説明

半導体基板、電子デバイス、および半導体基板の製造方法

【課題】電子デバイスのスイッチング速度等の性能を向上させる。半導体基板の結晶性を向上させる。
【解決手段】ベース基板と、絶縁層と、Si結晶層とをこの順に有する半導体基板であって、Si結晶層上に化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層が設けられ、阻害層はSi結晶層にまで貫通する開口を有し、開口の内部にシード結晶を備え、化合物半導体はシード結晶に格子整合または擬格子整合している半導体基板を提供する。サブストレートと、サブストレート上に設けられた絶縁層と、絶縁層上に設けられたSi結晶層と、Si結晶層上に設けられ化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層であって、Si結晶層にまで貫通する開口を有する阻害層と、開口の内部に設けられたシード結晶と、シード結晶に格子整合または擬格子整合する化合物半導体と、化合物半導体を用いて形成された半導体デバイスとを備える電子デバイスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、電子デバイス、および半導体基板の製造方法に関する。本発明は、特に、安価なSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて、絶縁膜上に結晶性の優れた化合物半導体結晶薄膜を形成した半導体基板、電子デバイス、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs系等の化合物半導体結晶を用いた電子デバイスとして、ヘテロ接合を利用する各種の高機能電子デバイスが開発されている。化合物半導体結晶の結晶性が電子デバイスの性能を左右するので、良質な結晶薄膜が求められている。GaAs系の化合物半導体結晶を用いた電子デバイスを製造する場合、ヘテロ界面での格子整合等の要請から、GaAsあるいはGaAsと格子定数が極めて近いGe等のベース基板の上に薄膜が結晶成長される。
【0003】
特許文献1には、格子不整合を有する基板または転位欠陥密度の大きな基板の上に成長されたエピタキシャル領域の限定区域を有する半導体デバイスが記載されている。非特許文献1には、ラテラルエピタキシャルオーバーグロース法によるGeで被覆されたSi基板上の低転位密度GaAsエピタキシャル層が記載されている。非特許文献2には、Si基板上に高品質のGeエピタキシャル成長層(以下、Geエピ層という場合がある。)を形成する技術が記載されている。当該技術では、Geエピ層をSi基板上に領域を限定して形成した後、Geエピ層にサイクル熱アニールを施すことで、Geエピ層の平均転位密度が2.3×10cm−2になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−233720号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B.Y.Tsaur et.al. 「Low−dislocation−density GaAs epilayers grown on Ge−coated Si substrates by means of lateral epitaxial overgrowth」、Appl.Phys.Lett. 41(4)347−349、15 August 1982.
【非特許文献2】Hsin−Chiao Luan et.al. 「High−quality Ge epilayers on Si with low threading−dislocation densities」、APPLIED PHYSICS LETTERS、VOLUME 75, NUMBER 19、8 NOVEMBER 1999.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GaAs系の電子デバイスは、GaAs基板、あるいは、Ge基板等のGaAsに格子整合させることが可能な基板上に形成されることが好ましい。しかし、GaAs基板あるいはGe基板等のGaAsに格子整合できる基板は高価である。さらに、これらの基板の放熱特性は十分でなく、余裕のある熱設計をするためにはデバイスの形成密度を抑制する必要がある。そこで、安価なSi基板を用いて形成されるGaAs系等の化合物半導体の結晶薄膜を有する良質な半導体基板が求められている。さらに、GaAs系の電子デバイスによる高速なスイッチングを実現できる半導体基板が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、ベース基板と、絶縁層と、Si結晶層とをこの順に有する半導体基板であって、Si結晶層上に化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層が設けられ、阻害層はSi結晶層にまで貫通する開口を有し、開口の内部にシード結晶を備え、化合物半導体はシード結晶に格子整合または擬格子整合している半導体基板が提供される。また、化合物半導体の開口に含まれる部分は(√3)/3以上のアスペクト比を有する。
【0008】
また、シード結晶の化合物半導体との界面は気体のP化合物により表面処理されている。シード結晶は、例えば、結晶成長したSiGe1−x(0≦x<1)結晶または500℃以下の温度で結晶成長したGaAsを含む。化合物半導体は3−5族化合物半導体または2−6族化合物半導体である。化合物半導体は、3−5族化合物半導体であり、3族元素としてAl、Ga、Inのうち少なくとも1つを含み、5族元素としてN、P、As、Sbのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0009】
開口の底面積は1mm2以下である。開口の底面積は1600μm2以下であってもよい。開口の底面積は900μm2以下であってもよい。開口の底面の最大幅は80μm以下である。開口の底面の最大幅は40μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。阻害層の外形の最大幅は4250μm以下である。阻害層の外形の最大幅が400μm以下であってもよい。
【0010】
ベース基板は(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面から傾いたオフ角を有する主面を有し、開口の底面が長方形であり、長方形の一辺が、ベース基板の<010>方向、<0−10>方向、<001>方向、および<00−1>方向のいずれか一つと実質的に平行である。ベース基板が(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面から傾いたオフ角を有する主面を有し、開口の底面が六角形であり、六角形の一辺が、ベース基板の<1−10>方向、<−110>方向、<0−11>方向、<01−1>方向、<10−1>方向、および<−101>方向のいずれか一つと実質的に平行であってもよい。
【0011】
半導体基板は、化合物半導体が、シード結晶上で、阻害層の表面よりも凸に結晶成長したシード化合物半導体結晶と、シード化合物半導体結晶を核として阻害層に沿ってラテラル成長したラテラル成長化合物半導体結晶とを有する半導体基板が提供されてもよい。ラテラル成長化合物半導体結晶は、シード化合物半導体結晶を核として阻害層に沿ってラテラル成長した第1化合物半導体結晶と、第1化合物半導体結晶を核として阻害層に沿って第1化合物半導体結晶と異なる方向にラテラル成長した第2化合物半導体結晶とを有する。例えば、ラテラル成長化合物半導体結晶は3−5族化合物半導体または2−6族化合物半導体である。
【0012】
また、阻害層が複数の開口を有し、複数の開口のそれぞれの内部に設けられたシード結晶に格子整合または擬格子整合している化合物半導体は、隣接する開口の内部に設けられたシード結晶に格子整合または擬格子整合している化合物半導体と接しないでもよい。例えば、複数の開口は等間隔に設けられている。
【0013】
半導体基板は、化合物半導体がPを含む3−5族化合物半導体からなるバッファ層を含み、バッファ層がシード結晶に格子整合または擬格子整合していてもよい。また、半導体基板は、Si結晶層におけるシード結晶に覆われていない部分に設けられたSi半導体デバイスを備えてもよい。さらに、半導体基板は、ベース基板が単結晶のSiであり、ベース基板におけるシード結晶が設けられていない部分に設けられたSi半導体デバイスを備えてもよい。
【0014】
Si結晶層のシード結晶が形成される面は、(100)面、(110)面、(111)面、(100)面と結晶学的に等価な面、(110)面と結晶学的に等価な面、および(111)面と結晶学的に等価な面、から選択されたいずれか一つの結晶面から傾いたオフ角を有する。オフ角が2°以上6°以下であってよい。
【0015】
本発明の第2の形態においては、サブストレートと、サブストレート上に設けられた絶縁層と、絶縁層上に設けられたSi結晶層と、Si結晶層上に設けられ化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層であって、Si結晶層にまで貫通する開口を有する阻害層と、開口の内部に設けられたシード結晶と、シード結晶に格子整合または擬格子整合する化合物半導体と、化合物半導体を用いて形成された半導体デバイスとを備える電子デバイスが提供される。化合物半導体が、シード結晶上で、阻害層の表面よりも凸に結晶成長したシード化合物半導体結晶と、シード化合物半導体結晶を核として阻害層に沿ってラテラル成長したラテラル成長化合物半導体結晶とを有してもよい。
【0016】
本発明の第3の形態においては、ベース基板と、絶縁層と、Si結晶層とをこの順に有するSOI基板を準備する段階と、Si結晶層上に、化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層を設ける段階と、Si結晶層にまで貫通する開口を阻害層に形成する段階と、開口の内部でシード結晶を成長させる段階と、シード結晶に格子整合または擬格子整合する化合物半導体を結晶成長させる段階とを備える半導体基板の製造方法が提供される。開口を形成する段階は、複数の開口を等間隔に形成する段階を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】半導体基板10の断面の一例を概略的に示す。
【図2】半導体基板20の断面の一例を概略的に示す。
【図3】一実施形態に係る電子デバイス100の平面例を示す。
【図4】図3におけるA−A線断面を示す。
【図5】図3におけるB−B線断面を示す。
【図6】電子デバイス100の製造過程における断面例を示す。
【図7】電子デバイス100の製造過程における断面例を示す。
【図8】電子デバイス100の製造過程における断面例を示す。
【図9】電子デバイス100の製造過程における断面例を示す。
【図10】電子デバイス100の製造過程における断面例を示す。
【図11】電子デバイス100の他の製造過程における断面例を示す。
【図12】電子デバイス100の他の製造過程における断面例を示す。
【図13】電子デバイス200の平面例を示す。
【図14】電子デバイス300の平面例を示す。
【図15】電子デバイス400の断面例を示す。
【図16】電子デバイス500の断面例を示す。
【図17】電子デバイス600の断面例を示す。
【図18】電子デバイス700の断面例を示す。
【図19】本実施形態の半導体基板801の平面例を示す。
【図20】領域803を拡大して示す。
【図21】半導体基板801の断面例を、阻害層804で被覆される被覆領域の開口806に形成されるHBTと共に示す。
【図22】作成した半導体基板の断面の模式図を示す。
【図23】アニールをしていないGe結晶層2106の断面形状を示す。
【図24】700℃でアニールをしたGe結晶層2106の断面形状を示す。
【図25】800℃でアニールをしたGe結晶層2106の断面形状を示す。
【図26】850℃でアニールをしたGe結晶層2106の断面形状を示す。
【図27】900℃でアニールをしたGe結晶層2106の断面形状を示す。
【図28】実施例6における化合物半導体2108の膜厚の平均値を示す。
【図29】実施例6における化合物半導体2108の膜厚の変動係数を示す。
【図30】実施例7における化合物半導体2108の膜厚の平均値を示す。
【図31】実施例7における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図32】実施例7における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図33】実施例7における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図34】実施例7における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図35】実施例7における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図36】実施例8における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図37】実施例8における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図38】実施例8における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図39】実施例8における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図40】実施例8における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図41】実施例9における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図42】実施例9における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図43】実施例9における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。
【図44】実施例10における半導体基板の電子顕微鏡写真を示す。
【図45】実施例11におけるHBT素子のレーザー顕微鏡像を示す。
【図46】実施例12における電子素子のレーザー顕微鏡像を示す。
【図47】HBT素子の電気特性と、開口領域の面積との関係を示す。
【図48】結晶の断面における走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図49】図48の写真を見やすくする目的で示した模写図を示す。
【図50】結晶の断面における走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図51】図50の写真を見やすくする目的で示した模写図を示す。
【図52】試料AについてのSi元素のプロファイルを示す。
【図53】試料AについてのGe元素のプロファイルを示す。
【図54】試料BについてのSi元素のプロファイルを示す。
【図55】試料BについてのGe元素のプロファイルを示す。
【図56】図52から図55を見やすくする目的で示した模式図を示す。
【図57】試料Aについての測定領域を示すSEM写真を示す。
【図58】図57に示す測定領域についてのSiおよびGeの元素強度積分値を示す。
【図59】試料Bについての測定領域を示すSEM写真を示す。
【図60】図59に示す測定領域についてのSiおよびGeの元素強度積分値を示す。
【図61】実施例2で作成した半導体デバイス用基板3000の平面パターンを示す。
【図62】デバイス用薄膜3004の成長速度と阻害層3002の幅との関係を示したグラフである。
【図63】デバイス用薄膜3004の成長速度と面積比との関係を示したグラフである。
【図64】デバイス用薄膜3004の成長速度と阻害層3002の幅との関係を示したグラフである。
【図65】デバイス用薄膜3004の成長速度と面積比との関係を示したグラフである。
【図66】デバイス用薄膜3004の成長速度と阻害層3002の幅との関係を示したグラフである。
【図67】デバイス用薄膜3004の成長速度と面積比との関係を示したグラフである。
【図68】ベース基板のオフ角を2°にした場合の半導体デバイス用基板3000の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図69】ベース基板のオフ角を2°にした場合の半導体デバイス用基板3000の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図70】ベース基板のオフ角を6°にした場合の半導体デバイス用基板3000の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図71】ベース基板のオフ角を6°にした場合の半導体デバイス用基板3000の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図72】ヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)3100の平面図を示す。
【図73】図20において破線で囲んだ部分を示す顕微鏡写真である。
【図74】図21において破線で囲んだ3個のHBT素子3150の部分を拡大して示す平面図である。
【図75】HBT素子3150の領域を観察したレーザー顕微鏡写真である。
【図76】HBT3100の製造工程の順に示した平面図である。
【図77】HBT3100の製造工程の順に示した平面図である。
【図78】HBT3100の製造工程の順に示した平面図である。
【図79】HBT3100の製造工程の順に示した平面図である。
【図80】HBT3100の製造工程の順に示した平面図である。
【図81】製造したHBT3100の各種特性を測定したデータを示すグラフである。
【図82】製造したHBT3100の各種特性を測定したデータを示すグラフである。
【図83】製造したHBT3100の各種特性を測定したデータを示すグラフである。
【図84】製造したHBT3100の各種特性を測定したデータを示すグラフである。
【図85】製造したHBT3100の各種特性を測定したデータを示すグラフである。
【図86】2次イオン質量分析法による深さプロファイルを測定したデータである。
【図87】HBT3100と同時に形成したHBTの断面を示すTEM写真である。
【図88】阻害層がないベタ基板にデバイス用薄膜を形成したHBTを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。
【0019】
図1は、一実施形態に係る半導体基板10の断面の一例を概略的に示す。図1に示すとおり、半導体基板10は、少なくとも一部において、ベース基板12と、絶縁層13と、Si結晶層14とをこの順に備える。これにより、絶縁層13が、Si結晶層14とベース基板12とを絶縁して、ベース基板12へリーク電流が流れることを抑制できる。ここで、本明細書において、「略垂直な方向」とは、厳密に垂直な方向だけでなく、基板および各部材の製造誤差を考慮して、垂直からわずかに傾いた方向をも含む。
【0020】
阻害層15は結晶成長を阻害する。阻害層15はSi結晶層14上に設けられる。阻害層15には、ベース基板12の主面11に略垂直な方向に阻害層15を貫通してSi結晶層14を露出する開口17が形成される。つまり、開口17はSi結晶層14にまで貫通する。これにより、阻害層15の表面には結晶が成長することなく、開口17の内部において選択的に結晶が成長する。また、半導体基板10はシード結晶16を備える。シード結晶16は開口17の内部に設けられる。これにより、結晶性に優れたシード結晶16が得られる。なお、絶縁層13の面積はベース基板12の面積より小さくてもよい。Si結晶層14の面積は絶縁層13の面積より小さくてもよい。阻害層15の面積はSi結晶層14の面積より小さくてよい。
【0021】
ベース基板12は、一例としてシリコン基板である。絶縁層13は、一例としてベース基板12の主面11を酸化することで形成された酸化シリコン層である。Si結晶層14は、一例として絶縁層13上に形成された単結晶シリコンの層である。ベース基板12、絶縁層13、およびSi結晶層14は、市販のSOI基板であってもよい。
【0022】
シード結晶16は、CVD法(化学気相成長法)、MOCVD法(有機金属気相成長法)または有機金属を原料として用いるMBE法(分子線エピタキシー法)を用いたエピタキシャル成長法により、Si結晶層14上に形成される。シード結晶16は、例えば、SiGe1−x結晶(0≦x<1)、または、500℃以下の温度で形成されたGaAs結晶を含む。
【0023】
阻害層15は、SiOであってよく、例えばCVD法を用いて形成できる。開口17は、例えば、フォトリソグラフィ法により形成できる。
【0024】
本実施形態において、ベース基板12と絶縁層13とが接する場合について説明したが、ベース基板12と絶縁層13との位置関係は、両者が接する場合に限定されない。例えば、ベース基板12と絶縁層13との間に、他の層が形成されてもよい。本実施形態において、Si結晶層14とシード結晶16とが接する場合について説明したが、Si結晶層14とシード結晶16との位置関係は、両者が接する場合に限定されない。例えば、Si結晶層14とシード結晶16との間に、他の層が形成されてもよい。また、シード結晶16は、複数の結晶層により形成されてよい。
【0025】
図2は、半導体基板20の断面の一例を概略的に示す。半導体基板20は、化合物半導体28をさらに備える以外は、半導体基板10と同様の構成を有する。阻害層15は化合物半導体28の結晶成長を阻害する。化合物半導体28は、シード結晶16に格子整合または擬格子整合する。これにより、結晶性に優れたシード結晶16を用いて、結晶性に優れた化合物半導体28が得られる。
【0026】
化合物半導体28は、MOCVD法(有機金属気相成長法)または有機金属を原料として用いるMBE法を用いたエピタキシャル成長法により形成できる。化合物半導体28は、例えば、3−5族化合物半導体または2−6族化合物半導体である。化合物半導体28が3−5族化合物半導体である場合、化合物半導体28は、3族元素としてAl、Ga、Inのうち少なくとも1つを含み、5族元素としてN、P、As、Sbのうち少なくとも1つを含んでもよい。化合物半導体28は複数の結晶層により形成されてよい。化合物半導体28は、少なくとも一部の領域が阻害層15の表面よりも突出するように形成される。
【0027】
図3は、本実施形態の電子デバイス100の平面例を示す。図4は、図3におけるA−A線断面を示す。図5は、図3におけるB−B線断面を示す。本実施形態の電子デバイス100は、SOI基板102および阻害層104を備える。電子デバイス100は、Ge結晶層106と、シード化合物半導体結晶108と、第1化合物半導体結晶110と、第2化合物半導体結晶112とを備える。また、電子デバイス100は、ゲート絶縁膜114と、ゲート電極116と、ソース・ドレイン電極118とを備える。
【0028】
阻害層104と阻害層15とは同等である。Ge結晶層106とシード結晶16とは同等である。シード化合物半導体結晶108、第1化合物半導体結晶110および第2化合物半導体結晶112と化合物半導体28とは同等である。そこで、同等の部材については、重複する説明を省略する場合がある。
【0029】
本例では、開口105に設けられたGe結晶層106を核として、開口105から突出するまでシード化合物半導体結晶108を成長させる。そして、シード化合物半導体結晶108を核として、第1化合物半導体結晶110を、阻害層104の表面における第1の方向に成長させる。そして、第1化合物半導体結晶110を核として、第2化合物半導体結晶112を、阻害層104の表面における第2の方向に成長させる。第1の方向および第2の方向は、例えば互いに直交する方向である。
【0030】
電子デバイス100は、複数のMISFET(metal−Insulator−semiconductor field−effect transistor)またはHEMT(high−electron−mobility transistor)を含んでよい。なお、本明細書において、図面の表示に従って、各要素を順次積層する積層方向を上方向と記載する場合がある。しかし、上記記載は、電子デバイス100等の積層方向を、電子デバイス100等の使用時に上になる方向に限定するものではない。本明細書において「上に形成される」とは、積層方向に形成されることを意味する。また、「上に形成される」とは、対象に接して形成される場合だけでなく、別の層を介して形成される場合をも含む。
【0031】
SOI基板102は、少なくとも一部において、Si基板162と、絶縁層164と、Si結晶層166とを、この順に有する。主面SOI基板102は、Si基板162の主面172の側に、絶縁層164とSi結晶層166とを有する。Si基板162は単結晶Si基板であってもよい。Si基板162は、電子デバイス100のサブストレートとして機能する。
【0032】
絶縁層164は、Si基板162とSi結晶層166とを電気的に絶縁する。絶縁層164はSi基板162の主面172に接して形成される。Si結晶層166はSiの単結晶を含んでよい。Si結晶層166は絶縁層164に接して形成される。Si基板162、絶縁層164およびSi結晶層166と、ベース基板12、絶縁層13およびSi結晶層14とは同等である。そこで、同等の部材については、重複する説明を省略する場合がある。
【0033】
SOI基板102上に、能動素子であるMISFETまたはHEMT等が形成される。SOI基板102に電子デバイス100を形成することで、電子デバイス100の浮遊容量が低減するので、電子デバイス100の動作速度が向上する。また、絶縁層164が高い絶縁抵抗を有することにより、電子デバイス100からSi基板162へリーク電流が流れることを抑制することができる。
【0034】
阻害層104は、SOI基板102の主面172の側に、Si結晶層166に接して形成される。阻害層104と阻害層15とは同等である。また、阻害層104には、Si基板162の主面172に略垂直な方向に、阻害層104を貫通する開口105が形成される。また、阻害層104は、シード化合物半導体結晶108、第1化合物半導体結晶110、および第2化合物半導体結晶112の結晶のエピタキシャル成長を阻害する。
【0035】
開口105は、シード化合物半導体結晶108が形成される前の状態において、Si結晶層166を露出する。つまり、阻害層104には、阻害層104の表面からSi結晶層166に達する開口105が形成される。従って、Si結晶層166が露出した開口105にはエピタキシャル膜が選択成長する。例えば、開口105の内部には、Ge結晶層106が選択的に結晶成長する。また、開口105の内部には、Ge結晶層106を核として、シード化合物半導体結晶108が選択的に結晶成長する。一方、阻害層104の表面における結晶成長は阻害されるので、阻害層104の表面にはエピタキシャル膜が成長しない。阻害層104は、酸化シリコンまたは窒化シリコンを含んでよい。
【0036】
ここで、本明細書において、「開口のアスペクト比」とは、「開口の深さ」を「開口の幅」で除した値をいう。例えば、電子情報通信学会編「電子情報通信ハンドブック 第1分冊」751ページ(1988年、オーム社発行)によると、アスペクト比として(エッチング深さ/パターン幅)と記載されている。本明細書においても、同様の意義でアスペクト比の用語を用いる。なお、「開口の深さ」は基板上に薄膜を積層した場合の、積層方向における開口の深さである。「開口の幅」は積層方向に垂直な方向における、開口の幅である。開口の幅が一定でない場合には、「開口の幅」は、開口の最小の幅を指す。たとえば、積層方向から見た開口の形状が長方形である場合、「開口の幅」は、長方形の短辺の長さを指す。
【0037】
開口105の内部にGe結晶層106が結晶成長している場合には、「開口105の深さ」は、Ge結晶層106の表面と阻害層104の表面との距離に等しい。また、Ge結晶層106を核として、シード化合物半導体結晶108が選択的に結晶成長する場合には、「開口105の深さ」は、シード化合物半導体結晶108が開口105に含まれている部分に等しい。ここで、シード化合物半導体結晶108が開口105に含まれている部分とは、Ge結晶層106の表面の高さから阻害層104の表面の高さまでのシード化合物半導体結晶108の垂直方向の幅である。従って、本明細書における「開口105のアスペクト比」は、「シード化合物半導体結晶108が開口105に含まれる部分の高さ」を「開口の幅」で除した値である。
【0038】
開口105に形成されたGe結晶層106を600〜900℃程度にまで加熱しない場合には、例えば、開口105は(√3)/3以上のアスペクト比を有することが好ましい。より具体的には、開口105の底面におけるSi結晶層166の面方位が(100)の場合には、開口105は1以上のアスペクト比を有してもよい。開口105の底面におけるSi結晶層166の面方位が(111)の場合には、開口105は√2(=約1.414)以上のアスペクト比を有してもよい。開口105の底面におけるSi結晶層166の面方位が(110)の場合は、開口105は(√3)/3(=約0.577)以上のアスペクト比を有してもよい。
【0039】
アスペクト比が(√3)/3以上の開口105の内部にGe結晶層106が形成されると、Ge結晶層106に含まれる欠陥が開口105の壁面でターミネートされる。その結果、開口105の壁面で覆われずに露出するGe結晶層106の表面における欠陥が低減する。即ち、開口105が(√3)/3以上のアスペクト比を有する場合には、開口105に形成されたGe結晶層106にアニールが施されない状態であっても、開口105において露出するGe結晶層106の表面の欠陥密度を所定の許容範囲まで小さくすることができる。開口105において露出するGe結晶層106の表面をシード化合物半導体結晶108の結晶核として用いることで、シード化合物半導体結晶108の結晶性を高めることができる。
【0040】
なお、開口105に形成されたGe結晶層106を600〜900℃程度にまで加熱してアニールを施こすことができる場合には、開口105のアスペクト比は√2未満であってもよい。開口105のアスペクト比が√2未満の場合であっても、アニールを施すことでGe結晶層106の欠陥を低減できるからである。より具体的には、開口105の底面におけるSi結晶層166の面方位が(100)の場合には、開口105は1未満のアスペクト比を有してもよい。開口105の底面におけるSi結晶層166の面方位が(111)の場合には、開口105は√2(=約1.414)未満のアスペクト比を有してもよい。開口105の底面におけるSi結晶層166の面方位が(110)の場合は、開口105は(√3)/3(=約0.577)未満のアスペクト比を有してもよい。Ge結晶層106は、Ge結晶層106上で化合物半導体を結晶成長させる前にアニールされてもよい。
【0041】
また、開口105の底面積は1mm以下であってよく、好ましくは0.25mm未満である。この場合、シード化合物半導体結晶108の底面積も、1mm以下または0.25mmとなる。シード化合物半導体結晶108のサイズを所定値以下とすることで、所定条件のアニールにより、シード化合物半導体結晶108の任意の点の欠陥を、シード化合物半導体結晶108の端部まで移動させることができる。このため、シード化合物半導体結晶108の欠陥密度を容易に低減できる。
【0042】
また、開口105の底面積は、0.01mm以下であってよく、好ましくは1600μm以下であってよく、より好ましくは900μm以下であってよい。これらの場合、開口105の内部に形成されるシード化合物半導体結晶108の底面積も、0.01mm以下、1600μm以下、または、900μm以下となる。
【0043】
シード化合物半導体結晶108および化合物半導体層等の機能層と、SOI基板102との熱膨張係数の差が大きい場合には、熱アニールによって機能層に局部的な反りが生じやすい。これに対し、上記面積が0.01mm以下である場合には、上記面積が0.01mmより大きい場合と比較して、開口105の内部に形成されるGe結晶層106のアニールに要する時間を短縮できる。このため、開口105の底面積を0.01mm以下にすることで、当該反りにより機能層に結晶欠陥が生じることを抑制できる。
【0044】
開口105の底面積が1600μmより大きい場合には、結晶欠陥を十分に抑制できないので、デバイスの製造に必要な所定の特性を有する半導体基板を得ることが困難である。これに対して、開口105の底面積が1600μm以下である場合には、結晶欠陥の数が所定値以下に低減されることがある。その結果、開口の内部に形成された機能層を用いて、高性能のデバイスを製造することができる。さらに、上記面積が900μm以下である場合には、結晶欠陥の数が所定値以下になる確率が高まるので、上記デバイスを歩留まりよく製造できる。
【0045】
開口105の底面積が1600μm以下である場合には、開口の内部に形成された機能層を用いて、高性能のデバイスを製造できる。上記面積が900μm以下である場合には、上記デバイスを歩留まりよく製造できる。
【0046】
一方、開口105の底面積は、25μm以上であってよい。上記面積が25μmより小さくなると、開口105の内部に結晶をエピタキシャル成長させる場合に、当該結晶の成長速度が不安定になり、結晶の形状に乱れを生じやすい。さらに上記面積が25μmより小さくなると、形成される化合物半導体を加工してデバイスを形成することが難しく、歩留まりを低下させる場合がある。
【0047】
また、被覆領域の面積に対する開口105の底面積の割合は、0.01%以上であることが好ましい。被覆領域は、阻害層104により覆われるSi結晶層166の領域である。上記割合が0.01%より小さくなると、開口105の内部における結晶の成長速度が不安定になる。なお、1つの被覆領域に複数の開口105が形成されている場合には、開口105の底面積とは、当該被覆領域に含まれる複数の開口105の底面積の総和を意味する。
【0048】
開口105の底面形状は、最大幅が100μm以下であってよく、好ましくは80μm以下であってもよい。開口105の底面形状の最大幅は、開口105の底面形状に含まれる任意の2点を結ぶそれぞれの直線の長さのうち、最大の長さを指す。開口105が正方形または長方形である場合には、当該底面形状の一辺の長さは100μm以下であってよく、好ましくは80μm以下である。上記底面形状の最大幅が100μm以下である場合には、上記底面形状の最大幅が100μmより大きい場合と比較して、開口105の内部に形成されるGe結晶層106を、短時間でアニールできる。
【0049】
また、Ge結晶層106は、Ge結晶層106とSi結晶層166との、アニールの温度条件における熱膨張係数の相違によるストレスが加えられた場合であっても、Ge結晶層106に欠陥が発生しない大きさに形成されてもよい。例えば、主面172と略平行な方向のGe結晶層106の最大幅は40μm以下であってよく、好ましくは20μm以下である。Ge結晶層106の最大幅は、開口105の底面形状における最大幅で定まるので、開口105の底面形状は、所定値以下の最大幅を有することが好ましい。例えば開口105の底面形状の最大幅は、40μm以下であってよく、さらに好ましくは30μm以下である。
【0050】
1つの阻害層104には、1つの開口105が形成されてよい。これにより、開口105の内部において、安定した成長速度で結晶をエピタキシャル成長させることができる。また、1つの阻害層104には、複数の開口105が形成されてもよい。この場合、それぞれの開口105が等間隔に配置されることが好ましい。これにより、開口105の内部において、安定した成長速度で結晶をエピタキシャル成長させることができる。
【0051】
開口105の底面形状が多角形である場合には、当該多角形の少なくとも1辺の方向は、SOI基板102の主面の結晶学的面方位の1つと実質的に平行であることが好ましい。開口105の底面形状と、SOI基板102の主面の結晶学的面方位との関係は、開口105の内部に成長する結晶の側面が安定な面となる関係であることが好ましい。ここで、「実質的に平行」とは、上記多角形の一辺の方向と、基板の結晶学的面方位の1つとが平行からわずかに傾いている場合を含む。上記傾きの大きさは、一例として5°以下である。これにより、結晶成長の乱れを抑制でき、上記結晶が安定して形成される。その結果、結晶が成長しやすい、形状の整ったシード結晶を得られる。
【0052】
SOI基板102の主面は、(100)面、(110)面もしくは(111)面、または、これらと結晶学的に等価な面であってもよい。また、SOI基板102の主面は、上記の結晶学的面方位からわずかに傾いていることが好ましい。即ち、SOI基板102はオフ角を有することが好ましい。上記傾きの大きさは、10゜以下であってもよい。また、上記傾きの大きさは、0.05°以上6°以下であってよく、0.3°以上6°以下であってよく、2°以上6°以下であってもよい。開口の内部に方形結晶を成長させる場合には、基板の主面は、(100)面もしくは(110)面またはこれらと結晶学的に等価な面であってもよい。これにより、上記結晶に4回対称の側面が現れやすくなる。
【0053】
一例として、阻害層104が、SOI基板102の表面の(100)面に形成され、開口105が正方形または長方形の底面形状を有し、シード化合物半導体結晶108がGaAs結晶である場合について説明する。この場合、開口105の底面形状の少なくとも1辺の方向は、SOI基板102の<010>方向、<0−10>方向、<001>方向および<00−1>方向のうちの何れか1つの方向と実質的に平行であってもよい。これにより、GaAs結晶の側面が、安定した面になる。
【0054】
別の例として、阻害層104が、SOI基板102の表面の(111)面に形成され、開口105が六角形の底面形状を有し、シード化合物半導体結晶108がGaAs結晶である場合について説明する。この場合、開口105の底面形状の少なくとも1辺は、SOI基板102の<1−10>方向、<−110>方向、<0−11>方向、<01−1>方向、<10−1>方向および<−101>方向のうちの何れか1つの方向と実質的に平行であってもよい。これにより、GaAs結晶の側面が、安定した面となる。なお、開口105の底面形状は、正六角形であってもよい。
【0055】
SOI基板102には、複数の阻害層104が形成されてよい。これにより、SOI基板102には、複数の被覆領域が形成される。例えば、SOI基板102には、図3に示した阻害層104が、図19に示すそれぞれの領域803に形成されてもよい。
【0056】
開口105の内部のシード化合物半導体結晶108は、化学気相成長法(CVD法)または気相エピタキシャル成長法(VPE法)で形成される。これらの成長法では、形成しようとする薄膜結晶の構成元素を含む原料ガスを基板上に供給して、原料ガスの気相または基板表面での化学反応により薄膜を形成する。反応装置内に供給された原料ガスは、気相反応により反応中間体(以下、前駆体という場合がある。)を生成する。生成された反応中間体は、気相中を拡散して、基板表面に吸着する。基板表面に吸着した反応中間体は、基板表面を表面拡散して、固体膜として析出する。
【0057】
そこで、SOI基板102には、隣接する2つの阻害層104の間に、犠牲成長部が設けられてもよい。当該犠牲成長部は、当該2つの阻害層104の何れの上面よりも高い吸着速度でGe結晶層106またはシード化合物半導体結晶108の原料を吸着し、薄膜を形成する。当該犠牲成長部に製膜される薄膜はGe結晶層106またはシード化合物半導体結晶108と同等の結晶品質を有する結晶薄膜である必要はなく、多結晶体あるいは非晶質体であってもよい。また、犠牲成長部に製膜される薄膜はデバイス製造用に用いられなくてもよい。
【0058】
犠牲成長部は、それぞれの阻害層104を、別個に囲んでよい。これにより、開口105の内部において、安定した成長速度で結晶をエピタキシャル成長させることができる。
【0059】
また、各々の阻害層104は複数の開口105を有してよい。電子デバイス100は、隣接する2つの開口105の間に、犠牲成長部を含んでよい。犠牲成長部の各々は、等間隔に配置されてよい。
【0060】
SOI基板102の表面近傍の領域が、犠牲成長部として機能してよい。また、犠牲成長部は、阻害層104に形成された、SOI基板102に達する溝であってもよい。上記溝の幅は、20μm以上500μm以下であってもよい。なお、犠牲成長部においても、結晶成長が生じてよい。
【0061】
上述したように、犠牲成長部が、隣接する2つの阻害層104の間に配置される。または、犠牲成長部が、それぞれの阻害層104を囲むように設けられる。これにより、犠牲成長部が、被覆領域の表面を拡散している上記前駆体を、捕捉、吸着または固着する。従って、開口105の内部において、安定した成長速度で結晶を成長させることができる。上記前駆体は、シード化合物半導体結晶108の原料の一例であってもよい。
【0062】
一例として、SOI基板102の表面に所定の大きさの被覆領域が配される被覆領域以外の領域では、SOI基板102の表面が表出している。MOCVD法により、開口105の内部に結晶を成長させる場合、SOI基板102の表面まで到達した前駆体の一部がSOI基板102の表面で結晶成長する。このように、上記前駆体の一部がSOI基板102の表面で消費されることで、開口105の内部に形成される結晶の成長速度が安定化する。
【0063】
犠牲成長部の別の例としては、Si、GaAs等で形成された半導体領域が挙げられる。例えば、阻害層104の表面に、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の方法で、アモルファス半導体、または半導体多結晶を堆積することで、犠牲成長部が形成される。犠牲成長部は、隣接する2つの阻害層104の間に配されてもよく、阻害層104に含まれてもよい。また、隣接する2つの被覆領域の間に、前駆体の拡散が阻害される領域が配置されてよい。また、被覆領域が、前駆体の拡散が阻害される領域に囲まれてもよい。
【0064】
隣接する2つの阻害層104がわずかでも離れていれば、開口105の内部における結晶の成長速度は安定化する。隣接する2つの阻害層104は、20μm以上離れて設けられてよい。隣接する2つの阻害層104は、犠牲成長部を挟んで20μm以上隔てて設けられてよい。これにより、開口105の内部において、より安定した成長速度で結晶が成長する。ここで、隣接する2つの阻害層104の間の距離は、隣接する2つの阻害層104の外周上の点どうしの最短距離を示す。それぞれの阻害層104は、等間隔に配されてよい。特に、隣接する2つの阻害層104の間の距離が10μm未満である場合には、複数の阻害層104を等間隔に配置することで、開口105の内部において、安定した成長速度で結晶を成長させることができる。
【0065】
なお、SOI基板102は、不純物を含まない高抵抗ウェハであってよく、p型またはn型の不純物を含む低抵抗のウェハであってもよい。Ge結晶層106は、不純物を含まないGeで形成されてよく、p型またはn型の不純物を含むGeで形成されてもよい。
【0066】
開口105の積層方向から見た形状は、正方形、長方形、円形、楕円形、および長円形等の任意の形状である。開口105の積層方向から見た形状が円形あるいは楕円形の場合、開口105の幅は、各々直径および短径である。さらに開口105の積層方向と平行な面における断面形状も、矩形、台形放物線形状、および双曲線形状等の任意の形状であってよい。開口105の積層方向と平行な面における断面形状が台形である場合、開口105の幅は、開口105の底面あるいは入り口における、最短の幅である。
【0067】
開口105の積層方向から見た形状が長方形または正方形であり、積層方向と平行な面における開口105の断面形状が矩形の場合、開口105内部の立体形状は直方体となる。ただし、開口105内部の立体形状は任意の形状である。任意な立体形状のアスペクト比として、開口105内部の立体形状を近似した直方体のアスペクト比を用いてもよい。
【0068】
Ge結晶層106は、Ge結晶層106の内部を移動する欠陥を捕捉する欠陥捕捉部を有してもよい。当該欠陥は、Ge結晶層106の形成時に存在していた欠陥を含んでよい。欠陥捕捉部は、Ge結晶層106における、結晶界面(boundary)または結晶表面であってよく、Ge結晶層106に形成される物理的な傷であってもよい。例えば、欠陥捕捉部は、結晶界面または結晶表面であって、Si基板162と略平行でない方向の面である。一例として、Ge結晶層106をライン状または孤立した島状にエッチングして、Ge結晶層106に結晶界面を形成することで、欠陥捕捉部が形成される。また、機械的な引っ掻き、摩擦、またはイオン注入等によりGe結晶層106に物理的な傷を形成することによっても、欠陥捕捉部が形成される。欠陥捕捉部は、Ge結晶層106において、開口105により露出されない領域に形成される。また、欠陥捕捉部は、Ge結晶層と阻害層104との界面であってもよい。
【0069】
欠陥捕捉部は、Ge結晶層106に含まれる任意の点からの距離が、アニールの温度および時間条件において欠陥が移動可能な距離以下となるように配置されてもよい。上記欠陥が移動可能な距離L[μm]は、アニール温度が700〜950℃の場合、3μm〜20μmであってもよい。欠陥捕捉部は、Ge結晶層106に含まれる全ての欠陥に対して上記距離内に配置されてもよい。その結果、Ge結晶層106の内部の貫通欠陥密度(または、貫通転位密度とも称する)が上記アニールにより低減される。例えば、シード結晶層の一例であるGe結晶層106の貫通転位密度は、1×10/cm以下に低減される。
【0070】
なお、Ge結晶層106は、Ge結晶層106の形成時に存在していた欠陥がGe結晶層106の上記欠陥捕捉部にまで移動できる温度および時間の条件でアニールされてもよい。例えば、Ge結晶層106の外縁が欠陥捕捉部として機能する場合には、Ge結晶層106に含まれる任意の位置の欠陥がGe結晶層106の外縁に移動できる温度および時間でアニールされてよい。Ge結晶層106は、Ge結晶層106の形成時に存在していた欠陥がアニールにより移動することによって、Ge結晶層106の内部の欠陥密度が低減される大きさに形成されてもよい。Ge結晶層106は、所定の条件のアニールにおいて欠陥が移動する距離の2倍を越えない最大幅で形成されてもよい。
【0071】
以上の構成を採用することにより、Ge結晶層106の欠陥捕捉部以外の領域における欠陥密度が低減される。例えば、Ge結晶層106が、エピタキシャル成長する場合、格子欠陥等が発生する場合がある。上記欠陥はGe結晶層106の内部を移動でき、Ge結晶層106の温度が高いほど移動速度も増加する。また、上記欠陥は、Ge結晶層106の表面および界面等において捕捉される。
【0072】
上記欠陥は、Ge結晶層106に上記の温度および時間でアニールを施すことにより、Ge結晶層106の内部を移動して、例えば、Ge結晶層106と阻害層104との界面に捕捉される。このように、Ge結晶層106の内部に存在した欠陥が、アニールにより上記界面に集中するので、Ge結晶層106の内部の欠陥密度が低減される。その結果、アニール前に比べ、開口105に露出したGe結晶層106の表面の結晶性が向上する。
【0073】
これにより、エピタキシャル薄膜における欠陥が低減され、電子デバイス100の性能が向上する。例えば、開口105に露出したGe結晶層106の表面を結晶核として、シード化合物半導体結晶108を成長させた場合には、シード化合物半導体結晶108の結晶性が高まる。また、結晶性に優れるGe結晶層106を基板材料とすることで、格子不整合によりSi結晶層166には直接結晶成長できない種類の薄膜を、良質に形成することができる。
【0074】
Ge結晶層106は、第2化合物半導体結晶112と、Si結晶層166との間の一部に局所的に形成され、第2化合物半導体結晶112に格子整合または擬格子整合してよい。これにより、欠陥密度の小さいGe結晶層106が得られる。
【0075】
なお、本明細書において、欠陥密度が小さいとは、所定の大きさの結晶層の内部に含まれる貫通転位の個数の平均値が0.1個以下である場合をいう。貫通転位とは、Ge結晶層106を貫通するように形成された欠陥をいう。また、貫通転位の平均値が0.1個であるとは、活性層部分の面積が10μm×10μm程度のデバイスを10個検査して、貫通転位を有するデバイスが1個発見された場合に相当する。貫通転位の平均値が0.1個であるとは、転位密度に換算すれば、エッチピット法または透過型電子顕微鏡(以下、TEMという場合がある。)による平面断面観察により測定した平均転位密度が、おおよそ、1.0×10cm−2以下の場合である。
【0076】
Ge結晶層106のシード化合物半導体結晶108に対向する面は、Pを含むガスにより表面処理されてもよい。これにより、Ge結晶層106に形成する膜の結晶性を高めることができる。Pを含むガスは、PH(フォスフィン)を含むガスであってよい。
【0077】
Ge結晶層106は、例えば、CVD法またはMBE法(分子線エピタキシ法)により形成できる。原料ガスは、GeHであってもよい。Ge結晶層106は、0.1Pa以上100Pa以下の圧力下でCVD法により形成されてもよい。これにより、Ge結晶層106の成長速度が開口105の面積の影響を受けにくくなる。その結果、例えば、Ge結晶層106の膜厚の均一性が向上する。また、この場合、阻害層104の表面におけるGe結晶の堆積を抑制できる。
【0078】
Ge結晶層106は、ハロゲン元素を含むガスを、原料ガスの少なくとも一部として含む雰囲気中でCVD法により形成されてもよい。ハロゲン元素を含むガスは、塩化水素ガスまたは塩素ガスであってもよい。これにより、100Pa以上の圧力下でCVD法によりGe結晶層106を形成する場合であっても、阻害層104の表面へのGe結晶の堆積を抑制できる。
【0079】
なお、本実施形態において、Ge結晶層106がSOI基板102の表面に接して形成される場合について説明したが、Ge結晶層106およびSOI基板102の配置は、これに限定されない。例えば、Ge結晶層106と、SOI基板102との間に、他の層が配されてもよい。上記他の層は、単一の層であってもよく、複数の層を含んでもよい。
【0080】
Ge結晶層106は、一例として以下の手順で形成される。まず、低温でシード結晶を形成する。シード結晶は、SiGe1−x(式中、0≦x<1)であってもよい。シード結晶の成長温度は、330℃以上450℃以下であってもよい。その後、シード結晶が形成されたSOI基板102の温度を所定の温度まで昇温した後、Ge結晶層106を形成してもよい。
【0081】
シード化合物半導体結晶108は、その上部が阻害層104の表面より突出するように、Ge結晶層106を核として結晶成長してもよい。例えば、シード化合物半導体結晶108は、阻害層104の表面よりも突出するまで、開口105の内部で結晶成長する。
【0082】
シード化合物半導体結晶108は、一例としてGe結晶層106に格子整合または擬格子整合する4族、3−5族または2−6族の化合物半導体である。より具体的には、シード化合物半導体結晶108は、GaAs、InGaAs、SiGe1−x(0≦x<1)であってもよい。また、シード化合物半導体結晶108とGe結晶層106との間に、バッファ層が形成されてもよい。バッファ層は、Ge結晶層106に格子整合または擬格子整合する。一例としてバッファ層は、Pを含む3−5族化合物半導体層を有する。
【0083】
シード化合物半導体結晶108は、機能層の一例である。シード化合物半導体結晶108は、Ge結晶層106に接して形成される。すなわち、シード化合物半導体結晶108は、Ge結晶層106上に結晶成長される。一例として、シード化合物半導体結晶108は、エピタキシャル成長で結晶成長される。
【0084】
シード化合物半導体結晶108は、算術平均粗さ(以下、Ra値と称する場合がある。)が一例として0.02μm以下であり、好ましくは0.01μm以下である。これにより、シード化合物半導体結晶108を用いて、高性能のデバイスを形成できる。ここで、Ra値は表面粗さを表す指標であり、JIS B0601−2001に基づいて算出できる。Ra値は、一定長さの粗さ曲線を中心線から折り返して、当該粗さ曲線と当該中心線とにより得られた面積を、測定した長さで除して算出できる。
【0085】
シード化合物半導体結晶108の成長速度は、300nm/min以下であってよく、好ましくは200nm/min以下であってよく、より好ましくは60nm/min以下である。これにより、シード化合物半導体結晶108のRa値を0.02μm以下にできる。一方、シード化合物半導体結晶108の成長速度は、1nm/min以上であってよく、好ましくは、5nm/min以上である。これにより、生産性を犠牲にすることなく、良質なシード化合物半導体結晶108が得られる。例えば、シード化合物半導体結晶108を1nm/min以上、300nm/min以下の成長速度で結晶成長させてもよい。
【0086】
なお、本実施形態において、Ge結晶層106の表面にシード化合物半導体結晶108が形成される場合について説明したが、これに限定されない。例えば、Ge結晶層106と、シード化合物半導体結晶108との間に、中間層が配されてもよい。中間層は、単一の層であってよく、複数の層を含んでもよい。中間層は、600℃以下、好ましくは550℃以下で形成されてもよい。これにより、シード化合物半導体結晶108の結晶性が向上する。一方、中間層は、400℃以上で形成されてもよい。中間層は、400℃以上600℃以下で形成されてもよい。これにより、シード化合物半導体結晶108の結晶性が向上する。中間層は、一例として600℃以下、好ましくは550℃以下の温度で形成されたGaAs層である。
【0087】
シード化合物半導体結晶108は、以下の手順で形成されてもよい。まず、Ge結晶層106の表面に、中間層を形成する。中間層の成長温度は、一例として600℃以下である。その後、中間層が形成されたSOI基板102の温度を所定の温度まで昇温した後、シード化合物半導体結晶108を形成してもよい。
【0088】
第1化合物半導体結晶110は、阻害層104の表面より突出したシード化合物半導体結晶108の所定の面を結晶核のシード面として、阻害層104に沿ってラテラル成長して形成されてもよい。SOI基板102の面方位が(100)であり、<001>方向に開口105を形成する場合、シード化合物半導体結晶108のシード面は、(110)面およびこれと等価な面である。<011>方向に開口105を形成する場合、シード化合物半導体結晶108のシード面は、(111)A面およびこれと等価な面である。アニール等により、シード化合物半導体結晶108の結晶性が向上しているので、結晶性の良好な第1化合物半導体結晶110を形成できる。
【0089】
第1化合物半導体結晶110は、シード化合物半導体結晶108に格子整合または擬格子整合する4族、3−5族または2−6族の化合物半導体であってもよい。例えば、第1化合物半導体結晶110は、GaAs、InGaAs、SiGe1−x(0≦x<1)である。
【0090】
第2化合物半導体結晶112は、第1化合物半導体結晶110の所定の面をシード面として、阻害層104に沿ってラテラル成長して形成される。上述したように、第2化合物半導体結晶112は、第1化合物半導体結晶110と異なる方向にラテラル成長してもよい。
【0091】
第2化合物半導体結晶112は、Ge結晶層106に格子整合または擬格子整合してもよい。第2化合物半導体結晶112は、結晶性の優れた第1化合物半導体結晶110の特定面をシード面として結晶成長するので、結晶性の優れた第2化合物半導体結晶112が形成される。これにより、第2化合物半導体結晶112は欠陥を含まない無欠陥領域を有する。
【0092】
第2化合物半導体結晶112は、Ge結晶層106に格子整合または擬格子整合する2−6族化合物半導体または3−5族化合物半導体を含んでよい。第2化合物半導体結晶112は、例えば、GaAsまたはInGaAs層を含む。
【0093】
SOI基板102とGe結晶層106とが接している部分では、SOI基板102とGe結晶層106との界面に接して、SOI基板102内に、Si1−xGe層(0<x<1)を含んでよい。すなわち、Ge結晶層106内のGe原子がSOI基板102に拡散し、SiGe層が形成されてもよい。この場合、Ge結晶層106層の上に形成するエピタキシャル層の結晶性を向上できる。なお、Si1−xGe層におけるGeの平均組成xは、SOI基板102とGe結晶層106との界面からの距離が5nm以上10nm以下の領域において60%以上とすることができる。このような場合、Ge結晶層106上に形成するエピタキシャル層の結晶性を特に向上できる。
【0094】
なお、本実施形態において、第2化合物半導体結晶112は、第1化合物半導体結晶110の特定面をシード面として、阻害層104に沿ってラテラル成長した化合物半導体であったが、シード化合物半導体結晶108および第1化合物半導体結晶110は、一体として形成された化合物半導体結晶であってもよい。第2化合物半導体結晶112は、上記一体として形成された化合物半導体結晶の特定面をシード面として、阻害層104の上にラテラル成長した化合物半導体であってもよい。上記一体として形成されたシード化合物半導体結晶は、Ge結晶層106を核として成長された化合物半導体結晶であって、阻害層104の表面よりも凸に形成されたシード化合物半導体結晶であってもよい。これにより、阻害層104は、少なくとも一部が、第2化合物半導体結晶112とSOI基板102の絶縁層164との間に形成される。
【0095】
第2化合物半導体結晶112の無欠陥領域の上に、活性領域を有する能動素子が形成されてもよい。能動素子は、例えば、ゲート絶縁膜114、ゲート電極116、ソース・ドレイン電極118を備えるMISFETである。MISFETは、MOSFET(metal−oxide−semiconductor field−effect transistor)であってもよい。能動素子はHEMTであってもよい。
【0096】
ゲート絶縁膜114は、ゲート電極116を第2化合物半導体結晶112から電気的に絶縁する。ゲート絶縁膜114として、AlGaAs膜、AlInGaP膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化ガリウム膜、酸化ガドリニウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ランタン膜、及び、これらの絶縁膜の混合物または積層膜を例示できる。
【0097】
ゲート電極116は、制御電極の一例であってよい。ゲート電極116は、ソースおよびドレインで例示される入出力間の電流または電圧を制御する。ゲート電極116として、アルミニウム、銅、金、銀、白金、タングステンその他の金属、または、高濃度にドープされたシリコン等の半導体、窒化タンタル、または金属シリサイド等が例示できる。
【0098】
ソース・ドレイン電極118は、入出力電極の一例であってよい。ソース・ドレイン電極118は、各々ソース領域およびドレイン領域にコンタクトする。ソース・ドレイン電極118として、アルミニウム、銅、金、銀、白金、タングステンその他の金属、または、高濃度にドープされたシリコン等の半導体、窒化タンタル、または金属シリサイド等が例示できる。
【0099】
なお、ソース・ドレイン電極118の下部にはソースおよびドレインの各領域が形成されるが図では省略している。また、ゲート電極116の下部であってソースおよびドレイン領域の間のチャネル領域が形成される活性層は、第2化合物半導体結晶112自体であってもよく、第2化合物半導体結晶112の上に形成された層であってもよい。第2化合物半導体結晶112と活性層との間には、バッファ層が形成されてもよい。活性層あるいはバッファ層として、GaAs層、InGaAs層、AlGaAs層、InGaP層、ZnSe層等が例示できる。
【0100】
図3に示す通り、電子デバイス100は6つのMISFETを有する。6つのMISFETのうち、3つずつのMISFETが、ゲート電極116およびソース・ドレイン電極118の配線によって相互に接続されている。また、SOI基板102の上に複数形成されたGe結晶層106の各々を核として結晶成長された第2化合物半導体結晶112は、阻害層104の上で互いに接することなく形成されている。
【0101】
複数の第2化合物半導体結晶112が互いに接することなく形成されているので、隣接する第2化合物半導体結晶112との間に界面が形成されることがない。従って、当該界面に起因する欠陥が生じない。第2化合物半導体結晶112の上に形成される能動素子は、その活性層において優れた結晶性が実現されていればよく、第2化合物半導体結晶112が接することなく形成されることによる不具合は生じない。
【0102】
各能動素子における駆動電流を増加したい場合には、各能動素子をたとえば並列に接続する。なお、図3から図5に例示される電子デバイスにおいては、開口105を挟んで2個のMISFETが形成されている。2個のMISFETは、化合物半導体層のエッチング等による除去またはイオン注入等による不活性化により、互いに分離されて形成されてもよい。
【0103】
本実施形態において、シード結晶層が、結晶成長により形成されたGe結晶を含む場合について説明したが、シード結晶層は、SiGe1−x(0≦x<1)を含んでよい。シード結晶層は、Siの含有率が低いSiGe1−xを含んでよい。シード結晶層は、500℃以下の温度で形成されたGaAsを含んでよい。また、シード結晶層は、複数の層を含んでよい。
【0104】
本実施形態において、Si基板162と、絶縁層164と、Si結晶層166と、Ge結晶層106と、アニールされたGe結晶層106に格子整合または擬格子整合する化合物半導体とが、Si基板162の主面172に略垂直な方向に、この順に配置される場合について説明したが、各部の位置関係はこの場合に限定されない。例えば、化合物半導体は、Ge結晶層106における、Si基板162の主面172に略垂直な面の少なくとも1つに接して、Ge結晶層106に格子整合または擬格子整合してもよい。このとき、Ge結晶層106と化合物半導体とが、Si基板162の主面172に略平行な方向に並んで配置される。
【0105】
本実施形態において、阻害層104は、Si結晶層166の上に形成され、Ge結晶層106は、阻害層104に形成された開口105の内部に形成される場合について説明したが、この場合に限定されない。阻害層104は、Ge結晶層106が形成された後に、Ge結晶層106が形成された領域以外の領域に形成されてもよい。例えば、Si基板162と、絶縁層164と、Si結晶層166と、アニールされたGe結晶層106とを、この順に備え、アニールされたGe結晶層106をマスクとして、Si結晶層166の熱酸化により得られる阻害層104を備え、アニールされたGe結晶層106に格子整合または擬格子整合する化合物半導体とを備えてもよい。
【0106】
このとき、阻害層104は、Ge結晶層106の側面に沿って、且つ、Ge結晶層106よりも厚く形成される。その結果、Ge結晶層106を中心とした凹部が形成される。上記凹部は、開口105の一例であってよい。この場合、開口105のアスペクト比は、Ge結晶層106の幅を「開口の幅」として、Ge結晶層106の上面から、阻害層104の上面までの距離を「開口の深さ」とすることで、算出できる。
【0107】
図6から図10は、電子デバイス100の製造過程における断面例を示す。図6は、図3のA−A線断面の製造過程の一部における断面例を示す。図6に示すように、Si基板162と、絶縁層164と、Si結晶層166とを、この順に備えるSOI基板102を準備する。SOI基板102は、市販のSOI基板を用いてよい。次に、結晶成長を阻害する阻害層104がSOI基板102のSi結晶層166上に形成される。阻害層104は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法により形成できる。阻害層104に、SOI基板102に達する開口105が形成される。開口105は、例えば、フォトリソグラフィ法により形成できる。なお、阻害層104は、Si結晶層166の一部に熱酸化を施すことによっても形成できる。
【0108】
図7は、図3のA−A線断面の製造過程における断面例を示す。図7に示すように、開口105に、Ge結晶層106が形成される。これにより、少なくとも一部において、Si基板162と、絶縁層164と、Si結晶層166と、Ge結晶層106とを、この順に備えるSOI基板102が準備される。Ge結晶層106はアニールされてもよい。
【0109】
図8は、図3のA−A線断面図の製造過程の続きにおける断面例を示す。図8に示すように、Ge結晶層106を核として、シード化合物半導体結晶108が、阻害層104の表面よりも凸に形成される。即ち、シード化合物半導体結晶108は、阻害層104の表面から突出するように形成される。
【0110】
シード化合物半導体結晶108の所定の面をシード面にして、第1化合物半導体結晶110が形成される。この段階における断面は、図5と同様になる。シード化合物半導体結晶108および第1化合物半導体結晶110の一例として、GaAsを形成する場合には、MOCVD法または有機金属を原料とするMBE法を用いたエピタキシャル成長法が利用できる。この場合、原料ガスには、TM−Ga(トリメチルガリウム)、AsH(アルシン)その他のガスを利用できる。成長温度としては、600℃以上700℃以下が例示できる。
【0111】
図9は、図3のA−A線断面図の製造過程の続きにおける断面例を示す。図9に示すように、第1化合物半導体結晶110の所定の面をシード面として、阻害層104の上に、第2化合物半導体結晶112がラテラル成長する。第2化合物半導体結晶112の一例として、GaAsを形成する場合には、MOCVD法または有機金属を原料とするMBE法を用いたエピタキシャル成長法が利用できる。この場合、原料ガスには、TM−Ga(トリメチルガリウム)、AsH(アルシン)その他のガスを利用できる。
【0112】
例えば、(001)面上におけるラテラル成長を促進するには、低温成長の条件でラテラル成長させることが好ましい。具体的には700℃以下の温度条件、さらに好ましくは、650℃以下の温度条件で成長させてもよい。例えば、<110>方向にラテラル成長させる場合には、AsHの分圧が高い条件で成長させることが好ましい。より具体的には、AsHの分圧が、1×10−3atm以上の条件で成長させることが好ましい。これにより、<110>方向の成長レートを、<−110>方向の成長レートより大きくできる。
【0113】
図10は、図3のA−A線断面図の製造過程の続きにおける断面例を示す。図10に示すように、第2化合物半導体結晶112の上に、ゲート絶縁膜114になる絶縁膜、および、ゲート電極116になる導電膜が、順次形成される。当該形成された導電膜および絶縁膜は、例えば、フォトリソグラフィ法によりパターニングされる。これにより、ゲート絶縁膜114およびゲート電極116が形成される。その後、ソース・ドレイン電極118になる導電膜が形成される。当該形成した導電膜は、例えば、フォトリソグラフィ法によりパターニングされ、図4に示す電子デバイス100が得られる。
【0114】
図11および図12は、電子デバイス100の他の製造過程における断面例を示す。図13に示すように、少なくとも一部の領域において、Si基板162と、絶縁層164と、Si結晶層166と、Ge結晶層106とをこの順に備えるSOI基板102を準備する。Ge結晶層106はエッチングなどによりパターニングされて、単一にまたは互いに離れて形成される。
【0115】
例えば、SOI基板102に結晶性のGe膜が形成された後、一部が残存するように当該Ge膜をエッチングすることで、SOI基板102のSi結晶層166の上に、Ge結晶層106が形成される。上記エッチングには、例えば、フォトリソグラフィ法が利用できる。なお、Ge結晶層106の最大幅寸法は、5μm以下、好ましくは2μm以下であってもよい。本明細書において、「幅」は、SOI基板102の一方の主面に略平行な方向の長さを表す。
【0116】
図12に示すように、SOI基板102において、Ge結晶層106が形成された領域以外の領域に、阻害層104が形成される。阻害層104は、例えば、Ge結晶層106を酸化防止マスクとして利用したローカル酸化法を用いて形成される。その後の工程は、図8以降の工程と同様である。
【0117】
図13は、電子デバイス200の平面例を示す。なお、図13において、ゲート電極およびソース・ドレイン電極は省略されている。電子デバイス200における第2化合物半導体結晶112は、欠陥を捕捉する欠陥捕捉部120を有してもよい。欠陥捕捉部120は、Ge結晶層106およびシード化合物半導体結晶108が形成される開口105を起点として、第2化合物半導体結晶112の端部まで形成されてもよい。
【0118】
欠陥捕捉部120の配置は、例えば、開口105を所定の配置で形成することで制御される。ここで、上記所定の配置は、電子デバイス200の目的に応じて適宜設計される。開口105は複数形成されてもよい。また、上記複数の開口105は等間隔に形成されてもよい。複数の開口105は規則性を以って形成されてよく、例えば周期的に形成されてよい。複数の開口105のそれぞれの内部にはシード化合物半導体結晶108が形成される。
【0119】
図14は、電子デバイス300の平面例を示す。なお、図14において、ゲート電極およびソース・ドレイン電極は省略されている。電子デバイス300における第2化合物半導体結晶112は、電子デバイス200における欠陥捕捉部120に加えて欠陥捕捉部130を有する。欠陥捕捉部130は、第1化合物半導体結晶110のシード面または阻害層104において所定の間隔で形成された欠陥中心を起点として、第2化合物半導体結晶112の端部まで形成される。
【0120】
欠陥中心は、物理的な傷等をシード面または阻害層104に形成することにより生成されてもよい。物理的な傷は、例えば、機械的な引っ掻き、摩擦、イオン注入等により形成される。ここで、上記所定の間隔は、電子デバイス300の目的に応じて適宜設計される。上記欠陥中心は複数形成されてもよい。上記複数の欠陥中心は等間隔に形成されてもよい。また、上記複数の欠陥中心は規則性を以って形成されてよく、例えば周期的に形成されてもよい。
【0121】
欠陥捕捉部120および欠陥捕捉部130は、第2化合物半導体結晶112の結晶成長段階で形成されてもよい。欠陥捕捉部120および欠陥捕捉部130が形成されることで、第2化合物半導体結晶112の内部に存在する欠陥を、欠陥捕捉部120あるいは欠陥捕捉部130に集中させることができる。その結果、第2化合物半導体結晶112における、欠陥捕捉部120および欠陥捕捉部130でない領域のストレス等を低減して、結晶性を高めることができる。このため、第2化合物半導体結晶112において、電子デバイスを形成する領域の欠陥を低減できる。
【0122】
SOI基板102の(100)面の上に、化合物半導体をラテラル成長させる場合には、SOI基板102の<0−11>方向よりもシリコン基板の<011>方向のほうが、化合物半導体を成長させやすい。SOI基板102の<0−11>方向に化合物半導体を成長させる場合は、ラテラル成長した化合物半導体の端面には化合物半導体の(111)B面が現れる。この(111)B面は安定であるので、平坦な面を形成しやすい。よって化合物半導体の(111)B面上に、ゲート絶縁膜、ソース電極、ゲート電極およびドレイン電極を形成して、電子デバイスを形成することができる。
【0123】
一方、SOI基板102の<011>方向に化合物半導体をラテラル成長させる場合には、ラテラル成長した化合物半導体の端面には、化合物半導体の(111)B面が逆の向きに現れる。この場合は、上側の(100)面が広く取れるので、(100)面上に電子デバイスを形成することができる。また、SOI基板102の<010>方向および<001>方向にも、高いアルシン分圧条件で、化合物半導体をラテラル成長させることができる。これらの方向に成長させる場合、ラテラル成長させた化合物半導体の端面には、化合物半導体の(110)面あるいは(101)面が現れやすい。化合物半導体のこれら(110)面あるいは(101)面の上にも、ゲート絶縁膜、ソース電極、ゲート電極およびドレイン電極を形成し、電子デバイスを形成することができる。
【0124】
図15は、電子デバイス400の断面例を示す。図15の断面例と図3におけるA−A線断面とは同等である。電子デバイス400は、バッファ層402を有する他は、電子デバイス100と同様の構成を有してもよい。
【0125】
バッファ層402は、Ge結晶層106に格子整合または擬格子整合する。バッファ層402は、Ge結晶層106とシード化合物半導体結晶108との間に形成される。バッファ層402は、Pを含む3−5族化合物半導体層であってもよい。バッファ層402は、例えば、InGaP層であってもよい。InGaP層は、例えば、エピタキシャル成長法により形成できる。
【0126】
InGaP層は、例えば、MOCVD法または有機金属を原料として用いるMBE法で形成される。これらの成長法における原料ガスには、例えば、TM−Ga(トリメチルガリウム)、TM−In(トリメチルインジウム)、PH(フォスフィン)が用いられる。InGaP層をエピタキシャル成長させる場合、例えば、650℃の温度で結晶薄膜が形成される。バッファ層402を形成することで、シード化合物半導体結晶108の結晶性がさらに向上する。
【0127】
PH処理の好ましい処理温度として、500℃以上900℃以下が例示できる。500℃より低いと処理の効果が現れず、900℃より高いとGe結晶層106が変質するから好ましくない。さらに好ましい処理温度として、600℃以上800℃以下が例示できる。曝露処理は、プラズマ等によってPHを活性化してもよい。
【0128】
バッファ層402は、単一の層であってもよく、複数の層を含んでもよい。バッファ層402は、600℃以下、好ましくは550℃以下で形成されてもよい。これにより、シード化合物半導体結晶108の結晶性が向上する。バッファ層402は、600℃以下、好ましくは550℃以下の温度で形成されたGaAs層であってもよい。バッファ層402は、400℃以上で形成されてもよい。この場合、Ge結晶層106のバッファ層402に対向する面が、気体のP化合物により表面処理されてもよい。
【0129】
図16は、電子デバイス500の断面例を示す。図16の断面例と図3におけるA−A線断面とは同等である。電子デバイス500の構成は、ソース・ドレイン電極502の配置が相違する他は、電子デバイス100の構成と同様であってもよい。電子デバイス500において、MISFETは、ソース・ドレイン電極118およびソース・ドレイン電極502を有する。
【0130】
ソース・ドレイン電極502は第1入出力電極の一例である。ソース・ドレイン電極118は第2入出力電極の一例である。図16に示すとおり、第2化合物半導体結晶112の成長面は、ソース・ドレイン電極502に覆われている。即ち、ソース・ドレイン電極502は第2化合物半導体結晶112の側面にも形成されている。
【0131】
ソース・ドレイン電極502が第2化合物半導体結晶112の側面にも形成されることにより、第2化合物半導体結晶112あるいはその上に形成される活性層(キャリア移動層と称される場合もある。)でのキャリアの移動方向の延長線と交差する位置に入出力電極を配置できる。これによりキャリア移動が容易になり、電子デバイス500の性能が向上する。
【0132】
図17は、電子デバイス600の断面例を示す。図17の断面例と図3におけるA−A線断面とは同等である。電子デバイス600の構成は、ソース・ドレイン電極602の配置が相違する他は、電子デバイス500の構成と同様であってよい。電子デバイス600において、MISFETは、ソース・ドレイン電極602およびソース・ドレイン電極502を有する。
【0133】
第2化合物半導体結晶112の、開口105の上の領域は、例えば、エッチングにより除去されている。図17に示すとおり、上記エッチングにより露出した第2化合物半導体結晶112の側面は、ソース・ドレイン電極602により覆われている。これにより、電子デバイス600におけるキャリア移動がさらに容易になり、電子デバイス600の性能は、さらに向上する。なお、Ge膜をエッチングしてGe結晶層106を形成した後に、阻害層104をGe結晶層106の形成領域以外の領域に形成する場合には、開口105は、Ge結晶層106の形成領域として把握できる。
【0134】
また、ソース・ドレイン電極602は、エッチングにより露出した開口105のシード化合物半導体結晶108またはGe結晶層106を介して、Si結晶層166に接続されている。これにより、例えば、MISFETの一方の入出力端子を基板電位に維持して、ノイズを低減することができる。
【0135】
図18は、電子デバイス700の断面例を示す。図18の断面例と図3におけるA−A線断面とは同等である。電子デバイス700の構成は、下部ゲート絶縁膜702および下部ゲート電極704を備える他は、電子デバイス100の場合と同様である。
【0136】
下部ゲート電極704は、第2化合物半導体結晶112を挟んで、ゲート電極116と対向して配置される。下部ゲート電極704は、阻害層104の表面に形成された溝部に形成されてもよい。下部ゲート電極704および第2化合物半導体結晶112の間には、下部ゲート絶縁膜702が形成される。
【0137】
電子デバイス700においてゲート電極116および下部ゲート電極704を上記のように配置することにより、簡便にダブルゲート構造を実現できる。これにより、ゲートの制御性を高め、ひいては電子デバイス700のスイッチング性能等を向上させることができる。
【0138】
図19は、半導体基板801の平面例を示す。半導体基板801は、SOI基板802の上に、素子が形成される領域803を備える。領域803は、図示するとおり、SOI基板802の表面に複数配置される。また、領域803は、等間隔に配置される。
【0139】
SOI基板802とSOI基板102とは同等である。つまり、複数のGe結晶層106がSi結晶層166の上に等間隔に設けられる。
【0140】
図20は、領域803の一例を示す。領域803には阻害層804が形成される。阻害層804と電子デバイス100の阻害層104とは同等である。阻害層804は絶縁性である。阻害層804は、例えば、酸化シリコン層、窒化シリコン層、酸窒化シリコン層もしくは酸化アルミニウム層またはこれらを積層した層である。開口806と電子デバイス100の開口105とは同等である。即ち、開口806は、開口105と同様のアスペクト比および面積を有する。阻害層804は、SOI基板802の上に複数形成される。複数の阻害層804は、それぞれ、間隔をおいて配置される。例えば、阻害層804は、1辺が50μm以上400μm以下の正方形に形成される。また、それぞれの阻害層804は、50μm以上500μm以下の間隔をおいて、等間隔に形成されてもよい。
【0141】
本実施形態の半導体基板801においては、図22に示す開口806に、電子素子としてヘテロジャンクション・バイポーラ・トランジスタ(以下、HBTと称する場合がある。)が形成される。開口806を囲むように形成された阻害層804の上には、HBTのコレクタに接続されるコレクタ電極808、エミッタに接続されるエミッタ電極810、およびベースに接続されるベース電極812が各々形成される。なお、電極は、配線または配線のボンディングパッドに代えることもできる。また、電子素子の一例であるHBTは、開口806ごとに一つ形成されてもよい。電子素子は相互に接続されてよく、また、並列に接続されてもよい。
【0142】
図21は、半導体基板801の断面図の一例を、阻害層804で被覆される領域である被覆領域の開口806に形成されるHBTと共に示す。半導体基板801は、SOI基板802、阻害層804、Ge結晶層820、バッファ層822、化合物半導体機能層824を備える。
【0143】
SOI基板802は、少なくとも一部の領域において、Si基板862と、絶縁層864と、Si結晶層866とをこの順に有する。Si基板862、絶縁層864、Si結晶層866と、電子デバイス100のSi基板162、絶縁層164、Si結晶層166とは同等である。Si基板862は主面872を含む。主面872とSi基板162の主面172とは同等である。
【0144】
阻害層804はSi結晶層866の上に形成され、化合物半導体機能層824の結晶成長を阻害する。阻害層804は、化合物半導体機能層824のエピタキシャル成長を阻害する。阻害層804と阻害層104とは同等である。
【0145】
阻害層804は、Si結晶層866の一部を覆うように設けられる。また、阻害層804には、Si結晶層866まで貫通する開口806が形成される。阻害層804の表面の形状は正方形であってよく、阻害層804は、表面の中心に開口806を有してもよい。阻害層804はSi結晶層866に接して形成されてもよい。
【0146】
Ge結晶層820は、Ge結晶層106と同様の構成を有する。例えば、Ge結晶層820は、阻害層804の開口806の内部において結晶成長して形成される。Ge結晶層820は、開口806の内部に選択的に結晶成長する。
【0147】
阻害層804は、阻害層804の表面におけるエピタキシャル成長を阻害する。その結果、阻害層804の表面にはGe結晶層820が形成されない。一方、開口806に露出したSi結晶層866は阻害層804に覆われていないので、開口806において、Si結晶層866の上にGe結晶層820が形成される。Ge結晶層820はSi結晶層866に接して形成されてもよく、中間層を介して形成されてもよい。
【0148】
バッファ層822は、Ge結晶層820に格子整合または擬格子整合する。バッファ層822はバッファ層402と同様の構成を有する。バッファ層822はGe結晶層820と化合物半導体機能層824との間に形成される。バッファ層822はPを含む3−5族化合物半導体層であってもよい。バッファ層822は、例えば、InGaP層である。InGaP層は、例えば、エピタキシャル成長法により形成される。
【0149】
InGaP層がSi結晶層866に接してエピタキシャル成長する場合、InGaP層は、阻害層804の表面には形成されず、Ge結晶層820の表面に選択成長される。バッファ層822の他の例としては、Si結晶層866の上に、500℃以下の温度で結晶成長して形成されたGaAs層であってもよい。なお、半導体基板801はバッファ層822を含まなくてもよい。このとき、Ge結晶層820の化合物半導体機能層824に対向する面は、Pを含むガスで表面処理されてもよい。
【0150】
化合物半導体機能層824は、Ge結晶層820に格子整合または擬格子整合する。化合物半導体機能層824には、例えば、HBTが形成される。HBTは電子素子の一例である。化合物半導体機能層824はGe結晶層820に接して形成されてもよい。即ち、化合物半導体機能層824は、Ge結晶層820に接して、または、バッファ層822を介して形成されてもよい。化合物半導体機能層824は結晶成長により形成されてもよい。例えば、化合物半導体機能層824はエピタキシャル成長により形成される。
【0151】
化合物半導体機能層824は、Ge結晶層820に格子整合または擬格子整合する、3−5族化合物層または2−6族化合物層であってもよい。化合物半導体機能層824は、Ge結晶層820に格子整合または擬格子整合する3−5族化合物層であり、3族元素としてAl、Ga、Inのうち少なくとも1つを含み、5族元素としてN、P、As、Sbのうち少なくとも1つを含んでよい。たとえば化合物半導体機能層824は、GaAs層、またはInGaAs層である。
【0152】
化合物半導体機能層824には、電子素子としてHBTが形成される。なお、化合物半導体機能層824に形成される電子素子として、本実施形態ではHBTを例示するが、電子素子はHBTに限定されず、例えば、発光ダイオード、高電子移動度トランジスタ(以下、HEMTと称する場合がある。)、太陽電池、薄膜センサであってもよい。
【0153】
化合物半導体機能層824の表面には、HBTのコレクタメサ、エミッタメサおよびベースメサが、各々形成される。コレクタメサ、エミッタメサおよびベースメサの表面には、コンタクトホールを介して、コレクタ電極808、エミッタ電極810およびベース電極812が形成される。化合物半導体機能層824は、HBTのコレクタ層、エミッタ層およびベース層を含む。即ち、コレクタ層はバッファ層822の上に形成され、エミッタ層はバッファ層822とコレクタ層との間に形成され、ベース層は、バッファ層822とエミッタ層との間に形成される。
【0154】
コレクタ層は、キャリア濃度が3.0×1018cm−3、膜厚500nmのnGaAs層と、キャリア濃度が1.0×1016cm−3、膜厚500nmのnGaAs層とが、この順に積層した積層膜であってもよい。エミッタ層は、キャリア濃度が3.0×1017cm−3、膜厚30nmのn−InGaP層と、キャリア濃度が3.0×1018cm−3、膜厚100nmのnGaAs層と、キャリア濃度が1.0×1019cm−3、膜厚100nmのnInGaAs層とが、この順に積層した積層膜であってもよい。ベース層は、キャリア濃度が5.0×1019cm−3、膜厚50nmのpGaAs層であってもよい。ここで、キャリア濃度、膜厚の値は、設計値を示す。
【0155】
化合物半導体機能層824以外のSi層の少なくとも一部には、MISFET880が形成されてもよい。MISFET880は、同図に示すように、ウエル882と、ゲート電極888とを有してもよい。図面には示されていないが、ウエル882にはソース領域およびドレイン領域が形成されてもよい。また、ウエル882とゲート電極888との間には、ゲート絶縁膜が形成されてもよい。
【0156】
化合物半導体機能層824以外のSi層は、Si基板862またはSi結晶層866であってもよい。MISFET880は、Si結晶層866において、Ge結晶層820に覆われていない領域に形成されてもよい。
【0157】
また、Si基板862は、単結晶Si基板であってもよい。このとき、MISFET880は、単結晶Si基板において、Ge結晶層820および絶縁層864に覆われていない領域に形成されてもよい。また、Si基板862またはSi結晶層866には、Siを加工して形成される能動素子、機能素子のような電子素子だけでなく、Si層の上に形成される配線、Siを含む配線、および、それらを組み合わせて形成される電子回路、および、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の少なくとも1つが形成されてもよい。
【0158】
なお、本実施形態では、シード結晶層が結晶成長により形成されたGe結晶を含む場合について説明したが、この場合に限定されない。例えば、シード結晶層は、電子デバイス100の場合と同様に、SiGe1−x(0≦x<1)であってもよい。シード結晶層は、Siの含有率が低いSiGe1−xであってもよい。また、シード結晶層は500℃以下の温度で形成されたGaAsまたはInGaAs層を含んでよい。
【実施例】
【0159】
(実施例1)
図6から図7に示された手順に従って、SOI基板102の上に、開口105が形成された阻害層104と、開口105の内部に結晶成長したGe結晶層106とを備える半導体基板を作製した。SOI基板102の上には、25000個のGe結晶層106を作製した。また、図6から図10に示された手順に従って、上記Ge結晶層106ごとに、電子デバイス100を作製した。電子デバイスは、25000個製造した。
【0160】
SOI基板102のSi基板162には、単結晶Si基板を用いた。阻害層104として、SiOをCVD法により形成した後、フォトリソグラフィ法により、阻害層104に開口105を形成した。開口105のアスペクト比は、1とした。Ge結晶層106は、原料ガスとしてGeHを用いて、CVD法により形成した。Ge結晶層106のSOI基板102の表面と略平行な方向における最大幅は、2μmとした。Ge結晶層106を形成した後、800℃で、10分間の高温アニールと、680℃で、10分間の低温アニールとを繰り返す2段階アニールを実施した。上記2段階アニールを、10回実施した。これにより、上記半導体基板が得られた。
【0161】
上記半導体基板のGe結晶層106の上に、シード化合物半導体結晶108、第1化合物半導体結晶110および第2化合物半導体結晶112として、GaAs結晶を形成した。GaAs結晶は、原料ガスとしてTM−GaおよびAsHを用いて、成長温度を650℃として、MOCVD法により形成した。第2化合物半導体結晶112は、AsHの分圧を、1×10−3atmにして成長させた。第2化合物半導体結晶112の上に、高抵抗AlGaAsのゲート絶縁膜114、Ptのゲート電極116、および、Wのソース・ドレイン電極118を形成して、電子デバイス100が得られた。
【0162】
Ge結晶層106が形成された半導体基板について、Ge結晶層106の表面に形成された欠陥の有無を検査した。検査は、エッチピット法により実施した。その結果、Ge結晶層106の表面には、欠陥は発見されなかった。また、10個の電子デバイス100について、貫通欠陥の有無を検査した。検査は、TEMによる面内断面観察により実施した。その結果、貫通欠陥が発見された電子デバイス100は、0個であった。
【0163】
本実施形態によれば、アスペクト比が(√3)/3以上の開口105にGe結晶層106を形成したので、Ge結晶層106が形成された時点で、結晶性に優れた表面を有するGe結晶層106を形成できた。また、本実施形態によれば、Ge結晶層106にアニールを施したことにより、Ge結晶層106の結晶性をさらに高めることができた。Ge結晶層106の結晶性が向上したので、Ge結晶層106を核とするシード化合物半導体結晶108、および、シード化合物半導体結晶108の特定面をシード面とする第1化合物半導体結晶110、および、第1化合物半導体結晶110の特定面をシード面とする第2化合物半導体結晶112の結晶性が向上した。
【0164】
以上の構成により、第2化合物半導体結晶112の上に形成する電子デバイス100の活性層の結晶性を高め、安価な基板であるSOI基板102の上に形成した電子デバイス100の性能を高めることができた。また、本実施形態の電子デバイス100によれば、SOI基板102の上に形成された第2化合物半導体結晶112に電子素子が形成されたので、電子デバイス100の浮遊容量が低減され、電子デバイス100の動作速度が向上した。また、Si基板162へのリーク電流を低減できた。
【0165】
(実施例2)
2500個の領域803を備えた半導体基板801を、以下の通り作製した。SOI基板802のSi基板862には、単結晶Si基板を用いた。酸化シリコンの阻害層804を、CVD法により形成した後、フォトリソグラフィ法により開口806を形成した。開口806のアスペクト比は、1とした。開口806の形状は、1辺が100μmの正方形として、隣接する開口806同士は、500μmの間隔をおいて配置した。開口806の内部に、Ge結晶層820を形成した。Ge結晶層820は、原料ガスとしてGeHを用いて、MOCVD法により形成した。Ge結晶層820のSOI基板802の表面と略平行な方向における最大幅は、2μmとした。Ge結晶層820を形成した後、800℃で、2分間の高温アニールと、680℃で、2分間の低温アニールとを繰り返す2段階アニールを実施した。上記2段階アニールを、10回実施した。
【0166】
Ge結晶層820が形成された半導体基板801について、Ge結晶層820の表面に形成された欠陥の有無を検査した。検査は、エッチピット法により実施した。その結果、Ge結晶層の表面には、欠陥は発見されなかった。以上によれば、阻害層804によって区画された開口806の内部にGe結晶層820を選択成長させ、Ge結晶層820に2段階のアニールを複数回施すことにより、Ge結晶層820の結晶性が向上した。さらに、バッファ層822としてInGaP層を形成することにより、結晶性の優れた化合物半導体機能層824としてのGaAs層を有する半導体基板801を得ることができた。
【0167】
次に、同様にして形成した半導体基板801を用いて、電子デバイスを作製した。電子デバイスは、以下の通り作製した。領域803のそれぞれのGe結晶層820の上に、InGaPのバッファ層822を形成した。バッファ層822は、原料ガスとしてTM−Ga、TM−InおよびPHを用いて、成長温度を650℃として、MOCVD法により形成した。
【0168】
バッファ層822の上に、HBTのコレクタ層として、キャリア濃度が3.0×1018cm−3、膜厚500nmのnGaAs層と、その上にキャリア濃度が2.0×1016cm−3、膜厚500nmのnGaAs層とを、この順に形成した。コレクタ層の上に、HBTのベース層として、キャリア濃度が5.0×1019cm−3、膜厚50nmのpGaAs層を形成した。ベース層の上に、HBTのエミッタ層として、キャリア濃度が3.0×1017cm−3、膜厚30nmのn−InGaP層と、キャリア濃度が3.0×1018cm−3、膜厚100nmのnGaAs層と、キャリア濃度が1.0×1019cm−3、膜厚100nmのnInGaAs層とを、この順に形成した。ここで、キャリア濃度、膜厚の値は、設計値を示す。
【0169】
これにより、ベース層、エミッタ層、コレクタ層を含む化合物半導体機能層824が形成できた。ベース層、エミッタ層、コレクタ層のGaAs層は、原料ガスとしてTM−GaおよびAsHを用いて、成長温度を650℃として、MOCVD法により形成した。その後、それぞれ、所定のエッチングにより、ベース層、エミッタ層、コレクタ層電極接続部を形成した。化合物半導体機能層824の表面に、コレクタ電極808、エミッタ電極810およびベース電極812を形成して、HBTを作製した。エミッタ層及びコレクタ層についてはAuGeNi層を真空蒸着法により形成した。ベース層についてはAuZn層を真空蒸着法により形成した。その後、水素雰囲気中において420℃で10分間熱処理を施すことにより、各電極を形成した。各電極と上記駆動回路とを電気的に接続して、電子デバイスを作製した。
【0170】
これにより、小型で消費電力の少ない電子デバイスを作製できた。また、化合物半導体機能層824の表面を二次電子顕微鏡(以下、SEMと称する場合がある。)で観察したところ、表面にμmオーダーの凹凸は観察されなかった。
【0171】
(実施例3)
Si結晶層866とGe結晶層820との間に、500℃以下の温度で形成されたGaAs層のバッファ層を備えた半導体基板801を作製した。上記半導体基板801は、Si結晶層866とGe結晶層820との間にバッファ層を形成した以外は、実施例2と同様に作製した。バッファ層としてのGaAs層は、原料ガスとしてTM−GaおよびAsHを用いて、成長温度を450℃として、MOCVD法により形成した。これにより、化合物半導体機能層824の結晶性を、ある程度向上できた。
【0172】
(実施例4)
Ge結晶層820の表面がPHガスで処理された半導体基板801を作製した。上記半導体基板801は、InGaPのバッファ層822を用いない点と、Ge結晶層820の化合物半導体機能層824に対向する面をPHガスで処理した後、化合物半導体機能層824を形成した点以外は、実施例2と同様に作製した。これにより、化合物半導体機能層824の結晶性を、ある程度向上できた。
【0173】
(実施例5)
図22は、実施例5から実施例13で使用した半導体基板の断面の模式図である。当該半導体基板は、Si基板2102と、阻害層2104と、Ge結晶層2106と、化合物半導体2108とを備える。化合物半導体2108は、例えば、シード化合物半導体結晶108を含む。
図23から図27は、アニール温度とGe結晶層2106の平坦性との関係示す。図23は、アニールしていないGe結晶層2106の断面形状を示す。図24、図25、図26および図27は、それぞれ、700℃、800℃、850℃、900℃でアニールを実施した場合の、Ge結晶層2106の断面形状を示す。Ge結晶層2106の断面形状は、レーザー顕微鏡により観察した。各図の縦軸は、Si基板2102の主面に垂直な方向における距離を示し、Ge結晶層2106の膜厚を示す。各図の横軸は、Si基板2102の主面に平行な方向における距離を示す。
【0174】
各図において、Ge結晶層2106は以下の手順で形成した。まず、熱酸化法により、Si基板2102の表面にSiO層の阻害層2104を形成して、阻害層2104に被覆領域および開口を形成した。阻害層2104の外形は、被覆領域の外形に等しい。Si基板2102は市販の単結晶Si基板を用いた。被覆領域の平面形状は、一辺の長さが400μmの正方形であった。次に、CVD法により、開口の内部にGe結晶層2106を選択的に成長させた。
【0175】
図23から図27より、アニール温度が低いほどGe結晶層2106の表面の平坦性が良好であることがわかる。特に、アニール温度が900℃未満の場合、Ge結晶層2106の表面が優れた平坦性を示すことがわかる。
【0176】
(実施例6)
Si基板2102と、阻害層2104と、Ge結晶層2106と、素子形成層として機能する化合物半導体2108とを備えた半導体基板を作製して、阻害層2104に形成した開口105の内部に成長する結晶の成長速度と、被覆領域の大きさおよび開口105の大きさとの関係を調べた。実験は、阻害層2104に形成される被覆領域の平面形状および開口105の底面形状を変えて、一定時間の間に成長する化合物半導体2108の膜厚を測定することで実施した。
【0177】
まず、以下の手順で、Si基板2102の表面に、被覆領域および開口105を形成した。Si基板2102の一例として、市販の単結晶Si基板を用いた。熱酸化法により、Si基板2102の表面に、阻害層2104の一例としてSiO層を形成した。
【0178】
上記SiO層をエッチングして、所定の大きさのSiO層を形成した。所定の大きさのSiO層は、3個以上形成した。このとき、所定の大きさのSiO層の平面形状が同一の大きさの正方形となるよう設計した。また、エッチングにより、上記正方形のSiO層の中心に、所定の大きさの開口105を形成した。このとき、上記正方形のSiO層の中心と、上記開口105の中心とが一致するよう設計した。上記正方形のSiO層の1つにつき、1つの開口105を形成した。なお、本明細書において、上記正方形のSiO層の一辺の長さを、被覆領域の一辺の長さと称する場合がある。
【0179】
次に、MOCVD法により、上記開口105に、Ge結晶層2106を選択的に成長させた。原料ガスには、GeHを用いた。原料ガスの流量および成膜時間は、それぞれ、所定の値に設定した。次に、MOCVD法により、化合物半導体2108の一例として、GaAs結晶を形成した。GaAs結晶は、620℃、8MPaの条件で、開口105の内部のGe結晶層2106の表面にエピタキシャル成長させた。原料ガスには、トリメチルガリウムおよびアルシンを用いた。原料ガスの流量および成膜時間は、それぞれ、所定の値に設定した。
【0180】
化合物半導体2108を形成した後、化合物半導体2108の膜厚を測定した。化合物半導体2108の膜厚は、針式段差計(KLA Tencor社製、Surface Profiler P−10)により、化合物半導体2108の3箇所の測定点における膜厚を測定して、当該3箇所の膜厚を平均することで算出した。このとき、当該3箇所の測定点における膜厚の標準偏差も算出した。なお、上記膜厚は、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡による断面観察法により、化合物半導体2108の3箇所の測定点における膜厚を直接測定して、当該3箇所の膜厚を平均することで算出してもよい。
【0181】
以上の手順により、被覆領域の一辺の長さを、50μm、100μm、200μm、300μm、400μmまたは500μmに設定した場合のそれぞれについて、開口105の底面形状を変えて、化合物半導体2108の膜厚を測定した。開口105の底面形状は、一辺が10μmの正方形の場合、一辺が20μmの正方形の場合、短辺が30μmで長辺が40μmの長方形である場合の3通りについて実験した。
【0182】
なお、被覆領域の一辺の長さが500μmの場合、複数の上記正方形のSiO層は、一体的に形成されている。この場合、一辺の長さが500μmの被覆領域が500μm間隔で配置されているわけではないが、便宜上、被覆領域の一辺の長さが500μmの場合として表す。また、便宜上、隣接する2つの被覆領域の間の距離を0μmとして表す。
【0183】
実施例6の実験結果を、図28および図29に示す。図28は、実施例6のそれぞれの場合における化合物半導体2108の膜厚の平均値を示す。図29は、実施例6のそれぞれの場合における化合物半導体2108の膜厚の変動係数を示す。
【0184】
図28は、化合物半導体2108の成長速度と、被覆領域の大きさおよび開口105の大きさとの関係を示す。図28において、縦軸は一定時間の間に成長した化合物半導体2108の膜厚[Å]を示し、横軸は被覆領域の一辺の長さ[μm]を示す。本実施例において、化合物半導体2108の膜厚は一定時間の間に成長した膜厚なので、当該膜厚を当該時間で除することで、化合物半導体2108の成長速度の近似値が得られる。
【0185】
図28において、菱形のプロットは、開口105の底面形状が一辺が10μmの正方形である場合の実験データを示し、四角形のプロットは、開口105の底面形状が一辺が20μmの正方形である場合の実験データを示す。同図において、三角形のプロットは、開口105の底面形状が、長辺が40μm、短辺が30μmの長方形である場合の実験データを示す。
【0186】
図28より、上記成長速度は、被覆領域の大きさが大きくなるに従い、単調増加することがわかる。また、上記成長速度は、被覆領域の一辺の長さが400μm以下の場合には、ほぼ線形に増加しており、開口105の底面形状によるばらつきは少ないことがわかる。一方、被覆領域の一辺の長さが500μmの場合には、被覆領域の一辺の長さが400μm以下の場合と比較して成長速度が急激に増加しており、開口105の底面形状によるばらつきも大きくなることがわかる。このため、阻害層のSi結晶層と平行な面における最大幅は、400μm以下であることが好ましい。
【0187】
図29は、化合物半導体2108の成長速度の変動係数と、隣接する2つの被覆領域の間の距離との関係を示す。ここで、変動係数とは、平均値に対する標準偏差の比であり、上記3箇所の測定点における膜厚の標準偏差を、当該膜厚の平均値で除して算出できる。図29において、縦軸は一定時間の間に成長した化合物半導体2108の膜厚[Å]の変動係数を示し、横軸は隣接する被覆領域の間の距離[μm]を示す。図29は、隣接する2つの被覆領域の間の距離が、0μm、20μm、50μm、100μm、200μm、300μm、400μmおよび450μmの場合の実験データを示す。図29において、菱形のプロットは、開口105の底面形状が一辺が10μmの正方形の場合の実験データを示す。
【0188】
図29において、隣接する2つの被覆領域の間の距離が、0μm、100μm、200μm、300μm、400μmおよび450μmの実験データは、それぞれ、図28における被覆領域の一辺の長さが500μm、400μm、300μm、200μm、100μmおよび50μmの場合の実験データに対応する。隣接する2つの被覆領域の間の距離が20μmおよび50μmのデータについては、他の実験データと同様の手順により、それぞれ、被覆領域の一辺の長さが480μmおよび450μmの場合について化合物半導体2108の膜厚を測定して得られた。
【0189】
図29より、隣接する2つの被覆領域の間の距離が0μmの場合と比較して、上記距離が20μmの場合には、化合物半導体2108の成長速度が非常に安定していることがわかる。上記結果より、隣接する2つの被覆領域がわずかでも離れている場合には、開口105の内部に成長する結晶の成長速度が安定化することがわかる。または、隣接する2つの被覆領域の間に結晶成長が生じる領域が配置されていれば、上記結晶の成長速度が安定化することがわかる。また、隣接する2つの被覆領域の間の距離が0μmの場合であっても、複数の開口105を等間隔で配置することで、上記結晶の成長速度のばらつきを抑制できていることがわかる。
【0190】
(実施例7)
被覆領域の一辺の長さを200μm、500μm、700μm、1000μm、1500μm、2000μm、3000μmまたは4250μmに設定して、それぞれの場合について、実施例6の場合と同様の手順で半導体基板を作製して、開口105の内部に形成された化合物半導体2108の膜厚を測定した。本実施例では、Si基板2102の上に同一の大きさのSiO層が複数配置されるように、当該SiO層を形成した。また、上記複数のSiO層が互いに離間するよう、当該SiO層を形成した。開口105の底面形状は、実施例6と同様に、一辺が10μmの正方形の場合、一辺が20μmの正方形の場合、短辺が30μmで長辺が40μmの長方形である場合の3通りについて実験した。Ge結晶層2106および化合物半導体2108の成長条件は実施例6と同一の条件に設定した。
【0191】
(実施例8)
トリメチルガリウムの供給量を半分にして、化合物半導体2108の成長速度を約半分にした以外は実施例7の場合と同様にして、開口105の内部に形成された化合物半導体2108の膜厚を測定した。なお、実施例8では、被覆領域の一辺の長さを200μm、500μm、1000μm、2000μm、3000μmまたは4250μmに設定して、開口105の底面形状が一辺が10μmの正方形の場合について、実験を実施した。
【0192】
実施例7および実施例8の実験結果を、図30、図31〜図35、図36〜図40、および、表1に示す。図30に、実施例7のそれぞれの場合における化合物半導体2108の膜厚の平均値を示す。図31〜図35に、実施例7のそれぞれの場合における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。図36〜図40に、実施例8のそれぞれの場合における化合物半導体2108の電子顕微鏡写真を示す。表1に、実施例7および実施例8のそれぞれの場合における、化合物半導体2108の成長速度と、Ra値とを示す。
【0193】
図30は、化合物半導体2108の成長速度と、被覆領域の大きさおよび開口105の大きさとの関係を示す。図30において、縦軸は一定時間の間に成長した化合物半導体2108の膜厚を示し、横軸は被覆領域の一辺の長さ[μm]を示す。本実施例において、化合物半導体2108の膜厚は一定時間の間に成長した膜厚なので、当該膜厚を当該時間で除することで、化合物半導体2108の成長速度の近似値が得られる。
【0194】
図30において、菱形のプロットは、開口105の底面形状が一辺が10μmの正方形である場合の実験データを示し、四角形のプロットは、開口105の底面形状が一辺が20μmの正方形である場合の実験データを示す。同図において、三角形のプロットは、開口105の底面形状が、長辺が40μm、短辺が30μmの長方形である場合の実験データを示す。
【0195】
図30より、被覆領域の一辺の長さが4250μmにいたるまで、上記成長速度は、被覆領域の大きさが大きくなるに従い、安定して増加することがわかる。このため、阻害層のSi結晶層と平行な面における最大幅は、4250μm以下であることが好ましい。図28に示した結果および図30に示した結果より、隣接する2つの被覆領域がわずかでも離れている場合には、開口105の内部に成長する結晶の成長速度が安定化することがわかる。または、隣接する2つの被覆領域の間に結晶成長が生じる領域が配置されていれば、上記結晶の成長速度が安定化することがわかる。
【0196】
図31から図35に、実施例7のそれぞれの場合について、化合物半導体2108の表面を電子顕微鏡で観察した結果を示す。図31、図32、図33、図34、図35は、それぞれ、被覆領域の一辺の長さが4250μm、2000μm、1000μm、500μm、200μmの場合の結果を示す。図31から図35より、被覆領域の大きさが大きくなるにつれて、化合物半導体2108の表面状態が悪化していることがわかる。
【0197】
図36から図40に、実施例8のそれぞれの場合について、化合物半導体2108の表面を電子顕微鏡で観察した結果を示す。図36、図37、図38、図39、図40は、それぞれ、被覆領域の一辺の長さが4250μm、2000μm、1000μm、500μm、200μmの場合の結果を示す。図36から図40より、被覆領域の大きさが大きくなるにつれて、化合物半導体2108の表面状態が悪化していることがわかる。また、実施例7の結果と比較すると、化合物半導体2108の表面状態が改善されていることがわかる。
【0198】
表1に、実施例7および実施例8のそれぞれの場合における、化合物半導体2108の成長速度[Å/min]と、Ra値[μm]とを示す。なお、化合物半導体2108の膜厚は、針式段差計により測定した。また、Ra値は、レーザー顕微鏡装置による観察結果に基づいて算出した。表1より、化合物半導体2108の成長速度が小さいほど、表面粗さが改善することがわかる。また、化合物半導体2108の成長速度が300nm/min以下の場合には、Ra値が0.02μm以下であることがわかる。
【表1】

【0199】
(実施例9)
実施例6と同様にして、Si基板2102と、阻害層2104と、Ge結晶層2106と、化合物半導体2108の一例としてのGaAs結晶とを備えた半導体基板を作製した。本実施例では、Si基板2102の表面の(100)面に阻害層2104を形成した。図41から図43に、上記半導体基板に形成されたGaAs結晶の表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0200】
図41は、開口105の底面形状の一辺の方向と、Si基板2102の<010>方向とが実質的に平行となるように配置された開口105の内部にGaAs結晶を成長させた場合の結果を示す。本実施例において、被覆領域の平面形状は、一辺の長さが300μmの正方形であった。開口105の底面形状は、一辺が10μmの正方形であった。図41において、図中の矢印は<010>方向を示す。図41に示すとおり、形状の整った結晶が得られた。
【0201】
図41より、GaAs結晶の4つの側面には、それぞれ、(10−1)面、(1−10)面、(101)面および(110)面が現れているのがわかる。また、図中、GaAs結晶の左上の角には、(11−1)面が現れており、図中、GaAs結晶の右下の角には、(1−11)面が現れていることがわかる。(11−1)面および(1−11)面は、(−1−1−1)面と等価な面であり、安定な面である。
【0202】
一方、図中、GaAs結晶の左下の角および右上の角には、このような面が現れていないのがわかる。例えば、図中、左下の角には(111)面が現れてよいにもかかわらず、(111)面が現れていない。これは、図中、左下の角は、(111)面より安定な(110)面および(101)面に挟まれているからと考えられる。
【0203】
図42は、開口105の底面形状の一辺の方向と、Si基板2102の<010>方向とが実質的に平行となるように配置された開口105の内部にGaAs結晶を成長させた場合の結果を示す。図42は、上方斜め45°から観察した場合の結果を示す。本実施例において、被覆領域の平面形状は、一辺の長さが50μmの正方形であった。開口105の底面形状は、一辺の長さが10μmの正方形であった。図42において、図中の矢印は<010>方向を示す。図42に示すとおり、形状の整った結晶が得られた。
【0204】
図43は、開口105の底面形状の一辺の方向と、Si基板2102の<011>方向とが実質的に平行となるように配置された開口105の内部にGaAs結晶を成長させた場合の結果を示す。本実施例において、被覆領域の平面形状は、一辺の長さが400μmの正方形であった。開口105の底面形状は、一辺の長さが10μmの正方形であった。図43において、図中の矢印は<011>方向を示す。図43に示すとおり、図41および図42と比較して、形状の乱れた結晶が得られた。GaAs結晶の側面に、比較的不安定な(111)面が現れた結果、結晶の形状に乱れが生じたと考えられる。
【0205】
(実施例10)
実施例6と同様にして、Si基板2102と、阻害層2104と、Ge結晶層2106と、化合物半導体2108の一例としてのGaAs層とを備えた半導体基板を作製した。本実施例においては、Ge結晶層2106と、化合物半導体2108との間に中間層を形成した。本実施例において、被覆領域の平面形状は、一辺の長さが200μmの正方形であった。開口105の底面形状は、一辺が10μmの正方形であった。CVD法により、開口105の内部に、膜厚が850nmのGe結晶層2106を形成した後、800℃でアニールを実施した。
【0206】
Ge結晶層2106をアニールした後、Ge結晶層2106が形成されたSi基板2102の温度が550℃になるように設定して、MOCVD法により、中間層を形成した。中間層は、トリメチルガリウムおよびアルシンを原料ガスとして成長させた。中間層の膜厚は、30nmであった。その後、中間層が形成されたSi基板2102の温度を640℃まで昇温した後、MOCVD法により化合物半導体2108の一例としてのGaAs層を形成した。GaAs層の膜厚は、500nmであった。それ以外の条件については、実施例6と同一の条件で半導体基板を作製した。
【0207】
図44に、製造した半導体基板の断面を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す。図44に示すとおり、Ge結晶層2106およびGaAs層には転位は観察されなかった。これにより、上記の構成を採用することで、Si基板上に、良質なGe層、および、当該Ge層に格子整合または擬格子整合する化合物半導体層を形成できることがわかる。
【0208】
(実施例11)
実施例10と同様にして、Si基板2102と、阻害層2104と、Ge結晶層2106と、中間層と、化合物半導体2108の一例としてのGaAs層とを備えた半導体基板を作製した後、得られた半導体基板を用いてHBT素子構造を作製した。HBT素子構造は、以下の手順で作製した。まず、実施例10の場合と同様にして、半導体基板を作製した。なお、本実施例では、被覆領域の平面形状は、一辺の長さが50μmの正方形であった。開口105の底面形状は、一辺が20μmの正方形であった。それ以外の条件については、実施例10の場合と同一の条件で半導体基板をした。
【0209】
次に、MOCVD法により、上記半導体基板のGaAs層の表面に、半導体層を積層した。これにより、Si基板2102と、膜厚が850nmのGe結晶層2106と、膜厚が30nmの中間層と、膜厚が500nmのアンドープGaAs層と、膜厚が300nmのn型GaAs層と、膜厚が20nmのn型InGaP層と、膜厚が3nmのn型GaAs層と、膜厚が300nmのGaAs層と、膜厚が50nmのp型GaAs層と、膜厚が20nmのn型InGaP層と、膜厚が120nmのn型GaAs層と、膜厚が60nmのn型InGaAs層とが、この順に配置されたHBT素子構造が得られた。得られたHBT素子構造に電極を配して、電子素子または電子デバイスの一例であるHBT素子を作成した。上記半導体層において、n型不純物としてSiを用いた。上記半導体層において、p型不純物としてCを用いた。
【0210】
図45は、得られたHBT素子のレーザー顕微鏡像を示す。図中、薄い灰色の部分は、電極を示す。図45より、正方形の被覆領域の中央付近に配置された開口105領域に、3つの電極が並んでいるのがわかる。上記3つの電極は、それぞれ、図中左からHBT素子のベース電極、エミッタ電極およびコレクタ電極を示す。上記HBT素子の電気特性を測定したところ、トランジスタ動作が確認できた。また、上記HBT素子について、透過型電子顕微鏡により断面を観察したところ、転位は観察されなかった。
【0211】
(実施例12)
実施例11と同様にして、実施例11と同様の構造を有するHBT素子を3つ作製した。作製した3つのHBT素子を並列接続した。本実施例では、被覆領域の平面形状は、長辺が100μm、短辺が50μmの長方形であった。また、上記被覆領域の内部に、3つの開口105を設けた。開口105の底面形状は、すべて、一辺が15μmの正方形であった。それ以外の条件については、実施例11の場合と同一の条件でHBT素子を作製した。
【0212】
図46は、得られたHBT素子のレーザー顕微鏡像を示す。図中、薄い灰色の部分は、電極を示す。図46より、3つのHBT素子が並列に接続されていることがわかる。上記電子素子の電気特性を測定したところ、トランジスタ動作が確認できた。
【0213】
(実施例13)
開口105の底面積を変えてHBT素子を作製して、開口105の底面積と、得られたHBT素子の電気特性との関係を調べた。実施例11と同様にして、HBT素子を作製した。HBT素子の電気特性として、ベースシート抵抗値R[Ω/□]および電流増幅率βを測定した。電流増幅率βは、コレクタ電流の値をベース電流の値で除して求めた。本実施例では、開口105の底面形状が、一辺が20μmの正方形、短辺が20μmで長辺が40μmの長方形、一辺が30μmの正方形、短辺が30μmで長辺が40μmの長方形、または、短辺が20μmで長辺が80μmの長方形の場合のそれぞれについて、HBT素子を作製した。
【0214】
開口105の底面形状が正方形である場合には、開口105の底面形状の直交する2つの辺の一方がSi基板2102の<010>方向と平行となり、他方がSi基板2102の<001>方向と平行となるように、開口105を形成した。開口105の底面形状が長方形である場合には、開口105の底面形状の長辺がSi基板2102の<010>方向と平行となり、短辺がSi基板2102の<001>方向と平行となるように、開口105を形成した。被覆領域の平面形状は、主に、1辺が300μmの正方形である場合について実験した。
【0215】
図47は、上記HBT素子のベースシート抵抗値Rに対する電流増幅率βの比と、開口105の底面積[μm]との関係を示す。図47において、縦軸は電流増幅率βをベースシート抵抗値Rで除した値を示し、横軸は開口105の底面積を示す。なお、図47には電流増幅率βの値を示していないが、電流増幅率は70〜100程度の高い値が得られた。一方、Si基板2102の全面に同様のHBT素子構造を形成して、HBT素子を形成した場合の電流増幅率βは、10以下であった。
【0216】
これより、Si基板2102の表面に局所的に上記HBT素子構造を形成することで、電気特性に優れたデバイスを作製できることがわかる。特に、開口105の底面形状の一辺の長さが80μm以下、または、開口105の底面積が1600μm以下の場合には、電気特性に優れたデバイスを作製できることがわかる。この場合、開口105の内部に設けられるシード結晶の底面についても、最大幅が80μm以下、または、面積が1600μm以下となる。ここで、シード結晶の底面の最大幅は、シード結晶の底面の任意の2点を結ぶそれぞれの直線の長さのうち、最大の長さを指す。
【0217】
図47より、開口105の底面積が900μm以下の場合には、開口105の底面積が1600μmの場合と比較して、ベースシート抵抗値Rに対する電流増幅率βの比のばらつきが小さいことがわかる。これより、開口105の底面形状の一辺の長さが40μm以下、または、開口105の底面積が900μmの以下の場合には、上記デバイスを歩留まりよく製造できることがわかる。この場合、開口105の内部に設けられるシード結晶の底面についても、最大幅が40μm以下、または、面積が900μm以下となる。
【0218】
上記のとおり、Siの基板の主面に結晶成長を阻害する阻害層を形成する段階と、阻害層をパターニングして、基板の主面に対し略垂直な方向に貫通して基板を露出させてなる開口105を阻害層に形成する段階と、開口105の内部の基板に接してGe層を結晶成長させる段階と、Ge層上に機能層を結晶成長させる段階とを含む半導体基板の製造方法により半導体基板を作製できた。Siの基板の上に、開口105を有し、結晶成長を阻害する阻害層を形成する段階と、開口105内に、Ge層を形成する段階と、Ge層を形成した後に、機能層を形成する段階とを含む半導体基板の製造方法により、半導体基板を作製できた。
【0219】
上記のとおり、Siの基板の主面に結晶成長を阻害する阻害層を形成し、基板の主面に対し略垂直な方向に貫通して基板を露出させてなる開口105を阻害層に形成し、開口105の内部の基板に接してGe層を結晶成長させ、Ge層上に機能層を結晶成長させて得られる半導体基板を作製できた。Siの基板と、基板の上に設けられ、開口105を有し、結晶成長を阻害する阻害層と、開口105内に形成されたGe層と、Ge層が形成された後に形成された機能層とを含む半導体基板を作製できた。
【0220】
上記のとおり、Siの基板の主面に結晶成長を阻害する阻害層を形成し、基板の主面に対し略垂直な方向に貫通して基板を露出させてなる開口105を阻害層に形成し、開口105の内部の基板に接してGe層を結晶成長させ、Ge層上に機能層を結晶成長させ、機能層に電子素子を形成して得られる電子デバイスを製造できた。Siの基板と、基板の上に設けられ、開口105を有し、結晶成長を阻害する阻害層と、開口105内に形成されたGe層と、Ge層が形成された後に形成された機能層と、機能層に形成された電子素子とを含む電子デバイスを作製できた。
【0221】
(実施例14)
図48は、作製した半導体基板における結晶の断面における走査型電子顕微鏡写真を示す。図49は、図48の写真を見やすくする目的で示した模写図である。当該半導体基板は、以下の方法により作製された。(100)面を主面とするSi基板2202を用意し、Si基板2202の上に、絶縁膜としてSiO膜2204を形成した。SiO膜2204に、Si基板2202の主面に達する開口105を形成し、当該開口105の内部に露出しているSi基板2202の主面に、モノゲルマンを原料として用いたCVD法により、Ge結晶2206を形成した。Si基板2202、SiO膜2204、およびGe結晶2206は、それぞれ、Si結晶層166、阻害層104、Ge結晶層106と同等である。
【0222】
さらに、トリメチルガリウムとアルシンを原料として用いたMOCVD法により、Ge結晶2206の上にシード化合物半導体となるGaAs結晶2208を成長させた。GaAs結晶2208はシード化合物半導体結晶108と同等である。GaAs結晶2208の成長では、まず550℃で低温成長を行い、その後640℃の温度で成長させた。640℃の温度での成長時におけるアルシン分圧は、0.05kPaであった。Ge結晶2206の上にGaAs結晶2208が成長していることが確認できる。GaAs結晶2208のシード面として、(110)面が現れていることが確認できる。
【0223】
続けて、さらにラテラル成長化合物半導体層であるGaAs結晶2208を成長させた。ラテラル成長時の成長温度は640℃であり、アルシン分圧は0.43kPaであった。
【0224】
図50は、得られた結晶の断面における走査型電子顕微鏡写真を示す。図51は、図50の写真を見やすくする目的で示した模写図である。GaAs結晶2208がSiO膜2204の上にラテラル成長面を有し、GaAs結晶2208がSiO膜2204の上にもラテラル成長していることが確認できる。ラテラル成長した部分は、無欠陥領域となっているので、当該ラテラル成長した部分に電子デバイスを形成することで、性能の優れた電子デバイスを形成することができる。
【0225】
(実施例15)
実施例14と同様に、Si基板2202の上にGe結晶2206を選択成長させ、半導体基板を形成した。当該半導体基板に、800℃と680℃の温度を10回繰り返すサイクルアニールを施した。得られた半導体基板(以下試料Aと呼ぶ)のGe結晶2206とSi基板2202の界面でのSiおよびGeの元素濃度を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(以下EDXと記すことがある)により評価した。また同様に、Si基板2202上にGe結晶を選択成長した半導体基板について、サイクルアニールを施さない半導体基板(以下試料Bと呼ぶ)を形成し、同様にEDXにより評価した。
【0226】
図52は、試料AについてのSi元素のプロファイルを示す。図53は、試料AについてのGe元素のプロファイルを示す。図54は、試料BについてのSi元素のプロファイルを示す。図55は、試料BについてのGe元素のプロファイルを示す。図56は、図52から図55を見やすくする目的で示した模式図である。試料Bでは、Si基板2202とGe結晶との間の界面が急峻であるのに対し、試料Aでは、界面がぼやけた状態であり、GeがSi基板2202の中へ拡散している様子が確認できる。Si基板2202、SiO膜2204、およびGe結晶2206は、それぞれ、Si基板2102、阻害層2104、およびGe結晶層2106と同等である。
【0227】
試料Aおよび試料Bについて、Si基板2202とGe結晶2206との界面における測定領域に限定して、SiおよびGeの元素強度積分値を測定した。図57は試料Aについての測定領域を示すSEM写真である。前記元素強度積分値の測定領域は、図57(SEM写真)において、Si基板2202上にGe結晶2206が存在する位置で、そのSi基板2202とGe結晶2206との界面(前記SEM写真において観察される界面)からSi基板2202側へ10〜15nm入った位置とした。
【0228】
図58は、図57に示す測定領域についてのSiおよびGeの元素強度積分値を示す。図59は試料Bについての測定領域を示すSEM写真である。図60は、図59に示す測定領域についてのSiおよびGeの元素強度積分値を示す。試料Bでは、Geの信号がほとんど検出されず、Siの信号が支配的であるのに対し、試料Aでは、Geの信号が比較的大きく検出されている。これより、試料AではGeがSi基板2202中に拡散していることがわかる。
【0229】
Si基板2202とSiO膜2204が接している領域で、Siの元素の深さ方向プロファイルをプロットしたとき、Si基板2202におけるSiの強度とSiO膜2204におけるSiの強度との合計が50%になる位置をSi基板2202とGe結晶の界面と定め、その界面からSi基板2202側へ5nmから10nmまでの範囲のGeおよびSiのそれぞれの元素強度比を測定した。各元素強度比から、それぞれの元素についての深さ方向の積分値を算出し、それぞれの積分値の比(Ge/Si)を算出した。
【0230】
その結果、試料Aでは3.33、試料Bでは1.10となった。これにより、Si基板2202とGe結晶2206との界面から、Si基板2202側へ5nmから10nmまでの範囲におけるGeの平均濃度は、試料Aで77%、試料Bで52%と算出された。試料Aおよび試料Bについて、透過型電子顕微鏡による転位の観察を行ったところ、試料AではGe結晶2206表面に到達している転位は存在していなかった。一方、試料Bでは1×10cm−2程度の密度で結晶表面に到達する転位の存在が確認された。以上の結果から、サイクルアニールの実施は、Ge結晶2206の転位を低減させる効果があることを確認した。
【0231】
(実施例16)
実施例15の試料Aと同様にサイクルアニールを施したGe結晶2206上に、MOCVD法によりGaAs結晶2208を成長させ、当該GaAs結晶2208上にさらにGaAs層およびInGaP層からなる多層構造膜を積層して試料Cを作成した。また、Ge結晶2206にポストアニールを施していないことを除いては、上記と同様にGaAs結晶2208および多層構造膜を形成して試料Dを作成した。
【0232】
試料Cおよび試料Dについて、実施例15と同様のEDX測定を実施し、Si基板2202とGe結晶との界面からSi基板2202側へ5nmから10nmまでの範囲のGeおよびSiのそれぞれの元素強度比を測定した。さらに深さ方向の積分値を算出し、GeおよびSiのそれぞれの積分値の比(Ge/Si)を算出した。試料Cは2.28であり、試料Dは0.60であった。これよりSi基板2202とGe結晶の界面からSi基板2202側へ5nmから10nmまでの範囲におけるGeの平均濃度は、試料Cは70%と算出され、試料Dは38%と算出された。
【0233】
試料Cおよび試料Dについて、透過型電子顕微鏡による転位の観察を行ったところ、試料CではGaAs層およびInGaP層からなる多層構造膜にまで到達する転位は存在しなかったのに対し、試料DではGaAs層およびInGaP層からなる多層構造膜まで到達する転位が観測された。以上より、Si基板2202とGe結晶との界面からSi基板2202側へ5nmから10nmまでの範囲におけるGeの平均濃度が60%以上の場合に、より高品質な化合物半導体層がGe結晶上に形成できることがわかる。さらに好ましいGeの平均濃度は、70%以上である。
【0234】
(実施例17)
実施例17では、阻害層の幅を変えることでデバイス用薄膜の成長速度が変化することを、本発明者らの実験データに基づき説明する。デバイス用薄膜とは、デバイス用薄膜が加工されて半導体デバイスの一部になる薄膜をいう。たとえばシリコン結晶上に複数の化合物半導体薄膜を順次積層し、積層された化合物半導体薄膜を加工して半導体デバイスを形成する場合、積層された化合物半導体薄膜はデバイス用薄膜に含まれる。また、積層された化合物半導体薄膜とシリコン結晶との間に形成されるバッファ層もデバイス用薄膜に含まれ、バッファ層あるいは化合物半導体薄膜の結晶成長の核となるシード層もデバイス用薄膜に含まれる。
【0235】
デバイス用薄膜の成長速度は、平坦性、結晶性等デバイス用薄膜の特性に影響する。そしてデバイス用薄膜の特性は、当該デバイス用薄膜に形成される半導体デバイスの性能に強く影響する。よって、半導体デバイスの要求仕様から導かれるデバイス用薄膜の要求特性を満足するように、デバイス用薄膜の成長速度を適切に制御する必要がある。以下に説明する実験データは、阻害層の幅等によってデバイス用薄膜の成長速度が変化することを示す。当該実験データを用いることにより、デバイス用薄膜の成長速度がデバイス用薄膜の要求仕様から導かれる適正な成長速度になるよう、阻害層の形状を設計することが可能になる。
【0236】
図61は、実施例17で作成した半導体デバイス用基板3000の平面パターンを示す。半導体デバイス用基板3000は、ベース基板上に、阻害層3002、デバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006を有する。阻害層3002がデバイス用薄膜3004を囲み、犠牲成長部3006が阻害層3002を囲むように、阻害層3002、デバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006を形成した。
【0237】
阻害層3002は、ほぼ正方形の外形を有するように形成し、正方形の中心部分にほぼ正方形の開口部を形成した。開口部の一辺aは30μmまたは50μmとした。阻害層3002の外周辺から内周辺までの距離である阻害層3002の幅bは5μmから20μmの範囲で変化させた。阻害層3002として、二酸化シリコン(SiO)を用いた。二酸化シリコンは、選択MOCVDとなるエピタキシャル成長条件においては、その表面に結晶がエピタキシャル成長しない。阻害層3002は、ベース基板上にドライ熱酸化法を用いて二酸化シリコン膜を形成し、当該二酸化シリコン膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより形成した。
【0238】
阻害層3002以外のベース基板上に、MOCVD法により化合物半導体結晶を選択エピタキシャル成長させた。阻害層3002で囲まれた開口部にエピタキシャル成長させた化合物半導体結晶がデバイス用薄膜3004であり、阻害層3002の外側の阻害層3002を囲む化合物半導体結晶が犠牲成長部3006である。化合物半導体結晶として、GaAs結晶、InGaP結晶またはP型ドープしたGaAs結晶(p−GaAs結晶)を成長させた。Ga原料としてトリメチルガリウム(Ga(CH)を用い、As原料としてアルシン(AsH)を用いた。In原料としてトリメチルインジウム(In(CH)を用い、P原料としてホスフィン(PH)を用いた。P型不純物である炭素(C)のドープは、ドーパントとして臭化トリクロロメタン(CBrCl)の添加量を調整することで制御した。エピタキシャル成長時の反応温度は、610℃とした。
【0239】
図62は、デバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006としてGaAsをエピタキシャル成長させた場合における、デバイス用薄膜3004の成長速度と阻害層3002の幅との関係を示したグラフである。図63はデバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006としてGaAsをエピタキシャル成長させた場合における、デバイス用薄膜3004の成長速度と面積比との関係を示したグラフである。図64は、デバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006としてInGaPをエピタキシャル成長させた場合における、デバイス用薄膜3004の成長速度と阻害層3002の幅との関係を示したグラフである。
【0240】
図65はデバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006としてInGaPをエピタキシャル成長させた場合における、デバイス用薄膜3004の成長速度と面積比との関係を示したグラフである。図66は、デバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006としてp−GaAsをエピタキシャル成長させた場合における、デバイス用薄膜3004の成長速度と阻害層3002の幅との関係を示したグラフである。図67はデバイス用薄膜3004および犠牲成長部3006としてp−GaAsをエピタキシャル成長させた場合における、デバイス用薄膜3004の成長速度と面積比との関係を示したグラフである。
【0241】
図62から図67の各図において、縦軸は化合物半導体結晶の成長速度比を示す。成長速度比は、阻害層3002がないベタ平面における成長速度を1とした場合の、当該ベタ平面における成長速度と比較した成長速度の比である。面積比は、デバイス用薄膜3004が形成される領域の面積と阻害層3002の形成されている領域の面積とを加えた総面積に対するデバイス用薄膜3004が形成される領域の面積の比である。
【0242】
各図において、黒四角または黒菱形で示したプロットは実際の測定点を示す。実線は実験線を示す。実験線は1変数の2次関数であり、各多項式の係数を最小二乗法により求めた。比較のため、犠牲成長部3006がない場合におけるデバイス用薄膜3004の成長速度比を破線で示す。L1は阻害層3002の開口部面積が50μm□の場合であり、L2は阻害層3002の開口部面積が30μm□の場合である。犠牲成長部3006がない場合とは、犠牲成長部3006に相当する領域が阻害層3002で覆われている場合のことである。
【0243】
図62から図67の各図に示す通り、阻害層3002の幅が大きくなるほど成長速度は大きくなり、面積比が小さくなるほど成長速度は大きくなった。また、実験線と測定点とは良く一致した。よって、実験線の2次関数を用いて所望の成長速度を実現するよう阻害層3002を設計できることがわかる。
【0244】
なお、このような実験結果は、以下のような結晶の成長メカニズムを考えることで説明できる。すなわち成膜中の結晶原料であるGaやAsの原子は、空間から飛来する分子または表面泳動する分子によって供給されると考えられる。本発明者らは、選択エピタキシャル成長するようなMOCVDの反応環境においては、表面泳動している分子による結晶原料の供給が支配的であると考えている。この場合、阻害層3002に飛来してきた原料分子(前駆体)は、表面から離脱するもの以外は阻害層3002の表面を泳動し、デバイス用薄膜3004または犠牲成長部3006に供給される。ここで、阻害層3002の幅が大きければ、表面泳動により供給される原料分子の絶対数が大きくなりデバイス用薄膜3004の成長速度は大きくなる。また、総面積に対するデバイス用薄膜3004の面積比が小さければ、阻害層3002からデバイス用薄膜3004に供給される原料分子が相対的に多くなる。このためデバイス用薄膜3004の成長速度は大きくなる。
【0245】
上記のような成長メカニズムを基礎にすれば、犠牲成長部3006の機能を以下のように把握できる。すなわち、仮に犠牲成長部3006がないとすればデバイス用薄膜3004に過剰な原料分子が供給され、デバイス用薄膜3004の表面乱れや結晶性の低下を招く。つまり犠牲成長部3006が存在することで、阻害層3002に飛来してきた原料分子を適度に犠牲成長部3006に取り込ませ、デバイス用薄膜3004への原料分子の供給が適正量に制御される。犠牲成長部3006は、原料分子を犠牲成長させて消費することにより、デバイス用薄膜3004への過剰な原料分子の供給を抑制する機能があるといえる。
【0246】
図68および図69は、ベース基板のオフ角を2°にした場合の半導体デバイス用基板3000の表面を観察した電子顕微鏡写真である。図68はエピタキシャル成長後の状態を観察したものであり、図69はアニール後の状態を観察したものである。図70および図71は、ベース基板のオフ角を6°にした場合の半導体デバイス用基板3000の表面を観察した電子顕微鏡写真である。図70はエピタキシャル成長後の状態を観察したものであり、図71はアニール後の状態を観察したものである。ここでオフ角とは、ベース基板であるシリコンの表面が結晶学的面方位である(100)面から傾いた角度をいう。
【0247】
図68および図70に示す通り、オフ角が2°の場合の結晶表面は、オフ角が6°の場合の結晶表面に比べて表面の乱れが小さかった。よってオフ角6°よりオフ角2°が好ましい。図69および図71に示すようにアニール後の結晶表面は何れのオフ角においても良好であった。よってオフ角が2°から6°の範囲であれば良好な結晶が成長できることが分かった。
【0248】
(実施例18)
図72は、本発明者らが製造したヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)3100の平面図を示す。HBT3100は20個のHBT素子3150を並列に接続した構造を有する。なお、図72においてベース基板の一部を示し、1つのHBT3100の部分だけを示す。同一のベース基板にテストパターンその他の半導体素子も形成したが、ここでは説明を省略する。
【0249】
20個のHBT素子3150のそれぞれのコレクタはコレクタ配線3124で並列に接続し、それぞれのエミッタはエミッタ配線3126で並列に接続し、それぞれのベースはベース配線3128で並列に接続した。なお、20個のベースは4つのグループに分け、各グループの5個のベースをそれぞれ並列に接続した。コレクタ配線3124はコレクタパッド3130に接続し、エミッタ配線3126はエミッタパッド3132に接続し、ベース配線3128はベースパッド3134に接続した。コレクタ配線3124、コレクタパッド3130、エミッタ配線3126およびエミッタパッド3132は同一の第1配線層に形成し、ベース配線3128およびベースパッド3134は第1配線層より上層の第2配線層に形成した。
【0250】
図73は図72において破線で囲んだ部分を示す顕微鏡写真である。図74は図73において破線で囲んだ3個のHBT素子3150の部分を拡大して示す平面図である。コレクタ配線3124はコレクタ電極3116に接続され、エミッタ配線3126はエミッタ引き出し配線3122を介してエミッタ電極3112に接続され、ベース配線3128はベース引き出し配線3120を介してベース電極3114に接続された。コレクタ配線3124、エミッタ引き出し配線3122およびベース引き出し配線3120の下層にはフィールド絶縁膜3118を形成しており、HBT素子3150および犠牲成長部とコレクタ配線3124、エミッタ引き出し配線3122およびベース引き出し配線3120との間をフィールド絶縁膜3118で絶縁した。フィールド絶縁膜3118の下層には阻害層3102を形成した。阻害層3102で囲んだ領域にHBT素子3150を形成した。図75は、HBT素子3150の領域を観察したレーザー顕微鏡写真である。
【0251】
図76から図80は、HBT3100の製造工程の順に示した平面図である。ベース基板としてシリコンウェハを用意し、当該ベース基板の上に二酸化シリコン膜をドライ熱酸化法により形成した。その後、図76に示すように、フォトリソグラフィ法を用いて二酸化シリコン膜をパターニングし、阻害層3102を形成した。
【0252】
図77に示すように、選択エピタキシャル法を用いて、阻害層3102で囲んだ領域にデバイス用薄膜3108を形成し、阻害層3102を囲む周囲の領域に犠牲成長部3110を形成した。デバイス用薄膜3108は、ベース基板であるシリコンウェハ上に、Geシード層、バッファ層、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、サブエミッタ層を順次積層して形成した。デバイス用薄膜3108の積層中、エミッタ層成長後、サブエミッタ層成長前に、いったんアルシン流量をゼロとし、水素ガス雰囲気下で、670℃、3分間の条件でアニールを行った。
【0253】
図78に示すように、デバイス用薄膜3108にエミッタ電極3112を形成し、エミッタ電極3112をマスクにしてデバイス用薄膜3108にエミッタメサを形成した。エミッタメサを形成する段階ではベース層が露出する深さまでデバイス用薄膜3108をエッチングした。次にコレクタ電極3116が形成される領域にコレクタメサを形成した。コレクタメサを形成する段階ではサブコレクタ層が露出する深さまでデバイス用薄膜3108をエッチングした。さらにデバイス用薄膜3108の周辺部をエッチングしてアイソレーションメサを形成した。
【0254】
図79に示すように、全面に二酸化シリコン膜を成膜してフィールド絶縁膜3118を形成し、フィールド絶縁膜3118にベース層に接続する接続孔を開口してベース電極3114を形成した。さらにフィールド絶縁膜3118にサブコレクタ層に接続する接続孔を開口してコレクタ電極3116を形成した。なお、エミッタ電極3112、ベース電極3114およびコレクタ電極3116はニッケル(Ni)および金(Au)の積層膜とした。エミッタ電極3112、ベース電極3114およびコレクタ電極3116はリフトオフ法により形成した。このようにしてHBT素子3150を形成した。
【0255】
図80に示すように、エミッタ電極3112に接続するエミッタ引き出し配線3122、エミッタ引き出し配線3122に接続するエミッタ配線3126、ベース電極3114に接続するベース引き出し配線3120、コレクタ電極3116に接続するコレクタ配線3124を形成した。エミッタ引き出し配線3122、エミッタ配線3126、ベース引き出し配線3120およびコレクタ配線3124はアルミニウムとした。さらにエミッタ引き出し配線3122、エミッタ配線3126、ベース引き出し配線3120およびコレクタ配線3124を覆うポリイミド膜を層間絶縁層として全面に形成した。層間絶縁層の上に、接続孔を介してベース引き出し配線3120に接続するベース配線3128を形成し、図74に示すHBT3100を形成した。
【0256】
図81から図85は、製造したHBT3100の各種特性を測定したデータを示すグラフである。図81はベース−エミッタ間の電圧を変化させたときのコレクタ電流およびベース電流を示す。四角のプロットがコレクタ電流であり、三角のプロットがベース電流である。図82はベース−エミッタ間の電圧を変化させたときの電流増幅率を示す。ベース−エミッタ間電圧が約1.15V付近から電流増幅率が増加し、ベース−エミッタ間電圧が1.47Vに達したとき最大電流増幅率が106に達した。図83はコレクタ電圧に対するコレクタ電流を示す。同図は、ベース電圧を変化させたときのデータを4系列示している。同図によって、広いコレクタ電圧の範囲でコレクタ電流が安定して流れることが示された。図84は、電流増幅率が1となるカットオフ周波数を求めるための実験データを示す。ベース−エミッタ間電圧が1.5Vである場合においてカットオフ周波数15GHzの値が得られた。図85は、電流増幅率が1となる最大発振周波数を求めるための実験データを示す。ベース−エミッタ間電圧が1.45Vである場合において最大発振周波数9GHzの値が得られた。
【0257】
図86は、デバイス用薄膜3108を形成した段階における、2次イオン質量分析法による深さプロファイルを測定したデータである。Asの原子濃度、Cの原子濃度、InGaAs中のSiの原子濃度、およびGaAs中のSiの原子濃度値が、それぞれの深さに対応して示されている。範囲3202は、サブエミッタ層およびエミッタ層であるGaAsおよびInGaPである。範囲3204は、ベース層であるp−GaAsである。範囲3206は、コレクタ層であるn−GaAsである。範囲3208は、サブコレクタ層であるn+GaAsおよびエッチストップ層であるInGaPである。範囲3210は、バッファ層であるGaAsおよびAlGaAsである。範囲3212は、シード層であるGeである。
【0258】
図87は、HBT3100と同時に形成したHBTの断面を示すTEM写真である。シリコン3220の上にGe層3222、バッファ層3224、サブコレクタ層3226、コレクタ層3228、ベース層3230、サブエミッタ層およびエミッタ層3232が順次形成されている。サブコレクタ層3226に接触してコレクタ電極3234が形成され、ベース層3230に接触してベース電極3236が形成され、エミッタ層3232に接してエミッタ電極3238が形成されていることが示された。
【0259】
図88は、比較のために示すTEM写真であり、阻害層がないベタ基板にデバイス用薄膜を形成したHBTを示す。3240で示す領域に多くの結晶欠陥が観察され、欠陥はHBTの活性領域であるエミッタ−ベース−コレクタ領域に達している。一方、図87に示すHBTでは、結晶欠陥は極めて少ない。図87に示すHBTでは最大電流増幅率として123が得られたが、図88のHBTでは最大電流増幅率は30に過ぎなかった。
【0260】
以上の説明において電子デバイスの一例として、MISFET(metal−insulator−semiconductor field−effect transistor)を例示した。しかし電子デバイスはMISFETに限られず、MISFETの他、MOSFET、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、シュードモルフィックHEMT(pseudomorphic−HEMT)が例示できる。さらに電子デバイス100として、MESFET(Metal−Semiconductor Field Effect Transistor)等が例示できる。
【0261】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【0262】
なお、本明細書において、各要素を順次積層する積層方向を上方向と記載する場合がある。しかし、上記記載は、電子デバイス100等の積層方向を、電子デバイス100等の使用時に上になる方向に限定するものではない。本明細書において「上に形成される」とは、積層方向に形成されることを意味する。また、「上に形成される」とは、対象に接して形成される場合だけでなく、別の層を介して形成される場合をも含む。
【符号の説明】
【0263】
10 半導体基板 、11 主面 、12 ベース基板 、13 絶縁層 、14 Si結晶層 、15 阻害層 、16 シード結晶 、17 開口 、20 半導体基板 、28 化合物半導体、100 電子デバイス、102 SOI基板、104 阻害層、105 開口、106 Ge結晶層、108 シード化合物半導体結晶、110 第1化合物半導体結晶、112 第2化合物半導体結晶、114 ゲート絶縁膜、116 ゲート電極、118 ソース・ドレイン電極、120 欠陥捕捉部、130 欠陥捕捉部、162 Si基板、164 絶縁層、166 Si結晶層、172 主面、200 電子デバイス、300 電子デバイス、400 電子デバイス、402 バッファ層、500 電子デバイス、502 ソース・ドレイン電極、600 電子デバイス、602 ソース・ドレイン電極、700 電子デバイス、702 下部ゲート絶縁膜、704 下部ゲート電極、801 半導体基板、802 SOI基板、803 領域、804 阻害層、806 開口、808 コレクタ電極、810 エミッタ電極、812 ベース電極、820 Ge結晶層、822 バッファ層、824 化合物半導体機能層、862 Si基板、864 絶縁層、866 Si結晶層、872 主面、880 MISFET、882 ウエル、888 ゲート電極、2102 Si基板、2104 阻害層、2106 Ge結晶層、2108 化合物半導体、2202 Si基板、2204 SiO膜、2206 Ge結晶、2208 GaAs結晶、3000 半導体デバイス用基板、3002 阻害層、3004 デバイス用薄膜、3006 犠牲成長部、3100 HBT、3102 阻害層、3108 デバイス用薄膜、3110 犠牲成長部、3112 エミッタ電極、3114 ベース電極、3116 コレクタ電極 3118 フィールド絶縁膜、3120 配線、3122 配線、3124 コレクタ配線、3126 エミッタ配線、3128 ベース配線、3130 コレクタパッド、3132 エミッタパッド、3134 ベースパッド、3150 HBT素子、3202 範囲、3204 範囲、3206 範囲、3208 範囲、3210 範囲、3212 範囲、3220 シリコン、3224 バッファ層、3226 サブコレクタ層、3230 ベース層、3232 エミッタ層、3234 コレクタ電極、3236 ベース電極、3238 エミッタ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板と、絶縁層と、Si結晶層とをこの順に備える半導体基板において、
前記Si結晶層上に設けられ、化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層であって、前記Si結晶層にまで貫通する開口を有する阻害層と、
前記開口の内部に設けられたシード結晶と、
前記シード結晶に格子整合または擬格子整合している化合物半導体と
を更に備える半導体基板。
【請求項2】
前記化合物半導体の前記開口に含まれる部分が(√3)/3以上のアスペクト比を有する
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記化合物半導体が、
前記シード結晶上で、前記阻害層の表面よりも凸に結晶成長したシード化合物半導体結晶と、
前記シード化合物半導体結晶を核として前記阻害層に沿ってラテラル成長したラテラル成長化合物半導体結晶と
を有する請求項1または請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記ラテラル成長化合物半導体結晶が、
前記シード化合物半導体結晶を核として前記阻害層に沿ってラテラル成長した第1化合物半導体結晶と、
前記第1化合物半導体結晶を核として前記阻害層に沿って前記第1化合物半導体結晶と異なる方向にラテラル成長した第2化合物半導体結晶と
を有する請求項3に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記ラテラル成長化合物半導体結晶が3−5族化合物半導体または2−6族化合物半導体である
請求項3または請求項4に記載の半導体基板。
【請求項6】
前記阻害層が複数の前記開口を有し、
前記複数の開口のそれぞれの内部に設けられたシード結晶に格子整合または擬格子整合している前記化合物半導体は、隣接する前記開口の内部に設けられたシード結晶に格子整合または擬格子整合している前記化合物半導体と接していない請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項7】
前記シード結晶が、結晶成長したSiGe1−x(0≦x<1)結晶または500℃以下の温度で結晶成長したGaAsを含む請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項8】
前記シード結晶の前記化合物半導体との界面が気体のP化合物により表面処理されている請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項9】
前記化合物半導体が3−5族化合物半導体または2−6族化合物半導体である請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項10】
前記化合物半導体が3−5族化合物半導体であり、3族元素としてAl、Ga、Inのうち少なくとも1つを含み、5族元素としてN、P、As、Sbのうち少なくとも1つを含む請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項11】
前記化合物半導体はPを含む3−5族化合物半導体からなるバッファ層を含み、
前記バッファ層が前記シード結晶に格子整合または擬格子整合している
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項12】
前記Si結晶層における前記シード結晶に覆われていない部分に設けられたSi半導体デバイスを更に備える請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項13】
前記ベース基板が単結晶のSiであり、
前記ベース基板における前記シード結晶が設けられていない部分に設けられたSi半導体デバイスを更に備える
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項14】
前記Si結晶層の前記シード結晶が形成される面は、(100)面、(110)面、(111)面、(100)面と結晶学的に等価な面、(110)面と結晶学的に等価な面、および(111)面と結晶学的に等価な面、から選択されたいずれか一つの結晶面から傾いたオフ角を有する請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項15】
前記開口の底面の最大幅が40μm以下である請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項16】
前記ベース基板が、(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面から傾いたオフ角を有する主面を有し、
前記開口の底面が長方形であり、
前記長方形の一辺が、前記ベース基板の<010>方向、<0−10>方向、<001>方向、および<00−1>方向のいずれか一つと実質的に平行である
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項17】
前記ベース基板が、(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面から傾いたオフ角を有する主面を有し、
前記開口の底面が六角形であり、
前記六角形の一辺が、前記ベース基板の<1−10>方向、<−110>方向、<0−11>方向、<01−1>方向、<10−1>方向、および<−101>方向のいずれか一つと実質的に平行である
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項18】
サブストレートと、
前記サブストレート上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられたSi結晶層と、
前記Si結晶層上に設けられ化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層であって、前記Si結晶層にまで貫通する開口を有する阻害層と、
前記開口の内部に設けられたシード結晶と、
前記シード結晶に格子整合または擬格子整合する化合物半導体と、
前記化合物半導体を用いて形成された半導体デバイスと
を備える電子デバイス。
【請求項19】
前記化合物半導体は、
前記シード結晶上で、前記阻害層の表面よりも凸に結晶成長したシード化合物半導体結晶と、
前記シード化合物半導体結晶を核として前記阻害層に沿ってラテラル成長したラテラル成長化合物半導体結晶とを有する請求項18に記載の電子デバイス。
【請求項20】
ベース基板と、絶縁層と、Si結晶層とをこの順に有するSOI基板を準備する段階と、
前記Si結晶層上に、化合物半導体の結晶成長を阻害する阻害層を設ける段階と、
前記Si結晶層にまで貫通する開口を前記阻害層に形成する段階と、
前記開口の内部でシード結晶を成長させる段階と、
前記シード結晶に格子整合または擬格子整合する前記化合物半導体を結晶成長させる段階と
を備える半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図47】
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【図49】
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【図51】
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【図56】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図72】
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【図74】
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【図76】
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【図77】
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【図78】
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【図79】
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【図80】
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【図81】
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【図82】
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【図83】
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【図84】
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【図85】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図50】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図73】
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【図75】
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【図86】
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【図87】
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【図88】
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【公開番号】特開2010−226081(P2010−226081A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229934(P2009−229934)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】