説明

GaN系化合物半導体の成長方法及び成長層付き基板

【課題】結晶成長層にダメージを与えることなくサファイア基板から結晶成長層を容易に分離することが可能なGaN系化合物半導体の成長方法及び当該成長層付き基板を提供する。
【解決手段】サファイア基板10上にコラム状結晶層11を成長する工程と、コラム状結晶層11上にバッファ層12を成長する工程と、バッファ層12上にGaN系化合物結晶13を成長する工程と、を有する。結晶成長後に降温すると、サファイア基板10とナノコラム状態のZrB2層11の界面に大きな歪みが生じ、サファイア基板10から結晶成長層18が容易に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系化合物半導体の成長方法及び成長層付き基板に関し、特に、サファイア基板上に成長したGaN系化合物半導体結晶層を基板から分離することが可能な結晶成長方法及び当該成長層付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系化合物半導体(以下、単にGaN系化合物半導体又はGaN半導体という。)は、大きなバンドギャップエネルギーを有する直接遷移型の半導体で、青ないし紫外領域の光素子用の材料として活発に研究開発がなされている。また、高い飽和ドリフト速度を有し、絶縁破壊電界も大きいなど種々の特徴を有することから、高周波デバイスや高出力デバイスにも広く応用が可能である。
【0003】
GaN系化合物半導体の結晶成長には、一般的に、基板としてサファイアが用いられる。例えば、サファイア基板上にGaN系化合物半導体の結晶成長を行い、GaN系結晶層を基板から剥離することによりGaN基板の製造やいわゆるシンフィルム(Thin-film)タイプの発光ダイオード(LED)の作製が行われている。
【0004】
例えば、サファイア基板上に酸化亜鉛(ZnO)を中間層として成長し、ZnO中間層上に窒化物半導体結晶層を成長した後、中間層をエッチングして窒化物半導体結晶層を分離する方法がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、サファイア基板上に成長したGaN系結晶をサファイア側からレーザ光を照射しGaN系結晶を分離するレーザリフトオフ(LLO)技術によりGaN系結晶層を得てシンフィルム構造のLEDを作製する方法が示されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
また、サファイア基板上にCrNを中間層としてGaN系結晶を成長し、チップ状態に分離した後にエッチングすることによりGaN系結晶を得てシンフィルム構造のLEDを作製する方法が示されている(例えば、非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、中間層をエッチングして半導体結晶成長層を分離する方法においては、除去する中間層が薄くかつエッチングがウエハ周辺より進行するため半導体結晶成長層の剥離に長時間を要するという問題があった。
【0008】
また、レーザリフトオフを行うには高価なレーザ装置(エキシマレーザ装置、YAGレーザ装置など)が必要である。さらに、レーザリフトオフ技術によりサファイア基板から結晶成長層を剥離する場合、レーザ光による結晶成長層への熱ダメージおよびレーザリフトオフ時に発生する窒素ガス等による物理的衝撃に起因する結晶成長層のクラック発生の危険があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−202265公報
【特許文献2】米国特許第6,420,242号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】IEEE Photon. Technol. Lett. Vol.20, No.3, 175 (2008)
【非特許文献2】JJAP(Japanese Journal of Applied Physics) vol.38,L492(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶成長層にダメージを与えることなくサファイア基板から結晶成長層を容易に分離することが可能なGaN系化合物半導体の成長方法及び当該成長層付き基板を提供することにある。また、レーザリフトオフ技術のように高価な装置は必要せず、かつ熱ダメージ及び物理的衝撃によるクラック発生を生じること無く基板から結晶成長層を容易に分離することが可能なGaN系化合物半導体の成長方法及び当該成長層付き基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、サファイア(Al23)基板上にGaN系化合物半導体を結晶成長する方法であって、サファイア基板上にコラム状結晶層を成長する工程と、上記コラム状結晶層上にバッファ層を成長する工程と、バッファ層上にGaN系化合物結晶を成長する工程と、を有することを特徴としている。
【0013】
なお、上記バッファ層を成長する工程は、コラム状結晶層を部分的に除去し、当該除去領域を選択成長用被覆材料で被覆する被覆工程と、コラム状結晶層の非除去領域上にバッファ層を成長する選択成長工程と、を含み、GaN系化合物結晶を成長する工程は、横方向成長(ELO)によりGaN系化合物結晶を成長する横方向成長工程を含むようにすることができる。
【0014】
また、本発明の結晶成長層付き基板は、サファイア基板上に形成されたコラム状結晶層と、コラム状結晶層上にMOCVD法により成長されたバッファ層と、バッファ層上に成長されたGaN系化合物結晶層と、からなることを特徴としている。
【0015】
上記バッファ層は島状成長状態又は網目状成長状態であるように形成されることがより好適である。
【0016】
また、上記コラム状結晶層は六方晶構造結晶層とすることができ、特に、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)結晶層であることを特徴とする。また、コラム状結晶層の厚さは50nmないし500nmの範囲内であることが好適である。
【0017】
さらに、上記バッファ層は、低温成長窒化物結晶層、特に、低温成長窒化アルミニウム(AlN)結晶層とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の結晶成長工程を模式的に示す断面図である。
【図2】ZrB2成長上面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図3】サファイア基板及びZrB2層の界面での分離の状態を模式的に示す断面図である。
【図4】基板から結晶成長層を分離した後のサファイア基板の表面のEDX分析結果を示すグラフである。
【図5】実施例2である結晶成長工程を模式的に示す断面図である。
【図6】実施例2である結晶成長工程を模式的に示す断面図である。
【図7】リフトオフ後(図6,STEP15)の上面図であり、ZrB2結晶層のパターニング形状を示している。
【図8】バッファ層上に素子動作層を形成した場合を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下においては、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法によりサファイア(Al23)基板上にGaN系化合物半導体層を結晶成長する方法について説明する。なお、GaN系化合物半導体の例として窒化ガリウム(GaN)の結晶成長を行う場合について図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
尚、以下に説明する図において、実質的に同一又は等価な構成要素あるいは部分には同一の参照符を付している。
【実施例1】
【0021】
まず、基板10として、コランダム構造を有するAl23単結晶のサファイア基板を用いた。本実施例においては、サファイアC面({0001}面)を結晶成長面として当該サファイアC面上に結晶成長を行った。以下においては、サファイアC面({0001}面)を主面(結晶成長面)とする基板をC面サファイア基板とも称する。なお、ここで、ミラー指数{ }は等価な面の代表値を示している。
【0022】
図1は、実施例1における結晶成長工程を模式的に示す断面図である。図1に示すように、サファイア基板10上に二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を中間層としてGaN結晶の成長を行った。
【0023】
まず、MOCVD法によりサファイア基板10上に二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)の結晶成長を行った。なお、ZrB2は六方晶の結晶構造を有する。より具体的には、ジルコニウム・ボロハライド(Zr(BH4)4)を原料として用い、サファイア基板の{0001}面を主面(結晶成長面)とし、成長温度を1190℃、成長圧力を40TorrとしてZrB2結晶をナノコラム状に成長した(図1,STEP1)。また、キャリアガス及び雰囲気ガスとして水素(H2)ガスを用いた。なお、原料供給量は2.4μmol/min、成長速度は2nm/minであった。当該ナノコラム状のZrB2結晶(ナノコラム結晶)層11の厚さ(ZrB2ナノコラム結晶の高さ)は約50nmであったが、これに限らない。なお、ZrB2結晶の厚さは50nmないし500nmが好ましい。
【0024】
次に、MOCVD法により、窒化アルミニウム(AlN)の低温成長(LT-AlN:Low Temperature AlN)バッファ層12を形成した(以下において、単にAlN低温バッファ層12と称する。)。
【0025】
なお、本明細書において、低温成長とは、一般的に窒化物結晶(GaAlInN系結晶)をMOCVD法により成長するための成長温度(「高成長温度」という。)よりも低い温度(「低成長温度」という。)での成長をいう。具体的には、AlN低温バッファ層の成長温度(低成長温度)として、400℃〜600℃の範囲内であることが好ましい。
【0026】
より具体的には、成長温度を600℃、成長圧力を760TorrとしてAlN低温バッファ層12を成長した(図1,STEP2)。AlN低温バッファ層12の層厚は100nmであった。なお、原料としてトリメチル・アルミニウム(TMA)を22.4μmol/min、アンモニア(NH3)を6,120μmol/minの流量で供給した。なお、このとき、V/III比は2,735であった。なお、AlN低温バッファ層12の層厚は、特に限定されないが、後述するように、ZrB2結晶層11の全面を覆うように成長していないことが好ましい。
【0027】
より詳細には、AlN結晶の成長過程としては、島状成長状態からその成長領域が拡大し、島状成長部が連なった状態(網目状成長状態)を経て、ZrB2結晶層11の全面を覆う平坦成長状態に移行すると考えられるが、本発明においては、AlN低温バッファ層12はZrB2結晶層11の全面を覆う以前の島状成長状態又は網目状成長状態であるように形成されることが好ましい。なお、以下においては、このようなAlN結晶がZrB2結晶層11の全面を覆う以前の成長(島状成長及び網目状成長)状態を総称して島状成長状態ともいう。
【0028】
本実施例においては、AlN低温バッファ層12が島状成長状態(網目状成長状態を含む)であるように成長を行った。すなわち、AlN低温バッファ層12には開口(開口部)12Aが存在するように成長を行った。
【0029】
AlN低温バッファ層12を成長した後、トリメチル・ガリウム(TMG)、アンモニア(NH3)を原料としてGaN結晶層13の結晶成長を行った(図1,STEP3)。成長温度は1100℃、成長圧力は80Torr、TMGの供給量は44.7μmol/min、NH3の供給量は6,120μmol/minであった。また、成長時間は約20min、成長後の成長層厚は1.7μmであった。なお、このとき、成長速度は5μm/min、V/III比は1,370であった。
【0030】
かかる成長条件での成長後、さらに、横方向成長(ELO:epitaxial lateral overgrowth)がより促進される成長条件でGaN結晶の成長を行った。例えば、成長温度は1150℃、成長圧力は90Torr、TMGの供給量は134μmol/min、NH3の供給量は101560μmol/min、成長層厚は10μm、成長速度は15μm/min、V/III比は758である。かかる横方向成長促進条件での成長を行いGaN結晶層13を形成した(図1,STEP3)。なお、AlN低温バッファ層12を成長した後、成長条件を変えて(2段階で)、GaN結晶層を成長する場合について説明したが、AlN低温バッファ層12を成長後、横方向成長(ELO)がより促進される上記成長条件でGaN結晶層の成長を行うようにしてもよい。
【0031】
図2は、MOCVD装置からZrB2成長後の成長層付き基板を取り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)でZrB2成長上面を撮影したSEM像である。サファイア基板10の{0001}面上にコラム状(柱状)にc軸配向したZrB2結晶が成長し、コラム状結晶間に間隙が形成されているのが分かる。また、ZrB2結晶のC面結晶構造を反映して断面が六角形状のコラム状結晶が形成されているのが分かる。尚、当該コラム状結晶の外径は50nm〜100nm程度であった。また、上記コラム状結晶間には間隙15が形成されている。
【0032】
なお、上記においては、ZrB2成長後にMOCVD装置から当該成長層付き基板を取り出し、SEM観察後にMOCVD装置においてAlN低温バッファ層12及びGaN結晶層13を成長した場合について説明した。しかし、ZrB2層11の成長後にMOCVD装置から成長層付き基板を取り出すことなく、ZrB2層11の成長に連続してAlN低温バッファ層12及びGaN結晶層13を成長してもよい。あるいは、MOCVD法以外の方法でサファイア基板10上にコラム状結晶層11を形成したウエハを用い、MOCVD法により低温バッファ層12及びGaN結晶層13を成長してもよい。
【0033】
このようにコラム状ZrB2層11、低温バッファ層12及びGaN結晶層13(以下、これらの積層体構造を総称して結晶成長層18という。)を成長した結晶成長層付き基板(ウエハ)では、極めて容易にサファイア基板10から結晶成長層18を分離(剥離)することができる。この点について以下に詳細に説明する。
【0034】
サファイア、ZrB2、GaNのa軸方向の格子定数はそれぞれ、0.275nm,0.317nm,0.320nmである。すなわち、ZrB2とGaNの当該格子定数は極めて近いが、サファイアとZrB2とでは大きな差がある。また、サファイア、ZrB2、GaNの熱膨張係数はそれぞれ、7.5E-6/K,5.9E-6/K,5.6E-6/Kであり(ここで、「E-6」は、×10-6を表している。)、格子定数と同様に、ZrB2とGaNの熱膨張係数は極めて近いが、サファイアとZrB2とでは大きな差がある。このため、結晶成長後の降温により、サファイア基板10とZrB2層11との界面に大きな歪み(ストレス)が生じる。一方、ZrB2層11と結晶成長層18(すなわち、低温バッファ層12及びGaN結晶層13)との界面の歪みは小さい。また、中間層であるZrB2層11はナノコラム状態であり機械的に弱い。そのため、結晶成長後に降温すると、サファイア基板10とナノコラム状態のZrB2層11の界面に大きな歪みが生じることによりサファイア基板10から結晶成長層18が容易に分離する。
【0035】
より具体的には、図3に模式的に示すように、サファイア基板10及びZrB2層11の間の界面における大きな歪みのため、サファイア基板10とZrB2層11の界面で容易に分離する(図中、矢印はサファイア基板10及び結晶成長層18の分離を示している。)。なお、図3においては、分離した後のサファイア基板10側の界面をS1A、S2Aとし、これらに対応するZrB2層11側の界面をそれぞれS1B、S2Bとして模式的に示している。
【0036】
さらに、AlN低温バッファ層12が開口12Aを有する島状成長状態(網目状成長状態を含む)となるように成長を行ったので、さらに、サファイア基板10から結晶成長層18を容易に分離することができる。より詳細には、GaN結晶層13の成長においては、AlN結晶層を核としてGaN結晶の横方向成長によってAlN低温バッファ層12は覆われる。しかし、ZrB2層11上にAlN結晶層が無い部分、すなわち、AlN低温バッファ層12の開口12AにおいてはZrB2層11上にGaN結晶は直接成長していない。従って、この開口12Aにおいては、ZrB2層11及びGaN結晶層13の間でサファイア基板10から結晶成長層18を容易に分離することができる。なお、図3においては、分離した後のサファイア基板10側の界面(すなわち、ZrB2層上面)をE1A、E2A、E3Aとし、これらに対応するGaN結晶層13側の界面(すなわち、GaN結晶層下面)をそれぞれE1B、E2B、E3Bとして模式的に示している。
【0037】
サファイア基板10から結晶成長層18を分離した後のサファイア基板10の表面についてエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析を行った。図4は、EDX分析結果を示すグラフである。EDX分析において、サファイア基板10の表面から基板組成のAl及びOの他に、強度は弱いながらZrが検出された。従って、上記したように、開口12Aにおいて、ZrB2層11とGaN結晶層13とが容易に分離し、サファイア基板10側にコラム状ZrB2層が残ることが検証された。
【0038】
上記したように、サファイア基板10から結晶成長層18を極めて容易に分離(剥離)することができる。例えば、結晶成長後の降温によって、サファイア基板10とナノコラム状ZrB2層11の界面に生ずる大きな歪みに起因してサファイア基板10から結晶成長層18が分離する。このように、結晶成長後の降温のみで分離しない場合でも、結晶成長を行ったサファイア基板10(成長ウエハ)に外部から軽微な力を加えることでサファイア基板10から結晶成長層18を容易に分離(剥離)することができる。例えば、サファイア基板10に軽い衝撃を与えることによりサファイア基板から結晶成長層18を分離することができる。また、超音波等を用いて成長ウエハに振動を与えることにより結晶成長層18を容易に分離することができる。また、LLO(レーザリフトオフ)法を補助的に使用して分離してもよい。この場合、従来技術より低エネルギー密度のレーザ照射で分離することができ、結晶成長層18に与えるダメージを低減することが可能である。このように、結晶成長層18にダメージを与えることなくサファイア基板10から結晶成長層18を容易に分離することができる。
【0039】
なお、ZrB2はフッ酸及び硝酸の混合液により容易に溶解する。そのため、分離をより容易にするためにZrB2層をエッチングするプロセスを適用してもよい。また、ZrB2中間層はナノコラム状態であり、エッチング液が浸透し易く、短時間のエッチングでよい。また、サファイア基板へのダメージは少ない。
【0040】
以上、説明したように、本発明によれば、結晶成長層にダメージを与えることなくサファイア基板から結晶成長層を容易に分離することができる。また、化学エッチングを適用することによって、さらに確実及び容易に結晶成長層を基板から分離することができる。このため長時間エッチング液に浸漬する必要はない。さらに、ZrB2中間層がナノコラム状態であることにより、サファイア基板に直接GaN系結晶層を成長した場合と比較して歪みが緩和されるため、ウエハの反りを小さくすることができる。
【0041】
なお、本実施例においては、AlN低温バッファ層12が島状成長状態(網目状成長状態を含む)であるように成長を行った場合について説明した。しかしながら、AlN低温バッファ層12がZrB2結晶層11の全面を覆うように、すなわち開口12Aを有しないように成長を行ってもよい。かかる場合でも、サファイア基板10とナノコラム状ZrB2層11の界面に生ずる大きな歪みに起因してサファイア基板10から結晶成長層18が容易に分離する。
【実施例2】
【0042】
図5及び図6は、実施例2である結晶成長工程を模式的に示す断面図である。上記した実施例1においては、サファイア基板10上に二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)を中間層として成長し、ZrB2中間層上にAlN低温バッファ層及びGaN層を成長する場合について説明した。本実施例においては、サファイア基板10上にZrB2中間層を成長した後、AlN低温バッファ層及びGaN層を選択成長する場合について説明する。
【0043】
まず、MOCVD法によりサファイア基板10のC面({0001}面)を主面(結晶成長面)とし、ZrB2層11を成長する(図5,STEP11)。原料としてZr(BH4)4を用い、成長温度を1190℃、成長圧力を40TorrとしてZrB2結晶をナノコラム状に成長する。また、キャリアガス及び雰囲気ガスとして水素(H2)ガスを用い、例えば、原料供給量は2.4μmol/min、成長速度は2nm/minである。当該ナノコラム状のZrB2結晶(ナノコラム結晶)層11の厚さは、例えば、約100nmであるが、これに限らない。なお、ZrB2結晶の厚さは50nmないし500nmが好ましい。
【0044】
次に、一般的なフォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成する。具体的には、例えば、ナノコラム状のZrB2結晶層11上にフォトレジスト(厚さ2μm)21を形成し、例えば、格子状にパターニングを行う(図5,STEP12)。なお、当該パターニングの形状等については後述する。レジスト21をマスクとしてZrB2結晶層11をエッチングし、除去する(図5,STEP13)。ZrB2結晶層11は、硝酸−弗酸系エッチャントによりエッチングすることができる。例えば、フッ酸(HF):硝酸(HNO3):水(H2O)=1:2:1の混合液をエッチャントとして用いることができる。
【0045】
次に、電子ビーム(EB)蒸着法などによりSiO2を蒸着し、SiO2層22の厚さが約100nmとなるように成膜する(図5,STEP14)。
【0046】
次に、リフトオフ法を用いることにより、サファイア基板10上のZrB2層11が除去された部分にSiO2層22が残る(図6,STEP15)。すなわち、レジスト21を除去することで、レジスト21上のSiO2層22が除去される。
【0047】
図7は、リフトオフ後(図6,STEP15)の上面図を示している。上記パターニングプロセスにより、ZrB2結晶層11は、例えば格子状にパターニングされる。より具体的には、ZrB2結晶層11は結晶成長面(c面)において、例えば、a軸方向([2-1-10]方向)及びこれと直交するm軸方向([01-10]方向)の各々に平行なストライプ状からなる格子状に除去される。除去されるZrB2結晶層11の幅はm軸方向(幅S1)及びa軸方向(幅S2)に、例えば、それぞれ数μm〜20μmである。また、除去されずに残された矩形形状のZrB2結晶層11の1辺の長さはm軸方向(長さZ1)及びa軸方向(長さZ2)で、例えば、それぞれ200〜300μm程度である。
【0048】
次に、AlN低温バッファ層23を成長した。より具体的には、成長温度を600℃、成長圧力を760TorrとしてAlN低温バッファ層23を成長する(図6,STEP16)。AlN低温バッファ層23の層厚は100nmである。実施例1の場合と同様に、AlN低温バッファ層23は島状成長状態又は網目状成長状態であるように形成されることが好ましい。なお、原料及びそれらの流量は実施例1の場合と同様である。
【0049】
AlN低温バッファ層23を成長した後、GaN結晶層24を成長する(図6,STEP17)。TMG、NH3を用い、成長温度は1100℃、成長圧力は80Torr、TMGの供給量は44.7μmol/min、NH3の供給量は6,120μmol/minである。また、成長層厚は1.7μm、成長速度は5μm/min、V/III比は1,370である。
【0050】
GaN結晶層24を選択成長した後、さらに、横方向成長(ELO:epitaxial lateral overgrowth)がより促進される成長条件でGaN結晶の成長を行う。例えば、成長温度は1150℃、成長圧力は90Torr、TMGの供給量は134μmol/min、NH3の供給量は101560μmol/min、成長層厚は10μm、成長速度は15μm/min、V/III比は758である。かかる横方向成長促進条件での成長によりGaN結晶層25を形成する(図6,STEP18)。従って、上記パターニングプロセスにおけるサファイア基板10上のSiO2層22の幅、すなわち除去するZrB2結晶層11の幅はGaNの横方向成長により埋め込まれる程度に設定すればよい。また、パターニングの方向は、m軸方向あるいはa軸方向に限らず、埋め込み層であるGaN結晶の成長条件等に応じて適宜選択すればよい。また、除去されずに残すZrB2結晶層11の形状も矩形形状に限らない。要は、コラム状ZrB2結晶層11を部分的に除去し、当該除去領域を、例えばSiO2等からなる選択成長用被覆材料で被覆した後、コラム状ZrB2結晶層11の非除去領域上にバッファ層をいわゆる選択成長するようにすればよい。
【0051】
上記したGaNの結晶成長においてはSiO2層22の上にはGaN結晶は成長しないが、ZrB2結晶層11上に成長したGaN結晶が横方向に成長してSiO2層22の上部を覆うようにGaN結晶が形成される。そして、SiO2層22とその上部のGaN結晶層25との間に形成される間隙27によって基板側のSiO2層22とGaN結晶層25は分離されている。
【0052】
さらに、実施例1の場合と同様に、結晶成長後の降温によって、サファイア基板10とパターニングされた矩形形状のナノコラム結晶層であるZrB2結晶層11の各々との間の界面に大きな歪みが生じることによりサファイア基板10から結晶成長層18が容易に分離する。
【0053】
従って、本実施例によれば、ZrB2結晶層11との間の界面に生じる大きな歪みによってサファイア基板10から結晶成長層28が分離され易くなる上に、さらに、SiO2層22が形成されている領域においてサファイア基板10とGaN結晶層25との分離が容易である。従って、実施例1の場合に比べ、さらにサファイア基板10と当該基板上への結晶成長層28との分離が容易である。また、化学エッチングを適用することによって、結晶成長層を基板から分離することが、さらに確実で容易になる。
【0054】
以上、説明したように、本発明によれば、結晶成長層にダメージを与えることなくサファイア基板から結晶成長層を容易に分離することができる。また、化学エッチングを適用することによって、さらに確実及び容易に結晶成長層を基板から分離することができる。このため長時間エッチング液に浸漬する必要はない。さらに、ZrB2中間層がナノコラム状態であることにより、サファイア基板に直接GaN系結晶層を成長した場合と比較して歪みが緩和されるため、ウエハの反りを小さくすることができる。
【0055】
上記した実施例1及び実施例2においては、バッファ層12,23上にGaN系結晶層13,24,25を成長する場合について説明したが、当該GaN系結晶層上にさらに結晶層を成長してもよい。例えば、GaN系結晶層13,24,25上に、発光層(活性層)、LED発光動作層や半導体レーザ素子におけるクラッド層、あるいは電子デバイス等の素子動作層を成長することができる。あるいは、上記した成長条件により成長されるGaN系結晶層13,24,25をLED発光動作層やクラッド層、素子動作層の一部として成長するようにしてもよい。
【0056】
ここで、本明細書において、動作層又は素子動作層とは、半導体素子がその機能を果たすために含まれるべき半導体で構成される層を指すこととする。例えば、単純なトランジスタであればn型半導体、p型半導体及びn型半導体(またはp型半導体、n型半導体及びp型半導体)のpn接合によって構成される構造層を含む。なお、p型半導体層、発光層及びn型半導体層(または、p型半導体層及びn型半導体層)から構成され、注入されたキャリアの再結合によって発光動作をなす半導体層を、特に、発光動作層という。
【0057】
例えば、図8に示すように、上記実施例1及び図1におけるバッファ層12上にn型GaN系クラッド層31、発光層32及びp型クラッド層33を順次成長し、これら成長層からなる素子動作層(発光動作層)30を形成してもよい。なお、バッファ層12上に成長する結晶層がGaN系結晶層であればよく、当該GaN系結晶層上に成長する結晶層は、GaN系結晶層に限らず、Gaを含まないアルミニウム(Al)及びインジウム(In)等からなる窒化物系半導体結晶層であってもよい。また、素子動作層30が発光動作層である場合を例に示したが、電子デバイス等の素子動作層であってもよいことはもちろんである。また、実施例2におけるバッファ層23(図6)上に上記したのと同様な素子動作層30を成長してもよい。
【0058】
そして、このような素子動作層30を成長した後、素子動作層30を含む結晶成長層18をサファイア基板10から分離、除去することができる。このように素子動作層30を含む結晶成長層18を基板から分離した後、電極形成及びダイシングして、電子デバイスや、LED、半導体レーザ等の発光素子を形成することができる。この場合、サファイア基板10から分離する前に結晶成長層側に支持体(UV剥離テープなど)を備えることで、電極形成やダイシング(例えば、ドライエッチングによるダイシングストリート形成なども含む)の工程におけるハンドリングを容易、確実に行うことができる。
【0059】
また、サファイア基板から分離、除去した結晶成長層は、さらに結晶層を成長するための基板として用いることができる。
【0060】
なお、サファイア基板から結晶成長層を分離、剥離した後に結晶成長層に残っているZrB2は、エッチング、研磨などにより除去することができる。
【0061】
なお、上記した実施例においては、サファイア基板上にバッファ層を介してGaN結晶を成長する場合について説明したが、これに限らない。GaN結晶に限らず、Gaの他にアルミニウム(Al),インジウム(In)等を含むGaN系化合物半導体を成長する場合についても同様に適用することができる。また、バッファ層の組成はAlNに限らず、Ga又はIn等を含むIII−V族化合物半導体バッファ層であってもよい。
【0062】
また、コラム状結晶としてZrB2結晶を用いる場合について説明したが、例示に過ぎない。他の二硼化物(TiB2)などであってもよい。
【0063】
さらに、上記した実施例においては、MOCVD法により結晶成長を行う場合を例に説明したが、ハイドライドVPE(H−VPE: Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等の他の結晶成長法を適用することもできる。例えば、GaN結晶の成長にH−VPE法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 サファイア基板
11 コラム状結晶層
12A 開口
12 バッファ層
13 GaN結晶層
18 結晶成長層
22 SiO2
23 低温バッファ層
24 GaN結晶層
25 GaN結晶層
27 間隙
28 結晶成長層
30 素子動作層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア(Al23)基板上にGaN系化合物半導体を結晶成長する方法であって、
前記サファイア基板上にコラム状結晶層を成長する工程と、
前記コラム状結晶層上にバッファ層を成長する工程と、
前記バッファ層上にGaN系化合物結晶を成長する工程と、を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記バッファ層は島状成長状態又は網目状成長状態であるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コラム状結晶層は六方晶構造結晶層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記六方晶構造結晶層は、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)結晶層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記バッファ層は、窒化アルミニウム(AlN)系結晶層であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記サファイア基板の結晶成長面は{0001}面であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バッファ層を成長する工程は、前記コラム状結晶層を部分的に除去し、当該除去領域を選択成長用被覆材料で被覆する被覆工程と、前記コラム状結晶層の非除去領域上にバッファ層を成長する選択成長工程と、を含み、
前記GaN系化合物結晶を成長する工程は、横方向成長(ELO)によりGaN系化合物結晶を成長する横方向成長工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
サファイア基板上に形成されたコラム状結晶層と、
前記コラム状結晶層上にMOCVD法により成長されたバッファ層と、
前記バッファ層上に成長されたGaN系化合物結晶層と、からなることを特徴とする結晶成長層付き基板。
【請求項9】
前記バッファ層は島状成長状態又は網目状成長状態であるように形成されていることを特徴とする請求項8に記載の結晶成長層付き基板。
【請求項10】
前記コラム状結晶層は六方晶構造結晶層であることを特徴とする請求項8に記載の結晶成長層付き基板。
【請求項11】
前記六方晶構造結晶層は、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)結晶層であることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1に記載の結晶成長層付き基板。
【請求項12】
前記バッファ層は、窒化アルミニウム(AlN)系結晶層であることを特徴とする請求項8に記載の結晶成長層付き基板。
【請求項13】
GaN系化合物結晶成長層の製造方法であって、
サファイア基板上にコラム状結晶層を成長する工程と、
前記コラム状結晶層上にバッファ層を成長する工程と、
前記バッファ層上にGaN系化合物結晶を成長する工程と、
前記GaN系化合物結晶層を成長する工程の後に、前記サファイア基板を除去する工程と、を有することを特徴とする製造方法。
【請求項14】
前記バッファ層は、島状成長又は網目状成長バッファ層であることを特徴とする請求項14に記載の製造方法。
【請求項15】
前記GaN系化合物結晶層を成長する工程は、GaN系結晶を成長し、前記GaN系結晶上に窒化物結晶層からなる素子動作層を成長する工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−180114(P2010−180114A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26762(P2009−26762)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】