説明

半導体装置の製造方法及び半導体装置

【課題】層間絶縁膜の材質としてフッ素添加カーボン(CF膜)を用いた半導体装置において、低誘電率であるフッ素添加カーボン膜の利点を生かすこと。
【解決手段】直鎖構造のCガスを用いてCF膜を成膜し、その表面にハードマスクになる金属を直接形成する。このCF膜は、耐熱性が大きいので金属膜の膜剥れがなく、また機械的強度が大きいのでCMP加工にも耐えられ、またCMP加工の後処理を有機酸などで行うことによりCF膜の損傷もなくなる。その結果下層側のCF膜と上層側のCF膜との間にSiCNなどからなる比誘電率の高いキャップ膜が存在しなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜を備えた半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高集積化を図るために多層配線構造が採用されているが、信号はその周波数が高くなるほど層間絶縁膜を通過しやすくなるため、デバイスの動作の高速化を図るためには、層間絶縁膜の比誘電率を低くすることが要求される。従来から絶縁膜としてはSiO2膜(シリコン酸化膜)が一般的に使用されてきたが、SiO2の比誘電率は4.0であり、そこで更に比誘電率の低い材料として比誘電率が3.6のSiOFが検討され、最近では比誘電率が2.8〜3.2の低誘電率材料であるSiOCHが実用化されている。このように層間絶縁膜の開発の流れとしては、シリコン(Si)を主成分とする材料にフッ素(F)や炭素(C)などを添加するという技術であった。
【0003】
これに対して本発明者らは、こうした従来の材料に比べて比誘電率が格段に低い、炭素及びフッ素の化合物であるフッ素添加カーボン膜(フロロカーボン膜)の適用を検討している。このフッ素添加カーボン膜は、比誘電率を1.8程度まで低くすることができることから、デバイスの高速化に対処できる層間絶縁膜の材料として極めて画期的な膜であるが、炭素を主成分としていることから、その性状はシリコンを主成分としていた従来の膜とは大きく異なっている。例えばシリコンを主成分とする膜に比べてフッ素添加カーボン膜の不利な点としては、耐熱性が弱く、また機械的強度が小さく、更にプラズマによりエッチングされやすいといった点を挙げることができる。
【0004】
このため半導体装置を構成する積層構造やその製造方法もシリコンを主成分としていた膜を用いる場合とは異なっている。以下にフッ素添加カーボン膜を層間絶縁膜として用いる場合において配線の形成工程であるデュアルダマシン工程について簡単に記載する。図8(a)は、基板100上に形成された下層側の回路層101の上に上層側の回路層を形成する途中の段階を示している。102はフッ素添加カーボン膜、103は銅(Cu)からなる配線層、104は例えばSiCN(炭化窒化シリコン)からなるキャップ膜、105、106は、フッ素添加カーボン膜102への配線材料(この例では銅)の拡散を防止するためのバリアメタルとバリア膜である。この下層側の回路層101の上には、フッ素添加カーボン膜112、キャップ膜114、金属膜例えばTi(チタン)からなる金属膜117、犠牲膜118及びフォトレジストマスク119が下側からこの順番で積層されている。フッ素添加カーボン膜112(102)は、環状構造のCガスなどのフッ化炭素ガスを含む処理ガスをプラズマ化し、そのプラズマ雰囲気中に基板100を曝すことによって成膜される。
【0005】
図8(a)に示す積層構造を形成した後は、図8(b)に示すようにフッ素添加カーボン膜112に対して凹部122の形成工程が行われる。この工程は、フォトレジストマスク119を利用した犠牲膜118のマスクの形成、犠牲膜118のマスクを用いたフッ素添加カーボン膜112へのビアホール120の形成、金属膜117からなるハードマスクのパターニング、及びこのハードマスクを用いたフッ素添加カーボン膜へのトレンチ(配線埋め込み溝)121の形成といった工程である。次いで、図8(c)に示すように、凹部122の内表面を含む基板100の露出面を覆うようにバリアメタル115を形成した後、凹部122内に配線材料である銅113を埋め込み、続いて図8(d)に示すように、余剰の銅113及び金属膜117をCMP(Chemical Mechanical Polishing)加工により除去する。
【0006】
このCMP加工において、フッ素添加カーボン膜112が機械的負荷を直接受けないようにするために、図8(d)に示すように、キャップ膜114の一部を残した状態でCMP加工を停止する。またこのCMP加工によって、配線層113が酸化されて表面に酸化被膜123が生成するが、この酸化被膜123が存在すると、配線の抵抗値が上昇することから、この酸化被膜123を還元するために、図8(e)に示すように、基板100にアンモニア(NH3)ガスを活性化して得たプラズマ(以下NH3プラズマと略記する)を照射する。フッ素添加カーボン膜112は、NH3プラズマに曝されるとエッチングされるが、既述のように表面にキャップ膜114が残っているので、このキャップ膜114が保護膜となってNH3プラズマに直接曝されず、エッチングされない。その後、配線層113の表面を含む基板100の表面にバリア膜116を成膜して上層側の回路層の形成工程を終了し(図8(f))、その後同様の工程が行われて多層配線構造の半導体装置が製造される。
【0007】
ここでキャップ膜114は、既述のようにCMP加工時及びNH3プラズマの照射時におけるフッ素添加カーボン膜112の保護膜の役割を果たすだけでなく、ハードマスクとなる金属膜117とフッ素添加カーボン膜112とを密着させる密着層の役割も有している。即ち、後述する比較例2−1の実験結果に示されるように、環状構造のCガスから得られたフッ素添加カーボン膜上に直接Tiからなる金属膜を形成すると、成膜後に金属膜117の膜剥がれが起こることから、SiCN、SiCあるいはSiNなどからなるキャップ膜114を介在させることでフッ素添加カーボン膜112と金属膜117との密着性を確保するようにしている。
【0008】
このようにキャップ膜114は、従来のシリコン系の層間絶縁膜の場合には用いられていなかったが、フッ素添加カーボン膜112の特有の性状から必要なものとなっている。一方半導体デバイスの薄膜化が進んでいることから、フッ素添加カーボン膜112を用いた場合にも層間絶縁膜の厚さを小さくすることが要請されるが、キャップ膜114の材料であるSiCN(比誘電率:5程度)、SiC(比誘電率:7程度)あるいはSiN(比誘電率:8程度)などは比誘電率が高いことから、比誘電率の低い層間絶縁膜中に残存しかつ層間絶縁膜の膜厚が小さくなると、キャップ膜114も含めた層間絶縁膜について、比誘電率の高いキャップ膜114の存在の影響が大きくなり、つまりキャップ膜114が存在することによる比誘電率の上昇の程度が顕著になり、せっかく1.8もの低い比誘電率を持つフッ素添加カーボン膜112を層間絶縁膜に使用しても、その材料の利点を十分に生かしきれず、その使用価値が薄れてしまう。
【0009】
更にまたキャップ膜114は、上記のようにフッ素添加カーボン膜112の耐熱性及び機械的強度の不足を補うための膜であり、本来デバイスを形成するためには不要な膜である。そのため、本来不要であるキャップ膜114の成膜工程を行わなければならず、更にその後のエッチング時においてハードマスクとなる金属膜117との間の選択比を確保できるエッチングガスの選定を行わなければならないし、またキャップ膜114のエッチング時に発生した残渣を洗浄する作業も必要になる場合がある。従って工程が増え、スループットの低下の要因の一つになると共に、これらの工程を行うための装置も必要になってしまう。
【0010】
一方、特許文献1には、フッ素添加カーボン膜について記載されているが、上記の課題については触れられていない。
【0011】
【特許文献1】特開2005−302811
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、層間絶縁膜の材質としてフッ素添加カーボンを用いた半導体装置において、低誘電率であるフッ素添加カーボン膜の利点を生かすことのできる半導体装置及びその半導体装置を製造する方法を提供することにあり、他の目的は、製造工程を簡略化することのできる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の半導体装置の製造方法は、
炭素及びフッ素を含む処理ガスをプラズマ化し、そのプラズマにより基板上にフッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜を成膜する工程(a)と、
前記層間絶縁膜の表面に金属膜を成膜する工程(b)と、
前記金属膜をパターンに応じてエッチングすることにより当該金属膜からなるハードマスクを形成する工程(c)と、
前記ハードマスクを用いて前記フッ素添加カーボン膜をエッチングすることにより当該フッ素添加カーボン膜に凹部を形成する工程(d)と、
次いで、前記基板の表面に配線材料を成膜して前記凹部内に当該配線材料を埋め込む工程(e)と、
前記フッ素添加カーボン膜上の余剰の配線材料及び前記ハードマスクを除去してフッ素添加カーボン膜の表面を露出させる工程(f)と、
この工程により配線材料の表面に生成された酸化物を除去する工程(g)と、
を備えたことを特徴とする。
前記金属膜を成膜する工程(b)は、前記層間絶縁膜の上に直接金属膜を成膜する工程であることが好ましい。
炭素及びフッ素を含む処理ガスは、直鎖構造のC ガスであることが好ましく、更に三重結合を備えていることが好ましい。
前記金属膜の材質は、Ti、Ta、W及びAlから選ばれるものであることが好ましい。
前記ハードマスクの上に犠牲膜を形成し、この犠牲膜をマスクとして用いてフッ素添加カーボン膜をエッチングすることにより当該フッ素添加カーボン膜に凹部を形成する工程を行うようにしても良い。
前記フッ素添加カーボン膜の表面を露出させる工程(f)は、前記配線材料の表面を研磨する工程であっても良い。
前記酸化物を除去する工程(g)は、有機酸の液体または蒸気を基板の表面に供給する工程であるか、あるいは還元性ガス雰囲気下にて基板をアニールする工程であることが好ましい。
【0014】
本発明の半導体装置は、
フッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜とこの層間絶縁膜内に埋め込まれた配線材料とを含む下段側の回路層と、
前記配線材料の拡散を防止するために前記下段側の回路層の上に形成されたバリア層と、
このバリア層の上に直接形成されたフッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜とこの層間絶縁膜内に埋め込まれた配線材料とを含む上段側の回路層と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、層間絶縁膜としてフッ素添加カーボン膜を用いた半導体装置において、下層側のフッ素添加カーボン膜と上層側のフッ素添加カーボン膜との間に、従来からフッ素添加カーボン膜とハードマスクになる金属膜との間の密着膜及び配線材料の研磨時やその後処理時の保護膜として使用されていたSiCNなどからなる比誘電率の高いキャップ膜が介在していないので、上層側配線と下層側配線との間に介在する全体の層間絶縁膜の比誘電率の上昇を抑えることができ、比誘電率が低いというフッ素添加カーボン膜の本来の利点を生かすことができる。またキャップ膜を用いないことから、キャップ膜の成膜工程が不要になり、更にキャップ膜のエッチングやそのエッチングに伴う洗浄も不要になるなど、工程を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の半導体装置に係る製造方法の実施の形態を図1を参照しながら説明する。図1(a)には、基板であるウェハW上に形成されたn番目(下段側)の回路層が示されており、この回路層は、層間絶縁膜であるフッ素添加カーボン膜(以下「CF膜」という)60内に例えばCuなどの金属である配線61が埋め込まれている。このCF膜60と配線61との間には、CF膜60内に配線61から金属が拡散しないように、例えば窒化タンタル膜とタンタル膜とがこの順番で下側(CF膜60側)から積層されたバリアメタル62が介在している。また、この回路層の上には、配線61から(n+1)番目(上段側)の回路層のCF膜70に金属が拡散しないように、例えばSiCなどのバリア膜63が成膜されている。なお以下の説明ではn番目、(n+1)番目を夫々下層側、上層側と呼ぶことにする。
【0017】
先ず、図1(b)に示すように、バリア膜63の表面にCF膜70を成膜する。このCF膜70は、後で詳述するが、炭素とフッ素とを含む化合物の成膜ガスである直鎖構造のCガスをプラズマ化し、そのプラズマをウェハW上に形成することで成膜される。この直鎖構造のCガスは、炭素−炭素間に三重結合を持っており、例えば図4(a)に示すように、三重結合を一つ持つ1,1,1,2,2,5,5,5−Octafluoro−1−pentyneガスなどである。炭素−炭素間に三重結合を持っているCガスをプラズマ化すると、網状構造体を持つ分解生成物を生じやすく、この網状構造体がCF膜70に取り込まれていくので、CF膜70の機械的強度や耐熱性が環状構造のCガスを用いて成膜した場合よりも高くなるが、炭素−炭素間に二重結合を持つ同図(b)に示す1,1,2,3,4,5,5,5−Octafluoro−1,3−pentyneガスなどを用いても良い。
【0018】
次に、このCF膜70上に例えばスパッタ法により、CF膜70のエッチング時のハードマスクとなる金属膜71例えばTi(チタン)を成膜するが、このCF膜の熱的安定性が優れているため、後述する実験例2−1、実験例3等にも示されるように、Ti膜との密着性も向上しておりSiCN膜などのキャップ膜を用いなくてもCF膜70と金属膜71との密着性が確保される。なお金属膜71としては、Tiに限られず、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Al(アルミニウム)などであっても良い。
【0019】
その後、図1(c)に示すように、トレンチ(配線の埋め込み溝)に相当するパターン73が形成されたフォトレジストマスク74を用いて、図1(d)に示すように、金属膜71をエッチングして溝を形成する。ここで金属膜71として上述のような純金属を用いるのは、金属膜71をエッチングしてハードマスクのパターンを形成する際、下層のCF膜と金属膜71(ハードマスク)との間のエッチング選択比を高く(例えば100以上)することができるためである。次いでエッチングガスを変え、この金属膜71をマスクとして、CF膜70をエッチングして溝80を形成する(同図(e))。尚、フォトレジストマスク74は、このCF膜70のエッチング時に除去され、ウェハWの表層には、金属膜(ハードマスク)71が残る。
【0020】
次いで、溝80を覆うように、例えばスピンコータ法により例えばSiOC系の膜である犠牲膜75を成膜し、その表面にビアホールに対応するパターン76を備えたフォトレジストマスク77を形成する(図2(a))。そして、このフォトレジストマスク77を用いて犠牲膜75及びCF膜70をエッチングし、更にホールの底部に露出したバリア膜63もエッチングし、こうしてCF膜70内にビアホール81を形成する。続いて犠牲膜75を薬液処理により除去する(図2(d))ことによって、CF膜70に溝80とビアホール81とからなる凹部82が形成される。
【0021】
その後、金属膜71の表面から凹部82の内表面に亘って既述のバリアメタル62と同じ構成のバリアメタル78を例えばスパッタ法により成膜する。しかる後、配線材料である金属例えばCuを上層側の配線79として例えばスパッタ法により成膜する(図2(e))。
【0022】
次に、CMP(Chemical Mechanical Polishing)加工により余剰のCu、バリア膜78及び金属膜71を除去する。こうしてCF膜70内に配線79が形成される。このCMP加工は、樹脂製例えばウレタン製のパッドとウェハWの表面とを相対向させ、このパッド上に酸性あるいはアルカリ性のスラリーを供給しながらパッドとウェハWとを相対的に加圧かつ回転させることにより、ウェハWの表面を化学的機械的に研磨する処理方法である。この場合、CF膜70の上には、従来のようにキャップ膜が存在しないので、CMP加工の最終段階でCF膜70の表面に直接研磨作用が施されるが、このCF膜70は、既述のように機械的強度が大きいので、デバイスの特性に影響を及ぼすような損傷は起こらない。そしてCu(配線79)の表面は、加工時の摩擦熱等により酸化されて酸化膜79aが生成する(図2(f))。配線79と次に形成される(n+2)番目の上層側の配線との間に酸化膜79aが存在すると配線抵抗が大きくなるので、この酸化層79aの除去処理例えば還元処理を行う(図3(a))。この還元処理は、処理容器内の載置台にウェハWを載置し、ウェハWを例えば所定の温度に加熱すると共に、載置台に対向するように設けられたシャワーヘッドから有機酸例えば蟻酸の蒸気をウェハWに供給することにより行われる。このように有機酸を用いる還元処理は、蒸気の代わりに溶液をウェハWの表面に供給することにより行っても良く、また有機酸としては蟻酸以外のカルボン酸などであっても良い。この還元処理により、酸化層79aが還元されて金属(Cu)となる。一方、CF膜70は、このような有機酸によって劣化や浸食などをほとんど受けないので、CF膜70が悪影響を受けずに酸化層79aの還元が行われる。
【0023】
この還元処理としては、例えば還元雰囲気例えば水素雰囲気中にウェハWを置いて、アニール処理(熱処理)を行っても良い。本実施の形態で用いるCF膜70は、既述のように、耐熱性が大きいので、このようなアニール処理を行っても、Fガスなどの脱ガスがほとんど起こらない。その後、前記配線79から更に(n+2)番目の上層側のCF膜(図示せず)への金属の拡散を抑えるために、ウェハWの表面にバリア膜83を例えばCVD法により成膜する。こうして一連の工程を繰り返すことによって、所定の階層分の回路が形成される。
【0024】
上述の実施の形態によれば、CF膜70の成膜ガスとして直鎖構造のCガスを用いているため、機械的強度の大きなCF膜70が得られ、銅(配線79)の埋め込みの後に行われるCMP工程において、CF膜70が表面に露出するまでウェハWの表面を研磨しても、CF膜70が欠損しない。そして、CMP工程後の銅酸化物(酸化層79a)の還元を蟻酸で行うようにしており、CF膜70は蟻酸によりエッチングされないので、CF膜70が露出した状態で酸化層79aの還元処理を行うことができる。また直鎖構造のCガスを用いたCF膜70は、例えば400℃程度まで加熱しても耐熱性が大きく、Fガスなどの脱ガスがほとんど起こらないので、後工程で行われる水素シンタ処理においてもFガスによる金属配線の腐食が防止される。
【0025】
以上のことから、配線の形成を行うデュアルダマシン工程において、従来CF膜を層間絶縁膜とする場合には必要とされていたキャップ膜を用いなくて済み、このため上層側のCF膜70と下層側のCF膜60との間に比誘電率の高いキャップ膜が介在しないので、上層側配線79と下層側配線61との間に介在する全体の層間絶縁膜(CF膜70及びバリア膜63を含めた意味である)の比誘電率の上昇を抑えることができ、CF膜70の本来の利点を最大限に生かすことができる。特に層間絶縁膜の薄膜化が進んでいる状況下においては、「背景」の項目にて既述したように比誘電率の高いキャップ膜の影響が大きくなることから、本発明の半導体装置は、極めて有効なものであるといえる。
【0026】
またキャップ膜の成膜が不要になることから、キャップ膜の成膜工程、キャップ膜をエッチングする工程が不要になると共に、キャップ膜のエッチングにより発生する残渣を洗浄する工程も不要になるので、工程を簡略化でき、スループットを向上させることができる。また、キャップ膜と金属膜71との間のエッチング選択比を考慮する必要がなくなり、金属膜71のエッチング条件(使用ガスなど)を検討しなくて済み、金属膜71を構成する材料の自由度が増えると共に、金属膜71とCF膜70との間のエッチング選択比が高いので、エッチング形状の良好な(アスペクト比の高い)凹部82を形成できる利点もある。
【0027】
なおハードマスクとなる金属膜71としては、Tiに限らずTa、W、Alなどの金属膜であってもよく、その成膜手法としてはスパッタ法の他、成膜温度が400℃以下であれば、熱CVD法を用いてもよい。
【0028】
尚、半導体装置の製造工程においてSiCN膜等のキャップ膜をCF膜70と金属膜71との間に介在させ、CMP加工時に金属膜71と共にキャップ膜を除去することにより、下層側のCF膜60と上層側のCF膜70との間にキャップ膜が存在しない製法であっても、本発明の権利範囲に含まれる。
【0029】
次に、CF膜70を成膜するための成膜装置の一例について図5を参照して簡単に説明する。同図中の成膜装置10は、真空チャンバである処理容器11、温調手段を備えた載置台12及び載置台12に接続された例えば13.56MHzのバイアス用の高周波電源13を備えている。
【0030】
処理容器11の上部には載置台12と対向するように、例えば略円形状の例えばアルミナからなる第1のガス供給部14が設けられている。この第1のガス供給部14における載置台12と対向する面には、多数の第1のガス供給孔15が形成されている。第1のガス供給孔15は、ガス流路16及び第1のガス供給路17を介してプラズマ発生用のガス例えばアルゴン(Ar)ガス等の希ガス供給源に接続されている。
【0031】
また、前記載置台12と前記第1のガス供給部14との間には、例えば略円形状の導電体からなる第2のガス供給部18が設けられており、この第2のガス供給部18における載置台12と対向する面には、多数の第2のガス供給孔19が形成されている。この第2のガス供給部18の内部には、第2のガス供給孔19に連通するガス流路20が形成されており、ガス流路20は、第2のガス供給路21を介して例えば直鎖構造のCガスなどの原料ガス供給源に接続されている。また、第2のガス供給部18には、第2のガス供給部18を上下に貫通するように、多数の開口部22が形成されている。この開口部22は、第2のガス供給部18の上方で生成したプラズマを第2のガス供給部18の下方側の空間に通過させるためのものであり、例えば隣接する第2のガス供給孔19同士の間に形成されている。処理容器11の下端側には、排気口26aが形成されており、この排気口26aは、排気管26を介して真空排気手段27に接続されている。
【0032】
前記第1のガス供給部14の上方には、例えばアルミナなどの誘電体により構成されたカバープレート28を介してアンテナ部30が設けられている。このアンテナ部30は、円形のアンテナ本体31と、このアンテナ本体31の下端に埋設された平面アンテナ部材(スリット板)32とを備えている。平面アンテナ部材32には、円偏波を発生させるための多数の図示しないスリットが形成されている。これらアンテナ本体31と平面アンテナ部材32とは導体により構成され、扁平な中空の円形導波管を構成している。
【0033】
また、アンテナ本体31と平面アンテナ部材32との間には、例えばアルミナや酸化ケイ素、窒化ケイ素等の低損失誘電体材料により構成された遅相板33が設けられている。この遅相板33は、マイクロ波の波長を短くして前記円形導波管内の管内波長を短くするためのものである。
【0034】
このように構成されたアンテナ部30は、同軸導波管35を介して例えば2.45GHzあるいは8.4GHzの周波数のマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段34に接続されている。また、同軸導波管35の外側の導波管35Aと中心導体35Bとは、それぞれアンテナ本体31と、遅相板33に形成された開口部を介して平面アンテナ部材32とに接続されている。
【0035】
次に、上記の成膜装置10を用いたCF膜70の成膜方法について説明する。先ず、ウェハWを処理容器11内に搬入して載置台12上に載置する。そして、真空排気手段27を用いて処理容器11内を排気して、処理容器11内に例えばArガスと直鎖構造のCガスとをそれぞれ第1のガス供給路17及び第2のガス供給部18から所定の流量供給しながら、処理容器11内を所定の真空度に設定し、載置台12に設けられた温調手段によりウェハWを加熱する。
【0036】
一方、マイクロ波発生手段34から周波数が2.45GHzの高周波(マイクロ波)をカバープレート28と第1のガス供給部14とを介して、平面アンテナ部材32に形成された図示しないスリットから下方側の処理空間に向けて放射する。
【0037】
このマイクロ波により、第1のガス供給部14と第2のガス供給部18との間の空間にArガスのプラズマが励起される。一方、第2のガス供給部18から載置台12に向けて放出されたCガスは、開口部22を介して上方側から流れ込んできたArプラズマに接触して活性種を生成する。この活性種がウェハWの表面に供給されることにより、CF膜70が成膜される。
【実施例】
【0038】
(実験例1)
既述のキャップ層としてシリコン系化合物例えばSiCN膜が層間絶縁膜の一部として残っていた場合に、このSiCN膜が層間絶縁膜の比誘電率に与える影響を調べるために、以下の実験を行った。実験は、膜厚20nmのSiCN膜によりCF膜を上下に挟んだ積層体を形成し、CF膜の膜厚を100nm〜375nmまで25nm刻みで変えて、積層体の比誘電率を水銀プローブにより測定することにより行った。
(実験結果)
この結果を図6に示す。CF膜の膜厚が薄くなる程、全体の比誘電率が増加していくことが分かった。従って、上下のCF膜の間にキャップ膜が介在していると、デバイスの薄膜化が進むにつれて、層間絶縁膜の比誘電率の上昇が顕著になり、無視できなくなることが分かる。
【0039】
(実験例2)
(実験例2−1)
上記の成膜装置10を用いて、原料ガスとして直鎖構造のCガスにより、ウェハ上にCF膜を成膜し、更にその上にスパッタ法によりTi膜を成膜した。その後、真空雰囲気において400℃の熱処理を60分間行った。
(比較例2−1)
実験例2−1と同様に、CF膜を成膜した。尚、原料ガスとしては、環状構造のCガスを用いた。その後、このCF膜上にTi膜を成膜した。
(比較例2−2)
比較例2−1と同様にCF膜を成膜した。また、その後CF膜上にTa膜を成膜して、真空雰囲気において350℃にて30分間熱処理を行った。
(実験結果)
実験例2−1では、Ti膜の膜剥がれ、Ti膜とCF膜との間における気泡の発生などが見られず、ウェハ全面に亘って均一な色合いとなっており、良好な成膜状態であった。一方、比較例2−1では、Ti膜を成膜した状態で既に膜剥がれが生じていた。また、比較例2−2では、Ta膜の成膜後には問題がなかったものの、アニール後にはウェハWの至る場所において膜剥がれが生じていた。この比較例2−1、2−2間の差異は、TaとTiとの反応性の違いによるものだと考えられる。
【0040】
このことから、直鎖構造のCガスにより成膜したCF膜では、熱処理によって脱ガスがほとんど起こっていないことが分かる。これはLSIの製造工程においてトランジスタを形成した場合、その最終工程で行われる、トランジスタのゲート酸化膜の界面準位小さくするための、400℃程度の水素シンタ処理時にも、Fガスの脱離が発生せずに配線金属が腐食されないことを意味する。一方、環状構造のCガスにより成膜したCF膜では、熱処理によって脱ガスが起こって金属膜と反応し、金属膜が剥がれていたことから、直鎖構造のCガスにより成膜したCF膜と比べて、耐熱性が低いことが分かった。
【0041】
(実験例3)
成膜装置10を用いて、ウェハ上に直鎖構造のCガスによりCF膜を成膜し、次いでスパッタ法により、Ti膜、Ta膜及びCu膜をそれぞれ3nm、7nm、15nmとなるように成膜し、400℃の熱処理を60分間行った。その後、ウェハWの切断面をTEMにより撮影した。その結果を図7に示す。その結果、各々の膜間において膜剥がれや各膜間における元素の拡散といった変質などが起こっていなかった。従って、CF膜は、耐熱性が大きく、Ti膜などの金属膜をその表面に直接成膜しても問題ないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の半導体装置の製造方法の一例を示す図である。
【図2】上記の半導体装置の製造方法の一例を示す模式図である。
【図3】上記の半導体装置の製造方法の一例を示す模式図である。
【図4】本実施の形態に用いられるCガスの説明図である。
【図5】上記の半導体装置の製造方法に用いられる成膜装置の一例を示す縦断面図である。
【図6】実験例1における実験結果を示す特性図である。
【図7】実験例3において撮影したTEM写真を模式化した特性図である。
【図8】従来の環状構造のCガスを用いてCF膜を成膜する工程を示す半導体装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
60 CF膜
70 CF膜
71 金属膜
72 犠牲膜
73 パターン
74 フォトレジストマスク
75 犠牲膜
76 パターン
77 フォトレジストマスク
78 バリア膜
79 配線
79a 酸化層
80 溝
81 ビアホール
82 凹部
83 バリア膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素及びフッ素を含む処理ガスをプラズマ化し、そのプラズマにより基板上にフッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜を成膜する工程(a)と、
前記層間絶縁膜の表面に金属膜を成膜する工程(b)と、
前記金属膜をパターンに応じてエッチングすることにより当該金属膜からなるハードマスクを形成する工程(c)と、
前記ハードマスクを用いて前記フッ素添加カーボン膜をエッチングすることにより当該フッ素添加カーボン膜に凹部を形成する工程(d)と、
次いで、前記基板の表面に配線材料を成膜して前記凹部内に当該配線材料を埋め込む工程(e)と、
前記フッ素添加カーボン膜上の余剰の配線材料及び前記ハードマスクを除去してフッ素添加カーボン膜の表面を露出させる工程(f)と、
この工程により配線材料の表面に生成された酸化物を除去する工程(g)と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記金属膜を成膜する工程(b)は、前記層間絶縁膜の上に直接金属膜を成膜する工程であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
炭素及びフッ素を含む処理ガスは、直鎖構造のC ガスであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記直鎖構造のC ガスは、三重結合を備えていることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記金属膜の材質は、Ti、Ta、W及びAlから選ばれるものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記ハードマスクの上に犠牲膜を形成し、この犠牲膜をマスクとして用いてフッ素添加カーボン膜をエッチングすることにより当該フッ素添加カーボン膜に凹部を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素添加カーボン膜の表面を露出させる工程(f)は、前記配線材料の表面を研磨する工程である請求項1ないし6のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記酸化物を除去する工程(g)は、有機酸の液体または蒸気を基板の表面に供給する工程であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物を除去する工程(g)は、還元性ガス雰囲気下にて基板をアニールする工程であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
フッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜とこの層間絶縁膜内に埋め込まれた配線材料とを含む下段側の回路層と、
前記配線材料の拡散を防止するために前記下段側の回路層の上に形成されたバリア層と、
このバリア層の上に直接形成されたフッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜と、この層間絶縁膜内に埋め込まれた配線材料とを含む上段側の回路層と、を備えたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−262996(P2008−262996A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103313(P2007−103313)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「マイクロ波励起高密度プラズマ技術を用いた半導体製造装置の技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】