マイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造、垂直磁気媒体および磁気デバイスの製造方法
【課題】 磁気デバイスにおける垂直磁気異方性と保持力とを向上させる。
【解決手段】 MAMR構造20は、Ta/M1/M2なる構造(例えば、M1はTi、M2はCu)の複合シード層22の上に、[CoFe/Ni]X等のPMA多層膜23を有する。複合シード層22とPMA多層膜23との間の界面、および、PMA多層膜23の積層構造内の各一対の隣接層間における1以上の界面の一方または双方に界面活性層を形成する。超高圧アルゴンガスを用いたPMA多層膜23の成膜により、各[CoFe/Ni]X間の界面を損傷するエネルギーを抑える。低パワープラズマ処理および自然酸化処理の一方または両方を複合シード層22に施すことにより、[CoFe/Ni]X多層膜との界面を均一化する。各[CoFe/Ni]X層間に酸素界面活性層を形成してもよい。保磁力は、180〜400°C程度の熱処理によっても増加する。
【解決手段】 MAMR構造20は、Ta/M1/M2なる構造(例えば、M1はTi、M2はCu)の複合シード層22の上に、[CoFe/Ni]X等のPMA多層膜23を有する。複合シード層22とPMA多層膜23との間の界面、および、PMA多層膜23の積層構造内の各一対の隣接層間における1以上の界面の一方または双方に界面活性層を形成する。超高圧アルゴンガスを用いたPMA多層膜23の成膜により、各[CoFe/Ni]X間の界面を損傷するエネルギーを抑える。低パワープラズマ処理および自然酸化処理の一方または両方を複合シード層22に施すことにより、[CoFe/Ni]X多層膜との界面を均一化する。各[CoFe/Ni]X層間に酸素界面活性層を形成してもよい。保磁力は、180〜400°C程度の熱処理によっても増加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い垂直磁気異方性(PMA:Perpendicular Magnetic Anisotropy)を有する磁気積層構造に係わり、特に、優れた性能を有するように保磁力Hcを増加させることが可能なマイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造、垂直磁気媒体および磁気デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)は、シリコンCMOSと、磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)技術とを組み合わせたものであり、SRAM、DRAMおよびフラッシュメモリ等の既存の半導体メモリに対して大いに競争力を有する主要な新興技術として注目されている。同様に、C. Slonczewskiによる非特許文献1に記載のスピントランスファー(以下、スピントルクまたはSTTとも称する)磁化スイッチングは、STT−MRAM等のギガビット規模のスピントロニック素子に応用できる可能性があることから、近年多大な関心を呼んでいる。最近では、J-G. Zhuらによる非特許文献2において、スピントランスファー発振器と呼ばれる別のスピントロニック素子が発表されている。このスピントランスファー発振器は、スピントランスファー運動量効果(spin transfer momentum effect)を利用することにより、垂直記録構造において、媒体保磁力を大幅に下回るヘッド磁界による記録を可能とするものである。
【0003】
MRAMおよびSTT−MRAMは、いずれも、トンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magnetoresistance)に基づく磁気トンネル接合素子(以下、MTJ素子という。)または巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magnetoresistance)に基づく巨大磁気抵抗効果素子(以下、GMR素子という。)を備えている。MTJ素子は、2つの強磁性層を薄い非磁性誘電体層により分離してなる積層構造を有し、GMR素子は、リファレンス層とフリー層とを金属スペーサ層により分離してなる積層構造を有する。これらの素子は、一般に、第1の導電線等の下部電極と、第2の導電線である上部電極との間の、上部電極と下部電極とが交差する部分に形成されている。また、センサ構造の場合、MTJ素子は2つのシールド間に形成され、ハードバイアス層がこのMTJ素子に隣接して設けられている。これにより、フリー層の磁化を安定させるための縦バイアスがもたらされる。
【0004】
垂直磁気異方性(以下、単にPMAという。))を有する材料は、磁気記録用途および光磁気記録用途において特に重要な要素である。PMAを有するスピントロニック素子は、熱的安定性および低スイッチング電流という要求を満たすだけではなくセル形状についてアスペクト比の制限がない点で、面内異方性に基づくMRAM素子と比較して有利である。したがって、PMAに基づくスピンバルブ構造は、将来的なMRAMの用途や他のスピントロニック素子のための主要な課題の一つである高記録密度化に必要なサイズ縮小を可能にするものである。非特許文献3に記載の理論的表現によれば、垂直磁気デバイスは、同一磁界を用いた場合において、面内磁気デバイスのそれよりも低いスイッチング電流を実現する可能性を有していることが予測されている。
【0005】
メモリセルの寸法が減少すると、より大きな磁気異方性が必要となる。熱安定性係数は、メモリセルの体積に比例するからである。一般的に、PMAを示す材料は、NiFeやCoFeB等の従来の面内軟磁性材料よりも大きな磁気異方性を有している。したがって、PMAを有する磁気デバイスは、低いスイッチング電流および高い熱的安定性を実現する上で有利である。PMAを有するGMR積層構造におけるスピントランスファースイッチングについては、非特許文献3〜7に記載されているように、種々の検討がなされている。しかしながら、従来技術に記載のGMR素子におけるスイッチング電流密度は、一般的に10ミリアンペア/平方センチメートルを超えている。これは、低スイッチング電流のMRAMにとっては高過ぎる値である。また、約1%というMR比は、MRAMの読み出し信号としては小さすぎる値である。したがって、PMAを有するMTJ素子のスピントランスファースイッチング性能を向上させることは、高性能なMRAM用途にとって重要なことである。
【0006】
非特許文献8は、TbCoFeを有するPMA構造を用いたMTJ素子におけるスピントランスファースイッチングについて報告している。ただし、PMA層としてTbCoFeやFePtを用いたMTJ素子の場合、十分に高いPMAを得るには厳密な熱処理条件が要求され、デバイス集積化の観点から高温はふさわしくない。
【0007】
CoPtやその合金(例えば、CoCrPt、CoPt−SiO2)は、PtおよびCrが強力なスピン消極材料であり、スピンバルブ構造に用いた場合にスピントロニック素子の振幅を著しく抑制してしまうので、望ましくない。同様に、PdおよびIrは、強力なスピン消極特性を有しているので、Co/PdおよびCo/Irは、スピントロニック素子用の優れたPMA材料とはなり得ない。さらに、Co/Pt,Co/PdおよびCo/Irを用いた構造では、シード層として、高価なPt,PdまたはIrを、概して極めて厚く形成する必要がある。さらに、Auは高コストであるとともに、隣接する層に対して容易に相互拡散してしまうことから、PMAを得ることを目的とした場合、Co/Auは非実用的である。
【0008】
PMA材料は、非特許文献2に記載されているように、マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR:Microwave Assisted Magnetic Recording)への適用も検討されている。非特許文献2は、垂直記録構造において媒体保磁力を大幅に下回るヘッド磁界による記録を行うためのメカニズムを提案するものである。
【0009】
図1は、非特許文献2に基づき作図した、交流磁界アシスト垂直ヘッド構造を有するMAMR記録ヘッドの要部を示す模式図である。図中、符号19で示す上側の枠部は、マイクロ波周波数領域の局部交流磁界を発生させるための垂直スピントルク駆動型発振器(STO)を表している。この垂直スピントルク駆動型発振器は、下部電極11aと、上部電極11bと、膜面と垂直に磁化したリファレンス層(スピントランスファー層)12と、金属スペーサ層13と、発振積層構造14とを有している。発振積層構造14は、磁界生成層14aと、磁化容易軸14cを有するPMA層14bとを含む。なお、図1の下側では、枠部19で示す垂直スピントルク駆動型発振器を90度回転させて示している。この場合、垂直スピントルク駆動型発振器は、記録磁極17とトレーリングシールド18との間に位置している。
【0010】
このMAMR記録ヘッドは、軟磁性下地層15を有する磁気媒体16の表面上を横切るように移動する。リファレンス層12は、注入電流Iのスピン分極をもたらす。磁界生成層14aとPMA層14bとは、互いに強磁性交換結合している。マイクロ波アシスト磁気記録に関する技術が成熟するに伴い、リファレンス層12および発振積層構造14に用いる材料の改善が必要とされている。
【0011】
他の先行技術文献において、特許文献1は、CuまたはTaとTiとの合金より選ばれるシード層を開示している。また、垂直磁気記録媒体の下地層における平滑性を向上させるための熱処理について記載している。
【0012】
特許文献2は、不連続な磁気相部分を非磁気相部分により囲んでなる複合体により構成されたラミネート層を備えた垂直磁気媒体を開示している。また、この作製方法は、複合層を熱処理し、または詳細不明の表面処理を行う工程を含んでいる。
【0013】
特許文献3は、垂直磁気記録媒体において、軟磁性下地層と結晶性中間層との間に用いられる、TaまたはCuよりなるシード層を開示している。
【0014】
特許文献4は、積層垂直磁気記録媒体における、TiまたはCuよりなるシード層を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0170329号明細書
【特許文献2】米国特許第7,128,987号明細書
【特許文献3】米国特許第7,175,925号明細書
【特許文献4】米国特許第7,279,240号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】C. Slonczewski著、「Current driven excitation of magnetic multilayers」、J. Magn. Magn. Mater.、1996年、第159巻、L1−L7
【非特許文献2】J-G. Zhu等著、「Microwave Assisted Magnetic Recording」、IEEE Trans. on Magnetics、2008年、第44巻、第1号、p125−131
【非特許文献3】S. Mangin等著、「Current-induced magnetization reversal in nanopillars with perpendicular anisotropy」、Nat. Mater.、2006年、5,210
【非特許文献4】H. Meng等著、「Low critical current for spin transfer in magnetic tunnel junctions」、J. Appl. Phys.、2006年、99、08G519
【非特許文献5】X. Jiang等著、「Temperature dependence of current-induced magnetization switching in spin valves with a ferromagnetic CoGd free layer」、Phys. Rev. Lett.、2006年、97、217202
【非特許文献6】T. Seki等著、「Spin-polarized current-induced magnetization reversal in perpendicularly magnetized L10-FePt layers」、Appl. Phys. Lett.、2006年、88、172504
【非特許文献7】S. Mangin等著、「Reducing the critical current for spin-transfer switching of perpendicularly magnetized nanomagnets」、Appl. Phys. Lett.、2009年、94、012502
【非特許文献8】M. Nakayama等著、「Spin transfer switching in TbCoFe/CoFeB/MgO/CoFeB/TbCoFe magnetic tunnel junctions with perpendicular magnetic anisotropy」、J. Appl. Phys.、2008年、103、07A710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述した文献はいずれも、従来技術において一般的に用いられる、より高コストの[Co/Pt]Yまたは[Co/Pd]Y積層構造の代わりとなる、高性能かつ低コストの垂直磁気異方性を有する積層構造について示唆していない。PMA材料が様々な磁気デバイス用途において広く受け入れられるようにするために、高いPMAおよび高い保磁力Hcを有する低コストの積層構造が必要とされている。
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、シード層上に高い保磁力Hcを有する積層構造を積層して多層構造を形成することにより、MRAM、MAMRおよびセンサ等の磁気デバイスにおいて、[Co/Pt]Yや[Co/Pd]Yを用いた従来の積層構造の代わりとなる高性能かつ低コストのPMA積層構造を有するマイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造および垂直磁気媒体、ならびにそのようなPMA積層構造を有する磁気デバイスの製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、従来の他のPMA構造により得られるものよりも高いスピン偏極効果と大きな飽和磁気ボリューム(単位面積当たりの飽和磁化膜厚)Mstとを有する、[Co/Ni]Xまたは[CoFe/Ni]X積層構造を有するマイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造および垂直磁気媒体、ならびにそのようなPMA積層構造を有する磁気デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の実施の形態によれば、上記目的は、複合シード層を有する積層構造により達成される。この複合シード層は、平滑性を向上させるべく改質された上面と、その上に形成される[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜との間の優れた界面とを有する。但し、x=5〜50、zは10〜100[at%(原子百分率)])である。複合シード層は、好ましくは「Ta/Ti/Cu」構造を有し、下部Ta層は基体に接し、上部Cu層は最上層である。
【0021】
複合シード層は、より滑らかな表面を形成すべく、例えば、不活性ガスを用いたプラズマ処理(PT)が施され、その表面上に[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜が成膜される。他の例として、複合シード層の上面にプラズマ処理を施したのち、薄い酸素界面活性(OSL:Oxygen Surfactant Layer)層を形成するようにしてもよい。さらに他の例として、複合シード層の上面に自然酸化処理(NOX)のみを行うことにより滑らかな表面を形成し、その表面の上に[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜を成膜するようにしてもよい。
【0022】
また、低いエネルギーと高い圧力とを含む成膜プロセスを採用することにより、Co層またはCoFe層とNi層の表面に作用するエネルギーが最小限に抑えられ、これによりPMA多層膜におけるCo層とNi層との間、またはCoFe層とNi層との間の界面が改善される。その結果、その後に成膜される層との界面が改善される。
【0023】
さらに、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜における1つ以上のCo/Ni層またはCoFe/Ni層に対して、次のCo/Ni層またはCoFe/Ni層を成膜する前に自然酸化処理(NOX)を行うことにより、酸素界面活性層(OSL)を形成するようにしてもよい。
【0024】
第1の実施の形態では、MAMR構造の中に、下側のシード層と、上側の[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜とを含む積層構造が形成される。このシード層の上面には、プラズマ処理または酸化処理を用いた改質処理により、酸素界面活性層が形成されている。さらに、例えば、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜の内部に、1つ以上の酸素界面活性層を形成するようにしてもよい。必要により、シード層の上以外の、PMA多層膜において、1つ以上の酸素界面活性層を形成してもよい。上記MAMR構造は、例えば、「シード層/PMA多層膜/界面層/スペーサ層/磁界生成層(FGL)/キャップ層」なる構造を有する。GMR構造の場合、界面層および磁界生成層は、例えばFeCoより構成され、スペーサ層は例えば銅(Cu)より構成される。TMR構造の場合には、スペーサ層として、例えばMgO,AlOx,TiOx,またはZnO等より構成されたトンネルバリア層を有する。
【0025】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態における「シード層/PMA層」積層構造を、例えばMRAMデバイスに用いたものである。この積層構造は、例えばMTJ構造を有する場合、「シード層/PMA多層膜/界面層/スペーサ層/界面層/フリー層/キャップ層」なる構造を有する。スペーサ層は、MgO等からなるトンネルバリア層である。シード層は下部電極である基体に接し、キャップ層はビット線またはワード線に接していることが好ましい。
【0026】
第3の実施の形態は、「シード層/PMA層」積層構造を、磁気センサにおけるセンサ積層体(例えばMTJ素子)に隣接するハードバイアス構造に適用したものである。[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜において、x=10〜40(または5〜30)とすることにより、所望のMrt(残留磁化(Mr)と磁性層の膜厚(t)との積)が得られるようにすることが好ましい。この実施の形態では、キャップ層がPMA多層膜の上面に直接形成される。
【0027】
第4の実施の形態は、「シード層/PMA多層膜」積層構造を磁気媒体に適用したものである。「シード層/PMA層」積層構造は、下地層または基体の上に成膜される。また、第3の実施の形態と同様に、PMA多層膜の上面の上に形成されたキャップ層を有する。この実施の形態では、複合シード層における例えばTi層の厚さを増加させることにより、さらに高い保磁力Hcが得られる。PMA多層膜として、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜を作用する場合、xの範囲は20〜60程度である。
【0028】
なお、本出願は、本出願人による米国特許出願公開第2009/0257151号、米国特許出願第12/456935号、および米国特許出願第12/589614号に関連するものであり、これらのすべてを本出願に組み入れて考慮すべきである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、Ta/M1/M2なる構造の複合シード層の上に、[CoFe/Ni]X等の構造をもつスピン注入層(または、リファレンス層、ハードバイアス層、高PMA多層膜)を形成し、複合シード層とスピン注入層との間の第1の界面、および、スピン注入層の積層構造内の各一対の隣接層間における1以上の第2の界面のうち、一方または双方に界面活性層を形成するようにしたので、高い垂直磁気異方性(高PMA)を得ることができる。また、よりコスト高な[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系と比較して、各種デバイス用途においてそれら以上の性能をもたらすことが可能な高い保磁力Hcを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の交流磁界アシスト垂直ヘッド構造を有するMAMR記録ヘッドの模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るMAMRデバイスに形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るMRAMデバイスに形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るハードバイアス構造としてセンサに形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る磁気媒体の一部として形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図6】[Co/Ni]X多層膜のシード層としてのTa/Ru/CuをTa/Ti/Cuに置き換えた場合に保磁力Hcが大幅に増加することを示すMH曲線グラフである。
【図7】本発明の実施の形態において、低パワー・高ガス圧の[Co/Ni]Xの成膜処理を用いた場合に保磁力Hcが大幅に増加することを示すMH曲線グラフである。
【図8】本発明の実施の形態に係る方法において、プラズマ処理および自然酸化処理の少なくとも一方によるシード層の表面改質により、続いて成膜される[Co/Ni]X多層膜の保磁力Hcの値が増加することを示すMH曲線グラフである。
【図9】本発明の実施の形態に係る方法において、[Co/Ni]X多層膜の内部に酸素の界面活性層を形成することによってその保磁力Hcの値が増加することを示すMH曲線グラフである。
【図10】本発明の実施の形態に係る方法において、シード層/[Co/Ni]X積層構造に対する熱処理温度を増加させることにより保磁力Hcの値が増加することを示すMH曲線グラフである。
【図11】本発明の実施の形態に係るシード層/PMA層なる積層構造を有するトップ型STOを備えたスピントルク発振器構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
本発明の実施の形態に係る積層構造は、各実施の形態において説明されるように、シード層と、この上部の[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜とを備え、マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)、磁気メモリ(MRAM)、センサおよび磁気媒体等の磁気デバイスにおいて高い垂直磁気異方性(PMA)をもたらすものである。以下に説明する実施の形態はまた、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜における保磁力Hcの値を増加させる各種方法を提供するものである。
【0033】
本発明の実施の形態は、例えば、MAMR用のボトム型のスピントルク発振器(STO)や、MRAM用のボトムスピンバルブ構造に用いられる場合を示している。ただし、本実施の形態において説明される高いPMAを有する積層構造は、例えば、トップ型のスピントルク発振器や、MRAMデバイスにおけるトップスピンバルブ構造またはデュアルスピンバルブ構造に導入することもできる。
【0034】
本出願人は、米国特許出願公開第2009/0257151号明細書において、MRAMの用途としてのPMAを有するCo/Ni積層構造の利点について開示している。[Co/Ni]X積層構造(x=5〜50)の磁気異方性は、Co原子およびNi原子が有する3d電子と4s電子とのスピン軌道相互作用により生じる。このスピン軌道相互作用は、[111]方向に配列している結晶軸に対して異方性をもつ軌道モーメントを発生させるとともに、軌道モーメントをもったスピンモーメントの配列をもたらす。本出願人はまた、米国特許出願番号第12/589614号明細書において、[CoZFe(100-Z)/Ni]X積層構造およびこれに関連した積層構造について、同様なPMAの振る舞いを記載している。
【0035】
積層構造のPMAは、Ta/M1/M2構造またはTa/M1構造を有する複合シード層を用いることにより改善される。この場合、M1は、fcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金であり、例えば、Ru(ルテニウム),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),NiCrまたはNiFeCr等である。M2は、例えば、Cu(銅),Ti(チタン),Pd(パラジウム),W(タングステン),Rh(ロジウム),Au(金)またはAg(銀)であり、M1とは異なる金属である。複合シード層のTa層、M1層およびM2層は、それらの上側の層におけるfcc[111]結晶構造の表面組織を向上させる上で、極めて重要である。特に、Ta/Ti/Cuより構成されるシード層は、その上に形成される多層膜におけるPMAと保磁力Hcとを向上させる上で、特に効果的であることが判明している。
【0036】
[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜等からなる積層構造は、従来より用いられている[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系よりも、高いスピン偏極、低い所有権コスト、およびハードバイアス(HB)層を含む特定の用途において大きな飽和磁気ボリュームMstが発揮されるといった、優れた特性を有している。
【0037】
しかしながら、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜は、[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系と比較して、固有保磁力Hcが低いという不具合を有している。保磁力Hcの値が低いことは、漂遊磁界に対するロバスト性が不十分となり、結果として[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜をデバイス用途に幅広く用いることの妨げとなっている。
【0038】
そこで、本出願人は、[Co/Ni]X多層膜、[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜および関連する多層膜について、PMAと保磁力Hcとを飛躍的に改善することを目指した。上記の多層膜に固有のPMAは、Co(またはCoFe)原子およびNi原子が有する3d電子と4s電子との界面スピン軌道相互作用に由来することから、[Co/Ni]X多層膜および[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜において、互いに隣接する一組の層(例えばCo/Ni)と一組の層(例えばCo/Ni)との間の界面をさらに改善する必要がある。例えば、[Co/Ni]X多層膜の場合、「x−1」の数の界面が存在している。
【0039】
本出願人は、シード層/[Co/Ni]Xなる多層構造、およびシード層/[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層構造において、PMAと保磁力Hcとを増加させるための3つの方法を発見した。これらの方法は、単独または互いに組み合わせて用いることができる。以下、これらの方法により作製された高いPMAを有する積層構造を磁気デバイスや磁気媒体に適用した場合の各種実施の形態について説明する。
【0040】
[第1の実施の形態]
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るMAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)構造20を示す断面図である。
【0041】
このMAMR構造20は、例えば、ボトム型(最下部にスピン注入層(SIL:Spin Injection Layer)が設けられたもの)のMAMR構造であり、基体21の上に、複合シード層22と、PMA多層膜(以下、リファレンス層またはスピン注入層とも呼ぶ。)23と、界面層24と、スペーサ層25と、磁界生成層(FGL:Field Generation Layer)26と、キャップ層27とが順次形成された構造を有している。基体21は、例えば、第1の電極としての機能を有している。
【0042】
複合シード層22は、好ましくはTa/Ti/Cu構造を有している。ただし、本出願の関連出願である上記米国特許出願番号第12/589614において記載されている他の材料も好適である。下部Ta層は、基体21に接しており、例えば、0.5nm〜5nm、好ましくは1.0nmの厚さを有している。中間Ti層は、0.5nm〜5nm、好ましくは3nmの厚さを有している。上部Cu層は、0.5nm〜5nm、好ましくは2nm〜3nmの厚さを有している。
【0043】
本出願人は、PMA多層膜23を成膜する前に、プラズマ処理(PT:Plasma Treatment)を行うことにより、複合シード層22の平滑性が著しく向上することを見出した。プラズマ処理は、複合シード層22の最上層から約0.5nm未満の部分を喪失させて表面トポグラフィーを減らすように作用する。プラズマ処理は、例えば、約15sccm(標準立方センチメートル毎分)〜450sccmの流速の不活性ガス(Ar等)と、約200ワット未満のパワーとを用いて、約10秒〜100秒間行う。その結果、この複合シード層22と、続いて成膜されるPMA多層膜23における[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層との間に、改善された界面が形成されることになる。
【0044】
さらに、このプラズマ処理を行ったのち、よりいっそう平滑な表面を有する複合シード層22を形成するために、第2の表面処理を行うようにしてもよい。特に、プラズマ処理後の複合シード層22の表面に、およそ1酸素原子層分の厚さ以下の厚さを有すると考えられる極めて薄い酸素界面活性層(OSL:Oxygen Surfactant Layer)が形成される。本質的に、酸素界面活性層は、自然酸化(NOX:Natural Oxidation)法を行うことにより形成される。
【0045】
自然酸化処理は、例えば、スパッタ装置の酸素チャンバ内で、約0.01sccm〜0.2sccmの酸素流量を用いて、約1秒〜200秒間行われる。なお、例えば、プラズマ処理を、スパッタ成膜装置のスパッタエッチングチャンバ内で行い、自然酸化処理を、同一のスパッタ成膜装置の酸素チャンバ内で行うことにより、スループットを向上させるようにしてもよい。
【0046】
他の例として、プラズマ処理と自然酸化処理のいずれか一方を、複合シード層22を処理する単一の方法として用いることにより、PMA多層膜23を成膜する前に複合シード層22の平滑性を向上させてもよい。ただし、後述の実施例における各種サンプルから得られた保磁力Hcに関するデータが示すように、通常は、2つの処理を組み合わせることにより、プラズマ処理または自然酸化処理のみを用いた場合よりも高い値の保磁力Hcを生じさせることが可能である。
【0047】
複合シード層22の上には、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xなる積層構造を有するPMA多層膜23が形成されている。ここで、zは0〜90である。xは5〜50、好ましくは10〜30である。PMA多層膜23における各Co層(またはCoFe層)の厚さt1は、0.05nm〜0.5nmであり、好ましくは0.15nm〜0.3nmである。PMA多層膜23の各Ni層の厚さt2は、0.2nm〜1.0nmであり、好ましくは0.35nm〜0.8nmである。Ni層の厚さt2は、Co層(またはCoFe層)の厚さt1よりも大きくするのが好ましく、特にt2=2×t1とするのがより好ましい。隣接するCo層とNi層との間(CoFe層とNi層との間)のスピン軌道相互作用を最適化するためである。
【0048】
見方によれば、Co層(CoFe層)の厚さt1が約0.2nm以下である場合、Co層(CoFe層)は最密充填層(close-packed layer)として考えることができ、この場合、必ずしも[111]結晶配向を有しているとは限らない。
【0049】
本発明は、PMA多層膜23が[Co(t1)/NiFe(t2)]X、[Co(t1)/NiCo(t2)]X、[CoFe(t1)/NiFe(t2)]X、または[CoFe(t1)/NiCo(t2)]Xにより表される組成を有するという実施の形態をも包含している。この場合、NiCo層におけるCo含有量およびNiFe層におけるFe含有量は、それぞれ、0〜50[at%]である。
【0050】
他の例として、PMA多層膜23は、(CoFeR/Ni)Xにより表される組成を有してもよい。この場合、Rは、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),チタン(Ti),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),ニッケル(Ni),クロム(Cr),マグネシウム(Mg),マンガン(Mn),または銅(Cu)等の金属である。CoFeR合金におけるRの含有量は、好ましくは10[at%]未満であり、CoFeR層の厚さは厚さt1である。
【0051】
本出願人は、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xなる多層膜を含む「シード層22/PMA多層膜23」積層構造における保磁力Hcを改善するための別の方法を発見した。先の出願では、低いパワーおよび高圧を用いた[Co/Ni]Xの成膜方法を採用することにより、Co層とNi層との間の界面を保つようにした。本出願人はさらなる鋭意努力を重ねた結果、圧力を100sccmよりも大幅に高く増加させることが、保磁力Hcを著しく上昇させる上で重要な役割を果たしていることを見出した。すなわち、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xを成膜する際に、100〜500sccmの超高圧のアルゴンガスを用いることにより、保磁力Hcを30%以上増加させることができる。
【0052】
さらに、上述した自然酸化法を用いることにより、PMA多層膜23を構成する1つ以上の[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層の表面を改善するようにしてもよい。自然酸化法を用いて形成された酸素界面活性層は、複合シード層22と[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層との間の界面を改善するのみならず、PMA多層膜23における、互いに隣接する[Co/Ni]層間または[CoFe/Ni]層間の界面をも改善する。
【0053】
なお、所望の保磁力Hcを得るためには、必ずしも[Co/Ni]X積層膜のすべての[Co/Ni]に対して自然酸化法を行う必要はない。例えば、各n番目の[Co/Ni]層(nは、1よりも大きい整数)のみに対して、後続の[Co/Ni]層を成膜する前に自然酸化処理を行うようにしてもよい。
【0054】
自然酸化処理は、Co層(CoFe層)とNi層のいずれかに対して行われる。すなわち、[Co/Ni]層を作製するための工程は、Co成膜/自然酸化処理/Ni成膜、または、Co成膜/Ni成膜/自然酸化処理、という手順を経ることになる。
【0055】
本発明の実施の形態では、複合シード層22に対して行われるプラズマ処理もしくは自然酸化処理、または、PMA多層膜23における1つ以上の層に対して行われる自然酸化処理を含む、少なくとも1つの表面改質処理を行うことにより、複合シード層22と、PMA多層膜23との界面を改善し、または、PMA多層膜23における互いに隣接する[Co/Ni]層間もしくは[CoFe/Ni]層間の界面を改善することができる。
【0056】
他の例として、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xの成膜の際に超高圧のアルゴンガスを用いることにより、「複合シード層/PMA多層膜」なる積層構造を備えた磁気デバイスにおける保磁力Hcを向上させることができる。超高圧を用いることにより、Co(またはCoFe)の表面またはNiの表面に作用するエネルギーが最小限に抑えられ、これにより隣接するCo層とNi層との間に形成される界面、または隣接するCoFe層とNi層との間に形成される界面を保つことができる。
【0057】
さらに他の例として、プラズマ処理または自然酸化処理を含む1つ以上の表面改質法と、PMA多層膜における[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層を超高圧下で成膜する方法とを組み合わせて用いることも可能である。
【0058】
PMA多層膜23の上には界面層24が形成されている。界面層24は、この界面層24の上に形成されるスペーサ層25の均一な成長を促進させ、より高いスピン偏極が得られるようにする役割を果たしている。界面層24は、例えば、0.5nmから2nm厚のCoFeからなる強磁性層である。または、界面層24を、例えば、CoFeB/CoFeなる複合構造(図示せず)としてもよい。この場合、PMA多層膜23と接する下部CoFeB層は、0.5nmから2nmの厚さを有し、スペーサ層25と接する上部CoFe層は、0.2nmから0.8nmの厚さを有する。また、上部CoFe層は、PMA多層膜23におけるCo(100-Z)FeZ層と同じ含有量の鉄(Fe)を含んでもよい。必要に応じて、界面層24が、CoFe/CoFeBなる複合構造を有するようにしてもよい。
【0059】
界面層24の上には、非磁性のスペーサ層25が形成されている。スペーサ層25は、GMR構造の場合、例えば、銅(Cu)または他の高い導電率を有する金属もしくは金属合金より構成される。このGMR構造は、電流制限パス(CCP:Current Confining Path)構造を有してもよい。CCP−GMR構造は、金属パスを内部に有する絶縁層が、銅(Cu)等よりなる2つの金属層により挟まれたものである。他の例として、TMR構造の場合、スペーサ層25は、MgO,AlOx,TiOx,ZnO等の誘電材料、または他の金属酸化物もしくは金属窒化物により構成されている。
【0060】
なお、スペーサ層25の上に、図示しない第2の界面層を形成することにより、スピントランスファー発振器(STO)におけるより高いスピン偏極を促すようにしてもよい。この第2の界面層は、CoFeB層、またはCoFeとCoFeBとを有する複合層により構成される強磁性層である。「CoFe/CoFeB」複合層の場合、下部CoFe層は、スペーサ層25に接し、上部CoFeB層は、その上に形成される磁界生成層26に接する。この場合、第2の界面層のCoFeB層およびCoFe層は、それぞれ、界面層24(第1の界面層)におけるCoFeB層およびCoFe層と同様の厚さを有している。必要に応じて、磁界生成層(FGL)26を、図2のようにスペーサ層25の上に直接形成するようにしてもよい。
【0061】
磁界生成層26は、例えば、FeCo等からなる磁性(強磁性)層である。磁界生成層26は、十分なスピントルクが印加された際に、磁気モーメントが磁化容易軸(図示せず)に沿って一方向から反対方向へとスイッチング可能な発振層として機能する。PMA多層膜23は、この磁界生成層26と強磁性結合している。
【0062】
他の例として、磁界生成層26が、例えば、[Co/Ni]Sまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Sにより表される積層構造を有するようにしてもよい。ここで、zは0〜90[at%]であり、sは3〜10(好ましくは3〜5)である。例えば、磁界生成層26について選択されるzの値は、PMA多層膜23において用いられるzの値と同じである。ただし、磁界生成層26を構成する各層のCo含有量は、本実施の形態の「複合シード層22/PMA多層膜23」積層構造により得られる利益を犠牲にしない範囲で、PMA多層膜23を構成する各層のCo含有量と異なるようにしてもよい。なお、磁界生成層26は、垂直磁気異方性を形成するためのシード層を別途設けることを必要とせず、また、PMA多層膜23における[111]結晶配向とは異なる結晶構造を有してもよい。
【0063】
MAMR構造20の最上層には、キャップ層(複合キャップ層)27が設けられている。このキャップ層27は、例えば、Ru/Ta/Ru構造を有し、上部のRu層は、酸化を防止すると共に、その上に形成される第2の電極(図示せず)に対して優れた導通を図るために用いられる。必要に応じて、当該技術分野で用いられる他の材料を、キャップ層27に用いてもよい。
【0064】
本実施の形態に係る上記「複合シード層22/PMA多層膜23」積層構造の形成方法は、キャップ層27を成膜した後に熱処理を行う工程を含んでいる。この熱処理工程は、150〜から300°C、好ましくは180〜250°Cの範囲の温度で、0.5時間〜5時間にわたって行われる。こののち、周知の方法を用いてMAMR構造20をパターニングすることにより、基体21の上に複数のMAMR素子を形成する。なお、後述する実施例の実験データは、この熱処理を行うことにより保磁力Hcがさらに著しく増加することを示している。
【0065】
図2に示したMAMR構造20におけるスピントランスファー発振器(STO)構造29は、例えば、図11に示したようなSTO型の記録ヘッド80の一部として形成される。この実施の形態において、記録ヘッド80は一体型記録再生ヘッドの一部として設けられている。すなわち、この一体型記録再生ヘッドは、再生ヘッド75と記録ヘッド80とを一体に形成したものである。
【0066】
再生ヘッド75は、上部シールド74aおよび下部シールド74bと、これらのシールド74a,74b間に設けられたセンサ73とを有している。記録ヘッド80は、主磁極76と、トレーリングシールド77と、STO構造60に電流を注入するための配線78とを備えている。この図では、STO構造29はボトム型構造を有し、主磁極76に近い側に積層リファレンス層としてのPMA多層膜23が位置している。この積層リファレンス層の磁化方向は、媒体の移動方向と同じ方向を向いている。
【0067】
発振層(磁界生成層26)は、図中、STO構造29における2つの矢印および円状の点線を有する層として表されているように、積層リファレンス層(PMA多層膜23)よりも第1電極側(トレーリングシールド77側)に形成され、回転自在な磁化方向を有している。
【0068】
図示しない他の例では、STO構造29における磁界生成層26の位置とPMA多層膜23の位置とを入れ換えることにより、トップ型のSTO構造を有するようにしてもよい。
【0069】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明の実施の形態に係る「シード層/PMA多層膜」積層構造を有するMRAM(磁気ランダムアクセスメモリ)構造30を示す断面図である。
【0070】
本実施の形態の基板31は、例えばボトム電極層である。ここで示した例では、MRAM構造30は、基体31の上に、複合シード層22と、リファレンス層として機能するPMA多層膜23と、第1の界面層32と、トンネルバリア層33と、第2の界面層34と、フリー層35と、キャップ層27とを順次形成してなるボトム型スピンバルブ構造を有する。
【0071】
複合シード層22およびPMA多層膜23は、上記実施の形態(MAMR構造20)の場合と同様の材料を用いて同様の厚さに形成され、同様の方法により作製されている。具体的には、複合シード層22は、例えばTa/Ti/Cu構造(各層の厚さは0.5nm〜5nm程度)を有し、PMA多層膜23の形成前に、プラズマ処理および自然酸化処理のうちの少なくとも一方が施されている。また、PMA多層膜23は、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]X等の積層構造(xは5から50、好ましくは5から30の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するリファレンス層である。
【0072】
第1の界面層32は、この第1の界面層32の上に形成されるトンネルバリア層33の均一な成長を促進し、より高いスピン偏極が得られるようにする役割を果たすものであり、例えば、0.5nm〜2nm程度の厚さCoFeBからなる強磁性層である。あるいは、第1の界面層32を、例えば、「CoFeB/CoFe」なる複合体(図示せず)として構成してもよい。この場合、PMA多層膜23と接する下部CoFeB層は、例えば0.5nm〜2nm程度の厚さを有し、トンネルバリア層33と接する上部CoFe層は、例えば0.2nm〜0.8nm程度の厚さを有する。なお、第1の界面層32は、「CoFe/CoFeB」なる構造であってもよい。
【0073】
第1の界面層32の上には、トンネルバリア層33が形成されている。このトンネルバリア層33は、MgOにより構成するのが好ましいが、例えば、AlOx,TiOxおよびZnO等の本技術分野において用いられている他の非磁性トンネルバリア材料を用いてもよい。MgO層は、本出願人による米国特許出願公開第2007/0111332号明細書および米国特許出願公開第2007/0148786号明細書に記載されているように、PMA多層膜23(この場合では、PMA多層膜23に接する第1の界面層32)の上に、第1のMg層を成膜したのち自然酸化処理を行い、最後にこの酸化させた第1のMg層の上に、第2のMg層を成膜することにより作製される。このトンネルバリア層33は、後続の熱処理によってほぼ均一なMgO層となる。
【0074】
MRAM構造30におけるより高いスピン偏極を促進するために、トンネルバリア層33の上に第2の界面層34を形成することが好ましい。本実施の形態では、第2の界面層34は、例えば、第1の界面層32と同じ材料組成および厚さを有する。したがって、第2の界面層34としては、CoFeB、CoFeB/CoFe、またはCoFe/CoFeBという構造が望ましい。
【0075】
本実施の形態において、第2の界面層34の上には、フリー層35が形成されている。フリー層35は、例えば、CoFe、CoFeB、またはそれらの組み合わせにより構成されている。
【0076】
他の例として、フリー層35は、CoFe/NiFeなる積層構造を有してもよい。
【0077】
さらに他の例として、フリー層35は、[Co/Ni]S、[Co(100-Z)FeZ/Ni]S、[CoFe/NiFe]S、[Co/NiFe]S、[Co/NiCo]S、または[CoFe/NiCo]Sなる積層構造を有してもよい。ここで、zは0〜90[at%]であり、sは3〜10(好ましくは3〜5)である。
【0078】
他の例として、フリー層35を省略し、第2の界面層34をフリー層35として機能させるようにしてもよい。この場合、例えば、第2の界面層34の厚さを調整することにより、結果としてMRAM構造30において得られるスピンバルブ構造の磁気特性を最適化することができる。
【0079】
キャップ層27は、スピンバルブ構造の最上層として設けられている。キャップ層27は、例えばRu/Ta/Ru構造を有し、上部のRu層は、酸化を防止すると共に、その上に形成される上部電極(図示せず)に対して優れた導通を図るために用いられる。
【0080】
薄いRu層をSTT−MRAM用途としてキャップ層27に用いた場合、Ru(ルテニウム)の強力なスピン散乱効果に起因して、臨界電流密度(Jc)が著しく低下する。臨界電流密度は、90nm技術ノード(90 nm technology node)以降のスピントランスファー磁化反転にも適合するように、約106A/cm2であることが好ましい。臨界電流密度の値がこれよりも高いと、AlOxやMgO等の薄いトンネルバリア層を破壊する可能性もある。Ta層は、例えば、後続の処理工程においてエッチングのストップ層として機能すべく設けられている。必要に応じて、当該技術分野で用いられる他の材料を、キャップ層27に用いてもよい。
【0081】
MRAM構造30のすべての層を成膜したのち、例えば220〜400°C、好ましくは250〜360°Cの範囲で、2時間〜5時間にわたる熱処理を行う。こののち、周知の方法を用いてMRAM構造30をパターニングおよびエッチングすることにより、基体31の上に複数のMRAMセルを形成する。本実施の形態では、下部電極としての基体31は、MRAM構造30と同時にパターンングされる。したがって、MRAMアレイの各MRAMセルの下には、下部電極が形成されている。
【0082】
[第3の実施の形態]
図4は、第3の実施の形態を示すものであり、センサを安定させるためのハードバイアス構造に上記の「シード層/PMA層」積層構造を導入した例である。この図は、再生ヘッド構造50の内部に設けられたセンサ積層体38を、エアベアリング(ABS)面から見た図である。
【0083】
図示しない基体(例えば、セラミック等)の上には、下部シールド41(例えば、ニッケル鉄合金等)が形成されている。この下部シールド41の上には、パターニングされたスピンバルブ素子(センサ積層体38)が周知の方法を用いて形成されている。このセンサ積層体38は、フリー層(図示せず)を有し、ボトム型スピンバルブ構造、トップ型スピンバルブ構造、またはデュアル型スピンバルブ構造を有している。センサ積層体38の各層は、下部シールド41の上面41sに平行な面内に形成された上面を有している。センサ積層体38は、説明を省略する周知の方法を用いて作製された上面38aおよびサイドウォール43を有している。センサ積層体38の上面38aは、上面視(図示せず)で円形、楕円形、または多角形の外観を呈している。
【0084】
図4のハードバイアス構造47は、下部シールド41の上に形成された絶縁層部分42aと、サイドウォール43に沿った絶縁層部分42bとを含む絶縁層42を含む。この絶縁層42は、例えばAlOxまたは他の絶縁材料より構成される。
【0085】
絶縁層部分42a,42bの上には複合シード層22が形成されている。複合シード層22は、好ましくはTa/Ti/Cu(各層の厚さは0.5nm~5nm程度)より構成される。なお、上述した他の構成を複合シード層22に用いてもよい。
【0086】
複合シード層22の上には、ハードバイアス層としての役割を果たすPMA多層膜23が設けられている。このPMA多層膜23は、好ましくは、上記各実施の形態において説明した高い垂直磁気異方性を有する[Co/Ni]x、[Co(100-Z)FeZ/Ni]x、[CoFe/NiFe]x、[Co/NiFe]x、[Co/NiCo]x、または[CoFe/NiCo]xなる構造(x=5〜30)を有している。
【0087】
矢印40aは、絶縁層部分42aの上方のシード層22の上に形成されたハードバイアス(HB)粒子の磁化容易軸を示し、矢印40bは、絶縁層部分42bの上方のシード層22の上に形成されたハードバイアス(HB)粒子の磁化容易軸を示す。これらの磁化容易軸(矢印40a,40b)は、その下の複合シード層22に対して垂直方向に配向しているため、x軸方向(左右の方向)に沿って、ハードバイアス材料の異方性磁界を打ち負かすだけの強い面内長手磁界を印加することにより、ハードバイアス層の磁化方向が印加磁界と同じ方向に配列し、PMA多層膜23(ハードバイアス層)が初期化される。
【0088】
磁界の印加を停止させたのち、ハードバイアス(HB)粒子の磁化は、縦方向に対してより小さな角度を有する一軸磁化容易軸方向へと落ち着く。このハードバイアス層の初期化は、好ましくは上部シールド45が形成された後に行われる。サイドウォール43に沿って成長したハードバイアス粒子の磁化方向は、磁化容易軸方向に沿いつつサイドウォール43を指し示す方向に配向する。したがって、PMA多層膜23(ハードバイアス層)から生ずる電荷(図示せず)は、主に、サイドウォール43に沿った領域46内のHBエッジ粒子に由来する表面電荷である。このような電荷配置は、実際上、センサ積層体38およびその内部のフリー層に強力なハードバイアス磁界を発生させる上で最良の状態である。電荷がサイドウォール43に最も近接する位置にあり、電荷からの立体角(図示せず)が最大となるからである。特に、本実施の形態に係る「シード層/PMA層」積層構造のハードバイアス層は、高い保磁力Hcおよび高い飽和磁気ボリュームMstを、一般的にプラチナ(Pt)を含む従来のハードバイアス層よりも低コストで得ることができる点で有利である。
【0089】
センサ積層体38の上面38sと同一平面上に位置する上面23sに沿った部分以外の領域におけるPMA多層膜23(ハードバイアス層)の上には、キャップ層27が形成されている。このキャップ層27および上面23s,38sの上に、絶縁材料からなるコンフォーマルなギャップ層44が形成され、これにより、センサ積層体38およびハードバイアス構造47が上部シールド45から隔離されている。
【0090】
センサ積層体38は、MRAM構造やMAMR構造と比較して高い温度による熱処理に対してより敏感であるため、キャップ層27を形成した後に行う熱処理は、180〜250°C程度の低い温度を維持した上で0.5時間〜5時間程度行うことが好ましい。
【0091】
なお、複合シード層22とPMA多層膜23(ハードバイアス層)とを有する上記ハードバイアス構造47は、図4に示したもの以外のハードバイアス安定化構造に用いてもよい。
【0092】
[第4の実施の形態]
図5は、第4の実施の形態を表すもので、上記の「シード層/PMA層」積層構造を、磁気記録および磁気データ記憶に用いられる垂直磁気媒体に導入した例を示す。
【0093】
本実施の形態の垂直磁気媒体60は、基体61と、この上に順次形成された、軟磁性下地材62、複合シード層22、PMA多層膜23およびキャップ層27とを有する。なお、本実施の形態は他の垂直磁気媒体構造に適用することもできるが、あくまでも主要な特徴は、20000[Oe](=2×107/4π[A/m])よりも高い優れた異方性磁界Hkと、3000[Oe](=3×106/4π[A/m])よりも高い保磁力Hcと、5×106[erg/cc](=5×105[J・m-2])よりも高い異方性定数Kuと、調整可能なMrt(残留磁化(Mr)と磁性層の膜厚(t)との積)とがもたらされる、好ましい粒間交換結合を有する複合シード層22と、PMA多層膜23と、キャップ層27とを有する積層構造にある。
【0094】
複合シード層22がTa/Ti/Cuからなる場合、通常は、その全体の厚さを10nm以下とする。但し、Ti層の厚さを最大で10nmまで増加させることにより、上記のMAMR構造、MRAM構造およびハードバイアス構造の場合よりも高い保磁力Hcを得ることができる。
【0095】
[Co/Ni]x、[Co(100-Z)FeZ/Ni]x、[CoFe/NiFe]x、[Co/NiFe]x、[Co/NiCo]x、または[CoFe/NiCo]xより構成されるPMA多層膜23において、xは、上記各実施の形態の場合よりも高い20〜60程度の値を有してもよい。
【0096】
キャップ層27は、例えばRu/Ta/Ruなる構成を有する。但し、本技術分野において用いられている他のキャップ層材料を用いてもよい。
【0097】
垂直磁気媒体60のすべての層を成膜したのち、例えば180〜400°C、好ましくは200〜360°Cの範囲で、2時間から5時間にわたって熱処理を行う。
【実施例1】
【0098】
「Ta/Ru/Cu」なる構造の複合シード層を、実施の形態において説明した「Ta/Ti/Cu」なる構造の複合シード層に置き換えた場合における、PMAの大きさと保磁力Hcの改善を示すために、以下の実験を行った。図6は、その実験結果を表すものである。
【0099】
試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnometer)を用いて磁化曲線(MH曲線)からPMAの値を得るために、「Ta1.0/Ru2.0/Cu2.0」複合シード層と、[Co0.2/Ni0.5]15積層膜と、「Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」キャップ層とを有する部分スピンバルブ構造を、基準サンプルとして作製した。なお、各元素記号に続く数値は膜厚(単位nm)を示す。以下、同様である。
【0100】
また、基準サンプルにおける「Ta/Ru/Cu」複合シード層を、実施の形態に係る「Ta1.0/Ti2.0/Cu2.0」複合シード層に置き換えたものを、実施例サンプルとして作製した。
【0101】
これらの各サンプルを、220°Cの温度で2時間にわたって熱処理した。図6は、これらの2つのサンプルについて測定された磁界(保磁力Hc)のPMA成分を示している。これらの結果から、保磁力Hcは、例えば、基準サンプル(図6(a))の580[Oe](=5.8×105/4π[A/m])から、「Ta/Ti/Cu」シード層を有する実施例サンプル(図6(b))についての1150[Oe](=11.5×105/4π[A/m])へと増加することがわかる。同様に、「Ta/Ti/Cu」シード層を有する実施例サンプルについては、より高い異方性磁界Hk(図示せず)が得られた。
【実施例2】
【0102】
第2の実験では、実施の形態に係る[Co/Ni]x積層膜の成膜時に超高ガス圧を用いた場合における保磁力Hcの改善を示すために、「複合シード層/PMA多層膜/キャップ層」なる構成を有する部分スピンバルブ構造を作製した。図7は、その実験結果を表すものである。
【0103】
基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、各Co層および各Ni層は、100sccmの流速のアルゴン(Ar)ガスを用いて成膜した。
【0104】
また、同じ組成を有すると共に500sccmの超高流速のアルゴンガスを用いて成膜した実施例サンプルを用意した。
【0105】
図7(a)のグラフから、220°C、5時間の条件による熱処理を経た基準サンプルの積層構造の保磁力Hcは、垂直磁界について1545[Oe](=15.45×105/4π[A/m])であることがわかる。これに対し、図7(b)のグラフから、超高圧を用いて作製された同一の条件による熱処理を経た実施例サンプルの保磁力Hcは、2130[Oe](=21.3×105/4π[A/m])であることがわかる。
【実施例3】
【0106】
次に、[Ta/Ti/Cu]なる構造を有する複合シード層に対して上記のプラズマ処理または自然酸化処理を施した場合の効果を確認するために4つのサンプルを作成し、第3の実験を行った。図8は、その実験結果を表すものである。
【0107】
図8(a)に示す基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる部分スピンバルブ構造を、超高圧を用いて作製した。このサンプルでは、[Co/Ni]15積層膜の成膜前に複合シード層へのプラズマ処理または自然酸化処理を施してはいない。なお、この基準サンプルは図7(b)に示したサンプルと同じものである。
【0108】
第2の(実施例)サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/PT/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、[Co/Ni]15積層膜とキャップ層とを成膜する前に、複合シード層に対して、20ワットのパワーおよび50sccmの流速のアルゴンガスを用いたプラズマ処理(PT)を50秒間施すことにより、より滑らかな複合シード層を形成するようにした。
【0109】
第3の(実施例)サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/OSL/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、積層[Co/Ni]15層とキャップ層とを成膜する前に、複合シード層に対して、0.08sccmの流速の酸素を用いた自然酸化処理(NOX)を50秒間行うことにより、酸素界面活性層(OSL)を形成した。
【0110】
第4の(実施例)サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/PT/OSL/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、積層[Co/Ni]15層とキャップ層とを高圧条件を用いて成膜する前に、複合シード層に対して、20ワットのパワーと50sccmの流速のアルゴンガスとを用いたプラズマ処理(PT)を50秒間施したのち、0.08sccmの流速の酸素を用いた自然酸化処理(NOX)を50秒間行うことにより、酸素界面活性層(OSL)を形成した。
【0111】
これらのすべてのサンプルに対し、220°Cの熱処理を5時間行った。
【0112】
図8(b)のグラフから、第2のサンプルの保磁力Hcは、保磁力Hcが2130[Oe](=21.3×105/4π[A/m])である基準サンプル(図8(a))と比較して、2330[Oe](=23.3×105/4π[A/m])に増加していることがわかる。また、図8(c)のグラフから、第3のサンプルの保磁力Hcは2520[Oe](=25.2×105/4π[A/m])に増加し、図8(d)のグラフから、第4のサンプルの保磁力Hcは2730[Oe](=27.3×105/4π[A/m])に増加していることがわかる。したがって、「Ta/Ti/Cu」複合シード層に対してプラズマ処理もしくは自然酸化処理またはその両方を施すことにより、スピンバルブ構造における保磁力Hcが向上することがわかる。また、プラズマ処理に続いて自然酸化処理を行うようにすると、性能向上において最も効果的であることがわかる。
【実施例4】
【0113】
次に、[Co/Ni]x等からなる複合PMA層の中に1つ以上の酸素界面活性層を形成した場合の効果を示すために、図9に示す第4の実験を行った。
【0114】
基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu2.0/[Co0.2*/Ni0.5*]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる部分スピンバルブ構造を作製した。各Co層および各Ni層の隣に記したアステリスク「*」は、それらが超高圧条件(500sccmの流速のアルゴンガス)を用いて成膜されていることを示している。
【0115】
実施例サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu2.0/{[Co0.2*/Ni0.5*]5/OSL}3/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。ここでは、キャップ層を形成する前に、5つの[Co/Ni]層を成膜したのち自然酸化処理(NOX)を行うことにより酸素界面活性層(OSL)を形成するという一連の処理を全部で3回繰り返した。
【0116】
そして、これらのサンプルに対し、220°Cの熱処理を5時間行ったのち、MH曲線を得た。
【0117】
保磁力Hcが1955[Oe](=19.55×105/4π[A/m])である基準サンプル(図9(a))と比較して、実施例サンプル(図9(b))の保磁力Hcが2325[Oe](=23.25×105/4π[A/m])に増加していることがわかる。これは、実施例サンプルのように酸素界面活性層を形成したことによって、[Co/Ni]層と[Co/Ni]との間の界面がより滑らかになったことによるものである。
【実施例5】
【0118】
図10は第5の実験の結果を表すものである。この実験は、実施の形態に係る「シード層/PMA層」積層構造を有するスピンバルブ構造に対して、より高い温度の熱処理を行うことによる改善を示すものである。なお、220°Cよりも高い温度の熱処理は、高温による温度偏移によって1以上の層が損傷してしまう可能性があることから、センサ等の一部の磁気デバイスには適用できない場合がある。ただし、熱処理温度をできる限り増加させることは、実施の形態に係るPMA多層膜の保持力Hcをも向上させることにつながることを本出願人は発見した。
【0119】
基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/OSL/[Co0.2*/Ni0.5*]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」になる部分スピンバルブ構造を作製した。各Co層および各Ni層の隣に記したアステリスク「*」は、それらが超高圧条件(500sccmの流速のアルゴンガス)を用いて成膜されていることを示している。この基準サンプルに対して220°Cの熱処理を5時間行った。
【0120】
一方、上記基準サンプルと同じ膜構成の実施例サンプルに対しては250°Cの熱処理を2時間行った。
【0121】
図10に示すMH曲線のグラフから、保磁力Hcが2560[Oe](=25.6×105/4π[A/m])(図10(a))である基準サンプルに対して、熱処理温度を30°C上昇させた実施例サンプルの保磁力Hcは3020[Oe](=30.2×105/4π[A/m])(図10(b))に増加していることがわかる。場合によっては、280〜350°Cの範囲の熱処理温度を用いると、その保磁力Hcは、250°Cの熱処理条件において得られる保磁力Hcよりも大幅に高くなると予想される。
【0122】
各実施の形態において説明した、すべてのプロセスの組み合わせと構造の変更とにより、最も高い保磁力Hcを得ることができることがわかるであろう。それらの変更点を以下に示す。
【0123】
(1)シード層を「Ta/Ti/Cu」という構成の複合シード層とするのが好ましく、この複合シード層に対してプラズマ処理または自然酸化処理を施す。
(2)シード層の上に、[Co/Ni]x積層膜を、超高圧を用いて形成する。
(3)[Co/Ni]x積層膜の中に、少なくとも1つの酸素界面活性層を含ませる。
(4)デバイスの各層の信頼性に影響を及ぼさない程度の高い熱処理温度を用いる。
【0124】
以上説明した実施の形態を1つ以上利用することにより、高価な[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系よりも材料コストを低く抑えつつ、従来技術と比較して垂直磁気異方性PMAおよび保磁力Hcをより高い値にまで増加させることができる。また、すべての工程は、プロセスフローを妨げることなく既存の製造装置において行うことができる。したがって、本実施の形態において説明した「シード層/PMA層」積層構造の改善点、およびそれに付随する工程の改善点は、現在の製造スキームに容易に導入することができる上、性能の向上により、磁気記録技術をより速いペースで進展させることを可能にするものである。
【0125】
本発明を好適な実施の形態を参照して具体的に示し説明したが、当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形式的な変更および詳細な変更をなし得ることを理解することができるであろう。
【符号の説明】
【0126】
20,30…MAMR構造、21,31,61…基体、22…複合シード層、23…PMA多層膜、24…界面層、25…スペーサ層、26…磁界生成層(FGL)、27…キャップ層、29…STO構造、32…第1の界面層、33…トンネルバリア層、34…第2の界面層、35…フリー層、38…センサ積層体、40a,40b…磁化容易軸、41…下部シールド、42…絶縁層、42a,42b…絶縁層部分、44…ギャップ層、45…上部シールド、47…ハードバイアス構造、50…再生ヘッド構造、60…垂直磁気媒体、62…軟磁性下地層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い垂直磁気異方性(PMA:Perpendicular Magnetic Anisotropy)を有する磁気積層構造に係わり、特に、優れた性能を有するように保磁力Hcを増加させることが可能なマイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造、垂直磁気媒体および磁気デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)は、シリコンCMOSと、磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)技術とを組み合わせたものであり、SRAM、DRAMおよびフラッシュメモリ等の既存の半導体メモリに対して大いに競争力を有する主要な新興技術として注目されている。同様に、C. Slonczewskiによる非特許文献1に記載のスピントランスファー(以下、スピントルクまたはSTTとも称する)磁化スイッチングは、STT−MRAM等のギガビット規模のスピントロニック素子に応用できる可能性があることから、近年多大な関心を呼んでいる。最近では、J-G. Zhuらによる非特許文献2において、スピントランスファー発振器と呼ばれる別のスピントロニック素子が発表されている。このスピントランスファー発振器は、スピントランスファー運動量効果(spin transfer momentum effect)を利用することにより、垂直記録構造において、媒体保磁力を大幅に下回るヘッド磁界による記録を可能とするものである。
【0003】
MRAMおよびSTT−MRAMは、いずれも、トンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magnetoresistance)に基づく磁気トンネル接合素子(以下、MTJ素子という。)または巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magnetoresistance)に基づく巨大磁気抵抗効果素子(以下、GMR素子という。)を備えている。MTJ素子は、2つの強磁性層を薄い非磁性誘電体層により分離してなる積層構造を有し、GMR素子は、リファレンス層とフリー層とを金属スペーサ層により分離してなる積層構造を有する。これらの素子は、一般に、第1の導電線等の下部電極と、第2の導電線である上部電極との間の、上部電極と下部電極とが交差する部分に形成されている。また、センサ構造の場合、MTJ素子は2つのシールド間に形成され、ハードバイアス層がこのMTJ素子に隣接して設けられている。これにより、フリー層の磁化を安定させるための縦バイアスがもたらされる。
【0004】
垂直磁気異方性(以下、単にPMAという。))を有する材料は、磁気記録用途および光磁気記録用途において特に重要な要素である。PMAを有するスピントロニック素子は、熱的安定性および低スイッチング電流という要求を満たすだけではなくセル形状についてアスペクト比の制限がない点で、面内異方性に基づくMRAM素子と比較して有利である。したがって、PMAに基づくスピンバルブ構造は、将来的なMRAMの用途や他のスピントロニック素子のための主要な課題の一つである高記録密度化に必要なサイズ縮小を可能にするものである。非特許文献3に記載の理論的表現によれば、垂直磁気デバイスは、同一磁界を用いた場合において、面内磁気デバイスのそれよりも低いスイッチング電流を実現する可能性を有していることが予測されている。
【0005】
メモリセルの寸法が減少すると、より大きな磁気異方性が必要となる。熱安定性係数は、メモリセルの体積に比例するからである。一般的に、PMAを示す材料は、NiFeやCoFeB等の従来の面内軟磁性材料よりも大きな磁気異方性を有している。したがって、PMAを有する磁気デバイスは、低いスイッチング電流および高い熱的安定性を実現する上で有利である。PMAを有するGMR積層構造におけるスピントランスファースイッチングについては、非特許文献3〜7に記載されているように、種々の検討がなされている。しかしながら、従来技術に記載のGMR素子におけるスイッチング電流密度は、一般的に10ミリアンペア/平方センチメートルを超えている。これは、低スイッチング電流のMRAMにとっては高過ぎる値である。また、約1%というMR比は、MRAMの読み出し信号としては小さすぎる値である。したがって、PMAを有するMTJ素子のスピントランスファースイッチング性能を向上させることは、高性能なMRAM用途にとって重要なことである。
【0006】
非特許文献8は、TbCoFeを有するPMA構造を用いたMTJ素子におけるスピントランスファースイッチングについて報告している。ただし、PMA層としてTbCoFeやFePtを用いたMTJ素子の場合、十分に高いPMAを得るには厳密な熱処理条件が要求され、デバイス集積化の観点から高温はふさわしくない。
【0007】
CoPtやその合金(例えば、CoCrPt、CoPt−SiO2)は、PtおよびCrが強力なスピン消極材料であり、スピンバルブ構造に用いた場合にスピントロニック素子の振幅を著しく抑制してしまうので、望ましくない。同様に、PdおよびIrは、強力なスピン消極特性を有しているので、Co/PdおよびCo/Irは、スピントロニック素子用の優れたPMA材料とはなり得ない。さらに、Co/Pt,Co/PdおよびCo/Irを用いた構造では、シード層として、高価なPt,PdまたはIrを、概して極めて厚く形成する必要がある。さらに、Auは高コストであるとともに、隣接する層に対して容易に相互拡散してしまうことから、PMAを得ることを目的とした場合、Co/Auは非実用的である。
【0008】
PMA材料は、非特許文献2に記載されているように、マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR:Microwave Assisted Magnetic Recording)への適用も検討されている。非特許文献2は、垂直記録構造において媒体保磁力を大幅に下回るヘッド磁界による記録を行うためのメカニズムを提案するものである。
【0009】
図1は、非特許文献2に基づき作図した、交流磁界アシスト垂直ヘッド構造を有するMAMR記録ヘッドの要部を示す模式図である。図中、符号19で示す上側の枠部は、マイクロ波周波数領域の局部交流磁界を発生させるための垂直スピントルク駆動型発振器(STO)を表している。この垂直スピントルク駆動型発振器は、下部電極11aと、上部電極11bと、膜面と垂直に磁化したリファレンス層(スピントランスファー層)12と、金属スペーサ層13と、発振積層構造14とを有している。発振積層構造14は、磁界生成層14aと、磁化容易軸14cを有するPMA層14bとを含む。なお、図1の下側では、枠部19で示す垂直スピントルク駆動型発振器を90度回転させて示している。この場合、垂直スピントルク駆動型発振器は、記録磁極17とトレーリングシールド18との間に位置している。
【0010】
このMAMR記録ヘッドは、軟磁性下地層15を有する磁気媒体16の表面上を横切るように移動する。リファレンス層12は、注入電流Iのスピン分極をもたらす。磁界生成層14aとPMA層14bとは、互いに強磁性交換結合している。マイクロ波アシスト磁気記録に関する技術が成熟するに伴い、リファレンス層12および発振積層構造14に用いる材料の改善が必要とされている。
【0011】
他の先行技術文献において、特許文献1は、CuまたはTaとTiとの合金より選ばれるシード層を開示している。また、垂直磁気記録媒体の下地層における平滑性を向上させるための熱処理について記載している。
【0012】
特許文献2は、不連続な磁気相部分を非磁気相部分により囲んでなる複合体により構成されたラミネート層を備えた垂直磁気媒体を開示している。また、この作製方法は、複合層を熱処理し、または詳細不明の表面処理を行う工程を含んでいる。
【0013】
特許文献3は、垂直磁気記録媒体において、軟磁性下地層と結晶性中間層との間に用いられる、TaまたはCuよりなるシード層を開示している。
【0014】
特許文献4は、積層垂直磁気記録媒体における、TiまたはCuよりなるシード層を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0170329号明細書
【特許文献2】米国特許第7,128,987号明細書
【特許文献3】米国特許第7,175,925号明細書
【特許文献4】米国特許第7,279,240号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】C. Slonczewski著、「Current driven excitation of magnetic multilayers」、J. Magn. Magn. Mater.、1996年、第159巻、L1−L7
【非特許文献2】J-G. Zhu等著、「Microwave Assisted Magnetic Recording」、IEEE Trans. on Magnetics、2008年、第44巻、第1号、p125−131
【非特許文献3】S. Mangin等著、「Current-induced magnetization reversal in nanopillars with perpendicular anisotropy」、Nat. Mater.、2006年、5,210
【非特許文献4】H. Meng等著、「Low critical current for spin transfer in magnetic tunnel junctions」、J. Appl. Phys.、2006年、99、08G519
【非特許文献5】X. Jiang等著、「Temperature dependence of current-induced magnetization switching in spin valves with a ferromagnetic CoGd free layer」、Phys. Rev. Lett.、2006年、97、217202
【非特許文献6】T. Seki等著、「Spin-polarized current-induced magnetization reversal in perpendicularly magnetized L10-FePt layers」、Appl. Phys. Lett.、2006年、88、172504
【非特許文献7】S. Mangin等著、「Reducing the critical current for spin-transfer switching of perpendicularly magnetized nanomagnets」、Appl. Phys. Lett.、2009年、94、012502
【非特許文献8】M. Nakayama等著、「Spin transfer switching in TbCoFe/CoFeB/MgO/CoFeB/TbCoFe magnetic tunnel junctions with perpendicular magnetic anisotropy」、J. Appl. Phys.、2008年、103、07A710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述した文献はいずれも、従来技術において一般的に用いられる、より高コストの[Co/Pt]Yまたは[Co/Pd]Y積層構造の代わりとなる、高性能かつ低コストの垂直磁気異方性を有する積層構造について示唆していない。PMA材料が様々な磁気デバイス用途において広く受け入れられるようにするために、高いPMAおよび高い保磁力Hcを有する低コストの積層構造が必要とされている。
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、シード層上に高い保磁力Hcを有する積層構造を積層して多層構造を形成することにより、MRAM、MAMRおよびセンサ等の磁気デバイスにおいて、[Co/Pt]Yや[Co/Pd]Yを用いた従来の積層構造の代わりとなる高性能かつ低コストのPMA積層構造を有するマイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造および垂直磁気媒体、ならびにそのようなPMA積層構造を有する磁気デバイスの製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、従来の他のPMA構造により得られるものよりも高いスピン偏極効果と大きな飽和磁気ボリューム(単位面積当たりの飽和磁化膜厚)Mstとを有する、[Co/Ni]Xまたは[CoFe/Ni]X積層構造を有するマイクロ波アシスト磁気記録構造、磁気ランダムアクセスメモリ構造、ハードバイアス構造および垂直磁気媒体、ならびにそのようなPMA積層構造を有する磁気デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の実施の形態によれば、上記目的は、複合シード層を有する積層構造により達成される。この複合シード層は、平滑性を向上させるべく改質された上面と、その上に形成される[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜との間の優れた界面とを有する。但し、x=5〜50、zは10〜100[at%(原子百分率)])である。複合シード層は、好ましくは「Ta/Ti/Cu」構造を有し、下部Ta層は基体に接し、上部Cu層は最上層である。
【0021】
複合シード層は、より滑らかな表面を形成すべく、例えば、不活性ガスを用いたプラズマ処理(PT)が施され、その表面上に[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜が成膜される。他の例として、複合シード層の上面にプラズマ処理を施したのち、薄い酸素界面活性(OSL:Oxygen Surfactant Layer)層を形成するようにしてもよい。さらに他の例として、複合シード層の上面に自然酸化処理(NOX)のみを行うことにより滑らかな表面を形成し、その表面の上に[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜を成膜するようにしてもよい。
【0022】
また、低いエネルギーと高い圧力とを含む成膜プロセスを採用することにより、Co層またはCoFe層とNi層の表面に作用するエネルギーが最小限に抑えられ、これによりPMA多層膜におけるCo層とNi層との間、またはCoFe層とNi層との間の界面が改善される。その結果、その後に成膜される層との界面が改善される。
【0023】
さらに、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜における1つ以上のCo/Ni層またはCoFe/Ni層に対して、次のCo/Ni層またはCoFe/Ni層を成膜する前に自然酸化処理(NOX)を行うことにより、酸素界面活性層(OSL)を形成するようにしてもよい。
【0024】
第1の実施の形態では、MAMR構造の中に、下側のシード層と、上側の[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜とを含む積層構造が形成される。このシード層の上面には、プラズマ処理または酸化処理を用いた改質処理により、酸素界面活性層が形成されている。さらに、例えば、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜の内部に、1つ以上の酸素界面活性層を形成するようにしてもよい。必要により、シード層の上以外の、PMA多層膜において、1つ以上の酸素界面活性層を形成してもよい。上記MAMR構造は、例えば、「シード層/PMA多層膜/界面層/スペーサ層/磁界生成層(FGL)/キャップ層」なる構造を有する。GMR構造の場合、界面層および磁界生成層は、例えばFeCoより構成され、スペーサ層は例えば銅(Cu)より構成される。TMR構造の場合には、スペーサ層として、例えばMgO,AlOx,TiOx,またはZnO等より構成されたトンネルバリア層を有する。
【0025】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態における「シード層/PMA層」積層構造を、例えばMRAMデバイスに用いたものである。この積層構造は、例えばMTJ構造を有する場合、「シード層/PMA多層膜/界面層/スペーサ層/界面層/フリー層/キャップ層」なる構造を有する。スペーサ層は、MgO等からなるトンネルバリア層である。シード層は下部電極である基体に接し、キャップ層はビット線またはワード線に接していることが好ましい。
【0026】
第3の実施の形態は、「シード層/PMA層」積層構造を、磁気センサにおけるセンサ積層体(例えばMTJ素子)に隣接するハードバイアス構造に適用したものである。[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜において、x=10〜40(または5〜30)とすることにより、所望のMrt(残留磁化(Mr)と磁性層の膜厚(t)との積)が得られるようにすることが好ましい。この実施の形態では、キャップ層がPMA多層膜の上面に直接形成される。
【0027】
第4の実施の形態は、「シード層/PMA多層膜」積層構造を磁気媒体に適用したものである。「シード層/PMA層」積層構造は、下地層または基体の上に成膜される。また、第3の実施の形態と同様に、PMA多層膜の上面の上に形成されたキャップ層を有する。この実施の形態では、複合シード層における例えばTi層の厚さを増加させることにより、さらに高い保磁力Hcが得られる。PMA多層膜として、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜を作用する場合、xの範囲は20〜60程度である。
【0028】
なお、本出願は、本出願人による米国特許出願公開第2009/0257151号、米国特許出願第12/456935号、および米国特許出願第12/589614号に関連するものであり、これらのすべてを本出願に組み入れて考慮すべきである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、Ta/M1/M2なる構造の複合シード層の上に、[CoFe/Ni]X等の構造をもつスピン注入層(または、リファレンス層、ハードバイアス層、高PMA多層膜)を形成し、複合シード層とスピン注入層との間の第1の界面、および、スピン注入層の積層構造内の各一対の隣接層間における1以上の第2の界面のうち、一方または双方に界面活性層を形成するようにしたので、高い垂直磁気異方性(高PMA)を得ることができる。また、よりコスト高な[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系と比較して、各種デバイス用途においてそれら以上の性能をもたらすことが可能な高い保磁力Hcを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の交流磁界アシスト垂直ヘッド構造を有するMAMR記録ヘッドの模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るMAMRデバイスに形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るMRAMデバイスに形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るハードバイアス構造としてセンサに形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る磁気媒体の一部として形成されたシード層/PMA層積層構造の断面図である。
【図6】[Co/Ni]X多層膜のシード層としてのTa/Ru/CuをTa/Ti/Cuに置き換えた場合に保磁力Hcが大幅に増加することを示すMH曲線グラフである。
【図7】本発明の実施の形態において、低パワー・高ガス圧の[Co/Ni]Xの成膜処理を用いた場合に保磁力Hcが大幅に増加することを示すMH曲線グラフである。
【図8】本発明の実施の形態に係る方法において、プラズマ処理および自然酸化処理の少なくとも一方によるシード層の表面改質により、続いて成膜される[Co/Ni]X多層膜の保磁力Hcの値が増加することを示すMH曲線グラフである。
【図9】本発明の実施の形態に係る方法において、[Co/Ni]X多層膜の内部に酸素の界面活性層を形成することによってその保磁力Hcの値が増加することを示すMH曲線グラフである。
【図10】本発明の実施の形態に係る方法において、シード層/[Co/Ni]X積層構造に対する熱処理温度を増加させることにより保磁力Hcの値が増加することを示すMH曲線グラフである。
【図11】本発明の実施の形態に係るシード層/PMA層なる積層構造を有するトップ型STOを備えたスピントルク発振器構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
本発明の実施の形態に係る積層構造は、各実施の形態において説明されるように、シード層と、この上部の[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜とを備え、マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)、磁気メモリ(MRAM)、センサおよび磁気媒体等の磁気デバイスにおいて高い垂直磁気異方性(PMA)をもたらすものである。以下に説明する実施の形態はまた、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜における保磁力Hcの値を増加させる各種方法を提供するものである。
【0033】
本発明の実施の形態は、例えば、MAMR用のボトム型のスピントルク発振器(STO)や、MRAM用のボトムスピンバルブ構造に用いられる場合を示している。ただし、本実施の形態において説明される高いPMAを有する積層構造は、例えば、トップ型のスピントルク発振器や、MRAMデバイスにおけるトップスピンバルブ構造またはデュアルスピンバルブ構造に導入することもできる。
【0034】
本出願人は、米国特許出願公開第2009/0257151号明細書において、MRAMの用途としてのPMAを有するCo/Ni積層構造の利点について開示している。[Co/Ni]X積層構造(x=5〜50)の磁気異方性は、Co原子およびNi原子が有する3d電子と4s電子とのスピン軌道相互作用により生じる。このスピン軌道相互作用は、[111]方向に配列している結晶軸に対して異方性をもつ軌道モーメントを発生させるとともに、軌道モーメントをもったスピンモーメントの配列をもたらす。本出願人はまた、米国特許出願番号第12/589614号明細書において、[CoZFe(100-Z)/Ni]X積層構造およびこれに関連した積層構造について、同様なPMAの振る舞いを記載している。
【0035】
積層構造のPMAは、Ta/M1/M2構造またはTa/M1構造を有する複合シード層を用いることにより改善される。この場合、M1は、fcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金であり、例えば、Ru(ルテニウム),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),NiCrまたはNiFeCr等である。M2は、例えば、Cu(銅),Ti(チタン),Pd(パラジウム),W(タングステン),Rh(ロジウム),Au(金)またはAg(銀)であり、M1とは異なる金属である。複合シード層のTa層、M1層およびM2層は、それらの上側の層におけるfcc[111]結晶構造の表面組織を向上させる上で、極めて重要である。特に、Ta/Ti/Cuより構成されるシード層は、その上に形成される多層膜におけるPMAと保磁力Hcとを向上させる上で、特に効果的であることが判明している。
【0036】
[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜等からなる積層構造は、従来より用いられている[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系よりも、高いスピン偏極、低い所有権コスト、およびハードバイアス(HB)層を含む特定の用途において大きな飽和磁気ボリュームMstが発揮されるといった、優れた特性を有している。
【0037】
しかしながら、[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜は、[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系と比較して、固有保磁力Hcが低いという不具合を有している。保磁力Hcの値が低いことは、漂遊磁界に対するロバスト性が不十分となり、結果として[Co/Ni]Xまたは[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層膜をデバイス用途に幅広く用いることの妨げとなっている。
【0038】
そこで、本出願人は、[Co/Ni]X多層膜、[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜および関連する多層膜について、PMAと保磁力Hcとを飛躍的に改善することを目指した。上記の多層膜に固有のPMAは、Co(またはCoFe)原子およびNi原子が有する3d電子と4s電子との界面スピン軌道相互作用に由来することから、[Co/Ni]X多層膜および[CoZFe(100-Z)/Ni]X多層膜において、互いに隣接する一組の層(例えばCo/Ni)と一組の層(例えばCo/Ni)との間の界面をさらに改善する必要がある。例えば、[Co/Ni]X多層膜の場合、「x−1」の数の界面が存在している。
【0039】
本出願人は、シード層/[Co/Ni]Xなる多層構造、およびシード層/[CoZFe(100-Z)/Ni]Xなる多層構造において、PMAと保磁力Hcとを増加させるための3つの方法を発見した。これらの方法は、単独または互いに組み合わせて用いることができる。以下、これらの方法により作製された高いPMAを有する積層構造を磁気デバイスや磁気媒体に適用した場合の各種実施の形態について説明する。
【0040】
[第1の実施の形態]
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るMAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)構造20を示す断面図である。
【0041】
このMAMR構造20は、例えば、ボトム型(最下部にスピン注入層(SIL:Spin Injection Layer)が設けられたもの)のMAMR構造であり、基体21の上に、複合シード層22と、PMA多層膜(以下、リファレンス層またはスピン注入層とも呼ぶ。)23と、界面層24と、スペーサ層25と、磁界生成層(FGL:Field Generation Layer)26と、キャップ層27とが順次形成された構造を有している。基体21は、例えば、第1の電極としての機能を有している。
【0042】
複合シード層22は、好ましくはTa/Ti/Cu構造を有している。ただし、本出願の関連出願である上記米国特許出願番号第12/589614において記載されている他の材料も好適である。下部Ta層は、基体21に接しており、例えば、0.5nm〜5nm、好ましくは1.0nmの厚さを有している。中間Ti層は、0.5nm〜5nm、好ましくは3nmの厚さを有している。上部Cu層は、0.5nm〜5nm、好ましくは2nm〜3nmの厚さを有している。
【0043】
本出願人は、PMA多層膜23を成膜する前に、プラズマ処理(PT:Plasma Treatment)を行うことにより、複合シード層22の平滑性が著しく向上することを見出した。プラズマ処理は、複合シード層22の最上層から約0.5nm未満の部分を喪失させて表面トポグラフィーを減らすように作用する。プラズマ処理は、例えば、約15sccm(標準立方センチメートル毎分)〜450sccmの流速の不活性ガス(Ar等)と、約200ワット未満のパワーとを用いて、約10秒〜100秒間行う。その結果、この複合シード層22と、続いて成膜されるPMA多層膜23における[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層との間に、改善された界面が形成されることになる。
【0044】
さらに、このプラズマ処理を行ったのち、よりいっそう平滑な表面を有する複合シード層22を形成するために、第2の表面処理を行うようにしてもよい。特に、プラズマ処理後の複合シード層22の表面に、およそ1酸素原子層分の厚さ以下の厚さを有すると考えられる極めて薄い酸素界面活性層(OSL:Oxygen Surfactant Layer)が形成される。本質的に、酸素界面活性層は、自然酸化(NOX:Natural Oxidation)法を行うことにより形成される。
【0045】
自然酸化処理は、例えば、スパッタ装置の酸素チャンバ内で、約0.01sccm〜0.2sccmの酸素流量を用いて、約1秒〜200秒間行われる。なお、例えば、プラズマ処理を、スパッタ成膜装置のスパッタエッチングチャンバ内で行い、自然酸化処理を、同一のスパッタ成膜装置の酸素チャンバ内で行うことにより、スループットを向上させるようにしてもよい。
【0046】
他の例として、プラズマ処理と自然酸化処理のいずれか一方を、複合シード層22を処理する単一の方法として用いることにより、PMA多層膜23を成膜する前に複合シード層22の平滑性を向上させてもよい。ただし、後述の実施例における各種サンプルから得られた保磁力Hcに関するデータが示すように、通常は、2つの処理を組み合わせることにより、プラズマ処理または自然酸化処理のみを用いた場合よりも高い値の保磁力Hcを生じさせることが可能である。
【0047】
複合シード層22の上には、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xなる積層構造を有するPMA多層膜23が形成されている。ここで、zは0〜90である。xは5〜50、好ましくは10〜30である。PMA多層膜23における各Co層(またはCoFe層)の厚さt1は、0.05nm〜0.5nmであり、好ましくは0.15nm〜0.3nmである。PMA多層膜23の各Ni層の厚さt2は、0.2nm〜1.0nmであり、好ましくは0.35nm〜0.8nmである。Ni層の厚さt2は、Co層(またはCoFe層)の厚さt1よりも大きくするのが好ましく、特にt2=2×t1とするのがより好ましい。隣接するCo層とNi層との間(CoFe層とNi層との間)のスピン軌道相互作用を最適化するためである。
【0048】
見方によれば、Co層(CoFe層)の厚さt1が約0.2nm以下である場合、Co層(CoFe層)は最密充填層(close-packed layer)として考えることができ、この場合、必ずしも[111]結晶配向を有しているとは限らない。
【0049】
本発明は、PMA多層膜23が[Co(t1)/NiFe(t2)]X、[Co(t1)/NiCo(t2)]X、[CoFe(t1)/NiFe(t2)]X、または[CoFe(t1)/NiCo(t2)]Xにより表される組成を有するという実施の形態をも包含している。この場合、NiCo層におけるCo含有量およびNiFe層におけるFe含有量は、それぞれ、0〜50[at%]である。
【0050】
他の例として、PMA多層膜23は、(CoFeR/Ni)Xにより表される組成を有してもよい。この場合、Rは、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),チタン(Ti),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),ニッケル(Ni),クロム(Cr),マグネシウム(Mg),マンガン(Mn),または銅(Cu)等の金属である。CoFeR合金におけるRの含有量は、好ましくは10[at%]未満であり、CoFeR層の厚さは厚さt1である。
【0051】
本出願人は、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xなる多層膜を含む「シード層22/PMA多層膜23」積層構造における保磁力Hcを改善するための別の方法を発見した。先の出願では、低いパワーおよび高圧を用いた[Co/Ni]Xの成膜方法を採用することにより、Co層とNi層との間の界面を保つようにした。本出願人はさらなる鋭意努力を重ねた結果、圧力を100sccmよりも大幅に高く増加させることが、保磁力Hcを著しく上昇させる上で重要な役割を果たしていることを見出した。すなわち、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xを成膜する際に、100〜500sccmの超高圧のアルゴンガスを用いることにより、保磁力Hcを30%以上増加させることができる。
【0052】
さらに、上述した自然酸化法を用いることにより、PMA多層膜23を構成する1つ以上の[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層の表面を改善するようにしてもよい。自然酸化法を用いて形成された酸素界面活性層は、複合シード層22と[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層との間の界面を改善するのみならず、PMA多層膜23における、互いに隣接する[Co/Ni]層間または[CoFe/Ni]層間の界面をも改善する。
【0053】
なお、所望の保磁力Hcを得るためには、必ずしも[Co/Ni]X積層膜のすべての[Co/Ni]に対して自然酸化法を行う必要はない。例えば、各n番目の[Co/Ni]層(nは、1よりも大きい整数)のみに対して、後続の[Co/Ni]層を成膜する前に自然酸化処理を行うようにしてもよい。
【0054】
自然酸化処理は、Co層(CoFe層)とNi層のいずれかに対して行われる。すなわち、[Co/Ni]層を作製するための工程は、Co成膜/自然酸化処理/Ni成膜、または、Co成膜/Ni成膜/自然酸化処理、という手順を経ることになる。
【0055】
本発明の実施の形態では、複合シード層22に対して行われるプラズマ処理もしくは自然酸化処理、または、PMA多層膜23における1つ以上の層に対して行われる自然酸化処理を含む、少なくとも1つの表面改質処理を行うことにより、複合シード層22と、PMA多層膜23との界面を改善し、または、PMA多層膜23における互いに隣接する[Co/Ni]層間もしくは[CoFe/Ni]層間の界面を改善することができる。
【0056】
他の例として、[Co/Ni]Xまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Xの成膜の際に超高圧のアルゴンガスを用いることにより、「複合シード層/PMA多層膜」なる積層構造を備えた磁気デバイスにおける保磁力Hcを向上させることができる。超高圧を用いることにより、Co(またはCoFe)の表面またはNiの表面に作用するエネルギーが最小限に抑えられ、これにより隣接するCo層とNi層との間に形成される界面、または隣接するCoFe層とNi層との間に形成される界面を保つことができる。
【0057】
さらに他の例として、プラズマ処理または自然酸化処理を含む1つ以上の表面改質法と、PMA多層膜における[Co/Ni]層または[CoFe/Ni]層を超高圧下で成膜する方法とを組み合わせて用いることも可能である。
【0058】
PMA多層膜23の上には界面層24が形成されている。界面層24は、この界面層24の上に形成されるスペーサ層25の均一な成長を促進させ、より高いスピン偏極が得られるようにする役割を果たしている。界面層24は、例えば、0.5nmから2nm厚のCoFeからなる強磁性層である。または、界面層24を、例えば、CoFeB/CoFeなる複合構造(図示せず)としてもよい。この場合、PMA多層膜23と接する下部CoFeB層は、0.5nmから2nmの厚さを有し、スペーサ層25と接する上部CoFe層は、0.2nmから0.8nmの厚さを有する。また、上部CoFe層は、PMA多層膜23におけるCo(100-Z)FeZ層と同じ含有量の鉄(Fe)を含んでもよい。必要に応じて、界面層24が、CoFe/CoFeBなる複合構造を有するようにしてもよい。
【0059】
界面層24の上には、非磁性のスペーサ層25が形成されている。スペーサ層25は、GMR構造の場合、例えば、銅(Cu)または他の高い導電率を有する金属もしくは金属合金より構成される。このGMR構造は、電流制限パス(CCP:Current Confining Path)構造を有してもよい。CCP−GMR構造は、金属パスを内部に有する絶縁層が、銅(Cu)等よりなる2つの金属層により挟まれたものである。他の例として、TMR構造の場合、スペーサ層25は、MgO,AlOx,TiOx,ZnO等の誘電材料、または他の金属酸化物もしくは金属窒化物により構成されている。
【0060】
なお、スペーサ層25の上に、図示しない第2の界面層を形成することにより、スピントランスファー発振器(STO)におけるより高いスピン偏極を促すようにしてもよい。この第2の界面層は、CoFeB層、またはCoFeとCoFeBとを有する複合層により構成される強磁性層である。「CoFe/CoFeB」複合層の場合、下部CoFe層は、スペーサ層25に接し、上部CoFeB層は、その上に形成される磁界生成層26に接する。この場合、第2の界面層のCoFeB層およびCoFe層は、それぞれ、界面層24(第1の界面層)におけるCoFeB層およびCoFe層と同様の厚さを有している。必要に応じて、磁界生成層(FGL)26を、図2のようにスペーサ層25の上に直接形成するようにしてもよい。
【0061】
磁界生成層26は、例えば、FeCo等からなる磁性(強磁性)層である。磁界生成層26は、十分なスピントルクが印加された際に、磁気モーメントが磁化容易軸(図示せず)に沿って一方向から反対方向へとスイッチング可能な発振層として機能する。PMA多層膜23は、この磁界生成層26と強磁性結合している。
【0062】
他の例として、磁界生成層26が、例えば、[Co/Ni]Sまたは[Co(100-Z)FeZ/Ni]Sにより表される積層構造を有するようにしてもよい。ここで、zは0〜90[at%]であり、sは3〜10(好ましくは3〜5)である。例えば、磁界生成層26について選択されるzの値は、PMA多層膜23において用いられるzの値と同じである。ただし、磁界生成層26を構成する各層のCo含有量は、本実施の形態の「複合シード層22/PMA多層膜23」積層構造により得られる利益を犠牲にしない範囲で、PMA多層膜23を構成する各層のCo含有量と異なるようにしてもよい。なお、磁界生成層26は、垂直磁気異方性を形成するためのシード層を別途設けることを必要とせず、また、PMA多層膜23における[111]結晶配向とは異なる結晶構造を有してもよい。
【0063】
MAMR構造20の最上層には、キャップ層(複合キャップ層)27が設けられている。このキャップ層27は、例えば、Ru/Ta/Ru構造を有し、上部のRu層は、酸化を防止すると共に、その上に形成される第2の電極(図示せず)に対して優れた導通を図るために用いられる。必要に応じて、当該技術分野で用いられる他の材料を、キャップ層27に用いてもよい。
【0064】
本実施の形態に係る上記「複合シード層22/PMA多層膜23」積層構造の形成方法は、キャップ層27を成膜した後に熱処理を行う工程を含んでいる。この熱処理工程は、150〜から300°C、好ましくは180〜250°Cの範囲の温度で、0.5時間〜5時間にわたって行われる。こののち、周知の方法を用いてMAMR構造20をパターニングすることにより、基体21の上に複数のMAMR素子を形成する。なお、後述する実施例の実験データは、この熱処理を行うことにより保磁力Hcがさらに著しく増加することを示している。
【0065】
図2に示したMAMR構造20におけるスピントランスファー発振器(STO)構造29は、例えば、図11に示したようなSTO型の記録ヘッド80の一部として形成される。この実施の形態において、記録ヘッド80は一体型記録再生ヘッドの一部として設けられている。すなわち、この一体型記録再生ヘッドは、再生ヘッド75と記録ヘッド80とを一体に形成したものである。
【0066】
再生ヘッド75は、上部シールド74aおよび下部シールド74bと、これらのシールド74a,74b間に設けられたセンサ73とを有している。記録ヘッド80は、主磁極76と、トレーリングシールド77と、STO構造60に電流を注入するための配線78とを備えている。この図では、STO構造29はボトム型構造を有し、主磁極76に近い側に積層リファレンス層としてのPMA多層膜23が位置している。この積層リファレンス層の磁化方向は、媒体の移動方向と同じ方向を向いている。
【0067】
発振層(磁界生成層26)は、図中、STO構造29における2つの矢印および円状の点線を有する層として表されているように、積層リファレンス層(PMA多層膜23)よりも第1電極側(トレーリングシールド77側)に形成され、回転自在な磁化方向を有している。
【0068】
図示しない他の例では、STO構造29における磁界生成層26の位置とPMA多層膜23の位置とを入れ換えることにより、トップ型のSTO構造を有するようにしてもよい。
【0069】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明の実施の形態に係る「シード層/PMA多層膜」積層構造を有するMRAM(磁気ランダムアクセスメモリ)構造30を示す断面図である。
【0070】
本実施の形態の基板31は、例えばボトム電極層である。ここで示した例では、MRAM構造30は、基体31の上に、複合シード層22と、リファレンス層として機能するPMA多層膜23と、第1の界面層32と、トンネルバリア層33と、第2の界面層34と、フリー層35と、キャップ層27とを順次形成してなるボトム型スピンバルブ構造を有する。
【0071】
複合シード層22およびPMA多層膜23は、上記実施の形態(MAMR構造20)の場合と同様の材料を用いて同様の厚さに形成され、同様の方法により作製されている。具体的には、複合シード層22は、例えばTa/Ti/Cu構造(各層の厚さは0.5nm〜5nm程度)を有し、PMA多層膜23の形成前に、プラズマ処理および自然酸化処理のうちの少なくとも一方が施されている。また、PMA多層膜23は、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]X等の積層構造(xは5から50、好ましくは5から30の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するリファレンス層である。
【0072】
第1の界面層32は、この第1の界面層32の上に形成されるトンネルバリア層33の均一な成長を促進し、より高いスピン偏極が得られるようにする役割を果たすものであり、例えば、0.5nm〜2nm程度の厚さCoFeBからなる強磁性層である。あるいは、第1の界面層32を、例えば、「CoFeB/CoFe」なる複合体(図示せず)として構成してもよい。この場合、PMA多層膜23と接する下部CoFeB層は、例えば0.5nm〜2nm程度の厚さを有し、トンネルバリア層33と接する上部CoFe層は、例えば0.2nm〜0.8nm程度の厚さを有する。なお、第1の界面層32は、「CoFe/CoFeB」なる構造であってもよい。
【0073】
第1の界面層32の上には、トンネルバリア層33が形成されている。このトンネルバリア層33は、MgOにより構成するのが好ましいが、例えば、AlOx,TiOxおよびZnO等の本技術分野において用いられている他の非磁性トンネルバリア材料を用いてもよい。MgO層は、本出願人による米国特許出願公開第2007/0111332号明細書および米国特許出願公開第2007/0148786号明細書に記載されているように、PMA多層膜23(この場合では、PMA多層膜23に接する第1の界面層32)の上に、第1のMg層を成膜したのち自然酸化処理を行い、最後にこの酸化させた第1のMg層の上に、第2のMg層を成膜することにより作製される。このトンネルバリア層33は、後続の熱処理によってほぼ均一なMgO層となる。
【0074】
MRAM構造30におけるより高いスピン偏極を促進するために、トンネルバリア層33の上に第2の界面層34を形成することが好ましい。本実施の形態では、第2の界面層34は、例えば、第1の界面層32と同じ材料組成および厚さを有する。したがって、第2の界面層34としては、CoFeB、CoFeB/CoFe、またはCoFe/CoFeBという構造が望ましい。
【0075】
本実施の形態において、第2の界面層34の上には、フリー層35が形成されている。フリー層35は、例えば、CoFe、CoFeB、またはそれらの組み合わせにより構成されている。
【0076】
他の例として、フリー層35は、CoFe/NiFeなる積層構造を有してもよい。
【0077】
さらに他の例として、フリー層35は、[Co/Ni]S、[Co(100-Z)FeZ/Ni]S、[CoFe/NiFe]S、[Co/NiFe]S、[Co/NiCo]S、または[CoFe/NiCo]Sなる積層構造を有してもよい。ここで、zは0〜90[at%]であり、sは3〜10(好ましくは3〜5)である。
【0078】
他の例として、フリー層35を省略し、第2の界面層34をフリー層35として機能させるようにしてもよい。この場合、例えば、第2の界面層34の厚さを調整することにより、結果としてMRAM構造30において得られるスピンバルブ構造の磁気特性を最適化することができる。
【0079】
キャップ層27は、スピンバルブ構造の最上層として設けられている。キャップ層27は、例えばRu/Ta/Ru構造を有し、上部のRu層は、酸化を防止すると共に、その上に形成される上部電極(図示せず)に対して優れた導通を図るために用いられる。
【0080】
薄いRu層をSTT−MRAM用途としてキャップ層27に用いた場合、Ru(ルテニウム)の強力なスピン散乱効果に起因して、臨界電流密度(Jc)が著しく低下する。臨界電流密度は、90nm技術ノード(90 nm technology node)以降のスピントランスファー磁化反転にも適合するように、約106A/cm2であることが好ましい。臨界電流密度の値がこれよりも高いと、AlOxやMgO等の薄いトンネルバリア層を破壊する可能性もある。Ta層は、例えば、後続の処理工程においてエッチングのストップ層として機能すべく設けられている。必要に応じて、当該技術分野で用いられる他の材料を、キャップ層27に用いてもよい。
【0081】
MRAM構造30のすべての層を成膜したのち、例えば220〜400°C、好ましくは250〜360°Cの範囲で、2時間〜5時間にわたる熱処理を行う。こののち、周知の方法を用いてMRAM構造30をパターニングおよびエッチングすることにより、基体31の上に複数のMRAMセルを形成する。本実施の形態では、下部電極としての基体31は、MRAM構造30と同時にパターンングされる。したがって、MRAMアレイの各MRAMセルの下には、下部電極が形成されている。
【0082】
[第3の実施の形態]
図4は、第3の実施の形態を示すものであり、センサを安定させるためのハードバイアス構造に上記の「シード層/PMA層」積層構造を導入した例である。この図は、再生ヘッド構造50の内部に設けられたセンサ積層体38を、エアベアリング(ABS)面から見た図である。
【0083】
図示しない基体(例えば、セラミック等)の上には、下部シールド41(例えば、ニッケル鉄合金等)が形成されている。この下部シールド41の上には、パターニングされたスピンバルブ素子(センサ積層体38)が周知の方法を用いて形成されている。このセンサ積層体38は、フリー層(図示せず)を有し、ボトム型スピンバルブ構造、トップ型スピンバルブ構造、またはデュアル型スピンバルブ構造を有している。センサ積層体38の各層は、下部シールド41の上面41sに平行な面内に形成された上面を有している。センサ積層体38は、説明を省略する周知の方法を用いて作製された上面38aおよびサイドウォール43を有している。センサ積層体38の上面38aは、上面視(図示せず)で円形、楕円形、または多角形の外観を呈している。
【0084】
図4のハードバイアス構造47は、下部シールド41の上に形成された絶縁層部分42aと、サイドウォール43に沿った絶縁層部分42bとを含む絶縁層42を含む。この絶縁層42は、例えばAlOxまたは他の絶縁材料より構成される。
【0085】
絶縁層部分42a,42bの上には複合シード層22が形成されている。複合シード層22は、好ましくはTa/Ti/Cu(各層の厚さは0.5nm~5nm程度)より構成される。なお、上述した他の構成を複合シード層22に用いてもよい。
【0086】
複合シード層22の上には、ハードバイアス層としての役割を果たすPMA多層膜23が設けられている。このPMA多層膜23は、好ましくは、上記各実施の形態において説明した高い垂直磁気異方性を有する[Co/Ni]x、[Co(100-Z)FeZ/Ni]x、[CoFe/NiFe]x、[Co/NiFe]x、[Co/NiCo]x、または[CoFe/NiCo]xなる構造(x=5〜30)を有している。
【0087】
矢印40aは、絶縁層部分42aの上方のシード層22の上に形成されたハードバイアス(HB)粒子の磁化容易軸を示し、矢印40bは、絶縁層部分42bの上方のシード層22の上に形成されたハードバイアス(HB)粒子の磁化容易軸を示す。これらの磁化容易軸(矢印40a,40b)は、その下の複合シード層22に対して垂直方向に配向しているため、x軸方向(左右の方向)に沿って、ハードバイアス材料の異方性磁界を打ち負かすだけの強い面内長手磁界を印加することにより、ハードバイアス層の磁化方向が印加磁界と同じ方向に配列し、PMA多層膜23(ハードバイアス層)が初期化される。
【0088】
磁界の印加を停止させたのち、ハードバイアス(HB)粒子の磁化は、縦方向に対してより小さな角度を有する一軸磁化容易軸方向へと落ち着く。このハードバイアス層の初期化は、好ましくは上部シールド45が形成された後に行われる。サイドウォール43に沿って成長したハードバイアス粒子の磁化方向は、磁化容易軸方向に沿いつつサイドウォール43を指し示す方向に配向する。したがって、PMA多層膜23(ハードバイアス層)から生ずる電荷(図示せず)は、主に、サイドウォール43に沿った領域46内のHBエッジ粒子に由来する表面電荷である。このような電荷配置は、実際上、センサ積層体38およびその内部のフリー層に強力なハードバイアス磁界を発生させる上で最良の状態である。電荷がサイドウォール43に最も近接する位置にあり、電荷からの立体角(図示せず)が最大となるからである。特に、本実施の形態に係る「シード層/PMA層」積層構造のハードバイアス層は、高い保磁力Hcおよび高い飽和磁気ボリュームMstを、一般的にプラチナ(Pt)を含む従来のハードバイアス層よりも低コストで得ることができる点で有利である。
【0089】
センサ積層体38の上面38sと同一平面上に位置する上面23sに沿った部分以外の領域におけるPMA多層膜23(ハードバイアス層)の上には、キャップ層27が形成されている。このキャップ層27および上面23s,38sの上に、絶縁材料からなるコンフォーマルなギャップ層44が形成され、これにより、センサ積層体38およびハードバイアス構造47が上部シールド45から隔離されている。
【0090】
センサ積層体38は、MRAM構造やMAMR構造と比較して高い温度による熱処理に対してより敏感であるため、キャップ層27を形成した後に行う熱処理は、180〜250°C程度の低い温度を維持した上で0.5時間〜5時間程度行うことが好ましい。
【0091】
なお、複合シード層22とPMA多層膜23(ハードバイアス層)とを有する上記ハードバイアス構造47は、図4に示したもの以外のハードバイアス安定化構造に用いてもよい。
【0092】
[第4の実施の形態]
図5は、第4の実施の形態を表すもので、上記の「シード層/PMA層」積層構造を、磁気記録および磁気データ記憶に用いられる垂直磁気媒体に導入した例を示す。
【0093】
本実施の形態の垂直磁気媒体60は、基体61と、この上に順次形成された、軟磁性下地材62、複合シード層22、PMA多層膜23およびキャップ層27とを有する。なお、本実施の形態は他の垂直磁気媒体構造に適用することもできるが、あくまでも主要な特徴は、20000[Oe](=2×107/4π[A/m])よりも高い優れた異方性磁界Hkと、3000[Oe](=3×106/4π[A/m])よりも高い保磁力Hcと、5×106[erg/cc](=5×105[J・m-2])よりも高い異方性定数Kuと、調整可能なMrt(残留磁化(Mr)と磁性層の膜厚(t)との積)とがもたらされる、好ましい粒間交換結合を有する複合シード層22と、PMA多層膜23と、キャップ層27とを有する積層構造にある。
【0094】
複合シード層22がTa/Ti/Cuからなる場合、通常は、その全体の厚さを10nm以下とする。但し、Ti層の厚さを最大で10nmまで増加させることにより、上記のMAMR構造、MRAM構造およびハードバイアス構造の場合よりも高い保磁力Hcを得ることができる。
【0095】
[Co/Ni]x、[Co(100-Z)FeZ/Ni]x、[CoFe/NiFe]x、[Co/NiFe]x、[Co/NiCo]x、または[CoFe/NiCo]xより構成されるPMA多層膜23において、xは、上記各実施の形態の場合よりも高い20〜60程度の値を有してもよい。
【0096】
キャップ層27は、例えばRu/Ta/Ruなる構成を有する。但し、本技術分野において用いられている他のキャップ層材料を用いてもよい。
【0097】
垂直磁気媒体60のすべての層を成膜したのち、例えば180〜400°C、好ましくは200〜360°Cの範囲で、2時間から5時間にわたって熱処理を行う。
【実施例1】
【0098】
「Ta/Ru/Cu」なる構造の複合シード層を、実施の形態において説明した「Ta/Ti/Cu」なる構造の複合シード層に置き換えた場合における、PMAの大きさと保磁力Hcの改善を示すために、以下の実験を行った。図6は、その実験結果を表すものである。
【0099】
試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnometer)を用いて磁化曲線(MH曲線)からPMAの値を得るために、「Ta1.0/Ru2.0/Cu2.0」複合シード層と、[Co0.2/Ni0.5]15積層膜と、「Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」キャップ層とを有する部分スピンバルブ構造を、基準サンプルとして作製した。なお、各元素記号に続く数値は膜厚(単位nm)を示す。以下、同様である。
【0100】
また、基準サンプルにおける「Ta/Ru/Cu」複合シード層を、実施の形態に係る「Ta1.0/Ti2.0/Cu2.0」複合シード層に置き換えたものを、実施例サンプルとして作製した。
【0101】
これらの各サンプルを、220°Cの温度で2時間にわたって熱処理した。図6は、これらの2つのサンプルについて測定された磁界(保磁力Hc)のPMA成分を示している。これらの結果から、保磁力Hcは、例えば、基準サンプル(図6(a))の580[Oe](=5.8×105/4π[A/m])から、「Ta/Ti/Cu」シード層を有する実施例サンプル(図6(b))についての1150[Oe](=11.5×105/4π[A/m])へと増加することがわかる。同様に、「Ta/Ti/Cu」シード層を有する実施例サンプルについては、より高い異方性磁界Hk(図示せず)が得られた。
【実施例2】
【0102】
第2の実験では、実施の形態に係る[Co/Ni]x積層膜の成膜時に超高ガス圧を用いた場合における保磁力Hcの改善を示すために、「複合シード層/PMA多層膜/キャップ層」なる構成を有する部分スピンバルブ構造を作製した。図7は、その実験結果を表すものである。
【0103】
基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、各Co層および各Ni層は、100sccmの流速のアルゴン(Ar)ガスを用いて成膜した。
【0104】
また、同じ組成を有すると共に500sccmの超高流速のアルゴンガスを用いて成膜した実施例サンプルを用意した。
【0105】
図7(a)のグラフから、220°C、5時間の条件による熱処理を経た基準サンプルの積層構造の保磁力Hcは、垂直磁界について1545[Oe](=15.45×105/4π[A/m])であることがわかる。これに対し、図7(b)のグラフから、超高圧を用いて作製された同一の条件による熱処理を経た実施例サンプルの保磁力Hcは、2130[Oe](=21.3×105/4π[A/m])であることがわかる。
【実施例3】
【0106】
次に、[Ta/Ti/Cu]なる構造を有する複合シード層に対して上記のプラズマ処理または自然酸化処理を施した場合の効果を確認するために4つのサンプルを作成し、第3の実験を行った。図8は、その実験結果を表すものである。
【0107】
図8(a)に示す基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる部分スピンバルブ構造を、超高圧を用いて作製した。このサンプルでは、[Co/Ni]15積層膜の成膜前に複合シード層へのプラズマ処理または自然酸化処理を施してはいない。なお、この基準サンプルは図7(b)に示したサンプルと同じものである。
【0108】
第2の(実施例)サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/PT/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、[Co/Ni]15積層膜とキャップ層とを成膜する前に、複合シード層に対して、20ワットのパワーおよび50sccmの流速のアルゴンガスを用いたプラズマ処理(PT)を50秒間施すことにより、より滑らかな複合シード層を形成するようにした。
【0109】
第3の(実施例)サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/OSL/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、積層[Co/Ni]15層とキャップ層とを成膜する前に、複合シード層に対して、0.08sccmの流速の酸素を用いた自然酸化処理(NOX)を50秒間行うことにより、酸素界面活性層(OSL)を形成した。
【0110】
第4の(実施例)サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/PT/OSL/[Co0.2/Ni0.5]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。このサンプルでは、積層[Co/Ni]15層とキャップ層とを高圧条件を用いて成膜する前に、複合シード層に対して、20ワットのパワーと50sccmの流速のアルゴンガスとを用いたプラズマ処理(PT)を50秒間施したのち、0.08sccmの流速の酸素を用いた自然酸化処理(NOX)を50秒間行うことにより、酸素界面活性層(OSL)を形成した。
【0111】
これらのすべてのサンプルに対し、220°Cの熱処理を5時間行った。
【0112】
図8(b)のグラフから、第2のサンプルの保磁力Hcは、保磁力Hcが2130[Oe](=21.3×105/4π[A/m])である基準サンプル(図8(a))と比較して、2330[Oe](=23.3×105/4π[A/m])に増加していることがわかる。また、図8(c)のグラフから、第3のサンプルの保磁力Hcは2520[Oe](=25.2×105/4π[A/m])に増加し、図8(d)のグラフから、第4のサンプルの保磁力Hcは2730[Oe](=27.3×105/4π[A/m])に増加していることがわかる。したがって、「Ta/Ti/Cu」複合シード層に対してプラズマ処理もしくは自然酸化処理またはその両方を施すことにより、スピンバルブ構造における保磁力Hcが向上することがわかる。また、プラズマ処理に続いて自然酸化処理を行うようにすると、性能向上において最も効果的であることがわかる。
【実施例4】
【0113】
次に、[Co/Ni]x等からなる複合PMA層の中に1つ以上の酸素界面活性層を形成した場合の効果を示すために、図9に示す第4の実験を行った。
【0114】
基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu2.0/[Co0.2*/Ni0.5*]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる部分スピンバルブ構造を作製した。各Co層および各Ni層の隣に記したアステリスク「*」は、それらが超高圧条件(500sccmの流速のアルゴンガス)を用いて成膜されていることを示している。
【0115】
実施例サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu2.0/{[Co0.2*/Ni0.5*]5/OSL}3/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」なる積層構造を作製した。ここでは、キャップ層を形成する前に、5つの[Co/Ni]層を成膜したのち自然酸化処理(NOX)を行うことにより酸素界面活性層(OSL)を形成するという一連の処理を全部で3回繰り返した。
【0116】
そして、これらのサンプルに対し、220°Cの熱処理を5時間行ったのち、MH曲線を得た。
【0117】
保磁力Hcが1955[Oe](=19.55×105/4π[A/m])である基準サンプル(図9(a))と比較して、実施例サンプル(図9(b))の保磁力Hcが2325[Oe](=23.25×105/4π[A/m])に増加していることがわかる。これは、実施例サンプルのように酸素界面活性層を形成したことによって、[Co/Ni]層と[Co/Ni]との間の界面がより滑らかになったことによるものである。
【実施例5】
【0118】
図10は第5の実験の結果を表すものである。この実験は、実施の形態に係る「シード層/PMA層」積層構造を有するスピンバルブ構造に対して、より高い温度の熱処理を行うことによる改善を示すものである。なお、220°Cよりも高い温度の熱処理は、高温による温度偏移によって1以上の層が損傷してしまう可能性があることから、センサ等の一部の磁気デバイスには適用できない場合がある。ただし、熱処理温度をできる限り増加させることは、実施の形態に係るPMA多層膜の保持力Hcをも向上させることにつながることを本出願人は発見した。
【0119】
基準サンプルとして、「Ta1.0/Ti3.0/Cu3.0/OSL/[Co0.2*/Ni0.5*]15/Ru1.0/Ta4.0/Ru3.0」になる部分スピンバルブ構造を作製した。各Co層および各Ni層の隣に記したアステリスク「*」は、それらが超高圧条件(500sccmの流速のアルゴンガス)を用いて成膜されていることを示している。この基準サンプルに対して220°Cの熱処理を5時間行った。
【0120】
一方、上記基準サンプルと同じ膜構成の実施例サンプルに対しては250°Cの熱処理を2時間行った。
【0121】
図10に示すMH曲線のグラフから、保磁力Hcが2560[Oe](=25.6×105/4π[A/m])(図10(a))である基準サンプルに対して、熱処理温度を30°C上昇させた実施例サンプルの保磁力Hcは3020[Oe](=30.2×105/4π[A/m])(図10(b))に増加していることがわかる。場合によっては、280〜350°Cの範囲の熱処理温度を用いると、その保磁力Hcは、250°Cの熱処理条件において得られる保磁力Hcよりも大幅に高くなると予想される。
【0122】
各実施の形態において説明した、すべてのプロセスの組み合わせと構造の変更とにより、最も高い保磁力Hcを得ることができることがわかるであろう。それらの変更点を以下に示す。
【0123】
(1)シード層を「Ta/Ti/Cu」という構成の複合シード層とするのが好ましく、この複合シード層に対してプラズマ処理または自然酸化処理を施す。
(2)シード層の上に、[Co/Ni]x積層膜を、超高圧を用いて形成する。
(3)[Co/Ni]x積層膜の中に、少なくとも1つの酸素界面活性層を含ませる。
(4)デバイスの各層の信頼性に影響を及ぼさない程度の高い熱処理温度を用いる。
【0124】
以上説明した実施の形態を1つ以上利用することにより、高価な[Co/Pt]Y系や[Co/Pd]Y系よりも材料コストを低く抑えつつ、従来技術と比較して垂直磁気異方性PMAおよび保磁力Hcをより高い値にまで増加させることができる。また、すべての工程は、プロセスフローを妨げることなく既存の製造装置において行うことができる。したがって、本実施の形態において説明した「シード層/PMA層」積層構造の改善点、およびそれに付随する工程の改善点は、現在の製造スキームに容易に導入することができる上、性能の向上により、磁気記録技術をより速いペースで進展させることを可能にするものである。
【0125】
本発明を好適な実施の形態を参照して具体的に示し説明したが、当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形式的な変更および詳細な変更をなし得ることを理解することができるであろう。
【符号の説明】
【0126】
20,30…MAMR構造、21,31,61…基体、22…複合シード層、23…PMA多層膜、24…界面層、25…スペーサ層、26…磁界生成層(FGL)、27…キャップ層、29…STO構造、32…第1の界面層、33…トンネルバリア層、34…第2の界面層、35…フリー層、38…センサ積層体、40a,40b…磁化容易軸、41…下部シールド、42…絶縁層、42a,42b…絶縁層部分、44…ギャップ層、45…上部シールド、47…ハードバイアス構造、50…再生ヘッド構造、60…垂直磁気媒体、62…軟磁性下地層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から50の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するスピン注入層と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記スピン注入層との間に第1の界面が形成されると共に、前記スピン注入層の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
マイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項2】
さらに、
前記スピン注入層の上に順次形成された、界面層と、非磁性スペーサ層と、磁界生成層と、キャップ層とを含む
請求項1に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項3】
前記複合シード層の前記M1がチタン(Ti)、前記M2が銅(Cu)であり、前記Ta層、前記Ti(=M1)層および前記Cu(=M2)層が、それぞれ0.5nmから5nmの厚さを有する
請求項1に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項4】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項1に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項5】
前記非磁性スペーサ層が、GMR構造を構築するための銅(Cu)を含み、または、TMR構造を構築するためのMgO、AlOx、ZnOもしくはTiOxからなり、
前記界面層が、CoFeB、CoFe/CoFeB、またはCoFeB/CoFeからなり、
前記磁界生成層が、FeCoを含む
請求項2に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項6】
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から30の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するリファレンス層と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記リファレンス層との間に第1の界面が形成されると共に、前記リファレンス層の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項7】
さらに、
前記リファレンス層の上に順次形成された、第1の界面層と、トンネルバリア層と、第2の界面層と、フリー層と、キャップ層とを含む
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項8】
前記複合シード層の前記M1がチタン(Ti)、前記M2が銅(Cu)であり、前記Ta層、前記Ti(=M1)層および前記Cu(=M2)層が、それぞれ0.5nmから5nmの厚さを有する
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項9】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項10】
前記トンネルバリア層が、MgO、AlOx、ZnOまたはTiOxからなり、
前記第1および第2の界面層が、CoFeB、CoFe/CoFeB、またはCoFeB/CoFeからなる
請求項7に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項11】
前記フリー層が、[CoFe/Ni]S、[CoFeR/Ni]S、[Co/NiFe]S、[Co/NiCo]S、[CoFe/NiFe]S、または[CoFe/NiCo]Sにより表される積層構造(sは3から10の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層、またはNiCo層よりも薄い)を有する
請求項7に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項12】
再生ヘッドのセンサに隣接して形成されたハードバイアス構造であって、
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から30であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するハードバイアス層と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記ハードバイアス層との間に第1の界面が形成されると共に、前記ハードバイアス層の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
ハードバイアス構造。
【請求項13】
さらに、
前記ハードバイアス層の上に形成されたキャップ層を含む
請求項12に記載のハードバイアス構造。
【請求項14】
前記複合シード層の前記M1がチタン(Ti)、前記M2が銅(Cu)であり、前記Ta層、前記Ti(=M1)層および前記Cu(=M2)層が、それぞれ0.5nmから5nmの厚さを有する
請求項12に記載のハードバイアス構造。
【請求項15】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項12に記載のハードバイアス構造。
【請求項16】
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは20から60の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有する高垂直磁気異方性多層膜と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記高垂直磁気異方性多層膜との間に第1の界面が形成されると共に、前記高垂直磁気異方性多層膜の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
垂直磁気媒体。
【請求項17】
さらに、
前記高垂直磁気異方性多層膜の上に形成されたキャップ層を含む
請求項16に記載の垂直磁気媒体。
【請求項18】
前記複合シード層が、最大で10nmの厚さを有するTa/Ti/Cuなる構造を有する
請求項16に記載の垂直磁気媒体。
【請求項19】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項16に記載の垂直磁気媒体。
【請求項20】
高垂直磁気異方性を有する磁気デバイスの製造方法であって、
基体の上に、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層を成膜する工程と、
不活性ガスおよび200ワット未満のパワーを含むプラズマ処理、および、前記複合シード層の前記上面に直接または前記プラズマ処理を経て行われる自然酸化処理のうち、少なくとも一方を、前記複合シード層の前記上面に施すことにより、前記複合シード層の上面の平滑性を改善する工程と、
前記複合シード層の上に、100sccmよりも高い超高圧の不活性ガスを用いて、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から50の整数であり、Ni層、NiFe層またはNiCo層の第1の厚さは、Co層、CoFe層またはCoFeR層の第2の厚さよりも厚く、前記NiFe層におけるFe含有量および前記NiCo層におけるCo含有量は0から50[at%])を有する高垂直磁気異方性多層膜を成膜する工程と
を含む磁気デバイスの製造方法。
【請求項21】
さらに、
前記高垂直磁気異方性多層膜の上にキャップ層を形成する工程を含む
請求項20に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項22】
さらに、
キャップ層を形成したのち、少なくとも180°Cの温度により前記高垂直磁気異方性多層膜を熱処理する工程を含む
請求項20に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項23】
前記磁気デバイスがマイクロ波アシスト磁気記録構造であり、
スピン注入層としての前記高垂直磁気異方性多層膜の上に、界面層と、非磁性スペーサ層と、磁界生成層と、キャップ層とを順次形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が180°Cから250°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項24】
前記磁気デバイスが磁気ランダムアクセスメモリ構造であり、
リファレンス層としての前記高垂直磁気異方性多層膜の上に、第1の界面層と、トンネルバリア層と、第2の界面層と、フリー層と、キャップ層とを順次形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が220°Cから400°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項25】
前記磁気デバイスがハードバイアス構造であり、
ハードバイアス層としての前記高垂直磁気異方性多層膜の上にキャップ層を形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が180°Cから250°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項26】
前記磁気デバイスが垂直磁気媒体であり、
前記高垂直磁気異方性多層膜の上にキャップ層を形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が180°Cから400°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項27】
さらに、
前記高垂直磁気異方性多層膜の内部に、少なくとも1つの酸素界面活性層を形成する工程を含む
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項1】
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から50の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するスピン注入層と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記スピン注入層との間に第1の界面が形成されると共に、前記スピン注入層の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
マイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項2】
さらに、
前記スピン注入層の上に順次形成された、界面層と、非磁性スペーサ層と、磁界生成層と、キャップ層とを含む
請求項1に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項3】
前記複合シード層の前記M1がチタン(Ti)、前記M2が銅(Cu)であり、前記Ta層、前記Ti(=M1)層および前記Cu(=M2)層が、それぞれ0.5nmから5nmの厚さを有する
請求項1に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項4】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項1に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項5】
前記非磁性スペーサ層が、GMR構造を構築するための銅(Cu)を含み、または、TMR構造を構築するためのMgO、AlOx、ZnOもしくはTiOxからなり、
前記界面層が、CoFeB、CoFe/CoFeB、またはCoFeB/CoFeからなり、
前記磁界生成層が、FeCoを含む
請求項2に記載のマイクロ波アシスト磁気記録構造。
【請求項6】
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から30の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するリファレンス層と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記リファレンス層との間に第1の界面が形成されると共に、前記リファレンス層の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項7】
さらに、
前記リファレンス層の上に順次形成された、第1の界面層と、トンネルバリア層と、第2の界面層と、フリー層と、キャップ層とを含む
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項8】
前記複合シード層の前記M1がチタン(Ti)、前記M2が銅(Cu)であり、前記Ta層、前記Ti(=M1)層および前記Cu(=M2)層が、それぞれ0.5nmから5nmの厚さを有する
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項9】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項6に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項10】
前記トンネルバリア層が、MgO、AlOx、ZnOまたはTiOxからなり、
前記第1および第2の界面層が、CoFeB、CoFe/CoFeB、またはCoFeB/CoFeからなる
請求項7に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項11】
前記フリー層が、[CoFe/Ni]S、[CoFeR/Ni]S、[Co/NiFe]S、[Co/NiCo]S、[CoFe/NiFe]S、または[CoFe/NiCo]Sにより表される積層構造(sは3から10の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層、またはNiCo層よりも薄い)を有する
請求項7に記載の磁気ランダムアクセスメモリ構造。
【請求項12】
再生ヘッドのセンサに隣接して形成されたハードバイアス構造であって、
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から30であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有するハードバイアス層と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記ハードバイアス層との間に第1の界面が形成されると共に、前記ハードバイアス層の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
ハードバイアス構造。
【請求項13】
さらに、
前記ハードバイアス層の上に形成されたキャップ層を含む
請求項12に記載のハードバイアス構造。
【請求項14】
前記複合シード層の前記M1がチタン(Ti)、前記M2が銅(Cu)であり、前記Ta層、前記Ti(=M1)層および前記Cu(=M2)層が、それぞれ0.5nmから5nmの厚さを有する
請求項12に記載のハードバイアス構造。
【請求項15】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項12に記載のハードバイアス構造。
【請求項16】
基体の上に形成され、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層と、
前記複合シード層の上に形成され、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは20から60の整数であり、CoFe層、CoFeR層またはCo層は、Ni層、NiFe層またはNiCo層よりも薄い)を有する高垂直磁気異方性多層膜と、
界面活性層と
を含み、
前記複合シード層と前記高垂直磁気異方性多層膜との間に第1の界面が形成されると共に、前記高垂直磁気異方性多層膜の前記積層構造における各一対の隣接する層間に第2の界面が形成され、
前記界面活性層が、前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成されている
垂直磁気媒体。
【請求項17】
さらに、
前記高垂直磁気異方性多層膜の上に形成されたキャップ層を含む
請求項16に記載の垂直磁気媒体。
【請求項18】
前記複合シード層が、最大で10nmの厚さを有するTa/Ti/Cuなる構造を有する
請求項16に記載の垂直磁気媒体。
【請求項19】
前記第1の界面および1つ以上の前記第2の界面の一方または双方に形成された前記界面活性層が、1原子層以下の厚さを有する酸素層より構成される
請求項16に記載の垂直磁気媒体。
【請求項20】
高垂直磁気異方性を有する磁気デバイスの製造方法であって、
基体の上に、Ta/M1/M2なる構造(M1はfcc[111]結晶配向またはhcp[001]結晶配向を有する金属または合金、M2は前記M1とは異なる金属)を有する複合シード層を成膜する工程と、
不活性ガスおよび200ワット未満のパワーを含むプラズマ処理、および、前記複合シード層の前記上面に直接または前記プラズマ処理を経て行われる自然酸化処理のうち、少なくとも一方を、前記複合シード層の前記上面に施すことにより、前記複合シード層の上面の平滑性を改善する工程と、
前記複合シード層の上に、100sccmよりも高い超高圧の不活性ガスを用いて、[Co/Ni]X、[CoFe/Ni]X、[CoFeR/Ni]X、[Co/NiFe]X、[Co/NiCo]X、[CoFe/NiFe]X、または[CoFe/NiCo]Xにより表される積層構造(xは5から50の整数であり、Ni層、NiFe層またはNiCo層の第1の厚さは、Co層、CoFe層またはCoFeR層の第2の厚さよりも厚く、前記NiFe層におけるFe含有量および前記NiCo層におけるCo含有量は0から50[at%])を有する高垂直磁気異方性多層膜を成膜する工程と
を含む磁気デバイスの製造方法。
【請求項21】
さらに、
前記高垂直磁気異方性多層膜の上にキャップ層を形成する工程を含む
請求項20に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項22】
さらに、
キャップ層を形成したのち、少なくとも180°Cの温度により前記高垂直磁気異方性多層膜を熱処理する工程を含む
請求項20に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項23】
前記磁気デバイスがマイクロ波アシスト磁気記録構造であり、
スピン注入層としての前記高垂直磁気異方性多層膜の上に、界面層と、非磁性スペーサ層と、磁界生成層と、キャップ層とを順次形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が180°Cから250°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項24】
前記磁気デバイスが磁気ランダムアクセスメモリ構造であり、
リファレンス層としての前記高垂直磁気異方性多層膜の上に、第1の界面層と、トンネルバリア層と、第2の界面層と、フリー層と、キャップ層とを順次形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が220°Cから400°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項25】
前記磁気デバイスがハードバイアス構造であり、
ハードバイアス層としての前記高垂直磁気異方性多層膜の上にキャップ層を形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が180°Cから250°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項26】
前記磁気デバイスが垂直磁気媒体であり、
前記高垂直磁気異方性多層膜の上にキャップ層を形成する工程をさらに含み、
前記熱処理の温度が180°Cから400°Cである
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【請求項27】
さらに、
前記高垂直磁気異方性多層膜の内部に、少なくとも1つの酸素界面活性層を形成する工程を含む
請求項22に記載の磁気デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−249812(P2011−249812A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120559(P2011−120559)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】
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