説明

半導体積層体とこれを含むHFETおよびそれらの製造方法

【課題】半導体積層体に含まれるチャネル層下の化合物半導体層を不純物ドーピングでp型化することなく、その半導体積層体を含むHFETのリーク電流の低減や耐電圧の向上などを可能とする。
【解決手段】半導体積層体は、基板(11)上において順次堆積された第1、第2および第3の化合物半導体層(13、14、15)を少なくとも含み、その第1化合物半導体層(13)の少なくとも部分的層(16)は非晶質に改質されており、第2化合物半導体層(14)は第1化合物半導体層(13)に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体積層体に関し、特にパワーデバイスとしてのヘテロ接合型電界効果トランジスタ(HFET)に含まれ得る半導体積層体の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
Si系やGaAs系の半導体に比べて、窒化物半導体は、高い絶縁破壊電界と優れた耐熱性を有するとともに、電子の飽和ドリフト速度が速いという利点をも有するので、高温動作や大電力動作などにおいて優れた特性を有する電子デバイスを提供し得ると期待されている。
【0003】
このような窒化物半導体を利用して作製された電子デバイスの一種であるHFETにおいては、窒化物半導体積層体に含まれるチャネル層と電子供給層とのヘテロ接合とに起因する二次元電子ガス層を形成して、ソース電極とドレイン電極の間において窒化物半導体層に対してショットキー特性を有するゲート電極で電流を制御することがよく知られている。すなわち、窒化物半導体HFETにおいては、半導体積層体上に形成されたソース電極とドレイン電極の間でチャネル層に沿って層方向に流れる電流をゲート電極で制御する点に特徴がある。
【0004】
したがって、窒化物半導体HFETにおいては、半導体積層体中でゲート電極の制御効果が及ぶチャネル層より深い層領域へ流れる電流は、FET中のリーク電流となってエネルギ損失になることが知られている。これは、窒化物半導体積層体中のチャネル層以外の層においても抵抗が十分に高くなく、各層を厚さ方向に横切って半導体積層体の深い層領域において制御し得ない大きなリーク電流が流れ得るからであると考えられている。
【0005】
そこで、チャネル層から下方の層へ電流がリークすることに起因するHFET特性の劣化を防止するために、特開2004−311913号公報の特許文献1におけるように、窒化物半導体積層体に含まれるチャネル層より下方の半導体層の高抵抗化を図る研究開発が進められている。より具体的には、特許文献1は、GaN単結晶基板上においてMgドープされた高抵抗の第1GaN層とアンドープで高抵抗の第2GaN層とを順次積層し、その上にチャネル層を積層することを開示している。そして、特許文献1は、このような窒化物半導体積層体を利用してHFETを形成することによって、チャネル層から下方の基板側に深く流れる電流リークを抑制することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−311913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、窒化物半導体HFETにおいて、チャネル層下の窒化物半導体層に対してMgをドープしかつそれを活性化して正孔濃度の高いp型を得ることが容易ではないという問題がある。さらに、チャネル層下の窒化物半導体層において転位密度の低減などによって結晶性がさらに向上した場合に、その窒化物半導体層のp型化または高抵抗化がより困難になり得るという問題もある。以上のような従来技術の状況に鑑みれば、チャネル層下の窒化物半導体層における不純物ドーピングによる高抵抗化またはp型化を可能な限り回避することが望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、半導体積層体に含まれるチャネル層下の化合物半導体層を不純物ドーピングでp型化することなく、その半導体積層体を含むHFETのリーク電流の低減や耐電圧の向上などを可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による半導体積層体は、基板上において順次堆積された第1、第2および第3の化合物半導体層を少なくとも含み、その第1化合物半導体層の少なくとも部分的層は非晶質に改質されており、第2化合物半導体層は第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得ることを特徴としている。
【0010】
本発明によるHFETは、基板上において順次堆積された第1、第2および第3の化合物半導体層を少なくとも含み、その第1化合物半導体層の少なくとも部分的層は非晶質に改質されており、第2化合物半導体層は第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し、第3化合物半導体層がチャネル層として作用し、チャネル層上にバリア層をさらに含み、このバリア層はチャネル層に比べて大きなバンドギャップを有し、バリヤ層上に形成されたソース電極、ドレイン電極、およびゲート電極をさらに含むことを特徴としている。
【0011】
本発明による半導体積層体の製造方法では、基板上において少なくとも第1化合物半導体層、この第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得る第2化合物半導体層、および第3化合物半導体層を順次堆積し、この第3化合物半導体層の上方からイオンを打ち込むことによって、少なくとも第1化合物半導体層の部分的層を含む領域を非晶質に改質し、そして、イオン打ち込みによって非晶質に改質された領域のうちで記第1化合物半導体層またはその部分的層以外の領域が、第2化合物半導体層に光吸収させるレーザアニールによって再結晶化されることを特徴としている。
【0012】
本発明によるHFETの製造方法では、基板上において少なくとも第1化合物半導体層、この第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得る第2化合物半導体層、チャネル層、およびバリヤ層をこの順に堆積し、このバリヤ層の上方からイオンを打ち込むことによって少なくとも第1化合物半導体層の部分的層を含む領域を非晶質に改質し、イオン打ち込みによって非晶質に改質された領域のうちで第1化合物半導体層またはその部分的層以外の領域が、第2化合物半導体層に光吸収させるレーザアニールによって再結晶化され、さらにバリヤ層上にソース電極、ドレイン電極、およびゲート電極を形成することを特徴としている。
【0013】
なお、上述の第1化合物半導体層、第2化合物半導体層、チャネル層であり得る第3化合物半導体層、およびバリヤ層のいずれもが窒化物半導体で好ましく形成され得る。より具体的には、好ましくは第1化合物半導体層がGaNで形成され、第2化合物半導体層がInを含む窒化物半導体で形成され得る。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明によれば、半導体積層体に含まれる基板に近い第1化合物半導体層の少なくとも部分的層が電子に対して高い抵抗を有する非晶質に改質されているので、その半導体積層体を含むHFETにおいてチャネル層から基板側へリーク電流が流れることを抑制し得る。また、第1化合物半導体層中の高抵抗の非晶質領域は、イオン注入とレーザアニールを利用して簡便に設けることができ、Mgなどのp型不純物のドーピングとその困難な活性化処理を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による半導体積層体の模式的な断面図である。
【図2】本発明のもう1つの実施形態によるHFETの模式的断面図である。
【図3】図2のHFETの製造過程を示す模式的断面図である。
【図4】図3に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図5】図4に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図6】図5に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態によるHFETの模式的断面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態によるHFETの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるHFETに含まれ得る半導体積層体は、上述のように基板上において順次堆積された第1、第2および第3の化合物半導体層を少なくとも含み、その第1化合物半導体層の少なくとも部分的層は非晶質に改質されており、第2化合物半導体層は第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得ることを特徴としている。
【0017】
ここで、第2化合物半導体層である光吸収層は、所定波長のレーザ光を用いてレーザアニールする場合に、当該レーザ光を吸収して発熱するように利用される。このとき、他の化合物半導体層は、ほとんどレーザ光を吸収せず、実質的に発熱を生じることはない。
【0018】
化合物半導体層の材料としては例えば窒化物半導体、SiC、ZnOなどの化合物半導体を用いることができ、光吸収層の材料としてはこれらの化合物半導体中で狭いバンドギャップを有するものが選択され得る。
【0019】
基板材料は導電性であっても半絶縁性であってもよく、例えばp型またはアンドープのSi;GaAs、InAs、GaNなどのIII−V族化合物;またはZnSeなどのII−VI族化合物などを用いることができる。
【0020】
なお、化合物半導体層として窒化物物半導体層を用いる場合、窒化物半導体層のエピタキシャル成長では結晶欠陥(転位)が層厚方向に伸びてその方向に電流リークが生じやすく、したがって本発明による半導体積層体中の非晶質層が深さ方向への電流リークの抑制にとって特に効果的である。また、第1化合物半導体層をGaNで形成して、第2化合物半導体層の光吸収層をIn含有窒化物半導体で形成した場合、In含有窒化物半導体はGaNに比べて小さなバンドギャップを有していて光吸収層の吸収効率を高めることができる。
【0021】
本発明によるHFETは、基体上に順次堆積された第1化合物半導体層、光吸収層である第2化合物半導体、チャネル層としての第3化合物半導体、およびバリヤ層を含み、チャネル層とバリヤ層との界面に生じる2次元電子ガスをソース電極、ドレイン電極およびゲート電極で制御することによりトランジスタとして機能することができ、第1化合物半導体層中に非晶質領域を有することを特徴としている。そして、この非晶質領域が基板側への電流リークを抑制し得るので、HFETの特性を向上させることができる。
【0022】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による半導体積層体の一例を模式的断面図で示している。なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0023】
図1の半導体積層体は、(111)面の主面を有する高不純物濃度のp型Si基板11上に順次堆積されたGaN/AlN超格子バッファ層12、第1化合物半導体層13としてのアンドープGaN層、第2化合物半導体層14としてのInN光吸収層、第3化合物半導体層15としてのアンドープGaN層を含み、第1化合物半導体層13中には非晶質に改変された部分的層16が形成されている。
【0024】
HFETなどのデバイスはこのような半導体積層体の上部に形成されるので、デバイス機能に関する電流がSi基体11側へリークすることが非晶質領域16によって抑制され得る。この結果、リーク電流によるデバイス特性への悪影響を小さくすることができる。
【0025】
なお、本実施形態では基板としてp型Si基板11が用いられたが、アンドープSi基板、n型Si基板、SiC基板、GaNなどのIII−V族化合物基板などが用いられてもよい。また、バッファ層12は基板11とアンドープGaN層13との格子不整合を緩和してGaN層13やGaN層15の結晶性を改善するための層であり、この目的のためにはAlN、GaN、Si、SiCなどの非晶質状物質や単結晶状物質などもバッファ層として用いることができる。さらに、本実施形態では第1化合物半導体層13と第3化合物半導体層15が同一組成のGaNで形成されているが、第1化合物半導体層13としてのGaN層の代わりにAlGaN層などの異なる組成としてもよい。
【0026】
上述のような半導体積層体の製造方法の一例においては、まず(111)面の主面を有する高不純物濃度のp型Si基板11上に、MOCVD(有機金属気相堆積)装置を用いて、トリメチルアルミニウム(TMA)とアンモニアによるAlN薄層およびトリメチルガリウム(TMG)とアンモニアによるGaN薄層を交互に積層させて、AlN/GaN超格子バッファ層12を合計厚さ3μmに堆積する。バッファ層12上には、TMGとアンモニアを用いて、第1化合物半導体層13としてのGaN層を厚さ1.5μmに堆積する。第1化合物半導体層13上には、トリメチルインジウム(TMI)とアンモニアを用いて、第2化合物半導体層14としてのInN光吸収層を厚さ50nmに堆積する。さらに、光吸収層14上には、第3化合物半導体層15としてのGaN層を厚さ500nmに堆積する。
【0027】
その後、第3化合物半導体層15上に保護膜として例えばSiN層(図示せず)を堆積した後、例えば1×1010/cm〜1×1016/cmの範囲内でNイオンの注入を行って、少なくとも第1化合物半導体層13の少なくとも部分的層を非晶質化させる。ここで、SiN保護膜は、イオン注入時の表面荒れを防止するために設けられる。
【0028】
このイオン注入においては、少なくとも光吸収層14より下層側の領域を非晶質化させるようにイオン注入条件を選択する。この場合に、注入イオンの濃度分布は一般に注入深さに依存してほぼガウス分布にしたがう。そして、イオン注入エネルギを高めるにしたがって、注入イオン濃度のピーク位置を深く設定することができる。本発明においては、第1化合物半導体13の深さを考慮して、例えば1MeVから3MeVの範囲内で適宜にイオン注入エネルギを選択することができる。
【0029】
イオン注入が完了すれば、SiN保護膜をフッ酸で除去した後にレーザアニール装置を用いて、InN光吸収層14が吸収し得る波長のレーザ光にて再結晶化アニールが行なわれる。この再結晶化アニールでは、光吸収層14以外の層では吸収しない波長のレーザ光を選択して、光吸収層14でのみ光吸収を行なわせて発熱させる。このような光吸収層14からの発熱によって、光吸収層14の上下の層において再結晶化アニールを行なう。
【0030】
このとき、第1化合物半導体層13中の少なくとも部分的層16が非晶質領域として残るようにアニールが行なわれる。例えば、光吸収層14の光吸収によるアニール効果が上方と下方に均等に及ぶとしても、上方の第3化合物半導体層15に比べて下方の第1化合物半導体層13の厚さを大きく設定しておけば、少なくとも第1化合物半導体層13の下部の部分的層16において非晶質領域を残すことができる。また、イオン注入エネルギを大きくすることによって上方の第3化合物半導体層15に比べて下方の第1化合物半導体層13におけるイオン濃度を高めておけば、第3化合物半導体層15が完全に再結晶化された後においても第1化合物半導体層13中に非晶質の部分的領域16を残すことができる。さらに、基板11をヒートシンクに接しておくことによって、上方の第3化合物半導体層15に比べて下方の第1化合物半導体層1のアニールが遅らされ、第3化合物半導体層15が完全に再結晶化された後においても第1化合物半導体層13中に非晶質の部分的領域16を残すことができる。
【0031】
なお、イオン注入時の保護膜がアニール時のレーザ光を吸収しなくてレーザ光が光吸収層14へ十分に届くのであれば、イオン注入時の保護膜がレーザアニール前でなくて後に除去されてもよい。また、非晶質化のために注入されるイオン種は、上述のNイオンに限られない。高エネルギイオン注入装置を用いる場合には2価以上のイオンを用いてもよく、注入イオンが導電型ドーパントとして働くことが不都合な場合には導電型ドーパントとして作用しないイオン種を用いればよい。さらに、本実施形態においては光吸収層13の材料としてInNを用いたが、InGaNを用いてもよい。
【0032】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2によるHFETの一例を模式的断面図で示している。このHFETは、(111)面の主面を有する高不純物濃度のp型Si基板21上に順次堆積された合計厚さ3μmのGaN/AlN超格子バッファ層22、第1化合物半導体層23としての厚さ2μmのGaN層、第2化合物半導体層24としての厚さ50nmのInN光吸収層、第3化合物半導体層25としての厚さ400nmのGaNチャネル層、および厚さ20nmのAl0.25Ga0.75N電子供給層26を含んでいる。
【0033】
電子供給層26上にはソース電極27、ドレイン電極28およびゲート電極29が形成されており、これらの電極間において電子供給層26の表面を保護する表面保護膜30が設けられている。
【0034】
本実施形態によるHFETにおいては、GaNチャネル層25とAl0.25Ga0.75N電子供給層26とのヘテロ接合面に生じる2次元電子ガスに対して印加されるソース・ドレイン間電圧によって流れる電流が、ゲート電極29に印加される電圧によって制御される。この場合に、第1化合物半導体層23のGaN層中に非晶質領域31を設けることによって、リーク電流が基板21側へ流れることを抑制することができる。
【0035】
図3から図6は、図2のHFETの製造過程を模式的断面図で示している。まず図3において、(111)面の主面を有する高不純物濃度のp型Si基板21上に、GaN/AlN超格子バッファ層22、第1化合物半導体層23としてのアンドープGaN層、第2化合物半導体層24としてのInN光吸収層、および第3化合物半導体層25としてのアンドープGaN層を堆積し、さらにその上に電子供給層26となり得るAlGaN層を堆積する。
【0036】
その後、AlGaN電子供給層26上の表面保護膜としてSiN膜(図示せず)を形成した後、1×1010/cm〜1×1016/cmの範囲内でNイオンの注入を行って、少なくとも第1化合物半導体層23の領域を非晶質化させる。イオン注入が完了すればSiN保護膜をフッ酸で除去し、レーザアニール装置を用いて、InN光吸収層24が吸収する波長のレーザ光にて再結晶化アニールを行なう。このとき、第1化合物半導体層23内の少なくとも部分的層31が非晶質領域として残るようにアニールを行なう。
【0037】
図4においては、AlGaN電子供給層26上に、ソース電極27およびドレイン電極28となるオーミック性電極を形成する。より具体的には、AlGaN層27上において、例えばTi/Al/Auの積層を真空蒸着またはスパッタリングなどで形成し、リフトオフまたはエッチングの手法で電極27および28を形成する。その後に800℃で1minのアニールを施すことによって、優れたオーミック性特性を有するソース電極27とドレイン電極28が形成され得る。このとき、Ti/Al/Auの厚さは、例えばそれぞれ30nm/100nm/200nmに設定することができる。
【0038】
図5では、ソース電極27およびドレイン電流28以外の領域でAlGaN電子供給層26の表面上に、例えば屈折率2.0を有するSiN表面保護膜30がプラズマCVDを用いて例えば300nmの厚さに形成される。
【0039】
図6においては、ゲート電極を形成すべき領域において、SiN表面保護膜30をウェットエッチングにより除去する。その後、表面保護膜30が除去された領域を少なくとも覆うようにWN層およびAu層をそれぞれ50nmの厚さに蒸着し、リフトオフ法またはエッチングによりゲート電極29を形成し、これによって図2に示されているようなHFETが完成する。なお、図2に示されているように、ゲート電極29は表面保護膜30上に部分的に重なるように形成することができ、この重なり部分はゲート電極近傍の電界集中を緩和させるフィールドプレートとして作用し得る。
【0040】
以上の製法により得られたHFETにおいては、第1化合物半導体層23層内の部分的層31である非晶質領域が基板21側へのリーク電流を妨げるので、リーク電流によるエネルギ損失を低減させることができる。
【0041】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3によるHFETの一例を示す模式的断面図である。このHFETは、AlN単結晶基板41上に順次積層された厚さ20nmのGaNバッファ層42、第1化合物半導体層43としての厚さ3μmのGaN層、第2化合物半導体層44としての厚さ50nmのInGaN光吸収層、第3化合物半導体層45としての厚さ0.5μmのGaNチャネル層45、および厚さ10nmのAl0.2Ga0.8N電子供給層46を含んでいる。
【0042】
電子供給層46上にはソース電極47、ドレイン電極48および本実施形態に特徴的なゲート絶縁膜52が形成されており、ゲート絶縁膜52上にはゲート電極49が形成されている。そして、これらの電極間において、電子供給層46の表面は、表面保護膜50によって覆われている。なお、ゲート絶縁膜52としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、またはその他公知の絶縁膜などを用いることができる。
【0043】
本実施形態においては、例えば、バッファ層42と第1化合物半導体層43のGaN層との界面から上方1μmの位置からさらに上方800nmまでの部分的層51に非晶質領域を形成することができる。
【0044】
図7のHFETは、基本的には図2のHFETの場合に類似した方法によって製造することができる。しかし、図7のHFETの製造方法において適用し得る相違点を述べれば、イオン注入時の保護膜として厚さ25nmのSiN保護膜を利用し、例えば3MeVのエネルギにて1×1010/cm〜1×1016/cmの範囲内でMgイオンを注入することによって、少なくとも第1化合物半導体層43内に非晶質領域を形成することができる。そして、イオン注入時の保護膜をフッ酸で除去した後に、レーザアニール装置を用いて、光吸収層44が吸収する波長のレーザ光にて再結晶化アニールを行なう。このとき、第1化合物半導体層43内の部分的層51が非晶質領域として残るようにアニールされる。
【0045】
非晶質領域51の形成が完了すれば、実施形態2の場合と同様にソース電極47およびドレイン電極48を形成した後に、スパッタによって堆積した厚さ20nmのSiO膜からなるゲート絶縁膜52を形成し、その上にNi層とAu層をそれぞれ厚さ50nmに蒸着し、リフトオフ法またはエッチングによってゲート電極49が形成される。
【0046】
以上から明らかなように、本実施形態3によるHFETは、ゲート電極49下にゲート絶縁膜52を有しており、いわゆる絶縁ゲート型のHFETである。このような絶縁ゲート型のHFETにおいても、非晶質領域52の存在によって、その下層へリーク電流が流れることを抑制でき、これによってHFETのエネルギ損失を低減させることができる。
【0047】
(実施形態4)
図8は、本発明の実施形態4によるHFETの一例を模式的断面図で示している。本実施形態のHFETは、ZnO系材料を利用して形成されたMOS・HFET(金属・酸化物・半導体HFET)の例である。このHFETは、Si基板61上に順次積層された低温ZnOバッファ層62、第1化合物半導体層63としてのMgZnO層63、第2化合物半導体層64としてのInN光吸収層、第3化合物半導体層65としてのZnOチャネル層、およびp型MgZnO電子供給層66を含んでいる。
【0048】
本実施形態のHFETでは、ZnOチャネル層65とp型MgZnO電子供給層66との界面がヘテロ接合面となるように形成されているので、この界面で二次元電子ガスが発生することによってHFETの動作が可能となる。
【0049】
p型MgZnO電子供給層66上には、InZn/Ti/Alからなるソース電極67とドレイン電極68が設けられている。また、ゲート絶縁膜71として酸化シリコン膜が形成され、その上にTi/Auからなるゲート電極69が形成されている。
【0050】
本実施形態においては、第1化合物半導体63としてのMgZnO層中において、例えば低温ZnOバッファ層62との界面から上方800nmまでの部分的層70を非晶質領域とすることができる。このような非晶質領域70の形成においては、電極を形成する前に、イオン注入時の保護膜としてSiO膜(図示せず)を堆積した後に、例えば1×1010/cm〜1×1016/cm範囲内でのNイオンの注入によって非晶質化させる。そして、SiO保護膜をフッ酸で除去した後に、レーザアニール装置を用いて、InN光吸収層64が吸収する波長のレーザ光にて再結晶化アニールが行なわれる。このとき、第1化合物半導体層63であるMgZnO層中の少なくとも部分的層70が非晶質領域として残るようにアニールされる。
【0051】
以上のように、窒化物半導体以外にZnO系半導体をも利用した場合においても、非晶質領域70を形成することにより、それより下層へ電流がリークすることを抑制でき、これによってHFETのエネルギ損失を軽減することができる。
【0052】
なお、本発明による上述の実施形態1〜4ではHFETとしてMES(金属・半導体)型、MIS(金属・絶縁膜・半導体)型、MOS(金属・酸化物・半導体)型などのHFETについて説明したが、これらのMES型、MIS型、MOS型などに限定されず、またゲート電極としても多層絶縁膜、酸化膜と窒化膜の積層膜、高誘電体を用いた膜、またはそれらの積層膜などを利用することも可能である。
【0053】
さらに、本発明による上述の実施形態1〜4ではGaN系半導体およびZnO系半導体を利用して形成されたHFETが説明されたが、本発明は他の化合物半導体を利用して形成されたHFETに対しても適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明によれば、半導体積層体に含まれる基板に近い第1化合物半導体層の少なくとも部分的層が電子に対して高い抵抗を有する非晶質に改質されているので、その半導体積層体を含むHFETにおいてチャネル層から基板側へリーク電流が流れることを抑制し得る。また、第1化合物半導体層中の高抵抗の非晶質領域は、イオン注入とレーザアニールを利用して簡便に設けることができ、Mgなどのp型不純物のドーピングとその困難な活性化処理を必要としない。
【符号の説明】
【0055】
11、21、41、61 基板、12、22、42、62 バッファ層、13、23、43、63 第1化合物半導体層、14、24、44、64 第2化合物半導体層としての光吸収層、15、25、45、65 第3化合物半導体層、16、31、51、70 非晶質領域、26、46、66 電子供給層、27、47、67 ソース電極、28、48、68 ドレイン電極、29、49、69 ゲート電極、30、50、53 表面保護膜、52、71 ゲート絶縁膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上において順次堆積された第1、第2および第3の化合物半導体層を少なくとも含む半導体積層体であって、
前記第1化合物半導体層の少なくとも部分的層は非晶質に改質されており、
前記第2化合物半導体層は前記第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得ることを特徴とする半導体積層体。
【請求項2】
前記第1から第3の化合物半導体層のいずれもが窒化物半導体で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体積層体。
【請求項3】
前記第1化合物半導体層がGaNからなり、前記第2化合物半導体層がInを含む窒化物半導体からなることを特徴とする請求項2に記載の半導体積層体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの半導体積層体を含むHFETであって、
前記第3化合物半導体層がチャネル層として作用し、
前記チャネル層上にバリア層をさらに含み、
前記バリア層は前記チャネル層に比べて大きなバンドギャップを有し、
前記バリヤ層上に形成されたソース電極、ドレイン電極、およびゲート電極をさらに含むことを特徴とするHFET。
【請求項5】
基板上において少なくとも第1化合物半導体層、この第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得る第2化合物半導体層、および第3化合物半導体層を順次堆積し、
前記第3化合物半導体層の上方からイオンを打ち込むことによって、少なくとも前記第1化合物半導体層の部分的層を含む領域を非晶質に改質し、そして
前記イオン打ち込みによって非晶質に改質された領域のうちで前記第1化合物半導体層またはその部分的層以外の領域が、前記第2化合物半導体層に光吸収させるレーザアニールによって再結晶化されることを特徴とする半導体積層体の製造方法。
【請求項6】
前記第1から第3の化合物半導体層のいずれもが窒化物半導体で形成されることを特徴とする請求項5に記載の半導体積層体の製造方法。
【請求項7】
前記第1化合物半導体層がGaNで形成され、前記第2化合物半導体層がInを含む窒化物半導体で形成されることを特徴とする請求項6に記載の半導体積層体の製造方法。
【請求項8】
HFETの製造方法であって、
基板上において少なくとも第1化合物半導体層、この第1化合物半導体層に比べて小さなバンドギャップを有して光吸収層として作用し得る第2化合物半導体層、チャネル層、およびバリヤ層をこの順に堆積し、
前記バリヤ層の上方からイオンを打ち込むことによって、少なくとも前記第1化合物半導体層の部分的層を含む領域を非晶質に改質し、
前記イオン打ち込みによって非晶質に改質された領域のうちで前記第1化合物半導体層またはその部分的層以外の領域が、前記第2化合物半導体層に光吸収させるレーザアニールによって再結晶化され、そして
前記バリヤ層上にソース電極、ドレイン電極、およびゲート電極を形成することを特徴とするHFETの製造方法。
【請求項9】
前記第1化合物半導体層、前記第2化合物半導体層、前記チャネル層、および前記バリヤ層のいずれもが窒化物半導体で形成されることを特徴とする請求項8に記載のHFETの製造方法。
【請求項10】
前記第1化合物半導体層がGaNで形成され、前記第2化合物半導体層がInを含む窒化物半導体で形成されることを特徴とする請求項9に記載のHFETの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−64758(P2012−64758A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207866(P2010−207866)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】