説明

スパッタ堆積されたパッシベーション層を備えた光起電力素子並びにこのような素子を製造するための方法及び装置

【課題】パッシベーション層の水素含有量を増加させることで、効率を改善した太陽電池を提供する。
【解決手段】エッチングにより半導体ユニットの少なくとも1つの表面を洗浄する工程と、実質的に無酸素である又は酸素が欠乏した環境内で半導体ユニットの少なくとも1つの表面を乾燥させる工程と、少なくとも1つの表面上にパッシベーション層を堆積する工程とを含む、連続作業方生産ラインを用いて、少なくとも1つの半導体ユニットを有する光起電力素子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、光起電力素子の製造方法と、このような方法を実行するための装置と、これらによって製造される光起電力素子に言及する。
【0002】
(従来技術)
環境汚染への懸念及びエネルギー消費の上昇により、太陽電池とも称される光起電力素子への関心が高まっている。太陽電池つまり光起電力素子は、太陽電池つまり光起電力素子に衝突する太陽光から、電気エネルギーを生成することができる。太陽電池に衝突するある量の光から太陽電池が作り出すエネルギーの量が多ければ多いほど、その太陽電池の効率は良い。従って、光起電力素子の効率を上昇させることが、主な目的である。
【0003】
太陽電池は、半導体ユニットを構成する、導電型が異なる少なくとも2つの半導体領域を備えている。殆どの太陽電池は、nドープ領域及びpドープ領域を有する、シリコンから成る半導体ユニットを備えている。n型導電性を有するnドープ領域とp型導電性を有するpドープ領域との界面には、半導体接合部が形成され、衝突する光によって発生した正の電荷キャリア及び負の電荷キャリアとが分かれている。pn接合部に隣接した領域は、エミッタ及びベースと称されることもある。エミッタ及びベースに接続された金属コンタクトにより、電荷キャリアを外に出し、電気エネルギーを発生させることができる。
【0004】
太陽電池の電気損失の原因の1つが、半導体材料の表面及び界面(例えば、粒界)における電荷キャリアの再結合である。
【0005】
太陽電池の効率を改善するために、従来技術において、半導体ユニットの表面において電荷キャリアが再結合する確率を下げることが知られている。従って、いわゆるパッシベーション層を、半導体ユニットの表面に配置する。このようなパッシベーション層は、非晶質シリコン、水素化窒化ケイ素又は水素化酸化ケイ素から形成することができる。特に、水素の含有量は重要な役割を果たすが、これは、水素により遊離のケイ素結合の数が減少するため、再結合場所の数が減るからである。従って、多結晶シリコン(multicrystalline silicon、polycrystalline silicon)を用いる場合、水素は、シリコン等の半導体材料内部の再結合場所の数を減少させるためにも有益である。多結晶シリコンの粒界も再結合場所となることから、水素は、粒界における遊離のケイ素結合の数も減少させる可能性がある。更に、水素は、またもや再結合の場所となり得る金属不純物の悪影響も軽減し得る。
【0006】
太陽電池の表面又は対応する半導体ユニットに衝突する光の反射が、太陽電池の効率の悪さの別の原因であることがある。衝突する光の反射を軽減するために、光が衝突する太陽電池の表面に反射防止コーティングを施すことが知られている。このような反射防止コーティングは、単一又は複数の透明な薄層によって形成することができる。このような反射防止コーティングは、水素化窒化ケイ素から形成することができ、このコーティングはパッシベーション層として用いることも可能である。従って、水素化窒化ケイ素は、パッシベーション層として及び太陽電池用の反射防止コーティングとして広く用いられている。
【0007】
半導体ユニットにパッシベーション層又は反射防止コーティングを被覆する前に、半導体ユニットをエッチング工程により洗浄することにより、例えば、シリコン半導体ユニット上に生成された二酸化ケイ素等の汚染物質を除去し、半導体ユニットとパッシベーション層又は反射防止コーティングとの間に明確な界面を作り出す。更に、エッチングを用いて半導体ユニットの表面を構造化することにより、反射損失を更に低減してもよい。エッチング後、半導体ユニットをゆすぎ、乾燥させて、全てのエッチャントを除去しなくてはならない。
【0008】
このような、エッチング、すすぎ、乾燥及び/又はその他の方法による半導体ユニットの表面処理は、例えば、米国特許第4705760号、米国特許第5727578及び米国特許第5911837号の特許文献に記載されている。
【0009】
米国特許第4705760号は、半導体素子の形成方法について記載しており、パッシベーション層の堆積に先立って、半導体の表面は、水性フッ化アンモニウム・フッ化水素溶液で処理され、無酸素の窒素含有雰囲気中において、温度約25℃〜200℃でプラズマに供されている。この処理により、この半導体素子によって形成された光検出器は、向上した性能特性を示す。しかしながら、このプラズマ処理には、多くの労力がかかる。
【0010】
上記の文献に記載された、半導体ウェハの表面を処理する及び乾燥させるための更に別の方法は、この表面を、水性流体ですすぎ、この水性流体をいわゆる有機乾燥溶媒(drying solvent)により除去することを含む。しかしながら、このような方法は、この有機乾燥溶媒を除去するためのオゾン処理に負うところの表面の酸化を含むことから、またもや非常に面倒である。
【0011】
従来技術では、シラン又はジクロロシラン及びアンモニアを反応性ガスとして用いて、プラズマ化学気相蒸着(PECVD)、減圧化学気相蒸着(LPCVD)常圧化学気相蒸着(APCVD)による半導体表面の上記の洗浄後に、水素化窒化ケイ素(SiN:H)のパッシベーション層を堆積することができる
(K. Hezel and R.Schorner,Interface States and Fixed Charges in MNOS Structures
with APCVD and Plasma Silicon Nitride,J.Electrochem. Soc. 131 (1984) 1679-1683;
T.Pernau, Hydrogen Passivation and Silicon Nitride Deposition Using an
Integrated LPCVD Process, In Proc. 16th European Photovoltaic Solar Energy
Conference (2000) and R.S.R. Hezel, Plasma Si nitride‐A promising dielectric to
achieve high quality silicon MIS/IL solar cells, J. Appl. Phys. 52 (1981)3076-
3079)。
【0012】
化学気相蒸着法に加えて、従来技術により、水素化窒化ケイ素から形成された反射防止コーティング又はパッシベーション層は、反応性スパッタによっても形成可能であることが知られている
(S. W. Wolke A. Jackle, R. Preu, S. Wieder, M. Ruske, SiN:H anti-reflection
coatings for c-Si solar cells by large scale inline sputtering, In Proc. 19th
European Photovoltaic Solar Energy Conference, Paris (2004))。
水素化窒化ケイ素をスパッタ堆積することには、堆積中に水素含有量をより良好に制御でき、パッシベーション層及び/又は隣接する半導体内に多くの水素を取り込むことができるという利点がある。しかしながら、シリコンから成る半導体ユニットと水素化窒化ケイ素(SiN:H)から形成されるパッシベーション層との間の界面におけるいわゆるブリスタリング(blistering)により、パッシベーション層及び半導体ユニットに導入される水素の量は制限されてしまう。
【発明の開示】
【0013】
(発明の目的)
本発明の目的は、太陽電池の効率を更に改善することである。特に、本発明の目的は、パッシベーション層及び/又は半導体ユニットの水素含有量を上昇させることである。更に、このような目的を達成するための方法又は装置は、それぞれ製造が容易である又は実行が簡単であるべきである。
【0014】
(技術的解決)
上記の目的は、請求項1に記載の方法、請求項26に記載の装置、請求項27〜31による光起電力素子によって達成される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0015】
光起電力素子又は太陽電池の効率を改善するために、本発明は、少なくとも1つの洗浄工程と、少なくとも1つの乾燥工程と、少なくとも1つの堆積工程を含む、光起電力素子を製造するための方法を提案する。
【0016】
洗浄工程とは、光起電力素子を形成している半導体ユニットの表面上に在る汚染物質及び不要な物質全般の除去のことである。洗浄工程によって洗浄される、この少なくとも1つの表面が、電荷キャリアの再結合の低下を目的としてパッシベーション層及び/又は反射防止コーティングが堆積される表面である。従って、半導体ユニットの1つの表面だけ(例えば、光起電力素子上において光が衝突する表面)又は半導体ユニットの幾つか若しくは全ての表面を洗浄し、その後、パッシベーション層又は反射防止コーティングで被覆してもよい。
【0017】
表面の洗浄は、エッチングによって行われる。「エッチング」という表現は、化学的及び/又は物理的反応により、原子レベルで表面の材料除去を行う全ての方法を対象としている。様々なタイプのエッチング法を用いることができ、化学的乾式エッチング、化学的湿式エッチング及び/又はプラズマエッチング、プラズマによって支援される特定の形式の化学的乾式エッチング等である。
【0018】
イオンビームエッチング等の物理的エッチングにおいてもエッチング媒体を用いるが、材料を除去するやり方は、材料を原子又はイオンの機械的な衝撃によって除去することを主な特徴としている。加えて、化学的なエッチングと物理的なエッチングとを組み合わせた方法(プラズマエッチング等)を、使用してもよい。
【0019】
エッチングで表面を洗浄することにより、完全に清浄な表面が得られるが、これは、強力に付着した汚染物質であっても、エッチング媒体によって溶解されてしまうと予測されているからである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、半導体ユニット、特にシリコンをベースとした半導体ユニットのエッチングは、半導体ユニットを、希フッ化水素酸のエッチング浴に浸漬することにより行われる。その他の方法を用いて、フッ化水素酸を半導体上に適用してもよい。
【0021】
洗浄工程中、エッチングに加えて、エッチング済みの半導体ユニットを水(特に、脱イオン水)ですすぐ等の、別の洗浄処理を行ってもよい。すすぐことにより、エッチング中に剥離されずにゆるく付着した材料が除去される。
【0022】
洗浄工程により半導体ユニットの表面を下処理した後、パッシベーション層及び/又は反射防止コーティングを堆積する前に、乾燥工程を行う。本発明においては、この乾燥工程を、実質的に無酸素である又は少なくとも酸素が欠乏した環境において行うことにより、表面の再酸化を防止している。再酸化が防止されれば、続く堆積工程において、半導体ユニットのより効果的なパッシベーションを達成することが可能となる。特に、従来技術において可能であったよりもはるかに多い量の水素を、パッシベーション層又は反射防止コーティング及び半導体ユニット(特に、多結晶(マルチ及びポリシリコン)シリコンに)に導入可能であることが判明した。フライブルグ・イム・ブライスガウ大学のW.Wolkeの2005年11月の博士論文に記載されているように、最適値を超えての水素含有量の上昇は、シリコン半導体ユニットとパッシベーション層との界面におけるブリスタリング及び微小な気泡の形成につながる。しかしながら、パッシベーション層及び/又は反射防止コーティングを堆積する前に本発明による乾燥工程を無酸素環境で行うと、ブリスタリングの発生を回避し且つ水素含有量を更に上昇させることが可能である。
【0023】
米国特許第4705760号に記載の従来技術と比較すると、本発明による表面の前処理は非常に単純であり且つ手間がかかり高コストのプラズマ処理の影響を受けない。
【0024】
無酸素又は低酸素環境における乾燥工程は、様々なやり方で行うことが可能である。1つの可能性として、半導体ユニットを、気密処理チャンバにおいて、少なくとも1つの乾性不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素及び/又はネオン等)でフラッシングすることがある。しかしながら、酸素を使わずに実行可能な他の乾燥方法も考えられる。例えば、水分及び液状物質が蒸発するまで周囲圧力を下げてもよい。高真空レベル(つまり、10−7mbar又は少なくとも10−3mbarにまで)になるまで圧力を下げてもよい。
【0025】
これに加え又はその代替案として、温度を上げることにより蒸発、ひいては乾燥を支援してもよい。この熱処理は、500℃、好ましくは700℃にのぼる温度で行うことができる。蒸発させられた汚染物質は、吸引ポンプ手段又は真空ポンプ手段によって、処理チャンバから排出することができる。更に、蒸発させられた汚染物質を、上述したような不活性ガスから作り出されるガス流によって、半導体ユニットから取り去ってもよい。
【0026】
汚染物質を蒸発させる別の方法は、半導体ユニットのマイクロ波への曝露である。
【0027】
乾燥工程を行う処理チャンバに供給されたガス(半導体ユニットにおいてガス流を作り出すために用いられたガス等)を処理することにより、残存酸素を除去しても又は残存酸素含有量を低下させてもよい。或いは又はこれに加え、この処理を、処理チャンバ内に存在するガスに、乾燥工程中、時々又は継続的に行ってもよい。これを目的として、ガスを循環させてもよい。
【0028】
半導体ユニットの表面上にパッシベーション層を堆積する堆積工程は、スパッタリングとも称されるカソード蒸発法によって行うことができる。好ましくは、スパッタリングは、反応性スパッタリングとして行われ、これは、少なくとも1つの反応性ガスを、反応性スパッタリングを行う真空チャンバに導入することを意味している。反応性ガスは、スパッタリングによって原子化された材料と反応し、基板上に堆積される組成物を生成する。本発明の場合、窒素とアンモニアガスの混合物を反応性ガス混合物として用い、アルゴンを、スパッタリング用の処理ガスとして用いることができる。好ましくは、スパッタリング用のターゲット材料として、シリコンが用いられ、つまり、スパッタリング処理によりシリコン原子が発生する。シリコン原子は窒素と共に、半導体ユニット上に堆積される窒化ケイ素を生成し得る。アンモニアガスの存在により反応チャンバ内で水素が発生し、拡散過程により、水素は、窒化ケイ素層及び半導体ユニットに取り込まれる。窒素と水素の反応によるアンモニア生成及びその反対により、窒素とアンモニアガスとの混合物の反応性ガス混合物としての利用は、堆積層及び半導体ユニット中における水素含有量の規定を可能にする。
【0029】
従って、反応性ガス混合物の組成、つまり窒素とアンモニアの比は、堆積層及び/又は半導体ユニット内において望ましい水素含有量に応じて異なり得るだけでなく、堆積中に反応性ガス混合物の組成を変えることにより、少なくとも水素含有量に関して層の組成を厚さ方向で変えることができる。
【0030】
スパッタリング及び反応性スパッタリングにより非常に均質な層が得られることから、層厚の偏差は、表面全体に対して1.5%未満となる。
【0031】
スパッタ堆積の更に別の利点は、スパッタ堆積が、インライン型コーティング装置において連続的に実行可能であることである。このため、本発明の方法、特に堆積工程を、非常に効率的に実行することが可能である。
【0032】
好ましくは、パッシベーション層として堆積された窒化ケイ素層、特に水素化窒化ケイ素層は、反射防止コーティングとして設計することも可能である。従って、パッシベーション層の厚みは、界面及び境界層を巧みに設計することにより反射が何度も起こり、最終的に、半導体ユニット表面での光の反射が軽減されるようなものに設定しなくてはならない。
【0033】
好ましくは、洗浄工程、乾燥工程及び堆積工程を、半導体ユニットが、処理工程中又は処理工程間において、酸素含有雰囲気に曝露されないように行う。好ましくは、洗浄工程、乾燥工程及び堆積工程をシーケンスとして行い、これらの工程を次から次へと連続的に行う。
【0034】
これにより、本方法を行うための装置のデザインを有利なものにすることができ、装置は、洗浄工程、乾燥工程及び堆積工程を実行するための適切な処理チャンバを備えている。これらのチャンバは、処理対象である半導体ユニットがこれらの処理チャンバ内を順々に移動し、異なる処理を経るようにと、一列に並べて配置することが可能である。
【0035】
このような装置は、処理工程別に別個の処理チャンバを有していてよく、処理チャンバに異なる雰囲気を設定できるように、各処理チャンバを他の処理チャンバに対して閉め切ってもよい。この場合、処理チャンバ間並びに装置の入り口及び出口に、ロックユニットを設置してもよい。
【0036】
本発明の方法により製造される光起電力素子は、より高い水素含有量を有しており、この高い含有量ゆえに効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の更なる利点、構成及び特徴は、本発明の実施形態についての以下の説明から明らかとなる。実施形態は図面に関連して説明され、図面は概略的なものにすぎない。
【図1】本発明に従って製造された太陽電池の一部の斜視図である。
【図2】本発明を実行するための装置の図である。
【図3】図2の装置に含まれる、スパッタ堆積用の真空チャンバの図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、本発明に従って製造された太陽電池の斜視図である。太陽電池1は、異なる導電型を有する2つの半導体層2、3によって形成された半導体ユニットを備えている。例えば、半導体層3は、n型の導電性を有しており、半導体ユニット2、3のエミッタを構成している。従って、p型の導電性を有するもう一方の半導体層2は、半導体層2及び3によって形成される半導体接合部のベースとなる。
【0039】
エミッタ3側には(太陽電池1上へと光が衝突する半導体ユニット2、3側)、反射防止コーティング又はパッシベーション層7が設けられる。
【0040】
パッシベーション層又は反射防止コーティング7は、水素化窒化ケイ素から成り、1つ以上の別々に堆積された層を備えている。このため、コーティングは、その厚みに関して、太陽光の波長範囲の光がほぼ反射されることがないように設計されている。これは、層間の各界面において反射される部分的な光線の相殺的干渉又は多重反射によって達成することが可能である。従って、衝突する光の反射を軽減する又はほぼ防止することが可能である。
【0041】
パッシベーション層又は反射防止コーティング7の上には、金属グリッドから成る伝導経路8及びコンタクト電極4が設置されている。
【0042】
図1に図示の太陽電池1の形態の光起電力素子の背面は、金属層9と、別の金属グリッドによって形成されたカウンター電極5で覆われている。
【0043】
太陽電池1の正面(光側)に設けられた金属グリッド8の代わりに、裏面コンタクトの金属層9と同様に、インジウムスズ酸化物等から成る透明導電層を表面に配置してもよい。
【0044】
太陽電池の正面(光側)、つまりエミッタ層3の主表面の反射防止コーティング7に加えて、正面側を、複数のピラミッド状の突起及び/又は窪みを備えた丘構造が形成されるように構成してもよい。このような構造も、衝突する光の反射の軽減につながる。
【0045】
パッシベーション層又は反射防止コーティング7は、本発明に従って形成された。エミッタ層3の主表面は、無酸素環境内において乾燥させられたため、洗浄工程後、水素化窒化ケイ素から成るパッシベーション層7及びnドープされた多結晶シリコンから成るその下のエミッタ層3には、高容量の水素を導入することができた。パッシベーション層及びパッシベーション層とエミッタ層3との界面に含まれる水素により、衝突する光によって生じた電荷キャリアが再結合する場所が減る。このことは、エミッタ層3又はベース2の多結晶シリコンに含まれる水素についても言える。多結晶シリコンの粒界もまた、電荷キャリアにとっての再結合場所となることから、水素は、粒界におけるこのような再結合場所の数も減らし得る。
【0046】
環境内に酸素が存在しない乾燥工程により、より多くの水素を、スパッタ堆積によって行われる堆積工程により、パッシベーション層7並びにエミッタ3及びベース2の多結晶シリコンに導入することが可能である。従って、太陽電池1の効率が、大幅に上昇する。
【0047】
本発明の方法を、本発明の方法を実行するための装置を示している図2及び3に関連させて更に説明する。
【0048】
図2は、本発明の方法を実行するための装置10の概略側面図である。
【0049】
この装置10は、連続作業型生産ラインとして設計されており、基板キャリア11上に載置される基板20のための輸送経路12を備えている。
【0050】
輸送経路12に沿って、異なる処理チャンバ13、14、15、16が隣り合って配置されている。
【0051】
処理チャンバ13〜16は、気密の真空チャンバとして設計されているため、全製造工程を通して、無酸素雰囲気が得られる。
【0052】
処理チャンバ13及び14において実行される最初の洗浄工程の間、少なくともチャンバ13内における一部の処理については無酸素雰囲気が不要であり、その処理中に酸素を排除することも有利である。
【0053】
本方法の洗浄工程は、処理チャンバ13及び14において実行される。洗浄工程は、処理チャンバ13における化学的湿式エッチングと、処理チャンバ14における脱イオン水による基板20又は半導体ユニットのすすぎとの2つの部分工程を含んでいる。
【0054】
従って、処理チャンバ13は、エミッタ層3の主表面で半導体ユニット2、3を化学的湿式エッチングするための希フッ化水素酸を入れた酸タンク17を備えている。図2の矢印によって示されるように、エッチングは基板20を酸浴17、18に下降させることにより行われる。
【0055】
半導体ユニット2、3から形成される基板20をエッチングした後、基板20は、処理チャンバ14に搬送され、洗浄工程の第2部分工程、つまり半導体ユニット2、3の脱イオン水中でのすすぎが行われる。
【0056】
従って、処理チャンバ14も、脱イオン水が貯蔵されたタンク19を含む。基板20を、図2の矢印によって示されるように、脱イオン水中へと再度下降させる。
【0057】
洗浄工程終了後、基板キャリア11により基板20を次の処理チャンバ15へと、輸送経路12に沿って移動させ、乾燥工程を実行する。
【0058】
本発明において、乾燥工程は、酸素の不在下で行われる。従って、処理チャンバ13〜16として使用される真空チャンバ13〜16は、実質的に酸素を含んでいない。乾燥用のガス流を作り出すために、処理チャンバ15は、ガス供給源23を備えており、この供給源により、乾性不活性ガス22を処理チャンバ15に導入し且つガス供給源23のノズル(図示せず)等の誘導手段によりガスを基板20の表面に向かって誘導し、基板の表面又はエミッタ層3の表面に沿ったガス流を達成することが可能である。ガス流により、水、水分又は先行の洗浄工程に由来する有機材料等のその他の材料は、乾性不活性ガスのガス流に吸収され、真空チャンバ又は処理チャンバ15の出口(図示せず)へと運ばれる。
【0059】
エミッタ表面又は基板表面に付着している汚染物質の除去を促進するために、基板20又は処理チャンバ15の内部空間の温度を上昇させ、汚染物質の蒸発を改善してもよい。これを目的として、抵抗加熱手段等の加熱手段24を、処理チャンバ15の内側に配置してもよい。
【0060】
処理チャンバ15内における乾燥後、基板20は、基板キャリア11によって処理又は真空チャンバ16に運ばれ、パッシベーション層又は反射防止コーティングのスパッタ堆積が行われる。
【0061】
更に詳しく説明するため、処理チャンバ16も図3に図示されている。
【0062】
処理チャンバ又は真空チャンバ16は、反応性スパッタリング用の装置として設計されている。従って、処理チャンバ16は、カソードとして使用されるマグネトロン電極36を備えている。マグネトロン電極37は、マグネトロン電極37の正面で発生したプラズマ34のアルゴンイオンの衝突によって原子化されるシリコンターゲットを備えている。プラズマ34は、別のマイクロ波源(図示せず)又はマグネトロン電極37及び基板キャリア11によって構成されるカウンター電極に印加された高周波電圧(RF電圧)によって点火することができる。これを目的として、電源30が設置される。
【0063】
処理チャンバ16にスパッタ堆積用の処理ガスとしてアルゴンを供給するため、ガス供給源31を、処理チャンバ16に配置する。
【0064】
第2ガス供給源32を用いて、反応性スパッタリング用の反応ガスを供給する。本発明の好ましい実施形態において、ガス供給源32によって供給される反応ガスは、窒素とアンモニアガスの混合物であるため、基板20への堆積用の窒素と水素が提供される。窒素は、スパッタリング中にシリコンターゲットの原子化により発生するシリコン原子と共に窒化ケイ素を生成する。処理チャンバ16の気相中に存在する水素は、窒化ケイ素層に取り込まれて水素化窒化ケイ素を生成する。加えて、この水素が、基板20、つまり基板20を形成している半導体ユニットのエミッタ3とベース2内へと拡散する場合がある。窒素とアンモニアガスの混合物の比により、窒化ケイ素及び半導体ユニット2、3の多結晶シリコン内に取り込める水素の量が設定される。従って、本発明の方法により、半導体ユニット2、3の多結晶シリコン及び半導体ユニット上にパッシベーション層として堆積される窒化ケイ素層の水素含有量を求めることが可能である。従って、水素含有量を上昇させ、半導体ユニット内及びパッシベーション層と半導体ユニットとの界面における電荷キャリアの再結合場所を減らすことが可能である。これは、本方法によって形成された太陽電池の効率の上昇にもつながる。
【0065】
本発明を実施形態と関連させて詳細に説明したが、当業者には、本発明がこれらの実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を逸脱することなく、明細書中に開示の全構成の組み合わせを変える又は実施形態の構成の1つを省略することに関して改変及び修正が可能なことが明らかである。特に、本発明は、個々の請求項が別の請求項についてのみ引用するものであったとしても、請求項全ての考えられ得る全ての組み合わせを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの半導体ユニットを有する光起電力素子を製造するための方法であり、
エッチングにより半導体ユニットの少なくとも1つの表面を洗浄する工程と、
実質的に無酸素である又は酸素が欠乏した環境内で半導体ユニットの少なくとも1つの表面を乾燥させる工程と、
少なくとも1つの表面上にパッシベーション層を堆積する工程とを含む方法。
【請求項2】
洗浄工程、乾燥工程、堆積工程がシーケンスで行われ、その間、半導体ユニットは、実質的に無酸素である雰囲気中に配置されている請求項1記載の方法。
【請求項3】
半導体ユニットは、少なくとも第1導電型の第1領域と、少なくとも第2導電型の第2領域とを備え、第1領域と第2領域との間に少なくとも1つの半導体接合部が形成されている請求項1記載の方法。
【請求項4】
洗浄工程は、化学的乾式エッチング、化学的湿式エッチング、物理的エッチング、イオンビームエッチング及びプラズマエッチングを含む群から選択される少なくとも1つの方法によって行われる請求項1記載の方法。
【請求項5】
洗浄工程は、希フッ化水素酸中におけるエッチング浴を含む請求項1記載の方法。
【請求項6】
洗浄工程は、脱イオン水中におけるすすぎを含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
乾燥工程は、アルゴン、ヘリウム、窒素及びネオンを含む群から選択される少なくとも1つの乾性不活性ガスで半導体ユニットをフラッシングすることを含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
乾燥工程は、真空チャンバ内の周囲圧力を、真空に近い圧力と大気圧より低い圧力との間の圧力にまで下げることを含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
乾燥工程は、真空チャンバ内の周囲圧力を、圧力10−7mbarにまで下げることを含む請求項1記載の方法。
【請求項10】
乾燥工程は、半導体ユニットを、周囲温度より高い温度にまで加熱することを含む請求項1記載の方法。
【請求項11】
乾燥工程は、半導体ユニットを、温度700℃にまで加熱することを含む請求項1記載の方法。
【請求項12】
乾燥工程は、半導体ユニットをマイクロ波に曝露することを含む請求項1記載の方法。
【請求項13】
乾燥工程は、乾燥中に半導体ユニットが配置される気密チャンバ内に供給される又は存在しているガスの酸素含有量を低下させる手順を含む請求項1記載の方法。
【請求項14】
堆積工程は、スパッタリングによる堆積を含む請求項1記載の方法。
【請求項15】
堆積工程は、反応性スパッタリングによって行われる請求項1記載の方法。
【請求項16】
堆積工程は、反応性ガス混合物としての窒素とアンモニアガス(NH)及び処理ガスとしてのアルゴンを用いた反応性スパッタリングによって行われる請求項1記載の方法。
【請求項17】
堆積工程は、窒素とアンモニアガス(NH)を反応性ガス混合物として用いた反応性スパッタリングによって行われ、反応性ガス混合物の組成は、堆積層の水素含有量が規定されるように設定されている請求項1記載の方法。
【請求項18】
堆積工程は、窒素とアンモニアガス(NH)を反応性ガス混合物として用いた反応性スパッタリングによって行われ、反応性ガス混合物の組成は、N:NHの比が1:99〜99:1となるように設定されている請求項1記載の方法。
【請求項19】
堆積工程は、窒素とアンモニアガス(NH)を反応性ガス混合物として用いた反応性スパッタリングによって行われ、反応性ガス混合物の組成が、堆積中に変更される請求項1記載の方法。
【請求項20】
堆積工程は、インライン型コーティング装置において連続的に実行される請求項1記載の方法。
【請求項21】
堆積工程は、圧力が0.1〜15μbarに設定された真空チャンバ内で行われる請求項1記載の方法。
【請求項22】
パッシベーション層として、水素含有窒化ケイ素が堆積される請求項1記載の方法。
【請求項23】
パッシベーション層は、反射防止コーティング(ARC)として設計される請求項1記載の方法。
【請求項24】
洗浄工程、乾燥工程及び堆積工程は同一表面に行われ、この表面は、光に曝露されるように設計された半導体ユニットの一面に在る請求項1記載の方法。
【請求項25】
半導体ユニットは、ドープされた及びドープされていない単結晶及び多結晶シリコンの1つを含む請求項1記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの半導体ユニットを備えた光起電力素子を製造するための装置であり、
エッチングにより半導体ユニットの少なくとも1つの表面を洗浄するための少なくとも1つの洗浄チャンバと、
実質的に無酸素である又は酸素が欠乏している環境内で半導体ユニットの少なくとも1つの表面を乾燥させるための少なくとも1つの乾燥チャンバと、
スパッタリングにより、少なくとも1つの表面上にパッシベーション層を堆積するための少なくとも1つの堆積チャンバとを備え、
洗浄チャンバ、乾燥チャンバ及び堆積チャンバは直列に配置され、その中を半導体ユニットが閉鎖された無酸素雰囲気中を順々に通過する装置。
【請求項27】
半導体ユニットと、
半導体ユニット上に堆積されたパッシベーション層とを備え、
半導体ユニットとパッシベーション層は水素を含み、
半導体ユニットとパッシベーション層の少なくとも一方における水素含有量は、15原子%以上である光起電力素子。
【請求項28】
半導体ユニットとパッシベーション層の少なくとも一方における水素含有量は、15原子%以上である請求項27に記載の光起電力素子。
【請求項29】
半導体ユニットとパッシベーション層の少なくとも一方における水素含有量は、20原子%以上である請求項27に記載の光起電力素子。
【請求項30】
半導体ユニットとパッシベーション層の少なくとも一方における水素含有量は、25原子%以上である請求項27に記載の光起電力素子。
【請求項31】
半導体ユニットと、
半導体ユニット上に堆積されたパッシベーション層とを備え、
半導体ユニットとパッシベーション層は水素を含み、
半導体ユニットは、少なくとも10%の効率を有している光起電力素子。
【請求項32】
半導体ユニットは、少なくとも15%の効率を有している請求項31記載の光起電力素子。
【請求項33】
半導体ユニットは、少なくとも20%の効率を有している請求項31記載の光起電力素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−188407(P2009−188407A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−25552(P2009−25552)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(390040660)アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド (1,346)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】