説明

SiCエピタキシャルウエハおよびそれを用いたSiC半導体素子

【課題】高品質かつ高信頼性の素子を作製できるSiCエピタキシャルウエハ、およびそれを用いて得られるSiC半導体素子を提供すること
【解決手段】4°以下のオフ角を有するSiC基板2と、SiC基板2の主面4に形成され、その表面10に0.5nm以上の高さのステップバンチング9が形成されたSiCエピタキシャル層3とを含むSiCエピタキシャルウエハ1において、ステップバンチング9の線密度を40cm−1以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のオフ角を有するSiCエピタキシャルウエハおよびそれを用いたSiC半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Si半導体に比べて高耐圧化、大電流化、低オン抵抗化、高効率化、低消費電力化、高速スイッチングなどを実現できるSiC(シリコンカーバイド:炭化ケイ素)半導体が注目されている。
SiC半導体は、通常、SiCインゴットから切り出す際に、(0001)面から所定のオフ角を付ける。切り出されたウエハは研磨などの加工が施され、加工面上にエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルウエハの状態で使用される。SiCエピタキシャル層の成長過程では、オフ角により生じる原子ステップとテラスとよぶ原子平坦面からなる表面に成長の結晶核が生成する。結晶核は熱力学的エネルギーによりテラス上を拡散し、ステップ端で安定化する。このような成長メカニズムはステップフローと呼ばれる。理想的には、成長初期のテラス幅を保ったまま成長するため、SiCの分子1層分の高さのステップも同様に保たれるが、実際には、ウエハ表面の欠陥の有無や、成長温度や成長中の雰囲気などの熱力学的な要因が影響して、結晶核の拡散速度に不均一性が生じて、テラス幅も不均一になる。テラス幅が狭くなるところでは、ステップが集まって束になり(以降、ステップバンチングと呼ぶ)、SiCの分子2層分以上の高さになる。
【0003】
エピウエハ表面は、デバイスの動作領域でもあり、電極や酸化膜などの界面にもなる。そのため、表面の凹凸であるステップバンチングは、デバイスの動作へ影響を及ぼし、ショットキー電極との界面では、逆方向リーク電流を増大させ、酸化膜との界面では、信頼性低下を引き起こす。同様にpn接合界面ではリーク電流の増加、イオン注入により形成されたバイポーラ動作領域では表面再結合の増加などに影響する。同様に、SiCエピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)も、デバイスの特性に影響を及ぼすことが、非特許文献1などで報告されている。
【0004】
そこで、非特許文献1では、SiCエピタキシャル層のBPD密度を小さくするために、SiCエピタキシャル成長前に、SiC基板の主面を500℃以上の溶融KOHを用いてエッチングすることにより、当該主面にエッチピットを形成する方法が提案されている。
その一方で、非特許文献2では、SiCエピタキシャルウエハの表面のステップバンチングの線密度は、SiCエピタキシャル層形成時の温度およびC/Si比(C(炭素)とSi(シリコン)との供給比)に依存しており、C/Si比=0.5以下にすれば、ステップバンチングの発生を防止できると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. J. Sumakeris, et al. Material Science Forum Vol.457-460 (2004) p.1113-1116
【非特許文献2】Keiji Wada, et al. Journal of Crystal Growth 291 (2006) pp.370-374
【非特許文献3】James A. Cooper, JR., Anant Agarwal, Proceedings of the IEEE Vol.90, No.6 (2002) pp.956-968
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、SiC基板にエッチピットを形成するプロセスを制御することは難しく、たとえば、溶融KOHの温度が10℃異なれば、エッチピットのサイズが大きく変化してしまう。また、溶融KOHを用いたエッチングにより、BPD以外の転位、たとえば、貫通螺旋転位(TSD:Threading Screw Dislocation)や貫通刃状転位(TED:Threading Edge Dislocation)のエッチピットも出現するので、SiC基板の主面の凹凸が数μm以上の大きさになる。その結果、SiCエピタキシャル層の形成後の表面凹凸も大きくなる。そのため、SiCエピタキシャル層にデバイスを形成する前に、SiCエピタキシャル層の表面を平坦化するための加工が必要であるが、平坦化加工の際に、SiCエピタキシャル層の表面にダメージを与えてしまう。
【0007】
一方、SiC基板のSi面(0001)面にSiCをエピタキシャル成長させる場合、高耐圧かつ高信頼性のデバイスを作製する観点から、SiCエピタキシャル層の残留電子濃度は可能な限り小さくさせる方がよい。残留電子濃度を小さくさせるには、エピタキシャル成長時のC/Si比を高くすることが好ましいが、そうすると、SiCエピタキシャル層の表面に発生するステップバンチングの線密度が大きくなるという不具合がある。たとえば、C/Si比=0.5の場合ではステップバンチングの線密度は500cm−1であるのに対し、C/Si比=1.5の場合では、ステップバンチングの線密度が6000cm−1となり、C/Si比の増加に伴ってステップバンチングの線密度は増加してしまう。
【0008】
本発明の目的は、高品質かつ高信頼性の素子を作製できるSiCエピタキシャルウエハ、およびそれを用いて得られるSiC半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明のSiCエピタキシャルウエハは、4°以下のオフ角を有するSiC基板と、前記SiC基板の主面に形成され、その表面に0.5nm以上の高さのステップバンチングが形成されたSiCエピタキシャル層とを含み、前記ステップバンチングの線密度が40cm−1以下である。
このSiCエピタキシャルウエハを用いて作製された、ショットキーバリアダイオード、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、BJT(バイポーラトランジスタ)、pnダイオード、サイリスタ、IGBT(Insulated gate bipolar transistor)などの各種SiC半導体素子を動作させた場合でも、ステップバンチングの線密度が40cm−1以下であるため、SiCエピタキシャル層の表面または界面の欠陥領域を減らすことができる。その結果、素子のリーク電流、酸化膜厚の不均一性、界面準位、表面再結合などの低減や、電界効果移動度の向上に効果があるので、高品質かつ高信頼性のSiC半導体素子を提供することができる。
【0010】
なお、前記ステップバンチングの線密度は5cm−1であることが、さらに好ましい。
また、前記SiC基板の前記主面は、(0001)面に対して[11−20]軸方向に前記4°以下のオフ角で傾斜した面であってもよいし、(0001)面に対して[−1100]軸方向に前記4°以下のオフ角で傾斜した面であってもよい。
また、前記SiC基板の前記主面は、前記4°以下のオフ角で当該SiCインゴットから切り出されたSiCベアウエハの切り出し面を、研削、ラッピングなどの機械加工した後、研磨(主にCMP)またはプラズマエッチングによる削り量が500nm以上であることが好ましい。
【0011】
すなわち、SiCベアウエハを機械加工した後、CMPまたはプラズマエッチングによる削り量を500nm以上とすることで、機械加工により発生したSiCベアウエハの表面のダメージ層を十分に除去して、表面を平坦化できる。その結果、当該SiCベアウエハ上にエピタキシャル成長しても、そのSiCエピタキシャル層の表面のステップバンチングの線密度を40cm−1以下にすることができる。
【0012】
さらに好ましくは、前記SiCベアウエハの前記切り出し面は、その機械加工前および/または機械加工後、研磨前および/または研磨後、プラズマエッチング前および/またはプラズマエッチング後に、ドライ酸化法またはウエット酸化法により処理されている。
これにより、SiC基板の主面に、基底面転位のピットを適切なサイズで形成することができる。そのため、SiCウエハのSiCエピタキシャル層の基底面転位密度(BPD密度)を小さくすることができる。たとえば、エピタキシャル成長の際に基底面転位はSiCベアウエハからエピタキシャル層へ伝播してしまうが、基底面転位の場所に適切なサイズのピットが形成されていると、基底面転位はオフ角の方向以外には伝播できなくなり、前記SiCエピタキシャル層の基底面転位密度を10cm−2以下にすることができる。その結果、素子の特性、たとえば、オン抵抗低減、pnダイオードなどのバイポーラ動作の順方向電圧上昇の抑制に効果がある。
【0013】
さらに、研磨後またはプラズマエッチング後に酸化処理する場合には、研磨やプラズマエッチングで除去しきれなかったSiCベアウエハの表面のダメージ層、研磨やプラズマエッチングの際に発生した変質層(ダメージ層)を確実に除去することができる。そのため、SiCエピタキシャル層の表面のステップバンチングの発生を一層減らすことができる。
【0014】
また、前記SiC基板は4H−SiCからなることが好ましく、前記SiC基板の前記主面はSi面であることが好ましい。主面がSi面であれば、同じC/Si比でSiCを結晶成長させても、成長後の残留電子濃度を低く抑えることができる。
また、前記SiCエピタキシャル層は4H−SiCからなることが好ましく、その窒素濃度が5×1016cm−3以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記SiCエピタキシャル層の厚さが3μm以上であることが好ましく、4μm〜100μmであることがさらに好ましい。一般的に半導体素子の耐圧は、耐圧を保持する層の厚さに比例し、SiC半導体素子の場合、SiCエピタキシャル層の厚さをこの範囲にすることにより、300Vから10kVの耐圧を確保することができる。
そして、本発明のSiC半導体素子は、上記した本発明のSiCエピタキシャルウエハを用いて形成されている。そのため、SiCエピタキシャル層の表面における欠陥密度減少に因る、リーク電流低減、電界効果移動度向上、電流増幅率増加などの効果があり、非常に高品質かつ高信頼性のある素子である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るSiCエピタキシャルウエハの概略図である。
【図2】図2は、SiCエピタキシャル層における厚さとキャリア濃度との相関図である。
【図3】図3は、SiCエピタキシャル層における厚さとオン抵抗との相関図である。
【図4】図4は、4H−SiCの結晶構造のユニットセルを表した模式図である。
【図5】図5は、図4のユニットセルを(0001)面の真上から見た図である。
【図6】図6(a)(b)は、図1のSiCエピタキシャルウエハの要部拡大図であり、図6(a)は平面図、図6(b)は断面図であって、図6(a)の切断線A−Aでの断面を示している。
【図7】図7は、SiC基板のオフ角とステップ成長幅との関係を示すグラフである。
【図8】図8(a)(b)は、ステップバンチングの線密度を説明するための図である。
【図9】図9は、ステップバンチングと基底面転位との対応関係を示す図である。
【図10】図10は、図1のSiCエピタキシャルウエハの製造工程を工程順に示す図である。
【図11】図11は、SiCエピタキシャル成長前の酸化処理の有無により、エピ表面のBPDがどの程度変化するかを説明するための図である。
【図12】図12は、従来技術および本発明における、C/Si比とステップバンチングの線密度との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、Si面およびC面それぞれに形成されたSiCエピタキシャル層における、C/Si比と残留電子濃度との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、図1のSiCエピタキシャルウエハを用いて作製したショットキーバリアダイオードの模式的な断面図である。
【図15】図15は、図1のSiCエピタキシャルウエハを用いて作製したトレンチゲート型MOSFETの模式的な断面図である。
【図16】図16は、図1のSiCエピタキシャルウエハを用いて作製したプレーナゲート型MOSFETの模式的な断面図である。
【図17】図17(a)(b)は、SiC基板のオフ角の変形例を示す図であって、図17(a)は平面図、図17(b)は断面図であって、図17(a)の切断線D−Dでの断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るSiCエピタキシャルウエハの概略図である。図2は、SiCエピタキシャル層における厚さとキャリア濃度との相関図である。図3は、SiCエピタキシャル層における厚さとオン抵抗との相関図である。
SiCエピタキシャルウエハ1は、4H−SiCからなり、SiC基板2と、SiC基板2に積層されたSiCエピタキシャル層3とを含む。SiC基板2の厚さtは、たとえば、200μm〜500μmであり、SiCエピタキシャル層3の厚さtは、SiC基板2よりも薄く、たとえば、5μm以上、好ましくは、4μm〜100μmである。また、SiCエピタキシャル層3の窒素濃度は、たとえば、5×1016cm−3以下である。SiCエピタキシャル層3の厚さと窒素濃度をこの範囲にすることにより、図2に示すように、300Vから10kVの耐圧を確保することができる。
【0018】
図2は、SiCエピタキシャル層3における厚さとキャリア濃度との相関図である。図2では、X軸:SiCエピタキシャル層3の厚さW、Y軸:SiCエピタキシャル層3のキャリア濃度NとするXY平面に、互いに等しい耐圧Vのプロットをつなぐことによって得られた6つの等耐圧線(600V、900V、1200V、3300V、6600Vおよび10kV)が示されている。また、参考として、耐圧が600VのSiデバイスの等耐圧線も示されている。
【0019】
図2の等耐圧線を構成する各プロット(耐圧V)の座標は、下記式(1)によって求めた。
【0020】
【数1】

【0021】
また、図2のSiCおよびSiそれぞれのガイドラインは、下記式(2)によって求めた。
【0022】
【数2】

【0023】
上記式(1)〜(2)において、各量記号は、以下ことを表現している。
・E:絶縁破壊電界
Siでは3×10V/m、SiCでは3×10V/m
・q:電荷素量=1.6×10−19
・N:キャリア濃度
・W:エピタキシャル層の厚さ
・ε:真空の誘電率=8.85×10−12F/m
・ε:比誘電率
Siでは11.8、SiCでは9.7
キャリア濃度Nについては、n型SiCの場合、キャリア濃度≒窒素濃度であるので、SiCエピタキシャル層3の窒素濃度をキャリア濃度とした。SiCエピタキシャル層3の窒素濃度は、エピタキシャル成長条件で調整することができる。たとえば、エピタキシャル成長中にSiH流量に対する窒素流量の割合を増加することによって、窒素濃度(キャリア濃度)を増加させることができる。
【0024】
また、図3に、SiCエピタキシャル層3における厚さとオン抵抗との相関を示す。
図3では、X軸:SiCエピタキシャル層3の厚さW、Y軸:SiCエピタキシャル層3のオン抵抗SRとするXY平面に、互いに等しい耐圧Vのプロットをつなぐことによって得られた6つの等耐圧線(600V、900V、1200V、3300V、6600Vおよび10kV)が示されている。また、参考として、耐圧が600VのSiデバイスの等耐圧線も示されている。
【0025】
図3において、オン抵抗SRは、下記式(3)によって求めた。
【0026】
【数3】

【0027】
上記式(3)において、各量記号は、以下ことを表現している。
・q:電荷素量=1.6×10−19
・N:キャリア濃度
・W:エピタキシャル層の厚さ
・μ:移動度
Siでは1.4×10cm−1−1、SiCでは900cm−1−1
なお、SiCは、同一の組成で様々な積層構造をとる結晶多形(ポリタイプ)を示す材料であり、数100種類以上のポリタイプが存在する。この実施形態では、SiCエピタキシャルウエハ1は、4H−SiCに限らず、たとえば、3C−SiC、2H−SiC、6H−SiC、15R−SiCなどであってもよい。これらの中では、6H−SiCなどの六方晶SiCが好ましい。
【0028】
そして、この実施形態では、SiC基板2は4°以下のオフ角を有している。具体的には、SiC基板2の主面4(基板表面)が、(0001)面に対して[11−20]軸方向に4°以下のオフ角で傾斜した面となっている。
(0001)、[11−20]などの表現は、いわゆるミラー指数であり、SiC結晶の格子面および格子方向を記述する際に用いられる。ミラー指数については、図4および図5を参照して説明することができる。
【0029】
図4は、4H−SiCの結晶構造のユニットセルを表した模式図である。図5は、図4のユニットセルを(0001)面の真上から見た図である。なお、図4の下部に示したSiC結晶構造の斜視図については、その横に示したSiC積層構造の4層のうち2層のみを抜き出して示している。
図4に示すように、4H−SiCの結晶構造は、六方晶系で近似することができ、1つのシリコン原子に対して4つの炭素原子が結合している。4つの炭素原子は、シリコン原子を中央に配置した正四面体の4つの頂点に位置している。これらの4つの炭素原子は、1つのシリコン原子が炭素原子に対して[0001]軸方向に位置し、他の3つの炭素原子がシリコン原子に対して[000−1]軸側に位置している。
【0030】
[0001]軸および[000−1]軸は六角柱の軸方向に沿い、この[0001]軸を法線とする面(六角柱の頂面)が(0001)面(Si面)である。一方、[000−1]軸を法線とする面(六角柱の下面)が(000−1)面(C面)である。
また、[0001]軸に垂直であり、かつ(0001)面の真上から見た場合において六角柱の互いに隣り合わない頂点を通る方向がそれぞれ、a軸[2−1−10]、a軸[−12−10]およびa軸[−1−120]である。
【0031】
図5に示すように、a軸とa軸との間の頂点を通る方向が[11−20]軸であり、a軸とa軸との間の頂点を通る方向が[−2110]軸であり、a軸とa軸との間の頂点を通る方向が[1−210]軸である。
六角柱の各頂点を通る上記6本の軸の各間において、その両側の各軸に対して30°の角度で傾斜していて、六角柱の各側面の法線となる軸がそれぞれ、a軸と[11−20]軸との間から時計回りに順に、[10−10]軸、[1−100]軸、[0−110]軸、[−1010]軸、[−1100]軸および[01−10]軸である。これらの軸を法線とする各面(六角柱の側面)は、(0001)面および(000−1)面に対して直角な結晶面である。
【0032】
そして、SiC基板2の主面4は、図6(a)(b)に示すように、(0001)面に対して[11−20]軸方向に4°以下のオフ角θで傾斜した面となっている。
図6(a)(b)は、図1のSiCエピタキシャルウエハの要部拡大図であり、図6(a)は平面図、図6(b)は断面図であって、図6(a)の切断線A−Aでの断面を示している。図7は、SiC基板のオフ角とステップ成長幅との関係を示すグラフである。
【0033】
図6(b)に示すように、SiC基板2の主面4は、その法線nの方向が[0001]軸方向と一致しておらず、(0001)面に対して[11−20]軸のオフ方向に4°以下のオフ角θで傾斜している。オフ方向とは、図4に示すように、[0001]軸に対するSiC基板2の法線nの傾斜する方向を指し、[0001]軸から法線nを(0001)面に投影(射影)したベクトルの向きで示されるものである。すなわち、この実施形態では、法線nの投影ベクトルの向きが、[11−20]軸に一致している。
【0034】
これにより、SiC基板2は、(0001)面から構成される平坦なテラス面5と、主面4が(0001)面に対して傾斜すること(オフ角θ)により生じるテラス面5の段差部分とから形成され、段差部分は[11−20]軸に垂直な(11−20)面であるステップ面6を有している。段差部分の高さ(ステップ高さh)は、1つのシリコン原子の上に炭素原子が結合したSi-Cペアのレイヤ7(bi-layer)に相当し、0.25nmである。
【0035】
図6(a)に示すように、各レイヤ7のステップ面6は、[11−20]軸方向にテラス面5の幅を保ちながら、規則的に並ぶことになる。また、ステップ面6のステップエッジとなるステップライン8は、[11−20]軸方向と垂直の関係を保ちながら(言い換えれば、[−1100]軸方向と平行の関係を保ちながら)、テラス面5の幅を取りながら平行に並ぶようになる。
【0036】
そして、SiCエピタキシャル層3は、SiC基板2のテラス面5およびステップ面6を保ちながら、各レイヤ7が[11−20]軸方向に沿って横方向に結晶成長することにより形成されている。各レイヤ7の成長方向の幅(ステップ成長幅s)は、SiCエピタキシャル層3の厚さtを用いて、t/sinθで表すことができる。また、SiCエピタキシャル層3の表面10(エピ表面)での、各レイヤ7の成長方向の幅(ステップ進行幅L)は、t/tanθで表すことができる。また、ステップ成長幅sは、オフ角θが4°以下と小さいので、ステップ進行幅Lとほぼ同じ値になる。角度の単位がラジアンであれば、t/sinθ≒t/tanθ≒t/θとなる。ステップ成長幅sは、SiCエピタキシャル層3の厚さtに応じて厚くなる。たとえば、t=1μmのとき、好ましいステップ成長幅sは、10μm〜100μmである。
【0037】
また、SiC基板2のオフ角θは、好ましくは0.5°〜4°、より好ましくは1°〜4°である。オフ角θがこの範囲であれば、ステップ成長幅sを概ね一定にできるので、SiCエピタキシャルウエハ1の量産時の制御性を向上させることができる。たとえば、図7に示すように、厚さ1μmのSiCエピタキシャル層3を成長させる際、オフ角が0.5°〜4°であれば、ステップ成長幅sを20μm〜100μmの範囲に収めることができる。
【0038】
一方、SiCエピタキシャル層3の成長過程では、各レイヤ7(原子層)が横方向に結晶成長していくため、ステップバンチング9が発生する。ステップバンチング9とは、図6(b)に示すように、SiCエピタキシャル層3の表面10において、レイヤ7(原子層)が2層以上統合されて形成されるものであり、0.5nm以上のステップ高さhを有するステップ面6が形成された状態のことをいう。したがって、この実施形態では、ステップバンチング9は、ステップライン8に沿って(つまり、[11−20]軸方向と垂直な方向に平行)形成されている。
【0039】
この実施形態においても、SiCエピタキシャル層3の表面10にステップバンチング9が形成されているが、その線密度が40cm−1以下であり、従来に比べて非常に小さい。ステップバンチング9の線密度は、たとえば、図8(a)(b)に示すように測定することができる。
図8(a)(b)は、ステップバンチングの線密度を説明するための図である。
【0040】
ステップバンチング9の線密度は、たとえば、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)を用いて測定することができる。ここで、ステップバンチング9の線密度の計測では、10本前後のステップバンチング9を計測することによって、信頼性の高い計測が可能になる。そうすると、AFM(最大撮影範囲としてx=0.1mm)を用いて線密度40cm−1のウエハでステップバンチング9を10本計測するには、10本/40cm−1=0.25cm=2.5mmの幅が必要になる。つまり、x=0.1mmの画像の場合、25枚の画像が必要である。そのため、AFMを用いた計測では、図8(b)に示すように、ウエハを横方向に横断するようにして計測することが好ましい。また、たとえばAFM(最大撮影範囲としてx=0.1mm)を用いて6インチ=150mmウエハのステップバンチング9を計測するときの計測下限値は、当該ウエハにステップバンチングが1本しかない場合、1/15cm=0.0666・・・となるので、0.1cm−1となる。
【0041】
このようなステップバンチング9は、図6(b)に示すように、結晶成長の際にSiC基板2からSiCエピタキシャル層3に伝播した基底面転位11(BPD:Basal Plane Dislocation)の位置に対応して存在している。すなわち、基底面転位11が存在するところにはステップバンチング9が発生し易いので、ステップバンチング9を減らすには、SiC基板2の主面4が大きな凹凸が形成されていない平滑な面であることは必要だが、さらに、SiCエピタキシャル層3の基底面転位11の密度(BPD密度)が小さいことも重要である。SiCエピタキシャル層3のBPD密度を小さくできれば、ステップバンチング9の発生箇所を少なくできて線密度を小さくできるとともに、基底面転位11自体が少なくなるので、素子のリーク電流を一層低減することができる。
【0042】
なお、基底面転位11とは、SiC基板2およびSiCエピタキシャル層3の基底面(0001)面内に平行な転位のことを示している。
ステップバンチング9と基底面転位11との対応関係は、たとえば、図9に示すように、SiCエピタキシャル層3の表面10を、溶融KOH(水酸化カリウム)でウエットエッチングしてエッチピット12を形成し、当該エッチピット12がステップバンチング9の線上に形成されることを確認することにより証明できる。
【0043】
そして、このようなエッチピットを、SiCのエピタキシャル成長前に、SiC基板2の主面4を500℃以上の溶融KOHを用いてエッチングすることにより形成すれば、SiC基板2からSiCエピタキシャル層3に伝播するBPD密度を減少させることができると、非特許文献1には開示されている。
しかしながら、SiC基板2にエッチピットを形成するプロセスを制御することは難しく、たとえば、溶融KOHの温度が10℃異なれば、エッチピットのサイズが大きく変化してしまう。また、溶融KOHを用いたエッチングにより、基底面転位以外の転位、たとえば、貫通螺旋転位(TSD:Threading Screw Dislocation)や貫通刃状転位(TED:Threading Edge Dislocation)のエッチピットも出現するので、SiC基板2の主面4の凹凸が数μm以上の大きさになる。その結果、SiCエピタキシャル層3の形成後の表面凹凸も大きくなる。そのため、SiCエピタキシャル層3にデバイスを形成する前に、SiCエピタキシャル層3の表面10を平坦化するための加工が必要であるが、平坦化加工の際に、SiCエピタキシャル層3の表面10にダメージを与えてしまう。
【0044】
そこで、この実施形態では、後述するように、SiCエピタキシャル層3の成長前に、SiC基板2の主面4を、ドライ酸化法またはウエット酸化法で酸化処理している。これにより、基底面転位11以外の転位のエッチピットの出現を防止できながら、SiC基板2の主面4に、基底面転位11のピットを適切なサイズで形成することができる。
次に、図10を参照して、SiCエピタキシャルウエハの製造方法を具体的に説明する。
【0045】
図10は、図1のSiCエピタキシャルウエハの製造工程を工程順に示す図である。
まず、図10(a)に示すように、六方晶SiCインゴット13を用意する。次に、当該SiCインゴット13を、(0001)面に対して[11−20]軸方向に4°以下のオフ角θを付けて切り出すことにより、複数枚のSiCベアウエハ14を得る。次に、SiCベアウエハ14の切り出し面15((0001)面)を、ラップ加工などの機械加工により研磨する。
【0046】
機械加工後、図10(b)に示すように、SiCベアウエハ14の切り出し面15((0001)面)を500nm以上除去する。除去方法は、たとえば、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)、プラズマエッチングにより行なうことができるが、好ましくは、プラズマエッチングで行う。それぞれの処理の条件は、次の通りである。
<CMP条件>
・研磨速度:0.01nm/h〜0.5nm/h、好ましくは、0.1nm/h
<エッチング条件 ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)>
・圧力:200Pa〜400Pa、好ましくは、400Pa
・原料ガス(流量):ArもしくはOを30sccmおよびCFを60sccm、またはCl単独で100sccm
・RFパワー:100W〜1000W、好ましくは、500W
・基板バイアス:10W〜100W、好ましくは、50W
・エッチングレート:10nm/min〜200nm/min、好ましくは、50nm/min
プラズマエッチングが好ましい理由は、SiCは非常に硬い材料であるため、ダメージの少ないCMPで500nm以上除去するには数時間必要であるが、プラズマエッチングでは20分程度の短時間で済むためである。一方、SiCベアウエハ14の切り出し面15が受けるダメージについては、SiなどのSiCよりも柔らかい材料では大きなダメージを受けるおそれがあるが、SiCは非常に硬いため、プラズマエッチングによるダメージを少なくできるので、特に問題とならない。
【0047】
この500nm以上の除去により、切り出し後の機械加工により発生したSiCベアウエハ14の切り出し面15のダメージ層が十分に除去され、厚さtが200μm〜500μmのSiC基板2が得られる。
たとえばCMPにより除去を行った場合には、除去後、SiCエピタキシャル層3の形成前に、CMPにより発生するパーティクルを除去するための表面洗浄工程と、表面洗浄工程で用いられた洗浄液の乾燥させる乾燥工程とを実行することが好ましい。CMPにより発生するパーティクルは、SiCエピタキシャル層3の表面10でステップをバンチングさせる原因となるためである。
【0048】
表面洗浄工程では、メガソニック洗浄を利用することができ、好ましくは、機能水(オゾン水、水素水など)を用いてSiC基板2の主面4をメガソニック洗浄する。なお、メガソニック洗浄に限らず、ジェット洗浄、スクラバー洗浄によりパーティクルを除去してもよい。
乾燥工程では、SiC基板2が乾燥するにつれて、その主面4にパーティクルが再付着するおそれがあるので、イオナイザもしくはイオナイズドエアを使用することが好ましい。これにより、SiCエピタキシャル層3でのステップバンチング9の発生を確実に抑えることができる。
【0049】
次に、図10(c)に示すように、SiC基板2の主面4(0001)面を酸化処理することにより、SiC基板2の主面4に酸化膜16を形成する。酸化処理は、ドライ酸化法、ウエット酸化法のどちらで行なってもよい。酸化処理の条件は、たとえば、次の通りである。なお、図示は省略するが、当該酸化膜16は、SiC基板2の裏面および周面にも形成される。
<酸化条件>
・酸化温度:1000℃〜1400℃、好ましくは、1100℃〜1300℃
・雰囲気:O、NO、NO、NO、AirおよびHO、好ましくは、O、NO、NO、NO
・酸化時間:2h〜48h、好ましくは、8h
・酸化膜厚:10nm〜2000nm、好ましくは、20nm〜80nm、具体的に好ましくは、ドライ酸化法で40nm
その後、フッ酸(HF)を用いて、酸化膜16を除去する。
【0050】
この酸化膜16の形成工程および除去工程を行うことにより、CMPやプラズマエッチングで除去しきれなかったSiCベアウエハ14の切り出し面15のダメージ層、CMPやプラズマエッチングの際に発生した変質層(ダメージ層)を確実に除去することができる。また、SiC基板2の主面4に、基底面転位11のピットを適切なサイズで形成することができる。
【0051】
なお、酸化膜16の形成工程および除去工程は、500nm以上の除去処理後だけでなく、除去処理前でのみ行ってもよいし、除去処理の前後両方で行ってもよい。
次に、図10(d)に示すように、SiC基板2上に、SiCエピタキシャル層3を結晶成長させる。結晶成長の条件は、たとえば、次の通りである。
<SiCエピタキシャル層の形成条件>
・成長温度:1600℃〜1700℃
・圧力:10kPa〜15kPa
・H流量:100slm〜200slm
・原料ガス:SiH、C、N
・成長速度:1μm/h〜20μm/h
・C/Si供給比:1.0〜10.0、好ましくは、1.3〜2.0
SiCエピタキシャル層3を成長させることにより、図1のSiCエピタキシャルウエハ1を得ることができる。
【0052】
このようにして得られたSiCエピタキシャルウエハ1では、ステップバンチング9(図6参照)の線密度を40cm−1以下にすることができる。これは、SiCエピタキシャル層3の結晶成長前に、SiCベアウエハ14の切り出し面15をCMPまたはプラズマエッチングで500nm以上除去することにより、SiCベアウエハ14の切り出し後の機械加工により発生したダメージ層を除去して、主面4を平坦化できるためである。
【0053】
しかも、この実施形態では、当該500nm以上の除去後に酸化膜16の形成工程および除去工程を行うので、CMPやプラズマエッチングで除去しきれなかったSiCベアウエハ14の切り出し面15のダメージ層、CMPやプラズマエッチングの際に発生した変質層(ダメージ層)を確実に除去することができる。
また、ステップバンチング9は、上述したように、SiCエピタキシャル層3のBPD密度を小さくしても減らすことができる。この実施形態では、酸化膜16の形成工程および除去工程を行うことにより、SiC基板2の主面4に基底面転位11のピットを数nmから数μmの範囲の適切なサイズで形成できるので、表面の凹凸への影響を少なく、SiCエピタキシャル層3のBPD密度を小さくすることができる。
【0054】
具体的には、図11に示すように、SiC基板2の主面4に1000cm−2前後の基底面転位11が存在する場合において、SiCエピタキシャル層3の成長前に酸化膜16を形成しないと、SiCエピタキシャル層3のBPD密度は80cm−2前後であった。これに対し、酸化膜16を形成した場合には、BPD密度を10cm−2以下にまで減らすことができる。
【0055】
また、非特許文献2で報告されているように、SiCエピタキシャルウエハ1の表面のステップバンチング9の線密度は、SiCエピタキシャル層3形成時の温度およびC/Si比に依存しており、C/Si比=0.5以下にすれば、ステップバンチング9の発生を防止できる。
しかしながら、SiC基板2のSi面(0001)面にSiCをエピタキシャル成長させる場合、高信頼性のデバイスを作製する観点から、SiCエピタキシャル層3の残留電子濃度は可能な限り小さくさせる方がよい。残留電子濃度を小さくさせるには、エピタキシャル成長時のC/Si比を高くすることが好ましいが、そうすると、SiCエピタキシャル層3の表面10に発生するステップバンチング9の線密度が大きくなるという不具合がある。
【0056】
これに対し、この実施形態では、C/Si比を高くしても、ステップバンチング9の線密度を従来に比べて小さくすることができる。具体的には、図12に示すように、C/Si比が1.3のときでもステップバンチング9の線密度を40cm−1以下にすることができ、同時に、BPD密度も10cm−2にすることができた。
すなわち、非特許文献2にあるように、高いC/Si比でエピタキシャル成長することで、残留電子濃度の低減が可能になるが、従来技術では、ステップバンチング9の線密度が1000cm−1以上と非常に高くなるため、デバイス用途には不適切であった。
【0057】
そこで、この実施形態の手法を用いれば、高いC/Si比でSiCエピタキシャル層3を成長させても、ステップバンチング9の線密度が40cm−1以下となる。そのため、図13に示すように、SiC基板2のSi面およびC面のどちらにSiCエピタキシャル層3を成長させた場合でも、残留電子濃度が1×1016cm−3以下となる条件で高品質なエピタキシャル成長が可能になる。その結果、高品質かつ高信頼性のある半導体素子を製造することができる。このSiCエピタキシャルウエハ1は、とりわけ、10kV以上の高耐圧素子用途に非常に適している。
【0058】
しかも、この実施形態では、SiCエピタキシャル層3をSiC基板2のSi面に形成しているので、C面に形成する場合に比べて、SiCエピタキシャル層3の残留電子濃度を一層小さくすることができる。
以上のSiCエピタキシャルウエハ1は、たとえば、各種SiC半導体素子の製造に利用することができる。以下では、それらの一例として、ショットキーバリアダイオード、トレンチゲート型MOSFET、およびプレーナゲート型MOSFETの例を示す。
【0059】
図14は、図1のSiCエピタキシャルウエハを用いて作製したショットキーバリアダイオードの模式的な断面図である。
SiC半導体素子としてのショットキーバリアダイオード21は、n型(たとえば、濃度が1×1018cm−3〜1×1021cm−3)のSiC基板2と、n型(たとえば、濃度が5×1014〜5×1016cm−3)のSiCエピタキシャル層3とを含むSiCエピタキシャルウエハ1を備えている。これらにドーピングされたn型不純物としては、たとえば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)などを使用できる。
【0060】
SiC基板2の裏面((000−1)C面)には、その全域を覆うようにカソード電極22が形成されている。
また、SiCエピタキシャル層3の表面10((0001)Si面)には、SiCエピタキシャル層3の一部を活性領域23として露出させるコンタクトホール24を有し、当該活性領域23を取り囲むフィールド領域25を覆うフィールド絶縁膜26が形成されている。フィールド絶縁膜26は、SiO(酸化シリコン)からなるが、窒化シリコン(SiN)など、他の絶縁物からなっていてもよい。このフィールド絶縁膜26上には、アノード電極27が形成されている。
【0061】
SiCエピタキシャル層3の表面10近傍(表層部)には、アノード電極27に接するようにp型のJTE(Junction Termination Extension)構造28が形成されている。JTE構造28は、フィールド絶縁膜26のコンタクトホール24の内外に跨るように、当該コンタクトホール24の輪郭に沿って形成されている。
このショットキーバリアダイオード21によれば、従来に比べて、リーク電流が1桁以上低減できることが確認できた。
【0062】
図15は、図1のSiCエピタキシャルウエハを用いて作製したトレンチゲート型MOSFETの模式的な断面図である。
SiC半導体素子としてのトレンチゲート型MOSFET31は、n型(たとえば、濃度が1×1018cm−3〜1×1021cm−3)のSiC基板2と、n型(たとえば、濃度が5×1014〜5×1016cm−3)のSiCエピタキシャル層3とを含むSiCエピタキシャルウエハ1を備えている。
【0063】
SiC基板2の裏面((000−1)C面)には、その全域を覆うようにドレイン電極32が形成されている。
SiCエピタキシャル層3の表面10((0001)Si面)近傍(表層部)には、p型(たとえば、濃度がたとえば、1×1016cm−3〜1×1019cm−3)のボディ領域33が形成されている。SiCエピタキシャル層3において、ボディ領域33に対してSiC基板2側の部分は、エピタキシャル成長後のままの状態が維持された、n型のドレイン領域34である。
【0064】
SiCエピタキシャル層3には、ゲートトレンチ35が形成されている。ゲートトレンチ35は、SiCエピタキシャル層3の表面10からボディ領域33を貫通し、その最深部がドレイン領域34に達している。
ゲートトレンチ35の内面およびSiCエピタキシャル層3の表面10には、ゲートトレンチ35の内面全域を覆うようにゲート絶縁膜36が形成されている。そして、ゲート絶縁膜36の内側を、たとえばポリシリコンで埋め尽くすことにより、ゲートトレンチ35内にゲート電極37が埋設されている。
【0065】
ボディ領域33の表層部には、ゲートトレンチ35の側面の一部を形成するn型のソース領域38が形成されている。
また、SiCエピタキシャル層3には、その表面10からソース領域38を貫通し、ボディ領域33に接続されるp型(たとえば、濃度が1×1018cm−3〜1×1021cm−3)のボディコンタクト領域39が形成されている。
【0066】
SiCエピタキシャル層3上には、SiOからなる層間絶縁膜40が形成されている。層間絶縁膜40に形成されたコンタクトホール41を介して、ソース電極42がソース領域38およびボディコンタクト領域39に接続されている。
ソース電極42とドレイン電極32との間(ソース−ドレイン間)に所定の電位差を発生させた状態で、ゲート電極37に所定の電圧(ゲート閾値電圧以上の電圧)を印加することにより、ゲート電極37からの電界によりボディ領域33におけるゲート絶縁膜36との界面近傍にチャネルを形成することができる。これにより、ソース電極42とドレイン電極32との間に電流を流すことができ、トレンチゲート型MOSFET31をオン状態にさせることができる。
【0067】
このトレンチゲート型MOSFET31の製造工程では、イオン注入領域(たとえば、ボディ領域33、ソース領域38など)を活性化させるために高温アニール(たとえば、1500℃以上)を行う。高温アニール工程では、通常、カーボンキャップなどを用いてSiCエピタキシャル層3の表面10を保護しなければ、ステップバンチング9が増加し易い。
【0068】
そこで、この実施形態で得られたSiCエピタキシャルウエハ1を用いれば、高温アニールの際に表面10保護を施さなくても、ステップバンチング9の増加を防止することができる。
また、SiCエピタキシャル層3のステップバンチング9は、MOSFET31の酸化膜16界面においてキャリアの散乱要因になるため、ステップバンチング9の線密度が大きいと、キャリア移動度が低下する。この実施形態では、ステップバンチング9の線密度を従来に比べて1/50に小さくすることができるので、キャリア移動度を向上させることができる。
【0069】
図16は、図1のSiCエピタキシャルウエハを用いて作製したプレーナゲート型MOSFETの模式的な断面図である。
SiC半導体素子としてのプレーナゲート型MOSFET51は、n型(たとえば、濃度が1×1018cm−3〜1×1021cm−3)のSiC基板2と、n型(たとえば、濃度が5×1014〜5×1016cm−3)のSiCエピタキシャル層3とを含むSiCエピタキシャルウエハ1を備えている。
【0070】
SiC基板2の裏面((000−1)C面)には、その全域を覆うようにドレイン電極52が形成されている。
SiCエピタキシャル層3の表面10((0001)Si面)近傍(表層部)には、p型(たとえば、濃度が、1×1016cm−3〜1×1019cm−3)のボディ領域53がウェル状に形成されている。SiCエピタキシャル層3において、ボディ領域53に対してSiC基板2側の部分は、エピタキシャル成長後のままの状態が維持された、n型のドレイン領域54である。
【0071】
ボディ領域53の表層部には、n型のソース領域55がボディ領域53の周縁と間隔を空けて形成されている。
ソース領域55の内側には、p型(たとえば、濃度が1×1018cm−3〜1×1021cm−3)のボディコンタクト領域56が形成されている。ボディコンタクト領域56は、ソース領域55を深さ方向に貫通し、ボディ領域53に接続されている。
【0072】
SiCエピタキシャル層3の表面10には、ゲート絶縁膜57が形成されている。ゲート絶縁膜57は、ボディ領域53におけるソース領域55を取り囲む部分(ボディ領域53の周縁部)およびソース領域55の外周縁を覆っている。
ゲート絶縁膜57上には、たとえばポリシリコンからなるゲート電極58が形成されている。ゲート電極58は、ゲート絶縁膜57を挟んでボディ領域53の周縁部に対向している。
【0073】
SiCエピタキシャル層3上には、SiOからなる層間絶縁膜59が形成されている。層間絶縁膜59に形成されたコンタクトホール60を介して、ソース電極61がソース領域55およびボディコンタクト領域56に接続されている。
ソース電極61とドレイン電極52との間(ソース−ドレイン間)に所定の電位差を発生させた状態で、ゲート電極58に所定の電圧(ゲート閾値電圧以上の電圧)を印加することにより、ゲート電極58からの電界によりボディ領域53におけるゲート絶縁膜57との界面近傍にチャネルを形成することができる。これにより、ソース電極61とドレイン電極52との間に電流を流すことができ、プレーナゲート型MOSFET51をオン状態にさせることができる。
【0074】
このプレーナゲート型MOSFET51においても、図15のトレンチゲート型MOSFET31と同様に、高温アニールの際に表面保護を施さなくてもステップバンチング9の増加を防止でき、キャリア移動度を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、SiC基板2の主面4(基板表面)は、図17(a)(b)に示すように、(0001)面に対して[−1100]軸のオフ方向に4°以下のオフ角θで傾斜していてもよい。
【0075】
また、図示は省略するが、この実施形態のSiCエピタキシャルウエハ1を用いてMOSキャパシタを製造することもできる。そのMOSキャパシタでは、歩留まりおよび信頼性を向上させることができ、とりわけ歩留まりに関しては、20%以上向上させることができる。また、信頼性については初期不良を減少させることができる。
また、図示は省略するが、この実施形態のSiCエピタキシャルウエハ1を用いてバイポーラトランジスタを製造することもできる。バイポーラトランジスタは、増幅率が高い方が好ましいが、ステップバンチング9の線密度が高いと、表面10再結合の影響により高い増幅率が得ることが困難である。そこで、この実施形態のSiCエピタキシャルウエハ1を用いれば、SiCエピタキシャル層3のステップバンチング9の線密度および残留電子濃度が低い上に、高いC/Si比でエピ成長したものであるので、バイポーラトランジスタの増幅率を、従来に比べて一層向上させることができる。
【0076】
その他、この実施形態のSiCエピタキシャルウエハ1は、pnダイオード、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、CMOSなどの製造に用いることもできる。
また、前述のショットキーバリアダイオード21、トレンチゲート型MOSFET31およびプレーナゲート型MOSFET51に関して、各半導体部分の導電型を反転した構成が採用されてもよい。たとえば、ショットキーバリアダイオード21において、p型の部分がn型であり、n型の部分がp型であってもよい。
【0077】
本発明の半導体素子は、たとえば、電気自動車(ハイブリッド車を含む)、電車、産業用ロボットなどの動力源として利用される電動モータを駆動するための駆動回路を構成するインバータ回路に用いられるパワーモジュールに組み込むことができる。また、太陽電池、風力発電機その他の発電装置(とくに自家発電装置)が発生する電力を商用電源の電力と整合するように変換するインバータ回路に用いられるパワーモジュールにも組み込むことができる。
【0078】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、この発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
(1)実施例1
4H−SiCインゴットを、(0001)面に対して[11−20]軸方向に4°のオフ角θを付けて切り出すことによりSiCベアウエハを得た。次に、SiCベアウエハの切り出し面((0001)面)をラップ加工で研磨した。機械加工後、SiCベアウエハの切り出し面((0001)面)を、CMPにより500nm以上除去した。その後、機能水を用いてメガソニック洗浄し、イオナイザで乾燥させた後、SiC基板の主面に、C/Si比=1.3〜2.0の範囲でSiCエピタキシャル層を成長させた(厚さ5μm 600V耐圧対応)。以上より得られたSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度を測定したところ、40cm−1以下であった。
(2)実施例2
4H−SiCインゴットを、(0001)面に対して[−1100]軸方向に4°のオフ角θを付けて切り出したこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(3)実施例3
4H−SiCインゴットを、(0001)面に対して[11−20]軸方向に2°のオフ角θを付けて切り出したこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(4)実施例4
機械加工後、SiCベアウエハの切り出し面((0001)面)を、プラズマエッチングにより500nm以上除去したこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(5)実施例5
CMPによる500nm以上の除去後に、SiC基板の主面をドライ酸化することにより酸化膜(厚さ40nm)を形成する工程と、その後、当該酸化膜をHFで除去する工程を行ったこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(6)実施例6
プラズマエッチングによる500nm以上の除去後に、SiC基板の主面をドライ酸化することにより酸化膜(厚さ40nm)を形成する工程と、その後、当該酸化膜をHFで除去する工程を行ったこと以外は、実施例4と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(7)実施例7
SiC基板の主面に、C/Si比=1.3〜2.0の範囲で、1200V耐圧対応のSiCエピタキシャル層を成長させたこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(8)実施例8
SiC基板の主面に、C/Si比=1.3〜2.0の範囲で、2400V耐圧対応のSiCエピタキシャル層を成長させたこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(9)実施例9
SiC基板の主面に、C/Si比=1.3〜2.0の範囲で、3300V耐圧対応のSiCエピタキシャル層を成長させたこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
(10)実施例10
SiC基板の主面に、C/Si比=1.3〜2.0の範囲で、6600V耐圧対応のSiCエピタキシャル層を成長させたこと以外は、実施例1と同様の作業を行なうことにより、SiCエピタキシャルウエハを作製した。このSiCエピタキシャルウエハのステップバンチングの線密度も、40cm−1以下であった。
【符号の説明】
【0080】
1 SiCエピタキシャルウエハ
2 SiC基板
3 SiCエピタキシャル層
4 (SiC基板の)主面
5 テラス面
6 ステップ面
7 レイヤ
8 ステップライン
9 ステップバンチング
10 (SiCエピタキシャル層の)表面
11 基底面転位
12 エッチピット
13 SiCインゴット
14 SiCベアウエハ
15 切り出し面
16 酸化膜
21 ショットキーバリアダイオード
22 カソード電極
23 活性領域
24 コンタクトホール
25 フィールド領域
26 フィールド絶縁膜
27 アノード電極
28 JTE構造
31 トレンチゲート型MOSFET
32 ドレイン電極
33 ボディ領域
34 ドレイン領域
35 ゲートトレンチ
36 ゲート絶縁膜
37 ゲート電極
38 ソース領域
39 ボディコンタクト領域
40 層間絶縁膜
41 コンタクトホール
42 ソース電極
51 プレーナゲート型MOSFET
52 ドレイン電極
53 ボディ領域
54 ドレイン領域
55 ソース領域
56 ボディコンタクト領域
57 ゲート絶縁膜
58 ゲート電極
59 層間絶縁膜
60 コンタクトホール
61 ソース電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4°以下のオフ角を有するSiC基板と、
前記SiC基板の主面に形成され、その表面に0.5nm以上の高さのステップバンチングが形成されたSiCエピタキシャル層とを含み、
前記ステップバンチングの線密度が40cm−1以下である、SiCエピタキシャルウエハ。
【請求項2】
前記SiC基板の前記主面は、(0001)面に対して[11−20]軸方向に前記4°以下のオフ角で傾斜した面である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項3】
前記SiC基板の前記主面は、(0001)面に対して[−1100]軸方向に前記4°以下のオフ角で傾斜した面である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項4】
前記SiC基板の前記主面は、前記4°以下のオフ角で当該SiCインゴットから切り出されたSiCベアウエハの切り出し面を機械加工した後、研磨またはプラズマエッチングにより500nm以上除去することにより形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項5】
前記SiCベアウエハの前記切り出し面は、その機械加工前および/または機械加工後、研磨前および/または研磨後、プラズマエッチング前および/またはプラズマエッチング後の少なくともいずれかのタイミングに、ドライ酸化法またはウエット酸化法により処理されている、請求項4に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項6】
前記SiC基板は4H−SiCからなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項7】
前記SiC基板の前記主面はSi面である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項8】
前記SiCエピタキシャル層の基底面転位密度が、10cm−2以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項9】
前記ステップバンチングの線密度が5cm−1である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項10】
前記SiCエピタキシャル層は4H−SiCからなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項11】
前記SiCエピタキシャル層の窒素濃度が、5×1016cm−3以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項12】
前記SiCエピタキシャル層の厚さが3μm以上である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウエハを用いて形成されている、SiC半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−63891(P2013−63891A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88699(P2012−88699)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】