説明

GaN単結晶基板及びGaN単結晶基板の製造方法

【課題】発光素子、電子デバイス用素子に用いられるGaN自立基板であって、素子の歩留りの向上ができるGaN自立基板及びGaN自立基板の製造方法を提供する。
【解決手段】サファイア基板上に形成したGaN薄膜上にマスクを形成して下地基板とした後、前記下地基板上にIII族原料ガスとV族原料ガスとを導入し、成長温度1100℃以上1400℃以下、III族原料ガスの分圧に対する前記V族原料ガスの分圧の比(V/III比)が0.4以上1以下の範囲内の第1の条件で マスクが形成されていないGaN薄膜の領域から、断面が略三角形状のGaN単結晶としての成長結晶を成長させ、つづいて第2の条件で選択横方向成長させることにより、GaN単結晶を成長させる。こうして得られたGaN単結晶は基板表面と、基板表面に含まれる極性反転区(インバージョンドメイン)とを備え、極性反転区の基板表面における個数密度が20cm−2以下となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN単結晶基板及びGaN単結晶基板の製造方法に関する。特に、本発明は、異常成長を低減することができるGaN単結晶基板及びGaN単結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化ガリウムアルミニウム(AlGaN)等のIII族窒化物化合物半導体としてのGaN系化合物半導体は、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)、レーザダイオード(Laser Diode:LD)等の発光素子用の材料などに用いられている。また、GaN系化合物半導体は、耐熱性、耐環境性に優れているので、電子デバイス用素子にも用いられている。
【0003】
このような発光素子、電子デバイス用素子に用いられるGaN自立基板の製造方法として、例えば、超高温高圧法、フラックス法、ハライド気相エピタキシー(Halide Vapor Phase Epitaxy:HVPE)法等についての開発が進んでいる。ここで、HVPE法によりGaN自立基板を得ることができるものの、従来のHVPE法により形成されるGaN自立基板上に所定の化合物半導体層をエピタキシャル成長させると、エピタキシャル成長後の基板表面の一部に窪み及び盛り上がりが生じる異常成長の問題が発生する場合がある(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Liliental-Weber et. al., Journal of Electronic Materials, May 2005 p. 605
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されている方法において得られるGaN自立基板においてはGaN自立基板の表面に異常成長した領域が含まれている。このようなGaN自立基板の上に発光素子等の構造をエピタキシャル成長させた場合、異常成長した領域上においてはエピタキシャル成長させた半導体層に乱れが生じる。したがって、非特許文献1に記載されている方法を用いて得られるGaN自立基板では、発光素子等の歩留りを向上させることは困難である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、素子の歩留りの向上ができるGaN自立基板及びGaN自立基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、基板表面と、基板表面に含まれる極性反転区とを備え、極性反転区の基板表面における個数密度が20cm−2以下であるGaN単結晶基板が提供される。
【0007】
また、上記GaN単結晶基板において、極性反転区の最大外径が1mm以下であってもよい。
【0008】
また、本発明は、上記目的を達成するため、基板上にIII族原料ガスとV族原料ガスとを導入し、成長温度が1100℃以上1400℃以下の範囲内であり、III族原料ガスの分圧に対するV族原料ガスの分圧の比(V/III比)が0.4以上1以下の範囲内の成長条件で、前記基板の表面における極性反転区の個数密度が20cm−2以下であるGaN単結晶を前記基板上に成長させる成長工程を備えるGaN単結晶の製造方法が提供される。
【0009】
また、上記GaN単結晶の製造方法は、成長工程が、0.01%から0.1%の分圧の塩化水素(HCl)ガスを更に添加する工程を有していてもよい。また、基板上に種結晶層を形成する種結晶層形成工程と、種結晶層上にマスクを形成するマスク形成工程とを更に備え、成長工程が、マスクが形成された種結晶層上にGaN単結晶を成長させてもよい。また、マスク形成工程が、赤外領域の波長の光を吸収する材料を用いてマスクを形成し、成長工程が、種結晶層上のマスクが形成されていない領域からGaN単結晶を選択横方向成長させてもよい。更に、マスク形成工程が、マスクをTiN、ZrN、又はHfNのいずれかから形成してもよい。
【0010】
また、上記GaN単結晶の製造方法は、マスク形成工程が、20nm以上1mm以下のサイズのマスクを形成してもよい。また、成長工程は、GaN単結晶の成長を中断する成長中断工程と、成長中断工程中に、700℃から900℃の温度範囲内において0.001%から0.05%の分圧の塩化水素ガスを添加してGaN単結晶に熱処理を施す熱処理工程と、熱処理後に、GaN単結晶の成長を再開する成長再開工程とを有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のGaN自立基板の製造方法によれば、GaN単結晶中に発生するインバージョンドメインの大きさ及び個数密度を低減させることにより、発光素子等の素子の歩留りの向上ができるGaN自立基板を製造すること、及び当該GaN自立基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施の形態]
図1(a)は、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の部分断面図を示し、図1(b)は、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の基板表面の部分拡大図を示す。
【0013】
(GaN自立基板10)
本発明の実施の形態に係るGaN自立基板10は、上面視にて略円形に形成される。GaN自立基板10は、一例として、上面視における直径が約50.8mm(2インチ)の略円形であって、厚さが約1mmに形成される。そして、本実施の形態に係るGaN自立基板10は、図1(a)に示すように、Ga極性面110が露出している基板表面10aから基板裏面10bに実質的に至る極性反転区としてのインバージョンドメイン100を有する。なお、インバージョンドメイン100とは、周囲の結晶とは極性が反転した領域を指す。したがって、本実施の形態に係るGaN自立基板10のインバージョンドメイン100は、N極性を有する領域である。
【0014】
具体的に、GaN自立基板10は、所定の平均長のインバージョンドメイン100を所定の個数密度で有する。より具体的には、基板表面10aの総面積に対する複数のインバージョンドメイン100それぞれの面積の和の比が2%以下であると共に、基板表面10a内におけるインバージョンドメイン100の個数密度が20cm−2以下となるように、GaN自立基板10は形成される。
【0015】
また、図1(b)に示すように、基板表面10a上には複数のインバージョンドメイン100(例えば、インバージョンドメイン100a、インバージョンドメイン100b、インバージョンドメイン100c、インバージョンドメイン100d等)がそれぞれ離間して形成される。また、基板表面10aに形成される複数のインバージョンドメイン100のサイズとしての最大の径(最大外径)が1mm以下となるように、GaN自立基板10は形成される。なお、インバージョンドメイン100は、略円形状、不定形のアメーバ形状、ライン形状等を含む様々な形に形成される。したがって、本実施の形態においてインバージョンドメイン100の最大外径とは、インバージョンドメイン100の外形寸法のうち最大の部分をいう。
【0016】
(GaNの極性)
ここで、GaNの極性について説明する。GaNはWurtzite型の結晶構造を有する。Wurtzite型の結晶構造は、c面に関して反転対称性を有さない。したがって、Wurtzite型の結晶構造はc軸方向について極性を有し、+c軸方向と−c軸方向とが区別されることとなる。ここで、+c軸方向の面はGa極性面又はGa面、−c軸方向の面はN極性面又はN面と呼ぶ。
【0017】
そして、Wurtzite型の結晶構造は、1つの原子を当該原子とは異なる4つの原子が包囲する四面体構造を基本構造とする。Ga原子を中心とした四面体構造を考えると、Ga原子の下側にN原子との3本の結合手が配置される向きに結晶を置いたとき、上の方向が+c軸方向となる。このように規定した場合、当該結晶の上側の面がGa極性面となり、Ga極性面の反対側の面がN極性面となる。そして、Ga極性面中にN極性面が混在している場合、N極性面が存在する領域がインバージョンドメインとなる。
【0018】
更に、GaNの物理的・化学的特性は、Ga極性面とN極性面とで異なる。例えば、Ga極性面の硬度はN極性面の硬度よりも大きく、Ga極性面のエッチングレートはN極性面のエッチングレートよりも極めて小さい。すなわち、Ga極性面の方がN極性面よりも堅牢であり、化学的に安定である。また、GaN結晶上にエピタキシャル成長をする場合、Ga極性面上に形成されるエピタキシャル層の表面は平坦になりやすく、N極性面上に形成されるエピタキシャル層の表面は凹凸が形成されやすい。したがって、レーザダイオード(Laser Diode:LD)、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)等のデバイスを形成する場合、GaNのGa極性面上に所定のエピタキシャル層を形成する。
【0019】
この場合において、Ga極性面中にN極性面が含まれている場合、すなわちGa極性面中にインバージョンドメイン100が含まれている場合には、インバージョンドメイン100が存在する領域の上において、異常成長が発生する。エピタキシャル成長等の結晶成長における結晶の成長速度は原料の原子の吸着と脱離との競合が律速段階となるので、Ga極性面よりも化学的に不安定なインバージョンドメイン100上での結晶の成長速度は、Ga極性面上における結晶の成長速度よりも小さい。これにより、インバージョンドメイン100上においては、エピタキシャル成長時に窪み(ピット)が発生すると考えられる。また、インバージョンドメイン100上に吸着しなかった原料は、インバージョンドメイン100の周辺に局所的に供給される。これにより、インバージョンドメイン100周辺の結晶の成長速度が増加するので、インバージョンドメイン100のピット周辺のエピタキシャル層は盛り上がるように形成される。
【0020】
(インバージョンドメイン100の評価方法)
極小領域に存在するインバージョンドメイン100の検出は、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた収束電子線回折(Convergent Beam Electron Diffraction:CBED)法を用いてGaN結晶表面の極性を判定することにより判断できる。
【0021】
また、直径が約50.8mmの領域等の広い領域に分散して存在しているインバージョンドメイン100の分布状況は、微分干渉顕微鏡、走査型電子顕微鏡を用いて評価する。具体的には、研磨されたGaN自立基板の表面を微分干渉顕微鏡、走査型電子顕微鏡を用いて観察する。この場合に、所定の深さの窪みが観察されるが、この窪みがインバージョンドメイン100に対応するので、この窪みの分布状況を観察する。これにより、観察対象のGaN自立基板上に分布しているインバージョンドメイン100の分布状況を評価することができる。
【0022】
このような評価方法は、本発明者が得た以下の知見から確立されたものである。すなわち、研磨されたGaN自立基板の表面を微分干渉顕微鏡、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、数十nm程度の深さを有する窪みが観察される場合がある。CBED法を用いてこの窪みの内部の極性判定を実施したところ、窪みの内部の領域がN極性面であるという知見を本発明者は得た。つまり、このような窪みとインバージョンドメインとが一対一に対応している知見を本発明者は得た。これにより、微分干渉顕微鏡、走査型電子顕微鏡を用いた簡便な手段により、広範囲に分布するインバージョンドメインを評価することができるようになったものである。
【0023】
(インバージョンドメイン100の面積比)
基板表面10aの複数のインバージョンドメイン100の合計の面積が基板表面10aの面積に占める割合であるインバージョンドメイン100の面積比が大きいGaN自立基板ほど、当該GaN自立基板から形成される発光素子等の素子の歩留りは低下する。インバージョンドメイン100の面積比が10%を超えることは通常少ないものの、本発明の実施の形態においてはよりインバージョンドメイン100の面積比が小さくなるようにGaN自立基板10は形成される。本実施の形態においては、インバージョンドメイン100の面積比が所定値以下、具体的には、2%以下となるようにGaN自立基板10は形成される。
【0024】
図2は、インバージョンドメイン(ID)の個数密度と歩留りとの相関を示す。
【0025】
(インバージョンドメイン100の個数密度)
上述したインバージョンドメイン100の面積比が所定値以下の場合でも、基板表面10aにおけるインバージョンドメイン100の個数の密度(個数密度)が所定値より大きいGaN自立基板の場合、当該GaN自立基板から形成される発光素子等の素子の歩留りは低下する。
【0026】
すなわち、例えばインバージョンドメイン100の面積比が1%であるGaN自立基板上に所定のデバイス構造を形成した後、この自立基板からチップサイズが0.5mmのチップを切り出す場合を想定する。切り出したチップにインバージョンドメイン100が含まれていると、当該チップは不良品となる。この場合、インバージョンドメイン100がGaN自立基板上の所定の位置に集合している場合と、インバージョンドメイン100がGaN自立基板上に均一又はある程度の割合で分散している場合とを比べると、インバージョンドメイン100がGaN自立基板上に分散している場合の方が切り出すチップの歩留りは低下する。したがって、基板表面100aにおけるインバージョンドメイン100の個数密度が所定値以下となるように、本実施の形態に係るGaN自立基板10は形成される。
【0027】
ここで、GaN自立基板10の基板表面10a上に所定のデバイス構造をエピタキシャル成長により形成すると、インバージョンドメイン100の周辺部はインバージョンドメイン100上における異常成長により盛り上がる。これにより、インバージョンドメイン100の存在は、GaN自立基板10上に所定のデバイス構造をエピタキシャル成長した後のデバイス作成プロセスにおいて歩留りの低下をもたらす。
【0028】
また、インバージョンドメイン100は、その周辺にインバージョンドメイン100の直径の10倍から100倍程度の広さを有する高不純物濃度領域を伴う場合がある。これは、HVPE法による結晶成長時において、Ga極性面とN極性面との成長速度の違いによりインバージョンドメイン100を中心として形成されるピットの内壁面がc面に比べて不純物を取り込みやすいことに起因すると考えられる。この高不純物濃度領域は、GaN自立基板の表面を研磨してピットを平坦にした場合であっても残存する。
【0029】
したがって、高不純物濃度領域上に所定のデバイス構造を形成した場合、高不純物濃度領域上に形成されたデバイスは、高不純物濃度領域が存在しない領域(健全部)上に形成されたデバイスとは特性が異なり、歩留りが低下する。例えば、インバージョンドメイン100の個数密度が25cm−2である場合、面積の観点から計算される歩留りは平均で87.5%となるが、上述したようにインバージョンドメイン100の周辺の盛り上がり、及び高不純物濃度領域の存在により、インバージョンドメイン100の個数密度が25cm−2では実際のデバイス構造を形成する場合の歩留りの向上には不十分である。
【0030】
ここで図2を参照する。図2においては、0.5mmのチップサイズよりも小さいインバージョンドメイン(ID)100の基板表面10a上における個数密度と、それぞれの個数密度のインバージョンドメイン100を有するGaN自立基板から0.5mmのチップサイズのチップを切り出した場合の歩留りとの関係を示している。図2を参照すると分かるように、インバージョンドメイン100の個数密度が20cm−2を超えると歩留りが急激に低下する知見を本発明者は得た。すなわち、インバージョンドメイン100の個数密度が20cm−2を超えると、急激に歩留りが45%未満となる知見を本発明者は得た。したがって、本発明の実施の形態においては、基板表面10aにおけるインバージョンドメイン100の個数密度が20cm−2以下となるようにGaN自立基板10は形成される。
【0031】
なお、図2を参照すると分かるように、ID個数密度が1cm−2の時に歩留りは98%であり、ID個数密度が5cm−2の時に歩留りは89%であり、ID個数密度が10cm−2の時に歩留りは76%であり、ID個数密度が20cm−2の時に歩留りは47%であり、ID個数密度が22cm−2の時に歩留りは22%であり、ID個数密度が25%cm−2の時に歩留りは5%であり、ID個数密度が30cm−2及び40cm−2の時に歩留りは略0%であった。
【0032】
図3は、インバージョンドメイン(ID)の個数密度が約10cm−2の場合における、インバージョンドメイン(ID)のサイズと歩留りとの相関を示す。なお、図3を参照すると分かるように、IDサイズが0.25mmの時に歩留りは76%であり、IDサイズが0.5mmの時に歩留りは76%であり、IDサイズが0.75mmの時に歩留りは64%であり、IDサイズが1mmの時に歩留りは51%であり、IDサイズが1.2mmの時に歩留りは7%であり、IDサイズが1.5mm及び2mmの時に歩留りは略0%であった。
【0033】
(インバージョンドメイン100の最大外径)
インバージョンドメイン100の形状が非常に細長い形状を有する場合、インバージョンドメイン100の面積比及び個数密度が適切な値であっても、GaN自立基板から切り出すチップの歩留りが低下する場合がある。例えば、インバージョンドメイン100のサイズがチップサイズの直径を超えた場合、計算上、歩留りはインバージョンドメイン100の長さに比例して低下する。実際のプロセス上においては、インバージョンドメイン100のサイズが1mmを超えると、歩留りが非常に低下する。
【0034】
図3を参照すると、インバージョンドメイン100の個数密度が約10cm−2の場合、インバージョンドメイン100のサイズ(IDサイズ)が1mmを超えると、歩留りが急激に低下する知見を本発明者は得た。すなわち、インバージョンドメイン100のサイズが1mmを超えると、急激に歩留りが50%以下に低下する。したがって、本発明の実施の形態においては、基板表面10aにおけるインバージョンドメイン100のサイズが1mm以下となるように、GaN自立基板10は形成される。なお、インバージョンドメイン100のサイズが0.5mm以下となると、歩留りが約75%程度となった。
【0035】
図4の(a)から(e)は、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の製造工程の流れを示す。また、図5(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る下地基板の模式的な上面の状態を示す。
【0036】
(GaN自立基板10の製造方法)
まず、図4(a)に示すように、(0001)面、すなわちc面を有する基板としてのサファイア基板20上に、有機金属気相エピタキシー(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法を用いて種結晶層としての所定厚のGaN薄膜30を形成する。一例として、1μmの厚さのGaN薄膜30を形成する。サファイア基板20の直径は、一例として、約50.8mm(2インチ)である。なお、サファイア基板20等の異種基板の代わりにGaN種結晶基板を基板として用いることもできる。すなわち、MOVPE法を用いてGaN薄膜30を基板としてのGaN種結晶基板上に形成することもできる。
【0037】
続いて、GaN薄膜30の上に所定の材料から形成されるマスク層を形成する。一例として、マスク層としてのSiO層を熱CVDにより形成する。次に、図4(b)に示すように、形成したマスク層を所定形状のマスク40にフォトリソグラフィー法を用いて加工する。具体的には、幅が10μm、長さが20μmの複数のマスク40が、縦横方向それぞれにおいて5μm間隔でGaN薄膜30上に配列するようにマスク層を加工する。これにより、本実施の形態に係る下地基板50を形成する。
【0038】
すなわち、図5(a)に示すように、所定の大きさ(サイズ)を有する所定形状の複数のマスク40が、所定の間隔をおいてGaN薄膜30上の仮想的な直線に沿って点在する下地基板50を形成する。本発明の実施の形態に係るマスク40は、一例として、図5(a)に示すように、第1の直線に沿って所定の間隔をおいて配置される複数のマスク40と、第1の直線に隣接する第2の直線に沿って所定の間隔をおいて配置される複数のマスク40とが互い違いになるように配置される。
【0039】
なお、図5(b)に示すように、本発明の実施の形態の変形例に係るマスク40においては、第1の直線に沿って所定の間隔をおいて配置される複数のマスク40と、第1の直線に隣接する第2の直線に沿って所定の間隔をおいて配置される複数のマスク40とが並列するように配置することもできる。
【0040】
次に、形成した下地基板50を、HVPE装置内に導入する。そして、所定の成長条件を用い、マスク40が形成されている側のGaN薄膜30上であって、マスク40が形成されていない領域からGaNの単結晶の成長を開始させる。具体的な成長条件は、一例として、以下のとおりである。すなわち、キャリアガスにHを用い、所定濃度の塩化水素(HCl)ガスと金属Gaから形成されるGaCl及びNHを原料ガスとして用いる。GaClの流量及びNHの流量はいずれも100sccmに設定する(III族原料分圧に対するV族原料分圧の比(V/III比)=1)。そして、成長温度を1100℃、成長圧力を100kPaに設定する(第1の成長条件)。
【0041】
このような第1の成長条件でGaN単結晶の成長を実施すると、図4(c)に示すように、マスク40が形成されていないGaN薄膜30の領域から、断面が略三角形状のGaN単結晶としての成長結晶120が成長する。この場合において、一部のマスク40上にN極性を有するインバージョンドメイン100が核発生する。
【0042】
続いて、HVPE装置におけるGaN単結晶の成長条件を以下の第2の成長条件に変更して、更にGaN単結晶としての成長結晶122を成長する。一例として、HVPE装置において成長するGaN単結晶の合計の厚さが1mmになるまでサファイア基板20の面に水平方向とサファイア基板20の面の法線方向との双方の方向に沿ってGaN単結晶が成長する。すなわち、成長結晶122は、選択横方向成長(Epitaxial Lateral Overgrowth:ELO)によって形成される単結晶である。
【0043】
第2の成長条件は、一例として、以下のとおりである。すなわち、キャリアガスにHを用い、所定濃度のHClガスと金属Gaから形成されるGaCl及びNHを原料ガスとして用いる。GaClの流量及びNHの流量はいずれも500sccmに設定する(V/III比=1)。そして、成長温度を1100℃、成長圧力を100kPaに設定する(第2の成長条件)。成長結晶122のサファイア基板20の反対側の面は、略平坦な平坦面122aである。平坦面122aの一部分には、インバージョンドメイン100に起因する凹部122bが形成される。
【0044】
成長結晶122の成長後、成長結晶122を有するサファイア基板20をHVPE装置から取り出す。そして、サファイア基板20の側から所定出力のYAGレーザを照射する。レーザを照射すると、サファイア基板20と成長結晶122との界面付近のGaNが熱分解する。これにより、下地基板50とHVPE装置において成長したGaN単結晶としての成長結晶122(HVPE−GaN厚膜)とを分離する(レーザ剥離法)。
【0045】
次に、下地基板50から剥離して得られるGaN厚膜の両面を研削及び/又は研磨する。これにより、図4(e)に示すような、GaN自立基板10が得られる。GaN自立基板10は、Ga極性面110が露出する基板表面10aと、基板表面10aの反対側の基板裏面10bとを有する。また、GaN自立基板10は、基板表面10aから基板裏面10bまでを実質的に貫く所定形状、所定の個数密度のインバージョンドメイン100を有する。一例として、本実施の形態に係るGaN自立基板10は、個数密度が12cm−2であり、平均長が2μmのインバージョンドメイン100を有する。
【0046】
なお、このGaN自立基板10上に所定のレーザ構造を有する化合物半導体積層構造を形成したところ、化合物半導体層の表面は略平滑であった。そして、化合物半導体積層構造を形成したGaN自立基板10からレーザダイオードを作成したところ、歩留りは約75%であった。
【0047】
ここで、インバージョンドメイン100の発生を抑制するために、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の製造方法においては、以下の条件を採用することが好ましい。以下の説明では、図4の工程に対応させて好ましい条件について説明する。
【0048】
(種結晶層の製造)
まず、図4(a)に示すように、2インチの外径であり、(0001)面を表面に有するサファイア基板20上に、種結晶層としてのGaN薄膜30を形成する。GaN薄膜30は、一例として、1μm厚となるようにサファイア基板20の表面にMOVPE法により形成される。なお、図4(a)においては、サファイア基板20上にGaN薄膜30を直接に形成しているが、GaN薄膜30とサファイア基板20との間の格子不整合を緩和する低温バッファ層(図示しない)をサファイア基板20上に形成することもできる。例えば、約500℃の成長温度で数十nm程度の膜厚となるようにサファイア基板20上にGaNを形成することにより、低温バッファ層を形成することができる。そして、GaN薄膜30の成長前に約1000℃の熱処理を、低温バッファ層を有するサファイア基板20に施す。
【0049】
ここで、低温バッファ層はAlN薄膜から形成することもできる。低温バッファ層をAlN薄膜から形成する場合、約600℃の成長温度で約50nm程度の膜厚となるように、サファイア基板20上にAlN薄膜を形成する。そして、GaN薄膜30の成長前に約1040℃の熱処理を、AlN薄膜を有するサファイア基板20に施す。
【0050】
(ELO法の成長条件)
図4(c)及び図4(d)に示すようなHVPE装置によるELO法でのGaN単結晶の成長においては、まず、種結晶層としてのGaN薄膜30上にマスクを形成する。このマスクは、通常、SiO等から形成される。SiO等のマスクは極性を有さないので、マスク上にGaN単結晶の核が発生した場合、この核の上に形成されるGaN結晶の極性を一定の方向に揃えるように制御することは困難である。したがって、以下のELO法の成長条件を採用することが好ましい。
【0051】
(ELO法の成長条件−N面結晶が成長しにくい成長条件)
図6は、本発明の実施の形態に係るHVPE装置におけるGaN単結晶成長でのV/III比とインバージョンドメイン(ID)の密度との関係を示す。
【0052】
HVPE装置において下地基板50上にGaN単結晶を成長させるときのV/III比を0.4から2の範囲で変化させて、成長後のGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度を比較した。また、各V/III比において成長温度を1000℃から1400℃に変化させて、成長後のGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度を比較した。なお、その他の成長条件は図4の上記説明と略同様であるので説明を省略する。
【0053】
その結果、図6を参照すると分かるように、成長温度が高く、V/III比が小さいほど、得られるGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度が低下することが分かった。特に、V/III比が0.4から1.0の範囲内であり、成長温度が1100℃から1400℃の範囲内でインバージョンドメイン100の個数密度が20cm−2以下となることが分かった。
【0054】
すなわち、HVPE装置に投入した下地基板50上にGaN単結晶を成長する場合、高温成長、かつ、低V/III比での成長条件を採用することが好ましい。具体的には、成長条件を1100℃から1400℃の範囲内に設定すると共に、V/III比を0.4以上1.0以下の範囲内に設定する。なお、V/III比が0.4未満の場合、成長するGaN結晶の表面にGaのドロップレットが生じる場合がある。また、成長温度が1400℃を超えるような高温の場合、GaN自立基板10を作成するために要する所定の成長速度を得ることが困難となり、経済性を考慮すると上記の成長温度を採用することが好ましい。
【0055】
(ELO法の成長条件−マスク40上に核発生しにくい成長条件)
図7は、本発明の実施の形態に係るHVPE装置におけるGaN単結晶成長でのHCl添加量とインバージョンドメイン(ID)の密度との関係を示す。
【0056】
図4(c)の工程において、HVPE装置内で下地基板50上にGaN単結晶を成長させるときのHCl添加量を0から0.1%の範囲で変化させて、成長後のGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度を比較した。また、各HCl添加量において成長温度を1000℃から1400℃に変化させて、成長後のGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度を比較した。なお、その他の成長条件は図4の上記説明と略同様であるので説明を省略する。
【0057】
その結果、図7を参照すると分かるように、成長温度が高く、HCl添加量が多いほど、得られるGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度が低下することが分かった。特に、HCl添加量が0.01%から0.1%の範囲内であり、成長温度が1100℃から1400℃の範囲内でインバージョンドメイン100の個数密度が約17cm−2以下となることが分かった。
【0058】
すなわち、HVPE装置に投入した下地基板50上にGaN単結晶を成長する場合、マスク40を有する下地基板50上へのGaN単結晶の成長開始から、マスク40をGaN単結晶で埋め込むまでの間に、過飽和度、すなわちGaN成長速度を抑制することが好ましい。GaN成長速度は、成長温度を高温化すると共に、HCl等のエッチング性を有するガスをHVPE装置に導入することで抑制することができる。具体的には、HVPE装置におけるGaN単結晶の成長温度を1100℃から1400℃の範囲内に設定すると共に、HCl分圧を0.01%から0.1%の範囲内に設定する。なお、成長温度が1400℃を超える場合、又はHCl濃度が0.1%より高い場合には、経済性を満たすような成長速度を得ることが困難である。
【0059】
(ELO法の成長条件−マスク40のサイズ)
図8は、本実施の形態に係るマスクの長さを変化させたときのインバージョンドメイン(ID)の最大外径の平均長を示す。
【0060】
マスク40の長さを様々に変化させて複数の下地基板50を作成した。具体的に、マスク40の長さは、0.01μmから50mmの範囲で変化させた。そして、複数の下地基板50のそれぞれにGaN単結晶をHVPE装置において成長させた。そして、得られたGaN単結晶の表面を観察することによりインバージョンドメイン100の上面視における長さを計測して、各マスク40の長さごとの平均長を算出した。なお、その他の成長条件は図4の上記説明と略同様であるので説明を省略する。
【0061】
その結果、図8に示すように、マスク長を1mm以下とすることにより、インバージョンドメイン100の最大外径の平均長が急激に減少することが分かった。しかし、マスク長が0.02μm(20nm)以下においては、所望の転位低減効果は得られなかった。したがって、マスク40のサイズ、すなわちマスク長は、20nm以上から1mm以下の範囲内で形成することが好ましい。
【0062】
すなわち、HVPE装置に投入した下地基板50上にGaN単結晶を成長する場合、マスク40のサイズは小さいことが好ましい。具体的には、マスク40のマスク長は20nm以上1mm以下の範囲であることが好ましい。これは、マスク40上にインバージョンドメイン100の核が発生した場合、マスク40のサイズが所定値より大きいと、マスク40上に生じた核がそれぞれ連結して大きなインバージョンドメイン100に発達してしまう場合があるからである。
【0063】
一例として、従来用いられるストライプ形状のマスクにおいては、マスクの幅は数μm程度であるが、マスクの長さ方向の形状は、ウエハの一端から多端まで連続している。すなわち、従来用いられるストライプ形状のマスクにおいて、マスクの長さの最大値はマスクが形成されるウエハの直径に略等しい程度となる。このような従来のストライプ形状のマスクにおいては、インバージョンドメイン100が大きく発達しやすい。したがって、マスク40のサイズを小さくすることによりインバージョンドメイン100が大きく発達することを抑制することが好ましい。なお、マスク40のサイズを0.02μm以下とすると、転位低減の効果が得られにくくなる。また、マスク40の幅は、従来のストライプ形状のマスクと同程度である。
【0064】
(ELO法の成長条件−マスク40の材質)
表1は、本発明の実施の形態に係るマスクの材質とインバージョンドメインの個数密度との関係を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
図4(b)の工程において、マスク40の材料を表1に示す複数の材料のそれぞれを用いて形成した。すなわち、SiO、SiN、TiN、ZrN、又はHfNからマスク40をそれぞれ形成した。そして、それぞれの材料から形成したマスク40を用いて、図4(b)から(e)の工程を経てそれぞれについてのGaN自立基板を得た。なお、その他の成長条件は図4の上記説明と略同様であるので説明を省略する。
【0067】
その結果、表1を参照すると分かるように、赤外領域の波長の光に対して透明なSiO又はSiNから形成したマスク40に比べて、赤外領域の波長の光を所定の割合で吸収するTiN、ZrN、又はHfNから形成したマスク40を用いた方がインバージョンドメイン100の個数密度が大幅に低下することが分かった。したがって、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板を作成する場合、マスク40を形成する材料としては、TiN、ZrN、又はHfNを用いることがより好ましい。
【0068】
すなわち、本発明の実施の形態に係るマスク40は、赤外線を所定の割合で吸収する材料、つまり、熱輻射によって温度が上昇しやすい材料から形成することが好ましい。熱輻射によって温度が上昇しやすい材料からマスク40を形成すると、HVPE装置におけるGaN単結晶の成長においてHVPE装置から下地基板50、及び成長結晶120又は成長結晶122に供給される熱のうち一部の熱の熱輻射によってマスク40が加熱される。そして、マスク40の温度が上昇する。これにより、インバージョンドメイン100に発達するような核がマスク40上に発生することを抑制することができる。
【0069】
(エッチング条件依存性)
図9は、結晶成長を中断させ、所定の熱処理を施した場合における熱処理の各条件に対するGaN単結晶中のインバージョンドメイン(ID)の個数密度の関係を示す。
【0070】
まず、図4(a)から図4(d)までの工程を経て得られた基板に対して所定の熱処理(エッチング処理)を施した。すなわち、第2の成長条件を経て得られた基板に対して、以下の条件で熱処理(エッチング処理)を施した。熱処理条件は、熱処理温度(エッチング温度)が600℃から1000℃の範囲内、熱処理時にHVPE装置に導入するHCl濃度(エッチャント濃度)が0%から0.05%の範囲内、そして熱処理時間(エッチング時間)を30分である。
【0071】
そして、上記の熱処理を施した基板上に、第2の成長条件と同一の成長条件(第3の成長条件)を用いて、再びGaN単結晶を成長させた。その結果、図9に示すように、熱処理時の温度が高く、HCl添加量が多いほど形成されたGaN単結晶に含まれるインバージョンドメイン100の個数密度が低下することが分かった。なお、熱処理温度が600度以下の場合、HClを添加してもエッチングの効果は認められなかった。
【0072】
すなわち、本発明の実施の形態においては、成長結晶中にインバージョンドメイン100が混入したとき、結晶成長を一時的に中断してインバージョンドメイン100をエッチングにより除去してから再び結晶成長を開始することにより、インバージョンドメインの個数密度が低いGaN自立基板10を形成することができる。すなわち、インバージョンドメイン100が存在していた領域を、インバージョンドメイン100が存在していない領域と同一方位を有する結晶によって埋め込んだGaN自立基板10が形成されることとなる。
【0073】
具体的には、結晶成長を中断して、比較的低温下でHClを用いて成長結晶をエッチングする。このエッチングにより、Ga極性面の結晶領域を保ちつつインバージョンドメイン100が存在する領域を選択的にエッチングすることができる。ここで、エッチング時の温度は、GaNの自発的な熱分解が起こらず、Ga極性面の双方が分解しない温度に設定する。
【0074】
すなわち、熱処理温度を、インバージョンドメイン100が存在する領域に対するエッチングレートよりもGa極性面に対するエッチングレートの方が小さくなる温度に設定する。また、エッチングに用いるHCl濃度についてもインバージョンドメイン100が選択的にエッチングされる濃度、すなわち、インバージョンドメイン100が存在する領域に対するエッチングレートよりもGa極性面に対するエッチングレートの方が小さくなるように設定する。具体的に、エッチング時の温度は700℃から900℃の範囲に設定すると共に、HCl濃度は0.001%から0.05%の範囲内に設定する。
【0075】
図10は、比較例に係るGaN自立基板の製造工程の流れを示す。また、図11は、比較例に係る下地基板の模式的な上面の状態を示す。更に、図12は、比較例に係るGaN自立基板の表面の部分拡大図を示す。
【0076】
比較例に係るGaN自立基板12の製造においては、下地基板51のマスク41の形状、GaN単結晶の成長条件等が本発明の実施の形態に係るGaN自立基板10の製造と異なる点を除き略同一の工程を経る。したがって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0077】
まず、図10(a)に示すように、c面を有するサファイア基板20上に、MOVPE法を用いて1μm厚のGaN薄膜30を形成する。続いて、GaN薄膜30の上にSiOからなるストライプ形状のマスク41を熱CVDにより形成する。マスク41の幅は10μm、マスク開口部、すなわち、ストライプ形状の第1のマスク41と第2のマスクとの間隔は5μmとなるようにマスク41を形成する。これにより、比較例に係る下地基板51を形成する。すなわち、図11に示すように、所定の大きさを有する所定形状の複数のストライプ形状のマスク41が、所定の間隔をおいてGaN薄膜30上に配列する下地基板51を形成する。
【0078】
次に、形成した下地基板51を、HVPE装置内に導入する。そして、比較例に係る第1の成長条件を用いて下地基板51上にGaN結晶を成長させる。比較例に係る第1の成長条件は、以下のとおりである。すなわち、キャリアガスにHを用い、原料ガスとしてGaCl及びNHを用いる。GaClの流量を20sccm、NHの流量を1000sccmに設定する(V/III比=50)。そして、成長温度を1040℃、成長圧力を100kPaに設定する(比較例に係る第1の成長条件)。
【0079】
このような比較例に係る第1の成長条件でGaN単結晶の成長を実施すると、図10(c)に示すように、マスク41が形成されていないGaN薄膜30の領域から、断面が三角形状のGaN単結晶としての成長結晶121が成長する。この場合において、大部分のマスク41上にN極性を有するインバージョンドメイン101が核発生する。
【0080】
続いて、HVPE装置におけるGaN単結晶の成長条件を以下の比較例に係る第2の成長条件に変更して、更にGaN単結晶としての成長結晶123を成長する。この成長においては、GaN単結晶の合計の厚さが1mmになるまでサファイア基板20の面に水平方向とサファイア基板20の面の法線方向との双方の方向に沿ってGaN単結晶が成長する。
【0081】
比較例に係る第2の成長条件は、以下のとおりである。すなわち、キャリアガスにHを用い、原料ガスとしてGaCl及びNHを用いる。GaClの流量を300sccm、NHの流量を1500sccmに設定する(V/III比=5)。そして、成長温度を1040℃、成長圧力を100kPaに設定する(比較例に係る第2の成長条件)。成長結晶123のサファイア基板20の反対側の面は、インバージョンドメイン101を有する凹部123bと、Ga極性を有する凸部123aとからなる凹凸形状を有する。
【0082】
成長結晶123の成長後、成長結晶123を有するサファイア基板20をHVPE装置から取り出す。そして、レーザ剥離法を用いて下地基板51と成長したGaN単結晶としての成長結晶123(HVPE−GaN厚膜)とを分離する。次に、剥離して得られるGaN厚膜の両面を研磨する。これにより、図10(e)に示すような、比較例に係るGaN自立基板12が得られる。
【0083】
GaN自立基板12は、Ga極性面110が露出する基板表面12aと、基板表面12aの反対側の基板裏面12bとを有する。そして、上記の工程で作成した比較例に係るGaN自立基板12は、インバージョンドメイン101を25cm−2の個数密度で有していた。また、インバージョンドメイン101の平緊張は2.5mmであった。比較例に係るGaN自立基板12の表面は、図12に示すように、複数の細長いインバージョンドメイン101が、ストライプ形状のマスク41に沿って分布した形状を呈していた。
【0084】
なお、このGaN自立基板12上に所定のレーザ構造を有する化合物半導体積層構造を形成したところ、化合物半導体層の表面に、インバージョンドメイン101を中心とした複数の窪みが形成された。また、複数の窪みの周囲にはそれぞれ大きな盛り上がり(異常成長領域)が生じていた。比較例に係るGaN自立基板12からチップサイズが0.5mmのLDを作成したところ、インバージョンドメインが存在する領域で劈開面が乱れて正常な共振器は非常に少数しか形成されなかった。また、GaN自立基板12の基板表面12aは研磨して形成した面であるものの、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板10と比べて凹凸の程度が大きく、共振器等を形成する際のフォトリソグラフィー工程において、ガラスマスクとGaN自立基板12との密着性が悪かった。そのため、比較例に係るGaN自立基板12から得られたLDチップの歩留りは約1%程度であった。
【0085】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の製造方法によれば、GaN単結晶基板のc面内に含まれるインバージョンドメインの個数密度及び大きさを低減することができる。これにより、本実施の形態に係るGaN自立基板上に所定の化合物半導体層をエピタキシャル成長した場合、異常成長が発生することを抑制することができるので、発光素子等の歩留りを飛躍的に向上させることができる。
【0086】
上述した本発明の実施の形態においては、50.8mm(2インチ)の外径を有するGaN自立基板について説明したが、76.2mm(3インチ)の外径を有するサファイア基板等を下地基板として用いることもできる。すなわち、3インチの外径を有するサファイア基板又はGaN種結晶基板を基板として用い、本発明の実施の形態と同様の製造条件を用いて、3インチの外径を有するGaN自立基板を製造することもできる。本発明者は、3インチの外径を有するサファイア基板を下地基板として用い、本発明の実施の形態と同様の製造条件を用いて、3インチの外径を有するGaN自立基板を製造した。その結果、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板と同様な特性を示す3インチの外径を有するGaN自立基板が得られた。なお、下地基板として用いるサファイア基板又はGaN種結晶基板の外形は2インチ又は3インチに限られず、外径のより大きなサファイア基板又はGaN種結晶基板を下地基板として用いることもできる。
【0087】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の部分断面図であり、(b)は、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の基板表面の部分拡大図である。
【図2】インバージョンドメイン(ID)の個数密度と歩留りとの相関を示す図である。
【図3】インバージョンドメイン(ID)の個数密度が約10cm−2の場合における、インバージョンドメイン(ID)のサイズと歩留りとの相関を示す図である。
【図4】(a)から(e)は、本発明の実施の形態に係るGaN自立基板の製造工程の流れを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る下地基板の模式的な上面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るHVPE装置におけるGaN単結晶成長でのV/III比とインバージョンドメイン(ID)の密度との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るHVPE装置におけるGaN単結晶成長でのHCl添加量とインバージョンドメイン(ID)の密度との関係を示す図である。
【図8】本実施の形態に係るマスクの長さを変化させたときのインバージョンドメイン(ID)の最大外径の平均長を示す図である。
【図9】結晶成長を中断させ、所定の熱処理を施した場合における熱処理の各条件に対するGaN単結晶中のインバージョンドメイン(ID)の個数密度の関係を示す図である。
【図10】比較例に係るGaN自立基板の製造工程の流れを示す図である。
【図11】比較例に係る下地基板の模式的な上面図である。
【図12】比較例に係るGaN自立基板の表面の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0089】
10、12 GaN自立基板
10a、12a 基板表面
10b、12b 基板裏面
20 サファイア基板
30 GaN薄膜
40、41 マスク
50、51 下地基板
100、101 インバージョンドメイン
100a、100b、100c、100d インバージョンドメイン
102 最大外径
110 Ga極性面
120、121、122、123 成長結晶
122a 平坦面
122b 凹部
123a 凸部
123b 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面と、
前記基板表面に含まれる極性反転区とを備え、
前記極性反転区の前記基板表面における個数密度が20cm−2以下であるGaN単結晶基板。
【請求項2】
前記極性反転区の最大外径が1mm以下である
請求項1に記載のGaN単結晶基板。
【請求項3】
基板上にIII族原料ガスとV族原料ガスとを導入し、成長温度が1100℃以上1400℃以下の範囲内であり、前記III族原料ガスの分圧に対する前記V族原料ガスの分圧の比(V/III比)が0.4以上1以下の範囲内の成長条件で、前記基板の表面における極性反転区の個数密度が20cm−2以下であるGaN単結晶を前記基板上に成長させる成長工程を備えるGaN単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記成長工程が、0.01%から0.1%の分圧の塩化水素(HCl)ガスを更に添加する工程を有する
請求項3に記載のGaN単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記基板上に種結晶層を形成する種結晶層形成工程と、
前記種結晶層上にマスクを形成するマスク形成工程と
を更に備え、
前記成長工程が、前記マスクが形成された前記種結晶層上にGaN単結晶を成長させる
請求項3又は4に記載のGaN単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記マスク形成工程が、赤外領域の波長の光を吸収する材料を用いて前記マスクを形成し、
前記成長工程が、前記種結晶層上の前記マスクが形成されていない領域から前記GaN単結晶を選択横方向成長させる
請求項5に記載のGaN単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記マスク形成工程が、前記マスクをTiN、ZrN、又はHfNのいずれかから形成する
請求項5又は6に記載のGaN単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記マスク形成工程が、20nm以上1mm以下のサイズの前記マスクを形成する
請求項5から7のいずれか1項に記載のGaN単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記成長工程は、
前記GaN単結晶の成長を中断する成長中断工程と、
前記成長中断工程中に、700℃から900℃の温度範囲内において0.001%から0.05%の分圧の塩化水素ガスを添加して前記GaN単結晶に熱処理を施す熱処理工程と、
前記熱処理後に、前記GaN単結晶の成長を再開する成長再開工程と
を有する請求項3から8のいずれか1項に記載のGaN単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−91163(P2009−91163A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260162(P2007−260162)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】