説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】エンジンからの動力を駆動輪へ出力し差動用電動機により差動状態が制御される差動機構を備えた車両用駆動装置において、車両のスリップ時にも非スリップ時にもエンジンの駆動制御を適切に行うことができる車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド制御手段86は、基本的には、出力回転部材19の実回転速度である差動部実出力回転速度に基づいてエンジン8を制御する。そして、車両6のスリップ時には、上記差動部実出力回転速度に替えて、実際の車速Vに対応する車速基準出力回転速度に基づいてエンジン8を制御する。従って、上記スリップ時にエンジンパワーが不必要に大きくならないようにエンジン8の駆動制御を適切に行うことができる。また、基本的にはエンジン8は出力回転部材19の実回転速度に基づいて制御されるので、車両6のスリップ時以外でもエンジン8の駆動制御を適切に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの動力を駆動輪へ出力し電動機により差動状態が制御される差動機構を備えた車両用駆動装置において、そのエンジンを駆動する制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動用電動機と、エンジンからの動力を駆動輪へ出力しその差動用電動機により差動状態が制御される差動機構とを備えた車両用駆動装置の制御装置が、従来からよく知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置の制御装置がそれである。その特許文献1の車両用駆動装置は、前記差動用電動機と前記差動機構との他に、前記差動機構と前記駆動輪との間に介装された自動変速機と、その自動変速機の入力軸に連結された走行用電動機とを備えている。そして、特許文献1の車両用駆動装置の制御装置は、駆動輪の空転によるスリップ時には、エンジンが所定の上限回転速度以下で運転されるように前記差動用電動機を制御する。これにより、上記スリップ後のグリップ時における上記差動用電動機の高回転化が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−149742号公報
【特許文献2】特開2006−347237号公報
【特許文献3】特開2003−148192号公報
【特許文献4】特開2007−203993号公報
【特許文献5】特開2008−113541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の車両用駆動装置において、エンジンからの動力は駆動輪に伝達されるので、基本的にエンジンの駆動制御には、エンジンから駆動輪までの動力伝達系を構成する構成要素の回転速度が用いられるべきである。しかし、前記特許文献1の車両用駆動装置の制御装置は、前記駆動輪の空転によるスリップ時に前記差動用電動機の高回転化を抑制する制御を実行するものであるが、上記スリップ時にも非スリップ時である通常時にも、前記駆動輪とは別の車輪の実回転速度を用いてエンジンの駆動制御を行う。そのため、種々の走行状況を考慮すれば、上記非スリップ時においても上記車輪と駆動輪との間で実回転速度が乖離することがあり、エンジンの駆動制御を適切に設定できないおそれがあった。例えば、車両の旋回半径が小さい旋回時には上記車輪と駆動輪との間の回転速度差が大きくなるからであり、駆動輪が接地しているにも拘らず上記車輪が浮き上がるような不整路面での走行も考えられるからである。このような課題は未公知である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、差動用電動機と、エンジンからの動力を駆動輪へ出力しその差動用電動機により差動状態が制御される差動機構とを備えた車両用駆動装置において、車両のスリップ時にも非スリップ時にもエンジンの駆動制御を適切に行うことができる車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)差動用電動機と、エンジンからの動力を駆動輪へ出力しその差動用電動機により差動状態が制御される差動機構とを備えた車両用駆動装置において、その差動機構の出力回転部材の実回転速度に基づいて前記エンジンを制御する車両用駆動装置の制御装置であって、(b)車両のスリップ時には、前記出力回転部材の実回転速度に替えて、実際の車速に対応する車速基準出力回転速度に基づいて前記エンジンを制御することにある。
【発明の効果】
【0007】
車両のスリップ時には、差動機構の出力回転部材の実回転速度は、そのスリップ終了時たとえばそのスリップ終了後のグリップ時と比較して高くなっているので、その出力回転部材の実回転速度に応じてエンジン出力が制御されると、エンジン出力が不必要に大きくなるおそれがある。そして、そのエンジン出力は、上記スリップ終了時に、上記出力回転部材の実回転速度の低下に遅れて低下することが考えられる。これに対し、上記本発明によれば、車両のスリップ時には、エンジンは、上記出力回転部材の実回転速度ではなく前記車速基準出力回転速度に基づいて制御され、そのスリップが終了すれば上記出力回転部材の実回転速度は車速に対応することになるので、エンジンの駆動制御を、上記スリップ時にエンジン出力が不必要に大きくならないように適切に行うことができる。また、上記スリップ時を除き基本的には、エンジンの駆動制御は、前記差動機構の出力回転部材の実回転速度に基づいて行われ、その出力回転部材はエンジンからの動力を伝達する回転要素であるので、上記スリップ時以外でもエンジンの駆動制御を適切に行うことができる。
【0008】
ここで、好適には、(a)前記差動機構の出力回転部材の実回転速度に基づいて前記エンジンを制御することとは、その出力回転部材の実回転速度に基づいてそのエンジンの目標運転点を定め、そのエンジンの運転点がその目標運転点に追従するようにそのエンジンを制御することであり、(b)前記車速基準出力回転速度に基づいて前記エンジンを制御することとは、その車速基準出力回転速度に基づいてそのエンジンの目標運転点を定め、そのエンジンの運転点がその目標運転点に追従するようにそのエンジンを制御することである。このようにすれば、車両のスリップ時でもそのスリップ時以外でもエンジンの駆動制御を適切に行うことができる。
【0009】
また、好適には、(a)前記差動機構は、前記エンジンに直接又は間接的に連結されたキャリヤと、前記差動用電動機に直接又は間接的に連結されたサンギヤと、前記出力回転部材に含まれるリングギヤとを有する遊星歯車装置であり、(b)前記車両のスリップ時には、その遊星歯車装置の遊星歯車の予め定められた許容回転速度と前記差動機構の出力回転部材の実回転速度とに基づいて前記エンジンの下限回転速度を定める。このようにすれば、前記車両のスリップ中に、上記遊星歯車の回転速度が、エンジンの回転速度が低過ぎるために前記サンギヤと前記リングギヤとの回転速度差が拡大して上記遊星歯車の許容回転速度を超えるということを回避することが可能である。
【0010】
また、好適には、前記車両のスリップ時には、前記差動用電動機の予め定められた許容回転速度と前記車速基準出力回転速度とに基づいて前記エンジンの上限回転速度を定める。このようにすれば、前記車両のスリップ終了時たとえばそのスリップ終了後のグリップ時に、前記差動機構の差動作用により前記差動用電動機の回転速度が前記出力回転部材の実回転速度低下に伴って一時的に上昇するところ、上記スリップ中でもそのスリップ後でも実際の車速はあまり変化せず、エンジンの上限回転速度を定める基である上記車速基準出力回転速度はその実際の車速に対応するので、エンジンの回転速度が上記スリップ終了後に合わせて抑えられ、前記車両のスリップ終了時に、その差動用電動機の回転速度がそれの許容回転速度を超えて上昇することを回避することが可能である。
【0011】
また、好適には、(a)前記車両用駆動装置は、前記差動機構と前記駆動輪との間に介装された自動変速機を備えており、(b)前記車両のスリップ時とは、その自動変速機のアップシフト中におけるその自動変速機が有する係合要素のスリップ時を含むものであり、(c)その自動変速機のアップシフト時には、前記車速基準出力回転速度はその自動変速機のアップシフト後の変速比に基づいて算出される。このようにすれば、上記自動変速機のアップシフト時にも、例えば駆動輪が空転するスリップ時と同様に、エンジンの駆動制御を、エンジン出力が不必要に大きくならないように適切に行うことができる。
【0012】
また、好適には、前記車両用駆動装置は、前記差動機構の出力回転部材から前記駆動輪までの動力伝達経路に直接又は間接的に連結された走行用電動機を備えている。
【0013】
また、好適には、(a)前記差動機構の出力回転部材の実回転速度に基づいて前記エンジンの目標運転点と共に前記走行用電動機の目標運転点を定め、該走行用電動機の運転点が該走行用電動機の目標運転点に追従するように該走行用電動機を駆動(制御)しており、(b)前記車両のスリップ時には、前記出力回転部材の実回転速度に替えて前記車速基準出力回転速度に基づいて前記走行用電動機の目標運転点を定める。
【0014】
また、好適には、(a)前記車両用駆動装置は、前記差動用電動機または前記走行用電動機の回生作動によって充電される蓄電装置を備えており、(b)前記走行用電動機と前記差動用電動機と前記蓄電装置とは相互に電力授受可能になっている。
【0015】
また、好適には、前記自動変速機はそれが有する係合要素の掴み替えにより変速される。
【0016】
また、好適には、前記車両のスリップ時とは、前記差動機構の出力回転部材から走行路面までの動力伝達系の何処かで、前記差動機構側の方が前記走行路面側よりも高回転化(高速化)するスリップ時である。例えば、前記車両のスリップ時とは、駆動輪の空転によるスリップ時であり、すなわち、車両の加速操作に起因した前記駆動輪の前記走行路面に対するスリップ時である。言い換えれば、車両の加速操作により前記駆動輪または前記差動機構の出力回転部材が一時的に高回転化するスリップ時である。
【0017】
また、好適には、前記エンジンからの動力を走行路面に伝達しない車輪である従動輪の回転速度を検出し、その従動輪の回転速度に基づいて前記実際の車速を算出する。
【0018】
また、好適には、前記車速基準出力回転速度は、非スリップ時を想定しその非スリップ時において前記実際の車速を実現する前記出力回転部材の回転速度である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用される車両用駆動装置を説明するための骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用駆動装置に備えられた自動変速部における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用駆動装置を制御するための電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】図1の車両用駆動装置に備えられた自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された車速とアクセル開度とを変数とする変速線図である。
【図7】図1の車両用駆動装置において、エンジン要求パワーを算出するために用いられる要求トルクマップを例示した図である。
【図8】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、車両のスリップ時におけるエンジン駆動制御に関する制御作動を説明するための実施例1のフローチャートである。
【図9】図1の車両用駆動装置において、車両のスリップ時に設定されるエンジンの目標運転点を説明するための図である。
【図10】図1の車両用駆動装置において、エンジン、第1電動機、及び差動部遊星歯車の耐久性を低下させるような高回転化を防止するために、エンジン回転速度と差動部リングギヤの回転速度との関係が制限されるべき範囲を表した図である。
【図11】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、車両のスリップ時にエンジン回転速度に対する制限を設定する制御作動を説明するための実施例2のフローチャートである。
【図12】図3の差動部に係るY1乃至Y3の部分を抜き出した共線図であって、図11に示す制御作動においてエンジン上限回転速度がどのように設定されるかを説明するための図である。
【図13】図3の差動部に係るY1乃至Y3の部分を抜き出した共線図であって、図11に示す制御作動が解決しようとする課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明が適用される車両用駆動装置9を説明するための骨子図であり、この車両用駆動装置9はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、車両用駆動装置9はエンジン8と車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)とを備えており、その動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」と表す)を備えそのケース12内において共通の軸心上に配設された入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図5参照)との間の動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている駆動装置出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両6(図5参照)において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の二輪駆動車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図5参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0022】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。尚、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0023】
差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機MG1と、伝達部材18と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている第2電動機MG2とを備える電気式差動部である。なお、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の差動部リングギヤR0と共に動力分配機構16の出力回転部材19を構成するが、自動変速部20の入力回転部材にも相当するものである。
【0024】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図5参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図5参照)に充電する等の作動を行う。
【0025】
第1電動機MG1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。また、第2電動機MG2は、駆動輪34に動力伝達可能に連結されており、走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0026】
動力分配機構16は、エンジン8からの動力を駆動輪34へ出力し第1電動機MG1により差動状態が制御される差動機構であって、例えば「0.416」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。なお、差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0027】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機MG1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機MG1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機MG2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機MG1及び第2電動機MG2の一方又は両方の運転状態(運転点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。なお、本実施例では、図1から判るように、入力軸14の回転速度NIN(以下、「入力軸回転速度NIN」という)は、エンジン回転速度Nと同一回転速度である。
【0028】
自動変速部20は、エンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機であり、言い換えれば、動力分配機構16と駆動輪34との間に介装された自動変速機である。そして、自動変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26及びシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備えており、機械的に複数の変速比γATが段階的に設定される有段の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。換言すれば、自動変速部20は、相互に異なる変速比γATを有して予め機械的に設定された複数の変速段(1st〜4th)の中で一の変速段が他の変速段に切り換えられることにより変速される。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.488」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.455」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0029】
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて駆動装置出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。更に第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
【0030】
以上のように構成された自動変速部20は、解放側係合装置(解放側係合要素)が解放されると共に係合側係合装置(係合側係合要素)が係合されることにより変速される。つまり、自動変速部20では、係合要素の掴み替えによるクラッチツゥクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γAT(=伝達部材18の回転速度N18/駆動装置出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。その変速比γATは略等比的に変化する設定であるので、見方を変えれば、自動変速部20の相互に隣合う変速段間での変速比γATの差(ギヤ比ステップ)は、その変速段が低車速側であるほど大きくなるように設定されていると言える。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合及び一方向クラッチF1により変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
【0031】
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段及び後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0032】
自動変速部20に設けられた前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0033】
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0034】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度NATIN(以下、「AT入力回転速度NATIN」という)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、「伝達部材回転速度N18」という)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸回転速度NIN/駆動装置出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γATとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0035】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0036】
図3は、自動変速部20において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度N(以下、「エンジン回転速度N」という)を示し、横線XG(X3)が伝達部材18の回転速度N18すなわち差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
【0037】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。更に、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5(第5要素)に対応する相互に連結された第1リングギヤR1及び第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0038】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機MG1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機MG2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0039】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機MG1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度Nが上昇或いは下降させられる。また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機MG1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度Nと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機MG1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度Nよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
【0040】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は駆動装置出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
【0041】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、駆動装置出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速(1st)の駆動装置出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と駆動装置出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速(2nd)の駆動装置出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と駆動装置出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速(3rd)の駆動装置出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と駆動装置出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速(4th)の駆動装置出力軸22の回転速度が示される。
【0042】
図4は、車両用駆動装置9の制御装置として機能する電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0043】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPを表す信号、運転者が操作するシフトレバーのシフトポジションPSHを表す信号、エンジン回転速度Nを表す信号、駆動装置出力軸22に設けられた回転速度センサ72により検出される駆動装置出力軸22の回転速度NOUT及び車両6の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、アクセル開度センサ78により検出されるアクセルペダル77の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、車両6の前後加速度Gを表す信号、駆動輪回転速度センサ36により検出される左右の駆動輪34それぞれの車輪速(駆動輪回転速度)及びその回転方向を表す信号、従動輪回転速度センサ40により検出される左右の従動輪(転動輪)38それぞれの車輪速(従動輪回転速度)及びその回転方向を表す信号、レゾルバで構成されたMG1回転速度センサ(MG1レゾルバ)74により検出される第1電動機MG1の回転速度NMG1(以下、「第1電動機回転速度NMG1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバで構成されたMG2回転速度センサ(MG2レゾルバ)76により検出される第2電動機MG2の回転速度NMG2(以下、「第2電動機回転速度NMG2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機MG1,MG2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図5参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0044】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力P(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力P」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図5参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、電動機MG1、MG2の作動を指令する指令信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図5参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、その油圧制御回路70の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号等が、それぞれ出力される。
【0045】
図5は、電子制御装置80に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、電子制御装置80は、有段変速制御部としての有段変速制御手段82と、記憶部としての記憶手段84と、ハイブリッド制御部としてのハイブリッド制御手段86と、走行状態判断部としての走行状態判断手段92と、車両スリップ判断部としての車両スリップ判断手段94とを備えている。
【0046】
有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。有段変速制御手段82は、図6に示すような車速Vとアクセル開度Accとを変数(軸パラメータ)として記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(破線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。前記図6について詳述すると、図6の実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)であり、例えば、そのアップシフト線及びダウンシフト線は車両6の燃費及びドライバビリティを向上させるように実験的に設定されたものである。この図6の変速線図における変速線は、例えばアクセル開度Accを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上においてアクセル開度Accが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この変速点の連なりとして予め記憶されている。上述の図6に示す変速線図のように、軸パラメータとして運転者の要求駆動力を直接示すアクセル開度Accが採用されることで、アクセル開度Accの過渡的な変化すなわち上記要求駆動力の過渡的な変化に直ちに対応できる応答性のよい自動変速部20の変速が確保される。なお、本実施例で例えば、燃費とは単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下(悪化)とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率が大きくなることである。
【0047】
有段変速制御手段82は、上記自動変速部20の自動変速制御を実行する場合、例えば,図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツゥクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0048】
ハイブリッド制御手段86は、車両用駆動装置9から駆動輪34に出力される車両6の駆動力を制御する駆動力制御手段としての機能を備えている。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機MG1及び第2電動機MG2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能とを含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0049】
すなわち、エンジン8が駆動されるエンジン走行中において、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるように変化させて、動力分配機構16の変速比γ0を制御する。具体的には、ハイブリッド制御手段86は、アクセル開度センサ78からアクセル開度Accを逐次検出し、且つ、MG2回転速度センサ(MG2レゾルバ)76から動力分配機構16(差動部11)の出力回転部材19の回転速度NDOUT(以下、「差動部出力回転速度NDOUT」という)を逐次検出する。この差動部出力回転速度NDOUTは図1から判るように、第2電動機回転速度NMG2、伝達部材回転速度N18、及び差動部リングギヤR0の回転速度Nrと同じであり、本実施例で、その差動部出力回転速度NDOUTがMG2回転速度センサ76により検出された実際の回転速度であることを示したい場合には、差動部実出力回転速度NDOUTと呼ぶものとする。ハイブリッド制御手段86は、その検出したアクセル開度Accと差動部実出力回転速度NDOUTとに基づいて、エンジン8の目標とする運転状態を示す目標運転点を逐次定め、エンジン8の運転状態を示す運転点(例えばエンジン回転速度Nを示す軸とエンジントルクTを示す軸との2次元座標内における1点で示されるエンジン8の運転状態)がその目標運転点に追従するようにエンジン8を駆動する。例えば、本実施例ではハイブリッド制御手段86は、エンジン8に対し要求される差動部リングギヤR0の回転軸心まわりの要求トルクTr*を、図7に示すような予め実験的に定められた要求トルクマップからアクセル開度Accおよび差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて導出する。そして、その要求トルクTr*に上記差動部実出力回転速度NDOUTを乗じて得た出力値(単位は例えばkW)と、蓄電装置56が充放電すべき充放電要求パワー(充電方向が正方向)と、予め実験的に設定された損失との和を、エンジン8に対し要求されるエンジン要求パワー(エンジン要求出力)P*として算出する。従って、そのエンジン要求パワーP*は上記差動部実出力回転速度NDOUTが高いほど大きく設定される。次いで、ハイブリッド制御手段86は、その算出したエンジン要求パワーP*に基づいて、エンジン回転速度Nの目標値である目標エンジン回転速度N*とエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tの目標値である目標エンジントルクT*とを逐次決定する。その目標エンジン回転速度N*と目標エンジントルクT*とが示すエンジン8の運転点がエンジン8の前記目標運転点である。本実施例では、燃費性能と走行性能とを両立するようにエンジン回転速度NとエンジントルクTとの相互関係が予め実験的に定められたエンジン動作曲線の一種である最適燃費率曲線上で、エンジンパワー(エンジン出力)Pが前記算出したエンジン要求パワーP*となるエンジン8の目標運転点を求め、その求めたエンジン8の目標運転点が示すエンジン回転速度NとエンジントルクTとをそれぞれ目標エンジン回転速度N*と目標エンジントルクT*ととして決定する(後述の図9の点PT01等を参照)。ハイブリッド制御手段86は、そのように目標エンジン回転速度N*と目標エンジントルクT*とを逐次決定すると共に、エンジン回転速度N及びエンジントルクTがそれぞれ上記目標エンジン回転速度N*及び目標エンジントルクT*に一致するように、エンジン8を制御するとともに第1電動機MG1の発電量を制御する。つまり、エンジン8の運転点がエンジン8の目標運転点に追従するようにエンジンを駆動するということである。そして、ハイブリッド制御手段86は、エンジン要求パワーP*に基づくエンジン回転速度Nの制御及び第1電動機MG1の発電量の制御に伴い、動力分配機構16の変速比γ0をその変速可能な変化範囲内で無段階に制御する。また、ハイブリッド制御手段86は、アクセル開度Accおよび前記差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて、運転者が車両走行で要求する車両6の目標出力(目標車両パワー)P0*も逐次算出しており、駆動輪34にまで伝達されるエンジン8からの出力と第2電動機MG2からの出力とを併せてその目標車両パワーP0*が満たされるように第2電動機MG2の目標運転点を逐次定め、その定めた目標運転点に第2電動機MG2の運転点が追従するように第2電動機MG2を駆動し、第2電動機MG2にエンジン走行中のアシストトルクを適宜出力させる。上記目標車両パワーP0*は、前記エンジン要求パワーP*と同様に、上記差動部実出力回転速度NDOUTが高いほど大きく設定される。なお、上述のように、エンジン8の目標運転点及び第2電動機MG2の目標運転点は、基本的には前記差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて定められる一方で、車両6の加速操作時などに駆動輪34が空転するスリップ時には、上記差動部実出力回転速度NDOUTに替えて他のパラメータに基づいて定められることがある。このことについては後述する。
【0050】
また、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機MG2へ供給するので、エンジン8の動力(エンジン出力P)の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。要するに、差動部11において、エンジン出力Pは、入力軸14から機械的に伝達部材18へ伝達される機械パスと前記電気パスとの2系統の動力伝達経路を介して、伝達部材18に伝達される。なお、前記蓄電装置56は、インバータ54を介して第1電動機MG1および第2電動機MG2に電力を供給し且つそれらの電動機MG1,MG2から電力の供給を受けることが可能な電気エネルギ源であり、要するに、第1電動機MG1及び第2電動機MG2のそれぞれとの間で電力授受可能な電気エネルギ源である。換言すれば、蓄電装置56は、エンジン8で回転駆動される発電機として機能する第1電動機MG1及び第2電動機MG2の何れか一方または両方により充電される電気エネルギ源であり、例えば、鉛蓄電池などのバッテリ、又は、キャパシタなどである。また、第1電動機MG1及び第2電動機MG2はインバータ54を介して相互に電力授受可能となっている。
【0051】
また、ハイブリッド制御手段86は、車両6の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NMG1及び/又は第2電動機回転速度NMG2を制御してエンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NMG1及び/又は第2電動機回転速度NMG2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0052】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、駆動輪34に拘束される第2電動機回転速度NMG2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NMG1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度Nを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度Nを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NMG2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NMG1を変化させる。
【0053】
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力Pを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0054】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0055】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機MG2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、図示されていないが、車速Vとアクセル開度Accとを変数とする二次元座標において、エンジン8を走行用の駆動力源として車両6を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行が行われるエンジン走行領域と、第2電動機MG2を走行用の駆動力源として車両6を走行させる所謂モータ走行が行われるモータ走行領域とから構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)が記憶手段84に予め記憶されている。そして、ハイブリッド制御手段86は、上記記憶手段84に記憶されている駆動力源切換線図から、実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。なお、上記駆動力源切換線図において、前記モータ走行領域は、一般的にエンジン効率が高駆動力域に比較して悪いとされる比較的低アクセル開度Accの低い領域すなわち低エンジントルクT域、或いは、車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域に設定されている。
【0056】
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NMG1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機MG1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。
【0057】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機MG1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機MG2へ供給し、その第2電動機MG2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機MG2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機MG2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0058】
ハイブリッド制御手段86は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御部すなわちエンジン始動停止制御手段88を備えている。このエンジン始動停止制御手段88は、ハイブリッド制御手段86により例えば前記駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0059】
例えば、エンジン始動停止制御手段88は、アクセルペダル77が踏込操作されてアクセル開度Accが大きくなり、ハイブリッド制御手段86により車両状態が前記駆動力源切換線図のモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化したと判断されてモータ走行からエンジン走行への切り換えが判断された場合、すなわち、ハイブリッド制御手段86によりエンジン始動が判断された場合には、第1電動機MG1に通電して第1電動機回転速度NMG1を引き上げることで、すなわち第1電動機MG1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度Nを完爆可能な所定回転速度N’例えばアイドル回転速度以上の自律回転可能な所定の自律回転速度NEIDL以上に引き上げるエンジン回転駆動制御を行うと共に、所定回転速度N’以上にて燃料噴射装置66により燃料を供給(噴射)し点火装置68により点火してエンジントルクTを発生させるエンジントルク発生制御を行うことによってエンジン8を始動し、モーター走行からエンジン走行へ切り換える。また、エンジン始動停止制御手段88は、アクセルペダル77が戻されてアクセル開度Accが小さくなり車両状態が前記駆動力源切換線図のエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置66により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段86によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。
【0060】
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機MG1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機MG1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0061】
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やブレーキペダルの操作によるホイールブレーキ作動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両6の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的にハイブリッド制御手段86は、その回生制御において、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機MG2を回転駆動させて発電機として作動させる回生作動をさせて、その回生された電気エネルギである第2電動機MG2の回生パワー(例えば単位は「kW」)により蓄電装置56の充電を行う。すなわち、上記第2電動機MG2の回生作動による第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する。このように、ハイブリッド制御手段86は、コースト走行中などに第2電動機MG2により回生を行う上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0062】
ところで、車両発進時を含む車両6の加速操作時などに駆動輪34が空転するスリップが生じることがある。そのようなスリップ時には、駆動輪34の回転速度と共に、MG2回転速度センサ76により検出される前記差動部実出力回転速度NDOUTが一時的に上昇するので、その差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて算出されるエンジン要求パワーP*も一時的に大きくなる。そうなると上記スリップ時には、エンジン要求パワーP*に一致するように制御されるエンジンパワーPが不必要に増大することになるので、本実施例では、エンジン走行時にこれを回避するための制御が実施される。その制御機能の要部について以下に説明する。
【0063】
図5の走行状態判断手段92は、車両6が前進中であるか否かを判断する。この前進中には、車両6が前進走行している場合の他、運転者が車両を停車状態から前進方向に発進させようとしている場合も含まれる。走行状態判断手段92は、例えば、前記シフトレバーのシフトポジションPSHが前進走行を行うDポジション等の前進走行ポジションであれば、車両6が前進中であると判断する。或いは、駆動輪回転速度センサ36又は従動輪回転速度センサ40から検出される車輪速およびその回転方向に基づいて、車両6が前進中であるか否かを判断しても差し支えない。
【0064】
車両スリップ判断手段94は、車両6がスリップ中であるか否かを判断する。その車両6のスリップとは、運転者によってブレーキペダルが踏み込まれる等の車両制動操作に起因して駆動輪34または従動輪38がロックすることではなく、アクセルペダル77の踏込操作等の車両6の加速操作に起因して駆動輪34が空転するスリップである。言い換えれば、車両スリップ判断手段94が判断する上記車両6のスリップとは、車両6の加速操作により動力分配機構16の出力回転部材19が一時的に高回転化するスリップ時である。従って、車両スリップ判断手段94は、車両6の加速操作時であることを条件に、車両6がスリップ中であるとの判断を肯定することになる。例えば、車両スリップ判断手段94は、駆動輪34と従動輪38との回転速度差が所定の判定車輪回転速度差を超えて駆動輪34の回転速度が従動輪38の回転速度よりも高い場合、または、それに加えて駆動輪34の回転速度の上昇率が所定の判定上昇勾配を超えて駆動輪34の回転速度が上昇した場合に、車両6がスリップ中であると判断する。上記判定車輪回転速度差と上記判定上昇勾配とはそれぞれ、駆動輪34が空転するスリップを判断できるように実験的に定められている。
【0065】
また、車両スリップ判断手段94は、駆動輪34の上記スリップが終了し駆動輪34が走行路面に対しグリップしても、制御の安定のため、車両6がスリップ中であるという判断を直ちに肯定から否定に切り替えることはせず、上記駆動輪34のスリップ終了時すなわち駆動輪34のグリップ時から所定時間TIMEPが経過するまで、車両6がスリップ中であるという判断を継続する。上記所定時間TIMEPは、できるだけ短時間で、且つ上記スリップ中であるか否かの判断がスリップ終了時にも安定してなされるように実験的に予め設定されている。
【0066】
ハイブリッド制御手段86は、前述したように基本的には差動部実出力回転速度NDOUTに基づいてエンジン8を制御する(駆動する)が、車両6の前進中におけるスリップ時、すなわち、走行状態判断手段92によって車両6が前進中であると判断され且つ車両スリップ判断手段94によって車両6がスリップ中であると判断された場合には、実際の車速Vに対応する車速基準出力回転速度NVDOUTを逐次算出し、前記差動部実出力回転速度NDOUTに替えて、上記車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン8を制御する。すなわち、その車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン8の目標運転点を逐次定め、エンジン8の運転点がその目標運転点に追従するようにエンジン8を駆動する。車速基準出力回転速度NVDOUTは、駆動輪34がスリップしていない非スリップ時を想定しその非スリップ時において前記実際の車速Vを実現する算出値としての出力回転部材19の回転速度NDOUTである。従って、車速基準出力回転速度NVDOUTは、実際の車速Vと駆動輪34の直径と自動変速部20の変速比γATと差動歯車装置32のギヤ比とに基づいて算出できる。駆動輪34が空転するスリップ時の実際の車速Vは、例えば、車両加速時であるので、駆動輪回転速度センサ36と従動輪回転速度センサ40とにより4つの車輪34,38の各々の回転速度が検出され、その4つの車輪34,38の中から回転速度が最も低い車輪が選択され、その選択された車輪の直径にそれの回転速度を乗じて算出されても良いし、或いは、従動輪回転速度センサ40により従動輪38の回転速度が検出され、その従動輪38の直径にそれの回転速度を乗じて算出されても良い。
【0067】
上記のようにハイブリッド制御手段86がエンジン8の目標運転点を車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいて決定する場合も、差動部実出力回転速度NDOUTに基づく場合と同様にして行われる。例えば、ハイブリッド制御手段86は、図7の要求トルクマップの横軸である差動部出力回転速度NDOUTを車速基準出力回転速度NVDOUTとして、その要求トルクマップからアクセル開度Accおよび車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいて要求トルクTr*を導出し、その要求トルクTr*と車速基準出力回転速度NVDOUTとに基づいてエンジン要求パワーP*を算出する。そして、そのエンジン要求パワーP*と前記最適燃費率曲線とに基づいてエンジン8の目標運転点を求める。
【0068】
また、ハイブリッド制御手段86は、走行状態判断手段92によって車両6が前進中であると判断され且つ車両スリップ判断手段94によって車両6がスリップ中であると判断された場合には、駆動輪34が発揮する車両6の駆動力を制限するための駆動力制限値LMTPDを逐次設定し、車両6の駆動力がその駆動力制限値LMTPD以下となるように車両6の駆動力を制限する駆動力制限を行う。すなわち、上記車両6の駆動力がその駆動力制限値LMTPD以下となるように第2電動機MG2の出力制御を行う。上記駆動力制限値LMTPDは、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づくエンジン要求パワーP*に対応して設定される制限値であり、具体的には、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいて逐次設定されるエンジン要求パワーP*と車体速すなわち実際の車速Vとに基づいて、下記式(1)により算出される。ハイブリッド制御手段86は、車両6の前進中におけるスリップ時には、このようにして第2電動機MG2の出力制御を行うので、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいて第2電動機MG2の目標運転点を逐次定めると言える。
【0069】
駆動力制限値LMTPD=エンジン要求パワーP*/実際の車速V ・・・(1)
【0070】
図8は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわち、車両6のスリップ時におけるエンジン駆動制御に関する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図8に示す制御作動は、エンジン走行時に実行されるものであり、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。
【0071】
先ず、走行状態判断手段92に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、車両6が前進中であるか否かが判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、車両6が前進中である場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、SA6に移る。
【0072】
SA2においては、車両6がスリップ中であるか否かが判断される。その車両6のスリップとは、駆動輪34が空転するスリップである。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、車両6がスリップ中である場合には、SA4に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、SA3に移る。
【0073】
SA3においては、SA2の判断が肯定から否定に切り替わった時すなわち駆動輪34のスリップ終了時から前記所定時間TIMEPが経過したか否かが判断される。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、駆動輪34のスリップ終了時から所定時間TIMEPが経過した場合には、SA6に移る。一方、このSA3の判断が否定された場合には、SA4に移る。なお、SA2及びSA3は車両スリップ判断手段94に対応する。
【0074】
SA4においては、走行パワーすなわちエンジン要求パワーP*の算出に用いる出力回転部材19の回転速度NDOUTが実際の車速(車体速)Vから算出される。すなわち、実際の車速Vに対応した算出値としての出力回転部材19の回転速度(差動部出力回転速度)NDOUTである前記車速基準出力回転速度NVDOUTが、実際の車速Vと駆動輪34の直径と自動変速部20の変速比γATと差動歯車装置32のギヤ比とに基づいて算出される。そして、その実際の車速Vに対応して算出された車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン8が駆動される。SA4の次はSA5に移る。
【0075】
SA5においては、前記駆動力制限値LMTPDが設定または更新され、その駆動力制限値LMTPDにより前記駆動力制限が行われる。上記駆動力制限値LMTPDは、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づき設定されるエンジン要求パワーP*と実際の車速Vとに基づいて、前記式(1)により算出される。
【0076】
SA6においては、前記目標車両パワーP0*及びエンジン要求パワーP*の算出に用いる出力回転部材19の回転速度NDOUTが、MG2レゾルバ76により検出される実回転速度NDOUTとされる。そして、その出力回転部材19の実回転速度NDOUTすなわち差動部実出力回転速度NDOUTに基づいてエンジン8が駆動される。なお、SA4〜SA6はハイブリッド制御手段86に対応する。
【0077】
本実施例によれば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には、動力分配機構16の出力回転部材19の実回転速度NDOUTである差動部実出力回転速度NDOUTに基づいてエンジン8を駆動する。そして、車両6のスリップ時には、上記出力回転部材19の実回転速度NDOUTに替えて、実際の車速Vに対応する前記車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン8を駆動する。例えば、図9に示すエンジン8からの駆動力と駆動装置出力軸22の回転速度NOUTに対応した車速Vとして算出される出力軸対応車速との2次元座標において、車両6のスリップ前である通常時に、エンジン8の目標運転点が差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて点PT01に設定されていたものとする。そして車両6のスリップ時にもエンジン8がそのまま差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて駆動されるとすれば、駆動輪34の空転により差動部実出力回転速度NDOUTが上昇しそれに伴いエンジン要求パワーP*が増大し、そのエンジン8の目標運転点は点PT01から点PT02に移る。一方、本実施例では、車両6のスリップ時にはエンジン8は車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいて駆動され、実際の車速Vはスリップ前と略同じであるので、エンジン要求パワーP*はスリップ前と略同じであり、エンジン8の目標運転点は点PT01から点PT03に移る。そして、スリップ終了後の駆動輪34のグリップ時にはエンジン8の目標運転点は点PT01に戻る。この図9に例示したように、車両6のスリップ時にもエンジン8が差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて駆動されるとすれば、エンジン要求パワーP*に追従させられるエンジンパワーPが不必要に大きくなるおそれがあるところ、本実施例では、車両6のスリップ時にエンジンパワーPが不必要に大きくならないように、エンジン8の駆動制御を適切に行うことができる。また、車両6のスリップ時を除き基本的には、エンジン8の駆動制御は、出力回転部材19の実回転速度NDOUTすなわち差動部実出力回転速度NDOUTに基づいて行われ、その出力回転部材19はエンジン8からの動力を伝達する回転要素であるので、車両6のスリップ時以外でもエンジン8の駆動制御を適切に行うことができる。
【0078】
また、図9の矢印AR01のように車両6のスリップ時にエンジンパワーPが不必要に大きくなり、その後の駆動輪34のグリップ時に差動部実出力回転速度NDOUTが急減されるとすれば、それに伴ってエンジンパワーPを急減させるため第1電動機MG1の反力トルクに対応する第1電動機MG1の発電電力が急速に大きくなるので、蓄電装置56の耐久性低下を生じるおそれがある。これに対し、本実施例では、例えば図9におけるエンジン8の目標運転点PT01とPT03との関係からも判るように、駆動輪34のグリップ時にエンジンパワーPを急減させる必要がないので、蓄電装置56の耐久性低下を抑制できるという利点がある。
【0079】
また、本実施例によれば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には、差動部実出力回転速度NDOUTに基づいてエンジン8の目標運転点を逐次定め、エンジン8の運転点がその目標運転点に追従するようにエンジン8を制御する。そして、車両6のスリップ時には、上記差動部実出力回転速度NDOUTに替えて、前記車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン8の目標運転点を逐次定め、エンジン8の運転点がその目標運転点に追従するようにエンジン8を制御する。従って、車両6のスリップ時でもそのスリップ時以外でもエンジン8の駆動制御を適切に行うことができる。
【0080】
また、本実施例によれば、ハイブリッド制御手段86は、車両6のスリップ時には、車両6の駆動力が、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づくエンジン要求パワーP*に対応した駆動力制限値LMTPD以下となるように車両6の駆動力を制限する前記駆動力制限を行う。従って、車両6のスリップ時に、車両6の目標出力P0*を満たすために第2電動機MG2の出力が不必要に増大されないようになり、蓄電装置56の充電残量SOC低下が適切に抑えられる。
【0081】
続いて、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0082】
図13は、図3の差動部11に係るY1乃至Y3の部分を抜き出した共線図であって、本実施例に示す制御作動が解決しようとする課題を説明するための図である。図13において、実線L31は駆動輪34が空転するスリップ前の通常時における各回転速度を示し、破線L32は上記スリップ時における各回転速度を示し、二点鎖線L33は上記スリップ後のグリップ時における各回転速度を示している。上記スリップ時に、駆動輪34の空転に伴い差動部リングギヤR0の回転速度Nrが点PT31Rから点PT32Rに上昇し、それと共に、差動部キャリヤCA0の回転速度NCA0すなわちエンジン回転速度Nが点PT31CAから点PT32CAに引き上げられることがあり得る。そのような場合に、駆動輪34が走行路面に対してグリップすると、差動部リングギヤR0の回転速度Nrは、点PT32Rから点PT31R又はその近傍にまで急減する。そうすると、エンジン8はエンジン回転速度Nが点PT32CAから低下するように制御されるが、エンジン8のイナーシャが大きいためエンジン回転速度Nの低下が差動部リングギヤR0の回転速度Nr低下に対して遅れるので、駆動輪34のグリップ時には、イナーシャが大きいエンジン8の回転速度Nは殆ど変化せずそのエンジン8を中心に第1電動機回転速度NMG1が変化し、各回転速度は一時的に二点鎖線L33が示すようになる。そうすると、その二点鎖線L33が示すように、第1電動機回転速度NMG1が第1電動機MG1の予め定められたMG1許容回転速度すなわちMG1上限回転速度を一時的に超えることが生じ得る。本実施例では、このようなことを回避するための制御が実施される。その制御機能の要部について以下に説明する。なお、前述の実施例1と共通する箇所は説明を省略し、主として、実施例1と異なる箇所について説明する。
【0083】
本実施例の機能ブロック線図は実施例1と共通であり、図5である。図5に示すように、本実施例の電子制御装置240は、有段変速制御手段82と記憶手段84とハイブリッド制御手段242と走行状態判断手段92と車両スリップ判断手段94とを備えている。図5のハイブリッド制御手段242は、実施例1のハイブリッド制御手段86と異なり、駆動輪34が空転するスリップ時に前記車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン8の目標運転点を定めるものではなく、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づくエンジン要求パワーP*に対応した前記駆動力制限値LMTPDを設定して前記駆動力制限を行うものではない。すなわち、ハイブリッド制御手段242は、図8のSA4およびSA5における制御を実行するものではない。これら以外の点では、ハイブリッド制御手段242は、実施例1のハイブリッド制御手段86と同じ制御機能を備えている。
【0084】
また、ハイブリッド制御手段242は、エンジン回転速度Nを制限するエンジン回転速度制限手段として機能し、基本的には、前記差動部実出力回転速度NDOUTと第1電動機MG1の許容回転速度であるMG1許容回転速度NMG1MAX(MG1上限回転速度NMG1MAX)とに基づいてエンジン上限回転速度N1を逐次算出して定め、エンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにエンジン8を駆動する。例えば、ハイブリッド制御手段242は、前記最適燃費率曲線(エンジン動作曲線)とエンジン要求パワーP*とから定まる目標エンジン回転速度N*がエンジン上限回転速度N1を超える場合には、エンジン8の目標運転点が上記最適燃費率曲線から外れることを許容し、エンジン上限回転速度N1を目標エンジン回転速度N*として設定すると共にその目標エンジン回転速度N*(=N1)とエンジン要求パワーP*とに基づきエンジン要求パワーP*を維持する目標エンジントルクT*を設定する。或いは、エンジン要求パワーP*が低下しエンジン8の目標運転点が上記最適燃費率曲線から外れることを許容して、目標エンジントルクT*を維持したまま単にエンジン上限回転速度N1を目標エンジン回転速度N*として設定しても差し支えない。このようにしてハイブリッド制御手段242は、エンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにエンジン8を駆動する。前記MG1許容回転速度NMG1MAXとは、第1電動機MG1の耐久性が損なわれないように予め実験的に設定された第1電動機回転速度NMG1の上限値である。また、エンジン上限回転速度N1はエンジン8の上限回転速度であり、例えば、前記差動部実出力回転速度NDOUTに基づくエンジン上限回転速度N1は、図3に示す差動部11の共線図において、差動部サンギヤS0の回転速度NS0である第1電動機回転速度NMG1をMG1許容回転速度NMG1MAXとし且つ差動部リングギヤR0の回転速度Nrを差動部実出力回転速度NDOUTとした場合のエンジン回転速度Nに設定される。
【0085】
ハイブリッド制御手段242は、基本的には上述したように、差動部実出力回転速度NDOUTに基づいてエンジン上限回転速度N1を逐次定めるが、走行状態判断手段92によって車両6が前進中であると判断され且つ車両スリップ判断手段94によって車両6がスリップ中であると判断された場合には、実際の車速Vに対応する車速基準出力回転速度NVDOUTを逐次算出し、前記差動部実出力回転速度NDOUTに替えて、上記車速基準出力回転速度NVDOUTに基づいてエンジン上限回転速度N1を逐次算出して定める。すなわち、ハイブリッド制御手段242は、車両6の前進中におけるスリップ時には、MG1許容回転速度NMG1MAXと上記車速基準出力回転速度NVDOUTとに基づいてエンジン上限回転速度N1を逐次算出して定め、エンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにエンジン8を駆動する。例えば、車速基準出力回転速度NVDOUTに基づくエンジン上限回転速度N1は、図3に示す差動部11の共線図において、差動部サンギヤS0の回転速度NS0である第1電動機回転速度NMG1をMG1許容回転速度NMG1MAXとし且つ差動部リングギヤR0の回転速度Nrを車速基準出力回転速度NVDOUTとした場合のエンジン回転速度Nに設定される。
【0086】
更に、ハイブリッド制御手段242は、走行状態判断手段92によって車両6が前進中であると判断され且つ車両スリップ判断手段94によって車両6がスリップ中であると判断された場合には、差動部遊星歯車(差動部ピニオン)P0の予め定められた許容回転速度NP0MAXと差動部実出力回転速度NDOUTとに基づいてエンジン下限回転速度N2を逐次算出して定め、エンジン回転速度Nがそのエンジン下限回転速度N2以上になるようにエンジン8を駆動する。例えば、ハイブリッド制御手段242は、エンジン回転速度Nがそのエンジン下限回転速度N2以上になるようにする場合も、前述したエンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにする場合と同様にして目標エンジン回転速度N*と目標エンジントルクT*とを設定する。差動部遊星歯車P0の許容回転速度NP0MAXすなわちピニオン許容回転速度NP0MAXとは、差動部遊星歯車P0の回転速度NP0(ピニオン回転速度NP0)の上限値であって、差動部遊星歯車P0の耐久性が損なわれないように予め実験的に設定されている。ピニオン回転速度NP0は、差動部リングギヤR0と差動部キャリヤCA0との間の回転速度差と一対一で対応しその回転速度差が大きいほど大きくなるものであるので、ピニオン回転速度NP0と差動部リングギヤR0の回転速度Nrとが定まれば差動部キャリヤCA0の回転速度NCA0であるエンジン回転速度Nも定まる。従って、ハイブリッド制御手段242は、ピニオン許容回転速度NP0MAXと差動部実出力回転速度NDOUTとに基づいてエンジン下限回転速度N2を定める際には、例えば、ピニオン回転速度NP0をピニオン許容回転速度NP0MAXとし且つ差動部リングギヤR0の回転速度Nrを差動部実出力回転速度NDOUTとした場合のエンジン回転速度Nであって差動部実出力回転速度NDOUTよりも低い回転速度を、エンジン下限回転速度N2として設定する。また、そのエンジン下限回転速度N2の設定に関して図10を用いて説明することもできる。図10は、エンジン8、第1電動機MG1、及び差動部遊星歯車P0の耐久性を低下させるような高回転化を防止するために、エンジン回転速度Nと差動部リングギヤR0の回転速度Nrとの関係が制限されるべき範囲を表した図である。例えば図10に示すように、エンジン回転速度Nと差動部リングギヤR0の回転速度Nrとの関係を示す動力分配機構16の動作点は、エンジン8、第1電動機MG1、及び差動部遊星歯車P0の耐久性を低下させるような高回転化を防止するため、エンジン8自体の許容回転速度から定まる破線L01とMG1許容回転速度NMG1MAXから定まる二点鎖線L02とピニオン許容回転速度NP0MAXから定まる一点鎖線L03,L04とで囲まれた領域A01の範囲内に入るように制限される必要がある。そして、図10において、例えば差動部実出力回転速度NDOUTがNr01であるとすれば、ハイブリッド制御手段242は、差動部リングギヤR0の回転速度Nrを上記Nr01としたときの一点鎖線L04上の点PT04が示すエンジン回転速度Nを、エンジン下限回転速度N2として設定する。
【0087】
図11は、電子制御装置240の制御作動の要部、すなわち、車両6のスリップ時にエンジン回転速度Nに対する制限を設定する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図11に示す制御作動は、エンジン走行時に実行されるものであり、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。図11のSB1、SB2、SB3は、実施例1のフローチャートである図8のSA1、SA2、SA3とそれぞれ同じであるので、SB4から説明する。
【0088】
図11では、SB2の判断が肯定された場合またはSB3の判断が否定された場合にSB4に移る。また、SB1の判断が否定された場合またはSB3の判断が肯定された場合にSB6に移る。
【0089】
SB4においては、車速基準出力回転速度NVDOUTが実際の車速Vに基づいて算出され、エンジン上限回転速度N1がその車速基準出力回転速度NVDOUTとMG1許容回転速度NMG1MAXとに基づいて算出されて定められる。そして、エンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにエンジン8が駆動される。ここで、エンジン上限回転速度N1は、そのエンジン上限回転速度N1の算出に用いる差動部リングギヤR0の回転速度Nrを車速基準出力回転速度NVDOUTとして算出されるものであり、その車速基準出力回転速度NVDOUTは実際の車速Vに基づいて算出されるので、上記エンジン上限回転速度N1の算出に用いる差動部リングギヤR0の回転速度Nrは実際の車速V(車体速V)から算出されると言える。SB4の次はSB5に移る。
【0090】
SB5においては、エンジン下限回転速度N2がピニオン許容回転速度NP0MAXと差動部実出力回転速度NDOUTとに基づいて算出されて定められ、エンジン回転速度Nがそのエンジン下限回転速度N2以上になるようにエンジン8が駆動される。すなわち、MG2レゾルバ76により検出される差動部実出力回転速度NDOUTから算出したエンジン下限回転速度N2でエンジン回転速度Nに対する下限ガードがなされる。
【0091】
SB6においては、エンジン上限回転速度N1が前記差動部実出力回転速度NDOUTとMG1許容回転速度NMG1MAXとに基づいて算出されて定められ、エンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにエンジン8が駆動される。すなわち、上記エンジン上限回転速度N1の算出に用いる差動部リングギヤR0の回転速度Nrが、MG2レゾルバ76により検出される差動部実出力回転速度NDOUTとされて、エンジン上限回転速度N1が算出される。なお、SB4〜SB6はハイブリッド制御手段242に対応する。
【0092】
本実施例によれば、ハイブリッド制御手段242は、走行状態判断手段92によって車両6が前進中であると判断され且つ車両スリップ判断手段94によって車両6がスリップ中であると判断された場合には、ピニオン許容回転速度NP0MAXと差動部実出力回転速度NDOUTとに基づいてエンジン下限回転速度N2を逐次算出して定め、エンジン回転速度Nがそのエンジン下限回転速度N2以上になるようにエンジン8を駆動する。従って、車両6がスリップ中に、エンジン回転速度Nが低過ぎるために差動部サンギヤS0と差動部リングギヤR0との回転速度差が拡大してピニオン回転速度NP0がピニオン許容回転速度NP0MAXを超えるということを回避することが可能である。
【0093】
また、本実施例によれば、ハイブリッド制御手段242は、車両6の前進中におけるスリップ時には、MG1許容回転速度NMG1MAXと車速基準出力回転速度NVDOUTとに基づいてエンジン上限回転速度N1を逐次算出して定め、エンジン回転速度Nがそのエンジン上限回転速度N1以下になるようにエンジン8を駆動する。従って、車両6のスリップ終了時たとえばそのスリップ終了後のグリップ時に、動力分配機構16の差動作用により第1電動機回転速度NMG1が出力回転部材19の実回転速度NDOUT低下に伴って一時的に上昇するところ、上記スリップ中でもそのスリップ後でも実際の車速Vはあまり変化せず、エンジン上限回転速度N1を定める基である車速基準出力回転速度NVDOUTはその実際の車速Vに対応するので、エンジン回転速度Nが上記スリップ終了後(グリップ時)に合わせて抑えられ、車両6のスリップ終了時に、第1電動機回転速度NMG1がMG1許容回転速度NMG1MAXを超えて上昇することを回避することが可能である。例えば、前述の図13と対比可能な図12の差動部11の共線図において、車両のスリップ時には、車速基準出力回転速度NVDOUTは実際の車速Vに対応するので点PT21Rで表される。そして、実線L21で示すように、差動部サンギヤS0の回転速度NS0をMG1許容回転速度NMG1MAXとし且つ差動部リングギヤR0の回転速度Nrを点PT21Rで表される車速基準出力回転速度NVDOUTとした場合のエンジン回転速度Nがエンジン上限回転速度N1として設定される。そうすると、そのスリップ終了後である駆動輪34のグリップ時には、第1電動機回転速度NMG1は一時的に上昇するものの、二点鎖線L22が示す程度の回転速度にまで上昇するにとどまり、MG1許容回転速度NMG1MAX以下に抑えられる。
【0094】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0095】
例えば、前述の実施例1において、図8のフローチャートはSA3を有するが、そのSA3が無く、SA2の判断が否定された場合にSA6に移るものであっても差し支えない。
【0096】
また、前述の実施例1において、図8のフローチャートはSA5を有するが、そのSA5は無くても差し支えない。
【0097】
また、前述の実施例2において、図11のフローチャートはSB3を有するが、そのSB3が無く、SB2の判断が否定された場合にSB6に移るものであっても差し支えない。
【0098】
また、前述の実施例2において、図11のフローチャートはSB4とSB5とを有するが、そのSB4とSB5との何れか一方が無いものであっても差し支えない。
【0099】
また、前述の実施例2において、車両スリップ判断手段94は車両6がスリップ中であるか否かを判断し、その車両6のスリップとは駆動輪34が空転するスリップであるが、出力回転部材19から駆動輪34側を見れば、自動変速部20のアップシフト中におけるブレーキBまたはクラッチCのスリップも、スリップ終了後には差動部リングギヤR0の回転速度Nrがスリップ中に対して低下するので、駆動輪34が空転するスリップと同様であると言える。従って、前述の実施例2において車両スリップ判断手段94が判断する上記車両6のスリップ時には、自動変速部20のアップシフト中におけるブレーキBまたはクラッチCのスリップ時が含まれても差し支えない。そのようにしたとすれば、その車両スリップ判断手段94は、自動変速部20のアップシフト中におけるブレーキBまたはクラッチCがスリップ中である場合、要するに、その自動変速部20がアップシフト中である場合には、車両6がスリップ中であると判断する。そして、ハイブリッド制御手段242は、その車両スリップ判断手段94の判断に従ってエンジン上限回転速度N1およびエンジン下限回転速度N2を逐次算出して定める。この場合、すなわち自動変速部20のアップシフト時には、ハイブリッド制御手段242は、エンジン上限回転速度N1を算出するため、自動変速部20のアップシフト後の変速比γATに基づいて前記車速基準出力回転速度NVDOUTを算出する。このようにすることにより、自動変速部20のアップシフト時にも、例えば駆動輪34が空転するスリップ時と同様に、エンジン8の駆動制御を、エンジン出力Pが不必要に大きくならないように適切に行うことができる。
【0100】
また、前述の実施例1,2において、アクセル開度(アクセル操作量)Accの単位について特に制限は無い。アクセル開度Accの単位としては、例えば、最大アクセル開度に対する割合(%)、アクセルぺダル77の操作角度(度またはラジアン)、アクセルぺダル77の所定箇所の変位量(mm)などが考えられる。
【0101】
また、前述の本実施例1,2において、車両用駆動装置9は自動変速部20を備えているが、その自動変速部20を備えず、他の型式の自動変速機、単に動力を伝達する伝達部材、又は動力断接装置として機能するクラッチ等を備える車両用駆動装置9も考え得る。
【0102】
また、前述の実施例1,2では、第2電動機MG2は、伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機MG2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0103】
また、前述の実施例1,2では、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより、差動部11はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、たとえば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってよい。
【0104】
また、前述の実施例1,2の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機MG1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機MG1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0105】
また、前述の実施例1,2では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0106】
また、前述の実施例1,2では、第1電動機MG1および第2電動機MG2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機MG1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機MG2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、たとえばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機MG1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機MG2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0107】
また、前述の実施例1,2では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0108】
また、前述の実施例1,2ではエンジン8と差動部11とが直接連結されているが、必ずしも直接連結される必要はなく、エンジン8と差動部11との間にクラッチを介して連結されていてもよい。
【0109】
また、前述の実施例1,2では、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、例えば、動力伝達装置10全体として電気式差動を行う機能と、動力伝達装置10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で変速を行う機能とを備えた構成であって、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していない構成であっても差し支えない。また、これらの配設位置や配設順序も特に限定されない。
【0110】
また、前述の実施例1,2の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置(差動部遊星歯車装置24)から構成されていたが2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、差動部遊星歯車装置24はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。また、このような2以上の遊星歯車装置から構成された場合においても、これらの遊星歯車装置の各回転要素にエンジン8、第1および第2電動機MG1、MG2、伝達部材18、構成によっては駆動装置出力軸22が動力伝達可能に連結され、さらに遊星歯車装置の各回転要素に接続されたクラッチCおよびブレーキBの制御により有段変速と無段変速とが切り換えられるような構成であっも構わない。
【0111】
また、前述の実施例1,2の動力伝達装置10において、第1電動機MG1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機MG2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機MG1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機MG2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0112】
また、前述の実施例1,2において、第2電動機MG2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機MG2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機MG1の代わりに第2電動機MG2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0113】
また、前述の実施例1,2において、差動部11が、第1電動機MG1及び第2電動機MG2を備えているが、第1電動機MG1及び第2電動機MG2は差動部11とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0114】
また前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。例えば、前述の実施例1と実施例2とを組み合わせるとすれば、その制御作動を表すフロチャートは、図8においてSA5の次に実行されるステップとして図11のSB4とSB5とを備え、SA6の次に実行されるステップとして図11のSB6を備えるものとなる。
【0115】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0116】
6:車両
8:エンジン
9:車両用駆動装置
16:動力分配機構(差動機構)
19:出力回転部材
20:自動変速部(自動変速機)
24:差動部遊星歯車装置(遊星歯車装置)
34:駆動輪
80,240:電子制御装置(制御装置)
MG1:第1電動機(差動用電動機)
C1:第1クラッチ(係合要素)
C2:第2クラッチ(係合要素)
C3:第3クラッチ(係合要素)
B1:第1ブレーキ(係合要素)
B2:第2ブレーキ(係合要素)
S0:差動部サンギヤ(サンギヤ)
P0:差動部遊星歯車(遊星歯車)
CA0:差動部キャリヤ(キャリヤ)
R0:差動部リングギヤ(リングギヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動用電動機と、エンジンからの動力を駆動輪へ出力し該差動用電動機により差動状態が制御される差動機構とを備えた車両用駆動装置において、該差動機構の出力回転部材の実回転速度に基づいて前記エンジンを制御する車両用駆動装置の制御装置であって、
車両のスリップ時には、前記出力回転部材の実回転速度に替えて、実際の車速に対応する車速基準出力回転速度に基づいて前記エンジンを制御する
ことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記差動機構の出力回転部材の実回転速度に基づいて前記エンジンを制御することとは、該出力回転部材の実回転速度に基づいて該エンジンの目標運転点を定め、該エンジンの運転点が該目標運転点に追従するように該エンジンを制御することであり、
前記車速基準出力回転速度に基づいて前記エンジンを制御することとは、該車速基準出力回転速度に基づいて該エンジンの目標運転点を定め、該エンジンの運転点が該目標運転点に追従するように該エンジンを制御することである
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記差動機構は、前記エンジンに直接又は間接的に連結されたキャリヤと、前記差動用電動機に直接又は間接的に連結されたサンギヤと、前記出力回転部材に含まれるリングギヤとを有する遊星歯車装置であり、
前記車両のスリップ時には、該遊星歯車装置の遊星歯車の予め定められた許容回転速度と前記差動機構の出力回転部材の実回転速度とに基づいて前記エンジンの下限回転速度を定める
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記車両のスリップ時には、前記差動用電動機の予め定められた許容回転速度と前記車速基準出力回転速度とに基づいて前記エンジンの上限回転速度を定める
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記車両用駆動装置は、前記差動機構と前記駆動輪との間に介装された自動変速機を備えており、
前記車両のスリップ時とは、該自動変速機のアップシフト中における該自動変速機が有する係合要素のスリップ時を含むものであり、
該自動変速機のアップシフト時には、前記車速基準出力回転速度は該自動変速機のアップシフト後の変速比に基づいて算出される
ことを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−106636(P2012−106636A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257330(P2010−257330)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】