操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラム
【課題】転舵専用アクチュエータ不要とすることによって操舵輪関連の設計上の自由度を向上させた、SBW技術使用の操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、ステアバイワイヤ式の車両CRの操舵を制御する装置であり、左右の操舵輪TL,TRに独立してトルクを付与する操舵輪用モータML,MRと、左右の操舵輪TL,TRを転舵可能に連結するロッド部16と、操舵輪用モータML,MRを駆動制御する操舵制御部20Aと、を備え、操舵輪TL,TRの接地中心とキングピン位置とが車両CRの幅方向にオフセットしており、操舵制御部20Aは、左右の操舵輪TL,TRにトルク差を生じさせるように操舵輪用モータML,MRを駆動制御し、トルク差に応じた転舵力をロッド部16を介して左右の操舵輪TL,TRに伝達させることによって、車両CRを転舵させる。
【解決手段】操舵制御装置は、ステアバイワイヤ式の車両CRの操舵を制御する装置であり、左右の操舵輪TL,TRに独立してトルクを付与する操舵輪用モータML,MRと、左右の操舵輪TL,TRを転舵可能に連結するロッド部16と、操舵輪用モータML,MRを駆動制御する操舵制御部20Aと、を備え、操舵輪TL,TRの接地中心とキングピン位置とが車両CRの幅方向にオフセットしており、操舵制御部20Aは、左右の操舵輪TL,TRにトルク差を生じさせるように操舵輪用モータML,MRを駆動制御し、トルク差に応じた転舵力をロッド部16を介して左右の操舵輪TL,TRに伝達させることによって、車両CRを転舵させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵角を制御する操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムに関し、詳細には、ステアバイワイヤ技術を採用し、操舵輪ごとに独立してトルクを付与する車両において操舵角を制御する操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリングホイールと操舵輪との機械的接続をなくしたステアバイワイヤ(SBW)という技術が知られている。SBWを採用した車両では、ステアリングホイールの操作量をセンサによって検出し、モータまたは油圧機構を用いてステアリングホイールの操作量に応じた操舵輪の転舵が行われる。
【特許文献1】特開平7−125643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、操舵輪を転舵するための動力源として、モータ、油圧機構などの転舵専用アクチュエータが必要であり、この結果、他の構造物のスペースに余裕がなくなり、操舵関連の設計上の制約となっていた。
【0004】
本発明は、前記した問題を解決すべく創案されたものであり、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させた、SBW式の操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御装置であって、左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータと、前記左右の操舵輪を転舵可能に連結するロッド部と、前記操舵輪用モータを駆動制御する操舵制御部と、を備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしており、前記操舵制御部は、前記左右の操舵輪にトルク差を生じさせるように前記操舵輪用モータを駆動制御し、前記トルク差に応じた転舵力を前記ロッド部を介して前記左右の操舵輪に伝達させることによって、前記車両を転舵させることを特徴とする。
【0006】
かかる構成によると、キングピン位置が操舵輪の接地中心と車両幅方向にオフセットしているので、左右の操舵輪に異なるトルクを付与することにより、転舵力を発生させることができる。すなわち、転舵専用アクチュエータによらずに、車両を転舵させることができる。また、左右の操舵輪に付与されるトルクを調整することにより、転舵専用アクチュエータによらずに、所望の転舵角を得ることができる。また、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。
なお、キングピン位置は、操舵輪が転舵するときの回転中心軸である仮想キングピン軸の接地点である。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の操舵制御装置であって、前記操舵輪用モータは、前記左右の操舵輪ごとに設けられており、前記操舵輪用モータは、前記操舵輪内にすべて収容されていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によると、操舵輪用モータが操舵輪のホイール内にすべて収容されているので、ロアアーム、ショックアブソーバユニットなどから構成されるサスペンションジオメトリの自由度が向上し、キングピン位置のオフセット量の最適設定が行いやすくなる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置であって前記キングピン位置は、車両幅方向において前記接地中心よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によると、キングピン位置を車両内側寄りにオフセットさせるので、オフセットの設定が容易である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の操舵制御装置であって、前記キングピン位置は、車両幅方向において前記操舵輪の車両内側端よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする。
【0012】
なお、キングピン位置は、操舵輪を転舵させない状態、すなわち操舵輪が車両前方に向いている状態で操舵輪の車両内側端よりも内側寄りに設定されていればよい。
かかる構成によると、より大きな転舵力を発生することができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置であって、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備え、前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することにより、前記ロッド部をロックまたはロック解除することを特徴とする。
【0014】
かかる構成によると、ロック機構がロッド部をロックした場合には、左右の操舵輪の転舵角がロックされる。このとき、左右の操舵輪のトルクに差があっても、操舵輪は転舵されない。
したがって、例えば運転者によるステアリング操作がない場合にロッド部をロックし、操舵輪の安定性を向上することができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置であって、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備え、前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することを特徴とする。
【0016】
かかる構成によると、操舵制御部の制御により、ロック機構がロッド部をロックする力を変化させることができる。
したがって、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
【0017】
また、前記目的を達成するため、請求項7に記載の発明は、ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御システムであって、車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部と、前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部と、車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部と、前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
かかる構成によると、キングピン位置が操舵輪の接地中心と車両幅方向にオフセットしていることを利用して、左右の操舵輪に異なるトルクを付与することにより、転舵力を発生させることができる。すなわち、転舵専用アクチュエータによらずに、車両を転舵させることができる。また、左右の操舵輪に付与されるトルクを調整することにより、転舵専用アクチュエータによらずに、所望の転舵角を得ることができる。また、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の操舵制御システムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部と、前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0020】
かかる構成によると、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値以下である場合、すなわち、車両の転舵角と目標転舵角とがほぼ等しい場合に、ロッド部をロックし、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値よりも大きい場合に、ロッド部をロック解除する。
したがって、転舵角の変更が不要な場合に、操舵輪の安定性を向上することができる。
また、ロッド部をロックした状態であっても、左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントを利用して車体の向きを変えることができる。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の操舵制御システムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部と、前記ロック係数に基づいて前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0022】
かかる構成によると、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
なお、ロック係数は、ロック機構をロックする力の程度に相関する係数である。例えば、ロック係数Kは、0〜1の値であり、K=0がフリー状態(ロックを完全に解除した状態)、K=1が完全ロック状態を示す係数である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の操舵制御システムであって、前記マップは、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が大きいほどロック係数が小さくなり、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が所定値以上ではロック係数が一定となるように設定されていることを特徴とする。
【0024】
かかる構成によると、転舵角の変更幅が小さい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントにより車体の向きを変え、転舵角の変更幅が大きい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるステアリング力により車体を転舵させるように、ヨーモーメントとステアリング力のバランスを調整することができる。
【0025】
また、請求項11に記載の発明は、請求項9または請求項10に記載の操舵制御システムであって、前記マップは、さらに車体速度とロック係数とを関連付けており、車体速度が大きいほどロック係数が大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0026】
かかる構成によると、低速走行時には、転舵により車体の向きを変えて小さな旋回半径を実現し、高速走行時には、転舵による車体の向きの変更を抑制することで車両安定性を確保しつつ、主として左右の操舵輪のトルク差によるヨーモーメントにより車体の向きを変えることができる。
【0027】
また、前記目的を達成するため、請求項12に記載の発明は、ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御するためにコンピュータを、車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部、前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部、車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部、前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部、および、前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部、として機能させることを特徴とする。
【0028】
かかる構成によると、キングピン位置が操舵輪の接地中心と車両幅方向にオフセットしていることを利用して、左右の操舵輪に異なるトルクを付与することにより、転舵力を発生させることができる。すなわち、転舵専用アクチュエータによらずに、車両を転舵させることができる。また、左右の操舵輪に付与されるトルクを調整することにより、転舵専用アクチュエータによらずに、所望の転舵角を得ることができる。また、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。
【0029】
また、請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の操舵制御プログラムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、さらにコンピュータを、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部、および、前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、として機能させることを特徴とする。
【0030】
かかる構成によると、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値以下である場合、すなわち、車両の転舵角と目標転舵角とがほぼ等しい場合に、ロッド部をロックし、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値よりも大きい場合に、ロッド部をロック解除する。
したがって、転舵角の変更が不要な場合に、操舵輪の安定性を向上することができる。
また、ロッド部をロックした状態であっても、左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントを利用して車体の向きを変えることができる。
【0031】
また、請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の操舵制御プログラムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、さらにコンピュータを、車両の転舵角と前記目標転舵角との差とロック係数とを関連付けたマップを用いて、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部、および、前記ロック係数に基づいてロックする力を設定するように前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、として機能させることを特徴とする。
【0032】
かかる構成によると、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
例えば、車両の転舵角と目標転舵角との差が小さいほどロック係数が大きくなるように設定すれば、転舵角の変更幅が小さい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントにより車体の向きを変え、転舵角の変更幅が大きい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるステアリング力により車体を転舵させるように、ヨーモーメントとステアリング力のバランスを調整することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、転舵専用アクチュエータ不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させた、SBW式の操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の原理は、操舵輪の接地中心とキングピン位置とをあえて車両幅方向にオフセットさせ、そのキングピンオフセットを利用して車両の転舵角を制御する点にある。
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。同様の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、左右一対の構成において、左右の区別をつける際には、添字L,Rを付す。
【0035】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。図2は、本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両の操舵輪近傍の構造を説明するための図であり、操舵輪を下から見た図である。図3は、図2のX矢視図であり、操舵輪を後ろから見た図である。図4は、キングピンオフセットを利用した操舵輪の転舵を説明するための図である。図5は、キングピンオフセットによる操舵輪の転舵を説明するための図であり、(a)は、キングピンオフセットがゼロの場合を示す図、(b)はキングピンオフセットがゼロではない場合を示す図である。図6は、本発明の第一の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。なお、図4および図5は模式図であり、キングピンオフセットが誇張され、タイロッド16a,16bは簡略化されている。
【0036】
図1に示すように、第一の実施形態に係る操舵制御装置は、ステアバイワイヤ式の車両CRの操舵を制御する装置であり、左右の操舵輪TL,TRに独立してトルクを付与するモータML,MRと、左右の操舵輪TL,TRを転舵可能に連結するロッド部16と、操舵制御部(操舵制御システム)20Aと、を備えている。
操舵制御部20Aは、車両CRの左右の操舵輪TL,TRに付与するトルクを制御することにより所望の制駆動力および転舵角を実現するためのものである。
操舵制御部20Aには、ステアリングセンサ31と、アクセル操作量センサ32と、ブレーキ操作量センサ33と、転舵角センサ34とが接続されている。
ステアリングセンサ31は、ステアリングSTの操作量(ステアリング操作量)および操作方向(ステアリング操作方向)を検出するセンサである。アクセル操作量センサ32は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル操作量)を検出するセンサである。ブレーキ操作量センサ33は、ブレーキペダルBPの操作量(ブレーキ操作量)を検出するセンサである。転舵角センサ34は、車両CRの転舵角αCRを検出するセンサである。
各センサ31〜34の検出結果は、操舵制御装置20Aに出力される。
操舵制御部20Aは、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、各センサ31〜34からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を行うことによって、後記する各種制御を実行する。
【0037】
(キングピンオフセット)
図2および図3に示すように、本発明の操舵制御装置が適用される車両CRは、ステアバイワイヤ技術が採用されており、左右の操舵輪TL,TRごとにモータML,MRを備えている。モータMは、操舵輪TのホイールW内に設けられており、操舵輪Tに独立してトルクを付与する(インホイールモータ方式)。このモータML,MRが、操舵輪用モータの例である。
また、車両CRは、ストラット式サスペンションを採用しており、操舵輪Tにロアアーム11を介して連結されたスタビライザー12と、ショックアブソーバユニット13と、ラジアルロッド14とが設けられている。
左右の操舵輪TL,TRを連結するロッド部16は、中央のロッド16aと、ロッド16aと操舵輪TL,TRとを連結するタイロッド16b,16bと、を備えている。
【0038】
かかるストラット式サスペンションを採用した車両CRでは、ショックアブソーバユニット13と車体とが連結される関節点(アッパーマウント部)A1と、モータMとロアアーム11とが連結される関節点(ロアマウント部)A2とを通る直線が、仮想キングピン軸Lである。
仮想キングピン軸Lは、操舵輪Tが転舵するときの回転中心軸である。
ここで、操舵輪Tの中心線の接地点(操舵輪Tの接地中心)P1と仮想キングピン軸Lの接地点(キングピン位置)P2との車両幅方向における幅を、キングピンオフセット(またはスクラブ半径)Roという。
【0039】
図4および図5に示すように、キングピンオフセットがゼロである場合には、操舵輪TL,TRは、転舵時にタイヤ接地中心P1(=P2)を軸に回るが(図5(a)に右の操舵輪TRについて図示)、キングピンオフセットがゼロでない場合には、操舵輪TL,TRは、転舵時にキングピン位置P2を軸に回り、タイヤ接地中心P1は移動(回転)する(図5(b)に右の操舵輪TRについて図示)。本発明では、このタイヤ接地中心P1の回転を利用して車両CRを転舵する。
従来の車両では、キングピンオフセットRoをできるだけなくすように設計されているのに対し、本発明が適用された車両では、キングピンオフセットRoを積極的に発生させ、このキングピンオフセットRoを車両の転舵に利用している。
本実施形態では、図3に示すように、操舵輪用モータML,MRを、左右の操舵輪TL,TRごとに設け、操舵輪用モータML,MRの車両CRの幅方向における幅WMを、左右の操舵輪TL,TRの車両CRの幅方向における幅WTよりも小さくした(図3には、左側の構成のみ図示)。そして、操舵輪用モータML,MRを、操舵輪TL,TRにすべて収容しているので、ロアアーム11、ショックアブソーバユニット13などから構成されるサスペンションジオメトリの自由度が向上し、キングピン位置P2のオフセット量の最適設定が行いやすくなっている。
特に本実施形態では、図3に示すように、左右の操舵輪TL,TRとロッド部16との連結部位(ロアマウント部A2)は、左右の操舵輪TL,TRの内側端LINよりも車両CRの幅方向(左右方向)の内側寄りに設けられている。したがって、従来の車両よりも大きなキングピンオフセットを実現することができる。
また、キングピン位置P2を内側端LINより車両CR寄りに位置するようにショックアブソーバユニット13やロアアーム11などを構成すれば、より効果的に転舵力を発生することができる。
【0040】
なお、本発明では、キングピンオフセットRoが大きいほど、転舵力Fstrを発生させやすい。しかし、キングピンオフセットRoを大きくしすぎると、転舵時のタイヤTyの移動量が大きくなってしまうため、車両CRにおいてタイヤTyが収容される部分(タイヤハウス)を大きくしなければならない。したがって、キングピンオフセットRoの大きさは、本発明が適用される車両CRのサイズ、タイヤ半径Rt、ロアアーム長Rn、その他サスペンションジオメトリなどを考慮して適宜決定される。
【0041】
車両CRの走行時には、左右の操舵輪TL,TRのトルクT_L,T_Rが、路面とタイヤTyとの間で路面反力となり、駆動力FdL,FdRを発生する(図4(a)に右の操舵輪TRについて図示)。駆動力FdL,FdRは、下記式(1)(2)により表される。
FdL=T_L/Rt …式(1)
FdR=T_R/Rt …式(2)
ここで、Rtはタイヤ半径(操舵輪TのタイヤTyの半径)である。
【0042】
駆動力FdL,FdRは、タイヤ接地中心P1に働き、キングピン位置P2を中心として操舵輪TL,TRを転舵させるモーメントML,MRを発生する(図4(b)に右の操舵輪TRについて図示)。モーメントML,MRは、下記式(3)(4)により表される。
ML=FdL・Ro …式(3)
MR=FdR・Ro …式(4)
ここで、左右の操舵輪TL,TRのキングピンオフセットRoが等しいとする。
【0043】
タイロッド16b,16bが操舵輪TL,TRに垂直であるとして、モーメントML,MRがタイロッド16b,16bに作用する軸方向の力をステアリング力Fstr_L,Fstr_Rとすると(図4(c)に右の操舵輪TRについて図示)、下記式(5)(6)が成立する。
ML=Fstr_L・Rn …式(5)
MR=Fstr_R・Rn …式(6)
ここで、Rnはロアアーム長であり、操舵輪Tとタイロッド16との連結点と、キングピン位置P2との車両前後方向の距離である。
【0044】
したがって、式(1)〜(6)を用いて、ロッド部16に作用するトータルの転舵力(ステアリング力)Fstrは、図2に示す方向に作用する力であり、下記式(7)(8)により表される。
Fstr=ΔT×Ro/(Rn×Rt) …式(7)
ΔT=T_R−T_L …式(8)
ここで、Roはキングピンオフセット、Rnはロアアーム長、Rtはタイヤ半径(操舵輪TのタイヤTyの半径)である。
また、ΔTは左操舵輪TLのトルクT_Lと右操舵輪TRのトルクT_Rとの差であり、ここでは、図3における右向きがFstrの正方向となるように設定されている。
すなわち、左右の操舵輪TL,TRの制駆動力(トルク)が等しい場合には、キングピンオフセットRoに起因する左右の操舵輪TL,TRの転舵力は互いに打ち消しあうので、車両CRに転舵力は発生しない。一方、左右の操舵輪TL,TRの制駆動力(トルク)が異なる場合には、左右の操舵輪TL,TRの転舵力に差が生じるので、車両CRに転舵力が発生する。
【0045】
なお、ストラット式サスペンション以外のサスペンション形式を採用した車両(操舵制御システム)であっても、仮想キングピン軸が存在するので、本実施形態のように積極的にキングピンオフセットを設定することが可能である。
【0046】
(操舵制御部)
図6に示すように、操舵制御部(操舵制御システム)20Aは、機能部として、目標転舵角設定部21と、目標トルク差設定部22と、目標制駆動力設定部23と、目標トルク設定部24と、モータ駆動部25と、を備えている。
【0047】
目標転舵角設定部21は、ステアリングセンサ31により検出されたステアリング操作量およびステアリング操作方向を取得し、取得されたステアリング操作量およびステアリング操作方向に基づいて、目標転舵角αmを設定する。
目標転舵角αmは、車両CRの転舵角の制御目標値である。この目標転舵角αmは、従来のラック&ピニオン機構、油圧機構などからなる転舵専用アクチュエータと同じ操舵感となるように設定されてもよく、車体速度に応じてゲインを調整するように設定されてもよい。
設定された目標転舵角αmは、目標トルク差設定部22に出力される。
【0048】
目標トルク差設定部22は、目標転舵角αmと転舵角センサ34により検出された実際の転舵角αCR(図1参照)とに基づいて、実際の転舵角αCRを目標転舵角αmに一致させるように、目標トルク差ΔTmを設定する。本実施形態において、目標トルク差設定部22は、実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとの差Δα(=αCR−αm)を用いたPI制御により目標トルク差ΔTmを算出する。
目標トルク差ΔTmと差Δαとの関係は、下記式(9)により表される。
ΔTm=kp・Δα+ki∫Δαdt …式(9)
ここで、kpは比例ゲイン、kiが積分ゲインであり、これらは事前テストなどにより予め設定される。
目標トルク差ΔTmは、車両CRが目標とする左右の操舵輪TL,TRのトルク差であり、下記式(10)により表される。
ΔTm=Tm_R−Tm_L …式(10)
設定された目標トルク差ΔTmは、目標トルク設定部24に出力される。
なお、PI制御に限らず他の制御方法を用いてもよい。
【0049】
目標制駆動力設定部23は、アクセル操作量センサ32により検出されたアクセル操作量とブレーキ操作量センサ33により検出されたブレーキ操作量とに基づいて、目標制駆動力Tm_totalを設定する。
目標制駆動力Tm_totalは、車両CRの制駆動力(トルク)の制御目標値である。
設定された目標制駆動力Tm_totalは、目標トルク設定部24に出力される。
【0050】
目標トルク設定部24は、左右の操舵輪TL,TRの目標トルクTm_L,Tm_Rを設定する。
目標トルクTm_L,Tm_Rは、左右の操舵輪TL,TRに付与するトルクの制御目標値である。ここで、左操舵輪TLの目標トルクTm_Lおよび右操舵輪TRの目標トルクTm_Rにより、目標トルク差ΔTmおよび目標制駆動力Tm_totalは、下記式(11)(12)により表される。
ΔTm=Tm_R−Tm_L …式(11)
Tm_total=Tm_R+Tm_L …式(12)
したがって、目標トルクTm_L,Tm_Rは、下記式(13)(14)により表される。
Tm_L=(Tm_total−ΔTm)/2 …式(13)
Tm_R=(Tm_total+ΔTm)/2 …式(14)
設定された目標トルクTm_L,Tm_Rは、モータ駆動部25に出力される。
【0051】
モータ駆動部25は、目標トルクTm_L,Tm_Rに基づいてモータML,MRを駆動制御する。モータ駆動部25は、モータMLのトルクが目標トルクTm_Lと一致するように、かつ、モータMRのトルクが目標トルクTm_Rと一致するように、各モータML,MRをフィードバック制御する。本実施形態では、モータML,MRとして三相ブラシレスモータが採用されており、モータ駆動部25は、dq変換によるベクトル制御を実行する。これにより、車両CRの運転者が意図した駆動力Tm_totalと転舵角αCRとが同時に得られる。すなわち、ΔTmが生じるような出力指令によって、式(7)に示す転舵力Fstrが発生する。
【0052】
第一の実施形態に係る操舵制御装置によると、転舵専用アクチュエータによらずに、車両CRを転舵させることができる。また、左右の操舵輪TL,TRに付与されるトルクを調整することにより、所望の転舵角αCRを得ることができる。したがって、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。また、ステアバイワイヤ技術が採用されているので、ステアリングSTと操舵輪TL,TRとの機械的接続をなくし、車両設計上の自由度をより高めることができる。
【0053】
(第二の実施形態)
続いて、本発明の第二の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両について、第一の実施形態との相違点を中心に説明する。図7は、本発明の第二の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。図8は、本発明の第二の実施形態に係るロック機構を説明するための模式図である。図9は、本発明の第二の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【0054】
図7に示すように、第二の実施形態に係る操舵制御装置は、操舵制御部20Aに代えて操舵制御部(操舵制御システム)20Bを備えている。また、第二の実施形態に係る操舵制御装置は、ロック機構17をさらに備えている。
ロック機構17は、ロッド部16をロックすることにより、転舵角αCRを固定するための機構であり、操舵制御部20Bにより駆動制御される。
【0055】
(ロック機構)
図8に示すように、ロック機構17は、ロッド16aをピストンロッドとする油圧シリンダ機構であり、ロッド16aの隔壁部16cにより二つの室に区画されたシリンダ17aと、区画された二つの室を接続する油路17bと、油路17bに設けられた電磁弁17cと、を備えている。
シリンダ17aおよび油路17bには、油液が充填されており、シリンダ17aが車体に固定されている。電磁弁17cは、開放状態と遮断状態とを切換可能な弁である。
電磁弁17cが開放状態である場合には、油液が油路17bを介してシリンダ17aの二つの室を移動可能となるので、ロッド16aが左右に移動可能となり、操舵輪TL,TRが転舵可能となる。
電磁弁17cが遮断状態である場合には、油液が油路17bを介してシリンダ17aの二つの室を移動できなくなるので、ロッド16aが左右に移動できなくなり、操舵輪TL,TRがロックされる。
かかる電磁弁17cの制御は、後記するロック機構駆動部27により実行される。
【0056】
(操舵制御部)
図9に示すように、第二の実施形態に係る操舵制御部(操舵制御システム)20Bは、機能部として、ロック要否判断部26と、ロック機構駆動部27と、をさらに備えている。
【0057】
本実施形態において、目標転舵角設定部21により設定された目標転舵角αmは、ロック要否判断部26にも出力されており、転舵角センサ34により検出された車両CRの転舵角αCRは、ロック要否判断部26にも出力されている。
【0058】
ロック要否判断部26は、車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとに基づいて、ロック機構17によりロッド部16をロックする必要があるか否かを判断する。ロック要否判断部26は、車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとの差Δα(=αCR−αm)が基準値αTH以下である場合に、ロッド部16をロックする必要があると判断する。
かかる基準値αTHは、予め設定・記憶されている、基準値αTHは、一定の値であってもよく、車体速度に相関して変化する値であってもよい。
判断結果は、ロック機構駆動部27に出力される。
【0059】
ロック機構駆動部27は、判断結果に基づいて、ロック機構17を駆動制御する。ロック機構駆動部27は、ロックが必要であると判断された場合に、ロッド16aをロックするようにロック機構17を駆動制御し、ロックが不要であると判断された場合に、ロッド16aをロック解除するようにロック機構17を駆動制御する。
【0060】
第二の実施形態に係る操舵制御装置によると、車両直進時のような転舵角αCRの変更が不要な場合に、操舵輪TL,TRの安定性を向上することができる。
また、本発明では、比較的大きな旋回半径でよい場合には、ロッド部16をロックした状態であっても、左右の操舵輪TL,TRのトルク差ΔTにより生じるヨーモーメントを利用して車体の向きを変えることができる。
【0061】
(第三の実施形態)
続いて、本発明の第三の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両について、第二の実施形態との相違点を中心に説明する。
図10は、本発明の第三の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。図11は、ロック係数の選択用マップである。
【0062】
第三の実施形態に係る操舵制御装置は、ロック機構17に代えてロック機構18を備えている。
ロック機構18は、ロッド16aをロックする力を連続的に設定可能な機構である。
ロック機構18は、ロック機構17の電磁弁17cをリニアソレノイド弁と交換することにより実現可能であるので、詳細な説明を省略する。
【0063】
(操舵制御部)
図10に示すように、第三の実施形態に係る操舵制御部(操舵制御システム)20Cは、ロック要否判断部26に代えてロック係数設定部28を備えている。また、操舵制御部20Cは、車体速度算出部29をさらに備えている。
【0064】
本実施形態において、目標転舵角設定部21により設定された目標転舵角αmは、ロック係数設定部28にも出力されており、転舵角センサ34により検出された車両CRの転舵角αCRは、ロック係数設定部28にも出力されている。
【0065】
車体速度算出部29は、モータML,MRのトルクに基づいて車体速度VCRを算出する。モータML,MRのトルクは、操舵輪TL,TRの車輪速度に相関している。駆動輪の車輪速度に基づいて車体速度VCRを算出する手法は公知であり、車体速度算出部29は、かかる手法を用いて車体速度VCRを算出する。
算出された車体速度VCRは、ロック係数設定部28に出力される。
【0066】
ロック係数設定部28は、車体速度VCRと車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとに基づいて、ロック係数Kを設定する。
設定されたロック係数Kは、ロック機構駆動部27に出力される。
【0067】
ロック機構駆動部27は、ロック係数Kに基づいて、かかるロック係数Kを実現するようにロック機構18を駆動制御する。
【0068】
ここで、ロック係数Kについて、より詳細に説明する。ロック係数設定部28は、車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとの差Δα(=αCR−αm)および車体速度VCRとロック係数Kとの関係を図11に示すようなロック係数の選択用マップとして予め記憶している。
ロック係数Kは、0〜1の値であり、K=0がフリー状態(ロックを完全に解除した状態)、K=1が完全ロック状態を示す係数である。
かかるロック係数Kを導入すると、ロッド部16に作用する転舵力(ステアリング力)Fstrは、下記式(15)により表される。
Fstr=(1−K)×ΔT×Ro/(Rn×Rt) …式(15)
すなわち、ロック係数Kを調整することにより、トルク差ΔTとステアリング力Fstrとの関係を連続的に調整することができる。
【0069】
本実施形態では、差Δαが大きいほどロック係数Kが小さくなり、かつ、車体速度VCRが大きくなるほどロック係数Kが大きくなるように設定されている。また、差Δαが所定値ΔαTH以上ではロック係数Kが車体速度VCごとに一定となるように設定されている。
したがって、低速走行時(車体速度VCR小)には、転舵により車体の向きを変えて小さな旋回半径を実現し、高速走行時(車体速度VCR大)には、転舵による車体の向きの変更を抑制することで車両安定性を確保しつつ、主として左右の操舵輪TL,TRのトルク差ΔTによるヨーモーメントにより車体の向きを変えることができるようになっている。
【0070】
なお、図11のマップは、モータMの出力性能、ステアリングSTの操作フィーリング、車両CRの構造によって決まる運動特性などに応じて設定される。モータMの出力性能によってヨーモーメントを非常に大きくできる場合や車両CRの安定性を重視する場合には、図11の線の傾きを浅くしたり、Δαが小さいところに線の折れ部を設定したりすることが望ましい。
【0071】
第三の実施形態に係る操舵制御装置によると、車両CRの状況に応じて、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
ここで、レスポンスとは、ステアリングSTを操作してから車体の向きが変わるまでの応答性、および、ステアリングSTの操作量(切れ角)と車体の向きが変わる量の比率のことである。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
例えば、車両の操舵輪は、前輪に限定されず、後輪であってもよく、前輪および後輪がともに操舵輪であってもよい。
【0073】
また、第三の実施形態に係る操舵制御部20Cにおいて、車体速度算出部29を省略し、ロック係数設定部28がロック係数Kを差Δαのみによって設定する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両の操舵輪近傍の構造を説明するための図であり、操舵輪を下から見た図である。
【図3】図1のX矢視図であり、操舵輪を後ろから見た図である。
【図4】キングピンオフセットを利用した操舵輪の転舵を説明するための図である。
【図5】キングピンオフセットによる操舵輪の転舵を説明するための図であり、(a)は、キングピンオフセットがゼロの場合を示す図、(b)はキングピンオフセットがゼロではない場合を示す図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。
【図8】本発明の第二の実施形態に係るロック機構を説明するための模式図である。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【図10】本発明の第三の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【図11】ロック係数の選択用マップである。
【符号の説明】
【0075】
17,18 ロック機構
20A,20B,20C 操舵制御部(操舵制御システム)
21 目標転舵角設定部
22 目標トルク差設定部
23 目標制駆動力設定部
24 目標トルク設定部
25 モータ駆動部
26 ロック要否判断部
27 ロック機構駆動部
28 ロック係数設定部
29 車体速度算出部
M モータ(操舵輪用モータ)
T 操舵輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵角を制御する操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムに関し、詳細には、ステアバイワイヤ技術を採用し、操舵輪ごとに独立してトルクを付与する車両において操舵角を制御する操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリングホイールと操舵輪との機械的接続をなくしたステアバイワイヤ(SBW)という技術が知られている。SBWを採用した車両では、ステアリングホイールの操作量をセンサによって検出し、モータまたは油圧機構を用いてステアリングホイールの操作量に応じた操舵輪の転舵が行われる。
【特許文献1】特開平7−125643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、操舵輪を転舵するための動力源として、モータ、油圧機構などの転舵専用アクチュエータが必要であり、この結果、他の構造物のスペースに余裕がなくなり、操舵関連の設計上の制約となっていた。
【0004】
本発明は、前記した問題を解決すべく創案されたものであり、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させた、SBW式の操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御装置であって、左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータと、前記左右の操舵輪を転舵可能に連結するロッド部と、前記操舵輪用モータを駆動制御する操舵制御部と、を備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしており、前記操舵制御部は、前記左右の操舵輪にトルク差を生じさせるように前記操舵輪用モータを駆動制御し、前記トルク差に応じた転舵力を前記ロッド部を介して前記左右の操舵輪に伝達させることによって、前記車両を転舵させることを特徴とする。
【0006】
かかる構成によると、キングピン位置が操舵輪の接地中心と車両幅方向にオフセットしているので、左右の操舵輪に異なるトルクを付与することにより、転舵力を発生させることができる。すなわち、転舵専用アクチュエータによらずに、車両を転舵させることができる。また、左右の操舵輪に付与されるトルクを調整することにより、転舵専用アクチュエータによらずに、所望の転舵角を得ることができる。また、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。
なお、キングピン位置は、操舵輪が転舵するときの回転中心軸である仮想キングピン軸の接地点である。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の操舵制御装置であって、前記操舵輪用モータは、前記左右の操舵輪ごとに設けられており、前記操舵輪用モータは、前記操舵輪内にすべて収容されていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によると、操舵輪用モータが操舵輪のホイール内にすべて収容されているので、ロアアーム、ショックアブソーバユニットなどから構成されるサスペンションジオメトリの自由度が向上し、キングピン位置のオフセット量の最適設定が行いやすくなる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置であって前記キングピン位置は、車両幅方向において前記接地中心よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によると、キングピン位置を車両内側寄りにオフセットさせるので、オフセットの設定が容易である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の操舵制御装置であって、前記キングピン位置は、車両幅方向において前記操舵輪の車両内側端よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする。
【0012】
なお、キングピン位置は、操舵輪を転舵させない状態、すなわち操舵輪が車両前方に向いている状態で操舵輪の車両内側端よりも内側寄りに設定されていればよい。
かかる構成によると、より大きな転舵力を発生することができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置であって、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備え、前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することにより、前記ロッド部をロックまたはロック解除することを特徴とする。
【0014】
かかる構成によると、ロック機構がロッド部をロックした場合には、左右の操舵輪の転舵角がロックされる。このとき、左右の操舵輪のトルクに差があっても、操舵輪は転舵されない。
したがって、例えば運転者によるステアリング操作がない場合にロッド部をロックし、操舵輪の安定性を向上することができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置であって、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備え、前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することを特徴とする。
【0016】
かかる構成によると、操舵制御部の制御により、ロック機構がロッド部をロックする力を変化させることができる。
したがって、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
【0017】
また、前記目的を達成するため、請求項7に記載の発明は、ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御システムであって、車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部と、前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部と、車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部と、前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
かかる構成によると、キングピン位置が操舵輪の接地中心と車両幅方向にオフセットしていることを利用して、左右の操舵輪に異なるトルクを付与することにより、転舵力を発生させることができる。すなわち、転舵専用アクチュエータによらずに、車両を転舵させることができる。また、左右の操舵輪に付与されるトルクを調整することにより、転舵専用アクチュエータによらずに、所望の転舵角を得ることができる。また、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の操舵制御システムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部と、前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0020】
かかる構成によると、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値以下である場合、すなわち、車両の転舵角と目標転舵角とがほぼ等しい場合に、ロッド部をロックし、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値よりも大きい場合に、ロッド部をロック解除する。
したがって、転舵角の変更が不要な場合に、操舵輪の安定性を向上することができる。
また、ロッド部をロックした状態であっても、左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントを利用して車体の向きを変えることができる。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の操舵制御システムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部と、前記ロック係数に基づいて前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0022】
かかる構成によると、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
なお、ロック係数は、ロック機構をロックする力の程度に相関する係数である。例えば、ロック係数Kは、0〜1の値であり、K=0がフリー状態(ロックを完全に解除した状態)、K=1が完全ロック状態を示す係数である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の操舵制御システムであって、前記マップは、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が大きいほどロック係数が小さくなり、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が所定値以上ではロック係数が一定となるように設定されていることを特徴とする。
【0024】
かかる構成によると、転舵角の変更幅が小さい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントにより車体の向きを変え、転舵角の変更幅が大きい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるステアリング力により車体を転舵させるように、ヨーモーメントとステアリング力のバランスを調整することができる。
【0025】
また、請求項11に記載の発明は、請求項9または請求項10に記載の操舵制御システムであって、前記マップは、さらに車体速度とロック係数とを関連付けており、車体速度が大きいほどロック係数が大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0026】
かかる構成によると、低速走行時には、転舵により車体の向きを変えて小さな旋回半径を実現し、高速走行時には、転舵による車体の向きの変更を抑制することで車両安定性を確保しつつ、主として左右の操舵輪のトルク差によるヨーモーメントにより車体の向きを変えることができる。
【0027】
また、前記目的を達成するため、請求項12に記載の発明は、ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御するためにコンピュータを、車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部、前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部、車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部、前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部、および、前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部、として機能させることを特徴とする。
【0028】
かかる構成によると、キングピン位置が操舵輪の接地中心と車両幅方向にオフセットしていることを利用して、左右の操舵輪に異なるトルクを付与することにより、転舵力を発生させることができる。すなわち、転舵専用アクチュエータによらずに、車両を転舵させることができる。また、左右の操舵輪に付与されるトルクを調整することにより、転舵専用アクチュエータによらずに、所望の転舵角を得ることができる。また、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。
【0029】
また、請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の操舵制御プログラムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、さらにコンピュータを、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部、および、前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、として機能させることを特徴とする。
【0030】
かかる構成によると、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値以下である場合、すなわち、車両の転舵角と目標転舵角とがほぼ等しい場合に、ロッド部をロックし、車両の転舵角と目標転舵角との差が基準値よりも大きい場合に、ロッド部をロック解除する。
したがって、転舵角の変更が不要な場合に、操舵輪の安定性を向上することができる。
また、ロッド部をロックした状態であっても、左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントを利用して車体の向きを変えることができる。
【0031】
また、請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の操舵制御プログラムであって、前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、さらにコンピュータを、車両の転舵角と前記目標転舵角との差とロック係数とを関連付けたマップを用いて、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部、および、前記ロック係数に基づいてロックする力を設定するように前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、として機能させることを特徴とする。
【0032】
かかる構成によると、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
例えば、車両の転舵角と目標転舵角との差が小さいほどロック係数が大きくなるように設定すれば、転舵角の変更幅が小さい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるヨーモーメントにより車体の向きを変え、転舵角の変更幅が大きい場合には、主に左右の操舵輪のトルク差により生じるステアリング力により車体を転舵させるように、ヨーモーメントとステアリング力のバランスを調整することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、転舵専用アクチュエータ不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させた、SBW式の操舵制御装置、操舵制御システムおよび操舵制御プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の原理は、操舵輪の接地中心とキングピン位置とをあえて車両幅方向にオフセットさせ、そのキングピンオフセットを利用して車両の転舵角を制御する点にある。
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。同様の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、左右一対の構成において、左右の区別をつける際には、添字L,Rを付す。
【0035】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。図2は、本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両の操舵輪近傍の構造を説明するための図であり、操舵輪を下から見た図である。図3は、図2のX矢視図であり、操舵輪を後ろから見た図である。図4は、キングピンオフセットを利用した操舵輪の転舵を説明するための図である。図5は、キングピンオフセットによる操舵輪の転舵を説明するための図であり、(a)は、キングピンオフセットがゼロの場合を示す図、(b)はキングピンオフセットがゼロではない場合を示す図である。図6は、本発明の第一の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。なお、図4および図5は模式図であり、キングピンオフセットが誇張され、タイロッド16a,16bは簡略化されている。
【0036】
図1に示すように、第一の実施形態に係る操舵制御装置は、ステアバイワイヤ式の車両CRの操舵を制御する装置であり、左右の操舵輪TL,TRに独立してトルクを付与するモータML,MRと、左右の操舵輪TL,TRを転舵可能に連結するロッド部16と、操舵制御部(操舵制御システム)20Aと、を備えている。
操舵制御部20Aは、車両CRの左右の操舵輪TL,TRに付与するトルクを制御することにより所望の制駆動力および転舵角を実現するためのものである。
操舵制御部20Aには、ステアリングセンサ31と、アクセル操作量センサ32と、ブレーキ操作量センサ33と、転舵角センサ34とが接続されている。
ステアリングセンサ31は、ステアリングSTの操作量(ステアリング操作量)および操作方向(ステアリング操作方向)を検出するセンサである。アクセル操作量センサ32は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル操作量)を検出するセンサである。ブレーキ操作量センサ33は、ブレーキペダルBPの操作量(ブレーキ操作量)を検出するセンサである。転舵角センサ34は、車両CRの転舵角αCRを検出するセンサである。
各センサ31〜34の検出結果は、操舵制御装置20Aに出力される。
操舵制御部20Aは、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、各センサ31〜34からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を行うことによって、後記する各種制御を実行する。
【0037】
(キングピンオフセット)
図2および図3に示すように、本発明の操舵制御装置が適用される車両CRは、ステアバイワイヤ技術が採用されており、左右の操舵輪TL,TRごとにモータML,MRを備えている。モータMは、操舵輪TのホイールW内に設けられており、操舵輪Tに独立してトルクを付与する(インホイールモータ方式)。このモータML,MRが、操舵輪用モータの例である。
また、車両CRは、ストラット式サスペンションを採用しており、操舵輪Tにロアアーム11を介して連結されたスタビライザー12と、ショックアブソーバユニット13と、ラジアルロッド14とが設けられている。
左右の操舵輪TL,TRを連結するロッド部16は、中央のロッド16aと、ロッド16aと操舵輪TL,TRとを連結するタイロッド16b,16bと、を備えている。
【0038】
かかるストラット式サスペンションを採用した車両CRでは、ショックアブソーバユニット13と車体とが連結される関節点(アッパーマウント部)A1と、モータMとロアアーム11とが連結される関節点(ロアマウント部)A2とを通る直線が、仮想キングピン軸Lである。
仮想キングピン軸Lは、操舵輪Tが転舵するときの回転中心軸である。
ここで、操舵輪Tの中心線の接地点(操舵輪Tの接地中心)P1と仮想キングピン軸Lの接地点(キングピン位置)P2との車両幅方向における幅を、キングピンオフセット(またはスクラブ半径)Roという。
【0039】
図4および図5に示すように、キングピンオフセットがゼロである場合には、操舵輪TL,TRは、転舵時にタイヤ接地中心P1(=P2)を軸に回るが(図5(a)に右の操舵輪TRについて図示)、キングピンオフセットがゼロでない場合には、操舵輪TL,TRは、転舵時にキングピン位置P2を軸に回り、タイヤ接地中心P1は移動(回転)する(図5(b)に右の操舵輪TRについて図示)。本発明では、このタイヤ接地中心P1の回転を利用して車両CRを転舵する。
従来の車両では、キングピンオフセットRoをできるだけなくすように設計されているのに対し、本発明が適用された車両では、キングピンオフセットRoを積極的に発生させ、このキングピンオフセットRoを車両の転舵に利用している。
本実施形態では、図3に示すように、操舵輪用モータML,MRを、左右の操舵輪TL,TRごとに設け、操舵輪用モータML,MRの車両CRの幅方向における幅WMを、左右の操舵輪TL,TRの車両CRの幅方向における幅WTよりも小さくした(図3には、左側の構成のみ図示)。そして、操舵輪用モータML,MRを、操舵輪TL,TRにすべて収容しているので、ロアアーム11、ショックアブソーバユニット13などから構成されるサスペンションジオメトリの自由度が向上し、キングピン位置P2のオフセット量の最適設定が行いやすくなっている。
特に本実施形態では、図3に示すように、左右の操舵輪TL,TRとロッド部16との連結部位(ロアマウント部A2)は、左右の操舵輪TL,TRの内側端LINよりも車両CRの幅方向(左右方向)の内側寄りに設けられている。したがって、従来の車両よりも大きなキングピンオフセットを実現することができる。
また、キングピン位置P2を内側端LINより車両CR寄りに位置するようにショックアブソーバユニット13やロアアーム11などを構成すれば、より効果的に転舵力を発生することができる。
【0040】
なお、本発明では、キングピンオフセットRoが大きいほど、転舵力Fstrを発生させやすい。しかし、キングピンオフセットRoを大きくしすぎると、転舵時のタイヤTyの移動量が大きくなってしまうため、車両CRにおいてタイヤTyが収容される部分(タイヤハウス)を大きくしなければならない。したがって、キングピンオフセットRoの大きさは、本発明が適用される車両CRのサイズ、タイヤ半径Rt、ロアアーム長Rn、その他サスペンションジオメトリなどを考慮して適宜決定される。
【0041】
車両CRの走行時には、左右の操舵輪TL,TRのトルクT_L,T_Rが、路面とタイヤTyとの間で路面反力となり、駆動力FdL,FdRを発生する(図4(a)に右の操舵輪TRについて図示)。駆動力FdL,FdRは、下記式(1)(2)により表される。
FdL=T_L/Rt …式(1)
FdR=T_R/Rt …式(2)
ここで、Rtはタイヤ半径(操舵輪TのタイヤTyの半径)である。
【0042】
駆動力FdL,FdRは、タイヤ接地中心P1に働き、キングピン位置P2を中心として操舵輪TL,TRを転舵させるモーメントML,MRを発生する(図4(b)に右の操舵輪TRについて図示)。モーメントML,MRは、下記式(3)(4)により表される。
ML=FdL・Ro …式(3)
MR=FdR・Ro …式(4)
ここで、左右の操舵輪TL,TRのキングピンオフセットRoが等しいとする。
【0043】
タイロッド16b,16bが操舵輪TL,TRに垂直であるとして、モーメントML,MRがタイロッド16b,16bに作用する軸方向の力をステアリング力Fstr_L,Fstr_Rとすると(図4(c)に右の操舵輪TRについて図示)、下記式(5)(6)が成立する。
ML=Fstr_L・Rn …式(5)
MR=Fstr_R・Rn …式(6)
ここで、Rnはロアアーム長であり、操舵輪Tとタイロッド16との連結点と、キングピン位置P2との車両前後方向の距離である。
【0044】
したがって、式(1)〜(6)を用いて、ロッド部16に作用するトータルの転舵力(ステアリング力)Fstrは、図2に示す方向に作用する力であり、下記式(7)(8)により表される。
Fstr=ΔT×Ro/(Rn×Rt) …式(7)
ΔT=T_R−T_L …式(8)
ここで、Roはキングピンオフセット、Rnはロアアーム長、Rtはタイヤ半径(操舵輪TのタイヤTyの半径)である。
また、ΔTは左操舵輪TLのトルクT_Lと右操舵輪TRのトルクT_Rとの差であり、ここでは、図3における右向きがFstrの正方向となるように設定されている。
すなわち、左右の操舵輪TL,TRの制駆動力(トルク)が等しい場合には、キングピンオフセットRoに起因する左右の操舵輪TL,TRの転舵力は互いに打ち消しあうので、車両CRに転舵力は発生しない。一方、左右の操舵輪TL,TRの制駆動力(トルク)が異なる場合には、左右の操舵輪TL,TRの転舵力に差が生じるので、車両CRに転舵力が発生する。
【0045】
なお、ストラット式サスペンション以外のサスペンション形式を採用した車両(操舵制御システム)であっても、仮想キングピン軸が存在するので、本実施形態のように積極的にキングピンオフセットを設定することが可能である。
【0046】
(操舵制御部)
図6に示すように、操舵制御部(操舵制御システム)20Aは、機能部として、目標転舵角設定部21と、目標トルク差設定部22と、目標制駆動力設定部23と、目標トルク設定部24と、モータ駆動部25と、を備えている。
【0047】
目標転舵角設定部21は、ステアリングセンサ31により検出されたステアリング操作量およびステアリング操作方向を取得し、取得されたステアリング操作量およびステアリング操作方向に基づいて、目標転舵角αmを設定する。
目標転舵角αmは、車両CRの転舵角の制御目標値である。この目標転舵角αmは、従来のラック&ピニオン機構、油圧機構などからなる転舵専用アクチュエータと同じ操舵感となるように設定されてもよく、車体速度に応じてゲインを調整するように設定されてもよい。
設定された目標転舵角αmは、目標トルク差設定部22に出力される。
【0048】
目標トルク差設定部22は、目標転舵角αmと転舵角センサ34により検出された実際の転舵角αCR(図1参照)とに基づいて、実際の転舵角αCRを目標転舵角αmに一致させるように、目標トルク差ΔTmを設定する。本実施形態において、目標トルク差設定部22は、実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとの差Δα(=αCR−αm)を用いたPI制御により目標トルク差ΔTmを算出する。
目標トルク差ΔTmと差Δαとの関係は、下記式(9)により表される。
ΔTm=kp・Δα+ki∫Δαdt …式(9)
ここで、kpは比例ゲイン、kiが積分ゲインであり、これらは事前テストなどにより予め設定される。
目標トルク差ΔTmは、車両CRが目標とする左右の操舵輪TL,TRのトルク差であり、下記式(10)により表される。
ΔTm=Tm_R−Tm_L …式(10)
設定された目標トルク差ΔTmは、目標トルク設定部24に出力される。
なお、PI制御に限らず他の制御方法を用いてもよい。
【0049】
目標制駆動力設定部23は、アクセル操作量センサ32により検出されたアクセル操作量とブレーキ操作量センサ33により検出されたブレーキ操作量とに基づいて、目標制駆動力Tm_totalを設定する。
目標制駆動力Tm_totalは、車両CRの制駆動力(トルク)の制御目標値である。
設定された目標制駆動力Tm_totalは、目標トルク設定部24に出力される。
【0050】
目標トルク設定部24は、左右の操舵輪TL,TRの目標トルクTm_L,Tm_Rを設定する。
目標トルクTm_L,Tm_Rは、左右の操舵輪TL,TRに付与するトルクの制御目標値である。ここで、左操舵輪TLの目標トルクTm_Lおよび右操舵輪TRの目標トルクTm_Rにより、目標トルク差ΔTmおよび目標制駆動力Tm_totalは、下記式(11)(12)により表される。
ΔTm=Tm_R−Tm_L …式(11)
Tm_total=Tm_R+Tm_L …式(12)
したがって、目標トルクTm_L,Tm_Rは、下記式(13)(14)により表される。
Tm_L=(Tm_total−ΔTm)/2 …式(13)
Tm_R=(Tm_total+ΔTm)/2 …式(14)
設定された目標トルクTm_L,Tm_Rは、モータ駆動部25に出力される。
【0051】
モータ駆動部25は、目標トルクTm_L,Tm_Rに基づいてモータML,MRを駆動制御する。モータ駆動部25は、モータMLのトルクが目標トルクTm_Lと一致するように、かつ、モータMRのトルクが目標トルクTm_Rと一致するように、各モータML,MRをフィードバック制御する。本実施形態では、モータML,MRとして三相ブラシレスモータが採用されており、モータ駆動部25は、dq変換によるベクトル制御を実行する。これにより、車両CRの運転者が意図した駆動力Tm_totalと転舵角αCRとが同時に得られる。すなわち、ΔTmが生じるような出力指令によって、式(7)に示す転舵力Fstrが発生する。
【0052】
第一の実施形態に係る操舵制御装置によると、転舵専用アクチュエータによらずに、車両CRを転舵させることができる。また、左右の操舵輪TL,TRに付与されるトルクを調整することにより、所望の転舵角αCRを得ることができる。したがって、転舵専用アクチュエータを不要とすることによって操舵関連の設計上の自由度を向上させることができる。また、ステアバイワイヤ技術が採用されているので、ステアリングSTと操舵輪TL,TRとの機械的接続をなくし、車両設計上の自由度をより高めることができる。
【0053】
(第二の実施形態)
続いて、本発明の第二の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両について、第一の実施形態との相違点を中心に説明する。図7は、本発明の第二の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。図8は、本発明の第二の実施形態に係るロック機構を説明するための模式図である。図9は、本発明の第二の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【0054】
図7に示すように、第二の実施形態に係る操舵制御装置は、操舵制御部20Aに代えて操舵制御部(操舵制御システム)20Bを備えている。また、第二の実施形態に係る操舵制御装置は、ロック機構17をさらに備えている。
ロック機構17は、ロッド部16をロックすることにより、転舵角αCRを固定するための機構であり、操舵制御部20Bにより駆動制御される。
【0055】
(ロック機構)
図8に示すように、ロック機構17は、ロッド16aをピストンロッドとする油圧シリンダ機構であり、ロッド16aの隔壁部16cにより二つの室に区画されたシリンダ17aと、区画された二つの室を接続する油路17bと、油路17bに設けられた電磁弁17cと、を備えている。
シリンダ17aおよび油路17bには、油液が充填されており、シリンダ17aが車体に固定されている。電磁弁17cは、開放状態と遮断状態とを切換可能な弁である。
電磁弁17cが開放状態である場合には、油液が油路17bを介してシリンダ17aの二つの室を移動可能となるので、ロッド16aが左右に移動可能となり、操舵輪TL,TRが転舵可能となる。
電磁弁17cが遮断状態である場合には、油液が油路17bを介してシリンダ17aの二つの室を移動できなくなるので、ロッド16aが左右に移動できなくなり、操舵輪TL,TRがロックされる。
かかる電磁弁17cの制御は、後記するロック機構駆動部27により実行される。
【0056】
(操舵制御部)
図9に示すように、第二の実施形態に係る操舵制御部(操舵制御システム)20Bは、機能部として、ロック要否判断部26と、ロック機構駆動部27と、をさらに備えている。
【0057】
本実施形態において、目標転舵角設定部21により設定された目標転舵角αmは、ロック要否判断部26にも出力されており、転舵角センサ34により検出された車両CRの転舵角αCRは、ロック要否判断部26にも出力されている。
【0058】
ロック要否判断部26は、車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとに基づいて、ロック機構17によりロッド部16をロックする必要があるか否かを判断する。ロック要否判断部26は、車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとの差Δα(=αCR−αm)が基準値αTH以下である場合に、ロッド部16をロックする必要があると判断する。
かかる基準値αTHは、予め設定・記憶されている、基準値αTHは、一定の値であってもよく、車体速度に相関して変化する値であってもよい。
判断結果は、ロック機構駆動部27に出力される。
【0059】
ロック機構駆動部27は、判断結果に基づいて、ロック機構17を駆動制御する。ロック機構駆動部27は、ロックが必要であると判断された場合に、ロッド16aをロックするようにロック機構17を駆動制御し、ロックが不要であると判断された場合に、ロッド16aをロック解除するようにロック機構17を駆動制御する。
【0060】
第二の実施形態に係る操舵制御装置によると、車両直進時のような転舵角αCRの変更が不要な場合に、操舵輪TL,TRの安定性を向上することができる。
また、本発明では、比較的大きな旋回半径でよい場合には、ロッド部16をロックした状態であっても、左右の操舵輪TL,TRのトルク差ΔTにより生じるヨーモーメントを利用して車体の向きを変えることができる。
【0061】
(第三の実施形態)
続いて、本発明の第三の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両について、第二の実施形態との相違点を中心に説明する。
図10は、本発明の第三の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。図11は、ロック係数の選択用マップである。
【0062】
第三の実施形態に係る操舵制御装置は、ロック機構17に代えてロック機構18を備えている。
ロック機構18は、ロッド16aをロックする力を連続的に設定可能な機構である。
ロック機構18は、ロック機構17の電磁弁17cをリニアソレノイド弁と交換することにより実現可能であるので、詳細な説明を省略する。
【0063】
(操舵制御部)
図10に示すように、第三の実施形態に係る操舵制御部(操舵制御システム)20Cは、ロック要否判断部26に代えてロック係数設定部28を備えている。また、操舵制御部20Cは、車体速度算出部29をさらに備えている。
【0064】
本実施形態において、目標転舵角設定部21により設定された目標転舵角αmは、ロック係数設定部28にも出力されており、転舵角センサ34により検出された車両CRの転舵角αCRは、ロック係数設定部28にも出力されている。
【0065】
車体速度算出部29は、モータML,MRのトルクに基づいて車体速度VCRを算出する。モータML,MRのトルクは、操舵輪TL,TRの車輪速度に相関している。駆動輪の車輪速度に基づいて車体速度VCRを算出する手法は公知であり、車体速度算出部29は、かかる手法を用いて車体速度VCRを算出する。
算出された車体速度VCRは、ロック係数設定部28に出力される。
【0066】
ロック係数設定部28は、車体速度VCRと車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとに基づいて、ロック係数Kを設定する。
設定されたロック係数Kは、ロック機構駆動部27に出力される。
【0067】
ロック機構駆動部27は、ロック係数Kに基づいて、かかるロック係数Kを実現するようにロック機構18を駆動制御する。
【0068】
ここで、ロック係数Kについて、より詳細に説明する。ロック係数設定部28は、車両CRの実際の転舵角αCRと目標転舵角αmとの差Δα(=αCR−αm)および車体速度VCRとロック係数Kとの関係を図11に示すようなロック係数の選択用マップとして予め記憶している。
ロック係数Kは、0〜1の値であり、K=0がフリー状態(ロックを完全に解除した状態)、K=1が完全ロック状態を示す係数である。
かかるロック係数Kを導入すると、ロッド部16に作用する転舵力(ステアリング力)Fstrは、下記式(15)により表される。
Fstr=(1−K)×ΔT×Ro/(Rn×Rt) …式(15)
すなわち、ロック係数Kを調整することにより、トルク差ΔTとステアリング力Fstrとの関係を連続的に調整することができる。
【0069】
本実施形態では、差Δαが大きいほどロック係数Kが小さくなり、かつ、車体速度VCRが大きくなるほどロック係数Kが大きくなるように設定されている。また、差Δαが所定値ΔαTH以上ではロック係数Kが車体速度VCごとに一定となるように設定されている。
したがって、低速走行時(車体速度VCR小)には、転舵により車体の向きを変えて小さな旋回半径を実現し、高速走行時(車体速度VCR大)には、転舵による車体の向きの変更を抑制することで車両安定性を確保しつつ、主として左右の操舵輪TL,TRのトルク差ΔTによるヨーモーメントにより車体の向きを変えることができるようになっている。
【0070】
なお、図11のマップは、モータMの出力性能、ステアリングSTの操作フィーリング、車両CRの構造によって決まる運動特性などに応じて設定される。モータMの出力性能によってヨーモーメントを非常に大きくできる場合や車両CRの安定性を重視する場合には、図11の線の傾きを浅くしたり、Δαが小さいところに線の折れ部を設定したりすることが望ましい。
【0071】
第三の実施形態に係る操舵制御装置によると、車両CRの状況に応じて、操舵の安定性、レスポンスを変化させることができる。
ここで、レスポンスとは、ステアリングSTを操作してから車体の向きが変わるまでの応答性、および、ステアリングSTの操作量(切れ角)と車体の向きが変わる量の比率のことである。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
例えば、車両の操舵輪は、前輪に限定されず、後輪であってもよく、前輪および後輪がともに操舵輪であってもよい。
【0073】
また、第三の実施形態に係る操舵制御部20Cにおいて、車体速度算出部29を省略し、ロック係数設定部28がロック係数Kを差Δαのみによって設定する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両の操舵輪近傍の構造を説明するための図であり、操舵輪を下から見た図である。
【図3】図1のX矢視図であり、操舵輪を後ろから見た図である。
【図4】キングピンオフセットを利用した操舵輪の転舵を説明するための図である。
【図5】キングピンオフセットによる操舵輪の転舵を説明するための図であり、(a)は、キングピンオフセットがゼロの場合を示す図、(b)はキングピンオフセットがゼロではない場合を示す図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る操舵制御装置が適用された車両を示す模式図である。
【図8】本発明の第二の実施形態に係るロック機構を説明するための模式図である。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【図10】本発明の第三の実施形態に係る操舵制御部を示すブロック図である。
【図11】ロック係数の選択用マップである。
【符号の説明】
【0075】
17,18 ロック機構
20A,20B,20C 操舵制御部(操舵制御システム)
21 目標転舵角設定部
22 目標トルク差設定部
23 目標制駆動力設定部
24 目標トルク設定部
25 モータ駆動部
26 ロック要否判断部
27 ロック機構駆動部
28 ロック係数設定部
29 車体速度算出部
M モータ(操舵輪用モータ)
T 操舵輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御装置であって、
左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータと、
前記左右の操舵輪を転舵可能に連結するロッド部と、
前記操舵輪用モータを駆動制御する操舵制御部と、
を備え、
前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしており、
前記操舵制御部は、前記左右の操舵輪にトルク差を生じさせるように前記操舵輪用モータを駆動制御し、前記トルク差に応じた転舵力を前記ロッド部を介して前記左右の操舵輪に伝達させることによって、前記車両を転舵させることを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記操舵輪用モータは、前記左右の操舵輪ごとに設けられており、
前記操舵輪用モータは、前記操舵輪内にすべて収容されていることを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記キングピン位置は、車両幅方向において前記接地中心よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記キングピン位置は、車両幅方向において前記操舵輪の車両内側端よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備え、
前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することにより、前記ロッド部をロックまたはロック解除することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備え、
前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御システムであって、
車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部と、
前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部と、
車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部と、
前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、
前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部と、
を備えていることを特徴とする操舵制御システム。
【請求項8】
前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部と、
前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項7に記載の操舵制御システム。
【請求項9】
前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差とロック係数とを関連付けたマップを有し、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部と、
前記ロック係数に基づいて前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項7に記載の操舵制御システム。
【請求項10】
前記マップは、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が大きいほどロック係数が小さくなり、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が所定値以上ではロック係数が一定となるように設定されていることを特徴とする請求項9に記載の操舵制御システム。
【請求項11】
前記マップは、さらに車体速度とロック係数とを関連付けており、車体速度が大きいほどロック係数が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の操舵制御システム。
【請求項12】
ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御するためにコンピュータを、
車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部、
前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部、
車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部、
前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部、および、
前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部、
として機能させることを特徴とする操舵制御プログラム。
【請求項13】
前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、
さらにコンピュータを、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部、および、
前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、
として機能させることを特徴とする請求項12に記載の操舵制御プログラム。
【請求項14】
前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、
さらにコンピュータを、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差とロック係数とを関連付けたマップを用いて、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部、および、
前記ロック係数に基づいてロックする力を設定するように前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、
として機能させることを特徴とする請求項12に記載の操舵制御プログラム。
【請求項1】
ステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御装置であって、
左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータと、
前記左右の操舵輪を転舵可能に連結するロッド部と、
前記操舵輪用モータを駆動制御する操舵制御部と、
を備え、
前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしており、
前記操舵制御部は、前記左右の操舵輪にトルク差を生じさせるように前記操舵輪用モータを駆動制御し、前記トルク差に応じた転舵力を前記ロッド部を介して前記左右の操舵輪に伝達させることによって、前記車両を転舵させることを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記操舵輪用モータは、前記左右の操舵輪ごとに設けられており、
前記操舵輪用モータは、前記操舵輪内にすべて収容されていることを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記キングピン位置は、車両幅方向において前記接地中心よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記キングピン位置は、車両幅方向において前記操舵輪の車両内側端よりも内側寄りに設定されていることを特徴とする請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備え、
前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することにより、前記ロッド部をロックまたはロック解除することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備え、
前記操舵制御部は、前記ロック機構を駆動制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御する操舵制御システムであって、
車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部と、
前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部と、
車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部と、
前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部と、
前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部と、
を備えていることを特徴とする操舵制御システム。
【請求項8】
前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部と、
前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項7に記載の操舵制御システム。
【請求項9】
前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差とロック係数とを関連付けたマップを有し、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部と、
前記ロック係数に基づいて前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項7に記載の操舵制御システム。
【請求項10】
前記マップは、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が大きいほどロック係数が小さくなり、車両の転舵角と前記目標転舵角との差が所定値以上ではロック係数が一定となるように設定されていることを特徴とする請求項9に記載の操舵制御システム。
【請求項11】
前記マップは、さらに車体速度とロック係数とを関連付けており、車体速度が大きいほどロック係数が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の操舵制御システム。
【請求項12】
ロッド部により転舵可能に連結された左右の操舵輪に独立してトルクを付与する操舵輪用モータを備え、前記操舵輪の接地中心とキングピン位置とが車両幅方向にオフセットしたステアバイワイヤ式の車両の操舵を制御するためにコンピュータを、
車両のステアリングの操作量に基づいて車両の目標転舵角を設定する目標転舵角設定部、
前記目標転舵角に基づいて前記左右の操舵輪の目標トルク差を設定する目標トルク差設定部、
車両のアクセルの操作量およびブレーキの操作量に基づいて車両の目標制駆動力を設定する目標制駆動力設定部、
前記目標トルク差および前記目標制駆動力に基づいて、前記左右の操舵輪の目標トルクを設定する目標トルク設定部、および、
前記目標トルクに基づいて前記操舵輪用モータを駆動制御するモータ駆動部、
として機能させることを特徴とする操舵制御プログラム。
【請求項13】
前記車両は、前記ロッド部をロックするロック機構をさらに備えており、
さらにコンピュータを、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差が基準値以下である場合に、ロックが必要であると判断するロック要否判断部、および、
前記ロック要否判断部の判断結果に基づいて、前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、
として機能させることを特徴とする請求項12に記載の操舵制御プログラム。
【請求項14】
前記車両は、前記ロッド部をロックし、ロックする力を連続的または断続的に変更可能なロック機構をさらに備えており、
さらにコンピュータを、
車両の転舵角と前記目標転舵角との差とロック係数とを関連付けたマップを用いて、車両の転舵角と前記目標転舵角とに基づいて、ロック係数を設定するロック係数設定部、および、
前記ロック係数に基づいてロックする力を設定するように前記ロック機構を駆動制御するロック機構駆動部、
として機能させることを特徴とする請求項12に記載の操舵制御プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−37323(P2008−37323A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216412(P2006−216412)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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