説明

成膜方法、成膜装置及び記憶媒体

【課題】α-アルミナを含むアルミナ膜の成膜温度の低温化を図ることができる成膜方法等を提供する。
【解決手段】
処理容器2内に被処理体(ウエハW)を載置し、有機アルミニウム化合物を含む原料ガスと、水蒸気等の水素原子、酸素原子を含む酸化ガスとを当該処理容器2内に導入する。次いで当該処理容器2内の処理雰囲気を200℃以上500℃以下の温度範囲に加熱して、被処理体の上にダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜を形成し、当該被処理体を800℃以上、1,000℃以下の温度範囲で加熱して、当該含酸素アルミニウム化合物の膜を、α-アルミナを含むアルミナ膜に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-アルミナ(α-Al23;α型酸化アルミニウム)を含むアルミナ膜を成膜する成膜方法、成膜装置及び成膜方法を実施するプログラムを格納した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化、微細化が進みつつあり、またデバイス構造についても多様化の傾向にあるが、これに伴って特性や製造工程などの面においてより適切な膜の選定、開発に力が注がれている。
例えばMONOS(Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Semiconductor)型のフラッシュメモリにて使用されているメモリ素子100は、図1に示すようにソース電極101、ドレイン電極102間のシリコン層(シリコン基板110)の上にトンネル酸化膜103、チャージトラップ層104、ブロッキング絶縁層105及びコントロールゲート106を積層して構成されている(このコントロールゲート106がポリシリコンより形成されているメモリ素子100をSONOS(Silicon-Oxide-Nitride-Oxide-Semiconductor)型ともいう)。チャージトラップ層104は例えばシリコン窒化膜(Si)により形成されており、ブロッキング絶縁層105としては、このシリコン窒化膜に対するバンドギャップが大きく、またリーク電流の少ない膜が用いられる。
【0003】
一方、従来用いられているフローティングゲート型のフラッシュメモリは、電荷を貯めるフローティングゲートと制御電圧を印加するコントロールゲートとの間を、シリコン窒化膜の両面をシリコン酸化膜により挟んだいわゆるONO膜と呼ばれている3層構造のゲート絶縁膜で絶縁している。
【0004】
ところで最近において既述のMONOS型のメモリ素子100では、ブロッキング絶縁層105としてα-Al23を利用する技術が検討されている。α-Al23はコランダム結晶構造を有し、鉱物中に多く存在しているが、バンドギャップが8.8eV程度とシリコン窒化膜に対して大きく、また誘電率が高いことから膜厚を大きくできるのでリーク電流も抑えられ、ブロッキング絶縁層105としては好適に用いることができる。そしてα-Al23を用いればブロッキング絶縁層が一層構造になるため、ゲート絶縁膜にONO膜を採用したフローティングゲート型のフラッシュメモリに比べても製造工程を簡略化できる利点がある。
【0005】
α-Al23は例えばTMA(トリメチルアルミニウム)を原料として300℃程度のプロセス温度で成膜し、その後1,100℃以上の高温でアニールすることにより得られる。Al23は300℃程度で成膜した段階ではアモルファスであり、α-Al23型に相転移するためには1,100℃以上の高温でアニールする必要がある。なおTMAを用いて300℃よりも高い温度で成膜すると、成膜の行われる処理容器内に供給されたTMAは、半導体ウエハの中心部に達する前に気相で熱分解され、容器の壁部や半導体ウエハのエッジへの吸着に殆ど消費され、結果として半導体ウエハのエッジのみにしか成膜されない。
【0006】
一方、半導体ウエハを1,100℃もの高温でアニールすると、それまで積層されてきた部分に予定としていない熱履歴が残り、例えばイオン注入した不純物の活性度が設計値から変わってきてしまう。このためアニール温度は実際の製造プロセスにおいては1,000℃程度までしか設定できないが、そうするとγ-Al23、θ-Al23、η-Al23等、スピネル構造の結晶を含むAl23にしかならず、シリコン窒化膜に対するバンドギャップが8.2eV程度と低くなり、α-Al23を用いることにより狙っている特性が得られなくなる。このようなプロセス上の問題からフラッシュメモリのMONOS構造におけるα-Al23の適用化が阻まれている。
【0007】
なお特許文献1には、塩化アルミニウム(AlCl)、塩化チタン(TiCl)を処理容器内で交互に水蒸気と反応させて、アルミナ膜と酸化チタン膜とが交互に積層されたATO膜を成膜する技術が記載されている。しかしながら当該技術には特にα-Al23を含んだアルミナ膜を成膜する技術は記載されておらず、上述の問題を解決することはできない。
【特許文献1】特開2001-234345号公報:第0026段落
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情のもとになされたものであり、その目的は、α-アルミナを含むアルミナ膜の成膜温度の低温化を図ることができる成膜方法、成膜装置及び成膜方法を実施するプログラムを格納した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係わるアルミナ膜の成膜方法は、処理容器内に被処理体を載置する工程と、
前記処理容器内に、有機アルミニウム化合物を含む原料ガスを導入する工程と、
前記処理容器内に、水素原子及び酸素原子を含む酸化ガスを導入する工程と、
前記処理容器内の処理雰囲気を200℃以上、500℃以下の温度範囲で加熱することにより、前記原料ガスと酸化ガスとを反応させて前記被処理体の表面にダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜を成膜する工程と、
前記含酸素アルミニウム化合物の膜が形成された被処理体を、800℃以上、1,000℃以下の温度範囲で加熱して、当該含酸素アルミニウム化合物の膜を、α-アルミナを含むアルミナ膜に変化させる工程と、を含むことを特徴とする。更に前記原料ガスを処理容器内に導入する工程と、前記酸化ガスを処理容器内に導入する工程とは、交互に行われることが好ましい。
【0010】
当該成膜方法において、前記有機アルミニウム化合物は、トリメチルアルミニウムまたはトリス(1-メトキシ-2-メチル-2-プロポキシ)アルミニウムを含んでいることが好ましく、前記水素原子及び酸素原子を含む酸化ガスは、ヒドロキシ基を含む原子、例えば水蒸気であることが好適である。またこの成膜方法により成膜されたアルミナ膜は、MONOS型メモリ素子内に形成されるブロッキング絶縁膜に適用することが好適である。
【0011】
次いで他の発明に係るアルミナ膜の成膜装置は、内部に被処理体が載置される処理容器と、
前記被処理体を加熱するための加熱手段と、
前記処理容器内に有機アルミニウム化合物を含む原料ガスを供給するための原料ガス供給手段と、
前記処理容器内に水蒸気からなる酸化ガスを供給するための酸化ガス供給手段と、
前記処理容器内の被処理体が200℃以上、500℃以下の温度に加熱され、前記原料ガス及び酸化ガスを用いて当該被処理体の上にダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜を成膜するステップと、この含酸素アルミニウム化合物の膜が形成された被処理体を800℃以上、1,000℃以下の温度に加熱して、当該含酸素アルミニウム化合物の膜を、α-アルミナを含むアルミナ膜に変化させるステップと、を実行するように各手段を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
更にまた、他の発明に係る記憶媒体は、アルミナ膜の成膜装置に用いられ、コンピュータ上で動作するプログラムを格納した記憶媒体であって、前記プログラムは上述したいずれかの成膜方法を実行するためにステップが組まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダイアスポア(α-AlOOH)は800℃〜1,000℃程度の比較的低い温度範囲で加熱することによりα-Al23に変化する特性を有しているので、この特性を利用して先ず被処理体の上にダイアスポアを含む膜を成膜してから当該被処理体を既述の温度範囲でアニールすることにより、比較的低温のアニール温度でα-Al23を含むアルミナ膜を得ることができる。このため、アモルファス状のアルミナ膜を成膜してから1,100℃以上の高温で加熱してα-Al23に変化させる手法と比較して、アニールによって被処理体に与える熱履歴の影響が小さくて済む。この結果、例えばこのアルミナ膜をMONOS型のメモリ素子のブロッキング絶縁膜として利用することが可能となり、当該絶縁膜下層のシリコン窒化膜等からなるチャージトラップ層に対するバンドギャップを大きくして、リーク電流の少ないメモリ素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施の形態に係る成膜装置の構成を説明する前に、当該成膜装置を用いてα-Al23を含むアルミナ膜を成膜する原理について簡単に説明する。背景技術でも説明したように、例えばアモルファス状のAl23からα-Al23を得るためには成膜したアルミナ膜を1,100℃以上もの高温でアニールする必要があり、半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)W上に既に積層されている部分への熱履歴の影響が大きく好ましくない。そこで本発明者らは、このような熱履歴の影響を受けない1,000℃以下の温度範囲でのアニールによりα-Al23へと変化する物質を探索したところ、アルミニウムの水酸化物の一種であるダイアスポア(α-AlOOH)は、800℃〜1,000℃の温度範囲でα-Al23に変化する物質として知られているとの知見を得た。
【0015】
このような知見に基づいて本発明者らは、ウエハW上に直接Al23を成膜するのではなく、一旦ダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜を形成し、次いでこの膜を800℃〜1,000℃の温度範囲でアニールすることにより、比較的低温でα-Al23を含むアルミナ膜を得ることができると考えた。このような考え方に基づいて本実施の形態に係る成膜装置は、ダイアスポアを含む膜を成膜する工程と、これに続くアニール処理を実行する工程との2種類の連続する工程が実行できるように構成されている。ここで本発明における含酸素アルミニウム化合物は、例えばダイアスポアやベーマイト等のいわゆるヒドロキシ基(OH基)を含むアルミニウム化合物を包含するものであり、更に例えばアモルファスAl23等のアルミニウム化合物を組成として含んでいてもよい。
【0016】
以下、本発明をバッチ式の熱処理装置である縦型熱処理装置に適用した実施の形態について図2の縦断面図を用いて説明する。本実施の形態に係る成膜装置1は、原料ガスと酸化ガスとを切り替えて交互に反応容器内に供給し、両ガスの反応により1層あるいは少数層の原子層や分子層を形成し、このサイクルを複数回行うことにより、これらの層を積層して、ウエハW上への成膜を行う、ALD(Atomic Layer Deposition)やMLD(Molecular Layer Deposition)等と呼ばれるプロセスにより成膜を行う装置として構成されている。また当該成膜装置1は、前述のプロセスにより膜の形成されたウエハWにアニール処理を施して当該膜の性質を変化させる機能も備えている。
【0017】
図2中2は、例えば石英により縦型の円筒状に形成された処理容器を成す反応容器であり、この反応容器2の下端は、炉口として開口され、その開口部21の周縁部にはフランジ22が反応容器2と一体に形成されている。この反応容器2の下方には、フランジ22の下面に当接して開口部21を気密に閉塞する、例えば石英製の蓋体23が図示しないボートエレベータにより上下方向に開閉可能に設けられている。なお当該蓋体23の内部には、後述のように反応容器2内に供給される水蒸気の結露を防止するための、例えばシート状の抵抗発熱体からなるキャップヒータ231が埋設されている。
【0018】
前記蓋体23の中央部には、回転軸24が貫通して設けられ、その上端部にはウエハボート25が搭載されている。このウエハボート25は、3本以上例えば4本の支柱26を備えており、複数枚例えば125枚の被処理体であるウエハWを棚状に保持できるように、前記支柱26には多数の溝(スロット)が形成されている。但し、125枚のウエハWの保持領域の内、上下両端部については複数枚のダミーウエハが保持され、その間の領域に製品ウエハWが保持されることになる。前記回転軸24の下部には、当該回転軸24を回転させる駆動部をなすモータMが設けられており、モータMは回転軸24を介してウエハボート25全体を回転させることができる。また蓋体23の上には前記回転軸24を囲むように保温ユニット27が設けられている。
【0019】
反応容器2内には、2本のL字型のインジェクタ31、34、即ち処理ガスを供給するための第1のガスインジェクタ31と、酸化ガス及び不活性ガスを供給するための第2のガスインジェクタとが反応容器2下部のフランジ22を介して挿入されている。図2に示すように第1のガスインジェクタ31は、その先端部がウエハボート25の上端部まで立ち上げられていて、この立ち上げ部分には、ウエハボート24に保持された各ウエハWに対応した高さ位置にガス供給孔311が設けられている。
【0020】
第1のガスインジェクタ31は上流側にて原料ガス供給路32と接続されており、例えば後述のAl(MMP)を供給する場合には、当該原料ガス供給路32の更に上流側にはバルブV1を介して、原料ソースを気化させる気化器331が設けられている。この気化器331には、各々マスフローコントローラMFC1、MFC2及びバルブV2、V3を介して原料ソース供給源33及び、例えば窒素ガスボンベ等からなるキャリアガス供給源332が設けられている。この場合には、原料ガス供給源33内の原料は液体の状態のまま例えば圧送ガスにより気化器331へ送られ、当該気化器331にてAl(MMP)を気化されてからキャリアガスと共に反応容器2内へと送られるようになっている。
【0021】
ここで原料ガス供給路32、気化器331、原料ソース供給源33、キャリアガス供給源332や各種バルブV1〜V3、マスフローコントローラMFC1、MFC2は原料ガス供給手段3aを構成している。また、例えば後述のTMAを供給する場合には、図2に示した気化器331やキャリアガス供給源332に替えて、原料を貯留したタンク等を原料ソース供給源33とし、このタンクをヒータ等によって加熱することによりTMAを気化させて反応容器2へと供給するように原料ガス供給手段3aを構成してもよい。
【0022】
また本実施の形態に係る成膜装置1の原料ソース供給源33には、例えば下記の化学式(化1)に示すTMA(Trimethyl aluminum)や(化2)に示すトリス(1-メトキシ-2-メチル-2-プロポキシ)アルミニウム(Tris(1-methoxy-2-methyl-2-propoxy)Aluminum;Al(MMP)と記す)等の有機アルミニウム化合物を含む原料ソースが貯留されている。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

なお、以下の説明では原料ガスとしてTMAを用いる場合について説明する。
【0025】
一方、第2のガスインジェクタ34は、既述の第1のガスインジェクタ31とほぼ同様の構成を備えており、ウエハボート25の上端部まで立ち上げられると共に、この立ち上げ部分には多数のガス供給孔341が設けられていて、ウエハボート25に保持された各ウエハWの高さ位置にガスを供給可能な構成となっている。
【0026】
この第2のガスインジェクタ34は上流側にて2本に分岐し、各々酸化ガス供給路35及び不活性ガス供給路39と接続されている。酸化ガス供給路35の更に上流側にはバルブV4を介して水蒸気発生装置36が接続されている。更に当該水蒸気発生装置36には、各々マスフローコントローラMFC4、MFC5及びバルブV7、V8を介して水素ガス供給源37及び酸素ガス供給源38が設けられており、各々水素ガス、酸素ガスを水蒸気発生装置36へと供給することができる。
【0027】
ここで水蒸気発生装置36は、内部を通過するガスを加熱する加熱手段を備えると共に、ガスの流路には例えば白金等の触媒が設けられ、酸素ガス及び水素ガスを例えば500℃以下の所定温度に加熱しながら触媒に接触させて水蒸気を発生させるように構成されている。この水蒸気発生装置36は、例えば減圧された反応容器2内に供給される水蒸気の濃度を、水蒸気及び酸素ガスに対する水蒸気の濃度で1体積%〜90体積%の範囲で変化させることができる。なお水蒸気の供給にあたっては、このような触媒を用いた水蒸気の供給に替えて、水を気化させて水蒸気を得る気化器を用いてもよいことは勿論である。
【0028】
また第2のインジェクタ34から分岐した既述の不活性ガス供給路39の上流側には、前後にバルブV5、V6の設けられたマスフローコントローラMFC3を介して、不活性ガスである例えば窒素ガスをボンベ内等に格納した窒素ガス供給源30が設けられている。なお、以上に説明した各種ガス供給路35、39やバルブV6〜V8、ガス供給源37、38、30や水蒸気発生装置36は、ガス供給部3bを構成しており、当該ガス供給部3bのうち特に酸化ガス供給路35上流の各種機器(水蒸気発生装置36、マスフローコントローラMFC4、MFC5、バルブV4、V7、V8及び水素ガス供給源37、酸素ガス供給源38)が酸化ガス供給手段に相当する。
【0029】
また反応容器2の上方には、反応容器2内を排気するための排気口4が形成されている。この排気口4には、反応容器2内を所望の真空度に減圧排気可能な真空ポンプ41及び圧力調整手段42を備えた排気管43が接続されている。反応容器2の周囲には、反応容器2内を加熱するための加熱手段であるヒータ44を備えた加熱炉45が設けられている。前記ヒータ44としては、コンタミネーションがなく昇降温特性が優れたカーボンワイヤー等を用いることが好ましい。
【0030】
更に、成膜装置1は、既述のヒータ44や圧力調整手段42及びガス供給部3の動作を制御する制御部5を備えている。制御部5は例えば図示しないCPUとプログラムとを備えたコンピュータからなり、プログラムには当該成膜装置1によってウエハWへの成膜やアニール処理を行うのに必要な動作、例えばヒータ44の温度コントロールや反応容器2内の圧力調整及び反応容器2への処理ガスや酸化ガスの供給量調整に係る制御等についてのステップ(命令)群が組まれている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0031】
次に成膜装置1を用いて実施する成膜方法の一例について、図3に示したシーケンス図を参照しながら説明する。シーケンス図中、図3(a)は反応容器2内の温度を示し、図3(b)は反応容器2へのTMAの供給タイミング、図3(c)は水蒸気の供給タイミング、図3(d)は窒素ガスの供給タイミングを示している。
【0032】
先ず被処理体であるウエハW、例えば図4(a)に示すようなP型シリコン基板110上にソース電極101やドレイン電極102が形成され、その上にトンネル酸化膜103となるシリコン酸化膜103aや、チャージトラップ層104となるシリコン窒化膜104aが積層されたウエハWを所定枚数ウエハボート25に保持させ、次いで図3(a)に示すように、例えば温度が150℃程度に維持された反応容器2内に、図示しないボートエレベータを上昇させることによりウエハボート25を搬入(ロード)する(搬入工程)。
【0033】
続いて反応容器2の下端開口部21が蓋体23により塞がれたら、図3(a)に示すように、反応容器2内の温度を例えば50℃/分の昇温速度で、例えば200℃以上、500℃以下の温度範囲の例えば300℃まで昇温させると共に、排気口4を通じて反応容器2内を真空ポンプ41により例えば13.3Pa(0.1torr)〜1.3×10Pa(10torr)以下の範囲内の例えば133Pa(1Torr)程度の圧力となるように排気する。なおこのとき、反応容器2内の蓋体23表面の温度が例えば150℃となるように、既述キャップヒータ231により蓋体23を加熱して、後段の水蒸気の導入による蓋体2表面への水蒸気の結露を防止する。
【0034】
反応容器2内の昇温及び排気を完了したら、真空ポンプ41の稼動を継続しながらウエハW上に成膜を行う工程に移る。先ず図3(b)に示すように、TMAを例えば50sccm〜1,000sccmの範囲の例えば100sccmの流量で、反応容器2内に例えば30秒間供給する。このとき、TMAは第1のガスインジェクタ中を上昇しながら昇温され、ウエハボート25に棚状に保持された各ウエハWに対応した高さ位置にて、各ガス供給孔311からウエハWに向けて吐出される。
【0035】
ガス供給孔311から吐出されたTMAは、反応容器2内の処理雰囲気中で加熱され、分解されながらウエハW表面に吸着する。このとき、TMAは棚状に保持された各ウエハWの表面を横切るように吐出されるので、反応容器2内における分解速度が速いとしても、ウエハWのエッジ部分に偏らず、ウエハ表面に均一に吸着することができる。
【0036】
次いでTMAの供給を停止すると、真空ポンプ41による排気は継続しているので、反応容器2内からはウエハWへ吸着しなかった余分なTMAが真空排気される。その後、図3(d)に示すように供給するガスを窒素ガスに切り替えて、反応容器2内に残存するTMAの更なるパージを行った後、図3(c)に示すように反応容器2に供給するガスを切り替えて、例えば20〜500sccmの範囲の例えば100sccmの水蒸気を例えば30秒間供給する。そして水蒸気の供給を停止し余分な水蒸気の真空排気を行った後、図3(d)に示すように、反応容器2内に供給するガスを窒素ガスに再度切り替えて、水蒸気の更なるパージを行う。
【0037】
このように反応容器2へのTMA供給→真空排気→窒素ガスパージ→水蒸気供給→真空排気→窒素ガスパージの6つの工程の組み合わせを1サイクルとすると、これらの工程を例えば30サイクル行いウエハW上への成膜を行う(成膜工程)。なおここで、TMAに替えてAl(MMP)を原料ガスとして用いる場合には、Al(MMP)の供給量を気化器に入る前の液体ベースで例えば0.1sccm〜1.0sccmの範囲で供給するように調整するとよい。また、窒素ガスによるパージは、TMAや水蒸気の供給後に真空排気を行う場合に限定されず、例えばこれらのガスの供給を停止した後、直ちに窒素ガスパージを行うようにしてもよい。
【0038】
このようにTMAと水蒸気とを交互に供給することによって、ウエハWの表面においては、ウエハW表面に吸着した原料ガスであるTMA(ないしはその分解反応生成物)が酸化ガスである水蒸気により酸化、分解され、例えばアモルファス状のAl23をはじめとする含酸素アルミニウム化合物の膜105aが成膜される。また水蒸気はヒドロキシ基(OH基)を含んでいる(即ち水素原子と酸素原子とを含んでいる)ため、当該含酸素アルミニウム化合物中に酸素原子や水素原子を取り込ませることもできる。このような原料ガスと酸化ガスとの相互作用により、当該含酸素アルミニウム化合物の中には、水素及び酸素を含んだダイアスポア(α-AlOOH)やベーマイト(γ-AlOOH)に近い構造のものも含まれていることを発明者らは見出した。ダイアスポアやベーマイトの生成は、例えば以下の(1)式、(2)式に示す反応等に基づいて生成する場合等が考えられる。
Al(CH+HO→AlO(CH)+2CH…(1)
AlO(CH)+HO→AlOOH+CH …(2)
【0039】
このようにウエハW表面には、各種の含酸素アルミニウム化合物が形成されるが、既述のようにTMAはウエハボート25の上端部まで立ち上げられた第1のガスインジェクタ31より各ウエハWに供給され、ウエハW表面に均一に吸着している。更に、TMAと反応する水蒸気についても、第1のガスインジェクタ31と同様に、ウエハボート25の上端部まで立ち上げられた第2のガスインジェクタの各ガス供給孔341から各ウエハWに直接水蒸気が供給されるため、例えば反応容器2の底部から水蒸気を供給する場合と比較して、ウエハW面間で均一な温度条件のもとでTMAと水蒸気とを反応させることができる。
【0040】
これらの結果、水蒸気との反応により成膜された含酸素アルミニウム化合物の膜は、面内においてその膜厚が均一且つ膜質(含酸素アルミニウム化合物の組成比等)が均質であり、また複数のウエハW面間において膜厚、膜質のバラツキの少ない、良質な膜を得ることができる。
【0041】
以上の工程により、図4(b)に示すようにダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜105aを成膜したら、次にこの膜105aに含まれるダイアスポアをα-Al23に変化させるアニール工程に移る。アニール工程においては、図3(d)に示すように反応容器2に窒素ガスを連続的に供給すると共に、当該容器2内の圧力を例えば1.3×10Pa(10torr)〜1.01×10Pa(大気圧)の範囲内の例えば1.3×10Pa(100torr)とする。更に、図3(a)に示すように反応容器2内の温度を例えば200℃/分の昇温速度にて昇温し、例えば800℃以上、1,000℃以下の温度範囲の例えば900℃に維持し、反応容器2内のウエハWに対してアニール処理を施す。
【0042】
既述のように800℃以上、1,000℃以下の温度範囲においては、ウエハW上に成膜されている含酸素アルミニウム化合物膜105a中に含まれているダイアスポアはα-Al23へと変化する。この結果、反応容器2内に載置されているウエハW上には、図4(c)に示すようにα-Al23を含むアルミナ膜105bが成膜されることになる。なお、以上に説明した成膜工程及びアニール工程の期間中は、ウエハボート25はモータMにより回転している。
【0043】
以上のアニール工程において、800℃〜1,000℃の範囲の処理温度は、アルミナ膜105b下層の積層構造(各電極101、102の形成されたP型シリコン基板110やシリコン酸化膜103a、シリコン窒化膜104a)に与える熱履歴の影響が比較的小さい。また、アニールにより含酸素アルミニウム化合物から変化したアルミナ膜105b内にα-Al23が含まれていることにより、例えば全てがγ-Al23で構成されているアルミナ膜に比べてシリコン窒化膜104aに対する当該アルミナ膜105b全体の平均的なバンドギャップが高くなるので、リーク電流を低減することが可能となる。
【0044】
成膜装置1の動作説明に戻ると、以上に説明した工程によりシリコン窒化膜104a上にアルミナ膜105bが形成されたら、反応容器2内への窒素ガスの供給を継続しながら反応容器2内の圧力を大気圧に戻す。次いで図3(a)に示すように反応容器2内の温度を例えば200℃まで下降させ、ウエハボート25を反応容器2から搬出(アンロード)する(搬出工程)。以上に説明した一連の工程は、制御部5に格納されたプロセスレシピに基づいて、ヒータ44、圧力調整手段42及びガス供給部3等を制御して行われる。
【0045】
反応容器2から搬出されたウエハWには、その後、図5に示すようにアルミナ膜105bの上にコントロールゲート106となるポリシリコン膜106aが形成される。しかる後、これらの積層構造体からフォトリソグラフィ等によりトンネル酸化膜103〜コントロールゲート106のゲート構造を得て、更に各電極101、102及びコントロールゲート106に信号線を接続することにより、図1に示す構造を有するフラッシュメモリのメモリ素子100が形成される。
【0046】
以上に説明した実施の形態に係る成膜装置1によれば以下の効果がある。ダイアスポア(α-AlOOH)は800℃〜1,000℃程度の比較的低い温度範囲で加熱することによりα-Al23に変化する特性を有しているので、ウエハWの上にダイアスポアを含む膜105aを成膜してから当該被処理体を既述の温度範囲でアニールすることにより、比較的低温のアニール温度でα-Al23を含むアルミナ膜105bを得ることができる。このため、アモルファス状のアルミナ膜を成膜してから1,100℃以上の高温で加熱してα-Al23に変化させる手法と比較して、アニールによって被処理体に与える熱履歴の影響が小さくて済む。この結果、例えばこのアルミナ膜105bをMONOS型のメモリ素子100のブロッキング絶縁膜105として利用することが可能となり、当該絶縁膜105下層のシリコン窒化膜等からなるチャージトラップ層104に対するバンドギャップを大きくして、リーク電流の少ないメモリ素子を得ることができる。
【0047】
なお実施の形態中に示した成膜装置1においては、反応容器2内に原料ガスと酸化ガスとを交互に供給するALDプロセスにより成膜工程を実行する場合について説明したが、これら原料ガスと酸化ガスとを同時に連続供給する通常のCVD(Chemical Vapor Deposition)プロセスにより含酸素アルミニウム化合物の膜105aを成膜してもよい。また本実施の形態においては、成膜工程と、その後のアニール工程とを同一の反応容器2内にて実施する場合について説明したが、これらの工程を別々の装置にて行うように構成してもよい。
【0048】
更にまた、ダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物を得るために使用する酸化ガスの種類も水蒸気に限定されるものではなく、例えばヒドロキシ基を含むガスとして過酸化水素ガス(H)であってもよく、また酸素原子を含むガスとして二酸化炭素を用い、水素原子を含むガスとして水素ガスを用いてこれら2種類のガスを供給するようにしてもよい。これに加え、アニール工程を行う雰囲気も実施の形態中に示した窒素ガスを用いる場合に限定されず、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。また不活性ガスに限らず例えば酸素ガスを供給しながらアニール処理を行ったり、ガス供給はせずに真空排気のみを行ってアニール処理を行ったりしてもよい。
【0049】
この他、本実施の形態に係る成膜装置1により成膜されるアルミナ膜105aも、実施の形態中に示したMONOS型のフラッシュメモリのブロッキング絶縁膜105として利用される場合だけに限定されない。例えば、DRAMのキャパシタの絶縁膜にも本実施の形態に係る成膜装置1により成膜されたアルミナ膜105は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のアルミナ膜が用いられるMONOS型メモリ素子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の成膜方法を実施する成膜装置を示す縦断断面図である。
【図3】前記成膜装置の作用を示すシーケンス図である。
【図4】前記MONOS型メモリ素子の製造過程を示す縦断面図である。
【図5】前記製造過程を示す第2の縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
MFC1〜MFC5
マスフローコントローラ
V1〜V8 バルブ
W ウエハ
1 成膜装置
2 反応容器
3a 原料ガス供給手段
3b ガス供給部
4 排気口
5 制御部
21 開口部
22 フランジ
23 蓋体
24 回転軸
25 ウエハボート
26 支柱
27 保温ユニット
30 窒素ガス供給源
31 第1のガスインジェクタ
32 原料ガス供給路
33 原料ソース供給源
34 第2のガスインジェクタ
35 酸化ガス供給路
36 水蒸気発生装置
37 水素ガス供給源
38 酸素ガス供給源
39 不活性ガス供給路
41 真空ポンプ
42 圧力調整手段
43 排気管
44 ヒータ
45 加熱炉
100 メモリ素子
101 ソース電極
102 ドレイン電極
103 トンネル酸化膜
103a シリコン酸化膜
104 チャージトラップ層
104a シリコン窒化膜
105 ブロッキング絶縁膜
105a 含酸素アルミニウム化合物膜
105b アルミナ膜
106 コントロールゲート
106a ポリシリコン膜
110 シリコン基板
231 キャップヒータ
331 気化器
311、341
ガス供給孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に被処理体を載置する工程と、
前記処理容器内に、有機アルミニウム化合物を含む原料ガスを導入する工程と、
前記処理容器内に、水素原子及び酸素原子を含む酸化ガスを導入する工程と、
前記処理容器内の処理雰囲気を200℃以上、500℃以下の温度範囲で加熱することにより、前記原料ガスと酸化ガスとを反応させて前記被処理体の表面にダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜を成膜する工程と、
前記含酸素アルミニウム化合物の膜が形成された被処理体を、800℃以上、1,000℃以下の温度範囲で加熱して、当該含酸素アルミニウム化合物の膜を、α-アルミナを含むアルミナ膜に変化させる工程と、を含むことを特徴とするアルミナ膜の成膜方法。
【請求項2】
前記原料ガスを処理容器内に導入する工程と、前記酸化ガスを処理容器内に導入する工程とは、交互に行われることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記有機アルミニウム化合物は、トリメチルアルミニウムまたはトリス(1-メトキシ-2-メチル-2-プロポキシ)アルミニウムを含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記水素原子及び酸素原子を含む酸化ガスは、ヒドロキシ基を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシ基を含む酸化ガスは水蒸気であることを特徴とする請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記アルミナ膜は、MONOS型メモリ素子内に形成されるブロッキング絶縁膜であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載のアルミナ膜の成膜方法。
【請求項7】
内部に被処理体が載置される処理容器と、
前記被処理体を加熱するための加熱手段と、
前記処理容器内に有機アルミニウム化合物を含む原料ガスを供給するための原料ガス供給手段と、
前記処理容器内に水蒸気からなる酸化ガスを供給するための酸化ガス供給手段と、
前記処理容器内の被処理体が200℃以上、500℃以下の温度に加熱され、前記原料ガス及び酸化ガスを用いて当該被処理体の上にダイアスポアを含む含酸素アルミニウム化合物の膜を成膜するステップと、この含酸素アルミニウム化合物の膜が形成された被処理体を800℃以上、1,000℃以下の温度に加熱して、当該含酸素アルミニウム化合物の膜を、α-アルミナを含むアルミナ膜に変化させるステップと、を実行するように各手段を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
アルミナ膜の成膜装置に用いられ、コンピュータ上で動作するプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記プログラムは請求項1ないし6のいずれか一つに記載の成膜方法を実行するためにステップが組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−132961(P2009−132961A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309198(P2007−309198)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】