち、T1>T2)と、可視光透過率が低下することが判明した(後記する実施例を参照)。接触抵抗と透過性とのバランスを考慮すると、上記の比(T1/T2)は、0.25以上1以下であることが好ましく、0.5以上0.8以下であることがより好ましい。
【0047】
以上、本発明を特徴付ける第1の透明導電膜について説明した。
【0048】
繰り返し説明するように、本発明の透明電極は、従来の透明導電膜(単層膜)のみからなる透明電極において、その一部が窒化された「窒素を含有する第1の透明導電膜」をアルミニウム合金膜との間に有しているところに特徴がある。従って、「窒素を含有しない第2の透明導電膜(TCO)」における透明導電膜の種類は特に限定されず、従来汎用されているものを使用することができる。また、アルミニウム合金膜も、前述した特許文献1〜特許文献3に代表されるダイレクトコンタクト技術に開示されているものであれば、特に限定されない。
【0049】
第2の透明導電膜62は、透明導電膜のみから構成されており、窒素は、実質的に含有していない。ここで、「実質的に含有していない」とは、後記する薄膜の形成過程において、不可避的に含まれ得るレベルの窒素は許容し得るという意味である。従って、窒素の含有量は、必ずしも0原子%ではなく、本発明の作用を阻害しないレベル、例えば、約200原子ppm程度の窒素は含まれていてもよい。
【0050】
第1の透明導電膜61および第2の透明導電膜62を構成する透明導電膜は、特に限定されず、従来の画素電極に用いられる膜を使用することができる。代表的には、ITOやIZOなどが挙げられ、そのほか、IGO、IWO、ZnO、TiOなどの膜や、ZnOにAlやGaを添加した膜なども例示される。第1の透明導電膜61および第2の透明導電膜62は、同一の透明導電膜から構成されていても良いし、異なっていても良い。ただし、生産性などを考慮すると、両者は、同じ透明導電膜から構成されていることが好ましい。
【0051】
アルミニウム合金膜に用いられるアルミニウム合金としては、例えば、前述した特許文献1〜特許文献3に記載の組成のものが、好適に用いられる。これらのアルミニウム合金を用いれば、ピンホールなどによるTFT特性の低下を防止し得、透明電極と直接接続可能な配線または電極を提供できるからである。
【0052】
具体的には、アルミニウム合金としては、下記(1)〜(2)の組成を有するものが好ましい。
【0053】
(1)グループαに属する元素の少なくとも一種を0.1原子%以上6原子%以下の範囲で含有するAl−α合金
ここで、グループαは、Ni,Ag,Zn,Cu,およびGeから構成される。グループαに属する元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用してもよい。2種以上の元素を添加するときは、各元素の合計の含有量が上記範囲を満足すればよい。
【0054】
グループαに属する元素は、電気抵抗率の低減化に有用である。これらの元素を単独でまたは併用して、上記の範囲内でAl中に添加すると、比較的低い熱処理温度で、アルミニウム系合金薄膜と透明電極(厳密には、第1の透明導電膜)との接続界面に、αに属する元素の少なくとも一部を含む電気抵抗の低い領域(α含有析出物やα含有濃化層)が形成されるため、例えば、250℃で30分間熱処理したときの電気抵抗率を、おおむね、7μΩ・cm以下に低減することができる。
【0055】
上記元素のうち、Niは、特に、電気抵抗率の低減化作用および耐熱性に優れるため、少なくとも、Niを含有するAl−Ni合金を用いることが好ましい。
【0056】
グループαに属する元素が0.1原子%未満では、所望とするα含有濃化層の形成が不充分であり、接続抵抗を充分低く抑えることができない。ただし、グループαに属する元素の含有量が6原子%を超えると、Al系合金薄膜自体の電気抵抗率が高くなって画素の応答速度が遅くなり、消費電力が増大してディスプレイとしての品位が低下し、実用に供し得なくなる。グループαに属する元素の含有量は、0.5原子%以上5原子%以下であることが好ましい。
【0057】
(2)グループαに属する元素の少なくとも一種を0.1原子%以上6原子%以下の範囲で含有し、グループβに属する元素の少なくとも一種を0.1原子%以上2原子%以下の範囲で含有するAl−α−β合金
Al−α−β合金は、前述したグループαに属する元素を含み、更に、第三成分としてグループβに属する元素を含む三元系合金である。ここで、グループβは、La,Gd,Dy,Mg,Nd,Y,Fe,およびCoから構成される。グループβに属する元素は、単独で添加しても良く、2種以上を併用してもよい。2種以上の元素を添加するときは、各元素の合計の含有量が上記範囲を満足すればよい。
【0058】
グループβに属する元素は、耐熱性や耐食性の向上に有用である。また、上記元素の添加量が0.1〜2原子%の範囲内であれば、上記元素の添加による悪影響は見られず、グループαに属する元素を含有するAl−α合金を用いたときと同程度の優れた作用を有することも確認された。グループβに属する元素は、アルミニウム原子に比べて原子半径が大きく、当該元素を添加しても、成膜過程で窒素原子が透明導電膜に取り込まれるためのスペースは充分確保されるため、所望の窒素を含有する第1の透明導電膜(TCO:N)を容易に蒸着できるからである。
【0059】
グループβに属する元素の含有量は、0.1原子%以上2原子%以下の範囲内であることが好ましい。グループβに属する元素の含有量が0.1原子%未満の場合、前述した耐熱性や耐食性の向上作用が有効に発揮されず、一方、2原子%を超えると、配線の電気抵抗率が増加する。グループβに属する元素の含有量は、0.1原子%以上2原子%以下であることが好ましく、0.2原子%以上0.6原子%以下であることがより好ましい。
【0060】
本明細書において、「基板」は、TFT基板に用いられるものであれば限定されず、代表的には、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板、可撓性基板などを用いることができる。可撓性基板とは、PET、PES、PEN、アクリルなどからなるフィルム状の基板のことであり、これにより、半導体装置の軽量化が見込まれる。
【0061】
次に、上記の実施形態に係る透明電極の作製工程を説明する。
【0062】
本実施形態の透明電極を作製する方法は、アルミニウム合金膜に、窒素を含有する第1の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する第1の工程と、前記窒素を含有する第1の透明導電膜に、窒素を含有しない第2の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する第2の工程と、を包含し、前記第1の工程は、不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスを用い、前記混合ガスの流量F1に対する窒素ガスの流量F2の比(F2/F1)を0.05以上0.5以下の範囲内に制御して行なうことを特徴とする。
【0063】
以下、各工程を順次説明する。
【0064】
(第1の工程)
本発明を特徴付ける窒素を含有する第1の透明導電膜は、不活性ガスと窒素との混合ガスを用いた反応性スパッタリング法で蒸着する。具体的には、Ar,Neなどの不活性ガスとNガスとの混合ガスを用いてスパッタリングを行なう。第1の透明導電膜中の窒素含有量は、混合ガスの流量F1と窒素ガスの流量F2との比(F2/F1)を変化することによって制御することができ、上記の比(F2/F1)をおおむね、0.05以上0.5以下の範囲内に調整すれば、第1の透明導電膜中の窒素含有量を、おおむね1.5原子%以上5原子%以下の範囲内に制御することができる。
【0065】
その他の条件は特に限定されないが、例えば、以下のように制御することが好ましい
基板温度 :室温〜150℃
到達真空度 :1×10−5Torr以下
成膜時のガス圧:1〜30mTorr
DCスパッタリングパワー密度
(ターゲットの単位面積当たりのDCスパッタリングパワー)
:1〜5W/cm
【0066】
(第2の工程)
次に、上記のようにして形成された窒素を含有する第1の透明導電膜に、窒素を含有しない第2の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する。第2の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する工程は、前述した第1の工程において、不活性ガスと窒素との混合ガスを用いる代わりに、不活性ガス(代表的にはArガス)とOとの混合ガス(例えば、Ar:N=24:0.06)を用いたこと以外は第1の工程と同様にして行なえばよい。具体的には、例えば、前述した特許文献1〜特許文献3に記載の方法を参照することができる。
【0067】
本発明の透明電極は、液晶ディスプレイ、プロジェクタ用液晶表示デバイスのほか、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、LED素子またはLEDディスプレイなどの様々な表示デバイスに適用することができる。
【0068】
本発明の透明電極を備えたTFT基板を製造する方法は、透明電極を、窒素を含有する第1の透明導電膜と、窒素を含有しない第2の透明導電膜との積層構造とし、且つ、第1の透明導電膜がアルミニウム合金膜に接触するような構成としたこと以外は、基本的には通常使用されている方法を採用することができる。
【0069】
以下、図2を参照しながら、本発明の透明電極を備えたTFT基板の作製方法を説明する。以下では、ドレイン電極29を構成するアルミニウム合金膜の上側に本発明の透明電極5を設ける工程を説明するが、これに限定されず、例えば、反射電極を構成するアルミニウム合金膜の上側に本発明の透明電極5を設けてもよい。
【0070】
まず、図2(a)に示すように、ガラス基板1a上に、スパッタリング法を用いて、厚さ250nm程度のAl系合金薄膜を積層する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。このAl系合金薄膜をパターニングすることにより、ゲート電極26および走査線25を形成する。このとき、後記する図2(b)に示す工程において、ゲート絶縁膜27のカバレッジ性が良くなるように、上記積層薄膜の周縁を角度約30°〜60°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0071】
次いで、図2(b)に示すように、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、厚さ約300nm程度のシリコン窒化膜(ゲート絶縁膜)27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約350℃とした。続いて、例えばプラズマCVD法を用いて、シリコン窒化膜(ゲート絶縁膜)27の上に、厚さ200nm程度のノンドーピング水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)55および厚さ約80nmのリンをドーピングしたn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を順次積層し、TFTの能動層となる活性半導体層33を形成する。n型水素化アモルファスシリコン膜56は、例えば、PHガスを所定分圧添加したプラズマCVD法を行うことによって形成される。
【0072】
このようにして形成された水素化アモルファスシリコン膜55およびn型水素化アモルファスシリコン膜56からなる活性半導体層33を、図2(c)に示すようにパターニングする。
【0073】
次に、スパッタリング法を用いて、厚さ300nm程度のAl合金膜を形成する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。Al合金膜をパターニングすることにより、図2(d)に示すように、信号線と一体のソース電極28と、ドレイン電極29とが形成される。更に、ソース電極28およびドレイン電極29をマスクとして、n型水素化アモルファスシリコン膜56をドライエッチングして除去する。
【0074】
そして、図2(e)に示すように、例えばプラズマCVD装置などを用いて厚さ300nm程度のシリコン窒化膜(保護膜)30を形成する。このときの成膜は、約200℃で行なった。次に、シリコン窒化膜30にドライエッチング等を行うことによってコンタクトホール32を形成する。
【0075】
次に、前述した方法に基づき、窒素を含有する透明導電膜(酸化インジウムに10質量%の酸化スズを添加したITO膜)で形成される第1の層5aと、上記と同じ透明導電膜で形成される第2の層5bとの積層膜を成膜した後、ウェットエッチングによるパターニングを行って透明電極5を形成すると、図2(f)に示すTFT基板が完成する。窒素を含有する透明導電膜で形成される第1の層5aは、ドレイン電極29との電気的な接続をとるため、互いに接触している。この接触部分では、従来のようなMo等のバリアメタル層を透明電極とドレイン電極との間に挟まなくても接触抵抗の低いコンタクトを得ることができる。
【0076】
上記では、活性半導体層としてアモルファスシリコン膜を使用した例を挙げたが、ポリシリコン膜を用いてもよい。透明導電膜の材料としては、ITO膜の他、IZO膜などを使用することができる。また、図2の例では、活性半導体層である水素化アモルファスシリコン膜55をゲート電極26の上側に形成した例を示したが、活性半導体層をゲート電極26の下側に形成する構成としてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
(実施例1)
本実施例では、本発明の透明電極を用いれば、接触抵抗率が低く、分散も小さく抑えられることを実証する。具体的には、図1(b)に示す試験用デバイスを用い、不活性ガス(Ar)と窒素ガスとの混合ガス(Ar+N)の流量F1に対する窒素ガスの流量F2の比(F2/F1)を0〜0.15の範囲内で変え、窒素含有透明導電膜中の窒素含有量を変化させたときの接触抵抗率の変化を調べた。ここでは、透明導電膜としてITO膜を、アルミニウム合金膜としてAl−0.3原子%Ni−0.35原子%La合金を用いた。
【0079】
まず、ガラス基板の上に、以下の要領で、厚さ30nmのAl−0.3原子%Ni−0.35原子%La合金膜をスパッタ法によって蒸着した。
ターゲット材料:Al−0.3原子%Ni−0.35原子%Laのスパッタリング
ターゲットを使用(サイズ:直径100mm×厚さ5mm)
スパッタリング装置:島津製作所製「HSM−552」を使用
スパッタリング条件(DCマグネトロンスパッタリング法)
到達真空度:3×10−6Torr以下
ガス:Arガス
ガス流量:30sccm
スパッタパワー:DC150W
極間距離:50mm
基板温度:室温
ガラス基板:コーニング社製の#1737、直径10mm×厚さ0.7mm
【0080】
次いで、プラズマCVD法を用いて、厚さ約300nm程度のシリコン窒化膜(ゲート絶縁膜)を形成した。プラズマCVD法の成膜温度は、約350℃とした。
【0081】
次に、スパッタ法により、窒素を含有するITO膜(第1の透明導電膜、ITO:N)を蒸着した。詳細には、酸化インジウムに10質量%の酸化スズを添加したITOをターゲット材料として用い、ガス流量比(F2/F1)を0〜0.15の範囲内で変化させることによってITO膜中の窒素含有量を0〜3.2原子%の範囲内で変化させたこと以外は、前述したスパッタ条件でスパッタリングを行ない、厚さ10nmの第1の透明導電膜を成膜した。
【0082】
次いで、スパッタ装置内のガスを全てArガスに置換したこと以外は、前述したスパッタ条件でスパッタリングを行ない、厚さ40nmのITO膜(第2の透明導電膜)を蒸着した。
【0083】
次に、アルミニウム合金膜と透明電極との接触抵抗率を以下の方法によって測定した。
【0084】
図5に示すケルビンパターン(コンタクトホールサイズ:10μm角)を作製し、4端子測定[ITO−Al合金に電流を流し、別の端子でITO−Al合金間の電圧降下を測定する方法]を行った。すなわち、図5のI―I間に電流Iを流し、V1−V2間の電圧Vを測定することにより、接触部Cの接触抵抗R(Ω)を[R=(V2−V1)/I2]として求めた。
【0085】
上記と同じ試験用デバイスを13個作製し、上記と同様にして接触抵抗を調べて接触抵抗率(Ω・cm)に換算し、その平均値を算出した。また、接触抵抗率の分散は下式に基づいて算出した。
【数1】

【0086】
本実施例では、接触抵抗率の平均が2.7×10−4Ω・cm以下であり、且つ、接触抵抗率の分散が4×10−4の範囲内にあるものを合格とした。接触抵抗率の基準値は、窒素を含有しないITO膜と当該Al合金薄膜との接触抵抗率(すなわち、F2=0のときの接触抵抗率)を基準としたものである。
【0087】
これらの結果を図6〜図7に示す。
【0088】
このうち、図6は、図6上方の表中データに基づき、ガス流量比(F2/F1)と接触抵抗率との関係をグラフ化した図である。
【0089】
また、図7は、図7上方の表中データに基づき、窒素を含有するITO膜(ITO:N)中の窒素含有量と接触抵抗率との関係をグラフ化した図である。ここで、窒素含有量は実験値ではなく、ガス流量比(F2/F1)と窒素含有量との対応関係を表す図8の折れ曲がり線に基づき、ガス流量比(F2/F1)から間接的に求めたものである。図8は、実験の簡便上、ガス流量比(F2/F1)に基づいて窒素含有量を算出できるように、本発明者が予め基礎実験を行ない、両者の対応関係を調べておいたものである。
【0090】
図6および図7より、不活性ガス中に窒素ガスを添加し、ITO:N膜中の窒素の比率およびF2/F1の比で表されるガス流量比が0よりも大きくなるにつれ、接触抵抗率の平均値は低下し、且つ、接触抵抗率の分散も大幅に減少する傾向が見られた。図6には、ガス流量比が0.15までの結果しか示していないが、ガス流量比の上限が0.5の範囲内であれば、上記と同様の傾向が得られることを実験によって確認している。同様に、図7には、ITO:N膜中の窒素含有量が3.5%までの結果しか示していないが、ITO:N膜中の窒素含有量の上限が5%の範囲内であれば、上記と同様の傾向が得られることを実験によって確認している。
【0091】
(実施例2)
本実施例では、表1に示す種々のアルミニウム合金膜を使用したときの接触抵抗率の平均値および分散を調べた。詳細には、実施例1において、透明導電膜としてIZO膜を用い、ガス流量比(F2/F1)を0および0.1としたこと以外は、実施例1と同様にして接触抵抗率を調べた。表1に示すアルミニウム合金膜は、いずれも、ダイレクトコンタクト用材料として好適に用いられるものである。
【0092】
これらの結果を表1に併記する。ここで、ガス流量比(F2/F1)=0、0.1のときの、窒素を含有するIZO膜(第1の透明導電膜、IZO:N)中の窒素含有量は、それぞれ、0原子%、2.3原子%である。
【0093】
【表1】

【0094】
表1より、本発明の効果は、実施例1以外の態様においても発揮されることが分かった。詳細には、透明導電膜としてIZO膜を用い、アルミニウム合金膜として表1に示す種々のアルミニウム合金を用いた場合でも、窒素ガスを含む混合ガスの流量比を本発明の範囲内に制御して本発明で規定する積層構造の透明電極とすれば、当該アルミニウム合金を透明電極と直接接触しても、低い接触抵抗率を維持しつつ、分散も抑えられることが確認された。
【0095】
(実施例3)
本実施例では、本発明の透明電極を用いれば、従来の透明導電膜を用いたときと実質的に同程度の高い光透過特性が得られることを実証する。具体的には、以下のようにして、第1の透明導電膜(TCO−N)と第2の透明導電膜(TCO)との積層膜を形成したときの可視光(波長480nm、550nm、660nm)に対する透過率を測定した。ここでは、透明導電膜としてITO膜を用い、第1の透明導電膜の厚さ(T1)と第2の透明導電膜の厚さ(T2)との比(T1/T2)と、透過率との関係を比較検討した。T1とT2の合計は50nm(=一定)とした。
【0096】
まず、実施例1と同じガラス基板の上に、スパッタ法により、窒素を含有するITO膜(第1の透明導電膜)を成膜した。詳細には、ITOをターゲット材料として用い、ガス流量比(F2/F1)を0.125とし、成膜時間を5〜25秒の範囲内で調整したこと以外は、実施例1と同じスパッタ条件でスパッタリングを行ない、厚さT1が10〜50nmの第1の透明導電膜を成膜した。
【0097】
次いで、スパッタ装置内のガスを全てArガスに置換し、成膜時間を5〜25秒の範囲内で調整したこと以外は、実施例1と同じスパッタ条件でスパッタリングを行ない、厚さT2が0〜50nmの第2の透明導電膜を成膜した。
【0098】
本実施例では、ITO膜のみを成膜したとき(T1=0のため、T1/T2=0)の各波長における透過率を基準とし、480nm、550nm、660nmのいずれの波長においても、当該透過率の90%以上を満足するもの(基準値に対し、透過率の低下率が10%以下の範囲内にあるもの)を合格とした。
【0099】
これらの結果を図9に示す。
【0100】
図9に示すように、第1の透明導電膜と第2の透明導電膜との厚さの比(T1/T2)を1以下にし、第1の透明導電膜の厚さ(T1)を第2の透明導電膜の厚さ(T2)と同じか薄くした場合には、いずれの波長においても、所望とする高い透過率が得られた。これに対し、厚さの比(T1/T2)が1超の場合は、透過率が大きく低下した。
【0101】
例えば、T1/T2=4に着目すると、下記(ア)〜(ウ)に示すように、660nmおよび550nmにおける透過率は上記の合格基準を満足しているが、480nmにおける透過率が上記の合格基準を満足していないため、最終的には、不合格となった。
(ア)波長660nmにおける透過率は約79%であり、ITO膜のみを成膜したときの透過率(約82%)の90%(82%×0.9≒74%)以上を満足している。
(イ)波長550nmにおける透過率は約72%であり、ITO膜のみを成膜したときの透過率(約78%)の90%(78%×0.9≒70%)以上を満足している。
(ウ)波長480nmにおける透過率は約65%であり、ITO膜のみを成膜したときの透過率(約73%)の90%(73%×0.9≒66%)以上を満足していない。
【0102】
この結果より、前述した特許文献4のように、第1の透明導電膜のみからなる(すなわち、窒素含有透明導電膜のみからなる)透明電極を用いると、透過率は大きく低下することが確認された。
【0103】
なお、本実施例では、ITO膜を用いた結果を示しているが、ITO膜の代わりにIZO膜を用いても、上記と同様の傾向が見られることを実験により確認している。
【0104】
上記実施例1〜実施例3の結果より、本発明の透明電極を用いれば、アルミニウム合金膜と直接接触しても、低い接触抵抗率を維持しつつ、その分散も小さく抑えられ、且つ、高い透過率も確保できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1(a)は、従来の透明電極が設けられたTFT基板の一部を模式的に示す概略断面図であり、図1(b)は、本発明の透明電極が設けられたTFT基板の一部を模式的に示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における表示デバイスの工程断面図である。
【図3】図3は、従来の表示デバイスの概略断面図である。
【図4】図4は、従来の表示デバイスの要部断面図である。
【図5】図5は、アルミニウム合金膜と透明電極との間の接触抵抗の測定に用いたケルビンパターンを示す図である。
【図6】図6は、実施例1において、ガス流量比(F2/F1)と接触抵抗率との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1において、窒素を含有するITO膜(ITO:N)中の窒素含有量と接触抵抗率との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、ガス流量比(F2/F1)と窒素を含有するITO膜(ITO:N)中の窒素含有量との対応関係を表すグラフである。
【図9】図9は、実施例3において、第1の透明導電膜と第2の透明導電膜との厚さの比(T1/T2)と、各波長における透過率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0106】
1 TFT
2 TFTアレイ基板
3 対向基板
4 液晶層
5 透明電極
6 共通電極
7 カラーフィルタ
8 遮光膜
9 偏光板
10 配向膜
11 TABテープ
12 ドライバIC
13 制御IC
14 ソース領域
15 ドレイン領域
16 チャネル層
17 ゲート絶縁膜
18 ゲート電極
19 ソース電極
20 ドレイン電極
21a、21b バリアメタル層
22 反射電極
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜
28 ソース電極
29 ドレイン電極
30 シリコン窒化膜
32 コンタクトホール
33 活性半導体層
55 水素化アモルファスシリコン膜
56 n型水素化アモルファスシリコン膜
60、70 透明電極
61 窒素を含有する第1の透明導電膜
62 窒素を含有しない第2の透明導電膜
63 アルミニウム合金膜
64 透明導電膜
65 コンタクトホール
67 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を含有する第1の透明導電膜と、窒素を含有しない第2の透明導電膜とからなる表示デバイス用透明電極であって、
前記第1の透明導電膜はアルミニウム合金膜に接触していることを特徴とする表示デバイス用透明電極。
【請求項2】
前記第1の透明導電膜中に含まれる窒素の比率は、1.5原子%以上5原子%以下である請求項1に記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項3】
前記第1の透明導電膜の厚さ(T1)は、1nm以上25nm以下の範囲内である請求項1または2に記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項4】
前記第1の透明導電膜の厚さ(T1)と、前記第2の透明導電膜の厚さ(T2)との比(T1/T2)は1以下である請求項1〜3のいずれかに記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項5】
前記アルミニウム合金膜は、合金成分として、Ni,Ag,Zn,Cu,およびGeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上6原子%以下の範囲で含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項6】
前記アルミニウム合金膜は、合金成分として、Ni,Ag,Zn,Cu,およびGeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上2原子%以下の範囲で含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項7】
前記アルミニウム合金膜は、合金成分として、更に、La,Gd,Dy,Mg,Nd,Y,Fe,およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1原子%以上2原子%以下の範囲で含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項8】
前記アルミニウム合金膜は、ソース−ドレイン電極または反射電極に用いられるものである請求項1〜7のいずれかに記載の表示デバイス用透明電極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の表示デバイス用透明電極を備えた表示デバイス。
【請求項10】
請求項1〜8いずれかに記載の表示デバイス用透明電極を作製する方法であって、
アルミニウム合金膜に、窒素を含有する第1の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する第1の工程と、
前記窒素を含有する第1の透明導電膜に、窒素を含有しない第2の透明導電膜をスパッタリング法で蒸着する第2の工程と、を包含し、
前記第1の工程は、不活性ガスと窒素ガスとの混合ガスを用い、前記混合ガスの流量F1に対する窒素ガスの流量F2の比(F2/F1)を0.05以上0.5以下の範囲内に制御して行なうことを特徴とする表示デバイス用透明電極の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−216490(P2008−216490A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51858(P2007−51858)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】