説明

内燃機関の制御装置

【課題】トルク変動を抑制しつつ、適切にノッキングの発生を回避する内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の制御装置は、ノッキングの発生を検出するノッキング検出手段54と、ノッキング検出手段54によりノッキングの発生が検出されたとき、点火時期を遅角させる点火時期遅角手段と、点火時期遅角手段により点火時期が遅角されたとき、シリンダ20内にオゾンが供給されるようにオゾンの供給を実行するオゾン供給手段44と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク変動を抑制しつつ、ノッキングの発生を回避する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン燃焼室内の混合気に自己着火、いわゆるノッキングが発生すると、このノッキングの発生を回避すべく、例えば、点火プラグによる点火時期を遅角させる制御が行われている。
【0003】
また、例えば特許文献1には、筒内に直接燃料を供給する燃料供給手段と、筒内に直接オゾンを供給するオゾン供給手段とを備え、前記燃料供給手段と前記オゾン供給手段との双方を圧縮行程中に作動させる構成とした自己着火式エンジンが開示されている。そして、この自己着火式エンジンでは、ノッキング検出手段により検出されたノッキング強度が限界値よりも高いときに、筒内に供給させるオゾン量を減少させるようにしている。
【0004】
他方、特許文献2には、燃焼安定度を検出する燃焼安定度検出手段と、排気上死点付近において排気弁および吸気弁のいずれをも閉じることにより既燃ガスが筒内に閉じ込められる負のオーバーラップ期間を延長する制御手段と、着火を促すための着火補助手段とを備える圧縮自己着火内燃機関が開示されている。この内燃機関では、燃焼安定度が悪化したときに、機関負荷の減少に応じて負のオーバーラップ期間を延長し、そして機関負荷が低負荷領域にある所定の判断点以下であるときに着火補助手段が作動して着火を促すようにしている。この着火補助手段は、吸気弁閉時期を進角させて実質的な圧縮比を上げたり、オゾンを供給したりすることで、着火を促すようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−309941号公報
【特許文献2】特開2003−003873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の如く、点火時期を遅角させてノッキングの発生を回避する場合、点火時期遅角によりトルク低下が生じる。これは、運転者等が望まないトルク変動であり、好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、トルク変動を抑制しつつ、適切にノッキングの発生を回避する内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、ノッキングの発生を検出または推定するノッキング検出手段と、前記ノッキング検出手段によりノッキングの発生が検出または推定されたとき、点火時期を遅角させる点火時期遅角手段と、前記点火時期遅角手段により点火時期が遅角されたとき、シリンダ内にオゾンが供給されるようにオゾンの供給を実行するオゾン供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、ノッキング検出手段によりノッキングの発生が検出または推定されたとき、点火時期遅角手段により点火時期が遅角されるので、適切にノッキングの発生を回避することが可能になる。さらに、点火時期遅角手段により点火時期が遅角されたとき、オゾン供給手段によりシリンダ内にオゾンが供給されるようにオゾンの供給が実行されるので、混合気の燃焼が促進される。それ故、混合気の十分な燃焼がより短時間で行われることになり、供給されたオゾン量に対応した、トルク向上が図れる。したがって、点火時期遅角によるトルク低下を、上記の如きオゾン供給によるトルク向上で補うことが可能になり、ノッキングの発生を回避しているときの内燃機関のトルク変動を抑制可能になる。
【0010】
特に、前記オゾン供給手段により供給されるオゾン量は、前記点火時期遅角手段による点火遅角量に対応していると好ましい。これにより、点火時期遅角によるトルク低下分と、オゾン供給によるトルク向上分とを概ね等しくすることが可能になる。
【0011】
また、上記構成に加えて、前記オゾン供給手段の故障を判定する故障判定手段と、前記故障判定手段により前記オゾン供給手段の故障が判定されたとき、供給が予定されていたオゾン量に対応した吸入空気量分、吸入空気量を増量する吸入空気量増量手段と、を更に備えると良い。故障判定手段によりオゾン供給手段の故障が判定されたとき、吸入空気量増量手段により、供給が予定されていたオゾン量に対応した吸入空気量分、吸入空気量が増量されることになるので、オゾン供給により期待されていたトルク向上分を、吸入空気量増量によるトルク向上で達成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。本実施形態の内燃機関の制御装置が適用された車両のエンジンシステムの概念図を図1に示す。本実施形態の内燃機関(エンジン)10は、ポート噴射形式の火花点火式内燃機関である。
【0013】
エンジン10において、吸気口から吸入された空気(吸気)は、エアクリーナ12を介して吸気通路14に導入される。空気は、スロットルバルブ16の開度によりその流量が調整されつつサージタンク18に流入し、各気筒(シリンダ)20に対応して分岐形成された吸気マニホルド22に分流する。ただし、エンジン10ではアクセルペダル(不図示)の踏み込み動作と、スロットルバルブ16の開閉動作とを切り離して電子的に制御できるようにしている。なお、吸気通路14は、サージタンク18、吸気マニホルド22、およびそれらよりも上流側に接続された吸気管23などにより形成される。吸気マニホルド22には燃料噴射弁24が配設されている。燃料噴射弁24により噴射された燃料は分流した空気と混合されて、吸気バルブ26を介して、イグニッションコイル28への制御により作動される点火プラグ30が上部中央に配設された燃焼室32に吸入される。
【0014】
各気筒20の燃焼室32で、混合気は点火プラグ30により点火される。その点火により生じた火炎が混合気の全体に次第に伝播し、通常、混合気は燃焼する。燃焼により生じた排気ガスは、排気バルブ34を介して、各気筒20に対応して分岐形成された排気マニホルド36に排出される。排気ガスは、排気マニホルド36などと共に排気通路38を区画形成する排気管40の途中に配設された触媒コンバータ42を通過することで浄化されて、大気中に排出される。
【0015】
本実施形態における、上記吸気バルブ26および排気バルブ34を開閉駆動する動弁機構(不図示)は、吸気バルブ26および排気バルブ34の作用角(作動角)の位相およびリフト量を自由に可変、すなわちそれらのバルブタイミングを自由に可変とすると共に、それらのリフト量を自由に可変とする可変動弁機構である。この動弁機構は、電磁コイルの電磁力により吸気バルブ26および排気バルブ34を動かすものであり、それら吸排気バルブ26、34は電磁駆動弁とされている。それ故、吸気バルブ26および排気バルブ34の各電磁コイルの、制御される通電駆動による電磁力により、それらの作用角の位相やリフト量は自由に変えられる。
【0016】
さらに、気筒20内にオゾン(O)が供給されるようにオゾンの供給を実行する、すなわち、燃焼前の混合気中にオゾンが含まれるようにオゾンを供給する、オゾン供給手段44が設けられている。オゾン供給手段44はオゾン発生装置46を有し、オゾン発生装置46により発生されたオゾンは、本実施形態ではスロットルバルブ16よりも下流側の吸気通路14の部分に供給される。具体的には、オゾン発生装置46は、ポンプ、放電器およびパルス電源を含んで構成され、オゾン供給手段44の一部の機能を担っていて後述される電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)48の制御出力によって動作させられる。オゾン発生装置46は、放電器内に、塵埃などを除去しつつ、ポンプによって外部から空気を取り込み、パルス電源からの給電により放電器内の一対の電極間にコロナ放電を生じさせる。これによりコロナ放電が放電器内の空気に作用し、酸素活性成分の一種であるオゾンが発生させられる。より詳細には、空気中の酸素分子(O)に電子が衝突して酸素原子が生じ、この酸素原子が酸素分子と結合してオゾンが生成される。このようにして生成されたオゾンは、オゾン供給手段44の一部を構成するノズル形状をした吐出通路50を介して吸気通路14に供給されて、エアクリーナ12を介して導かれた空気(吸気)と混ざる。ただし、オゾン発生装置46では、所定量のオゾンを発生供給するように、放電器への供給電力等が適正値に制御される。また、パルス電源は、本実施形態において、エンジン10からの動力によりオルタネーターで発電された電気が蓄えられたバッテリーを含んで構成されている。
【0017】
燃料噴射制御、点火時期制御、オゾン供給制御等を行うために、ECU48が前述の如く備えられている。ECU48は、CPUと、種々のプログラムやデータを記録するROMやRAMと、入力インターフェイス回路と、出力インターフェイス回路とを備えるマイクロコンピュータで構成されている。入力インターフェイス回路には、シリンダブロック52に伝わるノッキングによる高周波振動を検出するためのノックセンサ54、オゾン供給手段44が接続された箇所よりも下流側に配置されていてオゾン濃度を検出するオゾンセンサ56、スロットルバルブ16よりも下流側の吸気圧を検出するための吸気圧センサ58、スロットルバルブ16の開度を検出するためのスロットルポジションセンサ60、アクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル開度を検出するためのアクセルポジションセンサ62、シリンダブロック52に設けられていて、連接棒を介してピストン64が連結されているクランクシャフト66のクランク回転信号を検出するためのクランクポジションセンサ68、シリンダブロック52に設けられていてエンジン10の冷却水の温度(冷却水温)を検出するための水温センサ70、触媒コンバータ42の上流側を流れる排気ガス中の酸素濃度を検出するためのOセンサ72などが電気配線を介して接続されている。なお、本実施形態ではクランクポジションセンサ68をエンジン10の回転数(回転速度)を検出するための回転数センサとして用いている。そして、ECU48の出力インターフェイス回路は、燃料噴射弁24、イグナイタを内蔵したイグニッションコイル28、動弁機構、オゾン発生装置46、そして、スロットルバルブ16を作動するスロットルアクチュエータ74などに接続されていて、上記各種センサ等により得られたデータに基づき、それらが制御可能にされている。
【0018】
エンジン10では、通常の運転時、吸気圧センサ58からの出力信号に基づく吸気圧や、クランクポジションセンサ68からの出力信号に基づくエンジン回転数など、すなわちエンジン負荷およびエンジン回転数で表される運転状態に基づいて、予めROMに記憶されているデータを検索するなどして、基本燃料噴射量、基本燃料噴射時期、基本点火時期等が設定される。そして、エンジン10の冷却水温などでそれらの基本値を補正して、制御上目標とされる燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期等が導出され、燃料噴射弁24、点火プラグ30等の作動が制御される。
【0019】
具体的には、エンジン10のECU48は、運転状態に基づいてエンジン10の状態を総合的に判定し、予めROMに記憶されているデータを検索することで得られる基本点火時期を、ノッキング補正などによって進角補正あるいは遅角補正を行って最適な点火時期を決定する。そして、イグナイタに点火信号を送ることによって、決定された点火時期での混合気への点火を実行している。
【0020】
また、エンジン10では、通常の運転時においてそのエンジン回転数やその負荷が高いときなどに、吸気バルブ26と排気バルブ34とのオーバーラップ量が所定量生じるように、ECU48により、動弁機構が制御されている。これにより、空気を効果的に燃焼室32内に導くことにしている。一方、通常の運転時であって、エンジン回転数や負荷が低いときなどは、排気通路38から燃焼室32内に排気ガスが逆流して燃焼が不安定になるのを防止すべく、上述のときに比してオーバーラップ量が少なくなるように、あるいはオーバーラップが生じないように動弁機構が制御される。このように吸排気バルブ26、34が制御されるのは、通常の運転時のバルブタイミングに関して、運転状態に基づくデータが予め実験により求められてROMに記憶されているからである。なお、このようなバルブタイミングは、概して、ノッキングが生じないように、且つ高いドライバビリティを確保するように設定されている。
【0021】
次に、本実施形態におけるノッキングの発生を抑止、すなわち回避するための制御について説明する。
【0022】
上記点火時期制御では、ノッキングが生じた、あるいは生じる可能性が高いときにはノッキングの発生を回避するべく、点火時期を遅角させる点火時期遅角制御が行われる。そして、この制御では、ノッキングの発生をノックセンサ54からの出力信号に基づいて判断し、すなわちノッキングによる高周波振動がノックセンサ54を用いて検出されると、上記基本点火時期から所定の点火遅角量分、遅角された点火時期に、点火時期は設定される。好ましくは、点火時期は、圧縮上死点後に設定される。なお、ノッキングの発生を回避するために点火時期を遅角させる点火時期遅角手段は、イグニッションコイル28、点火プラグ30を含み、その一部の機能はECU48に担われている。
【0023】
そして、この点火時期遅角制御を行うと共に、ECU48はオゾン発生装置46に所定量のオゾンを発生供給させる、オゾン供給制御を行う。この結果、所定量のオゾンが吸気通路14に供給されることになる。ただし、このオゾン供給に伴い、筒内に吸入される空気量が増大することを防ぐため、そのオゾン量に相当する量の空気を減じるようにスロットルバルブ16の開度を絞るべく、スロットルアクチュエータ74への制御が行われる。ノッキングが生じるときは、一般に、エンジン10は高回転あるいは中高負荷の所定の運転状態であるので、ノッキング発生の回避の制御を行う前は、スロットルバルブ16は全開にされている。本実施形態では、点火遅角量と共に、この点火遅角量に対応した所定量にオゾン供給量は決定されて記憶されていて、スロットルバルブ16の開度はそれらに対応する量に予め決められてROMに記憶されている。したがって、ノッキングの発生が検出されたときには、所定の点火遅角量分、点火時期を遅角するのに加えて、所定量のオゾンが供給されると共に、この所定量に対応する吸入空気量分、スロットルバルブ16の開度が絞られる。
【0024】
オゾン供給により、燃焼室32の混合気は化学的に活性となる。したがって、混合気における火炎伝播が促進され、混合気の燃焼が迅速に生じることになる。すなわち、点火から燃焼が完了するまでの時間が短縮される。ノッキング発生を回避する点火時期遅角制御を行っているとき、火炎は、圧縮上死点後数度、例えば1〜3°での点火で生じ、ピストン64が大きく下がる前に適切に伝播するので、迅速な燃焼による十分な燃焼圧がピストン64の上面に及ぼされることになる。したがって、オゾン供給によりトルク向上が図られ、このトルク向上分で、点火時期遅角での燃焼悪化によるトルク低下分を補うことが可能になる。また、オゾン供給により燃焼が迅速に適切に行われるので、点火時期を遅角させたことによる、燃費悪化や排気エミッションの悪化を防ぐことが可能になる。
【0025】
さらに、このようにオゾンを供給しつつ、点火時期が遅角されるので、点火遅角量を、オゾンを供給しないときよりも、大きくすることが可能になる。したがって、より確実にノッキングの発生を回避することが可能になる。ただし、トルク変動を生じさせないように、供給されるオゾン量と、点火遅角量とは対応しているのが良い。
【0026】
このようなノッキングの発生を回避する制御の一連の流れを、概念的に図2に示す。以下、図2に基づいて説明する。
【0027】
概略的に、ECU48は、ノッキングによる高周波振動がノックセンサ54からの出力信号に基づいて検出されたか否かで、まずノッキングが発生したか否かを判定する(ステップS201)。そして、ノッキングが発生していないと判断されて否定されると、ノッキングの発生を回避するための点火時期遅角制御が停止されると共に(ステップS203)、オゾン供給制御が停止される(ステップS205)。このときのオゾン供給制御の停止では、スロットルバルブ16の開度を絞る制御も停止され、スロットルバルブ16の開度は絞られない。他方、ノッキングが発生していると判断されて肯定されると(ステップS201)、点火時期遅角制御が行われ(ステップS207)、概ね同時期にオゾン供給制御が実行される(ステップS209)。なお、オゾン供給の実行に際しては、上述の如く、オゾン量に対応した分の吸入空気量を低減するべく、スロットルバルブ16の開度も絞られる。したがって、ノッキングが発生したと判定されると、点火時期を遅角させることが行われると共に、オゾンを含む空気量が変化しないようにオゾン供給が行われるので、点火時期遅角によるトルク変動を抑制しつつ、適切にノッキングの発生を回避することが可能になる。
【0028】
なお、上記ステップS203とS205の順番を入れ替えても良く、また同様に、ステップS207とS209の順番も入れ替えても良い。点火時期遅角とオゾン供給とが概ね同時期に行われさえすれば良い。
【0029】
ところで、上記の如く点火時期遅角制御を行っているときに、オゾン供給手段44によるオゾン供給ができなくなると、点火時期遅角によるトルク低下分を補うことができなくなる。特に、上記の如く、オゾン供給の観点からさらに点火遅角量を大きくした場合には、そのトルク低下分が無視できない大きさになる。そこで、本実施形態では、このようなときのトルク低下、すなわちトルク変動を抑制すべく、ノッキング回避のための上記制御を終了することにしている。ただし、概して、このような過渡期での制御上、点火時期を新たに求め、それを実行するのに必要な演算には、すなわち点火時期を大きく変更するのには、他の制御値の演算、切換制御に比して長い時間を要する。すなわち上記点火時期遅角状態から点火時期を変更するに際しては、その判定計算(割り込み計算)の遅れが生じ、その遅れの間、点火時期が過遅角状態になる。これでは、この間、燃焼が悪化し、無視できないトルク変動、すなわち、この間に運転者に感知されるほどの振動等を車両に生じさせるトルク変動が生じる場合がある。そこで、このようなトルク変動を低減すべく、このようなとき吸入空気量を多くして、点火時期遅角によるトルク低下分を補うようにする。以下に、その制御について説明するが、以下の説明は、既に説明した制御等が存在する上で成立する。そこで、上記説明に基づきつつ、以下の説明を行う。なお、以下の説明では、図3および図4をさらに用いる。
【0030】
図3に吸排気バルブ26、34のバルブタイミングダイヤグラムを示し、黒塗り矢印で排気バルブ34のバルブタイミング(EX)を、白抜き矢印で吸気バルブ26のバルブタイミング(IN)を表している。図3中には、併せて点火時期も白抜き星印で表している。ただし、図中実線で表したのはそのときのバルブタイミングおよび点火時期であり、点線で表したのはその前の段階でのバルブタイミングおよび点火時期である。図3(a)は例えば高負荷運転での、すなわちノッキングが発生する可能性のある運転状態でのバルブタイミングダイヤグラムを、図3(b)はノッキング発生回避のために図3(a)に表した状態からオゾン供給を伴いつつ点火時期を遅角させたときのバルブタイミングダイヤグラムを、図3(c)はノッキング発生回避中にオゾン供給ができなくなったので吸入空気量の増量を図るべく図3(b)に表した状態から吸気バルブ26の開時期を進めたときのバルブタイミングダイヤグラムを、そして、図3(d)はノッキング発生回避のための点火時期遅角制御を終了し、バルブタイミングも元に戻したときのバルブタイミングダイヤグラムを概念的に表している。そして、図4は、空気量(吸入空気量+オゾン量)、吸気バルブの開時期の進角量、トルク、点火進角量、オゾン量のそれぞれを時間に対して並べて表した概念図である。
【0031】
図3(a)に示した如き、吸排気バルブ26、34でのバルブタイミングで動弁機構が作動され、そして図示したように圧縮上死点前、例えば圧縮上死点前数°で混合気に点火されていたところ、ノッキングの発生が検出されるに至ると、既に述べた如くそのノッキングの発生を回避すべく、点火時期を遅角させる制御が行われる。例えば、図3(b)に示すように、点線で表した圧縮上死点前であった点火時期が、実線で表した圧縮上死点後、例えば圧縮上死点後数°の時期に点火時期が遅角される。これにより、筒内圧の著しい上昇が回避され、および混合気の温度上昇も抑制され、火炎伝播によらない自着火が生じることを防ぐことが可能になる。
【0032】
この図3(b)に示した如く制御を行っているときに、図4の時間t0から時間t1の間が対応していて、このときは、点火時期が点火遅角量Δθa分遅角されると共に、所定量Fa分のオゾン供給が行われる。このように制御することで、点火時期を遅角させる前に比してトルク低下、すなわちトルク変動を生じさせずに、ノッキングの発生を回避することが可能になる。しかし、図4中の時間t1でオゾン供給手段44に故障が生じると、以後オゾンは供給されなくなる。したがって、点火時期を遅角させ続けることによりノッキングの発生は回避されるが、このままの状態に維持するとトルク低下が生じることになる。そこで、本発明では、ノッキング発生の回避よりも、そのようなトルク変動の回避を優先すべく、ノッキングの発生を回避するための制御を終了することにしている。
【0033】
なお、オゾン供給手段44の故障は、本実施形態では、オゾンセンサ56からの出力信号に基づいて判断される。すなわち、オゾンセンサ56からの出力信号に基づいて得られたオゾン濃度が所定値以下であれば故障と判断し、それを超えていれば故障していないと判断する。
【0034】
ところで、上記の如く、点火時期制御の判定計算は、スロットルバルブ16の開度や、吸排気バルブ26、34のバルブタイミング等や、燃料噴射量等の判定計算よりも長い時間を要し、特に制御切換の過渡期にはその差が顕著である。そこで、オゾン供給手段44に故障が生じてから(時間t1)、点火時期遅角補正が終了されて、点火遅角量Δθaに対応する分、点火時期が進角されるまで(時間t2)の、図4に概念的に示した遅れ時間Δtに基づくトルク変動を抑制するべく、図3(c)に示す如くバルブタイミングを変えて、吸入空気量を増やすことにしている。本実施形態では、オゾン供給手段44が故障と判定されると、図3(c)に示す如く、点線で表した開時期から、実線で表したときまで吸気バルブ26の開時期を進角してバルブオーバーラップを十分に生じさせる。このときの進角度合い(進角量)(図4中のΔθva)は予め実験により求められてROMに記憶されている。なお、吸入空気量が増えるのであれば、吸排気バルブ26、34のバルブタイミングやリフト量を、運転状態に基づいて不図示のデータを検索することで他のように変更することを排除するものではない。
【0035】
なお、概して吸排気バルブ26、34のバルブタイミングは、上記した如く、ノッキングが生じないように、ノッキングが生じる可能性が高いノッキング限界から離れるように設定されている。それ故、点火時期が遅角されているときに、バルブタイミングが変えられて吸入空気量がある程度多くなっても、この吸入空気量増量によりノッキングが生じることはない。
【0036】
図3に戻り、吸入空気量が増量されつつ点火時期が遅角された状態で、点火時期の判定計算の遅れ分の時間Δtが経過し、点火時期遅角状態から復帰することが可能になったら、吸気バルブ26の開時期を元に戻しつつ、点火時期も元に戻し、ノッキング発生の回避のための点火時期遅角制御などを行わない状態に戻ることになる(図3(d)中の実線)。なお、このときは、図4中の時間t2のときに対応している。
【0037】
このようにすることでノッキングの発生を回避することはできなくなる可能性があるが、例えば図4中に点線で示したような不意のトルク変動が生じることが防止される。したがって、運転者等に感じられる振動などが車両に生じることを防ぐことが可能になる。すなわち、上記制御によれば、ドライバビリティの悪化を生じさせない。
【0038】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、これは本発明を限定しない。上記実施形態では、オゾン供給手段44を、吸気通路14にオゾンを供給するように設けることにしたが、本発明はこれに限定されない。本発明は、気筒20内にオゾンを供給すべく、吸気ポート、吸気マニホルド、それよりも上流側の吸気管などの任意の箇所にオゾン供給手段を設けることを含むものである。例えば、既に燃焼室32に取り込まれた吸気中にオゾンを供給することにしても良く、さらには、燃焼室32で既に形成されている混合気中に、オゾンを供給することにしても良い。つまり、本発明は、オゾン供給手段44を吸気通路14の途中にオゾンを供給するように設けるのみならず、燃焼室32に直接にオゾンを供給するように設けることを排除するものではない。
【0039】
また、オゾン供給手段44は、上記実施形態に限定されず、他のオゾンを発生供給する装置であっても良い。例えば、エアクリーナを経た空気が内部を通過するように、吸気通路にオゾン供給手段として反応器を設けることにしても良い。より具体的には、吸気通路の一部を形成する絶縁体ケースと、このケースの中心軸に沿って配置される中心電極と、この中心電極に金属結線で繋がった高電圧電源とを備える反応器を吸気通路の途中に設けることとしても良い。そして、中心電極に所望の高電圧を印加するべく、高電圧電源を制御することで、吸気通路を流れる空気に放電して、その吸入空気中にオゾンを生成供給することができる。
【0040】
また、上記実施形態では、ノッキング発生回避のための点火遅角量を一定とし、そのときに同時に行うオゾン供給の供給量およびスロットルバルブ16の開度(絞り量)を一定としたが、それぞれ可変としても良い。例えば、ノッキングが発生していない状態では所定角度ずつ進角し、ノッキングが発生した場合には、所定角度ずつ遅角し、ノッキングが発生するか否かの境界領域でエンジン10を運転するように点火時期が設定されても良い。そして、このような点火遅角量に対応したオゾン量をその都度導出して、オゾンの供給制御をするようにしても良い。すなわち、エンジン10は点火時期を逐次学習補正し、こうして得られた点火時期に基づいて、イグナイタへ作動信号を出力し、同様にして求められた量のオゾンをオゾン供給手段44に供給実行させても良い。これにより、ノッキングの発生を回避している時のトルク変動をより適切に抑制することが可能になる。なお、この場合、スロットルバルブ16の開度、すなわち絞り量も同様にその都度導出されて、制御されるのが良い。
【0041】
また、上記実施形態では、オゾンをノッキングの発生を回避するときのみ供給することにしたが、本発明はこれ以外のときにオゾンを供給することを排除するものではない。例えば、エンジン始動時に、そのときの燃焼を改善すべく、オゾンを供給することにしても良い。ただし、オゾンを発生供給するためには、多くの電力を消費するので、上記の如くノッキング発生を回避するときなどオゾン供給要求度の高いときにオゾン供給時期を限定するのが好ましい。
【0042】
さらに、上記実施形態では、オゾン供給手段44の故障をオゾンセンサ56からの出力信号に基づいて判定することにしたが、それ以外の手段を用いてその判定がなされても良い。例えば、オゾン発生装置46での消費電力の変化から、オゾン供給手段44の故障を判定するようにしても良い。あるいは、筒内圧センサ、すなわち燃焼圧センサからの出力信号に基づいてオゾン供給手段44の故障を判定することにしても良い。具体的には、ノッキングの発生を防ぐときに微小時間差でまず点火時期を遅角させる制御のみを行う。そして、このときの燃焼圧を検出および記憶しておく。そして、わずかな時間差で点火時期遅角に加えてオゾン供給を開始し、オゾンが供給されているときの燃焼圧を検出し続ける。そして、これらを比較し、点火時期遅角のみのときの燃焼圧よりも、さらにオゾンをも供給したときの燃焼圧が高ければオゾンが適切に供給されていると判定し、そうでなければオゾンが適切に供給されていないと判定する。すなわち、オゾンを供給しているはずなのに、燃焼圧の上昇が認められないときには、オゾン供給手段が故障していると判断するようにしても良い。あるいは、トルクセンサを設け、オゾンを供給しているにもかかわらず、トルク低下が検出等されたときに、オゾン供給手段の故障と判断するようにしても良い。
【0043】
また、上記実施形態では、ノッキング検出手段としてノックセンサを用いたが、他の方法によりノッキングの発生を検出あるいは推定するようにしても良い。例えば、高負荷あるいは高回転での領域に位置する所定の運転状態であるときは、ノッキングの発生が推定されるとして、上記の如く、ノッキングを防ぐための制御が行われても良い。
【0044】
さらに、上記実施形態では、吸気バルブ26および排気バルブ34を電磁駆動弁とする動弁機構を用いたが、それ以外の動弁機構、例えばカムやカムシャフトを有する吸排気バルブ26、34の動弁機構を排除するものではない。例えば、吸入空気量の増量を可能にするべく、吸気バルブ26や排気バルブ34の作用角の位相などを可変にする機構であれば、他の如何なるものでも良い。そのようなものとしては、既知の、可変バルブタイミング機構や、可変バルブタイミング−リフト機構がある。そして、ECU48によって制御される油圧等により、吸気バルブ26や排気バルブ34の作用角の位相が可変とされるものとしては、例えば、カムを複数有していて、そのカムを切り換えることで、吸気バルブ26や排気バルブ34の作用角の位相を連続的に変えるものがある。また、タイミングチェーンにより回動されるカムシャフトに可変タイミングコントローラーを設けて、そのハウジング内の進角室などの油圧を調整することで、吸気バルブ26や排気バルブ34の作用角の位相を連続的に変えるものがある。
【0045】
また、上記実施形態では、本発明が適用される内燃機関を、吸気ポート噴射形式の火花点火機関としたが、それ以外の火花点火機関、例えば筒内噴射形式の火花点火機関としても良い。
【0046】
なお、上記実施形態では、本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明は特許請求の範囲およびその等価物の範囲および趣旨に含まれる修正および変更を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態の内燃機関の制御装置が適用されたエンジンシステムの概念図である。
【図2】ノッキングの発生を回避する制御の一連の流れを概念的に表した図である。
【図3】ノッキングの発生を回避する制御前、中、後における、吸排気バルブのバルブタイミングを概念的に表したバルブタイミングダイヤグラムであり、併せて点火時期をも示した図である。
【図4】空気量(吸入空気量+オゾン量)、吸気バルブ開時期の進角量、トルク、点火進角量、オゾン量のそれぞれを時間に対して並べて表した概念図である。
【符号の説明】
【0048】
10 エンジン
14 吸気通路
16 スロットルバルブ
18 サージタンク
22 吸気マニホルド
24 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 燃焼室
36 排気マニホルド
38 排気通路
42 触媒コンバータ
44 オゾン供給手段
46 オゾン発生装置
50 吐出通路
54 ノックセンサ
56 オゾンセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノッキングの発生を検出または推定するノッキング検出手段と、
前記ノッキング検出手段によりノッキングの発生が検出または推定されたとき、点火時期を遅角させる点火時期遅角手段と、
前記点火時期遅角手段により点火時期が遅角されたとき、シリンダ内にオゾンが供給されるようにオゾンの供給を実行するオゾン供給手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記オゾン供給手段により供給されるオゾン量は、前記点火時期遅角手段による点火遅角量に対応していることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記オゾン供給手段の故障を判定する故障判定手段と、
前記故障判定手段により前記オゾン供給手段の故障が判定されたとき、供給が予定されていたオゾン量に対応した吸入空気量分、吸入空気量を増量する吸入空気量増量手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−25405(P2008−25405A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197061(P2006−197061)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】