説明

半導体基板および半導体装置

【課題】反りの小さな半導体基板および半導体装置を提供する。
【解決手段】Si基板10上に接して形成されたX線回折による(002)面のロッキングカーブ半値幅が1500秒以下のAlN層12と、AlN層12上に形成されたGaN系半導体層14と、を具備する半導体基板であって、その反りの曲率半径は±25m以上であり、反り量は、半導体基板の大きさを4インチとした場合、±50μm以下である。GaN系半導体層14はAlN層12から圧縮応力を受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体基板および半導体装置に関し、例えばSi基板上にAlN層が形成された半導体基板および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)系半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子、短波長で発光する発光ダイオードやレーザダイオードとして用いられている。これらの半導体装置のうち、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波帯域において増幅を行うのに適した半導体装置として、高電子移動度トランジスタ(HEMT)等のFET、発光装置として、レーザダイオード(LD)および発光ダイオード(LED)などの開発が進められている。
【0003】
GaN系半導体層を成長する基板として一般にサファイア基板やSiC(炭化シリコン)基板等が用いられている。サファイア基板やSiC基板は高価なため、Si(シリコン)基板上にGaN系半導体層を成長する技術が開発されている。SiとGaとは反応し易いため、Si基板とGaN系半導体層との間にバリア層としてAlN(窒化アルミニウム)層が設けられる。(例えば特許文献1)。AlN層上にGaN層を形成する際にAlN層とGaN層との間にAlGaN層を形成することにより、GaN層の結晶性を向上させ、かつ反りを低減させることが知られている(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−166349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、AlN層上にAlGaN層を設けても反りが低減しないことがあることがわかった。本発明は、反りの小さな半導体基板および半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Si基板上に接して形成されたX線回折による(002)面のロッキングカーブ半値幅が1500秒以下のAlN層と、前記AlN層上に形成されたGaN系半導体層と、を具備することを特徴とする半導体基板および半導体装置である。本発明によれば、反りの小さな半導体基板および半導体装置を提供することができる。
【0007】
上記構成において、前記半導体基板の反りの曲率半径は±25m以上である構成とすることができる。上記構成において、前記半導体基板の反り量は、半導体基板の大きさを4インチとした場合、±50μm以下である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記GaN系半導体層は前記AlN層から圧縮応力を受ける構成とすることができる。上記構成において、前記GaN系半導体層はAlGa1−xN層および前記AlGa1−xN層上に形成されたGaN層を含み構成され、前記AlGa1−xN層のa軸長は、a軸長をA nmとしたとき、A<0.0077x+0.3189である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記AlN層の膜厚は100nm以上である構成とすることができる。上記構成において、前記GaN系半導体層はAlGa1−xN層であり、xは0.3以上0.6以下である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反りの小さな半導体基板および半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)から図1(c)は、実施例1に係る半導体基板の製造方法を示す断面図である。
【図2】図2はウエハの反り量を示すウエハの図である。
【図3】図3は、AlN(002)面のロッキングカーブの半値幅に対するSORIを示した図である。
【図4】図4は、AlGaN層のAl組成比に対するa軸長を示す図である。
【図5】図5は、実施例2に係る半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
実施例1は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)用半導体基板の例である。図1(a)から図1(c)は、実施例1に係る半導体基板の製造方法を示す断面図である。厚さが625μmで4インチのSiウエハであるSi基板10を準備する。Si基板10の表面にN原料を供給せずにAl原料を供給する。これをAl原料の先流しという。図1(a)のように、Si基板10の(111)面上に接してバッファ層としてAlN層12をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用い形成する。各条件は以下である。
Al原料先流し条件
先流しガス:TMA(トリメチルアルミニウム)
先流し総量:20μmol
熱処理温度:1050℃
ガス圧力: 100torr
AlN層12形成条件
原料ガス:TMA、NH(アンモニア)
成長温度:1150℃
ガス圧力:100torr
成長膜厚:300nm
【0014】
図1(b)のように、AlN層12上にGaN系半導体層としてAlGaN層14をMOCVD法を用い形成する。AlGaN層14の成長条件は以下である。
AlGaN層14形成条件
原料ガス:NH、TMA、TMG(トリメチルガリウム)
成長温度:1100℃
ガス圧力:100torr
ドープ: アンドープ
Al組成比:0.5
膜厚: 100nm
【0015】
図1(c)のように、AlGaN層14上に電子走行層としてGaN層16をMOCVD法を用い形成する。GaN層16の膜厚は1000nmである。GaN層16上に電子供給層としてAlGaN層18を形成する。AlGaN層18の膜厚は20nmであり、Al組成比は0.2である。AlGaN層18上にキャップ層としてGaN層20を形成する。GaN層20の膜厚は2nmであり、n型である。各層の成長面は(0001)面である。以上により、HEMT用の半導体基板が完成する。
【0016】
AlN層12の膜質は、AlN層12を成長する際の成長温度、成長レート等を制御することで制御することができる。そこで、AlN層12の成長条件を変え、図1(a)の状態でX線回折によるAlNの(002)面のロッキングカーブの半値幅を測定した。同じ条件でAlN層12を成長したウエハを用い、図1(c)の半導体基板を作成し、ウエハの反り量を測定した。図2はウエハの反り量を示すウエハの図である。図2のように、エピタキシャル層を上にし、ウエハ30の端を平面32に接触させた状態で、最も下に凸となっている箇所34と平面32との距離を反り量SORIとした。図2のように、下に凸となっている場合の反り量をプラス、上に凸になっている場合の反り量をマイナスとした。
【0017】
図3は、AlN(002)面のロッキングカーブの半値幅に対する反り量SORIを示した図である。図3のように、ロッキングカーブの半値幅が小さくなると反り量SORIが小さくなる。ロッキングカーブの半値幅はAlN層12の結晶性を表している。ロッキングカーブの半値幅が大きい場合、AlN層12のグレインが小さく各グレインの結晶方位のばらつきが大きいことを示している。一方、ロッキングカーブの半値幅が小さい場合、AlN層12のグレインが大きく単結晶により近い状態である。
【0018】
特許文献1に記載されているように、AlGaN層14により、反り量が低減するのは以下のように考えられている。すなわち、各層の成長温度は1000℃前後のため、線熱膨張係数の差に起因して反りが発生する。GaN層16の線熱膨張係数はSiやAlNに比べ大きいため、GaN層16だけではウエハは、下に凸となるように反ってしまう。つまりGaN層16が伸張応力を発生する。特に、良好な半導体装置を作製するためには、AlGaN層14上のGaNを含む層(例えばGaN層16)の膜厚は0.8μm以上となる。このため、ウエハの反り量は非常に大きくなる。そこで、AlN層12上にAlN層12よりa軸長の長いAlGaN層14を設けることにより、格子定数の差に起因し上に凸となるような応力が発生する。つまり、AlGaN層14内にAlN層12により圧縮応力が生じる。このように、AlGaN層14に起因した応力でGaN層に起因した応力を補償することにより、反り量を低減させることができると考えられる。
【0019】
しかしながら、図3の結果は、AlN層12の結晶性が悪い場合、AlGaN層14に圧縮応力が発生せず、ウエハ全体の反りが大きくなってしまっていると考えられる。AlN(002)面のロッキングカーブの半値幅が異なるウエハを形成したところ、ロッキングカーブの半値幅が3000秒程度の場合、AlGaN層14には圧縮応力がほとんど発生しない。一方、AlN(002)面のロッキングカーブの半値幅が1500秒以下の場合、AlGaN層14に十分な圧縮応力が発生する。ロッキングカーブの半値幅は、1300秒以下であることがより好ましく、1200秒以下であることがより好ましい。
【0020】
さらに、半導体基板の反り量は、半導体基板の大きさを4インチとした場合、±50μm以下(曲率半径が±25m以上)であることが好ましい。反り量が±50μmを越えると、半導体装置のウエハプロセス工程において実用的でなくなる。また、半導体基板にクラックが発生しやすくなる。反り量は±40μm以下、曲率半径は±20m以上がより好ましい。さらに、反り量は±30μm以下、曲率半径は±15m以上がより好ましい。
【0021】
AlN層12上に形成されたGaN系半導体層の例としてAlGaN層14を例に説明したが、GaN系半導体層は、AlN層12から圧縮応力を受ける層であればよい。すなわち、GaN系半導体層は、AlN層12に伸張応力を発生させる層であればよい。なお、GaN系半導体層は、GaNを含む層であり、例えばGaN層、InGaN層、AlGaN層、InAlGaN層、またはこれらの積層である。
【0022】
図4は、GaN系半導体層として、AlGaN層14上にGaN層16を設けた構造において、AlGaN層14のAl組成比に対するa軸長の関係を示す図である。図4において、応力を受けていないAlNのa軸長は0.3112nmであり、応力を受けていないGaNのa軸長は0.3189nmである。よって、応力を受けていないAlGaN層のa軸長は、図4のA=−0.0077x+0.3189となる。よって、AlGaN層4が圧縮応力を受けているため、AlGaN層14をAlGa1−xN層とし、AlGaN14層のa軸長をA nmとしたとき、
A<0.0077x+0.3189
となる。
【0023】
AlN層12の結晶性が得られるためには、AlN層12の膜厚は100nm以上であることが好ましい。AlN層12の膜厚は150nm以上がより好ましい。また、AlN層12は、クラック等を抑制するため400nm以下であることが好ましい。AlN層12に圧縮応力を印加するためには、AlGaN層14のAl組成比、すなわちAlGa1−xNのxは0.3以上0.6以上が好ましい。xは0.35以上0.55以下がより好ましい。
【実施例2】
【0024】
実施例2は、実施例1の半導体基板を用い半導体装置を形成する例である。図5は、実施例2に係る半導体装置の断面図である。図4のように、図1(c)の半導体基板のGaN層20上に、例えば蒸着法を用いて、ソース電極24、ドレイン電極26及びゲート電極28を形成する。ソース電極24及びドレイン電極26は、GaN層20に近い方から例えばTi/Auを積層させたオーミック電極である。ゲート電極28は、GaN層20に近い方から例えばNi/Auを積層させてなる。以上により、実施例2に係る半導体装置が完成する。
【0025】
実施例1および実施例2は、HEMTを例に説明したが、HEMT以外のトランジスタや、例えばレーザダイオードやフォトダイオードのような光半導体装置でもよい。
【0026】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
Si基板 10
AlN層 12
AlGaN層 14
GaN層 16
AlGaN層 18
GaN層 20

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板上に接して形成されたX線回折による(002)面のロッキングカーブ半値幅が1500秒以下のAlN層と、
前記AlN層上に形成されたGaN系半導体層と、
を具備することを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記半導体基板の反りの曲率半径は±25m以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板。
【請求項3】
前記半導体基板の反り量は、半導体基板の大きさを4インチとした場合、±50μm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板。
【請求項4】
前記GaN系半導体層は前記AlN層から圧縮応力を受けることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の半導体基板。
【請求項5】
前記GaN系半導体層はAlGa1−xN層および前記AlGa1−xN層上に形成されたGaN層を含み構成され、前記AlGa1−xN層のa軸長は、a軸長をA nmとしたとき、
A<0.0077x+0.3189
であることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の半導体基板。
【請求項6】
前記AlN層の膜厚は100nm以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の半導体基板。
【請求項7】
前記GaN系半導体層はAlGa1−xN層であり、xは0.3以上0.6以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の半導体基板。
【請求項8】
Si基板上に接して形成されたX線回折による(002)面のロッキングカーブ半値幅が1500秒以下のAlN層と、
前記AlN層上に形成されたGaN系半導体層と、
を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
前記Si基板の反りの曲率半径は±25m以上であることを特徴とする請求項8記載の半導体装置。
【請求項10】
前記GaN系半導体層は前記AlN層から圧縮応力を受けることを特徴とする請求項8または9記載の半導体装置。
【請求項11】
前記GaN系半導体層はAlGa1−xN層および前記AlGa1−xN層上に形成されたGaN層を含み構成され、前記AlGa1−xN層のa軸長は、a軸長をA nmとしたとき、
A<0.0077x+0.3189
であることを特徴とする請求項8または9のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項12】
前記AlN層の膜厚は100nm以上であることを特徴とする請求項8から11のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項13】
前記GaN系半導体層はAlGa1−xN層であり、xは0.3以上0.6以下であることを特徴とする請求項8から12のいずれか一項記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15303(P2012−15303A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150058(P2010−150058)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】