車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備える車両用動力伝達装置において、コーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することでコーストダウンシフト時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制する。
【解決手段】減速走行中に第2電動機M2による回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることを条件として自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、コーストダウンシフトの際は自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、自動変速部20の変速を入力トルクTINが零と判断されるときに実行することで、変速時の入力トルクTINの変化が抑制されて変速ショックが抑制される。
【解決手段】減速走行中に第2電動機M2による回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることを条件として自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、コーストダウンシフトの際は自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、自動変速部20の変速を入力トルクTINが零と判断されるときに実行することで、変速時の入力トルクTINの変化が抑制されて変速ショックが抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機を備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、コースト走行時に電動機を回生制御することにより車両に制動力を付与する際の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機を備える車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1、2の車両がそれである。また、特許文献1では、例えば出力要求量(アクセル開度や要求出力トルク)及び車速を変数として予め設定された所定の変速線に従って変速部の変速が実行される。また、コースト走行時にはエネルギ効率の向上(燃費向上)を図る観点から電動機を回生制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−207690号公報
【特許文献2】特開2002−323070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1に示されるような車両用動力伝達装置では、コースト走行中にダウンシフト線を横切るとコーストダウンシフトが実行される。このとき電動機による回生トルクが変速部に入力されており、コースト走行時に電動機による回生トルクを付与したまま変速を行うと変速ショックが生じる可能性がある。これに対して、良く知られたクラッチツウクラッチ変速により変速部の変速が実行されて変速ショックが抑制される。また、変速部の変速過程において、変速部内の解放側係合装置と係合側係合装置とを共に解放状態とするクラッチフリー状態とし、そのクラッチフリー状態の間に電動機により変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させて変速を進行させる場合も考えられる。このクラッチフリー状態を介して変速を進行させる場合には、電動機による同期制御によってクラッチフリー状態中に変速部の入力トルクが変化しても出力側ではその影響を受けず、またクラッチツウクラッチ変速のようなトルクの受け渡しを行わない分複雑な制御が必要とされないが、クラッチフリー状態を解除した変速完了時に変速部の入力トルクが出力側へステップ的に伝達されることになり入力トルクの大きさによっては変速ショックが増大する可能性がある。その為、アクセルオフのコーストダウンシフトが低下する車速のみによって判断されることに鑑みて、上記変速ショックが抑制される車両状態にてコーストダウンシフト点車速を設定することが考えられる。
【0005】
ところで、コースト走行中の車両には、例えばコースト走行時の車速やブレーキオン時の操作力(例えば踏力)に応じて決定された目標減速度が達成されるように回生トルクやホイールブレーキ装置によるホイールブレーキトルクにより発生させられる制動力(制動トルク)が付与される。例えば、ブレーキオフ時には回生トルクのみにより制動力が発生させられ、またブレーキオン時には回生トルク及びホイールブレーキトルクにより制動力が発生させられる。このような場合、例えばブレーキ操作量に応じて増大する目標減速度が得られるように、ホイールブレーキトルクが増大させられるが、燃費向上の観点や目標減速度を所定割合でトルク分担することから回生トルク分も増大させられる。そうすると、ブレーキ操作量によって同一車速であっても回生トルクの大きさすなわち変速部の入力トルクの大きさが変化する可能性がある。従って、上記コーストダウンシフト点車速を一律に設定すると、ブレーキ操作量によってダウンシフト時の変速部の入力トルクの大きさが異なり、ダウンシフト完了時に変速部の出力側に表れるトルクが大きくされて変速ショックが増大する可能性がある。尚、上述したような課題は未公知であり、変速ショックが抑制されるようにコーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することについて未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備える車両用動力伝達装置において、コーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することでコーストダウンシフト時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と、その変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、減速走行中には前記電動機による回生トルクが付与される車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 減速走行中に前記回生トルクを含む前記変速部の入力トルクが略零と判断されることを条件として前記変速部の変速を実行することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、減速走行中に電動機による回生トルクを含む変速部の入力トルクが略零と判断されることを条件として変速部の変速が実行されるので、例えばコーストダウンシフトの際は変速部の入力トルクが略零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に変速部の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記回生トルクを用いて前記変速部の入力トルクを略零と判断する為の所定判定値が予め設定されており、前記回生トルクが前記所定判定値となっているか否かに基づいて前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断する。このようにすれば、変速部の入力トルクが略零であるか否かが適切に判断され、変速部の入力トルクが略零であるときに変速部の変速が適切に実行される。
【0010】
また、好適には、前記変速部の入力トルクが略零となる車両状態にて前記変速部の変速を実行する為の変速点が予め設定されており、前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断するということは、車両状態が前記変速点にあるか否かを判断することである。このようにすれば、変速部の入力トルクが略零であるか否かが適切に判断され、変速部の入力トルクが略零であるときに変速部の変速が適切に実行される。
【0011】
また、好適には、車輪にホイールブレーキトルクを付与する制動装置を備え、目標減速度が達成されるように前記回生トルクに加えて前記ホイールブレーキトルクにより車両に制動力を付与するものであり、前記回生トルクのみが付与されているときの前記変速点を目標減速度の増大量に応じて低車速側へ変更することにより、前記変速部の入力トルクが略零となるところで前記変速点が設定される。このようにすれば、変速部の入力トルクが略零であるときに変速部の変速が一層適切に実行される。
【0012】
また、好適には、前記変速部の変速過程では、前記変速部内の動力伝達経路を解放状態として前記電動機により前記変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行う。このようにすれば、例えばクラッチツゥクラッチ変速に比較して、変速時同期制御(同期の為の電動機トルク)による変速過程での変速部の入力トルク変化の影響が出力側では出ず、また簡単な制御で変速部の変速を進行させられる。また、このように変速部の変速を進行させたとしても、コーストダウンシフト完了時に変速部の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制されていることから、変速ショックの増大が可及的に抑制される。
【0013】
また、好適には、目標減速度が所定以上のときには、前記変速部の入力トルクが略零と判断されることよりも燃費の向上を条件として前記変速部の変速を実行する。このようにすれば、小さな減速度に比較して運転者が変速ショックを感じ難いと思われる大きな減速度のときには、変速ショック抑制よりも燃費が重視されて燃費が向上させられる。
【0014】
また、好適には、前記電動機の回生効率が可及的に高くされるように前記変速部の変速を実行する。このようにすれば、燃費の向上を条件とする変速部の変速が適切に実行される。
【0015】
また、好適には、エンジンに動力伝達可能に連結された差動部を更に備え、前記変速部は、前記エンジンから駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する。このようにすれば、エンジン、差動部、変速部、電動機を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。
【0016】
また、好適には、前記差動部は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されてその差動機構の差動状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する。このようにすれば、電気的な無段変速機として機能する差動部を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。また、差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、差動部は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0017】
また、好適には、前記変速部は、機械的に変速比が設定される有段変速機である。このようにすれば、複数の変速段が段階的に成立させられる有段変速機(変速部)を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。
【0018】
また、好適には、前記有段変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源(エンジン)により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
【0019】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
【0020】
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0021】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0022】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】油圧制御回路のうちクラッチ及びブレーキの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブに関する回路図である。
【図6】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図7】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図1の車両用動力伝達装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図9】図1のエンジンの最適燃費率曲線の一例を示す図である。
【図10】減速走行時に車速に応じて変化する自動変速部を介して伝達された自動変速部の出力トルクの一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図7に相当する別の実施例である。
【図13】電子制御装置の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図11に相当する別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0026】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。尚、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0027】
差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている第2電動機M2とを備える電気式差動部である。尚、伝達部材18は差動部11の出力側回転部材であるが自動変速部20の入力側回転部材にも相当するものである。
【0028】
第1電動機M1及び第2電動機M2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図7参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図7参照)に蓄積する等の作動を行う。
【0029】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0030】
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.416」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。尚、差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0031】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0032】
自動変速部20(変速部)は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26及びシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.488」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.455」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0033】
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。更に第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
【0034】
以上のように構成された自動変速部20では、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより例えばクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合及び一方向クラッチFにより変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
【0035】
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段及び後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0036】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0037】
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0038】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0039】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0040】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XG(X3)が伝達部材18の回転速度N18すなわち差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
【0041】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。更に、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5(第5要素)に対応する相互に連結された第1リングギヤR1及び第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0042】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0043】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
【0044】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
【0045】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0046】
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0047】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ72により検出された出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキスイッチ44により検出された車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)にホイールブレーキトルクを付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)40の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダル42(図7参照)の操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、踏力検出スイッチ45により検出されたブレーキペダル42の踏力すなわちブレーキペダル42の操作量であるブレーキ操作量Braを表す信号、触媒温度を表す信号、アクセル開度センサ48により検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル46(図7参照)の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバ等からなるM1回転速度センサ74により検出された第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバ等からなるM2回転速度センサ76により検出された第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図7参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0048】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、ホイールブレーキ装置40を作動させるためのホイールブレーキ作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図5、図7参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0049】
ホイールブレーキ装置40は、ブレーキペダル42の操作などに関連して、車輪ブレーキに設けられたホイールシリンダへ制動油圧を供給する。このホイールブレーキ装置40では、通常は、マスタシリンダにおいて発生させられるブレーキペダル42の踏力に対応した大きさの制動油圧がホイールシリンダへ直接供給されるが、例えば減速走行(コースト走行)時の制動力制御、ABS制御、トラクション制御、VSC制御、或いはヒルホールド制御時には、減速走行中の目標減速度G*を達成する為に回生トルクと共に発生させられるホイールブレーキトルクの発生、低μ路での車両の制動、発進、旋回走行や、或いは坂路途中の車両停止の保持或いは維持の為に上記踏力に直接的に対応しない制動液圧がホイールシリンダへ供給されるようになっている。
【0050】
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、C3、及びブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AC3、AB1、AB2の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AC3、AB1、AB2には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧(係合油圧)PC1、PC2、PC3、PB1、PB2に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しない電動オイルポンプやエンジン8により回転駆動される機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧として例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0051】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AC3、AB1、AB2の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の係合圧PC1、PC2、PC3、PB1、PB2が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とがすなわち解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とが同時に制御される所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0052】
図6は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0053】
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0054】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0055】
上記「P」乃至「M」ポジション(レンジ)に示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする動力伝達経路の動力伝達遮断状態への切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0056】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBのいずれもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされると共に自動変速部20の出力軸22がロックされ、「N」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBの何れもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされ、「R」、「D」、及び「M」ポジションのいずれかへ手動操作されることで各ポジションに対応した何れかのギヤ段が成立させられて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態とされる。
【0057】
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御部すなわち有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶部すなわち記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0058】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0059】
ハイブリッド制御部すなわちハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0060】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
【0061】
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0062】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶手段84に予め記憶された例えば図9の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0063】
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0064】
ここで、有段変速制御手段82により自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。このような制御では、トータル変速比γTを段階的に変化させることにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段86は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように差動部11の変速を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように自動変速部20の変速制御に同期して差動部11の変速制御を実行する。例えば、自動変速部20の変速前後で過渡的に動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように差動部11の変速制御を実行する。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0066】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0067】
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0068】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図8の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図8に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図8中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
【0070】
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図8の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図8から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0071】
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0072】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0073】
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの減速走行時(惰性(コースト)走行時)やブレーキペダル42の操作によるホイールブレーキ作動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0075】
ここで、車両のコースト走行時には目標減速度G*が設定され、その目標減速度G*が達成されるように車両に制動トルク(制動力)が発生させられる。この制動トルクは、例えば第2電動機M2による回生やホイールブレーキ装置40によるホイールブレーキ等により得られるが、エネルギー効率を考えて回生による制動が優先される。例えば、ブレーキペダル42が操作されていないブレーキオフ時(非制動時)には、目標減速度G*が達成される為の制動トルクが専ら回生トルクにより発生させられる。また、ブレーキペダル42が操作されているブレーキオン時(制動時)には、目標減速度G*が達成される為の制動トルクが回生トルク及びホイールブレーキトルクにより所定割合でトルク分担されて発生させられる。この際、ブレーキペダル42の操作により目標減速度G*が増大する分の制動トルクは、ホイールブレーキトルクのみで賄うのではなく、燃費向上の観点や目標減速度G*を所定割合でトルク分担するという意味合いから回生トルクも用いられる。また、アクセルオフの減速走行時に目標減速度G*を達成するときには、ハイブリッド制御手段52によりフューエルカットにてエンジン8の作動が停止され且つ第1電動機M1が空転され、差動部11の差動作用によって車速Vに拘束されることなくすなわち自動変速部20の出力軸22の回転速度NOUTと変速比γATとに基づいて一意的に定められる伝達部材回転速度N18に拘わらずエンジン回転速度NEが零乃至略零に維持される。よって、エンジン8の引き摺り(回転抵抗)によるポンピングロスの発生が抑制される分、エンジン引摺りトルクによる制動トルク(減速度)が抑制されて回生量が増加される。
【0076】
ところで、コースト走行中にダウンシフト線を横切ると自動変速部20のコーストダウンシフトが実行される。有段変速制御手段82は、例えばこのときのコーストダウンシフトをクラッチフリーにより実行する。すなわち、有段変速制御手段82は、解放側係合装置の解放油圧指令値を変速開始時点で零にし且つ変速期間中は係合側係合装置の係合油圧指令値を低圧待機圧とする指令を油圧制御回路70へ出力する。また、ハイブリッド制御手段86は、有段変速制御手段82によるこのコーストダウンシフト中において、第2電動機M2により伝達部材18をコーストダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させる。このように、自動変速部20のコーストダウンシフト過程では、自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により自動変速部20の入力側回転部材(すなわち伝達部材18)をダウンシフト後の回転速度に同期させる変速時同期制御が行われる。
【0077】
有段変速制御手段82によるクラッチフリー状態を介して自動変速部20のコーストダウンシフトを進行させる場合には、第2電動機M2による回転同期制御によってクラッチフリー状態中に自動変速部20の入力トルクTINが変化しても出力側ではその影響を受けず、またクラッチツウクラッチ変速のようなトルクの受け渡しを行わない分複雑な制御が必要とされない。しかしながら、クラッチフリー状態を解除したダウンシフト完了時には、自動変速部20の入力トルクTIN(例えば第2電動機M2による回生トルクである)が出力側へステップ的に伝達されることになり変速ショックが発生する可能性がある。
【0078】
以下に、変速ショックを抑制するように上記コーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することについて詳細に説明する。図10は、減速走行時に車速Vに応じて変化する自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTの一例を示す図である。この自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTは、自動変速部20内の引摺りトルク等を零と見れば自動変速部20の入力トルクTINと同じ意味であり、本実施例では自動変速部20の入力トルクTINとして取り扱う。図10において、実線はブレーキオフ時(非制動時)の場合であり、破線はブレーキオン時(制動時)の場合である。また、自動変速部20の入力トルクTINは、専ら目標減速度G*が達成される為の制動トルクとなる第2電動機M2による回生トルクであるが、車速低下時には第2電動機M2により回生トルクに替えてクリープトルクが発生させられて負トルクから正トルクとなる。
【0079】
一方で、ブレーキオン時には、ブレーキオフ時に比較して目標減速度G*が増大する分回生トルク分も増大させられるので、破線に示すように自動変速部20の入力トルクTINにおける負トルクも増大させられる。また、図示はしていないが、同じブレーキオン時であっても、目標減速度G*が変化すれば回生トルク分も変化させられるので、負トルクも変化させられる。そうすると、ブレーキ操作やブレーキ操作量Braによって同一車速Vであっても回生トルクの大きさすなわち自動変速部20の入力トルクTINが変化する可能性がある。従って、例えばブレーキオフ時(実線)において変速ショックが抑制される車両状態例えば自動変速部20の入力トルクTINが略零乃至零になる車速V0のところにコーストダウンシフト点車速を一律に設定すると、ブレーキオン時(破線)ではコーストダウンシフト時にブレーキオフ時よりも大きな負トルクが発生することになり、ダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク(自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUT)が大きくされてコーストダウンシフトに伴う変速ショックが増大する可能性がある。
【0080】
そこで、本実施例では、上記変速ショックを抑制する為に、減速走行中に回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが略零と判断されることを条件として、すなわち自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTが略零と判断されることを条件として、自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。一方、減速走行時の減速度が大きい場合には、変速ショックが減速(例えば減速ショック)に紛れるので、減速度が小さい場合に比較してユーザは上記変速ショックを感じ難いと考えられる。このような場合には、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するという観点から自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すれば良い。そこで、本実施例では、目標減速度G*が所定以上のときには、変速ショック抑制よりも燃費が向上させられるように、自動変速部20の入力トルクTINが略零と判断されることよりも燃費の向上を条件として、自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。
【0081】
より具体的には、図7に戻り、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段88は、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かを判定する。
【0082】
目標減速度算出部すなわち目標減速度算出手段90は、走行状態判定手段88により車両が減速走行中であると判定された場合には、減速走行中の目標減速度G*を算出する。目標減速度算出手段90は、例えばブレーキオフ時には、車速Vが高い程目標減速度G*が大きくなるように予め実験的に求められて記憶手段84に記憶された車速Vと目標減速度G*との関係から実際の車速Vに基づいて減速走行中の目標減速度G*を算出する。また、目標減速度算出手段90は、例えばブレーキオン時には、ブレーキ操作量Braが大きい程目標減速度G*が大きくなるように予め実験的に求められて記憶手段84に記憶されたブレーキ操作量Braと目標減速度G*との関係から実際のブレーキ操作量Braに基づいて、上記ブレーキオフ時の目標減速度G*に加える形で減速走行中の目標減速度G*を算出する。
【0083】
目標減速度制御部すなわち目標減速度制御手段92は、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が達成されるように車両の制動トルクを発生させる。目標減速度制御手段92は、例えばブレーキオフ時には、エネルギー効率を考えて回生トルクにてその目標減速度G*を達成する為の制動力を得ることを最優先するという観点から、目標減速度G*を達成する為の制動力が回生トルクで得られるようにハイブリッド制御手段86に指令を出力する。目標減速度制御手段92は、例えばブレーキオン時には、目標減速度G*を達成する為の制動力が回生トルク及びホイールブレーキトルクで得られるように、予め実験的に求められて設定された所定のトルク分担割合にて必要な回生トルク及びホイールブレーキトルクを各々算出し、その必要な回生トルクが得られるようにハイブリッド制御手段86に指令を出力すると共に、その必要なホイールブレーキトルクが得られるようにホイールブレーキ装置40に指令を出力する。
【0084】
走行状態判定手段88は、更に、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が所定以上例えば所定目標減速度G*’以上であるか否かを判定する。この所定目標減速度G*’は、変速ショックを感じ難い程のすなわち変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)することができる程の大きな目標減速度G*であることを判定する為の予め実験的に求められて設定された判定値である。
【0085】
負トルク判定部すなわち負トルク判定手段94は、走行状態判定手段88により目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満であると判定された場合は、コーストダウンシフト時の変速ショックを抑制するという観点から、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断する為に、例えば減速走行中の回生トルクが所定判定値例えば所定回生トルクとなっているか否かを判定する。この所定回生トルクは、回生トルクを用いて自動変速部20の入力トルクTINを略零を含む実質的に零と判断する為の予め実験的に求められて設定された入力トルク零判定値である。
【0086】
回生効率判定部すなわち回生効率判定手段96は、走行状態判定手段88により目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上であると判定された場合は、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するという観点から、車速V(或いは車速Vと自動変速部20の変速比γATとから一意的に定められる第2電動機回転速度NM2)が第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の予め実験的に求められて設定された所定車速V’(或いは所定第2電動機回転速度NM2’)であるか否かを判定する。
【0087】
有段変速制御手段82は、更に、負トルク判定手段94により減速走行中の回生トルクが所定回生トルクとなっていると判定された場合には、又は、回生効率判定手段96により車速V(或いは第2電動機回転速度NM2)が所定車速V’(或いは所定第2電動機回転速度NM2’)であると判定された場合には、自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。有段変速制御手段82は、例えばこのときのコーストダウンシフトをクラッチフリーにより実行する。また、ハイブリッド制御手段86は、クラッチフリーによるコーストダウンシフト中において、第2電動機M2による伝達部材回転速度N18の同期制御を実行する。
【0088】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部20の入力トルクTINの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0089】
図11において、先ず、走行状態判定手段88に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく走行状態判定手段88に対応するS21において、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が所定以上例えば所定目標減速度G*’以上であるか否かが判定される。目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満である為に上記S21の判断が否定される場合は負トルク判定手段94に対応するS22において、例えば減速走行中の回生トルクが所定判定値例えば所定回生トルクとなっているか否かに基づいて自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが判断される。一方で、目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上である為に上記S21の判断が肯定される場合は回生効率判定手段96に対応するS23において、例えば車速V(或いは第2電動機回転速度NM2)が第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の予め実験的に求められて設定された所定車速V’(或いは所定第2電動機回転速度NM2’)であるか否かが判定される。
【0090】
上記S22の判断が否定されるか或いは上記S23の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、上記S22の判断が肯定されるか或いは上記S23の判断が肯定される場合は有段変速制御手段82及びハイブリッド制御手段86に対応するS30において、例えば自動変速部20のコーストダウンシフトがクラッチフリーにより実行される。また、クラッチフリーによるコーストダウンシフト中において、第2電動機M2による伝達部材回転速度N18の同期制御が実行される。このように、目標減速度G*が小さいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、自動変速部20の入力トルクTINが零であると判断されるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が小さいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。或いは、目標減速度G*が大きいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、第2電動機M2による回生効率が可及的に高くされるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が大きいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化の抑制よりも燃費の向上が優先される。
【0091】
上述のように、本実施例によれば、減速走行中に第2電動機M2による回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが略零乃至零と判断されることを条件として自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、コーストダウンシフトの際は自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、自動変速部20の変速を入力トルクTINが零と判断されるときに実行することで、変速時の自動変速部20の入力トルクTINの変化が抑制されて変速ショックが抑制される。
【0092】
また、本実施例によれば、第2電動機M2による回生トルクを用いて自動変速部20の入力トルクTINを零と判断する為の所定判定値(例えば所定回生トルク)が予め設定されており、その回生トルクが所定回生トルクとなっているか否かに基づいて自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが判断されるので、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが適切に判断される。よって、自動変速部20の入力トルクTINが零であるときに自動変速部20のコーストダウンシフトが適切に実行される。
【0093】
また、本実施例によれば、自動変速部20の変速過程では、自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により自動変速部20の入力側回転部材(伝達部材18)を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御が実行されるので、例えばクラッチツゥクラッチ変速に比較して、変速時同期制御(例えば同期の為の第2電動機トルクTM2)による変速過程での自動変速部20の入力トルクTIN変化の影響が出力側では出ず、また簡単な制御で自動変速部20の変速が進行させられる。また、このように自動変速部20の変速が進行させられたとしても、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制されていることから、変速ショックの増大が可及的に抑制される。
【0094】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上(例えば所定目標減速度G*’以上)のときには、自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることよりも燃費の向上を条件として自動変速部20の変速が実行されるので、小さな減速度に比較して運転者が変速ショックを感じ難いと思われる大きな減速度のときには、変速ショック抑制よりも燃費が重視されて燃費が向上させられる。
【0095】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上のときには、第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされるように自動変速部20の変速が実行されるので、燃費の向上を条件とする自動変速部20の変速が適切に実行される。
【0096】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0097】
前述の実施例では第2電動機M2による回生トルクが所定回生トルクとなっているか否かに基づいて自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断するということは、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にて自動変速部20の変速を実行する為の予め設定された変速点に実際の車両状態があるか否かを判断することであるとする。つまり、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する為のコーストダウンシフト点車速を予め設定しておき、そのコーストダウンシフト点車速にて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行するのである。但し、前述したように、コーストダウンシフト点車速を例えばブレーキオフ時において自動変速部20の入力トルクTINが略零となる車速V0のところ(図10参照)で一律に設定すると、ブレーキオン時では変速ショックが増大する可能性がある。そこで、例えば第2電動機M2による回生トルクのみが付与されているときに自動変速部20の入力トルクTINが零となるコーストダウンシフト点車速をブレーキオフ時の通常変速点V0として予め実験的に求めて設定する。そして、ブレーキオン時には、目標減速度G*の増大量に応じて通常変速点V0を低車速側へ変更することにより、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にてコーストダウンシフト点車速を予め設定する。例えば、目標減速度G*は回生トルク及びホイールブレーキトルクにより所定割合でトルク分担されて発生させられることから、ブレーキオン時にはブレーキオフ時に対する目標減速度G*の増大量に応じた所定変更量分だけ通常変速点V0を低車速側へ変更する。つまり、目標減速度G*が増大すれば回生トルクも増えるので、コーストダウンシフト点車速を低車速側にしてなるべく回生トルクが小さいところでコーストダウンシフトを実行できるようにするのである。尚、上記所定変更量は、目標減速度G*が大きい程通常変速点V0が低車速側に変更される際の変更量が大きくされて自動変速部20の入力トルクTINが零となるコーストダウンシフト点車速とされる為の予め実験的に求められて設定された目標減速度G*に基づく変速点変更量である。
【0098】
一方、前述したように、減速走行時の減速度が大きい場合には、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するという観点から自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すれば良い。そこで、本実施例では、目標減速度G*が所定以上のときには、変速ショック抑制よりも燃費が向上させられるように、コーストダウンシフト点車速を第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の予め実験的に求められて設定された高効率用ダウンシフト点へ変更する。
【0099】
具体的には、図12は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図7に相当する図である。走行状態判定手段88は、更に、車両が減速走行中であると判定した場合には、目標減速度G*がブレーキオフ時に対して増大したか否か、すなわち自動変速部20の入力負トルクTINがブレーキオフ時に対して増加したか否かを判定する。走行状態判定手段88は、目標減速度G*の増大判定を、例えばブレーキ操作信号BONに基づいてブレーキオンとなったか否かを判定することで実行しても良い。
【0100】
変速点設定部すなわち変速点設定手段98は、走行状態判定手段88によりブレーキオンでないと判定される場合は、コーストダウンシフト点車速をブレーキオフ時の通常変速点V0に設定する。また、変速点設定手段98は、走行状態判定手段88によりブレーキオンと判定され且つ目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満であると判定された場合は、ブレーキオフ時に対する目標減速度G*の増大量に応じた所定変更量分だけ通常変速点V0を低車速側へ変更したコーストダウンシフト点車速を設定する。更に、変速点設定手段98は、走行状態判定手段88によりブレーキオンと判定され且つ目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上であると判定された場合は、第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の高効率用ダウンシフト点へ変更したコーストダウンシフト点車速を設定する。変速点設定手段98によるコーストダウンシフト点車速の変更は、例えば記憶手段84に記憶されているコーストダウンシフト点車速を変更することで実行される。
【0101】
有段変速制御手段82は、更に、走行状態判定手段88により車両が減速走行中であると判定された場合には、変速点設定手段98により設定されたコーストダウンシフト点車速を用いて、実際の車両状態(例えば実際の車速V)に基づき自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すべきか否かを判断し、判断結果に基づいて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。
【0102】
図13は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部20の入力トルクTINの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、この図13のフローチャートは、図11のフローチャートに相当するものであって、図11の破線囲み部分の制御作動が図13の破線囲み部分の制御作動に置き換わったことが主に相違する。
【0103】
図13において、先ず、走行状態判定手段88に対応するステップS10において、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく走行状態判定手段88に対応するS24において、自動変速部20の入力負トルクTINがブレーキオフ時に対して増加したか否かが、例えばブレーキオンとなったか否かに基づいて判定される。ブレーキオンとされて上記S24の判断が肯定される場合は同じく走行状態判定手段88に対応するS25において、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が所定以上例えば所定目標減速度G*’以上であるか否かが判定される。目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上である為に上記S25の判断が肯定される場合は変速点設定手段98に対応するS26において、例えば第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の高効率用ダウンシフト点へ変更されたコーストダウンシフト点車速が設定される。一方で、目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満である為に上記S25の判断が否定される場合は同じく変速点設定手段98に対応するS27において、ブレーキオフ時に対する目標減速度G*の増大量に応じた所定変更量分だけ通常変速点V0が低車速側へ変更されたコーストダウンシフト点車速が設定される。対して、ブレーキオンとされておらず上記S24の判断が否定される場合は同じく変速点設定手段98に対応するS28において、コーストダウンシフト点車速がブレーキオフ時の通常変速点V0に設定される。
【0104】
上記S26、S27、或いはS28に続いて、有段変速制御手段82に対応するS29において、例えば上記S26、S27、或いはS28において設定されたコーストダウンシフト点車速を用いて実際の車速Vに基づき自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すべきか否かが判断される。上記S29の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は有段変速制御手段82及びハイブリッド制御手段86に対応するS30において、例えば自動変速部20のコーストダウンシフトがクラッチフリーにより実行される。また、クラッチフリーによるコーストダウンシフト中において、第2電動機M2による伝達部材回転速度N18の同期制御が実行される。このように、目標減速度G*が小さいときには、予め設定されたコーストダウンシフト点車速により自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが適切に判断される。そして、目標減速度G*が小さいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、自動変速部20の入力トルクTINが零であると判断されるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が小さいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。或いは、目標減速度G*が大きいときには、予め設定されたコーストダウンシフト点車速により第2電動機M2による回生効率が可及的に高くされるか否かが適切に判断される。そして、目標減速度G*が大きいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、第2電動機M2による回生効率が可及的に高くされるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が大きいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化の抑制よりも燃費の向上が優先される。
【0105】
上述のように、本実施例によれば、減速走行中に第2電動機M2による回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることを条件として自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、コーストダウンシフトの際は自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、自動変速部20の変速を入力トルクTINが零と判断されるときに実行することで、変速時の自動変速部20の入力トルクTINの変化が抑制されて変速ショックが抑制される。
【0106】
また、本実施例によれば、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する為のコーストダウンシフト点車速が予め設定されており、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断するということは、車両状態がコーストダウンシフト点車速にあるか否かを判断することであるので、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが適切に判断され、自動変速部20の入力トルクTINが零であるときに自動変速部20のコーストダウンシフトが適切に実行される。
【0107】
また、本実施例によれば、第2電動機M2による回生トルクのみが付与されているときの通常変速点V0を目標減速度G*の増大量に応じて低車速側へ変更することにより、自動変速部20の入力トルクTINが零となるところでコーストダウンシフト点車速が設定されるので、自動変速部20の入力トルクTINが零であるときに自動変速部20のコーストダウンシフトが一層適切に実行される。
【0108】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上(例えば所定目標減速度G*’以上)のときには、自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることよりも燃費の向上を条件として自動変速部20の変速が実行されるので、小さな減速度に比較して運転者が変速ショックを感じ難いと思われる大きな減速度のときには、変速ショック抑制よりも燃費が重視されて燃費が向上させられる。
【0109】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上のときには、第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされるように変更された高効率用ダウンシフト点を用いて自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、燃費の向上を条件とする自動変速部20の変速が適切に実行される。
【0110】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は実施例相互を組み合わせて実施可能であると共にその他の態様においても適用される。
【0111】
例えば、前述の実施例では、自動変速部20内の引摺りトルク等を零として自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTを自動変速部20の入力トルクTINとして取り扱ったが、自動変速部20内の引摺りトルク等を零としない場合にはその引摺りトルク分等を考慮して自動変速部20の入力トルクTINの零(すなわち自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTの零)を判断すれば良い。
【0112】
また、前述の実施例では、減速走行時に実行する自動変速部20のコーストダウンシフトにおいて、クラッチフリーとする変速時同期制御が行われたが、クラッチツゥクラッチ変速により自動変速部20のコーストダウンシフトを実行しても良い。
【0113】
また、前述の実施例では、目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上であるか否かを判定することにより、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するか否かを判定したが、ブレーキ操作量Braが所定以上であるか否かを判定することで判定しても良い。
【0114】
また、前述の実施例では、減速走行時の自動変速部20の入力トルクTINは専ら第2電動機M2による回生トルクであったが、例えば蓄電装置56の入力制限Winの状態に応じて減速走行時に回生トルクに加えてエンジンフリクショントルクが発生させられても良い。このような場合、エンジンフリクショントルクは基本的には負トルクであるが、低車速ではエンジンフリクショントルクから正トルクであるクリープトルクとなることから、エンジンフリクショントルクを加味して自動変速部20の入力トルクTINが零となるかが判断される。
【0115】
また、前述の実施例の車両用動力伝達装置10は、駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と、電気式変速機能としての差動部11と、機械式変速機能としての自動変速部20とを備えていたが、少なくとも複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と、その変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備えておれば、本発明は適用され得る。例えば、差動部11の出力回転部材である伝達部材18に電動機が変速部を介して連結される車両用動力伝達装置であっても良い。また、変速部は、例えば手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)であっても良い。
【0116】
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0117】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0118】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0119】
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられて入力側回転部材に動力伝達可能に電動機及びエンジン8が連結されておればよい。
【0120】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0121】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0122】
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0123】
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0124】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0125】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0126】
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0127】
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0128】
また、前述の実施例において、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0129】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0130】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0131】
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0132】
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
【0133】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0134】
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0135】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0136】
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
11:差動部
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(変速部の入力側回転部材)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪(車輪)
40:ホイールブレーキ装置(制動装置)
80:電子制御装置(制御装置)
M1:第1電動機(差動用電動機)
M2:第2電動機(電動機)
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機を備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、コースト走行時に電動機を回生制御することにより車両に制動力を付与する際の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機を備える車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1、2の車両がそれである。また、特許文献1では、例えば出力要求量(アクセル開度や要求出力トルク)及び車速を変数として予め設定された所定の変速線に従って変速部の変速が実行される。また、コースト走行時にはエネルギ効率の向上(燃費向上)を図る観点から電動機を回生制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−207690号公報
【特許文献2】特開2002−323070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1に示されるような車両用動力伝達装置では、コースト走行中にダウンシフト線を横切るとコーストダウンシフトが実行される。このとき電動機による回生トルクが変速部に入力されており、コースト走行時に電動機による回生トルクを付与したまま変速を行うと変速ショックが生じる可能性がある。これに対して、良く知られたクラッチツウクラッチ変速により変速部の変速が実行されて変速ショックが抑制される。また、変速部の変速過程において、変速部内の解放側係合装置と係合側係合装置とを共に解放状態とするクラッチフリー状態とし、そのクラッチフリー状態の間に電動機により変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させて変速を進行させる場合も考えられる。このクラッチフリー状態を介して変速を進行させる場合には、電動機による同期制御によってクラッチフリー状態中に変速部の入力トルクが変化しても出力側ではその影響を受けず、またクラッチツウクラッチ変速のようなトルクの受け渡しを行わない分複雑な制御が必要とされないが、クラッチフリー状態を解除した変速完了時に変速部の入力トルクが出力側へステップ的に伝達されることになり入力トルクの大きさによっては変速ショックが増大する可能性がある。その為、アクセルオフのコーストダウンシフトが低下する車速のみによって判断されることに鑑みて、上記変速ショックが抑制される車両状態にてコーストダウンシフト点車速を設定することが考えられる。
【0005】
ところで、コースト走行中の車両には、例えばコースト走行時の車速やブレーキオン時の操作力(例えば踏力)に応じて決定された目標減速度が達成されるように回生トルクやホイールブレーキ装置によるホイールブレーキトルクにより発生させられる制動力(制動トルク)が付与される。例えば、ブレーキオフ時には回生トルクのみにより制動力が発生させられ、またブレーキオン時には回生トルク及びホイールブレーキトルクにより制動力が発生させられる。このような場合、例えばブレーキ操作量に応じて増大する目標減速度が得られるように、ホイールブレーキトルクが増大させられるが、燃費向上の観点や目標減速度を所定割合でトルク分担することから回生トルク分も増大させられる。そうすると、ブレーキ操作量によって同一車速であっても回生トルクの大きさすなわち変速部の入力トルクの大きさが変化する可能性がある。従って、上記コーストダウンシフト点車速を一律に設定すると、ブレーキ操作量によってダウンシフト時の変速部の入力トルクの大きさが異なり、ダウンシフト完了時に変速部の出力側に表れるトルクが大きくされて変速ショックが増大する可能性がある。尚、上述したような課題は未公知であり、変速ショックが抑制されるようにコーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することについて未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備える車両用動力伝達装置において、コーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することでコーストダウンシフト時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と、その変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、減速走行中には前記電動機による回生トルクが付与される車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 減速走行中に前記回生トルクを含む前記変速部の入力トルクが略零と判断されることを条件として前記変速部の変速を実行することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、減速走行中に電動機による回生トルクを含む変速部の入力トルクが略零と判断されることを条件として変速部の変速が実行されるので、例えばコーストダウンシフトの際は変速部の入力トルクが略零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に変速部の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記回生トルクを用いて前記変速部の入力トルクを略零と判断する為の所定判定値が予め設定されており、前記回生トルクが前記所定判定値となっているか否かに基づいて前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断する。このようにすれば、変速部の入力トルクが略零であるか否かが適切に判断され、変速部の入力トルクが略零であるときに変速部の変速が適切に実行される。
【0010】
また、好適には、前記変速部の入力トルクが略零となる車両状態にて前記変速部の変速を実行する為の変速点が予め設定されており、前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断するということは、車両状態が前記変速点にあるか否かを判断することである。このようにすれば、変速部の入力トルクが略零であるか否かが適切に判断され、変速部の入力トルクが略零であるときに変速部の変速が適切に実行される。
【0011】
また、好適には、車輪にホイールブレーキトルクを付与する制動装置を備え、目標減速度が達成されるように前記回生トルクに加えて前記ホイールブレーキトルクにより車両に制動力を付与するものであり、前記回生トルクのみが付与されているときの前記変速点を目標減速度の増大量に応じて低車速側へ変更することにより、前記変速部の入力トルクが略零となるところで前記変速点が設定される。このようにすれば、変速部の入力トルクが略零であるときに変速部の変速が一層適切に実行される。
【0012】
また、好適には、前記変速部の変速過程では、前記変速部内の動力伝達経路を解放状態として前記電動機により前記変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行う。このようにすれば、例えばクラッチツゥクラッチ変速に比較して、変速時同期制御(同期の為の電動機トルク)による変速過程での変速部の入力トルク変化の影響が出力側では出ず、また簡単な制御で変速部の変速を進行させられる。また、このように変速部の変速を進行させたとしても、コーストダウンシフト完了時に変速部の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制されていることから、変速ショックの増大が可及的に抑制される。
【0013】
また、好適には、目標減速度が所定以上のときには、前記変速部の入力トルクが略零と判断されることよりも燃費の向上を条件として前記変速部の変速を実行する。このようにすれば、小さな減速度に比較して運転者が変速ショックを感じ難いと思われる大きな減速度のときには、変速ショック抑制よりも燃費が重視されて燃費が向上させられる。
【0014】
また、好適には、前記電動機の回生効率が可及的に高くされるように前記変速部の変速を実行する。このようにすれば、燃費の向上を条件とする変速部の変速が適切に実行される。
【0015】
また、好適には、エンジンに動力伝達可能に連結された差動部を更に備え、前記変速部は、前記エンジンから駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する。このようにすれば、エンジン、差動部、変速部、電動機を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。
【0016】
また、好適には、前記差動部は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されてその差動機構の差動状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する。このようにすれば、電気的な無段変速機として機能する差動部を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。また、差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、差動部は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0017】
また、好適には、前記変速部は、機械的に変速比が設定される有段変速機である。このようにすれば、複数の変速段が段階的に成立させられる有段変速機(変速部)を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、変速部の変速を入力トルクが略零と判断されるときに実行することで、変速時の変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制することができる制御装置が提供される。
【0018】
また、好適には、前記有段変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源(エンジン)により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
【0019】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
【0020】
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0021】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0022】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】油圧制御回路のうちクラッチ及びブレーキの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブに関する回路図である。
【図6】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図7】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図1の車両用動力伝達装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図9】図1のエンジンの最適燃費率曲線の一例を示す図である。
【図10】減速走行時に車速に応じて変化する自動変速部を介して伝達された自動変速部の出力トルクの一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図7に相当する別の実施例である。
【図13】電子制御装置の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部の入力トルクの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図11に相当する別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0026】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。尚、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0027】
差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている第2電動機M2とを備える電気式差動部である。尚、伝達部材18は差動部11の出力側回転部材であるが自動変速部20の入力側回転部材にも相当するものである。
【0028】
第1電動機M1及び第2電動機M2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図7参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図7参照)に蓄積する等の作動を行う。
【0029】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0030】
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.416」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。尚、差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0031】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0032】
自動変速部20(変速部)は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26及びシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.488」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.455」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0033】
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。更に第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
【0034】
以上のように構成された自動変速部20では、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより例えばクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合及び一方向クラッチFにより変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
【0035】
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段及び後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0036】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0037】
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0038】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0039】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0040】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XG(X3)が伝達部材18の回転速度N18すなわち差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
【0041】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。更に、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5(第5要素)に対応する相互に連結された第1リングギヤR1及び第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0042】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0043】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
【0044】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
【0045】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0046】
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0047】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ72により検出された出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキスイッチ44により検出された車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)にホイールブレーキトルクを付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)40の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダル42(図7参照)の操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、踏力検出スイッチ45により検出されたブレーキペダル42の踏力すなわちブレーキペダル42の操作量であるブレーキ操作量Braを表す信号、触媒温度を表す信号、アクセル開度センサ48により検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル46(図7参照)の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバ等からなるM1回転速度センサ74により検出された第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバ等からなるM2回転速度センサ76により検出された第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図7参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0048】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、ホイールブレーキ装置40を作動させるためのホイールブレーキ作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図5、図7参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0049】
ホイールブレーキ装置40は、ブレーキペダル42の操作などに関連して、車輪ブレーキに設けられたホイールシリンダへ制動油圧を供給する。このホイールブレーキ装置40では、通常は、マスタシリンダにおいて発生させられるブレーキペダル42の踏力に対応した大きさの制動油圧がホイールシリンダへ直接供給されるが、例えば減速走行(コースト走行)時の制動力制御、ABS制御、トラクション制御、VSC制御、或いはヒルホールド制御時には、減速走行中の目標減速度G*を達成する為に回生トルクと共に発生させられるホイールブレーキトルクの発生、低μ路での車両の制動、発進、旋回走行や、或いは坂路途中の車両停止の保持或いは維持の為に上記踏力に直接的に対応しない制動液圧がホイールシリンダへ供給されるようになっている。
【0050】
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、C3、及びブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AC3、AB1、AB2の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AC3、AB1、AB2には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧(係合油圧)PC1、PC2、PC3、PB1、PB2に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しない電動オイルポンプやエンジン8により回転駆動される機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧として例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0051】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AC3、AB1、AB2の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の係合圧PC1、PC2、PC3、PB1、PB2が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とがすなわち解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とが同時に制御される所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0052】
図6は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0053】
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0054】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0055】
上記「P」乃至「M」ポジション(レンジ)に示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする動力伝達経路の動力伝達遮断状態への切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0056】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBのいずれもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされると共に自動変速部20の出力軸22がロックされ、「N」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBの何れもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされ、「R」、「D」、及び「M」ポジションのいずれかへ手動操作されることで各ポジションに対応した何れかのギヤ段が成立させられて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態とされる。
【0057】
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御部すなわち有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶部すなわち記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0058】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0059】
ハイブリッド制御部すなわちハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0060】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
【0061】
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0062】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶手段84に予め記憶された例えば図9の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0063】
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0064】
ここで、有段変速制御手段82により自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。このような制御では、トータル変速比γTを段階的に変化させることにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段86は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように差動部11の変速を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように自動変速部20の変速制御に同期して差動部11の変速制御を実行する。例えば、自動変速部20の変速前後で過渡的に動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように差動部11の変速制御を実行する。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0066】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0067】
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0068】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図8の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図8に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図8中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
【0070】
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図8の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図8から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0071】
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0072】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0073】
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの減速走行時(惰性(コースト)走行時)やブレーキペダル42の操作によるホイールブレーキ作動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0075】
ここで、車両のコースト走行時には目標減速度G*が設定され、その目標減速度G*が達成されるように車両に制動トルク(制動力)が発生させられる。この制動トルクは、例えば第2電動機M2による回生やホイールブレーキ装置40によるホイールブレーキ等により得られるが、エネルギー効率を考えて回生による制動が優先される。例えば、ブレーキペダル42が操作されていないブレーキオフ時(非制動時)には、目標減速度G*が達成される為の制動トルクが専ら回生トルクにより発生させられる。また、ブレーキペダル42が操作されているブレーキオン時(制動時)には、目標減速度G*が達成される為の制動トルクが回生トルク及びホイールブレーキトルクにより所定割合でトルク分担されて発生させられる。この際、ブレーキペダル42の操作により目標減速度G*が増大する分の制動トルクは、ホイールブレーキトルクのみで賄うのではなく、燃費向上の観点や目標減速度G*を所定割合でトルク分担するという意味合いから回生トルクも用いられる。また、アクセルオフの減速走行時に目標減速度G*を達成するときには、ハイブリッド制御手段52によりフューエルカットにてエンジン8の作動が停止され且つ第1電動機M1が空転され、差動部11の差動作用によって車速Vに拘束されることなくすなわち自動変速部20の出力軸22の回転速度NOUTと変速比γATとに基づいて一意的に定められる伝達部材回転速度N18に拘わらずエンジン回転速度NEが零乃至略零に維持される。よって、エンジン8の引き摺り(回転抵抗)によるポンピングロスの発生が抑制される分、エンジン引摺りトルクによる制動トルク(減速度)が抑制されて回生量が増加される。
【0076】
ところで、コースト走行中にダウンシフト線を横切ると自動変速部20のコーストダウンシフトが実行される。有段変速制御手段82は、例えばこのときのコーストダウンシフトをクラッチフリーにより実行する。すなわち、有段変速制御手段82は、解放側係合装置の解放油圧指令値を変速開始時点で零にし且つ変速期間中は係合側係合装置の係合油圧指令値を低圧待機圧とする指令を油圧制御回路70へ出力する。また、ハイブリッド制御手段86は、有段変速制御手段82によるこのコーストダウンシフト中において、第2電動機M2により伝達部材18をコーストダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させる。このように、自動変速部20のコーストダウンシフト過程では、自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により自動変速部20の入力側回転部材(すなわち伝達部材18)をダウンシフト後の回転速度に同期させる変速時同期制御が行われる。
【0077】
有段変速制御手段82によるクラッチフリー状態を介して自動変速部20のコーストダウンシフトを進行させる場合には、第2電動機M2による回転同期制御によってクラッチフリー状態中に自動変速部20の入力トルクTINが変化しても出力側ではその影響を受けず、またクラッチツウクラッチ変速のようなトルクの受け渡しを行わない分複雑な制御が必要とされない。しかしながら、クラッチフリー状態を解除したダウンシフト完了時には、自動変速部20の入力トルクTIN(例えば第2電動機M2による回生トルクである)が出力側へステップ的に伝達されることになり変速ショックが発生する可能性がある。
【0078】
以下に、変速ショックを抑制するように上記コーストダウンシフトを適切なタイミングで実行することについて詳細に説明する。図10は、減速走行時に車速Vに応じて変化する自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTの一例を示す図である。この自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTは、自動変速部20内の引摺りトルク等を零と見れば自動変速部20の入力トルクTINと同じ意味であり、本実施例では自動変速部20の入力トルクTINとして取り扱う。図10において、実線はブレーキオフ時(非制動時)の場合であり、破線はブレーキオン時(制動時)の場合である。また、自動変速部20の入力トルクTINは、専ら目標減速度G*が達成される為の制動トルクとなる第2電動機M2による回生トルクであるが、車速低下時には第2電動機M2により回生トルクに替えてクリープトルクが発生させられて負トルクから正トルクとなる。
【0079】
一方で、ブレーキオン時には、ブレーキオフ時に比較して目標減速度G*が増大する分回生トルク分も増大させられるので、破線に示すように自動変速部20の入力トルクTINにおける負トルクも増大させられる。また、図示はしていないが、同じブレーキオン時であっても、目標減速度G*が変化すれば回生トルク分も変化させられるので、負トルクも変化させられる。そうすると、ブレーキ操作やブレーキ操作量Braによって同一車速Vであっても回生トルクの大きさすなわち自動変速部20の入力トルクTINが変化する可能性がある。従って、例えばブレーキオフ時(実線)において変速ショックが抑制される車両状態例えば自動変速部20の入力トルクTINが略零乃至零になる車速V0のところにコーストダウンシフト点車速を一律に設定すると、ブレーキオン時(破線)ではコーストダウンシフト時にブレーキオフ時よりも大きな負トルクが発生することになり、ダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク(自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUT)が大きくされてコーストダウンシフトに伴う変速ショックが増大する可能性がある。
【0080】
そこで、本実施例では、上記変速ショックを抑制する為に、減速走行中に回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが略零と判断されることを条件として、すなわち自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTが略零と判断されることを条件として、自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。一方、減速走行時の減速度が大きい場合には、変速ショックが減速(例えば減速ショック)に紛れるので、減速度が小さい場合に比較してユーザは上記変速ショックを感じ難いと考えられる。このような場合には、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するという観点から自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すれば良い。そこで、本実施例では、目標減速度G*が所定以上のときには、変速ショック抑制よりも燃費が向上させられるように、自動変速部20の入力トルクTINが略零と判断されることよりも燃費の向上を条件として、自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。
【0081】
より具体的には、図7に戻り、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段88は、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かを判定する。
【0082】
目標減速度算出部すなわち目標減速度算出手段90は、走行状態判定手段88により車両が減速走行中であると判定された場合には、減速走行中の目標減速度G*を算出する。目標減速度算出手段90は、例えばブレーキオフ時には、車速Vが高い程目標減速度G*が大きくなるように予め実験的に求められて記憶手段84に記憶された車速Vと目標減速度G*との関係から実際の車速Vに基づいて減速走行中の目標減速度G*を算出する。また、目標減速度算出手段90は、例えばブレーキオン時には、ブレーキ操作量Braが大きい程目標減速度G*が大きくなるように予め実験的に求められて記憶手段84に記憶されたブレーキ操作量Braと目標減速度G*との関係から実際のブレーキ操作量Braに基づいて、上記ブレーキオフ時の目標減速度G*に加える形で減速走行中の目標減速度G*を算出する。
【0083】
目標減速度制御部すなわち目標減速度制御手段92は、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が達成されるように車両の制動トルクを発生させる。目標減速度制御手段92は、例えばブレーキオフ時には、エネルギー効率を考えて回生トルクにてその目標減速度G*を達成する為の制動力を得ることを最優先するという観点から、目標減速度G*を達成する為の制動力が回生トルクで得られるようにハイブリッド制御手段86に指令を出力する。目標減速度制御手段92は、例えばブレーキオン時には、目標減速度G*を達成する為の制動力が回生トルク及びホイールブレーキトルクで得られるように、予め実験的に求められて設定された所定のトルク分担割合にて必要な回生トルク及びホイールブレーキトルクを各々算出し、その必要な回生トルクが得られるようにハイブリッド制御手段86に指令を出力すると共に、その必要なホイールブレーキトルクが得られるようにホイールブレーキ装置40に指令を出力する。
【0084】
走行状態判定手段88は、更に、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が所定以上例えば所定目標減速度G*’以上であるか否かを判定する。この所定目標減速度G*’は、変速ショックを感じ難い程のすなわち変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)することができる程の大きな目標減速度G*であることを判定する為の予め実験的に求められて設定された判定値である。
【0085】
負トルク判定部すなわち負トルク判定手段94は、走行状態判定手段88により目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満であると判定された場合は、コーストダウンシフト時の変速ショックを抑制するという観点から、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断する為に、例えば減速走行中の回生トルクが所定判定値例えば所定回生トルクとなっているか否かを判定する。この所定回生トルクは、回生トルクを用いて自動変速部20の入力トルクTINを略零を含む実質的に零と判断する為の予め実験的に求められて設定された入力トルク零判定値である。
【0086】
回生効率判定部すなわち回生効率判定手段96は、走行状態判定手段88により目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上であると判定された場合は、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するという観点から、車速V(或いは車速Vと自動変速部20の変速比γATとから一意的に定められる第2電動機回転速度NM2)が第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の予め実験的に求められて設定された所定車速V’(或いは所定第2電動機回転速度NM2’)であるか否かを判定する。
【0087】
有段変速制御手段82は、更に、負トルク判定手段94により減速走行中の回生トルクが所定回生トルクとなっていると判定された場合には、又は、回生効率判定手段96により車速V(或いは第2電動機回転速度NM2)が所定車速V’(或いは所定第2電動機回転速度NM2’)であると判定された場合には、自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。有段変速制御手段82は、例えばこのときのコーストダウンシフトをクラッチフリーにより実行する。また、ハイブリッド制御手段86は、クラッチフリーによるコーストダウンシフト中において、第2電動機M2による伝達部材回転速度N18の同期制御を実行する。
【0088】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部20の入力トルクTINの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0089】
図11において、先ず、走行状態判定手段88に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく走行状態判定手段88に対応するS21において、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が所定以上例えば所定目標減速度G*’以上であるか否かが判定される。目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満である為に上記S21の判断が否定される場合は負トルク判定手段94に対応するS22において、例えば減速走行中の回生トルクが所定判定値例えば所定回生トルクとなっているか否かに基づいて自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが判断される。一方で、目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上である為に上記S21の判断が肯定される場合は回生効率判定手段96に対応するS23において、例えば車速V(或いは第2電動機回転速度NM2)が第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の予め実験的に求められて設定された所定車速V’(或いは所定第2電動機回転速度NM2’)であるか否かが判定される。
【0090】
上記S22の判断が否定されるか或いは上記S23の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、上記S22の判断が肯定されるか或いは上記S23の判断が肯定される場合は有段変速制御手段82及びハイブリッド制御手段86に対応するS30において、例えば自動変速部20のコーストダウンシフトがクラッチフリーにより実行される。また、クラッチフリーによるコーストダウンシフト中において、第2電動機M2による伝達部材回転速度N18の同期制御が実行される。このように、目標減速度G*が小さいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、自動変速部20の入力トルクTINが零であると判断されるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が小さいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。或いは、目標減速度G*が大きいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、第2電動機M2による回生効率が可及的に高くされるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が大きいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化の抑制よりも燃費の向上が優先される。
【0091】
上述のように、本実施例によれば、減速走行中に第2電動機M2による回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが略零乃至零と判断されることを条件として自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、コーストダウンシフトの際は自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、自動変速部20の変速を入力トルクTINが零と判断されるときに実行することで、変速時の自動変速部20の入力トルクTINの変化が抑制されて変速ショックが抑制される。
【0092】
また、本実施例によれば、第2電動機M2による回生トルクを用いて自動変速部20の入力トルクTINを零と判断する為の所定判定値(例えば所定回生トルク)が予め設定されており、その回生トルクが所定回生トルクとなっているか否かに基づいて自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが判断されるので、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが適切に判断される。よって、自動変速部20の入力トルクTINが零であるときに自動変速部20のコーストダウンシフトが適切に実行される。
【0093】
また、本実施例によれば、自動変速部20の変速過程では、自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により自動変速部20の入力側回転部材(伝達部材18)を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御が実行されるので、例えばクラッチツゥクラッチ変速に比較して、変速時同期制御(例えば同期の為の第2電動機トルクTM2)による変速過程での自動変速部20の入力トルクTIN変化の影響が出力側では出ず、また簡単な制御で自動変速部20の変速が進行させられる。また、このように自動変速部20の変速が進行させられたとしても、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制されていることから、変速ショックの増大が可及的に抑制される。
【0094】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上(例えば所定目標減速度G*’以上)のときには、自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることよりも燃費の向上を条件として自動変速部20の変速が実行されるので、小さな減速度に比較して運転者が変速ショックを感じ難いと思われる大きな減速度のときには、変速ショック抑制よりも燃費が重視されて燃費が向上させられる。
【0095】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上のときには、第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされるように自動変速部20の変速が実行されるので、燃費の向上を条件とする自動変速部20の変速が適切に実行される。
【0096】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0097】
前述の実施例では第2電動機M2による回生トルクが所定回生トルクとなっているか否かに基づいて自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断した。本実施例では、それに替えて、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断するということは、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にて自動変速部20の変速を実行する為の予め設定された変速点に実際の車両状態があるか否かを判断することであるとする。つまり、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する為のコーストダウンシフト点車速を予め設定しておき、そのコーストダウンシフト点車速にて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行するのである。但し、前述したように、コーストダウンシフト点車速を例えばブレーキオフ時において自動変速部20の入力トルクTINが略零となる車速V0のところ(図10参照)で一律に設定すると、ブレーキオン時では変速ショックが増大する可能性がある。そこで、例えば第2電動機M2による回生トルクのみが付与されているときに自動変速部20の入力トルクTINが零となるコーストダウンシフト点車速をブレーキオフ時の通常変速点V0として予め実験的に求めて設定する。そして、ブレーキオン時には、目標減速度G*の増大量に応じて通常変速点V0を低車速側へ変更することにより、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にてコーストダウンシフト点車速を予め設定する。例えば、目標減速度G*は回生トルク及びホイールブレーキトルクにより所定割合でトルク分担されて発生させられることから、ブレーキオン時にはブレーキオフ時に対する目標減速度G*の増大量に応じた所定変更量分だけ通常変速点V0を低車速側へ変更する。つまり、目標減速度G*が増大すれば回生トルクも増えるので、コーストダウンシフト点車速を低車速側にしてなるべく回生トルクが小さいところでコーストダウンシフトを実行できるようにするのである。尚、上記所定変更量は、目標減速度G*が大きい程通常変速点V0が低車速側に変更される際の変更量が大きくされて自動変速部20の入力トルクTINが零となるコーストダウンシフト点車速とされる為の予め実験的に求められて設定された目標減速度G*に基づく変速点変更量である。
【0098】
一方、前述したように、減速走行時の減速度が大きい場合には、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するという観点から自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すれば良い。そこで、本実施例では、目標減速度G*が所定以上のときには、変速ショック抑制よりも燃費が向上させられるように、コーストダウンシフト点車速を第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の予め実験的に求められて設定された高効率用ダウンシフト点へ変更する。
【0099】
具体的には、図12は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図7に相当する図である。走行状態判定手段88は、更に、車両が減速走行中であると判定した場合には、目標減速度G*がブレーキオフ時に対して増大したか否か、すなわち自動変速部20の入力負トルクTINがブレーキオフ時に対して増加したか否かを判定する。走行状態判定手段88は、目標減速度G*の増大判定を、例えばブレーキ操作信号BONに基づいてブレーキオンとなったか否かを判定することで実行しても良い。
【0100】
変速点設定部すなわち変速点設定手段98は、走行状態判定手段88によりブレーキオンでないと判定される場合は、コーストダウンシフト点車速をブレーキオフ時の通常変速点V0に設定する。また、変速点設定手段98は、走行状態判定手段88によりブレーキオンと判定され且つ目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満であると判定された場合は、ブレーキオフ時に対する目標減速度G*の増大量に応じた所定変更量分だけ通常変速点V0を低車速側へ変更したコーストダウンシフト点車速を設定する。更に、変速点設定手段98は、走行状態判定手段88によりブレーキオンと判定され且つ目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上であると判定された場合は、第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の高効率用ダウンシフト点へ変更したコーストダウンシフト点車速を設定する。変速点設定手段98によるコーストダウンシフト点車速の変更は、例えば記憶手段84に記憶されているコーストダウンシフト点車速を変更することで実行される。
【0101】
有段変速制御手段82は、更に、走行状態判定手段88により車両が減速走行中であると判定された場合には、変速点設定手段98により設定されたコーストダウンシフト点車速を用いて、実際の車両状態(例えば実際の車速V)に基づき自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すべきか否かを判断し、判断結果に基づいて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する。
【0102】
図13は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちコーストダウンシフト時の自動変速部20の入力トルクTINの変化を抑制して変速ショックを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、この図13のフローチャートは、図11のフローチャートに相当するものであって、図11の破線囲み部分の制御作動が図13の破線囲み部分の制御作動に置き換わったことが主に相違する。
【0103】
図13において、先ず、走行状態判定手段88に対応するステップS10において、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく走行状態判定手段88に対応するS24において、自動変速部20の入力負トルクTINがブレーキオフ時に対して増加したか否かが、例えばブレーキオンとなったか否かに基づいて判定される。ブレーキオンとされて上記S24の判断が肯定される場合は同じく走行状態判定手段88に対応するS25において、目標減速度算出手段90により算出された目標減速度G*が所定以上例えば所定目標減速度G*’以上であるか否かが判定される。目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上である為に上記S25の判断が肯定される場合は変速点設定手段98に対応するS26において、例えば第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされる為の高効率用ダウンシフト点へ変更されたコーストダウンシフト点車速が設定される。一方で、目標減速度G*が所定目標減速度G*’未満である為に上記S25の判断が否定される場合は同じく変速点設定手段98に対応するS27において、ブレーキオフ時に対する目標減速度G*の増大量に応じた所定変更量分だけ通常変速点V0が低車速側へ変更されたコーストダウンシフト点車速が設定される。対して、ブレーキオンとされておらず上記S24の判断が否定される場合は同じく変速点設定手段98に対応するS28において、コーストダウンシフト点車速がブレーキオフ時の通常変速点V0に設定される。
【0104】
上記S26、S27、或いはS28に続いて、有段変速制御手段82に対応するS29において、例えば上記S26、S27、或いはS28において設定されたコーストダウンシフト点車速を用いて実際の車速Vに基づき自動変速部20のコーストダウンシフトを実行すべきか否かが判断される。上記S29の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は有段変速制御手段82及びハイブリッド制御手段86に対応するS30において、例えば自動変速部20のコーストダウンシフトがクラッチフリーにより実行される。また、クラッチフリーによるコーストダウンシフト中において、第2電動機M2による伝達部材回転速度N18の同期制御が実行される。このように、目標減速度G*が小さいときには、予め設定されたコーストダウンシフト点車速により自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが適切に判断される。そして、目標減速度G*が小さいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、自動変速部20の入力トルクTINが零であると判断されるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が小さいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。或いは、目標減速度G*が大きいときには、予め設定されたコーストダウンシフト点車速により第2電動機M2による回生効率が可及的に高くされるか否かが適切に判断される。そして、目標減速度G*が大きいときの自動変速部20のコーストダウンシフトは、第2電動機M2による回生効率が可及的に高くされるときに適切に実行される。よって、目標減速度G*が大きいときには、自動変速部20のコーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化の抑制よりも燃費の向上が優先される。
【0105】
上述のように、本実施例によれば、減速走行中に第2電動機M2による回生トルクを含む自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることを条件として自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、コーストダウンシフトの際は自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されるトルク値とされており、コーストダウンシフト完了時に自動変速部20の出力側に表れるトルク変化が可及的に抑制される。このように、自動変速部20の変速を入力トルクTINが零と判断されるときに実行することで、変速時の自動変速部20の入力トルクTINの変化が抑制されて変速ショックが抑制される。
【0106】
また、本実施例によれば、自動変速部20の入力トルクTINが零となる車両状態にて自動変速部20のコーストダウンシフトを実行する為のコーストダウンシフト点車速が予め設定されており、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かを判断するということは、車両状態がコーストダウンシフト点車速にあるか否かを判断することであるので、自動変速部20の入力トルクTINが零であるか否かが適切に判断され、自動変速部20の入力トルクTINが零であるときに自動変速部20のコーストダウンシフトが適切に実行される。
【0107】
また、本実施例によれば、第2電動機M2による回生トルクのみが付与されているときの通常変速点V0を目標減速度G*の増大量に応じて低車速側へ変更することにより、自動変速部20の入力トルクTINが零となるところでコーストダウンシフト点車速が設定されるので、自動変速部20の入力トルクTINが零であるときに自動変速部20のコーストダウンシフトが一層適切に実行される。
【0108】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上(例えば所定目標減速度G*’以上)のときには、自動変速部20の入力トルクTINが零と判断されることよりも燃費の向上を条件として自動変速部20の変速が実行されるので、小さな減速度に比較して運転者が変速ショックを感じ難いと思われる大きな減速度のときには、変速ショック抑制よりも燃費が重視されて燃費が向上させられる。
【0109】
また、本実施例によれば、目標減速度G*が所定以上のときには、第2電動機M2の回生効率が可及的に高くされるように変更された高効率用ダウンシフト点を用いて自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されるので、燃費の向上を条件とする自動変速部20の変速が適切に実行される。
【0110】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は実施例相互を組み合わせて実施可能であると共にその他の態様においても適用される。
【0111】
例えば、前述の実施例では、自動変速部20内の引摺りトルク等を零として自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTを自動変速部20の入力トルクTINとして取り扱ったが、自動変速部20内の引摺りトルク等を零としない場合にはその引摺りトルク分等を考慮して自動変速部20の入力トルクTINの零(すなわち自動変速部20を介して伝達された自動変速部20の出力トルクTOUTの零)を判断すれば良い。
【0112】
また、前述の実施例では、減速走行時に実行する自動変速部20のコーストダウンシフトにおいて、クラッチフリーとする変速時同期制御が行われたが、クラッチツゥクラッチ変速により自動変速部20のコーストダウンシフトを実行しても良い。
【0113】
また、前述の実施例では、目標減速度G*が所定目標減速度G*’以上であるか否かを判定することにより、変速ショック抑制よりも燃費を重視(優先)するか否かを判定したが、ブレーキ操作量Braが所定以上であるか否かを判定することで判定しても良い。
【0114】
また、前述の実施例では、減速走行時の自動変速部20の入力トルクTINは専ら第2電動機M2による回生トルクであったが、例えば蓄電装置56の入力制限Winの状態に応じて減速走行時に回生トルクに加えてエンジンフリクショントルクが発生させられても良い。このような場合、エンジンフリクショントルクは基本的には負トルクであるが、低車速ではエンジンフリクショントルクから正トルクであるクリープトルクとなることから、エンジンフリクショントルクを加味して自動変速部20の入力トルクTINが零となるかが判断される。
【0115】
また、前述の実施例の車両用動力伝達装置10は、駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と、電気式変速機能としての差動部11と、機械式変速機能としての自動変速部20とを備えていたが、少なくとも複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と、その変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備えておれば、本発明は適用され得る。例えば、差動部11の出力回転部材である伝達部材18に電動機が変速部を介して連結される車両用動力伝達装置であっても良い。また、変速部は、例えば手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)であっても良い。
【0116】
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0117】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0118】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0119】
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられて入力側回転部材に動力伝達可能に電動機及びエンジン8が連結されておればよい。
【0120】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0121】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0122】
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0123】
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0124】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0125】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0126】
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0127】
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0128】
また、前述の実施例において、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0129】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0130】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0131】
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0132】
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
【0133】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0134】
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0135】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0136】
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
11:差動部
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(変速部の入力側回転部材)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪(車輪)
40:ホイールブレーキ装置(制動装置)
80:電子制御装置(制御装置)
M1:第1電動機(差動用電動機)
M2:第2電動機(電動機)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と、該変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、減速走行中には前記電動機による回生トルクが付与される車両用動力伝達装置の制御装置であって、
減速走行中に前記回生トルクを含む前記変速部の入力トルクが略零と判断されることを条件として前記変速部の変速を実行することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記回生トルクを用いて前記変速部の入力トルクを略零と判断する為の所定判定値が予め設定されており、
前記回生トルクが前記所定判定値となっているか否かに基づいて前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記変速部の入力トルクが略零となる車両状態にて前記変速部の変速を実行する為の変速点が予め設定されており、
前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断するということは、車両状態が前記変速点にあるか否かを判断することであることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
車輪にホイールブレーキトルクを付与する制動装置を備え、
目標減速度が達成されるように前記回生トルクに加えて前記ホイールブレーキトルクにより車両に制動力を付与するものであり、
前記回生トルクのみが付与されているときの前記変速点を目標減速度の増大量に応じて低車速側へ変更することにより、前記変速部の入力トルクが略零となるところで前記変速点が設定されることを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記変速部の変速過程では、前記変速部内の動力伝達経路を解放状態として前記電動機により前記変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
目標減速度が所定以上のときには、前記変速部の入力トルクが略零と判断されることよりも燃費の向上を条件として前記変速部の変速を実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記電動機の回生効率が可及的に高くされるように前記変速部の変速を実行することを特徴とする請求項6に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動部を更に備え、
前記変速部は、前記エンジンから駆動輪への動力伝達経路の一部を構成することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記差動部は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し、該差動用電動機の運転状態が制御されて該差動機構の差動状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動することを特徴とする請求項8に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記変速部は、機械的に変速比が設定される有段変速機であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
複数の変速比が段階的に成立させられる変速部と、該変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機とを備え、減速走行中には前記電動機による回生トルクが付与される車両用動力伝達装置の制御装置であって、
減速走行中に前記回生トルクを含む前記変速部の入力トルクが略零と判断されることを条件として前記変速部の変速を実行することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記回生トルクを用いて前記変速部の入力トルクを略零と判断する為の所定判定値が予め設定されており、
前記回生トルクが前記所定判定値となっているか否かに基づいて前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記変速部の入力トルクが略零となる車両状態にて前記変速部の変速を実行する為の変速点が予め設定されており、
前記変速部の入力トルクが略零であるか否かを判断するということは、車両状態が前記変速点にあるか否かを判断することであることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
車輪にホイールブレーキトルクを付与する制動装置を備え、
目標減速度が達成されるように前記回生トルクに加えて前記ホイールブレーキトルクにより車両に制動力を付与するものであり、
前記回生トルクのみが付与されているときの前記変速点を目標減速度の増大量に応じて低車速側へ変更することにより、前記変速部の入力トルクが略零となるところで前記変速点が設定されることを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記変速部の変速過程では、前記変速部内の動力伝達経路を解放状態として前記電動機により前記変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
目標減速度が所定以上のときには、前記変速部の入力トルクが略零と判断されることよりも燃費の向上を条件として前記変速部の変速を実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記電動機の回生効率が可及的に高くされるように前記変速部の変速を実行することを特徴とする請求項6に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動部を更に備え、
前記変速部は、前記エンジンから駆動輪への動力伝達経路の一部を構成することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記差動部は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し、該差動用電動機の運転状態が制御されて該差動機構の差動状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動することを特徴とする請求項8に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記変速部は、機械的に変速比が設定される有段変速機であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−269632(P2010−269632A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121151(P2009−121151)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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