説明

車両用走行制御装置

【課題】燃費性能を向上させること。
【解決手段】動力源としてのエンジン10と当該エンジン10の動力を駆動輪WL,WRに伝える動力伝達装置とを備えた車両の走行状態を制御する車両用走行制御装置において、自車の所定距離先までの間の走行路の勾配を把握し、その所定距離先でも自車が加速を続ける可能性のあるときに、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が可能な状態のまま当該エンジン10への燃料の供給量を減少させ又は当該燃料の供給を停止させた惰性走行を行い、自車が前記所定距離先を超えるまでに減速し始める可能性のあるときに、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が断たれるように動力伝達装置の動力断接部(ロックアップクラッチ35と入力クラッチC1の内の少なくとも1つ)を制御して前記惰性走行を行うこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行時の燃費性能を高めることが可能な車両用走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行時の燃費性能を高める為の技術として、エンジンへの燃料の供給を停止(フューエルカット)して惰性で走行させるというものが知られている。例えば、この種の技術は、下記の特許文献1及び2に開示されている。その特許文献1の技術では、その惰性走行を降坂路で行っているときに運転者から加速要求が為されたならば、変速機を高速側へとアップシフトすることによって、フューエルカットを実施したままで加速感を運転者に与えている。また、特許文献2には、減速時に伴いフューエルカットを実行したときに、ロックアップクラッチをスリップ制御してエンジン回転速度の低下を緩やかにする技術が開示されている。この技術においては、そのスリップ制御の実行中にエンジン回転速度がフューエルカット解除用の閾値よりも高い閾値にまで低下したときに、降坂路の勾配が所定値以上であればダウンシフトを許可している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−075179号公報
【特許文献2】特開2008−169930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、その特許文献1及び2の技術においては、フューエルカットの実行に伴う惰性走行より燃費性能を向上させている。しかしながら、その惰性走行の実行時には、エンジンと駆動輪との間での動力伝達が可能であり、所謂エンジンブレーキが働いている。これが為、惰性走行中には、エンジンブレーキによって運動エネルギの一部が熱として捨てられている。従って、かかる車両においては、惰性走行中の燃費性能の改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、燃費性能を向上させることのできる車両用走行制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、本発明は、動力源としてのエンジンと当該エンジンの動力を駆動輪に伝える動力伝達装置とを備えた車両の走行状態を制御する車両用走行制御装置において、自車の所定距離先までの間の走行路の勾配を把握し、該所定距離先でも自車が加速を続ける可能性のあるときに、前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が可能な状態のまま当該エンジンへの燃料の供給量を減少させ又は当該燃料の供給を停止させた惰性走行を行い、自車が前記所定距離先を超えるまでに減速し始める可能性のあるときに、前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が断たれるように前記動力伝達装置の動力断接部を制御して前記惰性走行を行うことを特徴としている。
【0007】
ここで、自車が降坂路を走行しているときに前記動力伝達が可能な状態での惰性走行と当該動力伝達が不能な状態での惰性走行の内の何れを選択するのかを判断することが望ましい。
【0008】
また、設定下限車速から設定上限車速までの加速走行と当該設定上限車速から当該設定下限車速までの減速走行とが交互に繰り返される加減速走行パターンによる走行中には、前記動力伝達が不能な状態での惰性走行の実行に伴い自車が前記設定上限車速に到達したときまでの走行距離を前記所定距離とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用走行制御装置は、所定距離先でも自車が加速を続ける可能性のあるときに、エンジンブレーキを発生させたままの惰性走行により燃費性能を向上させる一方、その所定距離先を超えるまでに減速し始める可能性のあるときに、エンジンブレーキを発生させずに惰性走行を行わせることで燃費性能の更なる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明に係る車両用走行制御装置とその適用車両について示す図である。
【図2】図2は、加減速走行パターンの実行可能領域と実行禁止領域のマップの一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明に係る車両用走行制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る車両用走行制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
本発明に係る車両用走行制御装置の実施例を図1から図3に基づいて説明する。
【0013】
図1の符号1は、本実施例における車両用走行制御装置を示す。先ず、この車両用走行制御装置1の制御対象である車両の一例について簡単に説明する。
【0014】
ここで例示する車両は、動力源としてのエンジン10と、このエンジン10の動力を駆動輪WL,WRに伝える動力伝達装置の一部である変速機20と、を備えたものである。
【0015】
そのエンジン10は、燃料の燃焼に伴い発生した熱エネルギを機械エネルギ(動力)に変換する内燃機関や外燃機関等である。このエンジン10は、その動作がエンジン用の電子制御装置(以下、「エンジンECU」という。)101によって制御される。ここで、この車両には、走行中の燃料消費量を低減させる所謂エコラン機能が設けられている。これが為、このエンジン10は、走行中に停止又は再始動することができる。その停止の際、エンジンECU101は、エンジン10への燃料供給量を例えばアイドル状態にまで減少させたり、エンジン10への燃料の供給を止めたりすることができる。
【0016】
一方、変速機20は、所謂自動変速機であり、変速比の異なる複数の変速段(前進6段、後退1段)を有する多段自動変速機として例示する。この変速機20は、エンジン10の出力トルクを変速段側の歯車に伝達するトルクコンバータ30と、その夫々の変速段を成す歯車群等からなる変速機本体40と、で構成されている。この変速機20は、その動作が変速機用の電子制御装置(以下、「変速機ECU」という。)102によって制御される。
【0017】
トルクコンバータ30は、ハウジング(図示略)内に収容されたポンプインペラ31とタービンランナ32とステータ33とを備える。そのポンプインペラ31には、変速機20の入力軸21が一体となって回転するように連結されている。タービンランナ32には、後述する第1から第4のクラッチC1〜C4に繋がる第1トルク伝達軸51が一体となって回転するように連結されている。ステータ33は、トルクコンバータ30のハウジングにワンウェイクラッチ34を介して接続されている。尚、変速機20の入力軸21には、エンジン10の出力軸11が連結されている。
【0018】
このトルクコンバータ30には、ポンプインペラ31とタービンランナ32を一体になって回転させるロックアップクラッチ35が設けられている。このロックアップクラッチ35は、入力軸21と一体になって回転するよう連結された第1係合部35aと、第1トルク伝達軸51と一体になって回転するよう連結された第2係合部35bと、を備える。その第1係合部35aと第2係合部35bの内の少なくとも何れか一方には、これらを圧着した際の接触部分に摩擦材が設けられている。
【0019】
このロックアップクラッチ35は、その第1係合部35aと第2係合部35bとを圧着又は離間させることにより、第1係合部35aと第2係合部35bとの間のトルク伝達が不能な解放状態、第1係合部35aと第2係合部35bとをスリップ状態で係合させたスリップ係合状態(半係合状態)、これらを一体になって回転させる完全係合状態を作り出す。このロックアップクラッチ35の各種の状態は、変速機ECU102の制御指令に応じて動作する油圧制御又は電動のアクチュエータ36によって作り出すことができる。このロックアップクラッチ35を完全係合状態又は半係合状態に制御した場合には、変速機本体40がニュートラル状態でなければ、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が可能になる。一方、このロックアップクラッチ35を解放状態に制御した場合には、変速機本体40の状態に拘わらず、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が断たれる。つまり、このロックアップクラッチ35は、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達を不能又は可能にする動力伝達装置の動力断接部として働く。
【0020】
変速機本体40は、第1から第4のクラッチC1〜C4と、サンギア等からなる第1から第3の遊星歯車装置41〜43と、これら第1から第4のクラッチC1〜C4と第1から第3の遊星歯車装置41〜43との間でトルク伝達が可能な第2から第4のトルク伝達軸52〜54と、第1から第4のブレーキB1〜B4と、を備える。この変速機本体40においては、変速機ECU102が第1から第4のクラッチC1〜C4と第1から第4のブレーキB1〜B4の内の所定のクラッチとブレーキを係合又は解放させることによって所望の変速段に切り替わる。
【0021】
ここで、第1クラッチC1は、入力クラッチ、前進クラッチ、フォワードクラッチなどと云われるものである。以下、この第1クラッチを「入力クラッチ」と云う。この入力クラッチC1は、第1トルク伝達軸51と一体となって回転するように連結された第1係合部C1aと、ワンウェイクラッチF0を介して第3トルク伝達軸53に連結された第2係合部C1bと、を備える。その第1係合部C1aと第2係合部C1bの内の少なくとも何れか一方には、これらを圧着した際の接触部分に摩擦材が設けられている。尚、ワンウェイクラッチF0は、第2遊星歯車装置42のサンギアと第3トルク伝達軸53が逆回転(第1トルク伝達軸51の回転とは逆方向の回転)することを防ぐ為のものである。また、第3トルク伝達軸53は、第3遊星歯車装置43のサンギア及びピニオンギアを介して変速機20の出力軸22に連結されている。その出力軸22は、差動装置等の動力伝達部60に連結されており、その動力伝達部60を介して駆動輪WL,WRに繋がっている。
【0022】
この入力クラッチC1は、ロックアップクラッチ35と同様に、第1係合部C1aと第2係合部C1bとの間のトルク伝達が不能な解放状態、第1係合部C1aと第2係合部C1bとをスリップ状態で係合させる半係合状態、これらを一体になって回転させる完全係合状態を作り出すことができる。この入力クラッチC1の各種の状態は、変速機ECU102の制御指令に応じて動作する油圧制御又は電動のアクチュエータ49によって作り出すことができる。この入力クラッチC1を完全係合状態又は半係合状態に制御した場合には、ロックアップクラッチ35が解放状態でなければ、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が可能になる。一方、この入力クラッチC1を解放状態に制御した場合には、ロックアップクラッチ35の状態に拘わらず、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が断たれるニュートラル状態になる。つまり、この入力クラッチC1についても、ロックアップクラッチ35と同様に、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達を不能又は可能にする動力伝達装置の動力断接部として働く。
【0023】
前述したように、この車両には、エコラン機能が設けられている。ここで例示するエコラン機能は、設定下限車速と設定上限車速との間で加速走行と減速走行とが交互に繰り返される加減速走行パターンによるものである。この加減速走行パターンのエコランにおいては、基本的に、設定下限車速から設定上限車速までの加速走行と当該設定上限車速から当該設定下限車速までの減速走行とを交互に繰り返す。車両用走行制御装置1は、自車が設定下限車速まで減速した際に、エンジン10の動力を利用して自車を設定上限車速まで加速させる。その際にエンジン10への燃料の供給が停止させられていれば(つまりフューエルカット状態であれば)、車両用走行制御装置1は、エンジンECU101にエンジン10を再始動させる。一方、この車両用走行制御装置1は、自車が設定上限車速まで加速した際に、エンジン10への燃料供給量を例えばアイドル状態にまで減少させたり、エンジン10への燃料の供給を止めたりして、自車を惰性走行により設定下限車速まで減速させる。車両においては、この加減速走行パターンのエコランを実施することによって、エンジン10の燃料の消費が惰性走行中に抑制されるので、燃費性能が向上する。このエコランによる燃費性能を高める為には、エンジン10をアイドル状態に保つよりも、エンジン10への燃料の供給を止めることが望ましい。
【0024】
この加減速走行パターンのエコランは、急勾配の登坂路で実行すると、重力加速度による減速度が大きいので、加速走行時の燃料消費量が多くなると共に、減速走行時の走行距離が短くなり、燃費性能を向上させ難い。また、急勾配の降坂路で実行したときには、重力加速度による加速度が大きいので、減速走行を行えずに、加減速走行パターンでの走行を実現できない可能性がある。これが為、この加減速走行パターンのエコランについては、急勾配の登坂路や降坂路で実行させないことが好ましい。例えば、この例示では、加減速走行パターンが実行可能か否かを判断する為に、現在の自車の車速と走行路の勾配とに応じたマップ(図2)が用意されている。そのマップには、そのような加減速走行パターンの実行に適さない領域を加減速走行パターンの実行禁止領域として登坂路側と降坂路側に各々設定している。このマップの情報は、車重や車両の前面投影面積、車輪のグリップ性能等に応じて変わるので、車種毎に予め設定される。尚、このマップには、その2つの加減速走行パターンの実行禁止領域に挟まれた領域が加減速走行パターンの実行可能領域として設定されている。
【0025】
ここで、その加減速走行パターンの惰性走行中には、エンジン10と駆動輪WL,WRとの間の動力伝達が可能なので、所謂エンジンブレーキが自車に働いており、運動エネルギの一部が熱として捨てられている。これが為、車両は、エンジンブレーキを作用させずに惰性走行を行うことで、更なる燃費性能の向上を図ることができる。従って、この加減速走行パターンのエコランにおいて燃費性能を高める為には、惰性走行中に、エンジン10への燃料の供給を止め、且つ、動力伝達装置の動力断接部(ロックアップクラッチ35と入力クラッチC1の内の少なくとも1つ)を解放してエンジンブレーキが働かないようにすることが望ましい。
【0026】
これまで説明してきた加減速走行パターンのエコランは、走行路が平坦路や登坂路(急勾配除く)であれば、エンジンブレーキの有無に拘わらず、その望み通りの加減速走行が可能になる。これが為、走行路が平坦路や登坂路(急勾配除く)の場合には、エンジンブレーキを作用させない状態で惰性走行させることが好ましく、減速走行時の走行距離を延ばして燃費性能を高めることができる。故に、この場合には、加減速走行パターンの減速走行においてエンジンブレーキ無しの惰性走行を行うこととし、図2のエンジンブレーキ無しの惰性走行を行う加減速走行パターン(以下、「第1加減速走行パターン」という。)の実行可能領域が選択されるようにする。この第1加減速走行パターンの実行可能領域においては、加速走行と、エンジンブレーキ無しの惰性走行による減速走行と、が行われる。その登坂路の勾配は、惰性走行中に過度の減速感を運転者に与えない大きさであり、緩勾配等が含まれる。この場合には、惰性走行中にエンジン10への燃料の供給を止めることで、更なる燃費性能の向上が可能になる。この第1加減速走行パターンの実行可能領域における登坂路側の加減速走行パターンの実行禁止領域との境界は、図2に示すように、例えば、そのエンジンブレーキ無しの惰性走行によって所定の減速度(運転者に違和感(過度の減速感)を与えない減速度)による減速走行を行えるところに設定する。例えば、走行路が登坂路の場合には、自車に作用する加速度(厳密にはその絶対値)に対して自車に作用する減速度(厳密にはその絶対値でありエンジンブレーキを含まない)が過度の減速感を与えるくらいにまで大きければ、加減速走行パターン(第1加減速走行パターンだけでなく下記の第2加減速走行パターンも含む)のエコランを禁止させる。
【0027】
走行路が降坂路の場合には、その勾配や車重(乗員や積載物の重量も含む)等、そして重力加速度の影響を受けて、喩え急勾配でなくても自車が加速してしまう虞がある。ここで、自車に作用する加速度は、降坂路の勾配や車重、重力加速度によって決まる。また、自車に作用する減速度は、エンジンブレーキ、空気抵抗や転がり抵抗によって決まる。これが為、降坂路においては、エンジンブレーキを働かせることにより減速度が増えるので、自車の加速度を減らすことができる。図2のマップには、降坂路(急勾配除く)においてエンジンブレーキ有りの惰性走行を行う加減速走行パターン(以下、「第2加減速走行パターン」という。)の実行可能領域が設定されている。この第2加減速走行パターンの実行可能領域においては、加速走行と、エンジンブレーキ有りの惰性走行による減速走行と、が行われる。この第2加減速走行パターンの実行可能領域における降坂路側の加減速走行パターンの実行禁止領域との境界は、例えば、その惰性走行で定速走行となるところに設定する。つまり、走行路が降坂路の場合には、自車に作用する加速度(厳密にはその絶対値)が自車に作用する減速度(厳密にはその絶対値でありエンジンブレーキも含む)よりも大きければ、加減速走行パターン(第2加減速走行パターンだけでなく第1加減速走行パターンも含む)のエコランを禁止させる。この場合にも、惰性走行中にエンジン10への燃料の供給を止めることで、更なる燃費性能の向上が可能になる。
【0028】
ここで、この例示の車両では、降坂路(急勾配除く)において、エンジンブレーキを作用させない状態で惰性走行を行ったときに定速走行になる車速と勾配の組み合わせが存在している。図2のマップにおいては、その定速走行の部分が境界となり、これよりも下(降坂路の勾配が大きくなる側)を上記の第2加減速走行パターンの実行可能領域とし、それよりも上(登坂路側)を第1加減速走行パターンの実行可能領域とする。従って、第1加減速走行パターンは、上述した平坦路や登坂路(急勾配除く)だけでなく、降坂路においてもエンジンブレーキ無しの惰性走行を行う。この場合にも、惰性走行中にエンジン10への燃料の供給を止めることで、更なる燃費性能の向上が可能になる。
【0029】
このように、加減速走行パターンの実行可能領域においては、自車の車速や走行路の勾配によって、エンジンブレーキ有りで惰性走行させる場合もあれば、エンジンブレーキ無しで惰性走行させる場合もある。ここで、先にも説明したように、エンジンブレーキが働いていると、燃費性能が悪化する。これが為、加減速走行パターンのエコラン中の車両は、可能な限りエンジンブレーキを作用させない状態で惰性走行させることが望ましい。しかし、図2の第2加減速走行パターンの実行可能領域においては、惰性走行中にエンジンブレーキを作用させないようにすると、加速度が減速度を上回り、自車が加速を続けて設定上限車速を超えてしまう可能性がある。一方、エンジンブレーキを作用させない状態の惰性走行であっても、現在の走行路の勾配や車重等如何で、そして、その先の走行路の勾配如何で、自車は、設定上限車速に到達した時点で又は設定上限車速に到達する前に減速し始める場合があり、その設定上限車速を超えない可能性がある。走行路の勾配の変化によって加速度を減少させる一方で減速度を増加させる状況であり、例えば自車が設定上限車速へと到達する前に走行路が降坂路から平坦路や登坂路に変化したときである。
【0030】
そこで、本実施例の車両用走行制御装置1には、エンジンブレーキ有りで惰性走行させる第2加減速走行パターンの実行可能領域であっても、エンジンブレーキ無しの惰性走行による加速で設定上限車速となる所定距離先を自車が超えるまでに、その所定距離先までの間の走行路の勾配によって減速し始めるのであれば、エンジンブレーキ無しの惰性走行を実行させる。これにより、車両は、設定上限車速に到達した時点で又は設定上限車速に到達する前に減速し始めるので、設定上限車速を超えることなく、エンジンブレーキ無しの惰性走行による燃費性能の向上を図ることができる。
【0031】
具体的に、この車両用走行制御装置1は、現在の車速と現在の走行路の勾配とを図2のマップに照らし合わせ、加減速走行パターンにおいてエンジンブレーキ無しの惰性走行を行うのかエンジンブレーキ有りの惰性走行を行うのか判断する。ここでは、図2の第1加減速走行パターンの実行可能領域に該当しているのか、それとも第2加減速走行パターンの実行可能領域に該当しているのかを判断する。
【0032】
車速は、車速センサや車輪速センサ等の車速検出装置71から車両用走行制御装置1が取得する。一方、走行路の勾配は、走行環境情報取得装置72から車両用走行制御装置1が取得する。その走行環境情報取得装置72とは、例えばカーナビゲーションシステムとGPS(Global Positioning System)とによって構成されたものである。この走行環境情報取得装置72は、GPSによる自車位置情報とカーナビゲーションシステムの地図情報(勾配やコーナ曲率、信号機の有無等の走行環境情報も含む)とに基づいて、現在の走行路の勾配やその先の走行路の勾配の情報を取得する。また、この走行環境情報取得装置72としては、外部のサーバとの間で走行環境情報等の各種情報を送受信する通信システムを利用できる。この場合には、例えば、GPSによる自車位置情報をサーバに送り、その自車位置情報に応じた走行環境情報(現在の走行路の勾配やその先の走行路の勾配の情報等)をサーバから受信する。
【0033】
この車両用走行制御装置1には、第1加減速走行パターンの実行可能領域に該当していれば、エンジンブレーキによる燃費性能の悪化が生じないので、実行対象の加減速走行パターンを第1加減速走行パターンに設定する。
【0034】
これに対して、第2加減速走行パターンの実行可能領域に該当していた場合には、自車の所定距離先までの間の走行路の勾配に応じて、そのまま推奨されている第2加減速走行パターンでエンジンブレーキ有りの惰性走行を行うのか、これよりも燃費性能を上げることのできる第1加減速走行パターンに切り替えるのかを判断する。その所定距離とは、今現在を起点としてエンジンブレーキ無しの惰性走行を行った際の加速により自車が設定上限車速へと到達したときの走行距離のことである。車両用走行制御装置1には、この場合にエンジンブレーキの作用していない状態で惰性走行させたと仮定し、その後の走行路の勾配変化によって、自車が設定上限車速に到達した時点で又は設定上限車速に到達する前に減速し始めるならば、実行対象の加減速走行パターンをエンジンブレーキ無しの惰性走行が可能な第1加減速走行パターンに切り替えさせる。ここでは加減速走行パターンにおける設定上限車速とするが、設定上限車速は、例えば、燃費性能向上の為に一度きりの惰性走行を行う場合(惰性走行の前後の走行状態は問わない場合)であれば、そのときの車速制御で設定されている上限車速であってもよい。
【0035】
この車両用走行制御装置1の動作について図3のフローチャートに基づき詳述する。
【0036】
車両用走行制御装置1は、先ず制御に必要な情報を取得する(ステップST1)。
【0037】
ここでは、車両状態情報、運転者操作量情報、走行環境情報が取得される。車両状態情報とは、車速(車速検出装置71から取得)、前後加速度(前後加速度センサ73から取得)、横加速度(横加速度センサ74から取得)等である。運転者操作量情報とは、アクセルペダルの操作量(アクセル開度センサ75から取得)、ブレーキペダルの操作量(ブレーキ開度センサ76から取得)、ステアリングホイールの操作量(操舵角センサ77から取得)等である。走行環境情報は、前述した現在の走行路やその先の走行路における勾配、コーナ曲率及び信号機の有無等の情報であり、走行環境情報取得装置72から取得する。
【0038】
車両用走行制御装置1は、その取得情報を基に定常走行が行われているのか否かを判断する(ステップST2)。
【0039】
これまでの(今を起点として所定時間前まで又は所定距離前までの)車速の変化が所定範囲内(定常走行中との判断が可能な範囲内)か否かを判定し、所定範囲内にあるとの肯定判定が為されたときには、定常走行されてきた可能性が高いと判断できる。また、これまでの平均車速の標準偏差が所定値(定常走行中との判断が可能な値)以内か否かを判定し、所定値以内にあるとの肯定判定が為されたときには、定常走行されてきた可能性が高いと判断できる。また、これまでのアクセルペダルの操作の変動量が所定値(定常走行中との判断が可能な値)以内か否かを判定し、所定値以内にあるとの肯定判定が為されたときには、定常走行されてきた可能性が高いと判断できる。また、これまでの変速機20の変速比が所定値(定常走行中との判断が可能な値)以内か否かを判定し、所定値以内にあるとの肯定判定が為されたときには、定常走行されてきた可能性が高いと判断できる。ここでは、同一変速段のままであれば、定常走行されてきた可能性が高いと判断する。車両用走行制御装置1は、これらの全てが肯定判定となり、更に変速機20のシフトポジションがDレンジ(ドライブレンジ)であれば、定常走行が行われていると判断する。ここで、このステップST2では、クルーズコントロール等の定速走行制御が実行中か否かを判断の材料にしてもよく、定速走行制御が実行中であれば、定常走行が行われていると判断する。
【0040】
自車が定常走行を行っているということは、この後の加減速走行パターンによるエコランの実行可能要件の1つである。これが為、この車両用走行制御装置1は、このステップST2で定常走行であるとの判断が為されると、次に第1又は第2の加減速走行パターンの実行が可能か否かを判断する(ステップST3)。
【0041】
このステップST3の判断は、自車の現在の車両状態、現在とこれから先の走行環境に基づいて行う。ここでは、現在の自車の車速と走行路の勾配とを図2のマップに照らし合わせ、加減速走行パターンの実行禁止領域に該当しているのか、それとも第1又は第2の加減速走行パターンの実行可能領域に該当しているのかが判断される。
【0042】
ここで、現在の車両状態と走行環境が第1又は第2の加減速走行パターンの実行に適していたとしても、その先の走行環境が必ずしも第1又は第2の加減速走行パターンの実行に適しているとは限らない。加減速走行パターンでの走行は、加速走行と減速走行を何度か繰り返すことにより又は予め決められている加速走行と減速走行の夫々の走行距離を走行させることにより燃費性能の向上効果が高まるので、所望の燃費性能の向上効果が得られるだけの走行距離が必要になる。しかしながら、加減速走行パターンでの走行は所定の車速の範囲内(ここでは設定上限車速と設定下限車速の範囲内)を保てないコーナや急勾配の路面で実行させないので、その燃費性能の向上に好ましい走行距離に達するまでにコーナや急勾配の路面が存在していたときには、加減速走行パターンでの走行が継続できなくなる。これが為、ここでは、現在の車両状態と走行環境が第1又は第2の加減速走行パターンの実行に適していたとしても、自車の所定距離(ここでは所望の燃費性能の向上効果が得られるだけの走行距離)先までの走行路にコーナや急勾配の路面が存在している場合、加減速走行パターンの実行禁止領域に該当していると判断させる。
【0043】
車両用走行制御装置1は、このステップST3で第1又は第2の加減速走行パターンの実行が可能であると判断した場合、現状が減速走行の実施要件に該当しているのか否かの判定を行う(ステップST4)。例えば、加減速走行パターンを減速走行から開始するよう設定されているときには、今が加減速走行パターンでの走行の開始時であれば、減速走行の実施要件に該当していると判定される。これとは逆に、加減速走行パターンを加速走行から開始するよう設定されているときには、今が加減速走行パターンでの走行の開始時であれば、加速走行の実施要件に該当していると判定される。また、現在の車速に応じて加減速走行パターン開始時の走行形態が決められる設定(例えば現在の車速が設定上限車速に近ければ減速走行から開始させ、設定下限車速に近ければ加速走行から開始させる設定)のときには、その車速に応じて減速走行の実施要件に該当しているのか否か判定する。また、既に減速走行中のときには、設定下限車速に達するまで減速走行の実施要件に該当し、既に加速走行中のときには、設定上限車速に達するまで加速走行の実施要件に該当する。
【0044】
車両用走行制御装置1は、減速走行の実施要件に該当していれば、その実施の際にエンジンブレーキ有りの惰性走行が推奨されているのか否かを判定する(ステップST5)。ここでは、現状で第1加減速走行パターンが選択されていれば、エンジンブレーキ無しの惰性走行が推奨されていると判定し、第2加減速走行パターンが選択されていれば、エンジンブレーキ有りの惰性走行が推奨されていると判定する。車両用走行制御装置1は、エンジンブレーキ無しの惰性走行が推奨されていれば、後述するステップST8に進んで、推奨通りにエンジンブレーキ無しの惰性走行を実行する。
【0045】
車両用走行制御装置1は、エンジンブレーキ有りの惰性走行が推奨されていれば、そのエンジンブレーキを作用させない状態での惰性走行を実行すると仮定して、その実行に伴う今現在から設定上限車速に到達するまでの走行距離Lを算出する(ステップST6)。その走行距離Lは、下記の式1から求めることができる。
【0046】
【数1】

【0047】
式1の「V0」は現在の車速、「Vu」は設定上限車速である。「a」は車両の加速度であり、下記の式2から求めることができる。尚、この加速度aは、設定上限車速Vuに到達するまで同一勾配(θ)の降坂路が続いている場合を例に挙げている。その式2の「ρ」は空気密度、「Cd」は抵抗係数、「A」は前面投影面積、「V」は車速、「M」は車両の質量である。この式2の1項目は重力加速度gの影響を、2項目は空気抵抗の影響を、3項目は転がり抵抗の影響を示している。
【0048】
【数2】

【0049】
式1は、下記の走行距離Lの式(式3)に式4の設定上限車速Vuに到達するまでの時間tを代入したものである。
【0050】
【数3】

【0051】
【数4】

【0052】
続いて、車両用走行制御装置1は、そのエンジンブレーキ無しの惰性走行を実行したと仮定し、その惰性走行で走行距離L(設定上限車速)に到達するまでの走行路の勾配によって、その走行距離L(設定上限車速)を超えるまでに自車が減速し始めるのか否かを判定する(ステップST7)。その勾配の情報は、ステップST1で取得していれば、これを利用すればよく、不足していれば、不足分を新たに取得すればよい。尚、ここでは減速し始めるのか否かを判定しているが、その惰性走行で走行距離L(設定上限車速)を超えるまでに一時的にでも定速走行が行われる可能性もあるので、このステップST7においては、その走行距離L(設定上限車速)を超えるまでに自車が定速走行し始めるのか否かを判定してもよい。
【0053】
そして、この車両用走行制御装置1は、その走行距離L(設定上限車速)を超えるまでに減速し始めるならば(定速走行し始めるならば)、加減速走行パターンとして第1加減速走行パターンを選択し、エンジンブレーキ無しの惰性走行を実行する(ステップST8)。その際、車両用走行制御装置1は、変速機ECU102に対して動力伝達装置の動力断接部(ロックアップクラッチ35と入力クラッチC1の内の少なくとも1つ)を解放させるよう指令を送り、エンジンブレーキが働かないようする。また、ここでは、エンジンECU101に対してエンジン10がフューエルカット状態になるよう指令させる。これにより、車両は、設定上限車速を超えさせることなく、エンジンブレーキ有りの惰性走行を実行した場合よりも燃費性能を向上させることができる。
【0054】
ここで、この車両は、設定上限車速に達したとき又はその前に減速を始めるので、制御形態を変えることなく、このエンジンブレーキ無しの惰性走行を継続できる。これに対して、エンジンブレーキ有りの惰性走行を実行した場合には、設定下限車速に達した後、加速走行が始まる。従って、この車両用走行制御装置1は、エンジンブレーキ有りの惰性走行を実行した場合よりも、大きく燃費性能を向上させることができる。
【0055】
一方、車両用走行制御装置1は、ステップST7で走行距離L(設定上限車速)を超えるまでに減速し始めないと判定したならば(定速走行し始めないと判定したならば)、つまり走行距離L(設定上限車速)に達しても加速を続けるのならば、推奨通りにエンジンブレーキ有りの惰性走行を実行する(ステップST9)。このときには、動力伝達装置の動力断接部(ロックアップクラッチ35と入力クラッチC1)が完全係合状態を保つようにする。また、ここでは、エンジンECU101に対してエンジン10がフューエルカット状態になるよう指令させる。車両は、その惰性走行により燃費性能を上げつつ減速する。
【0056】
ところで、上記ステップST4で加速走行の実施要件に該当していると判定された場合、車両用走行制御装置1は、選択されている第1又は第2の加減速走行パターンに応じた加速走行を実行する(ステップST10)。
【0057】
また、上記ステップST2で定常走行が行われていないと判断された場合又は上記ステップST3で第1又は第2の加減速走行パターンの実行が不能と判断された場合、車両用走行制御装置1は、加減速走行パターンの実行を禁止して通常制御を行う(ステップST11)。その通常制御とは、例えば加減速走行パターン制御とは異なる周知の車速制御のことであり、定速走行、減速走行、加速走行の何れかを行う。例えば、登坂路における加減速走行パターンの実行禁止領域では、定速走行や減速走行を行う。その減速走行の際には、エンジン10をフューエルカット状態にしてもよい。また、降坂路における加減速走行パターンの実行禁止領域では、加速走行を行う。その加速走行の際には、エンジン10をフューエルカット状態にしてもよい。尚、この通常制御に替えて、運転者の手動操作に戻してもよい。
【0058】
以上示したように、この車両用走行制御装置1は、できる限りエンジンブレーキを働かせずに惰性走行を行わせることができるので、そのエンジンブレーキによるエネルギの廃棄を極力を抑えることが可能になり、燃費性能を向上させることができる。
【0059】
ここで、この例示では動力伝達装置の動力断接部としてロックアップクラッチ35と入力クラッチC1を挙げたが、その動力断接部としては、それ以外の物(クラッチ等)がエンジン10と駆動輪WL,WRとの間に設けられているのであれば、これをエンジンブレーキの発生に関わる制御対象にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明に係る車両用走行制御装置は、燃費性能を向上させる技術に有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 車両用走行制御装置
10 エンジン
20 変速機
35 ロックアップクラッチ
71 車速検出装置
72 走行環境情報取得装置
C1 入力クラッチ(動力断接部)
101 エンジンECU
102 変速機ECU
WL,WR 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてのエンジンと当該エンジンの動力を駆動輪に伝える動力伝達装置とを備えた車両の走行状態を制御する車両用走行制御装置において、
自車の所定距離先までの間の走行路の勾配を把握し、該所定距離先でも自車が加速を続ける可能性のあるときに、前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が可能な状態のまま当該エンジンへの燃料の供給量を減少させ又は当該燃料の供給を停止させた惰性走行を行い、自車が前記所定距離先を超えるまでに減速し始める可能性のあるときに、前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が断たれるように前記動力伝達装置の動力断接部を制御して前記惰性走行を行うことを特徴とした車両用走行制御装置。
【請求項2】
自車が降坂路を走行しているときに前記動力伝達が可能な状態での惰性走行と当該動力伝達が不能な状態での惰性走行の内の何れを選択するのかを判断することを特徴とした請求項1記載の車両用走行制御装置。
【請求項3】
設定下限車速から設定上限車速までの加速走行と当該設定上限車速から当該設定下限車速までの減速走行とが交互に繰り返される加減速走行パターンによる走行中には、前記動力伝達が不能な状態での惰性走行の実行に伴い自車が前記設定上限車速に到達したときまでの走行距離を前記所定距離とすることを特徴とした請求項2記載の車両用走行制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−101636(P2012−101636A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250773(P2010−250773)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】