説明

制動制御システム

【課題】制動制御を行うときの車両の安定性を向上させることができる制動制御システムを提供すること。
【解決手段】車両の全車輪にそれぞれ配置された制動装置が車両に作用させる制動力である第一制動力、あるいは車両の動力源を車両の駆動輪に対する負荷とすることで車両に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により車両を制動する制動制御システムであって、車両に要求される減速度である要求減速度を実現するときに車両に作用させる制動力における第一制動力と第二制動力との割合が、車両の挙動安定性に影響する走行環境(S510,S530,S540)に応じて変化する(S520,S550)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源を駆動輪に対する負荷とすることで車両に制動力を作用させる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車間距離センサから検知信号を受ける制御装置が、前車との距離が所定の安全値より小ならばCVTの変速比を大きく増大させる変速機制御機構の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−267087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、動力源を駆動輪に対する負荷とすることで車両に制動力を作用させる場合、走行環境等によっては車両の挙動安定性が低下する可能性がある。制動制御を行うときの車両の安定性を向上できることが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、制動制御を行うときの車両の安定性を向上させることができる制動制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制動制御システムは、車両の全車輪にそれぞれ配置された制動装置が前記車両に作用させる制動力である第一制動力、あるいは前記車両の動力源を前記車両の駆動輪に対する負荷とすることで前記車両に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により前記車両を制動する制動制御システムであって、前記車両に要求される減速度である要求減速度を実現するときに前記車両に作用させる制動力における前記第一制動力と前記第二制動力との割合が、前記車両の挙動安定性に影響する走行環境に応じて変化することを特徴とする。
【0008】
上記制動制御システムにおいて、前記走行環境による前記挙動安定性の低下が大きな場合には、前記挙動安定性の低下が小さな場合よりも前記第一制動力の割合が高いことが好ましい。
【0009】
上記制動制御システムにおいて、前記制動制御システムは、前記動力源としてのエンジンのエンジンブレーキ力を前記駆動輪に伝達する無段式の自動変速機の変速制御により前記第二制動力を調節するものであることが好ましい。
【0010】
上記制動制御システムにおいて、前記第二制動力を調節するときの前記自動変速機の変速比は、前記変速比において前記エンジンで発生する音の音量が前記車両の搭乗者に許容されると推定される所定範囲内の変速比に制限されることが好ましい。
【0011】
上記制動制御システムは、車両の全車輪にそれぞれ配置された制動装置が前記車両に作用させる制動力である第一制動力、あるいは前記全車輪よりも少ない数の車輪に接続された負荷発生装置により前記車両に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により前記車両を制動する制動制御システムであって、前記車両に要求される減速度である要求減速度を実現するときに前記車両に作用させる制動力における前記第一制動力と前記第二制動力との割合が、前記車両の挙動安定性に影響する走行環境に応じて変化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる制動制御システムは、全車輪にそれぞれ配置された制動装置が車両に作用させる制動力である第一制動力、あるいは車両の動力源を車両の駆動輪に対する負荷とすることで車両に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により車両を制動する。この制動制御システムでは、要求減速度を実現するときに車両に作用させる制動力における第一制動力と第二制動力との割合が、車両の挙動安定性に影響する走行環境に応じて変化する。よって、本発明にかかる制動制御システムによれば、制動制御を行うときの車両の安定性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態にかかる制動制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、許容回転数の演算方法の詳細を示すフローチャートである。
【図3】図3は、最小エンジンブレーキ加速度を決定する方法の詳細を示すフローチャートである。
【図4】図4は、実施形態にかかる車両の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、実施形態の制動制御について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる制動制御システムの一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
(実施形態)
図1から図5を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、制動制御システムに関する。図1は、本発明の実施形態にかかる制動制御システムの動作を示すフローチャート、図4は、実施形態にかかる車両の概略構成を示す図である。
【0016】
本実施形態の制動制御システムは、ACC(Adaptive Cruise Control)制御において必要な減速度を無段変速機(CVT)のエンジンブレーキで実現するものであり、最大の減速度をどこまでとするかを状況により変化させる。減速要求に対して、ブレーキ装置を使用せずにCVTの変速によるエンジンブレーキを積極的に使うようにすれば、大きな減速度を実現でき、燃費の向上を図ることも可能である。しかしながら、車両の走行環境(路面の滑りやすさや自車の運動状態等)によっては、エンジンブレーキ使用による効果の大きさと比例して、車両の安定性が低下する可能性がある。例えば、路面μが低い場合には、ブレーキ装置による制動と比較して、エンジンブレーキによる制動では車両の安定性が低下することが考えられる。また、自車の運動状態によって車両の安定性は変化する。例えば、コーナー等で舵を切っているときは車両が不安定になりやすい。
【0017】
本実施形態の制動制御システムは、自車の安定性を乱す要因に応じて、エンジンブレーキによる制動量とブレーキ装置による制動量との配分を変更する。例えば、低μ路では、CVTエンジンブレーキを使用すると不安定になりやすいので、エンジンブレーキを使用せずにブレーキ装置による減速を行う。よって、本実施形態の制動制御システムは、制動制御を行うときの車両の安定性を向上させることができる。
【0018】
また、本実施形態の制動制御システムは、許容できる最大エンジンブレーキを音の観点でとらえる。CVTの変速によるエンジンブレーキを積極的に使う場合、その効果と比例してエンジン音が大きくなり、ドライバにとって不快なものとなりかねない。ここで、ドライバや同乗者が不快と感じる音の大きさは、状況により変化すると考えられる。
【0019】
例えば、カーステレオの音量が大であればエンジンブレーキ力を大としてエンジン音が大きくなっても運転者や同乗者に許容されると考えられる。また、走行音の大きなトラックが自車の近くを走っていれば、大きなエンジン音も許容されると考えられる。トラックの存在は、車車間通信やミリ波レーダー、自車周辺の画像データにおける対象物の大きさ等で判定可能である。
【0020】
本実施形態の制動制御システムは、許容されるエンジン音量が状況によって変化することを利用し、違和感のない範囲で最大限エンジンブレーキを使用する。これにより、フューエルカットを実行可能な場面が増えることなどにより燃費の向上が可能とされる。なお、本実施形態において、特に記載のない限り、加速度とは車両の前後方向の加速度であり、車両の前方に向かう加速度を正とする。また、負の加速度(車両の後方に向かう加速度)を減速度とも記載する。
【0021】
図4において、符号1は、車両を示す。車両1のパワートレーンは、エンジン10、トルクコンバータ20および無段変速機30を備える。内燃機関であるエンジン10には、トルクコンバータ20を介して自動変速機である無段変速機(CVT)30が連結されている。車両1の動力源であるエンジン10のエンジン出力トルク(動力)は、トルクコンバータ20を介して無段変速機30に入力され、デファレンシャルギヤ18及びドライブシャフト19を介して駆動輪90に伝達される。つまり、無段変速機30は、エンジン10の出力する動力を車両1の駆動輪90に伝達する無段式の自動変速機である。
【0022】
車両1において、駆動輪90は、前輪であり、後輪(図示せず)は従動輪となっている。つまり、車両1の駆動輪90の数は、全車輪の数よりも少なく、エンジン10のエンジンブレーキ力は車両1の一部の車輪のみに作用する。
【0023】
無段変速機30は、公知のベルト式無段変速機であり、エンジン側に設けられ、トルクコンバータ20の出力軸70に連結されたプライマリプーリ31と、デファレンシャルギヤ18に接続される出力軸80に連結されたセカンダリプーリ32と、これらの間に掛け渡されたベルト33とを備えている。油圧制御装置40は、ECU50から入力される変速比変更指令に応じて、無段変速機30の変速比を変更する。この油圧制御装置40は、所定のライン圧をプライマリプーリ側アクチュエータおよびセカンダリプーリ側アクチュエータに供給し、プライマリプーリ側アクチュエータの作動油圧(プライマリ油圧)およびセカンダリプーリ側アクチュエータの作動油圧を調整するものである。油圧制御装置40は、プライマリプーリ側アクチュエータの作動油圧、及びセカンダリプーリ側アクチュエータの作動油圧を調整することにより、プーリ比を変化させて、変速比を無段階に変化させることができる。
【0024】
また、無段変速機30には、プライマリプーリ31の回転数(プライマリ回転数)を検出するプライマリプーリ回転センサ34と、セカンダリプーリ32の回転数(セカンダリ回転数)を検出するセカンダリプーリ回転センサ35が設けられており、検出されたプライマリ回転数およびセカンダリ回転数は、ECU50に出力される。
【0025】
トルクコンバータ20は、無段変速機30とエンジン10とを接続している。トルクコンバータ20は、公知のロックアップ機構を有しており、結合及び開放が可能な動力断続手段であるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとなっている。このロックアップクラッチは、エンジン10と無段変速機30との機械的な結合(ロックアップ状態)または開放(コンバータ状態)を行う。また、トルクコンバータ20の入力軸60には、この入力軸60の回転数を検出する回転数センサ21が設けられている。回転数センサ21により検出された入力軸回転数は、ECU50に出力される。
【0026】
駆動輪90を含む車両1の全車輪には、それぞれブレーキ装置(制動装置)49が設けられている。ブレーキ装置49は、ブレーキ油圧制御装置48から供給される油圧により制動力を発生させることで車両1を制動することができる。ブレーキ油圧制御装置48は、各車輪のブレーキ装置49に供給する油圧を独立に制御することが可能である。つまり、車両1では、各々の車輪において異なる制動力を発生させることが可能である。
【0027】
また、車両1には、車間距離センサ44が設けられている。車間距離センサ44は、例えば、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサとすることができる。車間距離センサ44は、先行車両との車間距離および先行車両との相対車速を検出する。
【0028】
車両1には、エンジン10や無段変速機30などを制御するECU(電子制御ユニット)50が設けられており、このECU50はエンジン10、トルクコンバータ20、無段変速機30(油圧制御装置40)およびブレーキ装置49(ブレーキ油圧制御装置48)の総合的な制御を行う。ECU50は、入出力装置、制御マップや制御プログラムなどを記憶する記憶装置(ROM、RAM等)、演算装置、A/D変換器、D/A変換器、および通信ドライバ回路等で構成されている。本実施形態の制動制御システム1−1は、エンジン10、無段変速機30、ブレーキ装置49およびECU50を備えている。
【0029】
ECU50は、エンジンブレーキ力を発生させること、すなわちエンジン10を駆動輪90に対する負荷とすることで、車両1に制動力を作用させることができる。また、ECU50は、ブレーキ装置49が発生するブレーキ力により車両1に制動力を作用させることができる。本実施形態のECU50は、ブレーキ装置49が車両1に作用させる制動力である第一制動力、あるいはエンジン10を駆動輪90に対する負荷とすることで車両1に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により車両1を制動する。
【0030】
エンジンブレーキ力により車両1に制動力を作用させる場合、無段変速機30によってエンジンブレーキ力が駆動輪90に伝達される。ECU50は、無段変速機30の変速制御により、第二制動力を調節する。無段変速機30の変速制御により、車両1に第二制動力が作用する状態と車両1に第二制動力が作用しない状態とを切替えることも可能である。つまり、エンジン10および無段変速機30は、全車輪よりも少ない数の車輪に接続された負荷発生装置として機能することができる。ここで、「全車輪よりも少ない数の車輪に接続されている」とは、左右の車輪を車輪対としたときに、全車輪対よりも少ない数の車輪対がエンジン10および無段変速機30と接続されていることを示す。
【0031】
さらに、車両1には、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ11が設けられており、検出したアクセル開度はECU50に出力される。エンジン10の吸気管12には電子スロットルバルブ13が設けられており、この電子スロットルバルブ13はスロットルアクチュエータ14により開閉可能となっている。ECU50はこのスロットルアクチュエータ14により電子スロットルバルブ13を駆動し、アクセル開度にかかわらずスロットル開度を任意の開度に制御することができる。車両1には、電子スロットルバルブ13の全閉状態及びスロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ15が設けられており、検出したスロットル開度はECU50に出力される。符号23は、エンジン10の排気管を示す。
【0032】
エンジン10には、エンジン回転数(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転数センサ17が設けられており、検出したエンジン回転数はECU50に出力される。また、車両1には、車両1の走行速度を検出する車速センサ41が設けられていると共に、運転者が操作するシフトレバーの位置を検出するシフトポジションセンサ42が設けられており、検出した車速やシフトポジションはECU50に出力される。また、車両1には、図示しないブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量センサ43が設けられている。ブレーキ操作量センサ43により検出されたブレーキ操作量(踏力やペダルストローク)は、ECU50に出力される。
【0033】
上記ECU50は、エンジン回転数、吸入空気量、スロットル開度などのエンジン10の運転状態に基づいて燃料噴射量、噴射時期、点火時期などを決定し、インジェクタや点火プラグなどを制御する。また、ECU50は、変速マップを有しており、スロットル開度、車速などに基づいて、無段変速機30の変速比を決定し、この決定された変速比を成立させるように油圧制御装置40を制御する。
【0034】
また、ECU50は、エンジンブレーキ力やブレーキ装置49が発生する制動力による制動制御を行うことができる。ECU50は、ブレーキ操作量センサ43により検出されたブレーキ操作量にかかわらずブレーキ装置49で発生させる制動力を制御することができる。例えば、ドライバによる制動操作がなされていないとき(ブレーキOFF)であっても、後述するACC制御等において要求される減速度を実現するためにブレーキ装置49に制動力を発生させることができる。また、ECU50は、無段変速機30の変速制御によりエンジン回転数を変化させてエンジンブレーキ力を調節することで要求される減速度を実現することができる。
【0035】
ECU50は、ACC制御を実行可能である。ACC制御は、レーダー等により先行車を検出し、先行車に合わせ一定の車間距離を保つように追従走行する制御である。また、ECU50は、車両1の車速が一定車速となるように車両1を走行させる定速走行制御を実行可能である。
【0036】
本実施形態の制動制御システム1−1は、以下に説明するように、ACC制御や定速走行制御などの自動走行制御の実行中に、減速要求がなされた場合、車両1の挙動安定性に影響する走行環境に応じて、エンジンブレーキ力による制動量とブレーキ装置49による制動量との配分を決定する。これにより、制動制御を行うときの車両1の安定性を向上させることができる。また、制動制御システム1−1は、エンジンブレーキを作用させる場合のエンジン音量が車両1の搭乗者に許容される範囲におさまるように上記した制動量の配分を決定する。これにより、違和感のない範囲内で最大限エンジンブレーキを使用して車両1を制動することができ、燃費の向上を図ることができる。
【0037】
図1から図3を参照して、本実施形態の動作について説明する。図1に示す制御フローは、自動走行制御の実行中に繰り返し実行される。
【0038】
図1を参照して、ステップS10では、ECU50によりACC制御中であるか否かが判定される。その判定の結果、ACC制御中であると判定された場合(ステップS10−Y)には、ステップS20、ステップS60およびステップS80にそれぞれ進み、そうでない場合(ステップS10−N)には肯定判定がなされるまでステップS10の判定が繰り返される。
【0039】
ステップS20では、ECU50により、CVTエンブレ許容エンジン回転数CVT_Neが演算される。CVTエンブレ許容エンジン回転数(以下、単に「許容回転数」と記載する。)CVT_Neは、発生するエンジン音が運転者を含む搭乗者に許容される範囲で最大のエンジンブレーキ力を発生させることができるエンジン回転数である。本実施形態では、エンジンブレーキ力により車両1に制動力を作用させる場合に、エンジン回転数が許容回転数CVT_Neを超えるようなエンジンブレーキ力を発生させることが禁止される。つまり、第二制動力を調節するときの無段変速機30の変速比は、その変速比においてエンジン10で発生する音の音量が搭乗者に許容されると推定される所定範囲内の変速比に制限される。図2は、許容回転数CVT_Neの演算方法の詳細を示すフローチャートである。
【0040】
(許容回転数CVT_Neの決定方法)
ECU50は、以下に詳しく説明するように、車室内外音量に対する許容音量推定(ステップS201〜S220)およびドライバに対する許容音量推定(ステップS231〜S233)を実行し、それぞれにおいて推定された許容音量を調停して許容エンジン音量を決定する(ステップS250)。一方、ECU50は、同乗者に対する許容音量補正値推定(ステップS241〜S243)を実行し、推定された補正値に基づいて許容エンジン音量を補正する(ステップS260)。そして、許容エンジン音量に基づいて許容回転数CVT_Neを決定する(ステップS270)。
【0041】
まず、ステップS201では、ECU50により、オーディオ音量が推定される。オーディオ音量とは、例えば、車両1の図示しないオーディオ装置(カーステレオ)のスピーカから出力される音の車室内における音量である。ECU50は、例えば、オーディオ装置における設定音量に基づいて車室内のオーディオ音量を推定することができる。
【0042】
次に、ステップS202では、ECU50により、エアコン風による音量が推定される。エアコン風による音量とは、車両1の図示しないエアコン装置の吹き出し口からエアコン風が吹き出すときに発生する音の車室内における音量である。ECU50は、エアコン装置の現在の風量に基づいてエアコン風による音量を推定することができる。
【0043】
ステップS203では、ECU50により、車室内音量が推定される。ECU50は、ステップS201で推定されたオーディオ音量と、ステップS202で推定されたエアコン風による音量とに基づいて、現在の車室内音量を推定する。例えば、オーディオ音量とエアコン風による音量のうち大きな方の音量が車室内音量とされる。ステップS203が実行されると、ステップS220に進む。
【0044】
また、ステップS211では、ECU50により、風切り音およびロードノイズの音量が推定される。ECU50は、例えば、現在の車速に基づいて風切り音およびロードノイズの車室外における音量を推定する。ECU50は、車速と風切り音の音量との対応関係、および車速とロードノイズの音量との対応関係を例えばマップとして予め記憶しており、これらのマップを参照して風切り音およびロードノイズそれぞれの音量を推定する。なお、ロードノイズの音量は、さらに路面状況(凹凸等)や天候(雨天であるか等)が考慮されて推定されてもよい。
【0045】
次に、ステップS212では、ECU50により雨滴音量が推定される。雨滴音量は、雨滴が車両1に当たることにより発生する音の車室外における音量である。ECU50は、例えば、図示しない雨滴センサの検出結果に基づいて降雨の有無や降雨量を検出することができる。降雨時である場合、ECU50は、例えば降雨量と車速に基づいて雨滴音量を推定することができる。
【0046】
次に、ステップS213では、ECU50により車室外音量が推定される。ECU50は、ステップS211で推定された風切り音およびロードノイズの音量と、ステップS212で推定された雨滴音量とに基づいて、現在の車室外音量を推定する。例えば、風切り音の音量、ロードノイズの音量および雨滴音量のうち最大の音量が車室外音量とされる。ステップS213が実行されると、ステップS220に進む。
【0047】
ステップS220では、ECU50により、車室内/外音量に対する許容エンジン音量が推定される。ECU50は、ステップS203で推定された車室内音量と、ステップS213で推定された車室外音量とに基づいて許容エンジン音量を推定する。例えば、オーディオ音量やエアコン風による音量などの車室内音量が大きな場合には、車室内音量が小さな場合よりも大きなエンジン音量が許容されやすいため、許容エンジン音量が大きな値として設定される。また、風切り音、ロードノイズおよび雨滴音などの音量である車室外音量が大きな場合には、車室外音量が小さな場合よりも許容エンジン音量が大きな値として設定される。ステップS220が実行されると、ステップS250に進む。
【0048】
一方、ステップS231では、ECU50によりドライバが特定される。ECU50は、例えば、ドライバの認証結果に基づいて現在のドライバを特定する。ドライバの認証は、ドライバ自身によるボタン操作等の認証手段により行われる。なお、ドライバの特定方法はこれには限定されず、他の公知のドライバ特定方法によりドライバが特定されてもよい。
【0049】
次に、ステップS232では、ECU50により、ドライバの癖が推定される。ECU50は、ドライバの運転操作等の癖を学習し、その学習結果を記憶する機能を有する。ECU50は、ステップS231で特定されたドライバに関する学習結果に基づいて、そのドライバの癖を推定する。ここで、ドライバの癖とは、例えば、エンジンブレーキを用いる頻度など、エンジン10を高回転域で運転させる頻度である。
【0050】
次に、ステップS233では、ECU50により、ドライバに対する許容エンジン音量が推定される。ECU50は、ステップS232で推定されたドライバの癖に基づき、ステップS231で特定されたドライバに対する許容エンジン音量を推定する。無段変速機30の変速比をマニュアル操作により低速側の変速比としてエンジンブレーキを効かせたり、アクセルペダルを大きく踏み込んで低速側の変速比で加速させたりするなど、エンジン10を高回転域で運転させる操作を多用するドライバである場合、エンジン10を高回転域で運転させることが少ないドライバよりも大きなエンジン音量が許容されると推定できる。このため、エンジンブレーキを多用するドライバ等に対しては、許容エンジン音量が大きな値として設定される。ステップS233が実行されると、ステップS250に進む。
【0051】
また、ステップS241では、ECU50により、同乗者の有無が判定される。同乗者の有無は、例えば、座席に設けられたセンサの検出結果に基づいて判定することが可能である。ECU50は、例えば、シートベルトが着用されているか否かを検出するセンサや、座席にかかる荷重を検出するセンサによって同乗者の有無を判定することができる。
【0052】
次に、ステップS242では、ECU50により、同乗者の乗車位置が推定される。ECU50は、車室内のどの座席に同乗者が着座しているかを推定する。ECU50は、ステップS241の判定に用いるセンサの検出結果からステップS242の推定を行うことができる。ECU50は、例えば、同乗者が助手席にいるのか、後部座席にいるのかなど、ドライバと同乗者との位置関係を推定する。
【0053】
次に、ステップS243では、ECU50により、同乗者の有無および同乗者の乗車位置に対する許容エンジン音量の補正値が演算される。ECU50は、同乗者がある場合には、同乗者がない場合よりも許容エンジン音量を低減させるように補正値を決定する。また、同乗者がある場合、後部座席に同乗者がいる場合には、後部座席に同乗者がいない場合よりも許容エンジン音量を低減させるように補正値を決定する。このようにすれば、後部座席の同乗者とドライバや助手席の同乗者との会話がエンジン音によって妨げられることが抑制可能となる。ステップS243が実行されると、ステップS260に進む。
【0054】
ステップS250では、ECU50により、許容エンジン音量の調停がなされる。ECU50は、ステップS220で車室内音量および車室外音量に基づいて推定された許容エンジン音量と、ステップS233でドライバの癖に基づいて推定された許容エンジン音量とを調停して許容エンジン音量を決定する。具体的には、ECU50は、調停対象の許容エンジン音量の最大値を選択(MAX選択)してその最大値を許容エンジン音量とする。
【0055】
次に、ステップS260では、ECU50により、許容エンジン音量の補正演算がなされる。ECU50は、ステップS250で調停の結果決定された許容エンジン音量に対して、ステップS243で決定された許容エンジン音量補正値による補正を行って最終的な許容エンジン音量を決定する。
【0056】
次に、ステップS270では、ECU50により、許容エンジン音量におさまるエンジン回転数として許容回転数CVT_Neが演算される。ECU50は、エンジン回転数とそのエンジン回転数で発生するエンジン音との対応関係を例えばマップとして予め記憶しており、そのマップを参照して許容回転数CVT_Neを演算する。エンジン音量がステップS260で決定された許容エンジン音量以下となるエンジン回転数の範囲で最大のエンジン回転数が許容回転数CVT_Neとして決定される。ステップS270で許容回転数CVT_Neが決定されると、図2の制御フローは終了してステップS20(図1)に戻り、ステップS30に進む。
【0057】
ステップS30では、ECU50により、スロットルOFFとしてエンジン回転数を許容回転数CVT_Neとしたときに出るであろう駆動力CVT_Fを推定する。この推定される駆動力(以下、単に「許容最小駆動力」と記載する。)CVT_Fは、電子スロットルバルブ13をOFF(全閉)として無段変速機30の変速制御により許容回転数CVT_Neを実現した場合に車両1に作用する駆動力(制動力)の推定値である。許容回転数CVT_Neを実現できる無段変速機30の変速比は、車速と許容回転数CVT_Neとに基づいて決定可能である。ECU50は、この変速比と、許容回転数CVT_Neにおけるエンジン10の出力トルクとに基づいて許容最小駆動力CVT_Fを決定する。
【0058】
次に、ステップS40では、ECU50により、許容最小駆動力CVT_Fを実現したときに出る加速度CVT_MIN_aを推定する。この推定される加速度(以下、単に「許容最小加速度」と記載する。)CVT_MIN_aは、許容最小駆動力CVT_Fが車両1に作用したときに車両1に発生する加速度(減速度)である。ECU50は、許容最小駆動力CVT_Fと車両1の諸元(例えば、車両質量)に基づいて許容最小加速度CVT_MIN_aを決定する。
【0059】
次に、ステップS50では、ECU50により、ステップS40で決定された許容最小加速度CVT_MIN_aを最小とする範囲内で、CVTエンジンブレーキでどこまでの減速度を実現させるかを決定する。ECU50は、走行環境に基づき、CVTエンジンブレーキで発生させる加速度の最小値である最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを決定する。図3は、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを決定する方法の詳細を示すフローチャートである。
【0060】
(最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの決定方法)
ECU50は、以下に詳しく説明するように、他車や障害物との衝突可能性に基づく最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの候補の演算(ステップS510、S520)および自車の挙動安定性に基づく最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの候補の演算(ステップS530〜S550)を実行し、調停を行って最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを決定する(ステップS560)。
【0061】
まず、ステップS510では、ECU50により、他車、障害物との衝突可能性が演算される。ECU50は、車間距離センサ44の検出結果に基づいて衝突可能性を演算することができる。例えば、車間距離センサ44の検出結果の車間距離および相対車速に基づいて衝突可能性を算出する。なお、衝突可能性が高い場合には、ドライバによる制動操作やステアリング操作等が行われて車両1の安定性が低下する可能性が高いと考えられる。従って、衝突可能性(先行車と自車との関係)は、車両1の挙動安定性に影響する走行環境である。
【0062】
次に、ステップS520では、ECU50により、衝突可能性に応じた制動力の配分が演算される。ここで、制動力の配分とは、車両1に要求される要求減速度を実現するときに車両1に作用させる制動力における、CVTエンジンブレーキにより車両1に作用させる制動力である第二制動力とブレーキ装置49が車両1に作用させる制動力である第一制動力との配分(以下、単に「制動力配分」と記載する。)である。制動力配分は、要求減速度を実現するときに車両1に作用させる制動力における第一制動力と第二制動力との割合に対応している。ECU50は、以下に図5を参照して説明するように、衝突可能性に応じて最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを変化させることで、制動力配分を変化させる。図5は、本実施形態の制動制御について説明するための図である。
【0063】
図5において、縦軸は車両1の加速度を示す。また、符号G1は、通常エンジンブレーキで出る減速度、言い換えると、ACC制御等の制駆動力制御がなされていない場合にアクセルOFFされ、スロットルOFFの状態でエンジンブレーキにより車両1に発生する減速度(以下、単に「スロットルOFF減速度」と記載する。)である。このスロットルOFF減速度G1と最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aとの間の加速度の領域R1では、ECU50は、ブレーキ装置49の制動力(第一制動力)によらずに、エンジンブレーキによる制動力(第二制動力)で要求減速度を実現する。この領域R1は、無段変速機30の変速制御によるエンジンブレーキ力により車両1の制動制御を行うCVT制御領域である。CVT制御領域R1は、エンジン10で発生する音の音量が車両1の搭乗者に許容されると推定される変速比の範囲(所定範囲)に対応している。
【0064】
また、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aよりも小さな加速度の領域R2では、ECU50は、第二制動力のみならず第一制動力も発生させて要求減速度を実現する。この領域R2は、ブレーキ装置49を制御して第一制動力を発生させて車両1の制動制御を行うブレーキ制御領域である。ブレーキ制御領域R2では、エンジンブレーキによる第二制動力を最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aに対応する制動力に保ち、要求減速度に対して不足する分の減速度を第一制動力により発生させる。つまり、衝突可能性等から決定された最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aによって、発生させることができるエンジンブレーキ力に上限が設けられ、この上限を超える分のブレーキ力はブレーキ装置49が発生させる。
【0065】
ECU50により演算される最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aは、衝突可能性が大きい場合には、矢印Y1で示すように大きな値(加速度0に近い減速度小の値)となり、衝突可能性が小さい場合には、矢印Y2で示すように小さな値(加速度0から遠い減速度大の値)となる。これにより、要求減速度が同じであっても、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aにより、制動力配分が変化することとなる。つまり、ECU50は、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを変化させることで、制動力配分を調節することができる。衝突可能性が高い、言い換えると車両1の挙動安定性が低下する可能性が高い場合、衝突可能性が低い場合よりも、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aが大きな値となる。つまり、要求減速度を実現するときに車両1に作用させる制動力における第二制動力の割合の上限が低下し、ブレーキ装置49による制動力の割合が高くなる。言い換えると、走行環境(ここでは、衝突可能性)による車両1の挙動安定性の低下が大きな場合には、挙動安定性の低下が小さな場合よりも、第一制動力の割合が高くなる。
【0066】
なお、図5では、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aが、許容最小加速度CVT_MIN_aよりも大きな加速度であるが、他車や障害物がない場合には、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aが、許容最小加速度CVT_MIN_aと一致してもよい。
【0067】
ECU50は、ブレーキ装置49で発生させる減速度に基づいて、各車輪のブレーキ装置49の制動力(制動量)を調節する。例えば、ブレーキ装置49で発生させる制動力を前輪および後輪に均等に配分してもよく、駆動輪90のブレーキ装置49の制動力を従動輪(後輪)のブレーキ装置49の制動力よりも小さくするようにしてもよい。ステップS520で最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの候補の演算がなされると、ステップS560に進む。
【0068】
ステップS530では、ECU50により、路面μが推定される。路面μは、車両1の挙動安定性に影響する走行環境である。ECU50は、公知の路面μの算出方法により路面μを推定する。
【0069】
次に、ステップS540では、ECU50により、自車が不安定になる可能性が演算される。ECU50は、ステップS530で推定された路面μに基づいて自車が不安定になる可能性を算出する。なお、更に路面勾配等が考慮されて自車が不安定になる可能性が演算されてもよい。
【0070】
次に、ステップS550では、ECU50により自車が不安定になる可能性に応じた制動力配分が演算される。ECU50は、自車が不安定になる可能性が大きな場合には、その可能性が小さな場合よりも最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを大きな値とする。これにより、要求減速度を実現するときに車両1に作用させる制動力における第二制動力の割合の上限が低下し、ブレーキ装置49による制動力の割合が高くなる。つまり、走行環境(ここでは、路面μ)による車両1の挙動安定性の低下が大きな場合には、挙動安定性の低下が小さな場合よりも、第一制動力の割合が高くなる。ステップS550が実行されると、ステップS560に進む。
【0071】
ステップS560では、ECU50により、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの調停がなされる。ECU50は、ステップS520で算出された最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの候補と、ステップS550で算出された最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの候補とのMAX選択を行い、選択された最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aの候補を最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aとして決定する。MAX選択がなされることで、発生させる制動力の総和におけるエンジンブレーキによる第二制動力の割合が小さなものとされ、制動中の車両1の挙動安定性の低下が抑制される。ステップS560が実行されると、図3の制御フローは終了してステップS50(図1)に戻り、ステップS70に進む。
【0072】
ステップS60では、ECU50により、ブレーキ不許可の要求G(要求加速度)が演算される。ECU50は、自動走行制御の要求加速度として、ブレーキ不許可の要求加速度Gaおよびブレーキ許可の要求加速度Gbの二つの要求加速度を算出する。ブレーキ不許可の要求加速度Gaは、例えば、一定速度で走行するために要求される加速度である。このブレーキ不許可の要求加速度Gaを実現する制駆動力制御では、ブレーキ装置49の制動力によるブレーキ制御が禁止される。従って、減速要求がなされる場合、要求可能な減速度は、エンジンブレーキ力による第二制動力で実現可能な範囲の減速度に制限されることとなる(後述するステップS70参照)。ECU50は、現在設定されている定速走行の目標速度に基づき、公知の方法によって目標加速度を算出し、算出された目標加速度をブレーキ不許可の要求加速度Gaとする。
【0073】
次に、ステップS70では、ECU50により、要求加速度の上下限処理がなされる。ECU50は、ステップS60で演算されたブレーキ不許可の要求加速度Gaに対して、上限加速度および下限加速度のガード処理を実行する。ECU50は、ステップS60で演算されたブレーキ不許可の要求加速度GaとステップS50で決定された最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aとのMAX選択を行い、選択された値でブレーキ不許可の要求加速度Gaを更新する。これにより、ステップS60で演算されたブレーキ不許可の要求加速度Gaに対して最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aを下限とするガード処理がなされる。また、ECU50は、予め定められた上限加速度と最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aとのMIN選択を行い、選択された値でブレーキ不許可の要求加速度Gaを更新する。ステップS70が実行されると、ステップS100に進む。
【0074】
ステップS80では、ECU50により、ブレーキ許可の要求加速度Gbが演算される。ブレーキ許可の要求加速度Gbは、例えば、先行車に追従するために要求される加速度である。このブレーキ許可の要求加速度Gbを実現する制駆動力制御では、ブレーキ装置49の制動力によるブレーキ制御が許可される。従って、要求可能な減速度は、最小エンジンブレーキ加速度CVT_Low_aには影響されず、予め定められた下限値(例えば、−0.3G)による下限処理がなされる。ECU50は、先行車と自車との関係(車間距離、相対車速等)に基づいて、公知の方法により目標加速度を算出し、算出された目標加速度をブレーキ許可の要求加速度Gbとする。
【0075】
次に、ステップS90では、ECU50により、要求加速度の上下限処理がなされる。ECU50は、ステップS80で演算されたブレーキ許可の要求加速度Gbに対して、上限加速度および下限加速度のガード処理を実行する。この上限加速度および下限加速度は、それぞれ予め定められた値である。ステップS90が実行されると、ステップS100に進む。
【0076】
ステップS100では、ECU50により、要求加速度の調停がなされる。ECU50は、ステップS70で上下限処理がなされたブレーキ不許可の要求加速度GaおよびステップS90で上下限処理がなされたブレーキ許可の要求加速度GbのMIN選択により、要求加速度を決定する。
【0077】
次に、ステップS110では、ECU50により、要求加速度を実現する制駆動力制御が実行される。ECU50は、ステップS100における調停結果の要求加速度が、スロットルOFF減速度G1よりも小さな加速度であると、制動制御を行う。要求加速度が、CVT制御領域R1(図5参照)にある場合には、ECU50は、無段変速機30の変速制御で調節されるエンジンブレーキ力による第二制動力で要求加速度を実現する。また、要求加速度が、ブレーキ制御領域R2にある場合、ECU50は、第二制動力およびブレーキ装置49で発生させる第一制動力で要求加速度を実現する。ステップS110が実行されると、本制御フローは終了する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の制動制御システム1−1によれば、車両1の挙動安定性に影響する走行環境に応じて制動力配分が変化することで、制動制御を行うときの車両1の安定性を向上させることができる。また、車室内音量や車室外音量に応じた許容エンジン音量に基づいて許容回転数CVT_Neが決定されて制動力配分が変化することで、車両1の搭乗者にとって違和感のない範囲で最大限エンジンブレーキを使用することができ、燃費の向上を実現可能である。
【0079】
なお、本実施形態では、車両1において自動走行制御がなされている場合に制動力配分が変化する制動制御が実行されたが、これには限定されず、他の制動要求に対して制動力配分が変化する制動制御が実行されてもよい。例えば、走行環境(コーナー、信号、踏切、一旦停止、料金所等)に基づく車両1の走行制御において要求される減速度に対して、本実施形態の制動力配分が変化する制動制御が実行されてもよい。また、運転者による制動操作に応じて車両1を減速させる際に本実施形態の制動力配分が変化する制動制御が実行されてもよい。
【0080】
本実施形態では、前輪が駆動輪90であったが、これには限定されない。例えば、後輪が駆動輪90、前輪が従動輪とされてもよい。また、車両1は、全ての車輪が駆動輪90である全輪駆動式の車両であってもよい。全輪駆動式の車両において、各車輪に対する駆動力の配分比率は、最適な制動力の配分比率とは異なる場合がある。この場合、エンジンブレーキ力による第二制動力が大きくなると、ブレーキ装置49で制動する場合よりも車両1の安定性が低下することがある。よって、例えば駆動力の配分比率に応じてエンジンブレーキ力による第二制動力の上限を決定し、制動力配分を変化させるようにすれば、制動制御を行うときの車両1の安定性を向上させることができる。
【0081】
本実施形態では、エンジン回転数を調節する自動変速機が無段変速機30であったが、これには限定されない。自動変速機は、変速比の変更によりエンジン回転数を変化させることができるものであればよく、例えば有段式の自動変速機であってもよい。
【0082】
(実施形態の変形例)
上記実施形態では、ドライバの癖に応じて許容エンジン音量が推定されたが、これに加えて、あるいはこれに代えて、ドライバが許容エンジン音量を設定できるようにしてもよい。例えば、ドライバが予め許容エンジン音量を設定しておくことができるようにする方法や、エンジンブレーキを作用させた場合に許容できるエンジン音量であるかをシステム側から確認する方法とすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明にかかる制動制御システムは、動力源を駆動輪に対する負荷とすることで車両に制動力を作用させることが可能な車両の制動制御に有用であり、特に、制動制御を行うときの車両の安定性を向上させるのに適している。
【符号の説明】
【0084】
1−1 制動制御システム
1 車両
10 エンジン
30 無段変速機
40 油圧制御装置
49 ブレーキ装置
50 ECU
90 駆動輪
CVT_Ne 許容回転数
CVT_F 許容最小駆動力
CVT_MIN_a 許容最小加速度
CVT_Low_a 最小エンジンブレーキ加速度
G1 スロットルOFF減速度
Ga ブレーキ不許可の要求加速度
Gb ブレーキ許可の要求加速度
R1 CVT制御領域
R2 ブレーキ制御領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の全車輪にそれぞれ配置された制動装置が前記車両に作用させる制動力である第一制動力、あるいは前記車両の動力源を前記車両の駆動輪に対する負荷とすることで前記車両に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により前記車両を制動する制動制御システムであって、
前記車両に要求される減速度である要求減速度を実現するときに前記車両に作用させる制動力における前記第一制動力と前記第二制動力との割合が、前記車両の挙動安定性に影響する走行環境に応じて変化する
ことを特徴とする制動制御システム。
【請求項2】
前記走行環境による前記挙動安定性の低下が大きな場合には、前記挙動安定性の低下が小さな場合よりも前記第一制動力の割合が高い
請求項1に記載の制動制御システム。
【請求項3】
前記制動制御システムは、前記動力源としてのエンジンのエンジンブレーキ力を前記駆動輪に伝達する無段式の自動変速機の変速制御により前記第二制動力を調節するものである
請求項1または2に記載の制動制御システム。
【請求項4】
前記第二制動力を調節するときの前記自動変速機の変速比は、前記変速比において前記エンジンで発生する音の音量が前記車両の搭乗者に許容されると推定される所定範囲内の変速比に制限される
請求項3に記載の制動制御システム。
【請求項5】
車両の全車輪にそれぞれ配置された制動装置が前記車両に作用させる制動力である第一制動力、あるいは前記全車輪よりも少ない数の車輪に接続された負荷発生装置により前記車両に作用させる制動力である第二制動力の少なくともいずれか一方により前記車両を制動する制動制御システムであって、
前記車両に要求される減速度である要求減速度を実現するときに前記車両に作用させる制動力における前記第一制動力と前記第二制動力との割合が、前記車両の挙動安定性に影響する走行環境に応じて変化する
ことを特徴とする制動制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218872(P2011−218872A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87372(P2010−87372)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】