説明

燃焼制御装置および船舶推進装置

【課題】可変バルブタイミング機構(VCT)を備えたエンジンにおいて、実験でのマップ設定の工数(適合工数)を低減し、ECU内部のメモリの容量消費を低減する。
【解決手段】予め実験において、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させてVCTの目標角度が設定された目標角度マップM1を作成するとともに(図(a))、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて燃料噴射量が設定された燃料噴射量マップM2を作成しておく(図(b))。そして、目標角度マップM1に基づいて決まるVCTの目標角度に応じて、燃料噴射量マップM2から燃料噴射量を参照して燃焼制御動作を行う。これにより、必要な燃料噴射量を1つの燃料噴射量マップM2で設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム軸に設けられたカムを進角・遅角させてバルブの開閉タイミングを可変する可変バルブタイミング機構(以下、VCTという。)を備えたエンジンに適用するに好適な燃焼制御装置および船舶推進装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジンを燃焼制御する際には、予め実験で、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて最適なカム角度を求め、各カム角度ごとに燃料噴射量を設定した燃料噴射量マップを作成しておく。そして、実際の燃焼制御時に、カムのセンシング角度(実カム角度)に応じて燃料噴射量を設定していた。
【0003】
なお、実際の燃焼制御においては、とりわけ過渡期や故障時に可変バルブタイミング機構の目標角度とカムのセンシング角度とが必ずしも一致せず、両者間に偏差(カム角偏差量)が生じてしまう。そこで、この偏差に応じて燃料噴射量の補正を行なうことにより、空燃比の偏差を補正していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−3898号公報(段落〔0008〕の欄、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これでは、燃焼制御時にカムのセンシング角度を制御要素として使用するため、センシング角度に応じて多数の燃料噴射量マップを用意しなければならない。したがって、実験でのマップ設定の工数(以下、適合工数という。)が増加し、また、ECU(エンジン制御ユニット)内部のメモリの容量を多く消費するという課題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、実験での適合工数を低減するとともに、ECU内部のメモリの容量消費を低減することが可能な燃焼制御装置および船舶推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、カム軸に設けられたカムを進角・遅角させてバルブの開閉タイミングを可変する可変バルブタイミング機構を備えたエンジンに適用される燃焼制御装置であって、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて最適な燃料噴射量または点火時期が設定された第1のエンジン燃焼マップを記憶するエンジン燃焼マップ記憶手段と、前記可変バルブタイミング機構の目標角度に応じて前記エンジン燃焼マップから燃料噴射量または点火時期を参照して燃焼制御動作を行う燃焼制御手段とを備えている燃焼制御装置としたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて前記可変バルブタイミング機構の目標角度が設定された目標角度マップを記憶する角度マップ記憶手段を備え、前記燃焼制御手段は、前記目標角度マップに基づいて決まる目標角度に応じて燃焼制御動作を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記燃焼制御手段は、所定の条件が成立したときに、前記第1のエンジン燃焼マップに代えて、前記バルブの開閉タイミングが最遅角のときの燃料噴射量または点火時期がエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて設定された第2のエンジン燃焼マップを用いることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記カムの実カム角度を検出する角度検出手段を備え、前記燃焼制御手段は、前記可変バルブタイミング機構の目標角度に対して実カム角度に偏差がある場合に、当該目標角度と当該実カム角度との比率に応じて前記第1のエンジン燃焼マップの値と前記第2のエンジン燃焼マップの値とを補間演算して燃料噴射量または点火時期を決定することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加え、前記燃焼制御手段は、前記可変バルブタイミング機構の学習制御が終了するまでの間に限って前記補間演算を実施することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の燃焼制御装置を備えた船舶推進装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、必要な燃料噴射量または点火時期を1つのエンジン燃焼マップで設定することができる。その結果、実験での適合工数を低減するとともに、ECU内部のメモリの容量消費を低減することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、必要な燃料噴射量または点火時期を1つのエンジン燃焼マップで設定することができる。その結果、実験での適合工数を低減するとともに、ECU内部のメモリの容量消費を低減することが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、例えば、エンジンが十分に暖機していない場合でも、最遅角モードで最適な空燃費または点火時期を実現することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、追従性が所定値に達せず出力性能が十分に発揮できない恐れがある場合でも、燃料噴射量または点火時期を適宜補正して十分な出力性能を確保することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、学習が終了したら補間演算が中止されるため、実カム角度の変動による燃料噴射量または点火時期の変動の影響を受けることなく、安定した混合比または点火時期を実現することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5に記載の発明と同じ効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0019】
図1乃至図4には、本発明の実施の形態1を示す。
【0020】
まず、構成を説明する。4サイクル方式のエンジン1は、船外機に搭載されるものであり、図1に示すように、シリンダ2を有している。シリンダ2内には、ピストン3が水平方向(図1上下方向)に摺動自在に設けられている。ピストン3の一方側(図1上側)には燃焼室7が形成されており、ピストン3の他方側(図1下側)にはコンロッド5を介してクランク軸6が回転自在に連結されている。
【0021】
また、シリンダ2には、図1に示すように、吸気管9が燃焼室7に連通して接続されている。吸気管9には吸気バルブ(バルブ)10が吸気ポート11を開閉しうるように取り付けられており、吸気バルブ10には、吸気カム軸(カム軸)14に設けられた吸気カム(カム)4が回動自在に当接している。吸気カム4にはVCT(可変バルブタイミング機構)21が接続されており、吸気カム4は吸気カム軸14に対して所定の角度範囲内(例えば、0〜40°)で進角・遅角しうるようになっている。さらに、吸気カム4には、その実際の角度、つまり実カム角度を検出するカム角センサ(角度検出手段)22が付設されている。また、吸気管9には、インジェクタ12が吸気管9内に燃料噴射しうるように装着されているとともに、吸気圧を検出する吸気圧センサ23が取り付けられている。
【0022】
さらに、シリンダ2には、図1に示すように、排気管13が燃焼室7に連通して接続されており、排気管13には排気バルブ(バルブ)15が排気ポート16を開閉しうるように取り付けられている。
【0023】
また、シリンダ2には、図1に示すように、点火プラグ17が燃焼室7に火花を飛ばせるように装着されており、点火プラグ17には点火コイル19が接続されている。
【0024】
さらに、エンジン1には、図1に示すように、燃焼制御装置18が付設されており、燃焼制御装置18はECU(エンジン制御ユニット)20を有している。ECU20には、前記点火コイル19、前記VCT21、前記カム角センサ22、前記インジェクタ12、前記吸気圧センサ23およびエンジン回転数センサ8が接続されている。そして、ECU20は、燃焼制御部(燃焼制御手段)20a、偏差判定部20bおよびメモリ(エンジン燃焼マップ記憶手段、角度マップ記憶手段)20cを備えている。
【0025】
このメモリ20cには、図2(a)に示すように、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させてVCT21の目標角度データが設定された目標角度マップM1が読み出し自在に記憶されている。この目標角度マップM1によれば、例えば、エンジン回転数が500rpmで吸気圧が20kPaであるときの目標角度データは0°であり、また、エンジン回転数が1000rpmで吸気圧が40kPaであるときの目標角度データは40°であることがわかる。なお、目標角度マップM1では、すべての欄に目標角度データが記述されているが、図2(a)では、一部の欄のみ図示し、その他の欄は図示を省略した。
【0026】
また、メモリ20cには、図2(b)に示すように、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて最適な燃料噴射量データが設定された目標進角の燃料噴射量マップM2が読み出し自在に記憶されている。この燃料噴射量マップM2によれば、例えば、エンジン回転数が500rpmで吸気圧が20kPaであるときの最適な燃料噴射量データは0.5であり、また、エンジン回転数が1000rpmで吸気圧が40kPaであるときの最適な燃料噴射量データは0.8であることがわかる。ここで、「目標進角」とは、吸気カム4の角度が目標角度で制御されている状態を意味する。なお、燃料噴射量マップM2では、すべての欄に燃料噴射量データが記述されているが、図2(b)では、一部の欄のみ図示し、その他の欄は図示を省略した。
【0027】
さらに、メモリ20cには、最遅角の燃料噴射量マップ(第2のエンジン燃焼マップ)M3が読み出し自在に記憶されている。ここで、「最遅角」とは、吸気カム4の角度が0°、すなわち、吸気カム軸14の回転方向に対して吸気カム4が最大に遅れた角度位置にある状態を意味する。
【0028】
次に、作用について説明する。
【0029】
以上のような構成を有するエンジン1を燃焼制御する際には、ECU20の燃焼制御部20aは、目標角度マップM1および燃料噴射量マップM2をメモリ20cから読み出し、目標角度マップM1に基づいて決まるVCT21の目標角度に応じて燃料噴射量マップM2から燃料噴射量を参照して燃焼制御動作を行う。
【0030】
このような燃焼制御動作を行えば、必要な燃料噴射量を1つの燃料噴射量マップM2で設定することができる。その結果、実験での適合工数を低減するとともに、ECU20内部のメモリ20cの容量消費を低減することが可能となる。
【0031】
また、ECU20の燃焼制御部20aは、VCT21の目標角度に対して吸気カム4の実カム角度を追従させるべく、VCT21の学習制御(VCT21の制御時の応答性を学習する制御)を実施するとともに、補間演算を実施する。
【0032】
すなわち、偏差判定部20bは、目標角度マップM1をメモリ20cから読み出し、この目標角度マップM1に基づいて現在のエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応した目標角度を認識するとともに、カム角センサ22によって検出された現在の実カム角度を認識した後、これら目標角度と実カム角度とを比較することにより、両者間に偏差があるか否かを判定する。その結果、目標角度と実カム角度との間に偏差がある場合、偏差判定部20bは、目標角度と実カム角度との比率を燃焼制御部20aに出力する。これを受けて燃焼制御部20aは、目標進角の燃料噴射量マップM2をメモリ20cから読み出し、この燃料噴射量マップM2に基づいて現在のエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応した最適な燃料噴射量を認識するとともに、最遅角の燃料噴射量マップM3をメモリ20cから読み出し、この燃料噴射量マップM3に基づいて現在のエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応した最遅角の燃料噴射量を認識した後、これら目標進角の燃料噴射量と最遅角の燃料噴射量とを目標角度と実カム角度との比率に応じて補間演算して燃料噴射量を決定する。
【0033】
例えば、図3に示すように、VCT21の目標角度が20°である場合に吸気カム4の実カム角度が10°(図3中のA点)であれば、目標角度と実カム角度との比率は2:1(20°:10°)となるため、目標進角の燃料噴射量と最遅角の燃料噴射量とを2:1で比例配分した値を燃料噴射量とする。また、VCT21の目標角度が20°である場合に吸気カム4の実カム角度が5°(図3中のB点)であれば、目標角度と実カム角度との比率は4:1(20°:5°)となるため、目標進角の燃料噴射量と最遅角の燃料噴射量とを4:1で比例配分した値を燃料噴射量とする。なお、図3のグラフにおいて、実線はVCT21の目標角度を表し、一点鎖線は吸気カム4の実カム角度を表す。
【0034】
このような補間演算を実施すれば、追従性が所定値に達せず出力性能(運転性能)が十分に発揮できない恐れがある場合(例えば、エンジン1の運転開始初期など)でも、燃料噴射量を適宜補正して十分な出力性能を確保することができる。
【0035】
なお、この補間演算は、VCT21の学習制御が終了するまでの間に限って実施される。すると、学習が終了したら補間演算が中止されるので、図4に一点鎖線で示すように、VCT21の学習制御の終了後も補間演算を継続することによって吸気カム4の実カム角度が変動(増減)する事態を回避し、図4に実線で示すように、吸気カム4の実カム角度がVCT21の目標角度(図4では40°)の近傍で安定する。その結果、燃料噴射量の変動が抑制され、安定した混合比(空燃比)を実現することができる。
[発明の実施の形態2]
【0036】
図5乃至図8には、本発明の実施の形態2を示す。
【0037】
まず、構成を説明する。4サイクル方式のエンジン1は、船外機に搭載されるものであり、図5に示すように、シリンダ2を有している。シリンダ2内には、ピストン3が水平方向(図5上下方向)に摺動自在に設けられている。ピストン3の一方側(図5上側)には燃焼室7が形成されており、ピストン3の他方側(図5下側)にはコンロッド5を介してクランク軸6が回転自在に連結されている。
【0038】
また、シリンダ2には、図5に示すように、吸気管9が燃焼室7に連通して接続されている。吸気管9には吸気バルブ(バルブ)10が吸気ポート11を開閉しうるように取り付けられており、吸気バルブ10には、吸気カム軸(カム軸)14に設けられた吸気カム(カム)4が回動自在に当接している。吸気カム4にはVCT(可変バルブタイミング機構)21が接続されており、吸気カム4は吸気カム軸14に対して所定の角度範囲内(例えば、0〜40°)で進角・遅角しうるようになっている。さらに、吸気カム4には、その実際の角度、つまり実カム角度を検出するカム角センサ(角度検出手段)22が付設されている。また、吸気管9には、インジェクタ12が吸気管9内に燃料噴射しうるように装着されているとともに、吸気圧を検出する吸気圧センサ23が取り付けられている。
【0039】
さらに、シリンダ2には、図5に示すように、排気管13が燃焼室7に連通して接続されており、排気管13には排気バルブ(バルブ)15が排気ポート16を開閉しうるように取り付けられている。
【0040】
また、シリンダ2には、図5に示すように、点火プラグ17が燃焼室7に火花を飛ばせるように装着されており、点火プラグ17には点火コイル19が接続されている。
【0041】
さらに、エンジン1には、図5に示すように、燃焼制御装置18が付設されており、燃焼制御装置18はECU(エンジン制御ユニット)20を有している。ECU20には、前記点火コイル19、前記VCT21、前記カム角センサ22、前記インジェクタ12、前記吸気圧センサ23およびエンジン回転数センサ8が接続されている。そして、ECU20は、燃焼制御部(燃焼制御手段)20a、偏差判定部20bおよびメモリ(エンジン燃焼マップ記憶手段、角度マップ記憶手段)20cを備えている。
【0042】
このメモリ20cには、図6(a)に示すように、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させてVCT21の目標角度データが設定された目標角度マップM1が読み出し自在に記憶されている。この目標角度マップM1によれば、例えば、エンジン回転数が500rpmで吸気圧が20kPaであるときの目標角度データは0°であり、また、エンジン回転数が1000rpmで吸気圧が40kPaであるときの目標角度データは40°であることがわかる。なお、目標角度マップM1では、すべての欄に目標角度データが記述されているが、図6(a)では、一部の欄のみ図示し、その他の欄は図示を省略した。
【0043】
また、メモリ20cには、図6(b)に示すように、エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて最適な点火時期データが設定された目標進角の点火時期マップM4が読み出し自在に記憶されている。この点火時期マップM4によれば、例えば、エンジン回転数が500rpmで吸気圧が20kPaであるときの最適な点火時期データはATDC6°であり、また、エンジン回転数が1000rpmで吸気圧が40kPaであるときの最適な点火時期データはATDC5°であることがわかる。ここで、「目標進角」とは、吸気カム4の角度が目標角度で制御されている状態を意味する。なお、点火時期マップM4では、すべての欄に点火時期データが記述されているが、図6(b)では、一部の欄のみ図示し、その他の欄は図示を省略した。
【0044】
さらに、メモリ20cには、最遅角の点火時期マップ(第2のエンジン燃焼マップ)M5が読み出し自在に記憶されている。ここで、「最遅角」とは、吸気カム4の角度が0°、すなわち、吸気カム軸14の回転方向に対して吸気カム4が最大に遅れた角度位置にある状態を意味する。
【0045】
次に、作用について説明する。
【0046】
以上のような構成を有するエンジン1を燃焼制御する際には、ECU20の燃焼制御部20aは、目標角度マップM1および点火時期マップM4をメモリ20cから読み出し、目標角度マップM1に基づいて決まるVCT21の目標角度に応じて点火時期マップM4から点火時期を参照して燃焼制御動作を行う。
【0047】
このような燃焼制御動作を行えば、必要な点火時期を1つの点火時期マップM4で設定することができる。その結果、実験での適合工数を低減するとともに、ECU20内部のメモリ20cの容量消費を低減することが可能となる。
【0048】
また、ECU20の燃焼制御部20aは、VCT21の目標角度に対して吸気カム4の実カム角度を追従させるべく、VCT21の学習制御(VCT21の制御時の応答性を学習する制御)を実施するとともに、補間演算を実施する。
【0049】
すなわち、偏差判定部20bは、目標角度マップM1をメモリ20cから読み出し、この目標角度マップM1に基づいて現在のエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応した目標角度を認識するとともに、カム角センサ22によって検出された現在の実カム角度を認識した後、これら目標角度と実カム角度とを比較することにより、両者間に偏差があるか否かを判定する。その結果、目標角度と実カム角度との間に偏差がある場合、偏差判定部20bは、目標角度と実カム角度との比率を燃焼制御部20aに出力する。これを受けて燃焼制御部20aは、目標進角の点火時期マップM4をメモリ20cから読み出し、この点火時期マップM4に基づいて現在のエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応した最適な点火時期を認識するとともに、最遅角の点火時期マップM5をメモリ20cから読み出し、この点火時期マップM5に基づいて現在のエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応した最遅角の点火時期を認識した後、これら目標進角の点火時期と最遅角の点火時期とを目標角度と実カム角度との比率に応じて補間演算して点火時期を決定する。
【0050】
例えば、図7に示すように、VCT21の目標角度が20°である場合に吸気カム4の実カム角度が10°(図7中のA点)であれば、目標角度と実カム角度との比率は2:1(20°:10°)となるため、目標進角の点火時期と最遅角の点火時期とを2:1で比例配分した値を点火時期とする。また、VCT21の目標角度が20°である場合に吸気カム4の実カム角度が5°(図7中のB点)であれば、目標角度と実カム角度との比率は4:1(20°:5°)となるため、目標進角の点火時期と最遅角の点火時期とを4:1で比例配分した値を点火時期とする。なお、図7のグラフにおいて、実線はVCT21の目標角度を表し、一点鎖線は吸気カム4の実カム角度を表す。
【0051】
このような補間演算を実施すれば、追従性が所定値に達せず出力性能(運転性能)が十分に発揮できない恐れがある場合(例えば、エンジン1の運転開始初期など)でも、点火時期を適宜補正して十分な出力性能を確保することができる。
【0052】
なお、この補間演算は、VCT21の学習制御が終了するまでの間に限って実施される。すると、学習が終了したら補間演算が中止されるので、図8に一点鎖線で示すように、VCT21の学習制御の終了後も補間演算を継続することによって吸気カム4の実カム角度が変動(増減)する事態を回避し、図8に実線で示すように、吸気カム4の実カム角度がVCT21の目標角度(図8では40°)の近傍で安定する。その結果、点火時期の変動が抑制され、安定した点火時期を実現することができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0053】
なお、上述した実施の形態1では、制御対象が燃料噴射量である場合について説明し、また、上述した実施の形態2では、制御対象が点火時期である場合について説明した。しかし、燃料噴射量と点火時期の両方を制御対象とすることもできる。この場合、燃料噴射量および点火時期が同時に制御されるため、燃料噴射量と点火時期のいずれか一方を制御する場合と比べて、きめ細かい燃焼制御を実現することが可能となる。
【0054】
また、上述した実施の形態1では、目標進角の燃料噴射量マップM2を利用して燃料噴射量を決める場合について説明したが、所定の条件が成立したときに、この目標進角の燃料噴射量マップM2に代えて、吸気バルブ10の開閉タイミングが最遅角のときの燃料噴射量マップM3を用いるようにしてもよい。
【0055】
ここで、所定の条件は種々考えられるが、その第1例としては、エンジン1が十分に暖機していないことを挙げることができる。この場合、ECU20の燃焼制御部20aは、シリンダ2の壁温を検出する壁温センサ(図示せず)からの信号に基づいてエンジン1が十分に暖機しているか否かを判定し、エンジン1が十分に暖機している場合には目標進角の燃料噴射量マップM2を用い、エンジン1が十分に暖機していない場合には最遅角の燃料噴射量マップM3を用いる。このようにすれば、エンジン1が十分に暖機していない場合でも、最遅角モードで最適な空燃費を実現することが可能となる。
【0056】
また、所定の条件の第2例として、各種のセンサ(温度センサ、クランク角センサ、カム角センサ22など)が故障していることを挙げることができる。すなわち、これらのセンサが故障していないセンサ正常時には目標進角の燃料噴射量マップM2を用い、これらのセンサが故障しているセンサ異常時には最遅角の燃料噴射量マップM3を用いることにより、センサが故障している場合でも、最遅角モードでエンジン1を駆動することができる。
【0057】
さらに、所定の条件の第3例として、電気スロットルシステムが故障していることを挙げることができる。すなわち、電気スロットルシステムが故障していないシステム正常時には目標進角の燃料噴射量マップM2を用い、電気スロットルシステムが故障しているシステム異常時には最遅角の燃料噴射量マップM3を用いることにより、電気スロットルシステムが故障している場合でも、最遅角モードでエンジン1を駆動することができる。
【0058】
さらに、上述した実施の形態2では、目標進角の点火時期マップM4を利用して点火時期を決める場合について説明したが、所定の条件が成立したときに、この目標進角の点火時期マップM4に代えて、吸気バルブ10の開閉タイミングが最遅角のときの点火時期マップM5を用いるようにしてもよい。
【0059】
ここで、所定の条件は種々考えられるが、その第1例としては、エンジン1が十分に暖機していないことを挙げることができる。この場合、ECU20の燃焼制御部20aは、シリンダ2の壁温を検出する壁温センサ(図示せず)からの信号に基づいてエンジン1が十分に暖機しているか否かを判定し、エンジン1が十分に暖機している場合には目標進角の点火時期マップM4を用い、エンジン1が十分に暖機していない場合には最遅角の点火時期マップM5を用いる。このようにすれば、エンジン1が十分に暖機していない場合でも、最遅角モードで最適な点火時期を実現することが可能となる。
【0060】
また、所定の条件の第2例として、各種のセンサ(温度センサ、クランク角センサ、カム角センサ22など)が故障していることを挙げることができる。すなわち、これらのセンサが故障していないセンサ正常時には目標進角の点火時期マップM4を用い、これらのセンサが故障しているセンサ異常時には最遅角の点火時期マップM5を用いることにより、センサが故障している場合でも、最遅角モードでエンジン1を駆動することができる。
【0061】
さらに、所定の条件の第3例として、電気スロットルシステムが故障していることを挙げることができる。すなわち、電気スロットルシステムが故障していないシステム正常時には目標進角の点火時期マップM4を用い、電気スロットルシステムが故障しているシステム異常時には最遅角の点火時期マップM5を用いることにより、電気スロットルシステムが故障している場合でも、最遅角モードでエンジン1を駆動することができる。
【0062】
また、上述した実施の形態1、2では、4サイクル方式のエンジン1について説明したが、このエンジン1の気筒数や気筒配置は特に限定されるわけではない。例えば、直列4気筒やV型8気筒のエンジン1に本発明を適用することもできる。
【0063】
また、上述した実施の形態1、2では、VCT21の学習制御が終了するまでの間に限って補間演算を実施する場合について説明したが、吸気カム4の実カム角度の変動を抑制する必要がない場合や、吸気カム4の実カム角度の変動を抑制する対策が講じられている場合には、VCT21の学習制御が終了した後に引き続き補間演算を実施するようにしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、船外機や船内外機など各種の船舶推進装置に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1に係るエンジンの構成図である。
【図2】同実施の形態1に係るマップを示す模式図であって、(a)は目標角度マップを示す図、(b)は燃料噴射量マップを示す図である。
【図3】同実施の形態1に係る燃焼制御中のカム角度のタイミングチャートである。
【図4】同実施の形態1に係る学習前後の吸気カムの実カム角度のタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2に係るエンジンの構成図である。
【図6】同実施の形態2に係るマップを示す模式図であって、(a)は目標角度マップを示す図、(b)は点火時期マップを示す図である。
【図7】同実施の形態2に係る燃焼制御中のカム角度のタイミングチャートである。
【図8】同実施の形態2に係る学習前後の吸気カムの実カム角度のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1……エンジン
2……シリンダ
3……ピストン
4……吸気カム(カム)
5……コンロッド
6……クランク軸
7……燃焼室
8……エンジン回転数センサ
9……吸気管
10……吸気バルブ(バルブ)
11……吸気ポート
12……インジェクタ
13……排気管
14……吸気カム軸(カム軸)
15……排気バルブ(バルブ)
16……排気ポート
17……点火プラグ
18……燃焼制御装置
19……点火コイル
20……ECU
20a……燃焼制御部(燃焼制御手段)
20b……偏差判定部
20c……メモリ(エンジン燃焼マップ記憶手段、角度マップ記憶手段)
21……VCT
22……カム角センサ(角度検出手段)
23……吸気圧センサ
M1……目標角度マップ
M2……目標進角の燃料噴射量マップ(第1のエンジン燃焼マップ)
M3……最遅角の燃料噴射量マップ(第2のエンジン燃焼マップ)
M4……目標進角の点火時期マップ(第1のエンジン燃焼マップ)
M5……最遅角の点火時期マップ(第2のエンジン燃焼マップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム軸に設けられたカムを進角・遅角させてバルブの開閉タイミングを可変する可変バルブタイミング機構を備えたエンジンに適用される燃焼制御装置であって、
エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて最適な燃料噴射量または点火時期が設定された第1のエンジン燃焼マップを記憶するエンジン燃焼マップ記憶手段と、
前記可変バルブタイミング機構の目標角度に応じて前記エンジン燃焼マップから燃料噴射量または点火時期を参照して燃焼制御動作を行う燃焼制御手段とを備えていることを特徴とする燃焼制御装置。
【請求項2】
エンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて前記可変バルブタイミング機構の目標角度が設定された目標角度マップを記憶する角度マップ記憶手段を備え、
前記燃焼制御手段は、前記目標角度マップに基づいて決まる目標角度に応じて燃焼制御動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の燃焼制御装置。
【請求項3】
前記燃焼制御手段は、所定の条件が成立したときに、前記第1のエンジン燃焼マップに代えて、前記バルブの開閉タイミングが最遅角のときの燃料噴射量または点火時期がエンジン回転数と吸気圧との組合せに対応させて設定された第2のエンジン燃焼マップを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の燃焼制御装置。
【請求項4】
前記カムの実カム角度を検出する角度検出手段を備え、
前記燃焼制御手段は、前記可変バルブタイミング機構の目標角度に対して実カム角度に偏差がある場合に、当該目標角度と当該実カム角度との比率に応じて前記第1のエンジン燃焼マップの値と前記第2のエンジン燃焼マップの値とを補間演算して燃料噴射量または点火時期を決定することを特徴とする請求項3に記載の燃焼制御装置。
【請求項5】
前記燃焼制御手段は、前記可変バルブタイミング機構の学習制御が終了するまでの間に限って前記補間演算を実施することを特徴とする請求項4に記載の燃焼制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の燃焼制御装置を備えたことを特徴とする船舶推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−285998(P2008−285998A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128790(P2007−128790)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】