説明

内燃機関の制御装置

【課題】リーンNOx触媒の硫黄被毒回復制御において、吸着した硫黄成分を除去できる温度にリーンNOx触媒を昇温させる際の昇温時間の短縮化を図る。
【解決手段】2以上の気筒群が集合するリーンNOx触媒に吸着した硫黄成分を除去する際に、リーンNOx触媒の温度を昇温させるように内燃機関を制御する触媒昇温制御と、リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分を除去するように内燃機関を制御する硫黄成分除去制御とを行う。ここで、硫黄成分除去制御においては、リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分の除去を行う際に、気筒群のうちいずれかの気筒群の空燃比の制御目標値を理論空燃比よりリッチになるように設定し、他の気筒群の空燃比の制御目標値を理論空燃比よりリーンになるように設定する。また、触媒昇温制御においては、気筒群の各気筒の点火時期を遅角するように補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内燃機関の制御装置に関する。より具体的には、複数の気筒群を備える内燃機関の、各気筒群の排気通路が集合して接続するリーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分を除去する硫黄被毒回復制御を実行する内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特開2000−337137号には、複数のバンク(気筒群)と、複数のバンクからの排気通路の排気を集合させる排気通路に設置されたリーンNOx触媒(リア三元触媒)を有する内燃機関が開示されている。この内燃機関において、リーンNOx触媒は、内燃機関をリーン空燃比で運転した場合に排気ガス中のNOxを吸蔵する一方、ストイキまたはリッチ空燃比で運転した場合には吸蔵されたNOxを放出還元する作用を有している。しかし、リーンNOx触媒には、NOxが吸蔵されると共に、燃料中に含まれる硫黄成分が吸蔵されてしまう場合がある。リーンNOx触媒に吸蔵された硫黄成分が増加すると、リーンNOx触媒の浄化率が低下するという不具合が生じる場合がある。このため、リーンNOx触媒の浄化率が許容範囲を越えて低下する前に、リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分を除去する硫黄被毒回復制御を行う必要がある。
【0003】
リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分は、リーンNOx触媒の温度を高温にし、空燃比をリッチあるいはストイキに制御することで除去される。上記従来技術においては、硫黄被毒回復制御の際、リーンNOx触媒の温度を硫黄成分除去可能な温度(以下「硫黄脱離温度」とする)に昇温するため、1のバンクの空燃比をリッチになるように制御し、他のバンクの空燃比をリーンになるように制御し、更に、リーンNOx触媒に流入する排気全体としては理論空燃比になるように制御する。これにより、リーンNOx触媒の上流のフロント三元触媒からは触媒反応に寄与しない余剰の未燃焼燃料成分と酸素とが流出し、これらがリーンNOx触媒に流入する。その結果、リーンNOx触媒では未燃焼燃料と酸素との反応が促進され触媒温度が上昇する。またこのとき、リーンNOx触媒に流入する排気全体としてはストイキ空燃比付近に制御されている。従って上記従来技術の硫黄被毒回復制御によれば、各バンクをリッチあるいはリーン空燃比に制御することにより、触媒温度を硫黄脱離温度に上昇させ、ストイキ空燃比下で硫黄成分を効率よく還元、放出することができるものとしている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−337137号公報
【特許文献2】特開2003−120365号公報
【特許文献3】特開平11−351048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特にリーン空燃比に制御されているバンクから排出される排気温は低く、更に、三元触媒による排気浄化のため三元触媒下流における排気温は低くなっている。従って、リーンNOx触媒へ流入する排気ガス温度は低い状態となる。このような状況下で、未燃焼燃料と酸素との反応によりリーンNOx触媒を硫黄脱離温度にまで昇温させるためには長時間を要することとなる。一方、上記従来技術における硫黄被毒回復制御中、各バンクからの排気ガスはリッチあるいはリーン空燃比に制御されているため、フロント三元触媒の浄化率は低下することとなる。従って、硫黄被毒回復制御中の排気ガスの浄化は、主にリーンNOx触媒による浄化に頼られることとなる。従って、硫黄被毒回復制御に長時間を要することは、浄化率向上やエミッション低減の観点からは好ましいものではない。
【0006】
従って、この発明においては、リーンNOx触媒の硫黄被毒回復制御時に、リーンNOx触媒の昇温時間を短縮するように改良した内燃機関の制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、2以上の気筒群と、前記気筒群のそれぞれに接続する排気通路が集合して接続するリーンNOx触媒と、を備える内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
前記リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分を除去するように前記内燃機関を制御する硫黄成分除去制御手段と、
前記硫黄成分除去に先立って、前記リーンNOx触媒の温度を昇温させるように前記内燃機関を制御する触媒昇温制御手段と、を備え、
前記硫黄成分除去制御手段は、
前記リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分の除去を行う際に、前記気筒群のうちいずれかの気筒群の空燃比の制御目標値を理論空燃比よりリッチになるように設定し、他の気筒群の空燃比の制御目標値を理論空燃比よりリーンになるように設定する、リッチ/リーン空燃比設定手段を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記気筒群の各気筒の点火時期を遅角する点火時期遅角手段を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記触媒昇温制御手段は、
前記硫黄成分除去制御手段により硫黄成分を除去する際の、スロットルバルブの開度を推定する開度推定手段と、
前記推定されたスロットルバルブの開度に応じて、前記スロットルバルブの開度を制御する開度制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、前記触媒昇温制御手段は、前記硫黄成分除去制御手段により硫黄成分を除去する際の、発生トルクを推定するトルク推定手段を備え、
前記点火時期遅角手段は、前記推定されたトルクに応じて、前記点火時期を遅角させることを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、前記内燃機関は、前記気筒群の各気筒に配置され、それぞれ前記気筒内に燃料を噴射する筒内インジェクタを備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記筒内インジェクタから、前記各気筒の圧縮行程において、燃料が前記気筒内に直接噴射されるように制御する燃料噴射時期制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
第5の発明は、第4の発明において、前記内燃機関は、
前記筒内インジェクタに供給する燃料を保持する燃料タンクと、
前記燃料タンクからの蒸発燃料を吸蔵するキャニスタと、
前記蒸発燃料を含むパージガスを、前記キャニスタから吸気通路に流入させるパージ機構と、を備え、
前記吸気通路に供給されるパージガス濃度を学習するパージガス濃度学習手段を備えることを特徴とする。
【0012】
第6の発明は、第5の発明において、前記パージガス濃度が判定濃度以下か否かを判定するパージガス濃度判定手段を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記パージガス濃度が判定濃度以下であると認められた場合にのみ、前記リーンNOx触媒の昇温制御を実行することを特徴とする。
【0013】
第7の発明は、第6の発明において、前記パージガス濃度が判定濃度以下であると認められるまでの間、前記パージガスを吸気通路に流入させる際の目標パージ率を、運転条件に応じて設定される基本の目標パージ率よりも、高いパージ率に設定する高パージ率設定手段を備えることを特徴とする。
【0014】
第8の発明は、第4から第7のいずれかの発明において、前記内燃機関は、
前記筒内インジェクタに供給する燃料を保持する燃料タンクと、
前記燃料タンクからの蒸発燃料を吸蔵するキャニスタと、
前記蒸発燃料を含むパージガスを、前記キャニスタから吸気通路に流入させるパージ機構と、を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記パージガスを吸気通路に流入させる際の目標パージ率を、運転条件に応じて設定される基本の目標パージ率よりも、低いパージ率に設定する低パージ率設定手段を備えることを特徴とする。
【0015】
第9の発明は、第1から第8のいずれかの発明において、前記触媒昇温制御手段は、
前記気筒群のうちいずれかの気筒群の空燃比の制御目標値を、前記硫黄除去制御の際のリッチ率よりも小さい比率で、理論空燃比よりリッチに設定し、他の気筒群の空燃比の制御目標値を、前記硫黄除去制御の際のリーン率よりも小さい比率で、理論空燃比よりもリーンに設定する、弱リッチ/弱リーン空燃比設定手段を備えることを特徴とする。
【0016】
第10の発明は、第1から第8のいずれかの発明において、前記触媒昇温制御手段は、前記全ての気筒群の空燃比の制御目標値を、理論空燃比付近に設定する理論空燃比設定手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分を除去する制御を行う前に、気筒群の各気筒の点火時期を遅角するように制御する。これにより、リーンNOx触媒に流入する排気ガスの温度を上昇させることができ、硫黄成分除去の制御に先立ってリーンNOx触媒の温度を上昇させることができる。従って、硫黄成分除去の時間を短時間とすることができ、排気浄化率の向上を図ることができる。
【0018】
第2の発明によれば、硫黄成分除去の制御に先立って、リーンNOx触媒の昇温制御を行う際のスロットルバルブの開度を、硫黄成分除去制御の際のスロットルバルブの開度に応じて設定する。従って、触媒の昇温制御から硫黄成分除去の制御に移行する際の空気量の変動を抑えることができ、移行時におけるショックの発生を抑えることができる。
【0019】
第3の発明によれば、硫黄成分除去の制御に先立って、リーンNOx触媒の昇温制御を行う際の点火時期遅角量を、硫黄成分除去の制御の際に発生すると推定されるトルクに応じて決定する。従って、触媒の昇温制御から硫黄成分除去の制御に移行する際のトルクの変動を抑えることができ、移行時におけるショックの発生を抑えることができる。
【0020】
第4の発明によれば、触媒の昇温制御の際には、筒内インジェクタから、気筒の圧縮行程において、燃料が気筒内に直接噴射されるように制御される。従って、触媒の昇温制御において点火時期を大幅に遅角した場合にも、燃焼を安定させることができる。
【0021】
第5の発明によれば、吸気通路に供給されるパージガス濃度を学習することができる。従って、触媒の昇温制御の際に、筒内の空燃比を予測することができ、予測される空燃比に応じて、燃焼を安定させるように運転条件を選択することができる。
【0022】
第6の発明によれば、吸気通路に供給されるパージガス濃度が判定濃度以下になるまで、リーンNOx触媒の昇温制御が禁止される。従って、触媒の昇温制御時の、点火プラグ近傍のオーバーリッチ状態による燃焼不良発生を抑えることができる。
【0023】
第7の発明によれば、パージガス濃度が判定濃度以下であると認められるまでの間、目標パージ率を、高いパージ率に設定する。従って、より早い段階でパージガス濃度を低くすることができ、硫黄被毒回復制御にかかる時間を短縮化することができる。
【0024】
第8の発明によれば、触媒の昇温制御中、目標パージ率を低いパージ率に設定する。従って、気筒内の空燃比がオーバーリッチ状態となることを防ぐことができ、燃焼不良の発生を抑えることができる。
【0025】
第9の発明によれば、触媒の昇温制御中、気筒群のうちいずれかの気筒群の空燃比の制御目標値を、硫黄除去制御の際のリッチ率よりも小さい比率で、理論空燃比よりリッチに設定し、他の気筒群の空燃比の制御目標値を、硫黄除去制御の際のリーン率よりも小さい比率で、理論空燃比よりもリーンに設定する。従って、触媒昇温制御において、点火時期の遅角によるリーンNOx触媒の昇温効果と共に、リーンNOx触媒における未燃焼成分と酸素との反応により昇温させることができ、より早い段階でリーンNOx触媒を昇温させることができる。
【0026】
第10の発明によれば、触媒の昇温制御中、全ての気筒群の空燃比の制御目標値を、理論空燃比付近に設定する。従って、リーンNOx触媒を所定の温度に昇温させるまでの間、排気浄化率を上昇させることができ、エミッションの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0028】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、この発明の実施の形態1の制御システムを説明するための模式図である。図1に示すシステムは内燃機関2を備えている。内燃機関2は、第1バンク、第2バンクの2つのバンクを備え、2つのバンクのそれぞれは、気筒4a、4bを有する。なお、図1においては、第1、第2バンクのそれぞれに属する気筒4a、4bの断面のみを表しているが、第1、第2バンクはそれぞれ複数の気筒を備えている。各気筒4a、4bのそれぞれにはピストン6が配置されている。ピストン6はその表面に窪みを有する。ピストン6は、コンロッド8を介してクランクシャフト(図示せず)に接続されている。クランクシャフトの近傍には、内燃機関2の機関回転数に応じた出力を発する回転数センサ10が配置されている。
【0029】
気筒4a、4b内のピストン6上部には燃焼室12が設けられている。燃焼室12の天井部(シリンダヘッド)中央には、点火プラグ14が、その先端のギャップを燃焼室12内に突出させるようにして組み付けられている。燃焼室12の側部には、筒内インジェクタ16が燃焼室12内に突出するように組み付けられている。各気筒4a、4bの燃焼室12の天井部には、吸気ポート18a、18b及び排気ポート20a、20bがそれぞれ連通している。吸気ポート18a、18bにはそれぞれ、吸気ポート18a、18bを開閉する吸気バルブ22が備えられている。排気ポート20a、20bには、それぞれ排気ポート20a、20bを開閉する排気バルブ24が備えられている。
【0030】
上記のように内燃機関2の第1バンクに属する各気筒4aの吸気ポート18aは、共通の吸気マニホルド26aに接続されている。また第2バンクに属する各気筒4bの吸気ポート18bは、共通の吸気マニホルド26bに接続されている。吸気マニホルド26a、26bは、共通の吸気通路28に接続されている。吸気通路28には電子制御式のスロットルバルブ30が設けられている。スロットルバルブ30はその開度を変更することにより、吸気通路28内に流入する空気量を調整する。スロットルバルブ30の開度は、アクチュエータを介して、アクセル操作などによる加減速要求等に基づいて電気的に制御される。すなわち、アクセル開度と独立してスロットル開度を制御することができる。スロットルバルブ30の上流において吸気通路28には、エアフロメータ32が配置されている。エアフロメータ32は、吸気通路28内に流入する空気流量に応じた出力を発する。
【0031】
内燃機関2は、筒内インジェクタ16に接続する高圧燃料ポンプ34を備える。高圧燃料ポンプ34は、燃料タンク36に接続されている。燃料タンク36は、ベーパ通路38を介して、キャニスタ40に接続されている。キャニスタ40には、パージ通路42が接続されている。パージ通路42の途中にはVSV(パージ制御弁)44が設けられている。パージ通路42の一端は、吸気通路28に接続されている。このシステムにおいて、燃料タンク36内で発生した蒸発燃料(ベーパ)の一部は、ベーパ通路38を介してキャニスタ40に導入される。キャニスタ40は蒸発燃料を吸着保持する。キャニスタ40内に吸着された蒸発燃料は、内燃機関2の運転中にパージ通路42を介して吸気通路28に供給される。
【0032】
第1バンクに属する各気筒4aの排気ポート20aは、共通の排気マニホルド50aに接続されている。第2バンクに属する排気ポート20bは、共通の排気マニホルド50bに接続されている。各排気マニホルド50a、50bのそれぞれには、空燃比センサ52a、52bが取り付けられている。空燃比センサ52a、52bは、排気空燃比に応じた出力を発する。排気マニホルド50a、50bは、それぞれ、三元触媒54a、54bに接続されている。三元触媒54a、54bの下流側にはそれぞれ、排気通路56a、56bの一端が接続されている。排気通路56a、56bのそれぞれには、空燃比センサ58a、58bが取り付けられている。空燃比センサ58a、58bは、排気空燃比に応じた出力を発する。排気通路56a、56bの下流側の端部は集合して、共通のリーンNOx触媒60に接続されている。リーンNOx触媒60の下流側には排気通路62の一端が接続されている。排気通路62には空燃比センサ64が取り付けられている。
【0033】
内燃機関2は、ECU(Electronic Control Unit)70を備えている。ECU70は、回転数センサ10、スロットルバルブ30、エアフロメータ32、空燃比センサ52a、52b、58a、58b、64、アクセルポジションセンサ等から、内燃機関2の制御に必要な情報を取得する。また、取得した情報に基づいて、クランクシャフト、VVT機構、点火プラグ14の点火時期、筒内インジェクタ16からの燃料噴射量と噴射のタイミング、スロットルバルブ30の開度及びVSV44の開度等を制御する。
【0034】
以上のように構成された内燃機関2において、三元触媒54a、54bはストイキ空燃比時に最大の転換効率で排気中のNOxを還元し、かつHC、COを酸化する。一方、リーンNOx触媒60は、ストイキ空燃比時に最大の転換効率で、NOxの還元とHC、COの酸化を行うと共に、リーン空燃比時に、排気中に含まれるNOxをその内部に吸蔵し、ストイキあるいはリッチ空燃比時などの排気中の酸素濃度が低下したときに、NOxを脱離して、かつ排気中に含まれるHC、COにより、脱離したNOxを還元する。
【0035】
[実施の形態1における基本的な硫黄被毒回復制御について]
ところが、リーンNOx触媒60は、燃料中に含まれるSOx等の硫黄成分(以下、「S成分」とする)を、NOxの代わりに硫酸塩として内部に吸蔵する。リーンNOx触媒60がS成分を吸蔵すると、排気中のNOxが吸蔵されにくくなり、触媒の浄化率が低下する場合がある。従って、リーンNOx触媒60の浄化性能を維持するため、S成分の吸蔵量が許容範囲を越える前に、S成分を除去する制御(硫黄被毒回復制御)を実行する。
【0036】
リーンNOx触媒60に吸蔵したS成分は、リーンNOx触媒60が高温であり、かつ導入される排気ガスがストイキ空燃比又はリッチ空燃比の場合に、還元、放出される。従って、リーンNOx触媒60の硫黄被毒回復制御を行う際には、リーンNOx触媒60の温度をS成分の還元可能な温度(以下「硫黄脱離温度」とする)にまで昇温すると共に、リーンNOx触媒60に流入するガス(以下「入ガス」とする)の空燃比をストイキ空燃比あるいはリッチ空燃比となるように制御する。具体的に、実施の形態1では、第1又は第2バンクのいずれか一方のバンクからの排気ガスの空燃比がリッチになるように制御し、他方のバンクからの排気ガスの空燃比がリーンとなるように制御し、更に、両方の排気ガス合流後の空燃比がストイキ空燃比近傍になるように制御する(以下「バンク制御」とする)。その結果、それぞれ第1、第2バンクに接続する三元触媒54a、54bからは、触媒反応に寄与しないHC、COを含む余剰の未燃料、あるいは酸素が流出し、これらがリーンNOx触媒60に流れ込む。リーンNOx触媒60では未燃焼燃料と酸素との反応が促進され、これによりリーンNOx触媒60の温度が上昇する。また、このとき、リーンNOx触媒60において合流した排気ガスは、ストイキ空燃比近傍に制御されている。従って、以上のバンク制御により、リーンNOx触媒60に吸蔵したS成分を除去することができる。
【0037】
しかしながら、バンク制御中、特にリーン空燃比で運転されているバンク(以下「リーンバンク」とする。また、リッチ空燃比で運転されているバンクを「リッチバンク」とする)では排気温が低く、また三元触媒54a、54bによる排気浄化のため、リーンNOx触媒60への入ガス温度は低い状態にある。このような状況下で、未燃焼燃料と酸素との反応によりリーンNOx触媒60を硫黄離脱温度である650〜700℃程度にまで上昇させるためには、長時間を要すると考えられる。また、硫黄脱離温度に達するまでの間はS成分を脱離させることができない。従って、上記のようなバンク制御のみでS成分の除去を行うとすると、S成分の除去完了までには長時間を要することとなる。
【0038】
上記したように三元触媒54a、54bは、ストイキ空燃比時に最大の転換効率で排気ガスを浄化する。しかし、バンク制御を行う場合、バンクごとの排気マニホルド50a、50bの下流に接続する各三元触媒54a、54bのそれぞれに流入する排気ガスは、リッチ空燃比あるいはリーン空燃比に偏っている。従って、バンク制御中、三元触媒54a、54bによる排気ガスの浄化率は低いものとなり、排気ガスの浄化は、主にリーンNOx触媒60に頼られることとなる。このため、三元触媒54a、54bとリーンNOx触媒60とが共に効率よく機能する通常のストイキ制御中に比べて、排気ガスの浄化率が低下し、エミッション特性が低下することとなる。更に、バンク制御中は、リッチガスとリーンガスがリーンNOx触媒60直前でミキシングされるため、空燃比制御性においても不利な状態となる。以上より、バンク制御は短時間であることが好ましく、このため、硫黄被毒回復制御の要求があった場合には、できるだけ短時間で硫黄脱離温度にまでリーンNOx触媒60を昇温させることが好ましい。
【0039】
[実施の形態1のシステムの特徴的な制御]
以上より、実施の形態1のシステムにおいて硫黄被毒回復制御を行う場合、上記のバンク制御に先立って、触媒温度を予めある程度上昇させるように、触媒昇温制御を実行する。すなわち具体的には、バンク制御前、第1、第2バンクのそれぞれを通常ストイキ運転している際に、点火時期を通常の場合よりも大幅に遅角させる。このように点火時期を遅角することにより、各気筒4a、4bでの燃焼効率が低下し排気ポート20a、20bに排出される排気ガス温が高くなる。また、燃焼が遅れるため未燃焼成分が多く排気ポート20a、20bに排出されるため、排気ポート20a、20bあるいはその下流でこの未燃焼成分が燃焼することとなる。その結果、リーンNOx触媒60への入ガス温度を上昇させることができ、これによりリーンNOx触媒60の温度を早い段階で上昇させることができる。
【0040】
また、このように点火時期を大幅遅角する触媒昇温制御中は、燃料は圧縮行程のタイミングで、筒内インジェクタ16から気筒4a、4b内に直接噴射される。このように噴射された燃料は、ピストン6上面に形成された窪みに沿って点火プラグ14近傍に導かれる。その結果、点火プラグ14周辺には、周囲の雰囲気に比べて燃料密度が高い領域(成層)が形成される。これにより、点火プラグ14による着火性が高められた状態で着火することができ、いわゆる成層燃焼が実現される。このように成層燃焼とすることにより、点火時期を大幅遅角させた場合にも燃焼を安定させることができる。触媒昇温制御中における圧縮行程中の燃料噴射のタイミングは、機関回転数や機関負荷率に基づいて決定される。また、触媒昇温制御中はバンクごとにストイキ空燃比となるように制御し、成層ストイキ運転を行う。
【0041】
圧縮行程、成層ストイキ運転時の基本の点火時期は、機関回転数と機関負荷率とに応じて設定される。また、この基本の点火時期に対して、触媒昇温のための点火時期遅角量が機関回転数、機関負荷率に応じて求められる。触媒昇温制御中の点火時期は、圧縮行程、成層ストイキ運転時の基本の点火時期を、機関回転数、機関負荷率に応じて求められる点火時期遅角量に従って補正することにより求められる。ECU70は、機関回転数と機関負荷率をパラメータとする、圧縮行程、成層ストイキ運転時の基本点火時期のマップと、触媒昇温制御時の点火時期遅角量のマップとを予め記憶している。触媒昇温制御における点火時期は、これらのマップに従って、機関回転数、機関負荷率に応じて設定される。
【0042】
また、触媒昇温制御中、単に点火時期を遅角すると、通常ストイキ運転時から触媒昇温制御に移行する際に大きなトルク変動が発生する。このトルクの変動を抑えるため、触媒昇温制御への移行前後において発生トルクがほぼ同一となるようにスロットルバルブ30の開度を補正する。すなわち、スロットルバルブ30の開度(スロットル開度)は、基本のスロットルバルブの開度(基本スロットル開度)を点火時期遅角量に応じた開度補正値により補正することにより決定される。
【0043】
図2は、点火時期遅角量と開度補正値との関係を表すグラフである。図2において横軸は点火時期遅角量を表し、縦軸は開度補正値を表している。基本スロットル開度は、通常運転時に、アクセル開度等に応じた要求トルクと機関回転数に応じて決定される開度である。この基本スロットル開度に対する開度補正値は、触媒昇温制御時の点火時期遅角によるトルク低下分を吸気量で補うように設定されている。すなわち、図2に示すように、点火時期遅角量が大きくなると開度補正値も大きくなるように設定されている。スロットル開度を求める際には、基本スロットル開度に開度補正値が加えられる。
【0044】
このように基本スロットル開度を補正することにより、点火時期大幅遅角によるトルクの下分を補い、触媒昇温制御への移行前後におけるトルク変動を抑えることができる。また、スロットル開度が大きく調整されるため、吸入空気量が増大する。その結果、排気温をより高温にすることができる。従って、点火時期遅角による排気ガスの昇温効果と相俟って、排気温を増大させることができ、リーンNOx触媒60への入ガス温度をより上昇させることができ、短時間でリーンNOx触媒60の温度を昇温させることができる。
【0045】
なお、ECU70は、要求トルクと機関回転数とをパラメータとする基本スロットル開度のマップと共に、図2に示すような関係に基づく点火時期遅角量をパラメータとする開度補正値のマップを記憶している。触媒昇温制御中のスロットル開度は、点火時期遅角量に応じて求められた開度補正値により基本スロットル開度を補正することにより決定される。
【0046】
[実施の形態1の具体的な制御のルーチン]
図3、図4は、この発明の実施の形態1のシステムが実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。図3のルーチンにおいて、まず、ステップS102において、要求トルクが求められる。要求トルクはエアフロメータ32の出力やアクセル開度等の情報に応じて算出される。次に、機関回転数が求められる(ステップS104)。機関回転数は、回転数センサ10の発する出力に基づいて求められる。次に、機関負荷率が求められる(ステップS106)。機関負荷率は、エアフロメータ32からの吸入空気量等の情報に応じて算出される。
【0047】
次に、硫黄被毒回復要求がされているか否か判定される(ステップS108)。硫黄被毒回復要求の有無は、例えば、推定された硫黄被毒量が判定量以上に達したか否かに基づいて判定される。ここで硫黄被毒量は、例えば機関回転、機関負荷、触媒温度、前回の硫黄被毒回復制御からの経過時間等の情報に基づいて推定される。また、判定量は、それ以上硫黄被毒量が増加した場合、リーンNOx触媒60によるNOx浄化率が許容範囲以下に低下すると考えられる限界量として、予めECU70に記憶されている。ステップS108において硫黄被毒量≧判定量の成立が認められない場合には、硫黄被毒回復要求がないものとして、一端この処理を終了して通常の制御を行う。
【0048】
ステップS108において硫黄被毒量≧判定量の成立が認められた場合には、燃料噴射時期が、成層ストイキ運転を行う際の圧縮行程噴射のタイミングに設定される(ステップS110)。燃料噴射時期は、機関負荷率と機関回転数とをパラメータとするマップに従って、ステップS104、S106で求められた機関負荷率と機関回転数に応じて設定される。これにより、筒内インジェクタ16からの燃料噴射タイミングが成層ストイキ運転時のタイミングに設定され、成層ストイキ運転が実行される。
【0049】
次に、点火時期遅角量が求められる(ステップS112)。点火時期遅角量は、機関回転数と機関負荷率とをパラメータとするマップに従って、機関回転数、危感負荷率に応じて求められる。次に、点火時期が設定される(ステップS114)。点火時期は、成層ストイキ、圧縮行程噴射を行う場合の基本の点火時期を、ステップS112において求められた点火時期遅角量に従って補正したタイミングに設定される。
【0050】
次に、ステップS112において求められた点火時期遅角量に応じて、スロットル開度補正値が求められる(ステップS116)。スロットル開度補正値は点火時期遅角量をパラメータとするマップに従って、点火時期遅角量に応じた値として求められる。次に、スロットル開度が設定される(ステップS118)。スロットル開度は、機関回転数と要求トルクに応じて求められる基本スロットル開度に、ステップS116において求められたスロットル開度補正値を加えることにより算出される。この算出されたスロットル開度に応じた信号がECU70からスロットルバルブ30に発せられ、スロットル開度が設定される。ステップS110〜S118の設定により、内燃機関2が圧縮行程噴射の成層ストイキ運転、点火時期遅角、スロットル開度増大の条件下で運転される。その結果、排気ガス温度の上昇し、これにより、リーンNOx触媒60の温度を上昇させることができる。
【0051】
次に、リーンNOx触媒60の温度が求められる(ステップS120)。リーンNOx触媒60の温度は例えば機関回転数と機関負荷等の運転条件から推定される。次に、推定されたリーンNOx触媒の温度が、判定温度以上であるか否かが判定される(ステップS122)。判定温度は、バンク制御開始後、硫黄成分を十分に除去できるだけの温度に短期間で達するように、予めECU70に記憶された温度であり、例えば550℃〜600℃程度である。ステップS122において、リーンNOx触媒60の温度≧判定温度の成立が認められない場合、リーンNOx触媒温度≧判定温度の成立が認められるまで、圧縮行程噴射による成層ストイキ燃焼かつ点火時期遅角の運転条件で、触媒昇温制御が継続される。この間、空燃比センサ52a、52bからの出力により空燃比が検出され(ステップS124)、空燃比フィードバック補正値が求められ、これにより空燃比フィードバック制御が実行される(ステップS126)。
【0052】
一方ステップS122において、リーンNOx触媒温度≧判定温度の成立が認められた場合、バンク制御が実行される(ステップS130)。バンク制御は図4に示すバンク制御実行ルーチンに従って実行される。図4に示すルーチンにおいては、まず、バンク制御時のスロットルバルブの開度にバルブ開度が設定される(ステップS132)。スロットルバルブの開度は、予めECU70に記憶された、要求トルクと機関回転数をパラメータとする、バンク制御時のスロットルバルブ開度のマップに従って決定される。
【0053】
次に、S成分パージ時間の測定が開始される(ステップS134)。S成分パージ時間は、バンク制御開始時からの経過時間として測定される。次に、バンク制御におけるリッチ/リーン空燃比の設定モードフラグが読み出される(ステップS136)。このフラグは、フラグ=0の場合に第1バンクの目標空燃比を予め定められたリッチ空燃比とし、第2バンクの目標空燃比を予め定められたリーン空燃比とするモードを指定し、フラグ=1の場合に第1バンクの目標空燃比を予め定められたリーン空燃比とし、第2バンクの目標空燃比を予め定められたリッチ空燃比とするモードを指定するフラグである。初期設定の段階ではフラグ=0とされている。
【0054】
次に、各バンクの目標空燃比が設定される(ステップS138)。目標空燃比はステップS134において読み出されたフラグに従って設定される。具体的に現段階ではフラグ=0であるから、目標空燃比は第1バンクがリッチ空燃比に、第2バンクがリーン空燃比に設定される。次に、バンクごとの点火時期が設定される(ステップS140)。点火時期は、リッチバンクとリーンバンクの出力トルクが同程度となるように予め定められたタイミングであり、リッチバンクの点火時期が遅角されるように設定されている。つまり、ここでは、第1バンクの各気筒4aの点火時期が、第2バンクの点火時期に比べて遅角したタイミングに設定される。次に、モード経過時間の計測が開始される(ステップS142)。モード経過時間は各バンクの目標空燃比、点火時期、スロットルバルブ開度等がモード設定フラグに対応する運転条件とされてからの経過時間である。
【0055】
次に、S成分の除去が完了したか否かが判定される(ステップS144)。S成分の除去完了は、例えば、バンク制御を開始してから所定時間経過したか否か、すなわち、S成分パージ時間≧所定時間が成立するか否かに基づいて判定される。S成分除去の完了が認められない場合には、次に、モード経過時間が判定時間以上であるか否かが判定される(ステップS146)。ここで判定時間は、そのモードでの運転を継続する時間として予めECU70に記憶されている。ステップS146においてモード経過時間≧判定時間の成立が認められない場合には、S成分除去完了(ステップS144)あるいはモード経過時間≧判定時間の成立(ステップS146)のいずれかが認められるまで、このモードでの運転を継続する。
【0056】
一方、ステップS146においてモード経過時間≧判定時間の成立が認められた場合には、次に、モードフラグの変更を行う(ステップS148)。すなわち、現在のフラグ=0である場合には、フラグ=1に変更され、現在のフラグ=1である場合には、フラグ=0に変更される。次に、モード経過時間=0に設定される(ステップS150)。この状態で再びステップS136において、再びモード設定フラグの読み出しが行われ、各バンクの目標空燃比が、今までは逆のリーン/リッチ空燃比に設定され(ステップS138)、それぞれの点火時期に設定される(ステップS140)。再び、S成分除去完了か否かが判定され(ステップS144)、完了が認められない場合には、上記同様にバンク制御を継続する。一方、S成分除去完了が認められた場合には、この処理を終了する。なお、以上のバンク制御中、空燃比センサ58a、58bをメイン空燃比センサとし、空燃比センサ64をサブ空燃比センサとして、これらのセンサからの出力に基づいて、空燃比フィードバック補正値が算出され、空燃比フィードバック制御が実行されている。
【0057】
以上説明したように、実施の形態1においては硫黄被毒回復制御の際、バンク制御に先立って点火時期を大幅遅角することにより触媒昇温制御を行う。このように点火時期の大幅遅角を行うことにより排気温度が上昇し、リーンNOx触媒60に流入する際の入りガス温度を上昇させることができる。従って、バンク制御に先立ってリーンNOx触媒60の温度を、硫黄脱離温度又はそれに近い温度にまで上昇させることができる。従って、バンク制御の時間を短時間に抑えることができ、硫黄被毒制御の効率を向上すると共に、エミッション低減を図ることができる。
【0058】
なお、この発明において、硫黄被毒回復制御要求の判定(ステップS108)、触媒温度の検出(ステップS120)やバンク制御完了の判定(ステップS144)等の手段は実施の形態1に説明したものに限るものではない。また、バンク制御の実行ルーチンも、実施の形態1において説明したものに限るものではなく、各バンクをリッチ空燃比、リーン空燃比に制御することによりS成分を除去するものであれば、他のルーチンに従って実行するものであってもよい。
【0059】
なお、例えば、実施の形態1において、ステップS102〜S126を実行することにより、この発明の「触媒昇温制御手段」が実現し、ステップS130のバンク制御実行ルーチンを実行することにより、この発明の「硫黄成分除去制御手段」が実現する。また、ステップS138を実行することにより、この発明の「リッチ/リーン空燃比設定手段」が実現し、ステップS112及びS114を実行することにより、この発明の「点火時期遅角手段」が実現し、ステップS110を実行することにより、「燃料噴射時期制御手段」が実現する。
【0060】
実施の形態2.
[実施の形態2のシステムが実行する制御について]
実施の形態2のシステムは、実施の形態1のシステムと同様の構成を有する。また、実施の形態2のシステムは、触媒昇温制御時とバンク制御時のスロットル開度を同一にして、そのスロットル開度に応じて点火時期遅角量を設定する点を除き、実施の形態1のシステムと同様の制御を行う。
【0061】
上記したように、バンク制御においては、各バンクをリーン空燃比あるいはリッチ空燃比に制御して運転を行う。このとき、リーンバンクとリッチバンクとを同じように制御すると、各バンクの間で発生するトルクに変動が生じる。バンク制御においては、このトルクのばらつきを補うため、リッチバンクの点火時期を遅角させ、リッチバンクにおいて発生するトルクをリーンバンクの発生トルクと一致させるように制御する。リッチバンクの点火遅角量は機関回転数と機関負荷とに基づいて、リッチバンクにおいて発生するトルクがリーンバンクの発生トルクと一致するように決定される。ECU70には、機関負荷と機関回転数とをパラメータとするリッチバンクの点火遅角量のマップが予め記憶されており、バンク制御時には、このマップに従って機関回転数と機関負荷とに応じて、リッチバンクの点火時期の遅角量が決定される。
【0062】
一方、単に点火遅角によりリッチバンクの発生トルクとリーンバンクの発生トルクとを一致させるように制御すると、内燃機関2全体の発生トルクが低下することとなる。従ってバンク制御中のトルク低減を補うため、スロットルバルブ30の開度が補正される。すなわち、スロットルバルブ30の開度は発生トルクの低下分を補うため、通常ストイキ運転中よりもその開度が開くように調整される。このようなスロットルバルブの開度の補正値は、要求トルクと機関回転数とをパラメータとするマップに従って求められる。
【0063】
上記のようにバンク制御時には、バンクごとの発生トルクのばらつきと内燃機関2全体の発生トルクの低下とを抑えるため、点火時期の遅角を行うと共にスロットルバルブ30の開度を調整する。しかし、触媒昇温制御からバンク制御に移行する際にスロットルバルブ30の開度を変化させると、移行時に空気量及びトルクが変化することとなる。このため触媒昇温制御時からバンク制御時への移行の際に、空気量変動及びトルク変動によるショックが発生することが考えられる。
【0064】
[実施の形態2の特徴的な制御]
このため、実施の形態2においては、触媒昇温制御を行う際に、続くバンク制御時におけるスロットル開度を予め推定して、触媒昇温制御時のスロットル開度を推定されたスロットル開度に設定することとする。すなわち、触媒昇温制御時のスロットル開度は、要求トルクと機関回転数とから決定される補正値により補正されたバンク制御時のスロットル開度と同一の開度となるように設定される。
【0065】
また、触媒昇温制御中は圧縮行程噴射による成層ストイキ燃焼を実現する。このため、単に触媒昇温制御時のスロットル開度をバンク制御における開度と同一に調整すると、触媒昇温制御中には、バンク制御時よりも大きなトルクが発生することとなる。その結果、触媒昇温制御時とバンク制御時とでトルクが変動し、バンク制御に切り替える際にショックが発生することとなる。従って、触媒昇温制御からバンク制御に移行する際のトルク変動を抑えるため、触媒昇温制御時の点火時期遅角量が、バンク制御時の発生トルクと同一のトルクが発生するタイミングとなるように設定する。その結果、触媒昇温制御からバンク制御に切り替えた際のトルク変動によるショックの発生を抑えることができる。またこの制御においても点火時期が遅角されることとなるため、実施の形態1と同様に点火時期遅角によるリーンNOx触媒60の昇温効果を得ることができる。
【0066】
具体的に、触媒昇温制御時の点火時期遅角量は、開度補正値が大きくなるにつれて大きくなるように設定される。これにより、燃焼効率を下げて触媒昇温制御時のトルクを低減させて、バンク制御時の発生トルクに一致させることができる。なお、このような関係に基づく、スロットルバルブの開度補正値をパラメータとする点火時期遅角量のマップは、予めECU70に記憶されている。触媒昇温制御においては、このマップに従って、スロットルバルブ30の開度補正値に応じた点火時期遅角量が算出され、この点火時期遅角量に応じて基本の点火時期を遅角することにより点火時期が求められる。このように点火時期を設定することにより、触媒昇温制御からバンク制御に切り替える際のトルク変動を抑えることができ、同時に、リーンNOx触媒60への入りガス温を上昇させて、リーンNOx触媒60を効率よく昇温させることができる。
【0067】
[実施の形態2の具体的な制御のルーチン]
図5、図6は、この発明の実施の形態2のシステムが実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。図5のルーチンは、ステップS112〜S118に代えて、ステップS202〜S208を実行する点を除き、図3のルーチンと同じものである。図6のルーチンは、ステップS132を実行しない点を除き、図4のルーチンと同じものである。
【0068】
具体的に、図5のルーチンにおいて、要求トルク、機関回転数、機関負荷率が求められた後(ステップS102〜S106)、ステップS108において硫黄被毒回復要求が認められると、まず、燃料噴射時期が設定され(ステップS114)、次に、バンク制御を行う際のスロットル開度補正値が求められる(ステップS202)。スロットル開度補正値は要求トルクと機関回転数とをパラメータとするマップに従って、要求トルクと機関回転数に応じて求められる。次に、スロットル開度が設定される(ステップS204)。スロットル開度は、機関回転数と要求トルクに応じて定められる基本スロットル開度に、ステップS202において求められたバンク制御時のスロットル開度補正値を加えた値に設定される。このスロットル開度は、続くバンク制御時におけるスロットル開度と同一の開度となる。
【0069】
次に、点火時期遅角量が設定される(ステップS206)。ここでは、予めECU70に記憶されたスロットル開度補正値をパラメータとする点火時期遅角量のマップに従って、ステップS202において求められたスロットル開度補正値Δfaに応じた点火時期遅角量が求められる。次に、点火時期が設定される(ステップS208)。点火時期は、成層ストイキ、圧縮行程噴射を行う場合の基本の点火時期を、ステップS206において求められた点火時期遅角量に従って補正(遅角)したタイミングに設定される。ステップS204、S208において設定されたスロットル開度と点火時期により、触媒昇温制御とバンク制御とにおける出力トルクをほぼ同一にさせることができ、触媒昇温制御からバンク制御に移行した場合にショックが発生するのを抑えることができる。また、点火時期は大きく遅角されるため、排気ガスの温度を上昇させてリーンNOx触媒への入りガス温を上昇させることができる。
【0070】
次に、リーンNOx触媒60の温度が求められ、推定されたリーンNOx触媒60の温度が、判定温度以上であるか否かが判定される(ステップS120、S122)。ステップS122において、リーンNOx触媒温度≧判定温度の成立が認められた場合、バンク制御が実行される。図6のバンク制御のルーチンにおいては、バンク制御移行のためのスロットルバルブの開度変更(図4のステップS132)を行わず、直ちにステップS134においてパージ時間の測定を開始し、モード設定フラグの読み出し(ステップS136)を行い、S成分除去の完了が認められるまで、バンク制御が実行される。
【0071】
以上説明したように、実施の形態2においては、硫黄被毒回復制御の際、バンク制御時のスロットル開度と触媒昇温制御時のスロットル開度を同一にした状態で、かつ、バンク制御時の発生トルクと触媒昇温制御時の発生トルクが同一となるように点火時期を遅角する。従って、触媒昇温制御からバンク制御に移行する際、空気量変化によるショックやトルク変動による振動等の発生を防止することができ、触媒昇温制御からバンク制御への移行を円滑に行うことができる。
【0072】
また、触媒昇温制御時には点火時期が遅角されることにより燃焼効率が低下するため、排気通路に排出される排気ガスの温度が上昇する。また、点火時期遅角により、未燃焼成分が排気ポート20a、20bに排出された後で燃焼されることにより排気ガスの温度が上昇する。このため、通常のストイキ運転あるいはリーン運転中に比べて、リーンNOx触媒60に流入する排気ガスの温度を上昇させることができる。従って、バンク制御に先立って効率よくリーンNOx触媒60を、硫黄脱離温度又はそれに近い温度にまで昇温させることができる。従って、バンク制御時の時間を短時間に抑えることができ、硫黄被毒制御の効率を向上すると共に、エミッションの向上を図ることができる。
【0073】
なお、例えば、実施の形態2において、ステップS202を実行することにより、この発明の「開度推定手段」が実現し、ステップS204を実行することにより、「開度制御手段」が実現し、ステップS206を実行することにより「トルク推定手段」及び「点火時期遅角手段」が実現する。
【0074】
実施の形態3.
実施の形態3のシステムは、実施の形態1のシステムと同様の構成を有する。実施の形態3のシステムは、触媒昇温制御中にエバポパージが行われる場合に、そのパージガスの濃度を考慮した制御を行う点を除き、実施の形態1のシステムと同様の制御を行う。つまり、実施の形態3においても、実施の形態1と同様にバンク制御前の触媒昇温制御において、筒内インジェクタ16からの直接噴射のみの燃料供給により成層ストイキ燃焼を行い、更に点火時期を大幅遅角することによりリーンNOx触媒60を昇温させる。
【0075】
図1において説明したように、このシステムは、内燃機関2の運転中、その状態に応じてキャニスタ40内に吸着された蒸発燃料が吸気通路28に放出される(エバポパージ)。その結果、蒸発燃料は吸気通路28において大気と混合され、気筒4a、4b内に供給されることとなる。一方、触媒昇温制御中は、吸気ポート18a、18b内へのポートインジェクタ(図示せず)からの燃料噴射は行わない。すなわち、触媒昇温制御中は筒内インジェクタ16から直接筒内に燃料を噴射することによってのみ燃料供給を行い、これにより点火プラグ14周辺に燃料を集中させて成層領域を形成し、成層ストイキ運転を行っている。このような成層燃焼中に、エバポパージが実行されて蒸発燃料の混合した大気が吸気ポート18a、18bから供給されると、点火プラグ14周辺に形成される成層領域がオーバーリッチの状態となり、燃焼不良を起こすことが考えられる。
【0076】
従って燃焼不良を防止するため、実施の形態3においては、エバポパージにおけるパージガスの濃度(以下「エバポ濃度」とする)学習を、エバポ濃度が確定するまで実行する。そして、エバポ濃度が判定濃度より濃い間は触媒昇温制御を禁止し、エバポ濃度が判定濃度以下になるまで通常のストイキ制御を実行する。なお、実施の形態3におけるエバポ濃度は、例えば、空燃比をストイキに制御する際のフィードバック補正値の変化量に基づいて求められる。また、判定濃度は、成層ストイキ燃焼時に燃焼不良が起きないと考えられる範囲での上限値に設定されている。
【0077】
図7は、この発明の実施の形態3における具体的な制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図7に示すルーチンは、図3のステップS108の後に、ステップS302〜S306を実行する点を除き、図3のルーチンと同じものである。具体的には、ステップS108において硫黄被毒回復制御の要求有りと認められた場合に、ステップS302において、エバポパージ中であるか否かが判定される。ステップS302においてエバポパージ中であると認められない場合、ステップS110において燃料噴射時期の決定を行い、その後点火時期、スロットルバルブ開度を設定し(ステップS112〜S118)、触媒昇温制御を行う。
【0078】
一方、ステップS302においてエバポパージ中であることが認められた場合、エバポ濃度学習が実行される(ステップS304)。具体的には、空燃比学習を停止し、その段階からの空燃比フィードバック補正値の変化量を求める。この補正値の変化量に応じた値としてエバポ濃度が求められる。
【0079】
次に、エバポ濃度が判定濃度以下であるか否かが判定される(ステップS306)。判定濃度は、その濃度であれば圧縮行程噴射、成層ストイキ燃焼を開始しても燃焼不良を起こさない範囲の上限に設定され、予めECU70に記憶された値である。すなわち、エバポ濃度≦判定濃度であることが認められれば、触媒昇温制御を開始しても燃焼不良を起こさないものと判断できる。ステップS306において、エバポ濃度≦判定濃度の成立が認められない場合には、ステップS304に戻りエバポ濃度の学習とステップS306の判定を、エバポ濃度≦判定値の成立が認められるまで繰り返す。一方、ステップS306において、エバポ濃度≦判定濃度の成立が認められた場合には、ステップS110に進み、実施の形態1と同様の触媒温度昇温制御を行い、その後、図4のルーチンに従ってバンク制御を行う。
【0080】
以上説明したように実施の形態3においては、エバポ濃度が判定濃度以下になるまで触媒昇温制御を禁止する。これにより、触媒昇温制御において成層ストイキ燃焼が実行された場合にも、点火プラグ14近傍がオーバーリッチ状態となるのを抑え、燃焼不良を防止することができる。
【0081】
なお、実施の形態3においては、ステップS304において空燃比フィードバック制御補正値の変化量によりエバポ濃度の学習を行う場合について説明した。しかし、この発明においてエバポ濃度の学習はこの手法に限るものではなく、他の手法によりエバポ濃度を検出するものであってもよい。
【0082】
また、実施の形態3においては、エバポ濃度が判定濃度に低下するまで触媒昇温制御を禁止する場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではない。例えば、エバポ濃度学習後、そのエバポ濃度に応じて筒内インジェクタ16からの燃料噴射量を制御して触媒昇温制御を行うなどの手法により、燃焼不良を防止するものであってもよい。
【0083】
また、実施の形態3においては、エバポ濃度が判定濃度以下に低下した場合に、実施の形態1と同様に、点火時期の大幅遅角による触媒昇温制御を行う場合について説明した。しかし、この発明においてはこれに限るものではなく、エバポ濃度が判定値以下に低下したことが認められた場合に、実施の形態2に説明した触媒昇温制御を行うものであってもよい。具体的なルーチンとしては、図5のステップS108の後に、ステップS302〜S306を実行し、ステップS306においてエバポ濃度≦判定濃度の成立が認められた場合に、図5のステップS110に進み、スロットルバルブ開度の補正値を求めるようにすればよい。
【0084】
なお、例えば実施の形態3においてステップS304を実行することにより、「パージガス濃度学習手段」が実現し、ステップS306を実行することにより「パージガス濃度判定手段」が実現する。
【0085】
実施の形態4.
実施の形態4のシステムは、実施の形態1のシステムと同様の構成を有する。実施の形態4においては、エバポパージ中に目標パージ率を大きな値に切り替えて、早い段階でエバポ濃度が低濃度になるように制御する点を除き、実施の形態3のシステムと同様の制御を行う。すなわち、実施の形態3のシステムがエバポパージ中にその濃度学習値が判定濃度にまで低下するのを待って触媒昇温制御を行うのに対して、実施の形態4のシステムは、触媒昇温制御前にエバポパージ率を高い高パージ率に設定して、エバポ濃度が早い段階で判定濃度にまで低下するように制御する。
【0086】
ここで、パージ率は、パージ流量/吸入空気量として求められる値である。また、パージ流量はVSV44の開弁時間とその開度、吸気通路28内の負圧等によって求められる。実施の形態4においては、触媒昇温制御前にエバポパージ中に目標パージ率が高パージ率に設定され、設定された高パージ率に応じてVSV44の開度と開弁時間とが調整される。その結果、パージ通路42から吸気通路28内に流入する蒸発燃料の量が増大し、より早い段階でキャニスタ40内の蒸発燃料を吸気通路28内に放出することができる。従って、硫黄被毒回復制御の要求があった場合、早急にエバポ濃度を低濃度に下げることができ、短時間で触媒昇温制御を開始することができる。
【0087】
図8は、この発明の実施の形態4においてシステムが実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。図8に示すルーチンは、ステップS302の後、ステップS402を実行し、ステップS306の後にステップS404を実行する点を除き、図7に示すルーチンと同じものである。具体的に、ステップS108において硫黄被毒回復制御の要求が認められ、ステップS302においてエバポパージ中であることが認められた場合、エバポパージの目標パージ率が、高パージ率に切り替えられる(ステップS402)。高パージ率は、予めECU70に記憶されたマップに従って、機関回転数と負荷率に応じて決定される。
【0088】
その後、エバポ濃度学習が実行され(ステップS304)、ステップS306においてエバポ濃度≦判定濃度の成立が認められると、目標パージ率は、通常運転中のパージ率に戻される(ステップS404)。その後、ステップS110〜S122に従って触媒昇温制御が実行される。
【0089】
以上説明したように、実施の形態4によれば、硫黄被毒回復制御要求があった場合には、触媒昇温制御前にエバポパージの目標パージ率を通常ストイキ制御時の目標パージ率よりも大きな高パージ率に設定し、高パージ率でエバポパージが行われるようにする。従って、短時間でエバポ濃度を低くすることができ、硫黄被毒回復制御要求があった後、早い段階で触媒昇温制御を開始することができる。
【0090】
なお、実施の形態4においても実施の形態3のように、エバポ濃度が判定濃度まで低下した場合に、実施の形態1と同様の触媒昇温制御を行う場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、実施の形態2のように、バンク制御時と触媒昇温制御時のスロットルバルブの開度を同一に設定し、更に、そのスロットル開度に応じた点火時期遅角量を設定して触媒昇温制御を行うものであっても良い。
【0091】
なお、実施の形態4において、ステップS402を実行することにより、この発明の「高パージ率設定手段」が実現する。
【0092】
実施の形態5.
実施の形態5のシステムは、実施の形態1のシステムと同様の構成を有する。実施の形態5のシステムは、触媒昇温制御中に、エバポパージの目標パージ率を通常より小さく設定してエバポパージが行われるようにする点を除き、実施の形態1のシステムと同様の制御を行う。上記したように、エバポパージ中に触媒昇温制御を実施する場合、大気と共に供給される蒸発燃料の濃度が高すぎると、点火プラグ14近傍がオーバーリッチの状態となり、燃焼不良を起こすことが考えられる。このため、実施の形態5においては、エバポパージの目標パージ率を、通常ストイキ制御時のパージ率より小さい低パージ率に設定して、エバポ濃度が低い状態に保たれるようにする。
【0093】
具体的なパージ率は機関回転数や機関負荷率とを考慮して決定されるが、パージ率は2%前後の低いパージ率に保たれるようにする。これによって、触媒昇温制御における成層ストイキ燃焼中にエバポパージが行われた場合にも、点火プラグ14近傍に形成される成層領域がオーバーリッチとなるのを防ぐことができ、燃焼不良を防止することができる。
【0094】
図9は、この発明の実施の形態5のシステムが実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図9に示すルーチンは、図3のルーチンのステップS108の後に、ステップS502、S504を実行する点を除き、図3のルーチンと同じものである。具体的に、ステップS108において硫黄被毒回復要求が認められた後、ステップS502においてエバポパージ中であるか否かが判定される。エバポパージ中であることが認められない場合、ステップS110に進み、実施の形態1と同様に触媒昇温制御が行われる。
【0095】
一方、ステップS502において、エバポパージ中であることが認められた場合、ステップS504において、エバポパージの目標パージ率が低パージ率に設定される。低パージ率はECU70に予め記憶された、触媒昇温制御時の低パージ率のマップに従って設定される。設定される低パージ率は、エバポ濃度がある程度低く保たれ、成層ストイキ運転を行った場合にも点火プラグ14周りの成層領域がオーバーリッチとなるのを抑えることができると考えられる範囲の値であり、かつ機関回転数、機関負荷率に応じた値である。その後、ステップS110〜S118に従って触媒昇温制御を行い、リーンNOx触媒が判定温度以上であることが認められると(ステップS122)、ステップS130に従ってバンク制御が実行される(図4参照)。
【0096】
以上のように、実施の形態5によれば、触媒昇温制御時にエバポパージの目標パージ率が低パージ率に設定される。従って、触媒昇温制御の成層ストイキ運転時に点火プラグ14近傍がオーバーリッチとなって燃焼不良が発生するのを抑えることができる。
【0097】
なお、実施の形態5においては、実施の形態1の制御を行う場合に、エバポパージの目標パージ率を低パージ率とする場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、実施の形態2の制御を行う場合にも、エバポパージ率を低パージ率に設定するようにしたものであってもよい。具体的には、図5のルーチンのステップS202の前に、ステップS502、S504を行いエバポパージ率を低パージ率に設定した後、触媒昇温制御を行えばよい。
【0098】
また、実施の形態5においては、ステップS504において、目標パージ率を低パージ率に設定した状態のまま、バンク制御を行う場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、例えば、触媒昇温制御中は低パージ率に設定し、ステップS122においてリーンNOx触媒の温度が判定温度以上になったと認められた後、目標パージ率を通常運転時の基本のパージ率に再設定して、バンク制御を行うものであってもよい。
【0099】
なお、例えば、実施の形態5においてステップS504を実行することにより、この発明の「低パージ率設定手段」が実現する。
【0100】
実施の形態6.
実施の形態6のシステムは、実施の形態1のシステムと同様の構成を有する。また、実施の形態6のシステムは、触媒昇温制御時に、各バンクの空燃比を弱リッチ/弱リーンに制御する点を除き、実施の形態1のシステムと同様の制御を行う。すなわち、実施の形態5において触媒昇温制御時には、バンクごとの目標空燃比をバンク制御時のストイキからのリッチ率、リーン率よりも小さい比率の、弱リッチ/弱リーンにした状態で、圧縮行程噴射の成層燃焼、点火遅角を実行する。また、このとき弱リッチ/弱リーンはリーンNOx触媒60に流入する合流した排気ガスの空燃比はストイキとなるように設定する。
【0101】
具体的に弱リッチの比率は、機関回転数とスロットル開度に応じて、定められたマップに従って決定される。弱リーンの比率は弱リッチの比率に従って、内燃機関2全体でストイキ空燃比となるように、弱リーン比率=14.6/(2-弱リッチ比率)により求められる。ここで、弱リッチ/弱リーン率は、空燃比変化によるトルク変化が小さい範囲で設定される。具体的には、弱リッチ空燃比としてはA/Fが14.2からストイキ空燃比程度であり、弱リーン空燃比は、15.0からストイキ空燃比程度の値に設定される。
【0102】
このように、触媒昇温制御の段階で、目標空燃比が弱リッチ/弱リーンに設定されることにより、バンク制御時と同様にリーンNOx触媒60において触媒反応を起こすことができる。その結果、触媒昇温制御時においても、リーンNOx触媒60における触媒反応による温度上昇を図ることができる。すなわち、実施の形態6の制御によれば、圧縮行程噴射の成層ストイキ燃焼と点火時期遅角により、リーンNOx触媒60への入ガス温度を上昇させて触媒昇温を図ると同時に、目標空燃比の弱リッチ/弱リーン制御によりリーンNOx触媒60での触媒反応による触媒昇温を図ることができる。従って、より短時間でリーンNOx触媒60を判定温度にまで昇温させることができる。
【0103】
図10は、この発明の実施の形態6においてシステムが実行する制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。図10に示すルーチンは、ステップS108の後に、ステップS602〜S608が実行され、ステップS122において、触媒温度≧判定温度の成立が認められなかった場合に、ステップS610〜S616が実行される点を除き、図3のルーチンと同じものである。すなわち、ステップS108において、硫黄被毒回復要求が認められた後、モード設定フラグが読み出される(ステップS602)。このフラグは、バンク制御におけるモード設定フラグと同様に、フラグ=0の場合に第1バンクの目標空燃比を弱リッチ空燃比とし、第2バンクの目標空燃比を弱リーン空燃比とするモードを指定し、フラグ=1の場合に第1バンクの目標空燃比を弱リーン空燃比とし、第2バンクの目標空燃比を弱リッチ空燃比とするモードを指定するフラグである。初期設定の段階ではフラグ=0とされている。
【0104】
次に、モード設定フラグに従って、リッチバンクの弱リッチ比率が設定される(ステップS604)。弱リッチ比率は、例えば機関回転数と要求トルクをパラメータとするマップに従って算出されて設定される。次に、リーンバンクの弱リーン比率が設定される(ステップS606)。リーンバンクの弱リーン比率は、ステップS604において求められた弱リッチ比率から算出式(14.6/(2-リッチ比率))に従って算出され設定される。次に、弱リッチ/弱リーンモード経過時間の計測が開始される(ステップS608)。弱リッチ/弱リーンモード経過時間は各バンクの目標空燃比がモード設定フラグに対応する運転条件とされてからの経過時間である。
【0105】
その後、スロットルバルブ開度、燃料噴射時期、点火時期遅角量が設定され(ステップS110〜S118)、上記のように設定された弱リッチ/弱リーンの状態で内燃機関2の運転が開始される。次に、ステップs120において、リーンNOx触媒60の温度が判定温度に昇温したか否が判定される。ステップS122において、リーンNOx触媒温度≧判定温度の成立が認められない場合、弱リッチ/弱リーンモード経過時間が所定の判定時間以上であるか否かが判定される(ステップS610)。弱リッチ/弱リーンモード経過時間≧判定時間の成立が認められない場合には、メインの空燃比センサ58a、58b、サブの空燃比センサ64の出力に従って、空燃比フィードバック制御を行い(ステップS612)、ステップS120に戻り、リーンNOx触媒温度の検出を行う。
【0106】
一方、ステップS610において、弱リッチ/弱リーンモード経過時間≧判定時間の成立が認められた場合、フラグの変更を行う(ステップS614)。すなわち、現在のモード設定フラグ=0である場合にはフラグ=1とし、フラグ=1である場合にはフラグ=0とする。次に、弱リッチ/弱リーンモード時間=0として(ステップS616)、再びステップS602に戻りフラグの読み出しを行う。上記のような行程を繰り返して、ステップS122においてリーンNOx触媒が判定温度に達したことが認められると、その後バンク制御(ステップS130)が行われる。
【0107】
以上のように、実施の形態6のシステムによれば、リーンNOx触媒60の触媒昇温制御中、圧縮行程噴射の成層ストイキ燃焼と点火時期遅角の制御による昇温に加えて、弱リッチ/弱リーン制御による触媒温度上昇の制御を行う。従って、より早い段階で硫黄被毒回復を完了することができ、エミッションの向上を図ることができる。
【0108】
なお、実施の形態6においては、実施の形態1のように点火時期の大幅遅角とスロットルバルブ30の開度の補正により、昇温制御を行う場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、実施の形態2の制御に実施の形態6の弱リッチ/弱リーン制御を組み合わせるものであってもよい。この場合、具体的に、図5のルーチンのステップS108に、ステップS602〜608のように目標空燃比を弱リッチ/弱リーンに設定し、ステップS122の後にステップS610〜S616を行うことにより、実施の形態2において説明した触媒昇温制御を行えばよい。
【0109】
また、実施の形態6においては、モード設定フラグを読み出し、このフラグに従って、弱リッチ/弱リーンを設定し、定期的に弱リッチのバンクと弱リーンのバンクが逆転する場合について説明した。これにより、三元触媒54a、54bの劣化等を防止することができる。しかし、この発明においては、このようにリッチバンクとリーンバンクとを逆転させる場合に限るものではなく、リッチバンクとリーンバンクとを固定して弱リッチ/弱リーンの制御を行うものであってもよい。
【0110】
なお、実施の形態6において、ステップS604及びS606を実行することにより、この発明の「弱リッチ/弱リーン空燃比設定手段」が実現する。
【0111】
以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に限定されるものではない。また、実施の形態において説明する構造や、方法におけるステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】この発明の実施の形態1におけるシステムの構成を説明するための模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1における点火時期遅角量とスロットルバルブの開度補正値との関係を説明するためのグラフである。
【図3】この発明の実施の形態1のシステムが実行する硫黄被毒回復制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1のシステムが実行するバンク制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態2のシステムが実行する硫黄被毒回復制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2のシステムが実行するバンク制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態3のシステムが実行する硫黄被毒回復制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態4のシステムが実行する硫黄被毒回復制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態5のシステムが実行する硫黄被毒回復制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態6のシステムが実行する硫黄被毒回復制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0113】
2 内燃機関
4a、4b 気筒
14 点火プラグ
16 筒内インジェクタ
18a、18b 吸気ポート
20a、20b 排気ポート
26a、26b 吸気マニホルド
28 吸気通路
30 スロットルバルブ
32 エアフロメータ
34 高圧燃料ポンプ
36 燃料タンク
38 ベーパ通路
40 キャニスタ
42 パージ通路
44 VSV
50a、50b 排気マニホルド
54a、54b 三元触媒
56a、56b 排気通路
60 リーンNOx触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の気筒群と、前記気筒群のそれぞれに接続する排気通路が集合して接続するリーンNOx触媒と、を備える内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
前記リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分を除去するように前記内燃機関を制御する硫黄成分除去制御手段と、
前記硫黄成分除去に先立って、前記リーンNOx触媒の温度を昇温させるように前記内燃機関を制御する触媒昇温制御手段と、を備え、
前記硫黄成分除去制御手段は、
前記リーンNOx触媒に吸蔵した硫黄成分の除去を行う際に、前記気筒群のうちいずれかの気筒群の空燃比の制御目標値を理論空燃比よりリッチになるように設定し、他の気筒群の空燃比の制御目標値を理論空燃比よりリーンになるように設定する、リッチ/リーン空燃比設定手段を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記気筒群の各気筒の点火時期を遅角する点火時期遅角手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記触媒昇温制御手段は、
前記硫黄成分除去制御手段により硫黄成分を除去する際の、スロットルバルブの開度を推定する開度推定手段と、
前記推定されたスロットルバルブの開度に応じて、前記スロットルバルブの開度を制御する開度制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記触媒昇温制御手段は、前記硫黄成分除去制御手段により硫黄成分を除去する際の、発生トルクを推定するトルク推定手段を備え、
前記点火時期遅角手段は、前記推定されたトルクに応じて、前記点火時期を遅角させることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、前記気筒群の各気筒に配置され、それぞれ前記気筒内に燃料を噴射する筒内インジェクタを備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記筒内インジェクタから、前記各気筒の圧縮行程において、燃料が前記気筒内に直接噴射されるように制御する燃料噴射時期制御手段を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関は、
前記筒内インジェクタに供給する燃料を保持する燃料タンクと、
前記燃料タンクからの蒸発燃料を吸蔵するキャニスタと、
前記蒸発燃料を含むパージガスを、前記キャニスタから吸気通路に流入させるパージ機構と、を備え、
前記吸気通路に供給されるパージガス濃度を学習するパージガス濃度学習手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記パージガス濃度が判定濃度以下か否かを判定するパージガス濃度判定手段を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記パージガス濃度が判定濃度以下であると認められた場合にのみ、前記リーンNOx触媒の昇温制御を実行することを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記パージガス濃度が判定濃度以下であると認められるまでの間、前記パージガスを吸気通路に流入させる際の目標パージ率を、運転条件に応じて設定される基本の目標パージ率よりも、高いパージ率に設定する高パージ率設定手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関は、
前記筒内インジェクタに供給する燃料を保持する燃料タンクと、
前記燃料タンクからの蒸発燃料を吸蔵するキャニスタと、
前記蒸発燃料を含むパージガスを、前記キャニスタから吸気通路に流入させるパージ機構と、を備え、
前記触媒昇温制御手段は、前記パージガスを吸気通路に流入させる際の目標パージ率を、運転条件に応じて設定される基本の目標パージ率よりも、低いパージ率に設定する低パージ率設定手段を備えることを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記触媒昇温制御手段は、
前記気筒群のうちいずれかの気筒群の空燃比の制御目標値を、前記硫黄除去制御の際のリッチ率よりも小さい比率で、理論空燃比よりリッチに設定し、他の気筒群の空燃比の制御目標値を、前記硫黄除去制御の際のリーン率よりも小さい比率で、理論空燃比よりもリーンに設定する、弱リッチ/弱リーン空燃比設定手段を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記触媒昇温制御手段は、前記全ての気筒群の空燃比の制御目標値を、理論空燃比付近に設定する理論空燃比設定手段を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−162494(P2007−162494A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356207(P2005−356207)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】