説明

Al合金膜を用いた低接触電気抵抗型電極およびその製造方法並びに表示装置

【課題】Al合金中の合金元素を少なくしても、透明酸化物導電膜との接触抵抗を低くすることのできる低接触電気抵抗型電極、およびこうした電極を製造するための有用な方法、並びにこうした電極を備えた表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の低接触電気抵抗型電極は、酸化物透明導電膜と直接接触するAl合金薄膜からなる低接触電気抵抗型電極において、前記Al合金は、Alよりもイオン化傾向が小さい金属元素を0.1〜1.0原子%の割合で含有し、且つAl合金薄膜の酸化物透明電極と直接接触するAl合金薄膜表面は、最大高さ粗さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイに代表される薄型電子表示装置に使用される薄膜トランジスタに用いられるAl合金膜を用いた低接触電気抵抗型電極、およびその製造方法、並びにこのような低接触電気抵抗型電極を備えた表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の携帯電話から、30インチを超す大型のテレビに至るまで様々な分野で用いられる液晶表示装置は、画素の駆動方法によって、単純マトリクス型液晶表示装置とアクティブマトリクス型液晶表示装置とに分けられる。このうちスイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下「TFT」と呼ぶことがある。)を有するアクティブマトリクス型液晶表示装置は、高精度の画質を実現できることから、汎用されている。
【0003】
図1は、アクティブマトリクス型の液晶表示装置に適用される代表的な液晶パネルの構造を示す概略断面拡大説明図である。図1に示した液晶パネルは、TFTアレイ基板1と、該TFT基板に対向して配置された対向基板2、およびこれらTFT基板1と対向基板2との間に配置され、光変調層として機能する液晶層3を備えている。TFTアレイ基板1は、絶縁性のガラス基板1a上に配置された薄膜トランジスタ(TFT)4や配線部6に対向する位置に配置された遮光膜9からなる。
【0004】
また、TFT基板1および対向基板2を構成する絶縁性基板の外面側には、偏光板10,10が配置されると共に、対向基板2には、液晶層3に含まれる液晶分子を所定の向きに配向させるための配向膜11が設けられている。
【0005】
この様な構造の液晶パネルでは、対向基板2と透明導電膜5の間に形成される電界によって、液晶層3における液晶分子の配向方向が制御され、TFTアレイ基板1と対向基板2との間の液晶層3を通過する光が変調され、これによって、対向基板2を透過する光の透過が制御されて画像が表示される。
【0006】
またTFTアレイは、TFTアレイ外部に引き出されたTABテープ12により、ドライバ回路13および制御回路14によって駆動される。尚、図1中、15はスペーサー、16はシール材、17は保護膜、18は拡散膜、19はプリズムシート、20は導光板、21は反射板、22はバックライト、23は保持フレーム、24はプリント基板を夫々示している。
【0007】
図2は、上記のような表示装置用アレイ基板に適用される薄膜トランジスタ(TFT)の構成を例示する概略断面説明図である。図2に示す如く、ガラス基板1a上には、アルミニウム合金薄膜によって走査線25が形成され、該走査線25の一部は、薄膜トランジスタのオン・オフを制御するゲート電極26として機能する。またゲート絶縁膜27を介して走査線25と交差するように、アルミニウム薄膜によって信号線が形成され、該信号線の一部は、TFTのソース電極28として機能する。尚、このタイプは一般にボトムゲート型と呼ばれる。
【0008】
ゲート絶縁膜27上の画素領域には、例えばIn23にSnOを含有させたITO膜によって形成された透明導電膜5が形成された透明導電膜5が配置されている。アルミニウム合金膜で形成された薄膜トランジスタのドレイン電極29は、透明導電膜5に直接接触して電気的に接続される。
【0009】
上記のような構成のTFT基板1aに走査線25を介してゲート電極26にゲート電圧を供給すると、薄膜トランジスタがオン状態となり、予め信号線に供給された駆動電圧がソース電極28からドレイン電極29を介して透明導電膜5へ供給されることになる。そして、透明導電膜5に所定レベルの駆動電圧が供給されると、対向する共通電極との間で液晶素子に駆動電圧が加わって液晶が動作する。尚、図1に示した構成では、ソース−ドレイン電極と透明導電膜とが直接接触している状態を示したが、ゲート電極においても、端子部で透明導電膜5と接触して電気的に接続される構成を採用することがある。
【0010】
また、この透明導電膜に電気的に接続される配線部の信号線としては、純AlもしくはAl−Ndの如きAl合金が使用されるが、これらと透明導電膜が直接接触しないように、その間にMo,Cr,Ti,W等の高融点金属からなる積層膜(「バリアメタル層」と呼ばれることがある)を介在させることも行われていた。しかしながら最近では、図2に示すように、これらの高融点金属を省略し、信号線に透明導電膜を直接接触させる試みもなされている。
【0011】
こうした技術として、例えば特許文献1には、酸化インジウムに酸化亜鉛を10質量%程度含有させたIZO膜からなる酸化物透明導電膜を使用すれば、信号線と直接接触が可能になるとされている。
【0012】
また、特許文献2には、ドレイン電極にプラズマ処理やイオン注入によって表面処理を施す方法が開示され、また特許文献3には、第1層のゲートとソースおよびドレイン電極として、N,O,Si等の不純物を含む第2層を積層した積層膜を形成する方法が開示されており、これらの方法を採用すれば、前記の高融点金属元素を省略した場合でも、透明導電膜との接触電気抵抗を低レベルに維持できることが明らかにされている。
【0013】
本発明者らも、上記のような薄型電子表示装置において、純粋なAlではなく、Al−Ni系合金に代表されるような多元系合金材を用いて必要とされる導電性と純Alでは望めない耐熱性を具備する配線膜の形成を検討してきた。その研究の一環として、上記のようなAl合金材を可視光透明酸化物導電膜と直接接触させ、電気的配線との接続を担う機能を持つ電極を実現し、その技術的意義が認められたので先に出願している(特許文献4)。この技術によって、純Alと可視光透明酸化導電膜との電気的接続のために必要とされていた高融点金属層を不要とすると共に、工程数を増やすことなく簡略化し、Al系合金膜を透明画素電極に対して直接且つ確実に接続させ得る方法を提案している。
【特許文献1】特開平11−337976号公報
【特許文献2】特開平11―283934号公報
【特許文献3】特開平11−284195号公報
【特許文献4】特開2004−214606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、近年の液晶パネルの大型化に伴って、ゲート電極およびソース−ドレイン電極の配線抵抗によって電圧パルスの伝播遅れによる画像表示むらが課題となっている。こうしたことから、表示装置中の信号伝達の役割を果たすゲート電極やソース−ドレイン電極の配線抵抗は純Al並の値が求められている。
【0015】
ゲート電極やソース−ドレイン電極において、純Al並の配線抵抗を実現するには、Al合金に含有されている合金元素をできるだけ少なくする必要がある。しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、例えばAl−Ni系合金の場合、Ni含有量を少なくすると可視光透明酸化物導電膜との接触電気抵抗が高くなることが判明した。ゲート電極やソース−ドレイン電極において、可視光透明酸化物導電膜との接触電気抵抗が高くなると、表示装置における表示不良(点灯不良)等の不都合が発生する。
【0016】
本発明はこうした状況の下になされたものであって、その目的は、Al合金中の合金元素を少なくしても、透明酸化物導電膜との接触電気抵抗を低くすることのできる低接触電気抵抗型電極、およびこうした電極を製造するための有用な方法、並びにこうした電極を備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成することのできた本発明の低接触電気抵抗型電極とは、酸化物透明導電膜と直接接触するAl合金膜からなる低接触電気抵抗型電極において、前記Al合金は、Alよりも貴な金属元素を0.1〜1.0原子%の割合で含有し、且つAl合金膜の酸化物透明電極と直接接触するAl合金膜表面は、最大高さ粗さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものである点に要旨を有するものである。尚、最大高さ粗さRzとは、JIS B0601(2001改正後のJIS規格)に基づくものである。
【0018】
本発明の低接触電気抵抗型電極において、前記Alよりも貴な金属元素としては、Ni,Co,Ag,AuおよびZnよりなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、これらの元素を含む金属間化合物がAl合金膜表面に析出されることによって、前記凹凸が形成される。
【0019】
前記Al合金膜には、更に希土類元素の1種以上を0.1〜0.5原子%の割合で含有することもできる。
【0020】
本発明の低接触電気抵抗型電極は、ゲート電極やソース−ドレイン電極として有用に適用できるものとなる。またこうした低接触電気抵抗型電極を備えることによって、表示不良の発生することのない高性能の表示装置が実現できる。
【0021】
上記のような低接触電気抵抗型電極を製造するに当っては、酸化物透明導電膜と直接接触させるに先立ち、Al合金薄膜表面をアルカリ溶液でウェットエッチングすることによって、前記凹凸を形成するようにすれば良い。また、こうした方法を適用するに際しては、エッチングによる深さRzは、5nm以上であることが好ましい。
【0022】
また酸化物透明導電膜と直接接触させるに先立ち、Al合金膜表面をSF6とArの混
合ガスでドライエッチングすることによっても、上記のような低接触電気抵抗型電極を製造することができる。また、こうした方法を適用するに際しては、エッチングによる深さRzは、5nm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、Al合金膜表面をアルカリ溶液でウエットエッチング、またはSF6とArの混合ガスでドライエッチングすることによって、Al合金膜表面に凹凸を形成
するようにしたので、その表面に合金元素の析出物を形成することができ、その結果として合金元素を比較的少なくしても接触電気抵抗を低くすることができ、表示不良の発生を極力低減した表示装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
まず図2に示したTFTアレイ基板1の製法について簡単に説明する。尚ここで、スイッチング素子として形成される薄膜トランジスタは、水素化アモルファスシリコンを半導体層として用いたアモルファスシリコンTFTを一例として挙げる。
【0025】
まずガラス基板1aに、スパッタリング等の手法で例えば膜厚200nm程度のAl合金膜を形成し、該Al合金膜をパターニングすることにより、ゲート電極26と走査線25を形成する(図3)。このとき、後記ゲート絶縁膜27のカバレッジが良くなるように、アルミニウム合金薄膜の周縁を約30〜40度のテーパー状にエッチングしておくのがよい。次いで、図4に示す如く、例えばプラズマCVD法等の手法で、例えば膜厚が約300nm程度の酸化シリコン膜(SiOx)でゲート絶縁膜27を形成し、更に、例えば
膜厚50nm程度の水素化アモルファスシリコン膜(a−Si:H)と膜厚300nm程度の窒化シリコン膜(SiNx)を成膜する。
【0026】
続いて、ゲート電極26をマスクとする裏面露光によって図5に示す如く窒化シリコン膜(SiNx)をパターニングし、チャネル保護膜を形成する。更にその上に、燐をドーピングした例えば膜厚50nm程度のn+型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si:H)を成膜した後、図6に示す如く、水素化アモルファスシリコン膜(a−Si:H)とn型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si:H)をパターニングする。
【0027】
そしてその上に、例えば膜厚300nm程度のAl合金膜を成膜し、図7に示す様にパターニングすることで、信号線と一体のソース電極28と、透明導電膜5に接触されるドレイン電極29を形成する。更に、ソース電極28とドレイン電極29をマスクとして、チャネル保護膜(SiNx)上のn型水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si:
H)を除去する。
【0028】
そして図8に示す如く、例えばプラズマCVD装置などを用いて、窒化シリコン膜30を例えば膜厚300nm程度で成膜することにより保護膜を形成する。このときの成膜は例えば260℃程度で行なわれる。そしてこの窒化シリコン膜30上にフォトレジスト層31を形成した後、該窒化シリコン膜30をパターニングし、例えばドライエッチング等によって窒化シリコン膜30にコンタクトホール32を形成する。また図示していないが、同時にパネル端部のゲート電極上のTABとの接続に当たる部分にコンタクトホールを形成する。
【0029】
更に図9に示す如く、例えば酸素プラズマによるアッシング工程を経た後、例えばアミン系等の剥離液を用いてフォトレジスト層31の剥離処理を行い、最後に例えば保管時間8時間程度以内に、図10に示す如く例えば膜厚40nm程度のITO膜を成膜し、パターニングによって透明導電膜5を形成する。同時に、パネル端部のゲート電極のTABとの接続部分に、TABとのボンディングのためITO膜をパターニングすると、TFTアレイ基板が完成する。
【0030】
上記のような工程において、ドレイン電極29などを構成するAl合金膜上に、上記透明導電膜5を構成するITO膜をスパッタリングによって形成する際に、該Al合金膜の透明導電膜5との界面に酸化皮膜(AlOx)が形成されると接触電気抵抗が高くなってしまうので、例えばITO膜の成膜初期段階では、アルミニウム合金膜の表面を極力酸化しないよう、酸素添加なしの雰囲気で成膜し膜厚5〜20nm(好ましくは10nm程度)の成膜を行なったり、AlOxに含まれる酸素量を44原子%以下に低減すれば、低く安定した接触電気抵抗を実現することを知見している。
【0031】
本発明者らは、透明導電膜5とAl合金膜の接触電気抵抗を極力低減するための手段として、上記とは別の観点から検討してきた。その結果、ゲート電極やソース−ドレイン電極となるAl合金膜と透明導電膜を直接接触するのに先立って、アルカリ溶液でAl合金膜の表面をウエットエッチング、またはSF6とArの混合ガスでAl合金膜の表面をド
ライエッチングすれば、Alは溶出し、Alよりも貴な合金元素は金属間化合物に含まれてAl合金膜表面に析出し、Al合金表面に凹凸状として残存することになる。そして、この凹凸が最大高さ粗さがRzで5nm以上となるように形成したときに、上記接触電気抵抗が低減されることを見出し、本発明を完成した。
【0032】
上記のような凹凸がAl合金膜表面に形成された電極は、その後透明導電膜と接触しても、上記のような高接触電気抵抗となる酸化物(AlOx)は形成されにくい状態となる。場合によっては、Alよりも貴な金属元素を含む析出物が、透明導電膜と直接接触することになる。こうした状況が実現されることによって、透明導電膜とAl合金膜における低接触電気抵抗が実現できることになる。最大高さ粗さRzは大きい程、良く、おおむね、8nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。製造効率の向上や、透明導電膜の断線防止などの製品の品質維持などを考慮すると、最大高さ粗さRzの上限は、おおむね、100nmとすることが好ましく、50nmとすることがより好ましい。
【0033】
上記のような凹凸をAl合金膜に形成するに当たっては、Al合金膜と透明導電膜とを直接接触するのに先だって、アルカリ溶液でAl合金膜表面をウエットエッチングまたはドライエッチングすればよいが、このときのエッチング量(エッチング深さ)は、形成される凹凸の最大高さ粗さRzで5nm以上を実現するために、5nm以上とすることが好ましい。また、こうしたエッチング処理を行う時期については、Al合金膜と透明導電膜が物理的に直接接触する前であればよく、例えば窒化シリコン(SiNx)等の層間絶縁膜を形成する前(前記図8)であっても、同様の効果が発揮される。
【0034】
上記の様なウエットエッチングをするためのアルカリ溶液としては、おおむね、pH9〜13程度(好ましくはpH10.5〜12.8程度)であり、Alを溶出するがAlよりも貴な金属元素を溶出しないアルカリ溶液が挙げられる。具体的には、例えばpH9〜13程度のレジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液や水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。上記の「TOK106」は、モノエタノールアミンとジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶液であり、これらの混合比率によってpHの範囲を調整できる。ウエットエッチングの好ましい温度や時間は、所望の最大高さ粗さRzが得られるように、使用するアルカリ溶液やAl合金の組成などに応じて適宜適切に定めれば良いが、おおむね、30〜70℃で5〜180秒間(好ましくは、30〜60℃で10〜120秒間)であることが好ましい。
【0035】
またドライエッチングをするためのガスとしては、SF6とArの混合ガス(例えば、SF6:60%、Ar:40%)を用いることができる。窒化シリコン膜を形成した後にこの窒化シリコン膜をドライエッチングするときの混合ガスは、一般的にSF6、ArおよびO2の混合ガスが用いられるのであるが、こうした混合ガスによるドライエッチングでは、本発明の目的を達成することができない。ドライエッチングの好ましい条件は、所望の最大高さ粗さRzが得られるように、使用する混合ガスの種類やAl合金の組成などに応じて適宜適切に定めれば良い。
【0036】
上記のようなアルカリ溶液または混合ガスを用いてエッチング処理することによって、上記のような金属元素を含む析出物がAl合金膜表面に濃化された状態となる。
【0037】
Alよりも貴な金属元素とは、Alよりもイオン化傾向が小さい元素のことを意味し、こうした金属元素としては、Ni,Co,Ag,AuおよびZn等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。好ましい金属元素はNi,Co,Ag,Znであり、より好ましくはNi,Co,Agである。但し、これらの金属元素は、その含有量はAl合金膜中に0.1〜1.0原子%程度であることが必要である。この金属元素の含有量が0.1原子%未満では、金属元素を低減することによって上記のような凹凸が形成されにくくなって、接触電気抵抗が却って低下することになる。また、この金属元素の含有量が1.0原子%を超えると、Al合金膜自体の電気抵抗が高くなってしまうことになる。金属元素の好ましい含有量は、0.2原子%以上1.0原子%以下である。
【0038】
また本発明のAl合金膜には、上記以外の金属元素(合金元素)として、希土類元素の1種以上を更に含有させることも有効である。即ち、これらの元素は、Al合金膜中に好ましくは0.1〜0.5原子%含有させることによって耐熱性を300℃以上に高め、また機械的強度や耐食性などを高める作用を発揮する。こうした金属としては、ランタノイド系列希土類元素のいずれも採用できるが、特に好ましいのは、La,Gd,Ndよりなる群から選択される少なくとも1種である。また、希土類元素のより好ましい含有量は、0.1原子%以上0.5原子%以下である。
【0039】
この様にして形成されたTFTアレイ基板を備えた表示デバイスを、例えば液晶表示装置として使用すれば、透明導電膜と接続配線部との間の接触電気抵抗を最小限に抑えることができるため、表示画面の表示品位に及ぼす悪影響を可及的に抑制できる。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
無アルカリガラス板(板厚:0.7mm)を基板とし、その表面にゲート電極およびソース−ドレイン電極であるAl−(X)Ni−(Y)La系合金(X:0.2〜1.0原子%、Y:0.1〜0.5原子%)の各種薄膜を、スパッタリングによって成膜し、試料とした。このときの膜厚は、いずれも約300nmとした。
【0042】
得られた試料を4つのグループ(A〜Dグループ)に分け、Aグループの試料はそのままで(後記表1の試験No.1〜3)、Dグループの試料はアルカリ溶液(レジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液:pH9〜13)でAl薄膜表面を約30℃でウエット処理することによりエッチングを施した(後記表1の試験No.15〜22)。ウエットエッチング量は、ウエットエッチング時間を5〜120秒の間で変化させることにより行なった。
【0043】
上記各試料について(AグループおよびDグループ共に)、フォトリソグラフィおよびエッチングによるパターニング後(Al合金薄膜は約30°〜40°のテーパー状にエッチングした)、プラズマCVD法によって膜厚:300nmの窒化シリコン(SiN)膜を形成した。このときの成膜温度は250℃で行い、成膜時間は約6分とした。そして、この窒化シリコン膜をフォトリソグラフィおよびドライエッチングして、窒化シリコン膜にコンタクトホール(接触エリア10μm×10μm)を形成した。ドライエッチングはRIE(反応性イオンエッチング)で実施し、使用ガスは、SF6:33.3%、O2:26.7%、Ar:40%の混合ガスとした。窒化シリコンをエッチングした後に、窒化シリコン薄膜換算で100%のオーバーエッチングを実施した。また、酸素プラズマによりアッシング、剥離液によるフォトレジストの剥離処理を行った。その後、8時間の保管時間でAl合金薄膜の表面に、スパッタリング法で膜厚:200nmのITO膜を成膜した。
【0044】
一方、上記Bグループの試料はアルカリ溶液(レジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液:pH9〜13)でAl薄膜表面をウエット処理によりエッチングを施し(後記表1の試験No.4〜11)、Cグループの試料はそのままで(後記表1の試験No.12〜14)、8時間の保管時間でAl合金薄膜の表面に、スパッタリング法で膜厚:200nmのITO膜を成膜した。前述したAグループおよびDグループでは窒化シリコン膜にコンタクトホールを形成するなどの工程を付加しているのに対し、上記のBグループおよびCグループでは、このような工程を付加せずにITO膜を成膜している点で相違している。
【0045】
上記各試料について(BグループおよびCグループ共に)、フォトリソグラフィおよびエッチングによるパターニングで接触電気抵抗測定パターン(接触エリア10μm×10μm)を形成した。
【0046】
上記各試料について、ITO膜(酸化物透明導電膜)とAl合金膜の接触電気抵抗を四端子ケルビン法で測定した。このとき、試料の一部について(試験No.1,10)、透過型電子顕微鏡(TEM)でAl合金膜とITO膜との界面の構造について、観察した。また透明導電膜との界面におけるAl合金薄膜の凸部の粗さRz[JIS B0601(2001)に基づく最大高さ粗さRz]を測定した。最大高さ粗さRzの測定は、ミツトヨ製表面粗さ測定器 SJ−301を使用して測定した。評価長さは4mmとした。
【0047】
接触電気抵抗値測定結果を、ウエットエッチング量およびAl合金組成(Ni/Laの原子%)と共に下記表1に示す。また、試験No.10(本発明例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を図11(図面代用写真)に、試験No.1(比較例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を図12(図面代用写真)に、夫々示す。
【0048】
【表1】

【0049】
この結果から明らかなように、Al合金膜の表面を適切な時期にウエットエッチングしてAl合金膜の表面に適切な大きさの凹凸を形成することによって、酸化物導電膜であるITOとゲート電極またはソース−ドレイン電極であるAl−(X)Ni−(Y)La合金の間で好適な接触電気抵抗が得られることが分かる。
【0050】
(実施例2)
無アルカリガラス板(板厚:0.7mm)を基板とし、その表面にゲート電極およびソース−ドレイン電極であるAl−0.22原子%Ni合金膜を、スパッタリングによって成膜し、試料とした。このときの膜厚は、いずれも約300nmとした。
【0051】
得られた試料について、アルカリ溶液(レジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液:pH9〜13)でAl薄膜表面をウエット処理によりエッチングを施した。このエッチングを行うに際しては、ウエットエッチング時間を表2に示す範囲で変えることによって、エッチング量を調整した。こうした試料について、上記実施例1と同様にして、接触抵抗を測定した。また透明導電膜との界面におけるAl合金薄膜の凸部の粗さRz[JIS B0601(2001)に基づく最大高さ粗さRz]を上記実施例1と同様にして測定した。その結果を、下記表2に示す。このデータに基づいて、Al合金膜の凸部の粗さRzと接触電気抵抗の上限(対数目盛)の関係を図13に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
これらの結果から明らかなように、ウエットエッチング量を大きくしてAl合金膜の表面粗さRzを大きくすることによって、接触電気抵抗を少なくできることが分かる。特に、ウエットエッチング量を5nm以上として、表面粗さRzを5nm以上とすることによって、接触電気抵抗値を小さくできることが分かる。
【0054】
(実施例3)
無アルカリガラス板(板厚:0.7mm)を基板とし、その表面にゲート電極およびソース−ドレイン電極であるAl−0.3原子%Ni−0.35La合金膜を、スパッタリングによって成膜し、試料とした。このときの膜厚は、いずれも約300nmとした。
【0055】
上記試料について、実施例1のAグループと同様にして窒化シリコン膜にコンタクトホール(接触エリア10μm×10μm)を形成した後、SF6:33.3%、O2:26.7%、Ar:40%の混合ガスまたはSF6:60%、Ar:40%の混合ガスを用い、ドライエッチング(RIE:反応性イオンエッチング)を実施した。このとき、下記1〜3のレベルでドライエッチングを実施した。その後、8時間の保管時間でAl合金薄膜の表面に、スパッタリング法で膜厚:200nmのITO膜を成膜した。
【0056】
エッチングレベル1:Al合金膜上に形成した窒化シリコン膜を除去するのに必要な時間の2倍の時間をかけてドライエッチングをした。
エッチングレベル2:Al合金膜上に形成した窒化シリコン膜を除去するのに必要な時間の3倍の時間をかけてドライエッチングをした。
エッチングレベル3:Al合金膜上に形成した窒化シリコン膜を除去するのに必要な時間の4倍の時間をかけてドライエッチングをした。
【0057】
こうした試料について、上記実施例1と同様にして、接触電気抵抗を測定した。その結果を、下記表3に示す。表3の試験No.34のように、SF6とArの混合ガスを用い、エッチングレベルを3としてドライエッチングを行うことによって、Rzが5nm以上に制御されるため、接触電気抵抗を少なくできることが分かる。これに対し、SF6とO2とArの混合ガスを用いてドライエッチングを行なった場合(試験No.30〜32)や、SF6とArの混合ガスを用いエッチングレベルを1としてドライエッチングを行なった場合は、Rzが5nm未満のため、接触電気抵抗が高くなった。
【0058】
【表3】

【0059】
(実施例4)
無アルカリガラス板(板厚:0.7mm)を基板とし、その表面にゲート電極およびソース−ドレイン電極であるAl−(X)Ag−(Y)La系合金(X:0.2〜1.0原子%、Y:0.1〜0.5原子%)の各種薄膜を、スパッタリングによって成膜し、試料とした。このときの膜厚は、いずれも約300nmとした。
【0060】
得られた試料を4つのグループ(E〜Hグループ)に分け、Eグループの試料はそのままで(後記表4の試験No.35〜37)、Hグループの試料はアルカリ溶液(レジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液:pH9〜13)でAl薄膜表面を約30℃でウエット処理することによりエッチングを施した(後記表4の試験No.49〜56)。ウエットエッチング量は、ウエットエッチング時間を5〜120秒の間で変化させることにより行なった。
【0061】
上記各試料について(EグループおよびHグループ共に)、フォトリソグラフィおよびエッチングによるパターニング後(Al合金薄膜は約30°〜40°のテーパ−状にエッチングした)、プラズマCVD法によって膜厚:300nmの窒化シリコン(SiN)膜を形成した。このときの成膜温度は250℃で行い、成膜時間は約6分とした。そして、この窒化シリコン膜をフォトリソグラフィおよびドライエッチングして、窒化シリコン膜にコンタクトホール(接触エリア10μm×10μm)を形成した。ドライエッチングはRIE(反応性イオンエッチング)で実施し、使用ガスは、SF6:33.3%、O2:26.7%、Ar:40%の混合ガスとした。窒化シリコンをエッチングした後に、窒化
シリコン薄膜換算で100%のオーバーエッチングを実施した。また、酸素プラズマによりアッシング、剥離液によるフォトレジストの剥離処理を行った。その後、8時間の保管時間でAl合金薄膜の表面に、スパッタリング法で膜厚:200nmのITO膜を成膜した。
【0062】
一方、上記Fグループの試料はアルカリ溶液(レジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液:pH9〜13)でAl薄膜表面をウエット処理によりエッチングを施し(後記表4の試験No.38〜45)、Gグループの試料はそのままで(後記表4の試験No.46〜48)、8時間の保管時間でAl合金薄膜の表面に、スパッタリング法で膜厚:200nmのITO膜を成膜した。前述したEグループおよびHグループでは窒化シリコン膜にコンタクトホールを形成するなどの工程を付加しているのに対し、上記のFグループおよびGグループでは、このような工程を付加せずにITO膜を成膜している点で相違している。
【0063】
上記各試料について(FグループおよびGグループ共に)、フォトリソグラフィおよびエッチングによるパターニングで接触抵抗測定パターン(接触エリア10μm×10μm)を形成した。
【0064】
上記各試料について、ITO膜(酸化物透明導電膜)とAl合金膜の接触抵抗値を四端子ケルビン法で測定した。このとき、試料の一部について(試験No.35,44)、透過型電子顕微鏡(TEM)でAl合金膜とITO膜との界面の構造について、観察した。また透明導電膜との界面におけるAl合金薄膜の凸部の粗さRz[JIS B0601(2001)に基づく最大高さ粗さRz]を、前述した実施例1と同様にして測定した。
【0065】
接触抵抗値測定結果を、ウエットエッチング量およびAl合金組成(Ag/Laの原子%)と共に下記表4に示す。また、試験No.44(本発明例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を図14(図面代用写真)に、試験No.35(比較例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を図15(図面代用写真)に、夫々示す。
【0066】
【表4】

【0067】
この結果から明らかなように、Al合金膜の表面を適切な時期にウエットエッチングして、Al合金膜の表面に適切な大きさの凹凸を形成することによって、酸化物導電膜であるITOとゲート電極またはソース−ドレイン電極であるAl−(X)Ag−(Y)La合金の間で接触電気抵抗を低くできることが分かる。
【0068】
尚、上記実施例1〜4では、Al合金膜として、Al−(X)Ni−(Y)La合金(実施例1および3)、Al−(X)Ni合金(実施例2)、Al−(X)Ag−(Y)La合金(実施例4)を用いてその効果を確認したが、Alよりも貴な金属元素(X元素)として、Co,Au,Zn等を用いた場合、或いは第3合金元素(Y元素)として、La以外の希土類元素(例えば、GdやNd等)を用いた場合であっても上記と同様の効果が得られることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】アクティブマトリクス型の液晶表示装置に適用される代表的な液晶パネルの構造を示す概略断面拡大説明図である。
【図2】表示装置用アレイ基板に適用される薄膜トランジスタ(TFT)の構成を例示する概略断面説明図である。
【図3】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図4】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図5】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図6】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図7】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図8】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図9】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図10】上記図2に示した表示デバイス用アレイ基板の製造工程の一例を、順番を追って示す説明図である。
【図11】試験No.10(本発明例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を示す図面代用写真である。
【図12】試験No.1(比較例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を示す図面代用写真である。
【図13】Al合金膜の凸部の粗さRzと接触電気抵抗(対数目盛)の関係を示すグラフである。
【図14】試験No.44(本発明例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を示す図面代用写真である。
【図15】試験No.35(比較例)におけるAl合金膜とITO膜との界面のTEM断面を示す図面代用写真である。
【符号の説明】
【0070】
1 TFTアレイ基板
2 対向基板
3 液晶層
4 薄膜トランジスタ(TFT)
5 透明導電膜
6 配線部
7 共通電極
8 カラーフィルタ
9 遮光膜
10 偏光板
11 配向膜
12 TABテープ
13 ドライバ回路
14 制御回路
15 スペーサー
16 シ−ル材
17 保護膜
18 拡散膜
19プリズムシート
20 導光板
21 反射板
22 バックライト
23 保持フレーム
24 プリント基板
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜
28 ソース電極
29 ドレイン電極
30 保護膜(窒化シリコン膜)
31 フォトレジスト
32 コンタクトホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物透明導電膜と直接接触するAl合金膜からなる低接触電気抵抗型電極において、前記Al合金膜は、Alよりも貴な金属元素を0.1〜1.0原子%の割合で含有し、且つAl合金膜の酸化物透明電極と直接接触するAl合金膜表面は、最大高さ粗さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものであることを特徴とするAl合金膜を用いた低接触電気抵抗型電極。
【請求項2】
前記Alよりも貴な金属元素は、Ni,Co,Ag,AuおよびZnよりなる群から選ばれる1種以上であり、これらの元素を含む金属間化合物がAl合金膜表面に析出されることによって、前記凹凸が形成されるものである請求項1に記載の低接触電気抵抗型電極。
【請求項3】
前記Al合金膜は、更に希土類元素の1種以上を0.1〜0.5原子%の割合で含有するものである請求項2に記載の低接触電気抵抗型電極。
【請求項4】
低接触電気抵抗型電極が、ゲート電極である請求項1〜3のいずれかに記載の低接触電気抵抗型電極。
【請求項5】
低接触電気抵抗型電極が、ソース−ドレイン電極である請求項1〜3のいずれかに記載の低接触電気抵抗型電極。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の低接触電気抵抗型電極を備えたものである表示装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の低接触電気抵抗型電極を製造するに当り、酸化物透明導電膜と直接接触させるに先立ち、Al合金膜表面をアルカリ溶液でウエットエッチングすることによって、前記凹凸を形成することを特徴とする低接触電気抵抗型電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の低接触電気抵抗型電極を製造するに当り、酸化物透明導電膜と直接接触させるに先立ち、Al合金膜表面をSF6とArの混合ガスでドライエッチングすることによって、前記凹凸を形成することを特徴とする低接触電気抵抗型電極の製造方法。
【請求項9】
エッチングによる深さが最大高さ粗さRzで5nm以上である請求項7または8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−33140(P2009−33140A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167553(P2008−167553)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】