説明

動力出力装置およびこれを搭載する自動車

【課題】 過給機専用のモータを用いずに過給機を必要に応じて効率よく機能させる。
【解決手段】 エンジン22からの動力を駆動輪63a,63bに連結されたリングギヤ軸32aに出力するために駆動するモータMG1の回転軸にクラッチC1と連結ギヤ244とを介して過給機240の連結軸242を接続する。そして、エンジン22の回転数がその排気のエネルギでは過給機240を機能させることができない回転数未満のときにエンジン22の回転数を増加させる際にはクラッチC1をオンとすると共にバイパスバルブ236を開成してモータMG1の回転軸の動力を用いて過給機240を機能させる。これにより、過給機240を必要に応じて効率よく機能させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力出力装置およびこれを搭載する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力出力装置としては、エンジンからの排気エネルギを用いてエンジンに過給する過給機の回転軸に過給機用モータを取り付けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、燃費が最もよくなるようエンジンの回転数を選択し、その回転数で運転されるエンジンから要求されるトルクが出力されるよう過給機用モータを駆動する。これにより、燃費よく動力を出力することができるものとされている。
【特許文献1】特開2000−45812号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の動力出力装置では、過給機を駆動するために専用の過給機用モータを取り付けると共にこの過給機用モータをエンジンの運転に応じて駆動制御する必要がある。ハイブリッド自動車では、走行用や発電用のモータを搭載するから、こうしたモータの他に過給機用モータをも搭載しなければならない。
【0004】
本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車は、過給機専用のモータによらずに過給機を機能させることを目的の一つとする。また、本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車は、過給機の駆動を効率よく行なうことを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の動力出力装置は、
駆動軸に動力を出力する動力出力装置であって、
過給機を有する内燃機関と、
前記駆動軸へ出力される動力の少なくとも一部を調整可能な電動機と、
該電動機の回転軸の動力を用いて前記過給機が駆動されるよう該電動機の回転軸の動力を該過給機に伝達する動力伝達手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の動力出力装置では、駆動軸へ出力される動力の少なくとも一部を調整可能な電動機の回転軸の動力を用いて内燃機関の過給機を駆動することができる。したがって、過給機を専用のモータを用いることなく機能させることができる。しかも、必要に応じて電動機を駆動することができるから、必要に応じて過給機を機能させることができ、過給機を効率よく駆動することができる。
【0008】
こうした本発明の動力出力装置において、前記動力伝達手段は、前記電動機の回転軸と前記過給機との動力の伝達と動力の遮断とが可能な手段であるものとすることもできる。こうすれば、必要に応じて電動機の回転軸と過給機との動力の伝達を行なったり遮断することができる。
【0009】
また、本発明の動力出力装置において、前記過給機は、前記内燃機関の吸気系に設けられた吸気用タービンと、該内燃機関の排気系に設けられた排気用タービンと、前記吸気用
タービンと前記排気用タービンとを連結する連結軸とを有するターボ装置であり、前記動力伝達手段は前記連結軸を回転駆動可能な手段であるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関の排気のエネルギを用いて過給することもできる。この場合、前記内燃機関は、前記吸気系の前記吸気用タービンの下流部と前記排気系の前記排気用タービンの上流側とを連絡する第1連絡流路と、該第1連絡流路に設けられた第1バルブと、前記排気系の前記排気用タービンの上流側と該排気用タービンの下流側とを連絡する第2連絡流路と、該第2連絡流路に設けられた第2バルブと、を備える機関であるものとすることもできる。こうすれば、吸気系や排気系が過剰な圧力にならないように調整することができる。
【0010】
さらに、本発明の動力出力装置において、前記内燃機関の回転数を増加するとき、前記過給機による過給が行なわれるよう前記電動機を駆動制御する制御手段を備えるものとすることもできる。この場合、前記制御手段は、前記内燃機関の回転数が所定回転数未満のときに前記過給機による過給が行なわれるよう前記電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。ここで、「所定回転数」としては、内燃機関からの排気によるエネルギにより過給機を十分に機能させることができる回転数を用いることができる。こうすれば、内燃機関の回転数が所定回転数未満のときには電動機の回転軸から伝達される動力により過給機を機能させ、内燃機関の回転数が所定回転数以上のときには内燃機関からの排気によるエネルギにより過給機を機能させることができる。さらにこの場合、電動機の回転軸と過給機との動力の伝達を遮断可能な態様の本発明の動力出力装置において、前記制御手段は、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数未満のときには前記電動機の回転軸と前記過給機との動力の伝達が可能となるよう前記動力伝達手段を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数以上のときには前記電動機の回転軸と前記過給機との動力の伝達が遮断されるよう前記動力伝達手段を制御する手段であるものとすることもできる。
【0011】
また、本発明の動力出力装置において、前記内燃機関の出力軸と前記駆動軸と前記電動機の回転軸との3軸に接続され、該3軸のうちのいずれか2軸に入出力される動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段を備えるものとすることでもできる。
【0012】
本発明の自動車は、上述のいずれかの態様の本発明の動力出力装置、即ち、基本的には、駆動軸に動力を出力する動力出力装置であって、過給機を有する内燃機関と、前記駆動軸へ出力される動力の少なくとも一部を調整可能な電動機と、該電動機の回転軸の動力を用いて前記過給機が駆動されるよう該電動機の回転軸の動力を該過給機に伝達する動力伝達手段と、を備える動力出力装置を搭載し、車軸が前記駆動軸に連結されてなることを要旨とする。
【0013】
この本発明の自動車では、上述のいずれかの態様の本発明の動力出力装置を搭載するから、本発明の動力出力装置が奏する効果、例えば、駆動軸へ出力される動力の少なくとも一部を調整可能な電動機の回転軸の動力を用いて内燃機関の過給機を駆動することができる効果や、必要に応じて過給機を機能させることができる効果、過給機を効率よく駆動することができる効果などと同様な効果を奏することができる。なお、本発明の自動車は、前記車軸または該車軸とは異なる車軸に動力を出力可能な少なくとも一つの電動機を備えるものとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例である動力出力装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エ
ンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、排気のエネルギを用いて過給する過給機240を備える。過給機240は、エアクリーナ222に接続された吸気管224に設けられた吸気用タービンと排気管234に設けられた排気用タービンとこれらのタービンを連結する連結軸242とから構成されており、連結軸242はクラッチC1と連結ギヤ244を介してモータMG1の回転軸に連結されている。吸気管224の過給機240の下流側はウエストゲートバルブ226が取り付けられた連絡管により排気管234の過給機240の上流側と連絡しており、排気管234の過給機240の上流側はバイパスバルブ236が取り付けられたバイパス管により排気管234の過給機240の下流側と連絡している。ウエストゲートバルブ226は、吸気管234の過給機240の下流側の圧力が所定圧に達すると開成されるようハイブリッド用電子制御ユニット70により駆動制御されており、これにより、吸気管224の過給機240の下流側の圧力は所定圧以下に調整されている。エンジン22は、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0017】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1の回転軸が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0018】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44
からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0020】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、ウエストゲートバルブ226への駆動信号やバイパスバルブへの駆動信号、クラッチC1への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0021】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0022】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にモータMG1により過給機240が駆動される際の動作について説明する。図2は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0023】
駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,エンジン22の回転数Ne,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neはクランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサ23aからの信号に基づいて計算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されるモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、温度センサ51により検出されたバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0024】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*とエンジン22に要求される要求パワーPe*とを設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。要求パワーPe*は、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものとバッテリ50が要求する充放電要求パワーPb*とロスLossとの和として計算することができる。なお、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、車速Vに換算係数kを乗じることによって求めたり、モータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで割ることによって求めることができる。
【0025】
設定した要求パワーPe*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS120)。この設定は、エンジン22を効率よく動作させる動作ラインと要求パワーPe*とに基づいて目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する。エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子を図4に示す。図示するように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定の曲線との交点により求めることができる。
【0026】
次に、設定した要求トルクTr*を閾値Trefと比較すると共に(ステップS130)エンジン22の目標回転数Ne*をエンジン22の回転数Neと比較し(ステップS140)、エンジン22の回転数Neを閾値Nrefと比較する(ステップS150)。ここで、閾値Trefは、過給機240によりエンジン22を過給する必要性を判断するために駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべきトルクとして設定されるものであり、車両の特性により定めることができる。また、閾値Nrefは、エンジン22の排気のエネルギにより過給機240を十分に機能させることができるエンジン22の回転数として設定されるものであり、エンジン22の性能や過給機240の性能、車両の特性などにより定めることができる。要求トルクTr*が閾値Tref以上でエンジン22の目標回転数Ne*が現在のエンジン22の回転数Neより大きく、更に、エンジン22の回転数
Neが閾値Nref未満のときには、過給機240による過給は必要であるがエンジン22の排気のエネルギでは過給機240を十分に機能させることができないと判断し、バイパスバルブ236を開成すると共に(ステップS160)、クラッチC1をオンとして(ステップS170)、モータMG1の回転軸の動力により過給機240を機能させる。ここで、ステップS140でエンジン22の目標回転数Ne*がエンジン22の回転数Neより大きいことをモータMG1の回転軸により過給機240を機能させる条件としているのは、エンジン22の回転数を増加するとき、即ち駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される動力が大きくなるときにだけ、エンジン22を過給する必要が生じるからである。ハイブリッド自動車20の車速Vが小さいために駆動軸としてのリングギヤ軸32aの回転数Nrが比較的小さくエンジン22の回転数Neが比較的小さいときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図5に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2に減速ギヤ35のギヤ比Grを乗じたリングギヤ32の回転数Nrを示す。なお、R軸上の2つの太線矢印は、エンジン22を目標回転数Ne*および目標トルクTe*の運転ポイントで定常運転したときにエンジン22から出力されるトルクTe*がリングギヤ軸32aに伝達されるトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2*が減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。図示するように、車速Vが比較的小さいときにはモータMG1の回転数Nm1は比較的大きくなるから、モータMG1の回転軸の動力により過給機240を十分に機能させることができる。なお、モータMG1の回転軸の動力により過給機240を機能させるときにバイパスバルブ236を開成するのは、過給機240の排気用タービンが回転することにより、過給機240の上流側の圧力が過剰な負圧になるのを抑制するためである。
【0027】
一方、要求トルクTr*が閾値Tref未満であったり、エンジン22の目標回転数Ne*がそのときのエンジン22の回転数Ne以下であったり、エンジン22の回転数Neが閾値Nref以上であるときには、過給機240による過給が不要であると判断したり、エンジン22の排気のエネルギにより過給機240を機能させることができる状態にあると判断し、バイパスバルブ236を閉成すると共に(ステップS180)、クラッチC1をオフとする(ステップS190)。
【0028】
こうしてバイパスバルブ236やクラッチC1の状態を設定すると、設定した目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Gr)と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて次式(1)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて式(2)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS200)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式であり、図5に示す共線図を用いれば容易に導くことができる。また、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0029】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ−Nm2/(Gr・ρ) …(1)
Tm1*=前回Tm1*+k1(Nm1*−Nm1)+k2∫(Nm1*−Nm1)dt …(2)
【0030】
こうしてモータMG1の目標回転数Nm1*とトルク指令Tm1*とを計算すると、バッテリ50の出力制限Woutと計算したモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを次式(3)および式(4)により計算すると共に(ステップS210)、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配
統合機構30のギヤ比ρを用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(5)により計算し(ステップS220)、計算したトルク制限Tmin,Tmaxの範囲内で仮モータトルクTm2tmpを制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS230)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力する要求トルクTr*を、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限したトルクとして設定することができる。なお、式(5)は、前述した図5の共線図から容易に導き出すことができる。
【0031】
Tmin=(Win−Tm1*・Nm1)/Nm2 …(3)
Tmax=(Wout−Tm1*・Nm1)/Nm2 …(4)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr …(5)
【0032】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS240)、駆動制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0033】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、モータMG1の回転軸の動力を用いて過給機240を機能させることができる。したがって、過給機240を機能させる専用のモータを用いる必要がない。しかも、エンジン22の回転数Neがエンジン22の排気のエネルギにより過給機240を機能させることができる回転数として設定された閾値Nref未満のときであってエンジン22の回転数Neを増加させるときにだけ、クラッチC1をオンとしてモータMG1の回転軸と過給機240の連結軸242とを連結し、モータMG1の回転軸の動力を用いて過給機240を機能させるから、エンジン22の排気のエネルギにより過給機240を機能させることができない状態のときでも過給機240を機能させることができる。即ち、必要に応じて過給機240を機能させることができ、過給機240を効率よく駆動することができる。また、実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の回転数Neがエンジン22の排気のエネルギにより過給機240を機能させることができる回転数として設定された閾値Nref以上のときには、クラッチC1をオフとしてモータMG1の回転軸と過給機240の連結軸242との連結を解除することにより、エンジン22の排気のエネルギにより過給機240を機能させることができる。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、要求トルクTr*が閾値Tref以上でエンジン22の目標回転数Ne*が現在のエンジン22の回転数Neより大きく、更に、エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満のときに、クラッチC1をオンとしてモータMG1の回転軸の動力により過給機240を機能させるものとしたが、要求トルクTr*が閾値Tref以上でなくても、エンジン22の目標回転数Ne*が現在のエンジン22の回転数Neより大きいときやエンジン22の回転数Neが閾値Nref未満のときにクラッチC1をオンとしてモータMG1の回転軸の動力により過給機240を機能させるものとしてもよく、単にエンジン22の目標回転数Ne*が現在のエンジン22の回転数Neより大きいときにクラッチC1をオンとしてモータMG1の回転軸の動力により過給機24
0を機能させるものとしてもよい。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、過給機240としてエンジン22の排気のエネルギを用いて過給するタイプ(ターボ式)のものを用いるものとしたが、エンジン22の排気のエネルギを用いずに過給するタイプのものを用いるものとしてもかまわない。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、過給機240の連結軸242にクラッチC1と連結ギヤ244とを用いてモータMG1の回転軸を連結するものとしたが、過給機240の連結軸242にモータMG1の回転軸の動力を伝達することができれば如何なるものを用いて連結するものとしても差し支えない。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を減速ギヤ35により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図6の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪63a,63bが接続された車軸)とは異なる車軸(図6における車輪64a,64bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数NeをモータMG1により調整することにより駆動軸としてのリングギヤ軸32aにエンジン22からの動力を出力する際のモータMG1の回転軸の動力を用いて過給機240を機能させるものとしたが、モータMG2の回転軸の動力を用いて過給機240を機能させるものとしてもかまわない。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪63a,63bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、こうした動力分配統合機構30を備えないものとしても差し支えない。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*および目標トルクTe*を設定する様子を示す説明図である。
【図5】動力分配統合機構30の回転要素を力学的に説明するための共線図の一例を示す説明図である。
【図6】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0042】
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35,減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b,64a,64b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、222 エアクリーナ、224 吸気管、226 ウエストゲートバルブ、234 排気管、236 バイパスバルブ、240 過給機、242 連結軸、244 連結ギヤ、C1 クラッチ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に動力を出力する動力出力装置であって、
過給機を有する内燃機関と、
前記駆動軸へ出力される動力の少なくとも一部を調整可能な電動機と、
該電動機の回転軸の動力を用いて前記過給機が駆動されるよう該電動機の回転軸の動力を該過給機に伝達する動力伝達手段と、
を備える動力出力装置。
【請求項2】
前記動力伝達手段は、前記電動機の回転軸と前記過給機との動力の伝達と動力の遮断とが可能な手段である請求項1記載の動力出力装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の動力出力装置であって、
前記過給機は、前記内燃機関の吸気系に設けられた吸気用タービンと、該内燃機関の排気系に設けられた排気用タービンと、前記吸気用タービンと前記排気用タービンとを連結する連結軸とを有するターボ装置であり、
前記動力伝達手段は、前記連結軸を回転駆動可能な手段である
動力出力装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、前記吸気系の前記吸気用タービンの下流部と前記排気系の前記排気用タービンの上流側とを連絡する第1連絡流路と、該第1連絡流路に設けられた第1バルブと、前記排気系の前記排気用タービンの上流側と該排気用タービンの下流側とを連絡する第2連絡流路と、該第2連絡流路に設けられた第2バルブと、を備える機関である請求項3記載の動力出力装置。
【請求項5】
前記内燃機関の回転数を増加するとき、前記過給機による過給が行なわれるよう前記電動機を駆動制御する制御手段を備える請求項1ないし4いずれか記載の動力出力装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記内燃機関の回転数が所定回転数未満のときに前記過給機による過給が行なわれるよう前記電動機を駆動制御する手段である請求項5記載の動力出力装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数未満のときには前記電動機の回転軸と前記過給機との動力の伝達が可能となるよう前記動力伝達手段を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数以上のときには前記電動機の回転軸と前記過給機との動力の伝達が遮断されるよう前記動力伝達手段を制御する手段である請求項2に係る請求項6記載の動力出力装置。
【請求項8】
前記内燃機関の出力軸と前記駆動軸と前記電動機の回転軸との3軸に接続され、該3軸のうちのいずれか2軸に入出力される動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段を備える請求項1ないし7いずれか記載の動力出力装置。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか記載の動力出力装置を搭載し、車軸が前記駆動軸に連結されてなる自動車。
【請求項10】
前記車軸または該車軸とは異なる車軸に動力を出力可能な少なくとも一つの電動機を備える請求項9記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−37876(P2006−37876A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220352(P2004−220352)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】