説明

酸化物半導体膜および半導体装置

【課題】より電気伝導度の安定した酸化物半導体膜を提供することを課題の一とする。また、当該酸化物半導体膜を用いることにより、半導体装置に安定した電気的特性を付与し、信頼性の高い半導体装置を提供することを課題の一とする。
【解決手段】結晶性を有する領域を含み、当該結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような酸化物半導体膜をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
酸化物半導体膜と、該酸化物半導体膜を用いる半導体装置に関する。
【0002】
なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、電気光学装置、半導体回路及び電子機器は全て半導体装置である。
【背景技術】
【0003】
液晶表示装置に代表されるように、ガラス基板等に形成されるトランジスタはアモルファスシリコン、多結晶シリコンなどによって構成されている。アモルファスシリコンを用いたトランジスタは、ガラス基板の大面積化に容易に対応することができる。しかし、アモルファスシリコンを用いたトランジスタは、電界効果移動度が低いという欠点を有している。また、多結晶シリコンを用いたトランジスタは電界効果移動度が高いが、ガラス基板の大面積化には適していないという欠点を有している。
【0004】
このような欠点を有するシリコンを用いたトランジスタに対して、酸化物半導体を用いてトランジスタを作製し、電子デバイスや光デバイスに応用する技術が注目されている。例えば酸化物半導体として、In、Zn、Ga、Snなどを含む非晶質酸化物を用いてトランジスタを作製する技術が特許文献1で開示されている。また、同様のトランジスタを作製して表示装置の画素のスイッチング素子などに用いる技術が特許文献2で開示されている。
【0005】
また、このようなトランジスタに用いる酸化物半導体について、「酸化物半導体は不純物に対して鈍感であり、膜中にはかなりの金属不純物が含まれていても問題がなく、ナトリウムのようなアルカリ金属が多量に含まれる廉価なソーダ石灰ガラスも使える」といったことも述べられている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−165529号公報
【特許文献2】特開2006−165528号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】神谷、野村、細野、「アモルファス酸化物半導体の物性とデバイス開発の現状」、固体物理、2009年9月号、Vol.44、p.621−633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、酸化物半導体膜および当該酸化物半導体膜を用いた半導体装置の作製工程において、酸化物半導体膜に酸素欠陥に代表されるような欠陥が生じたり、キャリアの供給源となる水素の混入などが生じると、酸化物半導体膜の電気伝導度が変化する恐れがある。このような現象は、酸化物半導体膜を用いたトランジスタにとって電気的特性の変動の要因となり、半導体装置の信頼性を低下させることになる。
【0009】
このような酸化物半導体膜は、可視光や紫外光に照射されることにより、特に電気伝導度が変化するおそれがある。このような現象も、酸化物半導体膜を用いたトランジスタにとって電気的特性の変動の要因となり、半導体装置の信頼性を低下させることになる。
【0010】
このような問題に鑑み、より電気伝導度の安定した酸化物半導体膜を提供することを課題の一とする。また、当該酸化物半導体膜を用いることにより、半導体装置に安定した電気的特性を付与し、信頼性の高い半導体装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示する発明の一態様は、結晶性を有する領域を含み、当該結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる酸化物半導体膜である。つまり、当該酸化物半導体膜に含まれる結晶性を有する領域は、c軸配向している。なお、当該酸化物半導体膜は非単結晶である。また、当該酸化物半導体膜全体が非晶質状態(アモルファス状態)となることはない。
【0012】
開示する発明の一態様は、結晶性を有する領域を含み、結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなり、c軸方向から電子線を照射した電子線回折強度測定において、散乱ベクトルの大きさが3.3nm−1以上4.1nm−1以下のピークにおける半値全幅と、散乱ベクトルの大きさが5.5nm−1以上7.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.2nm−1以上である酸化物半導体膜である。
【0013】
上記において、散乱ベクトルの大きさが3.3nm−1以上4.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.4nm−1以上0.7nm−1以下であり、散乱ベクトルの大きさが5.5nm−1以上7.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.45nm−1以上1.4nm−1以下であることが好ましい。また、ESR測定におけるg=1.93近傍のピークのスピン密度が1.3×1018(spins/cm)より小さいことが好ましい。また、上記酸化物半導体膜は、結晶性を有する領域を複数含み、結晶のa軸あるいはb軸の方向は、互いに異なっていてもよい。また、InGaO(ZnO)(mは非自然数)で表される構造を有することが好ましい。
【0014】
また、開示する発明の他の一態様は、第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜上に設けられた、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜と接するように設けられたソース電極およびドレイン電極と、酸化物半導体膜上に設けられた第2の絶縁膜と、第2の絶縁膜上に設けられたゲート電極と、を有し、結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる半導体装置である。
【0015】
また、開示する発明の他の一態様は、ゲート電極と、ゲート電極上に設けられた第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜上に設けられた、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜と接するように設けられたソース電極およびドレイン電極と、酸化物半導体膜上に設けられた第2の絶縁膜と、を有し、結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる半導体装置である。
【0016】
上記において、第1の絶縁膜と酸化物半導体膜の間に第1の金属酸化物膜を有し、第1の金属酸化物膜は、酸化ガリウムと酸化亜鉛とを含み、且つ結晶性を有する領域を含み、結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなることが好ましい。また、第1の金属酸化物膜において、酸化亜鉛の物質量は酸化ガリウムの物質量の25%未満であることが好ましい。また、酸化物半導体膜と第2の絶縁膜の間に第2の金属酸化物膜を有し、第2の金属酸化物膜は、酸化ガリウムと酸化亜鉛とを含み、且つ結晶性を有する領域を含み、結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなることが好ましい。また、第2の金属酸化物膜において、酸化亜鉛の物質量は酸化ガリウムの物質量の25%未満であることが好ましい。
【0017】
なお、本明細書等において、A面がB面に概略平行とはA面の法線とB面の法線がなす角度が0°以上20°以下の状態を指すものとする。また、本明細書等において、C線がB面に概略垂直とはC線とB面の法線がなす角度が0°以上20°以下の状態を指すものとする。
【発明の効果】
【0018】
結晶性を有する領域を含み、当該結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような酸化物半導体膜をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一態様に係る断面TEM像。
【図2】本発明の一態様に係る結晶構造の平面図および断面図。
【図3】電子状態密度計算の結果を示す図。
【図4】酸素欠陥を有するアモルファス状の酸化物半導体のバンドダイアグラム。
【図5】酸素欠陥を有するアモルファス状の酸化物半導体における再結合モデル。
【図6】本発明の一態様に係る半導体装置の作製工程を説明する断面図。
【図7】スパッタリング装置を説明する模式図である。
【図8】種結晶の結晶構造を説明する模式図である。
【図9】本発明の一態様に係る半導体装置の作製工程を説明する断面図。
【図10】本発明の一態様に係る半導体装置を説明する断面図。
【図11】本発明の一態様に係る半導体装置を説明する断面図。
【図12】本発明の一態様に係る半導体装置のバンド構造を説明する図。
【図13】本発明の一実施例に係る断面TEM像。
【図14】本発明の一実施例に係る平面TEM像。
【図15】本発明の一実施例に係る電子線回折パターン。
【図16】本発明の一実施例に係る平面TEM像および電子線回折パターン。
【図17】本発明の一実施例に係る電子線回折強度のグラフ。
【図18】本発明の一実施例に係る電子線回折強度の第1ピークの半値全幅のグラフ。
【図19】本発明の一実施例に係る電子線回折強度の第2ピークの半値全幅のグラフ。
【図20】本発明の一実施例に係るXRDスペクトル。
【図21】本発明の一実施例に係るXRDスペクトル。
【図22】本発明の一実施例に係るESR測定の結果のグラフ。
【図23】本発明の一実施例に係る量子化学計算に用いた酸素欠陥のモデル。
【図24】本発明の一実施例に係る低温PL測定の結果のグラフ。
【図25】本発明の一実施例に係る光負バイアス劣化測定の結果のグラフ。
【図26】本発明の一実施例に係る光応答欠陥評価法における光電流のグラフ。
【図27】本発明の一実施例に係るTDS分析の結果。
【図28】本発明の一実施例に係るSIMS分析の結果。
【図29】本発明の一態様を示すブロック図及び等価回路図。
【図30】本発明の一態様を示す電子機器の外観図。
【図31】本発明の一態様に係る断面TEM像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態及び実施例について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0022】
また、本明細書にて用いる第1、第2、第3などの用語は、構成要素の混同を避けるために付したものであり、数的に限定するものではない。そのため、例えば、「第1の」を「第2の」または「第3の」などと適宜置き換えて説明することができる。
【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明に係る一態様として、酸化物半導体膜について、図1乃至図5を用いて説明する。
【0024】
本実施の形態に係る酸化物半導体膜は、結晶性を有する領域を含む。当該結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる。つまり、当該酸化物半導体膜に含まれる結晶性を有する領域は、c軸配向している。当該結晶性を有する領域の断面を観察すると、層状に配列した原子が基板から表面に向かって積層した構造であり、結晶のc軸が表面に概略垂直となっている。また、このようにc軸が配向した結晶性を有する領域を含むので、当該酸化物半導体膜を、C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor; CAAC−OS膜ともよぶ。
【0025】
ここで、実際に作製した、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜の断面TEM像を図1に示す。図1中の矢印が示すように、層状に原子が配向した、すなわちc軸が配向した結晶性を有する領域21が、酸化物半導体膜中に確かに観察される。
【0026】
また、同様に結晶性を有する領域22が酸化物半導体膜中に観察され、結晶性を有する領域21および結晶性を有する領域22は、非晶質構造を有する領域に3次元的に囲まれている。このように当該酸化物半導体膜中には複数の結晶性を有する領域が存在するが、図1中に結晶粒界は観察されておらず、酸化物半導体膜全体においても結晶粒界は観察されなかった。
【0027】
また、図1において、結晶性を有する領域21と結晶性を有する領域22は非晶質構造の領域を介して隔離されているが、結晶性を有する領域21および結晶性を有する領域22の層状に配向した原子が同じくらいの間隔で積層しているように見え、非晶質構造の領域を越えて連続的に層を形成しているように見える。
【0028】
また、図1では結晶性を有する領域21および結晶性を有する領域22の大きさは、3nm乃至7nm程度であるが、本実施の形態に示す酸化物半導体膜中に形成される結晶性を有する領域の大きさは、1nm以上1000nm以下程度とすることができる。例えば、図31に示すように、酸化物半導体膜の結晶性を有する領域を数十nm以上とすることもできる。
【0029】
また、当該結晶性を有する領域を膜表面に垂直な方向から観察すると、六角形の格子状に原子が配列される構造となることが好ましい。このような構造を取ることで、当該結晶性を有する領域は、三回対称性を有する六方晶構造を容易に取ることができる。なお、本明細書においては、六方晶の結晶構造は六晶系(Crystal family)におけるものを指し、七晶系(Crystal system)の三方晶と六方晶を含む。
【0030】
また、本実施の形態に係る酸化物半導体膜は、結晶性を有する領域を複数含んでいても良く、個々の結晶性を有する領域において、結晶のa軸あるいはb軸の方向は互いに異なっていてもよい。すなわち、本実施の形態に係る酸化物半導体膜は、個々の結晶性を有する領域において、c軸に対して結晶化しているが、a−b面に対しては必ずしも配列していない。ただし、a軸あるいはb軸の方向が異なる領域どうしが接しないようにすることで、互いの領域が接する界面に結晶粒界を形成しないようにすることが好ましい。よって、結晶性を有する領域を三次元的に囲むように非晶質構造の領域を有する酸化物半導体膜とすることが好ましい。つまり、当該結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は非単結晶であり、且つ膜全体が非晶質状態とはならない。
【0031】
当該酸化物半導体膜には、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系金属酸化物や、三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O系金属酸化物、In−Sn−Zn−O系金属酸化物、In−Al−Zn−O系金属酸化物、Sn−Ga−Zn−O系金属酸化物、Al−Ga−Zn−O系金属酸化物、Sn−Al−Zn−O系金属酸化物や、二元系金属酸化物であるIn−Zn−O系金属酸化物、Sn−Zn−O系金属酸化物などが用いられる。
【0032】
中でも、In−Ga−Zn−O系金属酸化物は、エネルギーギャップが2eV以上、好ましくは2.5eV以上、より好ましくは3eV以上とエネルギーギャップの広いものが多く、それらを用いてトランジスタを作製した場合、オフ状態での抵抗が十分に高くオフ電流を十分に小さくすることが可能である。In−Ga−Zn−O系金属酸化物中の結晶性を有する領域は、主に六方晶のウルツ鉱型ではない結晶構造を取ることが多く、例えば、YbFe型構造、YbFe型構造及びその変形型構造などをとりうる(M. Nakamura, N. Kimizuka, and T. Mohri、「The Phase Relations in the In2O3−Ga2ZnO4−ZnO System at 1350℃」、J. Solid State Chem.、1991、Vol.93, p.298−315)。なお、YbFe型構造は、Ybを含む層をA層としFeを含む層をB層とすると、ABB|ABB|ABB|の繰り返し構造を有し、その変形構造としては、例えば、ABBB|ABBB|の繰り返し構造を挙げることができる。また、YbFe型構造は、ABB|AB|ABB|AB|の繰り返し構造を有し、その変形構造としては、例えば、ABBB|ABB|ABBB|ABB|ABBB|ABB|の繰り返し構造を挙げることができる。また、当該金属酸化物中のZnOの量が多い場合には、ウルツ鉱型結晶構造をとることもある。
【0033】
In−Ga−Zn−O系金属酸化物の代表例としては、InGaO(ZnO)(m>0)で表記されるものがある。ここで、In−Ga−Zn−O系金属酸化物として、例えば、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の組成比を有する金属酸化物、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有する金属酸化物、In:Ga:ZnO=1:1:4[mol数比]の組成比を有する金属酸化物を挙げることができる。ここで、mは非自然数とするとより好ましい。なお、上述の組成は結晶構造から導き出されるものであり、あくまでも一例に過ぎないことを付記する。例えば、In−Ga−Zn−O系金属酸化物として、In:Ga:ZnO=2:1:8[mol数比]の組成比を有する金属酸化物、In:Ga:ZnO=3:1:4[mol数比]の組成比を有する金属酸化物、またはIn:Ga:ZnO=2:1:6[mol数比]の組成比を有する金属酸化物を用いてもよい。
【0034】
以上のような構造を持つ、酸化物半導体膜に含まれる結晶性を有する領域の構造の一例として、InGaZnOの結晶構造を図2に示す。図2に示すInGaZnOの結晶構造は、a軸とb軸に平行な平面図と、c軸に平行な断面図を用いて示されており、c軸はa軸とb軸に対して垂直であり、a軸とb軸の間の角度は120°となる。図2に示すInGaZnOは、平面図にIn原子が取りうるサイト11を示し、断面図にIn原子12、Ga原子13、GaまたはZn原子14、O原子15を示す。
【0035】
図2の断面図に示すように、InGaZnOは、In酸化物層の間にある1層のGa酸化物層と、In酸化物層の間にある2層の酸化物層でGa酸化物層とZn酸化物層をそれぞれ1層ずつ含むものが、c軸方向に交互に積層する構造となっている。また、図2の平面図に示すように、InGaZnOは三回対称性を有する六方晶構造をとる。
【0036】
本実施の形態に示す、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、一定以上の結晶性を示すものであることが好ましい。また、当該結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、単結晶とは異なる。このように、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、全体が非晶質構造の酸化物半導体膜と比較して良好な結晶性を有するので、酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などの不純物が低減されている。特に結晶中の金属原子と結合している酸素は、非晶質中の金属原子と結合している酸素と比較して、結合力が高くなり、水素などの不純物との反応性が低くなるので、欠陥の生成が低減される。
【0037】
例えば、In−Ga−Zn−O系金属酸化物からなる、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、c軸方向から電子線を照射した電子線回折強度測定において、散乱ベクトルの大きさが3.3nm−1以上4.1nm−1以下のピークにおける半値全幅と、散乱ベクトルの大きさが5.5nm−1以上7.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.2nm−1以上となるような結晶性を示す。また好ましくは、散乱ベクトルの大きさが3.3nm−1以上4.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.4nm−1以上0.7nm−1以下であり、散乱ベクトルの大きさが5.5nm−1以上7.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.45nm−1以上1.4nm−1以下となるような結晶性を示す。
【0038】
上述のように、本実施の形態に示す、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、酸素欠陥に代表される膜中の欠陥が低減されていることが好ましい。酸素欠陥に代表されるような欠陥は、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源のように機能するため、当該酸化物半導体膜の電気伝導度が変動する原因となりうる。よって、これらが低減されている、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。
【0039】
なお、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜のESR(Electron Spin Resonance)測定を行うことにより、当該膜中の孤立電子の量を測定することができ、それにより酸素欠陥の量を推定することができる。例えば、In−Ga−Zn−O系金属酸化物からなる結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、ESR測定におけるg=1.93近傍のピークのスピン密度が1.3×1018(spins/cm)より小さく、好ましくは5×1017(spins/cm)以下、より好ましくは5×1016(spins/cm)、さらに好ましくは1×1016(spins/cm)とする。
【0040】
上述のように、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜中の水素や、水、水酸基または水素化物等の水素を含む不純物は低減されていることが好ましく、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜中の水素の濃度は1×1019atoms/cm以下とすることが好ましい。ダングリングボンドなどに結合する水素や、水、水酸基または水素化物等の水素を含む不純物は、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源のように機能するため、当該酸化物半導体膜の電気伝導度が変動する原因となりうる。また、酸化物半導体膜に含まれる水素は、金属原子と結合する酸素と反応して水となると共に、酸素が脱離した格子(あるいは酸素が脱離した部分)には欠陥が形成されてしまう。よって、これらが低減されている、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。
【0041】
また、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜中のアルカリ金属等の不純物は低減されていることが好ましい。例えば、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜において、リチウムの濃度が5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下、ナトリウムの濃度が5×1016cm−3以下、好ましくは1×1016cm−3以下、さらに好ましくは1×1015cm−3以下、カリウムの濃度が5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とする。
【0042】
アルカリ金属、及びアルカリ土類金属は結晶性を有する領域を含む酸化物半導体にとっては悪性の不純物であり、少ないほうがよい。特に、当該酸化物半導体膜をトランジスタに用いる場合、アルカリ金属のうちナトリウムは結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜に接する絶縁膜に拡散し、キャリアを供給しうる。また、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜内において、金属と酸素の結合を分断し、あるいは結合中に割り込む。その結果、トランジスタ特性の劣化(例えば、ノーマリオン化(しきい値の負へのシフト)、移動度の低下等)をもたらす。加えて、特性のばらつきの原因ともなる。
【0043】
このような問題は、特に結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜中の水素の濃度が十分に低い場合において顕著となる。したがって、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜中の水素の濃度が5×1019cm−3以下、特に5×1018cm−3以下である場合には、アルカリ金属の濃度を上記の値にすることが強く求められる。よって、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜中の不純物を極めて低減し、アルカリ金属の濃度が5×1016atoms/cm以下、水素の濃度が5×1019atoms/cm以下とすることが好ましい。
【0044】
以上のように、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、全体が非晶質構造の酸化物半導体膜と比較して良好な結晶性を有するので、酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などの不純物が低減されている。これらの酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などは、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源のように機能するため、当該酸化物半導体膜の電気伝導度が変動する原因となりうる。よって、これらが低減されている、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0045】
次に、酸化物半導体膜中の酸素欠陥がどのようにして当該酸化物半導体膜の電気伝導度に影響を与えるか、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算を用いて考察した結果について説明する。なお、以下の第一原理計算には、accelrys社製の第一原理計算ソフト「CASTEP」を用いた。また、汎関数はGGA−PBEを、擬ポテンシャルはウルトラソフト型を用いた。
【0046】
本計算では、酸化物半導体膜のモデルとして、アモルファス状のInGaZnOにおいて酸素原子を一つ脱離させて当該部位に空孔(酸素欠陥)を残存させたモデルを作成して計算を行った。当該モデルの原子数は、Inを12個、Gaを12個、Znを12個、Oを47個とした。このような構造のInGaZnOに対して原子配置に関する構造最適化を行い、電子状態密度を算出した。このとき、カットオフエネルギーは300eVとした。
【0047】
電子状態密度計算の結果を図3に示す。図3は、縦軸に状態密度(DOS:Density of State)[states/eV]をとり、横軸にエネルギー[eV]をとっており、横軸に示すエネルギーの原点は、フェルミエネルギーを示している。図3に示すように、InGaZnOの価電子帯上端は−0.74eV、伝導帯下端は0.56eVとなっている。バンドギャップの値はInGaZnOの実験値3.15eVと比較すると非常に小さいが、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算ではバンドギャップが実験値よりも小さくなる事は良く知られており、今回の計算が不適切である事を示しているわけではない。
【0048】
図3から、酸素欠陥を有するアモルファス状のInGaZnOは、バンドギャップ内に深い準位を有することが分かる。つまり、酸素欠陥を有するアモルファス状の酸化物半導体のバンド構造では、酸素欠陥に起因するトラップ準位が当該バンドギャップ内の深い準位として表されることが推測される。
【0049】
以上の考察に基づく、酸素欠陥を有するアモルファス状の酸化物半導体のバンドダイアグラムを図4に示す。図4は、縦軸にエネルギー、横軸にDOSをとり、価電子帯(VB:Valence Band)の上端のエネルギー準位Evから伝導帯(CB:Conduction Band)の下端のエネルギー準位Ecまでのエネルギーギャップは、実験値に基づき3.15eVとした。
【0050】
図4に示すバンドダイアグラム中には、当該酸化物半導体のアモルファス性に起因するテールステートを伝導帯下端近傍に表している。さらに、伝導帯下端より約0.1eVの浅いエネルギー準位に、当該アモルファス状の酸化物半導体内のダングリングボンドなどに結合する水素に起因する水素ドナー準位を想定している。そして、伝導帯下端より約1.8eVの深いエネルギー準位に、上述した当該アモルファス状の酸化物半導体内の酸素欠陥に起因するトラップ準位を表している。なお、酸素欠陥に起因するトラップ準位のエネルギー準位の値については、後述する実施例において詳細を説明する。
【0051】
さらに以上の考察に基づく、バンドギャップ中にこのようなエネルギー準位、特に酸素欠陥に起因する深いトラップ準位を有するアモルファス状の酸化物半導体の場合における、バンド構造の電子と正孔の再結合モデルを図5(A)および図5(B)に示す。
【0052】
図5(A)に示す再結合モデルは、価電子帯に十分な数の正孔が存在し、且つ伝導帯に十分な数の電子が存在する場合の再結合モデルである。当該アモルファス状の酸化物半導体膜を光照射環境下に曝して、十分な数の電子正孔対が生成されることにより、当該酸化物半導体のバンド構造は図5(A)に示すような再結合モデルで表される。当該再結合モデルにおいて、正孔は価電子帯の上端だけでなく、酸素欠陥に起因する深いトラップ準位にも生成される。
【0053】
図5(A)に示す再結合モデルでは、2種類の再結合過程が並列に起こることを想定している。一つの再結合過程は、伝導帯の電子が価電子帯の正孔と直接再結合するバンド間再結合と呼ばれる再結合過程である。そしてもう一つの再結合過程は、伝導帯の電子が酸素欠陥に起因するトラップ準位の正孔と再結合する再結合過程である。ここで、バンド間再結合は酸素欠陥に起因するトラップ準位における再結合より頻度が高いので、価電子帯の正孔の数が十分に少なくなることで、先にバンド間再結合が終了する。これにより図5(A)に示す再結合モデルは、伝導帯下端の電子が酸素欠陥に起因するトラップ準位の正孔と再結合する再結合過程だけとなって図5(B)に示す再結合モデルに移行する。
【0054】
なお、価電子帯に十分な数の正孔が存在し、且つ伝導帯に十分な数の電子が存在するようにするには、当該酸化物半導体に十分な光照射を行えばよく、その後光照射を止めることにより、図5(A)に示す再結合モデルのように、電子と正孔の再結合が行われる。この時の当該酸化物半導体中を流れる電流(光電流とも呼ばれる。)が減衰するのに要する時間(緩和時間)は、図5(B)に示す再結合モデルにおける光電流の緩和時間と比較すると短くなる。なお、これらの詳細については、後述する実施例を参照されたい。
【0055】
次に、図5(B)に示す再結合モデルは、図5(A)に示す再結合モデルが進行し、価電子帯の正孔の数が十分に低減された後の再結合モデルである。図5(B)に示す再結合モデルでは、再結合過程がほとんど酸素欠陥に起因するトラップ準位における再結合だけになってしまうので、図5(A)に示す再結合モデルと比較して伝導帯の電子の数は緩やかに減少する。もちろん当該再結合過程の間、伝導帯に存在する電子は酸化物半導体膜中の電気伝導に寄与する。これにより、バンド間再結合が主な再結合過程である、図5(A)に示す再結合モデルと比較して、図5(B)に示す再結合モデルは光電流の緩和時間が長くなる。なお、これらの詳細については、後述する実施例を参照されたい。
【0056】
このように、酸素欠陥に起因する深いトラップ準位を有するアモルファス状の酸化物半導体は、バンド構造における電子正孔対の再結合モデルを2種類有し、光電流の緩和時間も2種類に分けることができる。ここで、特に図5(B)に示す再結合モデルにおける光電流の緩和の遅延は、当該酸化物半導体膜をトランジスタなどに用いて光照射下でゲート電極に負バイアスをかける際に、当該酸化物半導体膜やその界面に固定電荷を形成する原因となりうる。このようにして、酸化物半導体膜中の酸素欠陥は当該酸化物半導体膜の電気伝導度に悪影響を与えることが考察される。
【0057】
しかし、本発明の一態様に係る、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、全体が非晶質構造の酸化物半導体膜と比較して良好な結晶性を有するので、酸素欠陥に代表されるような欠陥が低減されている。よって、本発明の一態様に係る、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0058】
以上、本実施の形態に示す構成などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0059】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に示す、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を用いたトランジスタおよび当該トランジスタの作製方法について図6乃至図10を用いて説明する。図6は、半導体装置の構成の一形態である、トップゲート構造のトランジスタ120の作製工程を示す断面図である。
【0060】
まず、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を成膜する前に、図6(A)に示すように、基板51上に下地絶縁膜53を形成することが好ましい。
【0061】
基板51は、少なくとも、後の加熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有していることが必要となる。基板51としてガラス基板を用いる場合、歪み点が730℃以上のものを用いることが好ましい。ガラス基板には、例えば、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスなどのガラス材料が用いられる。なお、BよりBaOを多く含むガラス基板を用いることが好ましい。基板51がマザーガラスの場合、基板の大きさは、第1世代(320mm×400mm)、第2世代(400mm×500mm)、第3世代(550mm×650mm)、第4世代(680mm×880mm、または730mm×920mm)、第5世代(1000mm×1200mmまたは1100mm×1250mm)、第6世代(1500mm×1800mm)、第7世代(1900mm×2200mm)、第8世代(2160mm×2460mm)、第9世代(2400mm×2800mm、または2450mm×3050mm)、第10世代(2950mm×3400mm)等を用いることができる。マザーガラスは、処理温度が高く、処理時間が長いと大幅に収縮するため、マザーガラスを使用して大量生産を行う場合、作製工程の加熱処理は、600℃以下、好ましくは450℃以下とすることが望ましい。
【0062】
なお、上記のガラス基板に代えて、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などの絶縁体でなる基板を用いることができる。他にも、結晶化ガラスなどを用いることができる。さらには、シリコンウェハ等の半導体基板の表面や金属材料よりなる導電性の基板の表面に絶縁層を形成したものを用いることもできる。
【0063】
下地絶縁膜53は、加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜を用いて形成することが好ましい。加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜としては、化学量論比を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜を用いることが好ましい。加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜を下地絶縁膜53に用いることで、後の工程で加熱処理を行う際に酸化物半導体膜に酸素を拡散させることができる。加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜としては、代表的には、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム等を用いることができる。
【0064】
下地絶縁膜53は、50nm以上、好ましくは200nm以上500nm以下とする。下地絶縁膜53を厚くすることで、下地絶縁膜53からの酸素放出量を増加させることができると共に、その増加によって下地絶縁膜53及び後に形成される酸化物半導体膜との界面における欠陥を低減することが可能である。
【0065】
下地絶縁膜53は、スパッタリング法、CVD法等により形成する。なお、加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜は、スパッタリング法を用いることで容易に形成することができる。加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜をスパッタリング法により形成する場合は、成膜ガス中の酸素量が高いことが好ましく、酸素、または酸素及び希ガスの混合ガス等を用いることができる。代表的には、成膜ガス中の酸素濃度を6%以上100%以下にすることが好ましい。
【0066】
また、下地絶縁膜53は、必ずしも加熱により酸素の一部が放出する酸化物絶縁膜を用いて形成する必要はなく、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化アルミニウムなどを用いて窒化物絶縁膜を形成してもよい。また、下地絶縁膜53は、上記の酸化物絶縁膜と窒化物絶縁膜の積層構造としてもよく、その場合には窒化物絶縁膜上に酸化物絶縁膜を設けることが好ましい。下地絶縁膜53として窒化物絶縁膜を用いることにより、アルカリ金属などの不純物を含むガラス基板を用いる場合、アルカリ金属などの酸化物半導体膜への侵入を防止できる。リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属は、酸化物半導体に対して悪性の不純物であるために酸化物半導体膜中の含有量を少なくすることが好ましい。窒化物絶縁膜は、CVD法、スパッタリング法等で形成することができる。
【0067】
次に、図6(B)に示すように、スパッタリング装置を用いたスパッタリング法により、下地絶縁膜53上に厚さ30nm以上50μm以下の結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜55を成膜する。
【0068】
ここで、スパッタリング装置の処理室について、図7(A)を用いて説明する。処理室31には、排気手段33及びガス供給手段35が接続される。また、処理室31内には、基板支持体40及びターゲット41が設けられる。ターゲット41は、電源装置37に接続される。
【0069】
処理室31は、GNDに接続されている。また、処理室31のリークレートを1×10−10Pa・m/秒以下とすることで、スパッタリング法により成膜する膜への不純物の混入を低減することができる。
【0070】
リークレートを低くするには、外部リークのみならず内部リークを低減する必要がある。外部リークとは、微小な穴やシール不良などによって真空系の外から気体が流入することである。内部リークとは、真空系内のバルブなどの仕切りからの漏れや内部の部材からの放出ガスに起因する。リークレートを1×10−10Pa・m/秒以下とするためには、外部リーク及び内部リークの両面から対策をとる必要がある。
【0071】
外部リークを減らすには、処理室の開閉部分はメタルガスケットでシールするとよい。メタルガスケットは、フッ化鉄、酸化アルミニウム、または酸化クロムによって被覆された金属材料を用いると好ましい。メタルガスケットはOリングと比べ密着性が高く、外部リークを低減できる。また、フッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどの不動態によって被覆された金属材料を用いることで、メタルガスケットから生じる水素を含む放出ガスが抑制され、内部リークも低減することができる。
【0072】
処理室31の内壁を構成する部材として、水素を含む放出ガスの少ないアルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、ニッケルまたはバナジウムを用いる。また、前述の材料を鉄、クロム及びニッケルなどを含む合金材料に被覆して用いてもよい。鉄、クロム及びニッケルなどを含む合金材料は、剛性があり、熱に強く、また加工に適している。ここで、表面積を小さくするために部材の表面凹凸を研磨などによって低減しておくと、放出ガスを低減できる。あるいは、前述のスパッタリング装置の部材をフッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどの不動態で被覆してもよい。
【0073】
処理室31の内部に設ける部材は、極力金属材料のみで構成することが好ましく、例えば石英などで構成される覗き窓などを設置する場合も、放出ガスを抑制するために表面をフッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどの不動態で薄く被覆するとよい。
【0074】
さらに、スパッタガスを処理室31に導入する直前に、スパッタガスの精製機を設けることが好ましい。このとき、精製機から処理室までの配管の長さを5m以下、好ましくは1m以下とする。配管の長さを5m以下または1m以下とすることで、配管からの放出ガスの影響を長さに応じて低減できる。
【0075】
シリンダーから処理室31まで、スパッタガスを流すための配管にはフッ化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロムなどの不動態で内部が被覆された金属配管を用いることが好ましい。前述の配管は、例えばSUS316L−EP配管と比べ、水素を含むガスの放出量が少なく、成膜ガスへの不純物の混入を低減できる。また、配管の継手には、高性能超小型メタルガスケット継手(UPG継手)を用いるとよい。また、配管の材料を全て金属材料で構成することで、樹脂等を用いた場合と比べ、生じる放出ガス及び外部リークの影響を低減できるため好ましい。
【0076】
処理室31の排気は、ドライポンプなどの粗引きポンプと、スパッタイオンポンプ、ターボ分子ポンプ及びクライオポンプなどの高真空ポンプとを適宜組み合わせて行うとよい。ターボ分子ポンプは大きいサイズの分子の排気が優れる一方、水素や水の排気能力が低い。そこで、水の排気能力の高いクライオポンプ及び水素の排気能力の高いスパッタイオンポンプを組み合わせることが有効となる。
【0077】
処理室31の内側に存在する吸着物は、内壁に吸着しているために処理室の圧力に影響しないが、処理室を排気した際のガス放出の原因となる。そのため、リークレートと排気速度に相関はないが、排気能力の高いポンプを用いて、処理室に存在する吸着物をできる限り脱離し、予め排気しておくことが重要である。なお、吸着物の脱離を促すために、処理室をベーキングしてもよい。ベーキングすることで吸着物の脱離速度を10倍程度大きくすることができる。ベーキングは100℃以上450℃以下で行えばよい。このとき、不活性ガスを導入しながら吸着物の除去を行うと、排気するだけでは脱離しにくい水などの脱離速度をさらに大きくすることができる。
【0078】
排気手段33は、処理室31内の不純物を排気すると共に、処理室31内の圧力を制御することができる。排気手段33は、吸着型の真空ポンプを用いることが好ましい。例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。上記吸着型の真空ポンプを用いることで、酸化物半導体膜に含まれる水素の量を低減することができる。
【0079】
なお、酸化物半導体膜に含まれる水素は、水素原子の他、水素分子、水、水酸基、または水素化物として含まれる場合もある。
【0080】
ガス供給手段35は、ターゲットをスパッタリングするためのガスを処理室31内に供給する手段である。ガス供給手段35は、ガスが充填されたシリンダ、圧力調整弁、ストップバルブ、マスフローコントローラ等で構成されている。なお、ガス供給手段35に精製機を設けることで、処理室31内に導入するガスに含まれる不純物を低下することができる。ターゲットをスパッタリングするガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン等の希ガスを用いる。または、上記希ガスの一と、酸素との混合ガスを用いることができる。
【0081】
電源装置37は、RF電源装置、AC電源装置、DC電源装置等を適宜用いることができる。なお、図示しないがターゲットを支持するターゲット支持体の内部または外側にマグネットを設けると、ターゲット周辺に高密度のプラズマを閉じこめることができ、成膜速度の向上及び基板へのプラズマダメージを低減できる。当該方法は、マグネトロンスパッタリング法とよばれる。更には、マグネトロンスパッタリング法において、マグネットを回転可能にすると、磁界の偏りを低減できるため、ターゲットの使用効率が高まり、かつ基板の面内における膜質のばらつきを低減できる。
【0082】
基板支持体40は、GNDに接続されている。基板支持体40にはヒータが設けられている。ヒータとしては、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いることができる。
【0083】
ターゲット41としては、亜鉛を含む金属酸化物ターゲットを用いることが好ましい。ターゲット41の代表例としては、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系金属酸化物や、三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O系金属酸化物、In−Sn−Zn−O系金属酸化物、In−Al−Zn−O系金属酸化物、Sn−Ga−Zn−O系金属酸化物、Al−Ga−Zn−O系金属酸化物、Sn−Al−Zn−O系金属酸化物や、二元系金属酸化物であるIn−Zn−O系金属酸化物、Sn−Zn−O系金属酸化物などのターゲットを用いることができる。
【0084】
ターゲット41の一例として、In、Ga、及びZnを含む金属酸化物ターゲットを、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の組成比とする。また、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するターゲット、またはIn:Ga:ZnO=1:1:4[mol数比]の組成比を有するターゲット、In:Ga:ZnO=2:1:8[mol数比]の組成比を有するターゲットを用いることもできる。
【0085】
なお、ターゲット41と基板51との間隔(T−S間距離)は、原子量の小さい原子が優先的に基板51上の下地絶縁膜53に到着することが可能な間隔とすることが好ましい。
【0086】
図7(A)に示すように、基板支持体40上に下地絶縁膜53が形成された基板51を、スパッタリング装置の処理室31内に設置する。次に、ガス供給手段35から処理室31にターゲット41をスパッタリングするガスを導入する。ターゲット41の純度は、99.9%以上、好ましくは99.99%以上のものを用いる。次に、ターゲット41に接続される電源装置37に電力を供給する。この結果、ガス供給手段35から処理室31に導入されたスパッタリングガスのイオン43及び電子が、ターゲット41をスパッタリングする。
【0087】
ここで、ターゲット41及び基板51の間隔を、原子量の小さい原子が優先的に基板51上の下地絶縁膜53に到着し堆積することが可能な間隔としておくことにより、図7(B)に示すように、ターゲット41に含まれる原子において、原子量の小さい原子45が、原子量の大きい原子47より優先的に基板側へ移動することができる。
【0088】
ターゲット41においては、亜鉛は、インジウム等よりも原子量が小さい。このため、亜鉛が優先的に下地絶縁膜53上に堆積する。また、成膜時の雰囲気に酸素を含み、基板支持体40には、成膜時に基板及び堆積膜を加熱するヒータが設けられるため、下地絶縁膜53上に堆積した亜鉛が酸化され、六方晶構造の亜鉛を含む結晶を有する種結晶55a、代表的には六方晶構造の酸化亜鉛を有する種結晶が形成される。なお、ターゲット41にアルミニウム等の亜鉛より原子量の小さい原子が含まれる場合、亜鉛と共に、アルミニウム等の亜鉛より原子量の小さい原子も優先的に下地絶縁膜53上に堆積する。
【0089】
種結晶55aは、a−b面において六角形の格子を有する結合を有し、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である六方晶のウルツ鉱構造の亜鉛を含む結晶を有する。ここで、a−b面において六角形の格子を有する結合を有し、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である六方晶構造の亜鉛を含む結晶について、図8を用いて説明する。ここでは、六方晶構造の亜鉛を含む結晶の代表例として、酸化亜鉛を用いて説明し、黒丸が亜鉛、白丸が酸素を示す。図8(A)は、a−b面における、六方晶構造の酸化亜鉛の模式図であり、図8(B)は、紙面の縦方向をc軸方向とした、六方晶構造の酸化亜鉛の模式図である。図8(A)に示すように、a−b面における上平面において、亜鉛及び酸素が六角形をなす結合をしている。また、図8(B)に示すように、亜鉛及び酸素がなす六角形の格子を有する結合を有する層が積層され、c軸方向はa−b面に垂直である。種結晶55aは、a−b面において六角形の格子を有する結合を有する層をc軸方向に1原子層以上有する。
【0090】
連続して、ターゲット41をスパッタリングガスでスパッタリングすることで、種結晶55a上にターゲットに含まれる原子が堆積するが、このとき種結晶55aを核として結晶成長するため、種結晶55a上に六方晶構造の結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜55bを形成することができる。なお、基板51は、基板支持体40に設けられるヒータによって加熱されるため、種結晶55aを核とし、被表面に堆積する原子が酸化されつつ結晶成長する。
【0091】
酸化物半導体膜55bは、種結晶55aを核とし、ターゲット41の表面における原子量の重い原子、及び種結晶55aの形成の後にスパッタリングされた原子量の軽い原子が酸化されつつ結晶成長するため、種結晶55aと同様に、a−b面において六角形の格子を有する結合を有し、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である六方晶構造の結晶性を有する領域を含む。即ち、種結晶55a及び酸化物半導体膜55bで構成される酸化物半導体膜55は、下地絶縁膜53表面に概略平行なa−b面において六角形の格子を有する結合を有し、c軸が膜表面に概略垂直である六方晶構造の結晶性を有する領域を含む。つまり、酸化物半導体膜55に含まれる六方晶構造の結晶性を有する領域はc軸配向している。なお、図6(B)では、種結晶55aと酸化物半導体膜55bの界面を点線で示し、酸化物半導体膜の積層と説明しているが、明確な界面が存在しているのではなく、あくまで分かりやすく説明するために図示している。
【0092】
このときのヒータによる基板の加熱温度は200℃より大きく400℃以下、好ましくは250℃以上350℃以下とする。200℃より大きく400℃以下、好ましくは250℃以上350℃以下に基板を加熱しながら成膜をすることによって、成膜と同時に加熱処理がなされるので、良好な結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を成膜することができる。なお、スパッタリング時における被成膜面の温度は、250℃以上基板の熱処理上限温度以下とする。
【0093】
なお、スパッタリングガスは、希ガス(代表的にはアルゴン)、酸素、希ガス及び酸素の混合ガスを適宜用いる。また、スパッタリングガスには、水素、水、水酸基または水素化物などの不純物が除去された高純度ガスを用いることが好ましい。
【0094】
なお、基板支持体40及びターゲット41を有する処理室の圧力を0.4Pa以下とすることで、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜の表面及び膜中への、アルカリ金属、水素等の不純物の混入を低減することができる。
【0095】
また、スパッタリング装置の処理室のリークレートを1×10−10Pa・m/秒以下とすることで、スパッタリング法による成膜途中における結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜への、アルカリ金属、水素、水、水酸基または水素化物等の不純物の混入を低減することができる。また、排気系として吸着型の真空ポンプを用いることで、排気系からアルカリ金属、水素、水、水酸基または水素化物等の不純物の逆流を低減することができる。
【0096】
また、ターゲット41の純度を、99.99%以上とすることで、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜に混入するアルカリ金属、水素、水、水酸基または水素化物等を低減することができる。また、当該ターゲットを用いることで、酸化物半導体膜55において、リチウムの濃度を5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下、ナトリウムの濃度を5×1016cm−3以下、好ましくは1×1016cm−3以下、さらに好ましくは1×1015cm−3以下、カリウムの濃度を5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下とすることができる。
【0097】
上記の成膜方法では、同一のスパッタリング工程において、ターゲットに含まれる原子量の違いを利用し、原子量の小さい亜鉛を優先的に酸化絶縁膜に堆積させ、種結晶を形成すると共に、種結晶上に原子量の大きいインジウム等を結晶成長させつつ堆積させるため、複数の工程を経ずとも、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を形成することができる。
【0098】
上記の酸化物半導体膜55の成膜方法では、スパッタリング法の成膜によって、種結晶55aと酸化物半導体膜55bとを一括で成膜しながら結晶化したが、本実施の形態に係る酸化物半導体膜は必ずしもこのように成膜する必要はない。たとえば、種結晶と酸化物半導体膜の成膜と結晶化をそれぞれ別々に行っても良い。
【0099】
以下に、図9を用いて、種結晶と酸化物半導体膜の成膜と結晶化をそれぞれ別々に行う方法について説明する。また、以下のように結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を成膜する方法を、本明細書中で2step法とよぶ場合がある。なお、図1の断面TEM像に示した、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、当該2step法をもちいて形成したものである。
【0100】
まず、下地絶縁膜53上に膜厚1nm以上10nm以下の第1の酸化物半導体膜を形成する。第1の酸化物半導体膜の形成は、スパッタリング法を用い、そのスパッタリング法による成膜時の基板温度は200℃以上400℃以下とすることが好ましい。その他の成膜条件については、上記の酸化物半導体膜の成膜方法と同様である。
【0101】
次いで、基板を配置するチャンバー雰囲気を窒素、または乾燥空気とし、第1の加熱処理を行う。第1の加熱処理の温度は、400℃以上750℃以下とする。第1の加熱処理によって、第1の酸化物半導体膜を結晶化し、種結晶56aを形成する(図9(A)参照)。
【0102】
第1の加熱処理の温度にもよるが、第1の加熱処理によって、膜表面から結晶化が起こり、膜の表面から内部に向かって結晶成長し、c軸配向した結晶が得られる。第1の加熱処理によって、亜鉛と酸素が膜表面に多く集まり、上平面が六角形をなす亜鉛と酸素からなるグラフェンタイプの二次元結晶が最表面に1層または複数層形成され、これが膜厚方向に成長して重なり積層となる。加熱処理の温度を上げると表面から内部、そして内部から底部と結晶成長が進行する。
【0103】
また、下地絶縁膜53に加熱により酸素の一部が放出される酸化物絶縁膜をもちいることにより、第1の加熱処理によって、下地絶縁膜53中の酸素を種結晶56aとの界面またはその近傍(界面からプラスマイナス5nm)に拡散させて、種結晶56aの酸素欠陥を低減することができる。
【0104】
次いで、種結晶56a上に10nmよりも厚い第2の酸化物半導体膜を形成する。第2の酸化物半導体膜の形成は、スパッタリング法を用い、その成膜時における基板温度は200℃以上400℃以下とする。その他の成膜条件については、上記の酸化物半導体膜の成膜方法と同様である。
【0105】
次いで、基板を配置するチャンバー雰囲気を窒素、または乾燥空気とし、第2の加熱処理を行う。第2の加熱処理の温度は、400℃以上750℃以下とする。第2の加熱処理によって、第2の酸化物半導体膜を結晶化し、酸化物半導体膜56bを形成する(図9(B)参照)。第2の加熱処理は、窒素雰囲気下、酸素雰囲気下、或いは窒素と酸素の混合雰囲気下で行うことにより、酸化物半導体膜56bの高密度化及び欠陥数の減少を図る。第2の加熱処理によって、種結晶56aを核として膜厚方向、即ち底部から内部に結晶成長が進行して結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜56bが形成される。このようにして、種結晶56aと酸化物半導体膜56bとからなる酸化物半導体膜56が形成される。図9(B)では、種結晶56aと酸化物半導体膜56bの界面を点線で示し、酸化物半導体積層と説明しているが、明確な界面が存在しているのではなく、あくまで分かりやすく説明するために図示している。
【0106】
また、下地絶縁膜53の形成から第2の加熱処理までの工程を大気に触れることなく連続的に行うことが好ましい。下地絶縁膜53の形成から第2の加熱処理までの工程は、水素及び水分をほとんど含まない雰囲気(不活性雰囲気、減圧雰囲気、乾燥空気雰囲気など)下に制御することが好ましく、例えば、水分については露点−40℃以下、好ましくは露点−50℃以下の乾燥窒素雰囲気とすることが好ましい。
【0107】
上記の成膜方法では、原子量の小さい原子を優先的に酸化絶縁膜に堆積させる成膜方法と比較して、成膜時の基板温度が低くても、良好な結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を形成することができる。なお、上記の2step法を用いて成膜した、酸化物半導体膜56も、原子量の小さい原子を優先的に酸化絶縁膜に堆積させる成膜方法を用いて成膜した酸化物半導体膜55と同程度の結晶性を有し、電気伝導度も安定している。よって、どちらの方法で成膜した酸化物半導体膜を用いても、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。なお、以下の工程においては、酸化物半導体膜55を用いてトランジスタ120の作製工程を説明するが、もちろん同様に酸化物半導体膜56も用いることができる。
【0108】
以上の工程により、下地絶縁膜53上に種結晶55aと酸化物半導体膜55bの積層からなる酸化物半導体膜55を成膜することができる。次に、基板51に加熱処理を施して、酸化物半導体膜55から水素を放出させると共に、下地絶縁膜53に含まれる酸素の一部を、酸化物半導体膜55と、下地絶縁膜53と酸化物半導体膜55の界面近傍と、に拡散させることが好ましい。
【0109】
加熱処理温度は、酸化物半導体膜55から水素を放出させると共に、下地絶縁膜53に含まれる酸素の一部を放出させ、さらには酸化物半導体膜55に拡散させる温度が好ましく、代表的には、150℃以上基板51の歪み点未満、好ましくは250℃以上450℃以下とする。なお、加熱処理温度は、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜の成膜温度より高くすることで、下地絶縁膜53に含まれる酸素の一部をより多く放出させることができる。
【0110】
加熱処理は、水素及び水分をほとんど含まない、不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気、窒素雰囲気、酸素と窒素の混合雰囲気などで行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気としては、代表的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン等の希ガス雰囲気で行うことが好ましい。また、加熱処理の加熱時間は1分以上24時間以下とする。
【0111】
当該加熱処理により、酸化物半導体膜55から水素を放出させると共に、下地絶縁膜53に含まれる酸素の一部を、酸化物半導体膜55と、下地絶縁膜53と酸化物半導体膜55の界面近傍と、に拡散させることができる。当該工程により、酸化物半導体膜55中に含まれる酸素欠陥を低減することができる。この結果、水素濃度及び酸素欠陥が低減された結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を形成することができる。
【0112】
次に、図6(C)に示すように、酸化物半導体膜55上にマスクを形成し、当該マスクを用いて酸化物半導体膜55を選択的にエッチングして、酸化物半導体膜59を形成する。この後、マスクは除去する。
【0113】
酸化物半導体膜55をエッチングするためのマスクは、フォトリソグラフィ工程、インクジェット法、印刷法等を適宜用いて作製することができる。また、酸化物半導体膜55のエッチングはウエットエッチングまたはドライエッチングを適宜用いることができる。
【0114】
次に、図6(D)に示すように、酸化物半導体膜59に接するソース電極61aおよびドレイン電極61bを形成する。
【0115】
ソース電極61aおよびドレイン電極61bは、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステン、マンガン、ジルコニウムから選ばれた金属元素、または上述した金属元素を成分とする合金か、上述した金属元素を組み合わせた合金などを用いて形成することができる。また、アルミニウムに、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた金属元素を単数または複数組み合わせた合金膜、もしくは窒化膜を用いてもよい。また、ソース電極61aおよびドレイン電極61bは、単層構造でも、二層以上の積層構造としてもよい。例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、Cu−Mg−Al合金膜上に銅膜を積層する2層構造、アルミニウム膜上にチタン膜を積層する二層構造、窒化チタン膜上にチタン膜を積層する二層構造、窒化チタン膜上にタングステン膜を積層する二層構造、窒化タンタル膜上にタングステン膜を積層する二層構造、チタン膜と、そのチタン膜上にアルミニウム膜を積層し、さらにその上にチタン膜を形成する三層構造などがある。
【0116】
また、ソース電極61aおよびドレイン電極61bは、インジウム錫酸化物、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの透光性を有する導電性材料を適用することもできる。また、上記透光性を有する導電性材料と、上記金属元素の積層構造とすることもできる。
【0117】
ソース電極61aおよびドレイン電極61bは、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等で導電膜を形成した後、該導電膜上にマスクを形成して導電膜をエッチングして形成する。導電膜上に形成するマスクは印刷法、インクジェット法、フォトリソグラフィ法を適宜用いることができる。また、ソース電極61aおよびドレイン電極61bは、印刷法またはインクジェット法により直接形成することもできる。
【0118】
ここでは、酸化物半導体膜59および下地絶縁膜53上に導電膜を成膜した後、導電膜を所定の形状にエッチングしてソース電極61aおよびドレイン電極61bを形成する。
【0119】
なお、酸化物半導体膜55上に導電膜を形成した後、多階調フォトマスクを用いて、酸化物半導体膜55および導電膜のエッチングを行って、酸化物半導体膜59、ソース電極61aおよびドレイン電極61bを形成しても良い。凹凸状のマスクを形成し、当該マスクを用いて酸化物半導体膜55および導電膜をエッチングした後、アッシングにより凹凸状のマスクを分離し、当該分離されたマスクにより導電膜を選択的にエッチングすることで、酸化物半導体膜59、ソース電極61aおよびドレイン電極61bを形成することができる。当該工程により、フォトマスク数およびフォトリソグラフィ工程数を削減することができる。
【0120】
次に、酸化物半導体膜59およびソース電極61aおよびドレイン電極61b上にゲート絶縁膜63を形成する。
【0121】
ゲート絶縁膜63は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、または酸化ガリウムを単層でまたは積層して形成することができる。なお、ゲート絶縁膜63は、酸化物半導体膜59と接する部分が酸素を含むことが好ましく、特に好ましくは下地絶縁膜53と同様に加熱により酸素を放出する酸化物絶縁膜を用いて形成する。酸素を放出する酸化物絶縁膜として酸化シリコン膜を用いることで、後の工程で加熱処理を行う際に酸化物半導体膜59に酸素を拡散させることができ、トランジスタ120の特性を良好にすることができる。
【0122】
また、ゲート絶縁膜63として、ハフニウムシリケート(HfSiO)、窒素が添加されたハフニウムシリケート(HfSi)、窒素が添加されたハフニウムアルミネート(HfAl)、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどのhigh−k材料を用いることでゲートリークを低減できる。さらには、high−k材料と、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、および酸化ガリウムのいずれか一以上との積層構造とすることができる。ゲート絶縁膜63の厚さは、1nm以上300nm以下、より好ましくは5nm以上50nm以下とするとよい。ゲート絶縁膜63の厚さを5nm以上とすることで、ゲートリーク電流を低減することができる。
【0123】
なお、ゲート絶縁膜63を形成する前に、酸化物半導体膜59の表面を、酸素、オゾン、一酸化二窒素等の酸化性ガスのプラズマに曝し、酸化物半導体膜59の表面を酸化し、酸素欠損を低減してもよい。
【0124】
次に、ゲート絶縁膜63上であって、酸化物半導体膜59と重畳する領域にゲート電極65を形成する。
【0125】
ゲート電極65は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステン、マンガン、ジルコニウムから選ばれた金属元素、または上述した金属元素を成分とする合金か、上述した金属元素を組み合わせた合金などを用いて形成することができる。また、アルミニウムに、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた金属元素を単数または複数組み合わせた合金膜、もしくは窒化膜を用いてもよい。また、ゲート電極65は、単層構造でも、二層以上の積層構造としてもよい。例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、アルミニウム膜上にチタン膜を積層する二層構造、窒化チタン膜上にチタン膜を積層する二層構造、窒化チタン膜上にタングステン膜を積層する二層構造、窒化タンタル膜上にタングステン膜を積層する二層構造、チタン膜と、そのチタン膜上にアルミニウム膜を積層し、さらにその上にチタン膜を形成する三層構造などがある。
【0126】
また、ゲート電極65は、インジウム錫酸化物、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などの透光性を有する導電性材料を適用することもできる。また、In−Ga−Zn−O系金属酸化物をターゲットとし、窒素を含む雰囲気中でスパッタリングすることにより得られる化合物導電体を用いても良い。また、上記透光性を有する導電性材料と、上記金属元素の積層構造とすることもできる。
【0127】
さらに、ゲート電極65上に保護膜として絶縁膜69を形成してもよい(図6(E)参照。)。また、ゲート絶縁膜63および絶縁膜69にコンタクトホールを形成した後、ソース電極61aおよびドレイン電極61bに接続する配線を形成してもよい。
【0128】
絶縁膜69は、ゲート絶縁膜63と同様の絶縁膜を適宜用いて形成することができる。また、絶縁膜69としてスパッタリング法で得られる窒化シリコン膜を形成すると、外部からの水分やアルカリ金属の侵入を防止することが可能であり、酸化物半導体膜59の不純物の含有量を低減することができる。
【0129】
なお、ゲート絶縁膜63の形成の後、または絶縁膜69の形成の後、加熱処理を行ってもよい。当該加熱処理によって、酸化物半導体膜59から水素を放出させると共に、下地絶縁膜53、ゲート絶縁膜63または絶縁膜69に含まれる酸素の一部を、酸化物半導体膜59と、下地絶縁膜53と酸化物半導体膜59の界面近傍と、ゲート絶縁膜63と酸化物半導体膜59の界面近傍と、に拡散させることができる。当該工程により、酸化物半導体膜59中に含まれる酸素欠陥を低減することができると共に、酸化物半導体膜59と下地絶縁膜53、または酸化物半導体膜59とゲート絶縁膜63の界面における欠陥を低減することができる。この結果、水素濃度及び酸素欠陥が低減された酸化物半導体膜59を形成することができる。このように高純度化され、i型(真性半導体)またはi型に限りなく近い酸化物半導体膜を形成することで、極めて優れた特性のトランジスタを実現することができる。
【0130】
以上の工程により、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜をチャネル領域に有するトランジスタ120を作製することができる。図6(E)に示すように、トランジスタ120は、基板51上に設けられた下地絶縁膜53と、下地絶縁膜53上に設けられた酸化物半導体膜59と、酸化物半導体膜59の上面および側面と接するように設けられたソース電極61aおよびドレイン電極61bと、酸化物半導体膜59上に設けられたゲート絶縁膜63と、酸化物半導体膜59と重畳してゲート絶縁膜63上に設けられたゲート電極65と、ゲート電極65上に設けられた絶縁膜69とを有する。
【0131】
トランジスタ120に用いられている結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、全体が非晶質構造の酸化物半導体膜と比較して良好な結晶性を有するので、酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などの不純物が低減されている。これらの酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などは、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源のように機能するため、当該酸化物半導体膜の電気伝導度が変動する原因となりうる。よって、これらが低減されている、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0132】
また、本発明に係る半導体装置は、図6に示すトランジスタ120に限られるものではない。例えば、図10(A)に示すトランジスタ130のような構造としても良い。トランジスタ130は、基板51上に設けられた下地絶縁膜53と、下地絶縁膜53上に設けられたソース電極61aおよびドレイン電極61bと、ソース電極61aおよびドレイン電極61bの上面および側面と接するように設けられた酸化物半導体膜59と、酸化物半導体膜59上に設けられたゲート絶縁膜63と、酸化物半導体膜59と重畳してゲート絶縁膜63上に設けられたゲート電極65と、ゲート電極65上に設けられた絶縁膜69とを有する。つまり、トランジスタ130は、酸化物半導体膜59がソース電極61aおよびドレイン電極61bの上面および側面と接するように設けられている点において、トランジスタ120と異なる。
【0133】
また、図10(B)に示すトランジスタ140のような構造としても良い。トランジスタ140は、基板51上に設けられた下地絶縁膜53と、下地絶縁膜53上に設けられたゲート電極65と、ゲート電極65上に設けられたゲート絶縁膜63と、ゲート絶縁膜63上に設けられた酸化物半導体膜59と、酸化物半導体膜59の上面および側面と接するように設けられたソース電極61aおよびドレイン電極61bと、酸化物半導体膜59上に設けられた絶縁膜69とを有する。つまり、トランジスタ140は、ゲート電極65とゲート絶縁膜63が酸化物半導体膜59の下に設けられた、ボトムゲート構造である点において、トランジスタ120と異なる。
【0134】
また、図10(C)に示すトランジスタ150のような構造としても良い。トランジスタ150は、基板51上に設けられた下地絶縁膜53と、下地絶縁膜53上に設けられたゲート電極65と、ゲート電極65上に設けられたゲート絶縁膜63と、ゲート絶縁膜63上に設けられたソース電極61aおよびドレイン電極61bと、ソース電極61aおよびドレイン電極61bの上面および側面と接するように設けられた酸化物半導体膜59と、酸化物半導体膜59上に設けられた絶縁膜69とを有する。つまり、トランジスタ150は、ゲート電極65とゲート絶縁膜63が酸化物半導体膜59の下に設けられた、ボトムゲート構造である点において、トランジスタ130と異なる。
【0135】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0136】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態に示す、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を用いたトランジスタとは異なる構造のトランジスタについて図11および図12を用いて説明する。
【0137】
図11(A)に示すトップゲート構造のトランジスタ160は、基板351上に設けられた下地絶縁膜353と、下地絶縁膜353上に設けられた金属酸化物膜371と、金属酸化物膜371上に設けられた酸化物半導体膜359と、酸化物半導体膜359の上面および側面と接するように設けられたソース電極361aおよびドレイン電極361bと、酸化物半導体膜359上に設けられた金属酸化物膜373と、金属酸化物膜373上に設けられたゲート絶縁膜363と、酸化物半導体膜359と重畳してゲート絶縁膜363上に設けられたゲート電極365と、ゲート電極365上に設けられた絶縁膜369とを有する。
【0138】
つまり、トランジスタ160は、下地絶縁膜353と酸化物半導体膜359との間に金属酸化物膜371が設けられ、酸化物半導体膜359とゲート絶縁膜363との間に金属酸化物膜373が設けられている点において、先の実施の形態に示すトランジスタ120と異なる。なお、トランジスタ160の他の構成については先の実施の形態に示すトランジスタ120と同様である。つまり、基板351の詳細については基板51の記載を、下地絶縁膜353の詳細については下地絶縁膜53の記載を、酸化物半導体膜359の詳細については酸化物半導体膜59の記載を、ソース電極361aおよびドレイン電極361bの詳細についてはソース電極61aおよびドレイン電極61bの記載を、ゲート絶縁膜363の詳細についてはゲート絶縁膜63の記載を、ゲート電極365の詳細についてはゲート電極65の記載を参酌することができる。
【0139】
金属酸化物膜371および金属酸化物膜373には、酸化物半導体膜359と同種の成分でなる金属酸化物を用いるのが望ましい。ここで、「酸化物半導体膜と同種の成分」とは、酸化物半導体膜の構成金属原子から選択される一または複数の原子を含むことを意味する。特に、当該酸化物半導体膜359の結晶性を有する領域の結晶構造と同様の結晶構造を取りうる構成原子とすることが好ましい。このように、酸化物半導体膜359と同種の成分でなる金属酸化物を用いて金属酸化物膜371および金属酸化物膜373を形成し、酸化物半導体膜359と同様に結晶性を有する領域を含むようにすることが好ましい。当該結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなることが好ましい。つまり、当該結晶性を有する領域は、c軸配向していることが好ましい。また、当該結晶性を有する領域を膜表面に垂直な方向から観察すると、六角形の格子状に原子が配列される構造となることが好ましい。
【0140】
以上のような結晶性を有する領域を含む金属酸化物膜371を設けることによって、金属酸化物膜371と酸化物半導体膜359との界面およびその近傍に、c軸の配向が連続した結晶性を有する領域が形成されうる。これにより、金属酸化物膜371と酸化物半導体膜359との界面およびその近傍において、酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などの不純物が低減されうる。また、金属酸化物膜373と酸化物半導体膜359との界面およびその近傍についても同様に、c軸の配向が連続した結晶性を有する領域が形成されうる。
【0141】
上述のように、これらの酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などは、キャリアの供給源のように機能するため、酸化物半導体膜の電気伝導度が変動する原因となりうる。よって、酸化物半導体膜359は、金属酸化物膜371および金属酸化物膜373との界面とその近傍においてもこれらが低減されている。故に酸化物半導体膜359は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような酸化物半導体膜359、金属酸化物膜371および金属酸化物膜373をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0142】
金属酸化物膜371および金属酸化物膜373としては、例えば、酸化物半導体膜359にIn−Ga−Zn−O系の金属酸化物を用いる場合には、酸化ガリウムを含む金属酸化物、特に、酸化ガリウムに酸化亜鉛を添加したGa−Zn−O系の金属酸化物などを用いて形成すればよい。Ga−Zn−O系の金属酸化物は、酸化ガリウムに対する酸化亜鉛の物質量が50%未満となるようにし、より好ましくは25%未満となるようにする。なお、Ga−Zn−O系の金属酸化物とIn−Ga−Zn−O系の金属酸化物を接触させた場合のエネルギー障壁は、伝導帯側で約0.5eVとし、価電子帯側で約0.7eVとすることができる。
【0143】
なお、酸化物半導体膜359を活性層として用いる関係上、金属酸化物膜371や金属酸化物膜373のエネルギーギャップは、酸化物半導体膜359のエネルギーギャップより大きいことが求められる。また、金属酸化物膜371と酸化物半導体膜359の間、または、金属酸化物膜373と酸化物半導体膜359の間には、少なくとも室温(20℃)において、酸化物半導体膜359からキャリアが流出しない程度のエネルギー障壁の形成が求められる。例えば、金属酸化物膜371や金属酸化物膜373の伝導帯の下端と、酸化物半導体膜359の伝導帯の下端とのエネルギー差、あるいは、金属酸化物膜371や金属酸化物膜373の価電子帯の上端と、酸化物半導体膜359の価電子帯の上端とのエネルギー差は0.5eV以上であるのが望ましく、0.7eV以上であるとより望ましい。また、1.5eV以下であると望ましい。
【0144】
また、金属酸化物膜371のエネルギーギャップは下地絶縁膜353のエネルギーギャップより小さく、金属酸化物膜373のエネルギーギャップはゲート絶縁膜363のエネルギーギャップより小さいことが好ましい。
【0145】
ここで、図12に、トランジスタ160、すなわち、ゲート電極365側からゲート絶縁膜363、金属酸化物膜373、酸化物半導体膜359、金属酸化物膜371および下地絶縁膜353を接合した構造、におけるエネルギーバンド図(模式図)を示す。図12は、ゲート電極365側からゲート絶縁膜363、金属酸化物膜373、酸化物半導体膜359、金属酸化物膜371および下地絶縁膜353のいずれもが真性であるという理想的な状況を仮定し、ゲート絶縁膜363、下地絶縁膜353として酸化シリコン(バンドギャップEg8eV〜9eV)を、金属酸化物膜としてGa−Zn−O系の金属酸化物(バンドギャップEg4.4eV)を、酸化物半導体膜としてIn−Ga−Zn−O系の金属酸化物(バンドギャップEg3.2eV)を用いた場合について示している。なお、酸化シリコンの真空準位と伝導帯下端のエネルギー差は0.95eVであり、Ga−Zn−O系の金属酸化物の真空準位と伝導帯下端のエネルギー差は4.1eVであり、In−Ga−Zn−O系の金属酸化物の真空準位と伝導帯下端のエネルギー差は4.6eVである。
【0146】
図12に示すように、酸化物半導体膜359のゲート電極側(チャネル側)には、酸化物半導体膜359と金属酸化物膜373との界面に約0.5eVおよび約0.7eVのエネルギー障壁が存在する。同様に、酸化物半導体膜359のバックチャネル側(ゲート電極とは反対側)にも、酸化物半導体膜359と金属酸化物膜371との界面に約0.5eVおよび約0.7eVのエネルギー障壁が存在する。酸化物半導体と金属酸化物との界面において、このようなエネルギー障壁が存在することにより、その界面においてキャリアの移動は妨げられるため、キャリアは酸化物半導体膜359から金属酸化物膜371または金属酸化物膜373に移動することなく、酸化物半導体中を移動する。つまり、酸化物半導体膜359を、酸化物半導体よりもバンドギャップが段階的に大きくなる材料(ここでは、金属酸化物膜と絶縁膜)で挟むように設けることにより、キャリアは酸化物半導体膜中を移動する。
【0147】
金属酸化物膜371および金属酸化物膜373の作製方法に特に限定はない。例えば、プラズマCVD法やスパッタリング法などの成膜方法を用いて金属酸化物膜371および金属酸化物膜373を作製することができる。なお、水素や水などが混入しにくいという点では、スパッタリング法などが適当である。一方で、膜の品質を高めるという点では、プラズマCVD法などが適当である。また、金属酸化物膜371および金属酸化物膜373として、Ga−Zn−O系の金属酸化物膜を用いる場合、亜鉛を用いることにより当該金属酸化物の導電率が向上しているので、DCスパッタリング法を用いて作製することができる。
【0148】
また、本発明に係る半導体装置は、図11(A)に示すトランジスタ160に限られるものではない。例えば、図11(B)に示すトランジスタ170のような構造としても良い。トランジスタ170は、基板351上に設けられた下地絶縁膜353と、下地絶縁膜353上に設けられた金属酸化物膜371と、金属酸化物膜371上に設けられた酸化物半導体膜359と、酸化物半導体膜359の上面および側面と接するように設けられたソース電極361aおよびドレイン電極361bと、酸化物半導体膜359上に設けられたゲート絶縁膜363と、酸化物半導体膜359と重畳してゲート絶縁膜363上に設けられたゲート電極365と、ゲート電極365上に設けられた絶縁膜369とを有する。つまり、トランジスタ170は、酸化物半導体膜359とゲート絶縁膜363との間に金属酸化物膜373が設けられていない点において、トランジスタ160と異なる。
【0149】
また、図11(C)に示すトランジスタ180のような構造としても良い。トランジスタ180は、基板351上に設けられた下地絶縁膜353と、下地絶縁膜353上に設けられた酸化物半導体膜359と、酸化物半導体膜359の上面および側面と接するように設けられたソース電極361aおよびドレイン電極361bと、酸化物半導体膜359上に設けられた金属酸化物膜373と、金属酸化物膜373上に設けられたゲート絶縁膜363と、酸化物半導体膜359と重畳してゲート絶縁膜363上に設けられたゲート電極365と、ゲート電極365上に設けられた絶縁膜369とを有する。つまり、トランジスタ180は、下地絶縁膜353と酸化物半導体膜359との間に金属酸化物膜371が設けられていない点において、トランジスタ160と異なる。
【0150】
また、本実施の形態において、図11(A)乃至図11(C)で示したトランジスタは、トップゲート構造とし、かつソース電極361aおよびドレイン電極361bが酸化物半導体膜359の上面および側面と接するような構造としたが、本発明に係る半導体装置はこれに限られるものではない。先の実施の形態において、図10(A)乃至図10(C)で示したトランジスタと同様に、ボトムゲート構造としてもよいし、または酸化物半導体膜359がソース電極361aおよびドレイン電極361bの上面および側面と接するように設けられる構造としてもよい。
【0151】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0152】
(実施の形態4)
本実施の形態では、同一基板上に少なくとも駆動回路の一部と、画素部に配置するトランジスタを作製する例について以下に説明する。
【0153】
画素部に配置するトランジスタは、実施の形態2または3に従って形成する。また、当該トランジスタはnチャネル型とすることが容易なので、駆動回路のうち、nチャネル型トランジスタで構成することができる駆動回路の一部を画素部のトランジスタと同一基板上に形成する。このように、画素部や駆動回路に先の実施の形態に示すトランジスタを用いることにより、信頼性の高い表示装置を提供することができる。
【0154】
アクティブマトリクス型表示装置のブロック図の一例を図29(A)に示す。表示装置の基板500上には、画素部501、第1の走査線駆動回路502、第2の走査線駆動回路503、信号線駆動回路504を有する。画素部501には、複数の信号線が信号線駆動回路504から延伸して配置され、複数の走査線が第1の走査線駆動回路502、及び走査線駆動回路503から延伸して配置されている。なお走査線と信号線との交差領域には、各々、表示素子を有する画素がマトリクス状に設けられている。また、表示装置の基板500はFPC(Flexible Printed Circuit)等の接続部を介して、タイミング制御回路(コントローラ、制御ICともいう)に接続されている。
【0155】
図29(A)では、第1の走査線駆動回路502、第2の走査線駆動回路503、信号線駆動回路504は、画素部501と同じ基板500上に形成される。そのため、外部に設ける駆動回路等の部品の数が減るので、コストの低減を図ることができる。また、基板500外部に駆動回路を設けた場合、配線を延伸させる必要が生じ、配線間の接続数が増える。同じ基板500上に駆動回路を設けた場合、その配線間の接続数を減らすことができ、信頼性の向上、又は歩留まりの向上を図ることができる。
【0156】
また、画素部の回路構成の一例を図29(B)に示す。ここでは、VA型液晶表示パネルの画素構造を示す。
【0157】
この画素構造は、一つの画素に複数の画素電極層が有り、それぞれの画素電極層にトランジスタが接続されている。各トランジスタは、異なるゲート信号で駆動されるように構成されている。すなわち、マルチドメイン設計された画素において、個々の画素電極層に印加する信号を、独立して制御する構成を有している。
【0158】
トランジスタ516のゲート配線512と、トランジスタ517のゲート配線513には、異なるゲート信号を与えることができるように分離されている。一方、データ線として機能するソース電極層又はドレイン電極層514は、トランジスタ516とトランジスタ517で共通に用いられている。トランジスタ516とトランジスタ517は先の実施の形態に示すトランジスタを適宜用いることができる。これにより、信頼性の高い液晶表示パネルを提供することができる。
【0159】
トランジスタ516と電気的に接続する第1の画素電極層と、トランジスタ517と電気的に接続する第2の画素電極層の形状は異なっており、スリットによって分離されている。V字型に広がる第1の画素電極層の外側を囲むように第2の画素電極層が形成されている。第1の画素電極層と第2の画素電極層に印加する電圧のタイミングを、トランジスタ516及びトランジスタ517により異ならせることで、液晶の配向を制御している。トランジスタ516はゲート配線512と接続し、トランジスタ517はゲート配線513と接続している。ゲート配線512とゲート配線513は異なるゲート信号を与えることで、トランジスタ516とトランジスタ517の動作タイミングを異ならせることができる。
【0160】
また、容量配線510と、誘電体として機能するゲート絶縁膜と、第1の画素電極層または第2の画素電極層と電気的に接続する容量電極とで保持容量を形成する。
【0161】
第1の画素電極層と液晶層と対向電極層が重なり合うことで、第1の液晶素子518が形成されている。また、第2の画素電極層と液晶層と対向電極層が重なり合うことで、第2の液晶素子519が形成されている。また、一画素に第1の液晶素子518と第2の液晶素子519が設けられたマルチドメイン構造である。
【0162】
なお、図29(B)に示す画素構成は、これに限定されない。例えば、図29(B)に示す画素に新たにスイッチ、抵抗素子、容量素子、トランジスタ、センサ、又は論理回路などを追加してもよい。
【0163】
また、画素部の回路構成の一例を図29(C)に示す。ここでは、有機EL素子を用いた表示パネルの画素構造を示す。
【0164】
有機EL素子は、発光素子に電圧を印加することにより、一対の電極から電子および正孔がそれぞれ発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そして、それらキャリア(電子および正孔)が再結合することにより、発光性の有機化合物が励起状態を形成し、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。このようなメカニズムから、このような発光素子は、電流励起型の発光素子と呼ばれる。
【0165】
図29(C)は、半導体装置の例としてデジタル時間階調駆動を適用可能な画素構成の一例を示す図である。
【0166】
デジタル時間階調駆動を適用可能な画素の構成及び画素の動作について説明する。ここでは酸化物半導体層をチャネル形成領域に用いるnチャネル型のトランジスタを1つの画素に2つ用いる例を示す。
【0167】
画素520は、スイッチング用トランジスタ521、駆動用トランジスタ522、発光素子524及び容量素子523を有している。スイッチング用トランジスタ521は、ゲート電極層が走査線526に接続され、第1電極(ソース電極層及びドレイン電極層の一方)が信号線525に接続され、第2電極(ソース電極層及びドレイン電極層の他方)が駆動用トランジスタ522のゲート電極層に接続されている。駆動用トランジスタ522は、ゲート電極層が容量素子523を介して電源線527に接続され、第1電極が電源線527に接続され、第2電極が発光素子524の第1電極(画素電極)に接続されている。発光素子524の第2電極は共通電極528に相当する。共通電極528は、同一基板上に形成される共通電位線と電気的に接続される。
【0168】
スイッチング用トランジスタ521および駆動用トランジスタ522は先の実施の形態に示すトランジスタを適宜用いることができる。これにより、信頼性の高い有機EL素子を用いた表示パネルを提供することができる。
【0169】
なお、発光素子524の第2電極(共通電極528)には低電源電位が設定されている。なお、低電源電位とは、電源線527に設定される高電源電位を基準にして低電源電位<高電源電位を満たす電位であり、低電源電位としては例えばGND、0Vなどが設定されていても良い。この高電源電位と低電源電位との電位差を発光素子524に印加して、発光素子524に電流を流して発光素子524を発光させるため、高電源電位と低電源電位との電位差が発光素子524の順方向しきい値電圧以上となるようにそれぞれの電位を設定する。
【0170】
なお、容量素子523は駆動用トランジスタ522のゲート容量を代用して省略することも可能である。駆動用トランジスタ522のゲート容量については、チャネル形成領域とゲート電極層との間で容量が形成されていてもよい。
【0171】
ここで、電圧入力電圧駆動方式の場合には、駆動用トランジスタ522のゲート電極層には、駆動用トランジスタ522が十分にオンするか、オフするかの二つの状態となるようなビデオ信号を入力する。つまり、駆動用トランジスタ522は線形領域で動作させる。駆動用トランジスタ522は線形領域で動作させるため、電源線527の電圧よりも高い電圧を駆動用トランジスタ522のゲート電極層にかける。なお、信号線525には、(電源線電圧+駆動用トランジスタ522のVth)以上の電圧をかける。
【0172】
また、デジタル時間階調駆動に代えて、アナログ階調駆動を行う場合、信号の入力を異ならせることで、図29(C)と同じ画素構成を用いることができる。
【0173】
アナログ階調駆動を行う場合、駆動用トランジスタ522のゲート電極層に発光素子524の順方向電圧+駆動用トランジスタ522のVth以上の電圧をかける。発光素子524の順方向電圧とは、所望の輝度とする場合の電圧を指しており、少なくとも順方向しきい値電圧を含む。なお、駆動用トランジスタ522が飽和領域で動作するようなビデオ信号を入力することで、発光素子524に電流を流すことができる。駆動用トランジスタ522を飽和領域で動作させるため、電源線527の電位は、駆動用トランジスタ522のゲート電位よりも高くする。ビデオ信号をアナログとすることで、発光素子524にビデオ信号に応じた電流を流し、アナログ階調駆動を行うことができる。
【0174】
なお、図29(C)に示す画素構成は、これに限定されない。例えば、図29(C)に示す画素に新たにスイッチ、抵抗素子、容量素子、センサ、トランジスタ又は論理回路などを追加してもよい。
【0175】
(実施の形態5)
本明細書に開示する半導体装置は、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、例えば、テレビジョン装置(テレビ、またはテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等のカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。上記実施の形態で説明した表示装置を具備する電子機器の例について説明する。
【0176】
図30(A)は、携帯型の情報端末であり、本体1001、筐体1002、表示部1003a、1003bなどによって構成されている。表示部1003bはタッチパネルとなっており、表示部1003bに表示されるキーボードボタン1004を触れることで画面操作や、文字入力を行うことができる。勿論、表示部1003aをタッチパネルとして構成してもよい。先の実施の形態で示したトランジスタをスイッチング素子として液晶パネルや有機発光パネルを作製して表示部1003a、1003bに適用することにより、信頼性の高い携帯型の情報端末とすることができる。
【0177】
図30(A)に示す携帯型の情報端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報を操作又は編集する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。
【0178】
また、図30(A)に示す携帯型の情報端末は、無線で情報を送受信できる構成としてもよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロードする構成とすることも可能である。
【0179】
図30(B)は、携帯音楽プレイヤーであり、本体1021には表示部1023と、耳に装着するための固定部1022と、スピーカ、操作ボタン1024、外部メモリスロット1025等が設けられている。先の実施の形態で示したトランジスタをスイッチング素子として液晶パネルや有機発光パネルを作製して表示部1023に適用することにより、より信頼性の高い携帯音楽プレイヤーとすることができる。
【0180】
さらに、図30(B)に示す携帯音楽プレイヤーにアンテナやマイク機能や無線機能を持たせ、携帯電話と連携させれば、乗用車などを運転しながらワイヤレスによるハンズフリーでの会話も可能である。
【0181】
図30(C)は、携帯電話であり、筐体1030及び筐体1031の二つの筐体で構成されている。筐体1031には、表示パネル1032、スピーカー1033、マイクロフォン1034、ポインティングデバイス1036、カメラ用レンズ1037、外部接続端子1038などを備えている。また、筐体1030には、携帯電話の充電を行う太陽電池セル1040、外部メモリスロット1041などを備えている。また、アンテナは筐体1031内部に内蔵されている。先の実施の形態で示したトランジスタを表示パネル1032に適用することにより、信頼性の高い携帯電話とすることができる。
【0182】
また、表示パネル1032はタッチパネルを備えており、図30(C)には映像表示されている複数の操作キー1035を点線で示している。なお、太陽電池セル1040で出力される電圧を各回路に必要な電圧に昇圧するための昇圧回路も実装している。
【0183】
例えば、昇圧回路などの電源回路に用いられるパワートランジスタも先の実施の形態に示したトランジスタの酸化物半導体膜の膜厚を2μm以上50μm以下とすることで形成することができる。
【0184】
表示パネル1032は、使用形態に応じて表示の方向が適宜変化する。また、表示パネル1032と同一面上にカメラ用レンズ1037を備えているため、テレビ電話が可能である。スピーカー1033及びマイクロフォン1034は音声通話に限らず、テレビ電話、録音、再生などが可能である。さらに、筐体1030と筐体1031は、スライドし、図30(C)のように展開している状態から重なり合った状態とすることができ、携帯に適した小型化が可能である。
【0185】
外部接続端子1038はACアダプタ及びUSBケーブルなどの各種ケーブルと接続可能であり、充電及びパーソナルコンピュータなどとのデータ通信が可能である。また、外部メモリスロット1041に記録媒体を挿入し、より大量のデータ保存及び移動に対応できる。
【0186】
また、上記機能に加えて、赤外線通信機能、テレビ受信機能などを備えたものであってもよい。
【0187】
図30(D)は、テレビジョン装置の一例を示している。テレビジョン装置1050は、筐体1051に表示部1053が組み込まれている。表示部1053により、映像を表示することが可能である。また、ここでは、CPUを内蔵したスタンド1055により筐体1051を支持した構成を示している。先の実施の形態で示したトランジスタを表示部1053に適用することにより、信頼性の高いテレビジョン装置1050とすることができる。
【0188】
テレビジョン装置1050の操作は、筐体1051が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機により行うことができる。また、リモコン操作機に、当該リモコン操作機から出力する情報を表示する表示部を設ける構成としてもよい。
【0189】
なお、テレビジョン装置1050は、受信機やモデムなどを備えた構成とする。受信機により一般のテレビ放送の受信を行うことができ、さらにモデムを介して有線または無線による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)または双方向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信を行うことも可能である。
【0190】
また、テレビジョン装置1050は、外部接続端子1054や、記憶媒体再生録画部1052、外部メモリスロットを備えている。外部接続端子1054は、USBケーブルなどの各種ケーブルと接続可能であり、パーソナルコンピュータなどとのデータ通信が可能である。記憶媒体再生録画部1052では、ディスク状の記録媒体を挿入し、記録媒体に記憶されているデータの読み出し、記録媒体への書き込みが可能である。また、外部メモリスロットに差し込まれた外部メモリ1056にデータ保存されている画像や映像などを表示部1053に映し出すことも可能である。
【0191】
また、先の実施の形態で示した半導体装置を外部メモリ1056やCPUに適用することにより、消費電力が十分に低減された信頼性の高いテレビジョン装置1050とすることができる。
【実施例】
【0192】
本実施例においては、各種測定方法を用い、本発明に係る酸化物半導体膜または当該酸化物半導体膜を用いた半導体装置について測定を行った結果について説明する。
【0193】
<1.TEMを用いたTEM像の観察と電子線回折強度の測定、およびXRD測定>
本項目では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を作製し、当該酸化物半導体膜を透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscope)を用いて観察した結果について説明する。
【0194】
本項目では、スパッタリング法を用いて石英基板上に酸化物半導体膜を成膜し、サンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルDおよびサンプルEを作製した。サンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルDおよびサンプルEの成膜時の基板温度は、それぞれ室温、200℃、250℃、300℃および400℃とした。つまり、サンプルAおよびサンプルBは実施の形態2に示す成膜方法より成膜時の基板温度を低くし、サンプルC乃至サンプルEは実施の形態2に示す成膜方法に記載された範囲の基板温度とした。酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kWとした。なお、サンプルA、サンプルBおよびサンプルEは膜厚50nmを狙って成膜し、サンプルCおよびサンプルDは膜厚100nmを狙って成膜した。
【0195】
さらに酸化物半導体膜の成膜後、当該酸化物半導体膜を成膜した石英基板に加熱処理を行った。加熱処理は、露点−24℃の乾燥雰囲気下において、加熱温度450℃、加熱時間1時間で行った。このようにして、酸化物半導体膜を石英基板上に成膜した、サンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルDおよびサンプルEを作製した。
【0196】
また、サンプルA乃至サンプルEとは異なり、実施の形態2に示す2step法を用いて酸化物半導体膜を成膜したサンプルFを作製した。サンプルFは、まず膜厚5nmの第1の酸化物半導体膜を成膜し、第1の酸化物半導体膜に第1の加熱処理を行い、第1の酸化物半導体膜上に膜厚30nmの第2の酸化物半導体膜を成膜し、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜に第2の加熱処理を行って作製した。
【0197】
ここで、第1の酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kWとした。また、第1の加熱処理の条件は、窒素雰囲気下、加熱温度650℃、加熱時間1時間とした。
【0198】
また、第2の酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kWとした。また、第2の加熱処理の条件は、露点−24℃の乾燥雰囲気下で、加熱温度650℃、加熱時間1時間とした。
【0199】
このようにして、2step法を用いて酸化物半導体膜を石英基板上に成膜した、サンプルFを作製した。
【0200】
また、サンプルA乃至サンプルFの比較対象として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板上にIGZOの単結晶膜を膜厚150nmで成膜した、サンプルGを作製した。
【0201】
以上のサンプルA乃至サンプルGについて、TEMを用いて酸化物半導体膜が成膜された基板に対して垂直に、つまり、先の実施の形態におけるc軸方向に平行に電子線を照射してTEM像および電子線回折パターンの撮影を行った。図13(A)乃至図13(E)にサンプルA乃至サンプルEの断面TEM像を、それぞれ示す。ここで、図13に示す断面TEM像は、紙面の上側がサンプルの表面方向となるので、紙面の縦方向がc軸方向となる。また、図14(A)乃至図14(E)にサンプルA乃至サンプルEの平面TEM像を、それぞれ示す。ここで、図14に示す平面TEM像は、紙面の表側がサンプルの表面方向となるので、紙面の垂直な方向がc軸方向となる。また、図15(A)乃至図15(E)にサンプルA乃至サンプルEの電子線回折パターンを、それぞれ示す。ここで、図15に示す電子線回折パターンは、紙面の表側がサンプルの表面方向となるので、紙面の垂直な方向がc軸方向となる。また、図16(A)および図16(B)にサンプルFおよびサンプルGの平面TEM像を、それぞれ示す。図16(C)にサンプルFの電子線回折パターンを示す。図16(D)および図16(E)にサンプルGの電子線回折パターンを示す。ここで、図16に示す平面TEM像および電子線回折パターンは、紙面の表側がサンプルの表面方向となるので、紙面の垂直な方向がc軸方向となる。
【0202】
なお、本項目において、断面TEM像、平面TEM像および電子線回折パターンは、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H−9000NARを用い、電子ビームのスポット径を1nmとし、加速電圧を300kVとして撮影した。
【0203】
図13(C)乃至図13(E)に示す断面TEM像では、c軸が配向した結晶性を有する領域が観察されたが、図13(A)および図13(B)に示す断面TEM像おいては、c軸が配向した結晶性を有する領域が明瞭には観察されなかった。よって、酸化物半導体膜の成膜時基板温度を200℃より大きく、好ましくは250℃以上にすることで、c軸が配向した結晶性を有する領域が酸化物半導体膜中に形成されることが分かる。また、図13(C)乃至図13(E)の順番にc軸が配向した結晶性を有する領域が明瞭に見られるので、酸化物半導体膜の成膜時基板温度が高くなるほど、酸化物半導体膜の結晶性が高くなることが推測される。
【0204】
図14(E)に示す平面TEM像では、六角形の格子状に配置された原子が観察された。また、図14(C)および図14(D)に示す平面TEM像においても、六角形の格子状に配置された原子が淡く観察された。図14(A)および図14(B)に示す平面TEM像においては、六角形の格子状に配置された原子が明瞭には観察されなかった。また、図16(A)および図16(B)に示す平面TEM像でも、六角形の格子状に配置された原子が観察された。このことから、酸化物半導体膜のc軸が配向した結晶性を有する領域は、図2に示すような、三回対称性を有する六方晶構造を取りやすいことが推測される。また、2step法を用いて作製されたサンプルFもサンプルC乃至サンプルEと同様に結晶性を有する領域が酸化物半導体膜中に形成されていることが分かった。また、図13の断面TEM像の観察結果と同様に、酸化物半導体膜の成膜時基板温度が高くなるほど、酸化物半導体膜の結晶性が高くなることが推測される。以上の図13および図14の観察から、サンプルAおよびサンプルBはほとんど結晶性を持たないアモルファス構造の酸化物半導体膜であり、サンプルC乃至サンプルFはc軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜であることが分かる。
【0205】
図15(A)乃至図15(E)に示す電子線回折パターンは、回折パターンの幅が広くぼやけている同心円状のハローパターンとなっており、内側のハローパターンより外側のハローパターンの方が電子線回折強度が弱くなっている。さらに、図15(A)乃至図15(E)の順番に外側のハローパターンの電子線回折強度が強くなっている傾向が観測される。また、図16(C)に示す電子線回折パターンも同心円状のハローパターンとなるが、図15(A)乃至図15(E)と比較すると、ハローパターンの幅が細く、内側のハローパターンと外側のハローパターンの電子線回折強度がほぼ同等になっている。
【0206】
また、図16(D)に示す電子線回折パターンは、図15(A)乃至図15(E)および図16(C)とは異なり、スポット状の電子線回折パターンが現れる。図16(D)に示す電子線回折パターンに画像処理を行い、同心円状のパターンにしたものが図16(E)であるが、図15(A)乃至図15(E)および図16(C)とは異なり、同心円のパターンの幅が狭いのでハロー状にはならない。また、内側の同心円状のパターンより外側の同心円状のパターンの方が電子線回折強度が強くなっている点においても、図15(A)乃至図15(E)および図16(C)に示す電子線回折パターンとは異なる。
【0207】
図17にサンプルA乃至サンプルGの電子線回折強度のグラフを示す。図17に示すグラフは、縦軸に電子線回折強度(任意単位)をとり、横軸にサンプルの散乱ベクトルの大きさ(1/d[1/nm])をとる。なお、散乱ベクトルの大きさ(1/d[1/nm])のdは結晶中においては結晶の面間隔に相当する。ここで散乱ベクトルの大きさ(1/d)は、電子線回折パターンのフィルムにおける、中心の透過波の斑点から回折波の同心円状のパターンまでの距離rと、TEMにおけるサンプルとフィルム間の距離であるカメラ長Lと、TEMで照射した電子線の波長λを用いて以下の式で表すことができる。
【0208】
【数1】

【0209】
つまり、図17の横軸に示す散乱ベクトルの大きさ(1/d)は、図15(A)乃至図15(E)、図16(C)および図16(E)に示す電子線回折パターンにおける、中心の透過波の斑点から回折波の同心円状のパターンまでの距離rに比例する量である。
【0210】
つまり、図17に示すグラフにおいて、図15(A)乃至図15(E)、図16(C)および図16(E)に示す電子線回折パターンにおける内側のハローパターンに対応するピークは、3.3nm−1≦1/d≦4.1nm−1における第1ピークであり、外側のハローパターンに対応するピークは、5.5nm−1≦1/d≦7.1nm−1における第2ピークである。
【0211】
図18および図19にサンプルA乃至サンプルGの第1ピークおよび第2ピークの半値全幅のグラフを示す。図18に示すグラフは、縦軸に第1ピークの半値全幅FWHM(nm−1)をとり、横軸にサンプルA乃至サンプルEの成膜時基板温度(℃)をとっている。また、図18のグラフ中の点線はそれぞれ、サンプルFおよびサンプルGの第1ピークの半値全幅の値を示している。図19に示すグラフも、図18と同様に第2ピークの半値全幅を表している。また、図18および図19に示す第1ピークおよび第2ピークのピーク位置(nm−1)と半値全幅(nm−1)をまとめた表を表1に示す。
【0212】
【表1】

【0213】
図18および図19より、第1ピーク、第2ピーク共に、酸化物半導体膜の成膜時基板温度が高くなるにつれて、ピークの半値全幅が小さくなり、ピーク位置が小さくなる傾向が示された。また、第1ピーク、第2ピーク共に、成膜時基板温度が300℃から400℃にかけてはピークの半値全幅が大きく変わらないことが示された。さらに、第1ピーク、第2ピーク共に、2step法を用いて形成されたサンプルFの半値全幅およびピーク位置は、サンプルA乃至サンプルEの半値全幅およびピーク位置より小さく、単結晶であるサンプルGの半値全幅およびピーク位置より大きかった。
【0214】
c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、単結晶構造であるサンプルGとは結晶性が異なるので、c軸方向から電子線を照射した電子線回折強度測定において、第1ピークおよび第2ピークにおける半値全幅が0.2nm−1以上であり、好ましくは第1ピークの半値全幅が0.4nm−1以上、第2ピークの半値全幅が0.45nm−1以上であると言える。
【0215】
さらに、図13および図14から、サンプルAおよびサンプルB、つまり成膜時基板温度が200℃以下の酸化物半導体膜は明瞭な結晶性が見られなかったことを考慮すると、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、c軸方向から電子線を照射した電子線回折強度測定において、第1ピークの半値全幅が0.7nm−1以下、第2ピークの半値全幅が1.4nm−1以下であることが好ましいと言える。
【0216】
また、サンプルA、サンプルEおよびサンプルGについてさらにX線回折(XRD:X−ray diffraction)測定を行い、上記のTEMによる測定結果を補強する測定結果が得られた。
【0217】
図20にサンプルAおよびサンプルEについて、out−of−plane法を用いてXRDスペクトルを測定した結果を示す。図20は、縦軸にx線回折強度(任意単位)をとり、横軸に回転角2θ(deg.)をとる。
【0218】
図20より、サンプルEでは2θ=30°近傍に強いピークが見られるのに対して、サンプルAでは2θ=30°近傍にほとんどピークが見られないことが分かる。当該ピークはIGZO結晶の(009)面における回折に起因するものである。このことからも、サンプルEはc軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜であり、アモルファス構造であるサンプルAとは明確に異なることが分かる。
【0219】
また、図21(A)にサンプルEについてin−plane法を用いてXRDスペクトルを測定した結果を示す。同様に図21(B)にサンプルGについてin−plane法を用いてXRDスペクトルを測定した結果を示す。図21(A)および図21(B)は、縦軸にx線回折強度(任意単位)をとり、横軸に回転角φ(deg.)をとる。なお、本実施例で用いたin−plane法においては、サンプルのc軸方向を回転の軸としてサンプルを回転角φで回転させながらXRD測定を行った。
【0220】
図21(B)に示すサンプルGのXRDスペクトルは、ちょうど回転角60°ごとに等間隔のピークが現れており、サンプルGが6回対称性を有する単結晶膜であることを示している。それに対して、図21(A)に示すサンプルEのXRDスペクトルは規則正しいピークを持っておらず、結晶性を有する領域のa−b面方向の配向は見られないことが分かる。すなわち、サンプルEは、個々の結晶性を有する領域において、c軸に対して結晶化しているが、a−b面に対しては必ずしも配列していない。このことからも、サンプルEはc軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜であるが、単結晶構造であるサンプルGとは明確に異なることが分かる。
【0221】
以上より、本発明に係る、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、アモルファス構造の酸化物半導体膜とも、単結晶構造の酸化物半導体膜とも明確に異なる結晶性を有すると言うことができる。
【0222】
以上に示すようなc軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、全体が非晶質構造の酸化物半導体膜と比較して良好な結晶性を有するので、酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などの不純物が低減されている。これらの酸素欠陥に代表されるような欠陥や、ダングリングボンドなどに結合する水素などは、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源のように機能するため、当該酸化物半導体膜の電気伝導度が変動する原因となりうる。よって、これらが低減されている、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、電気伝導度が安定しており、可視光や紫外光などの照射に対してもより電気的に安定な構造を有する。このような結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜をトランジスタに用いることによって、安定した電気的特性を有する、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0223】
<2.ESR測定>
本項目では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を作製し、当該酸化物半導体膜を電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)法を用いて評価した結果について説明する。
【0224】
本項目では、スパッタリング法を用いて石英基板上に酸化物半導体膜を成膜したサンプルHと、さらに、当該酸化物半導体膜を成膜した石英基板に加熱処理を行ったサンプルIを作製した。酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、成膜時基板温度400℃、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kW、膜厚100nmとした。
【0225】
サンプルIについては、さらに酸化物半導体膜の成膜後、当該酸化物半導体膜を成膜した石英基板に加熱処理を行った。加熱処理は、露点−24℃の乾燥雰囲気下において、加熱温度450℃、加熱時間1時間で行った。このようにして、酸化物半導体膜を石英基板上に成膜した、サンプルHおよびサンプルIを作製した。
【0226】
本項目においては、以上のサンプルHおよびサンプルIについて、ESR測定を行う。ESR測定はゼーマン効果を利用した物質中の孤立電子の測定方法である。サンプルに特定の振動数νのマイクロ波を照射しながら、サンプルにかかる磁場Hを掃引することによって、特定の磁場Hにおいてサンプル中の孤立電子がマイクロ波を吸収して、磁場に平行なスピンのエネルギー準位から磁場に反平行なスピンのエネルギー準位に遷移する。このときサンプル中の孤立電子に吸収されるマイクロ波の振動数νとサンプルにかかる磁場Hの関係は以下の式で表すことができる。
【0227】
【数2】

【0228】
ここで、hはプランク定数、μはボーア磁子である。そしてgはg値と呼ばれる係数であり、物質中の孤立電子にかかる局所磁場に応じて変化する、つまり、上式からg値を求めることにより、ダングリングボンドなどの孤立電子の環境を知ることができる。
【0229】
本実施例において、ESR測定はブルカー社製E500を用いて行い、測定条件は、測定温度を室温とし、マイクロ波周波数9.5GHz、マイクロ波電力0.2mWとした。
【0230】
以上のサンプルHおよびサンプルIについて、ESR測定を行った結果を図22のグラフに示す。図22に示すグラフは、縦軸にマイクロ波の吸収強度の一次微分をとり、横軸にg値をとる。
【0231】
図22のグラフに示すように、サンプルIではマイクロ波の吸収に対応するシグナルは観測されなかったが、サンプルHではg=1.93近傍においてマイクロ波の吸収に対応するシグナルが観測された。g=1.93近傍のシグナルの積分値を計算することにより、当該マイクロ波の吸収に対応する孤立電子のスピン密度1.3×1018(spins/cm)が求められる。なお、サンプルIにおいては、マイクロ波の吸収が検出下限以下ということになるので、サンプルIの孤立電子のスピン密度は1×1016(spins/cm)以下となる。
【0232】
ここで、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜中においてg=1.93の近傍のシグナルがどのようなダングリングボンドに帰属するかを調べるために量子化学計算を行った。具体的な計算手法としては、金属原子が酸素欠陥に対応するダングリングボンドを有するようなクラスターモデルを作って構造最適化を行い、構造最適化されたモデルについてg値の計算を行った。
【0233】
モデルの構造最適化および構造最適化されたモデルのg値の計算にはADF(Amsterdam Density Functional software)を用いた。また、モデルの構造最適化および構造最適化されたモデルのg値の計算共に、汎関数にはGGA:BPを、基底関数にはTZ2Pを用いた。また、Core Typeとして、モデルの構造最適化にはLargeを、g値の計算にはNoneを用いている。
【0234】
上述の量子化学計算によって求めた、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体膜中におけるダングリングボンドのモデルを図23に示す。図23は、インジウム−酸素結合の酸素欠陥によるダングリングボンド(g=1.984)と、ガリウム−酸素結合の酸素欠陥によるダングリングボンド(g=1.995)と、亜鉛−酸素結合の酸素欠陥によるダングリングボンド(g=1.996)とを示している。これらのダングリングボンドのg値は、サンプルHのマイクロ波の吸収に対応するシグナルのg=1.93に比較的近い値となっている。つまり、サンプルHにおいて、インジウム、ガリウムまたは亜鉛のいずれか一または複数と酸素との結合に酸素欠陥が発生した可能性が示唆されている。
【0235】
しかし、サンプルIにおいてはg=1.93近傍にマイクロ波の吸収に対応するシグナルが現れていない。これは、酸化物半導体膜の成膜後に乾燥雰囲気下で加熱処理を行うことにより、酸素欠陥に酸素が補充されたということを示唆している。上述の実施の形態において述べたように、酸化物半導体膜中の酸素欠陥は電気伝導度を変化させるキャリアとして機能しうるので、当該酸素欠陥を低減することにより、酸化物半導体膜を用いたトランジスタの信頼性を向上させることができる。
【0236】
よって、本発明の一態様に係る、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜は、成膜後に加熱処理を行い、酸素欠陥に酸素を補充することが好ましく、ESR測定におけるg=1.93近傍のスピン密度が1.3×1018(spins/cm)より小さいことが好ましく、さらに、スピン密度が1×1016(spins/cm)以下となることがより好ましい。
【0237】
<3.低温PL測定>
本項目では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を作製し、当該酸化物半導体膜を低温フォトルミネッセンス(PL:photoluminescence)測定を用いて評価した結果について説明する。
【0238】
本項目では、スパッタリング法を用いて石英基板上に、成膜時の基板温度200℃で酸化物半導体膜を成膜したサンプルJと、成膜時の基板温度400℃で酸化物半導体膜を成膜したサンプルKを作製した。つまり、サンプルJはc軸が配向した結晶性を有する領域を含まない酸化物半導体膜であり、サンプルKはc軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜である。酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kW、膜厚100nmとした。
【0239】
さらに酸化物半導体膜の成膜後、サンプルJおよびサンプルKともに、当該酸化物半導体膜を成膜した石英基板に加熱処理を行った。加熱処理は、露点−24℃の乾燥雰囲気下において、加熱温度450℃、加熱時間1時間で行った。このようにして、酸化物半導体膜を石英基板上に成膜した、サンプルJおよびサンプルKを作製した。
【0240】
本項目においては、以上のサンプルJおよびサンプルKについて、低温PL測定を行う。低温PL測定では、極低温雰囲気下で励起光をサンプルに照射してエネルギーを与えて、サンプル中に電子と正孔を生じさせながら、励起光の照射を止めて、励起光照射により生じた電子と正孔が再結合することによる発光をCCD(Charge Coupled Device)などを用いて検出する。
【0241】
本実施例において、低温PL測定はヘリウムガス雰囲気において測定温度を10Kとして行った。励起光は、He−Cdガスレーザ発振器を用いて、波長325nmの光を照射した。また、発光の検出にはCCDを用いた。
【0242】
サンプルJおよびサンプルKについて、低温PL測定で検出した発光スペクトルを図24のグラフに示す。図24に示すグラフは、縦軸にPL発光検出カウント(counts)をとり、横軸に検出した発光のエネルギー(eV)をとる。
【0243】
図24のグラフより、サンプルJ、サンプルKともに発光エネルギー1.8eV近傍にピークを持つが、サンプルJよりサンプルKの方がPL発光検出カウント数が100程度少ないことが分かる。なお、サンプルJおよびサンプルKの発光エネルギー3.2eV近傍のピークは、低温PL測定装置の石英窓に由来するものである。
【0244】
ここで、図24のグラフに示す1.8eV近傍のピークは、当該酸化物半導体膜のバンド構造において伝導帯下端から1.8eV程度の深さにエネルギー準位が存在していることを示唆している。このバンドギャップ中の深いエネルギー準位は、図3の電子状態密度計算の結果に示す、酸素欠陥に起因するトラップ準位と符合している。よって、図24のグラフに示す1.8eV近傍の発光ピークは、図4に示すバンドダイアグラム中の酸素欠陥に起因するトラップ準位のエネルギー準位を表していると考えることができる。つまり、サンプルKにおいて1.8eV近傍の発光検出カウント数がサンプルJより少ないということは、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜の方が、酸素欠陥に起因するトラップ準位の数が低減されている、つまり、酸素欠陥の数が低減されていることが考えられる。
【0245】
<4.光負バイアス劣化測定>
本実施例では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を用いたトランジスタを作製し、当該トランジスタに光を照射しながらゲートに負電圧を印加してストレスを与え、ストレスを与えた時間に応じて変化するトランジスタのしきい値電圧を評価した結果について説明する。なお、このようなストレスによりトランジスタのしきい値電圧などが変化することを光負バイアス劣化という。
【0246】
本項目では、先の実施の形態に示す、c軸が配向した結晶性を有する領域が形成された酸化物半導体膜を設けたトランジスタ(サンプルL)と、比較例としてサンプルLと同様の材料からなるが、c軸が配向した結晶性を有する領域が形成されていない酸化物半導体膜を設けたトランジスタ(サンプルM)と、を作製した。そしてサンプルLおよびサンプルMに光を照射しながらゲートに負電圧を印加してストレスを与え、ストレスを与えた時間に応じて変化するサンプルLおよびサンプルMのしきい値電圧Vthを評価した。以下にサンプルLおよびサンプルMの作製方法について説明する。
【0247】
まず、プラズマCVD法を用いて、下地膜として膜厚100nmの窒化シリコン膜、および膜厚150nmの酸化窒化シリコン膜を連続してガラス基板上に成膜し、続いて酸化窒化シリコン膜上に、スパッタリング法を用いて膜厚100nmのタングステン膜を成膜した。ここで、タングステン膜を選択的にエッチングすることにより、テーパー形状を有するゲート電極を形成した。それから、ゲート電極上に、プラズマCVD法を用いてゲート絶縁膜として膜厚100nmの酸化窒化シリコン膜を成膜した。
【0248】
次に、ゲート絶縁膜上にスパッタリング法を用いて酸化物半導体膜を成膜した。ここで、サンプルLの酸化物半導体膜は、種結晶として機能する膜厚5nmの酸化物半導体膜上に膜厚30nmの酸化物半導体膜を積層して、c軸が配向した結晶性を有する領域が形成されるように加熱処理を行って形成される。サンプルMの酸化物半導体膜は、膜厚25nmの酸化物半導体膜に加熱処理を行って形成される。
【0249】
まず、サンプルLの酸化物半導体膜の作製方法について説明する。種結晶として機能する酸化物半導体膜はスパッタリング法を用いて成膜し、成膜ターゲットとして、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜時の基板温度200℃、成膜ガス流量の割合を酸素ガス50%、アルゴンガス50%とし、圧力0.6Pa、基板−ターゲット間距離100mm、直流(DC)電源5kW、膜厚5nmとした。成膜後、窒素雰囲気下で加熱温度450℃、加熱時間1時間で加熱処理を行い、種結晶として機能する酸化物半導体膜の結晶化を行った。それから、種結晶として機能する酸化物半導体膜上に、スパッタリング法を用いて膜厚30nmの酸化物半導体膜を、種結晶として機能する酸化物半導体膜と同じ成膜条件で成膜し、オーブンを用いて窒素雰囲気下で加熱温度450℃、加熱時間1時間で加熱処理を行い、さらに窒素と酸素の混合雰囲気下で加熱温度450℃、加熱時間1時間で加熱処理を行って、c軸が配向した結晶性を有する領域が形成された酸化物半導体膜を成膜した。
【0250】
また、サンプルMの酸化物半導体膜もスパッタリング法を用いて成膜し、成膜ターゲットとして、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜時の基板温度200℃、成膜ガス流量の割合を酸素ガス50%、アルゴンガス50%とし、圧力0.6Pa、基板−ターゲット間距離100mm、直流(DC)電源5kW、膜厚25nmとした。成膜後、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて窒素雰囲気下で加熱温度650℃、加熱時間6分間で加熱処理を行い、さらにオーブンを用いて窒素と酸素の混合雰囲気下で加熱温度450℃、加熱時間1時間で加熱処理を行って、c軸が配向した結晶性を有する領域が形成されていない酸化物半導体膜を成膜した。
【0251】
次に、酸化物半導体膜上に、チタン膜とアルミニウム膜とチタン膜を積層した導電膜を、スパッタリング法を用いて成膜し、当該導電膜を選択的にエッチングしてソース電極およびドレイン電極を形成した。それから第1の層間絶縁膜として膜厚400nmの酸化シリコン膜を成膜した。さらに、第2の層間絶縁膜として膜厚1.5μmのアクリル樹脂からなる絶縁膜を成膜した。最後に窒素雰囲気下で加熱温度250℃、加熱時間1時間で加熱処理を行って、サンプルLおよびサンプルMを作製した。
【0252】
以上のサンプルLおよびサンプルMについて、光を照射しながらゲートに負電圧を印加してストレスを与え、ストレス時間に応じてサンプルLおよびサンプルMのId−Vg特性を測定し、ストレスを与える前後のしきい値電圧の変化量を求めた。
【0253】
上記ストレスは、室温の大気雰囲気下で与え、ゲート電圧を−20V、ドレイン電圧を0.1V、ソース電圧を0Vとし、照射光の照度を36000(lx)とした。ストレス時間は、100秒、300秒、600秒、1000秒、1800秒、3600秒、7200秒、10000秒、18000秒、43200秒(12時間)としてサンプルLおよびサンプルMのId−Vg特性の測定を行った。Id−Vg特性を測定する際は、ドレイン電圧を+10Vとして、ゲート電圧を−10Vから+10Vの範囲で掃引し、他の条件はストレスを与えているときと同様にした。
【0254】
図25にサンプルLおよびサンプルMのしきい値電圧の変化量のグラフを示す。図25に示すグラフは、縦軸にしきい値電圧の変化量ΔVth(V)をとり、横軸にストレス時間(sec)をとる。
【0255】
図25より、サンプルLのしきい値電圧の変化量ΔVthは最大で−1V程度であるのに対して、サンプルMのしきい値電圧の変化量ΔVthの変動は最大で−2V程度もあり、サンプルLのしきい値電圧の変化量ΔVthはサンプルMの約半分に低減されている。
【0256】
これにより、膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域が形成された酸化物半導体膜を用いたトランジスタは、光照射やゲート電圧のストレスに対してより安定した電気的特性を有し、信頼性が向上していることが示された。
【0257】
<5.光応答欠陥評価法による測定>
本項目では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を用いたトランジスタを作製し、当該トランジスタに光応答欠陥評価法を用いて酸化物半導体膜の光照射に対する安定性を評価した結果について説明する。
【0258】
本項目では、サンプルLおよびサンプルMと同様の方法を用いて作製したサンプルNおよびサンプルOを用いて光応答欠陥評価法を行った。光応答欠陥評価法とは、半導体膜に光照射を行うことにより流れる電流(光電流)の緩和を測定し、光電流の緩和のグラフを指数関数の線形結合で表される式でフィッティングして緩和時間τを求め、緩和時間τから当該半導体膜中の欠陥を評価する方法である。
【0259】
ここで、早い応答に対応する緩和時間τと、遅い応答に対応する緩和時間τ(τ>τ)を用いて、電流IDを2項の指数関数の線形結合で表すと、以下の式となる。
【0260】
【数3】

【0261】
本項目に示す光応答欠陥評価法においては、60秒の暗状態の後、照射光を600秒照射し、照射光を止めて3000秒光電流の緩和を測定した。照射光は、波長400nm、強度3.5mW/cmとし、サンプルNおよびサンプルOのゲート電極およびソース電極は0Vに固定し、ドレイン電極に0.1Vの微小電圧を印加して光電流の電流値を測定した。なお、サンプルNおよびサンプルOのチャネル長Lとチャネル幅Wは、L/W=30μm/10000μmとした。
【0262】
図26(A)および図26(B)にサンプルNおよびサンプルOの光応答欠陥評価法における光電流の変化のグラフを示す。図26(A)および図26(B)に示すグラフは、縦軸に光電流IDをとり、横軸に経過時間t(sec)をとる。また、図26(A)および図26(B)に示すグラフを指数関数の線形結合で表される式でフィッティングすると、以下の式で表される。
【0263】
【数4】

【0264】
【数5】

【0265】
図26(A)および図26(B)より、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を有するサンプルNの方がサンプルOより、光電流の最大値が小さく、緩和時間τと緩和時間τも短かった。ここで、サンプルNの光電流の最大値Imaxは6.2×10−11Aであり、緩和時間τは0.3秒、緩和時間τは39秒であった。それに対して、サンプルOの光電流の最大値Imaxは8.0×10−9Aであり、緩和時間τは3.9秒、緩和時間τは98秒であった。
【0266】
サンプルN、サンプルOともに少なくとも2種類の緩和時間からなる指数関数の線形結合により、光電流IDの緩和をフィッティングできることが示された。これは、サンプルN、サンプルOともに光電流IDの緩和は、2種類以上の緩和過程を有することを示唆している。これは、図5(A)および図5(B)に示す、2種類の再結合モデルによる光電流の緩和過程と符合する。つまり、先の実施の形態で図5で示したバンド図のように、酸化物半導体のバンドギャップ中にトラップ準位が存在することが示唆されている。
【0267】
さらに、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜であるサンプルNの方が、サンプルOより緩和時間τおよび緩和時間τも短くなった。これは、図5(A)および図5(B)に示す再結合モデルにおいて、酸素欠陥に起因するトラップ準位がサンプルNの方が少なくなったことを示唆している。つまり、c軸が配向した結晶性を有する領域が含まれることにより、トラップ準位として機能しうる酸化物半導体膜中の欠陥が減少されたためであると考えることができる。
【0268】
以上より、酸化物半導体膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域が形成されることにより、光照射に対してより安定な構造を取るようになることが分かった。よって、このような酸化物半導体膜をトランジスタに用いることで安定した電気的特性を有する、信頼性の高いトランジスタを提供することができる。
【0269】
<6.TDS分析>
本項目では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を作製し、当該酸化物半導体膜をTDS(Thermal Desorption Spectroscopy)分析を用いて評価した結果について説明する。
【0270】
本項目では、スパッタリング法を用いて石英基板上に酸化物半導体膜を成膜し、成膜時の基板温度が室温のサンプルP1と、成膜時の基板温度100℃のサンプルP2と、成膜時の基板温度200℃のサンプルP3と、成膜時の基板温度300℃のサンプルP4と、成膜時の基板温度400℃のサンプルP5を作製した。ここで、サンプルP1、サンプルP2およびサンプルP3は、c軸が配向した結晶性を有する領域を含まない酸化物半導体膜であり、サンプルP4およびサンプルP5は、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜である。酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kW、膜厚50nmとした。なお、石英基板については、TDS分析時に基板からの脱離ガスの要因を低減するために、予め乾燥雰囲気で850℃の熱処理を行った。
【0271】
TDS分析とは、真空容器内のサンプルをハロゲンランプで加熱し、昇温中にサンプル全体から発生するガス成分を四重極質量分析計(QMS:Quardrupole Mass Spectrometer)で検出する分析手法である。検出されるガス成分はM/z(質量/電荷)で区別され、質量スペクトルとして検出される。
【0272】
本実施例において、TDS分析は電子科学株式会社製WA1000Sを用いて行った。測定条件は、SEM電圧1500V、基板表面温度は室温から400℃、真空度1.5×10−7Pa以下、Dwell Time0.2(sec/U)、昇温レート30(℃/min)として、HOに相当するM/z=18の質量スペクトルを検出した。
【0273】
サンプルP1乃至サンプルP5について、TDS分析を行った結果を図27のグラフに示す。図27に示すグラフは、縦軸に脱離水分子量(M/z=18)[molecules/cm](counts)をとり、横軸に成膜時の基板温度(℃)をとる。ここで、脱離水分子量とは、M/z=18の質量スペクトルの昇温温度300℃近傍の積分値を取ることで求められる量であり、酸化物半導体膜中から脱離する水分子量である。なお、M/z=18の質量スペクトルは、昇温温度100℃近傍にもピークが存在するが、これは酸化物半導体膜の表面に吸着した水分量と考えられるので、脱離水分子量としてカウントしていない。
【0274】
図27のグラフより、成膜時の基板温度が高くなるほど、各サンプルから脱離する水分子量が少なくなることが分かる。よって、成膜時の基板温度を上昇させる、つまり、酸化物半導体膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域を形成することにより、当該酸化物半導体膜中に含まれる、HO(水)分子に代表される、H(水素原子)を含む分子やイオンを低減できるということができる。
【0275】
以上より、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜を形成することにより、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源となりうるHO(水)分子に代表される、H(水素原子)を含む分子やイオンなどの不純物を低減することができる。これにより、酸化物半導体膜の電気伝導度が変化することを防ぎ、当該酸化物半導体膜を用いたトランジスタの信頼性を向上させることができる。
【0276】
<7.二次イオン質量分析>
本項目では、先の実施の形態に従って酸化物半導体膜を作製し、当該酸化物半導体膜を二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて評価した結果について説明する。
【0277】
本項目では、スパッタリング法を用いて石英基板上に酸化物半導体膜を成膜し、成膜時の基板温度が室温のサンプルQ1乃至サンプルQ7と、成膜時の基板温度400℃のサンプルR1乃至サンプルR7を作製した。ここで、サンプルQ1乃至サンプルQ7は、c軸が配向した結晶性を有する領域を含まない酸化物半導体膜であり、サンプルR1乃至サンプルR7は、c軸が配向した結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜である。酸化物半導体膜の成膜ターゲットは、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するものを用いた。他の成膜条件は、成膜ガス流量をアルゴンガス30sccmおよび酸素ガス15sccmとし、圧力0.4Pa、基板−ターゲット間距離60mm、高周波(RF)電源0.5kW、膜厚300nmとした。なお、石英基板については、予め窒素雰囲気で1時間、850℃の熱処理を行った。
【0278】
さらに、サンプルQ2乃至サンプルQ7、サンプルR2乃至サンプルR7については、酸化物半導体膜の成膜後、当該酸化物半導体膜を成膜した石英基板に加熱処理を行った。加熱処理は、窒素雰囲気で所定の温度まで昇温し、酸素雰囲気に切り替えて所定の温度を1時間保持し、それから酸素雰囲気で降温した。所定の温度は、サンプルQ2およびサンプルR2は200℃、サンプルQ3およびサンプルR3は250℃、サンプルQ4およびサンプルR4は350℃、サンプルQ5およびサンプルR5は450℃、サンプルQ6およびサンプルR6は550℃、サンプルQ7およびサンプルR7は650℃とする。このようにして、酸化物半導体膜を石英基板上に成膜した、サンプルQ1乃至サンプルQ7、サンプルR1乃至サンプルR7を作製した。
【0279】
本項目においては、以上のサンプルQ1乃至サンプルQ7、サンプルR1乃至サンプルR7について、SIMS分析を行った。サンプルQ1乃至サンプルQ7のSIMS分析を行った結果を図28(A)に、サンプルR1乃至サンプルR7のSIMS分析を行った結果を図28(B)のグラフに示す。図28(A)および図28(B)のグラフの縦軸に水素(H)の濃度(atoms/cm)をとり、横軸に酸化物半導体膜表面からの酸化物半導体膜および石英基板の深さ(nm)をとっている。
【0280】
図28(A)および図28(B)のグラフより、サンプルQ1とサンプルR1の酸化物半導体膜中の水素濃度はほぼ同等であるが、サンプルR2乃至サンプルR7の酸化物半導体膜中の水素濃度はサンプルQ2乃至サンプルQ7よりも低減されている傾向がある。これは、酸化物半導体成膜時の基板温度が高い方が、後の加熱処理の際の水素の混入が起こりにくいことを示している。特に、サンプルQ3乃至サンプルQ5のグラフを見ると、加熱処理の温度上昇に合わせて、酸化物半導体膜の表面側から水素が侵入し、酸化物半導体膜の奧まで水素濃度が高い層が広がり、さらに温度を上げると酸化物半導体膜の表面側から水素が脱離している様子が分かる。このように、酸化物半導体膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域を形成されない場合、加熱処理による水素の混入や脱離が起こる。しかし、酸化物半導体膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域を形成した、サンプルR2乃至サンプルR7ではこのような挙動は見られない。
【0281】
これは、酸化物半導体成膜時の基板温度を高くして、酸化物半導体膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域を形成することにより、酸化物半導体膜中から水素が結合しやすいダングリングボンドなどが低減されているためだと考えることができる。
【0282】
よって、酸化物半導体成膜時の基板温度を高くして、酸化物半導体膜中にc軸が配向した結晶性を有する領域を形成することにより、酸化物半導体膜中でキャリアの供給源となりうる水素が加熱処理により増大することを防ぐことができる。これにより、酸化物半導体膜の電気伝導度が変化することを抑制し、当該酸化物半導体膜を用いたトランジスタの信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0283】
11 サイト
12 In原子
13 Ga原子
14 Zn原子
15 O原子
31 処理室
33 排気手段
35 ガス供給手段
37 電源装置
40 基板支持体
41 ターゲット
43 イオン
45 原子
47 原子
51 基板
53 下地絶縁膜
55 酸化物半導体膜
56 酸化物半導体膜
59 酸化物半導体膜
63 ゲート絶縁膜
65 ゲート電極
69 絶縁膜
120 トランジスタ
130 トランジスタ
140 トランジスタ
150 トランジスタ
160 トランジスタ
170 トランジスタ
180 トランジスタ
351 基板
353 下地絶縁膜
359 酸化物半導体膜
363 ゲート絶縁膜
365 ゲート電極
369 絶縁膜
371 金属酸化物膜
373 金属酸化物膜
55a 種結晶
55b 酸化物半導体膜
56a 種結晶
56b 酸化物半導体膜
61a ソース電極
61b ドレイン電極
361a ソース電極
361b ドレイン電極
500 基板
501 画素部
502 走査線駆動回路
503 走査線駆動回路
504 信号線駆動回路
510 容量配線
512 ゲート配線
513 ゲート配線
514 ドレイン電極層
516 トランジスタ
517 トランジスタ
518 液晶素子
519 液晶素子
520 画素
521 スイッチング用トランジスタ
522 駆動用トランジスタ
523 容量素子
524 発光素子
525 信号線
526 走査線
527 電源線
528 共通電極
1001 本体
1002 筐体
1004 キーボードボタン
1021 本体
1022 固定部
1023 表示部
1024 操作ボタン
1025 外部メモリスロット
1030 筐体
1031 筐体
1032 表示パネル
1033 スピーカー
1034 マイクロフォン
1035 操作キー
1036 ポインティングデバイス
1037 カメラ用レンズ
1038 外部接続端子
1040 太陽電池セル
1041 外部メモリスロット
1050 テレビジョン装置
1051 筐体
1052 記憶媒体再生録画部
1053 表示部
1054 外部接続端子
1055 スタンド
1056 外部メモリ
1003a 表示部
1003b 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有する領域を含み、
前記結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなり、
前記c軸方向から電子線を照射した電子線回折強度測定において、散乱ベクトルの大きさが3.3nm−1以上4.1nm−1以下のピークにおける半値全幅と、散乱ベクトルの大きさが5.5nm−1以上7.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.2nm−1以上である酸化物半導体膜。
【請求項2】
前記散乱ベクトルの大きさが3.3nm−1以上4.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.4nm−1以上0.7nm−1以下であり、
前記散乱ベクトルの大きさが5.5nm−1以上7.1nm−1以下のピークにおける半値全幅が0.45nm−1以上1.4nm−1以下である請求項1に記載の酸化物半導体膜。
【請求項3】
ESR測定におけるg=1.93近傍のピークのスピン密度が1.3×1018(spins/cm)より小さい請求項1または2に記載の酸化物半導体膜。
【請求項4】
前記結晶性を有する領域を複数含み、結晶のa軸あるいはb軸の方向は、互いに異なる請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の酸化物半導体膜。
【請求項5】
InGaO(ZnO)(mは非自然数)で表される構造を有する請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の酸化物半導体膜。
【請求項6】
第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上に設けられた、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜と接するように設けられたソース電極およびドレイン電極と、
前記酸化物半導体膜上に設けられた第2の絶縁膜と、
前記第2の絶縁膜上に設けられたゲート電極と、を有し、
前記結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる半導体装置。
【請求項7】
ゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられた第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上に設けられた、結晶性を有する領域を含む酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜と接するように設けられたソース電極およびドレイン電極と、
前記酸化物半導体膜上に設けられた第2の絶縁膜と、を有し、
前記結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる半導体装置。
【請求項8】
前記第1の絶縁膜と前記酸化物半導体膜の間に第1の金属酸化物膜を有し、
前記第1の金属酸化物膜は、酸化ガリウムと酸化亜鉛とを含み、且つ結晶性を有する領域を含み、
前記結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる請求項6または7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1の金属酸化物膜において、酸化亜鉛の物質量は酸化ガリウムの物質量の25%未満である請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記酸化物半導体膜と前記第2の絶縁膜の間に第2の金属酸化物膜を有し、
前記第2の金属酸化物膜は、酸化ガリウムと酸化亜鉛とを含み、且つ結晶性を有する領域を含み、
前記結晶性を有する領域は、a−b面が膜表面に概略平行であり、c軸が膜表面に概略垂直である結晶よりなる請求項6乃至請求項9のいずれか一に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第2の金属酸化物膜において、酸化亜鉛の物質量は酸化ガリウムの物質量の25%未満である請求項10に記載の半導体装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図1】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図23】
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【図24】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−134475(P2012−134475A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260854(P2011−260854)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】