車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】電動的に差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置において、内燃機関停止時における内燃機関の回転変動を防止することで内燃機関の耐久性低下を防止すると共に、車両のドライバビリティーへの影響を防止することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン8の非自律運転中であって動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変化するとき、第3電動機M3によってエンジン8の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段92を備えるため、エンジン8の回転速度上昇や逆回転が好適に防止される。これより、エンジン8の耐久性低下が抑制されると共に、エンジン8の回転変動による振動を防止し、ドライバビリティーを向上させることができる。
【解決手段】エンジン8の非自律運転中であって動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変化するとき、第3電動機M3によってエンジン8の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段92を備えるため、エンジン8の回転速度上昇や逆回転が好適に防止される。これより、エンジン8の耐久性低下が抑制されると共に、エンジン8の回転変動による振動を防止し、ドライバビリティーを向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置に係り、特に、内燃機関停止時における内燃機関の回転変動防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置が知られている。このような車両用駆動装置では、差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、差動機構の差動作用により内燃機関からの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、その内燃機関からの残部を差動電動機から第2電動機への電気的パスを用いて電気的に伝達することにより電気的に差動状態が制御される、すなわち電気式差動部の変速比が適宜変更される。これにより、内燃機関を最適な回転状態に維持しつつ車両を走行させるように制御され、燃費を向上させることができる。また、特許文献1の動力出力装置(本明細書では動力伝達装置)では、内燃機関に第3の回転電機(本明細書では内燃機関連結電動機)が連結された構成となっている。そして、第1の回転電機(差動電動機)と、第2の回転電機と、第3の回転電機(内燃機関連結電動機)との間で電力のやりとり可能に接続されることで装置全体のエネルギ効率を向上させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−336983号公報
【特許文献2】特開2006−321392号公報
【特許文献3】特開平10−42403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように構成される車両用動力伝達装置において、例えば低車速領域では、内燃機関を停止(燃料カット)させて電動機のみによる走行が可能となる。これより、電動機のみによるモータ走行中、内燃機関は自身の引き摺り(静止摩擦抵抗)により零回転に維持される。しかし、例えば差動機構の出力軸に有段ないしは無段の変速部を有するものにおいて、変速部がアップシフトされる場合など、変速部の入力軸の回転速度が急激に低下すると、それにともない差動機構の出力軸の回転速度も同様に低下されて、そのイナーシャの影響により内燃機関が負回転領域に入る可能性がある。また、変速部の入力軸の回転速度が急激に増加すると、内燃機関の回転速度が上昇し、車両のドライバビリティーに影響が生じる可能性があった。このことは、未公知の課題であったため、例えば特許文献1においても何ら記載されていない。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置において、内燃機関停止時における内燃機関の回転変動を防止することで内燃機関の耐久性低下を防止すると共に、車両のドライバビリティーへの影響を防止することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備え、前記内燃機関の出力を駆動輪に伝達する車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)前記差動機構の所定の回転要素に動力伝達可能に連結された差動電動機と、前記内燃機関に動力伝達可能に連結された内燃機関連結電動機とを備え、(c)前記内燃機関の非自律運転時であって前記差動機構の出力軸の回転速度が変化するとき、前記内燃機関連結電動機によって前記内燃機関の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のとき、前記内燃機関の回転速度を制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速中において、前記内燃機関の回転速度を所定の回転速度に制御することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の走行状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による前記内燃機関の回転速度制御から前記差動電動機による前記内燃機関の回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がスリップしたときであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がロックしたときであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項9にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記内燃機関が前記所定の回転速度となるようにフィードバック制御を実施することを特徴とする。
【0015】
また、請求項10にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定の回転速度は学習制御されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項11にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定の回転速度は、前記変速部の変速比に応じて変更されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項12にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部のイナーシャ相中に実施することを特徴とする。
【0018】
また、請求項13にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速部は有段変速されることを特徴とする。
【0019】
また、請求項14にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定の回転速度は、前記内燃機関連結電動機のロック制御による零回転であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項15にかかる発明の要旨とするところは、請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施することを特徴とする。
【0021】
また、請求項16にかかる発明の要旨とするところは、請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間、および前記変速部の入力軸の回転速度変化量から前記内燃機関連結電動機の制御量を決定することを特徴とする。
【0022】
また、請求項17にかかる発明の要旨とするところは、請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関連結電動機が故障したとき、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする。
【0023】
また、請求項18にかかる発明の要旨とするところは、請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、蓄電装置の状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関の非自律運転時であって前記差動機構の出力軸の回転速度が変化するとき、前記内燃機関連結電動機によって前記内燃機関の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段を備えるため、前記内燃機関の回転速度上昇や逆回転が好適に防止される。これより、内燃機関の耐久性低下が抑制されると共に、内燃機関の回転変動による振動を防止し、ドライバビリティーを向上させることができる。
【0025】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のとき、前記内燃機関の回転速度を制御するものである。このようにすれば、差動機構の出力軸の急激な変化もしくは大幅な変化に伴って、イナーシャ変化により内燃機関の回転変動が生じるが、内燃機関回転速度制御手段によってその回転変動を抑制することができる。
【0026】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速中において、前記内燃機関の回転速度を所定の回転速度に制御するものである。このようにすれば、変速部の変速中における差動機構の出力軸の回転速度変化に伴って内燃機関が回転変動させられる可能性が生じるが、内燃機関回転速度制御手段によってその回転変動を抑制することができる。
【0027】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定するものである。このようにすれば、車両の運転状態に応じて制御の実施が好適に判断されると共に、制御量においても車両の運転状態に応じて好適に決定され、内燃機関の回転変動およびドライバビリティーへの影響を好適に抑制することができる。
【0028】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の走行状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による前記内燃機関の回転速度制御から前記差動電動機による前記内燃機関の回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば内燃機関連結電動機が故障するなどしても、差動電動機に切り換えて内燃機関の回転速度を制御することができ、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【0029】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がスリップしたときであるものとする。このようにすれば、駆動輪のスリップによる差動機構の出力軸の急激な回転速度上昇に伴う内燃機関の回転速度上昇を内燃機関回転速度制御手段によって好適に抑制することができる。
【0030】
また、請求項7にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がロックしたときであるものとする。このようにすれば、駆動輪のロックによる差動機構の出力軸の急激な回転速度低下に伴う内燃機関の逆回転を内燃機関回転速度制御手段によって好適に抑制することができる。
【0031】
また、請求項8にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであるものとする。このようにすれば、車両の急減速による差動機構の出力軸の急激な回転速度低下に伴う内燃機関の逆回転を内燃機関回転速度制御手段によって好適に抑制することができる。
【0032】
また、請求項9にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記内燃機関が前記所定の回転速度となるようにフィードバック制御を実施するものである。このようにすれば、内燃機関の回転速度がフィードバック制御によって好適に制御され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を抑制することができる。
【0033】
また、請求項10にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の回転速度は学習制御されるため、例えば変速中における差動機構の出力軸の回転速度変化量などに応じて好適な回転速度に逐次設定され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0034】
また、請求項11にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の回転速度は、前記変速部の変速比に応じて変更されるため、好適な回転速度に設定され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0035】
また、請求項12にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部のイナーシャ相中に実施するため、差動機構の出力軸の回転速度が変化するときのみ本制御が実施され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、請求項13にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部は有段変速されるため、差動機構の出力軸の回転速度が変速に伴って変化されるが、内燃機関回転速度制御手段を実施することで、この出力軸の回転速度変化に伴う内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【0037】
また、請求項14にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の回転速度は、前記内燃機関連結電動機のロック制御による零回転であるため、内燃機関の回転速度が零回転となるように制御され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、請求項15にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施するため、イナーシャの寄与度が小さいときは実施されない。これより、内燃機関回転速度制御手段が効率よく実施されることとなる。
【0039】
また、請求項16にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間、および前記変速部の入力軸の回転速度変化量から前記内燃機関連結電動機の制御量を決定するため、内燃機関の回転変動を効果的に抑制することができる。
【0040】
また、請求項17にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関連結電動機が故障したとき、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、内燃機関連結電動機が故障した場合であっても差動電動機による制御が可能となり、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【0041】
また、請求項18にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、蓄電装置の状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば蓄電装置の充電容量が少ない場合であっても、差動電動機に切り換えることで、差動電動機の回生制御による内燃機関の回転速度制御が可能となり、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0043】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14(差動機構の入力軸)に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20(変速部)と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの出力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。なお、本実施例のエンジン8が本発明の内燃機関に対応しており、変速機構10が車両用動力伝達装置に対応しており、差動部11が電気式差動部に対応している。
【0044】
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0045】
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。さらに、入力軸14すなわちエンジン8と一体的に回転するように第3電動機M3が連結されている。本実施例の第1電動機M1、第2電動機M2、および第3電動機M3は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2、第3電動機M3は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。なお、本実施例の第1電動機M1が本発明の差動電動機に対応しており、第3電動機M3が本発明の内燃機関連結電動機に対応している。
【0046】
差動機構として機能する動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24を主体として構成されている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0047】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1、第2電動機M2、第3電動機M3、およびエンジン8の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の入力軸14の回転速度と出力軸(伝達部材18)の回転速度の差動状態が制御される無段変速機構として作動させられる。
【0048】
変速部として機能する自動変速部20は、差動部11と駆動輪34との動力伝達経路の一部を構成する有段式の自動変速機である。自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0049】
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0050】
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0051】
また、この有段変速可能な自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0052】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0053】
以上のように構成された変速機構10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0054】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、変速機構10において無段変速機が構成される。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0055】
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0056】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、変速機構10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0057】
例えば、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、自動変速部20の第4速ギヤ段において差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0058】
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0059】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0060】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0061】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転速度すなわち第1電動機M1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
【0062】
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で第1リングギヤR1の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0063】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0064】
自動変速部20では、差動部11において出力回転部材である伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0065】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2、第3電動機M1、M2、M3に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0066】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションSPや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度(以下、出力軸回転速度)NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)、および第3電動機M3の回転速度NM3(以下、第3電動機回転速度NM3という)を表す信号、蓄電装置56(図7参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0067】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2、およびM3の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図5、図7参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0068】
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。
【0069】
図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しない電動オイルポンプやエンジン8により回転駆動される機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧として例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度或いはスロットル開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0070】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。
【0071】
図6は複数種類のシフトポジションSPを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションSPを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0072】
そのシフトレバー52は、変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0073】
上記シフトレバー52の各シフトポジションSPへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0074】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションSPにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0075】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0076】
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0077】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブSLを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0078】
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0079】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶された図9の破線に示すようなエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。
【0080】
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0081】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御させられる。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0082】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0083】
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
【0084】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0085】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。
【0086】
前記図8の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図8に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に予め記憶されている。
【0087】
そして、ハイブリッド制御手段84は、例えば図8の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段84によるモータ走行は、図8から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクTE時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0088】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機M1の回転速度NM1および/または第2電動機M2の回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機M2の回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機M1の回転速度NM1の引き上げを実行する。また、第3電動機M3によって、直接的にエンジン回転速度NEを任意の回転速度に維持することもできる。
【0089】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。
【0090】
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0091】
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電容量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0092】
ところで、本実施例のように差動部11を備えた変速機構11において、上述したように、エンジン8を停止させた状態(エンジン非自律運転時)では、第2電動機M2によるモータ走行が実施される。このとき、エンジン8の引き摺り(回転変動)を抑制するため、第1電動機M1を空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度NEを零乃至零に維持させている。すなわち、エンジン8は、エンジン8自身の静止摩擦抵抗によって零乃至略零回転に維持される。しかし、例えば自動変速部20が短時間でアップシフトされるなどすると、自動変速部20の入力軸の回転速度が急激に引き下げられるに伴い、その入力軸に連結された動力分配機構16の出力軸の回転速度が急激に引き下げられる。そして、この急激な回転速度変化に対して、第1電動機M1のイナーシャが比較的大きいものであると、空転状態の第1電動機M1の回転速度変化(イナーシャ変化)が速やかに行われなくなり、差動部11の差動作用によってエンジン8が負回転領域に入る可能性がある。このようにエンジン8が負回転領域に入ると、走行中のドライバビリティーに影響が生じる可能性があった。同様に、動力分配機構16の出力軸が急激に引き上げられる場合であっても、差動部11の差動作用により、エンジン8の回転速度が上昇し、ドライバビリティーに影響が生じる可能性があった。
【0093】
そこで、本実施例では、エンジン8の非自律運転時(エンジン8のフューエルカット時)において、エンジン8を零乃至略零回転に維持する制御を実施することで、エンジン8の回転変動を抑制する。以下、本発明の要部である上記制御について説明する。なお、動力分配機構16の出力軸および自動変速部20の入力軸は、伝達部材18を介して連結されていることから、それぞれ動力分配機構16の出力軸18および自動変速部20の入力軸18と、伝達部材18と同様の添え字を付すこととする。そして、本実施例の動力分配機構16の出力軸18が本発明の差動機構の出力軸に対応しており、自動変速部20の入力軸18が変速部の入力軸に対応している。
【0094】
図7に戻り、変速判定手段86は、自動変速部20が変速中であるか否かを判定する。変速判定手段86は、例えば有段変速制御手段82から出力される自動変速部20の変速指令に基づいて、自動変速部20が変速中であるか否かを判定する。
【0095】
車速判定手段88は、変速判定手段86によって自動変速部20が変速中であると判定されたときに実施される。車速判定手段88は、自動変速部20の出力軸22の回転速度を検出する出力軸回転速度センサ79から出力される信号に基づいて車速Vを算出し、その車速Vが予め設定される所定値V1以上か否かを判定する。ここで、前記所定値V1は、例えば、自動変速部20が変速される際の入力軸18の回転速度変化量、すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値ΔN1となる値に設定される。なお、回転速度変化量ΔNは、予め算出することが可能であり現在の出力軸回転速度NOUT、変速前の変速比、および変速後の変速比に応じて算出される(回転速度変化量ΔN=現在の出力軸回転速度NOUT×(変速後の変速比−変速前の変速比))。
【0096】
ここで、自動変速部20の変速による動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが小さい場合、エンジン8は自身の静止摩擦抵抗よって停止することができる。一方、回転速度変化量ΔNが大きくなると、第1電動機M1のイナーシャの影響により、エンジン8が回転させられる可能性が生じる。そこで、所定値ΔN1は、エンジン8自身の静止摩擦抵抗によって、エンジン8が回転されない程度の値に設定される。すなわち、車速Vの所定値V1は、前記回転速度変化量ΔNが所定値ΔN1となる速度に設定される。
【0097】
ここで、車速Vの所定値V1は、変速される自動変速部20の変速比(変速段)に応じて変更されるものであっても構わない。すなわち、回転速度変化量ΔNは、同じ車速Vであっても自動変速部20の変速される変速比に応じて変化するものであるため、所定値V1も変速比に応じて変更されるものが好ましい。
【0098】
さらに、車速Vの所定値V1は、変速中の変速時間に応じて変更されるものであっても構わない。変速時間が短い場合、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に変化するので、エンジン8が回転させられ易くなる。そこで、変速時間が短くなるに従い、変速中の回転速度変化量ΔNが小さくなるように、車速Vの所定値V1を小さく設定する。
【0099】
さらに、車速Vの所定値V1は、エンジン8の作動油の油温に応じて変更しても構わない。作動油の油温が低くなると、作動油の粘度が高くなるので、その摩擦によりエンジン8が回転し難くなる。そこで、作動油の油温が低下するに従い、例えば所定値V1を高く設定する。
【0100】
そして、車速判定手段88が肯定される、すなわち車速Vが所定値V1以上と判定されると、後述する内燃機関回転速度制御手段92が実行される。一方、車速判定手段88が否定されると、本制御なしでもエンジン8は自身の静止摩擦抵抗によって回転が抑制されるものと判断される。
【0101】
ここで、後述する内燃機関回転速度制御手段92は、前記車速Vによる判定の他、車両の運転状態に応じて上記制御の実施を判定することができる。例えば、自動変速部20が変速される変速点(図8の変速線において、アップシフト線およびダウンシフト線)、変速に必要とされる変速時間等から推定される自動変速部20のイナーシャ変化の寄与度が大きいか否かで内燃機関回転速度制御手段92を実施するか否かを判定しても構わない。自動変速部20のイナーシャ変化が大きくなると、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化も大きくなるので、そのイナーシャの寄与度が大きくなり、エンジン回転速度NEが変動させられる可能性が大きくなる。そこで、このイナーシャ寄与度に応じて内燃機関回転速度制御手段92の実施を判断することができる。例えば、変速時間が短くなるに従い、イナーシャ変化の勾配が大きくなり、イナーシャの寄与度が大きくなる。これより、例えば変速時間が短くなると、内燃機関回転速度制御手段92を実施させる。同様に、変速点においても、例えば高車速や高トルク領域などでの変速点では、変速に伴いイナーシャ変化が大きくなり易いので、このような領域において、内燃機関回転速度制御手段92を実施させる。また、蓄電装置56の充電容量SOCの状態(電池影響度)に基づいて、内燃機関回転速度制御手段92を実施するか否かを判定しても構わない。例えば、充電容量SOCが予め設定された制御可能な下限値を下回ったとき、本制御を実施させない。
【0102】
第2電動機回転変化量判定手段90は、変速判定手段86によって自動変速部20が変速されないと判定されたときに実施される。第2電動機回転変化量判定手段90は、所定時間における第2電動機M2の回転速度変化量すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが予め設定されている所定値ΔN2以下か否かを判定する。ここで、所定値ΔN2は、予め実験的並びに理論的に求められ、例えば動力分配機構16の出力軸18が所定時間内に所定値ΔN2だけ回転変化されても、エンジン8が自身の静止摩擦抵抗によって回転されない範囲の上限値に設定される。なお、第2電動機回転変化量判定手段90は、上記回転速度変化量ΔNによる判定だけでなく、さらに、動力分配機構16の出力軸18の回転変化速度すなわち回転速度変化量ΔNの勾配に基づく判定手段であっても構わない。
【0103】
ここで、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが大きくなって所定値ΔN2以上となる一例として、例えば駆動輪34がスリップした場合がある。車両が例えば低μ路(低摩擦路)を走行中に駆動輪34がスリップすると、駆動輪34の回転速度が急激に上昇する。これに伴い、動力分配機構16の出力軸18も急激に上昇することとなり、差動部11の差動作用によってエンジン8の回転速度が上昇させられる可能性が生じる。また、他の例として、例えば駆動輪34がロックした場合がある。駆動輪34が何らかの原因で急激にロックされると、駆動輪34の回転速度が急激に低下される。これに伴い、動力分配機構16の出力軸18も同様に急激に低下させられ、差動部11の差動作用によってエンジン8が逆回転させられる可能性が生じる。さらに、他の例として、車両が急ブレーキなどにより急減速させられた場合がある。車両が急減速させられると、駆動輪34の回転速度が急激に低下される。これに伴い、動力分配機構16の出力軸18も同様に急激に低下させられ、差動部11の差動作用によってエンジン8が逆回転させられる可能性が生じる。このようなとき、短時間の間に回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2を越えると判定される。なお、所定値ΔN2は、上記のような各走行条件に応じて変更されるものであっても構わない。
【0104】
そして、上記のように動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上のとき、もしくは自動変速部20の変速中であって車速Vが所定値V1以上であるとき、内燃機関回転速度制御手段92が実施される。内燃機関回転速度制御手段92は、その制御の実施に際し、第3電動機作動状態判定手段94および電動機切換手段96を実施させることによって、車両の走行状態に応じて使用される電動機を第1電動機M1および第3電動機M3の何れかに切り換える。
【0105】
第3電動機作動状態判定手段94は、例えば第3電動機M3の出力信号などに基づいて第3電動機M3が故障してないか否かを判定するものである。また、電動機切換制御手段96は、車両の走行状態に応じて本制御に使用される電動機を切り換える。具体的には、例えば前記第3電動機作動状態判定手段94によって第3電動機M3が故障したものと判定された場合、本制御が第3電動機M3による制御から第1電動機M1による制御に切り換えられる。すなわち、内燃機関回転速度制御手段92が第1電動機M1によって実施される。一方、第3電動機M3が正常と判定されると、本制御が第3電動機M3による制御に切り換えられる。
【0106】
さらに、電動機切換制御手段96は、蓄電装置56の充電容量SOCに応じて使用される電動機を切り換えることもできる。具体的には、例えば充電状態SOCが少なくなると、放電を伴う第3電動機M3の駆動が困難となる。そこで、電動機切換手段96は、内燃機関回転速度制御手段92による制御を第3電動機による回転速度制御から第1電動機M1による回転速度制御に切り換える。このようにすることで、通常では第3電動機M3の駆動による回転速度制御すなわち放電を伴う制御から第1電動機M1の回生を伴う回転速度制御に切り換えられ、蓄電装置56の充電容量SOCの低下が防止される。
【0107】
そして、電動機切換手段96によって使用される好適な電動機に切り換えられると、内燃機関回転速度制御手段92が実施される。内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1または第3電動機M3によってエンジン回転速度NEを好適に制御することで、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を防止する。以下、車両の各状態に応じた内燃機関回転速度制御手段92の制御方法について説明する。
【0108】
先ず、自動変速部20の変速中において、車速Vが所定値V1以上となった場合について説明する。車両の走行状態が上記状態となると、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE1に制御する。すなわち、第3電動機M3(または第1電動機M1)に供給される駆動電流(制御量)を制御することで、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE1に制御する。ここで、所定の回転速度NE1は、予め実験もしくは計算等に基づいて設定され、走行中においてエンジン8の逆回転が防止されると共に、運転性が低下しない程度の回転速度(例えば零〜20rpm程度)に設定される。なお、この所定の回転速度NE1は、自動変速部20の変速される変速比に応じて変更されることが好ましい。具体的には、自動変速部20が変速される際、自動変速部20の変速比に応じて変速中の自動変速部20の入力軸18すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが変化する。そこで、例えば自動変速部20のアップシフト時において、回転速度変化量ΔNが大きくなる変速では、例えば所定の回転速度NE1を大きく設定する。これより、動力分配機構16の出力軸18が大幅に回転低下されるのに対して、所定の回転速度NE1が大きく設定されることで、変速時におけるエンジン回転速度低下が抑制されてエンジン8の逆回転が抑制される。また、例えば自動変速部20のダウンシフト時において、回転速度変化量ΔNが大きくなる変速では、所定の回転速度NE1を小さく設定する。これより、動力分配機構16の出力軸18が大幅に回転上昇されるのに対して、所定の回転速度NE1が小さく設定されることで、変速時におけるエンジン回転速度上昇が抑制される。
【0109】
また、所定の回転速度NE1は、自動変速部20の変速比の他、自動変速部20の変速点(図8に示す変速線図のアップシフト線およびダウンシフト線の位置)、変速に要する変速時間、回転速度変化量ΔN、および蓄電装置56の充電容量SOCに基づく電池影響度などの車両の走行状態に応じて変更しても構わない。例えば、変速時間においては、変速時間が短くなるに従い、動力分配機構16の出力軸18の変化方向に対して、その変化方向を打ち消す方向に所定の回転速度NE1を大きく変化する。具体的に説明すると、自動変速部20のアップシフト時においては、変速時間が短くなるに従い、所定の回転速度NE1を大きく設定する。これにより、動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度低下(イナーシャ変化)に対して、所定の回転速度NE1が大きくされることで、エンジン8の逆回転が効果的に抑制される。また、自動変速部20のダウンシフト時においては、変速時間が短くなるに従い、所定の回転速度NE1を小さく設定する。これにより、動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度上昇(イナーシャ変化)に対して、所定の回転速度NE1が小さく設定されることで、エンジン8の回転速度上昇が効果的に抑制される。
【0110】
また、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速中、具体的には、自動変速部20の回転速度変化が生じるイナーシャ相中に実施される。言い換えれば、動力分配機構16の出力軸18が変化する、すなわちエンジン8の回転速度変動が生じ易い状態に限って制御が実施される。また、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン8の回転速度NEを逐次検出し、その回転速度NEと所定の回転速度NE1との回転速度差に基づいて、電動機に供給される駆動電流のフィードバック制御を実施する。なお、フィードバック制御は、一定値である所定の回転速度NE1の他、所定の回転速度NE1以下に制御するものであっても構わない。さらに、所定の回転速度NE1は、例えば、前回の変速時におけるエンジン8の回転速度NEの最大値および最小値を記憶しておき、それら最大値および最小値に基づいて、次回の変速における新たな所定の回転速度NE1を算出する学習制御を実施することもできる。
【0111】
次に、自動変速部20が変速されない状態において、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上となったときについて説明する。上述したように、例えば、駆動輪34がロックしたとき、駆動輪34がスリップしたとき、或いは車両が急減速されたとき、回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上となり、内燃機関回転速度制御手段92が実施される。
【0112】
内燃機関回転速度制御手段92は、回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上となったとき、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE2に制御する。すなわち、第3電動機M3(または第1電動機M1)に供給される駆動電流(制御量)を制御することで、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE2に制御する。ここで、所定の回転速度NE2は、所定の回転速度NE1と同様、予め実験もしくは計算等に基づいて設定され、走行中においてエンジン8の逆回転が防止されると共に、運転性が低下しない程度の回転速度(例えば零〜20rpm程度)に設定される。なお、所定の回転速度NE2は、一定値の他、例えば車速Vに応じて変更されるものであっても構わない。例えば車速Vが高いとき、駆動輪34がロックもしくは急減速されると、自動変速部20の入力軸18およびその入力軸18に連結された動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に低下されて回転速度変化量ΔNが大きくなる。そこで、このようなとき、所定の回転速度NE2を大きくすることで、エンジン8の逆回転が好適に抑制されることとなる。
【0113】
また、自動変速部20の変速時と同様に、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン8の回転速度NEを逐次検出し、その回転速度NEと所定の回転速度NE2との回転速度差に基づいて、電動機に供給される駆動電流のフィードバック制御を実施する。なお、フィードバック制御は、一定値である所定の回転速度NE2の他、所定の回転速度NE2以下に制御するものであっても構わない。さらに、所定の回転速度NE2は、例えば、前回の駆動輪34のロック時、駆動輪34の急減速時など回転速度変化量ΔNが所定の回転速度NE2以上となったときに前回検出されたエンジン回転速度NEの最大値および最小値を記憶しておき、それら最大値および最小値に基づいて、次回の回転速度変化量ΔNが所定の回転速度ΔN2以上となったときの新たな所定回転速度NE2を算出する学習制御を実施することもできる。
【0114】
ここで、自動変速部20の変速、非変速に拘わらず、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3が正常もしくは蓄電装置56の充電容量SOCが制御可能範囲にあるとき、上記制御を第3電動機M3によって実施される。第3電動機M3はエンジン8に直接的に連結されているため、第1電動機M1によるエンジン回転速度制御よりも精度良く、且つ、迅速にエンジン回転速度制御が可能となる。これより、本制御においては、通常、第3電動機M3による制御が好適な制御となる。ところが、第3電動機M3が故障する、もしくは蓄電装置56の充電容量SOCが制御可能下限範囲を下回ると、電動機切換手段96によって、内燃機関回転速度制御手段92の制御が第1電動機M1によるエンジン8の回転速度制御に切り換えられることとなる。そして、本発明の差動機構の所定の回転要素に対応する第1遊星歯車装置24のサンギヤS1に連結された第1電動機M1の回転速度を制御することにより、エンジン回転速度NEが制御される。例えば、エンジン回転速度NEを引き上げる場合、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機M1回転速度NM1の引き上げを実行する。一方、エンジン回転速度NEを引き下げる場合、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き下げを実行する。これより、内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1を制御することにより、エンジン回転速度NEが所定の回転速度(NE1、NE2)となるように回転速度制御を実施する。
【0115】
ここで、自動変速部20がアップシフトされる、或いは駆動輪34がロックされるなどすると、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に引き下げられるが、このとき、内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1に制動トルク(回生トルク)を付与することで、第1電動機M1の回転速度NM1を制御する。すなわち、エンジン非自立運転時時においては、第1電動機M1は逆転されているが、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値(ΔN1、ΔN2)以上となると、第1電動機M1に制動トルクを付与することで、その回転が速やかに零回転方向(回転停止方向)に引き上げられ、エンジン8の逆転が防止される。また、回生トルクが付与されるに伴い、第1電動機M1によって発電され、その電力が蓄電装置56に供給される。これより、蓄電装置56の充電容量SOCが制御可能な下限値を下回った場合、電動機切換手段96は、使用される電動機を第3電動機M3から第1電動機M1に切り換える。そして、内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1によるエンジン回転速度NEを実施することで、自動変速部20のアップシフト時や動力分配機構16の出力軸18の減速時において、第1電動機M1による発電が可能となり、蓄電装置56の充電容量SOCの低下が抑制される。
【0116】
図10は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちエンジン非自律運転時時において、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に変化させられる際にエンジン8の回転変動を抑制する制御作動を説明するタイムチャートである。なお、本タイムチャートは、一例としてエンジン非自律運転中における自動変速部20のアップシフト変速時の制御の状態を示し、第3電動機M3によって実施されるものとする。t1時点において、変速判定手段86によって自動変速部20のアップシフトの実施が判定されると、t2時点において、有段変速制御手段82によって自動変速部20のアップシフトが開始される。これより、自動変速部20の解放圧が低下され、解放側の摩擦係合要素が解放され始める。そして、t3時点において、自動変速部20のイナーシャ相が開始されると、自動変速部20の入力軸18の回転速度低下が始まり、それに伴って第1電動機M1の第1電動機回転速度NM1の回転速度上昇が始まることとなる。これと同時に、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3に正回転方向のトルクを付与することで、第3電動機M3の回転速度NM3のフィードバック制御が開始され、その回転速度NM3が略零回転乃至数回転程度に制御される。これに伴い、エンジン回転速度NEが略零回転程度に制御され、エンジン8の逆回転が抑制されることとなる。そして、t4時点において、自動変速部20のイナーシャ相が終了すると、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3によるエンジン8の回転速度制御を速やかに終了する。
【0117】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちエンジン非自律運転時において、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に変化させられる際にエンジン8の回転変動を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0118】
先ず、変速判定手段86に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する)において、自動変速部20が変速中であるか否かが判定される。SA1が肯定されると、車速判定手段88に対応するSA2において、車両の車速Vが所定値V1以上か否かが判定される。SA2が否定されると、エンジン8は自身の静止摩擦抵抗によって回転停止することが可能と判定され、本ルーチンは終了させられる。
【0119】
SA1に戻り、SA1が否定されると、第2電動機回転変化量判定手段90に対応するSA5において、第2電動機M2の回転変化量すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転変化量ΔNが所定値ΔN2以下か否かが判定される。SA5が肯定されると、エンジン8は自身の静止摩擦抵抗によって回転停止することが可能と判定され、本ルーチンは終了させられる。一方、SA2が肯定される、もしくはSA5が否定されると、第3電動機作動状態判定手段94に対応するSA3において、第3電動機M3が正常に作動するか否かが判定される。SA3が肯定されると、内燃機関回転速度制御手段92に対応するSA4において、車速V、自動変速部20の変速点、回転速度変化量ΔN、変速時間、変速比、或いは
蓄電装置56の充電容量SOCに対応する電池影響度等に基づいて第3電動機M3の回転速度が決定され、エンジン8がその回転速度となるようにフィードバック制御される。一方、SA3が否定されると、内燃機関回転速度制御手段92に対応するSA6において、第1電動機M1によるエンジン回転速度制御が実施される。なお、第1電動機M1においても、車速V、自動変速部20の変速点、回転速度変化量ΔN、変速時間、変速比、電池影響度等などに基づいてエンジン8の回転速度が決定され、エンジン8がその回転速度となるように第1電動機M1によるフィードバック制御が実施される。
【0120】
上述のように、本実施例によれば、エンジン8の非自律運転時であって動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変化するとき、第3電動機M3によってエンジン8の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段92を備えるため、エンジン8の回転速度上昇や逆回転が好適に防止される。これより、エンジン8の耐久性低下が抑制されると共に、エンジン8の回転変動による振動を防止し、ドライバビリティーを向上させることができる。
【0121】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値(ΔN1、ΔN2)以上のとき、エンジン8の回転速度を制御するものである。このようにすれば、動力分配機構16の出力軸18の大幅な変化に伴って、イナーシャ変化によりエンジン8の回転変動が生じるが、内燃機関回転速度制御手段92によってその回転変動を抑制することができる。
【0122】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速中において、エンジン8の回転速度NEを所定の回転速度NE1に制御するものである。このようにすれば、自動変速部20の変速中における動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化に伴ってエンジン8が回転変動させられる可能性が生じるが、内燃機関回転速度制御手段92によってその回転変動を抑制することができる。
【0123】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定するものである。このようにすれば、車両の運転状態に応じて制御の実施が好適に判断されると共に、制御量においても車両の運転状態に応じて好適に決定され、エンジン8の回転変動およびドライバビリティーへの影響を好適に抑制することができる。
【0124】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、車両の走行状態に応じて、第3電動機M3によるエンジン8の回転速度制御から第1電動機M1によるエンジン8の回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば第3電動機M3が故障するなどしても、第1電動機M1に切り換えてエンジン8の回転速度を制御することができ、エンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0125】
また、本実施例によれば、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値ΔN2以上のときとは、駆動輪34がスリップしたときであるため、、駆動輪34のスリップによる動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度上昇に伴うエンジン8の回転速度上昇を内燃機関回転速度制御手段92によって好適に抑制することができる。
【0126】
また、本実施例によれば、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値ΔN2以上のときとは、駆動輪34がロックしたときであるため、、駆動輪34のロックによる動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度低下に伴うエンジン8の逆回転を内燃機関回転速度制御手段92によって好適に抑制することができる。
【0127】
また、本実施例によれば、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値ΔN2以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであるため、車両の急減速による動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度低下に伴うエンジン8の逆回転を内燃機関回転速度制御手段92によって好適に抑制することができる。
【0128】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン8の回転速度に基づいてエンジン8が所定の回転速度(NE1、NE)となるようにフィードバック制御を実施するものである。このようにすれば、エンジン8の回転速度NEがフィードバック制御によって好適に制御され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を抑制することができる。
【0129】
また、本実施例によれば、所定の回転速度(NE1、NE2)は学習制御されるため、例えば変速中における動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNなどに応じて好適な回転速度に逐次設定され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0130】
また、本実施例によれば、所定の回転速度(NE1、NE2)は、自動変速部20の変速比に応じて変更されるため、好適な回転速度に設定され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0131】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20のイナーシャ相中に実施するため、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変化するときのみ本制御が実施され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0132】
また、本実施例によれば、自動変速部20は有段変速されるため、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変速に伴って変化されるが、内燃機関回転速度制御手段92を実施することで、この出力軸18の回転速度変化に伴うエンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0133】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速点、車速V、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施するため、イナーシャの寄与度が小さいときは実施されない。これより、内燃機関回転速度制御手段92が効率よく実施されることとなる。
【0134】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速点、車速V、変速時間、および自動変速部20の入力軸18の回転速度変化量から電動機の制御量を決定するため、エンジン8の回転変動を効果的に抑制することができる。
【0135】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3が故障したとき、第3電動機M3による回転速度制御から第1電動機M1による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、第3電動機M3が故障した場合であっても第1電動機M1による制御が可能となり、エンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0136】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、蓄電装置56の状態に応じて、第3電動機M3による回転速度制御から第1電動機M1による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば蓄電装置56の充電容量SOCが少ない場合であっても、第1電動機M1に切り換えることで、第1電動機M1の回生制御によるエンジン8の回転速度制御が可能となり、エンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0137】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0138】
例えば、前述の実施例では、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3を駆動させることによってエンジン回転速度NEが制御されているが、第3電動機M3を零回転にロックすることにより、エンジン回転速度NEを零回転にロック制御しても構わない。このようにしても、エンジン回転速度NEが零回転となるように制御され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0139】
また、前述の実施例では、図8の変速線図に示すように、モータ走行領域における自動変速部20の変速は、第1速ギヤ段および第2速ギヤ段間の変速に限定されているが、必ずしもこの前記変速に限定されず、モータ走行領域を拡大することで、例えば第2速ギヤ段および第3速ギヤ段間での変速においても本制御を適用することができる。なお、これより、変速される変速段に応じて所定値V1等を適宜変更することができる。
【0140】
また、前述の実施例では、差動部11はそのギヤ比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、たとえば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであっても本発明は適用することができる。
【0141】
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
【0142】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0143】
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0144】
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、たとえばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0145】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0146】
また、前述の実施例では、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0147】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、たとえばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0148】
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、その遊星歯車装置はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。また、このような2以上の遊星歯車装置から構成された場合においても、これらの遊星歯車装置の各回転要素にエンジン8、第1、第2、第3電動機M1、M2、M3、伝達部材18が動力伝達可能に連結され、さらに遊星歯車装置の各回転要素に接続されたクラッチCおよびブレーキBの制御により有段変速と無段変速とが切り換えられるような構成であっても構わない。
【0149】
また、前述の実施例ではエンジン8と差動部11とが直接連結されているが、必ずしも直接連結される必要はなく、エンジン8と差動部11との間にクラッチを介して連結されていてもよい。
【0150】
また、前述の実施例では、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、変速機構10全体として電気式差動を行う機能と、変速機構10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で変速を行う機能と、を備えた構成であれば本発明は適用可能であり、機械的に独立している必要はない。また、これらの配設位置や配設順序も特に限定されず、自由に配設することができる。また、変速機構において、電気式差動を行う機能と変速を行う機能とを有するものであれば、その構成が一部重複する、或いは全てが共通するものであっても、本発明を適用することができる。
【0151】
また、前述の実施例では、自動変速部20は4段の変速を可能とする有段変速機が適用されているが、自動変速部20の変速段は4段に限定されず例えば5段変速など自由に変更することができる。また、自動変速部20の連結関係は、特に本実施例に限定されるものではなく、自由に変更することができる。
【0152】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の駆動装置の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合要素の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の駆動装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】油圧制御装置のうちクラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブに関する回路図である。
【図6】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図7】図4の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】動力伝達装置の変速制御において用いられる変速マップの一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える駆動力源切換制御において用いられる駆動力源マップの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図9】破線はエンジンの最適燃費率曲線であって燃費マップの一例である。
【図10】電子制御装置の制御作動の要部すなわちエンジン停止時において、動力分配機構の出力軸の回転速度が急激に変化させられる際にエンジンの回転変動を抑制する制御作動を説明するタイムチャートである。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわちエンジン停止時において、動力分配機構の出力軸の回転速度が急激に変化させられる際にエンジンの回転変動を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0154】
8:エンジン(内燃機関)
10:変速機構(車両用動力伝達装置)
11:差動部(電気式差動部)
14:入力軸(差動機構の入力軸)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(差動機構の出力軸、変速部の入力軸)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪
92:内燃機関回転速度制御手段
M1:第1電動機(差動電動機)
M3:第3電動機(内燃機関連結電動機)
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置に係り、特に、内燃機関停止時における内燃機関の回転変動防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置が知られている。このような車両用駆動装置では、差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、差動機構の差動作用により内燃機関からの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、その内燃機関からの残部を差動電動機から第2電動機への電気的パスを用いて電気的に伝達することにより電気的に差動状態が制御される、すなわち電気式差動部の変速比が適宜変更される。これにより、内燃機関を最適な回転状態に維持しつつ車両を走行させるように制御され、燃費を向上させることができる。また、特許文献1の動力出力装置(本明細書では動力伝達装置)では、内燃機関に第3の回転電機(本明細書では内燃機関連結電動機)が連結された構成となっている。そして、第1の回転電機(差動電動機)と、第2の回転電機と、第3の回転電機(内燃機関連結電動機)との間で電力のやりとり可能に接続されることで装置全体のエネルギ効率を向上させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−336983号公報
【特許文献2】特開2006−321392号公報
【特許文献3】特開平10−42403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように構成される車両用動力伝達装置において、例えば低車速領域では、内燃機関を停止(燃料カット)させて電動機のみによる走行が可能となる。これより、電動機のみによるモータ走行中、内燃機関は自身の引き摺り(静止摩擦抵抗)により零回転に維持される。しかし、例えば差動機構の出力軸に有段ないしは無段の変速部を有するものにおいて、変速部がアップシフトされる場合など、変速部の入力軸の回転速度が急激に低下すると、それにともない差動機構の出力軸の回転速度も同様に低下されて、そのイナーシャの影響により内燃機関が負回転領域に入る可能性がある。また、変速部の入力軸の回転速度が急激に増加すると、内燃機関の回転速度が上昇し、車両のドライバビリティーに影響が生じる可能性があった。このことは、未公知の課題であったため、例えば特許文献1においても何ら記載されていない。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備えた車両用動力伝達装置において、内燃機関停止時における内燃機関の回転変動を防止することで内燃機関の耐久性低下を防止すると共に、車両のドライバビリティーへの影響を防止することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備え、前記内燃機関の出力を駆動輪に伝達する車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)前記差動機構の所定の回転要素に動力伝達可能に連結された差動電動機と、前記内燃機関に動力伝達可能に連結された内燃機関連結電動機とを備え、(c)前記内燃機関の非自律運転時であって前記差動機構の出力軸の回転速度が変化するとき、前記内燃機関連結電動機によって前記内燃機関の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のとき、前記内燃機関の回転速度を制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速中において、前記内燃機関の回転速度を所定の回転速度に制御することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の走行状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による前記内燃機関の回転速度制御から前記差動電動機による前記内燃機関の回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がスリップしたときであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がロックしたときであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項9にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記内燃機関が前記所定の回転速度となるようにフィードバック制御を実施することを特徴とする。
【0015】
また、請求項10にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定の回転速度は学習制御されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項11にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定の回転速度は、前記変速部の変速比に応じて変更されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項12にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部のイナーシャ相中に実施することを特徴とする。
【0018】
また、請求項13にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記変速部は有段変速されることを特徴とする。
【0019】
また、請求項14にかかる発明の要旨とするところは、請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記所定の回転速度は、前記内燃機関連結電動機のロック制御による零回転であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項15にかかる発明の要旨とするところは、請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施することを特徴とする。
【0021】
また、請求項16にかかる発明の要旨とするところは、請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間、および前記変速部の入力軸の回転速度変化量から前記内燃機関連結電動機の制御量を決定することを特徴とする。
【0022】
また、請求項17にかかる発明の要旨とするところは、請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関連結電動機が故障したとき、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする。
【0023】
また、請求項18にかかる発明の要旨とするところは、請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記内燃機関回転速度制御手段は、蓄電装置の状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関の非自律運転時であって前記差動機構の出力軸の回転速度が変化するとき、前記内燃機関連結電動機によって前記内燃機関の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段を備えるため、前記内燃機関の回転速度上昇や逆回転が好適に防止される。これより、内燃機関の耐久性低下が抑制されると共に、内燃機関の回転変動による振動を防止し、ドライバビリティーを向上させることができる。
【0025】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のとき、前記内燃機関の回転速度を制御するものである。このようにすれば、差動機構の出力軸の急激な変化もしくは大幅な変化に伴って、イナーシャ変化により内燃機関の回転変動が生じるが、内燃機関回転速度制御手段によってその回転変動を抑制することができる。
【0026】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速中において、前記内燃機関の回転速度を所定の回転速度に制御するものである。このようにすれば、変速部の変速中における差動機構の出力軸の回転速度変化に伴って内燃機関が回転変動させられる可能性が生じるが、内燃機関回転速度制御手段によってその回転変動を抑制することができる。
【0027】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定するものである。このようにすれば、車両の運転状態に応じて制御の実施が好適に判断されると共に、制御量においても車両の運転状態に応じて好適に決定され、内燃機関の回転変動およびドライバビリティーへの影響を好適に抑制することができる。
【0028】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の走行状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による前記内燃機関の回転速度制御から前記差動電動機による前記内燃機関の回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば内燃機関連結電動機が故障するなどしても、差動電動機に切り換えて内燃機関の回転速度を制御することができ、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【0029】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がスリップしたときであるものとする。このようにすれば、駆動輪のスリップによる差動機構の出力軸の急激な回転速度上昇に伴う内燃機関の回転速度上昇を内燃機関回転速度制御手段によって好適に抑制することができる。
【0030】
また、請求項7にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がロックしたときであるものとする。このようにすれば、駆動輪のロックによる差動機構の出力軸の急激な回転速度低下に伴う内燃機関の逆回転を内燃機関回転速度制御手段によって好適に抑制することができる。
【0031】
また、請求項8にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであるものとする。このようにすれば、車両の急減速による差動機構の出力軸の急激な回転速度低下に伴う内燃機関の逆回転を内燃機関回転速度制御手段によって好適に抑制することができる。
【0032】
また、請求項9にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記内燃機関が前記所定の回転速度となるようにフィードバック制御を実施するものである。このようにすれば、内燃機関の回転速度がフィードバック制御によって好適に制御され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を抑制することができる。
【0033】
また、請求項10にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の回転速度は学習制御されるため、例えば変速中における差動機構の出力軸の回転速度変化量などに応じて好適な回転速度に逐次設定され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0034】
また、請求項11にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の回転速度は、前記変速部の変速比に応じて変更されるため、好適な回転速度に設定され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0035】
また、請求項12にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部のイナーシャ相中に実施するため、差動機構の出力軸の回転速度が変化するときのみ本制御が実施され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、請求項13にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速部は有段変速されるため、差動機構の出力軸の回転速度が変速に伴って変化されるが、内燃機関回転速度制御手段を実施することで、この出力軸の回転速度変化に伴う内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【0037】
また、請求項14にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の回転速度は、前記内燃機関連結電動機のロック制御による零回転であるため、内燃機関の回転速度が零回転となるように制御され、内燃機関の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、請求項15にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施するため、イナーシャの寄与度が小さいときは実施されない。これより、内燃機関回転速度制御手段が効率よく実施されることとなる。
【0039】
また、請求項16にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間、および前記変速部の入力軸の回転速度変化量から前記内燃機関連結電動機の制御量を決定するため、内燃機関の回転変動を効果的に抑制することができる。
【0040】
また、請求項17にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関連結電動機が故障したとき、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、内燃機関連結電動機が故障した場合であっても差動電動機による制御が可能となり、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【0041】
また、請求項18にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関回転速度制御手段は、蓄電装置の状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば蓄電装置の充電容量が少ない場合であっても、差動電動機に切り換えることで、差動電動機の回生制御による内燃機関の回転速度制御が可能となり、内燃機関の回転変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0043】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14(差動機構の入力軸)に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20(変速部)と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの出力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。なお、本実施例のエンジン8が本発明の内燃機関に対応しており、変速機構10が車両用動力伝達装置に対応しており、差動部11が電気式差動部に対応している。
【0044】
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0045】
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。さらに、入力軸14すなわちエンジン8と一体的に回転するように第3電動機M3が連結されている。本実施例の第1電動機M1、第2電動機M2、および第3電動機M3は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2、第3電動機M3は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。なお、本実施例の第1電動機M1が本発明の差動電動機に対応しており、第3電動機M3が本発明の内燃機関連結電動機に対応している。
【0046】
差動機構として機能する動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24を主体として構成されている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0047】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1、第2電動機M2、第3電動機M3、およびエンジン8の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の入力軸14の回転速度と出力軸(伝達部材18)の回転速度の差動状態が制御される無段変速機構として作動させられる。
【0048】
変速部として機能する自動変速部20は、差動部11と駆動輪34との動力伝達経路の一部を構成する有段式の自動変速機である。自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0049】
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0050】
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0051】
また、この有段変速可能な自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0052】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0053】
以上のように構成された変速機構10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0054】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、変速機構10において無段変速機が構成される。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0055】
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0056】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、変速機構10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0057】
例えば、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する変速機構10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、自動変速部20の第4速ギヤ段において差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0058】
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0059】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0060】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0061】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転速度すなわち第1電動機M1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
【0062】
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で第1リングギヤR1の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって第1サンギヤS1の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0063】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0064】
自動変速部20では、差動部11において出力回転部材である伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0065】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2、第3電動機M1、M2、M3に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0066】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションSPや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度(以下、出力軸回転速度)NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)、および第3電動機M3の回転速度NM3(以下、第3電動機回転速度NM3という)を表す信号、蓄電装置56(図7参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0067】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2、およびM3の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図5、図7参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0068】
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。
【0069】
図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しない電動オイルポンプやエンジン8により回転駆動される機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧として例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度或いはスロットル開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0070】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。
【0071】
図6は複数種類のシフトポジションSPを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションSPを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0072】
そのシフトレバー52は、変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0073】
上記シフトレバー52の各シフトポジションSPへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0074】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションSPにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0075】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0076】
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0077】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブSLを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0078】
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0079】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶された図9の破線に示すようなエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。
【0080】
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0081】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御させられる。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0082】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0083】
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
【0084】
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0085】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。
【0086】
前記図8の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図8に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に予め記憶されている。
【0087】
そして、ハイブリッド制御手段84は、例えば図8の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段84によるモータ走行は、図8から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクTE時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0088】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機M1の回転速度NM1および/または第2電動機M2の回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機M2の回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機M1の回転速度NM1の引き上げを実行する。また、第3電動機M3によって、直接的にエンジン回転速度NEを任意の回転速度に維持することもできる。
【0089】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。
【0090】
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0091】
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電容量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0092】
ところで、本実施例のように差動部11を備えた変速機構11において、上述したように、エンジン8を停止させた状態(エンジン非自律運転時)では、第2電動機M2によるモータ走行が実施される。このとき、エンジン8の引き摺り(回転変動)を抑制するため、第1電動機M1を空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度NEを零乃至零に維持させている。すなわち、エンジン8は、エンジン8自身の静止摩擦抵抗によって零乃至略零回転に維持される。しかし、例えば自動変速部20が短時間でアップシフトされるなどすると、自動変速部20の入力軸の回転速度が急激に引き下げられるに伴い、その入力軸に連結された動力分配機構16の出力軸の回転速度が急激に引き下げられる。そして、この急激な回転速度変化に対して、第1電動機M1のイナーシャが比較的大きいものであると、空転状態の第1電動機M1の回転速度変化(イナーシャ変化)が速やかに行われなくなり、差動部11の差動作用によってエンジン8が負回転領域に入る可能性がある。このようにエンジン8が負回転領域に入ると、走行中のドライバビリティーに影響が生じる可能性があった。同様に、動力分配機構16の出力軸が急激に引き上げられる場合であっても、差動部11の差動作用により、エンジン8の回転速度が上昇し、ドライバビリティーに影響が生じる可能性があった。
【0093】
そこで、本実施例では、エンジン8の非自律運転時(エンジン8のフューエルカット時)において、エンジン8を零乃至略零回転に維持する制御を実施することで、エンジン8の回転変動を抑制する。以下、本発明の要部である上記制御について説明する。なお、動力分配機構16の出力軸および自動変速部20の入力軸は、伝達部材18を介して連結されていることから、それぞれ動力分配機構16の出力軸18および自動変速部20の入力軸18と、伝達部材18と同様の添え字を付すこととする。そして、本実施例の動力分配機構16の出力軸18が本発明の差動機構の出力軸に対応しており、自動変速部20の入力軸18が変速部の入力軸に対応している。
【0094】
図7に戻り、変速判定手段86は、自動変速部20が変速中であるか否かを判定する。変速判定手段86は、例えば有段変速制御手段82から出力される自動変速部20の変速指令に基づいて、自動変速部20が変速中であるか否かを判定する。
【0095】
車速判定手段88は、変速判定手段86によって自動変速部20が変速中であると判定されたときに実施される。車速判定手段88は、自動変速部20の出力軸22の回転速度を検出する出力軸回転速度センサ79から出力される信号に基づいて車速Vを算出し、その車速Vが予め設定される所定値V1以上か否かを判定する。ここで、前記所定値V1は、例えば、自動変速部20が変速される際の入力軸18の回転速度変化量、すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値ΔN1となる値に設定される。なお、回転速度変化量ΔNは、予め算出することが可能であり現在の出力軸回転速度NOUT、変速前の変速比、および変速後の変速比に応じて算出される(回転速度変化量ΔN=現在の出力軸回転速度NOUT×(変速後の変速比−変速前の変速比))。
【0096】
ここで、自動変速部20の変速による動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが小さい場合、エンジン8は自身の静止摩擦抵抗よって停止することができる。一方、回転速度変化量ΔNが大きくなると、第1電動機M1のイナーシャの影響により、エンジン8が回転させられる可能性が生じる。そこで、所定値ΔN1は、エンジン8自身の静止摩擦抵抗によって、エンジン8が回転されない程度の値に設定される。すなわち、車速Vの所定値V1は、前記回転速度変化量ΔNが所定値ΔN1となる速度に設定される。
【0097】
ここで、車速Vの所定値V1は、変速される自動変速部20の変速比(変速段)に応じて変更されるものであっても構わない。すなわち、回転速度変化量ΔNは、同じ車速Vであっても自動変速部20の変速される変速比に応じて変化するものであるため、所定値V1も変速比に応じて変更されるものが好ましい。
【0098】
さらに、車速Vの所定値V1は、変速中の変速時間に応じて変更されるものであっても構わない。変速時間が短い場合、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に変化するので、エンジン8が回転させられ易くなる。そこで、変速時間が短くなるに従い、変速中の回転速度変化量ΔNが小さくなるように、車速Vの所定値V1を小さく設定する。
【0099】
さらに、車速Vの所定値V1は、エンジン8の作動油の油温に応じて変更しても構わない。作動油の油温が低くなると、作動油の粘度が高くなるので、その摩擦によりエンジン8が回転し難くなる。そこで、作動油の油温が低下するに従い、例えば所定値V1を高く設定する。
【0100】
そして、車速判定手段88が肯定される、すなわち車速Vが所定値V1以上と判定されると、後述する内燃機関回転速度制御手段92が実行される。一方、車速判定手段88が否定されると、本制御なしでもエンジン8は自身の静止摩擦抵抗によって回転が抑制されるものと判断される。
【0101】
ここで、後述する内燃機関回転速度制御手段92は、前記車速Vによる判定の他、車両の運転状態に応じて上記制御の実施を判定することができる。例えば、自動変速部20が変速される変速点(図8の変速線において、アップシフト線およびダウンシフト線)、変速に必要とされる変速時間等から推定される自動変速部20のイナーシャ変化の寄与度が大きいか否かで内燃機関回転速度制御手段92を実施するか否かを判定しても構わない。自動変速部20のイナーシャ変化が大きくなると、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化も大きくなるので、そのイナーシャの寄与度が大きくなり、エンジン回転速度NEが変動させられる可能性が大きくなる。そこで、このイナーシャ寄与度に応じて内燃機関回転速度制御手段92の実施を判断することができる。例えば、変速時間が短くなるに従い、イナーシャ変化の勾配が大きくなり、イナーシャの寄与度が大きくなる。これより、例えば変速時間が短くなると、内燃機関回転速度制御手段92を実施させる。同様に、変速点においても、例えば高車速や高トルク領域などでの変速点では、変速に伴いイナーシャ変化が大きくなり易いので、このような領域において、内燃機関回転速度制御手段92を実施させる。また、蓄電装置56の充電容量SOCの状態(電池影響度)に基づいて、内燃機関回転速度制御手段92を実施するか否かを判定しても構わない。例えば、充電容量SOCが予め設定された制御可能な下限値を下回ったとき、本制御を実施させない。
【0102】
第2電動機回転変化量判定手段90は、変速判定手段86によって自動変速部20が変速されないと判定されたときに実施される。第2電動機回転変化量判定手段90は、所定時間における第2電動機M2の回転速度変化量すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが予め設定されている所定値ΔN2以下か否かを判定する。ここで、所定値ΔN2は、予め実験的並びに理論的に求められ、例えば動力分配機構16の出力軸18が所定時間内に所定値ΔN2だけ回転変化されても、エンジン8が自身の静止摩擦抵抗によって回転されない範囲の上限値に設定される。なお、第2電動機回転変化量判定手段90は、上記回転速度変化量ΔNによる判定だけでなく、さらに、動力分配機構16の出力軸18の回転変化速度すなわち回転速度変化量ΔNの勾配に基づく判定手段であっても構わない。
【0103】
ここで、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが大きくなって所定値ΔN2以上となる一例として、例えば駆動輪34がスリップした場合がある。車両が例えば低μ路(低摩擦路)を走行中に駆動輪34がスリップすると、駆動輪34の回転速度が急激に上昇する。これに伴い、動力分配機構16の出力軸18も急激に上昇することとなり、差動部11の差動作用によってエンジン8の回転速度が上昇させられる可能性が生じる。また、他の例として、例えば駆動輪34がロックした場合がある。駆動輪34が何らかの原因で急激にロックされると、駆動輪34の回転速度が急激に低下される。これに伴い、動力分配機構16の出力軸18も同様に急激に低下させられ、差動部11の差動作用によってエンジン8が逆回転させられる可能性が生じる。さらに、他の例として、車両が急ブレーキなどにより急減速させられた場合がある。車両が急減速させられると、駆動輪34の回転速度が急激に低下される。これに伴い、動力分配機構16の出力軸18も同様に急激に低下させられ、差動部11の差動作用によってエンジン8が逆回転させられる可能性が生じる。このようなとき、短時間の間に回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2を越えると判定される。なお、所定値ΔN2は、上記のような各走行条件に応じて変更されるものであっても構わない。
【0104】
そして、上記のように動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上のとき、もしくは自動変速部20の変速中であって車速Vが所定値V1以上であるとき、内燃機関回転速度制御手段92が実施される。内燃機関回転速度制御手段92は、その制御の実施に際し、第3電動機作動状態判定手段94および電動機切換手段96を実施させることによって、車両の走行状態に応じて使用される電動機を第1電動機M1および第3電動機M3の何れかに切り換える。
【0105】
第3電動機作動状態判定手段94は、例えば第3電動機M3の出力信号などに基づいて第3電動機M3が故障してないか否かを判定するものである。また、電動機切換制御手段96は、車両の走行状態に応じて本制御に使用される電動機を切り換える。具体的には、例えば前記第3電動機作動状態判定手段94によって第3電動機M3が故障したものと判定された場合、本制御が第3電動機M3による制御から第1電動機M1による制御に切り換えられる。すなわち、内燃機関回転速度制御手段92が第1電動機M1によって実施される。一方、第3電動機M3が正常と判定されると、本制御が第3電動機M3による制御に切り換えられる。
【0106】
さらに、電動機切換制御手段96は、蓄電装置56の充電容量SOCに応じて使用される電動機を切り換えることもできる。具体的には、例えば充電状態SOCが少なくなると、放電を伴う第3電動機M3の駆動が困難となる。そこで、電動機切換手段96は、内燃機関回転速度制御手段92による制御を第3電動機による回転速度制御から第1電動機M1による回転速度制御に切り換える。このようにすることで、通常では第3電動機M3の駆動による回転速度制御すなわち放電を伴う制御から第1電動機M1の回生を伴う回転速度制御に切り換えられ、蓄電装置56の充電容量SOCの低下が防止される。
【0107】
そして、電動機切換手段96によって使用される好適な電動機に切り換えられると、内燃機関回転速度制御手段92が実施される。内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1または第3電動機M3によってエンジン回転速度NEを好適に制御することで、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を防止する。以下、車両の各状態に応じた内燃機関回転速度制御手段92の制御方法について説明する。
【0108】
先ず、自動変速部20の変速中において、車速Vが所定値V1以上となった場合について説明する。車両の走行状態が上記状態となると、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE1に制御する。すなわち、第3電動機M3(または第1電動機M1)に供給される駆動電流(制御量)を制御することで、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE1に制御する。ここで、所定の回転速度NE1は、予め実験もしくは計算等に基づいて設定され、走行中においてエンジン8の逆回転が防止されると共に、運転性が低下しない程度の回転速度(例えば零〜20rpm程度)に設定される。なお、この所定の回転速度NE1は、自動変速部20の変速される変速比に応じて変更されることが好ましい。具体的には、自動変速部20が変速される際、自動変速部20の変速比に応じて変速中の自動変速部20の入力軸18すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが変化する。そこで、例えば自動変速部20のアップシフト時において、回転速度変化量ΔNが大きくなる変速では、例えば所定の回転速度NE1を大きく設定する。これより、動力分配機構16の出力軸18が大幅に回転低下されるのに対して、所定の回転速度NE1が大きく設定されることで、変速時におけるエンジン回転速度低下が抑制されてエンジン8の逆回転が抑制される。また、例えば自動変速部20のダウンシフト時において、回転速度変化量ΔNが大きくなる変速では、所定の回転速度NE1を小さく設定する。これより、動力分配機構16の出力軸18が大幅に回転上昇されるのに対して、所定の回転速度NE1が小さく設定されることで、変速時におけるエンジン回転速度上昇が抑制される。
【0109】
また、所定の回転速度NE1は、自動変速部20の変速比の他、自動変速部20の変速点(図8に示す変速線図のアップシフト線およびダウンシフト線の位置)、変速に要する変速時間、回転速度変化量ΔN、および蓄電装置56の充電容量SOCに基づく電池影響度などの車両の走行状態に応じて変更しても構わない。例えば、変速時間においては、変速時間が短くなるに従い、動力分配機構16の出力軸18の変化方向に対して、その変化方向を打ち消す方向に所定の回転速度NE1を大きく変化する。具体的に説明すると、自動変速部20のアップシフト時においては、変速時間が短くなるに従い、所定の回転速度NE1を大きく設定する。これにより、動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度低下(イナーシャ変化)に対して、所定の回転速度NE1が大きくされることで、エンジン8の逆回転が効果的に抑制される。また、自動変速部20のダウンシフト時においては、変速時間が短くなるに従い、所定の回転速度NE1を小さく設定する。これにより、動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度上昇(イナーシャ変化)に対して、所定の回転速度NE1が小さく設定されることで、エンジン8の回転速度上昇が効果的に抑制される。
【0110】
また、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速中、具体的には、自動変速部20の回転速度変化が生じるイナーシャ相中に実施される。言い換えれば、動力分配機構16の出力軸18が変化する、すなわちエンジン8の回転速度変動が生じ易い状態に限って制御が実施される。また、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン8の回転速度NEを逐次検出し、その回転速度NEと所定の回転速度NE1との回転速度差に基づいて、電動機に供給される駆動電流のフィードバック制御を実施する。なお、フィードバック制御は、一定値である所定の回転速度NE1の他、所定の回転速度NE1以下に制御するものであっても構わない。さらに、所定の回転速度NE1は、例えば、前回の変速時におけるエンジン8の回転速度NEの最大値および最小値を記憶しておき、それら最大値および最小値に基づいて、次回の変速における新たな所定の回転速度NE1を算出する学習制御を実施することもできる。
【0111】
次に、自動変速部20が変速されない状態において、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上となったときについて説明する。上述したように、例えば、駆動輪34がロックしたとき、駆動輪34がスリップしたとき、或いは車両が急減速されたとき、回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上となり、内燃機関回転速度制御手段92が実施される。
【0112】
内燃機関回転速度制御手段92は、回転速度変化量ΔNが所定値ΔN2以上となったとき、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE2に制御する。すなわち、第3電動機M3(または第1電動機M1)に供給される駆動電流(制御量)を制御することで、エンジン回転速度NEを所定の回転速度NE2に制御する。ここで、所定の回転速度NE2は、所定の回転速度NE1と同様、予め実験もしくは計算等に基づいて設定され、走行中においてエンジン8の逆回転が防止されると共に、運転性が低下しない程度の回転速度(例えば零〜20rpm程度)に設定される。なお、所定の回転速度NE2は、一定値の他、例えば車速Vに応じて変更されるものであっても構わない。例えば車速Vが高いとき、駆動輪34がロックもしくは急減速されると、自動変速部20の入力軸18およびその入力軸18に連結された動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に低下されて回転速度変化量ΔNが大きくなる。そこで、このようなとき、所定の回転速度NE2を大きくすることで、エンジン8の逆回転が好適に抑制されることとなる。
【0113】
また、自動変速部20の変速時と同様に、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン8の回転速度NEを逐次検出し、その回転速度NEと所定の回転速度NE2との回転速度差に基づいて、電動機に供給される駆動電流のフィードバック制御を実施する。なお、フィードバック制御は、一定値である所定の回転速度NE2の他、所定の回転速度NE2以下に制御するものであっても構わない。さらに、所定の回転速度NE2は、例えば、前回の駆動輪34のロック時、駆動輪34の急減速時など回転速度変化量ΔNが所定の回転速度NE2以上となったときに前回検出されたエンジン回転速度NEの最大値および最小値を記憶しておき、それら最大値および最小値に基づいて、次回の回転速度変化量ΔNが所定の回転速度ΔN2以上となったときの新たな所定回転速度NE2を算出する学習制御を実施することもできる。
【0114】
ここで、自動変速部20の変速、非変速に拘わらず、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3が正常もしくは蓄電装置56の充電容量SOCが制御可能範囲にあるとき、上記制御を第3電動機M3によって実施される。第3電動機M3はエンジン8に直接的に連結されているため、第1電動機M1によるエンジン回転速度制御よりも精度良く、且つ、迅速にエンジン回転速度制御が可能となる。これより、本制御においては、通常、第3電動機M3による制御が好適な制御となる。ところが、第3電動機M3が故障する、もしくは蓄電装置56の充電容量SOCが制御可能下限範囲を下回ると、電動機切換手段96によって、内燃機関回転速度制御手段92の制御が第1電動機M1によるエンジン8の回転速度制御に切り換えられることとなる。そして、本発明の差動機構の所定の回転要素に対応する第1遊星歯車装置24のサンギヤS1に連結された第1電動機M1の回転速度を制御することにより、エンジン回転速度NEが制御される。例えば、エンジン回転速度NEを引き上げる場合、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機M1回転速度NM1の引き上げを実行する。一方、エンジン回転速度NEを引き下げる場合、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き下げを実行する。これより、内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1を制御することにより、エンジン回転速度NEが所定の回転速度(NE1、NE2)となるように回転速度制御を実施する。
【0115】
ここで、自動変速部20がアップシフトされる、或いは駆動輪34がロックされるなどすると、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に引き下げられるが、このとき、内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1に制動トルク(回生トルク)を付与することで、第1電動機M1の回転速度NM1を制御する。すなわち、エンジン非自立運転時時においては、第1電動機M1は逆転されているが、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNが所定値(ΔN1、ΔN2)以上となると、第1電動機M1に制動トルクを付与することで、その回転が速やかに零回転方向(回転停止方向)に引き上げられ、エンジン8の逆転が防止される。また、回生トルクが付与されるに伴い、第1電動機M1によって発電され、その電力が蓄電装置56に供給される。これより、蓄電装置56の充電容量SOCが制御可能な下限値を下回った場合、電動機切換手段96は、使用される電動機を第3電動機M3から第1電動機M1に切り換える。そして、内燃機関回転速度制御手段92は、第1電動機M1によるエンジン回転速度NEを実施することで、自動変速部20のアップシフト時や動力分配機構16の出力軸18の減速時において、第1電動機M1による発電が可能となり、蓄電装置56の充電容量SOCの低下が抑制される。
【0116】
図10は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちエンジン非自律運転時時において、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に変化させられる際にエンジン8の回転変動を抑制する制御作動を説明するタイムチャートである。なお、本タイムチャートは、一例としてエンジン非自律運転中における自動変速部20のアップシフト変速時の制御の状態を示し、第3電動機M3によって実施されるものとする。t1時点において、変速判定手段86によって自動変速部20のアップシフトの実施が判定されると、t2時点において、有段変速制御手段82によって自動変速部20のアップシフトが開始される。これより、自動変速部20の解放圧が低下され、解放側の摩擦係合要素が解放され始める。そして、t3時点において、自動変速部20のイナーシャ相が開始されると、自動変速部20の入力軸18の回転速度低下が始まり、それに伴って第1電動機M1の第1電動機回転速度NM1の回転速度上昇が始まることとなる。これと同時に、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3に正回転方向のトルクを付与することで、第3電動機M3の回転速度NM3のフィードバック制御が開始され、その回転速度NM3が略零回転乃至数回転程度に制御される。これに伴い、エンジン回転速度NEが略零回転程度に制御され、エンジン8の逆回転が抑制されることとなる。そして、t4時点において、自動変速部20のイナーシャ相が終了すると、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3によるエンジン8の回転速度制御を速やかに終了する。
【0117】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちエンジン非自律運転時において、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が急激に変化させられる際にエンジン8の回転変動を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0118】
先ず、変速判定手段86に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する)において、自動変速部20が変速中であるか否かが判定される。SA1が肯定されると、車速判定手段88に対応するSA2において、車両の車速Vが所定値V1以上か否かが判定される。SA2が否定されると、エンジン8は自身の静止摩擦抵抗によって回転停止することが可能と判定され、本ルーチンは終了させられる。
【0119】
SA1に戻り、SA1が否定されると、第2電動機回転変化量判定手段90に対応するSA5において、第2電動機M2の回転変化量すなわち動力分配機構16の出力軸18の回転変化量ΔNが所定値ΔN2以下か否かが判定される。SA5が肯定されると、エンジン8は自身の静止摩擦抵抗によって回転停止することが可能と判定され、本ルーチンは終了させられる。一方、SA2が肯定される、もしくはSA5が否定されると、第3電動機作動状態判定手段94に対応するSA3において、第3電動機M3が正常に作動するか否かが判定される。SA3が肯定されると、内燃機関回転速度制御手段92に対応するSA4において、車速V、自動変速部20の変速点、回転速度変化量ΔN、変速時間、変速比、或いは
蓄電装置56の充電容量SOCに対応する電池影響度等に基づいて第3電動機M3の回転速度が決定され、エンジン8がその回転速度となるようにフィードバック制御される。一方、SA3が否定されると、内燃機関回転速度制御手段92に対応するSA6において、第1電動機M1によるエンジン回転速度制御が実施される。なお、第1電動機M1においても、車速V、自動変速部20の変速点、回転速度変化量ΔN、変速時間、変速比、電池影響度等などに基づいてエンジン8の回転速度が決定され、エンジン8がその回転速度となるように第1電動機M1によるフィードバック制御が実施される。
【0120】
上述のように、本実施例によれば、エンジン8の非自律運転時であって動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変化するとき、第3電動機M3によってエンジン8の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段92を備えるため、エンジン8の回転速度上昇や逆回転が好適に防止される。これより、エンジン8の耐久性低下が抑制されると共に、エンジン8の回転変動による振動を防止し、ドライバビリティーを向上させることができる。
【0121】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値(ΔN1、ΔN2)以上のとき、エンジン8の回転速度を制御するものである。このようにすれば、動力分配機構16の出力軸18の大幅な変化に伴って、イナーシャ変化によりエンジン8の回転変動が生じるが、内燃機関回転速度制御手段92によってその回転変動を抑制することができる。
【0122】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速中において、エンジン8の回転速度NEを所定の回転速度NE1に制御するものである。このようにすれば、自動変速部20の変速中における動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化に伴ってエンジン8が回転変動させられる可能性が生じるが、内燃機関回転速度制御手段92によってその回転変動を抑制することができる。
【0123】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定するものである。このようにすれば、車両の運転状態に応じて制御の実施が好適に判断されると共に、制御量においても車両の運転状態に応じて好適に決定され、エンジン8の回転変動およびドライバビリティーへの影響を好適に抑制することができる。
【0124】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、車両の走行状態に応じて、第3電動機M3によるエンジン8の回転速度制御から第1電動機M1によるエンジン8の回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば第3電動機M3が故障するなどしても、第1電動機M1に切り換えてエンジン8の回転速度を制御することができ、エンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0125】
また、本実施例によれば、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値ΔN2以上のときとは、駆動輪34がスリップしたときであるため、、駆動輪34のスリップによる動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度上昇に伴うエンジン8の回転速度上昇を内燃機関回転速度制御手段92によって好適に抑制することができる。
【0126】
また、本実施例によれば、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値ΔN2以上のときとは、駆動輪34がロックしたときであるため、、駆動輪34のロックによる動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度低下に伴うエンジン8の逆回転を内燃機関回転速度制御手段92によって好適に抑制することができる。
【0127】
また、本実施例によれば、動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔN(或いは回転変化速度)が所定値ΔN2以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであるため、車両の急減速による動力分配機構16の出力軸18の急激な回転速度低下に伴うエンジン8の逆回転を内燃機関回転速度制御手段92によって好適に抑制することができる。
【0128】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、エンジン8の回転速度に基づいてエンジン8が所定の回転速度(NE1、NE)となるようにフィードバック制御を実施するものである。このようにすれば、エンジン8の回転速度NEがフィードバック制御によって好適に制御され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を抑制することができる。
【0129】
また、本実施例によれば、所定の回転速度(NE1、NE2)は学習制御されるため、例えば変速中における動力分配機構16の出力軸18の回転速度変化量ΔNなどに応じて好適な回転速度に逐次設定され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0130】
また、本実施例によれば、所定の回転速度(NE1、NE2)は、自動変速部20の変速比に応じて変更されるため、好適な回転速度に設定され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0131】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20のイナーシャ相中に実施するため、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変化するときのみ本制御が実施され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0132】
また、本実施例によれば、自動変速部20は有段変速されるため、動力分配機構16の出力軸18の回転速度が変速に伴って変化されるが、内燃機関回転速度制御手段92を実施することで、この出力軸18の回転速度変化に伴うエンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0133】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速点、車速V、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施するため、イナーシャの寄与度が小さいときは実施されない。これより、内燃機関回転速度制御手段92が効率よく実施されることとなる。
【0134】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、自動変速部20の変速点、車速V、変速時間、および自動変速部20の入力軸18の回転速度変化量から電動機の制御量を決定するため、エンジン8の回転変動を効果的に抑制することができる。
【0135】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3が故障したとき、第3電動機M3による回転速度制御から第1電動機M1による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、第3電動機M3が故障した場合であっても第1電動機M1による制御が可能となり、エンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0136】
また、本実施例によれば、内燃機関回転速度制御手段92は、蓄電装置56の状態に応じて、第3電動機M3による回転速度制御から第1電動機M1による回転速度制御に切り換えて実施するものである。このようにすれば、例えば蓄電装置56の充電容量SOCが少ない場合であっても、第1電動機M1に切り換えることで、第1電動機M1の回生制御によるエンジン8の回転速度制御が可能となり、エンジン8の回転変動を抑制することができる。
【0137】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0138】
例えば、前述の実施例では、内燃機関回転速度制御手段92は、第3電動機M3を駆動させることによってエンジン回転速度NEが制御されているが、第3電動機M3を零回転にロックすることにより、エンジン回転速度NEを零回転にロック制御しても構わない。このようにしても、エンジン回転速度NEが零回転となるように制御され、エンジン8の回転速度上昇および逆回転を効果的に抑制することができる。
【0139】
また、前述の実施例では、図8の変速線図に示すように、モータ走行領域における自動変速部20の変速は、第1速ギヤ段および第2速ギヤ段間の変速に限定されているが、必ずしもこの前記変速に限定されず、モータ走行領域を拡大することで、例えば第2速ギヤ段および第3速ギヤ段間での変速においても本制御を適用することができる。なお、これより、変速される変速段に応じて所定値V1等を適宜変更することができる。
【0140】
また、前述の実施例では、差動部11はそのギヤ比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、たとえば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであっても本発明は適用することができる。
【0141】
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
【0142】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0143】
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0144】
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、たとえばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0145】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0146】
また、前述の実施例では、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0147】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、たとえばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0148】
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、その遊星歯車装置はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。また、このような2以上の遊星歯車装置から構成された場合においても、これらの遊星歯車装置の各回転要素にエンジン8、第1、第2、第3電動機M1、M2、M3、伝達部材18が動力伝達可能に連結され、さらに遊星歯車装置の各回転要素に接続されたクラッチCおよびブレーキBの制御により有段変速と無段変速とが切り換えられるような構成であっても構わない。
【0149】
また、前述の実施例ではエンジン8と差動部11とが直接連結されているが、必ずしも直接連結される必要はなく、エンジン8と差動部11との間にクラッチを介して連結されていてもよい。
【0150】
また、前述の実施例では、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、変速機構10全体として電気式差動を行う機能と、変速機構10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で変速を行う機能と、を備えた構成であれば本発明は適用可能であり、機械的に独立している必要はない。また、これらの配設位置や配設順序も特に限定されず、自由に配設することができる。また、変速機構において、電気式差動を行う機能と変速を行う機能とを有するものであれば、その構成が一部重複する、或いは全てが共通するものであっても、本発明を適用することができる。
【0151】
また、前述の実施例では、自動変速部20は4段の変速を可能とする有段変速機が適用されているが、自動変速部20の変速段は4段に限定されず例えば5段変速など自由に変更することができる。また、自動変速部20の連結関係は、特に本実施例に限定されるものではなく、自由に変更することができる。
【0152】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の駆動装置の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合要素の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の駆動装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】油圧制御装置のうちクラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブに関する回路図である。
【図6】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図7】図4の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】動力伝達装置の変速制御において用いられる変速マップの一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える駆動力源切換制御において用いられる駆動力源マップの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図9】破線はエンジンの最適燃費率曲線であって燃費マップの一例である。
【図10】電子制御装置の制御作動の要部すなわちエンジン停止時において、動力分配機構の出力軸の回転速度が急激に変化させられる際にエンジンの回転変動を抑制する制御作動を説明するタイムチャートである。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわちエンジン停止時において、動力分配機構の出力軸の回転速度が急激に変化させられる際にエンジンの回転変動を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0154】
8:エンジン(内燃機関)
10:変速機構(車両用動力伝達装置)
11:差動部(電気式差動部)
14:入力軸(差動機構の入力軸)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(差動機構の出力軸、変速部の入力軸)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪
92:内燃機関回転速度制御手段
M1:第1電動機(差動電動機)
M3:第3電動機(内燃機関連結電動機)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備え、前記内燃機関の出力を駆動輪に伝達する車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記差動機構の所定の回転要素に動力伝達可能に連結された差動電動機と、前記内燃機関に動力伝達可能に連結された内燃機関連結電動機とを備え、
前記内燃機関の非自律運転時であって前記差動機構の出力軸の回転速度が変化するとき、前記内燃機関連結電動機によって前記内燃機関の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のとき、前記内燃機関の回転速度を制御することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速中において、前記内燃機関の回転速度を所定の回転速度に制御することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、
前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の走行状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による前記内燃機関の回転速度制御から前記差動電動機による前記内燃機関の回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がスリップしたときであることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がロックしたときであることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記内燃機関が前記所定の回転速度となるようにフィードバック制御を実施することを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記所定の回転速度は学習制御されることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項11】
前記所定の回転速度は、前記変速部の変速比に応じて変更されることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項12】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部のイナーシャ相中に実施することを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項13】
前記変速部は有段変速されることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項14】
前記所定の回転速度は、前記内燃機関連結電動機のロック制御による零回転であることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項15】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施することを特徴とする請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項16】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間、および前記変速部の入力軸の回転速度変化量から前記内燃機関連結電動機の制御量を決定することを特徴とする請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項17】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関連結電動機が故障したとき、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項18】
前記内燃機関回転速度制御手段は、蓄電装置の状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
差動機構の回転要素に連結された電動機の運転状態が制御されることにより、内燃機関に連結された入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部を備え、前記内燃機関の出力を駆動輪に伝達する車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記差動機構の所定の回転要素に動力伝達可能に連結された差動電動機と、前記内燃機関に動力伝達可能に連結された内燃機関連結電動機とを備え、
前記内燃機関の非自律運転時であって前記差動機構の出力軸の回転速度が変化するとき、前記内燃機関連結電動機によって前記内燃機関の回転速度を制御する内燃機関回転速度制御手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のとき、前記内燃機関の回転速度を制御することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速中において、前記内燃機関の回転速度を所定の回転速度に制御することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記差動機構の出力軸には、変速部の入力軸が連結されており、
前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の運転状態に応じて制御の実施ならびに制御量を決定することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関回転速度制御手段は、車両の走行状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による前記内燃機関の回転速度制御から前記差動電動機による前記内燃機関の回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がスリップしたときであることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、前記駆動輪がロックしたときであることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記差動機構の出力軸の回転変化速度もしくは回転速度変化量が所定値以上のときとは、車両の急減速が判定されたときであることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関の回転速度に基づいて前記内燃機関が前記所定の回転速度となるようにフィードバック制御を実施することを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記所定の回転速度は学習制御されることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項11】
前記所定の回転速度は、前記変速部の変速比に応じて変更されることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項12】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部のイナーシャ相中に実施することを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項13】
前記変速部は有段変速されることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項14】
前記所定の回転速度は、前記内燃機関連結電動機のロック制御による零回転であることを特徴とする請求項3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項15】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間等から推定されるイナーシャの寄与度が大きいときだけ実施することを特徴とする請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項16】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記変速部の変速点、車速、変速時間、および前記変速部の入力軸の回転速度変化量から前記内燃機関連結電動機の制御量を決定することを特徴とする請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項17】
前記内燃機関回転速度制御手段は、前記内燃機関連結電動機が故障したとき、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項18】
前記内燃機関回転速度制御手段は、蓄電装置の状態に応じて、前記内燃機関連結電動機による回転速度制御から前記差動電動機による回転速度制御に切り換えて実施することを特徴とする請求項5の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−280177(P2009−280177A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137182(P2008−137182)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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