説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】有段変速部を有する車両用動力伝達装置の制御装置において、変速ショック発生の可能性を低減できる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】トルク補償手段72は、トルク相補償制御において、変速指示に基づいて決定したトルク補償開始時期で第2電動機M2の作動により出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制を開始する場合には、係合装置の油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較してトルク補償率を小さくする。ここで、上記変速指示基準で上記トルク補償開始時期が決定されると出力トルクTOUTの落込みと前記トルク相補償制御の進行との間に時間的なずれが生じる可能性がある。従って、その時間的なずれが生じたとしても、変速ショックが大きなること無く変速ショック発生の可能性を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有段変速部を有する車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、有段変速部の変速ショック低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンと駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に連結された第1電動機と、その差動機構から上記駆動輪までの動力伝達経路に有段変速部を介して連結された第2電動機とを備えた車両用動力伝達装置の制御装置が従来からよく知られている。例えば、特許文献1の車両用動力伝達装置の制御装置がそれである。上記有段変速部は、例えば車速やアクセル開度等から判断される車両状態に応じて変速が実行され、変速された変速段に応じて上記第2電動機の駆動力がトルク変換されて駆動輪に出力される。また、上記有段変速部は油圧作動の変速アクチュエータである摩擦係合装置を複数備えており、上記有段変速部の変速の際には、係合させる摩擦係合装置と解放させる摩擦係合装置との掴み換えのタイミングを制御する所謂クラッチツウクラッチ制御が実施されることは周知技術としてよく知られている。
【0003】
また、前記有段変速部の変速過渡期は、その有段変速部の出力トルク(以下「有段変速部出力トルク」と表す)が変化するトルク相と、回転速度変化が生じるイナーシャ相とに大別される。そして、前記特許文献1の車両はハイブリッド車両であるが、上記有段変速部は通常のエンジン車両に用いられるものと同じ構造であるのでその通常のエンジン車両と同様に、その有段変速部の変速のトルク相では一時的な有段変速部出力トルクの落込みつまり有段変速部出力トルクの変動が生じる。そこで、前記特許文献1の制御装置は、上記トルク相において上記有段変速部出力トルクが一時的に落ち込む時期にトルクを補うことによりその有段変速部出力トルクの変動を抑制するトルク相補償制御を前記第1電動機を作動させて実行する。これによって、そのトルク相でのトルク変動(具体的には有段変速部出力トルクの落込み)を緩やかにし変速ショックの低減を図っている。
【特許文献1】特開2008−114803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前記特許文献1の制御装置は、トルクセンサ等は通常設けられていないことから前記有段変速部出力トルクの落込みを直接には検出できないので、前記トルク相補償制御において、前記有段変速部の摩擦係合装置を作動させるために出力する制御信号すなわち油圧指令を基準にして、前記第1電動機に上記落込みを補うトルクを出力させる制御実行タイミングを定めていた。しかし、上記制御信号に対して上記摩擦係合装置の実際の油圧値は作動油温などの影響によりばらつく可能性があり、更には個々の車両用動力伝達装置ごとにもばらつく可能性がある。また、前記有段変速部出力トルクの落込みは、上記摩擦係合装置に対する油圧変化に連動するその摩擦係合装置の実際の変速作動によって生じるものである。従って、上記記有段変速部出力トルクの落込みが生じる時期と前記制御信号の出力時期との時間差が変速の度にばらつく可能性がある。すなわち、前記特許文献1の制御装置が実行するトルク相補償制御、すなわち、前記摩擦係合装置に対する制御信号を基準として制御実行タイミングを定めるトルク相補償制御では、上記落込みに対して上記制御実行タイミングがずれる可能性があり、そのように上記制御実行タイミングがずれた場合には変速ショックが発生する可能性があった。なお、このような課題は未公知のことである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、有段変速部を有する車両用動力伝達装置の制御装置において、変速ショック発生の可能性を低減できる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明では、(a)駆動輪に動力伝達可能に連結された駆動力源と、変速のために油圧で作動する変速アクチュエータを含む有段変速部とを備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記有段変速部の変速のトルク相においてその有段変速部の出力トルクが一時的に落ち込む時期にトルクを補うことによりその出力トルクの変動を抑制するトルク相補償制御を前記駆動力源の作動によって実行するトルク補償手段を含み、(c)そのトルク補償手段は、前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記変速アクチュエータの油圧値に基づいて決定可能である場合にはその油圧値に基づいて決定した抑制開始時期で前記駆動力源の作動によりその出力トルクの変動の抑制を開始する一方で、その出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には前記有段変速部に対する変速指示に基づいて決定した抑制開始時期で前記駆動力源の作動によりその出力トルクの変動の抑制を開始し、且つ、その場合には前記出力トルクの落込みに対しトルクが補われる割合であるトルク補償率を前記油圧値に基づく場合と比較して小さくすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、前記トルク補償手段は、前記トルク相補償制御において前記変速指示に基づいて決定した前記抑制開始時期で出力トルク変動の抑制を開始する場合には、前記油圧値に基づく場合と比較して、前記出力トルクの落込みを小さくするための機械的エネルギであるトルク補償量を低減することにより又は前記出力トルクの落込みに対しトルクが補われるトルク補償期間を短縮することにより前記トルク補償率を小さくすることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記変速アクチュエータの油圧値に基づいて決定可能であるか否かが、その油圧値が前記有段変速部の変速中に所定の油圧判定値に到達した時とその有段変速部の変速のイナーシャ相の開始時とを比較することにより判断されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明では、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能である場合には、前記出力トルクの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記油圧値が前記油圧判定値に到達した時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習されることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明では、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には、前記出力トルクの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記変速指示の出力時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習されることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明では、エンジンと前記駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結されその差動機構の差動状態を制御するための第1電動機とが、設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明では、前記エンジンの回転速度は、前記有段変速部の変速開始から終了までの間において略一定となるように制御されることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明では、前記駆動力源としての第2電動機が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、(a)その制御装置は、前記有段変速部の変速のトルク相においてその有段変速部の出力トルクが一時的に落ち込む時期にトルクを補うことによりその出力トルクの変動を抑制するトルク相補償制御を前記駆動力源の作動によって実行するトルク補償手段を含み、(b)そのトルク補償手段は、前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記変速アクチュエータの油圧値に基づいて決定可能である場合にはその油圧値に基づいて決定した抑制開始時期で前記駆動力源の作動により上記出力トルクの変動の抑制を開始する一方で、上記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には前記有段変速部に対する変速指示に基づいて決定した抑制開始時期で前記駆動力源の作動により上記出力トルクの変動の抑制を開始し、且つ、その場合には前記出力トルクの落込みに対しトルクが補われる割合であるトルク補償率を前記油圧値に基づく場合と比較して小さくする。従って、前記抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能である場合には前記変速指示に基づく場合と比較して、前記トルク補償手段は、前記有段変速部出力トルクの落込みに対しより正確に同期させて前記トルク相補償制御を実行することが可能である。その結果、作動油温等の影響を抑えて変速ショック発生の可能性を一層低減できる。一方で、前記抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には前記トルク補償手段は前記トルク相補償制御において、前記変速指示に基づいて前記出力トルクの変動の抑制を開始するが、その場合には前記トルク補償率が前記油圧値に基づく場合と比較して小さくされるので、もし前記有段変速部出力トルクの落込みと前記トルク相補償制御の進行との同期が正確でなかったとしても、言い換えれば、その両者間に時間的なずれが生じたとしても、変速ショックが大きなること無く変速ショック発生の可能性を低減できる。
【0015】
請求項2に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記トルク補償手段は前記トルク相補償制御において、前記変速指示に基づいて出力トルク変動の抑制を開始する場合には、前記油圧値に基づく場合と比較して、前記トルク補償量を低減することにより又は前記トルク補償期間を短縮することにより前記トルク補償率を小さくするので、何れかの適した方法でそのトルク補償率を小さくすることができる。
【0016】
請求項3に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記変速アクチュエータの油圧値に基づいて決定可能であるか否かが、その油圧値が前記有段変速部の変速中に所定の油圧判定値に到達した時とその有段変速部の変速のイナーシャ相の開始時とを比較することにより判断される。そして、上記イナーシャ相の開始時は前記有段変速部の入力回転速度変化から比較的容易に検出できる。従って、前記トルク相での有段変速部出力トルクの落込みと前記トルク相補償制御における前記駆動力源の作動との間の時間的なずれが容易に推定され、その判断を容易に行うことができる。
【0017】
請求項4に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能である場合には、前記出力トルクの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記油圧値が前記油圧判定値に到達した時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習されるので、その学習の進行に従って、前記トルク相での有段変速部出力トルクの落込みに対しより正確に同期させてトルクを補うように前記トルク相補償制御を実行することが可能である。
【0018】
請求項5に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には、前記出力トルクの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記変速指示の出力時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習されるので、その学習の進行に従って、前記トルク相での有段変速部出力トルクの落込みに対しより正確に同期させてトルクを補うように前記トルク相補償制御を実行することが可能である。
【0019】
請求項6に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、その車両用動力伝達装置には、エンジンと前記駆動輪との間に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結されその差動機構の差動状態を制御するための第1電動機とが、設けられているので、前記有段変速部は段階的にその変速比を変更する変速機であるが、上記差動機構の差動状態が制御されることにより車両用動力伝達装置全体としてはその変速比を連続的に変更することができる無段変速機として機能させることが可能である。
【0020】
請求項7に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記エンジンの回転速度は、前記有段変速部の変速開始から終了までの間において略一定となるように制御されるので、そのエンジンの回転速度変動によるショックを抑制することができる。なお、上記エンジンの回転速度は、例えば、前記差動機構の差動状態が制御されることによって略一定となるように制御される。
【0021】
請求項8に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、その車両用動力伝達装置には前記駆動力源としての第2電動機が設けられている。また、電動機は一般に、エンジンなどの内燃機関と比較してその出力トルクを応答性よく変化させることが可能である。従って、前記トルク相補償制御において前記有段変速部出力トルクの一時的な落込みに対し応答性良くトルクを補うことが可能である。
【0022】
ここで、好適には、前記油圧値が前記油圧判定値に到達した時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期もしくは前記変速指示の出力時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習される場合には、その学習が進行するほど前記トルク補償率が大きくされる。例えば、その学習が終了したと判断されるまでは上記トルク補償率が零とされる、すなわち、その学習が終了したと判断されるまでは前記トルク相補償制御が実質的に実行されない。このようにすれば、前記有段変速部出力トルクの落込みと前記トルク相補償制御の進行との間に時間的なずれが生じ易い上記学習の進行度合いが低い場合には上記トルク補償率がそれほど大きくはされてはいないので、その時間的なずれに起因して変速ショックが生じることが抑えられ、変速ショック発生の可能性を低減できる。
【0023】
また、好適には、(a)前記有段変速部の変速時例えばその変速開始時のアクセル開度が異なる動作領域ごとにそれぞれ前記出力トルク変動の抑制開始時期の学習が行われ、(b)その学習の進行度合いが同じであるとすれば、上記アクセル開度がより低開度であるほど前記トルク補償率が大きくされる。ここで、上記アクセル開度がより低開度であるほど、前記有段変速部出力トルクの落込みは小さくそのためその落込みを平坦にするための前記トルク補償量が小さくなる傾向にあるので、上記落込みと前記トルク相補償制御の進行との間の時間的なずれが生じたとしてもそれが変速ショックに及ぼす影響は小さい。従って上記のようにすれば、上記時間的なずれが変速ショックに及ぼす影響が小さい場合には前記トルク相補償制御において積極的に上記落込みに対しトルクが補われ、前記アクセル開度に応じて前記トルク補償率が変わらない場合と比較して、変速ショック低減効果をより早期に高くすることができる。
【0024】
また好適には、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路において、そのエンジン、前記差動機構、前記有段変速部、上記駆動輪の順に連結されている。
【0025】
また好適には、前記差動機構は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された第1回転要素と前記第1電動機に動力伝達可能に連結された第2回転要素と前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第3回転要素とを有する遊星歯車装置であり、上記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、上記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、上記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0026】
また好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型の遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
本発明の制御装置は、例えばハイブリッド車両に用いられる。図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪38へ伝達する。
【0029】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0030】
差動部11は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、その動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。そして、駆動輪38に動力伝達可能に連結された第2電動機M2は、走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0031】
動力分配機構16は、エンジン8と駆動輪38との間に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0032】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0033】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0034】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
【0035】
自動変速部20は、その変速比(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)を段階的に変化させることができる有段式の自動変速機として機能し、エンジン8と駆動輪38との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速部である。その自動変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0036】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0037】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置(以下、単に「係合装置」とも表す)であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧ピストンにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧ピストンによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。また、上記係合装置には上記油圧ピストンにかかる油圧値PCXを正確に検出するため油圧経路上でできるだけその油圧ピストンに近い位置に油圧センサが設けられている。また、自動変速部20が有する第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は、自動変速部20の変速のために油圧で作動する本発明の変速アクチュエータに対応する。
【0038】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0039】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0040】
しかし、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
【0041】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0042】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0043】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0044】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、車速Vに拘束される差動部リングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0045】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0046】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0047】
図4は、本発明に係る動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0048】
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPを示す信号、シフトポジションPSHを表す信号、差動部11や自動変速部20の各油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)の油圧ピストンにかかる油圧(係合圧)例えば第1ブレーキ油圧Pb1や第2ブレーキ油圧Pb2や第2クラッチ油圧Pc2などを表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、動力伝達装置10の無段変速状態と有段変速状態とを選択的に切り換えるための変速状態手動選択装置であって運転席近傍に設けられて搭乗者によって操作される有段/無段モードスイッチ46からのその切換状態を示す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル41の操作量(アクセル開度)Accを示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、エンジン8の空燃比A/Fを示す信号などが、それぞれ供給される。
【0049】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧ピストンを制御するために油圧制御回路42(図6参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0050】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置48の一例を示す図である。このシフト操作装置48は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー49を備えている。
【0051】
そのシフトレバー49は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0052】
上記シフトレバー49の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路42が電気的に切り換えられる。
【0053】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0054】
具体的には、シフトレバー49が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー49が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー49が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー49が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0055】
図6は、電子制御装置40に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段54は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された図7の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、その変速を実行させる自動変速部20に対する変速指示すなわち変速出力を行う。具体的には、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる上記変速指示(変速出力)を油圧制御回路42へ出力する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0056】
ハイブリッド制御手段52は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0057】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、例えば図8に示すようなエンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線LEF(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線LEFにエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。なお、本実施例で例えば、燃費とは単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率が大きくなることである。
【0058】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。前記蓄電装置60は、第1電動機M1および第2電動機M2に電力を供給し且つそれらの電動機M1,M2から電力の供給を受けることが可能な電気エネルギ源であって、例えば、鉛蓄電池などのバッテリ、又は、キャパシタなどである。
【0059】
ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、アクセル開度Accが大きいほどスロットル弁開度θTHも大きくなる図示しない予め記憶された関係からハイブリッド制御手段52は、基本的にはアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ97を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。このようなスロットル制御によりアクセル開度Accとスロットル弁開度θTHとは一対一の関係で対応する。
【0060】
前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0061】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクT時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0062】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。
【0063】
ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段66を備えている。このエンジン始動停止制御手段66は、ハイブリッド制御手段52により例えば図7の駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0064】
例えば、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点a→点bに示すように、アクセルペダル41が踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度Nを引き上げ、所定のエンジン回転速度N’例えば自律回転可能なエンジン回転速度Nで点火装置99により点火させるようにエンジン8の始動を行って、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行からエンジン走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き上げることでエンジン回転速度Nを速やかに所定のエンジン回転速度N’まで引き上げてもよい。これにより、良く知られたアイドル回転速度NEIDL以下のエンジン回転速度領域における共振領域を速やかに回避できて始動時の振動が抑制される。
【0065】
また、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダル41が戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置98により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段52によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き下げることでエンジン回転速度Nを速やかに零乃至略零まで引き下げてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避できて停止時の振動が抑制される。或いは、エンジン始動停止制御手段66は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度NM1を引き下げてエンジン回転速度Nを引き下げ、所定のエンジン回転速度N’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
【0066】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例ではエンジン8と第2電動機M2との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0067】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させることができる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電残量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度Nが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0068】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0069】
切換制御手段50は、前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、有段/無段モードスイッチ46が無段位置に切り換えられておれば動力伝達装置10を無段変速状態とし、一方で、有段/無段モードスイッチ46が有段位置に切り換えられておれば動力伝達装置10を有段変速状態とする。切換制御手段50は、動力伝達装置10を無段変速状態とする場合には、切換ブレーキB0及び切換クラッチC0を解放させる。一方で、切換制御手段50は、動力伝達装置10を有段変速状態とする場合には、基本的には切換クラッチC0を係合させることにより動力伝達装置10を有段変速状態とするが、例えば、図7の変速線図の第4速ギヤ段へのアップシフト線が示す車速Vよりも高車速側に予め設定された高車速領域では上記切換クラッチC0ではなく切換ブレーキB0を係合させることにより動力伝達装置10を有段変速状態とする。自動変速部20の第4速において上記切換ブレーキB0がされた場合が図2の係合作動表に示す「5th」に相当する。
【0070】
更に、切換制御手段50は、動力伝達装置10を無段変速状態とする場合には、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力する。一方で、動力伝達装置10を有段変速状態とする場合には、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力する。
【0071】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、一点鎖線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。この図7の変速線図における変速線は、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この変速点の連なりとして予め記憶されている。
【0072】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、例えば有段/無段モードスイッチ46が無段位置に切り換えられていても車両走行を確保するために切換制御手段50は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0073】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクT、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度Nとに基づいて算出されるエンジントルクTなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクT、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよい。
【0074】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段52により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン始動停止制御手段66によりエンジン8の始動または停止が行われる。
【0075】
ところで、動力伝達装置10はクラッチツウクラッチ制御が実施される自動変速部20を備えているので、通常のエンジン車両の有段の自動変速機と同様に、その自動変速部20の変速のトルク相では一時的な出力トルクTOUTの低下(落込み)が生じ、その出力トルクTOUTの落込みが変速ショックとして感じられ快適性を損なう可能性がある。このような出力トルクTOUTの落込みに対しトルクを補いその落込みを小さくすることが考えられる。
【0076】
そのために先ず、トルク補償実行判定手段70は、図7の変速線図に基づいて自動変速部20の変速判断が有段変速制御手段54によりなされた場合に、その変速判断によりこれから開始される自動変速部20の変速に対し、自動変速部20の変速のトルク相において自動変速部20の出力トルクTOUTが一時的に落ち込む時期にトルクを補うことによりその出力トルクTOUTの変動(落込み)を抑制するトルク相補償制御が実行される必要があるか否か、換言すれば、その自動変速部20の変速が上記トルク相補償制御が実行される対象の変速であるか否かを判断する。トルク補償実行判定手段70は、その判断を少なくとも前記変速出力(変速指示)がなされる前に行う。具体的には、予め上記トルク相補償制御の実行対象となる自動変速部20の変速を定めておき、トルク補償実行判定手段70は、有段変速制御手段54が変速判断をした自動変速部20の変速がその予め定められたトルク相補償制御の実行対象である変速であれば、その変速については上記トルク相補償制御の実行対象であるとの判断を肯定する。例えば自動変速部20の変速の種類や変速時の車両状態などで判断できるように上記実行対象が定められておりそれに基づき上記判断をする。更に例示すれば、トルク補償実行判定手段70は、シフトレバー49(図5参照)のシフトポジションPSHが「D」ポジションであるときの自動変速部20の変速であれば上記判断を肯定する一方で、上記シフトポジションPSHが「M」ポジションであるときの自動変速部20の変速であれば、搭乗者は自動変速部20を手動の有段変速機のように機能させようとしており多少の変速ショックには違和感を感じないと考えられるので、トルク補償実行判定手段70は上記判断を否定する。なお、前記自動変速部20の変速の種類とは、例えば、自動変速部20の変速が第1速から第2速への変速であるのか、第3速から第4速への変速であるのかということである。
【0077】
また、ハイブリッド制御手段52はトルク補償手段72を備えており、そのトルク補償手段72は、トルク補償実行判定手段70がその判断を肯定した場合すなわち自動変速部20の変速が前記トルク相補償制御が実行される対象の変速である場合には、その変速にて上記トルク相補償制御を実行する。そのトルク相補償制御は自動変速部20の変速のトルク相において出力トルクTOUTの変動を抑制するものであるが、その出力トルクTOUTの変動を抑制するとは例えば、その出力トルクTOUTの変動を無くすようにするということである。トルク補償手段72は、具体的には、上記トルク相において自動変速部20の出力トルクTOUTの変動を抑制するように、すなわち、その出力トルクTOUTの落込みを打ち消すように第2電動機M2の出力トルクTM2(以下、「第2電動機トルクTM2」と表す)を制御することによって前記トルク相補償制御を実行する。つまり、トルク補償手段72は第2電動機M2をトルク補償電動機として機能させ、その第2電動機M2の作動によって前記トルク相補償制御を実行するものであり、そのトルク相補償制御では、上記出力トルクTOUTが落ち込むときにその出力トルクTOUTの低下(落込み)を打ち消す方向に第2電動機トルクTM2を増大させることにより、換言すればその出力トルクTOUTの落込みを打ち消すためのトルク相補償トルクTFLを第2電動機M2に出力させることにより、上記出力トルクTOUTの落込みを小さくする。なお、第2電動機M2は前記トルク相補償制御において作動させられる本発明の駆動力源に対応する。
【0078】
上述したようにトルク補償手段72は、第2電動機M2の作動によって前記トルク相補償制御を実行するが、第2電動機M2に換えて或いは第2電動機M2と共にエンジン8の作動によって上記トルク相補償制御を実行してもよい。そのようにした場合、トルク補償手段72は、エンジン8の吸入空気量を増減するための電子スロットル弁96の開度θTH(スロットル弁開度θTH)が大きくなるほどエンジン8の吸入空気量及び燃料供給量が増しそれによりエンジントルクTが大きくなるので、スロットル弁開度θTHを制御することにより上記トルク相補償トルクTFLを制御する。なお、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御を少なくともエンジン8の作動によって実行する場合、好適には、そのトルク相補償制御をモータ走行時ではなくエンジン走行時に実行する。
【0079】
図9は、トルク補償実行判定手段70がその判断を肯定し、動力伝達装置10が無段変速状態である場合においてアクセルペダル41が踏込まれた状態で自動変速部20が第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へアップシフトされた場合を例として、前記トルク相補償制御の説明をするためのタイムチャートである。図10は、図9に示された自動変速部20の出力トルクTOUTのタイムチャートのt2時点〜t7時点の期間を抜粋した拡大図である。また、図9および図10のt2時点〜t7時点はそれぞれ各図で相互に共通の時点を示すものである。なお、図9の最下段に示すタイムチャートは第2電動機トルクTM2のタイムチャートであるが、本実施例では前記トルク相補償制御はエンジン8の作動によって実行されてもよいので、トルク相補償制御がエンジン8の作動によって実行される場合には、その最下段に示すタイムチャートは電子スロットル弁96の開度θTHのタイムチャートに読み換えられる。その場合、エンジン8の応答性は第2電動機M2の応答性と比較して低い(悪い)ので、図示されてはいないが厳密に言えば、上記電子スロットル弁96の開度θTHのタイムチャートは全体として図9に示すものすなわち第2電動機トルクTM2のタイムチャートに対して僅かに時刻の早い側(図9の左側)にずれる。
【0080】
図9のt1時点においては、図7の変速線図に基づいて自動変速部20を第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へアップシフトさせる変速判断が有段変速制御手段54によりなされる。そして、その自動変速部20の変速すなわち上記アップシフトが前記トルク相補償制御が実行される対象の変速であるか否かがトルク補償実行判定手段70によって判断され、更にその判断が肯定される。上記トルク相補償制御が実行される対象の変速であると判断されるとt1時点とt2時点との間でこの変速中に実行される上記トルク相補償制御における前記出力トルクTOUTの落込みを小さくするためのトルク補償量が決定される。そのトルク補償量とは、上記トルク相補償制御において前記トルク相での自動変速部20の出力トルクTOUT変動を抑制するための機械的エネルギ、換言すれば、その出力トルクTOUTの落込みを小さくするための機械的エネルギである。例えば、上記トルク相補償制御において上記出力トルクTOUTの落込みを小さくするために第2電動機M2が出力する機械的エネルギが上記トルク補償量である。なお、図9と図10とに示すように、前記トルク相補償制御において自動変速部20の出力トルクTOUTの落込みに対しトルクが補われるトルク補償期間の始期はt4時点でありその終期はトルク相終了時(t6時点)である。また、上記トルク補償期間の始期であるトルク補償開始時期はトルク相開始時(t3時点)と同時であっても差し支えない。上記トルク補償期間は、前記トルク相補償制御においてトルク相補償トルクTFLが出力される期間であるとも定義できる。
【0081】
図9のt2時点において、自動変速部20を第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へアップシフトさせる変速出力(変速出力指令、変速指示)が有段変速制御手段54から出力されると、解放側の油圧式摩擦係合装置(変速アクチュエータ)に対応する第2ブレーキB2の係合油圧Pb2の低減制御が開始されると共に、係合側の油圧式摩擦係合装置(変速アクチュエータ)に対応する第1ブレーキB1の係合油圧Pb1の増加制御が開始される所謂クラッチツウクラッチ変速制御が開始される。そして、t2時点において、各油圧式摩擦係合装置(B1、B2)のクラッチツウクラッチ制御が開始されると、それらの油圧式摩擦係合装置の掴み換えに起因して、前記トルク相補償制御が実行されなければ、破線L_tdwnで示すようにトルク相中において出力トルクTOUTが落ち込むこととなる。なお、実際には、t2時点の油圧制御開始直後において、係合側の係合装置(B1)の機械的なクリアランスを詰めるためのファーストフィルや解放側の係合装置(B2)の定圧待機などが実施されるまでの間は、出力トルクTOUTが変化しない、すなわちトルク相に該当しない変速準備処理期間が存在する。また、上記ファーストフィルの完了時は、図9で言えば、前記変速出力時であるt2時点と略同時と言えるほどのt2時点の直後の時点である。
【0082】
これに対して、トルク補償手段72は変速中のトルク相が始まると、そのトルク相で自動変速部20の出力トルクTOUTが平坦に推移する理想的な出力トルクTOUT変化を示す実線L_tflt(図10参照)にその出力トルクTOUT変化を近付けるように、出力トルクTOUTの落込みを低減する。ここで、図9のタイムチャートにおいて自動変速部20の出力トルクTOUTが理想的に上記実線L_tfltに示すように変化しなかったとしても、出力トルクTOUTの変化が前記破線L_tdwnで示す変化から少しでも理想的な変化である上記実線L_tfltで示す変化に近づけば、その分、変速ショックは低減され快適性は向上する。この点を踏まえ図9では例えば、トルク補償手段72は、前記トルク相の開始時であるt3時点に対し少し遅れたt4時点から前記トルク相補償制御の実行を開始する。すなわち、上記t4時点から第2電動機トルクTM2を増加させることで、言い換えれば、t4時点から第2電動機M2にトルク相補償トルクTFLを出力させることで、出力トルクTOUTを図9の実線L_tmのように変化させその出力トルクTOUTの落ち込みを低減する。上記t3時点からt4時点までの時間すなわちトルク相開始時から前記トルク補償開始時期までのトルク変動抑制開始遅延時間は予め実験的に求められており、例えば、トルク補償手段72は、前記トルク補償量との関係で、そのトルク補償量が小さいほど前記トルク補償期間を短くするために上記トルク変動抑制開始遅延時間を長い時間に設定する。さらに、t6時点においてトルク相が終了しイナーシャ相が開始されると、トルク補償手段72は前記トルク相補償制御を終了する。すなわち、トルク補償手段72は、前記トルク補償量を小さくする場合に前記トルク補償期間をそれに応じて変更せずにそのトルク補償量を小さくしてもよいし、上記トルク補償期間を短くすることにより上記トルク補償量を小さくしてもよい。そして、前記トルク補償量を小さくするために前記トルク補償期間を短くする場合、具体的には、そのトルク補償期間の終期をトルク相終了時(t6時点)に固定したまま前記トルク補償開始時期(t4時点)を遅延させることで前記トルク補償量を小さくする。t6時点からt7時点までのイナーシャ相では第2電動機M2またはエンジン8によるトルクダウン制御が実施される。上記t2時点からの制御について、以下にてさらに詳しく説明する。
【0083】
先ず、t2時点において、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へのアップシフトの変速出力(変速指示)がなされる。そして、t2時点より所定時間経過後にトルク相の開始が判定されるとその後、前記トルク補償開始時期であるt4時点からトルク補償手段72は前記トルク相補償制御を開始する。例えば、前記トルク補償開始時期を基準とした経過時間とトルク相補償トルクTFLとの関係が自動変速部20の変速の種類や車両状態や前記トルク補償量などに応じて予め実験的に設定されており、トルク補償手段72は、上記トルク相補償制御において、その経過時間とトルク相補償トルクTFLとの関係を実際の上記変速の種類や車両状態やトルク補償量などに応じて選択しその選択した関係に基づき第2電動機トルクTM2(トルク相補償トルクTFL)を制御する。
【0084】
ここで、自動変速部20のトルク相中においては、第2電動機トルクTM2を増大させても自動変速部20の伝達可能なトルク容量が小さいと、第2電動機トルクTM2が好適に出力軸22に伝達されない。そこで、トルク補償手段72が前記トルク相補償制御を実行する場合、例えば、そのトルク相補償制御を実行しない通常の変速よりも係合側の係合装置であるブレーキB1の係合油圧Pb1の立ち上がりを早くするなどの制御を併せて実行することで、自動変速部20の伝達可能なトルク容量を上記通常の変速よりも早い時期に増大させる。これにより、第2電動機M2から出力されるトルク相補償トルクTFLが自動変速部20の出力軸22に有効に伝達されるので、t3時点(t4時点)〜t6時点における出力トルクTOUTの落込みが低減される。
【0085】
前記トルク相の終了直前であるt5時点では、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御においてt5時点までは増大させていた第2電動機トルクTM2を一転して低下させる。これにより、上記トルク相の終了時であるt6時点では、出力トルクTOUTの落込みを小さくするために第2電動機M2が出力するトルク相補償トルクTFLすなわち第2電動機M2によるトルク補償分は略零になる。
【0086】
t6時点において、イナーシャ相の開始が判定されると、第2電動機M2またはエンジン8によるトルクダウン制御が開始され、t7時点において自動変速部20の変速が終了する。なお、イナーシャ相の開始および変速終了の判定は、例えば、自動変速部20の入力軸としても機能する伝達部材18の回転速度N18(以下、「伝達部材回転速度N18」と表す)が変化したか否か、並びに変化が終了したか否かに基づいて判定される。上記のように、トルク補償手段72が自動変速部20の変速過渡期(トルク相)において前記トルク相補償制御を実行することで、トルク相中の出力トルクTOUTの落込みが抑制されて変速ショックが抑制される。また、動力伝達装置10が無段変速状態である場合には、差動部11の差動作用を利用することによりエンジン回転速度Nを車速Vに拘束されないようにすることができるので、例えば、図9に示すように、ハイブリッド制御手段52が自動変速部20の変速中のエンジン回転速度Nを制御するエンジン回転速度制御手段として機能して、自動変速部20の変速開始(t2時点)から終了(t7時点)までの間においてエンジン回転速度Nを略一定となるように、換言すればエンジン回転速度Nをその変動量が零に近付くように制御する、望ましくはエンジン回転速度Nを一定となるように制御する。これにより、エンジン回転速度N変動に伴う変速ショックを低減することができる。
【0087】
このようにして自動変速部20の変速で前記トルク相補償制御は実行されるが、上記変速のトルク相での出力トルクTOUTの変動(落込み)を効果的に抑制するためには、その変動(落込み)に対しトルク相補償トルクTFLの変化が同期する必要がある。そのためには、前記トルク補償開始時期(図9のt4時点)、すなわち、そのトルク補償開始時期を定める基準となる前記トルク相開始時(図9のt3時点)が前記トルク相補償制御の実行に先立って正確に把握される必要がある。また、動力伝達装置10は出力トルクTOUTを検出するトルクセンサ等は備えていないので直接にはトルク相を検出できない。そこで、本実施例の電子制御装置40は更に、トルク補償基準時判断手段74とトルク補償タイミング学習手段76とを備えている。
【0088】
トルク補償基準時判断手段74は、前記トルク相での自動変速部20の出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制開始時期すなわち前記トルク補償開始時期が自動変速部20の変速アクチュエータの油圧値PCXすなわち係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能であるか否かを判断する。例えば、その油圧値PCXとしては自動変速部20の変速中の係合側の係合装置の油圧値PCXが採用される。係合側の係合装置の油圧値PCXは、図9の例で言えば第1ブレーキB1の係合油圧Pb1のことである。その係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能であるとは、具体的には、その係合装置の油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期が決定されたとした場合に、トルク補償手段72が前記トルク相補償制御において上記出力トルクTOUTの落込みに対しそれを補うトルク相補償トルクTFLの変化を同期させることができるということである。また、上記出力トルクTOUTの落込みに対しトルク相補償トルクTFLの変化が同期するとは、例えば、前記トルク相補償制御の実行のために予め実験的に設定されている経過時間とトルク相補償トルクTFLとの関係の前提となった出力トルクTOUTの落込みに対し実際のその出力トルクTOUTの落込みがずれないこと、或いは、ずれたとしてもそのずれ量が所定の許容範囲内であることである。
【0089】
具体的にトルク補償基準時判断手段74は、次回の前記出力トルクTOUTの変動の抑制開始時期(トルク補償開始時期)について判断する。すなわち、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクTOUTの変動の抑制開始時期(トルク補償開始時期)が前記係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能であるか否かが、その油圧値PCXが自動変速部20の変速中に所定の油圧判定値P1CXに到達した時と自動変速部20の変速のイナーシャ相の開始時とを比較することにより判断される。そして、この判断は、伝達部材回転速度N18の変化から自動変速部20の変速のイナーシャ相開始が検出された後においてなされる。
【0090】
例えば、前記油圧判定値P1CXは、当初解放状態とされている係合側の係合装置の機械的クリアランスを速やかに詰めるようにその係合装置の油圧シリンダへ作動油を急速充填する前記ファーストフィル(クイックフィル)の完了を示す実験的に求められた油圧値PCXに設定されている。そして、トルク補償基準時判断手段74は、自動変速部20の変速中の係合側係合装置の実際の油圧値PCXがそのファーストフィルの完了を示す油圧判定値P1CXに到達した時と前記イナーシャ相の開始時とをそれぞれ検出し比較する。その上で、その検出の結果として上記油圧値PCXが上記油圧判定値P1CXに到達した時に対し上記イナーシャ相の開始時が後である場合には、次回以降の変速での前記トルク補償開始時期が上記油圧値PCXに基づいて決定可能であるとの判断を肯定する。一方で、上記油圧値PCXが上記油圧判定値P1CXに到達した時に対し上記イナーシャ相の開始時が前もしくは同時である場合には、上記検出の結果に矛盾があるので上記判断を否定する。上記油圧値PCXは油圧センサによって検出され、上記イナーシャ相の開始時は伝達部材回転速度N18の変化から検出されるので、上記判断が否定されることもあり得る。
【0091】
また別の例として、後述するように上記油圧値PCXが前記ファーストフィルの完了を示す油圧判定値P1CXに到達した時を基準として前記トルク相補償制御の実行タイミングがトルク補償タイミング学習手段76によって学習されるので、そのときの学習の進行度合いが所定限度以上になっても、言い換えれば、そのときの学習回数が所定の学習限度回数に達しても、上記実行タイミングを定めるための学習値が所定の許容範囲内に収束しない場合には、トルク補償基準時判断手段74は前記判断を否定するものとしてもよい。なお、トルク補償基準時判断手段74は上記判断を一度でも否定した場合にはその否定した状態を継続するのが望ましい。また、自動変速部20の変速が前記トルク相補償制御の実行対象であるとトルク補償実行判定手段70により判断された場合にトルク補償基準時判断手段74の判断がなされることが望ましい。
【0092】
トルク補償タイミング学習手段76は、自動変速部20の変速が前記トルク相補償制御の実行対象であるとトルク補償実行判定手段70により判断された場合にはその変速において、そのトルク相補償制御の実行タイミングすなわち前記トルク補償開始時期を学習する。具体的にトルク補償タイミング学習手段76は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を肯定した場合すなわち前記トルク相補償制御における出力トルクTOUTの変動の抑制開始時期(トルク補償開始時期)が前記係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能である場合には、出力トルクTOUTの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、すなわち、その落込みに対しトルク相補償トルクTFLの変化が同期するように、上記油圧値PCXが前記変速中に前記油圧判定値P1CXに到達した時を基準とした前記トルク補償開始時期を学習する。一方で、トルク補償基準時判断手段74がその判断を否定した場合には、出力トルクTOUTの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、すなわち、その落込みに対しトルク相補償トルクTFLの変化が同期するように、変速指令信号の出力時すなわち自動変速部20の変速を指令する前記変速指示の出力時(変速出力時)を基準とした前記トルク補償開始時期を学習する。その学習では、何れを基準とする場合でも、自動変速部20の変速のイナーシャ相の開始時が用いられる。
【0093】
詳細には、前記トルク相開始時の時間的な正確性が高まればそのトルク相開始時を基準に定まる前記トルク補償開始時期の時間的な正確性も高まるので、トルク補償タイミング学習手段76が前記トルク補償開始時期を学習するということは、前記油圧値PCXを基準とする場合でも前記変速出力時を基準とする場合でも、前記トルク相開始時を決定するための学習値を上記学習により更新することである。例えば、トルク補償タイミング学習手段76は、上記油圧値PCXの前記油圧判定値P1CX到達時を基準とした前記トルク補償開始時期を学習する場合には、油圧センサにより検出される上記油圧値PCXが油圧判定値P1CXに到達した時から、予め実験的に初期値が設定された学習値である油圧基準経過時間tt1が経過した時点を、油圧値PCX基準のトルク相開始時time_pcxとして算出する。更に、イナーシャ相開始時を伝達部材回転速度N18の変化から検出した上で、その検出したイナーシャ相開始時よりも、トルク相の所要時間として実験的に設定された所定時間t_trq前の時点をイナーシャ相開始時基準のトルク相開始時time_intとして算出する。そして、トルク補償タイミング学習手段76は、算出した上記油圧値PCX基準のトルク相開始時time_pcxとイナーシャ相開始時基準のトルク相開始時time_intとを比較しその両者間の時間差d_time1(=time_int−time_pcx)を算出する。その算出後、トルク補償タイミング学習手段76は、上記時間差d_time1が予め実験的に定められた学習終了を判断するための許容範囲内に収まっていれば、上記油圧値PCXの前記油圧判定値P1CX到達時を基準とした前記トルク補償開始時期の学習すなわち油圧基準経過時間tt1の学習を終了し、その旨をトルク補償手段72に出力する。一方で、上記時間差d_time1が上記許容範囲内に収まっていなければ、油圧基準経過時間tt1の学習を継続する、すなわち、前記トルク相補償制御の実行対象となる次回の自動変速部20の変速で上記時間差d_time1が上記許容範囲内に収まるように油圧基準経過時間tt1を更新する。例えば、トルク補償タイミング学習手段76は、その時間差d_time1(=time_int−time_pcx)が正の値であれば油圧基準経過時間tt1を大きくし、逆に、その時間差d_time1が負の値であれば油圧基準経過時間tt1を小さくする。
【0094】
また、トルク補償タイミング学習手段76は、前記変速指示の出力時(変速出力時)を基準とした前記トルク補償開始時期を学習する場合も、例えば上記と同様に学習する。つまり、トルク補償タイミング学習手段76は、前記変速指示の出力時を基準とした前記トルク補償開始時期を学習する場合には、上記変速指示の出力時(変速出力時)から、予め実験的に初期値が設定された学習値である変速指示基準経過時間tt2が経過した時点を、変速指示基準のトルク相開始時time_cmdとして算出する。更に、イナーシャ相開始時を伝達部材回転速度N18の変化から検出した上で、その検出したイナーシャ相開始時よりも前記所定時間t_trq前の時点をイナーシャ相開始時基準のトルク相開始時time_intとして算出する。そして、トルク補償タイミング学習手段76は、算出した上記変速指示基準のトルク相開始時time_cmdとイナーシャ相開始時基準のトルク相開始時time_intとを比較しその両者間の時間差d_time2(=time_int−time_cmd)を算出する。その算出後、トルク補償タイミング学習手段76は、上記時間差d_time2が予め実験的に定められた学習終了を判断するための許容範囲内に収まっていれば、前記変速指示の出力時を基準とした前記トルク補償開始時期の学習すなわち変速指示基準経過時間tt2の学習を終了し、その旨をトルク補償手段72に出力する。一方で、上記時間差d_time2が上記許容範囲内に収まっていなければ、変速指示基準経過時間tt2の学習を継続する、すなわち、前記トルク相補償制御の実行対象となる次回の自動変速部20の変速で上記時間差d_time2が上記許容範囲内に収まるように変速指示基準経過時間tt2を更新する。例えば、トルク補償タイミング学習手段76は、その時間差d_time2(=time_int−time_cmd)が正の値であれば変速指示基準経過時間tt2を大きくし、逆に、その時間差d_time2が負の値であれば変速指示基準経過時間tt2を小さくする。
【0095】
このようにトルク補償タイミング学習手段76は、前記トルク補償開始時期の学習、すなわち、前記油圧基準経過時間tt1および変速指示基準経過時間tt2の学習を行うが、例えば、その学習は、自動変速部20の変速の種類、自動変速部20の変速時(例えば、その変速開始時)のアクセル開度Accや車速Vや作動油温などの車両状態が異なるそれぞれの動作領域ごとにそれぞれ行われる。なお、トルク補償タイミング学習手段76は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を肯定した場合には、前記油圧値PCXの前記油圧判定値P1CX到達時を基準とした前記トルク補償開始時期の学習、具体的には前記油圧基準経過時間tt1の学習を行う一方で、トルク補償基準時判断手段74がその判断を否定した場合には、変速出力時を基準とした前記トルク補償開始時期の学習、具体的には変速指示基準経過時間tt2の学習を行うが、トルク補償基準時判断手段74の判断に拘わらず油圧基準経過時間tt1及び変速指示基準経過時間tt2を並行に学習しても差し支えない。
【0096】
前述したようにトルク補償手段72は、トルク補償実行判定手段70がその判断を肯定した場合すなわち自動変速部20の変速が前記トルク相補償制御が実行される対象の変速である場合には、その変速にて上記トルク相補償制御を実行するが、その実行に先立ってそのトルク相補償制御における前記出力トルクTOUTの変動の抑制開始時期すなわち前記トルク補償開始時期を決定する。
【0097】
具体的にトルク補償手段72は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を肯定した場合すなわち上記トルク補償開始時期が前記係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能である場合には、その油圧値PCXに基づいてトルク相開始を判断する、具体的には、その油圧値PCXが前記油圧判定値P1CXに到達した時を基準にトルク相開始を判断する。すなわち、その油圧値PCXが油圧判定値P1CXに到達した時から前記油圧基準経過時間tt1が経過した時点を実際のトルク相開始時であると看做す。そして、トルク補償手段72は、その看做したトルク相開始時から前記トルク変動抑制開始遅延時間(図9参照)が経過した時点を前記トルク補償開始時期と決定する。要するに、上記油圧値PCXに基づいてそのトルク補償開始時期を決定する。
【0098】
一方で、トルク補償手段72は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を否定した場合には、前記変速指示に基づいてトルク相開始を判断する、具体的には、その変速指示の出力時(変速出力時)を基準にトルク相開始を判断する。すなわち、上記変速指示の出力時(変速出力時)から前記変速指示基準経過時間tt2が経過した時点を実際のトルク相開始時であると看做す。そして、トルク補償手段72は、その看做したトルク相開始時から前記トルク変動抑制開始遅延時間(図9参照)が経過した時点を前記トルク補償開始時期と決定する。要するに、上記変速指示に基づいてそのトルク補償開始時期を決定する。
【0099】
トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御の実行対象であると判断された自動変速部20の変速において、前記油圧値PCXもしくは変速指示に基づいてトルク補償開始時期を決定した後、そのトルク補償開始時期で第2電動機M2の作動により前記出力トルクTOUTの変動の抑制を開始する。すなわち、そのトルク補償開始時期からトルク相終了時までの間で第2電動機M2にトルク相補償トルクTFLを出力させることにより前記トルク相補償制御を実行する。このとき、トルク補償手段72は、前記油圧値PCXと変速指示との何れに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合であっても、トルク補償タイミング学習手段76によるトルク相補償制御の実行タイミングの学習の進行度合い例えばその学習についての学習回数に応じて、前記トルク相補償制御でのトルク補償率を変更する。更には、それと併せて或いはその学習の進行度合いに替えて、自動変速部20の変速時のアクセル開度Accに応じて上記トルク補償率を変更してもよい。ここで、そのトルク補償率は、前記トルク相補償制御において前記出力トルクTOUTの落込み(変動)に対しトルクが補われる割合であり、詳細には、上記出力トルクTOUTの落込み(変動)を無くすために必要とされる前記トルク補償量(機械的エネルギ)である完全トルク相補償量を基準としたそれに対する、上記落込みを小さくするための実際のトルク補償量の割合である。その出力トルクTOUTの落込みを無くすこととは、具体的に言えば、その出力トルクTOUTを無くし実線L_tflt(図10参照)のように平坦に維持することであり、すなわち、その出力トルクTOUT落込みの全部を無くすことである。その完全トルク相補償量は、例えば、アクセル開度Acc及び車速Vなどで例示される車両状態や自動変速部20の変速の種類などとの関係が実験的に求められており、トルク補償手段72には、その車両状態や変速の種類などと上記完全トルク相補償量との関係が予め記憶されている。
【0100】
具体的にトルク補償手段72は、前記実行タイミングの学習の進行度合いに応じて前記トルク補償率を変更する場合には、前記トルク相補償制御の実行タイミング(トルク補償開始時期)の学習が進行するほど、すなわち、その学習の進行度合い例えば学習回数が大きいほど、前記トルク補償率を大きくする。例えば、トルク補償手段72は、上記トルク補償開始時期の学習が終了したとの判断、すなわち、そのトルク補償開始時期を決定するために用いた学習値tt1又はtt2の学習が終了したとの判断がトルク補償タイミング学習手段76によってなされるまではそのトルク補償率を零とする一方で、上記学習が終了したと判断されればそのトルク補償率を学習終了後の所定トルク補償率として予め定められた割合(例えば、100%)に設定してもよいし、或いは、上記学習が終了(完了)したとの判断がなされたときに上記トルク補償率が上記学習終了後の所定トルク補償率になるように上記学習回数が大きくなるに従って徐々に上記トルク補償率を大きくしてもよい。なお、上記トルク補償率を零にするということは前記トルク相補償制御を実行しないことと実質的に等しい。
【0101】
また、トルク補償手段72は、自動変速部20の変速時のアクセル開度Accに応じて上記トルク補償率を変更する場合には、前記実行タイミングの学習の進行度合いが同じであるとすれば、そのアクセル開度Accがより低開度であるほど上記トルク補償率を大きくする。すなわち、アクセル開度Accがより低開度の動作領域での変速であるほど、上記トルク補償率を大きくする。なぜなら、アクセル開度Accがより低開度であるほど自動変速部20の入力トルクが小さいためそれの変速時の前記出力トルクTOUTの落込みが小さくそれを打ち消すための前記完全トルク相補償量が小さくなるからである。例えば、アクセル開度Accが極低度であれば前記トルク補償率が100%であったとしてもそのときの前記トルク補償量は小さく、上記出力トルクTOUTの落込みと前記トルク相補償制御におけるトルク相補償トルクTFLの変化との間に時間的なずれが生じたとしてもそれが変速ショックに及ぼす影響は小さいと考えられるので、変速ショックがより積極的に低減された方がよいと考えられるからである。
【0102】
上記のようにトルク補償手段72が上記トルク補償率を変更する場合、例えば、図11に示すようにアクセル開度Acc、上記学習回数(学習の進行度合い)、及び上記トルク補償率の相互間の関係が予め実験的に定められており、それに従ってトルク補償手段72は前記トルク相補償制御における上記トルク補償率を決定する。
【0103】
ここで、図11は、前記学習回数が大きいほど前記トルク補償率が大きくなる両者の関係を示す図であって、その両者の関係がアクセル開度Accが高開度であるほど上記トルク補償率が小さくなる側にずれるものである。具体的に図11では、その学習回数とトルク補償率との関係は、アクセル開度Accが低開度の自動変速部20の変速では二点鎖線LR_lwで示され、アクセル開度Accが中開度の変速ではその二点鎖線LR_lwよりもトルク補償率が小さくなる側の一点鎖線LR_mdで示され、アクセル開度Accが最大開度の変速すなわちWOT変速ではその一点鎖線LR_mdよりもトルク補償率が小さくなる側の実線LR_mxで示されている。上記WOTとは「Wide Open Throttle」の略であり、WOT変速とはアクセル開度Accと一対一の対応関係にあるスロットル弁開度θTHが最大開度であるときの自動変速部20の変速のことである。この図11の横軸の前記学習回数が同一である場合で上記二点鎖線LR_lw、一点鎖線LR_md、実線LR_mxのそれぞれが示すトルク補償率を相互に比較すれば判るように、トルク補償手段72は、前記実行タイミングの学習の進行度合いすなわち上記学習回数が同じであるとすれば、アクセル開度Accがより低開度であるほど上記トルク補償率を大きくする。
【0104】
更に、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御において、前記変速指示に基づいて前記トルク補償開始時期を決定する場合、すなわち、その変速指示に基づいて決定したトルク補償開始時期で出力トルクTOUT変動の抑制を開始する場合には、前記油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較して、前記学習の進行度合い及び上記出力トルクTOUTの落込み量などの他の条件が同じであるとすれば、前記トルク補償量を小さくしてもよい。このとき、前記トルク補償期間を短縮することによりトルク補償量を小さくしてもよい。
【0105】
上記のようにトルク補償手段72が前記変速指示に基づいて前記トルク補償開始時期を決定する場合と前記油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合との間で相互に前記トルク補償量に差を設ける場合には、例えば、図12に示すようにアクセル開度Accとトルク補償量との関係が上記トルク補償開始時期を決定する基準(油圧値PCX、変速指示)ごとに予め実験的に定められており、それに従ってトルク補償手段72は前記トルク相補償制御における上記トルク補償量を決定する。
【0106】
ここで、図12は、アクセル開度Accが大きいほど前記トルク補償量が大きくなる両者の関係を示す図であって、前記変速指示基準で前記トルク補償開始時期が決定される場合の上記両者の関係を示す一点鎖線L_tsgは、油圧センサにより検出される前記油圧値PCX基準で上記トルク補償開始時期が決定される場合の上記両者の関係を示す実線L_tpsに対して上記トルク補償量の小さい側にずれたものとなっている。上記一点鎖線L_tsgが示す関係と実線L_tpsが示す関係とにおける前記学習の進行度合いは、その学習の終了後(完了後)であるなど例えば相互に等しいものである。図12の横軸のアクセル開度Accを同一として上記一点鎖線L_tsgと実線L_tpsとのそれぞれが示すトルク補償量を相互に比較すれば判るように、トルク補償手段72は、前記変速指示基準で前記トルク補償開始時期を決定する場合には、前記油圧値PCX基準で上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較して、前記トルク補償量を小さくする。
【0107】
このようにトルク補償手段72は、例えば、図12に示すような関係で前記トルク補償量を決定するが、前記トルク補償率は前記完全トルク相補償量とトルク補償量とから定まる関係にあるので、そのトルク補償率に着目した表現も可能である。例えば、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御において、前記変速指示に基づいて決定した前記トルク補償開始時期で第2電動機M2の作動により前記出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制を開始する場合には、前記油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較して、前記学習の進行度合い及び上記出力トルクTOUTの落込み量などの他の条件が同じであるとすれば、前記トルク補償率を小さくすると言える。前記完全トルク相補償量が同じであれば、前記トルク補償量を小さくすることは上記トルク補償率を小さくすることだからである。
【0108】
なお、本実施例で、前記トルク相補償制御の実行の際に決定される前記トルク補償開始時期、前記トルク補償期間、前記トルク補償量、および前記トルク補償率などの各パラメータはその決定順序に特に制限はなく、つまり、何れが先に決定されても同時に決定されても差し支えない。例えば、トルク補償手段72は、前記トルク補償開始時期を決定するための基準(油圧値PCX、変速指示)に応じて前記トルク補償率を変更するが、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御において前記変速指示に基づいて決定した前記トルク補償開始時期で出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制を開始する場合には、前記油圧値PCXに基づく場合と比較して、前記トルク補償量を低減することにより又は前記トルク補償期間を短縮することにより前記トルク補償率を小さくしてもよい。そのトルク補償期間を短縮することとは、前記トルク変動抑制開始遅延時間(図9参照)を長くして上記トルク補償開始時期を遅延させることである。
【0109】
また、図12ではアクセル開度Accが大きいほど前記トルク補償量が大きくなる一方で、図11では、その横軸の学習回数を同一とすればアクセル開度Accが大きいほど前記トルク補償率が小さくなる。これについては、アクセル開度Accが大きいほど前記トルク相での出力トルクTOUTの落込み量が大きくなりそのためそれを打ち消す前記完全トルク相補償量も大きくなり、また、上記トルク補償率はその完全トルク相補償量に対する前記トルク補償量の割合であるので、その完全トルク相補償量が異なる場合には上記トルク補償率とトルク補償量とは一対一の関係にはならないことがあり、図11と図12とは相互に矛盾せず成立し得る関係である。
【0110】
以上のようにトルク補償手段72は、トルク補償基準時判断手段74の判断に従い前記油圧値PCX又は前記変速指示に基づいて前記トルク補償開始時期を決定した上で、その決定したトルク補償開始時期からトルク相終了時までの間で第2電動機M2にトルク相補償トルクTFLを出力させる前記トルク相補償制御を実行する。
【0111】
図13は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち、前記油圧値PCXと前記変速指示との何れかを基準に前記トルク相補償制御の実行タイミングが決定された上でそのトルク相補償制御が実行される制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0112】
先ず、トルク補償実行判定手段70に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、図7の変速線図に基づいて自動変速部20の変速判断がなされた場合に、その自動変速部20の変速が前記トルク相補償制御の実行対象の変速であるか否かが判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、上記変速が前記トルク相補償制御の実行対象である場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0113】
トルク補償基準時判断手段74に対応するSA2においては、前記トルク補償開始時期すなわちそれを決定する基準である前記トルク相開始時が自動変速部20の係合装置(変速アクチュエータ)の油圧値PCXに基づいて決定可能であるか否かが判断される。言い換えれば、油圧センサにより検出される油圧値PCXを基準にしてトルク相開始の正確な判断が可能か否かが判断される。具体的には、その油圧値PCXに基づいて決定された上記トルク補償開始時期で前記トルク相補償制御が実行されるとした場合に、前記出力トルクTOUTの落込みに対しトルク相補償トルクTFLの変化を同期させることができると予測されれば、そのトルク補償開始時期が油圧値PCXに基づいて決定可能であるとしてSA2の判断は肯定される。上記予測は、例えば、自動変速部20の変速中において係合側の係合装置の油圧値PCXが前記油圧判定値P1CXに到達した時と上記変速のイナーシャ相の開始時とを比較することによりなされ、その油圧値PCXが前記油圧判定値P1CXに到達した時に対し上記イナーシャ相の開始時が後である場合にはSA2の判断が肯定される。この判断は、例えばイナーシャ相開始後に行われるので、その場合、自動変速部20の前回の変速でのSA2の判断結果が今回の変速に適用される。また、前記トルク相補償制御の実行タイミングの学習制御において学習回数が所定の学習限度回数に達しても学習値が収束しない場合には、このSA2の判断が否定されるとしてもよい。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、上記トルク補償開始時期が前記油圧値PCXに基づいて決定可能である場合には、SA3に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、SA4に移る。
【0114】
トルク補償手段72に対応するSA3においては、油圧センサにより検出される油圧値PCXを基準にしてトルク相開始が判断される。具体的には、その油圧値PCXが前記油圧判定値P1CXに到達した時から前記油圧基準経過時間tt1が経過した時点が実際のトルク相開始時であると看做される。そして、そのトルク相開始時から前記トルク変動抑制開始遅延時間が経過した時点が前記トルク補償開始時期として決定される。SA3の次はSA5に移る。
【0115】
トルク補償手段72に対応するSA4においては、前記変速指示の出力時(変速出力時)を基準にしてトルク相開始が判断される。具体的には、その変速指示の出力時(変速出力時)から前記変速指示基準経過時間tt2が経過した時点が実際のトルク相開始時であると看做される。そして、そのトルク相開始時から前記トルク変動抑制開始遅延時間が経過した時点が前記トルク補償開始時期として決定される。上記SA3で用いられるトルク変動抑制開始遅延時間とSA4で用いられるトルク変動抑制開始遅延時間とが互いに同一値である必要は無く、例えば、SA4のトルク変動抑制開始遅延時間がSA3のそれに対して長くされていてもよい。このようにしたとすれば、変速出力時基準でトルク相開始が判断される場合には、油圧値PCX基準の場合と比較して前記トルク相補償制御のトルク補償期間が短縮される。SA4の次はSA5に移る。
【0116】
トルク補償タイミング学習手段76に対応するSA5においては、前記トルク相補償制御の実行タイミング(トルク補償開始時期)の学習が終了しているか否かが判断される。具体的には、上記SA3の実行後のSA5においては、前記油圧基準経過時間tt1の学習が終了しているか否かが判断される。一方で、上記SA4の実行後のSA5においては、前記変速指示基準経過時間tt2の学習が終了しているか否かが判断される。このSA5の判断が肯定された場合、すなわち、上記学習が終了している場合には、SA6に移る。一方、このSA5の判断が否定された場合には、SA7に移る。
【0117】
トルク補償手段72に対応するSA6においては、前記トルク補償率が前記学習終了後の所定トルク補償率(例えば、100%)に設定される。このとき、例えば図12に示すように、前記変速出力時基準でトルク相開始が判断される場合には、前記油圧値PCX基準の場合と比較して前記トルク補償量が小さくされるように、前記トルク補償率が変更されてもよい。更に、前記SA3又はSA4で決定されたトルク補償開始時期が上記トルク補償量に応じて調整されてもよい。SA6の次はSA8に移る。
【0118】
トルク補償手段72に対応するSA7においては、前記トルク相補償制御の実行タイミング(トルク補償開始時期)の学習の進行度合い例えばその学習についての学習回数に応じて、前記トルク補償率が変更され設定される。例えば、図11の二点鎖線LR_lw、一点鎖線LR_md、又は実線LR_mxに示す関係に基づいて上記トルク補償率が設定される。或いは、上記トルク補償率が零に設定されてもよい。また、例えば図12に示すように、前記変速出力時基準でトルク相開始が判断される場合には、前記油圧値PCX基準の場合と比較して前記トルク補償量が小さくされるように、前記トルク補償率が変更されてもよい。更に、前記SA3又はSA4で決定されたトルク補償開始時期が上記トルク補償量に応じて調整されてもよい。なお、上記学習の進行度合いとしては、前記SA3の実行後のSA7では前記油圧基準経過時間tt1の学習の進行度合いが採用され、前記SA4の実行後のSA7では前記変速指示基準経過時間tt2の学習の進行度合いが採用される。
【0119】
トルク補償手段72に対応するSA8においては、自動変速部20の変速のトルク相において、前記SA6又はSA7で設定されたトルク補償率の前記トルク相補償制御が実行される。
【0120】
本実施例には次のような効果(A1)乃至(A12)がある。(A1)本実施例によれば、トルク補償手段72は、トルク補償実行判定手段70がその判断を肯定した場合すなわち自動変速部20の変速が前記トルク相補償制御が実行される対象の変速である場合には、その変速にて前記出力トルクTOUTの変動(落込み)を抑制する上記トルク相補償制御を実行するので、その変速において変速ショックが低減される。
【0121】
(A2)また、本実施例によれば、トルク補償手段72は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を肯定した場合すなわち上記トルク補償開始時期が前記係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能である場合には、油圧センサにより検出される前記油圧値PCXに基づいて決定した前記トルク補償開始時期で第2電動機M2の作動により前記出力トルクTOUTの変動の抑制を開始する一方で、トルク補償基準時判断手段74がその判断を否定した場合には、前記変速指示の出力時(変速出力時)に基づいて決定した上記トルク補償開始時期で第2電動機M2の作動により前記出力トルクTOUTの変動の抑制を開始する。従って、トルク補償基準時判断手段74の判断が肯定された場合には、トルク補償手段72は、前記変速出力時に基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較して、自動変速部20の出力トルクTOUTの落込みに対しより正確に同期させて前記トルク相補償制御を実行することが可能である。その結果、作動油温等の影響を抑えて変速ショック発生の可能性を一層低減できる。また、トルク補償基準時判断手段74の判断が否定される場合にも、前記油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較して時間的正確性は劣ることがあるものの、前記変速出力時に基づいて上記トルク補償開始時期を決定することができる。
【0122】
(A3)また、本実施例によれば、例えば、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御において、前記変速指示に基づいて決定した前記トルク補償開始時期で第2電動機M2の作動により前記出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制を開始する場合には、前記油圧値PCXに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合と比較して前記トルク補償率を小さくする。そのようにしたとすれば、もし自動変速部20の出力トルクTOUTの落込みと前記トルク相補償制御の進行との同期が、上記油圧値PCXに基づいてトルク補償開始時期を決定する場合と比較して正確でなかったとしても、言い換えれば、その両者間に時間的なずれが生じたとしても、変速ショックが大きなること無く変速ショック発生の可能性を低減できる。
【0123】
(A4)また、本実施例によれば、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御において前記変速指示に基づいて決定した前記トルク補償開始時期で出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制を開始する場合には、前記油圧値PCXに基づく場合と比較して、前記トルク補償量を低減することにより又は前記トルク補償期間を短縮することにより前記トルク補償率を小さくしてもよい。そのようにしたとすれば、何れかの適した方法でそのトルク補償率を小さくすることができる。
【0124】
(A5)また、本実施例によれば、トルク補償基準時判断手段74は、油圧センサによって検出される係合側係合装置の油圧値PCXが自動変速部20の変速中に前記油圧判定値P1CXに到達した時と自動変速部20の変速のイナーシャ相の開始時とを比較することにより、前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクTOUTの変動の抑制開始時期(トルク補償開始時期)が上記油圧値PCXに基づいて決定可能であるか否かを判断する。そして、上記イナーシャ相の開始時は伝達部材回転速度N18の変化から比較的容易に検出できる。従って、前記トルク相での前記出力トルクTOUTの落込みと前記トルク相補償制御における第2電動機M2の作動との間の時間的なずれが容易に推定され、トルク補償基準時判断手段74はその判断を容易に行うことができる。
【0125】
(A6)また、本実施例によれば、トルク補償タイミング学習手段76は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を肯定した場合すなわち前記トルク相補償制御における出力トルクTOUTの変動の抑制開始時期(トルク補償開始時期)が前記係合装置の油圧値PCXに基づいて決定可能である場合には、出力トルクTOUTの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、上記油圧値PCXが前記油圧判定値P1CXに到達した時を基準とした前記トルク補償開始時期を学習するので、トルク補償手段72は、その学習の進行に従って、前記トルク相での出力トルクTOUTの落込みに対しより正確に同期させてトルクを補うように前記トルク相補償制御を実行することが可能である。また、上記係合装置の油圧値PCXと上記出力トルクTOUTの落込みとの時間的な連動性は高いので、上記学習がある程度進めばその落込みに対する前記トルク補償開始時期の時間的正確性が高くなる。
【0126】
(A7)また、本実施例によれば、トルク補償タイミング学習手段76は、トルク補償基準時判断手段74がその判断を否定した場合には、出力トルクTOUTの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記変速指示の出力時(変速出力時)を基準とした前記トルク補償開始時期を学習するので、トルク補償手段72は、その学習の進行に従って、前記トルク相での出力トルクTOUTの落込みに対しより正確に同期させてトルクを補うように前記トルク相補償制御を実行することが可能である。また、上記変速指示は特にセンサなどが必要でなく容易に検出できるので、上記トルク補償開始時期を決定するための基準を容易に確保できる。
【0127】
(A8)また、本実施例によれば、動力伝達装置10には、エンジン8と駆動輪38との間に連結された動力分配機構16と、その動力分配機構16に動力伝達可能に連結され動力分配機構16の差動状態を制御するための第1電動機M1とが設けられているので、自動変速部20は段階的にその変速比を変更する有段変速機であるが、動力分配機構16の差動状態が制御されることにより動力伝達装置10全体としてはその変速比γTを連続的に変更することができる無段変速機として機能させることが可能である。
【0128】
(A9)また、本実施例によれば、動力伝達装置10が無段変速状態である場合には、例えば図9に示すように、ハイブリッド制御手段(エンジン回転速度制御手段)52は、自動変速部20の変速開始(図9のt2時点)から終了(図9のt7時点)までの間においてエンジン回転速度Nを略一定となるように制御する。そのようにすれば、エンジン8の回転速度変動によるショックを抑制することができる。なお、エンジン回転速度Nは、動力分配機構16の差動状態が制御されることによって略一定となるように制御される。
【0129】
(A10)また、本実施例によれば、第2電動機M2は前記トルク相補償制御において作動させられる駆動力源である。また、電動機は一般に、エンジン8などの内燃機関と比較してその出力トルクを応答性よく変化させることが可能である。従って、トルク補償手段72は、前記トルク相補償制御において自動変速部20の出力トルクTOUTの一時的な落込みに対し応答性良くトルクを補うことが可能である。
【0130】
(A11)また、本実施例によれば、トルク補償手段72は、前記油圧値PCXと変速指示との何れに基づいて上記トルク補償開始時期を決定する場合であっても、トルク補償タイミング学習手段76による前記トルク相補償制御の実行タイミングの学習の進行度合いに応じて前記トルク補償率を変更する場合には、図11に示すように、その実行タイミング(トルク補償開始時期)の学習が進行するほど前記トルク補償率を大きくする。例えば、トルク補償手段72は、上記トルク補償開始時期の学習が終了したとの判断、すなわち、そのトルク補償開始時期を決定するために用いた学習値tt1又はtt2の学習が終了したとの判断がトルク補償タイミング学習手段76によってなされるまではそのトルク補償率を零としてもよい。このようにすれば、自動変速部20の出力トルクTOUTの落込みと前記トルク相補償制御の進行との間に時間的なずれが生じ易い上記学習の進行度合いが低い場合には上記トルク補償率がそれほど大きくはされてはいないので、その時間的なずれに起因して変速ショックが生じることが抑えられ、変速ショック発生の可能性を低減できる。
【0131】
(A12)また、本実施例によれば、前記実行タイミングの学習の進行度合いが同じであるとすれば、すなわちその学習の同一進行度合いで比較するとして、トルク補償手段72は、自動変速部20の変速時のアクセル開度Accがより低開度であるほど、換言すれば、そのアクセル開度Accがより低開度の動作領域での変速であるほど、前記トルク補償率を大きくしてもよい。ここで、上記アクセル開度Accがより低開度であるほど、前記出力トルクTOUTの落込みは小さくそのためその落込みを平坦にするための前記トルク補償量が小さいので、上記落込みと前記トルク相補償制御の進行との間の時間的なずれが生じたとしてもそれが変速ショックに及ぼす影響は小さい。従って、上記のようにすれば、上記時間的なずれが変速ショックに及ぼす影響が小さい場合には前記トルク相補償制御において積極的に上記落込みに対しトルクが補われ、アクセル開度Accに応じて前記トルク補償率が変わらない場合と比較して、変速ショック低減効果をより早期に高くすることが可能である。
【0132】
続いて、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0133】
図14は本発明の他の実施例における車両用動力伝達装置110(以下、「動力伝達装置110」と表す)の構成を説明する骨子図であり、図15はその動力伝達装置110の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表であり、図16はその動力伝達装置110の変速作動を説明する共線図である。
【0134】
本発明の制御装置が適用される図14の動力伝達装置110は、第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部112とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部112は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28とを備えている。第1遊星歯車装置26の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置28の第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1遊星歯車装置26の第1キャリヤCA1と第2遊星歯車装置28の第2リングギヤR2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第1リングギヤR1は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0135】
以上のように構成された動力伝達装置110では、例えば、図15の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置110では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部112とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部112とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置110は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0136】
例えば、動力伝達装置110が有段変速機として機能する場合には、図15に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2が解放される。
【0137】
しかし、動力伝達装置110が無段変速機として機能する場合には、図15に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部112が有段変速機として機能することにより、自動変速部112の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部112の入力回転速度N18すなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0138】
図16は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と変速部(有段変速部)或いは第2変速部として機能する自動変速部112とから構成される動力伝達装置110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0139】
図16における自動変速部112の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1リングギヤR1をそれぞれ表している。また、自動変速部112において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部112の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0140】
自動変速部112では、図16に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R1)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA2)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA1,R2)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0141】
本実施例の動力伝達装置110においても、図6を用いて前述したような制御機能が適用されるので、前述の第1実施例と同様の効果が得られる。
【0142】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0143】
例えば、前述の実施例において、図11では、二点鎖線LR_lw、一点鎖線LR_md、実線LR_mxのそれぞれの勾配、すなわち、前記トルク相補償制御の実行タイミング(トルク補償開始時期)の学習回数などで例示される学習の進行度合いに対する前記トルク補償率の増加率は相互に等しいが、これは一例であってそれらが相互に等しい必要は特に無い。例えば、トルク補償手段72は、自動変速部20,112の変速時のアクセル開度Accがより低開度であるほど、すなわち、アクセル開度Accがより低開度の動作領域での変速であるほど、上記トルク補償率の増加率を大きくするものであっても差し支えない。
【0144】
また、前述の実施例において、図12では、実線L_tpsと一点鎖線L_tsgとのそれぞれの勾配は相互に等しいが、その勾配が相互に等しい必要は特に無い。
【0145】
また、前述の実施例においては、図13のフローチャートのSA1の判断が肯定された場合にSA2以下のステップが実行されるが、そのフローチャートに上記SA1が無く上記SA2から始まるフローチャートも考え得る。
【0146】
また、前述の実施例においては、トルク補償タイミング学習手段76によって前記トルク相補償制御の実行タイミングの学習制御が実行されるが、そのような学習制御が無いことも考え得る。そのようにした場合には、図11に示すように、トルク補償手段72が前記学習回数が大きいほど前記トルク補償率を大きくすることもない。
【0147】
また、前述の実施例においては、前記油圧判定値P1CXは、例えば、前記ファーストフィルの完了を示す実験的に求められた油圧値PCXに設定されているが、そのファーストフィル完了時を示す油圧値PCXに限定されるものではなく、トルク相開始時を推定するための基準となればそれでよい。
【0148】
また、前述の実施例において、具体的には、トルク補償基準時判断手段74は、前記トルク相での自動変速部20の次回の出力トルクTOUTの変動(落込み)の抑制開始時期(トルク補償開始時期)が自動変速部20の変速アクチュエータの油圧値PCXに基づいて決定可能であるか否かを判断するが、それが次回のものである必要は無く、現に変速判断がなされた自動変速部20の変速について判断しても差し支えない。
【0149】
また、前述の実施例において、動力伝達装置10,110は差動機構としての動力分配機構16と第1電動機M1とを備えているがこれらは必須ではなく、例えば、第1電動機M1及び動力分配機構16を備えてはおらず、エンジン8とクラッチと第2電動機M2と自動変速部20,112と駆動輪38とが直列に連結された所謂パラレルハイブリッド車両であってもよい。なお、エンジン8と第2電動機M2との間の上記クラッチは必要に応じて設けられるものであるので、上記パラレルハイブリッド車両がそのクラッチを備えていない構成も考え得る。
【0150】
また、前述の実施例ではハイブリッド車両について説明されているが、通常のエンジン車両であっても電気自動車であっても構わない。
【0151】
また、前述の実施例の図11によれば、前記トルク相補償制御の実行タイミングの学習制御が完了すればトルク補償率は100%になるが、トルク補償率の最大値が100%を下回る所定値とされていてその学習制御の完了後のトルク補償率が100%未満であっても差し支えない。
【0152】
また、前述の実施例において、トルク補償手段72によって実行される前記トルク相補償制御を説明するための図9のタイムチャートは自動変速部20,112の第2速から第3速への変速を例としているが、これは理解を容易にするために第2速から第3速への変速を例としただけであり、自動変速部20,112の他の変速段間での変速において上記トルク相補償制御が実行されても差し支えない。
【0153】
また前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0154】
また、前述の実施例の動力伝達装置10,110においてエンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合装置を介して連結されていてもよい。
【0155】
また、前述の実施例の動力伝達装置10,110において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合装置を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合装置を介して連結されていてもよい。
【0156】
また前述の実施例では、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20,112が連結されているが、自動変速部20,112の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20,112は、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0157】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20,112は直列に連結されているが、動力伝達装置10,110全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20,112とが機械的に独立していなくても差し支えない。
【0158】
また、前述の実施例において動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0159】
また前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成であっても差し支えない。
【0160】
また、前述の実施例における切換クラッチC0及び切換ブレーキB0等の油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0161】
また前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0162】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0163】
また、前述の実施例においてエンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0164】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0165】
また、前述の実施例において自動変速部20,112は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20,112が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20,112とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0166】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0167】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合装置を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10,110の構成であってもよい。
【0168】
また前述の実施例において、動力分配機構16が切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えているが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は動力分配機構16とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。また、切換クラッチC0と切換ブレーキB0との何れか一方又は両方がない構成も考え得る。
【0169】
また前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とは別個に動力伝達装置10,110に備えられていてもよい。
【0170】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用動力伝達装置において、車速と要求出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】図1の車両用動力伝達装置が無段変速状態である場合においてアクセルペダルが踏込まれた状態で自動変速部が第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へアップシフトされた場合を例として、自動変速部の変速のトルク相で出力トルクの落込みを抑制するトルク相補償制御の説明をするためのタイムチャートである。
【図10】図9に示された自動変速部の出力トルクのタイムチャートのt2時点〜t7時点の期間を抜粋した拡大図である。
【図11】図6のトルク補償手段72がトルク相補償制御の実行タイミングの学習制御での学習回数に応じてトルク相補償制御でのトルク補償率を変更する場合において、その学習回数とトルク補償率との関係を、アクセル開度Accの異なる変速ごとに分けて示した図である。
【図12】図6のトルク補償手段72が、変速指示基準でトルク補償開始時期を決定する場合と、油圧センサにより検出される係合装置の油圧値基準で上記トルク補償開始時期を決定する場合とでトルク相補償制御におけるトルク補償量を相互に異なる大きさとする場合の両者の関係を示した図である。
【図13】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、油圧センサにより検出される係合装置の油圧値と変速指示との何れかを基準にトルク相補償制御の実行タイミングが決定された上でそのトルク相補償制御が実行される制御作動を説明するフローチャートである。
【図14】本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置の他の構成例を説明する骨子図であって、図1に相当する第2実施例の骨子図である。
【図15】図14の車両用動力伝達装置の有段変速状態における変速段とそれを達成するための油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する第2実施例の作動図表である。
【図16】図14の車両用動力伝達装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する第2実施例の共線図である。
【符号の説明】
【0172】
8:エンジン
10,110:動力伝達装置(車両用動力伝達装置)
16:動力分配機構(差動機構)
20,112:自動変速部(有段変速部)
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
72:トルク補償手段
M1:第1電動機
M2:第2電動機(駆動力源)
C1:第1クラッチ(変速アクチュエータ)
C2:第2クラッチ(変速アクチュエータ)
B1:第1ブレーキ(変速アクチュエータ)
B2:第2ブレーキ(変速アクチュエータ)
B3:第3ブレーキ(変速アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に動力伝達可能に連結された駆動力源と、変速のために油圧で作動する変速アクチュエータを含む有段変速部とを備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記有段変速部の変速のトルク相において該有段変速部の出力トルクが一時的に落ち込む時期にトルクを補うことにより該出力トルクの変動を抑制するトルク相補償制御を前記駆動力源の作動によって実行するトルク補償手段を含み、
該トルク補償手段は、前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記変速アクチュエータの油圧値に基づいて決定可能である場合には該油圧値に基づいて決定した抑制開始時期で前記駆動力源の作動により該出力トルクの変動の抑制を開始する一方で、該出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には前記有段変速部に対する変速指示に基づいて決定した抑制開始時期で前記駆動力源の作動により該出力トルクの変動の抑制を開始し、且つ、その場合には前記出力トルクの落込みに対しトルクが補われる割合であるトルク補償率を前記油圧値に基づく場合と比較して小さくする
ことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記トルク補償手段は、前記トルク相補償制御において前記変速指示に基づいて決定した前記抑制開始時期で出力トルク変動の抑制を開始する場合には、前記油圧値に基づく場合と比較して、前記出力トルクの落込みを小さくするための機械的エネルギであるトルク補償量を低減することにより又は前記出力トルクの落込みに対しトルクが補われるトルク補償期間を短縮することにより前記トルク補償率を小さくする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記変速アクチュエータの油圧値に基づいて決定可能であるか否かが、該油圧値が前記有段変速部の変速中に所定の油圧判定値に到達した時と該有段変速部の変速のイナーシャ相の開始時とを比較することにより判断される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能である場合には、前記出力トルクの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記油圧値が前記油圧判定値に到達した時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習される
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記トルク相補償制御における次回の前記出力トルクの変動の抑制開始時期が前記油圧値に基づいて決定可能ではない場合には、前記出力トルクの落込みに対しそれを補うトルクの変化が同期するように、前記変速指示の出力時を基準とした前記出力トルクの変動の抑制開始時期が学習される
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
エンジンと前記駆動輪との間に連結された差動機構と、該差動機構に動力伝達可能に連結され該差動機構の差動状態を制御するための第1電動機とが、設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記エンジンの回転速度は、前記有段変速部の変速開始から終了までの間において略一定となるように制御される
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記駆動力源としての第2電動機が設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−120519(P2010−120519A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296106(P2008−296106)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】