説明

半導体光素子を作製する方法

【課題】半導体光素子の作製プロセス中、半導体ウェハにダメージを与えることを抑制可能な半導体光素子の作製方法を提供する。
【解決手段】基板11の上に、活性層17を含む半導体積層13を成長する第1工程と、第1工程の後に、半導体積層13の上に、所定の膜応力および所定の厚みを有するシリコン酸化膜21を形成する第2工程と、第2工程の後に、シリコン酸化膜21の上に形成したレジスト23を用いてシリコン酸化膜21を半導体積層13の表面が露出するまでエッチングすることにより、シリコン酸化膜21にストライプ状の溝25を形成する第3工程と、第3工程の後に、溝25に、p型クラッド層19の他の一部19bを成長する第4工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子を作製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リッジ型の半導体光素子が知られている(例えば非特許文献1を参照)。図6は、従来のリッジ型半導体光素子の作製方法の一例を示している。図6(a)に示すように、最初に、半導体基板101上に、活性層102やクラッド層103等を含む半導体積層104を形成する。また、半導体積層104上に、例えばSiNからなるマスクパターン105を形成する。次に、図6(b)に示すように、マスクパターン105を用いてドライエッチングを行い、リッジ部106を形成する。次に、図6(c)に示すように、マスクパターン105の除去後に、SiO膜107をリッジ部106を覆うように厚く形成する。次に、図6(d)に示すように、研磨を行い、リッジ部106を被服するSiO膜を除去し、リッジ部106を露出させる。
【非特許文献1】IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTER, VOL. 18, NO.12, JUNE 15, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体ウェハ上にリッジ構造を形成した後に、リッジ部の厚み以上に厚いSiO膜をデポし、その後に研磨でリッジ部の頭出しを行うといった従来の作製プロセスにおいては、半導体ウェハにダメージを与えてしまうといった問題点があった。その原因としては、リッジ部の頭出しを研磨で行うことが挙げられる。
【0004】
そこで、本発明は上記に鑑みてなされたもので、半導体光素子の作製プロセス中、半導体ウェハにダメージを与えることを抑制可能な半導体光素子の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の方法は、半導体光素子を作製する方法であって、基板の上に、活性層のための第1III−V化合物半導体層を含む半導体積層を成長する第1工程と、前記第1工程の後に、前記半導体積層の上に、所定の膜応力および所定の厚みを有するシリコン酸化膜を形成する第2工程と、前記第2工程の後に、前記シリコン酸化膜の上に形成したレジストを用いて前記シリコン酸化膜を前記半導体積層の表面が露出するまでエッチングすることにより、前記シリコン酸化膜にストライプ状の溝を形成する第3工程と、前記第3工程の後に、前記溝に、第2III−V化合物半導体層を成長する第4工程と、を備えることを特徴とする。
【0006】
このような本発明の方法によれば、第1工程〜第4工程の手順を全て順に備えることにより、先にシリコン酸化膜を形成し、その後ストライプ状の溝を形成し、当該溝に半導体層を形成する工程を含むので、研磨を行わなくても、リッジ型の半導体光素子を作製することができる。したがって、研磨によって半導体ウェハがダメージを受けることを防止できる。
【0007】
また、本発明の方法において、前記第2工程では、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲における膜応力が−100MPa以上且つ+100MPa以下となるように、前記シリコン酸化膜を形成し、前記第4工程では、前記第2III−V化合物半導体層を前記温度範囲で成長することが好ましい。
【0008】
また、本発明の方法において、前記第2工程では、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲における膜応力が−100MPa以上且つ0MPa以下となるように、前記シリコン酸化膜を形成することが更に好ましい。
【0009】
このように、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲での膜応力が−100MPa以上且つ+100MPa以下となるように、より好ましくは−100MPa以上且つ0MPa以下となるように、シリコン酸化膜を形成した場合には、クラッド層のための第2III−V化合物半導体層を当該温度範囲で成長する際に、シリコン酸化膜が低応力となる。このため、第2III−V化合物半導体層を成長する際にシリコン酸化膜が高応力であることに起因して例えば基板等が割れてしまうことを抑制できる。また、上記のように低応力のシリコン酸化膜に形成された溝内に第2III−V化合物半導体層を成長することから、当該第2III−V化合物半導体層を、温度による変形を生じさせることなく、溝の形状のままで成長することができる。さらに、シリコン酸化膜におけるクラックや剥れが低減される。
【0010】
また、本発明の方法では、前記第2工程において、前記所定の厚みは、前記第2III−V化合物半導体層の厚みとほぼ同一であることが好ましい。
【0011】
このように、第2III−V化合物半導体層の厚みとほぼ同一の厚みでシリコン酸化膜を形成することにより、第4工程では当該厚い厚みに相当する深い溝を用いてクラッド層のための第2III−V化合物半導体層を容易に成長できる。また、作製された半導体光素子が厚いシリコン酸化膜を有することは半導体光素子の低容量化につながり、その結果、高速動作に適した半導体光素子を作製することができる。
【0012】
また、本発明の方法において、前記第3工程では、前記シリコン酸化膜を前記半導体積層が積層された面に対してほぼ垂直にエッチングすることが好ましい。
【0013】
このように、シリコン酸化膜をほぼ垂直にエッチングすることから、エッチングにより形成される溝の壁面がほぼ垂直に形成される。その結果、当該溝内で成長する第2III−V化合物半導体層をほぼ垂直に成長することができる。
【0014】
また、本発明の方法では、前記シリコン酸化膜は、誘導結合型プラズマCVD装置を用いて形成され、前記シリコン酸化膜の前記膜応力は、前記誘導結合型プラズマCVD装置のバイアス電力を制御することによって調整されることが好ましい。
【0015】
この方法によれば、誘導結合型プラズマCVD装置のバイアス電力を制御することによって、シリコン酸化膜の膜応力を状況によって適切に調整することができる。
【0016】
また、本発明の方法では、前記シリコン酸化膜は、室温と前記温度範囲内の温度との間において正の温度係数を有することが好ましい。
【0017】
この場合には、クラッド層のための第2III−V化合物半導体層を成長する際に、温度の上昇に応じてシリコン酸化膜の膜応力が小さくなる。
【0018】
また、本発明の方法において、前記第1工程では、前記半導体積層として、第1導電型のクラッド層のための第3III−V化合物半導体層と、前記活性層のための前記第1III−V化合物半導体層とを順に成長し、前記第4工程における前記第2III−V化合物半導体層は、第2導電型のクラッド層のためのIII−V化合物半導体層であり、当該方法は、前記第4工程の後に、前記第2III−V化合物半導体層の上に、コンタクト層のための第4III−V化合物半導体層を成長する第5工程と、前記第5工程の後に、前記第4III−V化合物半導体層の上に電極を形成する第6工程を更に備えることが好ましい。
【0019】
本発明の方法はリッジ型半導体光素子の作製に好適である。また、本発明の方法では困難な窓開け工程が不要であるため、半導体光素子を作製するためのコストを低減することができるといった利点がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半導体光素子の作製プロセス中、半導体ウェハにダメージを与えることを抑制可能な半導体光素子の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の半導体光素子を作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0022】
本実施形態では、半導体光素子の一例として、例えば半導体レーザといった半導体発光素子を作製する。以下、図1〜図5を参照しながら、半導体レーザ1を作製する方法(第1工程〜第6工程)について詳細に説明する。
【0023】
(第1工程)
図1は、半導体レーザ1の作製工程を示す図面である。まず、基板11を準備する。基板11は、導電性を示す半導体基板であって、例えば第1導電型のIII−V化合物半導体基板である。本実施形態では、例えばn型InP半導体基板を基板11として用いる。成長炉50a内に基板11を配置する。
【0024】
次に、図1(a)に示されるように、基板11の表面11a上に半導体積層13を形成する。半導体積層13は、複数のIII−V化合物半導体層を含んでおり、これらのIII−V化合物半導体層は上に順に成長される。半導体積層13は、第1導電型のクラッド層15(第3III−V化合物半導体層)、活性層17(第1III−V化合物半導体層)、リッジ部を構成する第2導電型のクラッド層19の一部19aを含むことができる。半導体積層13を構成するこれらの半導体層15,17,19aは例えば有機金属気相成長法を用いて成長することができる。また、半導体積層13の厚みは例えば1.0μm以上である。
【0025】
半導体レーザ1のための半導体積層13の一例は、例えば以下のようである。
第1導電型のクラッド層15:n型InP半導体、1.0μm
活性層17:GaInAsP多重量子井戸構造、0.2μm
第2導電型のクラッド層19の一部19a:p型InP半導体、0.1μm
【0026】
活性層17は、例えば1.55μm帯での発光のために作製される。活性層17は、バルク、単一量子井戸構造、または多重量子井戸構造等の様々な構造を有することができる。図示はしないが、半導体レーザ1は、量子井戸構造の井戸層の上下にガイド層を配置したSCH構造を有することができる。また、必要な場合には、n型クラッド層に替えて、n型InP基板の表層領域をn型クラッド層として用いることができる。
【0027】
(第2工程)
次に、図1(b)に示されるように、原料ガスG1を気相成長装置50bに供給して半導体積層13上に、厚さ1.0〜2.0μmのシリコン酸化膜21を成長する。シリコン酸化膜21の厚みは、リッジ部を構成する第2導電型のクラッド層19の他の一部19b(第2III−V化合物半導体層、後述する)の、半導体積層13の上面13aからの厚みより厚いことが好ましい。また、シリコン酸化膜21の厚みは、後述する誘導結合型プラズマCVD装置における膜応力の制御を円滑に行うために、例えば3.0μm以下であることが好ましい。
【0028】
シリコン酸化膜21を成長するための気相成長装置としては、低応力のシリコン酸化膜21を比較的に低温で更に高速に成膜可能な誘導結合型プラズマ(ICP)CVD装置50bを用いることができる。好適な実施例では、テトラエトキシシラン及び酸素が用いられる。誘導結合型プラズマCVD装置50bでは、IPC放電により原料ガスG1をプラズマ状態にして反応させる。このため、比較的低温、例えば基板材料がInPの場合、摂氏400度以下で成膜できる。成膜中にバイアスを印加することにより、膜質を制御できる。膜質は緻密であり、また堆積物は低応力であるので、例えば300nm/min以上の高速の成膜レートで、10μm程度の厚みの膜を成長できる。厚膜を高速で堆積しても、膜のクラック等が生じにくい。誘導結合型プラズマCVD装置において有機シラン系化合物を含む原料ガスを用いて成膜するので、シリコン酸化厚膜を作製しても膜応力に起因する不具合が生じにくい。
【0029】
原料ガスG1は、シリコン有機化合物及び酸素を含む。シリコン有機化合物として例えば有機シラン系化合物を用いることができる。具体的には、例えばテトラエトキシシラン(TEOS:Si(OC)、TEFS:Si(OCF、HSi(OCH等を用いることができる。
【0030】
シリコン酸化膜21を形成する際の条件の一例は、例えば以下のようである。
成膜ガスG1:テトラエトキシシラン及び酸素
TEOS流量:10sccm
流量:100sccm
流量比:TEOS/O=1/10
ドーパント:無し(ただし、石英導波路の場合はドーパント有り)
プラズマ発生用高周波電源PIPC:1000W
バイアスパワーPBIAS:0〜300W
成膜圧力:5Pa以下
基板温度:摂氏400度以下
成膜レート:300nm/min以上
厚み:2μm
【0031】
図2は、誘導結合型プラズマCVD装置を用いて成長されたシリコン酸化膜の膜応力(縦軸)と温度(横軸)との関係を示す図面である。正の膜応力は「引っ張り膜応力」であり、負の膜応力は「圧縮膜応力」である。特性線B50は、50ワットのバイアスパワーPBIASを印加することにより成長されたシリコン酸化膜の膜応力の温度特性を示す。特性線B150は、150ワットのバイアスパワーPBIASを印加することにより成長されたシリコン酸化膜の膜応力の温度特性を示す。特性線B50及び特性線B150によって示されるシリコン酸化膜は、室温で圧縮膜応力を内包する。また、特性線B50及び特性線B150によって示されるシリコン酸化膜は、正の温度係数を有しており、温度が上昇するにつれて膜応力の絶対値が小さくなる。温度係数の範囲は、例えば+0.1以上、+0.3以下である。そして、ある温度を境に、圧縮膜応力から引っ張り膜応力に変化する。小さいバイアスパワーで堆積されたシリコン酸化膜は、絶対値の小さい圧縮膜応力を内包し、大きいバイアスパワーで堆積されたシリコン酸化膜は、絶対値の大きな圧縮膜応力を内包する。なお、シリコン酸化膜の膜応力は、シリコン酸化膜を半導体基板上に形成し、その後、この半導体基板の反りの大きさを計測することで測定することができる。
【0032】
特性線Cは、誘導結合型プラズマCVD装置50bと異なるプラズマCVD装置により成長されたシリコン窒化膜(膜厚、500nm程度)の膜応力の温度特性を示す。特性線Cによって示されるシリコン酸化膜は、室温で引っ張り膜応力を内包しており、また小さい負の温度係数を有する。このように誘導結合型プラズマCVD装置と異なるプラズマCVD装置等により成長されたシリコン窒化膜では、高温で成膜してから室温に降温するまでに、膜に引っ張り膜応力が加わり、しかも小さい負の温度係数を有することから、この引っ張り膜応力が室温に降温するまでに徐々に大きくなるという性質を有する。このようなシリコン酸化膜を用いた場合は、膜内部にクラックが発生し割れるという不具合が生じる。とくに、本実施形態では、シリコン酸化膜の厚みは、2μm程度の厚膜のシリコン酸化膜を形成する必要があるので、このシリコン酸化膜に内包する引っ張り応力の影響は顕著である。なぜなら、膜応力は、膜の厚みが大きくなるほど大きくなるからである。さらに、シリコン酸化膜を形成後に、半導体積層を成長する際にシリコン酸化膜が高応力であることに起因して例えば基板の割れ等の不具合が生じる。
【0033】
一方、本実施の形態では、シリコン酸化膜21を誘導結合型プラズマCVD装置50bを用いて半導体積層13上に成長する際に、誘導結合型プラズマCVD装置50bのバイアス電力PBIASを制御することによって膜応力およびその温度係数を調整できる(図1(b)参照)。
【0034】
一実施例では、例えば図2において点線で示される矩形の領域Aのように、膜応力が、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲で、−100MPa以上且つ+100MPa以下の低応力であることが好ましい。この範囲の膜応力は、基板11として例えばInP基板を用いる場合、シリコン酸化膜21を成膜する際のバイアスパワーPBIASを例えば50W(図2の特性線B50)にすることにより、得ることができる。
【0035】
更に好ましくは、シリコン酸化膜21の膜応力が、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲で、−100MPa以上且つ0MPa以下の低い圧縮膜応力であることが好ましい。この範囲の膜応力は、基板11として例えばInP基板を用いる場合、シリコン酸化膜21を成膜する際のバイアスパワーPBIASを例えば150Wにすることにより、得ることができる。本実施例のシリコン酸化膜21は、高温状態での成膜時においては、膜歪を小さく保持できるとともに、室温に降温したときでも圧縮応力を内包する。このような特性を有するシリコン酸化膜を用いることでクラックや剥れが一層、低減される。さらに、膜形成後の成長工程等の高温プロセスを行った場合でも、クラックや剥れが生じることを防止できる。
【0036】
(第3工程)
次に、図3(a)に示されるように、例えばフォトリソグラフィにより、シリコン酸化膜21上にレジスト23をパターニングする。レジスト23において、幅A1は例えば1〜2μmである。
【0037】
次に、図3(b)に示されるように、反応性イオンエッチングといったドライエッチングをレジスト23を用いて行い、シリコン酸化膜21をエッチングする。ドライエッチングは、半導体積層13の表面13aが露出するまで、半導体積層13が積層された面(例えば表面13a)に対してほぼ垂直に行う。このときのドライエッチングの条件の一例は、例えば以下のようである。
ガス:CF
プラズマパワー:100W
【0038】
このようなドライエッチングの結果、図3(b)に示されるように、ドライエッチングされたシリコン酸化膜21aは、半導体積層13の表面13aよりほぼ垂直に伸びる壁面25aを有するストライプ状の溝25を形成する。溝25の幅A2はレジスト23における幅A1とほぼ同一であって、例えば1〜2μmである。
【0039】
次に、図3(c)に示されるように、レジスト23を除去する。レジスト除去は、例えばOアッシングによるか、または有機溶剤を用いて行うことができる。
【0040】
(第4工程)
次に、図4(a)に示されるように、上記第3工程で形成した溝25に、p型クラッド層19の他の一部19bを選択成長する。p型クラッド層19の他の一部19bは、p型クラッド層19の一部19aと同様に、例えばp型InP半導体である。この工程で成長されるp型クラッド層19の他の一部19bは、シリコン酸化膜21aの厚みとほぼ同一の厚みで成長される。p型クラッド層19の他の一部19bを成長するために、例えば有機金属気相成長法を用いることができる。本実施形態では、図4(a)に示されるように、有機金属気相成長炉50cを用いて、例えば摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲で、p型クラッド層19の他の一部19bを成長している。
【0041】
次に、図4(b)に示されるように、p型クラッド層19の他の一部19bの表面を例えばウェットエッチングにより平坦化し、平坦化されたp型クラッド層19の他の一部19cを形成する。平坦化されたp型クラッド層19の他の一部19cは、シリコン酸化膜21aの厚みよりやや薄い厚みを有する。
【0042】
(第5工程)
次に、図5(a)に示されるように、上記第4工程で平坦化されたp型クラッド層19の他の一部19cの上に、コンタクト層27(第4III−V化合物半導体層)を選択成長する。コンタクト層27は、例えば厚さ0.2μmのp型GaInAs半導体である。コンタクト層27を成長するために例えば有機金属気相成長法を用いることができる。本実施形態では、図5(a)に示されるように、有機金属気相成長炉50dを用いて、例えば摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲で、コンタクト層27を成長している。
【0043】
(第6工程)
次に、図5(b)に示されるように、p型上部電極29、およびn型裏面電極31を形成する。ここで、p型上部電極29を形成する前に従来行われていた電流注入用の窓を開ける工程は、本実施形態においては不要である。シリコン酸化膜21をドライエッチングしたことにより、溝25が既に形成されているからである。以上により、半導体レーザ1が完成される。
【0044】
続いて、本実施形態に係る半導体光素子の作製方法がもたらす効果について説明する。本実施形態によれば、第1工程〜第5工程の手順を全て順に備えることにより、研磨を行わなくても、リッジ型の半導体光素子を作製することができる。したがって、研磨によって半導体ウェハがダメージを受けることを防止できる。
【0045】
また、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲での膜応力が−100MPa以上且つ+100MPa以下となるように、より好ましくは−100MPa以上且つ0MPa以下となるように、シリコン酸化膜21を形成した場合には、p型クラッド層19の他の一部19bを当該温度範囲で成長する際に、シリコン酸化膜21が低応力となる。このため、p型クラッド層19の他の一部19bを成長する際にシリコン酸化膜21が高応力であることに起因して例えば基板11等が割れてしまうことを抑制できる。また、上記のように低応力のシリコン酸化膜21に形成された溝25内にp型クラッド層19の他の一部19bを成長することから、当該p型クラッド層19の他の一部19bを、温度による変形を生じさせることなく、溝25の形状のままで成長することができる。さらに、室温においては、シリコン酸化膜21は圧縮応力を内包するため、シリコン酸化膜へのクラックや剥れが低減される。さらに、膜形成後の成長工程等の高温プロセスを行った場合でも、クラックや剥れが生じることを効果的に防止できる。また、室温において内包するシリコン酸化膜の圧縮歪の大きさは、活性層等へ影響を考慮して適宜調整できるので、素子への信頼性にも影響をあたえず、問題がないことが明らかとなっている。
【0046】
また、p型クラッド層19の他の一部19bの厚みとほぼ同一の厚みでシリコン酸化膜21を形成することにより、第4工程では当該厚い厚みに相当する深い溝25を用いてp型クラッド層19の他の一部19bを容易に成長できる。また、作製された半導体光素子が厚いシリコン酸化膜21を有することは半導体光素子の低容量化につながり、その結果、高速動作に適した半導体光素子を作製することができる。
【0047】
また、シリコン酸化膜21をほぼ垂直にエッチングすることから、エッチングにより形成される溝25の壁面25aがほぼ垂直に形成される。その結果、当該溝25内で成長するp型クラッド層19の他の一部19bをほぼ垂直に成長することができる。
【0048】
また、シリコン酸化膜21は誘導結合型プラズマCVD装置を用いて形成されることが好ましく、この場合には、誘導結合型プラズマCVD装置のバイアス電力を制御することによって、シリコン酸化膜21の膜応力を状況によって適切に調整することができる。
【0049】
また、シリコン酸化膜21は、室温とp型クラッド層19の他の一部19bの成長温度範囲内の温度との間において正の温度係数を有することが好ましく、この場合には、p型クラッド層19の他の一部19bを成長する際に、温度の上昇に応じてシリコン酸化膜21の膜応力が小さくなる。
【0050】
また、本実施形態の半導体光素子の作製方法では、困難な窓開け工程が不要であるため、半導体光素子を作製するためのコストを低減することができるといった利点がある。
【0051】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。また、本実施の形態は、半導体レーザについて例示的に説明されているけれども、半導体光変調器、および半導体光変調器と半導体レーザとの集積素子などにも適用できる。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1(a)は、第1工程のエピタキシャ成長工程を示す図面である。図1(b)は第2工程のシリコン酸化膜形成工程を示す図面である。
【図2】誘導結合型プラズマCVD装置を用いて成長されたシリコン酸化膜の応力と温度との関係を示す図面である。
【図3】第3工程のエッチング工程を示す図面である。
【図4】第4工程のエピタキシャ成長工程を示す図面である。
【図5】図5(a)は、第5工程のエピタキシャ成長工程を示す図面である。図5(b)は、第6工程の電極形成工程を示す図面である。
【図6】従来のリッジ型半導体光素子の作製方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…半導体レーザ、11…基板、13…半導体積層、15…第1導電型のクラッド層、17…活性層、19…第2導電型のクラッド層、19a…第2導電型のクラッド層19の一部、19b…第2導電型のクラッド層19の他の一部、21…シリコン酸化膜、23…レジスト、25…溝、27…コンタクト層、29,31…電極、50a,50c,50d…有機金属気相成長炉、50b…誘導結合型プラズマ(ICP)CVD装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体光素子を作製する方法であって、
基板の上に、活性層のための第1III−V化合物半導体層を含む半導体積層を成長する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記半導体積層の上に、所定の膜応力および所定の厚みを有するシリコン酸化膜を形成する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記シリコン酸化膜の上に形成したレジストを用いて前記シリコン酸化膜を前記半導体積層の表面が露出するまでエッチングすることにより、前記シリコン酸化膜にストライプ状の溝を形成する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記溝に、第2III−V化合物半導体層を成長する第4工程と、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2工程では、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲における膜応力が−100MPa以上且つ+100MPa以下となるように、前記シリコン酸化膜を形成し、
前記第4工程では、前記第2III−V化合物半導体層を前記温度範囲で成長することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2工程では、摂氏500度以上且つ摂氏700度以下の温度範囲における膜応力が−100MPa以上且つ0MPa以下となるように、前記シリコン酸化膜を形成することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2工程において、前記所定の厚みは、前記第2III−V化合物半導体層の厚みとほぼ同一であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第3工程では、前記シリコン酸化膜を前記半導体積層が積層された面に対してほぼ垂直にエッチングすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記シリコン酸化膜は、誘導結合型プラズマCVD装置を用いて形成され、
前記シリコン酸化膜の前記膜応力は、前記誘導結合型プラズマCVD装置のバイアス電力を制御することによって調整されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記シリコン酸化膜は、室温と前記温度範囲内の温度との間において正の温度係数を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1工程では、前記半導体積層として、第1導電型のクラッド層のための第3III−V化合物半導体層と、前記活性層のための前記第1III−V化合物半導体層とを順に成長し、
前記第4工程における前記第2III−V化合物半導体層は、第2導電型のクラッド層のためのIII−V化合物半導体層であり、
当該方法は、
前記第4工程の後に、前記第2III−V化合物半導体層の上に、コンタクト層のための第4III−V化合物半導体層を成長する第5工程と、
前記第5工程の後に、前記第4III−V化合物半導体層の上に電極を形成する第6工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−3923(P2010−3923A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162219(P2008−162219)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】