説明

磁気デバイスの製造方法、及び磁気デバイスの製造装置

【課題】磁性薄膜の選択的なエッチングを可能にして生産性を向上させた磁気デバイスの製造方法及び磁気デバイスの製造装置を提供するものである。
【解決手段】基板S上に、鉄、コバルト、ニッケルの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した磁性層と、磁性層51のエッチング領域51Eを露出するマスクパターン52を形成する。そして、基板S上にシクロペンタジエンを含むエッチングガスLを供給し、エッチング領域51Eとシクロペンタジエンとの熱反応により、エッチング領域51Eの磁性層51をメタロセンMCにして排気させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気デバイスの製造方法、及び磁気デバイスの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属系の磁性薄膜は、優れた磁気特性を有するため、HDD(Hard Disk Drive )、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory )、磁気センサなどの各種の磁気デバイスに利用されている。磁気センサに用いられる磁性薄膜、あるいはHDDの磁気ヘッドに用いられる磁性薄膜は、外部からの信号磁界を受けて抵抗値を変化させ、外部磁界の強度に応じた電気信号を出力する。MRAMに用いられる磁性薄膜は、磁化方向の変換によって素子の抵抗値を変化させ、その素子抵抗の変化をメモリ情報にする。
【0003】
磁気デバイスの製造工程においては、磁気デバイスの小型化、高速化に伴い、磁性薄膜に微細加工を施すためのエッチング技術が強く要望されている。磁性薄膜のエッチング技術としては、従来から、物理的なエッチングを利用したイオンミリング法と、化学的・物理的な反応を利用した反応性イオンエッチング法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
イオンミリング法は、加速されたアルゴンなどのイオンを磁性薄膜に衝突させ、磁性薄膜の構成原子を表面から弾き出すことにより磁性薄膜をエッチングする。反応性イオンエッチング法は、半導体素子の微細加工技術に採用されるエッチング技術であって、プラズマ中に生成したハロゲン系の活性種を対象物に供給し、対象物の一部を揮発性の反応性生物にして排気させる。
【特許文献1】特開平11−175927号公報
【特許文献2】特開2004−128229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イオンミリング法を利用して磁性薄膜をエッチングする場合、イオンの衝突した領域は、磁性材料であるか否かに関わらずエッチングされてしまう。この結果、イオンミリング法では、磁性薄膜に対する選択性を得難く、十分な加工精度の下でエッチングを施すことが困難であった。特に、積層された磁性薄膜にエッチングを施して磁気抵抗素子を形成させる場合、各層の膜厚が数nm〜数十nmと非常に薄いため、上記イオンミリング法では、膜厚方向のパターニングが極めて困難となる。
【0006】
一方、反応性イオンエッチング法を利用して磁性薄膜をエッチングする場合、遷移金属のハロゲン化物が非常に低い蒸気圧を有するため、反応生成物を排気させることが困難となり、磁性薄膜に対して効果的なパターニングを施すことができない。また、反応性イオンエッチング法は、加速したイオンを磁性薄膜に衝突させてエッチングさせるため、反応生成物の蒸気圧が低い場合、イオンミリング法と同じく、エッチングの選択比を得難い。さらに、反応性イオンエッチング法においては、磁性薄膜に吸着したハロゲンガスがエッチング後に磁性薄膜を腐食させ、磁気デバイスの磁気特性を著しく劣化させてしまう。
【0007】
これらの結果、イオンミリング法や反応性イオンエッチング法を用いたエッチングでは、磁性薄膜の選択的なエッチングを十分に行うことが困難であった。
本願発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、磁性薄膜の選択的なエッチングを可能にして生産性を向上させた磁気デバイスの製造方法及び磁気デバイスの製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
メタロセンは、金属とシクロペンタジエン環とからなる化合物であって、一般式[M(C5H5)2](M=V,Cr,Fe,Co,Ni,Ru,Os )で表され、比較的低い融点、沸点を有する。金属とシクロペンタジエンとの熱反応によってメタロセンを合成できることは、例えば、J.Chem.Soc.632,(1952),S.A.Miller et al. に詳しく記載されている。
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明では、基板上に、鉄、コバルト、ニッケルの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した磁性層を形成する工程と、前記磁性層上に、前記磁性層の一部を露出する開口を有したマスクを形成する工程と、前記基板上にシクロペンタジエンを供給し、前記開口から露出する前記磁性層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成し、前記メタロセンを排気する工程と、を備えたことを要旨とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、開口から露出する磁性層がメタロセンとして除去される。したがって、メタロセンを生成する磁性層のみを、選択的に除去させることができる、すなわち選択的にエッチングさせることができる。この結果、磁性層に対し、その磁気特性を損なうことなく、膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができる。ひいては、磁気デバイスの生産性を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の磁気デバイスの製造方法であって、基板上に、バナジウム、クロム、ルテニウム、オスミウムの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層をさらに形成する工程と、前記金属層上に、前記金属層の一部を露出する開口を有したマスクを形成する工程と、前記基板上にシクロペンタジエンを供給し、前記開口から露出する前記金属層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成し、前記メタロセンを排気する工程と、を備えたことを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、開口から露出する金属層がメタロセンとして除去される。したがって、メタロセンを生成する金属層のみを、選択的に除去させることができる、すなわち選択的にエッチングさせることができる。この結果、磁気デバイスが磁性層と金属層の積層構造を呈する場合であっても、膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の磁気デバイスの製造方法であって、前記メタロセンを排気する工程が、前記基板を140℃〜400℃に昇温して前記基板上に前記シクロペンタジエンを供給することを要旨とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、より確実にメタロセンを排気させることができ、かつ、そのメタロセンの分解を抑制させることができる。したがって、磁気デバイスの生産性を、より確実に向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造方法であって、前記メタロセンを排気した後、前記基板の表面を水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄する工程をさらに備えたことを要旨とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、エッチングによる副生成物を除去させることができ、後続する処理工程を円滑に実行させることができる。ひいては、磁気デバイスの生産性を、さらに向上させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造方法であって、前記メタロセンを排気した後、前記基板の表面を水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄する工程と、前記基板の表面を洗浄した後、前記基板上に再びシクロペンタジエンを供給して前記開口の残存物と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成し、前記メタロセンを排気する工程と、をさらに備えたことを要旨とする。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、開口から露出する磁性層または金属層の全てを、より確実に除去させることができ、磁気デバイスの生産性を、より確実に向上させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造方法であって、前記マスクは、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム以外からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層からなり、前記マスクを形成する工程が、前記開口に対応するレジストパターンを前記磁性層上に形成する工程と、前記レジストパターン上と前記磁性層上に前記金属層を形成する工程と、前記レジストパターンをリフトオフする工程と、を備えたことを要旨とする。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、メタロセンを生成させる工程において、マスクを安定させることができ、マスク下にある磁性層または金属層を確実に保護させることができる。ひいては、シクロペンタジエンを用いた磁性層のエッチングを、より安定した条件の下で行うことができる。
【0021】
上記課題を解決するため、請求項7に記載の発明では、磁気デバイスの製造装置であって、基板上に、鉄、コバルト、ニッケルの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した磁性層と、を有し、前記基板上にシクロペンタジエンを供給する供給手段と、前記基板上からメタロセンを排気する排気手段と、前記供給手段を駆動し、前記磁性層上に形成されたマスクの開口から露出する前記磁性層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段を駆動し、前記メタロセンを排気させる制御手段と、を備えたことを要旨とする。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、開口から露出する磁性層がメタロセンとして除去される。したがって、メタロセンを生成する磁性層のみを、選択的に除去させることができる、すなわち選択的にエッチングさせることができる。この結果、磁性層に対し、その磁気特性を損なうことなく、膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができる。ひいては、磁気デバイスの生産性を向上させることができる。
【0023】
請求項8に記載の発明では、請求項7に記載の磁気デバイスの製造装置であって、前記磁気デバイスは、基板上に、バナジウム、クロム、ルテニウム、オスミウムの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層をさらに有し、前記制御手段は、前記供給手段を駆動し、前記金属層上に形成されたマスクの開口から露出する前記金属層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段を駆動し、前記メタロセンを排気させること、を要旨とする。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、開口から露出する金属層がメタロセンとして除去される。したがって、メタロセンを生成する金属層のみを、選択的に除去させることができる、すなわち選択的にエッチングさせることができる。この結果、磁気デバイスが磁性層と金属層の積層構造を有する場合であっても、その磁気特性を損なうことなく、膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができる。ひいては、磁気デバイスの生産性を向上させることができる。
【0025】
請求項9に記載の発明では、請求項7又は8に記載の磁気デバイスの製造装置であって、前記基板を載置し、前記基板を140℃〜400℃に加熱する加熱手段を備え、前記制御手段が、前記供給手段と前記加熱手段を駆動し、前記基板を140℃〜400℃に昇温して前記開口から露出する前記磁性層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段と前記加熱手段を駆動し、前記基板を140℃〜400℃に昇温して前記メタロセンを排気させること、を要旨とする。
【0026】
請求項9に記載の磁気デバイスの製造装置によれば、より確実にメタロセンを排気させることができ、かつ、そのメタロセンの分解を抑制させることができる。したがって、磁気デバイスの生産性を、より確実に向上させることができる。
【0027】
請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造装置であって、水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方を生成するプラズマ生成手段を備え、前記制御手段が、前記メタロセンを排気させた後に前記プラズマ生成手段を駆動し、前記基板の表面を前記水素プラズマと前記酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄すること、を要旨とする。
【0028】
請求項10に記載の発明によれば、エッチングによる副生成物を除去させることができ、後続する処理工程を円滑に実行させることができる。ひいては、磁気デバイスの生産性を、さらに向上させることができる。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造装置であって、水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方を生成するプラズマ生成手段を備え、前記制御手段が、前記メタロセンを排気させた後に前記プラズマ生成手段を駆動し、前記基板の表面を前記水素プラズマと前記酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄し、前記供給手段を再び駆動し、前記開口の残存物と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段を再び駆動し、前記メタロセンを排気させることを要旨とする。
【0030】
請求項11に記載の発明によれば、開口から露出する磁性層の全てを、より確実に除去させることができ、磁気デバイスの生産性を、より確実に向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
上記したように、本発明によれば、磁性薄膜の選択的なエッチングを可能にして生産性を向上させた磁気デバイスの製造方法及び磁気デバイスの製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を具体化した一実施形態について説明する。まず、磁気デバイスの製造装置としてのエッチングシステム10について説明する。図1は、エッチングシステム10を模式的に示す平面図である。
【0033】
(磁気デバイスの製造装置)
図1において、エッチングシステム10は、ロードロックチャンバ(以下単に、LLチャンバ)11と、LLチャンバ11に連結された搬送チャンバ12とを有する。また、エッチングシステム10は、搬送チャンバ12に連結された2つのチャンバ、すなわちエッチングチャンバ13と、洗浄チャンバ14とを有する。
【0034】
LLチャンバ11は、減圧可能な内部空間(以下単に、収容室11sという。)を有し
、カセットCに収容された複数の基板Sを搬出及び搬入可能にする。基板Sとしては、例えばシリコン基板やセラミック基板などを用いることができる。基板Sの表面には、鉄(Fe )、コバルト(Co )、ニッケル(Ni )のからなる群から選択される少なくともいず
れか一種の元素を含有した磁性層が形成されている。磁性層は、選択された単一材料からなる単層構造、積層構造であってもよく、選択された異なる磁性材料からなる積層体であってもよい。LLチャンバ11は、基板Sのエッチング処理を開始するとき、収容室11sを減圧し、収容する複数の基板Sをそれぞれ搬送チャンバ12に搬出可能にする。LLチャンバ11は、基板Sのエッチング処理を終了するとき、収容室11sを大気開放し、収容する基板Sをエッチングシステム10の外部へ搬出可能にする。
【0035】
搬送チャンバ12は、収容室11sと連通可能な内部空間(以下単に、搬送室12sという。)を有し、基板Sを搬送するための搬送ロボット12bを搬送室12sに搭載している。搬送ロボット12bは、基板Sのエッチング処理を開始するとき、エッチング処理前の基板SをLLチャンバ11から搬送チャンバ12に搬入する。搬送ロボット12bは、搬入した基板Sを図1における反時計回りの順に、すなわち、エッチングチャンバ13、洗浄チャンバ14の順に搬送し、基板Sを大気に晒すことなく、基板Sのエッチング処理を連続的に実行させる。搬送ロボット12bは、基板Sのエッチング処理を終了するとき、エッチング処理後の基板Sを搬送チャンバ12からLLチャンバ11へ搬出する。
【0036】
図2において、エッチングチャンバ13は、チャンバ本体21と、チャンバ本体21に内設された減圧可能な内部空間(以下単に、エッチング室13sという。)を有する。
チャンバ本体21には、供給配管21aが接続され、その供給配管21aを介してエッチングガス供給部22が接続されている。エッチングガス供給部22は、磁性層をエッチングさせるためのエッチングガスを供給する。エッチングガスとしては、シクロペンタジエン(以下単に、CPDという。)、またはCPDを円滑に搬送させるために、CPDとキャリアガス(例えば、ヘリウムや窒素などの不活性ガス)とを混合したものを用いることができる。すなわち、エッチングガスは、鉄(Fe )、コバルト(Co )、ニッケル(Ni
)に配位して揮発可能なメタロセンを生成するものであればよい。
【0037】
チャンバ本体21には、排気配管21bが接続され、その排気配管21bを介して排気ポンプ23に接続されている。排気ポンプ23は、例えばドライポンプによって構成され、エッチング室13sに供給されるエッチングガスを排気し、エッチング室13sを所定の圧力値に減圧させる。
【0038】
エッチング室13sには、基板Sを載置するためのエッチングステージ24が配設されている。エッチングステージ24は、搬送チャンバ12から搬入される基板Sを搬出可能に載置し、基板Sをエッチング室13sの所定の位置に位置決め固定する。エッチングステージ24は、基板Sを加熱可能にするヒータ24H(例えば、抵抗加熱ヒータ)を搭載し、ヒータ電源25からの電力を受けて、基板Sを昇温させる。昇温される基板Sの温度は、メタロセンを揮発可能にする温度であって、好ましくは140℃〜400℃であり、より好ましくは300℃である。これによって、基板Sは、常圧あるいは減圧空間でメタロセンを十分に揮発させて排気させることができ、かつ、そのメタロセンの分解を抑制させることができる。
【0039】
供給配管21aとエッチングステージ24との間には、シャワーヘッド26が配設されている。シャワーヘッド26は、供給配管21aから供給されるエッチングガスを基板Sの面方向に分散させ、エッチングガスを基板Sの上面に向けて均等に供給する。
【0040】
エッチングガス供給部22がエッチングガスを供給するとき、エッチングガスは、供給配管21a及びシャワーヘッド26を通してエッチング室13sに導入され、エッチング
ステージ24に載置された基板Sの表面に到達する。
【0041】
この際、基板Sの表面に到達するエッチングガスは、露出する磁性層との間の熱反応によって磁性層の遷移金属元素に配位して、揮発可能なメタロセンを生成する。そして、エッチングガスは、露出する磁性層の領域をメタロセンとして排気させてエッチングする。しかも、エッチングガスは、磁性層の遷移金属元素にのみ配位するため、磁性層の下地の状態を維持させ、磁性層のみを選択的にエッチングさせる。
【0042】
このシクロペンタジエンによるエッチング量は、磁性層のシート抵抗値から確認できる。例えば、エッチングの前後において、エッチングガスの供給された領域を挟む磁性層のシート抵抗値を比較し、そのシート抵抗値の増加によって、エッチング量を確認することができる。
【0043】
なお、基板Sの温度が高い場合、基板Sの表面に到達するシクロペンタジエンの一部は、その熱分解反応を開始させ、基板Sの表面に有機系の副生成物を付着させる。
図3において、洗浄チャンバ14は、チャンバ本体31と、チャンバ本体31に内設された減圧可能な内部空間(以下単に、洗浄室14sという。)を有する。
【0044】
チャンバ本体31には、供給配管31aが接続され、その供給配管31aを介して洗浄ガス供給部32が接続されている。洗浄ガス供給部32は、基板Sの表面に形成された副生成物(有機物)を分解除去し、基板Sの表面を洗浄させるための洗浄ガスを供給する。洗浄ガスとしては、例えば水素、酸素、水素と酸素の混合ガス、または、これらのガスのプラズマ状態を安定させるためのために、これらのガスにアンモニア、アルゴンなどを混合したものを用いることができる。
【0045】
チャンバ本体31には、排気配管31bが接続され、その排気配管31bを介して排気ポンプ33が接続されている。排気ポンプ33は、例えばドライポンプによって構成され、洗浄室14sに供給される洗浄ガスや洗浄室14sで生成されるメタロセンを排気し、洗浄室14sを所定の圧力値に減圧させる。
【0046】
洗浄室14sには、基板Sを載置するための洗浄ステージ34が配設されている。洗浄ステージ34は、搬送チャンバ12から搬入される基板Sを搬出可能に載置し、基板Sを洗浄室14sの所定の位置に位置決め固定する。洗浄ステージ34は、基板Sを加熱可能にするヒータ34H(例えば、抵抗加熱ヒータ)を搭載し、ヒータ電源35が供給する電力を受けて基板Sを所定の温度に昇温させる。ヒータ34Hは、副生成物の除去と基板Sの洗浄とを促進させるために、基板Sを所定の温度に加熱する。なお、プラズマ化した洗浄ガスによって副生成物を十分に除去・洗浄可能な場合には、ヒータ34Hを除いた構成であってもよい。
【0047】
洗浄室14sであって、供給配管31aと洗浄ステージ34との間には、シャワーヘッド36が配設されている。シャワーヘッド36は、供給配管31aから供給される洗浄ガスを基板Sの面方向に分散させて、基板Sの上方から洗浄ガスを均等に供給させる。シャワーヘッド36には、高周波電源37が接続されて、その高周波電源37から所定の高周波(例えば13.56MHzの高周波)が供給させる。高周波電源37は、洗浄ガス供給部32が洗浄ガスを供給するとき、シャワーヘッド36と洗浄ステージ34との間の洗浄ガスに高周波を供給し、洗浄ガスを励起させて活性化させる(プラズマ化させる)。
【0048】
この際、プラズマ化した洗浄ガスは、洗浄ステージ34に載置された基板Sの表面に到達し、基板Sに生成された有機系の副生成物を分解する。そして、プラズマ化した洗浄ガスは、基板Sの表面から有機系の副生成物を除去し、基板Sの表面を洗浄する。
【0049】
次に、エッチングシステム10の電気的構成について以下に説明する。図4は、エッチングシステム10の電気的構成を示す電気ブロック回路図である。
図4において、制御装置40は、エッチングシステム10に各種の処理動作、例えば、搬送チャンバ12に基板Sの搬送処理、エッチングチャンバ13にエッチング処理、洗浄チャンバ14に洗浄処理を実行させるものである。制御装置40は、各種の信号を入力するための入力I/F40Aと、各種の演算処理を実行するためのCPUなどからなる演算部40Bとを有する。また、制御装置40は、各種のデータや各種の制御プログラムを格納するための記憶部40Cと、各種の信号を出力するための出力I/F40Dとを有する。
【0050】
制御装置40は、入力I/F40Aを介して、入力部41Aと、LLチャンバ検出部42Aと、搬送チャンバ検出部43Aと、エッチングチャンバ検出部44Aと、洗浄チャンバ検出部45Aとが接続されている。
【0051】
入力部41Aは、起動スイッチや停止スイッチなどの各種の操作スイッチを有し、エッチングシステム10が各種の処理動作に利用するためのデータを制御装置40に入力する。例えば、入力部41Aは、エッチングを実行するための各種のパタメータ、すなわちエッチングガスの流量、エッチング室13sの圧力、基板Sの温度、プロセス時間などを制御装置40に入力する。また、入力部41Aは、洗浄処理を実行するため各種のパラメータ、すなわち洗浄ガスの流量、洗浄室14sの圧力、基板Sの温度、プロセス時間などを制御装置40に入力する。さらにまた、入力部41Aは、エッチング処理及び洗浄処理の回数に関するデータを制御装置40に入力する。
【0052】
なお、エッチング処理及び洗浄処理を、CPD処理という。また、磁性層をエッチングするために予め基板Sごとに規定されたCPD処理の回数を、目標処理回数Npという。また、基板Sごとに実行されたCPD処理の回数を、実処理回数Naという。
【0053】
制御装置40は、入力部41Aから入力される各種のパラメータや目標処理回数Npに関するデータを受信し、各種のパラメータや目標処理回数Npに対応する条件の下で各種の処理動作を実行させる。
【0054】
LLチャンバ検出部42Aは、LLチャンバ11の状態を検出し、その検出結果を制御装置40に入力する。LLチャンバ検出部42Aは、例えば、収容室11sの圧力値を検出し、同圧力値に関する検出信号を制御装置40に入力する。搬送チャンバ検出部43Aは、搬送チャンバ12の状態を検出し、その検出結果を制御装置40に入力する。搬送チャンバ検出部43Aは、例えば、搬送ロボット12bのアーム位置を検出し、基板Sの搬送位置に関する検出信号を制御装置40に入力する。
【0055】
エッチングチャンバ検出部44Aは、エッチングチャンバ13の状態を検出し、その検出結果を制御装置40に入力する。エッチングチャンバ検出部44Aは、例えば、エッチング室13sの実圧力、エッチングガスの実流量、基板Sの実温度、プロセス時間などを検出し、これらのパラメータに関する検出信号を制御装置40に入力する。洗浄チャンバ検出部45Aは、洗浄チャンバ14の状態を検出し、その検出結果を制御装置40に入力する。洗浄チャンバ検出部45Aは、例えば、洗浄室14sの実圧力、洗浄ガスの実流量、基板Sの実温度、プロセス時間、高周波電源37の実出力値などを検出し、これらのパラメータに関する検出信号を制御装置40に入力する。
【0056】
制御装置40は、出力I/F40Dを介して、出力部41Bと、LLチャンバ駆動部42Bと、搬送チャンバ駆動部43Bと、エッチングチャンバ駆動部44Bと、洗浄チャン
バ駆動部45Bとが接続されている。出力部41Bは、液晶ディスプレイなどの各種表示装置を有し、エッチングシステム10の処理状況に関するデータを出力する。
【0057】
制御装置40は、LLチャンバ検出部42Aから入力される検出信号を利用し、LLチャンバ駆動部42Bに対応する駆動制御信号をLLチャンバ駆動部42Bに出力する。LLチャンバ駆動部42Bは、制御装置40からの駆動制御信号に応答し、収容室11sを減圧あるいは大気開放して基板Sの搬入あるいは搬出を可能にする。
【0058】
制御装置40は、搬送チャンバ検出部43Aから入力される検出信号を利用し、搬送チャンバ検出部43Aに対応する駆動制御信号を搬送チャンバ駆動部43Bに出力する。搬送チャンバ駆動部43Bは、制御装置40からの駆動制御信号に応答し、エッチング処理プログラムに従って、基板SをLLチャンバ11、搬送チャンバ12、エッチングチャンバ13、洗浄チャンバ14の順序で搬送する。また、搬送チャンバ駆動部43Bは、エッチングチャンバ13と洗浄チャンバ14との間において、目標処理回数Npの回数分だけ、基板Sの搬送処理を繰り返す。
【0059】
制御装置40は、エッチングチャンバ検出部44Aから入力される検出信号を利用し、エッチングチャンバ13に対応する駆動制御信号をエッチングチャンバ駆動部44Bに出力する。エッチングチャンバ駆動部44Bは、制御装置40からの駆動制御信号に応答し、入力部41Aから入力されたエッチング条件の下でエッチングを実行する。
【0060】
制御装置40は、洗浄チャンバ検出部45Aから入力される検出信号を利用し、洗浄チャンバ駆動部45Bに対応する駆動制御信号を洗浄チャンバ駆動部45Bに出力する。洗浄チャンバ駆動部45Bは、制御装置40からの駆動制御信号に応答し、入力部41Aから入力された洗浄条件の下で洗浄処理を実行する。
【0061】
(磁気デバイスの製造方法)
次に、磁気デバイスの製造方法について以下に説明する。図5〜図7は、それぞれ磁気デバイスの製造方法を示すフローチャートであり、図8〜図10は、それぞれ磁気デバイスの製造工程を示す工程図である。
【0062】
図5において、まず、磁気デバイスの製造方法は、基板S上に磁性層を形成する(ステップS11)。すなわち、図8(a)に示すように、基板S上に、所望の磁気デバイスに応じた下地層50を形成し、その下地層50の上側に、スパッタリング法を用いた磁性層51を形成する。下地層50には、例えば、CVD法を用いたシリコン酸化膜からなる層間絶縁層や、スパッタリング法を用いたアルミニウム膜からなる配線層などを用いることができる。磁性層51には、鉄(Fe )、コバルト(Co )、ニッケル(Ni )からなる群
から選択される少なくともいずれか一種の元素を含有した単層、あるいは多層構造の磁性体を用いることができる。
【0063】
図5において、磁性層51を形成すると、磁性層51上に所望のパターンに対応するマスクパターン52を形成する(ステップS12)。すなわち、図8(b)に示すように、磁性層51上に、エッチングの対象領域のみを露出させたマスクパターン52を形成する。ここで、エッチングの対象領域を、エッチング領域51Eという。
【0064】
マスクパターン52には、例えば、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム以外からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層、例えば、アルミニウム(Al )、チタン(Ti )、銅(Cu )、銀(Ag )、タンタル(Ta )、金(Au )が挙げられる。また、酸化アルミニウム(Al2O3 )、窒化シリコン(Si3N4)、酸化シリコン(SiO2 )、酸化マグネシウム(MgO )からなる絶縁層などを用いる
ことができる。すなわち、マスクパターン52は、CPD処理において、エッチングガスに対して不活性な材料であって、かつ、磁性層51との境界に合金層を形成しない材料であればよい。
【0065】
マスクパターン52の形成方法としては、例えば、リフトオフ法を用いることが好ましい。すなわち、図6において、マスクパターン52の形成方法は、まず、磁性層51上にレジストマスクRMを形成する(ステップS21)。レジストマスクRMは、フォトリソグラフィ法を用いた感光性樹脂などからなるパターンであって、図9(a)に示すように、磁性層51のエッチング領域51Eに対応したサイズに形成される。
【0066】
図6において、レジストマスクRMを形成すると、基板Sの全面にスパッタリング法を用いた金属層52Mを形成する(ステップS22)。金属層52Mは、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム以外からなる群から選択された少なくとも一つの元素を含有する層であって、図9(b)に示すように、磁性層51上とレジストマスクRM上の双方に形成される。金属元素としては、例えば、アルミニウム(Al
)、チタン(Ti )、銅(Cu )、銀(Ag )、タンタル(Ta )、金(Au )が挙げられる。また、金属層は、選択された単一材料からなる単層構造、積層構造であってもよく、選択された異なる材料からなる積層体であってもよい。
【0067】
図6において、金属層52Mを形成すると、レジストマスクRMをリフトオフし、マスクパターン52を形成する(ステップS23)。すなわち、レジストマスクRMを基板Sから剥離し、レジストマスクRMと、レジストマスクRM上に形成された金属層52Mとを基板Sから除去する。そして、エッチング領域51E以外の磁性層51の領域を覆うマスクパターン52を形成し、エッチング領域51Eに対応する磁性層51の領域を露出させる。これによれば、CPD処理において、熱的、化学的に安定したマスクパターン52を、ミリングなどのエッチングを施すことなく形成させることができる。
【0068】
図5において、マスクパターン52を形成すると、上記エッチングシステム10を利用したCPD処理を実行する(ステップS13)。まず、エッチングシステム10のLLチャンバ11には、下地層50、磁性層51、マスクパターン52を有した基板Sがセットされる。
【0069】
制御装置40は、入力部41Aから、エッチング条件、洗浄条件、目標処理回数Npなどに関するデータを受信すると、LLチャンバ駆動部42B及び搬送チャンバ駆動部43Bを介してLLチャンバ11及び搬送チャンバ12を駆動し、収容室11sの基板Sをエッチングチャンバ13に搬送させる。
【0070】
制御装置40は、基板Sをエッチングチャンバ13に搬入させると、エッチングチャンバ駆動部44Bを介してエッチング室13sにエッチングガスを供給し、露出する磁性層51とエッチングガスとを反応させてメタロセンを合成させる。すなわち、制御装置40は、図8(c)に示すように、上記エッチング条件の下でエッチングガスLを供給し、露出する磁性層51とエッチングガスLとの熱反応によって生成されるメタロセンMCを磁性層51から揮発させ、エッチング領域51Eをエッチングさせる。これによって、制御装置40は、揮発するメタロセンの分だけ、エッチング領域51Eをエッチングさせることができ、磁性層51のエッチングを下地層50で停止させることができる。
【0071】
制御装置40は、エッチングチャンバ13によってエッチング領域51Eをエッチングさせると、搬送チャンバ駆動部43Bを介して搬送チャンバ12を駆動し、エッチング室13sの基板Sを洗浄チャンバ14に搬送させる。
【0072】
制御装置40は、基板Sを洗浄チャンバ14に搬入すると、洗浄チャンバ駆動部45Bを介して、基板Sの表面を洗浄させる。すなわち、制御装置40は、図8(d)に示すように、上記洗浄条件の下で洗浄ガスのプラズマ(洗浄用プラズマPLS)を生成し、基板Sの表面に付着する副生成物を分解除去して基板Sの表面を洗浄させる。これによって、制御装置40は、基板Sの表面に清浄化した表面を露出させることができ、後続する各種工程の処理不良を回避させることができる。
【0073】
この際、磁性層51を覆う有機系の副生成物は、メタロセンMCの生成反応を停止させる。そこで、上記CPD処理においては、副生成物によって磁性層51のエッチング速度が低下する場合に、目標処理回数Npを2回以上に設定し、目標処理回数Npの分だけエッチング処理と洗浄処理とを交互に繰り返すことが好ましい。
【0074】
すなわち、制御装置40は、図7に示すように、そのCPD処理において、まず、実処理回数Naとして初期値“0”を設定する(ステップS31)。
制御装置40は、実処理回数Naを初期値に設定すると、上記エッチング条件の下でエッチング領域51EにCPDを供給させ、エッチング領域51Eのエッチングを実行させる(ステップS32)。この際、エッチング領域51Eの表面は、図10(a)に示すように、プロセス時間の経過に伴い、副生成物からなる不動層53によって覆われて、そのエッチング速度を低下させる。そこで、制御装置40は、エッチングを実行させると、入力された洗浄条件の下で副生成物の洗浄処理を実行させる(ステップS33)。これによって、制御装置40は、エッチング領域51Eの表面から不動層53を除去させることができ、清浄化されたエッチング領域51Eの表面を再び露出させることができる。
【0075】
制御装置40は、洗浄処理を実行させて1回目のCPD処理を終了すると、実処理回数Naに “1”を加え、実処理回数Naを更新させる(ステップS34)。そして、制御
装置40は、実処理回数Naを更新させると、実処理回数Naが目標処理回数Npに到達したか否かを判断し、実処理回数Naが目標処理回数Npに到達するまでCPD処理を実行させる(ステップS35においてNo)。すなわち、制御装置40は、図10(b)に示すように、清浄化されたエッチング領域の表面にCPDを供給させ、エッチング領域51Eのエッチングを繰り返し実行させる。
【0076】
そして、制御装置40は、実処理回数Naが目標処理回数Npに到達するとき、搬送チャンバ駆動部43Bを介して、洗浄室14sの基板SをLLチャンバ11に搬入させ、CPD処理を終了させる。これにより、制御装置40は、副生成物によるエッチングの停滞を回避させることができ、エッチング領域51Eを確実にエッチングさせることができる。
【0077】
(磁気デバイス)
次に、上記磁気デバイスの製造方法を用いて製造した磁気デバイスとしての磁気メモリについて説明する。図11は、磁気メモリ60を示す概略断面図である。
【0078】
磁気メモリ60の基板Sには、薄膜トランジスタTrが形成されている。薄膜トランジスタTrの拡散層LDは、コンタクトプラグCP、配線ML、下部電極層61を介して磁気抵抗素子62に接続されている。
【0079】
磁気抵抗素子62は、例えば、TMR素子もしくはGMR素子であって、下部電極層61の上側に積層された磁気固定層63と、磁気固定層63に積層されたトンネル障壁層64と、トンネル障壁層64に積層された磁気自由層65とからなる。
【0080】
磁気抵抗素子62の下側には、下部電極層61の下方に離間するワード線WLが配設さ
れている。ワード線WLは、紙面に対して垂直方向に延びる帯状に形成されている。また、磁気抵抗素子62の上側には、ワード線WLと直交する方向に延びる帯状のビット線BLが配設されている。すなわち、磁気抵抗素子62は、互いに直交するワード線WLとビット線BLとの間に配設されている。
【0081】
磁気抵抗素子62は、下部電極層61の上側に、磁気固定層63、トンネル障壁層64、磁気自由層65を積層し、これら磁気固定層63、トンネル障壁層64、磁気自由層65にエッチングを施すことによって形成されている。磁気固定層63と磁気自由層65は、上記エッチングシステム10を用いたエッチング処理によって形成されている。したがって、磁気メモリ60は、磁気固定層63と下部電極層61との間のエッチングの選択性と、磁気自由層65とトンネル障壁層64との間のエッチングの選択性とを十分に確保することができる。これによって、磁気メモリ60は、各磁性層に対し、その磁気特性を損なうことなく、膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができ、その生産性を向上させることができる。
【0082】
(実施例)
次に、実施例を挙げて本発明の効果を説明する。図12は、各膜厚(2nm〜約18nm)の磁性層51に対して上記エッチング処理を施したときの電気伝導度の変化を示す図である。
【0083】
シリコン酸化膜を下地層50として有したシリコン基板を基板Sとして用い、膜厚が2nm〜約18nmのコバルト鉄(CoFe )膜からなる磁性層51を得た。そして、エッチ
ング処理前の各磁性層51に対してそれぞれ電気伝導度を計測した。
【0084】
次いで、各磁性層51を有する基板Sを、それぞれエッチングシステム10のエッチングチャンバ13に搬入し、以下の条件を用いてエッチング処理を施した。
・基板温度:300(℃)
・CPD+キャリアガス(Ar)流量:1000(sccm)
・エッチング室圧力:1(atm)
・エッチング時間:30(min)
そして、エッチング処理後の各磁性層51に対してそれぞれ電気伝導度を計測した。エッチング処理後の電気伝導度を、上記エッチング処理前の電気伝導度とともに図12に示す。
【0085】
図12において、エッチング処理後の電気伝導度は、計測した磁性層51の膜厚の略全体にわたり、一様に減少していることが分かる。すなわち、各膜厚の磁性層51が、それぞれ上記エッチング処理によって一様にエッチングされて、その膜厚の減少分だけ電気伝導度を低下させていることが分かる。したがって、上記CPD処理によれば、磁性層51の磁気特性を損なうことなくエッチング領域51Eの磁性層51のみをエッチングさせることができ、エッチング時間、あるいは目標処理回数Npの変更によって、磁性層51の膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができる。
【0086】
上記実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態においては、基板S上に、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、バナジウム、ルテニウム、オスニウムからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有した磁性層51と、磁性層51のエッチング領域51Eを露出するマスクパターン52を形成する。そして、基板S上にシクロペンタジエンを含むエッチングガスLを供給し、エッチング領域51Eとシクロペンタジエンとの熱反応により、エッチング領域51Eの磁性層51をメタロセンMCにして排気させた。
【0087】
したがって、基板Sの表面において、メタロセンを生成する磁性層51のみを、選択的に除去させることができる、すなわち選択的にエッチングさせることができる。この結果、磁性層51に対し、その磁気特性を損なうことなく、膜厚やサイズに応じた微細加工を施すことができる。ひいては、磁気デバイスの生産性を向上させることができる。
【0088】
(2)上記実施形態においては、シクロペンタジエンを含むエッチングガスLをエッチング領域51Eに供給する際、基板Sを140℃〜400℃に昇温した。したがって、エッチング領域51Eに対応する磁性層51を、より確実にメタロセンとして排気させることができ、かつ、そのメタロセンの分解を抑制させることができる。
【0089】
(3)上記実施形態においては、エッチング領域51Eにエッチングを施した後、基板Sの表面を洗浄プラズマPLSに晒して基板Sの表面を洗浄した。したがって、エッチングによって生成される副生成物を基板Sから除去させることができ、後続する処理工程を円滑に実行させることができる。この結果、磁気デバイスの生産性を、さらに向上させることができる。
【0090】
(4)上記実施形態においては、CPD処理の処理回数を予め目標処理回数Npとして設定し、CPD処理の実処理回数Naが目標処理回数NpになるまでCPD処理を繰り返し実行した。したがって、エッチング領域51Eに形成される不動層53を所定のタイミングで分解除去させることができ、エッチング速度の低下を抑制させて、エッチング領域51Eの全てを、より確実にエッチングさせることができる。
【0091】
(5)上記実施形態においては、リフトオフ法を用いてマスクパターン52を形成し、マスクパターン52を、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム以外からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層52Mによって構成した。したがって、メタロセンを生成させる工程において、熱的、化学的に安定したマスクパターン52を形成させることができる。ひいては、シクロペンタジエンを用いた磁性層51のエッチングを、より安定した条件の下で行うことができる。
【0092】
尚、上記実施形態は、以下の態様で実施してもよい。
・上記実施形態においては、エッチング領域51Eにシクロペンタジエンを供給してメタロセンMCを生成する構成にした。これに限らず、エッチング領域51Eに置換シクロペンタジエンを供給し、置換シクロペンタジエンの配位したメタロセンを生成する構成にしてもよい。
【0093】
・上記実施形態においては、エッチングチャンバ13によってエッチング処理を実行し、洗浄チャンバ14によって洗浄処理を実行する構成にした。これに限らず、例えば、エッチング処理と洗浄処理とを同一のチャンバによって実行させる構成にしてもよい。
【0094】
・上記実施形態においては、磁気デバイスを磁気メモリとして説明したが、これに限らず、例えば、磁気デバイスをHDDの磁気ヘッドや磁気センサなどに具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】エッチングシステムの構成を模式的に示す平面図。
【図2】エッチングチャンバの構成を模式的に示す側断面図。
【図3】洗浄チャンバの構成を模式的に示す側断面図。
【図4】エッチングシステムの電気的構成を示す電気ブロック回路図。
【図5】磁気デバイスの製造方法を示すフローチャート。
【図6】マスクパターンの形成方法を示すフローチャート。
【図7】CPD処理を示すフローチャート。
【図8】(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ磁気デバイスの製造工程を示す工程図。
【図9】(a)、(b)は、それぞれ磁気デバイスの製造工程を示す工程図。
【図10】(a)、(b)は、それぞれ磁気デバイスの製造工程を示す工程図。
【図11】磁気メモリの構成を模式的に示す側断面図。
【図12】エッチング処理前後の電気伝導度を示す図。
【符号の説明】
【0096】
MC…メタロセン、PLS…洗浄用プラズマ、S…基板、10…磁気デバイスの製造装置としてのエッチングシステム、22…供給手段を構成するエッチングガス供給部、23…排気手段を構成する排気ポンプ、40…制御手段を構成する制御装置、51…磁性層、52…マスクパターン、60…磁気デバイスとしての磁気メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、鉄、コバルト、ニッケルの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した磁性層を形成する工程と、
前記磁性層上に、前記磁性層の一部を露出する開口を有したマスクを形成する工程と、
前記基板上にシクロペンタジエンを供給し、前記開口から露出する前記磁性層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成し、前記メタロセンを排気する工程と、
を備えたことを特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気デバイスの製造方法であって、
基板上に、バナジウム、クロム、ルテニウム、オスミウムの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層をさらに形成する工程と、
前記金属層上に、前記金属層の一部を露出する開口を有したマスクを形成する工程と、
前記基板上にシクロペンタジエンを供給し、前記開口から露出する前記金属層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成し、前記メタロセンを排気する工程と、
を備えたことを特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気デバイスの製造方法であって、
前記メタロセンを排気する工程は、
前記基板を140℃〜400℃に昇温して前記基板上に前記シクロペンタジエンを供給すること、
を特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造方法であって、
前記メタロセンを排気した後、前記基板の表面を水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄する工程をさらに備えたこと、
を特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造方法であって、
前記メタロセンを排気した後、前記基板の表面を水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄する工程と、
前記基板の表面を洗浄した後、前記基板上に再びシクロペンタジエンを供給して前記開口の残存物と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成し、前記メタロセンを排気する工程と、
をさらに備えたことを特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造方法であって、
前記マスクは、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム以外からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層からなり、
前記マスクを形成する工程は、
前記開口に対応するレジストパターンを前記磁性層上に形成する工程と、
前記レジストパターン上と前記磁性層上に前記金属層を形成する工程と、
前記レジストパターンをリフトオフする工程と、
を備えたことを特徴とする磁気デバイスの製造方法。
【請求項7】
基板上に、鉄、コバルト、ニッケルの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した磁性層と、を有した磁気デバイスの製造装置であって、
前記基板上にシクロペンタジエンを供給する供給手段と、
前記基板上からメタロセンを排気する排気手段と、
前記供給手段を駆動し、前記磁性層上に形成されたマスクの開口から露出する前記磁性
層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段を駆動し、前記メタロセンを排気させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする磁気デバイスの製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気デバイスの製造装置であって、
前記磁気デバイスは、
基板上に、バナジウム、クロム、ルテニウム、オスミウムの群から選択される少なくとも一種の元素を含有した金属層をさらに有し、
前記制御手段は、
前記供給手段を駆動し、前記金属層上に形成されたマスクの開口から露出する前記金属層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段を駆動し、前記メタロセンを排気させること、
を特徴とする磁気デバイスの製造装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の磁気デバイスの製造装置であって、
前記基板を載置し、前記基板を140℃〜400℃に加熱する加熱手段を備え、
前記制御手段は、
前記供給手段と前記加熱手段を駆動し、前記基板を140℃〜400℃に昇温して前記開口から露出する前記磁性層と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段と前記加熱手段を駆動し、前記基板を140℃〜400℃に昇温して前記メタロセンを排気させること、
を特徴とする磁気デバイスの製造装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造装置であって、
水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方を生成するプラズマ生成手段を備え、
前記制御手段は、
前記メタロセンを排気させた後に前記プラズマ生成手段を駆動し、前記基板の表面を前記水素プラズマと前記酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄すること、
を特徴とする磁気デバイスの製造装置。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか1つに記載の磁気デバイスの製造装置であって、
水素プラズマと酸素プラズマの少なくともいずれか一方を生成するプラズマ生成手段を備え、
前記制御手段は、
前記メタロセンを排気させた後に前記プラズマ生成手段を駆動し、前記基板の表面を前記水素プラズマと前記酸素プラズマの少なくともいずれか一方に晒して前記基板の表面を洗浄し、前記供給手段を再び駆動し、前記開口の残存物と前記シクロペンタジエンとによってメタロセンを生成させ、前記排気手段を再び駆動し、前記メタロセンを排気させること、
を特徴とする磁気デバイスの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−226922(P2008−226922A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59040(P2007−59040)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、「高機能・超低消費電力メモリの開発」 委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】