導電膜用エッチング液組成物
【課題】基板上に形成されたモリブデン系導電性薄膜、または、モリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜とが積層された積層導電性薄膜を、効率よく、側面が良好な順テーパー形状となるようなエッチングを行うことが可能なエッチング液、および、該エッチング液を用いたエッチング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(a)リン酸30〜80重量%と、(b)硝酸0.1〜20重量%と、(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、(d)水とを含有するエッチング液を用いてエッチングを行う。
また、上記エッチング液を用いて、アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、アルミニウム系導電性薄膜と、アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜をエッチングする。
【解決手段】(a)リン酸30〜80重量%と、(b)硝酸0.1〜20重量%と、(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、(d)水とを含有するエッチング液を用いてエッチングを行う。
また、上記エッチング液を用いて、アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、アルミニウム系導電性薄膜と、アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜をエッチングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置や有機発光表示装置などに使用される配線や電極のエッチング液およびそれを用いたエッチング方法に関し、さらに詳しくはモリブデンを主成分とする導電性薄膜(導電性単層薄膜)、あるいはモリブデンを主成分とする導電性薄膜とアルミニウムを主成分とする導電性薄膜を備えた積層導電性薄膜のエッチング液およびそれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く用いられている液晶表示装置における薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)は、一般的には、図1に示すように、
(1)ガラス基板1上にゲート電極2を形成し、
(2)ゲート電極2上にゲート絶縁膜(SiNx膜)3、半導体層としてのa−Si活性層4、コンタクトをとるための不純物半導体膜としてのn+a−Siコンタクト層5、エッチング保護膜6などを形成し、
(3)さらに、n+a−Siコンタクト層5の上にソース電極7、ドレイン電極8を形成するとともに、
(4)ソース電極7、ドレイン電極8の上にパッシベーション膜としてのSiNx9を形成し、
(5)さらにその上に、ドレイン電極8とコンタクトホールを介して接触している画素電極10として、透明導電膜であるITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)が形成された構成とされている。
【0003】
また、上記薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)において、ゲート電極2、ソース電極7、ドレイン電極8としては、低抵抗で安価なアルミニウムを主成分とする導電性薄膜が多用されている。
【0004】
このアルミニウムを主成分とする導電性薄膜に関しては、画素電極である透明導電膜(ITO:インジウム錫酸化物)と直接接触する場合、接触抵抗が増加したり、あるいはアルミニウムが絶縁膜層内に容易に拡散したりするなどの問題点を有している。
上記の問題点を解決するために電気的に接続する際のバリアメタルとなる高融点金属材料を、アルミニウムを主成分とする導電性薄膜層の片面あるいは両面に積層した2層構造または3層構造の積層膜が用いられている。また、アルミニウムを主成分とする単層薄膜を、モリブデンを主成分とする単層薄膜に代える場合もある。
【0005】
前記高融点金属材料としては、チタン、窒化チタン合金などのチタン合金、モリブデン、モリブデン−タングステン合金、モリブデン−タンタル合金、モリブデン−ニオブ合金、モリブデン−ジルコニウム合金、モリブデン−クロム合金などのモリブデン合金などが使用される。
【0006】
上記高融点金属材料の中で、チタン系高融点金属は通常、アルミニウムまたはモリブデン系の金属薄膜をエッチングする際に用いられるエッチング液には全くエッチングされないために、四フッ化炭素(CF4)や三塩化ホウ素(BCl3)などのエッチングガスを用いてドライエッチングすることにより加工し、パターニングを行っている。しかしながら、ドライエッチングは加工性に優れているが、エッチング装置が高価で、生産性が低いという問題点を有している。
【0007】
一方、モリブデン系の高融点金属材料を使用した場合は、モリブデン導電性薄膜(単層薄膜)やアルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜との積層膜が広く用いられている。そこで、ゲート電極2、ソース電極7、ドレイン電極8などとして用いられるモリブデン導電性薄膜(単層薄膜)やアルミニウムを主成分とする導電性薄膜とモリブデンを主成分とする導電性薄膜との積層膜は、各々の上層に形成される絶縁層や半導体層との段差被覆性(ステップカバレッジ)を確保するため、その断面形状は順テーパー状に加工する必要がある。
【0008】
従来、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜が積層された積層膜をエッチングするためのエッチング方法やエッチング液に関し、以下のような技術が開示されている。
【0009】
特許文献1には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性薄膜(アルミニウム系導電性薄膜)とモリブデンまたはモリブデン合金からなる導電性薄膜(モリブデン系導電性薄膜)を積層した積層膜をリン酸、硝酸、および酢酸を混合した混酸でエチングを行う場合において、積層膜を構成するアルミニウム形導電膜とモリブデン系導電膜の膜厚比を制御する方法が開示されているが、上述の従来技術の問題点を根本的に解決するには至っていない。
【0010】
また、特許文献2には、リン酸、硝酸、および酢酸の混合液であるエッチング液を用いてアルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜の積層膜を一括的にエッチングする技術が開示されているが、リン酸、硝酸、および酢酸の好適な濃度組成の範囲が狭く、かつ、エッチング後の積層膜の端面形状が必ずしも順テーパー状にならず、好ましくないという問題点がある。
【0011】
また、特許文献3には、リン酸、硝酸、および酢酸との混合液にフッ化水素酸、あるいはフッ化アンモニウムを添加したエッチング液を用い、また、特許文献4には、リン酸、硝酸、および酢酸の混合液にフッ素系酸と塩素系酸の少なくとも一方と水とを含むエッチング液を用いて、アルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜の積層膜のエッチングを行う方法が開示されている。しかしながら、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムを添加した該エッチング液は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムの添加量が微量であってもモリブデン系薄膜のエッチング速度が著しく上昇し、特にアルミニウム系薄膜の上下にモリブデン系薄膜を積層した積層膜を、上記のフッ化水素酸、フッ化アンモニウムを添加したエッチング液を用いてエッチングを行った場合、上層部のモリブデン系薄膜のエッチング速度が大きくなり、階段状のエッチングプロファイルとなるため、好ましくない。
【0012】
特許文献5には、リン酸および硝酸に有機酸を配合したエッチング液、および有機酸が酢酸またはアルキルスルホン酸であるエッチング液を用いてアルミニウム系薄膜とモリブデン・ニオブ合金薄膜とを備えた積層膜のエッチングを行うことが開示されているが、モリブデン合金薄膜がモリブデン単層薄膜あるいは他のモリブデン合金薄膜についてはなんら言及されておらず、そのような場合に応用することができないのが実情である。
【0013】
また、特許文献6には、リン酸、硝酸、有機酸およびカチオン成分を含有する水溶液からなるエッチング液を用いてアルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜の積層膜のエッチングを行うことが開示されているが、カチオン生成成分を添加することによりアルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜のエッチング速度が遅くなり、実用上問題点が多い。
【0014】
また、モリブデン系単層薄膜をウエットエッチングするのに使用するエッチング液としては、以下のような技術が開示されている。
特許文献7には、過酸化水素を含有するエッチング液が開示されている。該エッチング液は過酸化水素を含有しており、エッチング後に有機アルカリで処理することが必要になる。これは過酸化水素との接触によって生じたモリブデン酸化膜の一部がモリブデンに比べて過酸化水素に溶けにくく、モリブデン酸化膜がエッチングできずに残ってしまうため、有機アルカリ水溶液を含む水溶液で処理することにより効果的にエッチングを行うことが可能になることによる。しかしながら、特許文献7に記載のエッチング方法は2種類のエッチング液を使用しなければならず煩雑であるという問題点があり、また、有機アルカリ水溶液を用いるため、マスクとして使用するレジストが溶解しやすいなどの問題点もある。
【0015】
特許文献8には、過酸化水素を含有するエッチング液でエッチングを行った後、さらに臭化水素酸または塩酸を含有する水溶液で表面のモリブデン酸化膜を除去することにより、円滑なエッチングを行うようにしたパターン形成方法(エッチング方法)が開示されている。しかしながら、この技術も特許文献7の技術と同様に、モリブデンの酸化によりモリブデン酸化膜が生成し、このモリブデン酸化膜を除去するために臭化水素酸または塩酸水溶液でエッチングしなければならず、煩雑な工程を必要とする。
【0016】
特許文献9および10には、リン酸、硝酸、酢酸を混合したエッチング液を用いてエッチングを行った後、硝酸、塩酸を含む水溶液で処理する方法が開示されている。しかしながら、上記のリン酸、硝酸、酢酸を混合したエッチング液のみでエッチングを行うと、モリブデンの表面に存在するモリブデン酸化膜とその下の純モリブデン膜との間にエッチング速度の差があるために、エッチング後のモリブデン断面の形状が、くさび型と呼ばれる逆テーパーの形状になってしまい、後工程でモリブデン膜の上に成膜される絶縁膜のカバレッジ性(段差被覆性)が悪化し、断線などの不良を起こす原因になるという問題点を有している。この方法の場合にも、リン酸、硝酸、酢酸を混合したエッチング液でエッチングを行った後に、硝酸、塩酸を含有する水溶液でエッチングを行うことにより、モリブデン酸化膜を除去し、滑らかなエッチング形状を得ることが可能である。しかしながら、該技術も2段階のエッチング処理を行わなければならず煩雑な工程が必要になるという問題点がある。
【0017】
上述の各従来技術においては、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜との積層導電性薄膜、およびモリブデン単層薄膜のエッチングに関し、エッチング後の形状として,必ずしも良好な順テーパー形状が得られない場合があり、また煩雑な工程を必要とするなどの問題点を有している。さらには、絶縁膜を成膜した場合のカバレッジ性(段差被覆性)、およびマスクとして使用するレジストへのダメージなどについて、解決すべき問題点があるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平6−104241号公報
【特許文献2】特開2001−77098号公報
【特許文献3】特開2001−311954号公報
【特許文献4】特開2005−163070号公報
【特許文献5】特開2005−85811号公報
【特許文献6】国際公開第2003/036707号パンフレット
【特許文献7】特開2003−193272号公報
【特許文献8】特開平10−107015号公報
【特許文献9】特開2001−44166号公報
【特許文献10】特開2002−9061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、基板上に形成されたモリブデン系導電性薄膜を、アンダーカットやサイドエッチングなどの発生を抑制しつつ、側面が良好な順テーパー形状となるようなエッチングを行うことが可能で、微細な配線形状を精度よく形成することが可能なエッチング方法、さらには、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜とを備えた積層導電性薄膜を、効率よくエッチングすることが可能なエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前述した課題を解決するために、鋭意検討を行い、(a)リン酸、(b)硝酸、(c)有機酸塩、および(d)水を含有するエッチング液を用いることにより、上述のような、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜(すなわち、モリブデン系導電性単層薄膜や、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜との積層導電性薄膜)を順テーパー形状の側面が形成されるようにエッチングすることができることを見出し、さらに検討を行って本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明(請求項1)の導電性薄膜エッチング液は、
基板上に形成された、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング液であって、
(a)リン酸30〜80重量%と、
(b)硝酸0.1〜20重量%と、
(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、
(d)水と
を含有することを特徴としている。
【0022】
本発明の導電性薄膜エッチング液は、エッチングすべき前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
である場合にも好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、前記エッチング液組成物を構成する有機酸塩が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
また、本発明のエッチング方法は、
基板上に形成された導電性薄膜であって、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング方法であって、 リン酸30〜80重量%と、硝酸0.1〜20重量%と、有機酸塩0.1〜20重量%と、水とを含有する導電性薄膜エッチング液を用意する工程と、
前記基板上に形成された前記導電性薄膜に、前記導電性薄膜エッチング液を接触させてウエットエッチングを行う工程と
を具備することを特徴としている。
【0025】
また、本発明のエッチング方法は、前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
である場合にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の導電性薄膜エッチング液は、(a)リン酸30〜80重量%と、(b)硝酸0.1〜20重量%と、(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、(d)水とを含有するエッチング液であり,このエッチング液を用いることにより、モリブデン系導電性薄膜を、適切な速度でエッチングすることが可能になり、モリブデン系導電性薄膜を、エッチング後の側面が順テーパー状となるようにエッチングして、基板上に良好な順テーパー形状を有する導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0027】
また、請求項2のように、本発明のエッチング液を、(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、(b)アルミニウム系導電性薄膜と、アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜のエッチングに用いるようにした場合、上述の2層構造および3層構造の積層導電性薄膜を効率よくエッチングして、エッチング後の側面が良好な順テーパー形状を有する積層導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0028】
また、請求項3のように、有機酸塩として、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種を用いるようにした場合、モリブデン系導電性薄膜(単層薄膜)、あるいはモリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜とを備えた積層導電性薄膜を効率よくエッチングして、良好な順テーパー形状を有する導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0029】
また、本発明のエッチング方法は、上述の本発明のエッチング液を用いて、基板上に形成された導電性薄膜をエッチングするようにしているので、モリブデン系導電性薄膜(導電性単層薄膜)、および、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜とが積層された積層導電性薄膜を、効率よくエッチングして、良好な順テーパー形状を有する導電性薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】液晶表示装置における薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)の一般的な構成図である。
【図2】本発明の実施例1において、基板上に成膜されたモリブデン系導電性薄膜をエッチングした後の、モリブデン系導電性薄膜(導電性単層薄膜)のエッチング形状を示す図であって、かつ、テーパー角を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例2において、基板上に、下層側から順にアルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜、および、モリブデン(Mo)膜を成膜することにより2層構造の積層導電性薄膜(積層導電性薄膜)を形成した状態を示す図である。
【図4】本発明の実施例2において、積層導電性薄膜上にフォトレジストを塗布した状態を示す図である。
【図5】本発明の実施例2において、フォトレジストをパターンマスクを通して露光、現像することにより、所定のフォトレジストパターンを形成した状態を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の方法でエッチングされた2層構造の積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【図7】比較例の方法でエッチングされた積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【図8】本発明の実施例3において、基板上に、第1のモリブデン膜、アルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜、および第2のモリブデン膜を備えた3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)を形成した状態を示す図である。
【図9】本発明の実施例3において、3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)上に、フォトレジストパターンを形成した状態を示す図である。
【図10】本発明の実施例3の方法でエッチングされた3層構造の積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【図11】比較例の方法でエッチングされた3層構造の積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明を実施するための形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0032】
本発明の、導電性薄膜エッチング液は、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするのに用いられるエッチング液であって、上述のように、(a)リン酸30〜80重量%と、(b)硝酸0.1〜20重量%と、(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、(d)水とを含有するエッチング液である。
【0033】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、リン酸濃度を30〜80重量%の範囲とする。
リン酸の濃度が80重量%を超えると、モリブデン膜のエッチング速度は低下するためエッチング時間が長くなり実用的ではなく好ましくない。上述のような2層構造あるいは3層構造を有する積層導電性薄膜の場合、アルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が速くなり、例えば、基板上にアルミニウム系導電性薄膜が形成され、アルミニウム系導電性薄膜上にモリブデン系導電性薄膜が形成された積層導電性薄膜をエッチングする場合において、アルミニウム系導電性薄膜が後退した状態にエッチングされてしまう結果となり、積層導電性薄膜の側面が順テーパー形状となるようなエッチングを行うことができなくなるという問題点がある。また、エッチング液の粘度が増大してエッチング操作に支障をきたしやすくなるという問題点がある。したがって、リン酸の濃度が80重量%を超えることは好ましくない。
一方、リン酸の濃度が低くなり、30重量%未満になると、モリブデン系導電性薄膜およびアルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が低下し、実用的ではなくなる。
したがって、リン酸の濃度は30〜80重量%の範囲とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、硝酸濃度を0.1〜20重量%の範囲としている。
硝酸濃度が20重量%を超えるとレジストへのダメージが大きく、0.1重量%未満になると、モリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が遅くなり好ましくない。
したがって、硝酸の濃度は0.1〜20重量%の範囲とすることが好ましい。
【0035】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液において好ましく用いられる有機酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩などが挙げられる。
【0036】
上記有機酸塩を構成する有機酸としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸などの脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸などの脂肪族ポリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの脂肪族オキシカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシイミノ二酢酸、メチルグリシン二酢酸、イミノ二コハク酸などの脂肪族ポリカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸、フタル酸、トリメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸、サリチル酸、没食子酸などの芳香族オキシカルボン酸が挙げられる。
【0037】
また、上記有機酸塩としては、具体的には、上述の有機酸のアンモニウム塩、あるいはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、モルホリンなどのアミン塩、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム水酸化物などの第四級アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0038】
より好ましい有機酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸のアンモニウム塩である、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、イソ酪酸アンモニウム、吉草酸アンモニウム、イソ吉草酸アンモニウム、トリメチル酢酸アンモニウム、カプロン酸アンモニウム、酢酸テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。これらは、入手し易く、また溶解性が良好で、取り扱いが容易である。
【0039】
また、有機酸塩は、その種類や含有量を調整することによりエッチング速度を制御することができる。また、有機酸塩を配合することにより、レジストへのダメージを低減させることが可能になるとともに、安定したテーパー形状を有する配線、電極を形成することが可能になる。
【0040】
なお、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、有機酸塩濃度を0.1〜20重量%の範囲としている。
これは、有機酸塩の濃度が20重量%を超えると、モリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が遅くなり、0.1重量%未満になると、上述の安定したテーパー形状を形成することが困難になることによる。
【0041】
さらに、本発明のエッチング組成物には、濡れ性を向上させるために界面活性剤を添加してもよく、例えば陰イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤の何れの界面活性剤を使用してもよい。具体的には、陰イオン性界面活性剤としては、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩、アルキル硫酸エステルおよびそれらの塩が好ましい。また、ポリスチレンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩としてはアンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩が挙げられる。
【0042】
また、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸およびそれらの塩が好ましい。使用される界面活性剤の濃度は0.001〜1重量%の範囲である。
【0043】
また、本発明におけるモリブデン系導電性薄膜の構成材料としては、モリブデン(Mo)、モリブデン−タングステン(Mo−W)合金、モリブデン−タンタル(Mo−Ta)合金、モリブデン−ニオブ(Mo−Nb)合金、モリブデン−ジルコニウム(Mo−Zr)合金、モリブデン−クロム(Mo−Cr)合金、などが例示される。
【0044】
また、本発明におけるアルミニウム系導電性薄膜の構成材料としては、アルミニウム(Al)、アルミニウム−ネオジウム(Al−Nd)合金、アルミニウム−ジルコニウム(Zr)合金、アルミニウム−銅(Al−Cu)合金、アルミニウム−シリコン(Al−Si)合金、アルミニウム−シリコン−銅(Al−Si−Cu)合金などが例示される。
【実施例1】
【0045】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液の調製>
表1に示すような割合で、リン酸、硝酸、有機酸塩および水を配合して、本発明の要件を備えた、本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液(実施例No.1〜9)を調製した。なお、ここでは、有機酸塩として、酢酸アンモニウムを用いた。
【0047】
また、比較のため、表2に示すような割合で、リン酸、硝酸、有機酸、および水を配合して、本発明の要件を備えていない比較例としての導電性薄膜エッチング液(比較例No.1〜9)を調製した。なお、この比較例No.1〜9の導電性薄膜エッチング液は、有機酸塩を含有せずに、有機酸(酢酸)を含有している点において本発明の導電性薄膜エッチング液の要件を欠くものである。
【0048】
上述の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液(表1の実施例No.1〜9)、および,本発明の要件を満たさない導電性薄膜エッチング液(表2の比較例No.1〜9)を使用して、以下に説明する方法により、基板上に形成された導電性薄膜のエッチングを行うとともに、以下の各項目について、測定、観察を行い、その特性を評価した。
【0049】
<導電性薄膜のエッチング速度の測定>
基板(ガラス基板)上にスパッタリング法により、導電性薄膜としてモリブデン(Mo)膜を、膜厚が400nmとなるように成膜した。
また、同様にして、基板上に導電性薄膜として、モリブデン−ニオブ合金(Mo−Nb合金)からなる導電性薄膜を、膜厚が400nmとなるように形成した。
【0050】
次に、基板上に形成された膜厚400nmの導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)上に、レジストを塗布してレジストパターンを形成した。
それから、この基板を、表1の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液、および、表2の比較例の導電性薄膜エッチング液に、40℃の温度条件下で、数分間(エッチング速度を測定することが可能な時間)、浸漬して導電性薄膜のエッチングを行った。
【0051】
エッチング終了後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、触針式膜厚計によりエッチング量を測定し、エッチング速度を求めた。
その結果を表1および2に併せて示す。
【0052】
<導電性薄膜のテーパー角の測定>
基板(ガラス基板)上にスパッタリング法により、導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)を膜厚が400nmとなるように成膜した。
そして、導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)上に、レジストを塗布し、露光、現像を行なってレジストパターンを形成した。
それから、レジストパターンの形成された基板を、表1の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液、および、表2の比較例の導電性薄膜エッチング液に、40℃の温度条件下で、エッチング速度から算出されるジャストエッチング時間の1.1倍の時間、浸漬した。
【0053】
その後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、電子顕微鏡(SEM)で導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)のエッチング状態を観察し、エッチングにより形成されたテーパー形状を有する導電性薄膜のテーパー角を測定した。
なお、ここでテーパー角は、図2に示すように、基板11上に形成された導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)12の側面12aと、導電性薄膜12が形成されている基板11の表面11aのなす角度θをいう。
上述のようにして測定したテーパー角を表1および2に併せて示す。
【0054】
<レジストダメージの観察>
基板(ガラス基板)上にスパッタリング法により、導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)を膜厚が400nmとなるように成膜した。
そして、導電性薄膜上に、レジストを塗布し、露光、現像を行なってレジストパターンを形成した。
【0055】
それから、レジストパターンの形成された基板を、表1の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液、および、表2の比較例の導電性薄膜エッチング液に、40℃の温度条件下で、エッチング速度から算出されるジャストエッチング時間の1.1倍の時間、浸漬した。
その後、水洗、乾燥を行った後、電子顕微鏡(SEM)でレジスト表面のダメージの状態を観察した。
その結果を表1および2に併せて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
なお、表1および2のレジストダメージの評価において、ダメージが認められないものを○、軽いダメージが認められたものを×として評価した。
【0059】
なお、表1の実施例No.1〜5において、導電性薄膜エッチング液を用いてエッチングを行った導電性薄膜は、モリブデン膜(単層薄膜)であり、実施例No.6〜9においてエッチング対象となった導電性薄膜は、モリブデン−ニオブ合金膜(単層薄膜)である。
【0060】
また、表2の比較例No.1〜5の導電性薄膜エッチング液を用いてエッチングを行った導電性薄膜は、モリブデン膜(単層薄膜)であり、比較例No.6〜9の導電性薄膜エッチング液を用いてエッチングを行った導電性薄膜は、モリブデン−ニオブ合金膜(単層薄膜)である。
【0061】
表1に示すように、リン酸、硝酸、有機酸塩および水を配合した、実施例1〜9のエッチング液組成物を用いて、モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜をエッチングした場合、任意のテーパー角が得られることが確認された。また、レジストダメージが全く認められず、平滑なエッチング面が得られることが確認された。
【0062】
また、実施例No.1〜9の各導電性薄膜エッチング液を用いて、モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜のエッチングを行った場合、エッチング対象となる導電性薄膜がモリブデン膜である場合およびモリブデン−ニオブ合金膜である場合のいずれにおいても、テーパー角が30°〜60°の良好な順テーパー形状が得られることが確認された。このテーパー角は目標値に近いものであり、導電性薄膜エッチング液の組成や、エッチング条件により意図するようなテーパー角を有する金属膜が得られることが確認された。
【0063】
一方、表2の比較例No.1〜9の各導電性薄膜エッチング液(有機酸(酢酸)を含有しているが、有機酸塩が配合されていない導電性薄膜エッチング液)を用いて、モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜のエッチングを行った場合、テーパー角を制御することが可能な範囲が狭く、テーパー角50°未満を実現できないことが確認された。
【0064】
具体的には、表2の比較例No.2,3,4および比較例No.7,8,9の場合には、順テーパー形状となるようなエッチングを行うことができたが、比較例No.1および6の場合、テーパー角が90°となり、比較例No.5の場合には、テーパー角が90°を超える、くさび形と呼ばれる逆テーパー形状となってしまうことが確認された。なお、エッチング形状が逆テーパー形状になると、通常、エッチングされた導電性薄膜を絶縁し、保護するためにその上に形成される絶縁層の被覆性が低下し、絶縁不良などの引き起こす原因となり、好ましくない。
さらに、比較例No.4およびNo.9の場合、レジストダメージが発生し、好ましくないことが認められた。
【実施例2】
【0065】
本発明の他の実施例(実施例2)を、図3〜6を参照しつつ、説明する。
まず、基板(ガラス基板)1上に、アルミニウム−ネオジウム合金膜(Al−Nd膜)をスパッタリングして、膜厚が200nmのアルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜21を形成する。
【0066】
それから、アルミニウム−ネオジウム合金膜21上にモリブデンをスパッタリングして、アルミニウム−ネオジウム合金膜21上に、膜厚が50nmのモリブデン膜22を形成する。
【0067】
これにより、図3に示すように、基板1上に、アルミニウム−ネオジウム合金膜21(膜厚200nm)と、モリブデン膜22(膜厚50nm)からなる2層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)23が形成される。
【0068】
次に、図4に示すように、アルミニウム−ネオジウム合金膜21、モリブデン膜22からなる積層導電性薄膜23上に、フォトレジスト24を塗布し、予め用意したパターンマスクを通して露光した後、現像し、図5に示すように、所定のフォトレジストパターン24aを形成した。
【0069】
そして、フォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
有機酸塩(酢酸アンモニウム):5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液を用い、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングし、水でリンスした後、乾燥した。
【0070】
それから、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜23上からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0071】
次に、このようにして得た基板11を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図6に示すように、良好な順テーパー形状を有する、アルミニウム−ネオジウム合金膜21と、その上に形成されたモリブデン膜22からなる2層構造の積層導電性薄膜23が得られていることが確認された。
<比較例>
【0072】
比較のため、図5に示すように、表面に、アルミニウム−ネオジウム合金膜21(膜厚200nm)と、モリブデン膜22(膜厚50nm)からなる2層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)23が形成され、その上に、所定のフォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
酢酸:5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液、すなわち、有機酸塩を含有せず、本発明の要件を満たしていない比較例としての導電性薄膜エッチング液(表2の比較例No.3および8で用いたものと同じ導電性薄膜エッチング液)を用いて、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングした。それから、水でリンスした後、乾燥した。
【0073】
次いで、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜23からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0074】
そして、得られた基板を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図7に示すように、積層導電性薄膜23を構成する上層側のモリブデン(Mo)膜22が、積層導電性薄膜23を構成する下層側のアルミニウム−ネオジウム合金膜21の端部から明らかに後退したエッチング形状となり、上記実施例2の場合のような、図6に示した良好な順テーパー形状を有する積層導電性薄膜は得られないことが確認された。
【実施例3】
【0075】
本発明のさらに他の実施例(実施例3)について説明する。
まず、図8に示すように、基板(ガラス基板)11上に、モリブデンをスパッタリングして、膜厚が50nmの第1のモリブデン膜31を形成する。
【0076】
それから、第1のモリブデン膜31上に、アルミニウム−ネオジウム合金膜(Al−Nd膜)をスパッタリングして、膜厚が200nmのアルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜32を形成する。
【0077】
次に、アルミニウム−ネオジウム合金膜32上にモリブデンをスパッタリングして、アルミニウム−ネオジウム合金膜32上に、膜厚が50nmの第2のモリブデン膜33を形成する。
【0078】
これにより、図8に示すように、第1のモリブデン膜31(膜厚50nm)と、アルミニウム−ネオジウム合金膜32(膜厚200nm)と、第2のモリブデン膜33(膜厚50nm)とからなる3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)34が形成される。
【0079】
次に、図9に示すように、積層導電性薄膜34上に、フォトレジスト24を塗布し、予め用意したパターンマスクを通して露光した後、現像することにより、所定のフォトレジストパターン24aを形成した。
【0080】
それから、フォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
有機酸塩(酢酸アンモニウム):5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液を用い、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングし、水でリンスした後、乾燥した。
【0081】
それから、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜34上からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0082】
次に、このようにして得た基板11を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図10に示すように、良好な順テーパー形状を有する、3層構造の積層導電性薄膜(第1のモリブデン膜31と、アルミニウム−ネオジウム合金膜32と、第2のモリブデン膜33とからなる積層導電性薄膜)23が得られることが確認された。
【0083】
<比較例>
比較のため、図9に示すように、表面に、第1のモリブデン膜31と、アルミニウム−ネオジウム合金膜32(膜厚200nm)と、第2のモリブデン膜33(膜厚50nm)とからなる3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)34が形成され、その上に、所定のフォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
酢酸:5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液、すなわち、有機酸塩を含有せず、本発明の要件を満たしていない比較例としての導電性薄膜エッチング液(表2の比較例No.3および8で用いたものと同じ導電性薄膜エッチング液)を用いて、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングした。それから、水でリンスした後、乾燥した。
【0084】
次いで、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜34からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0085】
そして、得られた基板を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図11に示すように、積層導電性薄膜34を構成する第1のモリブデン膜31および第2のモリブデン膜33が、両者の中間に位置するアルミニウム−ネオジウム合金膜32の端部から明らかに後退したエッチング形状となり、上記実施例3の場合のような、図10に示した良好な順テーパー形状を有する積層導電性薄膜は得られないことが確認された。
【0086】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、導電性薄膜の具体的な構成、導電性薄膜が積層導電性薄膜である場合における積層導電性薄膜を構成する各膜の種類や膜厚、具体的なエッチング条件、エッチング液の具体的な組成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上述のように、本発明によれば、基板上に形成されたモリブデン系導電性薄膜(単層薄膜)、あるいはモリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜とを備えた積層導電性薄膜を、一回のエッチング操作で効率よくエッチングして、アンダーカットやサイドエッチングの発生を防止しつつ、良好な順テーパー形状の断面が形成されるようなエッチングを行うことが可能になる。
したがって、本発明は、半導体装置や液晶表示装置などの電極配線の形成技術などに関する分野に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
11 基板
11a 基板の表面
12 導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)
12a 導電性薄膜の側面
θ テーパー角
21 アルミニウム−ネオジウム合金膜
22 モリブデン膜
23 2層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)
24 フォトレジスト
24a フォトレジストパターン
31 第1のモリブデン膜
32 アルミニウム−ネオジウム合金膜
33 第2のモリブデン膜
34 3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置や有機発光表示装置などに使用される配線や電極のエッチング液およびそれを用いたエッチング方法に関し、さらに詳しくはモリブデンを主成分とする導電性薄膜(導電性単層薄膜)、あるいはモリブデンを主成分とする導電性薄膜とアルミニウムを主成分とする導電性薄膜を備えた積層導電性薄膜のエッチング液およびそれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く用いられている液晶表示装置における薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)は、一般的には、図1に示すように、
(1)ガラス基板1上にゲート電極2を形成し、
(2)ゲート電極2上にゲート絶縁膜(SiNx膜)3、半導体層としてのa−Si活性層4、コンタクトをとるための不純物半導体膜としてのn+a−Siコンタクト層5、エッチング保護膜6などを形成し、
(3)さらに、n+a−Siコンタクト層5の上にソース電極7、ドレイン電極8を形成するとともに、
(4)ソース電極7、ドレイン電極8の上にパッシベーション膜としてのSiNx9を形成し、
(5)さらにその上に、ドレイン電極8とコンタクトホールを介して接触している画素電極10として、透明導電膜であるITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)が形成された構成とされている。
【0003】
また、上記薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)において、ゲート電極2、ソース電極7、ドレイン電極8としては、低抵抗で安価なアルミニウムを主成分とする導電性薄膜が多用されている。
【0004】
このアルミニウムを主成分とする導電性薄膜に関しては、画素電極である透明導電膜(ITO:インジウム錫酸化物)と直接接触する場合、接触抵抗が増加したり、あるいはアルミニウムが絶縁膜層内に容易に拡散したりするなどの問題点を有している。
上記の問題点を解決するために電気的に接続する際のバリアメタルとなる高融点金属材料を、アルミニウムを主成分とする導電性薄膜層の片面あるいは両面に積層した2層構造または3層構造の積層膜が用いられている。また、アルミニウムを主成分とする単層薄膜を、モリブデンを主成分とする単層薄膜に代える場合もある。
【0005】
前記高融点金属材料としては、チタン、窒化チタン合金などのチタン合金、モリブデン、モリブデン−タングステン合金、モリブデン−タンタル合金、モリブデン−ニオブ合金、モリブデン−ジルコニウム合金、モリブデン−クロム合金などのモリブデン合金などが使用される。
【0006】
上記高融点金属材料の中で、チタン系高融点金属は通常、アルミニウムまたはモリブデン系の金属薄膜をエッチングする際に用いられるエッチング液には全くエッチングされないために、四フッ化炭素(CF4)や三塩化ホウ素(BCl3)などのエッチングガスを用いてドライエッチングすることにより加工し、パターニングを行っている。しかしながら、ドライエッチングは加工性に優れているが、エッチング装置が高価で、生産性が低いという問題点を有している。
【0007】
一方、モリブデン系の高融点金属材料を使用した場合は、モリブデン導電性薄膜(単層薄膜)やアルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜との積層膜が広く用いられている。そこで、ゲート電極2、ソース電極7、ドレイン電極8などとして用いられるモリブデン導電性薄膜(単層薄膜)やアルミニウムを主成分とする導電性薄膜とモリブデンを主成分とする導電性薄膜との積層膜は、各々の上層に形成される絶縁層や半導体層との段差被覆性(ステップカバレッジ)を確保するため、その断面形状は順テーパー状に加工する必要がある。
【0008】
従来、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜が積層された積層膜をエッチングするためのエッチング方法やエッチング液に関し、以下のような技術が開示されている。
【0009】
特許文献1には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性薄膜(アルミニウム系導電性薄膜)とモリブデンまたはモリブデン合金からなる導電性薄膜(モリブデン系導電性薄膜)を積層した積層膜をリン酸、硝酸、および酢酸を混合した混酸でエチングを行う場合において、積層膜を構成するアルミニウム形導電膜とモリブデン系導電膜の膜厚比を制御する方法が開示されているが、上述の従来技術の問題点を根本的に解決するには至っていない。
【0010】
また、特許文献2には、リン酸、硝酸、および酢酸の混合液であるエッチング液を用いてアルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜の積層膜を一括的にエッチングする技術が開示されているが、リン酸、硝酸、および酢酸の好適な濃度組成の範囲が狭く、かつ、エッチング後の積層膜の端面形状が必ずしも順テーパー状にならず、好ましくないという問題点がある。
【0011】
また、特許文献3には、リン酸、硝酸、および酢酸との混合液にフッ化水素酸、あるいはフッ化アンモニウムを添加したエッチング液を用い、また、特許文献4には、リン酸、硝酸、および酢酸の混合液にフッ素系酸と塩素系酸の少なくとも一方と水とを含むエッチング液を用いて、アルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜の積層膜のエッチングを行う方法が開示されている。しかしながら、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムを添加した該エッチング液は、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムの添加量が微量であってもモリブデン系薄膜のエッチング速度が著しく上昇し、特にアルミニウム系薄膜の上下にモリブデン系薄膜を積層した積層膜を、上記のフッ化水素酸、フッ化アンモニウムを添加したエッチング液を用いてエッチングを行った場合、上層部のモリブデン系薄膜のエッチング速度が大きくなり、階段状のエッチングプロファイルとなるため、好ましくない。
【0012】
特許文献5には、リン酸および硝酸に有機酸を配合したエッチング液、および有機酸が酢酸またはアルキルスルホン酸であるエッチング液を用いてアルミニウム系薄膜とモリブデン・ニオブ合金薄膜とを備えた積層膜のエッチングを行うことが開示されているが、モリブデン合金薄膜がモリブデン単層薄膜あるいは他のモリブデン合金薄膜についてはなんら言及されておらず、そのような場合に応用することができないのが実情である。
【0013】
また、特許文献6には、リン酸、硝酸、有機酸およびカチオン成分を含有する水溶液からなるエッチング液を用いてアルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜の積層膜のエッチングを行うことが開示されているが、カチオン生成成分を添加することによりアルミニウム系薄膜とモリブデン系薄膜のエッチング速度が遅くなり、実用上問題点が多い。
【0014】
また、モリブデン系単層薄膜をウエットエッチングするのに使用するエッチング液としては、以下のような技術が開示されている。
特許文献7には、過酸化水素を含有するエッチング液が開示されている。該エッチング液は過酸化水素を含有しており、エッチング後に有機アルカリで処理することが必要になる。これは過酸化水素との接触によって生じたモリブデン酸化膜の一部がモリブデンに比べて過酸化水素に溶けにくく、モリブデン酸化膜がエッチングできずに残ってしまうため、有機アルカリ水溶液を含む水溶液で処理することにより効果的にエッチングを行うことが可能になることによる。しかしながら、特許文献7に記載のエッチング方法は2種類のエッチング液を使用しなければならず煩雑であるという問題点があり、また、有機アルカリ水溶液を用いるため、マスクとして使用するレジストが溶解しやすいなどの問題点もある。
【0015】
特許文献8には、過酸化水素を含有するエッチング液でエッチングを行った後、さらに臭化水素酸または塩酸を含有する水溶液で表面のモリブデン酸化膜を除去することにより、円滑なエッチングを行うようにしたパターン形成方法(エッチング方法)が開示されている。しかしながら、この技術も特許文献7の技術と同様に、モリブデンの酸化によりモリブデン酸化膜が生成し、このモリブデン酸化膜を除去するために臭化水素酸または塩酸水溶液でエッチングしなければならず、煩雑な工程を必要とする。
【0016】
特許文献9および10には、リン酸、硝酸、酢酸を混合したエッチング液を用いてエッチングを行った後、硝酸、塩酸を含む水溶液で処理する方法が開示されている。しかしながら、上記のリン酸、硝酸、酢酸を混合したエッチング液のみでエッチングを行うと、モリブデンの表面に存在するモリブデン酸化膜とその下の純モリブデン膜との間にエッチング速度の差があるために、エッチング後のモリブデン断面の形状が、くさび型と呼ばれる逆テーパーの形状になってしまい、後工程でモリブデン膜の上に成膜される絶縁膜のカバレッジ性(段差被覆性)が悪化し、断線などの不良を起こす原因になるという問題点を有している。この方法の場合にも、リン酸、硝酸、酢酸を混合したエッチング液でエッチングを行った後に、硝酸、塩酸を含有する水溶液でエッチングを行うことにより、モリブデン酸化膜を除去し、滑らかなエッチング形状を得ることが可能である。しかしながら、該技術も2段階のエッチング処理を行わなければならず煩雑な工程が必要になるという問題点がある。
【0017】
上述の各従来技術においては、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜との積層導電性薄膜、およびモリブデン単層薄膜のエッチングに関し、エッチング後の形状として,必ずしも良好な順テーパー形状が得られない場合があり、また煩雑な工程を必要とするなどの問題点を有している。さらには、絶縁膜を成膜した場合のカバレッジ性(段差被覆性)、およびマスクとして使用するレジストへのダメージなどについて、解決すべき問題点があるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平6−104241号公報
【特許文献2】特開2001−77098号公報
【特許文献3】特開2001−311954号公報
【特許文献4】特開2005−163070号公報
【特許文献5】特開2005−85811号公報
【特許文献6】国際公開第2003/036707号パンフレット
【特許文献7】特開2003−193272号公報
【特許文献8】特開平10−107015号公報
【特許文献9】特開2001−44166号公報
【特許文献10】特開2002−9061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、基板上に形成されたモリブデン系導電性薄膜を、アンダーカットやサイドエッチングなどの発生を抑制しつつ、側面が良好な順テーパー形状となるようなエッチングを行うことが可能で、微細な配線形状を精度よく形成することが可能なエッチング方法、さらには、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜とを備えた積層導電性薄膜を、効率よくエッチングすることが可能なエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前述した課題を解決するために、鋭意検討を行い、(a)リン酸、(b)硝酸、(c)有機酸塩、および(d)水を含有するエッチング液を用いることにより、上述のような、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜(すなわち、モリブデン系導電性単層薄膜や、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜との積層導電性薄膜)を順テーパー形状の側面が形成されるようにエッチングすることができることを見出し、さらに検討を行って本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明(請求項1)の導電性薄膜エッチング液は、
基板上に形成された、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング液であって、
(a)リン酸30〜80重量%と、
(b)硝酸0.1〜20重量%と、
(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、
(d)水と
を含有することを特徴としている。
【0022】
本発明の導電性薄膜エッチング液は、エッチングすべき前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
である場合にも好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、前記エッチング液組成物を構成する有機酸塩が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
また、本発明のエッチング方法は、
基板上に形成された導電性薄膜であって、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング方法であって、 リン酸30〜80重量%と、硝酸0.1〜20重量%と、有機酸塩0.1〜20重量%と、水とを含有する導電性薄膜エッチング液を用意する工程と、
前記基板上に形成された前記導電性薄膜に、前記導電性薄膜エッチング液を接触させてウエットエッチングを行う工程と
を具備することを特徴としている。
【0025】
また、本発明のエッチング方法は、前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
である場合にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の導電性薄膜エッチング液は、(a)リン酸30〜80重量%と、(b)硝酸0.1〜20重量%と、(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、(d)水とを含有するエッチング液であり,このエッチング液を用いることにより、モリブデン系導電性薄膜を、適切な速度でエッチングすることが可能になり、モリブデン系導電性薄膜を、エッチング後の側面が順テーパー状となるようにエッチングして、基板上に良好な順テーパー形状を有する導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0027】
また、請求項2のように、本発明のエッチング液を、(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、(b)アルミニウム系導電性薄膜と、アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜のエッチングに用いるようにした場合、上述の2層構造および3層構造の積層導電性薄膜を効率よくエッチングして、エッチング後の側面が良好な順テーパー形状を有する積層導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0028】
また、請求項3のように、有機酸塩として、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種を用いるようにした場合、モリブデン系導電性薄膜(単層薄膜)、あるいはモリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜とを備えた積層導電性薄膜を効率よくエッチングして、良好な順テーパー形状を有する導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0029】
また、本発明のエッチング方法は、上述の本発明のエッチング液を用いて、基板上に形成された導電性薄膜をエッチングするようにしているので、モリブデン系導電性薄膜(導電性単層薄膜)、および、アルミニウム系導電性薄膜とモリブデン系導電性薄膜とが積層された積層導電性薄膜を、効率よくエッチングして、良好な順テーパー形状を有する導電性薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】液晶表示装置における薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)の一般的な構成図である。
【図2】本発明の実施例1において、基板上に成膜されたモリブデン系導電性薄膜をエッチングした後の、モリブデン系導電性薄膜(導電性単層薄膜)のエッチング形状を示す図であって、かつ、テーパー角を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例2において、基板上に、下層側から順にアルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜、および、モリブデン(Mo)膜を成膜することにより2層構造の積層導電性薄膜(積層導電性薄膜)を形成した状態を示す図である。
【図4】本発明の実施例2において、積層導電性薄膜上にフォトレジストを塗布した状態を示す図である。
【図5】本発明の実施例2において、フォトレジストをパターンマスクを通して露光、現像することにより、所定のフォトレジストパターンを形成した状態を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の方法でエッチングされた2層構造の積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【図7】比較例の方法でエッチングされた積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【図8】本発明の実施例3において、基板上に、第1のモリブデン膜、アルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜、および第2のモリブデン膜を備えた3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)を形成した状態を示す図である。
【図9】本発明の実施例3において、3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)上に、フォトレジストパターンを形成した状態を示す図である。
【図10】本発明の実施例3の方法でエッチングされた3層構造の積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【図11】比較例の方法でエッチングされた3層構造の積層導電性薄膜の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明を実施するための形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0032】
本発明の、導電性薄膜エッチング液は、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするのに用いられるエッチング液であって、上述のように、(a)リン酸30〜80重量%と、(b)硝酸0.1〜20重量%と、(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、(d)水とを含有するエッチング液である。
【0033】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、リン酸濃度を30〜80重量%の範囲とする。
リン酸の濃度が80重量%を超えると、モリブデン膜のエッチング速度は低下するためエッチング時間が長くなり実用的ではなく好ましくない。上述のような2層構造あるいは3層構造を有する積層導電性薄膜の場合、アルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が速くなり、例えば、基板上にアルミニウム系導電性薄膜が形成され、アルミニウム系導電性薄膜上にモリブデン系導電性薄膜が形成された積層導電性薄膜をエッチングする場合において、アルミニウム系導電性薄膜が後退した状態にエッチングされてしまう結果となり、積層導電性薄膜の側面が順テーパー形状となるようなエッチングを行うことができなくなるという問題点がある。また、エッチング液の粘度が増大してエッチング操作に支障をきたしやすくなるという問題点がある。したがって、リン酸の濃度が80重量%を超えることは好ましくない。
一方、リン酸の濃度が低くなり、30重量%未満になると、モリブデン系導電性薄膜およびアルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が低下し、実用的ではなくなる。
したがって、リン酸の濃度は30〜80重量%の範囲とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、硝酸濃度を0.1〜20重量%の範囲としている。
硝酸濃度が20重量%を超えるとレジストへのダメージが大きく、0.1重量%未満になると、モリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が遅くなり好ましくない。
したがって、硝酸の濃度は0.1〜20重量%の範囲とすることが好ましい。
【0035】
また、本発明の導電性薄膜エッチング液において好ましく用いられる有機酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩などが挙げられる。
【0036】
上記有機酸塩を構成する有機酸としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸などの脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸などの脂肪族ポリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの脂肪族オキシカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシイミノ二酢酸、メチルグリシン二酢酸、イミノ二コハク酸などの脂肪族ポリカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸、フタル酸、トリメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸、サリチル酸、没食子酸などの芳香族オキシカルボン酸が挙げられる。
【0037】
また、上記有機酸塩としては、具体的には、上述の有機酸のアンモニウム塩、あるいはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、モルホリンなどのアミン塩、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム水酸化物などの第四級アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0038】
より好ましい有機酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸のアンモニウム塩である、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、イソ酪酸アンモニウム、吉草酸アンモニウム、イソ吉草酸アンモニウム、トリメチル酢酸アンモニウム、カプロン酸アンモニウム、酢酸テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。これらは、入手し易く、また溶解性が良好で、取り扱いが容易である。
【0039】
また、有機酸塩は、その種類や含有量を調整することによりエッチング速度を制御することができる。また、有機酸塩を配合することにより、レジストへのダメージを低減させることが可能になるとともに、安定したテーパー形状を有する配線、電極を形成することが可能になる。
【0040】
なお、本発明の導電性薄膜エッチング液においては、有機酸塩濃度を0.1〜20重量%の範囲としている。
これは、有機酸塩の濃度が20重量%を超えると、モリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜のエッチング速度が遅くなり、0.1重量%未満になると、上述の安定したテーパー形状を形成することが困難になることによる。
【0041】
さらに、本発明のエッチング組成物には、濡れ性を向上させるために界面活性剤を添加してもよく、例えば陰イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤の何れの界面活性剤を使用してもよい。具体的には、陰イオン性界面活性剤としては、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩、アルキル硫酸エステルおよびそれらの塩が好ましい。また、ポリスチレンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩としてはアンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩が挙げられる。
【0042】
また、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸およびそれらの塩が好ましい。使用される界面活性剤の濃度は0.001〜1重量%の範囲である。
【0043】
また、本発明におけるモリブデン系導電性薄膜の構成材料としては、モリブデン(Mo)、モリブデン−タングステン(Mo−W)合金、モリブデン−タンタル(Mo−Ta)合金、モリブデン−ニオブ(Mo−Nb)合金、モリブデン−ジルコニウム(Mo−Zr)合金、モリブデン−クロム(Mo−Cr)合金、などが例示される。
【0044】
また、本発明におけるアルミニウム系導電性薄膜の構成材料としては、アルミニウム(Al)、アルミニウム−ネオジウム(Al−Nd)合金、アルミニウム−ジルコニウム(Zr)合金、アルミニウム−銅(Al−Cu)合金、アルミニウム−シリコン(Al−Si)合金、アルミニウム−シリコン−銅(Al−Si−Cu)合金などが例示される。
【実施例1】
【0045】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液の調製>
表1に示すような割合で、リン酸、硝酸、有機酸塩および水を配合して、本発明の要件を備えた、本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液(実施例No.1〜9)を調製した。なお、ここでは、有機酸塩として、酢酸アンモニウムを用いた。
【0047】
また、比較のため、表2に示すような割合で、リン酸、硝酸、有機酸、および水を配合して、本発明の要件を備えていない比較例としての導電性薄膜エッチング液(比較例No.1〜9)を調製した。なお、この比較例No.1〜9の導電性薄膜エッチング液は、有機酸塩を含有せずに、有機酸(酢酸)を含有している点において本発明の導電性薄膜エッチング液の要件を欠くものである。
【0048】
上述の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液(表1の実施例No.1〜9)、および,本発明の要件を満たさない導電性薄膜エッチング液(表2の比較例No.1〜9)を使用して、以下に説明する方法により、基板上に形成された導電性薄膜のエッチングを行うとともに、以下の各項目について、測定、観察を行い、その特性を評価した。
【0049】
<導電性薄膜のエッチング速度の測定>
基板(ガラス基板)上にスパッタリング法により、導電性薄膜としてモリブデン(Mo)膜を、膜厚が400nmとなるように成膜した。
また、同様にして、基板上に導電性薄膜として、モリブデン−ニオブ合金(Mo−Nb合金)からなる導電性薄膜を、膜厚が400nmとなるように形成した。
【0050】
次に、基板上に形成された膜厚400nmの導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)上に、レジストを塗布してレジストパターンを形成した。
それから、この基板を、表1の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液、および、表2の比較例の導電性薄膜エッチング液に、40℃の温度条件下で、数分間(エッチング速度を測定することが可能な時間)、浸漬して導電性薄膜のエッチングを行った。
【0051】
エッチング終了後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、触針式膜厚計によりエッチング量を測定し、エッチング速度を求めた。
その結果を表1および2に併せて示す。
【0052】
<導電性薄膜のテーパー角の測定>
基板(ガラス基板)上にスパッタリング法により、導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)を膜厚が400nmとなるように成膜した。
そして、導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)上に、レジストを塗布し、露光、現像を行なってレジストパターンを形成した。
それから、レジストパターンの形成された基板を、表1の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液、および、表2の比較例の導電性薄膜エッチング液に、40℃の温度条件下で、エッチング速度から算出されるジャストエッチング時間の1.1倍の時間、浸漬した。
【0053】
その後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、電子顕微鏡(SEM)で導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)のエッチング状態を観察し、エッチングにより形成されたテーパー形状を有する導電性薄膜のテーパー角を測定した。
なお、ここでテーパー角は、図2に示すように、基板11上に形成された導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)12の側面12aと、導電性薄膜12が形成されている基板11の表面11aのなす角度θをいう。
上述のようにして測定したテーパー角を表1および2に併せて示す。
【0054】
<レジストダメージの観察>
基板(ガラス基板)上にスパッタリング法により、導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)を膜厚が400nmとなるように成膜した。
そして、導電性薄膜上に、レジストを塗布し、露光、現像を行なってレジストパターンを形成した。
【0055】
それから、レジストパターンの形成された基板を、表1の本発明の実施例にかかる導電性薄膜エッチング液、および、表2の比較例の導電性薄膜エッチング液に、40℃の温度条件下で、エッチング速度から算出されるジャストエッチング時間の1.1倍の時間、浸漬した。
その後、水洗、乾燥を行った後、電子顕微鏡(SEM)でレジスト表面のダメージの状態を観察した。
その結果を表1および2に併せて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
なお、表1および2のレジストダメージの評価において、ダメージが認められないものを○、軽いダメージが認められたものを×として評価した。
【0059】
なお、表1の実施例No.1〜5において、導電性薄膜エッチング液を用いてエッチングを行った導電性薄膜は、モリブデン膜(単層薄膜)であり、実施例No.6〜9においてエッチング対象となった導電性薄膜は、モリブデン−ニオブ合金膜(単層薄膜)である。
【0060】
また、表2の比較例No.1〜5の導電性薄膜エッチング液を用いてエッチングを行った導電性薄膜は、モリブデン膜(単層薄膜)であり、比較例No.6〜9の導電性薄膜エッチング液を用いてエッチングを行った導電性薄膜は、モリブデン−ニオブ合金膜(単層薄膜)である。
【0061】
表1に示すように、リン酸、硝酸、有機酸塩および水を配合した、実施例1〜9のエッチング液組成物を用いて、モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜をエッチングした場合、任意のテーパー角が得られることが確認された。また、レジストダメージが全く認められず、平滑なエッチング面が得られることが確認された。
【0062】
また、実施例No.1〜9の各導電性薄膜エッチング液を用いて、モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜のエッチングを行った場合、エッチング対象となる導電性薄膜がモリブデン膜である場合およびモリブデン−ニオブ合金膜である場合のいずれにおいても、テーパー角が30°〜60°の良好な順テーパー形状が得られることが確認された。このテーパー角は目標値に近いものであり、導電性薄膜エッチング液の組成や、エッチング条件により意図するようなテーパー角を有する金属膜が得られることが確認された。
【0063】
一方、表2の比較例No.1〜9の各導電性薄膜エッチング液(有機酸(酢酸)を含有しているが、有機酸塩が配合されていない導電性薄膜エッチング液)を用いて、モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜のエッチングを行った場合、テーパー角を制御することが可能な範囲が狭く、テーパー角50°未満を実現できないことが確認された。
【0064】
具体的には、表2の比較例No.2,3,4および比較例No.7,8,9の場合には、順テーパー形状となるようなエッチングを行うことができたが、比較例No.1および6の場合、テーパー角が90°となり、比較例No.5の場合には、テーパー角が90°を超える、くさび形と呼ばれる逆テーパー形状となってしまうことが確認された。なお、エッチング形状が逆テーパー形状になると、通常、エッチングされた導電性薄膜を絶縁し、保護するためにその上に形成される絶縁層の被覆性が低下し、絶縁不良などの引き起こす原因となり、好ましくない。
さらに、比較例No.4およびNo.9の場合、レジストダメージが発生し、好ましくないことが認められた。
【実施例2】
【0065】
本発明の他の実施例(実施例2)を、図3〜6を参照しつつ、説明する。
まず、基板(ガラス基板)1上に、アルミニウム−ネオジウム合金膜(Al−Nd膜)をスパッタリングして、膜厚が200nmのアルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜21を形成する。
【0066】
それから、アルミニウム−ネオジウム合金膜21上にモリブデンをスパッタリングして、アルミニウム−ネオジウム合金膜21上に、膜厚が50nmのモリブデン膜22を形成する。
【0067】
これにより、図3に示すように、基板1上に、アルミニウム−ネオジウム合金膜21(膜厚200nm)と、モリブデン膜22(膜厚50nm)からなる2層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)23が形成される。
【0068】
次に、図4に示すように、アルミニウム−ネオジウム合金膜21、モリブデン膜22からなる積層導電性薄膜23上に、フォトレジスト24を塗布し、予め用意したパターンマスクを通して露光した後、現像し、図5に示すように、所定のフォトレジストパターン24aを形成した。
【0069】
そして、フォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
有機酸塩(酢酸アンモニウム):5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液を用い、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングし、水でリンスした後、乾燥した。
【0070】
それから、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜23上からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0071】
次に、このようにして得た基板11を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図6に示すように、良好な順テーパー形状を有する、アルミニウム−ネオジウム合金膜21と、その上に形成されたモリブデン膜22からなる2層構造の積層導電性薄膜23が得られていることが確認された。
<比較例>
【0072】
比較のため、図5に示すように、表面に、アルミニウム−ネオジウム合金膜21(膜厚200nm)と、モリブデン膜22(膜厚50nm)からなる2層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)23が形成され、その上に、所定のフォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
酢酸:5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液、すなわち、有機酸塩を含有せず、本発明の要件を満たしていない比較例としての導電性薄膜エッチング液(表2の比較例No.3および8で用いたものと同じ導電性薄膜エッチング液)を用いて、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングした。それから、水でリンスした後、乾燥した。
【0073】
次いで、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜23からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0074】
そして、得られた基板を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図7に示すように、積層導電性薄膜23を構成する上層側のモリブデン(Mo)膜22が、積層導電性薄膜23を構成する下層側のアルミニウム−ネオジウム合金膜21の端部から明らかに後退したエッチング形状となり、上記実施例2の場合のような、図6に示した良好な順テーパー形状を有する積層導電性薄膜は得られないことが確認された。
【実施例3】
【0075】
本発明のさらに他の実施例(実施例3)について説明する。
まず、図8に示すように、基板(ガラス基板)11上に、モリブデンをスパッタリングして、膜厚が50nmの第1のモリブデン膜31を形成する。
【0076】
それから、第1のモリブデン膜31上に、アルミニウム−ネオジウム合金膜(Al−Nd膜)をスパッタリングして、膜厚が200nmのアルミニウム−ネオジウム合金(Al−Nd)膜32を形成する。
【0077】
次に、アルミニウム−ネオジウム合金膜32上にモリブデンをスパッタリングして、アルミニウム−ネオジウム合金膜32上に、膜厚が50nmの第2のモリブデン膜33を形成する。
【0078】
これにより、図8に示すように、第1のモリブデン膜31(膜厚50nm)と、アルミニウム−ネオジウム合金膜32(膜厚200nm)と、第2のモリブデン膜33(膜厚50nm)とからなる3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)34が形成される。
【0079】
次に、図9に示すように、積層導電性薄膜34上に、フォトレジスト24を塗布し、予め用意したパターンマスクを通して露光した後、現像することにより、所定のフォトレジストパターン24aを形成した。
【0080】
それから、フォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
有機酸塩(酢酸アンモニウム):5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液を用い、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングし、水でリンスした後、乾燥した。
【0081】
それから、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜34上からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0082】
次に、このようにして得た基板11を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図10に示すように、良好な順テーパー形状を有する、3層構造の積層導電性薄膜(第1のモリブデン膜31と、アルミニウム−ネオジウム合金膜32と、第2のモリブデン膜33とからなる積層導電性薄膜)23が得られることが確認された。
【0083】
<比較例>
比較のため、図9に示すように、表面に、第1のモリブデン膜31と、アルミニウム−ネオジウム合金膜32(膜厚200nm)と、第2のモリブデン膜33(膜厚50nm)とからなる3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)34が形成され、その上に、所定のフォトレジストパターン24aが形成された基板11を、
リン酸:70重量%
硝酸:5重量%
酢酸:5重量%
水:20重量%
の組成のエッチング液、すなわち、有機酸塩を含有せず、本発明の要件を満たしていない比較例としての導電性薄膜エッチング液(表2の比較例No.3および8で用いたものと同じ導電性薄膜エッチング液)を用いて、40℃の温度条件下で、ジャストエッチングになるまでエッチングした。それから、水でリンスした後、乾燥した。
【0084】
次いで、アミン系レジスト剥離液を用いて、積層導電性薄膜34からフォトレジストパターン24aを剥離、除去した。
【0085】
そして、得られた基板を、電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、図11に示すように、積層導電性薄膜34を構成する第1のモリブデン膜31および第2のモリブデン膜33が、両者の中間に位置するアルミニウム−ネオジウム合金膜32の端部から明らかに後退したエッチング形状となり、上記実施例3の場合のような、図10に示した良好な順テーパー形状を有する積層導電性薄膜は得られないことが確認された。
【0086】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、導電性薄膜の具体的な構成、導電性薄膜が積層導電性薄膜である場合における積層導電性薄膜を構成する各膜の種類や膜厚、具体的なエッチング条件、エッチング液の具体的な組成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上述のように、本発明によれば、基板上に形成されたモリブデン系導電性薄膜(単層薄膜)、あるいはモリブデン系導電性薄膜とアルミニウム系導電性薄膜とを備えた積層導電性薄膜を、一回のエッチング操作で効率よくエッチングして、アンダーカットやサイドエッチングの発生を防止しつつ、良好な順テーパー形状の断面が形成されるようなエッチングを行うことが可能になる。
したがって、本発明は、半導体装置や液晶表示装置などの電極配線の形成技術などに関する分野に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
11 基板
11a 基板の表面
12 導電性薄膜(モリブデン膜またはモリブデン−ニオブ合金膜)
12a 導電性薄膜の側面
θ テーパー角
21 アルミニウム−ネオジウム合金膜
22 モリブデン膜
23 2層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)
24 フォトレジスト
24a フォトレジストパターン
31 第1のモリブデン膜
32 アルミニウム−ネオジウム合金膜
33 第2のモリブデン膜
34 3層構造の導電性薄膜(積層導電性薄膜)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング液であって、
(a)リン酸30〜80重量%と、
(b)硝酸0.1〜20重量%と、
(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、
(d)水と
を含有することを特徴とする導電性薄膜エッチング液。
【請求項2】
前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
であることを特徴とする、請求項1記載の導電性薄膜エッチング液。
【請求項3】
前記エッチング液組成物を構成する有機酸塩が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2記載の導電性薄膜エッチング液。
【請求項4】
基板上に形成された、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング方法であって、
リン酸30〜80重量%と、硝酸0.1〜20重量%と、有機酸塩0.1〜20重量%と、水とを含有する導電性薄膜エッチング液を用意する工程と、
前記基板上に形成された前記導電性薄膜に、前記導電性薄膜エッチング液を接触させてウエットエッチングを行う工程と
を具備することを特徴とするエッチング方法。
【請求項5】
前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
であることを特徴とする、請求項4記載の導電性薄膜エッチング方法。
【請求項1】
基板上に形成された、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング液であって、
(a)リン酸30〜80重量%と、
(b)硝酸0.1〜20重量%と、
(c)有機酸塩0.1〜20重量%と、
(d)水と
を含有することを特徴とする導電性薄膜エッチング液。
【請求項2】
前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
であることを特徴とする、請求項1記載の導電性薄膜エッチング液。
【請求項3】
前記エッチング液組成物を構成する有機酸塩が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族アミノポリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2記載の導電性薄膜エッチング液。
【請求項4】
基板上に形成された、少なくともモリブデン系導電性薄膜を含む導電性薄膜をエッチングするために用いられるエッチング方法であって、
リン酸30〜80重量%と、硝酸0.1〜20重量%と、有機酸塩0.1〜20重量%と、水とを含有する導電性薄膜エッチング液を用意する工程と、
前記基板上に形成された前記導電性薄膜に、前記導電性薄膜エッチング液を接触させてウエットエッチングを行う工程と
を具備することを特徴とするエッチング方法。
【請求項5】
前記導電性薄膜が、
(a)アルミニウム系導電性薄膜と、モリブデン系導電性薄膜とを備えてなる2層構造の積層導電性薄膜、または、
(b)アルミニウム系導電性薄膜と、前記アルミニウム系導電性薄膜を挟み込むようにその両主面側に配設された第1のモリブデン系導電性薄膜および第2のモリブデン系導電性薄膜を備えてなる3層構造の積層導電性薄膜
であることを特徴とする、請求項4記載の導電性薄膜エッチング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−124192(P2012−124192A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271125(P2010−271125)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(596151168)林純薬工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(596151168)林純薬工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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