説明

ハイブリッド車両

【課題】デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両がクロール走行を行う場合に、摩擦ブレーキ装置の負荷を軽減可能な、ハイブリッド車両の制御技術を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両1は、機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合可能な第1クラッチ21と機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合可能な第2クラッチ22とを有している。ECU100は、クロール走行を行う場合、第1クラッチ21を係合状態にして、機関出力軸8からの機械的動力を第1変速機構30により変速して駆動輪に伝達すると共に、第2変速機構40の変速段42,44,46をいずれも選択しない状態にして、第2クラッチ22を係合状態又は半係合状態にすると共にモータ50を発電機として作動させて、駆動輪88R,88Lに回生制動トルクを作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機として内燃機関とモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両に関し、特に、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機においては、近年、変速時における機械的動力の伝達の途切れをなくすために、第1群の変速段で構成される第1変速機構と、第1群以外の変速段である第2群の変速段で構成される第2変速機構との2つの変速機構を備え、さらに、第1変速機構の入力軸(以下、第1入力軸と記す)と、内燃機関の出力軸(以下、機関出力軸と記す)とを係合可能な第1クラッチと、第2変速機構の入力軸(以下、第2入力軸と記す)と機関出力軸とを係合可能な第2クラッチとを備え、これら2つのクラッチを交互につなぎ替えることで変速を行う、いわゆるデュアルクラッチ式変速機を用いたものが知られている。
【0003】
また、下記の特許文献1には、原動機としてエンジンとモータジェネレータとを備えた自動車において、ブレーキ装置のアクチュエータを制御して、運転者によるスイッチ等の操作により設定された車速(以下、単に「設定車速」と記す)に従って走行させる走行制御技術が開示されている。特許文献1の走行制御装置は、悪路や曲路を走行中であるか否かを検出し、その度合いに応じて設定車速を変化させている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、ブレーキのフェードやベーパーロックの発生を抑制するために、車両の走行路面が所定距離以上継続する下り勾配である場合には、フットブレーキ(摩擦ブレーキ)による制動力を低下させると共に、発電機に回生動作を行わせて回生ブレーキにより制動力を向上させる車両用制御技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−175356号公報
【特許文献2】特開2005−138816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、オフロード(悪路)や滑りやすい路面を走行する際に、運転者がスイッチをオン状態に操作した場合に、内燃機関からの機械的動力と、摩擦ブレーキ装置に伝達される作動力を自動的に制御し、運転者によりアクセル操作及びブレーキが操作されていないときに、予め設定された車速に従って自動車を走行させる、いわゆるクロール走行を行うことが知られている。
【0007】
また、原動機として内燃機関とモータジェネレータ(以下、単に「モータ」と記す)とを備えたハイブリッド車両において、近年、内燃機関の機関出力軸及びモータのロータから出力される機械的動力を変速する変速機構として、デュアルクラッチ式変速機が設けられたものが提案されている。例えば、特開2002−204504号公報には、デュアルクラッチ式変速機の第1入力軸及び第2入力軸のうち一方に、モータのロータが係合しているハイブリッド車両が提案されている。
【0008】
このように構成されたハイブリッド車両において、上述のクロール走行を行う場合、駆動輪の回転速度変動を瞬時に抑制する必要があるため、摩擦ブレーキ装置は、比較的大きな摩擦力を瞬間的に発生する必要がある。摩擦ブレーキ装置は、瞬間的に大きな摩擦力を生じさせると、比較的大きな音が生じることがある。
【0009】
また、クロール走行を行っている間は、摩擦ブレーキ装置に伝達される作動力を高い頻度で増減させる必要があり、摩擦ブレーキ装置を構成するブレーキパッドやロータディスク等の摩擦部材の温度が上昇し易くなるという問題がある。また、摩擦ブレーキ装置に作動力を伝達するブレーキアクチュエータ等を作動させる頻度が高くなるため、ブレーキアクチュエータの温度が上昇し易くなるという問題もある。このような摩擦ブレーキ装置等のブレーキ系部品が過熱状態となる前にクロール走行を停止すると、クロール走行を長時間継続することができなくなるという問題がある。
【0010】
したがって、上述のようなデュアルクラッチ式の変速機を備えたハイブリッド車両においては、クロール走行を行う場合、駆動輪とロータとを係合させると共にモータを発電機として作動させて駆動輪を制動する回生制動を利用することで、摩擦ブレーキ装置にかかる負荷を軽減し、摩擦ブレーキ装置から生じる音や、ブレーキ系部品の温度上昇を抑制する技術が要望されている。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両がクロール走行を行う場合に、摩擦ブレーキ装置の負荷を軽減可能な、ハイブリッド車両の制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明に係るハイブリッド車両は、機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータと、機関出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第1変速機構と、機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第2変速機構と、機関出力軸と第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、機関出力軸と第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、摩擦力により駆動輪を制動可能な摩擦ブレーキ装置と、第1及び第2クラッチの係合/解放状態と、第1及び第2変速機構における変速段の選択と、モータジェネレータの作動とを制御可能な制御手段と、を備え、駆動輪とロータとを係合させると共にモータジェネレータを発電機として作動させて駆動輪を制動する回生制動と、車速が予め設定された判定車速以下であり且つ運転者によりアクセル操作及びブレーキ操作がされていないときに、予め設定された設定車速に従って走行することが可能なクロール走行と、を行うことが可能なハイブリッド車両であって、制御手段は、クロール走行を行う場合、第1クラッチを係合状態にして、機関出力軸からの機械的動力を第1変速機構により変速して駆動輪に伝達すると共に、第2変速機構の変速段をいずれも選択しない状態にして、第2クラッチを係合状態又は半係合状態にすると共にモータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪に回生制動トルクを作用させることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両において、制御手段は、第2クラッチを解放状態から係合状態にする間において、モータジェネレータを発電機として作動させてロータに作用する実回生トルクが、予め設定された判定トルクに達した後には、当該判定トルクに達する前に比べて実回生トルクの時間上昇率が低下するよう第2クラッチの係合力を調整するものとすることができる。
【0014】
本発明に係るハイブリッド車両において、制御手段は、運転者により所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されているか否かを判定する制動要求判定手段を含み、所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されていると判定された場合には、係合力を調整することなく第2クラッチを解放状態から係合状態にするものとすることができる。
【0015】
本発明に係るハイブリッド車両において、車両減速度を検出可能な車両減速度検出手段を備え、制動要求判定手段は、検出された車両減速度が予め設定された判定減速度を上回る場合に、所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されているものと判定するものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、制御手段は、クロール走行を行う場合、第1クラッチを係合状態にして、機関出力軸からの機械的動力を第1変速機構により変速して駆動輪に伝達すると共に、第2変速機構の変速段をいずれも選択しない状態にして、第2クラッチを係合状態又は半係合状態にすると共にモータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪に回生制動トルクを作用させるものとしたので、摩擦ブレーキ装置を作動させて駆動輪に作用させる摩擦制動トルクを低減することができる。これにより、摩擦ブレーキ装置にかかる負荷を軽減し、摩擦ブレーキ装置から生じる音や、温度上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0018】
まず、本実施例に係るハイブリッド車両及び駆動装置の構成について、図1〜図3を用いて説明する。図1は、ハイブリッド車両及び駆動装置の概略構成を示す模式図である。図2は、駆動装置に設けられたデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。図3は、変形例のデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。
【0019】
ハイブリッド車両1は、駆動輪88R,88Lを回転駆動するための原動機として、内燃機関5とモータジェネレータ50(以下、単に「モータ」と記す)とを備えている。モータ50は、内燃機関5からの機械的動力を変速して駆動輪88R,88Lに伝達する駆動装置10に含まれている。内燃機関5は、モータ50を備えた駆動装置10と共に結合されて、ハイブリッド車両1に搭載される。ハイブリッド車両1には、内燃機関5及び駆動装置10を制御する制御手段として、ハイブリッド車両用の電子制御装置100(以下、ECUと記す)が設けられている。ECU100には、各種制御定数を記憶する記憶手段としてROM(図示せず)が設けられている。
【0020】
内燃機関5は、燃料のエネルギを燃焼により機械的動力に変換して出力する熱機関であり、ピストン往復動機関である。内燃機関5は、図示しない燃料噴射装置、点火装置、及びスロットル弁装置を備えている。これら装置は、ECU100により制御される。内燃機関5が発生した機械的動力は、出力軸(クランク軸)8から出力される。内燃機関5の出力軸8(以下、機関出力軸と記す)には、後述する駆動装置10のデュアルクラッチ機構20の入力側、例えば、クラッチハウジング14a(図2参照)が結合される。ECU100は、内燃機関5の機関出力軸8から出力する機械的動力を調整することが可能となっている。内燃機関5には、機関出力軸8の回転角位置(以下、クランク角と記す)を検出するクランク角センサ(図示せず)が設けられており、クランク角に係る信号をECU100に送出している。
【0021】
また、ハイブリッド車両1には、原動機としての内燃機関5及びモータ50からの機械的動力を駆動輪88R,88Lに伝達する動力伝達装置として、機関出力軸8及びモータ50からの機械的動力を変速しトルクを変化させて、駆動軸80R,80Lに向けて出力可能な駆動装置10が設けられている。
【0022】
駆動装置10は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のいずれかを用いて内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を後述する変速機構に伝達するデュアルクラッチ機構20と、内燃機関5から第1クラッチ21を介して伝達される機械的動力を、第1入力軸27で受けて、第1群の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つにより変速して、推進軸66に伝達可能な第1変速機構30と、内燃機関5から第2クラッチ22を介して伝達される機械的動力を、第2入力軸28で受けて、第2群の変速段42,44,46のうちいずれか1つにより変速して、推進軸66に伝達可能な第2変速機構40と、推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に駆動輪88R,88Lにそれぞれ係合する左右の駆動軸80R,80Lに分配する終減速装置70とを有している。つまり、デュアルクラッチ式変速機は、デュアルクラッチ機構20、第1変速機構30及び第2変速機構40により構成されている。
【0023】
第1変速機構30及び第2変速機構40は、前進に第1速ギヤ段31から第6速ギヤ段46までの6つの変速段を有しており、後進に1つの変速段、後進ギヤ段39を有している。前進の変速段である第1速〜第6速ギヤ段31〜46の減速比は、第1速ギヤ段31、第2速ギヤ段42、第3速ギヤ段33、第4速ギヤ段44、第5速ギヤ段35、第6速ギヤ段46の順に小さくなるよう設定されている。
【0024】
第1変速機構30は、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第1群の変速段は、奇数段すなわち第1速ギヤ段31と、第3速ギヤ段33と、第5速ギヤ段35と、後進ギヤ段39により構成されている。第1変速機構30において、前進の変速段31,33,35のうち、第1速ギヤ段31が最も低速側の変速段となっている。
【0025】
第1速ギヤ段31は、歯車対で構成されており、第1入力軸27に結合されている第1速メインギヤ31aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第1速メインギヤ31aと噛み合う第1速カウンタギヤ31cとを有している。第1変速機構30には、第1速ギヤ段31に対応して、第1速カウンタギヤ31cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第1速カップリング機構31eが設けられている。
【0026】
ECU100が第1速ギヤ段31を選択する、即ち第1速カップリング機構31eを係合状態にして、第1速カウンタギヤ31cと第1出力軸37を係合させることで、第1入力軸27からの機械的動力は、第1速メインギヤ31a及び第1速カウンタギヤ31cを介して第1出力軸37に伝達される。これにより、第1変速機構30は、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第1速ギヤ段31により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0027】
第3速ギヤ段33は、歯車対で構成されており、第1入力軸27に結合されている第3速メインギヤ33aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第3速メインギヤ33aと噛み合う第3速カウンタギヤ33cとを有している。第1変速機構30には、第3速ギヤ段33に対応して、第3速カウンタギヤ33cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第3速カップリング機構33eが設けられている。
【0028】
ECU100が第3速ギヤ段33を選択する、即ち第3速カップリング機構33eを係合状態にして、第3速カウンタギヤ33cと第1出力軸37を係合させることで、第1変速機構30は、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第3速ギヤ段33により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0029】
また、第5速ギヤ段35は、歯車対で構成されており、第1入力軸27に結合されている第5速メインギヤ35aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第5速メインギヤ35aと噛み合う第5速カウンタギヤ35cとを有している。第1変速機構30には、第5速ギヤ段35に対応して、第5速カウンタギヤ35cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第5速カップリング機構35eが設けられている。
【0030】
ECU100が第5速ギヤ段35を選択する、即ち第5速カップリング機構35eを係合状態にして、第5速カウンタギヤ35cと第1出力軸37とを係合させることで、第1変速機構30は、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第5速ギヤ段35により変速し、トルクを変化させて、第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0031】
また、後進ギヤ段39は、第1入力軸27に結合されている後進メインギヤ39aと、後進メインギヤ39aと噛み合う後進中間ギヤ39bと、後進中間ギヤ39bと噛み合い、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられたルーズ歯車である後進カウンタギヤ39cとを有している。第1変速機構30には、後進ギヤ段39に対応して、後進カウンタギヤ39cと第1出力軸37とを係合させることが可能な後進カップリング機構39eが設けられている。
【0032】
ECU100が後進ギヤ段39を選択する、即ち後進カップリング機構39eを係合状態にして、後進カウンタギヤ39cと第1出力軸37とを係合させることで、第1変速機構30は、第1入力軸27から受けた機械的動力を、後進ギヤ段39により、回転方向を逆方向に変えると共に変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0033】
第1変速機構30の第1出力軸37には、第1駆動ギヤ37cが結合されており、当該第1駆動ギヤ37cは、動力統合ギヤ58と噛み合っている。動力統合ギヤ58には、推進軸66が結合されている。推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪88R,88Lがそれぞれ結合された駆動軸80R,80Lと係合している。つまり、第1変速機構30の第1出力軸37と、駆動軸80R,80L及び駆動輪88R,88Lは係合している。
【0034】
以上のように、第1変速機構30における各カップリング機構31e,33e,35e,39eの係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第1変速機構30の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つの変速段を選択する場合、選択する変速段に対応するカップリング機構を係合状態にすると共に、第1変速機構30において選択していない変速段に対応するカップリング機構を解放状態にする。これにより、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、選択された変速段で変速して、第1出力軸37に伝達し、駆動軸80R,80Lに向けて出力することが可能となっている。
【0035】
一方、第2変速機構40は、第1変速機構30と同様に、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第2群の変速段は、偶数段、すなわち第2速ギヤ段42と、第4速ギヤ段44と、第6速ギヤ段46から構成されている。第2変速機構40の入力軸28(以下、第2入力軸と記す)には、後述するモータ50のロータ52が結合されている。第2変速機構40において、変速段42,44,46のうち、第2速ギヤ段42が最も低速側の変速段となっている。
【0036】
第2速ギヤ段42は、歯車対で構成されており、第2入力軸28に結合されている第2速メインギヤ42aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第2速メインギヤ42aと噛み合う第2速カウンタギヤ42cとを有している。第2変速機構40には、第2速ギヤ段42に対応して、第2速カウンタギヤ42cと第2出力軸48とを係合させることが可能な第2速カップリング機構42eが設けられている。
【0037】
ECU100が第2速ギヤ段42を選択する、即ち第2速カップリング機構42eを係合状態にして、第2速カウンタギヤ42cと第2出力軸48とを係合させることで、第2入力軸28からの機械的動力は、第2速メインギヤ42a及び第2速カウンタギヤ42cを介して第2出力軸48に伝達される。これにより、第2変速機構40は、第2入力軸28から受けた機械的動力を、第2速ギヤ段42により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達させることが可能となっている。
【0038】
第4速ギヤ段44は、歯車対で構成されており、第2入力軸28に結合されている第4速メインギヤ44aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第4速メインギヤ44aと噛み合う第4速カウンタギヤ44cとを有している。第2変速機構40には、第4速ギヤ段44に対応して、第4速カウンタギヤ44cと第2出力軸48とを係合させることが可能な第4速カップリング機構44eが設けられている。
【0039】
ECU100が第4速ギヤ段44を選択する、即ち第4速カップリング機構44eを係合状態にして、第4速カウンタギヤ44cと第2出力軸48とを係合させることで、第2変速機構40は、第2入力軸28から受けた機械的動力を、第4速ギヤ段44により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0040】
第6速ギヤ段46は、歯車対で構成されており、第2入力軸28に結合されている第6速メインギヤ46aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第6速メインギヤ46aと噛み合う第6速カウンタギヤ46cとを有している。第2変速機構40には、第6速ギヤ段46に対応して、第6速カウンタギヤ46cと第2出力軸48とを係合可能な第6速カップリング機構46eが設けられている。
【0041】
ECU100が第6速ギヤ段46を選択する、即ち第6速カップリング機構46eを係合状態にして、第6速カウンタギヤ46cと第2出力軸48とを係合させることで、第2変速機構40は、第2入力軸28から受けた機械的動力を、第6速ギヤ段46により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0042】
第2変速機構40の第2出力軸48には、第2駆動ギヤ48cが結合されており、当該第2駆動ギヤ48cは、動力統合ギヤ58と噛み合っている。動力統合ギヤ58には、推進軸66が結合されており、推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪88R,88Lにそれぞれ結合された駆動軸80R,80Lと係合している。つまり、第2変速機構40の第2出力軸48と、駆動軸80R,80L及び駆動輪88R,88Lは係合している。
【0043】
以上のように、第2変速機構40における各カップリング機構42e,44e,46eの係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第2変速機構40の変速段42,44,46のうちいずれか1つの変速段を選択する場合、選択する変速段に対応するカップリング機構を係合状態にすると共に、第2変速機構40において選択しない変速段に対応するカップリング機構を解放状態にする。これにより、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、選択された変速段で変速して、第2出力軸48に伝達し駆動軸80R,80Lに向けて出力することが可能となっている。
【0044】
また、ハイブリッド車両1の駆動装置10には、内燃機関5が機関出力軸8から出力する機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方に伝達させる動力伝達装置として、デュアルクラッチ機構20が設けられている。デュアルクラッチ機構20は、機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能な摩擦クラッチ装置である第1クラッチ21と、機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能な摩擦クラッチ装置である第2クラッチ22とを有している。なお、第1クラッチ21及び第2クラッチ22には、湿式多板クラッチや、乾式単板クラッチを用いることができる。
【0045】
第1クラッチ21は、円板状の摩擦板を有し、摩擦板の摩擦力により機械的動力を伝達する摩擦式ディスククラッチ等で構成されている。第1クラッチ21は、内燃機関5の機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能に構成されている。第1クラッチ21が係合状態となることで、機関出力軸8と第1入力軸27が一体に回転して、機関出力軸8からの機械的動力を、第1変速機構30の変速段31,33,35,39により変速して駆動輪88R,88Lに向けて伝達することが可能となっている。つまり、第1クラッチ21は、第1変速機構30の変速段31,33,35,39に対応して設けられている。
【0046】
一方、第2クラッチ22は、第1クラッチ21と同様に、摩擦式ディスククラッチ等で構成されており、内燃機関5の機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能に構成されている。第2クラッチ22を係合状態にすることで、機関出力軸8と第2入力軸28が一体に回転して、機関出力軸8からの機械的動力を、第2変速機構40の変速段42,44,46により変速して駆動輪88R,88Lに向けて伝達することが可能となっている。つまり、第2クラッチ22は、第2変速機構40の変速段42,44,46に対応して設けられている。
【0047】
第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、デュアルクラッチ機構20において、第1クラッチ21又は第2クラッチ22のうちいずれか一方を係合状態にして、他方を解放状態にすることで、内燃機関5からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方に伝達させることが可能となっている。
【0048】
ここで、第1クラッチ21及び第2クラッチ22から構成されるデュアルクラッチ機構20の詳細な構造の一例について図2を用いて説明する。図2に示すように、デュアルクラッチ機構20において、機関出力軸8には、デュアルクラッチ機構20のクラッチハウジング14aが結合されている。すなわち、クラッチハウジング14aは、機関出力軸8と一体に回転する。クラッチハウジング14aは、後述する摩擦板27a,28aを収容可能に構成されている。
【0049】
これに対して、第1変速機構30の第1入力軸27と、第2変速機構40の第2入力軸28は、同軸に配置されており、2重軸構造となっている。具体的には、第1入力軸27は、中空シャフトとして構成されており、第1入力軸27内には、第2入力軸28が延びている。内側の軸である第2入力軸28は、外側の軸である第1入力軸27に比べて軸方向に長く構成されている。機関出力軸8側から駆動輪88R,88L側に向かうに従って、まず、第1変速機構30の各変速段のメインギヤ31a,33a,35a,39aが配設されており、次に、第2変速機構40の各変速段のメインギヤ42a,44a,46aが配設されている。
【0050】
第1入力軸27の端には、円板状の摩擦板27aが結合されており、一方、第2入力軸28の端にも、同様に摩擦板28aが結合されている。これら摩擦板27a,28aは、上述のクラッチハウジング14a内に収容されている。第1クラッチ21は、摩擦板27aと対向して設けられた摩擦相手板(図示せず)と、摩擦相手板を駆動するアクチュエータ(図示せず)とを有している。摩擦相手板が摩擦板27aをクラッチハウジング14aに押し付けることで、第1クラッチ21は、機関出力軸8と、第1変速機構30の第1入力軸27とを係合することが可能となっている。
【0051】
これと同様に、第2クラッチ22は、摩擦板28aに対向して設けられた摩擦相手板(図示せず)が、摩擦板28aをクラッチハウジング14aに押し付けることで、機関出力軸8と、第2変速機構40の第2入力軸28とを係合することが可能となっている。デュアルクラッチ機構20における、第1及び第2クラッチ21,22にそれぞれ対応して設けられた摩擦相手板の駆動は、ECU100により制御されることとなる。
【0052】
なお、上述のデュアルクラッチ機構20の詳細な構造において、第1変速機構30の第1入力軸27と第2変速機構40の第2入力軸28は同軸に配置されるものとしたが、デュアルクラッチ機構20の詳細な構造は、これに限定されるものではない。例えば、図3に示すように、第1入力軸27と第2入力軸28は、所定の間隔を空けて平行に延びるよう配置されるものとしても良い。この変形例のデュアルクラッチ機構20においては、機関出力軸8の端に、駆動ギヤ14cが結合されている。駆動ギヤ14cには、第1ギヤ16と、第2ギヤ18が噛み合っており、第1ギヤ16は、第1クラッチ21に結合されており、第2ギヤ18は、第2クラッチ22に結合されている。第1クラッチ21は、第1変速機構30の第1入力軸27と、機関出力軸8に係合する第1ギヤ16とを係合可能に構成されている。一方、第2クラッチ22は、第2変速機構40の第2入力軸28と、機関出力軸8に係合する第2ギヤ18とを係合可能に構成されている。
【0053】
第1及び第2クラッチ21,22は、それぞれ摩擦式クラッチ等の任意のクラッチ機構で構成することができる。第1クラッチ21及び第2クラッチ22において交互に係合状態と解放状態を切替ることで、機関出力軸8から出力される内燃機関5の機械的動力は、駆動ギヤ14cから、第1変速機構30の第1入力軸27、又は第2変速機構40の第2入力軸28のいずれかに伝達されることとなる。第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態は、ECU100により制御される。
【0054】
また、ハイブリッド車両1の駆動装置10には、原動機としてモータ50が設けられている。モータ50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換して回収する発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。モータ50は、永久磁石型交流同期電動機で構成されており、後述するインバータ110から三相の交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するステータ54と、回転磁界に引き付けられて回転する回転子であるロータ52とを有している。モータ50には、ロータ52の回転角位置を検出するレゾルバ(図示せず)が設けられており、ロータ52の回転角位置に係る信号をECU100に送出している。
【0055】
モータ50のロータ52は、第2変速機構40の第2入力軸28に結合されており、モータ50がロータ52から出力する機械的動力(トルク)は、第2変速機構40の第2入力軸28に伝達される。つまり、駆動装置10において、デュアルクラッチ式変速機を構成する第1変速機構30及び第2変速機構40にそれぞれ対応して設けられた第1入力軸27及び第2入力軸28のうち、第2入力軸28には、モータ50のロータ52に係合している。また、モータ50は、駆動輪88R,88Lから第2出力軸48を介してロータ52に伝達された機械的動力(トルク)を交流電力に変換して二次電池120に回収することも可能となっている。
【0056】
なお、第2入力軸28とロータ52との間には、ロータ52の回転速度を減速して第2入力軸28に伝達する減速機構や、ロータ52の回転速度を変速して第2入力軸28に伝達する変速機構を設けるものとしても良い。
【0057】
なお、以下の説明において、モータ50を電動機として機能させて、モータ50がロータ52から機械的動力を出力することを「力行」と記す。これに対して、駆動輪88R,88Lとロータ52とを係合させると共にモータ50を発電機として機能させて、駆動輪88R,88Lからモータ50のロータ52に伝達された機械的動力を電力に変換して回収すると共に、このときロータ52に生じる回転抵抗により、ロータ52及びこれに係合する部材(例えば、駆動輪88R,88L)の回転を制動することを「回生制動」と記す。すなわち、ハイブリッド車両1は、駆動輪88R,88Lとロータ52とを係合させると共にモータ50を発電機として作動させて駆動輪88R,88Lを制動する回生制動を行うことが可能となっている。
【0058】
また、上述の回生制動を行うことにより、モータ50のロータ52に係合する駆動軸80R,80L及び駆動輪88R,88Lに作用する、ハイブリッド車両1を制動する回転方向のトルクを「回生制動トルク」と記す。モータ50による力行と回生制動すなわちモータ50の電動機/発電機としての機能の切替えと、回生制動トルクは、ECU100により制御される。
【0059】
また、ハイブリッド車両1には、モータ50に交流電力を供給する電力供給装置として、インバータ110が設けられている。インバータ110は、二次電池120から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ50に供給することが可能に構成されている。また、インバータ110は、モータ50からの交流電力を直流電力に変換して二次電池120に回収することも可能に構成されている。このようなインバータ110からモータ50への電力供給、及びモータ50からの電力回収は、ECU100により制御される。
【0060】
また、ハイブリッド車両1の駆動装置10には、原動機から推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に、駆動輪88R,88Lにそれぞれ係合する左右の駆動軸80R,80Lに分配する終減速装置70が設けられている。終減速装置70は、推進軸66に結合された駆動ピニオン68と、駆動ピニオン68とリングギヤ72が直交して噛み合う差動機構74とを有している。終減速装置70は、原動機すなわち内燃機関5及びモータ50のうち少なくとも一方から推進軸66に伝達された機械的動力を、駆動ピニオン68及びリングギヤ72により減速し、差動機構74により左右の駆動軸80R,80Lに分配して、駆動軸80R,80Lにそれぞれ結合されている駆動輪88R,88Lを回転駆動することが可能となっている。
【0061】
また、ハイブリッド車両1には、モータ50に電力を供給する二次電池120の蓄電状態(state-of-charge、SOC)を検出する電池監視ユニット(図示せず)が設けられており、検出した二次電池120の蓄電状態に係る信号を、ECU100に送出している。また、ハイブリッド車両1には、駆動輪88R,88Lの回転速度をそれぞれ検出する複数の車輪速センサ(図示せず)が設けられており、検出した駆動輪88R,88Lの回転速度に係る信号を、後述するブレーキECU140に送出している。
【0062】
また、ハイブリッド車両1には、運転者によりブレーキ操作が行われる入力機構としてのブレーキペダル144が設けられている。ブレーキペダル144は、その踏面が運転者により踏み込まれてブレーキ操作が行われる。ブレーキペダル144には、その操作量(以下、ブレーキ操作量と記す)を検出するブレーキペダルストロークセンサ146が設けられており、検出したブレーキ操作量に係る信号を、後述するブレーキECU140に送出している。
【0063】
また、ハイブリッド車両1の駆動輪88R,88Lの近傍には、駆動輪88R,88Lと係合する部材に摩擦力を生じさせて駆動輪88R,88Lの回転を制動する摩擦ブレーキ装置90R,90Lが設けられている。摩擦ブレーキ装置90R,90Lには、例えば、図1に示すようなディスク式ブレーキがあり、左右の駆動輪88R,88Lすなわち駆動軸80R,80Lと共に回転する摩擦部材であるロータディスク92と、ハイブリッド車両1に固定され、後述するブレーキアクチュエータ130から液圧の供給を受けてホイールシリンダが作動するブレーキキャリパ94と、ブレーキキャリパ94に装着され、ロータディスク92と摺接可能な摩擦部材であるブレーキパッド95とを有している。ブレーキキャリパ94には、後述するブレーキアクチュエータ130からの作動力が伝達されてブレーキパッド95を押圧するホイールシリンダ(図示せず)が設けられている。
【0064】
摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、ブレーキキャリパ94のホイールシリンダがブレーキパッド95を押圧し、当該ブレーキパッド95がロータディスク92を挟み込むことで、ブレーキパッド95とロータディスク92との間に摩擦力を生じさせる。この摩擦力により、摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、それぞれ駆動輪88R,88Lの回転を制動することで、駆動輪88R,88Lの回転運動エネルギすなわちハイブリッド車両1の推進エネルギを熱エネルギに変換して、ハイブリッド車両1に制動力を作用させることが可能となっている。
【0065】
なお、本実施例において、摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、ディスク式ブレーキであるものとしたが、摩擦ブレーキ装置の態様は、これに限定されるものではない。摩擦力により駆動輪を制動可能なものであり、ECU100により制御可能であれば適用することができ、例えば、ドラム式のブレーキ等、他の形式の摩擦ブレーキ装置を用いることもできる。
【0066】
また、ハイブリッド車両1には、ブレーキペダル144の操作量に応じて、摩擦ブレーキ装置90R,90Lのホイールシリンダに伝達される作動力を、車輪ごとに独立して制御する電子制御式ブレーキ(Electronically Controlled Brake、:ECB)が用いられている。ECBは、摩擦ブレーキ装置90R,90Lのホイールシリンダへの作動力の伝達が液圧によって行われ、人力によらなくとも作動力を発生可能なフルパワーハイドロリックブレーキの一種であり、ブレーキペダルストロークセンサ146により検出されたブレーキ操作量と車両走行状態に基づいて、車輪ごとにホイールシリンダに伝達される作動力を調整することが可能となっている。ECBは、ブレーキアクチュエータ130と、ブレーキECU140とを有している。
【0067】
ブレーキアクチュエータ130は、摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達するブレーキ液の圧力(以下、単に「液圧」と記す)を増減させて、摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される作動力を調整する。ブレーキアクチュエータ130は、液圧を発生させる電動ポンプ(図示せず)、発生した液圧を蓄える蓄圧器(図示せず)、各摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達する液圧をそれぞれ調圧する複数の電磁弁(図示せず)等から構成されている。
【0068】
ブレーキアクチュエータ130は、ポンプモータで発生し、蓄圧器に蓄圧された液圧を、摩擦ブレーキ装置90R,90Lごとに電磁弁で調圧する。調圧された液圧は、ブレーキアクチュエータ130から、それぞれブレーキ管路(図1に一点鎖線で示す)を介して摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される。ブレーキアクチュエータ130から各摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される液圧は、後述するブレーキECU140により制御される。
【0069】
また、ブレーキアクチュエータ130、及び摩擦ブレーキ装置90R,90Lを制御する制御手段としてブレーキ用電子制御装置(以下、ブレーキECUと記す)140がハイブリッド車両1に設けられている。ブレーキECU140には、制御定数を記憶する記憶手段としてROMが設けられている。ブレーキECU140は、ブレーキペダルストロークセンサ146からのブレーキ操作量に係る信号と、上述の車輪速センサからの駆動輪88R,88Lの回転速度に係る信号等を検出している。また、ブレーキECU140は、ECU100との間で、これら制御変数に係る信号を授受可能に構成されており、ハイブリッド車両1の走行に係る信号をECU100から取得している。
【0070】
ブレーキECU140は、これら信号に基づいて、駆動輪88R,88Lのそれぞれの実際の回転速度(以下、単に「車輪速度」と記す)や、車輪速度の目標値(以下、目標車輪速度と記す)、ブレーキ操作量、ハイブリッド車両1の実際の走行速度(以下、車速と記す)、車速の目標値(以下、目標車速と記す)等、を制御変数として算出している。ブレーキECU140は、算出又は取得された制御変数に従って、ブレーキアクチュエータ130の動作を制御することが可能に構成されている。つまり、ブレーキECU140は、ブレーキアクチュエータ130を介して、摩擦ブレーキ装置90R,90Lに生じる摩擦力を制御することが可能となっている。
【0071】
なお、以下の説明において、摩擦ブレーキ装置90R,90Lを作動させて、摩擦力により駆動軸80R,80L、及びこれに係合する駆動輪88R,88Lの回転を制動することを「摩擦制動」と記す。加えて、摩擦ブレーキ装置90R,90Lにそれぞれ摩擦制動を行わせることにより、摩擦ブレーキ装置90R,90Lのロータディスク92に係合する駆動軸80R,80L及び駆動輪88R,88Lにそれぞれ作用する、ハイブリッド車両1を制動する回転方向のトルクを「摩擦制動トルク」と記す。摩擦ブレーキ装置90R,90Lによる摩擦制動、すなわち摩擦ブレーキ装置90R,90Lの作動/非作動状態の切替えと、駆動輪88R,88Lにそれぞれ作用する摩擦制動トルクは、ブレーキECU140を介してECU100により制御される。
【0072】
以上のように構成されたハイブリッド車両1は、ECU100が第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つの変速段を選択し、対応するカップリング機構を係合状態にして、さらに第1クラッチ21を係合状態にすると共に第2クラッチ22を解放状態にすることで、機関出力軸8は、第1入力軸27、第1出力軸37、動力統合ギヤ58、推進軸66、終減速装置70を介して駆動軸80R,80Lと係合する。これにより、第1変速機構30は、内燃機関5の機関出力軸8から出力された機械的動力を、第1入力軸27で受けて、変速段(奇数段)31,33,35、及び後進ギヤ段39のうち選択した変速段により変速し、トルクを変化させて、駆動輪88R,88Lに係合する駆動軸80R,80Lに向けて出力することが可能となっている。
【0073】
この場合、駆動輪88R,88Lの回転は、動力統合ギヤ58を介して第2変速機構40の第2出力軸48に伝達される。ECU100が第2変速機構40の第2群の変速段42,44,46のうちいずれか1つの変速段を選択して、対応するカップリング機構を係合状態にしているとき、動力統合ギヤ58から第2出力軸48に伝達された機械的動力は、第2変速機構40の変速段(偶数段)42,44,46のうち選択されている変速段により変速され、第2入力軸28に伝達されて、モータ50のロータ52を回転させる。なお、ECU100が第2変速機構40の変速段42,44,46をいずれも選択しないとき、すなわち第2変速機構40のカップリング機構42e,44e,46eを全て解放状態にしているときには、第2出力軸48と第2入力軸28との間で動力伝達が遮断されて、駆動輪88R,88Lの回転は、第2入力軸28に伝達されることはない。
【0074】
一方、ECU100が、第2変速機構40の第2群の変速段42,44,46のうちいずれか1つの変速段を選択して、対応するカップリング機構42e,44e,46eを係合状態にして、さらに第2クラッチ22を係合状態にすると共に第1クラッチ21を解放状態にすることで、機関出力軸8は、第2入力軸28、第2出力軸48、動力統合ギヤ58、推進軸66、終減速装置70を介して駆動軸80R,80Lと係合する。これにより、第2変速機構40は、内燃機関5の機関出力軸8及びモータ50のロータ52から出力された機械的動力を、第2入力軸28で受けて、各変速段(偶数段)42,44,46のうち選択した変速段により変速し、トルクを変化させて、駆動輪88R,88Lに係合する駆動軸80R,80Lに向けて出力することが可能となっている。
【0075】
この場合、駆動輪88R,88Lの回転は、動力統合ギヤ58を介して第1変速機構30の第1出力軸37に伝達される。ECU100が第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つの変速段を選択し、対応するカップリング機構31e,33e,35e,39eを係合状態にしているとき、動力統合ギヤ58から第1出力軸37に伝達された機械的動力は、第1変速機構30の変速段(奇数段)31,33,35及び後進ギヤ段39のうち選択された変速段により変速され、第1入力軸27に伝達されて、当該第1入力軸27を回転させる。なお、ECU100が第1変速機構30の変速段31,33,35,39をいずれも選択しないとき、すなわち第1変速機構30のカップリング機構31e,33e,35e,39eを全て解放状態にしているときには、第1出力軸37と第1入力軸27との間で動力伝達が遮断されて、駆動輪88R,88Lの回転は、第1入力軸27に伝達されることはない。
【0076】
以上のように構成されたハイブリッド車両1は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を交互につなぎ替えることで、変速時において、機関出力軸8と駆動輪88R,88Lとの間における動力伝達の途切れを抑制することが可能となっており、以下に説明する。
【0077】
まず、ECU100が第1及び第2変速機構30,40の変速段31〜46のうちいずれか1つの変速段を選択する。例えば、選択した変速段が第1変速機構30の変速段31,33,35,39のうち第1速ギヤ段31である場合、ECU100は、第1速ギヤ段31に対応する第1速カップリング機構31eを係合状態にすると共に、その他のカップリング機構33e,35e,39eを解放状態にする。そして、ECU100は、第1クラッチ21を係合状態にすると共に第2クラッチ22を解放状態にする。これにより、駆動装置10は、内燃機関5からの機械的動力を、第1入力軸27で受け、第1群(奇数段)の変速段31,33,35のうち選択した変速段である第1速ギヤ段31により変速し、第1出力軸37から駆動軸80R,80Lに伝達して、駆動輪88R,88Lを回転駆動することができる。
【0078】
このとき、ECU100は、第2変速機構40の変速段42,44,46のうち、第1変速機構30において選択している変速段である第1速ギヤ段31より、一段高速(ハイギヤ)側の変速段である第2速ギヤ段42を選択し、対応する第2速カップリング機構42eを係合状態にすることで、第2変速機構40の第2入力軸28を空転させる。このようにして、第1速ギヤ段31から第2速ギヤ段42への変速動作、すなわち第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放動作に備えている。
【0079】
そして、第1変速機構30の第1速ギヤ段31から、第2変速機構40の第2速ギヤ段42への変速(アップシフト)を行う場合、ECU100が、第1クラッチ21を解放状態にしながら第2クラッチ22を係合状態にすることで、駆動装置10は、第1クラッチ21と第2クラッチ22とを掴み替える動作、いわゆる「クラッチ・トゥ・クラッチ」を行う。この動作により、駆動装置10は、機関出力軸8からの動力伝達経路を、徐々に第1変速機構30の第1入力軸27から第2変速機構40の第2入力軸28に移していき、第2速ギヤ段42への変速が完了することとなる。
【0080】
このようにして、駆動装置10は、第1変速機構30の変速段、すなわち奇数段である第1速ギヤ段31から、第2変速機構40の変速段、すなわち偶数段である第2速ギヤ段42への変速時において、機関出力軸8から駆動軸80R,80Lへの動力伝達に途切れを生じさせることなく変速することができる。
【0081】
以上のように構成されたハイブリッド車両1において、ECU100は、第1及び第2クラッチ21,22と、第1及び第2変速機構30,40と、内燃機関5及びモータ50と、摩擦ブレーキ装置90R,90Lを制御するブレーキECU140と、を協調して制御する制御手段として設けられている。ECU100は、第1変速機構30及び第2変速機構40において選択されている変速段、すなわちカップリング機構31e〜46eの係合/解放状態と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態とを検出している。
【0082】
また、ECU100は、クランク角センサからの機関出力軸8の回転角位置(クランク角)に係る信号と、レゾルバからのモータ50のロータ52の回転角位置に係る信号と、ブレーキECU140からの駆動輪88R,88Lの回転速度及び車速に係る信号とを検出している。また、ECU100は、アクセルペダルポジションセンサ(図示せず)からのアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下、アクセル操作量と記す)に係る信号と、ブレーキペダルストロークセンサ146からブレーキECU140を介してブレーキ操作量に係る信号を検出している。また、ECU100は、電池監視ユニットからの二次電池120の蓄電状態(SOC)に係る信号を検出している。また、ECU100は、ブレーキECU140から、駆動輪88R,88Lのそれぞれの車輪速度に係る信号と、ハイブリッド車両1の走行速度である車速に係る信号とを検出している。
【0083】
これら信号に基づいて、ECU100は、各種制御変数を算出している。制御変数には、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態と、第1及び第2変速機構30,40において現在選択されている変速段と、ハイブリッド車両1の走行速度(以下、車速と記す)と、二次電池120の蓄電状態(SOC)と、内燃機関5の機関出力軸8の回転速度(以下、機関回転速度と記す)と、内燃機関5が機関出力軸8から出力するトルク(以下、機関負荷と記す)と、モータ50のロータ52の回転速度(以下、モータ回転速度と記す)と、モータ50を発電機として作動させて回生制動を行ったときに、モータ50のロータ52に伝達されて作用するトルク(以下、実回生トルクと記す)を算出している。
【0084】
また、ECU100は、上述の信号に基づいて、ハイブリッド車両1を駆動する方向のトルクとして、駆動輪88R,88Lに生じることが要求されているトルク(以下、要求駆動トルクと記す)と、機関出力軸8からの機械的動力により、駆動輪88R,88Lに作用するトルク(以下、機関駆動トルクと記す)とを制御変数として算出している。また、ECU100は、ハイブリッド車両1を制動する方向のトルクとして、回生制動を行うことにより駆動輪88R,88Lに作用する回生制動トルクと、摩擦制動を行うことにより駆動輪88R,88Lに作用する摩擦制動トルクとを制御変数として算出している。なお、後述する「要求制動トルク」とは、ハイブリッド車両1を制動する方向のトルクであり、本実施例において、回生制動トルクと摩擦制動トルクにより構成される。
【0085】
これら制御変数に基づいて、ECU100は、内燃機関5及びモータ50の運転状態を把握しており、第1及び第2変速機構30,40において選択される変速段及び変速動作、すなわち各カップリング機構31e〜46eの係合/解放状態と、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態とを制御することが可能となっている。また、ECU100は、モータ50の作動状態すなわち力行と回生制動と、内燃機関5の作動状態すなわち機関出力軸8からの機関負荷及び機関回転速度とを制御することが可能となっている。また、ECU100は、ブレーキECU140及びブレーキアクチュエータ130を介して摩擦ブレーキ装置90R,90Lの作動状態を制御可能となっている。
【0086】
また、ハイブリッド車両1は、悪路(オフロード)や滑りやすい路面を走行する際に、内燃機関5の機関出力軸8から出力される機械的動力と、ブレーキアクチュエータ130から摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される液圧、すなわち駆動輪88R,88Lに作用する摩擦制動トルクとを協調して制御し、運転者によるアクセルペダルの操作(以下、アクセル操作と記す)や、ブレーキペダルの操作(以下、ブレーキ操作と記す)がなされていない状態で、予め設定された設定車速に従って走行する車両走行(以下、クロール走行と記す)を行うことが可能となっている。
【0087】
なお、設定車速は、1〜5km/hなど、極低速に設定されており、制御定数としてブレーキECU140のROM、又はECU100のROMに記憶されている。なお、設定車速は、運転者により選択可能に、複数設定されているものとしても良い。
【0088】
ハイブリッド車両1には、運転者により操作可能に、クロール走行スイッチ148が設けられている。運転者は、上述のクロール走行を行わせる場合、ブレーキペダル144を操作し、車速をゼロにして、クロール走行スイッチ148をオン状態に操作する。クロール走行スイッチ148は、クロール走行スイッチ148のオン/オフ状態に係る信号をブレーキECU140に送出している。
【0089】
ブレーキECU140は、目標車速に比べて車速が上回っている場合には、内燃機関5が機関出力軸8から出力する機械的動力(以下、機関出力動力と記す)を低下させる要求をECU100に送出する。一方、ブレーキECU140は、目標車速に比べて車速が下回っている場合には、機関出力動力を上昇させる要求をECU100に送出する。ECU100は、ブレーキECU140からの要求を受けて、内燃機関5の機関出力動力を調整することが可能となっている。
【0090】
また、ブレーキECU140は、目標車輪速度に比べて車輪速度が上回っている場合には、駆動輪88R,88Lに作用させる摩擦制動トルクを増大させる、すなわち駆動輪88R,88Lにそれぞれ対応する摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される液圧が上昇するようブレーキアクチュエータ130を制御する。一方、ブレーキECU140は、目標車輪速度に比べて車輪速度が下回っている場合には、駆動輪88R,88Lに作用させる摩擦制動トルクを減少させる、すなわち摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される液圧が低下するようブレーキアクチュエータ130を制御することが可能となっている。
【0091】
このようにして、ハイブリッド車両1は、運転者によりクロール走行スイッチ148がオン状態に操作された場合、ブレーキECU140及びECU100が、機関出力動力により駆動輪88R,88Lに作用する機関駆動トルクと、摩擦ブレーキ装置90R,90Lの作動により駆動輪88R,88Lに作用する摩擦制動トルクとを協調して制御することで、運転者によりアクセル操作及びブレーキ操作がなされていない状態で、予め設定された設定車速に従って走行するクロール走行を行うことが可能となっている。
【0092】
以上のように構成されたハイブリッド車両1において、上述のクロール走行を行う場合、駆動輪88R,88Lの回転速度変動を瞬時に抑制する必要があるため、摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、比較的大きな摩擦力を瞬間的に発生する必要がある。摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、ブレーキパッド95によりロータディスク92を挟み込んで摩擦力を生じさせるが、瞬間的に大きな摩擦力を生じさせると、このとき、比較的大きな音が生じることがある。
【0093】
また、クロール走行を行っている間は、摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達される作動力を高い頻度で増減させる必要があり、ブレーキアクチュエータ130の構成部品、例えば、電動ポンプや電磁弁を作動させる頻度が高くなるため、ブレーキアクチュエータ130の温度が上昇し易い。したがって、ブレーキアクチュエータ130が過熱状態となる前にクロール走行を停止すると、クロール走行を長時間継続することができなくなるという問題がある。
【0094】
したがって、ハイブリッド車両1においては、クロール走行を行う場合、駆動輪88R,88Lとロータ52とを係合させると共に、モータ50を発電機として作動させて駆動輪88R,88Lを制動して、ハイブリッド車両1に制動力を生じさせる回生制動を利用することで、摩擦ブレーキ装置90R,90Lにかかる負荷を軽減し、摩擦ブレーキ装置90R,90Lを構成する摩擦部材から生じる音や、摩擦ブレーキ装置90R,90Lに作動力を伝達するブレーキアクチュエータ130の温度が上昇することを抑制する技術が要望されている。
【0095】
そこで、本実施例に係るハイブリッド車両1において、制御手段としてのECU100は、クロール走行を行う場合、第1クラッチ21を係合状態にして、機関出力軸8からの機械的動力を第1変速機構30により変速して駆動輪88R,88Lに伝達させると共に、第2クラッチ22を係合状態又は半係合状態にして且つモータ50を発電機として作動させて駆動輪88R,88Lに回生制動トルクを作用させるものとしており、以下に、ECUが実行するクロール走行制御について、図1、図4〜図8を用いて説明する。
【0096】
図4は、ECUが実行するクロール走行制御を示すフローチャートである。図5は、ECUが実行するギヤ段選択制御を示すフローチャートである。図6−1は、要求制動トルク、摩擦制動トルク、及び回生制動トルクの車速に対する変化の一例を示す図である。図6−2は、左右の駆動輪に作用する回生制動トルクと摩擦制動トルクの一例を示す図である。図7は、ECUが実行するクラッチ係合力調整制御を示すフローチャートである。図8は、クラッチ係合力調整制御を実行した場合における実回生トルクの変化を示すタイミングチャートである。
【0097】
図1及び図4に示すように、ステップS100において、ECU100は、各種制御変数を取得する。この制御変数には、ハイブリッド車両1の車速、クロール走行スイッチ148のオン/オフ状態、第1及び第2変速機構30,40において選択されている変速段、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態、各駆動輪88R,88L作用することが要求されている「要求制動トルク」等が含まれている。
【0098】
なお、「要求制動トルク」は、モータ50が発電機として作動して駆動輪88R,88Lに等しく作用する回生制動トルクと、左右の駆動輪88R,88Lにそれぞれ対応して設けられた摩擦ブレーキ装置90R,90Lにより、それぞれ左右の駆動輪88R,88Lに作用する摩擦制動トルクとの合計値である。要求制動トルクは、機関出力軸8からの機械的動力により、駆動輪88R,88Lに等しく作用する機関駆動トルクから、駆動輪88R,88Lに生じることが要求されている要求駆動トルクとの差分値として、予めECU100により算出されている。
【0099】
そして、ステップS102において、ECU100は、クロール走行スイッチ148がオン状態であるか否かを判定する。すなわち、運転者により、上述のクロール走行を行うことが要求されているか否かを判定している。なお、クロール走行スイッチ148は、ブレーキペダル144が操作されており且つ車速がゼロであるときに、運転者により操作されてオン状態となる。クロール走行スイッチ148がオフ状態である(No)と判定され場合は、再びステップS100に戻る。
【0100】
クロール走行スイッチ148がオン状態である(Yes)と判定された場合、ECU100は、ステップS104において、車速が、予め設定された判定車速Aを下回るか否かを判定する。
【0101】
判定車速Aは、クロール走行を許可する車速の上限値として設定されている。判定車速Aは、例えば、25km/hに設定されており、制御定数としてECU100のROM(図示せず)に記憶されている。車速が、判定車速A以上である(No)と判定された場合、再び、ステップS100に戻る。
【0102】
車速が、判定車速Aを下回る(Yes)と判定された場合、ECU100は、ステップS108において、車速が、予め設定された第2判定車速Bを上回るか否かを判定する。
【0103】
第2判定車速Bは、クロール走行を許可する車速の下限値として、判定車速Aより低い値に設定されている。第2判定車速Bは、第2変速機構40において変速段42,44,46をいずれも選択しない状態にして、駆動輪88R,88Lの回転を、第1変速機構30の第1速ギヤ段31により変速し、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を介して、第2入力軸28に係合するロータ52に伝達させても、モータ回転速度が低く、モータ50を発電機として作動させることが困難な車速に設定されている。第2判定車速Bは、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。車速が、第2判定車速B以下であると判定された場合、再び、ステップS100に戻る。
【0104】
車速が、第2判定車速Bを上回ると判定された場合、ECU100は、クロール走行を行うことが可能であると判断して、ステップS110において、第1及び第2変速機構30,40において選択するギヤ段と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態とを決定する制御処理(以下、単に「ギヤ段選択制御」と記す)を実行する。
【0105】
図5に示すように、ギヤ段選択制御のステップS112において、ECU100は、第1変速機構30において第1速ギヤ段31を選択する。これにより、駆動輪88R,88Lと第1入力軸27とを係合させる。
【0106】
そして、ステップS114において、ECU100は、第1クラッチ21を係合状態にすると共に、第2クラッチ22を解放状態にする。これにより、機関出力軸8から出力される機械的動力を、第1変速機構30の第1速ギヤ段31により変速して、駆動輪88R,88Lに伝達させることが可能となる。このとき、第2入力軸28は、駆動輪88R,88Lの回転速度に比例した回転速度で空転しており、第2変速機構40においては、ギヤ段の選択/非選択すなわち変速動作が可能となる。
【0107】
そして、ステップS116において、ECU100は、第2変速機構40の変速段42,44,46をいずれも選択しない状態、すなわち対応するカップリング機構42e,44e,46eを全て解放状態にする。これにより、第2入力軸28と第2出力軸48との間における動力伝達が遮断される。
【0108】
このようにして、ECU100は、ギヤ段選択制御を行うことで、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第1変速機構30の最低速段である第1速ギヤ段31により変速して、駆動輪88R,88Lに機関駆動トルクを作用させることが可能となる。この状態から、第2クラッチ22を係合又は半係合状態にして駆動輪88R,88Lとロータ52を係合させると共にモータ50を発電機として作動させてロータ52を制動することで、機関駆動トルクとは回転方向が逆向きのトルクである回生制動トルクを、駆動輪88R,88Lに作用させることが可能となっている。
【0109】
そして、再び、図4に示すクロール走行制御に戻り、ステップS120において、ECU100は、左右の駆動輪88R,88Lにそれぞれ生じることが要求されている要求制動トルクを制御変数として取得する。要求制動トルクは、図6−1に示すように、車速が上昇するに従って、その値が増大する。また、左右の駆動輪88R,88Lのスリップ率は、走行路面に応じて異なるため、要求制動トルクは、図6−2に示すように、左右の駆動輪88R,88Lで異なるものとなる。
【0110】
そして、ステップS122において、ECU100は、取得された要求制動トルクに基づいて、左右の駆動輪88R,88Lに等しく作用する回生制動トルクを設定し、左右の駆動輪88R,88Lについて、それぞれ別個に摩擦制動トルクを設定する。詳細には、図6−1に一例を示すように、車速に応じて回生制動トルクを決定する。左右の駆動輪88R,88Lについて、回生制動トルクは、同一の値となる。そして、図6−2に一例を示すように、左右の駆動輪88R,88Lについて、それぞれ別個に要求されている要求制動トルクから、同一の値である回生制動トルクを減じた値を、それぞれ摩擦制動トルクに設定する。
【0111】
そして、ステップS130において、ECU100は、第2クラッチ22の係合力の調整に係る制御処理(以下、クラッチ係合力調整制御と記す)を実行する。図7に示すように、クラッチ係合力調整制御ルーチンのステップS131において、ECU100は、各種制御変数を取得する。この制御変数には、第2クラッチ22から第2入力軸28を介してロータ52に伝達されるトルクである「実回生トルク」が含まれている。
【0112】
なお、「実回生トルク」は、モータ50を発電機として作動させたときに、ロータ52に作用するトルクであり、第2変速機構40の変速段をいずれも選択しない状態にすると共に、第1変速機構30においていずれか1つの変速段を選択し、第1クラッチ21を係合状態にすると共に、第2クラッチ22を半係合状態又は係合状態にしたときに、第2クラッチ22からロータ52に伝達されるトルクである。ECU100は、インバータ110及びモータ50の作動状態に基づいて、実回生トルクを推定することが可能となっている。
【0113】
そして、ステップS132において、ECU100は、実回生トルクの時間上昇率が、所定の上昇率Aとなるように、第2クラッチ22の係合力を増大させる。図8に示すように、第2クラッチ22を解放状態から半係合状態に向けて増大させる。
【0114】
そして、ステップS134において、ECU100は、実回生トルクが、予め設定された判定トルクTq1に達したか否かを判定する。
【0115】
なお、判定トルクTq1及び時間上昇率Aは、予め適合実験等により、第2クラッチ22が解放状態から半係合状態に向かう際に、摩擦ブレーキ装置90R,90Lからの音や、ブレーキアクチュエータ130の熱が問題とならないような値として求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
【0116】
ステップS134において実回生トルクが判定トルクTq1に達していない(No)と判定された場合、ECU100は、そのまま、実回生トルクが時間上昇率Aで上昇するよう、第2クラッチ22の係合力を制御する。
【0117】
一方、実回生トルクが判定トルクTq1に達した(Yes)と判定された場合、ECU100は、ステップS136において、実回生トルクの時間上昇率が所定の上昇率Bとなるように、第2クラッチ22の係合力を調整する(時点t1)。時間上昇率Bは、上述の時間上昇率Aに比べて低い値に設定されている。つまり、ECU100は、実回生トルクの時間上昇率が、判定トルクTq1に達する前に比べて低下するよう第2クラッチ22の係合力を調整する。このようにしてECU100は、第2クラッチ22が半係合状態から完全係合状態に向かうよう係合力を増大させる。
【0118】
そして、ステップS138において、ECU100は、実回生トルクが、予め設定された判定トルクTq2に達したか否かを判定する。
【0119】
なお、実回生トルクTq2及び時間上昇率Bは、予め適合実験等により、第2クラッチ22を半係合状態から完全係合状態に向かう際に、摩擦ブレーキ装置90R,90Lからの音や、ブレーキアクチュエータ130の熱が問題とならないような値として求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
【0120】
ステップS138において実回生トルクが判定トルクTq2に達していない(No)と判定された場合、ECU100は、そのまま、実回生トルクが時間上昇率Bで上昇するよう第2クラッチ22の係合力を制御する。
【0121】
一方、実回生トルクが判定トルクTq2に達した(Yes)と判定された場合には、ECU100は、ステップS140において、実回生トルクの時間上昇率が、所定の時間上昇率Cとなるよう第2クラッチ22の係合力を調整する(時点t2)。時間上昇率Cは、時間上昇率Bに比べて高い値に設定されている。つまり、ECU100は、実回生トルクの時間上昇率が判定トルクTq2に達する前に比べて増大するよう第2クラッチ22の係合力を調整する。このようにしてECU100は、第2クラッチ22の係合力を、第2クラッチ22が完全に係合するまで増大させる。
【0122】
そして、ステップS142において実回生トルクが、予め設定された判定トルクTq3に達したか否かを判定する。判定トルクTq3に達していない(No)と判定された場合、ECU100は、そのまま実回生トルクが時間上昇率Cで上昇するよう第2クラッチ22の係合力を制御する。時間上昇率Cは、予め適合実験等により求められており、ECU100のROMに記憶されている。
【0123】
一方、実回生トルクが判定トルクTq3に達した(Yes)と判定された場合、ECU100は、第2クラッチ22が完全に係合状態になったものと判断して、係合力の増大を終了し(時点t3)、再び、図4に示すクロール走行制御ルーチンに戻る。
【0124】
このように、ECU100がクラッチ係合力調整制御ルーチンを実行して、第2クラッチ22を解放状態から係合状態にするときに、半係合状態である実回生トルクTq1から、実質的に係合状態となる実回生トルクTq2にかけて係合力を増大させる期間(図8に矢印Sで示す)においては、他の期間に比べて実回生トルクの時間上昇率を低く設定することで、第2クラッチ22を解放状態から係合状態にするときに、係合動作に起因して生じる振動(衝撃)を抑制することができる。
【0125】
以上に説明したように本実施例に係るハイブリッド車両1は、機関出力軸8から機械的動力を出力する内燃機関5と、発電機として作動してロータ52を制動可能なモータ50と、機関出力軸8からの機械的動力を第1入力軸27で受け、複数の変速段31,35,37,39のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪88R,88Lに向けて伝達可能な第1変速機構30と、機関出力軸8及びロータ52からの機械的動力を、当該ロータ52と係合する第2入力軸28で受け、複数の変速段42,44,46のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪88R,88Lに向けて伝達可能な第2変速機構40と、機関出力軸8と第1入力軸27とを係合可能な第1クラッチ21と、機関出力軸8と第2入力軸28とを係合可能な第2クラッチ22と、摩擦力により駆動輪88R,88Lを制動可能な摩擦ブレーキ装置90R,90Lと、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態と、第1及び第2変速機構30,40における変速段の選択と、モータ50の作動とを制御可能な制御手段としてのECU100を備えており、駆動輪88R,88Lとロータ52とを係合させると共にモータ50を発電機として作動させて駆動輪88R,88Lを制動する回生制動と、摩擦ブレーキ装置90R,90Lを作動させて駆動輪88R,88Lを制動する摩擦制動と、車速が判定車速A以下であり、且つ運転者によりアクセル操作及びブレーキ操作が行われていないときに、予め設定された設定車速に従って走行するクロール走行とを行うことが可能なものである。
【0126】
本実施例に係るハイブリッド車両1において、ECU100は、上述のクロール走行を行う場合、第1クラッチ21を係合状態にして、機関出力軸からの機械的動力を第1変速機構30により変速して駆動輪に伝達すると共に、第2変速機構40の変速段42,44,46をいずれも選択しない状態にして、第2クラッチ22を係合状態又は半係合状態にすると共にモータ50を発電機として作動させて、駆動輪88R,88Lに回生制動トルクを作用させるものとしたので、摩擦ブレーキ装置90R,90Lを作動させて駆動輪88R,88Lに作用させる摩擦制動トルクを低減することができる。これにより、摩擦ブレーキ装置90R,90Lにかかる負荷を軽減し、摩擦ブレーキ装置90R,90Lから生じる音や、温度上昇を抑制することができる。
【0127】
また、本実施例に係るハイブリッド車両1において、ECU100は、第2クラッチ22を解放状態から係合状態にする間において、モータ50を発電機として作動させてロータ52に作用する実回生トルクが、予め設定された判定トルクTq1に達した後には、当該判定トルクTq1に達する前に比べて、実回生トルクの時間上昇率が低くなるよう第2クラッチ22の係合力を調整するものとしたので、第2クラッチ22を係合状態にする際に、その係合動作に起因して生じる振動を抑制することができる。
【0128】
なお、本実施例に係るハイブリッド車両1において摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、左右の駆動輪88R,88Lにそれぞれ対応して設けられ、別個に摩擦制動トルクを作用させることが可能なものであり、ECU100は、駆動輪88R,88Lに作用することが要求される要求制動トルクが左右で異なる場合、左右の駆動輪88R,88Lに同一の回生制動トルクを作用させると共に、左右の駆動輪88R,88Lに異なる摩擦制動トルクを作用させて、要求制動トルクを駆動輪88R,88Lに作用させるものとした。これにより、摩擦ブレーキ装置90R,90Lは、左右の駆動輪88R,88Lにそれぞれ作用させることが要求される要求制動トルクのうち、主に、左右の差分を作用させれば良くなり、摩擦ブレーキ装置90R,90Lに生じる摩擦力、及びブレーキアクチュエータ130等から摩擦ブレーキ装置90R,90Lに伝達すべき伝達力を低減することができる。
【実施例2】
【0129】
本実施例に係るハイブリッド車両の制御について、図5、図9、及び図10を用いて説明する。図9は、ハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。図10は、ECUが実行するハイブリッド車両のクロール走行制御を示すフローチャートである。本実施例に係るハイブリッド車両は、所定値以上の車両減速度で車両を制動することを要求されている場合には、係合力を調整することなく第2クラッチを解放状態から係合状態にする点で、実施例1と異なり、以下に詳細を説明する。なお、実施例1と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0130】
図9に示すように、本実施例に係るハイブリッド車両1Bには、車両の前後方向及び左右方向の加速度を検出可能な加速度センサ142が設けられている。加速度センサ142は、検出したハイブリッド車両1Bの加速度に係る信号を、ブレーキECU140に送出している。ブレーキECU140は、加速度センサ142からの加速度に係る信号を受けて、ハイブリッド車両1が減速したときに生じる車両後方向きの加速度である「車両減速度」を、制御変数として算出している。つまり、加速度センサ142は、車両減速度を検出可能に構成されており、ブレーキECU140は、算出した車両減速度を、ECU100に送出している。
【0131】
図9及び図10に示すように、ECU100Bは、ステップS200において、各種制御変数を取得する。この制御変数には、ハイブリッド車両1の車速、クロール走行スイッチ148のオン/オフ状態、第1及び第2変速機構30,40において選択されている変速段、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態、各駆動輪88R,88Lに作用することが要求されている要求制動トルクに加え、車両減速度等が含まれている。
【0132】
そして、ステップS202において、ECU100Bは、クロール走行スイッチ148がオン状態であるか否かを判定する。すなわち、運転者によりクロール走行を行うことが要求されているか否かを判定する。クロール走行スイッチ148がオフ状態である(No)と判定された場合は、再びステップS200に戻る。
【0133】
クロール走行スイッチがオン状態である(Yes)と判定された場合、ECU100Bは、ステップS204において、車速が、予め設定された判定車速Aを下回るか否かを判定する。判定車速Aは、クロール走行を許可する車速の上限値として設定されており、制御定数としてECU100BのROM(図示せず)に記憶されている。車速が、判定車速A以上である(No)と判定された場合、再び、ステップS200に戻る。
【0134】
車速が、判定車速Aを下回る(Yes)と判定された場合、ECU100Bは、ステップS206において、算出された車両減速度が、予め設定された判定減速度Gを上回るか否かを判定する。すなわち、運転者により所定値以上の車両減速度でハイブリッド車両1Bを制動することが要求されているか否かを判定している。判定減速度Gは、制御定数としてECU100BのROMに記憶されている。
【0135】
運転者によりブレーキ操作が行われていない場合など、算出された車両減速度が判定減速度G以下である(No)と判定された場合には、再び、ステップS200に戻る。
【0136】
一方、運転者によりブレーキ操作が行われ、ハイブリッド車両1Bが減速しており、車両減速度が判定減速度Gを上回る(Yes)と判定された場合には、ECU100Bは、ステップS208において、車速が、予め設定された第2判定車速Bを上回るか否かを判定する。
【0137】
第2判定車速Bは、クロール走行を許可する車速の下限値として、判定車速Aより低い値に設定されている。第2判定車速Bは、制御定数としてECU100BのROMに記憶されている。車速が、第2判定車速B以下である(No)と判定された場合、再び、ステップS200に戻る。
【0138】
一方、車速が、第2判定車速Bを上回ると判定された場合、ECU100Bは、ステップS210において、第1及び第2変速機構30,40において選択するギヤ段と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態とを決定する制御処理(ギヤ段選択制御)を実行する。ステップS210におけるギヤ段選択制御は、図5にステップS112〜S116で示す制御処理と同一のものを実行する。
【0139】
ECU100Bは、ステップS210においてギヤ段選択制御を行うことで、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第1変速機構30により変速して、駆動輪88R,88Lに機関駆動トルクを作用させることが可能となる。加えて、第2クラッチ22を係合又は半係合状態にして駆動輪88R,88Lとロータ52を係合させると共に、モータ50を発電機として作動させて、機関駆動トルクとは回転方向が逆向きのトルクである回生制動トルクを駆動輪88R,88Lに作用させることが可能となる。
【0140】
ギヤ段選択制御を行った後、ステップS212において、ECU100Bは、左右の駆動輪88R,88Lにそれぞれ作用することが要求されている要求制動トルクを制御変数として取得する。
【0141】
そして、ステップS214において、ECU100Bは、取得された要求制動トルクに基づいて、左右の駆動輪88R,88Lに等しく作用する回生制動トルクを設定し、左右の駆動輪88R,88Lについて、それぞれ別個に摩擦制動トルクを設定する。左右の駆動輪88R,88Lにそれぞれ別個に要求されている要求制動トルクから、同一の値である回生制動トルクを減じた値を、それぞれ摩擦制動トルクに設定する。
【0142】
そして、ステップS216において、ECU100Bは、解放状態にある第2クラッチ22を、係合力の調整、すなわち実回生トルクの徐変を行うことなく、即座に係合状態にする。これと同時に、ECU100Bは、モータ50を発電機として作動させてロータ52を制動することで、実回生トルクをゼロから目標値に急速に上昇させて、ロータ52と係合している駆動輪88R,88Lに回生制動トルクを作用させる。
【0143】
このように、ECU100Bは、所定値以上の車両減速度でハイブリッド車両1Bを制動することが要求されている場合には、第2クラッチ22の係合力の調整、すなわち実回生トルクの徐変を行うことなく、即刻、第2クラッチ22を係合状態にすると共にモータ50を発電機として作動させて、所望の実回生トルクを生じさせることで、駆動輪88R,88Lに高い応答性で回生制動トルクを作用させることができる。このように駆動輪88R,88Lの高い応答性の回生制動トルクを作用させることで、摩擦ブレーキ装置90R,90Lが駆動輪88R,88Lに作用させる摩擦制動トルクを低減することができる。
【0144】
以上に説明したように本実施例に係るハイブリッド車両1Bにおいて、ECU100Bは、運転者により所定値以上の車両減速度でハイブリッド車両1Bを制動することが要求されているか否かを判定する機能である制動要求判定手段を含んでおり、所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されていると判定された場合には、係合力を調整することなく第2クラッチ22を解放状態から係合状態にするものとしたので、高い応答性で駆動輪88R,88Lに回生制動トルクを作用させて、ハイブリッド車両1Bを制動することができる。
【0145】
なお、上述した各実施例において、原動機として設けられたモータ(モータジェネレータ)50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能とを兼ね備えたモータジェネレータであるものとしたが、本発明に係るモータジュネレータは、これに限定されるものではない。モータジェネレータは、ロータを制動することができれば良く、例えば、ロータに伝達された機械的動力を電力に変換する機能のみを有する発電機で構成するものとしても良い。
【0146】
また、上述した各実施例において、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1出力軸37から駆動輪88R,88Lと係合する動力統合ギヤ58に伝達し、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2出力軸48から動力統合ギヤ58に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40の態様は、これに限定されるものではない。第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ入力軸27,28で受けた機械的動力を、駆動輪88R,88Lに向けて伝達可能であれば良く、例えば、第1変速機構30と第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27、第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪88R,88Lと係合する共通の出力軸に伝達するものとしても良い。
【0147】
また、上述した各実施例において、駆動装置10は、内燃機関5の機関出力軸8及びモータ50のロータ52からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうち少なくとも一方により変速して、動力統合ギヤ58から、推進軸66、終減速装置70の差動機構74を介して駆動輪88R,88Lに伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40から駆動輪88R,88Lに向けての動力伝達の態様は、これに限定されるものではない。駆動装置10において、第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27及び第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪88R,88Lに向けて伝達可能であれば良く、例えば、動力統合ギヤ58、又は当該動力統合ギヤ58と噛み合う第1及び第2駆動ギヤ37c,48cが、直接に差動機構74のリングギヤ72を駆動するものとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0148】
以上のように、本発明は、原動機として内燃機関とモータとを備え、デュアルクラッチ式の変速機を備えたハイブリッド車両に有用であり、特に、2つの変速機構のうち一方の変速機構の入力軸にモータのロータが係合しているハイブリッド車両に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】実施例1に係るハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】実施例1に係るデュアルクラッチ機構の構造を説明する模式図である。
【図3】実施例1に係る変形例のデュアルクラッチ機構の構造を説明する模式図である。
【図4】実施例1に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するクロール走行制御を示すフローチャートである。
【図5】実施例1に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するギヤ段選択制御を示すフローチャートである。
【図6−1】要求制動トルク、摩擦制動トルク、及び回生制動トルクの車速に対する変化の一例を示す図である。
【図6−2】左右の駆動輪に作用する回生制動トルクと摩擦制動トルクの一例を示す図である。
【図7】実施例1に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するクラッチ係合力調整制御を示すフローチャートである。
【図8】実施例1に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)がクラッチ係合力調整制御を実行した場合の実回生トルクの変化を示すタイミングチャートである。
【図9】実施例2に係るハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。
【図10】実施例2に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するクロール走行制御を示すフローチャートである。
【0150】
実施例2に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するクロール走行制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0151】
1,1B ハイブリッド車両
5 内燃機関
8 機関出力軸
10 駆動装置
20 デュアルクラッチ機構
21 第1クラッチ
22 第2クラッチ
27 第1入力軸
28 第2入力軸
30 第1変速機構
31,33,35,39 ギヤ段(変速段、歯車対)
37 第1出力軸
40 第2変速機構
42,44,46 ギヤ段(変速段、歯車対)
48 第2出力軸
50 モータ(モータジェネレータ)
52 モータのロータ
58 動力統合ギヤ(動力統合機構)
66 推進軸
70 終減速装置
74 差動機構
80R,80L 駆動軸
88R,88L 駆動輪
90R,90L 摩擦ブレーキ装置
100,100B ハイブリッド車両用の電子制御装置(ECU、制御手段、制動要求判定手段)
130 ブレーキアクチュエータ
140 ブレーキ用の電子制御装置(ブレーキECU、制御手段)
142 加速度センサ(車両減速度検出手段)
144 ブレーキペダル
146 ブレーキペダルストロークセンサ
148 クロール走行スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、
発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータと、
機関出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第1変速機構と、
機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第2変速機構と、
機関出力軸と第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
機関出力軸と第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
摩擦力により駆動輪を制動可能な摩擦ブレーキ装置と、
第1及び第2クラッチの係合/解放状態と、第1及び第2変速機構における変速段の選択と、モータジェネレータの作動とを制御可能な制御手段と、
を備え、
駆動輪とロータとを係合させると共にモータジェネレータを発電機として作動させて駆動輪を制動する回生制動と、
車速が予め設定された判定車速以下であり且つ運転者によりアクセル操作及びブレーキ操作がされていないときに、予め設定された設定車速に従って走行することが可能なクロール走行とを行うことが可能なハイブリッド車両であって、
制御手段は、
クロール走行を行う場合、
第1クラッチを係合状態にして、機関出力軸からの機械的動力を第1変速機構により変速して駆動輪に伝達すると共に、
第2変速機構の変速段をいずれも選択しない状態にして、第2クラッチを係合状態又は半係合状態にすると共にモータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪に回生制動トルクを作用させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
第2クラッチを解放状態から係合状態にする間において、
モータジェネレータを発電機として作動させてロータに作用する実回生トルクが、予め設定された判定トルクに達した後には、当該判定トルクに達する前に比べて実回生トルクの時間上昇率が低下するよう第2クラッチの係合力を調整する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
運転者により所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されているか否かを判定する制動要求判定手段を含み、
所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されていると判定された場合には、係合力を調整することなく第2クラッチを解放状態から係合状態にする
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両において、
車両減速度を検出可能な車両減速度検出手段を備え、
制動要求判定手段は、
検出された車両減速度が予め設定された判定減速度を上回る場合に、所定値以上の車両減速度で車両を制動することが要求されているものと判定する
ことを特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−179208(P2009−179208A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21025(P2008−21025)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】