説明

窒化物系化合物半導体素子の製造方法および窒化物系化合物半導体素子

【課題】リーク電流が低減された、耐圧性が高い窒化物系化合物半導体素子の製造方法および窒化物系化合物半導体素子を提供すること。
【解決手段】基板上に少なくともガリウム原子を含むIII族原子と窒素原子とからなる窒化物系化合物半導体層をエピタキシャル成長する成長工程と、素子構造形成前に、前記窒化物系化合物半導体層にレーザ光または電離放射線を照射し、前記窒化物系化合物半導体層中のIII族空孔と水素原子との複合体を分解する分解工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系化合物半導体素子の製造方法および窒化物系化合物半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物系化合物半導体、たとえば窒化ガリウム(GaN)系半導体は、シリコン系材料に比べてバンドギャップエネルギーが大きく絶縁破壊電圧が大きいため、これを用いて高温環境下においても動作する高耐圧の半導体素子を作製することが可能である。このため、GaN系半導体はシリコン系材料に代わるインバーターやコンバーター等のパワーデバイスの材料として期待されている。
【0003】
パワーデバイスにとって、高いオフ耐圧は、トランジスタの最大出力を決める重要なパラメータである。高いオフ耐圧を得るためには、高いバッファ耐圧の実現、すなわち漏れ電流(リーク電流)の低減が必要になる。
【0004】
GaN系半導体は、通常はGaN系半導体とは異なる材料から成る基板上にヘテロエピタキシャル成長するため、窒素空孔、ガリウム空孔(VGa)などの点欠陥や転位をはじめとする格子欠陥を多数含むという課題がある。特に、シリコン基板等の異種材料基板を成長基板に用いた場合、GaNとの格子定数差(シリコンの場合、およそ17%)、熱膨張係数差(シリコンの場合、およそ56%)が大きいため、1010cm−2を超える高密度の転位が導入される場合がある。このように高密度の転位が導入されたGaN系半導体素子はリーク電流が大きくなり、耐圧性が低くなる。
【0005】
高耐圧化のためには、基板直上に形成するバッファ層を高抵抗化する方法がある。バッファ層の高抵抗化には、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いる場合に、原料である有機金属に含まれる炭素を添加剤とするオートドーピング法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−251144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示させるような、炭素をドーピングし、バッファ層の高抵抗化を行った素子よりも、さらにリーク電流が低減された、耐圧性が高い窒化物系化合物半導体素子が要求されている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、リーク電流が低減された、耐圧性が高い窒化物系化合物半導体素子の製造方法および窒化物系化合物半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、基板上に少なくともガリウム原子を含むIII族原子と窒素原子とからなる窒化物系化合物半導体層をエピタキシャル成長する成長工程と、素子構造形成前に、前記窒化物系化合物半導体層にレーザ光または電離放射線を照射し、前記窒化物系化合物半導体層中のIII族空孔と水素原子との複合体を分解する分解工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記レーザ光は波長が380nm以下のレーザ光であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記レーザ光はパルス幅が100マイクロ秒以下のパルスレーザ光であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記窒化物系化合物半導体層の最表面における光強度がCW換算で1W/cm以上、1000W/cm以下となるようにパルスレーザ光を照射することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記電離放射線はシンクロトロン放射光であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記電離放射線は中性子線であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記中性子線は1eV以下のエネルギーを有する熱外中性子線または熱中性子線であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法は、上記発明において、前記基板はシリコン、サファイア、炭化珪素または酸化亜鉛からなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、上記発明の製造方法によって製造した窒化物系化合物半導体素子であって、前記窒化物系化合物半導体層中のIII族空孔濃度が5×1016〜1×1018cm−3であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、III族空孔と水素との複合体に起因するリーク電流の発生を低減できるので、リーク電流が小さく、耐圧性が高い窒化物系化合物半導体素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、VGa−Hを含む系(破線)とVGaのみを含む系(実線)との電子の状態密度の計算結果を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係るHFETの模式的な断面図である。
【図3】図3は、レーザ光の照射方法を説明する模式図である。
【図4】図4は、実施例1のHFETの製造工程における、レーザ光の照射前後でのエピタキシャル基板のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す図である。
【図5】図5は、実施例1、比較例1のHFETのリーク特性を示す図である。
【図6】図6は、ソース・ドレイン間電圧が500Vのときの実施例1、実施例1−1〜1−4、比較例1のHFETのレーザ光照射時間とリーク電流との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施例1、比較例1のHFETのソース・ドレイン間の抵抗値(相対値)の経時変化を示す図である。
【図8】図8は、実施の形態2に係るSBDの模式的な断面図である。
【図9】図9は、実施の形態2に係るSBDの模式的な平面図である。
【図10】図10は、エピタキシャル基板へのシンクロトロン放射光の白色光の照射方法を説明する模式図である。
【図11】図11は、エピタキシャル基板へのシンクロトロン放射光を分光した単色光の照射方法を説明する模式図である。
【図12】図12は、ソース・ドレイン間電圧が500Vのときの実施例2、3、比較例2のSBDのリーク電流を示す図である。
【図13】図13は、実施の形態3に係るHFETの模式的な断面図である。
【図14】図14は、比較例3のHFETおよびこれに熱中性子線を照射したHFETのソース・ドレイン間の抵抗値の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、本発明者らが、窒化物系化合物半導体素子に生じるリーク電流の発生のメカニズムを精査し、これによって得た知見によって、リーク電流の発生要因の1つを除去する方法に想到し、完成したものである。
【0021】
以下では、はじめに、本発明者が行なったリーク電流の発生のメカニズムの考察について説明する。次いで、これによって得た知見によって完成した本発明について、その実施の形態により説明する。
【0022】
<第一原理電子状態計算によるVGa−Hのつくる欠陥準位の予測>
本発明者らは、窒化物系化合物半導体素子を結晶成長させる際に、原料ガスとして水素を含むアンモニアを用いていることから、成長時に分解した水素が窒化物系化合物半導体結晶中の空孔欠陥と複合体を形成し、これがリーク電流に寄与するキャリアを供給しているものと考えた。
【0023】
そこで、本発明者は、GaN結晶中において、III族空孔欠陥であるGa空孔と水素との複合体(VGa−H)のつくる欠陥準位がGaN結晶の電気特性に及ぼす影響を確認するために、第一原理電子状態計算(シミュレーション)を行った。
【0024】
なお、このシミュレーションには、アドバンスソフト株式会社製のAdvance/PHASEを用いた。また、計算には、Vanderbilt型のウルトラソフト擬ポテンシャルを用いた。また、交換相互作用は、一般化勾配近似の範囲で計算した。さらに、計算条件は、以下の条件で行った。
・原子モデル:32原子(Ga原子15個、窒素原子16個、水素原子1個)からなるスーパーセル
・カットオフエネルギー:波動関数および電荷密度分布で、それぞれ25Ryおよび230Ry
・k点サンプル:3×3×4
・計算したバンド数:100
【0025】
図1は、VGa−Hを含む系(破線)とVGaのみを含む系(実線)との電子の状態密度(DOS:density of states)の計算結果を示す図である。なお、横軸は電子のエネルギーを示し、エネルギーが0の位置は、フェルミ準位を示している。また、図1では、荷電子帯近傍のDOSのみを示している。
【0026】
図1において、ピークP1に対応するVGa−Hのつくる欠陥準位、およびピークP2に対応するVGaのつくる欠陥準位は、それぞれ、荷電子帯から46meVと128meVの位置に現れた。
【0027】
このように、VGa−Hは、比較的浅いアクセプタ準位を形成することが分かる。
このため、VGa−Hを含むGaN結晶に可視光を照射することで、荷電子帯の電子がこのアクセプタ準位に励起されて荷電子帯にホールが形成されるので、伝導性が実際の値よりも高く検出されることが予測される(光応答)。また、比較的浅い準位のため、室温においても熱的に電子が励起されてキャリアが供給されるので、これがリーク電流の原因となると考えられる。
【0028】
一方、孤立したVGaは、深い準位を形成することから、可視光による光応答は起こさない。また、VGaの形成する深い準位は、ドナー型のキャリアを補償できるため、リーク電流の低減効果が期待できる。
【0029】
さらに、VGa−Hの結合エネルギーを同様に第一原理電子状態計算により計算したところ、約3eVとなった。この結合エネルギーは、可視から紫外の波長を持つレーザ光や、シンクロトロン放射光や熱中性子線といった電離放射線を照射することで、分解することが可能である。
【0030】
以上の結果より、本発明者らは、結晶成長した窒化物系化合物半導体に含まれるVGa−Hにレーザ光または電離放射線を照射して分解し、孤立したVGaとすることによって、その後形成される素子のリーク電流を低減できることに想到したのである。
【0031】
<実施の形態>
以下に、図面を参照して本発明に係る窒化物系化合物半導体素子の製造方法および窒化物系化合物半導体素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各層の厚さや厚さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0032】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係る窒化物系化合物半導体素子である異種接合電界効果トランジスタ(Heterojunction field effect transistor:HFET)の模式的な断面図である。図2に示すように、このHFET10は、窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板である主表面が(111)面のシリコン基板11と、シリコン基板11上に順次形成された、GaNからなる低温バッファ層12、炭素(C)をドープしたGaNからなるバッファ層13、バッファ層よりもC濃度が低いGaNからなる電子走行層14、およびAlGaNからなる電子供給層15と、電子供給層15上に形成されたゲート電極16、ソース電極17、ドレイン電極18とを備えている。すなわち、このHFET10は、AlGaN/GaNのヘテロ接合を有するAlGaN/GaN−HFETである。
【0033】
このHFET10は、バッファ層13にCをドープすることによって、リーク電流を低減してバッファ層13を高抵抗化しており、リーク電流を低減して耐圧を高めている。また、電子走行層14はC濃度を十分に低く設定することによって、高い電子移動度を維持している。
【0034】
さらに、このHFET10は、窒化物系化合物半導体層を結晶成長した後にレーザ光を照射して結晶中のVGa−Hを分解し、孤立したVGaにしたものなので、さらにリーク電流が低減されたものとなる。
【0035】
(製造方法)
本実施の形態1に係るHFET10の製造方法の一例について図1を参照して説明する。なお、原材料の流量、各層の厚さ、または成長温度等は例示であり、特に限定はされない。
【0036】
はじめに、厚さが500μmのシリコン基板11を設置した有機金属気相成長(MOCVD)装置内に、トリメチルガリウム(TMGa)とアンモニア(NH)とを、それぞれ14μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度550℃で、シリコン基板11上に層厚30nmのGaNからなる低温バッファ層12をエピタキシャル成長させる。
【0037】
つぎに、TMGaとNHとを、それぞれ58μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃にて、低温バッファ層12上に層厚600nmのGaNからなるバッファ層13をエピタキシャル成長させる。なお、このときの成長圧力を調整することによって、バッファ層13にドープされる炭素濃度を1×1018cm−3以上とすることができ、高抵抗化してリーク電流を低減することができる。
【0038】
つぎに、TMGaとNHとを、それぞれ19μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃にて、バッファ層13上に層厚100nmのGaNからなる電子走行層14をエピタキシャル成長させる。このときの成長圧力を調整することによって、電子走行層14にドープされる炭素濃度を低下させ(例えば1×1017cm−3以下)、高い電子移動度を維持することができる。
【0039】
続いて、バッファ層13および電子走行層14の成長後に、トリメチルアルミニウム(TMAl)とTMGaとNHとを、それぞれ100μmol/min、19μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃にて、電子走行層14上に層厚30nmのAlGaNからなる電子供給層15をエピタキシャル成長させる。
【0040】
つぎに、上記のようにシリコン基板11上に各半導体層をエピタキシャル成長したエピタキシャル基板に対して、YAGレーザの第4高調波(波長266nm、以下、YAGの第4高調波とする)のパルスレーザ光を照射する。このレーザ光のパルス幅は1nmであり、光強度はCW(Continuous wave:連続発振)換算で約3W/cmである。パルス光の繰り返し周波数は5kHzである。ただし、パルス幅、光強度、繰り返し周波数はこれらの値に限られない。
【0041】
また、レーザ光のビーム径は通常エピタキシャル基板の面積に対して小さいので、エピタキシャル基板全面に照射するためには、レーザ光を走査する必要がある。図3は、レーザ光の照射方法を説明する模式図である。ここでは、図3に示すように、エピタキシャル基板をX−Yステージに載せ、電子供給層15の表面にビームスポットB1のレーザ光L1を照射しながら、X−Yステージを移動させてビームスポットB1を走査させる。
【0042】
このレーザ光照射によって、結晶中のVGa−Hから水素原子が分離され、孤立したVGaとなる。なお、YAGの第4高調波のGaN結晶への浸入長(強度が1/10になる距離)は、約100nmであり、レーザ照射の効果は電子走行層14においても十分得られる。
【0043】
なお、リーク電流低減の効果は、バッファ層13にもレーザ光を照射した方が大きい。そこで、YAGの第4高調波照射後(または、照射前もしくは同時に)、YAGの第3高調波(波長355nm)のパルスレーザ光を照射してもよい。この波長ではGaN結晶への浸入長が長くなるため、レーザ光はシリコン基板11まで到達する。YAGの第3高調波を照射する場合、レーザ光のパルス幅は1nmであり、光強度はCW換算で約30W/cmである。パルス光の繰り返し周波数は10kHzである。ただし、パルス幅、光強度、繰り返し周波数はこれらの値に限られない。照射方法はYAGの第4高調波のパルスレーザ光の照射方法と同様である。
【0044】
つぎに、素子構造を形成するために、電子供給層15上に、チタン(Ti)およびAlをこの順に蒸着して、オーミック電極であるソース電極17およびドレイン電極18を形成する。つぎに、ソース電極17とドレイン電極18との間にニッケル(Ni)および金(Au)をこの順に蒸着して、ショットキー電極であるゲート電極16を形成する。なお、ソース電極17およびドレイン電極18の蒸着後、700℃で30分の熱処理を行うことで、良好なオーミック特性が得られる。また、この熱処理において、レーザ光照射によりVGaから切り離された水素原子は拡散して、エピタキシャル基板の外に追い出される。
以上の製造方法によって、本実施の形態1に係るHFET10を製造することができる。
【0045】
このように製造された本実施の形態1に係るHFET10は、結晶中のVGa−Hが分解され、孤立したVGaにされたものなので、リーク電流が低減されたものとなる。
【0046】
(実施例1、比較例1)
本発明の実施例1として、上述した製造方法にて、YAGの第4高調波のパルスレーザ光に続いてYAGの第3高調波のパルスレーザ光を照射して、実施の形態1に係るHFET10の構造を有するHFETを製造した。なお、AlGaNからなる電子供給層のAl組成は、X線回折法による評価によれば0.23であった。また、HFETのサイズについては、ゲート長を2μm、ゲート幅を0.2mm、ソース・ドレイン間距離を15μmとした。
【0047】
また、比較例1として、レーザ光を照射しない以外は、実施例1のHFETと同様の構造のHEFTを製造した。
【0048】
なお、使用したYAGの第3高調波および第4高調波のパルスレーザ光のビーム径は0.3mmであったため、エピタキシャル基板をX−Yステージに載せ、1秒毎に0.3mmずつステージを移動し、ビームスポットを走査させた。すなわち、エピタキシャル基板上の全ての領域にレーザ光が1秒間照射されている。
【0049】
また、実施例1のHFETの製造工程において、レーザ光の照射前後でのエピタキシャル基板のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを測定した。この測定は紫外光源による弱励起条件で行った。
【0050】
図4は、実施例1のHFETにおける、レーザ光の照射前後でのエピタキシャル基板のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す図である。スペクトルS1が比較例1、スペクトルS2が実施例1のPLスペクトルである。図4に示すとおり、実施例1のスペクトルS2は、比較例1のスペクトルS1に対して、2.2eV近傍のブロードな発光(いわゆる黄色発光)の強度が減少していることが分かる。この結果は、レーザ光照射により、VGa−Hが分解され、半導体層中の残留キャリアが減少したことを意味している。
【0051】
つぎに、実施例1のHFETの特性を測定したところ、2次元電子ガスの移動度は1100cm/Vs、シートキャリア濃度は8×1012cm−2であった。また、比較例1のHFETの移動度およびシートキャリア濃度も実施例1のHFETと同程度であり、レーザ光照射の有無に依存しなかった。
【0052】
つぎに、実施例1、比較例1のHFETのリーク特性を測定した。ここでは、ソース・ゲート間に−10Vの電圧を印加し、ソース・ドレイン間に0Vから650Vの電圧を徐々に印加したときのリーク電流を測定した。
【0053】
図5は、実施例1、比較例1のHFETのリーク特性を示す図である。データ点群D1が比較例1のデータ、データ点群D2が実施例1のデータである。なお、横軸はソース・ドレイン間電圧を示している。また、縦軸のリーク電流の値において、「E」は10のべき乗を表す記号であり、たとえば「2.0E−04」は「2.0×10−4」を意味する。
【0054】
図5に示すように、比較例1ではソース・ドレイン間電圧が400V付近からリーク電流が増加しているのに対して、実施例1ではソース・ドレイン間電圧が500V程度までリーク電流の増加が抑制されていた。この結果は、実施例1のHFETでは、レーザ光を照射することによってVGa−Hが分解されたため、GaN中の残留キャリアが減少し、リーク電流が低減されていることを示している。
【0055】
つぎに、本発明の実施例1−1〜1−4として、実施例1と同様の構造を有するHFETを製造した。ただし、レーザ光照射の際に、ステージを移動させる時間間隔を調整し、エピタキシャル基板の単位面積あたりのレーザ照射時間を、0.1秒(実施例1−1)、0.3秒(実施例1−2)、0.5秒(実施例1−3)、0.75秒(実施例1−4)とした。そして、製造した実施例1−1〜1−4のHFETに対しても実施例1、比較例1と同様にリーク特性の測定を行った。
【0056】
図6は、ソース・ドレイン間電圧が500Vのときの実施例1、実施例1−1〜1−4、比較例1のHFETのレーザ光照射時間とリーク電流との関係を示す図である。図6に示すように、上述したレーザ光の条件(YAG第4高調波についてはパルス幅1nm、光強度がCW換算で約3W/cm、繰り返し周波数5kHz、YAG第3高調波についてはパルス幅1nm、光強度がCW換算で約30W/cm、繰り返し周波数10kHz)では、レーザ照射時間は0.1秒以上であればリーク電流低減の効果が現れており、1秒であれば十分な効果が得られることが確認された。
【0057】
つぎに、実施例1、比較例1のHFETの光応答特性について測定した。この測定は、実施例1、比較例1のHFETに可視光(ここでは、蛍光灯の光)を照射した後、暗所に移し、ソース・ドレイン間の抵抗値の経時変化を測定するというものである。なお、抵抗値の測定は、ソース・ゲート間電圧を0Vとして、ソース・ドレイン間に0.5Vの電圧を印加して行った。
【0058】
図7は、実施例1、比較例1のHFETのソース・ドレイン間の抵抗値(相対値)の経時変化を示す図であり、横軸は暗所に移してからの経過時間、縦軸は飽和時の抵抗値を1としたときの抵抗値の相対値である。図7に示すように、実施例1では光応答による抵抗値の低下は10%程度であり、しかも数時間〜10時間程度で変化が飽和した。しかしながら、比較例1では、光応答による抵抗値の変化は30%程度もあり、飽和するのに50時間以上掛かった。
【0059】
この光応答特性は、レーザ光を照射していない比較例1のHFETでは、通電前の可視光照射により、VGa−Hが形成する浅いアクセプタ準位に荷電子帯からキャリアが供給され、ホールによる伝導が生じ、その結果抵抗値が実際の抵抗値よりも低く現れることを示している。一方、レーザ光を照射した実施例1のHFETでは、VGa−Hが分解され、残留キャリアは低下し、浅いアクセプタ準位も減少したことを示している。
【0060】
以上説明したように、本発明の実施例1のHFETは、リーク電流と光応答とが低減されたものであることが確認された。
【0061】
ところで、結晶中のVGa−Hが分解されたことの検証は、陽電子消滅法で行うこともできる。この方法では、陽電子源としてラジオアイソトープである22Na(〜2MBq)を含むNaClを用いて、陽電子寿命を測定する。検出器はBaFシンチレーション・カンウタを用いることができる。
【0062】
Gaに捕獲された陽電子寿命は約230psである。これに対して、VGa−Hは陽電子に対しては浅いトラップであるため、この場合の陽電子寿命は、欠陥を含まないGaN結晶における寿命である約160psとほとんど変らない。
【0063】
そこで、実施例1、比較例1のエピタキシャル基板に対して、陽電子の平均寿命を測定してVGa濃度を評価すると、実施例1のエピタキシャル基板(すなわち、VGa−Hが分解され、VGaが単体で存在する)においては、VGa濃度は1×1017〜1×1018cm−3の範囲にあった。一方、比較例1のエピタキシャル基板においては、VGaによる陽電子捕獲速度は一桁以上小さく、VGa濃度は5×1016cm−3より小さかった。この結果から、VGa濃度が5×1016〜1×1018cm−3の範囲であれば、VGa−Hが分解されていると考えられる。
【0064】
この結果から、レーザ光を照射した実施例1のエピタキシャル基板においては、リーク電流や光応答の原因となるVGa−Hの濃度が低いことが確認された。
【0065】
なお、上記の実施例1においては、ビーム径の小さいレーザ光を走査することで、エピタキシャル基板の全面にレーザ光を照射したが、光強度の高いレーザ光にビームエキスパンダを用いてそのビーム径を拡大して、一度に広い面積にレーザ光を照射するようにしても良い。
【0066】
また、レーザ光の照射時間を短縮するには、レーザ光の光強度が高いほど良いが、1W/cm以上が好ましい。また、パルスレーザ光を用いた場合は、CW換算で1000W/cmの光強度を超えると窒化物半導体表面が改質されたり、窒化物系化合物半導体層を破壊してしまうおそれがあるため、CW換算で1000W/cm以下の光強度とすることが好ましい。
【0067】
また、照射するレーザ光の波長は、VGa−Hの分解に必要な光エネルギーと、窒化物系化合物半導体の吸収係数とを勘案して、380nm以下であることが好ましい。したがって、使用するレーザとしては、HeAgレーザ(波長224.3nm)、NeCuレーザ(波長248.6nm)であってもよい。ただし、これらのレーザは、パルス幅が50マイクロ秒程度と広いため、ピーク強度は低い。したがって、これらのレーザを用いる場合には、レーザ光の照射時間を、パルス幅がナノ秒程度のレーザの10倍程度にする必要がある。このようにレーザ光の照射時間を考慮すると、照射するパルスレーザ光のパルス幅は100マイクロ秒以下であることが好ましい。また、CWレーザであるアルゴンイオンレーザからのレーザ光の第2高調波(波長244nm、257.2nm)も使用可能である。この場合、光強度が100kW/cm程度であることが望ましい。
【0068】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る窒化物系化合物半導体素子であるショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier diode:SBD)について説明する。本実施の形態2に係るSBDでは、結晶中のVGa−Hを分解するためにシンクロトロン放射光を用いている。
【0069】
図8は、本実施の形態2に係るSBDの模式的な断面図である。また、図9は、本実施の形態2に係るSBDの模式的な平面図である。図8、9に示すように、このSBD20は、主表面が(111)面のシリコン基板21と、シリコン基板21上に順次形成された、AlNからなる第1バッファ層22、GaN層23aとAlN層23bとを交互に8層ずつ積層して構成された第2バッファ層23、GaNからなる第3バッファ層24、n型の導電性を有するGaN(n−GaN)からなる電子走行層25と、電子走行層25上に形成された円形のショットキー電極26、およびショットキー電極26の周囲を所定の間隔で囲むように形成されたオーミック電極27とを備えている。
【0070】
このSBD20は、GaN層とAlN層とを交互に積層した第2バッファ層23を備えることにとって、エピタキシャル基板にクラックが発生することを抑制し、かつエピタキシャル基板の反り量が小さくなるように制御することができる。
【0071】
さらに、このSBD20は、窒化物系化合物半導体層を結晶成長した後にシンクロトロン放射光を照射して結晶中のVGa−Hを分解し、孤立したVGaにしたものなので、さらにリーク電流が低減されたものとなる。なお、シンクロトロン放射光とは、超高真空中を高速に近い速度で運動する電子または陽電子を磁場あるいは電場で曲げ、軌道の接線方向に放射される電磁波である。この放射光は可視・真空紫外からX線に至る白色スペクトルを持つ輝度の高い光である。シンクロトロン放射光の発生源としては、例えば、高エネルギー加速器機構放射光施設(KEK−PF)のビームラインBL−15を利用することができる。
【0072】
(製造方法)
本実施の形態2に係るSBD20の製造方法の一例について説明する。なお、原材料の流量、各層の厚さ、または成長温度等は例示であり、特に限定はされない。
【0073】
はじめに、厚さが1mmのシリコン基板21を設置したMOCVD装置内に、TMAlとNHとを、それぞれ175μmol/min、35L/minの流量で導入し、成長温度1000℃で、シリコン基板21上に層厚40nmのAlNからなる第1バッファ層22をエピタキシャル成長させる。
【0074】
つぎに、層厚が180nmのGaN層23aと層厚が20nmのAlN層23bとを一対とする層を、成長温度1050℃、成長圧力200Torrの条件で8回繰り返して成長し、第2バッファ層23を形成する。なお、AlN層23bおよびGaN層23aの成長時のTMAl、TMGaおよびNHの流量は、それぞれ、195μmol/min、58μmol/minおよび12L/minである。
【0075】
つぎに、層厚が200nmのGaNからなる第3バッファ層24を、成長温度1050℃、成長圧力50Torrの条件でエピタキシャル成長させる。なお、第3バッファ層24の成長時には、TMGaおよびNHの流量を58μmol/minおよび12L/minとする。
【0076】
つぎに、TMGaとNHとを、それぞれ19μmol/min、12L/minの流量で導入し、層厚が500nmのn−GaNからなる電子走行層25をエピタキシャル成長させる。成長温度は1050℃、成長圧力は200Torrである。なお、n型ドーパントであるシリコン(Si)をドープするために、電子走行層25の成長時にシラン(SiH)を流すとともに、n型のキャリア濃度が2×1016cm−3となるようにSiHの流量を調整する。
【0077】
つぎに、上記のようにシリコン基板21上に各半導体層をエピタキシャル成長したエピタキシャル基板に対して、室温・大気圧・空気中でシンクロトン放射光を照射する。これによって、電子走行層25から第2バッファ層23にかけての全ての領域にあるVGa−Hの結合を切断して、VGaとHを分離することができる。したがって、実施の形態1のレーザ光を用いる場合と同様に、リーク電流を著しく低減することができる。
【0078】
なお、シンクロトロン放射光は、白色光として照射してもよいし、たとえばシンクロトロン放射光を、Si(111)結晶からなるモノクロメータで分光し、これによって得られる単色光(波長;1.4〜1.6オングストローム(0.14〜0.16nm))を照射してもよい。単色光を用いる場合は、白色光と比較して強度が弱いため、長時間照射を行う必要があるが、照射しながらX線トポグラフィー観察ができるというメリットがある。一方、白色光を用いる場合、強度が強いため照射時間を短縮できる。ただし、空気中の酸素からオゾンが生成されて、窒化物系化合物半導体の表面が改質される場合があるので、照射時間をできるだけ短くすることが好ましい。
【0079】
図10は、エピタキシャル基板へのシンクロトロン放射光の白色光の照射方法を説明する模式図である。図10に示すように白色光L2の場合大きいビーム径が得られる。したがって、エピタキシャル基板28の直径が4インチ(約100mm)程度であれば、その主表面に垂直に照射することで、主表面全面への照射が可能である。なお、白色光L2照射時間はたとえば1秒とする。
【0080】
図11は、エピタキシャル基板へのシンクロトロン放射光を分光した単色光の照射方法を説明する模式図である。単色光L3は、ビーム径がたとえば1cm×6cmと小さくなるため、1ショットでエピタキシャル基板29の全面に照射するためには、エピタキシャル基板29を傾ければよい。図11では、エピタキシャル基板29の主表面と平行な結晶面S3((0001)面)が単色光L3に対して角度A1だけ傾くように設定している。角度A1はたとえば〜2°である。なお、図11の配置では、単色光L3の波長を1.6オングストロームとした場合、(1,−2,1,4)面である回折面S4からの回折線L4を、エピタキシャル基板29のほぼ真上から観察することができる。このとき、例えば、原子核乾板を用いて回折線L4を観察することによって、エピタキシャル基板29中の欠陥を検知することができる。なお、単色光L3の照射時間はたとえば60秒とする。
【0081】
つぎに、素子構造を形成するために、電子走行層25上に、直径が160μm、電極間距離10μmである同心円状パターンを有するショットキー電極26およびオーミック電極27を形成する。なお、ショットキー電極26はNi/Au構造、オーミック電極はTi/Al構造とする。また、オーミック電極の蒸着後、700℃で30分の熱処理を行うことで、良好なオーミック特性が得られる。また、この熱処理において、放射光照射によりVGaから切り離された水素原子は、拡散によってエピタキシャル基板の外に追い出される。
以上の製造方法によって、本実施の形態2に係るSBD20を製造することができる。
【0082】
(実施例2、3、比較例2)
本発明の実施例2、3として、上述した製造方法にて実施の形態2に係るSBD20の構造を有するSBDを製造した。なお、実施例2のSBDは、シンクロトロン放射光の白色光を1秒照射した。実施例3のSBDは、シンクロトロン放射光から分光した波長1.6オングストロームの単色光を、エピタキシャル基板の主表面と平行な面から2°傾けて、60秒照射した。また、比較例2として、シンクロトロン放射光を照射しない以外は、実施例2、3のSBDと同様の構造のSBDを製造した。そして、実施例2、3、比較例2のSBDについて、実施例1、比較例1と同様の方法でリーク特性を測定した。なお、測定は室温で行った。
【0083】
図12は、ソース・ドレイン間電圧が500Vのときの実施例2、3、比較例2のSBDのリーク電流を示す図である。図12に示すように、シンクロトロン放射光を照射した実施例2、3のSBDは、照射しない比較例2のSBDよりもリーク電流を1桁以上低減できることが確認された。また、素子の破壊電圧については、比較例2のSBDでは約600Vであったのに対して、実施例2、3のSBDでは約700Vに向上した。また、実施例2、3間では有意な差は見られず、白色光でも単色光でも同等の効果が得られることが確認された。
【0084】
また、実施例1、比較例1と同様の方法で光応答特性について測定したところ、実施例2、3のSBDでは光応答が低減されたものであることが確認された。これらの結果は、シンクロトロン放射光を照射することでVGa−Hが分解され、残留キャリアは低下し、浅いアクセプタ準位も消滅したことを示している。
【0085】
以上説明したように、本発明の実施例2、3のHFETは、リーク電流と光応答とが低減されたものであることが確認された。
【0086】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る窒化物系化合物半導体素子であるHFETについて説明する。本実施の形態3に係るHFETでは、結晶中のVGa−Hを分解するために熱中性子線を用いている。
【0087】
図13は、本実施の形態3に係るHFETの模式的な断面図である。図13に示すように、このHFET30は、主表面が(111)面のシリコン基板31と、シリコン基板31上に順次形成された、AlNからなる第1バッファ層32、GaN層33aとAlN層33bとを交互に12層ずつ積層して構成された第2バッファ層33、GaNからなる第3バッファ層34、GaNからなる電子走行層35、およびAlGaNからなる電子供給層36と、電子供給層36上に形成されたゲート電極37、ソース電極38、ドレイン電極39とを備えているAlGaN/GaN−HFETである。
【0088】
このHFET30は、GaN層とAlN層とを交互に積層した第2バッファ層33を備えることにとって、エピタキシャル基板にクラックが発生することを抑制し、かつエピタキシャル基板の反り量が小さくなるように制御することができる。
【0089】
さらに、このHFET30は、窒化物系化合物半導体層を結晶成長した後に熱中性子線を照射して結晶中のVGa−Hを分解し、孤立したVGaにしたものなので、さらにリーク電流が低減されたものとなる。
【0090】
ここで、中性子線は、電荷を持たないため、主として原子核とのみ相互作用する。熱中性子線のエネルギー領域においては(〜25meV)、原子核との弾性散乱のみを考慮すればよい。弾性散乱においては、中性子と質量の近い陽子(水素原子)との相互作用が最も大きい。したがって、熱中性子線を窒化物系化合物半導体層に照射することによって、VGa−Hの結合が切れ、水素原子が叩き出される。
【0091】
なお、熱中性子線のエネルギーが高くなると、Ga原子や窒素原子の原子核との非弾性散乱の断面積が増大するため、空孔型の点欠陥が形成され、素子の電気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、熱中性子線のエネルギーは1eV以下が望ましく、0.5eV以下であることがさらに望ましい。また、熱中性子線のエネルギーが0.5meV以下では、弾性散乱による水素の叩き出しの効果が低下するので、0.5meVより大きいことが望ましい。また、熱中性子線は、JRR−3(日本原子力研究開発機構の研究用原子炉)のような原子炉を用いて照射することができる。
【0092】
(製造方法)
本実施の形態3に係るHFET30の製造方法の一例について説明する。なお、原材料の流量、各層の厚さ、または成長温度等は例示であり、特に限定はされない。
【0093】
はじめに、厚さが1mmのシリコン基板31を設置したMOCVD装置内に、TMAlとNHとを、それぞれ175μmol/min、35L/minの流量で導入し、成長温度1000℃で、シリコン基板31上に層厚40nmのAlNからなる第1バッファ層32をエピタキシャル成長させる。
【0094】
つぎに、層厚が180nmのGaN層33aと層厚が20nmのAlN層33bとを一対とする層を、成長温度1050℃、成長圧力200Torrの条件で12回繰り返して成長し、第2バッファ層33を形成する。なお、AlN層33bおよびGaN層33aの成長時のTMAl、TMGaおよびNHの流量は、それぞれ、195μmol/min、58μmol/minおよび12L/minである。
【0095】
つぎに、層厚が600nmのGaNからなる第3バッファ層34を、成長温度1050℃、成長圧力50Torrの条件でエピタキシャル成長させる。なお、第3バッファ層34の成長時には、TMGaおよびNHの流量を58μmol/minおよび12L/minとする。
【0096】
つぎに、TMGaとNHとを、それぞれ19μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃、成長圧力200Torrの条件で、第3バッファ層34上に層厚100nmのGaNからなる電子走行層35をエピタキシャル成長させる。
【0097】
続いて、第3バッファ層34および電子走行層35の成長後に、TMAlとTMGaとNHとを、それぞれ100μmol/min、19μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃にて、電子走行層35上に層厚32nmのAlGaNからなる電子供給層36をエピタキシャル成長させる。
【0098】
つぎに、上記のようにシリコン基板31上に各半導体層をエピタキシャル成長したエピタキシャル基板に対して、熱中性子線を照射する。熱中性子線の照射条件としては、たとえば中性子線流束が1×1017cm−2の条件で、60分間、熱中性子線を照射すればよいが、特に限定はされない。
【0099】
つぎに、素子構造を形成するために、電子供給層36上に、TiおよびAlをこの順に蒸着して、オーミック電極としてのソース電極38およびドレイン電極39を形成する。つぎに、ソース電極38とドレイン電極39との間にNiおよびAuをこの順に蒸着して、ショットキー電極としてのゲート電極37を形成する。なお、オーミック電極の蒸着後、700℃で30分の熱処理を行うことで、良好なオーミック特性が得られる。また、この熱処理において、熱中性子線照射によりVGaから切り離された水素原子は素子の外に追い出される。
以上の製造方法によって、本実施の形態3に係るHFET30を製造することができる。
【0100】
つぎに、本発明の比較例3として、熱中性子線を照射しない以外は、上述した製造方法にて、実施の形態3に係るHFET30の構造を有するHFETを製造した。なお、AlGaNからなる電子供給層のAl組成は、X線回折法による評価によれば0.24であった。また、HFETのサイズについては、ゲート長を2μm、ゲート幅を0.2mm、ソース・ドレイン間距離を15μmとした。
【0101】
また、この比較例3のHFETの製造時に、上述した製造方法のように熱中性子線を照射したものとして、その特性をシミュレーションによって計算した。なお、熱中性子線の照射条件としては、中性子線流束が1×1017cm−2の条件で、60分間、熱中性子線を照射するものとした。
【0102】
つぎに、比較例3のHFETの特性を測定したところ、2次元電子ガスの移動度は1300cm/Vs、シートキャリア濃度は9×1012cm−2であった。また、熱中性子線を照射した場合の計算結果では、これらの特性については、比較例3の場合と同様の特性が得られており、熱中性線照射によるHFETのオン特性への悪影響は見られていない。
【0103】
つぎに、比較例3のHFETのリーク特性を測定した。ここでは、ソース・ゲート間に−5Vの電圧を印加し、ソース・ドレイン間に200Vの電圧を印加した。その結果、リーク電流は2×10−8A/mmであった。また、熱中性子線を照射した場合の計算結果では、リーク電流は3×10−9A/mmであり、熱中性子線照射によってリーク電流が1桁程度低減する結果となった。
【0104】
つぎに、実施例1、比較例1と同様の方法で比較例3のHFETの光応答特性について測定した。図14は、比較例3のHFETおよびこれに熱中性子線を照射したHFETのソース・ドレイン間の抵抗値の経時変化を示す図である。図14に示すように、比較例3のHFETでは、抵抗値が一定になるまで1000秒以上かかるのに対して、熱中性子線を照射した場合の計算結果では、30秒以内には飽和し、抵抗値が一定になるという結果になった。
【0105】
以上の結果から、熱中性子線の照射によって、リーク電流と光応答とが低減されたHFETを実現できることが確認された。
【0106】
以上説明したように、エピタキシャル成長後の窒化物系化合物半導体層にレーザ光、または電離放射線を照射することよって、結晶中のVGa−Hの結合を切断できる。その結果、VGa−Hに起因する比較的浅いアクセプタ準位を抑制することができ、リーク電流低減と光応答抑制という効果を持つことが明らかとなった。この効果を利用することで、長期信頼性に優れた高効率なGaN系半導体を用いたインバーターやコンバーター等のパワーデバイスが実現できる。
【0107】
なお、上記実施の形態は、基板として異種基板であるシリコン基板を使用したが、使用する異種基板としては特に限定されず、サファイア、炭化珪素(SiC)、酸化亜鉛(ZnO)、LiGaO、(Mn,Zn)Fe等を使用しても同様の効果が得られる。
【0108】
また、上記実施の形態では、電子走行層がn−GaNまたはCをドープしたGaNであるが、アンドープのGaNでもよい。
【0109】
また、上記実施の形態では、照射する中性子線として熱中性子線を用いているが、エネルギーが1eV以下であれば、熱外中性子線を用いてもよい。
【0110】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、HFETやSBDに限定されず様々な素子とすることができ、たとえばMOSFETでもよい。また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、GaNに限らず、Ga原子と窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であれば良く、Ga原子のほかに、Al原子、インジウム(In)原子およびホウ素(B)原子から選択される1以上のIII族原子を含んでいても良い。
【0111】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
10、30 HFET
11、21、31 シリコン基板
12 低温バッファ層
13 バッファ層
14、25、35 電子走行層
15、36 電子供給層
16、37 ゲート電極
17、38 ソース電極
18、39 ドレイン電極
20 SBD
22、32 第1バッファ層
23、33 第2バッファ層
23a、33a GaN層
23b、33b AlN層
24、34 第3バッファ層
26 ショットキー電極
27 オーミック電極
28、29 エピタキシャル基板
B1 ビームスポット
D1、D2 データ点群
L1 レーザ光
L2 白色光
L3 単色光
L4 回折線
P1、P2 ピーク
S1、S2 スペクトル
S3 結晶面
S4 回折面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくともガリウム原子を含むIII族原子と窒素原子とからなる窒化物系化合物半導体層をエピタキシャル成長する成長工程と、
素子構造形成前に、前記窒化物系化合物半導体層にレーザ光または電離放射線を照射し、前記窒化物系化合物半導体層中のIII族空孔と水素原子との複合体を分解する分解工程と、
を含むことを特徴とする窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光は波長が380nm以下のレーザ光であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光はパルス幅が100マイクロ秒以下のパルスレーザ光であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物系化合物半導体層の最表面における光強度がCW換算で1W/cm以上、1000W/cm以下となるようにパルスレーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記電離放射線はシンクロトロン放射光であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記電離放射線は中性子線であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記中性子線は1eV以下のエネルギーを有する熱外中性子線または熱中性子線であることを特徴とする請求項6に記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記基板はシリコン、サファイア、炭化珪素または酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の製造方法によって製造した窒化物系化合物半導体素子であって、前記窒化物系化合物半導体層中のIII族空孔濃度が5×1016〜1×1018cm−3であることを特徴とする窒化物系化合物半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−104722(P2012−104722A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253252(P2010−253252)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(510035842)次世代パワーデバイス技術研究組合 (46)
【Fターム(参考)】