説明

車両のモータ制御システム

【課題】矩形波電圧制御を実行するモータの制御装置において、トルクの急激な変動が抑制された車両のモータ制御システムを提供する。
【解決手段】制御装置30は、インバータ22からモータジェネレータMG2に与える矩形波電圧の位相θに基づいて電圧コンバータ12に電圧変換動作を行なわせるか否かを決定する。そして制御装置30は、矩形波電圧の位相θがしきい値に到達するまでは電圧コンバータ12に電圧変換動作を行なわせずにバッテリB1の電圧をそのままインバータ22に供給させ、矩形波電圧の位相θがしきい値に一旦到達した後は電圧コンバータ12に電圧変換動作を行なわせてバッテリB1の電圧を昇圧してインバータ22に供給させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のモータ制御システムに関し、特に、矩形波電圧方式でモータを駆動する車両のモータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
直流電源を用いて交流電動機を駆動するにはインバータが用いられる。インバータはインバータ駆動回路によってスイッチング制御されており、これにより一般にはパルス幅変調(PWM)波形電圧が交流電動機に印加される。
【0003】
PWM波形電圧を交流電動機に印加するPWM電流制御では、低回転域であっても滑らかな回転が得られるものの、直流電源の電圧利用率に限界があるという問題がある。これに対しては、弱め界磁電流を交流電動機に与えることにより高回転を得る方法もあるが、銅損が増加してしまうため妥当でない。
【0004】
一方、交流電動機の駆動制御には、交流電動機に矩形波電圧を印加するという方法もある。この制御方法では、直流電源の電圧利用率を向上させることができ、その結果、高回転域での出力を向上させることができる。また、弱め界磁電流を減少させることができるため、銅損の発生を抑えてエネルギー効率を向上させることができる。さらに、インバータでのスイッチング回数を少なくすることができるため、スイッチング損失も抑えることができるという利点もある。
【0005】
特開2005−218299号公報(特許文献1)は、PWM波形電圧と矩形波電圧の双方を交流電動機に対して印加可能な構成とし、それらを状況に応じて使い分ける技術において、効率のよい駆動をすることができる駆動制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−218299号公報
【特許文献2】特開2002−171783号公報
【特許文献3】特開2007−318981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9は、従来の矩形波制御において電圧コンバータによって昇圧を開始した際の動作を説明するための動作波形図である。
【0008】
従来、バッテリの電圧を電圧コンバータで昇圧してインバータに供給し、そのインバータでモータを駆動する車両のモータ制御システムが知られている。このような車両のモータ制御システムでは、電圧コンバータが昇圧を開始するポイントを各回転速度ごとにトルクしきい値が定められており、モータトルクがそのトルクしきい値に到達したら電圧コンバータに昇圧を行なわせていた。
【0009】
しかし、昇圧開始ポイントは、モータの損失が小さくなるように設定してあるため、矩形波制御を実行している際に、位相の深い領域(矩形波電圧の電圧ベクトルがd軸となす角θが大きい領域)から昇圧を開始する場合がある。そのときは、図9に示すように、時刻t10〜t11において位相θを増加させてトルクも増加しているときに、時刻t11で昇圧を開始すると、トルクが急激に変化してしまうトルク外れが起こる。
【0010】
これは、モータの損失で昇圧開始ポイントを決めているため、トルク外れが小さくなる領域(位相の浅い領域)だけで昇圧開始をすることになるとは限らないからである。
【0011】
この発明の目的は、矩形波電圧制御を実行する車両のモータ制御システムにおいて、トルクの急激な変動が抑制された車両のモータ制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、要約すると、車両のモータ制御システムであって、蓄電装置と、矩形波電圧制御方式でモータの駆動制御を行なうインバータと、インバータに対して蓄電装置の電圧を変換して供給する電圧コンバータと、インバータおよび電圧コンバータを制御する制御装置とを備える。制御装置は、インバータからモータに与える矩形波電圧の位相に基づいて電圧コンバータに電圧変換動作を行なわせるか否かを決定する。制御装置は、矩形波電圧の位相がしきい値に到達するまでは電圧コンバータに電圧変換動作を行なわせずに蓄電装置の電圧をそのままインバータに供給させる。制御装置は、矩形波電圧の位相がしきい値に一旦到達した後は電圧コンバータに電圧変換動作を行なわせて蓄電装置の電圧を昇圧してインバータに供給させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、矩形波制御と昇圧制御を組合せて用いる場合に、大きなトルク外れが発生しないようにすることができ、車両の快適性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の構成を示す回路図である。
【図2】本実施の形態の車両のモータ制御システムが行なう制御を説明するための図である。
【図3】電圧位相について説明するための図である。
【図4】電圧位相θとトルクTの関係を示した図である。
【図5】図2におけるラインW2についてより詳細に説明するための図である。
【図6】図1の制御装置30が行なう電圧コンバータ12に対する制御を説明するためのフローチャートである。
【図7】図2および図6に基づいて制御が行なわれた場合の動作を説明するための動作波形図である。
【図8】図7の時刻t1以降の位相θの変化について説明するための図である。
【図9】従来の矩形波制御において電圧コンバータによって昇圧を開始した際の動作を説明するための動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る車両の構成を示す回路図である。
図1を参照して、車両100は、バッテリユニット40と、エンジン4と、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分配機構3と、車輪2と、制御装置30とを含む。
【0017】
動力分配機構3は、エンジン4とモータジェネレータMG1,MG2に結合されて、これらの間で動力を分配する機構である。たとえば動力分配機構としてはサンギヤ、プラネタリキャリヤ、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構を用いることができる。この3つの回転軸がエンジン4、モータジェネレータMG1,MG2の各回転軸にそれぞれ接続される。たとえば、モータジェネレータMG1の回転シャフトを中空にし、その中をエンジン4の動力シャフトを貫通させることでモータジェネレータMG2、動力分配機構3、モータジェネレータMG1、エンジン4を直線上に配置することができる。
【0018】
なおモータジェネレータMG2の回転軸は車輪2に図示しない減速ギヤや差動ギヤによって結合されている。また動力分配機構3の内部にモータジェネレータMG2の回転軸に対する減速機をさらに組み込んでもよい。
【0019】
バッテリユニット40は、高圧バッテリB1と、高圧バッテリB1の負極に接続されるシステムメインリレーSMRGと、高圧バッテリB1の正極に接続されるシステムメインリレーSMRBとを含む。システムメインリレーSMRG,SMRBは、制御装置30から与えられる制御信号SEに応じて導通/非導通状態が制御される。
【0020】
高圧バッテリB1としては、ニッケル水素、リチウムイオン等の二次電池や燃料電池などを用いることができる。
【0021】
バッテリユニット40は、さらに、サービスカバーを開くと高電圧を遮断するサービスプラグSPと、サービスプラグSPと直列に高圧バッテリB1に接続されるフューズFと、高圧バッテリB1の端子間の電圧VBを測定する電圧センサ10と、高圧バッテリB1に流れる電流IBを検知する電流センサ11とを含む。
【0022】
車両100は、さらに、電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続される平滑コンデンサC1と、平滑コンデンサC1の両端間の電圧VLを検知して制御装置30に対して出力する電圧センサ21と、平滑コンデンサC1の端子間電圧を昇圧する電圧コンバータ12と、電圧コンバータ12によって昇圧された電圧を平滑化する平滑コンデンサC2と、平滑コンデンサC2の端子間電圧VHを検知して制御装置30に出力する電圧センサ13と、電圧コンバータ12から与えられる直流電圧を三相交流に変換してモータジェネレータMG1に出力するインバータ14とを含む。
【0023】
電圧コンバータ12は、一方端が電源ラインPL1に接続されるリアクトルL1と、電源ラインPL2と接地ラインSL間に直列に接続されるIGBT素子Q1,Q2と、IGBT素子Q1,Q2にそれぞれ並列に接続されるダイオードD1,D2とを含む。
【0024】
リアクトルL1の他方端はIGBT素子Q1のエミッタおよびIGBT素子Q2のコレクタに接続される。ダイオードD1のカソードはIGBT素子Q1のコレクタと接続され、ダイオードD1のアノードはIGBT素子Q1のエミッタと接続される。ダイオードD2のカソードはIGBT素子Q2のコレクタと接続され、ダイオードD2のアノードはIGBT素子Q2のエミッタと接続される。
【0025】
インバータ14は、電圧コンバータ12から昇圧された電圧を受けてたとえばエンジン4を始動させるためにモータジェネレータMG1を駆動する。また、インバータ14は、エンジン4から伝達される機械的動力によってモータジェネレータMG1で発電された電力を電圧コンバータ12に戻す。このとき電圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。
【0026】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とを含む。U相アーム15,V相アーム16,およびW相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に並列に接続される。
【0027】
U相アーム15は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q3,Q4と、IGBT素子Q3,Q4とそれぞれ並列に接続されるダイオードD3,D4とを含む。ダイオードD3のカソードはIGBT素子Q3のコレクタと接続され、ダイオードD3のアノードはIGBT素子Q3のエミッタと接続される。ダイオードD4のカソードはIGBT素子Q4のコレクタと接続され、ダイオードD4のアノードはIGBT素子Q4のエミッタと接続される。
【0028】
V相アーム16は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q5,Q6と、IGBT素子Q5,Q6とそれぞれ並列に接続されるダイオードD5,D6とを含む。ダイオードD5のカソードはIGBT素子Q5のコレクタと接続され、ダイオードD5のアノードはIGBT素子Q5のエミッタと接続される。ダイオードD6のカソードはIGBT素子Q6のコレクタと接続され、ダイオードD6のアノードはIGBT素子Q6のエミッタと接続される。
【0029】
W相アーム17は、電源ラインPL2と接地ラインSLとの間に直列接続されたIGBT素子Q7,Q8と、IGBT素子Q7,Q8とそれぞれ並列に接続されるダイオードD7,D8とを含む。ダイオードD7のカソードはIGBT素子Q7のコレクタと接続され、ダイオードD7のアノードはIGBT素子Q7のエミッタと接続される。ダイオードD8のカソードはIGBT素子Q8のコレクタと接続され、ダイオードD8のアノードはIGBT素子Q8のエミッタと接続される。
【0030】
モータジェネレータMG1は、三相の永久磁石同期モータであり、U,V,W相の3つのコイルは各々一方端が中点に共に接続されている。そして、U相コイルの他方端がIGBT素子Q3,Q4の接続ノードに接続される。またV相コイルの他方端がIGBT素子Q5,Q6の接続ノードに接続される。またW相コイルの他方端がIGBT素子Q7,Q8の接続ノードに接続される。
【0031】
電流センサ24は、モータジェネレータMG1に流れる電流をモータ電流値MCRT1として検出し、モータ電流値MCRT1を制御装置30へ出力する。
【0032】
車両100は、さらに、電圧コンバータ12に対してインバータ14と並列的に接続されるインバータ22を含む。
【0033】
インバータ22は車輪2を駆動するモータジェネレータMG2に対して電圧コンバータ12の出力する直流電圧を三相交流に変換して出力する。またインバータ22は、回生制動に伴い、モータジェネレータMG2において発電された電力を電圧コンバータ12に戻す。このとき電圧コンバータ12は降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。インバータ22の内部の構成は、図示しないがインバータ14と同様であり、詳細な説明は繰返さない。
【0034】
車両100は、さらに、ヘッドランプ等の補機類52と、12Vの補機バッテリB2と、電源ラインPL1と補機バッテリB2および補機類52との間に接続されるDC/DCコンバータ50とを含む。
【0035】
DC/DCコンバータ50は、制御装置30から与えられる降圧指示PWD2に応じて、電源ラインPL2の電圧を降圧して補機バッテリB2への充電や補機類52への電力供給を行なうことが可能である。また、DC/DCコンバータ50は、制御装置30から与えられる昇圧指示PWU2に応じて、補機バッテリB2の電圧を昇圧して電源ラインPL2に対して供給することも可能である。
【0036】
制御装置30は、トルク指令値TR1,TR2、モータ回転数MRN1,MRN2、電圧VB,VL,VH、電流IBの各値、モータ電流値MCRT1,MCRT2および起動信号IGONを受ける。
【0037】
そして制御装置30は、電圧コンバータ12に対して昇圧指示を行なう制御信号PWU1,降圧指示を行なう制御信号PWD1および動作禁止を指示する信号CSDNを出力する。
【0038】
また制御装置30は、DC/DCコンバータ50に対して昇圧指示を行なう制御信号PWU2,降圧指示を行なう制御信号PWD2を出力する。
【0039】
さらに、制御装置30は、インバータ14に対して、電圧コンバータ12の出力である直流電圧をモータジェネレータMG1を駆動するための交流電圧に変換する駆動指示PWMI1と、モータジェネレータMG1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して電圧コンバータ12側に戻す回生指示PWMC1とを出力する。
【0040】
同様に制御装置30は、インバータ22に対して直流電圧をモータジェネレータMG2を駆動するための交流電圧に変換する駆動指示PWMI2と、モータジェネレータMG2で発電された交流電圧を直流電圧に変換して電圧コンバータ12側に戻す回生指示PWMC2とを出力する。
【0041】
図2は、本実施の形態の車両のモータ制御システムが行なう制御を説明するための図である。
【0042】
図2において、縦軸にはモータのトルクTが示され、横軸にはモータの回転速度Nが示されている。ラインW1は、本実施の形態においてPWM制御と矩形波電圧制御とを切換える境界を示すラインである。ラインW1よりも回転速度Nが小さい領域はPWM制御が実行され、ラインW1よりも回転速度Nが大きい領域では、矩形波電圧制御が実行される。
【0043】
ラインW2は、本実施の形態における昇圧を実施しない領域と実施する領域との境界線を示すラインである。このラインよりも回転速度Nが小さい領域では昇圧しないバッテリ電圧でモータが駆動される。一方ラインW2よりも回転速度が大きい領域では、電圧コンバータによってバッテリ電圧が昇圧されてモータに供給される。
【0044】
なお、ラインW3は従来の制御における昇圧を行なう領域と行なわない領域との境界を示すラインである。このラインW3は、モータ損失が小さくなるようにモータ損失のみに基づいて設定されていた。
【0045】
図3は、電圧位相について説明するための図である。
図3を参照して、矩形波電圧制御の電圧ベクトルをモータ制御で一般に用いられるd−q平面上に考えたときに、q軸と電圧ベクトルVとがなす位相角θが電圧位相である。そして、この位相θが大きいことを位相が深いと呼び、位相θが小さいことを位相が浅いとも呼ぶ。
【0046】
図4は、電圧位相θとトルクTの関係を示した図である。
図4を参照して、電圧位相θが大きく(深く)なるほどトルクTは大きくなる。このため、電圧位相θが大きいときはトルクTも大きく、この状態で電圧コンバータによって昇圧動作を行なうとトルクTの変動も大きくなる。
【0047】
図5は、図2におけるラインW2についてより詳細に説明するための図である。
図2、図5を参照して、ラインW3は、位相の深さとは無関係にトルクT−回転速度Nマップ上に固定されたラインが引かれている。これは、モータの損失などを考慮して引かれたラインであった。これに対して、本実施の形態で用いるラインW2はT−Nマップ上に固定されたラインがあるわけではなく、電圧位相が、あるしきい値に到達するポイントを指している。したがって、システム電圧(バッテリ電圧)が高いときなどは、図5のラインW2Hに示すように、図2のラインW2が設定され、システム電圧(バッテリ電圧)が低下しているときには、図5のラインW2Lに示すようにラインW2が設定される。
【0048】
図6は、図1の制御装置30が行なう電圧コンバータ12に対する制御を説明するためのフローチャートである。
【0049】
図6を参照して、ステップS1では、昇圧未実施の状態に電圧コンバータ12が制御されている。そしてステップS2において矩形波制御が実施中において電圧位相θがしきい値以上であるか否かが判断される。
【0050】
矩形制御では、電圧位相が深い領域では昇圧を行なうと大きなトルク外れが起きてしまうが、位相の浅い領域ではトルク外れは小さくなる。したがって、昇圧を行なわない領域を、トルク外れが小さい領域またはトルク外れによる加速度Gの変化が許容できる範囲に限定するようにしきい値を定める。この昇圧を行なわない領域では、電圧コンバータ12は、IGBT素子Q1がオン状態に設定され、IGBT素子Q2がオフ状態に設定された上アームオン状態に制御される。この場合は、バッテリB1の電圧は、リアクトルL1およびダイオードD1またはIGBT素子Q1を介してインバータ14および22に供給される。
【0051】
そしてこのようにすれば、電圧コンバータ12によって昇圧を開始する領域をトルク外れの小さい領域に限定することができる。そのように制御するために、電圧位相θにしきい値を設けてこのしきい値を超えたら昇圧を開始するように制御を行なう。このため図6のステップS2においてこのしきい値以上に電圧位相θが到達するまではステップS1に処理が戻り昇圧を行なわない状態に電圧コンバータ12を制御する。
【0052】
一方ステップS2において電圧位相θがしきい値以上になった場合にはステップS2からステップS3に処理が進み、電圧コンバータ12に対して昇圧を実行開始させる。
【0053】
図7は、図2および図6に基づいて制御が行なわれた場合の動作を説明するための動作波形図である。
【0054】
図7を参照して、横軸には経過時間が示され、縦軸には上から順に電圧コンバータ12の出力側電圧VH、トルクTおよび電圧位相θが示されている。時刻t0〜t1の領域においては、電圧位相θがしきい値に到達していないので、電圧コンバータ12は上アームオン状態に制御されており、昇圧動作は行なわれていない。したがって電圧VHはバッテリ電圧VBに等しい。
【0055】
時刻t1においては、電圧位相θがしきい値に到達したため、電圧コンバータ12による昇圧動作が開始される。これにより電圧VHは次第にバッテリ電圧VBよりも上昇し、昇圧が行なわれる。このとき、トルクTはトルク外れの小さい領域またはトルク外れによる加速度Gの変化が許容できる範囲のトルクであるので、トルクの急激な変化は発生せずトルク外れはない。
【0056】
そして時刻t1以降は、電圧VHが昇圧されることにより電圧位相θは低下を開始する。ただしこのしきい値は昇圧を開始するためのしきい値であり、昇圧の停止は別の条件に基づいて定められているので、電圧位相θがしきい値よりも低くなったからといって昇圧を直ちに停止するわけではない。
【0057】
図8は、図7の時刻t1以降の位相θの変化について説明するための図である。
図8を参照して、電圧VHが上昇すると、同じトルクTを出すために必要な位相θは小さくなる。たとえば電圧VHが100Vであった場合にはトルク指令を実現するための必要な位相は位相θ2であった。これに対し電圧VHを200Vに昇圧すると、同じトルク指令を実現するための位相は位相θ1まで小さくなる。したがって図7の時刻t1以降では電圧位相θは下降している。
【0058】
再び図1を参照して、本発明の実施の形態について総括する。本実施の形態の車両のモータ制御システムは、矩形波電圧制御方式でモータジェネレータMG2の駆動制御を行なうインバータ22と、インバータ22に対してバッテリB1の電圧を変換して供給する電圧コンバータ12と、インバータ22および電圧コンバータ12を制御する制御装置30とを備える。
【0059】
制御装置30は、インバータ22からモータジェネレータMG2に与える矩形波電圧の位相θに基づいて電圧コンバータ12に電圧変換動作を行なわせるか否かを決定する。そして制御装置30は、矩形波電圧の位相θがしきい値に到達するまでは電圧コンバータ12に電圧変換動作を行なわせずに(上アームオン状態で)バッテリB1の電圧をそのままインバータ22に供給させる。制御装置30は、矩形波電圧の位相θがしきい値に一旦到達した後は電圧コンバータ12に電圧変換動作を行なわせてバッテリB1の電圧を昇圧してインバータ22に供給させる。
【0060】
このように、本実施の形態においては、モータの制御が矩形波電圧制御のときにはトルク外れの大きくなる位相の深い領域に入る前に昇圧を開始することでトルク外れを小さく抑えることができる。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
2 車輪、3 動力分配機構、4 エンジン、10,13,21 電圧センサ、11,24 電流センサ、12 電圧コンバータ、14,22 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、30 制御装置、40 バッテリユニット、50 コンバータ、52 補機類、100 車両、B1 高圧バッテリ、B2 補機バッテリ、C1,C2 平滑コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、F フューズ、L1 リアクトル、MG1,MG2 モータジェネレータ、PL1,PL2 電源ライン、Q1〜Q8 IGBT素子、SL 接地ライン、SMRG,SMRB システムメインリレー、SP サービスプラグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、
矩形波電圧制御方式でモータの駆動制御を行なうインバータと、
前記インバータに対して前記蓄電装置の電圧を変換して供給する電圧コンバータと、
前記インバータおよび前記電圧コンバータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記インバータから前記モータに与える矩形波電圧の位相に基づいて前記電圧コンバータに電圧変換動作を行なわせるか否かを決定し、
前記制御装置は、前記矩形波電圧の位相がしきい値に到達するまでは前記電圧コンバータに電圧変換動作を行なわせずに前記蓄電装置の電圧をそのまま前記インバータに供給させ、前記制御装置は、前記矩形波電圧の位相がしきい値に一旦到達した後は前記電圧コンバータに電圧変換動作を行なわせて前記蓄電装置の電圧を昇圧して前記インバータに供給させる、車両のモータ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−172156(P2010−172156A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14209(P2009−14209)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】