説明

車両の駆動力制御装置

【課題】車両がトンネルの出入口付近を走行中に、運転者のアクセルペダルの誤操作による急激な加速を抑制する。
【解決手段】
本発明における車両の駆動力制御装置は、車両の現在位置からトンネルの出入口までの距離に基づいて加速度の上限値を設定し(30)、目標加速度が上限値を超える場合は目標加速度を上限値に制限して(30)、エンジン及び変速機の少なくとも一方によって車両の駆動力を制御する(7、8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行する道路状況に基づいて車両の加速度を制限する車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機は、車両の運転状況や運転者の加速要求などに基づいて適切な変速比となるように制御される。しかし、車両がトンネルの出入口付近を走行中は運転者による加減速要求が生じやすく、トンネルの出入口を通過したときに変速比を制御したのでは十分な加減速を得ることができず運転性が悪化する。
【0003】
そこで、車両の走行予定道路にトンネルの出入口が存在することを検知した場合には、前もって自動変速機の変速比の低下を抑制することで運転者の加減速要求に迅速に応答しようとする技術が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−141490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、トンネルの入口及び出口を通過した直後においては、周囲の明るさの急激な変化によって運転者による周辺状況の認識能力が一時的に低下するので、この状態で運転者が誤ってアクセルペダルを踏込んだ場合には意図しない急激な加速をする可能性がある。
【0005】
本発明は、車両がトンネルの出入口付近を走行中に、運転者のアクセルペダルの誤操作による急激な加速を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における車両の駆動力制御装置は、車両の現在位置からトンネルの出入口までの距離に基づいて加速度の上限値を設定し、目標加速度が上限値を超える場合は目標加速度を上限値に制限して、エンジン及び変速機の少なくとも一方によって車両の駆動力を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、車両の現在位置からトンネルの出入口までの距離に基づいて加速度の上限値を設定して目標加速度を制限するので、トンネルの入口又は出口を通過することで周囲の明るさが変化して運転者による周辺状況の認識能力が低下した状態において、車両の加速が制限され事故の危険性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1は本実施形態における車両の駆動力制御装置を示す構成図である。エンジン102は車両100の駆動力を発生し、無段変速機103、ファイナルギア104を介して駆動輪105へと伝達される。スロットルアクチュエータ71は、エンジン102のスロットルバルブの開度を制御することでエンジン102の駆動力を制御する。スロットルアクチュエータ71は車速制御ECU10から送信されるエンジントルク指令値cTEに基づいてエンジンECU7によって制御される。
【0009】
無段変速機103はエンジン102の回転速度を無段階に変速して出力する。無段変速機103は車速制御ECU10から送信される最終変速比指令値sRATIOに基づいてトランスミッションECU8によって制御される。
【0010】
制御開始スイッチ1は、車両100の車速制御を実行するか否かを検出する。車速制御を実行する状態のときスイッチがオンとなり、車速制御を停止する状態のときオフとなる。ブレーキスイッチ2は、運転者がブレーキを踏んでいるか否かを検出する。運転者がブレーキを踏んでいるときスイッチはオンとなり、ブレーキを踏んでいないときオフとなる。ナビゲーションシステム3は、車両が走行中の現在位置及び車両の前方にあるトンネルの出入口を認識しており、現在位置からトンネル入口までの距離Lin及び出口までの距離Loutを演算する。アクセル踏込み量センサ4は、運転者によるアクセルペダルの踏込み量APOを検出する。車速センサ5は、タイヤの回転速度に基づいて車両100の実車速aVSPを検出する。エンジン回転速度センサ6はエンジン102の点火信号に基づいてエンジンの回転速度aNEを検出する。
【0011】
車速制御ECU10は制御開始スイッチ1、ブレーキスイッチ2、ナビゲーションシステム3、アクセル踏込み量センサ4、車速センサ5及びエンジン回転速度センサ6から受信した信号に基づいてエンジンECU7及びトランスミッションECU8に対して信号を送信する。
【0012】
図2は、本実施形態における車両の駆動力制御装置を示すブロック図である。車速制御ECU10は、マイクロコンピュータ及びその他の周辺部品によって構成され、制御開始スイッチ信号、ブレーキスイッチ信号、現在位置からトンネル出入口までの距離Lin、Lout、アクセル踏込み量APO、車速aVSP及びエンジン回転速度aNEに基づいてエンジントルク指令値cTE及び最終変速比指令値sRATIOを算出して、それぞれエンジンECU7及びトランスミッションECU8に送信する。
【0013】
エンジンECU7は、車速制御ECU10から送信されたエンジントルク指令値cTEに基づいてスロットル開度を算出し、スロットルアクチュエータ71にスロットル開度信号を送信する。スロットルアクチュエータ71はスロットル開度信号に応じてエンジン102のスロットルバルブの開度を制御する。トランスミッションECU8は、駆動力制御ECU10から送信された最終変速比指令値sRATIOに基づいて無段変速機103の変速比を制御する。
【0014】
次に、駆動力制御ECU10で行う制御について説明する。なお、本制御は所定時間(例えば10ms)ごとに繰り返し行われている。
【0015】
制御開始判定部20は、制御開始スイッチ信号及びブレーキスイッチ信号に基づいて本制御を開始するか否かを判定して制御実行フラグfSTARTを出力する。制御実行フラグfSTARTは図3のフローチャートに示す制御によって設定される。
【0016】
すなわち、ステップS1では制御開始スイッチ1がオンであるか否かを判定し、オンであればステップS2へ進む。ステップS2では、ブレーキスイッチ2がオンであるか否かを判定し、オフであればステップS3へ進む。ステップS3では、制御実行フラグfSTARTを1に設定して処理を終了する。
【0017】
一方、ステップS1において制御開始スイッチ1がオフであると判定されたとき又はステップS2においてブレーキスイッチ2がオンであると判定されたときは、ステップS4へ進んで制御実行フラグfSTARTを0に設定して処理を終了する。ここで、ブレーキスイッチ2がオンであるとき、すなわち運転者がブレーキを踏んでいる状態のときはスロットルバルブ開度と変速比とを制御しても車速を制御できないので制御実行フラグfSTARTを0として制御を停止させる。
【0018】
図2に戻って目標車速算出部30は、制御実行フラグfSTART、現在位置からトンネル出入口までの距離Lin、Lout、アクセル踏込み量APO、車速aVSPに基づいてトンネルフラグfTunnel、目標車速tVSPを出力する。ここで、トンネルフラグfTunnelとは車両がトンネル内を走行中であることを示すフラグであり、トンネル内を走行中は1となり、トンネル外を走行中は0となる。トンネルフラグfTunnel、目標車速tVSPは図4のブロック図に示す制御によって設定される。
【0019】
すなわち、目標加速度決定部31はアクセル踏込み量APO及び後述する積分処理部34において算出された目標車速tVSPに基づいて目標加速度tACCを出力する。目標加速度tACCは車速、目標加速度tACC及びアクセル踏込み量APOの関係を示す図5のマップを参照して算出される。図5のマップに示すように目標加速度tACCはアクセル踏込み量APOが大きいほど大きくなる。また、車速が高いほど車両の走行抵抗が大きくなり実現可能な加速度が小さくなるので、目標加速度tACCは小さくなる。ここで、走行抵抗は車両の空気抵抗に転がり抵抗を加えた値である。
【0020】
加速度リミッタ値決定部32は、図6のブロック図に示すように接近時リミッタ値演算部321、順応時間演算部322、通過時リミッタ値演算部323及び加速度リミッタ値選択部324によって構成され、現在位置からトンネル出入口までの距離Lin、Loutに基づいてトンネルフラグfTunnel及び加速度リミッタ値limitを出力する。
【0021】
接近時リミッタ値演算部321は、図7のマップを参照して現在位置からトンネル出入口までの距離Lin、Loutに基づいて接近時リミッタ値ent_aprchを出力する。接近時リミッタ値ent_aprchとは車両がトンネルの出入口に接近しているときにおける加速度の制限値であり、図7のマップに示すようにトンネルまでの距離が小さくなるほど小さい値に設定され、トンネルまでの距離がゼロとなったとき安全加速度safe_ACCに設定される。なお、安全加速度safe_ACCはトンネルの出入口を通過して周囲の明るさが急激に変化したときに運転者が安全に走行できる程度の加速度の制限値であり、予め実験などによって求めておく。
【0022】
順応時間演算部322は、トンネル出入口までの距離Lin、Loutに基づいて順応時間t_count及びトンネルフラグfTunnelを出力する。ここで、順応時間t_countとはトンネルの出入口を通過して周囲の明るさが変化したときに運転者の目が順応するまでに要する時間であり、トンネルの入口及び出口を通過したときのそれぞれについて予め実験などによって求めておく。順応時間t_count及びトンネルフラグfTunnelは図8のフローチャートに示す制御によって演算される。
【0023】
すなわち、現在位置からトンネル入口までの距離Linがゼロであるか否かを判定し(S11)、ゼロであればトンネルフラグfTunnelを1に設定し(S12)、順応時間t_countをトンネルに進入して周囲の明るさが暗くなったときに運転者の目が順応するまでに要する時間tin_adaptに設定する(S13)。
【0024】
一方、現在位置からトンネル入口までの距離Linがゼロでなければ(S11)、現在位置からトンネル出口までの距離Loutがゼロであるか否かを判定し(S14)、ゼロであればトンネルフラグfTunnelをゼロに設定し(S15)、順応時間t_countをトンネルから出て周囲の明るさが明るくなったときに運転者の目が順応するまでに要する時間tout_adaptに設定する(S16)。
【0025】
一方、現在位置からトンネル出口までの距離Loutがゼロでなければ(S14)、順応時間t_countがゼロより大きいか否かを判定し(S17)、ゼロより大きければ順応時間t_countを1制御周期だけ減算する(S18)。順応時間t_countがゼロ以下であれば(S17)、順応時間t_countをゼロに設定する(S19)。
【0026】
通過時リミッタ値演算部323は、順応時間t_countに基づいて通過時リミッタ値ent_passを出力する。通過時リミッタ値ent_aprchとは車両がトンネルの出入口を通過したときにおける加速度の制限値であり、図9のマップに示すようにトンネルの出入口を通過後の時間が経過するほど増加する。このとき、トンネルから出たときよりもトンネルに進入したときの方が運転者の目が順応するまでに要する時間が長いので、トンネル入口通過時の方が通過時リミッタ値ent_passをゆっくりと増加させる。
【0027】
加速度リミッタ値選択部324は、接近時リミッタ値ent_aprch及び通過時リミッタ値ent_passに基づいて加速度リミッタ値limitを出力する。加速度リミッタ値limitは図10のフローチャートに示す制御によって算出される。
【0028】
すなわち、通過時リミッタ値ent_passが接近時リミッタ値ent_aprch以下であるか否かを判定し(S21)、接近時リミッタ値ent_aprch以下であれば加速度リミッタ値limitを通過時リミッタ値ent_passに設定する(S22)。一方、通過時リミッタ値ent_passが接近時リミッタ値ent_aprchより大きければ(S21)、加速度リミッタ値limitを接近時リミッタ値ent_aprchに設定する(S23)。
【0029】
図4に戻ってリミッタ処理部33は、加速度リミッタ値limit及び目標加速度tACCに基づいて目標加速度リミッタ処理値tACC_limを出力する。目標加速度リミッタ処理値tACC_limは図11に示す制御によって演算される。
【0030】
すなわち、目標加速度tACCが加速度リミッタ値limitより大きいか否かを判定し(S31)、大きければ目標加速度リミッタ処理値tACC_limを加速度リミッタ値limitに設定する(S32)。一方、目標加速度tACCが加速度リミッタ値limit以下であれば目標加速度リミッタ処理値tACC_limを目標加速度tACCに設定する。
【0031】
積分処理部34は、制御実行フラグfSTART、実車速aVSP及び目標加速度リミッタ処理値tACC_limに基づいて目標車速tVSPを出力する。目標車速tVSPは図12のフローチャートに示す制御によって演算される。
【0032】
すなわち、制御実行フラグfSTARTが1であるか否かを判定し(S41)、1であれば目標加速度リミッタ処理値に制御周期を乗算し、前回処理時の目標車速であるtVSP前回値に加算した値を目標車速tVSPとして、tVSP前回値を目標車速tVSPで更新する(S42)。一方、制御実行フラグfSTARTが1でなければ目標車速tVSP及びtVSP前回値を実車速aVSPで初期化する(S43)。
【0033】
図2に戻って車速制御部40は、図13のブロック図に示すようにフィードフォワード制御部(以下「F/F制御部」という)及びフィードバック制御部(以下「F/B制御部」という)からなる2自由度制御系で構成され、目標車速tVSP及び実車速aVSPに基づいて駆動トルク指令値cTDRを出力する。
【0034】
F/B制御部は規範モデル42及びフィードバック補償器43によって構成され、規範モデル42から出力される規範応答Vrefと実車速aVSPとの差をフィードバック補償器43の入力としてF/B指令値を出力し、外乱やモデル化誤差による影響を抑制する。
【0035】
規範モデル42の伝達関数GT(s)は以下の(1)式に示される。
【0036】
【数1】

【0037】
ここで、τHは時定数、LVは無駄時間、sはラプラス演算子である。
【0038】
また、フィードバック補償器43は図13に示すように比例ゲインと積分ゲインからなるPI補償器である。
【0039】
F/F補償器は位相補償器41によって構成され、目標車速tVSPを入力とし実車速aVSPを出力とした場合の制御対象の応答特性を伝達特性GT(s)に一致させる。ここで、制御対象の車両モデルは、駆動トルク指令値を操作量とし車速を制御量としてモデル化することによって、車両のパワートレインの挙動は図14に示す簡易非線形モデルで表すことができ、以下の(2)式で表される。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、Mは車両質量、Rtはタイヤ動半径、Lpは無駄時間である。ただし、制御対象の特性にはパワートレイン系の遅れにより無駄時間も含まれることになり使用するアクチュエータやエンジンによって無駄時間Lpは変化する。
【0042】
よって、制御対象の無駄時間を無視して規範モデル42の伝達特性GT(s)を時定数τHの1次のローパスフィルタとすると位相補償器41の伝達特性GC(s)は以下の(3)式で表される。
【0043】
【数3】

【0044】
駆動トルク変換部44は、F/F制御部で算出されたF/F指令値にF/B制御部で算出されたF/B指令値を加算した値に対して、車両重量M及びタイヤ動半径Rtを乗算して駆動トルク指令値cTDRを算出する。
【0045】
図2に戻って実変速比算出部50は、実車速aVSP及びエンジン回転速度aNEに基づいて実変速比aRATIOを出力する。実変速比aRATIOは以下の(4)式に基づいて演算される。
【0046】
【数4】

【0047】
ここで、Gfはファイナルギア比である。
【0048】
駆動力分配部60は、図15のブロック図に示すように変速比指令値設定部61、変速比算出ゲイン決定部、最終変速比指令値演算部63及びエンジントルク指令値算出部64によって構成され、車速aVSP、駆動トルク指令値cTDR、トンネル出入口までの距離Lin、Lout、トンネルフラグfTunnel及び実変速比aRATIOに基づいてエンジントルク指令値cTE及び最終変速比指令値sRATIOを出力する。
【0049】
変速比指令値設定部61は、車速、変速比及び駆動トルクの関係を示したマップを参照して、車速aVSP及び駆動トルク指令値cTDRに基づいて変速比指令値cRATIOを算出する。
【0050】
変速比算出ゲイン決定部62は、図16のブロック図に示すように入口接近時ゲイン演算部621、出口接近時ゲイン演算部622及び変速比ゲイン選択部623によって構成され、トンネル出入口までの距離Lin、Lout及びトンネルフラグfTunnelに基づいて変速比ゲインgain_RATIOを出力する。
【0051】
入口接近時ゲイン演算部621は、図17のテーブルを参照して現在地からトンネル入口までの距離Linに基づいてトンネル入口接近時ゲインin_gainを演算する。トンネル入口接近時ゲインin_gainとは車両がトンネルの入口に接近しているときに変速比指令値を補正するためのゲインであり、トンネル入口までの距離Linが小さくなるほど、すなわちトンネルの入口が近づくほど大きくなるように設定される。
【0052】
出口接近時ゲイン演算部622は、図18のテーブルを参照して現在地からトンネル出口までの距離Loutに基づいてトンネル出口接近時ゲインout_gainを演算する。トンネル出口接近時ゲインout_gainとは車両がトンネルの出口に接近しているときに変速比指令値を補正するためのゲインであり、トンネル出口までの距離Loutが小さくなるほど、すなわちトンネルの出口が近づくほど小さくなって、1となるように設定される。
【0053】
変速比ゲイン選択部623は、入口接近時ゲインin_gain、出口接近時ゲインout_gain及びトンネルフラグfTunnelに基づいて変速比ゲインgain_RATIOを出力する。変速比ゲインgain_RATIOは図19のフローチャートに示す制御によって演算される。
【0054】
すなわち、トンネルフラグfTunnelが1であるか否かを判定し(S51)、1であれば変速比ゲインgain_RATIOを出口接近時ゲインout_gainに設定する(S52)。一方、トンネルフラグfTunnelが1でなければ(S51)、変速比ゲインgain_RATIOを入口接近時ゲインin_gainに設定する(S53)。
【0055】
図15に戻って最終変速比指令値演算部63では、変速比指令値cRATIO及び変速比ゲインgain_RATIOに基づいて以下の(5)式に従って最終変速比指令値sRATIOを演算する。
【0056】
【数5】

【0057】
エンジントルク指令値算出部64では、駆動トルク指令値cTDR及び実変速比aRATIOに基づいて以下の(6)式に従ってエンジントルク指令値cTEを演算する。
【0058】
【数6】

【0059】
以上のようにして算出されたエンジントルク指令値cTE及び最終変速比指令値sRATIOはそれぞれエンジンECU及びトランスミッションECUに送信される。
【0060】
以上の制御をまとめて図20を参照しながら本実施形態の作用を説明する。図20は本実施形態における車両の運転状態を説明したタイムチャートであり、(a)はトンネルフラグfTunnel、(b)は加速度リミッタ値limit、(c)は最終変速比指令値sRATIO、(d)は駆動トルクを示している。
【0061】
時刻t1において、車両の現在位置からトンネル入口までの距離Linが小さくなるのに伴って加速度リミッタ値limitが低下する。さらに変速比ゲインgain_RATIOが増加して最終変速比指令値sRATIOが上昇する。
【0062】
時刻t2において、車両がトンネルの入口を通過してトンネルフラグfTunnelが1となる。これにより、加速度リミッタ値limitは低下前の値まで徐々に上昇する。
【0063】
時刻t3において、車両の現在位置からトンネル出口までの距離Loutが小さくなるのに伴って加速度リミッタ値limitが低下する。さらに変速比ゲインgain_RATIOが低下して最終変速比指令値sRATIOが低下する。
【0064】
時刻t4において、車両がトンネルの出口を通過してトンネルフラグfTunnelが0となる。これにより、加速度リミッタ値limitは低下前の値まで徐々に上昇する。このとき加速度リミッタ値limitの上昇率はトンネル入口を通過した後の上昇率より大きい。
【0065】
時刻t5において、車両の現在位置からトンネル入口までの距離Linが小さくなるのに伴って加速度リミッタ値limitが低下する。さらに変速比ゲインgain_RATIOが増加して最終変速比指令値sRATIOが上昇する。
【0066】
時刻t6において、車両がトンネルの入口を通過してトンネルフラグfTunnelが1となる。これにより、加速度リミッタ値limitは徐々に上昇する。
【0067】
時刻t7において、車両の現在位置からトンネル出口までの距離Loutが小さくなるのに伴って変速比ゲインgain_RATIOが低下して最終変速比指令値sRATIOが低下する。このとき加速度リミッタ値limitは時刻t6以降上昇しているが低下させるほど大きな値にはなっていないので時刻t7以降も上昇し、その後低下に転じる。
【0068】
時刻t8において、車両がトンネルの出口を通過してトンネルフラグfTunnelが0となる。これにより、加速度リミッタ値limitは低下前の値まで徐々に上昇する。このとき加速度リミッタ値limitの上昇率はトンネル入口を通過した後の上昇率より大きい。
【0069】
以上の過程において、駆動トルクは変速比指令値の変化にかかわらず一定に保持される。
【0070】
以上のように本実施形態では、車両の現在位置からトンネルの出入口までの距離Lin、Loutに基づいて車両の加速度の上限値を設定して目標加速度tACCを制限する。よって、トンネルの入口又は出口を通過することで周囲の明るさが変化して運転者による周辺状況の認識能力が低下した状態において、車両の加速度が制限され事故の危険性を低減することができる。
【0071】
また、トンネルの出入口までの距離Lin、Loutが小さいほど加速度の上限値を小さく設定するので、周囲の明るさの変化が大きくなるほど車両の加速度が制限され、運転性を維持しながら事故の危険性を低減することができる。
【0072】
さらに、車両がトンネルの出入口を通過後、時間が経過するほど加速度の上限値を大きく設定するので、周囲の明るさが変化してから時間が経過して運転者の周辺状況の認識能力が回復するのに合わせて加速度の制限が弱まり、運転者の違和感を防止して運転性の悪化を抑制できる。
【0073】
さらに、トンネルの出口を通過した場合、トンネルの入口を通過した場合よりも加速度の上限値の単位時間当たりの増加量を大きくする。周辺の明るさが急に暗くなったときよりも急に明るくなったときの方が目が順応するまでに要する時間が短いので、加速度の上限値をより早く大きくすることで運転者の違和感を防止して運転性の悪化を抑制できる。
【0074】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
【0075】
例えば、本実施形態では変速機として無段変速機103を使用しているが、これに限定されることなく有段ATやAMTなどを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本実施形態における車両の駆動力制御装置を示す構成図である。
【図2】本実施形態における車両の駆動力制御装置を示すブロック図である。
【図3】制御開始判定部の制御を示すフローチャートである。
【図4】目標車速算出部の制御を示すブロック図である。
【図5】車速、目標加速度及びアクセル踏込み量の関係を示すマップである。
【図6】加速度リミッタ値決定部の制御を示すブロック図である。
【図7】トンネルの出入口までの距離と接近時リミッタ値との関係を示すテーブルである。
【図8】順応時間演算部の制御を示すフローチャートである。
【図9】トンネルの出入口を通過後の時間と通過時リミッタ値との関係を示すテーブルである。
【図10】加速度リミッタ値選択部の制御を示すフローチャートである。
【図11】リミッタ処理部の制御を示すフローチャートである。
【図12】積分処理部の制御を示すフローチャートである。
【図13】車速制御部の制御を示すブロック図である。
【図14】車両モデルを示すブロック図である。
【図15】駆動力分配部の制御を示すブロック図である。
【図16】変速比算出ゲイン決定部の制御を示すブロック図である。
【図17】トンネルの入口までの距離と入口接近時ゲインとの関係を示すテーブルである。
【図18】トンネルの出口までの距離と出口接近時ゲインとの関係を示すテーブルである。
【図19】変速比ゲイン選択部の制御を示すフローチャートである。
【図20】本実施形態の制御を説明したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0077】
1 制御開始スイッチ
2 ブレーキスイッチ
3 ナビゲーションシステム
4 アクセル踏込み量センサ
5 車速センサ
6 エンジン回転速度センサ
7 エンジンECU
8 トランスミッションECU
10 車速制御ECU
20 制御開始判定部
30 目標車速算出部
31 目標加速度決定部
32 加速度リミッタ値決定部
321 接近時リミッタ値演算部
322 順応時間演算部
323 通過時リミッタ値演算部
324 加速度リミッタ値選択部
33 リミッタ処理部
34 積分処理部
40 車速制御部
41 位相補償器
42 規範モデル
43 フィードバック補償器
44 駆動トルク変換部
45 車両モデル
50 実変速比算出部
51 目標駆動トルクマップ
52 エンジンモデル
53 走行抵抗マップ
54 加速度変換部
55 目標加速度入力制限部
60 駆動力分配部
61 変速比指令値設定部
62 変速比算出ゲイン決定部
621 入口接近時ゲイン演算部
622 出口接近時ゲイン演算部
623 変速比ゲイン選択部
63 最終変速比指令値演算部
64 エンジントルク指令値算出部
71 スロットルアクチュエータ
100 車両
102 エンジン
103 無段変速機
104 ファイナルギア
105 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を発生するエンジンと、
前記エンジンの回転速度を変速して駆動輪へと伝達する変速機と、
を備える車両の駆動力制御装置において、
車速及び運転者のアクセル踏込み量に基づいて前記車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、
前記車両の現在位置及び前記車両の前方の道路状況を検知する道路状況検知手段と、
前記道路状況検知手段によって検知されるトンネルの入口又は出口と前記車両の現在位置との距離を演算する距離演算手段と、
前記距離に基づいて前記車両の加速度の上限値を設定する加速度上限値設定手段と、
前記目標加速度が前記加速度の上限値より大きいとき前記目標加速度を前記上限値に制限する加速度制限手段と、
前記車両の加速度が前記加速度制限手段実行後の前記目標加速度となるように前記エンジン及び前記変速機の少なくとも一方によって前記車両の駆動力を制御する駆動力制御手段と、
を備えることを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
前記加速度上限値設定手段は、前記距離が小さくなるにつれて前記加速度の上限値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記加速度上限値設定手段は、前記車両が前記トンネルの入口又は出口を通過するとき、通過後の時間が経過するにつれて前記小さく設定された加速度の上限値を大きくすることを特徴とする請求項2に記載の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記加速度上限値設定手段は、前記車両が前記トンネルの出口を通過するとき、前記トンネルの入口を通過したときより前記加速度の上限値の単位時間当たりの増加量を小さくすることを特徴とする請求項3に記載の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−69845(P2007−69845A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261812(P2005−261812)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】