説明

ハイブリッド型建設機械

【課題】連続運転を実現することにより、作業効率を向上可能なハイブリッド型建設機械を提供する。
【解決手段】ショベルでは、コントローラ30は、インバータを冷却するための冷却水の温度が出力抑制温度以上になった場合には、旋回用電動機等の交流電動機に供給される電流の上限値を小さくする制御を行う。これにより、インバータにおける温度上昇が抑制される。出力抑制温度は、インバータが交流電動機への電流の供給を停止する機構の動作を開始させる温度である運転停止温度より低いので、交流電動機が停止される前に、インバータが交流電動機に供給する電流の上限値を小さくする制御がコントローラにより実施される。これにより、交流電動機の温度異常による停止が防止され、ショベルの連続運転が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド型建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動機構の一部を電動化したハイブリッド型の建設機械が提案されている。このような作業機械は、ブーム、アーム、及びバケット等の可動部を油圧駆動するための油圧ポンプを備えており、この油圧ポンプを駆動するためのエンジンに交流電動機(電動発電機)を連結し、該エンジンの駆動力を補助するとともに、発電により得られる電力を蓄電池(バッテリ)に充電している。
【0003】
また、上部旋回体を旋回させるための動力源として油圧モータに加えて交流電動機を備え、加速旋回時に交流電動機で油圧モータの駆動をアシストし、減速旋回時に交流電動機で回生運転を行い、発電される電力をバッテリに充電している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−103112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動発電機及び旋回のための交流電動機並びにこれらの装置を駆動制御する駆動制御装置(インバータ等)は、動作時の電力消費に起因して発熱するため、ハイブリッド型建設機械は、これらの装置を冷却するための冷却機構を備えている。さらに、これらの装置の温度異常による焼損を防止するために、駆動制御装置等は、当該駆動制御装置等が閾値以上の温度となった場合に動作を停止させるための構成を備えている。一方、建設機械が使用される現場においては、作業効率向上のため、連続運転が可能であることが好ましい。温度上昇により駆動制御装置等が停止すると、連続運転が不可能となり、作業効率の低下を招来する。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、連続運転を実現することにより、作業効率を向上可能なハイブリッド型建設機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッド型建設機械は、作業要素を駆動するための交流電動機と、交流電動機を駆動制御する第1の駆動制御手段と、第1の駆動制御手段を冷却する冷却装置と、冷却装置における冷媒の温度を検出する温度検出手段と、第1の駆動制御手段を制御するコントローラとを備え、第1の駆動制御手段は、第1の駆動制御手段の温度が所定の運転停止温度以上であることを検出した場合に、交流電動機を駆動するための電流の供給を停止する機構を有し、コントローラは、温度検出手段から取得した冷媒の温度が所定の出力抑制温度より大きい場合には、冷媒の温度が出力抑制温度以下の場合と比較して、交流電動機に供給される電流の上限値を小さくするように第1の駆動制御手段を制御し、出力抑制温度は、運転停止温度より低いことを特徴とする。
【0008】
本発明のハイブリッド型建設機械では、第1の駆動制御手段を冷却するための冷媒の温度が出力抑制温度以上になった場合には、交流電動機に供給される電流の上限値が小さくされるので、第1の駆動制御手段における温度上昇が抑制される。出力抑制温度は、運転停止温度より低いので、第1の駆動制御手段が交流電動機への電流の供給を停止する機構の動作を開始させる前に、第1の駆動制御手段が交流電動機に供給する電流の上限値を小さくする制御がコントローラにより実施される。これにより、交流電動機の温度異常による停止が防止され、ハイブリッド建設機械の連続運転が実現される。
【0009】
また、ハイブリッド型建設機械では、コントローラは、交流電動機に発生させるトルクの上限値を制限することにより、交流電動機に供給される電流の上限値を小さくするように駆動制御手段を制御することを特徴とする。この場合には、トルクの上限値を制限することにより、交流電動機に供給される電流の上限値を適切に制御することができる。
【0010】
また、ハイブリッド型建設機械は、内燃機関に接続された電動発電機と、電動発電機を駆動制御する第2の駆動制御手段とを備え、冷却装置は、第1及び第2の駆動制御手段を冷却し、コントローラは、第1及び第2の駆動制御手段を制御すると共に、温度検出手段から取得した冷媒の温度が所定の出力抑制温度より多きい場合には、冷媒の温度が出力抑制温度以下の場合と比較して、交流電動機及び電動発電機に供給される電流の上限値を小さくするように第1及び第2の駆動制御手段を制御することを特徴とする。この場合には、コントローラは、交流電動機及び電動発電機のそれぞれに供給される電流の上限値を小さくするように、第1の駆動制御手段及び第2の駆動制御手段の制御を実施するので、温度上昇による交流電動機及び電動発電機の停止を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続運転を実現することにより、作業効率を向上可能なハイブリッド型建設機械を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る作業機械の一例として、ショベルの外観を示す斜視図である。
【図2】ショベルの電気系統や油圧系統といった内部構成を示すブロック図である。
【図3】インバータの構成を示す概略構成図である。
【図4】ショベルが備える冷却装置における冷却水の配管の一例を示す図である。
【図5】コントローラの構成を示す概略構成図である。
【図6】インバータ制御部の構成を示すブロック図である。
【図7】コントローラにおいて実施される処理内容を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態におけるインバータの制御実施時におけるトルク、旋回体の旋回速度及び旋回用電動機の回転速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のハイブリッド型作業機械の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、図面の説明において、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明に係るハイブリッド型建設機械の一例として、ショベル1の外観を示す斜視図である。図1に示すように、ショベル1は、無限軌道を含む走行機構2と、走行機構2の上部に旋回機構3を介して回動自在に搭載された旋回体4とを備えている。旋回体4には、ブーム5と、ブーム5の先端にリンク接続されたアーム6と、アーム6の先端にリンク接続されたバケット10とが取り付けられている。バケット10は、鋼材などの吊荷Gを磁力により吸着して捕獲するための設備である。ブーム5、アーム6、及びバケット10は、それぞれブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によって油圧駆動される。また、旋回体4には、バケット10の位置や励磁動作および釈放動作を操作する操作者を収容するための運転室4aや、油圧を発生するためのエンジン11といった動力源が設けられている。エンジン11は、例えばディーゼルエンジンで構成される。
【0015】
図2は、本実施形態のショベル1の電気系統や油圧系統といった内部構成を示すブロック図である。なお、図2では、機械的に動力を伝達する系統を二重線で、油圧系統を太い実線で、操縦系統を破線で、電気系統を細い実線でそれぞれ示している。
【0016】
図2に示すように、ショベル1は電動発電機12および減速機13を備えており、エンジン11及び電動発電機12の回転軸は、共に減速機13の入力軸に接続されることにより互いに連結されている。エンジン11の負荷が大きいときには、電動発電機12が自身の駆動力によりエンジン11の駆動力を補助(アシスト)し、電動発電機12の駆動力が減速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。一方、エンジン11の負荷が小さいときには、エンジン11の駆動力が減速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電を行う。電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnetic)モータによって構成される。電動発電機12の駆動と発電との切り替えは、ショベル1における電気系統の駆動制御を行うコントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
【0017】
減速機13の出力軸にはメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されており、メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。コントロールバルブ17は、ショベル1における油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ17には、図1に示した走行機構2を駆動するための油圧モータ2A及び2Bの他、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続されており、コントロールバルブ17は、これらに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0018】
電動発電機12の電気的な端子には、インバータ18A(第2の駆動制御手段)の出力端が接続されている。インバータ18Aの入力端には、蓄電手段100が接続されている。蓄電手段100は、例えば蓄電池であるバッテリと、バッテリの充放電を制御する昇降圧コンバータと、正極及び負極の直流配線からなるDCバスとを備えている(図示せず)。ここで、DCバスは一定電圧蓄電部を構成し、バッテリは変動電圧蓄電部を構成する。即ち、インバータ18Aの入力端は、DCバスを介して昇降圧コンバータの入力端に接続されることとなる。昇降圧コンバータの出力端には、バッテリが接続されている。
【0019】
インバータ18Aは、コントローラ30からの指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う。すなわち、インバータ18Aが電動発電機12を力行運転させる際には、必要な電力をバッテリ及び昇降圧コンバータからDCバスを介して電動発電機に供給する。また、電動発電機12を回生運転させる際には、電動発電機12により発電された電力をDCバス及び昇降圧コンバータを介してバッテリに充電する。なお、昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧値、バッテリ電圧値、及びバッテリ電流値に基づき、コントローラ30によって行われる。これにより、DCバスを、予め定められた一定電圧値に蓄電された状態に維持することができる。
【0020】
蓄電手段100には、インバータ18Bを介してブーム回生用発電機300が接続されている。ブームシリンダ7に油圧モータ310が接続されており、ブーム回生用発電機300の回転軸は、油圧モータ310によって駆動される。ブーム回生用発電機300は、ブーム5が重力の作用により下げられるときに、位置エネルギを電気エネルギに変換する電動作業要素である。
【0021】
油圧モータ310は、ブーム5が下げられるときにブームシリンダ7から吐出される油によって回転されるように構成されており、ブーム5が重力に従って下げられるときのエネルギを回転力に変換するために設けられている。油圧モータ310は、コントロールバルブ17とブームシリンダ7の間の油圧管7Aに設けられている。ブーム回生用発電機300で発電された電力は、回生エネルギとしてインバータ18Bを経て蓄電手段100に供給される。
【0022】
更に、蓄電手段100には、インバータ18C(第1の駆動制御手段)を介して作業用電動機としての旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21は、旋回体4を旋回させる旋回機構3の動力源である。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。
【0023】
旋回用電動機21が力行運転を行う際には、旋回用電動機21の回転駆動力の回転力が旋回減速機24にて増幅され、旋回体4が加減速制御され回転運動を行う。また、旋回体4の慣性回転により、旋回減速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させる。旋回用電動機21は、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号によりインバータ18Cによって交流駆動される。旋回用電動機21としては、例えば、磁石埋込型のIPMモータが好適である。
【0024】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサであり、旋回用電動機21と機械的に連結することで回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出する。レゾルバ22が回転軸21Aの回転角度を検出することにより、旋回機構3の回転角度及び回転方向が導出される。メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、コントローラ30からの指令によって、旋回用電動機21の回転軸21Aを機械的に停止させる。旋回減速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度を減速して旋回機構3に機械的に伝達する減速機である。
【0025】
パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26(操作手段)が接続されている。操作装置26は、旋回用電動機21、走行機構2、ブーム5、アーム6、及びバケット10を操作するための操作装置であり、操作者によって操作される。操作装置26には、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17が接続され、また、油圧ライン28を介して圧力センサ29が接続される。操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を操作者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。
【0026】
圧力センサ29は、操作装置26に対して旋回機構3を旋回させるための操作が入力されると、この操作量を油圧ライン28内の油圧の変化として検出する。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力され、旋回用電動機21の駆動制御に用いられる。
【0027】
コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置によって構成され、内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムをCPUが実行することにより実現される。コントローラ30は、各種センサ及び操作装置26等からの操作入力を受けて、インバータ18A,18B,18C及び蓄電手段100等の駆動制御を行う。
【0028】
次に、図3を参照して、インバータ18について説明する。図3は、インバータ18の構成を示す概略構成図である。
【0029】
インバータ18は、コントローラ30からのPWM信号により制御され、旋回用電動機21等のモータを駆動するためのモータ駆動信号を生成して出力する。インバータ18の内部には、インバータの回路を構成するトランジスタを組み込んだインテリジェントパワーモジュール(IPM:Intelligent Power Module)18aが構成されている。IPM18aは、温度センサ等の各種センサ18bを搭載している。各種センサ18bは、過電流、制御電源電圧低下、出力短絡、温度異常といった事象を検出し、これらの事象を検出した場合には、IPMエラー信号を出力する。ここで、温度異常の事象は、インバータ18の温度が所定の運転停止温度TIh以上になったことを意味する。運転停止温度は、例えば100℃に設定される。IPM18aは、IPMエラー信号を検出すると、駆動対象のモータやインバータ18の焼損防止のために、駆動対象のモータを駆動するための電流の供給を停止する。この場合には、ショベル1の動作自体も停止され、連続運転が中断される。
【0030】
続いて図4を参照して、ショベル1が備える冷却装置について説明する。図4は、冷却装置における冷却水の配管の一例を示す図である。
【0031】
図4に示すように冷却装置は、タンク400、ポンプ401、ポンプモータ402、ラジエタ403及び水温計404(温度検出手段)を備える。この冷却装置における冷却水(冷媒)は、タンク400に蓄えられており、ポンプモータ402により駆動されるポンプ401によりラジエタ403に送られる。ラジエタ403で冷却された冷却水は、配管によりコントローラ30を経由して、インバータ18A,18B,18C、昇降圧コンバータ102、バッテリ101に送られる。冷却水は、さらに旋回用電動機21、電動発電機12、減速機13を経由してタンク400に戻される。水温計404は、ラジエタ403から送出された冷却水の温度を検出し、検出した温度に関する情報をコントローラ30に送出する。
【0032】
また、コントローラ30への冷却水の配管は、ラジエター403と直結されている。これにより、コントローラ30内のCPUに対する冷却性能を確保することができるので、ショベル1の信頼性が確保される。図4では、コントローラ30の冷却に使用した冷却水がインバータ18A〜18C、昇降圧コンバータ102等の冷却に用いられるように配管が接続されているが、ラジエタ403からの配管が、コントローラ30、インバータ18A〜18C、昇降圧コンバータ102等に並列接続されることとしてもよい。
【0033】
続いて、図5を参照して、コントローラ30について説明する。図5は、コントローラ30の機能的構成を示す概略構成図である。
【0034】
図5に示すようにコントローラ30は、全体制御部30D、インバータ制御部30A,30B,30Cを含む。全体制御部30Dは、ショベル1が備える各構成要素の全体的な制御を実施する部分であり、インバータ制御部30A,30B,30Cに対して速度指令、トルクリミット値といった各種情報を送出する。また、全体制御部30Dは、水温計404から送出された冷却水の温度に関する情報を取得する。
【0035】
全体制御部30Dがインバータ制御部30A,30B,30Cに送出するトルクリミット値は、インバータ18A,18B,18Cから、電動発電機12、ブーム回生用発電機300、旋回用電動機21に供給される電流の上限値を設定するために用いられる。即ち、全体制御部30Dは、水温計404から取得した冷却水の温度Tが所定の出力抑制温度Tth以上である場合には、冷却水の温度Tが出力抑制温度Tthより低い場合と比較して、電動発電機12、ブーム回生用発電機300、旋回用電動機21に供給される電流の上限値を小さくするようにインバータ18A,18B,18Cを制御する。ここで、冷却水はコントローラ30内のCPUに対する冷却性能を維持する必要があるため、出力抑制温度Tthは、インバータの運転停止温度TIhより低く設定される。具体的には、出力抑制温度Tthは、インバータ18のIPM18aにおいて、IPMエラー信号が出力される事象の1つである温度異常の基準温度である運転停止温度より低く設定される。これにより、インバータ18A,18B,18Cが電動発電機12、ブーム回生用発電機300、旋回用電動機21への電流の供給を停止させる機構の動作を開始する前に、供給される電流の上限値を小さくするような制御がコントローラ30により行われる。従って、電動発電機12、ブーム回生用発電機300、旋回用電動機21の温度異常による運転停止が防止され、ショベル1の連続運転が実現される。ここでコントローラ30により行われる制御の詳細については後述する。
【0036】
インバータ制御部30A,30B,30Cはそれぞれ、インバータ18A,18B,18Cを制御する部分である。ここで、図6を参照して、インバータ制御部30について説明する。図6はインバータ制御部30Cの構成を示すブロック図である。なお、インバータ制御部30A,30Bは、インバータ制御部30Cと同様の構成を有する。
【0037】
図6に示すように、インバータ制御部30C(30)は、減算器31、PI制御部32、トルク制限部33、減算器34、PI制御部35、電流変換部37、旋回動作検出部38及びPWM信号生成部40を備える。
【0038】
減算器31は、旋回用電動機21に駆動される作業要素の旋回速度の速度指令値から、旋回動作検出部38により検出される旋回速度値を減算して偏差を出力する。旋回速度の速度指令値は、例えば操作装置26の操作量に応じた指令値であり(図2参照)、コントローラ30の全体制御部30Dから送出される。
【0039】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転位置の変化を検出する。旋回動作検出部38は、旋回用電動機21の回転位置の変化に基づいて旋回速度値を算出し、減算器31に出力する。
【0040】
PI制御部32は、減算器31から出力された偏差に基づいて、旋回用電動機21の回転速度を速度指令値に近づけて偏差が小さくなるようにPI制御を行い、その制御のためのトルク電流指令値を生成する。PI制御部32は、トルク電流指令値をトルク制限部33に出力する。
【0041】
トルク制限部33は、PI制御部32から出力されたトルク電流指令値によって旋回用電動機21に生じるトルクが、旋回用電動機21の許容トルク値以下になるように、トルク電流指令値を所定のトルクリミット値(トルクの上限値)の範囲に制限する。このトルクリミット値は、全体制御部30Dから送出され、トルク制限部33は、送出されたトルクリミット値を取得する。インバータ18Cを制御するインバータ制御部30Cでは、通常時には、例えば加速時トルクリミット値Xは駆動対象の旋回用電動機21における定格トルクの150%、減速時トルクリミット値Xは定格トルクの250%に設定される。
【0042】
ここで、図7のフローチャートを参照して、コントローラ30の全体制御部30Dにおいて実行されるトルクリミット値の設定処理を説明する。
【0043】
ステップS1において、全体制御部30Dは、水温計404から取得した冷却水の温度Tが所定の出力抑制温度Tthより大きいか否かを判定する。出力抑制温度Tthは、例えば60℃に設定される。冷却水の温度Tが所定の出力抑制温度Tthより大きい場合には、処理はステップS2に進められ、冷却水の温度Tが所定の出力抑制温度Tthより大きくない場合には、ステップS1の判定処理が繰り返される。
【0044】
ステップS2において、全体制御部30Dは、インバータ制御部30のトルク制限部33のためのトルクリミット値を、加速時トルクリミット値X及び減速時トルクリミット値Xから、加速時抑制トルクリミット値X及び減速時抑制トルクリミット値Xに変更する。加速時抑制トルクリミット値Xは、例えば旋回用電動機21における定格トルクの100%に設定され、減速時抑制トルクリミット値Xは、例えば旋回用電動機21における定格トルクの150%に設定される。これにより、旋回用電動機21に供給される電流の上限値を小さくするようにインバータ18Cを制御することができる。なお、設定の基準とする定格トルクは、電動発電機12、ブーム回生用発電機300、旋回用電動機21といった駆動対象に応じた値が用いられる。
【0045】
ステップS3において、全体制御部30Dは、水温計404から取得した冷却水の温度Tが出力抑制温度Tth以下に戻ったか否かを判定する。冷却水の温度Tが出力抑制温度Tth以下になった場合には、処理はステップS4に進められ、冷却水の温度Tが出力抑制温度Tth以下でない場合には、ステップS3の判定処理が繰り返され、トルクリミット値は、加速時抑制トルクリミット値X及び減速時抑制トルクリミット値Xが設定されたままとなる。
【0046】
ステップS4において、全体制御部30Dは、トルク制限部33のためのトルクリミット値を、加速時抑制トルクリミット値X及び減速時抑制トルクリミット値Xから、加速時トルクリミット値X及び減速時トルクリミット値Xに戻す。
【0047】
ここで再び図6を参照して、減算器34は、トルク制限部33から出力されたトルク電流指令値から、電流変換部37からの出力値を減算して偏差を出力する。
【0048】
電流変換部37は、旋回用電動機21のモータ駆動信号の電流値を検出し、検出したモータ駆動信号の電流値をトルク電流指令値に相当する値に変換して、減算器34に出力する。
【0049】
PI制御部35は、減算器34から出力された偏差を取得し、この偏差が小さくなるようなPI制御を行い、インバータ18Cを駆動するための駆動指令を生成する。PI制御部35は、駆動指令をPWM信号生成部40に出力する。
【0050】
PWM信号生成部40は、PI制御部35からの駆動指令に基づいて、インバータ18Cのトランジスタをスイッチング制御するためのPWM信号を生成し、インバータ18Cに出力する。
【0051】
次に、コントローラ30の全体制御部30Dによりトルクリミット値の設定が行われたときの、トルク、旋回体4の旋回速度及び旋回用電動機21の回転速度を図8に示す。図8(a)は、運転操作によって時間に対して変化するトルクの状態を示したグラフであり、図8(b)は、旋回体4の旋回速度を示したグラフであり、図8(c)は、旋回用電動機21の回転速度を示したグラフである。これらのグラフにおいて、通常時は実線で示され、トルクリミット値が変更された場合は破線で示されている。
【0052】
図8(a)及び(b)に示すように、通常時には、時刻t0〜t1において、旋回用電動機21の定格トルクの150%のトルクで旋回体4の旋回が加速される。これに対して、トルクリミット値が変更された場合には、時刻t0〜t2において、定格トルクの100%のトルクで旋回体4の旋回が加速される。トルクリミット値が変更された場合における加速度は、通常時と比較して小さくなっている。また、トルクリミット値が変更された場合における加速の結果到達する旋回速度は、通常時と比較して遅くなっており、通常時の60%程度である。
【0053】
時刻t3から減速操作を行うと、通常時には、時刻t3〜t4において、旋回用電動機21の定格トルクの250%のトルクで旋回体4の旋回が減速される。一方、トルクリミット値が変更された場合には、時刻t3〜t5において、定格トルクの150%のトルクで旋回体4の旋回が減速される。トルクリミット値が変更された場合における加速度は、通常時と比較して小さくなっている。また、トルクリミット値が変更された場合には、通常時と比較して、停止するための時間が多く要される。
【0054】
また、図8(c)に示すように、エンジン11の回転数が一定であることに起因して、旋回用電動機21の回転速度は、トルクリミット値が変更された場合及び通常時共に一定となる。このため、旋回用電動機21に対する負荷の状況によりトルクが変動することとなり、変動するトルクに対応して、インバータ18Cから旋回用電動機21に電流が供給される。従って、トルクリミット値を設定することにより、旋回用電動機21に供給される電流の上限を制御することが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のショベル1では、インバータ18を冷却するための冷却水の温度が出力抑制温度Tth以上になった場合には、旋回用電動機21等の交流電動機に供給される電流の上限値が小さくされるので、インバータ18における温度上昇が抑制される。出力抑制温度Tthは、IPM18aにおける運転停止温度TIhより低いので、インバータ18が交流電動機への電流の供給を停止する機構の動作を開始させる前に、インバータ18が交流電動機に供給する電流の上限値を小さくする制御がコントローラにより実施される。このように、インバータ18a内の温度センサの検出値が運転停止温度TIh以上になるとショベル1の機械を停止させることが可能であるため、冷却水の温度が上昇しても直ちに機械を停止させる必要はない。これにより、インバータ18の温度異常による停止が防止され、ショベル1の連続運転が実現される。
【0056】
なお、以上の実施形態では、本発明に係るハイブリッド型建設機械の一例として、ショベル1を示したが、本発明のハイブリッド型建設機械の他の例としては、リフティングマグネット車両、ホイルローダ及びクレーン等が挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
1…ショベル、2…走行機構、2A…油圧モータ、3…旋回機構、4…旋回体、4a…運転室、5…ブーム、6…アーム、7…ブームシリンダ、7A…油圧管、8…アームシリンダ、9…バケットシリンダ、10…バケット、11…エンジン、12…電動発電機、13…減速機、14…メインポンプ、15…パイロットポンプ、16…高圧油圧ライン、17…コントロールバルブ、18,18A,18B,18C…インバータ、18b…各種センサ、21…旋回用電動機、22…レゾルバ、23…メカニカルブレーキ、24…旋回減速機、25…パイロットライン、26…操作装置、27,28…油圧ライン、29…圧力センサ、30…コントローラ、30A,30B,30C…インバータ制御部、30D…全体制御部、31…減算器、32…制御部、33…トルク制限部、34…減算器、35…制御部、37…電流変換部、38…旋回動作検出部、40…PWM信号生成部、100…蓄電手段、101…バッテリ、102…昇降圧コンバータ、300…ブーム回生用発電機、310…油圧モータ、400…タンク、401…ポンプ、402…ポンプモータ、403…ラジエタ、404…水温計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業要素を駆動するための交流電動機と、
前記交流電動機を駆動制御する第1の駆動制御手段と、
前記第1の駆動制御手段を冷却する冷却装置と、
前記冷却装置における冷媒の温度を検出する温度検出手段と、
前記第1の駆動制御手段を制御するコントローラとを備え、
前記第1の駆動制御手段は、該第1の駆動制御手段の温度が所定の運転停止温度以上であることを検出した場合に、前記交流電動機を駆動するための電流の供給を停止する機構を有し、
前記コントローラは、前記温度検出手段から取得した前記冷媒の温度が所定の出力抑制温度より大きい場合には、前記冷媒の温度が前記出力抑制温度以下の場合と比較して、前記交流電動機に供給される電流の上限値を小さくするように前記第1の駆動制御手段を制御し、
前記出力抑制温度は、前記運転停止温度より低い
ことを特徴とするハイブリッド型建設機械。
【請求項2】
前記コントローラは、前記交流電動機に発生させるトルクの上限値を制限することにより、前記交流電動機に供給される電流の上限値を小さくするように前記駆動制御手段を制御することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド型建設機械。
【請求項3】
内燃機関に接続された電動発電機と、
前記電動発電機を駆動制御する第2の駆動制御手段とを備え、
前記冷却装置は、前記第1及び第2の駆動制御手段を冷却し、
前記コントローラは、前記第1及び第2の駆動制御手段を制御すると共に、前記温度検出手段から取得した前記冷媒の温度が所定の出力抑制温度より大きい場合には、前記冷媒の温度が前記出力抑制温度以下の場合と比較して、前記交流電動機及び前記電動発電機に供給される電流の上限値を小さくするように前記第1及び第2の駆動制御手段を制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド型建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−222815(P2010−222815A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70091(P2009−70091)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】