説明

車両、車両の制御装置および車両の制御方法

【課題】駆動装置の保護と駆動要求の達成とが両立された車両を提供する。
【解決手段】車両1は、車輪38に駆動力を与える駆動装置11と、車輪38に制動力を与える制動装置88と、駆動装置11と制動装置88を制御する制御装置50とを備える。制御装置50は、車両1の進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置11で発生させても駆動装置11が動作禁止領域で動作しないときには、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置11で発生させる。制御装置は、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、駆動力要求(Acc)に応じて制動装置88を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両、車両の制御装置および車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する動力分割機構と、その動力分割機構の出力軸と駆動輪との間に設けられた第2電動機とを、備えたハイブリッド車両用駆動装置が知られている。
【0003】
このようなハイブリッド車両用駆動装置では動力分割機構が例えば遊星歯車装置で構成される。遊星歯車装置の差動作用により、エンジンからの動力の主部が駆動輪へ機械的に伝達されるとともに、そのエンジンからの動力の残部が第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて駆動輪に伝達される。このように制御することにより、無段変速機としての機能が実現される。そして、エンジンを最適な作動状態に維持しつつ車両を走行させることにより燃費が向上させられる。
【0004】
特開2006−29439号公報(特許文献1)は、このようなハイブリッド自動車の駆動装置にさらに自動変速機が組み合わされた構成を有する車両用駆動装置を開示する。
【特許文献1】特開2006−29439号公報
【特許文献2】特開2003−127681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2006−29439号公報(特許文献1)に開示された車両用駆動装置では、車両が走行レンジの示す向きに対して逆向きに走行した場合、第1電動機の過回転を防止するために、自動変速機(AT)のクラッチを切離す方がよい場合がある。しかし、このときドライバから駆動要求があっても、エンジンや電動機を含む駆動部がクラッチにより車軸から切離されているので、ドライバの意図する駆動力が車軸に出力できないという問題が生ずる。
【0006】
具体的には、たとえば、シフトレバーをD(ドライブ)ポジションにしているときに、登坂路などで車両が後進してしまったとき、電動機保護の点からは、自動変速機のクラッチを切離してニュートラルレンジにしたほうが良い場合がある。しかし、シフトレバーがDポジションにあるのにもかかわらず、ドライバがアクセルを踏込んでも前進方向の推進力が車両に発生しないのは問題である。
【0007】
この発明の目的は、駆動装置の保護と駆動要求の達成とが両立された車両、車両の制御装置および車両の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、要約すると、車両であって、車輪に駆動力を与える駆動装置と、車輪に制動力を与える制動装置と、駆動装置と制動装置を制御する制御装置とを備える。制御装置は、車両の進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させても駆動装置が動作禁止領域で動作しないときには、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させる。制御装置は、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、駆動力要求に応じて制動装置を作動させる。
【0009】
好ましくは、駆動装置は、内燃機関と電動機の少なくともいずれかを含む。制動装置は、車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む。
【0010】
より好ましくは、車両は、駆動装置と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備える。変速装置は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含む。制御装置は、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する。
【0011】
好ましくは、駆動装置は、内燃機関と、第1、第2の電動機と、第1、第2の電動機および内燃機関の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構とを含む。制動装置は、車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む。
【0012】
より好ましくは、車両は、第2の電動機の出力軸と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備える。変速装置は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含む。制御装置は、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する。
【0013】
好ましくは、車両は、アクセルペダルの踏込み量を検出するセンサをさらに備える。駆動力要求は、アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される。
【0014】
この発明は、他の局面に従うと、車輪に駆動力を与える駆動装置と、車輪に制動力を与える制動装置とを備える車両の制御装置である。制御装置は、車両の進行方向を検知するセンサと、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させても駆動装置が動作禁止領域で動作しないときには、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させ、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、駆動力要求に応じて制動装置を作動させる制御部とを含む。
【0015】
好ましくは、駆動装置は、内燃機関と電動機の少なくともいずれかを含む。制動装置は、車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む。
【0016】
より好ましくは、車両は、駆動装置と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備える。変速装置は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含む。制御装置は、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する。
【0017】
好ましくは、駆動装置は、内燃機関と、第1、第2の電動機と、第1、第2の電動機および内燃機関の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構とを含む。制動装置は、車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む。
【0018】
より好ましくは、車両は、第2の電動機の出力軸と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備える。変速装置は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含む。制御装置は、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する。
【0019】
好ましくは、車両は、アクセルペダルの踏込み量を検出するセンサをさらに備える。駆動力要求は、アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される。
【0020】
この発明は、さらに他の局面では、車輪に駆動力を与える駆動装置と、車輪に制動力を与える制動装置とを備える車両の制御方法であって、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向であり、かつ駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するという条件を満たすか否かを判断するステップと、条件が満たされない場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させるステップと、条件が満たされる場合に、駆動力要求に応じて制動装置を作動させるステップとを含む。
【0021】
好ましくは、駆動装置は、内燃機関と電動機の少なくともいずれかを含む。制動装置は、車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む。
【0022】
より好ましくは、車両は、駆動装置と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備える。変速装置は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含む。条件が満たされる場合に、クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御するステップをさらに含む。
【0023】
好ましくは、駆動装置は、内燃機関と、第1、第2の電動機と、第1、第2の電動機および内燃機関の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構とを含む。制動装置は、車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む。
【0024】
より好ましくは、車両は、第2の電動機の出力軸と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備える。変速装置は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含む。方法は、条件が満たされる場合にクラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御するステップをさらに含む。
【0025】
好ましくは、車両は、アクセルペダルの踏込み量を検出するセンサをさらに備える。駆動力要求は、アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、駆動装置の保護を図りつつ、駆動要求に沿った車両挙動が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0028】
[全体構成の説明]
図1は、本実施の形態の車両1の主たる構成を示す図である。
【0029】
図1を参照して、車両1は、車輪38に駆動力を与える駆動装置11と、車輪38に制動力を与える制動装置(88)と、駆動装置11と制動装置(88)を制御する制御装置50とを備える。制御装置50は、車両1の進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置11で発生させても駆動装置11が動作禁止領域で動作しないときには、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置11で発生させる。制御装置50は、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するときには、駆動力要求(Acc)に応じて制動装置(88)を作動させる。
【0030】
好ましくは、駆動装置11は、エンジン8と、第1、第2の電動機MG1,MG2と、電動機MG1,MG2およびエンジン8の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構16とを含む。制動装置(88)は、車輪38の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキ88を含む。
【0031】
より好ましくは、車両1は、電動機MG2の出力軸と車輪38を駆動するための駆動軸22との間に配置される変速装置20をさらに備える。変速装置20は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチC1,C2を含む。制御装置50は、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求(Acc)どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置11が動作禁止領域で動作するときには、クラッチC1,C2を駆動力非伝達状態に制御する。
【0032】
好ましくは、車両1は、アクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルポジションセンサ82をさらに備える。駆動力要求(Acc)は、アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される。
【0033】
車両1は、さらに、複数種類のシフトポジションを手動操作により切換える操作装置46と、ブレーキペダルストロークセンサ84と、回転センサ72,74,76,78と、インバータ62と、蓄電装置60と、油圧制御回路42と、ブレーキ油圧制御部86と、差動歯車装置36とを含む。
【0034】
制御装置50は、エンジン制御部58と、ハイブリッド制御部52と、有段変速制御部54と、ブレーキ制御部56とを含む。
【0035】
[基本動作の説明]
図2は、図1の駆動装置11と変速装置20とを含む駆動変速機構10の詳細を示した図である。
【0036】
図2を参照して、駆動装置11は、エンジン8と、動力分割機構16と、モータジェネレータMG1,MG2とを含む。
【0037】
入力軸14は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材である。動力分割機構16は、入力軸14に連結された動力伝達装置である。
【0038】
変速装置20は、動力分割機構16と車輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の自動変速機(AT)である。駆動軸22は、この変速装置20に連結されている出力回転部材である。
【0039】
駆動変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に特に好適に用いられるものである。エンジン8は、入力軸14に直接にまたは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。
【0040】
図1に示されるように、エンジン8からの動力は、駆動装置の他の一部として動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の車輪38へ伝達する。
【0041】
なお、駆動変速機構10のエンジン8以外の部分はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1、図2の駆動変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。
【0042】
駆動装置11は、エンジン8と、第1電動機MG1と、動力分割機構16と、第2電動機MG2とを備えている。動力分割機構16は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機MG1および伝達部材18に分配する差動機構として動作する。第2電動機MG2は、伝達部材18と一体的に回転するように設けられているロータを有する。
【0043】
なお、第1電動機MG1および第2電動機MG2は発電機能をも有するいわゆるモータジェネレータであるが、第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0044】
動力分割機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1と、第1遊星歯車P1と、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1と、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1とを回転要素(要素)として含む。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0045】
この動力分割機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機MG1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。
【0046】
また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分割機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能な状態となる。
【0047】
この状態では、エンジン8の出力が第1電動機MG1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギで蓄電装置60が蓄電されたり、第2電動機MG2が回転駆動されたりする。駆動装置11は、動力分割機構16は電気的な差動装置として機能させられて、例えば無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転を連続的に変化させることができる。
【0048】
すなわち、動力分割機構16が差動状態とされると駆動装置11も差動状態とされ、変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機付きの駆動装置として機能する。
【0049】
一方、切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられると、動力分割機構16は差動作用が不能な非差動状態となる。
【0050】
まず、切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、動力分割機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態になる。
【0051】
そして、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、動力分割機構16は変速比γ0が「1」に固定された定変速状態とされる。
【0052】
次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1がケース12に連結させられると、動力分割機構16は第1サンギヤS1が非回転状態に固定されるロック状態となる。
【0053】
そして、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分割機構16は増速機構として機能する。動力分割機構16は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された定変速状態とされる。
【0054】
このように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分割機構16を差動状態と非差動状態とに設定することができる。すなわち切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分割機構16を変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動させる無段変速状態(差動状態)と、変速比変化を一定にロックする定変速状態(非差動状態)とに選択的に切換える切換装置として機能している。
【0055】
変速装置20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26と、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28と、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30とを含む。
【0056】
第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2と、第2遊星歯車P2と、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2と、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2とを含む。第2遊星歯車装置26は、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0057】
第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3と、第3遊星歯車P3と、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3と、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3とを含む。第3遊星歯車装置28は、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0058】
第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4と、第4遊星歯車P4と、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4と、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4とを含む。第4遊星歯車装置30は、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0059】
第2サンギヤS2と第3サンギヤS3は、一体的に連結されており、第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結される。また第2サンギヤS2および第3サンギヤS3は、ともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
【0060】
第2キャリヤCA2は、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。第4リングギヤR4は、第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。
【0061】
第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4は、一体的に駆動軸22に連結されている。第3リングギヤR3と第4サンギヤS4は、一体的に連結され、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0062】
このように、変速装置20と伝達部材18とは、変速装置20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して、選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と車輪38との間の動力伝達経路を、動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。
【0063】
つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0064】
切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は、一般の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置である。これらは、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0065】
図3は、駆動変速機構10の係合作動表である。
図3に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)〜第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれかまたは後進ギヤ段(後進変速段)またはニュートラルが選択的に成立する。
【0066】
特に、本実施の形態では動力分割機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、動力分割機構16は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。
【0067】
例えば、駆動変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図3に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。
【0068】
切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。
【0069】
切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。
【0070】
切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。
【0071】
第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。
【0072】
また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段「R」が成立させられる。
【0073】
なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、切換クラッチC1およびC2は解放され、C0のみが係合される。なお、後に説明するように駆動装置の保護のためにシフトレバー位置で「N」を指定されていないのにニュートラル状態になる場合は、クラッチC0は解放状態になっている。
【0074】
一方、駆動変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図3に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、動力分割機構16および電動機MG1,MG2が無段変速機として機能し、それに直列の変速装置20が有段変速機として機能する。変速装置20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその変速装置20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって駆動変速機構10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
【0075】
図1の操作装置46は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えている。
【0076】
図4は、シフトレバーの操作を説明するための図である。
図4を参照して、シフトレバー48は、駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行ポジション「R(リバース)」、中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0077】
駐車ポジション「P(パーキング)」では、例えば図3の係合作動表に示されるように、クラッチC1およびクラッチC2のいずれの係合装置も係合されないように制御され、変速装置20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態になるとともに、変速装置20の駆動軸22がロックされる。中立ポジション「N(ニュートラル)」では、駆動変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態になる。
【0078】
例えば、シフトレバー48の各シフトポジションへの手動操作に連動して、シフトレバー48に機械的に連結されたマニュアル弁が切り換えられて、図3の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」等が成立するように油圧制御回路42が機械的に切り換えられる。また、「D」または「M」ポジションにおける図3の係合作動表に示す1stから5thの各変速段は、油圧制御回路42内の電磁弁が電気的に切り換えられることにより成立させられる。
【0079】
このように、操作装置46は、駆動変速機構10の走行状態として、前進走行を行うための前進走行状態「D」または「M」と、後進走行を行うための後進走行状態「R」とを手動操作により切り換えられる前後進切換操作装置として機能している。
【0080】
「P」ポジションおよび「N」ポジションの各非走行ポジションは動力伝達経路が遮断された非駆動ポジションである。
【0081】
また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションの各走行ポジションは動力伝達経路の動力伝達可能状態へ切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0082】
また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジないし「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
【0083】
「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー48が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジないし「L」レンジの何れかがシフトレバー48の操作に応じて選択される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、およびダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー48がそれ等のアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジないし「L」レンジの何れかが選択される。
【0084】
例えば、「M」ポジションにおいて選択される「D」レンジないし「L」レンジの5つの変速レンジは、駆動変速機構10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また変速装置20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。
【0085】
また、シフトレバー48はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。操作装置46にはシフトレバー48の各シフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサ49が備えられており、そのシフトレバー48のシフトポジションを表す信号Pshや「M」ポジションにおける操作回数等を制御装置50へ出力する。
【0086】
[駆動装置部の保護動作の説明]
駆動装置11では、部品保護の観点から各回転要素の回転数に上限が定められている。特に、動力分割機構16のクラッチC0およびブレーキB0が解放され無段変速動作が実行されている場合に、第1電動機MG1は過回転が防止される必要がある。たとえば、シフトレバーを「D」ポジションまたは「M」ポジションにし前進方向のシフトレンジに設定されている場合に登坂路などで車両が後進してしまう場合や、シフトレバーを「R」ポジションにして車両を後進させた直後にシフトレバーを「D」ポジションにした場合等、車両がシフトレンジの示す方向とは逆方向に走行してしまう場合に過回転となりやすい。したがって、このような場合は変速装置20をニュートラル状態にして第1電動機MG1を保護する必要がある。しかし、その際にドライバがアクセルを踏込んで駆動力を要求しても車両が反応しないのは好ましくない。
【0087】
図5は、駆動装置部の保護を図りつつ、駆動力の要求に対する反応を可能にする処理を示したフローチャートである。
【0088】
図1、図5を参照して、まず処理が開始されると、ステップS1において制御装置50は、車速とアクセルポジションに基づいて駆動トルクを決定する。
【0089】
図6は、駆動トルクを決定するためのマップの一例を示した図である。
図1の制御装置50は、ハイブリッド制御部52において図5のマップを参照して駆動トルクを決定する。ハイブリッド制御部52は、アクセルポジションセンサ82からアクセル開度Accを受ける。またハイブリッド制御部52は、回転センサ76から与えられる第2電動機MG2の回転数Nmまたは回転センサ78から与えられる駆動軸の回転数Npに基づいて車速を算出する。図5のマップには、アクセル開度Accが100%、90%、80%、70%…の場合の車速に対応する駆動トルクが規定されている。
【0090】
ステップS1において駆動トルクが算出されると、ステップS2においてDレンジかつ後進であるか否かが判断される。なおここで、Dレンジは、駆動源の駆動力が車両を前進させる向きのトルクとして車輪に伝達されるように駆動装置11および変速装置20が設定されていることを示す。たとえば、ハイブリッド制御部52は、シフトレバーが「D」ポジションまたは「M」ポジションに設定されていることをシフトポジションセンサ49で検知することによってDレンジであることがわかる。
【0091】
また、ステップS2における「後進」とは、シフトレバーの位置によらず、単に車両が後進していることを示す。たとえば、ハイブリッド制御部52は、車輪38の回転に機械的に連動して回転する駆動軸22の回転を回転センサ78で検出することによって車両が後進していることを知ることができる。なお、クラッチC1またはC2が接続されている状態であれば、伝達部材18の回転を回転センサ76で検出しても車両が後進していることを検出することが可能である。
【0092】
なお、ステップS2では、シフトレバーの設定が前進を示し、かつ車両が後進する場合を検出したが、逆にシフトレバーの設定が後進を示し、かつ車両が前進する場合を加えて検出しても良い。
【0093】
ステップS2の条件が成立した場合(S2でYES)、処理はステップS3に進み、条件が成立しない場合(S2でNO)処理はステップS6に進む。
【0094】
ステップS3では、第1電動機MG1が過回転となる車速であるか否かが判断される。
図7は、第1電動機MG1の過回転について説明するための共線図である。
【0095】
図2、図7を参照して、動力分割機構16は、遊星歯車機構であり、サンギヤS1の回転数NsとキャリヤCA1の回転数NcとリングギヤR1の回転数Nrは次式(1)が成立する直線上に並ぶ関係となる。
【0096】
Nr=−ρ1*Ns+(1+ρ1)*Nc ・・・(1)
図2の構成では、サンギヤS1の回転数Nsは第1電動機MG1の回転数Ngに等しく、キャリヤCA1の回転数Ncはエンジン回転数Neに等しく、リングギヤR1の回転数Nrは第2電動機MG2の回転数Nmに等しい。動力分割機構16において次式(2)が成立する。
【0097】
Nm=−ρ1*Ng+(1+ρ1)*Ne ・・・(2)
図7において、第1電動機MG1の上限回転数をNgmaxとすると、エンジン回転数Ngと第2電動機の回転数Nmは、Ng<Ngmaxとなる範囲に制限される。
【0098】
図8は、エンジン回転数Ngと第2電動機の回転数Nmが制限される範囲を説明するための図である。
【0099】
図8の直線L1は、上記(2)式にNg=Ngmaxを代入して得られる次式(3)を示す直線である。
【0100】
Ne=1/(1+ρ1)*Nm+ρ1/(1+ρ1)*Ngmax ・・・(3)
直線L1より上の領域A2が第1電動機MG1の制限で決まる動作禁止領域であり、直線L1より下の領域A1が第1電動機MG1の制限で決まる動作可能領域である。
【0101】
ただし、エンジン8は、アイドリング回転数(たとえば1500rpm)未満では自立運転できないので、第2電動機MG2の回転数Nmが負の領域で回転数の絶対値が大きくなると、実際には線L2に示すようにエンジン回転数はゼロに制御される。こうすることにより、動作点が動作禁止領域A2から動作許可領域A1に移ることもある。
【0102】
図5のステップS3におけるMG1過回転となる車速か否かの判断は以下のようにして行なわれる。回転センサ78で検出されている駆動軸回転数Npまたは、回転センサ76で検出されている回転数Nmのいずれかにより車速Vをハイブリッド制御部は制御パラメータとして保持している。この車速Vを回転数Nmに換算し、そのときのエンジン回転数Neと回転数Nmの組み合わせが図8の領域A2に属するか否かで、ステップS3におけるMG1過回転となる車速か否かの判断ができる。なお、エンジン回転数Neは、図1の回転センサ72で検出され、エンジン制御部58を経由してハイブリッド制御部52に入力される。
【0103】
図5のステップS3において、MG1過回転となる車速である場合には、ステップS4に処理が進み、MG1過回転となる車速でない場合には、ステップS6に処理が進む。
【0104】
ステップS4では、変速装置20においてクラッチC1およびC2が共に解放され、駆動装置11と変速装置20とが切り離される。この操作以降は、回転数Nmと車速は一致しなくなるので、車速は駆動軸22の回転数Npに基づいて検出される。
【0105】
ステップS4の次にはステップS5においてブレーキ88に対して減速指令が出力される。減速指令は、ハイブリッド制御部52からブレーキ制御部56を経由してブレーキ油圧制御部86に与えられ、ブレーキ油圧制御部86は、油圧を増加させてブレーキ88を作動させる。
【0106】
ここで、ハイブリッド制御部52は、ステップS1で求められていたアクセルポジションセンサ82で検知されたアクセル開度Accに対応する駆動トルクをブレーキ88で実現させる。
【0107】
図9は、ブレーキ油圧と制動力の関係を示す図である。
図9に示すように、ブレーキ油圧が増加すると制動力も増加する。制動力は、負方向の駆動トルクに変換することができる。具体的には、油圧によりブレーキディスクに生ずる摩擦力にブレーキディスクの半径をかけたものが負方向の駆動トルクとなる。
【0108】
したがって、図5のステップS5では、ブレーキペダルを運転者が踏んでいない状態でも、アクセルペダルを踏込むとブレーキ88が作動することになる。ステップS5の処理が終了するとステップS3に戻り、再び第1電動機MG1が過回転になるかどうかが確認される。このステップS3〜S5の繰返しにより、図8の領域A1に動作点が復帰するまでクラッチC1,C2が切り離されてブレーキ88で車速をゼロに近づけることが行なわれる。
【0109】
ステップS3で、車速が第1電動機MG1が過回転にならない速度まで減速されると、ステップS3からステップS6に処理が進む。ステップS6では、クラッチC1またはC2が接続され駆動装置11から変速装置20に機械的動力が伝達される状態が成立する。
【0110】
そして、ステップS7において、制御装置50は、エンジン8と電動機MG1,MG2を用いてアクセルペダルで要求された駆動トルクを駆動軸22に出力し、ステップS8で処理が終了する。
【0111】
以上を総括して説明する。この発明は、ある局面では、車輪に駆動力を与える駆動装置と、車輪に制動力を与える制動装置とを備える車両の制御方法であって、進行方向と駆動力の作用する方向が逆方向であり、かつ駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させると駆動装置が動作禁止領域で動作するという条件を満たすか否かを判断するステップ(S2,S3)と、条件が満たされない場合に、駆動力要求どおりの駆動力を駆動装置で発生させるステップ(S7)と、条件が満たされる場合に、駆動力要求に応じて制動装置を作動させるステップ(S5)とを含む。
【0112】
好ましくは、駆動装置11は、エンジン8と、第1、第2電動機MG1,MG2と、第1、第2電動機およびエンジン8の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構16とを含む。制動装置は、車輪38の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキ88を含む。
【0113】
より好ましくは、車両は、第2の電動機の出力軸と車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置20をさらに備える。変速装置20は、駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構(C1,C2)を含む。車両の制御方法は、条件が満たされる場合にクラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御するステップ(S4)をさらに含む。
【0114】
好ましくは、車両は、アクセルペダルをさらに備える。駆動力要求は、アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される。
【0115】
図10は、本実施の形態の車両の挙動の一例を説明するための図である。
図10において、図8で既に示したシフトレンジが「D」レンジであるときのMG1過回転ラインL1に加えて、シフトレンジが「R」レンジの場合のMG1過回転ラインL2が示されている。
【0116】
シフトレバー48が「D」ポジションや「M」ポジションにあるときには過回転ラインL1より上の領域が動作禁止領域であり、シフトレバー48が「R」ポジションにあるときには過回転ラインL2より上の領域が動作禁止領域となる。
【0117】
矢印K1は、シフトレンジが「R」レンジに設定され車両が後進して車速が負方向に増大していることを示す。そして、矢印K2は、ドライバがシフトレバーを「R」ポジションから「D」ポジションに移動させることにより、レンジが「D」レンジに切換えられたことを示す。レンジが切り替わることにより、過回転ラインはL2からL1に切り替わるので動作点が動作禁止領域になってしまう。そこで、図2のクラッチC1、C2が共に解放状態に設定され、伝達部材18の回転数Nmは動作可能領域に属する回転速度に制御される。
【0118】
このとき、ドライバがアクセルペダルを踏込み前進方向へ発進を要求すると、制御装置50は、エンジン8や電動機MG1,MG2で前進方向トルクを発生させる代わりに、ブレーキを作動させ、矢印K3に示すように車速(駆動軸22の回転数Np)をゼロに近づける。
【0119】
そして、過回転ラインL1より動作点が下にくるまで車速がゼロに近づくと、クラッチC1またはC2が接続され、再び駆動変速機構10は、駆動装置11で発生するトルクを変速装置20に伝達可能な状態に戻される。
【0120】
引き続きアクセルペダルが踏込まれていれば、矢印K4に示すように、エンジンおよび電動機を使用した通常の発進制御が実行され車速は正方向に増加する。
【0121】
なお、図1では、制御装置50は、エンジン制御部58、ハイブリッド制御部52、有段変速制御部54、ブレーキ制御部56が通信により各種情報を共有して制御を実現するものであるが、これに限られるものではない。制御装置50は、1つのコンピュータで実現されても良いし、さらに多くの制御部に分割して複数のコンピュータで実現されるものであっても良い。
【0122】
以上説明したように、本実施の形態によれば、シフトレンジの示す方向に対して車両が逆方向に進行している場合に、電動機MG1の保護を図りつつ、ドライバからのトルク要求に対して適切な車両挙動を実現させることが可能となる。
【0123】
なお、本実施の形態では、自動変速機付ハイブリッド自動車を一例として説明を行なったが、これに限定されるものではない。自動変速機が無いハイブリッド自動車、エンジンを搭載しない電気自動車や燃料電池自動車、車輪駆動用モータを搭載しないエンジン搭載車のいずれに対しても本発明を適用することが可能である。電気自動車の場合には、たとえば、過電流によるモータ発熱領域が動作禁止領域に相当するし、ガソリン自動車の場合には、エンジン過回転に限らずエンジン不調などが検出された状態が動作禁止領域に相当し得る。
【0124】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本実施の形態の車両1の主たる構成を示す図である。
【図2】図1の駆動装置11と変速装置20とを含む駆動変速機構10の詳細を示した図である。
【図3】駆動変速機構10の係合作動表である。
【図4】シフトレバーの操作を説明するための図である。
【図5】駆動装置部の保護を図りつつ、駆動力の要求に対する反応を可能にする処理を示したフローチャートである。
【図6】駆動トルクを決定するためのマップの一例を示した図である。
【図7】第1電動機MG1の過回転について説明するための共線図である。
【図8】エンジン回転数Ngと第2電動機の回転数Nmが制限される範囲を説明するための図である。
【図9】ブレーキ油圧と制動力の関係を示す図である。
【図10】本実施の形態の車両の挙動の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0126】
8 エンジン、10 駆動変速機構、11 駆動装置、12 ケース、14 入力軸、16 動力分割機構、18 伝達部材、20 変速装置、22 駆動軸、24,26,28,30 遊星歯車装置、36 差動歯車装置、38 車輪、40 電子制御装置、42 油圧制御回路、46 操作装置、48 シフトレバー、49 シフトポジションセンサ、50 制御装置、52 ハイブリッド制御部、54 有段変速制御部、56 ブレーキ制御部、58 エンジン制御部、60 蓄電装置、62 インバータ、72,74,76,78 回転センサ、82 アクセルポジションセンサ、84 ブレーキペダルストロークセンサ、86 ブレーキ油圧制御部、88,B0〜B3 ブレーキ、C0,C1,C2 クラッチ、CA1〜CA4 キャリヤ、MG1,MG2 電動機、P1〜P4 遊星歯車、R1〜R4 リングギヤ、S1〜S4 サンギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に駆動力を与える駆動装置と、
前記車輪に制動力を与える制動装置と、
前記駆動装置と前記制動装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、車両の進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させても前記駆動装置が動作禁止領域で動作しないときには、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させ、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が前記動作禁止領域で動作するときには、前記駆動力要求に応じて前記制動装置を作動させる、車両。
【請求項2】
前記駆動装置は、
内燃機関と電動機の少なくともいずれかを含み、
前記制動装置は、
前記車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車両は、
前記駆動装置と前記車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備え、
前記変速装置は、
前記駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含み、
前記制御装置は、前記進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が前記動作禁止領域で動作するときには、前記クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記駆動装置は、
内燃機関と、
第1、第2の電動機と、
前記第1、第2の電動機および前記内燃機関の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構とを含み、
前記制動装置は、
前記車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む、請求項1に記載の車両。
【請求項5】
前記車両は、
前記第2の電動機の出力軸と前記車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備え、
前記変速装置は、
前記駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含み、
前記制御装置は、前記進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が前記動作禁止領域で動作するときには、前記クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記車両は、
アクセルペダルの踏込み量を検出するセンサをさらに備え、
前記駆動力要求は、前記アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される、請求項1に記載の車両。
【請求項7】
車輪に駆動力を与える駆動装置と、前記車輪に制動力を与える制動装置とを備える車両の制御装置であって、
前記制御装置は、
車両の進行方向を検知するセンサと、
前記進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させても前記駆動装置が動作禁止領域で動作しないときには、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させ、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が前記動作禁止領域で動作するときには、前記駆動力要求に応じて前記制動装置を作動させる制御部とを含む、車両の制御装置。
【請求項8】
前記駆動装置は、
内燃機関と電動機の少なくともいずれかを含み、
前記制動装置は、
前記車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む、請求項7に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記車両は、
前記駆動装置と前記車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備え、
前記変速装置は、
前記駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含み、
前記制御装置は、前記進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が前記動作禁止領域で動作するときには、前記クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する、請求項8に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記駆動装置は、
内燃機関と、
第1、第2の電動機と、
前記第1、第2の電動機および前記内燃機関の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構とを含み、
前記制動装置は、
前記車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む、請求項7に記載の車両の制御装置。
【請求項11】
前記車両は、
前記第2の電動機の出力軸と前記車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備え、
前記変速装置は、
前記駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含み、
前記制御装置は、前記進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向である場合に、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が前記動作禁止領域で動作するときには、前記クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御する、請求項10に記載の車両の制御装置。
【請求項12】
前記車両は、
アクセルペダルの踏込み量を検出するセンサをさらに備え、
前記駆動力要求は、前記アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される、請求項7に記載の車両の制御装置。
【請求項13】
車輪に駆動力を与える駆動装置と、前記車輪に制動力を与える制動装置とを備える車両の制御方法であって、
前記進行方向と前記駆動力の作用する方向が逆方向であり、かつ駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させると前記駆動装置が動作禁止領域で動作するという条件を満たすか否かを判断するステップと、
前記条件が満たされない場合に、前記駆動力要求どおりの駆動力を前記駆動装置で発生させるステップと、
前記条件が満たされる場合に、前記駆動力要求に応じて前記制動装置を作動させるステップとを含む、車両の制御方法。
【請求項14】
前記駆動装置は、
内燃機関と電動機の少なくともいずれかを含み、
前記制動装置は、
前記車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む、請求項13に記載の車両の制御方法。
【請求項15】
前記車両は、
前記駆動装置と前記車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備え、
前記変速装置は、
前記駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含み、
前記条件が満たされる場合に、前記クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御するステップをさらに含む、請求項14に記載の車両の制御方法。
【請求項16】
前記駆動装置は、
内燃機関と、
第1、第2の電動機と、
前記第1、第2の電動機および前記内燃機関の各出力軸がそれぞれ3つの入力軸に接続される動力分割機構とを含み、
前記制動装置は、
前記車輪の回転軸に取り付けられた要素に摩擦力を作用させるブレーキを含む、請求項13に記載の車両の制御方法。
【請求項17】
前記車両は、
前記第2の電動機の出力軸と前記車輪を駆動するための駆動軸との間に配置される変速装置をさらに備え、
前記変速装置は、
前記駆動力の伝達と非伝達との切替を行なうクラッチ機構を含み、
前記方法は、
前記条件が満たされる場合に前記クラッチ機構を駆動力非伝達状態に制御するステップをさらに含む、請求項16に記載の車両の制御方法。
【請求項18】
前記車両は、
アクセルペダルの踏込み量を検出するセンサをさらに備え、
前記駆動力要求は、前記アクセルペダルの踏込み量に応じて増加される、請求項13に記載の車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−120132(P2008−120132A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303061(P2006−303061)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】