窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子
【課題】長期信頼性が高い窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子を提供すること。
【解決手段】アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子およびボロン原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であって、添加物としてドープした金属原子とガリウム格子間原子とが複合体を形成している。好ましくは、前記添加物は鉄またはニッケルである。好ましくは、前記添加物のドープ濃度は、前記ガリウム格子間原子の濃度と同程度である。
【解決手段】アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子およびボロン原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であって、添加物としてドープした金属原子とガリウム格子間原子とが複合体を形成している。好ましくは、前記添加物は鉄またはニッケルである。好ましくは、前記添加物のドープ濃度は、前記ガリウム格子間原子の濃度と同程度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物系化合物半導体、たとえば窒化ガリウム(GaN)系半導体は、シリコン系材料に比べてバンドギャップエネルギーが大きく絶縁破壊電圧が大きいため、これを用いて高温環境下においても動作する高耐圧の半導体素子を作製することが可能である。このため、GaN系半導体はシリコン系材料に代わるインバーターやコンバーター等のパワーデバイスの材料として期待されている。
【0003】
パワーデバイスにとって、高いオフ耐圧は、トランジスタの最大出力を決める重要なパラメータである。高いオフ耐圧を得るためには、高いバッファ耐圧の実現、すなわち漏れ電流(リーク電流)の低減が必要になる。
【0004】
GaN系半導体は、通常はGaN系半導体とは異なる材料から成る基板上にヘテロエピタキシャル成長するため、窒素空孔などの点欠陥や転位をはじめとする格子欠陥を多数含むという課題がある。特に、シリコン基板を成長基板に用いた場合、GaNとシリコンの格子定数差(〜17%)、熱膨張係数差(〜56%)が大きいため、1010cm−2を超える高密度の転位が導入される場合がある。このように高密度の転位が導入されたGaN系半導体素子はリーク電流が大きくなり、耐圧性が低くなる。
【0005】
高耐圧化のためには、基板直上に形成するバッファ層を高抵抗化する方法がある。バッファ層の高抵抗化には、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いる場合に、原料である有機金属に含まれる炭素を添加剤とするオートドーピング法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−251144号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.E.Northrup, Appl. Phys. Lett., vol.78, p.2200(2001).
【非特許文献2】J.W.P.Hsu, M.J.Manfra, R.J.Molnar, B.Heying, and J.S.Spec, Appl. Phys. Lett., vol.81, p.79(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、素子の信頼性の観点から、リーク電流は素子の使用開始時だけでなく、1000時間を越えるような長期に亘る通電後においても、増加しない必要がある。しかしながら、特許文献1に開示させるような、炭素をドーピングし、バッファ層の高抵抗化を行った素子においては、素子の通電開始後のリーク電流(リーク電流の初期値)は所望の値以下であったとしても、長期通電後にはリーク電流が増加するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、長期信頼性が高い窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子およびボロン原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であって、添加物としてドープした金属原子とガリウム格子間原子とが複合体を形成していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物は鉄またはニッケルであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物のドープ濃度は、前記ガリウム格子間原子の濃度と同程度であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物のドープ濃度は、5×1016cm−3〜5×1018cm−3であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物のドープ濃度は、1×1017cm−3〜1×1018cm−3であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、窒化ガリウムであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、上記の発明において、上記の発明のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板と、前記基板上にエピタキシャル成長した、前記窒化物系化合物半導体からなる半導体層とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、上記の発明において、前記基板はシリコン、サファイア、炭化珪素または酸化亜鉛からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長期通電後においてもリーク電流の増加を抑制できるので、長期信頼性が高い窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、螺旋転位のGaリッチな転位芯構造を示す模式図である。
【図2】図2は、図1の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。
【図3】図3は、螺旋転位のオープンコアな転位芯構造を示す模式図である。
【図4】図4は、図3の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。
【図5】図5は、転位芯近傍におけるGa原子の挙動を説明する模式図である。
【図6】図6は、転位芯近傍におけるGa原子の挙動を説明する模式図である。
【図7】図7は、図5(b)の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。
【図8】図8は、GaN結晶中のGa格子間原子と不純物原子との結合エネルギーの計算結果を示す図である。
【図9】図9は、GaN結晶に不純物原子をドープしたときの原子数当たりの凝集エネルギーを示す図である。
【図10】図10は、実施の形態1に係る窒化物系化合物半導体素子であるHFETの模式的な断面図である。
【図11】図11は、実施例1および比較例1のHFETのリーク電流の経時変化を示す図である。
【図12】図12は、実施例1、2および比較例1のHFETのリーク電流の初期値および1000時間通電後のリーク電流を示す図である。
【図13】図13は、実施例1のHFET中の57Feのメスバウアースペクトルを示す図である。
【図14】図14は、実施の形態3に係るHFETの模式的な断面図である。
【図15】図15は、図14に示すHFETの製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、本発明者が、窒化物系化合物半導体素子に長期通電を行なった際に生じるリーク電流の増加のメカニズムを再考し、これによって得た知見によって、リーク電流の増加を抑制する方法に想到し、完成したものである。
【0021】
以下では、はじめに、本発明者が行なったリーク電流の増加のメカニズムの考察について説明する。次いで、これによって得た知見によって完成した本発明について、その実施の形態により説明する。
【0022】
<第一原理電子状態計算による特性予測>
(リーク電流の初期値に関する知見)
窒化物系化合物半導体におけるリーク電流の発生は、窒化物系化合物半導体の結晶中に存在する「螺旋転位」の転位線に沿った電流経路(リークパス)の形成に起因するものであると考えられる。その理由は、第一原理電子状態計算結果から予測されるように(非特許文献1参照)、Gaリッチな螺旋転位芯は、バンドギャップ間に多数の準位を持つため、高い電圧を印加したときに電流が流れるためである。
【0023】
また、電流AFM(原子間力顕微鏡)の観察において、螺旋転位上で逆方向バイアスをかけた場合のリーク電流の増加が観察されており(非特許文献2参照)、非特許文献1の予測を裏付けている。
【0024】
しかしながら、これら2つの文献では、特定の窒化物系化合物半導体におけるリーク電流の初期値の大小関係については説明できるものの、長期通電によるリーク電流増加に関する知見は何ら与えられない。
【0025】
(螺旋転位の電子状態計算)
そこで、本発明者は、リーク電流増加のメカニズムを解明するため、GaNの結晶について、以下のような計算を行った。
【0026】
計算1:Gaリッチな螺旋転位の電子状態とオープンコアな螺旋転位の電子状態との比較
以下、計算1について説明する。
GaN中の螺旋転位の転位芯構造は、大きく分けて、Gaリッチな(転位芯におけるGa原子の含有量が50質量%以上)構造と、オープンコアと呼ばれる転位芯の原子が欠損している構造とがある。本計算1では、それぞれの構造について、局所密度近似に基づいた第一原理電子状態計算(シミュレーション)を行った。
【0027】
なお、このシミュレーションには、アドバンスソフト株式会社製のAdvance/PHASEを用いた。また、計算には、Vanderbilt型のウルトラソフト擬ポテンシャルを用いた。また、交換相互作用は、一般化勾配近似の範囲で計算した。計算では、スピンを考慮した。さらに、計算条件は、以下の条件で行った。
・カットオフエネルギー:波動関数および電荷密度分布で、それぞれ25Ryおよび230Ry
・k点サンプル:3×3×2
・計算したバンド数:228
【0028】
図1は、螺旋転位のGaリッチな転位芯構造を示す模式図である。図2は、図1の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度(DOS:density of states)を示す図である。また、図3は、螺旋転位のオープンコアな転位芯構造を示す模式図である。図4は、図3の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度(DOS)を示す図である。なお、図2、4において、横軸は電子のエネルギーを示し、エネルギーが0の位置は、フェルミ準位を示している。また、DOSの符号が正のものはスピン上向きの状態密度を示し、負のものはスピン下向きの状態密度を示す。
【0029】
図1、2に示すように、Gaリッチな螺旋転位は、横軸のおよそ−2〜+1.6電子ボルト(eV)に存在するバンドギャップ内に離散的なエネルギー準位を持っている。すなわち、Gaリッチな螺旋転位は、これらのバンドギャップ内のエネルギー準位が存在するために、リークパスになる可能性があることを示している。この結果は、非特許文献1および非特許文献2に示された結果に一致する。
【0030】
これに対して、図3、4に示すように、オープンコアな螺旋転位は、横軸のおよそ0〜+3eVにエネルギー準位を持たない。すなわち、オープンコアな螺旋転位は、リークパスとはならないことを示している。
【0031】
これらの結果は、Gaリッチな螺旋転位は、リークパスになる可能性があり、オープンコアな螺旋転位は、リークパスとはならないことを示している。
【0032】
本発明者は、これらの結果から、結晶に含まれるオープンコアな螺旋転位が、通電によって、Gaリッチな螺旋転位に変化し、リーク電流が増加すると推測した。そこで、次のような計算を行なった。
計算2:Ga格子間原子の吸収によるオープンコアな螺旋転位の「Gaリッチ」化の確認
【0033】
以下、計算2について説明する。
オープンコアな螺旋転位のGaリッチ化(導電化)の原因として、Ga格子間原子の螺旋転位芯への吸収が考えられる。このことを検証するため、転位芯近傍に配置されたGa原子の挙動を分子動力学計算で確認した。なお、安定な原子配置の計算はquenched MD法を用いて行い、1ステップを1.2フェムト秒として計算した。
【0034】
図5、6は、上記の計算結果に基づき、転位芯近傍におけるGa原子の挙動を説明する模式図である。
【0035】
まず、図5(a)に示すように、安定構造を持つオープンコアな螺旋転位芯の近傍(〜0.15nm)に、Ga原子(図中黒丸で示す)を配置する。すると、図5(b)に示すように、このGa原子は、オープンコアな螺旋転位の転位芯に吸収される(図中斜線を付した丸で示す)。
【0036】
つぎに、図6(a)に示すように、安定構造を持つGaリッチな螺旋転位芯に在るGa原子(図中黒丸で示す)を僅か(〜0.1nm)に転位芯の外側へずらしたとき、このGa原子は転位芯に吸収される。更に、螺旋転位芯の近傍に存在するGa格子間原子は、同様に吸収され、図6(b)に示すように転位芯に過剰にGa原子が存在するようになる(図中破線領域で示す)。
【0037】
なお、図7は、図5(b)の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。図7に示すように、図5(b)の転位芯構造、すなわち、オープンコアな螺旋転位の転位芯にGa原子が吸収された構造では、バンドギャップ間に複数のエネルギー準位を持つことが分かる。
【0038】
これらの計算結果から、拡散(熱的なものだけでなく電界で促進される現象を含む)によって転位芯近傍に到達したGa格子間原子は、転位芯に吸収されると結論できる。すなわち、電気的に中性であるオープンコアな螺旋転位芯構造を持つ螺旋転位も、Ga原子を吸収することで電気的に活性化することを意味している。また、Gaリッチな螺旋転位芯に吸収されたGa格子間原子は、その安定位置から0.1nm程度ずらしても、元の位置に戻ることも示された。
【0039】
以上の結果は、螺旋転位の転位芯には電気的に活性な構造(Gaリッチ)と電気的に不活性な構造(オープンコア)があり、通電により、GaN結晶中に残留するGa格子間原子が拡散し、電気的に不活性なオープンコアな螺旋転位に吸収されて電気的に活性なGaリッチな螺旋転位に変化し、リーク電流が増大することを示唆している。すなわち、通電によるリーク電流の増加は、GaN結晶中に残留するGa格子間原子が起源になっていると考えることができる。また、Ga原子を吸収した螺旋転位はそのGa原子を吸収した状態が安定であるため、リーク電流の増加は不可逆な現象であると考えられる。
【0040】
以上の結果より、本発明者は、Ga格子間原子の螺旋転位芯への移動を抑制すれば、長期通電によるリーク電流の増加を抑制することができることを見出した。そして、たとえばGaN結晶中のGa格子間原子の拡散を抑制するためには、Ga格子間原子の自己拡散エネルギーよりも大きな結合エネルギーを持つ元素をGaN結晶中にドープすればよいことに想到した。
【0041】
(Ga格子間原子の拡散を抑制する元素)
以下では、Ga格子間原子の拡散を抑制する元素を「Ga格子間原子アンカー」と名付け、Ga格子間原子アンカーとなり得る元素を第一原理電子状態計算から確認した。ここで、Ga格子間原子アンカーの条件は、上に述べたようにGa格子間原子との結合エネルギーが大きいことである。さらに、Ga格子間原子アンカーは、溶質原子としてGaN結晶中に安定的に存在することが重要であり、不純物原子を含まない系の凝集エネルギーより低い凝集エネルギーを持たなければならない。
【0042】
なお、この計算は、螺旋転位の電子状態計算と同様に、アドバンスソフト株式会社製のAdvance/PHASEを用いた。また、主な計算条件は、以下の通りである。
・原子モデル:33原子(Ga16個、窒素16個、不純物原子1個)からなるスーパーセル
・カットオフエネルギー:波動函数および電荷密度分布で、それぞれ25Ryおよび230Ry
・k点サンプル:3×3×4
・計算したバンド数:100
【0043】
図8は、GaN結晶中のGa格子間原子と不純物原子との結合エネルギーの計算結果を示す図である。なお、図中太い破線は、第一原理電子状態計算により計算した、Ga格子間原子の拡散の活性化エネルギーである。ここで、太い破線よりも高い結合エネルギーを持つ不純物原子が、Ga格子間原子アンカーとして働き得る。すなわち、太い破線よりも高い結合エネルギーを持つ不純物原子は、Ga格子間原子と結合した複合体を形成し安定化する。その結果、Ga格子間原子の拡散は抑制される。
【0044】
図9は、GaN結晶に不純物原子をドープしたときの原子数当たりの凝集エネルギーを示す図である。なお、図中太い破線は、不純物原子を含まない系(GaN結晶)の凝集エネルギーを示す。ここで、太い破線と同程度か低い凝集エネルギーを持つ不純物原子が、GaN結晶に安定的に固溶し、存在することができる。
【0045】
図8および図9の計算結果は、リチウム(Li)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)および金(Au)がGa格子間原子アンカーとして有効に機能することを示している。本発明者は、以上の結果より、窒化物系化合物半導体の結晶中にこれらのGa格子間原子アンカーをドープすることによって、長期通電によるリーク電流の増加を抑制することができることに想到したのである。
【0046】
<実施の形態>
以下に、図面を参照して本発明に係る窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面においては、同一または対応する要素には適宜同一符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各層の厚さや厚さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0047】
(実施の形態1)
図10は、本発明の実施の形態1に係る窒化物系化合物半導体素子である異種接合電界効果トランジスタ(Heterojunction field effect transistor:HFET)の模式的な断面図である。このHFET10は、窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板である主表面が(111)面のシリコン基板11と、シリコン基板11上に順次形成された、GaNからなるバッファ層12、FeをドープしたGaNからなる電子走行層13、およびAlGaNからなる電子供給層14と、電子供給層14上に形成されたゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17とを備えている。すなわち、このHFET10は、AlGaN/GaNのヘテロ接合を有するAlGaN/GaN−HFETである。なお、電子走行層13および電子供給層14は、p型またはn型不純物を意図的にドープしていないが、適宜ドープしてもよい。
【0048】
このHFET10は、電子走行層13にFeをドープしている。したがって、このHFET10に通電を行なった際には、このFeがGa格子間原子と結合した複合体を形成してGa格子間原子アンカーとして機能する。これによって長期通電を行っても、ソース電極16またはドレイン電極17からシリコン基板11側へリークパスが形成されることが抑制される。その結果、このHFET10は、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0049】
なお、Feのドープ濃度は、電子走行層13を構成するGaN結晶中のGa格子間原子濃度と同程度であることが望ましい。ここで、後述するように、所定の条件にてFeをドープしないGaN結晶をエピタキシャル成長し、GaN結晶中のGa空孔密度を陽電子消滅法により測定したところ、1017〜1018cm−3であった。この場合、Feのドープ濃度は、5×1016〜5×1018cm−3であることが望ましい。さらに、Feのドープ濃度は、Ga格子間原子と確実に結合するという観点からは、1×1017cm−3以上が良く、不純物ドープによる深い準位形成を抑制する観点からは、1×1018cm−3以下が良い。
【0050】
(製造方法)
本実施の形態1に係るHFET10の製造方法の一例について説明する。なお、原材料の流量、各層の厚さ、または成長温度等は例示であり、特に限定はされない。
【0051】
はじめに、シリコン基板11を設置した有機金属気相成長(MOCVD)装置内に、トリメチルガリウム(TMGa)とアンモニア(NH3)とを、それぞれ14μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度550℃で、シリコン基板11上に層厚30nmのGaNからなるバッファ層12をエピタキシャル成長させる。
【0052】
つぎに、Fe原料として、有機金属であるビスシクロペンタジエニル鉄(Cp2Fe)を用いて、TMGaとNH3とを、それぞれ58μmol/min、12L/minの流量で導入しながら、同時にCp2Feを流量10sccmで流して、成長温度1050℃にて、バッファ層12上に層厚700nmのGaNからなる電子走行層13をエピタキシャル成長させる。これによって、電子走行層13に2×1017cm−3の濃度のFeがドープされる。
【0053】
なお、Feの有機金属原料として、Cp2Feの他、ビスエチルシクロペンタジエニル鉄(EtCp2Fe)等の有機金属を用いても良い。
【0054】
つぎに、トリメチルアルミニウム(TMAl)とTMGaとNH3とを、それぞれ100μmol/min、19μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃にて、電子走行層13上に層厚30nmのAlGaNからなる電子供給層14をエピタキシャル成長させる。
【0055】
つぎに、電子供給層14上に、チタン(Ti)およびAlをこの順に蒸着して、オーミック電極としてのソース電極16およびドレイン電極17を形成する。つぎに、ソース電極16とドレイン電極17との間にNiおよびAuをこの順に蒸着して、ショットキー電極としてのゲート電極15を形成する。以上の製造方法によって、本実施の形態1に係るHFET10を製造することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態1に係るHFET10は、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0057】
(実施例1、比較例1)
本発明の実施例1として、上述した製造方法にて実施の形態1に係るHFET10の構造を有するHFETを製造した。なお、AlGaNからなる電子供給層のAl組成は、X線回折法による評価によれば0.23であった。また、HFETのサイズについては、ゲート長を2μm、ゲート幅を0.2mm、ソース・ドレイン間距離を15μmとした。また、比較例1として、電子走行層にFeをドープしない以外は、実施例1のHFETと同様の構造のHEFTを製造した。なお、比較例1のHEFTの製造工程においては、TMGaとNH3とを、それぞれ58μmol/min、12L/minの流量で導入して、成長温度1050℃にて、バッファ層上に層厚700nmのGaNからなる電子走行層をエピタキシャル成長させた。このようにして形成した電子走行層のGa空孔密度を陽電子消滅法により測定したところ、およそ1017〜1018cm−3程度であった。
【0058】
この実施例1のHFETの特性を測定したところ、2次元電子ガスの移動度は1100cm2/Vs、シートキャリア濃度は8´1012cm−2であった。また、比較例1のHFETの移動度およびシートキャリア濃度も実施例1のHFETと同程度であり、Feドープの有無に依存しなかった。
【0059】
つぎに、実施例1、比較例1のHFETに長期通電を行いながらリーク電流を測定した。通電は、ソース・ゲート間に−5Vを印加し、ソース・ドレイン間に300Vを印加した状態で行った。なお、通電温度は175℃とした。
【0060】
図11は、実施例1および比較例1のHFETのリーク電流の経時変化を示す図である。なお、リーク電流の値において、「E」は10のべき乗を表す記号であり、たとえば「1.0E−06」は「1.0×10−6」を意味する。図11に示すように、比較例1のHFETは、1000時間の通電によってリーク電流が1桁程度増加するのに対して、実施例1のHFETでは、1000時間の通電後もリーク電流の増加はほとんど見られなかった。この理由は、電子走行層を構成するGaN結晶中のGaサイトに置換したFe原子が、Ga格子間原子と結合した安定な複合体を形成し、Ga格子間原子が螺旋転位へ拡散することを抑制したからであると考えられる。
【0061】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2に係るHFETは、実施の形態1に係るHFETにおいて、電子走行層を、NiをドープしたGaNからなるものに置き換えたHFETである。
【0062】
本実施の形態2に係るHFETに通電を行なった際には、NiがGa格子間原子アンカーとして機能する。その結果、本実施の形態2に係るHFETは、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0063】
本実施の形態2に係るHFETを製造する場合は、上述した実施の形態1に係るHFET10の製造工程において、電子走行層をエピタキシャル成長する際に、TMGaおよびNH3に加え、Niを含む有機金属原料ガスを流す。なお、TMGaおよびNH3の流量等の成長条件はHFET10の場合と同じである。これによって、NiがドープされたGaNからなる電子走行層が形成される。
【0064】
Niを含む有機金属原料ガスとしては、アリルシクロペンタジエニルニッケル(AllylCpNi)を使用することができる。HFET10の場合と同じ流量のTMGaおよびNH3とともにAllylCpNiを流量10sccmで流すことによって、3×1017cm−3の濃度のNiを電子走行層にドープすることができる。なお、Niを含む有機金属原料ガスとしては、AllylCpNiの他にビスシクロペンタジエニルニッケル(Cp2Ni)やtetrakis(phosphorus trifluoride)Ni(Ni(PF3)4)などを用いることもできる。
【0065】
(実施例2)
本発明の実施例2として、実施の形態2に係るHFETの構造を有するHFETを製造した。なお、Niのドープ濃度は3×1017cm−3とした。そして、実施例2のHFETに実施例1と同じ条件にて長期通電を行いながらリーク電流を測定した。
【0066】
図12は、実施例1、2および比較例1のHFETのリーク電流の初期値(すなわち通電時間ゼロの状態のリーク電流)および1000時間通電後のリーク電流を示す図である。図12に示すように、Niをドープした実施例2のHFETでは、実施例1のHFETと同様に1000時間の通電後もリーク電流の増加は見られなかった。これは、ドープしたNi原子がGa格子間原子と複合体を形成し、Ga格子間原子が螺旋転位へ拡散することを阻止するためである。
【0067】
また、図12に示すように、実施例1、2のHFETのリーク電流の初期値は、比較例1のHFETのリーク電流の初期値の約1/2になっている。その理由は、実施例1、2のHFETでは、電子走行層において、ドープしたFeまたはNiの形成する深い準位が、GaN結晶中の残留キャリアを補償するため、FeまたはNiをドープしない場合よりも残留キャリアに起因するリーク電流が減少するためである。
【0068】
(FeとGa格子間原子が複合体を形成したことの検証)
ここで、GaN結晶中でFeとGa格子間原子とが複合体を形成していることの実証を、以下のようにメスバウアー分光法を用いて行った。メスバウアー分光法とは、原子核の共鳴励起現象を使って、特定の原子核周辺の電子構造や磁性についての測定を行うものである。メスバウアー分光法によれば、原子核のエネルギー準位が原子核周辺の局所的な電子構造や磁性を反映してシフトした様子や、縮退が解けて分裂した様子が精密に測定できる。メスバウアー分光法では、照射させるガンマ線のエネルギーシフト量に対応するドップラー速度の関数として、測定対象の共鳴吸収あるいは共鳴散乱の強度を測定することになる。ここでは、原子核位置での全電子密度に依存するアイソマー・シフトに着目する。そして、実施例1のHFETの通電前後のメスバウアースペクトルを測定した。
【0069】
図13は、ラジオアイソトープである57Coからの14.4keVのガンマ線を利用して測定した、実施例1のHFET中の57Fe(同位体存在率2.1%)のメスバウアースペクトルを示す図である。なお、図13(a)は製造直後で通電前の素子のメスバウアースペクトルを示す。図13(b)は100時間通電後の素子のメスバウアースペクトルを示す。なお、メスバウアー分光は高感度なため、同位体存在率が低くても信号を検出することが可能である。また、本測定では、ガンマ線の検出はNaI(Tl)シンチレーションカウンタとGe検出器を用いた。
【0070】
ここで、ドップラー速度が0mm/s付近のピーク(図13(a)中のピークP1)はGaサイトに置換した単体のFeに起因するピークである。また、ドップラー速度が0.5mm/s付近のピーク(図13(a)中のピークP2)は、Gaサイトに置換したFeとGa格子間原子との複合体に起因するピークである。図13(a)、(b)を比較すると、通電前の素子では、単体のFeに起因するピークが支配的であるが、100時間通電後の素子では、FeとGa格子間原子の複合体に起因するピークが支配的となっている。このメスバウアースペクトルの変化は、通電前にはFeとGa格子間原子とが独立に存在しているが、通電後には、通電時の熱および電圧ストレスにより拡散を開始したGa格子間原子がFeに捕獲され、複合体を形成したことを示している。
【0071】
なお、ここでは、FeとGa格子間原子との複合体の検出法について述べたが、Niについては、64Niに22MeVのエネルギーを持つ陽子線を照射して作製した61Coをガンマ線源(エネルギー67.4keV)としたメスバウアー分光法から、GaN結晶中の61Ni(同位体存在率0.9%)とGa格子間原子とが複合体を形成しているかどうかを検証できる。
【0072】
ところで、図9に示すように、FeおよびNiは比較的低い凝集エネルギーを持つため、GaN中への固溶が容易である。したがって、FeおよびNiは、拡散によるドープが可能である。以下では、本発明の実施の形態3として、電子走行層に拡散によってFeをドープしたHFETについて説明する。
【0073】
(実施の形態3)
図14は、実施の形態3に係るHFETの模式的な断面図である。図14に示すように、このHFET20は、シリコン基板11と、シリコン基板上に順次形成された、GaNからなるバッファ層12、拡散によりFeをドープしたGaNからなる電子走行層23、およびAlGaNからなる電子供給層14と、電子供給層14上に形成されたゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17とを備えている。すなわち、このHFET20は、実施の形態1に係るHFET10において、電子走行層13を、拡散によりFeをドープしたGaNからなる電子走行層23に置き換えたHFETである。
【0074】
図14において、プロファイルPは電子走行層23におけるFeの濃度分布を示している。プロファイルPが示すように、Feは電子走行層23の厚さ方向中央部付近に濃度のピークを有するように分布している。
【0075】
このHFET20に通電を行なった際には、FeがGa格子間原子アンカーとして機能するので、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0076】
つぎに、本実施の形態3に係るHFET20の製造方法の一例について説明する。図15は、図14に示すHFET20の製造工程の一例を示す図である。まず、実施の形態1に係るHFET10の製造工程と同様にシリコン基板11上にバッファ層12をエピタキシャル成長させ、次いで電子走行層23の一部となる層厚400nmのGaN層23aをエピタキシャル成長させる(図15(a))。
【0077】
つぎに、GaN層23aを形成したエピタキシャル基板をMOCVD装置から取り出し、スパッタ装置に導入する。そして、ターゲットとしてFe(純度99.99%)を使用し、チャンバ圧力0.5〜2Pa、パワー30〜100Wにて、GaN層23a上にFe膜M1を100nmの厚さで高周波スパッタにより形成する(図15(b))。
【0078】
Fe膜M1の形成後、純度99.9999%のアルゴン雰囲気中で500〜700℃の温度で1時間熱処理し、FeをGaN層23aに拡散させる。熱処理後、1.0規定の塩酸でGaN層23aの表面に残留するFe膜M1を取り除く(図15(c))。
【0079】
その後、エピタキシャル基板をMOCVD装置に戻し、GaN層をさらに層厚300nmだけエピタキシャル成長させて電子走行層23を形成し、さらに電子供給層14を形成する(図15(d))。ここで、GaN層の成長時にエピタキシャル基板は1050℃まで加熱されるため、GaN層23aに拡散させたFe原子は、GaN層の成長にしたがって表面側および裏面側に向かって拡散する。これによって電子走行層23全体に亘ってFeをドープすることができる。エピタキシャル成長終了後は、実施の形態1と同様に各電極を形成する。以上の製造方法によって、本実施の形態3に係るHFET20を製造することができる。なお、上記の製造方法によって本実施の形態3に係るHFETの構造のHFETを製造し、これに実施例1と同じ条件にて長期通電を行いながらリーク電流を測定したところ、リーク電流の増加は見られなかった。
【0080】
上記本実施の形態3に係るHFETでは拡散によりFeをドープしたが、Niも同様にしてドープが可能である。拡散によりNiをドープして製造したHFETについても、長期通電によるリーク電流の増加はないものとなる。
【0081】
なお、上記実施の形態は、異種基板であるシリコン基板上に形成したAlGaN/GaN−HFETであるが、使用する異種基板としては特に限定されず、サファイア、炭化珪素(SiC)、酸化亜鉛(ZnO)等を使用しても同様の効果が得られる。また、上記実施の形態では、ドープするGa格子間原子アンカーは、FeまたはNiであるが、FeとNiとを共にドープしてもよい。また、上記各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれるものである。
【0082】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、HFETに限定されず様々な素子とすることができ、たとえばショットキーバリアダイオードやMOSFETでもよい。本発明に係る窒化物系化合物半導体素子においては、基板と素子動作領域との間に位置し、リークパスが形成される可能性がある窒化物系化合物半導体層に、Ga格子間原子アンカーとして機能するFe等を添加することが好ましい。また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、GaNに限らず、Al原子、Ga原子、インジウム(In)原子およびB原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であれば良い。
【符号の説明】
【0083】
10、20 HFET
11 シリコン基板
12 バッファ層
13、23 電子走行層
14 電子供給層
15 ゲート電極
16 ソース電極
17 ドレイン電極
23a GaN層
M1 Fe膜
P プロファイル
P1、P2 ピーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物系化合物半導体、たとえば窒化ガリウム(GaN)系半導体は、シリコン系材料に比べてバンドギャップエネルギーが大きく絶縁破壊電圧が大きいため、これを用いて高温環境下においても動作する高耐圧の半導体素子を作製することが可能である。このため、GaN系半導体はシリコン系材料に代わるインバーターやコンバーター等のパワーデバイスの材料として期待されている。
【0003】
パワーデバイスにとって、高いオフ耐圧は、トランジスタの最大出力を決める重要なパラメータである。高いオフ耐圧を得るためには、高いバッファ耐圧の実現、すなわち漏れ電流(リーク電流)の低減が必要になる。
【0004】
GaN系半導体は、通常はGaN系半導体とは異なる材料から成る基板上にヘテロエピタキシャル成長するため、窒素空孔などの点欠陥や転位をはじめとする格子欠陥を多数含むという課題がある。特に、シリコン基板を成長基板に用いた場合、GaNとシリコンの格子定数差(〜17%)、熱膨張係数差(〜56%)が大きいため、1010cm−2を超える高密度の転位が導入される場合がある。このように高密度の転位が導入されたGaN系半導体素子はリーク電流が大きくなり、耐圧性が低くなる。
【0005】
高耐圧化のためには、基板直上に形成するバッファ層を高抵抗化する方法がある。バッファ層の高抵抗化には、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いる場合に、原料である有機金属に含まれる炭素を添加剤とするオートドーピング法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−251144号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.E.Northrup, Appl. Phys. Lett., vol.78, p.2200(2001).
【非特許文献2】J.W.P.Hsu, M.J.Manfra, R.J.Molnar, B.Heying, and J.S.Spec, Appl. Phys. Lett., vol.81, p.79(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、素子の信頼性の観点から、リーク電流は素子の使用開始時だけでなく、1000時間を越えるような長期に亘る通電後においても、増加しない必要がある。しかしながら、特許文献1に開示させるような、炭素をドーピングし、バッファ層の高抵抗化を行った素子においては、素子の通電開始後のリーク電流(リーク電流の初期値)は所望の値以下であったとしても、長期通電後にはリーク電流が増加するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、長期信頼性が高い窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子およびボロン原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であって、添加物としてドープした金属原子とガリウム格子間原子とが複合体を形成していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物は鉄またはニッケルであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物のドープ濃度は、前記ガリウム格子間原子の濃度と同程度であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物のドープ濃度は、5×1016cm−3〜5×1018cm−3であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、前記添加物のドープ濃度は、1×1017cm−3〜1×1018cm−3であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、上記の発明において、窒化ガリウムであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、上記の発明において、上記の発明のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板と、前記基板上にエピタキシャル成長した、前記窒化物系化合物半導体からなる半導体層とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、上記の発明において、前記基板はシリコン、サファイア、炭化珪素または酸化亜鉛からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長期通電後においてもリーク電流の増加を抑制できるので、長期信頼性が高い窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、螺旋転位のGaリッチな転位芯構造を示す模式図である。
【図2】図2は、図1の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。
【図3】図3は、螺旋転位のオープンコアな転位芯構造を示す模式図である。
【図4】図4は、図3の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。
【図5】図5は、転位芯近傍におけるGa原子の挙動を説明する模式図である。
【図6】図6は、転位芯近傍におけるGa原子の挙動を説明する模式図である。
【図7】図7は、図5(b)の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。
【図8】図8は、GaN結晶中のGa格子間原子と不純物原子との結合エネルギーの計算結果を示す図である。
【図9】図9は、GaN結晶に不純物原子をドープしたときの原子数当たりの凝集エネルギーを示す図である。
【図10】図10は、実施の形態1に係る窒化物系化合物半導体素子であるHFETの模式的な断面図である。
【図11】図11は、実施例1および比較例1のHFETのリーク電流の経時変化を示す図である。
【図12】図12は、実施例1、2および比較例1のHFETのリーク電流の初期値および1000時間通電後のリーク電流を示す図である。
【図13】図13は、実施例1のHFET中の57Feのメスバウアースペクトルを示す図である。
【図14】図14は、実施の形態3に係るHFETの模式的な断面図である。
【図15】図15は、図14に示すHFETの製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、本発明者が、窒化物系化合物半導体素子に長期通電を行なった際に生じるリーク電流の増加のメカニズムを再考し、これによって得た知見によって、リーク電流の増加を抑制する方法に想到し、完成したものである。
【0021】
以下では、はじめに、本発明者が行なったリーク電流の増加のメカニズムの考察について説明する。次いで、これによって得た知見によって完成した本発明について、その実施の形態により説明する。
【0022】
<第一原理電子状態計算による特性予測>
(リーク電流の初期値に関する知見)
窒化物系化合物半導体におけるリーク電流の発生は、窒化物系化合物半導体の結晶中に存在する「螺旋転位」の転位線に沿った電流経路(リークパス)の形成に起因するものであると考えられる。その理由は、第一原理電子状態計算結果から予測されるように(非特許文献1参照)、Gaリッチな螺旋転位芯は、バンドギャップ間に多数の準位を持つため、高い電圧を印加したときに電流が流れるためである。
【0023】
また、電流AFM(原子間力顕微鏡)の観察において、螺旋転位上で逆方向バイアスをかけた場合のリーク電流の増加が観察されており(非特許文献2参照)、非特許文献1の予測を裏付けている。
【0024】
しかしながら、これら2つの文献では、特定の窒化物系化合物半導体におけるリーク電流の初期値の大小関係については説明できるものの、長期通電によるリーク電流増加に関する知見は何ら与えられない。
【0025】
(螺旋転位の電子状態計算)
そこで、本発明者は、リーク電流増加のメカニズムを解明するため、GaNの結晶について、以下のような計算を行った。
【0026】
計算1:Gaリッチな螺旋転位の電子状態とオープンコアな螺旋転位の電子状態との比較
以下、計算1について説明する。
GaN中の螺旋転位の転位芯構造は、大きく分けて、Gaリッチな(転位芯におけるGa原子の含有量が50質量%以上)構造と、オープンコアと呼ばれる転位芯の原子が欠損している構造とがある。本計算1では、それぞれの構造について、局所密度近似に基づいた第一原理電子状態計算(シミュレーション)を行った。
【0027】
なお、このシミュレーションには、アドバンスソフト株式会社製のAdvance/PHASEを用いた。また、計算には、Vanderbilt型のウルトラソフト擬ポテンシャルを用いた。また、交換相互作用は、一般化勾配近似の範囲で計算した。計算では、スピンを考慮した。さらに、計算条件は、以下の条件で行った。
・カットオフエネルギー:波動関数および電荷密度分布で、それぞれ25Ryおよび230Ry
・k点サンプル:3×3×2
・計算したバンド数:228
【0028】
図1は、螺旋転位のGaリッチな転位芯構造を示す模式図である。図2は、図1の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度(DOS:density of states)を示す図である。また、図3は、螺旋転位のオープンコアな転位芯構造を示す模式図である。図4は、図3の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度(DOS)を示す図である。なお、図2、4において、横軸は電子のエネルギーを示し、エネルギーが0の位置は、フェルミ準位を示している。また、DOSの符号が正のものはスピン上向きの状態密度を示し、負のものはスピン下向きの状態密度を示す。
【0029】
図1、2に示すように、Gaリッチな螺旋転位は、横軸のおよそ−2〜+1.6電子ボルト(eV)に存在するバンドギャップ内に離散的なエネルギー準位を持っている。すなわち、Gaリッチな螺旋転位は、これらのバンドギャップ内のエネルギー準位が存在するために、リークパスになる可能性があることを示している。この結果は、非特許文献1および非特許文献2に示された結果に一致する。
【0030】
これに対して、図3、4に示すように、オープンコアな螺旋転位は、横軸のおよそ0〜+3eVにエネルギー準位を持たない。すなわち、オープンコアな螺旋転位は、リークパスとはならないことを示している。
【0031】
これらの結果は、Gaリッチな螺旋転位は、リークパスになる可能性があり、オープンコアな螺旋転位は、リークパスとはならないことを示している。
【0032】
本発明者は、これらの結果から、結晶に含まれるオープンコアな螺旋転位が、通電によって、Gaリッチな螺旋転位に変化し、リーク電流が増加すると推測した。そこで、次のような計算を行なった。
計算2:Ga格子間原子の吸収によるオープンコアな螺旋転位の「Gaリッチ」化の確認
【0033】
以下、計算2について説明する。
オープンコアな螺旋転位のGaリッチ化(導電化)の原因として、Ga格子間原子の螺旋転位芯への吸収が考えられる。このことを検証するため、転位芯近傍に配置されたGa原子の挙動を分子動力学計算で確認した。なお、安定な原子配置の計算はquenched MD法を用いて行い、1ステップを1.2フェムト秒として計算した。
【0034】
図5、6は、上記の計算結果に基づき、転位芯近傍におけるGa原子の挙動を説明する模式図である。
【0035】
まず、図5(a)に示すように、安定構造を持つオープンコアな螺旋転位芯の近傍(〜0.15nm)に、Ga原子(図中黒丸で示す)を配置する。すると、図5(b)に示すように、このGa原子は、オープンコアな螺旋転位の転位芯に吸収される(図中斜線を付した丸で示す)。
【0036】
つぎに、図6(a)に示すように、安定構造を持つGaリッチな螺旋転位芯に在るGa原子(図中黒丸で示す)を僅か(〜0.1nm)に転位芯の外側へずらしたとき、このGa原子は転位芯に吸収される。更に、螺旋転位芯の近傍に存在するGa格子間原子は、同様に吸収され、図6(b)に示すように転位芯に過剰にGa原子が存在するようになる(図中破線領域で示す)。
【0037】
なお、図7は、図5(b)の転位芯構造を原子モデルとして用いて計算した電子の状態密度を示す図である。図7に示すように、図5(b)の転位芯構造、すなわち、オープンコアな螺旋転位の転位芯にGa原子が吸収された構造では、バンドギャップ間に複数のエネルギー準位を持つことが分かる。
【0038】
これらの計算結果から、拡散(熱的なものだけでなく電界で促進される現象を含む)によって転位芯近傍に到達したGa格子間原子は、転位芯に吸収されると結論できる。すなわち、電気的に中性であるオープンコアな螺旋転位芯構造を持つ螺旋転位も、Ga原子を吸収することで電気的に活性化することを意味している。また、Gaリッチな螺旋転位芯に吸収されたGa格子間原子は、その安定位置から0.1nm程度ずらしても、元の位置に戻ることも示された。
【0039】
以上の結果は、螺旋転位の転位芯には電気的に活性な構造(Gaリッチ)と電気的に不活性な構造(オープンコア)があり、通電により、GaN結晶中に残留するGa格子間原子が拡散し、電気的に不活性なオープンコアな螺旋転位に吸収されて電気的に活性なGaリッチな螺旋転位に変化し、リーク電流が増大することを示唆している。すなわち、通電によるリーク電流の増加は、GaN結晶中に残留するGa格子間原子が起源になっていると考えることができる。また、Ga原子を吸収した螺旋転位はそのGa原子を吸収した状態が安定であるため、リーク電流の増加は不可逆な現象であると考えられる。
【0040】
以上の結果より、本発明者は、Ga格子間原子の螺旋転位芯への移動を抑制すれば、長期通電によるリーク電流の増加を抑制することができることを見出した。そして、たとえばGaN結晶中のGa格子間原子の拡散を抑制するためには、Ga格子間原子の自己拡散エネルギーよりも大きな結合エネルギーを持つ元素をGaN結晶中にドープすればよいことに想到した。
【0041】
(Ga格子間原子の拡散を抑制する元素)
以下では、Ga格子間原子の拡散を抑制する元素を「Ga格子間原子アンカー」と名付け、Ga格子間原子アンカーとなり得る元素を第一原理電子状態計算から確認した。ここで、Ga格子間原子アンカーの条件は、上に述べたようにGa格子間原子との結合エネルギーが大きいことである。さらに、Ga格子間原子アンカーは、溶質原子としてGaN結晶中に安定的に存在することが重要であり、不純物原子を含まない系の凝集エネルギーより低い凝集エネルギーを持たなければならない。
【0042】
なお、この計算は、螺旋転位の電子状態計算と同様に、アドバンスソフト株式会社製のAdvance/PHASEを用いた。また、主な計算条件は、以下の通りである。
・原子モデル:33原子(Ga16個、窒素16個、不純物原子1個)からなるスーパーセル
・カットオフエネルギー:波動函数および電荷密度分布で、それぞれ25Ryおよび230Ry
・k点サンプル:3×3×4
・計算したバンド数:100
【0043】
図8は、GaN結晶中のGa格子間原子と不純物原子との結合エネルギーの計算結果を示す図である。なお、図中太い破線は、第一原理電子状態計算により計算した、Ga格子間原子の拡散の活性化エネルギーである。ここで、太い破線よりも高い結合エネルギーを持つ不純物原子が、Ga格子間原子アンカーとして働き得る。すなわち、太い破線よりも高い結合エネルギーを持つ不純物原子は、Ga格子間原子と結合した複合体を形成し安定化する。その結果、Ga格子間原子の拡散は抑制される。
【0044】
図9は、GaN結晶に不純物原子をドープしたときの原子数当たりの凝集エネルギーを示す図である。なお、図中太い破線は、不純物原子を含まない系(GaN結晶)の凝集エネルギーを示す。ここで、太い破線と同程度か低い凝集エネルギーを持つ不純物原子が、GaN結晶に安定的に固溶し、存在することができる。
【0045】
図8および図9の計算結果は、リチウム(Li)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)および金(Au)がGa格子間原子アンカーとして有効に機能することを示している。本発明者は、以上の結果より、窒化物系化合物半導体の結晶中にこれらのGa格子間原子アンカーをドープすることによって、長期通電によるリーク電流の増加を抑制することができることに想到したのである。
【0046】
<実施の形態>
以下に、図面を参照して本発明に係る窒化物系化合物半導体および窒化物系化合物半導体素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面においては、同一または対応する要素には適宜同一符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各層の厚さや厚さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0047】
(実施の形態1)
図10は、本発明の実施の形態1に係る窒化物系化合物半導体素子である異種接合電界効果トランジスタ(Heterojunction field effect transistor:HFET)の模式的な断面図である。このHFET10は、窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板である主表面が(111)面のシリコン基板11と、シリコン基板11上に順次形成された、GaNからなるバッファ層12、FeをドープしたGaNからなる電子走行層13、およびAlGaNからなる電子供給層14と、電子供給層14上に形成されたゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17とを備えている。すなわち、このHFET10は、AlGaN/GaNのヘテロ接合を有するAlGaN/GaN−HFETである。なお、電子走行層13および電子供給層14は、p型またはn型不純物を意図的にドープしていないが、適宜ドープしてもよい。
【0048】
このHFET10は、電子走行層13にFeをドープしている。したがって、このHFET10に通電を行なった際には、このFeがGa格子間原子と結合した複合体を形成してGa格子間原子アンカーとして機能する。これによって長期通電を行っても、ソース電極16またはドレイン電極17からシリコン基板11側へリークパスが形成されることが抑制される。その結果、このHFET10は、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0049】
なお、Feのドープ濃度は、電子走行層13を構成するGaN結晶中のGa格子間原子濃度と同程度であることが望ましい。ここで、後述するように、所定の条件にてFeをドープしないGaN結晶をエピタキシャル成長し、GaN結晶中のGa空孔密度を陽電子消滅法により測定したところ、1017〜1018cm−3であった。この場合、Feのドープ濃度は、5×1016〜5×1018cm−3であることが望ましい。さらに、Feのドープ濃度は、Ga格子間原子と確実に結合するという観点からは、1×1017cm−3以上が良く、不純物ドープによる深い準位形成を抑制する観点からは、1×1018cm−3以下が良い。
【0050】
(製造方法)
本実施の形態1に係るHFET10の製造方法の一例について説明する。なお、原材料の流量、各層の厚さ、または成長温度等は例示であり、特に限定はされない。
【0051】
はじめに、シリコン基板11を設置した有機金属気相成長(MOCVD)装置内に、トリメチルガリウム(TMGa)とアンモニア(NH3)とを、それぞれ14μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度550℃で、シリコン基板11上に層厚30nmのGaNからなるバッファ層12をエピタキシャル成長させる。
【0052】
つぎに、Fe原料として、有機金属であるビスシクロペンタジエニル鉄(Cp2Fe)を用いて、TMGaとNH3とを、それぞれ58μmol/min、12L/minの流量で導入しながら、同時にCp2Feを流量10sccmで流して、成長温度1050℃にて、バッファ層12上に層厚700nmのGaNからなる電子走行層13をエピタキシャル成長させる。これによって、電子走行層13に2×1017cm−3の濃度のFeがドープされる。
【0053】
なお、Feの有機金属原料として、Cp2Feの他、ビスエチルシクロペンタジエニル鉄(EtCp2Fe)等の有機金属を用いても良い。
【0054】
つぎに、トリメチルアルミニウム(TMAl)とTMGaとNH3とを、それぞれ100μmol/min、19μmol/min、12L/minの流量で導入し、成長温度1050℃にて、電子走行層13上に層厚30nmのAlGaNからなる電子供給層14をエピタキシャル成長させる。
【0055】
つぎに、電子供給層14上に、チタン(Ti)およびAlをこの順に蒸着して、オーミック電極としてのソース電極16およびドレイン電極17を形成する。つぎに、ソース電極16とドレイン電極17との間にNiおよびAuをこの順に蒸着して、ショットキー電極としてのゲート電極15を形成する。以上の製造方法によって、本実施の形態1に係るHFET10を製造することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態1に係るHFET10は、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0057】
(実施例1、比較例1)
本発明の実施例1として、上述した製造方法にて実施の形態1に係るHFET10の構造を有するHFETを製造した。なお、AlGaNからなる電子供給層のAl組成は、X線回折法による評価によれば0.23であった。また、HFETのサイズについては、ゲート長を2μm、ゲート幅を0.2mm、ソース・ドレイン間距離を15μmとした。また、比較例1として、電子走行層にFeをドープしない以外は、実施例1のHFETと同様の構造のHEFTを製造した。なお、比較例1のHEFTの製造工程においては、TMGaとNH3とを、それぞれ58μmol/min、12L/minの流量で導入して、成長温度1050℃にて、バッファ層上に層厚700nmのGaNからなる電子走行層をエピタキシャル成長させた。このようにして形成した電子走行層のGa空孔密度を陽電子消滅法により測定したところ、およそ1017〜1018cm−3程度であった。
【0058】
この実施例1のHFETの特性を測定したところ、2次元電子ガスの移動度は1100cm2/Vs、シートキャリア濃度は8´1012cm−2であった。また、比較例1のHFETの移動度およびシートキャリア濃度も実施例1のHFETと同程度であり、Feドープの有無に依存しなかった。
【0059】
つぎに、実施例1、比較例1のHFETに長期通電を行いながらリーク電流を測定した。通電は、ソース・ゲート間に−5Vを印加し、ソース・ドレイン間に300Vを印加した状態で行った。なお、通電温度は175℃とした。
【0060】
図11は、実施例1および比較例1のHFETのリーク電流の経時変化を示す図である。なお、リーク電流の値において、「E」は10のべき乗を表す記号であり、たとえば「1.0E−06」は「1.0×10−6」を意味する。図11に示すように、比較例1のHFETは、1000時間の通電によってリーク電流が1桁程度増加するのに対して、実施例1のHFETでは、1000時間の通電後もリーク電流の増加はほとんど見られなかった。この理由は、電子走行層を構成するGaN結晶中のGaサイトに置換したFe原子が、Ga格子間原子と結合した安定な複合体を形成し、Ga格子間原子が螺旋転位へ拡散することを抑制したからであると考えられる。
【0061】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2に係るHFETは、実施の形態1に係るHFETにおいて、電子走行層を、NiをドープしたGaNからなるものに置き換えたHFETである。
【0062】
本実施の形態2に係るHFETに通電を行なった際には、NiがGa格子間原子アンカーとして機能する。その結果、本実施の形態2に係るHFETは、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0063】
本実施の形態2に係るHFETを製造する場合は、上述した実施の形態1に係るHFET10の製造工程において、電子走行層をエピタキシャル成長する際に、TMGaおよびNH3に加え、Niを含む有機金属原料ガスを流す。なお、TMGaおよびNH3の流量等の成長条件はHFET10の場合と同じである。これによって、NiがドープされたGaNからなる電子走行層が形成される。
【0064】
Niを含む有機金属原料ガスとしては、アリルシクロペンタジエニルニッケル(AllylCpNi)を使用することができる。HFET10の場合と同じ流量のTMGaおよびNH3とともにAllylCpNiを流量10sccmで流すことによって、3×1017cm−3の濃度のNiを電子走行層にドープすることができる。なお、Niを含む有機金属原料ガスとしては、AllylCpNiの他にビスシクロペンタジエニルニッケル(Cp2Ni)やtetrakis(phosphorus trifluoride)Ni(Ni(PF3)4)などを用いることもできる。
【0065】
(実施例2)
本発明の実施例2として、実施の形態2に係るHFETの構造を有するHFETを製造した。なお、Niのドープ濃度は3×1017cm−3とした。そして、実施例2のHFETに実施例1と同じ条件にて長期通電を行いながらリーク電流を測定した。
【0066】
図12は、実施例1、2および比較例1のHFETのリーク電流の初期値(すなわち通電時間ゼロの状態のリーク電流)および1000時間通電後のリーク電流を示す図である。図12に示すように、Niをドープした実施例2のHFETでは、実施例1のHFETと同様に1000時間の通電後もリーク電流の増加は見られなかった。これは、ドープしたNi原子がGa格子間原子と複合体を形成し、Ga格子間原子が螺旋転位へ拡散することを阻止するためである。
【0067】
また、図12に示すように、実施例1、2のHFETのリーク電流の初期値は、比較例1のHFETのリーク電流の初期値の約1/2になっている。その理由は、実施例1、2のHFETでは、電子走行層において、ドープしたFeまたはNiの形成する深い準位が、GaN結晶中の残留キャリアを補償するため、FeまたはNiをドープしない場合よりも残留キャリアに起因するリーク電流が減少するためである。
【0068】
(FeとGa格子間原子が複合体を形成したことの検証)
ここで、GaN結晶中でFeとGa格子間原子とが複合体を形成していることの実証を、以下のようにメスバウアー分光法を用いて行った。メスバウアー分光法とは、原子核の共鳴励起現象を使って、特定の原子核周辺の電子構造や磁性についての測定を行うものである。メスバウアー分光法によれば、原子核のエネルギー準位が原子核周辺の局所的な電子構造や磁性を反映してシフトした様子や、縮退が解けて分裂した様子が精密に測定できる。メスバウアー分光法では、照射させるガンマ線のエネルギーシフト量に対応するドップラー速度の関数として、測定対象の共鳴吸収あるいは共鳴散乱の強度を測定することになる。ここでは、原子核位置での全電子密度に依存するアイソマー・シフトに着目する。そして、実施例1のHFETの通電前後のメスバウアースペクトルを測定した。
【0069】
図13は、ラジオアイソトープである57Coからの14.4keVのガンマ線を利用して測定した、実施例1のHFET中の57Fe(同位体存在率2.1%)のメスバウアースペクトルを示す図である。なお、図13(a)は製造直後で通電前の素子のメスバウアースペクトルを示す。図13(b)は100時間通電後の素子のメスバウアースペクトルを示す。なお、メスバウアー分光は高感度なため、同位体存在率が低くても信号を検出することが可能である。また、本測定では、ガンマ線の検出はNaI(Tl)シンチレーションカウンタとGe検出器を用いた。
【0070】
ここで、ドップラー速度が0mm/s付近のピーク(図13(a)中のピークP1)はGaサイトに置換した単体のFeに起因するピークである。また、ドップラー速度が0.5mm/s付近のピーク(図13(a)中のピークP2)は、Gaサイトに置換したFeとGa格子間原子との複合体に起因するピークである。図13(a)、(b)を比較すると、通電前の素子では、単体のFeに起因するピークが支配的であるが、100時間通電後の素子では、FeとGa格子間原子の複合体に起因するピークが支配的となっている。このメスバウアースペクトルの変化は、通電前にはFeとGa格子間原子とが独立に存在しているが、通電後には、通電時の熱および電圧ストレスにより拡散を開始したGa格子間原子がFeに捕獲され、複合体を形成したことを示している。
【0071】
なお、ここでは、FeとGa格子間原子との複合体の検出法について述べたが、Niについては、64Niに22MeVのエネルギーを持つ陽子線を照射して作製した61Coをガンマ線源(エネルギー67.4keV)としたメスバウアー分光法から、GaN結晶中の61Ni(同位体存在率0.9%)とGa格子間原子とが複合体を形成しているかどうかを検証できる。
【0072】
ところで、図9に示すように、FeおよびNiは比較的低い凝集エネルギーを持つため、GaN中への固溶が容易である。したがって、FeおよびNiは、拡散によるドープが可能である。以下では、本発明の実施の形態3として、電子走行層に拡散によってFeをドープしたHFETについて説明する。
【0073】
(実施の形態3)
図14は、実施の形態3に係るHFETの模式的な断面図である。図14に示すように、このHFET20は、シリコン基板11と、シリコン基板上に順次形成された、GaNからなるバッファ層12、拡散によりFeをドープしたGaNからなる電子走行層23、およびAlGaNからなる電子供給層14と、電子供給層14上に形成されたゲート電極15、ソース電極16、ドレイン電極17とを備えている。すなわち、このHFET20は、実施の形態1に係るHFET10において、電子走行層13を、拡散によりFeをドープしたGaNからなる電子走行層23に置き換えたHFETである。
【0074】
図14において、プロファイルPは電子走行層23におけるFeの濃度分布を示している。プロファイルPが示すように、Feは電子走行層23の厚さ方向中央部付近に濃度のピークを有するように分布している。
【0075】
このHFET20に通電を行なった際には、FeがGa格子間原子アンカーとして機能するので、長期通電によるリーク電流の増加が抑制されたものとなる。
【0076】
つぎに、本実施の形態3に係るHFET20の製造方法の一例について説明する。図15は、図14に示すHFET20の製造工程の一例を示す図である。まず、実施の形態1に係るHFET10の製造工程と同様にシリコン基板11上にバッファ層12をエピタキシャル成長させ、次いで電子走行層23の一部となる層厚400nmのGaN層23aをエピタキシャル成長させる(図15(a))。
【0077】
つぎに、GaN層23aを形成したエピタキシャル基板をMOCVD装置から取り出し、スパッタ装置に導入する。そして、ターゲットとしてFe(純度99.99%)を使用し、チャンバ圧力0.5〜2Pa、パワー30〜100Wにて、GaN層23a上にFe膜M1を100nmの厚さで高周波スパッタにより形成する(図15(b))。
【0078】
Fe膜M1の形成後、純度99.9999%のアルゴン雰囲気中で500〜700℃の温度で1時間熱処理し、FeをGaN層23aに拡散させる。熱処理後、1.0規定の塩酸でGaN層23aの表面に残留するFe膜M1を取り除く(図15(c))。
【0079】
その後、エピタキシャル基板をMOCVD装置に戻し、GaN層をさらに層厚300nmだけエピタキシャル成長させて電子走行層23を形成し、さらに電子供給層14を形成する(図15(d))。ここで、GaN層の成長時にエピタキシャル基板は1050℃まで加熱されるため、GaN層23aに拡散させたFe原子は、GaN層の成長にしたがって表面側および裏面側に向かって拡散する。これによって電子走行層23全体に亘ってFeをドープすることができる。エピタキシャル成長終了後は、実施の形態1と同様に各電極を形成する。以上の製造方法によって、本実施の形態3に係るHFET20を製造することができる。なお、上記の製造方法によって本実施の形態3に係るHFETの構造のHFETを製造し、これに実施例1と同じ条件にて長期通電を行いながらリーク電流を測定したところ、リーク電流の増加は見られなかった。
【0080】
上記本実施の形態3に係るHFETでは拡散によりFeをドープしたが、Niも同様にしてドープが可能である。拡散によりNiをドープして製造したHFETについても、長期通電によるリーク電流の増加はないものとなる。
【0081】
なお、上記実施の形態は、異種基板であるシリコン基板上に形成したAlGaN/GaN−HFETであるが、使用する異種基板としては特に限定されず、サファイア、炭化珪素(SiC)、酸化亜鉛(ZnO)等を使用しても同様の効果が得られる。また、上記実施の形態では、ドープするGa格子間原子アンカーは、FeまたはNiであるが、FeとNiとを共にドープしてもよい。また、上記各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれるものである。
【0082】
また、本発明に係る窒化物系化合物半導体素子は、HFETに限定されず様々な素子とすることができ、たとえばショットキーバリアダイオードやMOSFETでもよい。本発明に係る窒化物系化合物半導体素子においては、基板と素子動作領域との間に位置し、リークパスが形成される可能性がある窒化物系化合物半導体層に、Ga格子間原子アンカーとして機能するFe等を添加することが好ましい。また、本発明に係る窒化物系化合物半導体は、GaNに限らず、Al原子、Ga原子、インジウム(In)原子およびB原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であれば良い。
【符号の説明】
【0083】
10、20 HFET
11 シリコン基板
12 バッファ層
13、23 電子走行層
14 電子供給層
15 ゲート電極
16 ソース電極
17 ドレイン電極
23a GaN層
M1 Fe膜
P プロファイル
P1、P2 ピーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子およびボロン原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であって、
添加物としてドープした金属原子とガリウム格子間原子とが複合体を形成していることを特徴とする窒化物系化合物半導体。
【請求項2】
前記添加物は鉄またはニッケルであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項3】
前記添加物のドープ濃度は、前記ガリウム格子間原子の濃度と同程度であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項4】
前記添加物のドープ濃度は、5×1016cm−3〜5×1018cm−3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項5】
前記添加物のドープ濃度は、1×1017cm−3〜1×1018cm−3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項6】
窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板と、前記基板上にエピタキシャル成長した、前記窒化物系化合物半導体からなる半導体層とを有することを特徴とする窒化物系化合物半導体素子。
【請求項8】
前記基板はシリコン、サファイア、炭化珪素または酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項7に記載の窒化物系化合物半導体素子。
【請求項1】
アルミニウム原子、ガリウム原子、インジウム原子およびボロン原子から選択される1以上のIII族原子と、窒素原子とを含む窒化物系化合物半導体であって、
添加物としてドープした金属原子とガリウム格子間原子とが複合体を形成していることを特徴とする窒化物系化合物半導体。
【請求項2】
前記添加物は鉄またはニッケルであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項3】
前記添加物のドープ濃度は、前記ガリウム格子間原子の濃度と同程度であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項4】
前記添加物のドープ濃度は、5×1016cm−3〜5×1018cm−3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項5】
前記添加物のドープ濃度は、1×1017cm−3〜1×1018cm−3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項6】
窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の窒化物系化合物半導体とは異なる材料からなる基板と、前記基板上にエピタキシャル成長した、前記窒化物系化合物半導体からなる半導体層とを有することを特徴とする窒化物系化合物半導体素子。
【請求項8】
前記基板はシリコン、サファイア、炭化珪素または酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項7に記載の窒化物系化合物半導体素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−49464(P2012−49464A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192553(P2010−192553)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(510035842)次世代パワーデバイス技術研究組合 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(510035842)次世代パワーデバイス技術研究組合 (46)
【Fターム(参考)】
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